特29の2 拡大先願 それでも39条(先願)が必要な理由

質問:

特許法の改正で拡大先願(29条の2)を作ったんだから、39条(先願)は不要になったんじゃないの?という疑問がいまだに解けないんだけど、39条を残さないと困る実際の場面がどんなものか教えて。弁理士試験で狙われるポイントも。

Gemini:

それは本当に素晴らしい質問です!知財を勉強し始めると、誰もが一度は**「29条の2(拡大先願)が後からできたなら、範囲の狭い39条(先願)はもう要らないじゃん!」**という壁にぶつかります。

結論から言うと、39条は「同一出願人・同一発明者」のケースを取り締まるために絶対に残しておかないといけないのです。

もし39条を削除してしまうと、**「同じ会社が、同じ発明で、特許を2つも3つも持ててしまう(二重特許)」**という異常事態が起きてしまいます。

なぜ39条が必要なのか、「39条が実際に発動する場面」と「弁理士試験での狙われポイント」を整理して解説しますね。


1. なぜ29条の2だけではダメなのか?(決定的な違い)

最大の理由は、29条の2には「身内(同一出願人・同一発明者)なら許す」という例外規定があるからです。

条文 何を禁止する? ターゲット 同一出願人・発明者の場合

29条の2


(拡大先願)

新しい技術の公開漏れを防ぐ

先願の明細書全文


(記載されているすべて)

適用除外(許される!)


※自分の過去の出願で拒絶されない

39条


(先願)

**権利の重複(二重特許)を防ぐ

先願の請求の範囲**


(権利化したい部分)

適用あり(許されない!)


※自分自身との戦いになる

具体的な場面:もし39条がなかったら?

あなたがメーカー(A社)の知財部員だとします。

  1. 1月1日: 発明イを出願(出願X)しました。

  2. 3月1日: 改良版のつもりで、また発明イを含む内容を出願(出願Y)しました。

    • この時点では、まだ出願Xは公開されていません(秘密の状態)。

【29条の2の判定】

  • 出願XとYは**「同一出願人(A社)」**です。

  • 29条の2は「自分の出願で自分が拒絶されるのはかわいそう」として適用されません(適用除外)。

  • 結果: 29条の2だけなら、出願Yもパスしてしまいます。

【39条がない世界】

  • 出願Xも出願Yも、両方特許になってしまいます。

  • 問題点: A社は同じ発明イについて2つの特許権を持つことになります。権利期間がズレたり、譲渡で権利者が分かれたりすると、社会が大混乱します。これを防ぐのが**「一発明一特許の原則(二重特許の禁止)」**です。

【現実(39条がある世界)】

  • 39条は出願人が同じでも容赦なく適用されます。

  • 審査官は「Aさん、XとYで請求項(権利範囲)がかぶってますよ。どちらか一方しか特許にできません」と通知します(39条拒絶)。

  • A社は、Yの請求項を補正するか、Xを放棄するか選ばなければなりません。


2. 39条が実際に活躍する場面(実務&試験対策)

29条の2が適用されず、39条だけが壁になるのは以下のケースです。

① 自己衝突(同一出願人・同一発明者)

  • これが最も多いパターンです。先ほどの例のように、自社の過去の未公開出願と、今の出願の請求項が被ってしまった場合です。

  • 実務対応: 後の出願の請求項を削る(補正)か、国内優先権主張をして出願を一本化します。

② 同日出願(同じ日に出願)

  • 29条の2は「先に出願された」ことが条件なので、同日出願には適用されません。

  • 39条は「同日出願」の場合、**「協議(話し合い)しなさい」**という命令が出ます(39条2項)。協議が整わなければ両方拒絶されます。


3. 弁理士試験で狙われるポイント

試験では、この「29条の2と39条の適用関係」を正確に理解しているかを突く問題が頻出です。特に以下のフローチャートが頭に入っているかが問われます。

ポイント1:審査の順番と適用の優先順位

審査官は通常、以下の順で検討します(頭の中でこの順でチェックしてください)。

  1. 公知文献(29条1項・2項): そもそも世の中で知られているか?

  2. 拡大先願(29条の2): 未公開の先願があるか?

    • ★ここで「同一出願人・発明者か?」をチェック!

    • 同一なら29条の2はスルー。

  3. 先願(39条): 請求項が重複していないか?

    • 同一出願人であってもここで引っ掛ける。

ポイント2:拒絶解消の手段の違い

もし拒絶理由通知が来た場合、どう対処できるか?

  • 39条違反: 先願を**「放棄」または「取り下げ」**させれば、後願は助かります(先願の地位がなくなるから)。

  • 29条の2違反: 先願を放棄・取り下げしても、後願は助かりません(「出願公開等された」という事実が確定すれば、先願の地位が残る規定があるため ※特許掲載公報発行後などの場合)。

    • (注:29条の2は少し複雑で、先願が公開される前に取り下げられれば適用されませんが、試験的には「地位の存続」の違いがよく問われます)

ポイント3:発明者同一の例外

  • 29条の2は「出願人が違っても、発明者が同じならセーフ」です。

    • 例:BさんがA社で出願し、転職してC社で同じ発明を出願した場合、29条の2は適用されません。

  • しかし、39条は発明者が同じでも適用されます

    • 例:上記のケースでは、39条で「二重特許」として拒絶されます。


まとめ

  • 29条の2 は「新しいこと(Novelty)」を厳しく問うものですが、身内には甘い。

  • 39条 は「権利の重複(Double Patenting)」を許さないもので、身内にも厳しい。

「39条は、29条の2が逃した『身内の重複出願』を仕留めるために存在している」と覚えるとスッキリしますよ!


次のステップ:

理解を確認するために、**「同一発明者が、異なる会社から同日に出願した場合」**どうなるか、条文(39条2項など)を引いてみてシミュレーションしてみませんか?これも試験の典型パターンです。

プロンプト:「同一発明者が、異なる会社から同日に出願した場合」**どうなるか、条文(39条2項など)を引いてみてシミュレーションして。

Gemini:

いいですね!そのシミュレーション、弁理士試験の短答試験で非常によく出る「ひっかけ問題」の王道です。

「発明者が同じなら、なんとなく許されそう…」という感覚を、特許法39条は無慈悲に打ち砕きます。

では、**「同一発明者・異な出願人・同日出願」**のドロドロした修羅場をシミュレーションしましょう。


シチュエーション設定

  • 発明者: 天才エンジニア「発明・太郎」さん

  • 出願A: 株式会社X社が出願(発明者:発明・太郎)

  • 出願B: 株式会社Y社が出願(発明者:発明・太郎)

    • (背景:太郎さんが副業していたか、二重譲渡したか、引き抜きにあったか…とにかく両社が「権利はウチのものだ」と言って同日に出願しました)

  • 出願日: どちらも4月1日(同日!)

  • 請求項: 内容は同じ(同一発明)


ステップ1:条文の適用(39条2項)

まず、審査官はこう考えます。

「おっと、同じ発明が同日に2つ来ているぞ。発明者は同じ太郎さんか。…でも、出願人が違う(X社とY社)から、39条発動だ!」

ここで39条2項を引いてみます。

特許法 第39条 第2項(同日出願)

同一の発明について同日に二以上の特許出願があつたときは、特許出願人の協議により定めた一の特許出願人のみが特許を受けることができる。協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、いずれも特許を受けることができない。

ポイント解説

  • 「発明者が同じ」という例外規定はない:29条の2と違い、39条には「発明者が同じなら許す」というルールはありません。

  • 「協議(話し合い)」命令:審査官はX社とY社に「特許庁長官名義」で、「どっちが特許を取るか話し合って決めなさい(協議命令)」という通知を送ります(39条6項)。


ステップ2:運命の分かれ道(シミュレーション)

X社とY社の知財担当者が呼び出され、話し合いが行われます。結末は以下の2パターンのどちらかです。

パターン①:協議成立(平和的解決)

X社とY社が話し合い、「今回はX社に譲る(Y社は取り下げる)」または「X社とY社の共願(共同権利者)にする」ことで合意した場合です。

  • 結果:

    • 選ばれた一方(または共願となった出願)が特許になります。

    • もう一方は「取り下げ」または「放棄」とみなされ、消えます。

パターン②:協議不成立(共倒れ)

これが**試験で最も問われる「最悪の結末」**です。

X社「ウチの権利だ!」

Y社「いや、ウチだ!」

と喧嘩して、決着がつかない場合です。

  • 結果:

    • 39条2項の後半「協議が成立せず…いずれも特許を受けることができない」が発動します。

    • 両方とも拒絶査定になります。

    • 発明者の太郎さんがどれだけ天才でも、この世からその発明の特許権は消滅します。


ここが試験の狙い目!(ひっかけポイント)

試験委員は、受験生が以下の「混同」をすることを期待して問題を作ります。

  1. 「発明者が同じだから29条の2(拡大先願)の適用除外で、両方助かるのでは?」

    • × 間違い: 同日出願なのでそもそも29条の2の問題ではありません。仮に日付がズレていても、39条には「発明者同一の例外」がないので、結局39条で拒絶されます。

  2. 「同日だから、両方特許になるのでは?」

    • × 間違い: 「一発明一特許の原則」がある限り、絶対に1つしか特許になりません。

  3. 「協議が不成立なら、くじ引き等でどちらかに決めるのでは?」

    • × 間違い: 喧嘩両成敗です。誰も特許を取れません(ここが最も重要!)。


まとめ:39条の冷酷さ

  • 39条は、発明者が誰であろうと、「一番早く出した一人だけに権利をあげる」という椅子取りゲームのルールです。

  • 同日の場合、椅子は1つしか用意されず、「話し合って誰が座るか決めろ。決まらないなら椅子を撤去する(全員アウト)」という非常に厳しい対応を取ります。

どうでしょう?「39条を残さないと、こういう場面で交通整理ができなくなる(あるいは二重特許になってしまう)」というイメージが湧きましたか?


