循環器内科学」カテゴリーアーカイブ

【循環器内科学】 冠血流予備量比FFR (Fractional Flow Reserve)とは

冠動脈狭窄の評価法 種類と歴史的経緯

冠動脈狭窄の評価法としては形態学的(解剖学的)評価法と生理的(機能的)評価法がある。形態学的評価法の代表が冠動脈造影coronary angiography(定量的冠動脈造影quantitative coronary angiography、QCA)であり、50年以上の歴史がある。それを補う方法として血管内エコー(intravascularultrasound、IVUS)が約20年前より用いられている。その後、より空間分解能の高いoptical coherence tomography (OCT)が開発された。生理的評価法としてはflow wireを用いて冠動脈血流を測定し得られるcoronary flow reserve (CFR)とpressure wireを用いて冠動脈内圧を測定し得られるfractional flow reserve (FFR)がある。(FRのすべて

FFR (Fractional Flow Reserve)の定義

下の動画は、7分弱でゆっくりとした聞き取りやすい英語で、わかりやすくFFRを説明しています。

Using a pressure wire in percutaneous coronary interventions (PCI) 2019/07/16 Medmastery

 FFR (Fractional Flow Reserve)とは

下の動画は15分弱で、もう少しくわしくFFRを解説。

Coronary Angiogram . FFR (Fractional Flow Reserve) 2020/06/17 White Board and Marker Cardiology Lectures

 

FFRを行う目的

日常臨床のなかでFFR計測は虚血の診断に加えて、PCI終了時の決定(術後の初期開存の確認)長期予後の予測にも有用である。FFRを計測することで、中等度冠動脈狭窄病変においてPCIをせずにdeferするかどうかの判断が容易になる。(FFRを日常臨床で使いこなす〜For the daily use of FFR〜【FFRを極める】 2017年9月13日 FRIENDS Live 2018, ゼオン・メディカル(株), 共催コンテンツ)

  1. 冠血流予備量比 (FFR) とは(阪和記念病院)狭窄病変によってどのくらい血流が阻害されているかを推測する指標です。通常は心臓カテーテル検査に続いて行います。心臓カテーテル検査による狭窄度から治療(経皮的冠動脈インターベンションなど)の必要性を判断します。また複数の狭窄病変がある場合には、治療の優先順位を判断することも可能です。

 

DEFER studyについて

FRmyoを指標に血行再建の適応を決定することの妥当性を検討したDEFER study7)や重症多枝疾患を対象に行われたFAME試験8)は,血行再建の適応は血管造影ではなく,FFRmyoを用いた生理学的狭窄重症度に基づいて行われるべきであり,虚血陰性と考えられる病変は治療しても予後の改善はない(治療しないほうがよい)ことを示した.(PCI時代に冠循環を見直す 第46回 河口湖心臓討論会  第46回 河口湖心臓討論会カテーテル治療ナビゲーションとしてのFFR の役割 FFR as the best navigator of coronary intervention–How to use pressure wire for clinical decision making–松尾仁司 心臓 Vol.45 No.3(2013)

JUSTIFY-CFR studyについて

  1. iFR, FFRとCFRの虚血診断の整合性 -JUSTIFY-CFRの結果から- 2018年5月31日 (株)フィリップス・ジャパン共催, FRIENDS Live 2018, 共催コンテンツ

 

FFR (Fractional Flow Reserve)測定の実際

FFR Basics: Performing an FFR Procedure – Mort Kern, MD 2012/04/11 Philips Image Guided Therapy Devices Morton Kern, MD University of California, Irvine Medical Center Orange, CA

  1. FFR測定の実際(eonet.ne.jp)

 

参考

  1. FFRのすべて 2020年6月 倉敷平成病院循環器科 岩崎孝一朗 今やFFRは冠動脈狭窄評価のgold standardと認識されている。‥ 本邦においても、2012年の春から診断カテーテル時のFFR測定が保険適応となり、FFRの臨床への普及には著しいものがある。
  2. 新しい血管の診断治療法サーモグラフィー付き圧ガイドワイヤーの可能性;冠動脈狭窄病変評価への応用 赤 阪 隆 史 生体医工学43(1): 24―31, 2005

SGLT2阻害薬とは 糖尿病のお薬 慢性腎臓病(CKD)の治療にも

腎臓での再吸収

腎臓の働きに関して勉強していると、腎臓ははなぜ一度全部排出してから一部を再吸収するのか?なぜ排出したいものだけを最初から排出しないのか?という疑問が湧きます。

血液が腎臓に流れ込むと、腎臓の「糸球体」という場所で老廃物有害物質、余分ななどがろ過されて原尿(おしっこの元)が作られます。‥ 原尿には、体に必要な栄養素などがたくさん含まれており、尿細管を通るときに必要な成分が再吸収されます。実は、原尿の約99%(ほとんどは水分)がここで再吸収され、残った1%が「おしっこ」として体の外に出されているのです。(おしっこについて知っていますか KISSEI kissei.co.jp 監修:順天堂大学大学院医学研究科 泌尿器外科学 教授 堀江 重郎 先生)

  1. 5分でわかる!濃縮率 トライイット

腎臓で再吸収する理由

老廃物を尿として体外に排出することが腎臓の働きの目的ですが、老廃物だけを選択的に血液から尿へと移す仕組みというものがないため、まずは目の粗いフィルターで、老廃物及びそれよりもサイズが小さな分子を部尿(原尿)に移して、必要なもの(グルコース、水、ナトリウムなど)はあとから再吸収し、老廃物はもちろん再吸収することなくそのまま体外に捨て去るという戦略がとられています。

