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特073条 33条との違い

「持分(もちぶん)の譲渡」という言葉、法律用語独特の響きがあって少し難しく感じますよね。
一言でいうと、**「自分が持っている権利の『割合』を、他人に売り渡したり、譲ったりすること」**です。
ただ、特許の世界では**「普通の物の共有」とは大きく異なる非常に重要なルール**があります。詳しく整理してみましょう。
1. そもそも「持分」とは?
特許権を複数人(例えば、AさんとBさん)で持っている状態を「共有」といいます。
この時、AさんとBさんがそれぞれ権利をどれくらい持っているかという所有権の割合のことを「持分」と呼びます。
(例:Aさんが50%、Bさんが50%など)
2. 「持分を譲渡する」の意味
「譲渡(じょうと)」は、権利を他人に移転することです。つまり、Aさんが自分の持っている「50%の権利」を、別のCさんに売ったりあげたりして、メンバーチェンジすることを指します。
* 譲渡前: AさんとBさんで共有
* 譲渡後: CさんとBさんで共有(Aさんは権利者ではなくなる)
3. 【重要】特許法特有のルール(特許法第73条第1項)
ここが一番のポイントです。土地や建物などの一般的な「共有物」と、特許権には決定的な違いがあります。
> 特許法 第七十三条(共有に係る特許権)
> 特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、又はその持分を目的として質権を設定することができない。
>
つまり、「相棒(他の共有者)の許可がないと、勝手に自分の持ち分を他人に売ってはいけない」 というルールになっています。
なぜ勝手に譲渡してはいけないの?
これには明確な理由があります。
* 信頼関係の保護:
   特許権の共有は、共同研究など「この相手だから一緒にやった」という信頼関係に基づいていることが多いです。勝手に全く知らない第三者(例えばライバル企業など)が新しい共有者として入ってくると、もう一人の共有者(Bさん)は困ってしまいます。
* 実施の自由:
   特許権の共有者は、特約がない限り、お互いに自由にその特許発明を実施(ビジネス利用)できます。もし巨大な資本力を持つ会社に勝手に持分が譲渡されたら、Bさんのビジネスが圧迫される恐れがあります。
まとめ
「持分の譲渡」とは、**「自分の権利のシェアを他人に移すこと」ですが、特許においては「他の共有者全員のOKをもらわないとできない」**という厳しい縛りがある、と覚えておいてください。
この「共有」のテーマは知財実務でもトラブルになりやすい大事なポイントです。

33条と73条は、まさに「鏡合わせ」のような関係です。書いてある内容は「相棒(他の共有者)の同意がないと譲渡できない」という点でほぼ同じです。ではなぜ、わざわざ別の場所に書いてあるのか?

その答えは、「特許庁に登録される前か、後か」というタイミング(権利の成長段階)の違いにあります。
図解も交えて整理してみましょう。
1. 権利の「成長」と条文の使い分け
特許の権利は、特許庁による審査をクリアして「登録」されることで、初めて正式な「特許権」として生まれます。それまでは「特許を受ける権利」という、いわば「特許権の卵」の状態です。
法律では、この**「卵」と「生まれた後の権利」**を明確に別のモノとして扱っているため、条文も分かれているのです。
| 段階 | ① 出願中(審査中) | ② 登録後(権利化後) |
|—|—|—|
| 権利の名前 | 特許を受ける権利(卵) | 特許権(ヒヨコ/ニワトリ) |
| 適用される条文 | 第33条 第3項 | 第73条 第1項 |
| ルールの内容 | 共有者の同意がないと譲渡できない | 共有者の同意がないと譲渡できない |
| 理由 | 開発パートナーの信頼を守るため | 開発パートナーの信頼を守るため |
2. なぜ同じことを2回書くの?
法律(特許法)の構成が、「時系列」に沿って章立てされているからです。
* 第1章〜第2章(33条など): 特許ができるまでのルール(出願、権利の帰属など)
* 第3章(審査): どうやって審査するか
* 第4章(73条など): 特許権ができた後のルール(権利の効力、侵害など)
このように章が分かれているため、それぞれのステージで「共有のルール」を明記しておく必要があったのです。これをもし73条だけに書いておくと、「じゃあ、出願中の『卵』の状態なら勝手に売ってもいいの?」という法律の抜け穴ができてしまいます。
3. 【深掘り】一貫した「パートナー保護」の精神
場所は違っても内容が同じなのは、**「特許は一人では作れないことが多いから、パートナーとの信頼関係を徹底して守ろう」**という法の意志が一貫しているからです。
まだ権利になっていない研究段階(33条)でも、権利になってビジネスをする段階(73条)でも、「勝手に知らない人がメンバーに入ってくるのは困る」という事情は変わらないですよね。
まとめ
* 33条3項は、**「まだ特許になっていない権利(卵)」**の話。
* 73条1項は、**「無事に登録された特許権(ニワトリ)」**の話。
* 中身が同じなのは、**「どの段階でもパートナーを裏切ってはいけない」**というルールだからです。
この「33条」と「73条」の違いを知っていると、知財の勉強がかなりスムーズになります。
ちなみに、この「同意がないと譲渡できない」というルールですが、**「もし共有者が亡くなってしまい、相続が発生した時(一般承継)」**はどうなると思いますか? ここには実は、譲渡とは違う例外が存在します。