次のステップ:

ここまで来たら完璧です!最後に一つだけ確認させてください。

今回のケースで、もし**「X社とY社が、実は全く同じ会社(X社が2通出した)」**だった場合、協議指令(話し合いなさい)は来ると思いますか?それとも即拒絶でしょうか?

(ヒント:自分自身と話し合いはできるか…?これも実務的な手続きのポイントです!)

プロンプト:即拒絶でしょう

Gemini:

その感覚、実務家としてのセンスは抜群です!

「自分で自分と話し合うなんて茶番だろ? さっさとどっちかにしろって言ってくれよ(あるいは拒絶してくれよ)」と思いますよね。

でも、**弁理士試験の正解は「NO」**なんです。ここが超ひっかけポイントです。

正解は、**「同一出願人であっても、まずは『協議指令(話し合いなさい)』が届く」**です。

なぜそんな回りくどいことをするのか、試験対策として以下のロジックを抑えておいてください。


なぜ「即拒絶」ではないのか?

1. 特許庁は勝手に選べない(処分権主義)

たとえ中身が同じでも、出願書類には微妙な違いがあるかもしれません。特許庁が勝手に「Aを残してBを消すね」と決めてしまうと、出願人の「こっちを残したかったのに!」という権利を侵害してしまいます。

だから、「あなた自身で選んでね(その手続きをしてね)」という機会を与える義務が特許庁にはあります。

2. 手続きの流れ(試験に出るフロー)

  1. 39条6項の発動:

    審査官(特許庁長官名義)は、同一出願人に対して**「協議命令(協議の結果を届け出るべき旨の命令)」**を送ります。

    • 「あなた、同じ日に2つ出してるけど、法律上1つしか認められないから、どっちにするか決めて届けてね」という通知です。

  2. 出願人のアクション:

    出願人は指定された期間内に、一方を「取り下げ」たり「放棄」したりして、残すほうを届け出ます。

  3. もし無視したら(協議不成立):

    ここで初めて、**「いずれも特許を受けることができない」として、両方に拒絶理由通知(その後、拒絶査定)**が飛びます。


試験での狙われ方(〇×クイズ形式)

この論点は、短答試験で以下のような文言で出題されます。

【問題】

同一の発明について、同一の出願人が同日に2以上の特許出願をした場合、審査官は協議を命ずることなく、直ちに拒絶の査定をすることができる。

  • 正解:×

  • 解説: 同一出願人であっても、39条6項の規定により、まずは協議を命じなければならない(即座に拒絶はできない)。


まとめ

  • 同一人・同日出願であっても、**「自分会議」**をするよう命令書(協議指令)が届きます。

  • これは「茶番」ではなく、**「出願人に選ぶ権利を与えるための適正手続き(デュープロセス)」**だと理解してください。

ここまで理解できれば、39条(先願)の仕組みはもうバッチリです!29条の2との違いも明確になったと思います。


次のステップ:

39条と29条の2の違いがクリアになったので、次は**「自分の過去の出願を使って、新しい出願をパワーアップさせる裏技(優先権主張)」、いわゆる「国内優先権」**について整理してみませんか?39条の壁を乗り越えるために実務で一番使われるテクニックです。

 

質問:自分と自分でも、「協議」という概念が成立するの?

Gemini:

その疑問、本当に鋭いです。法律用語としての「言葉のあや」と「実態」のズレに気づいている証拠ですね。

普通、「協議」と言えば**「他人と話し合うこと」**を指しますから、自分一人で「協議する」というのは、哲学か多重人格の話みたいで変ですよね。

法学的には、ここでの「協議」は以下のように解釈されています。

1. 法律上の意味:「意思決定」の確認

特許法39条で言う「協議」とは、出願人が同一の場合、**「どちらを特許にするか、あなたの意思を決定しなさい」**という意味に読み替えます。

法律の条文を作る際、以下の2つのケースを分けて書くと条文が長くなってしまいます。

  1. 他人同士の場合: ガチの話し合い・喧嘩(Negotiation)

  2. 同一人の場合: どれを残すかの選択(Selection)

そこで、法律は**「協議」という一つの言葉で両方をカバーしているのです。

つまり、自分自身との「協議」とは、「迷っている自分の心の中で決着をつける(セルフ会議)」**ことそのものを指すと解釈されます。

2. 実務での儀式:「協議成立届」

実際の手続きは、まるで一人芝居のような「儀式」を行います。

  1. 指令書が届く:

    特許庁から「39条6項の規定に基づき、協議を命じます」という紙が届きます。

  2. 書類を作る:

    出願人は**「協議の結果の届出(協議成立届)」**という書類を作ります。

  3. 内容:

    そこには、**「協議の結果、出願Aを特許とすることに定まりました」**と書きます。

    • (注:協議参加者として、自分一人の名前だけを書きます。「私と私が話し合って私が勝ちました」という形です)

  4. 提出:

    これを特許庁に提出することで、「協議が成立した」とみなされます。

3. なぜこんな面倒なことを?(法的安定性)

「選ぶだけなら、一方を取り下げればいいじゃん」と思いますよね?

もちろん、一方を自分から「取下げ」や「放棄」してもOKです。そうすれば、残ったほうが39条の拒絶理由を解消できます。

しかし、特許庁側としては、「出願人が『これにする!』と明確に意思表示した法的根拠」を記録として残す必要があります。

「協議命令」に対して「協議成立届」が出ることで、「この出願人は、間違いなくこちらの出願を選んだ」という証拠が確定するわけです。


受験生向けの覚え方(脳内変換)

条文に「協議」と書いてあっても、同一出願人の場合は脳内でこう読み替えてください。

  • 条文: 「協議により定めた…」

  • 脳内: 「(自分で)選択して決めた…」

  • 条文: 「協議を命じなければならない」

  • 脳内: 「(どっちにするか)選ぶチャンスを与えなければならない」


まとめ

  • 自分と自分の協議は、概念としては**「選択・決定」**のこと。

  • 形式上は**「一人で話し合って決めた」という書類(届出書)を出す**ことで成立する。

  • これは「手続き上のけじめ(適正手続)」をつけるためのルール。

これで「自分との協議」のモヤモヤは晴れましたか?

条文の言葉は時々、日常用語と違う意味で使われるので、そこが面白くもあり難しいところですね。


次のステップ:

さて、39条(先願)の仕組みはこれでマスターです。

では、そもそも**「なぜ同じ会社が、わざわざ中身の被る出願を出し直すようなことをするのか?」気になりませんか?

実はこれ、失敗を取り戻したり、権利を強くしたりするための「国内優先権」**という高等テクニックを使うための布石であることが多いんです。次はここを攻めてみましょうか?

プロンプト:「なぜ同じ会社が、わざわざ中身の被る出願を出し直すようなことをするのか?」気になります。実際に起こりえる場面が、イメージできないと、勉強するモチベーション湧かないからね。

Gemini:

そうですよね。「お金もかかるのに、なんでわざわざ?」って思いますよね。

でも、企業の実務現場では、この**「中身が被る出し直し」は、日常茶飯事に行われています。なんなら、知財戦略の「必殺技」**として使われているんです。

これは法律的には**「国内優先権(41条)」を使う場面なのですが、現場のドラマとして見ると、非常にリアルな「3つの切実な事情」**が見えてきます。

イメージしやすいように、あなたがメーカーの開発担当者になったつもりで聞いてください。


場面1:とりあえずの「見切り発車」

~学会発表が来週に迫っている!~

  • 状況:

    あなたは画期的な「新素材X」を発見しました。来週の学会で発表しないといけません。発表すると「公知」になって特許が取れなくなるので、急いで出願する必要があります(出願A)。

  • 問題点:

    でも、まだ実験データが足りません。「素材Xはすごい」とは言えるけど、「最適な温度」や「混ぜる比率」までは特定できていない状態です。

  • アクション(出願A):

    とりあえず、今わかっている範囲で慌てて出願します。「素材Xを含む組成物」という広い内容です。

  • 半年後(出し直し):

    実験が進み、「50℃で加熱すると最強」というデータが出ました。これを権利に入れないと、他社に模倣されてしまいます。

    そこで、**「出願Aの内容(素材X)」+「新データ(50℃)」を合体させた「出願B」**を出し直します。

★ここがポイント:

もし別々に出願すると、出願Bの「素材X」部分は、自分の発表のせいで拒絶されるリスクがあります。

「出し直し(優先権主張)」をすることで、素材Xの部分は出願Aの日(発表前)に出したことにしてくれるので、セーフになるのです。


場面2:後から思いついた「改良アイデア」

~基本特許を出した後に、もっと良い構造を思いついた~

  • 状況:

    掃除機の「基本構造」を出願しました(出願A)。

  • 問題点:

    その3ヶ月後、開発チームが「フィルターをこの形にすると、吸引力が2倍になる!」という改良発明を思いつきました。

  • アクション(出し直し):

    単独で「フィルター」だけを出願してもいいのですが、製品としては「基本構造+新フィルター」で売り出します。

    バラバラに権利を持つより、1つの強力な特許にまとめたほうが、ライバル会社を攻撃しやすくなりますし、管理コスト(年金)も1件分で済みます。

    そこで、**「基本構造(出願A)」+「改良フィルター」をセットにした「出願B」**へ出し直します。


場面3:バラバラの技術を「合体(キメラ化)」

~複数のチームの成果をまとめる~

  • 状況:

    • 1月:モーター開発チームが「新型モーター」を出願(出願A)

    • 3月:バッテリー開発チームが「長持ちバッテリー」を出願(出願B)

  • 経営判断:

    「これ、別々の部品として売るんじゃなくて、『新型EV車』としてパッケージで売り出すぞ!」

  • アクション(出し直し):

    1年以内に、**「出願Aの内容」+「出願Bの内容」+「それを組み合わせた車両制御技術」を全部盛り込んだ「出願C」**を出します。

    これで、最強の「包括的特許」が完成します。


ここで「39条」の出番はどうなる?