ごみの溶け込んだ水」―おしっこは、一言で言えばそうなります。全身の細胞で使われた老廃物やホルモンといった”ごみ”の溶け込んだ水がおしっこだからです。‥ 糸球体毛細血管には、毛細血管内皮細胞と足細胞に挟まれた「基底膜」というふるいの働きをするバリアのような層があります(図6)。血液中の赤血球などの細胞や大きなタンパク質はここを通過できませんし、比較的小さなタンパク質でもあるアルブミンも基底膜の外側にある足細胞がバリアとなって通過できません。しかし、アミノ酸やナトリウムなどの小さな物質や水分といった老廃物は全てこれらのバリアを通過して、「ボーマン腔(くう)」という隙間へ落ちていきます。いわば、糸球体は、血液中の不要な老廃物をまとめて捨てているごみ処理場のようなところです。(1章 おしっこの作られ方と役割 MedicalTribune)

上のリンクの説明記事にある腎臓の図は、腎動脈から入って腎静脈から出ていくまでの途中でどんな構造があって何が起きるのかを理解するうえで、とてもわかりやすいと思いました。

  1. 尿」で知る腎臓の病気 adpkd.jp

SGLT2とは

Sodium-glucose cotransporter-2 (SGLT2)は、腎近位尿細管(renal proximal tubules)に存在しており、グルコースの再取り込みに関わっています。ナトリウムイオンとグルコースとが同時に同じ方向に取り込まれます。

SGLT2 is mainly expressed in the renal proximal tubules, where it is responsible for the reabsorption of about 90% of filtered glucose. It is a high-capacity, low-affinity transporter that transports glucose and other monosaccharides in a 1:1 ratio with sodium ions. SGLT2 is also a secondary active transporter that uses the electrochemical gradient of sodium ions to drive the transport of glucose against its concentration gradient. The activity of SGLT2 is regulated by various factors, including insulin, glucagon, and sodium ions. (Unlocking the Full Potential of SGLT2 Inhibitors: Expanding Applications beyond Glycemic Control IJMS Volume 24 Issue 7 10.3390/ijms24076039)

SGLT2阻害薬について

SGLT2は尿として出されるグルコースの再取り込みを行うタンパク質ですので、SGLT2を阻害するということは、尿から血液に戻ってくるグルコースを減らす作用となります。血糖値を下げる方向に作用するため糖尿病薬として用いられます。

2型糖尿病だけではなく、いまや心不全の治療薬として適応が拡大されたSGLT2阻害薬。‥ ダパグリフロジンエンパグリフロジンが左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者を対象とする大規模臨床試験で心不全イベントリスクを低下させ(N Engl J Med 2019; 381: 1995-2008、N Engl J Med 2020; 383: 1413-1424)、2020年以降に心不全への適応が拡大された。‥ 2型糖尿病の有無にかかわらず左室駆出率が保持された慢性心不全(HFpEF)患者に対しても、大規模臨床試験でダパグリフロジンとエンパグリフロジンが心不全イベントを抑制することが明らかになり(N Engl J Med 2021; 385: 1451-1461、N Engl J Med 2022; 387: 1089-1098)、HFpEFでも適応となった。(2学会がSGLT2阻害薬の適正使用を勧告 日本循環器学会・日本心不全学会 2023年06月16日 16:10 MedicalTribune)

 

慢性腎臓病(CKD)におけるSGLT2阻害薬の使用

SGLT2は腎臓においてグルコースの再吸収を担う分子ですが、糖尿病の治療に使われているSGLT2阻害薬に腎保護効果があることがわかり、SGLT-2阻害薬は慢性腎臓病(CKD)の治療薬としても使われているのだそうです。

  1. CKD 治療における SGLT2 阻害薬の適正使⽤に関する recommendation 策定 (PDF) 2022 年 11 ⽉ 29 ⽇ ⽇本腎臓学会
  2. 国内で初めて承認された慢性腎臓病(CKD)治療薬(SGLT2阻害薬ダパグリフロジン)の費用対効果を 産学連携国際共同研究により報告 ~医療経営・政策の質向上に貢献する実務型研究プログラムの成果~ 2024.05.23 YCUポータル CKDは、腎臓の尿細管間質線維化がその中核的病態を構成し、進行して不可逆的なCKDを直接改善できる治療薬がこれまで存在せず、重要なアンメット・メディカル・ニーズが存在していました。しかしながら、最近では、進行したCKDの悪化速度を有意に抑制できる薬剤も開発されています。
  3. SGLT2阻害薬により腎機能が高度に低下した糖尿病患者の予後が改善 透析導入・心腎イベント・DKAリスクの低さと関連 2024.05.15

スタチンとは

スタチンとは

急性冠症候群(ACS)など冠動脈疾患(CAD)の予防では、スタチンを中心とするLDLコレステロール(LDL-C)低下療法が重要となる。近年、国内外のガイドラインは積極的な脂質低下療法を推奨する傾向にあり、新たな脂質異常症治療薬も登場しているが、投与開始前にスタチンが効きにくい患者(スタチン反応性低下例)を予測する方法は確立されていない。国立循環器病研究センターの九山直人氏らは、血中PCSK9濃度とスタチン反応性低下の関係を検討。(スタチン不応例の予測法とは 血中成熟型PCSK9濃度が有用か 2021年05月27日 15:32 Medical Tribune)

 

QT延長とは?