法律の世界では「〇〇条の規定は、△△について準用する(読み替えて適用する)」という書き方をして、条文を節約するのが定石です。
それなのに、33条(特許を受ける権利)と73条(特許権)で、あえて「準用」を使わずに、それぞれ書き下ろしているのには、法技術的な理由があります。
結論から言うと、**「権利の『移転手続き』が全く違うから、混ぜると危険」**だからです。
詳しく解説します。


1. 「準用」しなかった最大の理由:手続きの違い
「他の共有者の同意が必要」という**条件(縛り)は同じですが、実際に譲渡する時の手続き(効力発生要件)**が、この2つでは全く異なります。
もし「33条は73条を準用する」と書いてしまうと、「じゃあ、手続きも73条と同じ(登録)が必要なの?」という誤解を生む恐れがあります。これを避けるために、あえて分けて書かれています。
| 項目 | 特許を受ける権利(33条) | 特許権(73条) |
|—|—|—|
| 権利の性質 | まだ権利になっていない(卵) | 確立した強力な権利(ニワトリ) |
| 譲渡のルール | 全員の同意が必要 | 全員の同意が必要 |
| 譲渡の手続き
(ここが違う!) | 特許庁長官への届出
(名義変更届など) | 特許原簿への登録
(これをしないと効力が出ない) |
| 根拠条文 | 特許法 第34条 | 特許法 第98条 |
* **特許権(73条側)**は、不動産と同じで「登記(登録)」しないと権利が移ったことになりません(98条)。
* **特許を受ける権利(33条側)**は、まだ特許原簿がないので、特許庁へ「出願人の変更届」を出すことで効力を持ちます(34条)。
この「手続きの根拠条文」が明確に分かれているため、共有のルール(同意が必要)についても、横着して準用せずに、それぞれの場所できっちり規定したほうが**法体系として美しい(混乱がない)**と判断されたのです。
2. 「物権」と「債権」のような違い
少し専門的な話になりますが、法律の性質としても違いがあります。
* 特許権(73条)は「物権的請求権」などが認められる、「物(モノ)」に近い強力な支配権です。
* 特許を受ける権利(33条)は、将来特許をもらうための「地位」であり、どちらかというと「契約上の権利(債権)」に近い性質を持っています。
性質の違う権利を安易に「準用」で結びつけると、将来の法解釈でボロが出る可能性があるため、丁寧に書き分けているという側面もあります。
まとめ
「何々に準ずる(準用)」を使わずに書いた理由は、
「中身(同意が必要)は同じでも、その権利を動かすための『エンジンの種類(手続き)』が違うから、あえて別々に書くことで誤解を防いだ」
と理解していただくと完璧です。
こうして見ると、特許法は「登録されているか、いないか」で明確に世界を分けていることがわかりますね。
ちなみに、この「特許を受ける権利(33条)」の段階でも、**「職務発明(会社で発明した場合)」のときは、また少し特殊な「予約承継」という考え方が出てきます。

特001条-018条 総則 の攻略

特許法1条〜18条(手続総則)は、いわば「試験のOS」のような部分です。ここを単なる暗記ではなく、「なぜそのルールがあるのか?」という視点で整理すると、一気に視界が開けます。