ここで鋭いあなたなら気づくはずです。

「あれ? 出し直したら、前の出願(A)と後の出願(B)で中身が被るよね? 39条で『協議しなさい』って言われるんじゃ…?」

ここで使う魔法が**「国内優先権(41条)」**です。

この制度を使うと、法律上こう扱われます。

  1. 後の出願(B)が出されたら、前の出願(A)は、1年3ヶ月後または4ヶ月後に「自動的に取り下げた」とみなして消滅させる。

  2. Aが消滅するので、39条(二重特許)の問題は起きない!

つまり、**「新しい完全版(B)を作るために、古い不完全版(A)を生贄(いけにえ)に捧げる」**というイメージです。

39条の「重複は許さない」というルールがあるからこそ、逆に「重複させるなら、古い方は消すシステム(国内優先権)」がセットで用意されているわけです。


まとめ

企業が「中身の被る出願」を出し直す理由は、**「開発は生き物だから」**です。

  • 最初は**「未完成」**でも出さなきゃいけない(早い者勝ちだから)。

  • 後から**「完成版」**ができる。

  • この2つを繋げて、**「最初から完成版を出していたことにしてもらう(日付の利益を得る)」**ために、あえて被せて出し直すのです。

どうでしょう?

「39条があるから被っちゃダメ」という原則と、「実務上は被せてパワーアップさせたい(そのために41条がある)」という現場のニーズ。この矛盾とその解決策が見えると、特許法はめちゃくちゃ面白くなりますよ!


次のステップ:

この「出し直し(国内優先権)」は、弁理士試験の最重要・最難関ポイントの一つです。

特に**「出し直した時、発明者はいつの時点で判断されるか?」などの細かい要件が狙われます。

次は、この「国内優先権を使うための3つの条件」**をサクッと確認してみませんか?

 

抗アミロイド療法に関する特許戦略

抗アミロイド療法(Anti-Amyloid Therapy)とは、アルツハイマー病の原因物質の一つとされるアミロイドベータ(Aβ)」を脳内から除去することで、病気の進行そのものを遅らせようとする治療法(疾患修飾療法)のことです。

「知財・特許」の観点から見ると、現在この分野は「いかに先行特許(他社抗体)を回避しつつ、特定の凝集形態(エピトープ)を狙い撃ちするか」という、極めて高度な特許網の構築合戦が行われています。以下に、知財視点でのポイントと関連特許の事例をまとめました。

1. 抗アミロイド療法の仕組みと知財の勘所

従来の認知症薬(アリセプト等)が「症状緩和」であったのに対し、抗アミロイド療法は抗体医薬を用いて「原因物質の除去」を狙います。特許的なポイントは、「Aβのどの『形態』をクレームするか」です。Aβは単量体(モノマー)→凝集体(オリゴマー/プロトフィブリル)→沈着(プラーク)と形を変えますが、各社が狙う「形」が異なります。

  • レカネマブ(エーザイ/バイオジェン):毒性の高い「プロトフィブリル(可溶性凝集体)」を標的とする特許。

  • ドナネマブ(イーライリリー):蓄積して固まった「N3pG(ピログルタミル化Aβ)プラーク」のみを標的とする特許。

2. 具体的な関連特許・公開公報(日本)

知財のご関心に合わせて、現在公開されている具体的な公報番号を挙げます。これらは製法、投与用法、バイオマーカーなどの周辺特許を含みますが、各社の戦略が読み取れます。

A. レカネマブ (Lecanemab) 関連

エーザイはスウェーデンのBioArctic社からライセンスを受けており、基本特許はBioArctic由来のものが多いです。現在は投与方法やバイオマーカーでの権利化が進められています。

  • 特表2024-525559:「アルツハイマー病治療用バイオマーカー」(血漿Aβ42/40比などの測定に関する発明)

  • 商標登録第6586420号:「レケンビ」(商標権もしっかり確保されています)

B. ドナネマブ (Donanemab) 関連

イーライリリーは、特定の変性したAβ(N3pG)を狙う抗体技術で権利化を図っています。

  • 特表2024-503025:「抗N3pGluアミロイドベータ抗体及びその使用」(具体的な投与レジメン、ARIAなどの副作用管理に関する記載が含まれる)

  • 特表2024-522627:「二重特異性結合分子」(次世代型として、血液脳関門を通過しやすくする技術などの可能性)

3. 日本の特許法的な注目点(弁理士試験的視点)

この分野は特許法上も非常に面白い論点を含んでいます。

  • 特許権の存続期間の延長登録(特許法67条4項)

    これらの医薬品は開発・治験に長期間を要するため、本来の特許期間(20年)に加え、最大5年の延長登録出願がなされるケースがほとんどです。「処分を受けるために必要な期間」の認定が実務上の肝になります。

  • 進歩性の判断(選択発明)

    「Aβを標的とする」という公知のアイデアに対し、「特定の凝集段階(プロトフィブリルなど)を狙うことで、副作用(ARIA)を抑えつつ効果を出した」という点で、**予期せぬ効果(顕著な効果)**を主張して特許性を確保している点が興味深いです。

現在の臨床データや知財戦略について、より視覚的に分かりやすく解説されている動画がありましたのでご紹介します。

アルツハイマー病の新しい治療薬(前編)レカネマブについて – 国立長寿医療研究センター

この動画は、レカネマブが具体的にAβの「どの形態」に結合して除去するのか(=特許の技術的範囲の核心部分)を、専門家が図解で解説しており、権利範囲の技術的意義を理解するのに役立ちます。

特許請求の範囲(クレーム)のドラフティングにおいて、「何を構成要件として差別化しているか」を意識しながら見ると面白いかもしれません。

(Gemini)

マルクーシュ(マーカッシュ)・クレームとは?

質問:マルクーシュ・クレームって何?マーカッシュって言葉が特許の教科書に出てきたけど、それと同じ?いつから認められた書き方?世界共通?

Gemini:結論から言うと、「マルクーシュ」と「マーカッシュ」は全く同じものです。英語のスペルは “Markush” なので、日本語の教科書や先生によって「マルクーシュ」と読んだり「マーカッシュ」と読んだりするだけで、指している内容は一緒です。ご質問の4つのポイント(定義、同一性、歴史、世界共通か)について、わかりやすく解説します。

1. マルクーシュ・クレームとは?

「性質が似ている仲間」をひとまとめにして、「A、B、またはCから選ばれる物質」という書き方をしたクレームのことです。

通常、特許のルールでは「不明確」になるのを防ぐため、「AまたはB」というような書き方(択一形式)は嫌がられます。しかし、化学分野ではこれを使わないと特許が書けない事情があるため、特別に認められています。

  • 書き方の型(定型文):

    「~からなる群より選ばれる(selected from the group consisting of…)」というフレーズが使われます。

2. 歴史:いつから認められた?

1925年のアメリカから始まりました。もう100年の歴史があります。

  • 事件名: Ex parte Markush(マルクーシュ審決)

  • 人物: ユージン・A・マルクーシュ(Eugene A. Markush)という発明家。

  • 経緯:

    彼は新しい染料を発明しましたが、その材料として「アニリン」の仲間と「ハロゲン」の仲間など、化学的には別々のグループに属する物質が、どちらも同じように使えることを発見しました。しかし、この両方を一度に言い表す「既存の単語(上位概念)」がこの世になかったのです。「言葉がないなら、並べて書くしかないじゃないか!」と主張し、特許庁(長官)がこれを認めたのが始まりです。

3. なぜ必要なの?(機械分野との違い)

機械なら「釘、ネジ、ボルト」をまとめて**「留め具(fastener)」**という便利な言葉(上位概念)があります。しかし化学物質の場合、「ベンゼン環がついているヤツ」と「ピリジン環がついているヤツ」をまとめて呼ぶ言葉がないことが頻繁にあります。「言葉がないから特許が取れない」では困るので、「AとBとCのどれか!」とリストアップする書き方が定着しました。

4. 世界共通?