QT延長(心電図におけるQT間隔の延長)が問題という記述をよく見かけますが、QT延長とは何でしょうか?下の動画の説明がわかりやすいです。QTのフェーズは、活動電位に対応しており、ナトリウムチャンネルの機能の増大やカリウムチャンネルの機能の減少がQT延長につながるのだそうです。
Long QT Syndrome and Torsades de Pointes, Animation 2020/04/07 Alila Medical Media

冠微小循環とは?冠微小循環障害とは?

冠微小循環とは

一般に約100~150μm未満の血管系を微小循環と称している.(冠微小循環の視覚化 pp.873-877 呼吸と循環 53巻8号 2005年8月

冠動脈はepicardialarteryから心筋に入り込み,分枝して冠小動脈になる(>100-150μm:large arterial microvessels / small arteries, <100-150μm: small arterial-microvesels / arterioles). 分枝に従い, 血管径を減じ, 毛細血管前小動脈 (precapillary), 内皮細胞と周皮細胞(pericyte)からなる毛細血管(<10μm:capiillary)を経て, 小脈(venule70μm)に移行する. 冠小動脈は中外膜の3層構造を有する筋性動脈である. このレベルでは中膜は4~6層の平滑筋細胞から構成される. 末梢に進むに従い, 中膜の厚さを減じ, precapillaryレベルの中膜は1層の平滑筋細胞になる. 終末小動脈の中膜は不連続となり, 平滑筋細胞も散在するようになる. 小脈は内皮細胞のみから構成されるが, 血管の増大に伴い中膜の平滑筋細胞が認められるようになる.(冠微小循環の基礎知識 心臓Vol.40 No.7(2008)

冠微小循環の生理学的役割

心臓には約45mlの血液が含まれ、動脈系毛細血管静脈系に約1/3ずつ存在する。冠微小循環は直径200μm以下の血管径の総称であり、左心室筋重量の約8%の血液が含まれている。動脈系の微小循環は直径200~100μmの小動脈small artery)と100μm以下の細動脈(arteriole)に分けられる。両者は血管抵抗の75%を担っており、抵抗血管とも呼ばれている。細小動脈の役割は、体血圧が変動しても自動的に抵抗を調節することにより毛細血管内圧を25~30mmHgで一定に保つことである(自動調節能 autoregulation)。これは、毛細血管における酸素や栄養の交換を安定的に行う”恒常性の維持”のためである。毛細血管には冠微小循環の血液の90%が存在し、容量血管としての働きをもつ。拡張期に冠動脈から心筋に流れ込む血液を心筋内圧を上昇させることなく全て収容することができる。(急性心筋梗塞における冠微小循環障害の病態と治療戦略 岡山医学会雑誌 2009 JStage

冠血流の自動調節能

冠血流量は、灌流圧が一定であれば血管抵抗により決まる。冠血管抵抗に対する心外膜側の太い動脈の関与は生理的状態では少なく、細動脈などの抵抗血管により規定される。反応性充血やジピリダモール、アデノシンなどの薬物による冠拡張でみられるように、冠血流は安静時の5~6倍程度まで増加しうる。労作などにより心筋酸素消費量が増加すると、細動脈が拡張し、冠血管抵抗を減血流量を増やすことにより供給を維持する。一方、冠灌流圧の変化に対しても、心筋酸素消費量が一定であれば70~130mmHgの範囲では冠血流量を一定に保持する働きがあり(autoregulation,自動調節能)、動脈硬化などによる80%程度までの内径狭窄では、その末梢部の圧の多少の低下にもかかわらず虚血とはならない。(冠血流予備能〈coronary flow reserve〉 トーアエイヨ―)

冠微小循環が抱える根音的な問題

左冠動脈前下行枝および回旋枝は, 左心室心外膜表面を走行し, 途中直角に心筋膜下層に向かって走行して内膜下層心筋部位に微小血管として分布する. この冠血流が途えると心筋組織に虚血が生じる. 特に心筋膜下層は, 心筋にして直角に走行する冠血管が周囲の心筋が収縮する度に圧迫されるため, 常に虚血になる危険に曝されている. (心臓微小循環 日薬理誌 1999)

冠微小循環障害

冠微小循環障害(CMD)には機能性構造性の2類型があることが明らかになりつつある。イギリスKings CollegeのRahmanらは、86名の狭心症患者を対象として、この分類の確定を報告している。… 著者らは、機能性CMDでは心筋‐冠動脈カップリング不全が酸素需要増をまねく一方、構造性CMDでは全身性内皮細胞障害による心筋過活動を介して血流供給が相対的不足となる、という機構を提唱している。(メディカルオンライン)

  1. Physiological Stratification of Patients With Angina Due to Coronary Microvascular Dysfunction.  Journal of the American College of Cardiology Volume 75, Issue 20, 26 May 2020, Pages 2538-2549

no reflow現象

急性心筋梗塞症例の治療目標は,梗塞責任血管の速やかな再疎通である。なかには責任血管が再疎通しても冠微小循環に構造的障害が生じたために十分な心筋血流が得られない症例が存在し,noreflow現象と呼ばれている。(急性冠症候群の最近の動向 治療 虚血再灌流時の微小循環保護:現状と展望 CARDIAC PRACTICE Vol.22 No.2, 67-71, 2011)