狙われどころギュッと凝縮してまとめました。


1. 手続総則(1条〜18条)の全体像
このゾーンは、特許庁という行政機関に対して「誰が」「いつ」「どうやって」手続をするかの基本ルールを定めています。


四法横断のポイント
結論から言うと、特許法1条〜18条の規定のほとんどは、実案・意匠・商標で準用(そのまま適用)されます。
* 例外: 1条(目的)や2条(定義)は各法で異なりますが、3条以降の手続ルールは基本的に「四法共通」と考えてOKです。
* 注意: 商標法のみ、不変期間の延長(4条)などで独自の規定がある場合がありますが、まずは特許法を軸に固めるのが鉄則です。


2. 短答頻出!重要条文の深掘り整理
① 期間の計算と延長(3条・4条・5条)
短答では「いつまでに出せばセーフか?」が秒単位で問われます。
| 条文 | 役割 | 短答で狙われるポイント |
|—|—|—|
| 3条 | 期間の計算 | 初日不算入の原則。「発送日」か「到達日」か。 |
| 4条 | 期間の延長 | **「職権」**または「請求」で延長可。法定期間と指定期間の違い。 |
| 5条 | 遠隔地等の期間 | 交通不便な場所の人のための追加期間。 |
② 手続の能力(7条〜16条)
「誰が手続できるか」というルール。民法の知識を微妙に修正しているところが狙われます。
* 7条(未成年者等):
   * 原則:法定代理人によらなければならない。
   * 例外(重要): 未成年者・成年被後見人でも、**「独立して法律行為ができる場合」**は単独でOK。
* 8条(在外者の特許管理人):
   * 日本に住所がない人は、原則として「特許管理人」を通さないと手続不可。
* 9条(代理権の範囲):
   * **「特別の授権」**が必要な行為(取下げ、放棄、不服申立ての取下げなど)を暗記!
   * 「これらを行うには特別の委任が必要である。◯か✕か?」という形式で頻出。
* 14条(複数当事者の代表):
   * 原則:各人が全員を代表する(個別代表)。
   * 例外: 取下げや放棄などは、全員で行わなければならない(全員一致)。
③ 手続の補正と却下(17条・18条)
ここが最も「消去法の根拠」になる場所です。
| 条文 | 内容 | 覚え方・ポイント |
|—|—|—|
| 17条1項 | 手続の補正 | 原則として、事件が係属している間は補正できる。 |
| 17条3項 | 補正命令 | 方式違反(お金払ってない、印鑑忘れた等)に対し、長官が「直せ」と言う。 |
| 18条1項 | 手続の却下 | 17条3項の命令を無視した時、長官は手続を**「却下することができる」**(義務ではない)。 |


3. 「覚える」から「使う」への変換:短答攻略の軸
短答試験で迷わないための「思考の補助線」を授けます。
* 「主語」と「語尾」をチェックする
   * 「特許庁長官は……することができる」なのか「しなければならない」なのか。
   * 18条の却下は「できる(任意的却下)」です。「しなければならない」とあったら即バツです。
* 「不利益な行為」は慎重に
   * 9条(特別授権)や14条(全員一致)は、**「それをやったら権利が消えてしまうような行為」**に制限をかけています。
   * 「取下げ」「放棄」という言葉が見えたら、このルールを思い出してください。
* 「方式」と「実体」を分ける
   * 17条は「形式的な不備(方式)」の話です。中身(特許性があるか等)の話ではありません。


次のステップ:実践編
この整理をもとに、一度お手元の過去問(枝別過去問集など)の「手続総則」のページを開いてみてください。
「あ、これは9条の特別授権を聞いてるな」「これは18条の任意的却下の話だ」と、条文の番号が浮き上がって見えてくるはずです。

「特許法17条の2(要旨変更・補正)」は、短答試験だけでなく論文試験でも合否を分ける超重要条文です。
ここがややこしいのは、**「いつ(時期)」「どこまで(範囲)」「何のために(内容)」**という3つの軸が、手続の進行状況によって細かく変化するからです。