はい、世界共通です。日本(JPO)、アメリカ(USPTO)、ヨーロッパ(EPO)を含む主要国で、化学・医薬分野の標準的な書き方として認められています。日本の特許庁の審査基準にも、明確に認められる要件が記載されています。ただし、**「リストアップしたAとBとCが、本当に似たような性質(類似の機能・効果)を持っていること」**が条件です。「鉄と、綿と、水」のように全然違うものをマルクーシュ形式でまとめることは(単一性違反などで)認められません。

まとめ

  • マルクーシュ = マーカッシュ(英語読みの違いなだけ)

  • 1925年、米国発祥

  • **「適当な総称がないから、並べて書く」**という化学特有の裏技的ルール。

  • 現在は世界中の特許実務でスタンダードになっている。

教科書に出てくるのは、まさにこの歴史的経緯と、「化学分野特有のクレーム解釈」を学ぶためです。

 

オレキシン受容体拮抗薬の特許に関して

質問:オレキシン受容体拮抗薬はなぜ何社も出してるの?特許はどうなってるの?お互いが特許を侵害しあわないように、異なる化合物(構造)で物質特許を取っているということ?

Gemini:ご推察の通りです。**「異なる化合物(構造)で物質特許を取っている」**というのが正解です。非常に鋭いご質問ですので、製薬業界の特許戦略(物質特許)の仕組みと、なぜこれほど各社が競って開発するのか、その背景を解説します。

1. 物質特許:仕組みは「違う鍵で同じドアを開ける」

製薬会社の特許の基本は、「この化学構造式の物質はウチのもの」という物質特許です。

  • 作用機序(ドアの鍵穴)は同じ:

    脳内の「オレキシン受容体」という鍵穴を塞ぐ、というメカニズム自体は共有されています(ここは特許で独占しきれません)。

  • 化合物(鍵の形)は違う:

    各社は、その鍵穴にぴったりハマるけれど、化学構造(分子の骨格)が全く違う物質を人工的に設計して特許を取ります。

例えば、以下のように各薬は「骨格」となる化学構造が異なります。

薬剤名 (商品名) 開発企業 化学構造の特徴(骨格の違い)
スボレキサント (ベルソムラ) MSD ジアゼパン環 という7角形の構造が特徴
レンボレキサント (デービゴ) エーザイ シクロプロパン環 などを持つ構造
ボルノレキサント (ボルズィ) 大正製薬 オキサアジナン環 という独自構造を採用

このように、**「鍵穴(受容体)にはまる部分は似ているが、持ち手(分子全体の骨格)の形は全然違う」**ため、お互いの特許を侵害せずに共存できています。

2. なぜ何社も出すの?(開発競争の理由)

単に「特許が取れるから」だけでなく、**「より良い性能(ベスト・イン・クラス)」**を狙える余地が大きかったからです。

オレキシン受容体拮抗薬は、従来の睡眠薬(ベンゾジアゼピン系)に比べて安全性が高い「夢の薬」として期待されていましたが、最初の薬(ベルソムラ)にはまだ改良の余地がありました。

  • 第1走者(ベルソムラ): 画期的だったが、人によっては「翌朝眠い」などの課題があった。

  • 第2走者(デービゴ): ベルソムラより結合を強くして、効き目をシャープにした(大ヒット)。しかし、やはり半減期は長め。

  • 第3・4走者(ボルズィなど): 今度は「翌朝に絶対残さない」ために、あえて超・短時間で抜ける構造を開発した。

このように、「効く時間の長さ(半減期)」や「副作用の少なさ」で差別化できるため、後発メーカーにも勝機があり、開発競争が過熱しています。

3. まとめ

ユーザーとしてのメリットは、各社が特許侵害を回避しながら異なる構造の薬を作ってくれたおかげで、「長く効くタイプ(デービゴ)」と「朝スパッと抜けるタイプ(ボルズィ)」の選択肢が生まれたことです。

構造が違えば、肝臓での分解のされ方や、他の薬との飲み合わせの相性も微妙に変わってくるため、患者さんにとっては「自分に合う鍵」を選べる状況になっていると言えます。

質問:「構造が異なる」と主張するためには、どれくらい構造がことなってないといけないの?六員環か五員環程度だとだめ?でも環がたくさんつながっているものが環の一部が切れているだけで実は結構似ているとかいう物資も多いよね?すると環か直鎖かという観点も必ずしも正しくないかもしれないし。

Gemini:質問者さんの感覚は非常に鋭く、まさに**特許法の核心(権利範囲の解釈)**を突いています。結論から言うと、「見た目がこれくらい違えばOK」という明確な定規(幾何学的な基準)はありません。「5員環を6員環に変えた程度」や「環の一部を切って鎖にした程度」では、特許侵害になる(あるいは自社の特許として認められない)可能性が極めて高いです。なぜ「ちょっと変えただけ」では逃げられないのか、その理由をプロ(弁理士試験レベル)の視点も含めて解説します。

1. 「マルクーシュ・クレーム」という網(あみ)

製薬会社が特許を出願するとき、「この1つの化合物だけ」を権利化することはまずありません。**「マルクーシュ形式」**と呼ばれる、非常に広範な書き方をします。

例:

「骨格Xに、置換基Rがついている化合物。

ただし、Rは5員環でも6員環でもよいし、直鎖アルキル基でもよい」

このように、特許請求の範囲(クレーム)には、最初から**「似たようなバリエーション全部」**が言葉で定義されています。したがって、後発メーカーが「5員環を6員環に変えました!」と言っても、先行メーカーの特許に「Rは5~6員環」と書いてあれば、それは「構造が異なる」とはみなされず、**文言侵害(Do not pass Go)**となります。

2. 「バイオアイソスター(生物学的等価体)」の壁

仮に、先行特許のクレームの網から漏れていたとしても、化学の世界には**「バイオアイソスター」**という概念があります。

  • 考え方: 化学の専門家(当業者)なら、「ここのベンゼン環(6員環)をチオフェン環(5員環)に変えても、薬の効き目はだいたい同じだろう」と容易に予測できる。

  • 結果: その程度の変更は**「進歩性がない(容易想到)」として新しい特許が取れないか、あるいは先行特許の「均等論(きんとうろん)」**の範囲内として侵害を問われるリスクがあります。

つまり、化学的に「常識的な置き換え」である範囲では、構造を変えたことになりません。

3. だから「スカフォールド・ホッピング」をする

ここで、最初のオレキシン拮抗薬の話に戻ります。各社がなぜ「骨格(スカフォールド)」レベルで全然違う形にしているかというと、上記のような「ちょっとした変更」では先行メーカーの特許網を抜けられないからです。これを創薬化学では**「スカフォールド・ホッピング(骨格の跳躍)」**と呼びます。

  • NGな変更(侵害リスク大):

    • 家の「窓の形」を四角から丸に変える。(家そのものの構造は同じ=侵害)

  • OKな変更(スカフォールド・ホッピング):

    • 「木造住宅」の特許を避けるために、「鉄筋コンクリートのドームハウス」を作る。

    • これなら、構造(骨格)が根本的に違うので、特許侵害を回避できます。

大正製薬のボルノレキサントが、既存の薬と全く違う骨格(オキサアジナン環など)を持っているのは、先行社の広大なマルクーシュ・クレームの網に一切引っかからない場所まで「大ジャンプ」した結果なのです。

4. 例外:わずかな違いが許されるケース(選択発明)

ただし、質問者さんがおっしゃる「実は結構似ている」のに特許になるケースもゼロではありません。これを**「選択発明」**と呼ぶことがあります。

  • 条件: メチル基をエチル基に変えただけの「わずかな差」であっても、

    • 毒性が100分の1になった

    • 脳への移行性が劇的に良くなった

    • **「当業者が予測できないほどの顕著な効果」**が出た場合

この場合に限り、「構造は似ているが、別個の発明」として特許が成立することがあります。しかし、これは「侵害を回避する」ための安全策としては博打に近いため、やはり大手製薬会社は**「全く違う骨格」**を目指すのが王道です。

まとめ

  • 「環のサイズ違い」や「環と鎖の違い」程度では、通常は先行特許の網(マルクーシュ・クレーム)に含まれてしまいます。

  • だからこそ、各社は**「誰が見ても違う骨格」**を必死に探して、特許侵害リスクをゼロにしようとします。

質問:「全く違う骨格」でも、作用する部位が実は同じ構造ってこともあるよね?

Gemini:その通りです!まさにその「構造は違うけれど、作用する部位(の配置)は同じ」という概念こそが、創薬化学の真髄であり、**「ファーマコフォア(Pharmacophore)」**と呼ばれるものです。質問者さんの鋭い指摘は、「化学構造式(2次元の図)」と「空間的な配置(3次元の形)」の違いを正確に捉えています。

1. ファーマコフォア:鍵の「ギザギザ」だけは同じ

特許回避のために「骨格(持ち手)」は変えますが、受容体(鍵穴)にカチッとはまるための**「重要な相互作用点(鍵のギザギザ)」の空間的な位置関係**は、各社とも維持しなければなりません。

  • 骨格(スカフォールド):

    これはあくまで、重要なパーツを正しい位置に固定するための「土台」や「フレーム」です。ここがベンゼン環だろうが、ピリジン環だろうが、フレームとしての役割を果たせば何でも構いません。

  • ファーマコフォア(作用点):

    受容体と結合するために必要な、「水素結合をする点」や「疎水性の点」などの配置です。

イメージ:

「3点の星形に配置されたLEDライト」を作るとします。

  • A社は「木の板」にLEDを埋め込んだ。

  • B社は「金属のフレーム」にLEDを取り付けた。

  • C社は「プラスチックの箱」にLEDをつけた。

見た目(化学構造・骨格)は全く違いますが、暗闇で光らせれば(受容体から見れば)、**「同じ位置に3つの光がある(ファーマコフォアは同じ)」**ことになります。これで特許を回避しつつ、同じ効果を出せるのです。

2. 知財的な視点:なぜファーマコフォアで特許を取らない?