心血管イベントの予測因子としての冠微小血管機能障害

冠動脈疾患の診療は、主に冠動脈狭窄心筋虚血検査によって行われてきた。しかしながら、近年の筆者らの臨床研究によって、狭窄や虚血がなくても血管径が100μm未満の冠微小血管機能が障害している患者が存在し、心血管イベントの強い予測因子であることが明らかとなった。冠微小血管そのものを描出することはできないが、心臓PET装置と心筋血流トレーサを用いることでアデノシン負荷時と安静時血流量の比から、非侵襲的かつ定量的冠血流予備能を算出することが可能である。(冠微小循環機能評価 北海道大学 研究シーズ集)

冠血流予備能(CFR)とは

冠血流予備能(CFR)とは安静時に比較して最大冠拡張時に何倍増やすことができるかを示す指標である。… CFRは局所的狭窄のみでなく、瀰慢性病変の存在や微小循環障害の存在によっても低下する。(CFRとFFR ―その類似点と相違点― 日本心臓核医学会誌 Vol.19-1 jastage.jst.go.jp

部分冠血流予備比(FFR)とは

下の記事の説明が、FFRの定義が最も詳細です。

FFRとは圧センサー付きガイドワイヤー(pressure guidewire)を用いて冠動脈狭窄の遠位部圧を計測し、最大充血状態(抵抗血管を最大拡張した状態)での病
変部圧較差から重症度評価を行うものである。狭窄のない正常冠動脈では心筋外血管に抵抗、すなわち圧較差は存在しないため、その心筋灌流圧は(Pa-Pv)と
なり(Pa:大動脈圧Pv:中心静脈圧)、細小動脈血管抵抗をRとすると、正常最大心筋灌流量QN,max=(Pa-Pv)/Rで表わされる。狭窄が存在すると狭窄遠位部圧(Pd)は低下し、その際の心筋灌流圧は(Pd-Pv)となるため、狭窄存在下の最大心筋灌流量QS,max=(PdPv)/Rとなる。FFRは次のように定義される。
FFR = 狭窄存在下の最大心筋灌流量 / 正常最大心筋灌流量 = QS,max / QN,max
抵抗血管を最大拡張の状態とするとその抵抗値Rは最小となり、また一定となる。Pa、Pdに対しPvが十分低いと仮定すると、
FFR=QS,max/QN,max=(Pd-Pv)/(Pa-Pv)≒Pd/Pa
正常血管である場合のFFR=1.0であり、FFRが0.75に低下しているということは、その血管が正常であった場合に得られる最大血流量の75%の血液を供給しうるということを意味する。(FFR を用いた心筋虚血の評価 田中信大 Nobuhiro Tanaka 東京医科大学 循環器内科 日本心臓核医学会誌 Vol.16-1)

下の記事は図解してあってわかりやすい。

狭窄の存在下での最大増加血流量が、その狭窄が存在しないと仮定した場合の最大増加血流量に対してどの程度の割合なのかを表す指標を FFR(心筋血流予備量比)といいます。 カテーテル検査ではプレッシャーワイヤーというカテーテルを用いて、薬剤により最大充血させた狭窄病変の FFR を計測することで、その狭窄病変が PCI 適応なのかそうではない のかを鑑別することができます。

FFR = Pd / Pa
Pa: 大動脈圧ガイディングカテーテルの先端の部位で測定)
Pb:狭窄病変遠位部の冠内圧プレッシャーワイヤーの先端の部位で測定)(葛西昌医会病院 臨床工学科 MEだより 第91号

最大冠拡張状態では冠動脈圧冠血流比例関係になるため、冠内圧の比冠血流量の比とみなすことができる。以上の理由から、薬剤により最大冠拡張誘発時のPdとPaの比部分冠血流予備比(FFR)と定義することができる。… FFR0.75以下は虚血陽性、0.75-0.8はグレイゾーン、0.8以上は虚血陰性と診断できる。… 虚血のカットオフは0.75、PCIによるイベント抑制が期待できるカットオフは0.67とされている。(CFRとFFR ―その類似点と相違点― 日本心臓核医学会誌 Vol.19-1 jastage.jst.go.jp

方法  心臓カテーテル検査に続いて行います。 冠動脈拡張剤(ATP: アデノシン)点滴投与しながら、プレッシャーワイヤーという装置(外径: 約0.36mm)を冠動脈に挿入してFFRを測定します。 通常、数分間で終了します。(冠血流予備量比(FFR)測定 Fractional Flow Reserve 阪和記念病院)

血管造影を基準に行うカテーテル治療が薬物療法と比較して予後を改善しないという報告がある一方で、部分冠血流予備量比(FFR)に基づいたカテーテル治療が予後を改善することが報告され、ガイドラインにおいても虚血に基づいた治療適応の決定が推奨されている。(血流予備能定量化の臨床的意義 日本心臓核医学会誌 Vol.18-1)

  1. 心筋血流予備量比(FFR) /冠攣縮薬物誘発試験|左心カテーテルの検査 (2020/07/20 看護roo! 『本当に大切なことが1冊でわかる循環器』より転載。)

瞬時血流予備量比(iFR;instantaneous wave-free ratio)