混乱の元となる「要旨変更」の考え方と、補正のルールを整理します。


1. 補正の全体像:3つのハードル
17条の2を攻略するには、以下の3つのステップで考えるのがコツです。
① 時期の制限(いつできるか?)
* 原則:**「事件が係属している間」**ならいつでも可能。
* 制限:審査官から「拒絶理由通知」が届いた後は、指定された期間内にしかできません。


② 範囲の制限(どこまで直せるか?)
* 「新規事項の追加禁止」(17条の2第3項):これが現代の「要旨変更」防止の核心です。
* 最初に出した明細書、特許請求の範囲、図面の**「範囲内」**でしか直せません。これを超えると「要旨変更」として拒絶・却下の対象になります。


③ 内容の制限(どう直すか?)
* 「最後の拒絶理由通知」や「拒絶査定不服審判」の段階では、さらにルールが厳しくなります。
* 「限定的減縮」(請求項を絞る)など、特定の目的のみ許可されます。


2. 短答で狙われる!「最後」の補正の特殊ルール
短答試験で最も受験生を苦しめるのが、**「最後の拒絶理由通知」**を受けた後の制限です。ここでは審査のやり直しを防ぐため、以下の「3段構え」の制限がかかります。
| 制限内容 | 根拠条文 | 短答での狙われどころ |
|—|—|—|
| 目的制限 | 17条の2第2項 | 誤記の訂正、明瞭化、限定的減縮等に限る。「広げる」補正はNG。 |
| 新規事項追加禁止 | 17条の2第3項 | 常に適用。願書添付書類の範囲を超えてはいけない。 |
| 独立特許要件 | 126条1項準用 | 補正後の請求項が、単独で特許をとれる状態(進歩性等がある)でなければならない。 |


【ポイント】
「最初」の拒絶理由への対応なら「独立特許要件」は問われません。「最後」の時だけ問われる、という違いがよく出題されます。


3. 四法比較:補正・要旨変更のルールの違い
ここは「横断整理」が最も効く部分です。
| 法域 | 補正の考え方 | 特徴 |
|—|—|—|
| 特許法 | 新規事項追加禁止 | 明細書等の範囲内ならOK。超えると拒絶理由。 |
| 実案法 | 非常に限定的 | 登録が早いため、補正できる時期が極めて短い。 |
| 意匠法 | 要旨変更禁止 | 意匠(見た目)の本質的な部分を変える補正は却下される(特許の新規事項より厳しいニュアンス)。 |
| 商標法 | 要旨変更禁止 | 商標そのものや、指定商品・役務の範囲を広げる補正は要旨変更として却下。 |


【ここが試験に出る!】
* 特許では「要旨変更」という言葉は、主に「新規事項の追加」を指す実務用語として使われますが、**意匠・商標では「要旨変更=補正却下」**という流れが明確に条文(意匠17条の2、商標16条の2)に規定されています。
* 「特許では補正が却下されたらどうなるか?(163条など)」と「意匠で補正が却下されたらどうなるか?」を比較させる問題は定番です。


4. 迷わないための「軸」
17条の2で迷ったら、以下の「審査官の気持ち」になって考えてみてください。
* 「後出しジャンケン」を許さない: 最初に出した書類に書いてないことを後から追加するのはダメ(新規事項追加禁止)。
* 審査の蒸し返しを許さない: 一度結論(最後)を出した後に、全然違う発明に書き換えて「もう一回審査して」と言うのはダメ(目的制限・独立特許要件)。
次のステップ:暗記のコツ
この17条の2を理解したら、次は**「17条の3(要約書の補正)」や「17条の4(優先権主張に伴う補正)」**をセットで見てください。
特に要約書は「いつでも補正できるが、要旨変更の対象にはならない(=特許の有効性に影響しない)」というユニークな性質があります。

(Gemini)

特123 無効理由 特49 拒絶理由との違いを徹底整理

特許法には**「審査段階では拒絶するが、一度登録されてしまったら、それを理由に特許を潰す(無効にする)ことはできない」**という項目が存在します。

「文献公知(新規性欠如)」は、無効理由にもなり得ます。おそらく、混同しやすい**「先行技術文献開示義務違反」や「発明の単一性」**とセットで覚える必要があります。
ここでの混乱を整理し、「拒絶理由」と「無効理由」の違いと網羅的なリストを作成しました。試験対策や実務知識としてご活用ください。