ここで弁理士試験的な疑問が湧くと思います。「だったら、その『3点の配置(ファーマコフォア)』そのものを特許にしちゃえば、後発を全部ブロックできるのでは?」理論上は可能ですが、実務上は非常に困難です。

  • 明確性要件・実施可能要件の壁:

    「この空間配置を持つ化合物すべて」というクレーム(リーチスルー・クレームに近い概念)を作ろうとしても、その定義に含まれる化合物は無限に存在します。特許庁は**「広すぎるし、具体的に何を作ればいいか不明確(明細書に書ききれていない)」**として、そのような包括的な権利を容易には認めません。

  • 物質特許の強さ:

    結局、特許として一番強くて確実なのは、「具体的な化学構造式」で書かれたものです。そのため、各社はファーマコフォア自体を独占するのではなく、それを含む「新しい骨格」を開発して、その構造式で特許を取る道を選びます。

3. オレキシン受容体拮抗薬の例

実際、ベルソムラ(MSD社)とデービゴ(エーザイ社)は、骨格は違いますが、オレキシン受容体のポケットの中に入ったときの**「U字型のような折れ曲がり方」**や、特定のあご(ポケットの底)に引っ掛ける部分は共通していると言われています。

しかし、その「U字型」を維持するための関節部分(骨格)の化学構造が、

  • MSD社は「ジアゼパン環」

  • エーザイ社は「プロリン誘導体に近い構造」

  • 大正製薬は「オキサアジナン環」

    というように、化学的には「非類似」と判断される別物になっているため、特許侵害にはなりません。

まとめ

質問者さんの**「作用する部位が実は同じ構造(配置)なのでは?」という読みは、創薬化学的には大正解です。しかし、特許法的には「化学構造式(骨格)が違えば、空間配置(機能)が似ていても別の物質として扱われる」**というルールがあるため、この抜け道を使った開発競争が可能になっています。このあたりは「プロダクト・バイ・プロセス」や「機能的クレーム」の論点とも関わってきますが、医薬品化学分野ではやはり「構造式が王様」という現状があります。

 

質問:「骨格Xに、置換基Rがついている化合物。ただし、Rは5員環でも6員環でもよいし、直鎖アルキル基でもよい」 ~でも~でもよいの、~は全部実験的に裏付けてるの?当てずっぽに書いてるの?

Gemini:結論から言うと、「全部は実験していない(物理的に不可能)。でも、完全な当てずっぽう(根拠なし)だと特許は取れない」 というのが実情です。サポート要件(特許法36条6項1号)」「実施可能要件(同36条4項1号)」**のまさに核心部分ですね。会社がどのように「実験していない部分」まで権利化しているのか、その**「広げ方の作法」「リスク」**について解説します。

1. 全部実験するのは不可能(数百万通りになる)

マルクーシュ形式(RはAでもBでもCでも…)で定義された化合物の組み合わせは、計算すると容易に数百万〜数億通りになります。これを全て合成して実験することは、時間的にもコスト的にも不可能です。

2. では、どうやって書いているのか?(点と面の論理)

特許庁も「全部実験しろ」とは言いません。その代わり、**「代表的な選手(実施例)」をいくつか実験し、そこから「合理的に予測できる範囲」**まで広げることを許しています。

  • 実施例(Working Examples): 実際に合成し、薬理データ(活性値)が出たもの。これが「杭(くい)」になります。

  • クレーム(請求の範囲): 杭と杭を結んで囲った「土地」です。

【作法】

「メチル基(C1)で効いた。ブチル基(C4)でも効いた。だから、その間のエチル(C2)やプロピル(C3)も効くに決まっている」という理屈(構造活性相関)で、実験していない部分も「〜でもよい」と書きます。

3. 「当てずっぽう」すぎるとどうなる?(拒絶理由)

もし、実験データ(杭)が少ないのに、風呂敷を広げすぎて「Rは炭素数1〜100までOK」と書いたとします。すると、審査官から**「サポート要件違反」あるいは「実施可能要件違反」**の通知(拒絶理由通知)が来ます。

審査官の言い分:

「炭素数1と4の実験データしかないですよね? 炭素数100のような巨大な鎖がついた場合も本当に効くんですか? **化学物質の性質は予測困難(Unpredictable)**なのだから、実験データなしにそこまで広げるのは認められません」

化学・バイオ分野は、機械分野と違って**「少し構造が変わると、効果が劇的に変わる(あるいは消える)」**ことが多いため、審査官は「当てずっぽう(過度な一般化)」に対して非常に厳しいです。

4. 実際の出願戦略(データ武装)

そのため、製薬会社は特許を出す前に、以下のような戦略で実験を行います。

  1. 境界線を攻める:

    クレームに入れたい範囲の「端っこ(最小の置換基と最大の置換基)」や「性質の違うもの(親水性と疎水性)」をあえて合成してデータを取ります。

  2. バラツキを持たせる:

    「5員環の例」「6員環の例」「直鎖の例」をまんべんなく実験します。

  3. 予備的なデータ:

    明細書には載せきれないけれど、社内データとして「これも効く、あれも効く」という感触を得てから、「〜でもよい」と書きます。

5. まとめ

  • 全部実験してる?

    → していません。数百〜数千の代表例(実施例)だけです。

  • 当てずっぽう?

    → プロの化学者が「これなら効くだろう」と予測した範囲ですが、実験データの裏付けがない範囲まで広げすぎると、特許庁に拒絶されます(あるいは、後でライバル会社に「その範囲は無効だ」と攻撃されます)。

弁理士試験的なポイント:

もし試験で**「明細書に薬理データが全く記載されていないが、発明の効果は予測可能であると主張できるか?」という論点が出たら、化学分野(特に医薬)では「原則として不可(実験データ必須)」**と考えるのがセオリーです。ここは機械分野との大きな違いですね。

英語論文執筆に使える英語フレーズ集

治療薬の週1回投与の効果が治療方法として確立していることを述べる英語表現

Once-weekly 薬剤名 has demonstrated efficacy and safety as a treatment for 疾患名.

Once-weekly 薬剤名 has been shown to be a safe and effective treatm for 疾患名.

Once-weekly 薬剤名 is an established safe and effective treatment for 疾患名. 一般的に確立している場合

Once-weekly 薬剤名 has proven to be a safe and effective treatment for 疾患名. proveは「証明」というかなり強い言葉なので、むやみに使わないほうがよい。

聴診器で聴く心音では何が聞こえているのか 弁膜症の発見

大学病院のように高度に専門化された場所では、患者さんは聴診器を当ててもらう機会がほとんどないようです。自分の身内も、大学病院に何年も通っていましたがかかった診療科での診断しかしてもらえず、近所のかかりつけ医に聴診器を当ててもらって、弁膜症がわかってすぐに手術の手配をしてもらったことがあります。

 

日本語だと心音は、「ドックン、ドックン、ドックン、ドックン、‥」と表現されますが、英語だと”lub dub, lub dub, lub dub, …” というようです。それぞれが、S1とS2に対応。

初心者向けの心音 🔥 🔥 🔥 S1、S2、S3、S4 The Learn Medicine Show チャンネル登録者数 54.5万人

How to Master the Cardiovascular Exam 🩺 | Physical Examination Lecturio Medical チャンネル登録者数 82.7万人

下の動画の44秒目くらいを見ると、lub-dub, lub-dubという音のときに心臓の弁がどうなっているかがわかります。lubのbも、dubのbも心臓の弁が閉じる音です。lubの”lu”の間に血液が右心室および左心室に流入しています。そして右心房と右心室の間にある三尖弁と、左心房と左心室の間の僧帽弁が, lub の b の音で閉じます。lub(S1)-dub(S2) S2とS1の間が、”lu”の伸びで、このときに心臓は弛緩して心室に血液が流入しています。dub の “du”の伸びの間に心室の筋肉が収縮して血液を外におくりだしています。送り出し終えた瞬間に dub の “b”すなわち肺動脈弁と大動脈弁は閉じます。 “b”はその閉じたときの音です。luのほうが、duよりも長いです。らーぶだぶ、らーぶだぶ といった感じ。

Heart Sounds and Heart Murmurs, Animation. Alila Medical Media チャンネル登録者数 153万人

Geminiに自分の理解を確かめておきます。

その捉え方は非常にユニークかつ、心臓の動き(心周期)の物理的なメカニズムを見事に言い当てています。「音(母音)」を「血液の流れ」、「b」を「弁が閉まる衝撃」として捉えることで、複雑な心臓の動きが驚くほどクリアにイメージできますね。