【背景】 冠動脈狭窄重症度指標としてのFFRの意義は確立しているが、より非侵襲的iFR(instantaneous wave-free ratio)Pd/Pa(resting distal coronary artery pressure/aortic pressure)がどの程度それを代替できるかは不明である。Stony Brook University Medical CenterのJeremiasら(The RESOLVE Study)は、1768名の患者を対象としてこの問題を検討した。 【結論】 iFRPd/Paはともに80%程度の正確度でFFRを評価でき、一部病変ではその正確度は>=90%となりえる。(FFRをiFR・Pd/Paで代替する? メディカルオンライン)

冠血流予備量比(FFR)とともにカテーテル検査室で得られる虚血指標である瞬時血流予備量比(instantaneouswave-FreeRatio:iFR)の有用性について、2017年3月の米国心臓病学会(ACC)で、大規模臨床研究であるDEFINE-FLAIR試験1)*とiFR-SWEDEHEART試験2)**の結果が報告された。(7月に京都で開催された第26回日本心血管インターベンション治療学会学術集会(CVIT2017)の共催セミナー「FFR*を極める」では、わが国のFFRの第一人者である田中信大先生(東京医科大学八王子医療センター循環器内科)と、大規模臨床試験のFAME試験にも参加し「FFRの父」とも呼ばれるNicoH.J.Pijls先生〔Catharina Hospital (オランダ)〕が登壇し、FFRの可能性と虚血指標についての最新動向を発表した。2017年9月25日 http://friends-live.jp/

PCIを適用する病変の選択

FAMEstudyでは、多枝病変患者におけるFFRガイドのPCI手技の有用性について検討された4)。血管造影所見のみで適応を決定しPCIを施行した群に比して、全病変のFFR評価を行い、FFR0.80未満の病変についてのみPCIを施行した群の方が、心イベント数のみでなく医療費も抑制すると報告された。また解剖学的な重症度指標であるSYNTAXscoreを、FFR値を勘案して有意な病変に対してスコア化するFunctionalSYNTAXscoreは、より治療後のイベント発生を予測することに有用であった5)。非侵襲的負荷試験と比べ、個々の病変枝ごとの虚血の有無を判定できるFFRは、実臨床におけるPCIの治療戦略を立てる上で、非常に有用な情報を与えてくれる指標といえる。(FFR を用いた心筋虚血の評価 日本心臓核医学会誌 Vol.16-1)

冠循環研究の歴史

冠循環にかかわる歴史は古く,冠動脈“coronaryarteries”の名付け親はGalen(130-200)[1]である.古代ギリシャで競技の優勝者に対して,冠として授与されたアポロンの霊木である月桂樹の輪から由来しているといわれる.その後,10数世紀を経て血液循環の確立で有名なHarvey(1578-1657)[1]が冠血管には心筋内の血行路があり,それが心筋を栄養することを的確に指摘している(図1).( 冠循環 岡山大学大学院医歯学総合研究科システム循環生理学 梶谷 文彦 LECTURES 日生誌 Vol. 66,No. 6 2004

冠微小循環に関する科研費研究課題

研究課題名に冠微小循環を含む研究課題のリストです。

  1. Rhoキナーゼを介した心筋症の冠微小循環障害による心筋リモデリングの機序解明 2019-04-01 – 2022-03-31 基盤研究(C)
  2. 非虚血性心不全における冠微小循環障害のメカニズム解明と治療戦略開発 2018-04-01 – 2021-03-31 基盤研究(C)
  3. 難治性冠攣縮性狭心症患者における冠微小循環障害バイオマーカーに関する検討 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C)
  4. 急性心筋梗塞における内皮Toll様受容体を介した冠微小循環傷害の分子機序の解明 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C)
  5. 近赤外線蛍光顕微鏡による糖尿病性冠微小循環障害時の心内膜側虚血発症メカニズム解明 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C)
  6. 心臓の機械的負荷への適応機構解明:カルシウム動態と冠微小循環リモデリング 2011 – 2012 研究活動スタート支援
  7. 心筋内ラジカル分子計測による糖尿病性心内膜側冠微小循環障害発症メカニズムの解明 2010 – 2012 基盤研究(B)
  8. 毛細血管径・血流計測用生体顕微鏡開発と糖尿病性冠微小循環障害発症解明及び血行再建 2007 – 2009 基盤研究(B)
  9. 循環フィジオームの推進-冠微小循環、心筋アクチン・ミオシン架橋連関を中心に- 2005 – 2008 基盤研究(A)
  10. 胎児脳および冠微小循環障害におけるアデノシンによる虚血部位のサルベージ 2004 – 2005 基盤研究(C)
  11. 細径ペンシル型生体顕微鏡開発と心筋虚血再灌流時冠微小循環障害発症メカニズムの解明 2004 – 2006 基盤研究(B)
  12. 新生ラットにおける冠微小循環系と心筋の相互依存性増殖過程の医工学的解析 2003 – 2004 若手研究(B)
  13. 心筋虚血再潅流障害時冠微小循環の解明と治療戦略 2003 – 2004 基盤研究(C)
  14. 虚血後リモデリング心臓の冠微小循環制御に対する麻酔薬の作用 2003 – 2006 基盤研究(B)
  15. 虚血性心疾患における冠微小循環調節の破綻とRhoA/Rho-kinase系の役割 2002 – 2003 基盤研究(C)
  16. 糖尿病の病態による冠微小循環機能障害の検討:微小循環機能改善へのアプローチ 2002 – 2003 基盤研究(C)
  17. SPring-8大型放射光による冠微小循環と心筋クロスブリッジ機能の解析 2001 – 2004 基盤研究(S)
  18. 冠微小循環に及ぼす虚血再潅流傷害の特性と麻酔薬の作用に関する研究 2000 – 2002 奨励研究(A)
  19. L-NAME摂取ブタにおける心筋内小動脈狭窄病変の冠微小循環に与える影響 2000 – 2001 基盤研究(C)
  20. NADH蛍光・血流分布の同時測定による糖尿病・高血圧時の冠微小循環異常の解析 1999 – 2000 基盤研究(C)
  21. ロータブレーター(PTCRA)に伴う冠微小循環障害の機序の解明 1999 – 2000 基盤研究(C)
  22. 冠微小循環虚血時における局所血流・代謝分布異常とミクロメカニクス障害の解析 1998 – 1999 基盤研究(C)
  23. 脳・冠微小循環発生動態の3次元解析と内皮細胞の機能の変遷 1998 – 1999 基盤研究(C)
  24. 冠微小循環ミクロメカニクスの情報分子伝達系を介した統合調節機構の解析 1998 – 1999 基盤研究(A)
  25. 針状レンズ生体顕微鏡による高血圧肥大心の心内膜側冠微小循環の経時的障害過程の解析 1997 – 1999 基盤研究(B)
  26. 冠微小循環の内皮機能及び自己調節機能に与えるリゾレシチンの影響 1996 基盤研究(C)
  27. 分子血流トレーサを用いた冠微小循環heterogeneity評価法の確立 1996 – 1997 基盤研究(A)
  28. 冠微小循環調節における血行力学刺激と生体分子情報伝達を介した統合機構の解析 1996 – 1997 国際学術研究
  29. 分子血流トレーサを用いた冠微小循環調節系の時間的応答の解明 1995 奨励研究(A)
  30. Hi bernating myocardiumの冠微小循環動態の解明と診断法の確立 1995 奨励研究(A)
  31. 磁性流体機能の応用による冠微小循環血流制御システムの開発 1995 – 1996 基盤研究(B)
  32. 生体内における冠微小循環制禦機構へのG蛋白の関与 1993 一般研究(C)
  33. 虚血域冠微小循環からみた冠静脈洞閉塞法の心筋保護効果とその機序に関する基礎的研究 1992 奨励研究(A)
  34. CCDマイクロスコープによるヒト冠微小循環の術中計測 1992 – 1993 一般研究(C)
  35. 血管内皮ー白血球混合培養系を用いた冠徴小循環酸素ラジカル代謝り解析 1989 – 1990 一般研究(C)

参考

  1. 瀰漫(び まん)ある風潮などが広がること。はびこること。蔓延。(WEBLIO)

 

心臓リモデリング、心室リモデリング、心筋リモデリング

心臓リモデリングという言葉を初めて聞いたとき、リモデリングというのがどういう意味合いなのかわかりにくいと思いました。悪い意味で使うようです。

心臓リモデリング、心室リモデリング、心筋リモデリングなど言葉が少しずつ違いますが、意味の違いはあまりないように思えます。

心臓リモデリング、心室リモデリング、心筋リモデリングとは

リモデリング 心臓の壊れてしまった部分の機能を補うために、残った正常な心筋が増殖心臓が大きくなり、さらに心臓の機能を低下させてしまうこと(心筋梗塞のおくすり

心室リモデリングとは、心臓が血行力学的負荷に対応して循環動態を一定に保つために構造と形態を変化させることであり、心筋梗塞後や慢性圧・容量負荷後などに認められる。(心室リモデリング〈ventricular remodeling〉toaeiyo.co.jp

心臓リモデリング 心不全において,病期が進行するとともに左室の拡大,収縮力の低下,心筋の線維化が起こり,この変化を心臓リモデリングとよぶ.(実験医学online)

心筋梗塞発症後,数週間から数カ月のうちに左室拡大左室駆出率低下が進行する症例がある.これを左室リモデリングという.(左室リモデリングの評価と対策 冠疾患誌2012; 18: 239–244 JSTAGE

圧負荷により心室肥大,容量負荷,心筋梗塞による心筋喪失により心室拡大・機能低下が生じる.持続する圧負荷は心室の拡大,機能低下へと至るが,このような形態的変化心筋リモデリングであり,心不全の病態基盤である.(心筋リモデリングと酸化ストレス Cardiac remodeling and oxidative stress 第50回 河口湖心臓討論会

リモデリングという言葉を聞くと、一般的な国語からは何か変化に適応するための改造といった意味合いかと思います。そのため、悪い意味で使われていることに違和感を覚えます。一体誰が何を意味するつもりで使い始めた言葉なのでしょうか?歴史的な変遷を知ることにより、言葉遣いが理解しやすくなるのかもしれません。レビューアーティクルのイントロに、リモデリングという言葉が使われてきたことに関する歴史的な経緯が解説されていました。