前の拍動(Dub)が終わってから、次の「b」が来るまでの長い間です。

  • 心臓の状態: 心室がリラックスして広がっています。

  • 血液の動き: 「Lu(るー)」という母音が伸びている間、血液が心房から心室へ「流入」しています。

  • 時間の長さ: 心臓が血液を溜め込む時間なので、一番長い時間を要します(「Du」より長い)。

2. “…b”(S1 / Ⅰ音):収縮の開始

「Lu」で溜め込んだ血液が逆流しないように、入口のドアをバタンと閉める瞬間です。

  • 閉じる弁: 僧帽弁(左)と三尖弁(右)。

  • 医学的意義: 心室に血液が満タンになり、さあこれから全身・肺へ送り出すぞ、という収縮の合図です。


3. “Du…”(だー):収縮期(Systole)

S1(Lub)からS2(Dub)までの間です。

  • 心臓の状態: 心室の筋肉がギュッと収縮しています。

  • 血液の動き: 「Du(だー)」の間、圧力によって血液が心室から大動脈・肺動脈へと「駆出(送り出し)」されています。

  • 時間の長さ: 筋肉が収縮して一気に送り出すため、溜める時間(Lu)よりは短いです。

4. “…b”(S2 / Ⅱ音):収縮の終了

送り出し終わった後、血管(動脈)の方から血液が心臓に戻ってこないように、出口のドアをバタンと閉める瞬間です。

  • 閉じる弁: 大動脈弁(左)と肺動脈弁(右)。

  • 医学的意義: 送り出し完了。これによって心臓はまたリラックス(次のLu)に入ります。


まとめ:この覚え方の素晴らしい点

医学の教科書では単に「Ⅰ音、Ⅱ音」と記述されますが、あなたの**「bで閉じる」「母音の間は流れている」**という理解は、弁の役割(逆流防止)とポンプ機能(充填と駆出)の関係を本質的に捉えています。

音のイメージ 医学的フェーズ 弁の動き 血液の流れ
Lu… (らー) 拡張期 (Filling) 弁が開いている 心室へ流入 (Filling)
…b (ぶ) Ⅰ音 (S1) 僧帽弁・三尖弁が閉じる 入口を閉鎖 (逆流防止)
Du… (だー) 収縮期 (Ejection) 弁が開いている 動脈へ駆出 (Pumping)
…b (ぶ) Ⅱ音 (S2) 大動脈弁・肺動脈弁が閉じる 出口を閉鎖 (逆流防止)

この「b」の切れ味が悪かったり、本来音がしないはずの「Lu…」や「Du…」の間に「ザザザ」という音が混じったりするのが、いわゆる**「心雑音(弁膜症など)」**の状態です。

この「bでしっかり閉まる」というイメージがあれば、弁膜症の仕組みも非常に理解しやすくなるはずです。

(Gemini)

日本循環器学会5分でわかる循環器BestTeacherSeries 弁膜症って何?~弁の構造・役割、弁膜症の種類~ 東邦大学医療センター大森病院 循環器内科 佐地 真育 一般社団法人 日本循環器学会(The Japanese Circulation Society) チャンネル登録者数 1.01万人

特102(損害の額の推定等)

特許法102条(損害額の推定等)は、弁理士試験において「最も点数に直結し、かつ最も差がつく」条文の一つです。なぜなら、「法律のロジック(論文)」「数字の計算(事例問題)」の両方が問われるからです。特に令和元年改正で計算ロジックが少し複雑(しかし権利者に有利)になったため、ここが出題される可能性は非常に高いです。攻略法を整理しました。

1. なぜ102条があるの?(民法709条の救済)

まず大前提です。民法709条(不法行為)では、「原告(特許権者)が、実際に被った損害額を立証しろ」と言われます。しかし、「もしお前がパクらなかったら、俺はあと1万個売れていたはずだ!」なんて、タラレバの話を立証するのは不可能です。そこで、特許法102条が「計算式を用意したから、これに数字を当てはめて損害額とみなしていいよ」と助け舟を出します。以下の3つの計算ルート(メニュー)があります。

条文 呼び名 計算式のイメージ 特徴
1項 逸失利益 (泥棒が売った数) × (俺の1個あたり利益) 金額が一番デカくなりやすい(メインウェポン)
2項 利益推定 泥棒が儲けた利益 = 俺の損害 立証は楽だが、泥棒が経費を引きたがるので額が減る
3項 相当実施料 売上 × ライセンス料率(%) どんなに負けてもこれだけは貰える(最低保証)

2. 試験に出る「計算問題」の具体的ロジック

試験(特に論文や口述)で問われるのは、圧倒的に「第1項(逸失利益)」の計算です。しかも、単なる掛け算ではなく、「引き算(控除)」と「足し算(重畳適用)」をさせられます。以下の仮想事例でシミュレーションしましょう。

【事例問題】

  • 特許権者(俺): 1個売ると1万円儲かる(限界利益)。俺の工場の生産能力は残り800個分ある。

  • 侵害者(泥棒): パクリ商品を1,000個売った。売値は5万円。

  • 事情: 泥棒の製品は俺のよりカッコいいブランドロゴが入っていて、そのおかげで少し売れている(寄与度)。

  • ライセンス料率: 業界相場は5%

この場合、俺はいくら請求できるか?

Step 1: 基本の掛け算(102条1項本文)

「泥棒が売った数 × 俺の利益」

1,000個 × 1万円 = 1,000万円

(まずはここからスタート)

Step 2: 「能力相応」の引き算(102条1項1号ただし書)

「お前、1,000個も作れなかっただろ?」というツッコミが入ります。

俺の能力(実施相応数量)は800個です。

オーバーした200個分は請求できません。

したがって、800個 × 1万円 = 800万円 に減額されます。

Step 3: 「特定事情」の引き算(102条1項2号)

「泥棒が売れたのは、特許のおかげだけじゃなくて、泥棒のブランド力や営業努力のおかげもあるよね?」というツッコミです。

例えば、特許の寄与率が90%(10%は泥棒の努力)だと認定された場合。

800万円 から 10%(80万円)を引きます。

残り 720万円。

Step 4: 【最重要】「あふれた分」の足し算(102条1項3号=令和元年改正)

ここが合否を分けるポイントです!Step 2で切り捨てられた「能力オーバーの200個」は、昔は泣き寝入りでした。しかし、今の法律では**「自分で作れなかった200個分については、せめてライセンス料(3項相当額)をよこせ」**と言えます。

あふれた200個 × 泥棒の売値5万円 × 料率5% = 50万円

Step 5: 合計(ファイナルアンサー)

Step 3の額(720万円) + Step 4の額(50万円) = 770万円

3. 論文答案での「書き方」攻略(102条1項)

論文試験では、上記の計算プロセスを文章で説明しなければなりません。以下のテンプレートを暗記してください。

① 条文の適用主張

「甲(特許権者)は乙(侵害者)に対し、特許法102条1項に基づき損害賠償を請求する。」

② 構成要件のあてはめ(計算式の提示)

「乙の譲渡数量は1,000個である。また、甲の単位数量当たりの利益額は1万円である。したがって、基本となる損害額は1,000万円となるのが原則である(1項本文)。」

③ 被告の反論(能力不足・特定事情)の検討

「しかし、甲の生産能力は800個に留まる。そのため、これを超える200個については、甲は販売することができなかったと解され、賠償額から控除される(1項1号ただし書)。」

「また、乙のブランド力による顧客誘引(特定事情)がある場合、その分も相当額として控除される(1項2号)。」

④ 救済規定の適用(ここが加点ポイント!)

「もっとも、上記控除された200個分については、甲は乙に対しライセンス許諾をすることができたはずである。したがって、この数量については『特許権の実施に対し受けるべき金銭の額(ライセンス料相当額)』を上乗せして請求することができる(1項3号特定数量)。」

4. 勉強のポイント:2項と3項の注意点

1項(上記の計算)がメインですが、2項・3項にも特有の論点があります。

102条2項(利益の推定)

  • 論点: 「利益」とは何か?

    • 答え: 売上から経費を引いたものですが、**「限界利益(売上 – 変動費)」**まで含めて請求できるというのが判例の傾向です(固定費は引かせない)。

    • 理由: 侵害者がいなくても家賃や人件費(固定費)はかかったはずだから、それを差し引くのはおかしい。

  • 覆滅(ふくめつ): 侵害者側は「いや、俺の営業努力で売れたんだ(寄与率)」と主張して、推定を破ることができます(これを覆滅といいます)。

102条3項(相当実施料)

  • 論点: 料率はどう決める?