The term “remodeling” was used for the first time in 1982 by Hockman and Buckey, in a myocardial infarction (MI 心筋梗塞) model. This term was aimed to characterize the replacement of infarcted tissue with scar tissue.1 Janice Pfeffer was the first researcher to use the term remodeling in the current context, to describe the progressive increase of the left ventricular cavity in experimental model of MI in rats.2 The term was then used in some scientific articles on morphological changes following acute MI. In 1990, Pfeffer and Braunwald published a review on cardiac remodeling following MI, and the term was adopted to characterize morphological changes after infarction, particularly increase in the left ventricle.3 However, in the following years, the term “remodeling” has also been used to describe different clinical situations and pathophysiological changes. For this reason, in 2000, a consensus from an international forum on cardiac remodeling was published, which defined cardiac remodeling as a group of molecular, cellular and interstitial changes that clinically manifest as changes in size, shape and function of the heart resulting from cardiac injury.4 Although two types of cardiac remodeling were recognized during the forum – physiological (adaptive) remodeling and pathological remodeling – this article focuses on deleterious, pathological cardiac remodeling. (Cardiac Remodeling: Concepts, Clinical Impact, Pathophysiological Mechanisms and Pharmacologic Treatment Arq Bras Cardiol. 2016 Jan; 106(1): 62–69.)

心筋梗塞

心筋梗塞とは心臓(心筋)が酸素不足になり壊死する病気です。心筋を取り巻いている冠動脈は心臓に血液と酸素を送っています。これが動脈硬化で硬くなりコレステロールなどが沈着すると血液の通り道が塞がれ、心筋に血液を送ることができません。そのため心筋は酸素不足となり、心筋細胞が壊死を起こしてしまいます。これが心筋梗塞です。(心筋梗塞とは 大和成和病院)

心筋梗塞(しんきんこうそく、英: myocardial infarction)は、虚血性心疾患の一つ。心臓の筋肉細胞に酸素や栄養を供給している冠動脈閉塞狭窄などが起きて血液の流量が下がり、心筋が虚血状態になり壊死してしまった状態。通常は急性に起こる「急性心筋梗塞(AMI)」のことを指す。心臓麻痺・心臓発作(英: heart attack)とも呼ばれる。 心筋が虚血状態に陥っても壊死にまで至らない前段階を狭心症といい、狭心症から急性心筋梗塞までの一連の病態を総称して急性冠症候群(acute coronary syndrome, ACS)という概念が提唱されている。(心筋梗塞 ウィキペディア)

参考

  1. 分子心臓病学 (東北大学)

慢性完全閉塞病変 (Chronic total occlusion; CTO)とは?

慢性完全閉塞病変 (Chronic total occlusion; CTO)とは

慢性完全閉塞病変(Chronic Total Occlusion)は3カ月以上(慢性)にわたり、冠動脈が閉塞している病変です。(慢性完全閉塞病変 CTO 慶應大学医学部循環器内科心臓カテーテル室)

冠動脈

心臓自身を栄養する血管のことを「冠(状)動脈」と言います。(京都大学心臓血管外科

経皮的冠動脈形成術(PCI, PTCA)

経皮的冠動脈形成術(PTCA)は、狭くなった冠動脈を血管の内側から拡げるために行う低侵襲的な治療法で、経皮的冠動脈インターベーション(PCI)とも呼ばれています。(ボストンサイエンティフィック

CTOに対してPCIを適用する手術の発展の歴史

  1. CTO History(監修:加藤 修 医師) ASAHI INTECH 動画集 新製品開発の歴史を紹介するもので、非常に興味深い動画集です。特に最後の動画「第5章:ガイドワイヤーの限界への挑戦 加藤修医師によるメッセージ」は、医師とメーカーのコラボレーションに関して示唆に富む解説で、深い話だと思いました。

血行再建とは

血流を回復させる方法が、血管内治療(血行再建術)(「頭を切らない、新しい脳の手術」 脳血管内治療)

なんらかの形で血流を取り戻してあげることが必要です。その血行再建の方法には、狭まっている部分を広げる「カテーテル治療」と、迂回路をつくる「バイパス手術」の大きく2種類があります。(「歩ける足」を取り戻す、血行再建術ーー重症下肢虚血(CLI)の治療ーー doctorbook.jp

血行再建術は,進行中の損傷を制限し,心室の易刺激性を低下させ,短期および長期予後を改善するべく,虚血心筋への血液供給を復旧させる処置である。(急性冠症候群に対する血行再建術 MSDマニュアル)

  1. 安定冠動脈疾患の血行再建ガイドライン (2018 年改訂版) 日本循環器学会 / 日本心臓血管外科学会合同ガイドライン

 

参考

  1. 初のPCI・CABG併記の血行再建GLが発表 クラスIIb/IIIの症例ではハートチームアプローチを推奨2019/04/05
  2. 主幹部病変における冠血行再建術:PCI vs CABG 佐賀 俊彦 近畿大学医学部心臓血管外科 201117217 冠動脈インターベンション(PCI)の出現以来,心臓外科医は絶えずPCIを意識し,時には怯え,時には過剰に意識し,そして冠動脈バイパス術(CABG)自体の質の向上,発展に大きな努力を払うことでCABGの存在意義を守り高めてきた.
  3. PCI (経皮的冠動脈インターベンション) 当時、経皮的冠動脈形成術(percutaneous transluminal coronary angioplasty: PTCA)と呼ばれたこの治療は、メスを使わず皮膚を通して動脈内腔に道具を通過させることを意味し、世界で最初の治療は1977年9月16日にアンドレアス・グルンツィヒ(心臓外科医)によって、スイスのチューリッヒで行われました。 グルンツィヒが米国のEmory 大学に異動したことで、この治療が世界中に拡散することになりました。日本における最初のPTCAは1980年12月に行われたとされています。 1980年代半ばまでに、世界中の多くの医療機関がこの手技を採用し、循環器内科医が治療を担当するようになりました。1992年に初の冠動脈ステント(Palmaz-Schatz Stent)が登場するなど、冠動脈内で行われる治療の範囲が広がるにつれて、手技の名称はPTCAからPCI: percutaneous coronary intervention (経皮的冠状動脈インターベンション)に変化しました。
  4. 駆出率(EF)の保たれた心不全(総説) NEJM, Nov.10,2016 西伊豆早朝カンファランス H28.12 西伊豆健育会病院 仲田和正

 

抗がん剤の心毒性

抗がん剤の心毒性とは

心臓は筋肉で動いていますが、抗がん薬で心筋の機能を低下させる心筋障害を引き起こすことがあり、これを広く心毒性と言ったりします。(心疾患患者さんのがん治療 がん治療中は心臓にも注目を!心疾患の症状に要注意  監修●庄司正昭 国立がん研究センター中央病院総合内科循環器内科医長 取材・文●町口 充 発行:2014年1月 がんサポート

古くから知られてきた抗がん剤の心毒性

がん化学療法に伴い心不全が発症することは以前から広く知られ,抗がん剤に伴う心不全は,不可逆的心筋障害であるtypeⅠ(心筋傷害)と,可逆的心筋障害を中心とするtypeⅡ(心機能障害)に分類される。(抗がん剤による心毒性への対応 Web医事新報)

アンスラサイクリン系薬剤は、その高い抗腫瘍効果から様々な腫瘍に用いられるが、心血管系への副作用常に問題となってきた1970年代から蓄積されたエビデンスに基づき、 現在ではドキソルビシン換算で生涯投与量が 500 mg/㎡ を超えないように慎重に投与されて いるにもかかわらず、約 9%に心毒性が発生する。(アンスラサイクリン系薬剤による心毒性の早期診断を目的とした 前向きコホート研究

抗がん剤がもつ心毒性の問題

化学療法では、がんの治療を優先させたいという場合でも、なるべく心毒性が少ない薬を使う。しかし、抗がん薬で命を落としては本末転倒なので、人命優先のため抗がん薬の投与を見送ることもある。(がん治療中は心臓にも注目を! がんサポート

一般に心不全というと高齢者に多い疾患のイメージがあるが、乳がんの患者さんの中には30代、40代の若い人が少なくないため、ハーセプチンで治療していて30代なのに心不全というケースもある。(がん治療中は心臓にも注目を! がんサポート

抗がん剤がもつ心毒性に関する研究が重要な理由

化学療法を中心としたがん治療の飛躍的な進歩は、多くの患者の命を救うと同時に「がん サバイバー」の加速度的な増加につながっており、がん患者に対するケアや医療のあり方・ 視点を大きく変えようとしている。なかでも心血管合併症の発生は患者の生命予後や QOLに 直結するため、循環器専門医が積極的に取り組むべき領域である。(アンスラサイクリン系薬剤による心毒性の早期診断を目的とした 前向きコホート研究 -フィージビリティ調査- 筑波大学医学医療系 循環器内科 助教 田尻 和子 PDF

 

心毒性が問題となる抗がん剤のリスト

アンスラサイクリン系抗がん薬

ドキソルビシン

エピルビシン

ダウノルビシン

ミトキサントロン

イダルビシン

代謝拮抗薬

カペシタビン

フルオロウラシル

シタラビン

植物アルカロイド

パクリタキセル

ドセタキセル

エトポシド

イリノテカン

ビンデシン

ビノレルビン

分子標的薬

ベバシズマブ

トラスツマブ

イマチニブ

ソラフェニブ

スニチニブ

参考

  1. がんサバイバーの多くが中長期のCVDリスク増加/Lancet提供元:ケアネット2019/08/30
  2. 成人がんサバイバーで心血管疾患リスクが増加(2019年9月24日 cancerit.jp) 2019年8月20日号のLancet誌に掲載された集団ベースコホート研究において、研究者らは、英国Clinical Practice Research Datalinkからプライマリケア、病院、がん登録、のリンクされたデータを用いて、一般的な20種のがんについて診断後12カ月時点で生存している成人のがんサバイバー群と、がんの既往歴がない対照群とを同定した。ほとんどのがん種のサバイバーは、一般集団に比べて、一つまたはそれ以上の心血管疾患の中長期的なリスクがあり、腫瘍のタイプによって、かなりの差があることがわかった。
  3. 心疾患患者さんのがん治療 がん治療中は心臓にも注目を!心疾患の症状に要注意  監修 庄司正昭 国立がん研究センター中央病院総合内科循環器内科医長 2014年1月 がんサポート
  4. (1)抗がん剤による心毒性への対応─心筋障害を中心に [特集:がん化学療法中の心血管系副作用にどう対処するか]Web医事新報
  5. アンスラサイクリン系薬剤による心毒性の早期診断を目的とした 前向きコホート研究 -フィージビリティ調査- 筑波大学医学医療系 循環器内科 助教 田尻 和子 PDF

 

心アミロイドーシスとは?

心アミロイドーシスとは

折り畳み異常を来した前駆蛋白質がアミロイド線維を形成し、心臓に沈着することでさまざまな機能障害を起こす心アミロイドーシス (〔第5回〕心アミロイドーシス診療ガイドライン 心不全の一因となる疾患に迅速な対策を 2020年08月19日 05:05 MedicalTribune