    • 昔: 業界団体の統計データの平均値(例: 3%)。

    • 今(4項の新設): 「もし侵害が発覚して、裁判になる前に話し合っていたら決まったであろう金額」を考慮できる。つまり、通常より高い料率が認められやすくなっています(懲罰的要素の加味)。

まとめ:102条攻略ロードマップ

  1. 計算式を覚える: 1項の「(売上数 × 単位利益) – (能力オーバー・特定事情) + (オーバー分のライセンス料)」という**「全部盛りセット」**の式を暗記する。

  2. 言葉を覚える: 「単位数量当たりの利益額」「実施相応数量」「特定事情」という法律用語を正確に書けるようにする。

  3. 民法との関係: あくまで「民法709条の損害額」を立証しやすくするための規定だ、という位置づけを忘れない。

この「計算問題」は、一度理解してしまえばパズルのように解けるので、得点源になります。

「能力オーバー分もライセンス料として回収できる(令和元年改正)」という点だけは、絶対に忘れないでください。ここが一番ホットな出題ポイントです。

(Gemini)

弁理士試験対策で覚えるべき民法

弁理士試験における「民法」は、深入りすると沼にハマりますが、**「特許法を理解するための土台」**として必須の条文がいくつかあります。

弁理士試験で必須の「民法」条文リスト

弁理士試験(特に短答・論文)では、**「民法(一般法)の原則」「特許法(特別法)の修正」**の違いを問う問題が頻出です。

以下の条文だけは、**「特許法の条文の親」**だと思って、番号と内容をリンクさせておいてください。

A. 不法行為・不当利得(侵害系)

侵害訴訟の根拠となる、最も重要なグループです。

民法 内容 特許法との関係(ココが出る!)
709条

不法行為


(故意・過失により他人に損害を与えたら賠償する)

特許侵害の損害賠償の根拠条文


※特許法103条で「過失の推定」があるため、原告は立証が楽になる。

703条/704条

不当利得


(法律上の原因なく利益を得たら返還する)

損害賠償(3年で時効)が間に合わなかった時の「最後の手段」。


特許法には規定がないので、民法を直接使う。

719条 共同不法行為 複数人で侵害した場合の連帯責任。
724条

時効


(損害賠償請求権は、知ってから3年で消滅)

特許侵害の損害賠償も3年で時効にかかる。

B. 共有(共同出願・共同権利)

特許権を複数人で持つ場合、民法の「共有」がベースになりますが、特許法は別ルールが多いです。

民法 内容 特許法との関係(ココが出る!)
264条

共有の性質


(この節の規定に従う)

特許権の共有も基本はここ。
251条

共有物の変更


(他の共有者の同意が必要)

特許法73条(持分の譲渡・ライセンス)で、**「他人の同意が必要」**とするルールの元ネタ。
252条

共有物の管理


(持分の過半数で決める)

【超重要例外】


民法なら「実施(使用)」は自由だが、特許法(73条2項)では**「同意なしで実施できる」**と明記。ここが違う!

C. 代理・行為能力(手続総則系)

未成年者の出願や、代理人(弁理士)の権限に関するルールです。

民法 内容 特許法との関係(ココが出る!)
5条

未成年者の法律行為


(法定代理人の同意が必要)

特許法7条(未成年者等の手続能力)のベース。


※ただし特許法は「同意」だけじゃダメで**「代理」**が必要という厳格化がある。

99条 代理行為の要件 特許法9条(代理権の範囲)等のベース。
106条

復代理


(代理人がさらに代理人を選ぶ)

弁理士がさらに別の弁理士に頼むケース。

D. 物権変動(権利の移転)

「権利がいつ移るか?」という話です。

民法 内容 特許法との関係(ココが出る!)
176条

物権の設定及び移転


(意思表示のみで効力を生ずる)

民法では「売ります」「買います」だけで権利が移る。


【超重要例外】特許法98条


特許権の移転は**「登録」しないと効力が発生しない**。民法と真逆!


まとめと学習アドバイス

  1. **民法709条(不法行為)**は、特許侵害の親玉。絶対暗記。

  2. **民法176条(意思主義特許法98条(登録主義)**の対比は、短答の鉄板。

  3. 民法250条系(共有)と特許法73条の違い(勝手に実施していいか?)も鉄板。

民法をこれ以上詳しくやる必要はありません(コスパが悪すぎます)。「特許法が民法をどう修正しているか(=特許法に特有の事情は何か)」という視点で、上記の条文番号が出てきたときだけチェックすれば十分です。

 

特100 特102 特許権侵害訴訟

「私法=市民同士のケンカ」というイメージがつかめれば、特許権侵害訴訟は**「ケンカの王様」**として理解できます。

特許権侵害訴訟の仕組み(私法のバトル)

これは、権利者(原告)が「私のシマ(特許権)を荒らすな!」とライバル(被告)を訴える、純粋な民事訴訟です。

1. 攻撃側(特許権者)の武器

原告は、主に以下の2つを請求します。

  • ① 差止請求(さしとめせいきゅう) – 特許法100条

    • 「工場を止めろ」「在庫を廃棄しろ」という請求。

    • これが最強の武器です。ライバルのビジネスを物理的に止めさせます。

  • ② 損害賠償請求(そんがいばいしょうせいきゅう) – 民法709条 + 特許法102条

    • 「俺が被った損害を金で払え」という請求。

    • 重要ロジック: 請求の根拠は**「民法709条(不法行為)」**です。しかし、民法709条は「損害額はお前が証明しろ」と厳しいので、特許法102条という助っ人が「損害額はこう計算していいよ(推定規定)」と助けてくれます。

2. 防御側(ライバル)の盾

訴えられた被告は、ただ黙っているわけではありません。以下の反撃に出ます。

  • ① 否認(ひにん)

    • 「いや、私の製品はあなたの特許の技術範囲に入っていません(構成要件が違います)」という反論。

  • ② 特許無効の抗弁(104条の3) – 【超頻出】

    • 「そもそも、あなたの特許は進歩性がないから無効にされるべきものだ。そんなボロ特許で権利行使するのは権利濫用だ!」という反撃。

    • 裁判所が「確かに無効理由があるね」と認めたら、原告の請求は棄却(負け)されます。

  • ③ 先使用権(せんしようけん) – 特許法79条

    • 「あなたが特許出す前から、私はこの技術を使ってましたけど?」という反論。

 

特74 特許権の移転請求

39条5項(出願中の泥棒退治)を理解した直後に、74条(登録後の泥棒退治)を学ぶと、特許法の「冒認対策」の全体像がカチッとハマります。74条は、平成23年改正で導入された比較的新しい制度ですが、実務でも試験でも「救世主」と呼ばれる超重要条文です。

(特許権の移転の特例)
第七十四条 特許が第百二十三条第一項第二号に規定する要件に該当するとき(その特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に規定する要件に該当するときは、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、経済産業省令で定めるところにより、その特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる。
2 前項の規定による請求に基づく特許権の移転の登録があつたときは、その特許権は、初めから当該登録を受けた者に帰属していたものとみなす。当該特許権に係る発明についての第六十五条第一項又は第百八十四条の十第一項の規定による請求権についても、同様とする。
3 共有に係る特許権について第一項の規定による請求に基づきその持分を移転する場合においては、前条第一項の規定は、適用しない。

https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000121#Mp-Ch_3_2

1. なぜ74条が必要だったのか?(悲劇の歴史)

この条文ができる前(平成23年以前)、泥棒(冒認者)に特許を取られてしまった真の権利者には、**「地獄」**しか待っていませんでした。

【昔の悲劇:焼け野原ルート】

  1. 泥棒Yが勝手に特許を取る。

  2. 真の権利者Xは怒る。「その特許は無効だ!」と無効審判(123条)を請求する。

  3. 特許庁:「確かに冒認ですね。無効にします。」→ 特許権消滅

  4. X:「よし、邪魔な特許は消えた。改めてわしが出願して特許を取るぞ!」

  5. 特許庁:「拒絶します。

    • X:「えっ?なんで?」

    • 特許庁:「泥棒Yの特許公報によって、あなたの発明はもう世の中に知れ渡っています(公知)。だから新規性(29条1項3号)がありません。」

  6. X:「……(泣)」

つまり、昔は**「泥棒の権利を潰すことはできても、自分の権利を取り戻すことはできなかった(共倒れ)」**のです。これを救済するために生まれたのが74条です。

2. 特許法74条(特許権の移転請求)の仕組み

74条は、一言で言うと**「その特許、潰さずにそのまま俺によこせ!」**と言える権利です。

要件(いつ使える?)

以下の2つのパターンのどちらかで、特許が設定登録されてしまった場合。

  1. 冒認(ぼうにん): 発明者じゃない人が特許を取った。

  2. 共同出願違反: 共同発明者の一人をハブって特許を取った。

手続き(どこに言う?)

ここが**【超特大の試験ポイント】**です。

  • × 特許庁(審判)ではありません。

  • 裁判所(民事訴訟)です。

「特許権の移転」は財産権の争いなので、司法(裁判所)の管轄になります。真の権利者は、泥棒を被告として**「特許権移転登録手続請求訴訟」**を提起します。

効果(どうなる?)

裁判で勝つと、特許権の名義が泥棒Yから真の権利者Xに書き換わります。

この時、**「最初からXが特許権者であった」**ものとみなされます(遡及効といいます)。

→ これにより、Xは自分の発明を守ることができ、かつ「新規性喪失」の罠にもハマりません。


3. 【短答・論文】74条の試験対策ポイント

試験では、以下の論点が頻出です。

ポイント①:無効審判との関係

真の権利者Xは、泥棒Yの特許に対して、以下の2つの選択肢を持っています。

  1. 74条で「よこせ」と言う(移転請求)

  2. 123条で「潰せ」と言う(無効審判)

どちらを選んでも自由です。

ただ、普通は「特許権が欲しい」ので74条を選びます。しかし、「権利維持費(年金)を払いたくないから、いっそ潰して誰のものでもなくしたい(パブリックドメインにしたい)」という場合は、あえて無効審判を選ぶ戦略もあり得ます。

ポイント②:付随するライセンスの問題(79条の2)

これが少しややこしいですが、重要です。

泥棒Yが特許を持っている間に、善意の第三者Zさんにライセンス(通常実施権)を与えていた場合、どうなるでしょうか?

  1. Xが74条で特許を奪い返す。

  2. X:「Zさん、あんたYと契約してたらしいけど、その権利は俺のものだ。使用をやめろ(差止請求)!」

  3. これだとZさんが可哀想です。

そこで、79条の2という救済規定があります。

  • 結論: Zさんが善意(泥棒だと知らなかった)なら、Xに奪い返された後も、対価を払う条件でライセンスを継続できます(通常実施権が許諾されたものとみなされる)。

ポイント③:時系列のひっかけ(論文)

論文試験では、「Yの特許が登録される前」か「登録された後」かを必ず確認してください。

  • 登録前(出願中):

    • 39条5項(先願の地位なし)を使って、自分の出願を通す。

    • または、特許を受ける権利の移転を求める(これはこれで別の論点ですが、一旦割愛)。

  • 登録後:

    • 74条(移転請求)を使って、特許権ごと奪う。

この使い分けが書けるかどうかが、合格答案の分水嶺です。

4. 体系図で整理(冒認対策の全体像)

泥棒Yのステータス 真の権利者Xが使う武器 根拠条文
出願中 (審査中)

情報提供(こいつ泥棒ですよ!)

 

自分の出願を進める(Yは39条5項で消える)

39条5項

 

施行規則13条の2

登録後 (特許権発生)

特許権の移転請求訴訟(権利よこせ)

 

※裁判所に訴える

74条
登録後 (特許権発生)

無効審判(権利潰せ)

 

※特許庁に請求する

123条

5. 論文での「書き方」テンプレート

74条を使う問題が出たら、このロジックで流します。

Step 1: 状況分析

「Yの特許権は設定登録されている。しかし、Yは発明者ではなく、Xから発明を盗用した者であるため、当該特許は冒認(123条1項6号)に該当する。」

Step 2: 74条の要件検討

「特許法74条1項は、特許が冒認によりされた場合、特許を受ける権利を有する者は、特許権者に対し特許権の移転を請求できる旨規定している。」

Step 3: あてはめ

「Xは真の発明者であり、特許を受ける権利を有する者である。したがって、XはYに対し、特許権の移転を請求することができる。」

Step 4: 効果の補足(加点ポイント)

「なお、移転登録がされた場合、Xは当初から特許権者であったものとみなされる(74条2項)。」


6. まとめ

  • 74条は「焼け野原」を防ぐための「権利奪還」システム。

  • 特許庁ではなく、裁判所(民事訴訟)で行う。

  • 移転すれば「初めから自分のものであった」ことになる(遡及効)。

  • 善意のライセンシー(Zさん)は守られる(79条の2)。

これで、「出願中の39条5項」と「登録後の74条」がつながりましたね。ここまでの理解があれば、冒認に関する問題は怖いものなしです。

次は、この流れで**「職務発明(35条)」あたりに行くと、権利の帰属(誰が特許を持つべきか?)というテーマがより深まりますが、いかがなさいますか?それとも、39条・74条の理解を試す「実践的な短答クイズ」**をやってみますか?

(Gemini)

 

質問:移転請求は裁判所にって、特許法には書いてる?

Gemini:特許法74条の条文の中に「裁判所」という言葉は書いてありません。ここが試験(特に短答)で狙われるポイントであり、かつ「法律の読み方」の核心部分です。

1. 条文には何と書いてあるか?

条文(74条1項)を見てみましょう。

特許法 第74条(特許権の移転の特例)

「……特許を受ける権利を有する者は、……特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる。」

これだけです。「裁判所に訴えろ」とは一言も書いていません。単に「(泥棒に対して)返せと言えるよ」という**権利(請求権)**が発生することを規定しているだけです。

2. なぜ「裁判所」に行くことになるのか?

では、なぜ解説書や私は「裁判所だ」と言ったのでしょうか?

それは、この権利が**「私人同士の財産争い(民事紛争)」**だからです。

  • 特許庁(審判)の役割:

    • 「この特許は有効か無効か?」という行政処分の是非を判断する場所です(無効審判など)。

    • しかし、「この権利はAさんのものか、Bさんのものか?」という所有権争いには介入しません。

  • 裁判所の役割:

    • 「返せと言ったのに返さない」という私人間のトラブルを解決する場所です。

    • 74条で「返せと言える権利(移転請求権)」が法律上認められたので、もし泥棒が素直に応じない場合、**民事訴訟(特許権移転登録手続請求訴訟)**を提起して、国の力(判決)で無理やり名義を変えさせることになります。


3. 【試験対策】ここが問われる!

この「書いてないけど裁判所」という知識は、以下のようなひっかけ問題で問われます。

❌ 間違いのパターン(短答)

「特許が冒認によりされた場合、特許を受ける権利を有する者は、特許庁長官に対し、特許権の移転を請求することができる。」

→ ×(バツ)

解説: 特許庁長官や審判官に請求する手続き(行政手続き)ではありません。

⭕️ 正解のロジック(論文)

論文では、以下のように書くのが正確です。

「特許法74条1項は、特許権者に対し移転を請求できる旨を規定している。これは私法上の請求権を定めたものであり、その手続きは民事訴訟によって行われる。」

まとめ

  • 条文の記載: 「移転を請求することができる」としか書いていない。

  • 実態: 相手が応じなければ**「裁判所(民事訴訟)」**へ行く。特許庁(審判)ではない。

「条文に書いてあること」と「実務上の手続き」を区別できると、理解度が一段階深まりますね。この調子でいきましょう。

次は、この「私人間の争い」に関連して、**「職務発明(35条)」**における「相当の利益(金銭)」の争いも裁判所マターになるのですが、そちらに興味はありますか? それとも別の条文に行きますか?

質問:私法って何?

Gemini:「私法(しほう)」という言葉、普段の生活ではあまり聞きませんが、法律を学ぶ上では**「世界を真っ二つに分ける」**超重要な概念です。一言で言うと、**「私人(市民) vs 私人(市民)」**のケンカのルールのことです。対義語である**「公法(こうほう)」**と比較すると、その正体がはっきり見えてきます。

1. 「私法」と「公法」の決定的違い

法律の世界は、大きくこの2つに分かれます。

種類 私法 (Private Law) 公法 (Public Law)
関係図

市民 ⇔ 市民


(横の関係)

国(役所) ⇔ 市民


(縦の関係)

ルールの性質

自由・平等


「対等な個人同士の約束」

権力・規制


「お上が許認可を与える・取り締まる」

代表的な法律

民法、商法


(特許法の74条や侵害訴訟もここ)

憲法、刑法、行政法


(特許法の審査や審判はここ)

トラブル解決 民事訴訟 (裁判所) 行政不服審査・行政訴訟

2. 特許法は「ハイブリッド」な法律

ここが弁理士試験の面白いところ(かつ難しいところ)です。特許法は、「公法」と「私法」が入り混じっています。

① 公法の側面(お上との関係)

あなたが特許庁に「特許をください」と出願して、審査官が審査する場面。これは**「国(特許庁) vs あなた」**の関係です。

  • 「拒絶査定」などの処分は、国が権力を持って行う行政処分です。

  • これに文句があるときは、行政のルールで戦います。

② 私法の側面(市民同士の関係)

一度特許権が設定登録されると、それは「あなたの財産(土地や建物と同じ)」になります。

  • 侵害訴訟: 「ライバル会社(市民)が、私の特許(財産)を勝手に使った! 金払え!」

  • 74条の移転請求: 「泥棒(市民)が、私の権利(財産)を勝手に名義変更した! 返せ!」

これらは、国は関係なく、「AさんとBさん、どっちが正しいの?」という私人間の争いです。だから「私法上の請求権」であり、解決するのは「民事裁判所」なのです。

3. なぜ74条で「私法」という言葉が出たのか?

先ほどの74条の話に戻りましょう。

  • 昔の考え方(公法重視):

    「特許権は国が与えたものだ。だから、間違い(冒認)があったら、国(特許庁)が無効にして消すべきだ。」

    → これだと、被害者が救われない。

  • 今の考え方(私法重視=74条):

    「いやいや、特許権は財産でしょ。泥棒が他人の財布を盗んだのと同じ。国が財布を焼却処分(無効)にする必要はない。**『その財布、持ち主(真の権利者)に返しなさい』**って、当事者同士で解決させればいいじゃん。」

この**「国がいちいち介入して消すのではなく、当事者同士の所有権争い(私法)として処理しよう」**という発想の転換が、74条(移転請求)の本質なのです。

4. まとめ:試験での見分け方

問題文を読んで、「誰と誰がケンカしているか?」を見てください。

  1. 出願人 vs 特許庁長官

    → **「公法」**の世界。審判や行政訴訟。

  2. 権利者X vs 泥棒Y(または侵害者Z)

    → **「私法」**の世界。74条移転請求や、侵害訴訟(民事訴訟)。

「条文に裁判所とは書いてないけど、これはXとYのケンカ(私法)だから、当然裁判所だよね」と判断できるのが、法律家の思考回路です。この区別がつくと、「侵害訴訟(私法)」と「無効審判(公法的な手続き)」の違いなども、驚くほどスッキリ理解できるようになりますよ。

次は、この「私法」の最たるものである「特許権侵害訴訟(ライバルを訴える!)」の基本的な仕組みについて解説しましょうか?