1. 全体像:なぜ違いがあるのか?
まず、この2つの違いを概念で理解しましょう。
* 拒絶理由(第49条):
   * 目的: 不備のある権利を世に出さないための「関所」。
   * 範囲: 特許要件のすべて、および手続上の不備(手数料未納など)も含む。
* 無効理由(第123条):
   * 目的: 間違って登録された権利を事後的に消滅させること。
   * 範囲: **「公益を害するもの」**に限定される。
   * ポイント: 手続的な些細なミスや、第三者の利益を害さない項目(例:発明の単一性違反)は、一度登録されたら「瑕疵(かし)が治癒する」とみなされ、無効理由にはなりません。
2. 拒絶理由と無効理由の完全対比表
以下は、主要な項目が「拒絶理由」か「無効理由」かを網羅したリストです。
特に**「拒絶理由だが無効理由ではない(表中:×)」**の項目が試験や実務の急所です。
| 項目 | 条文 | 拒絶理由 | 無効理由 | 備考(理由など) |
|—|—|—|—|—|
| 産業上の利用可能性 | 29条1項柱書 | ○ | ○ | 特許の根本要件のため |
| 新規性・進歩性 | 29条1項, 2項 | ○ | ○ | 既知の技術に独占権を与えるのは公益に反するため |
| 拡大先願(準公知) | 29条の2 | ○ | ○ |  |
| 先願 | 39条 | ○ | ○ | 重複特許の排除 |
| 公序良俗違反 | 32条 | ○ | ○ |  |
| 記載不備(実施可能要件) | 36条4項1号 | ○ | ○ | 開示不十分な発明に権利を与えるべきでないため |
| 記載不備(サポート要件等) | 36条6項 | ○ | ○ | 権利範囲が不明確だと第三者が困るため |
| 冒認出願・共同出願違反 | 49条7号等 | ○ | ○ | 正当な権利者ではないため |
| 条約違反 |  | ○ | ○ |  |
| 補正の要件違反(新規事項追加) | 17条の2第3項 | ○ | ○ | 出願当初の範囲を超える権利取得は不当なため |
| 外国語書面の翻訳文新規事項 | 17条の2第3項 | ○ | ○ | 原文にない事項での権利化防止 |
| — | — | — | — | — |
| 先行技術文献開示義務違反 | 36条4項2号 | ○ | × | 【重要】 文献を載せ忘れただけで、発明自体に特許性があるなら、後から特許を潰すほど公益を害さないから。 |
| 発明の単一性違反 | 37条 | ○ | × | 【重要】 本来2つの特許に分けるべきものを1つで登録しても、国が手数料を取りっぱぐれるだけで、第三者の邪魔にはならないから。 |
| その他の記載要件違反 | 36条 | ○ | × | 省令要件(委任省令要件)違反など、形式的な不備は登録後は問われない。 |
3. 深掘り解説:ユーザー様の例について
ご質問にあった以下の点について、詳しく解説します。
> 「文献公知の記載は拒絶理由ですが無効理由ではありません」
>
もしこれが**「文献に載っている発明と同じだから(新規性なし)、特許にならない」という意味であれば、それは拒絶理由であり、かつ無効理由でもあります**。
しかし、もし**「出願書類に、知っている文献の名前を書かなかった(先行技術文献開示義務違反)」という意味であれば、それは拒絶理由ですが、無効理由ではありません**。
ここを整理しましょう:
* 文献公知(新規性欠如 – 29条1項3号):
   * 「あなたの発明は、既にこの本に載っています」
   * → 拒絶されます。登録されても無効にされます。
* 先行技術文献開示義務違反(36条4項2号):
   * 「あなたが知っている関連文献の名前を、明細書に書きなさい」というルールを守らなかった。
   * → 審査段階では「書いてください」と拒絶されます。
   * → しかし、もし審査官が見落として登録してしまった場合、後から「文献名を書き忘れたから」という理由だけで特許を無効にすることはできません。
4. まとめ:覚えるべき「差分」
勉強ノートとしてまとめるなら、以下の「無効理由にならないもの(=登録されたらセーフなもの)」を暗記するのが効率的です。
> 【登録後は無効理由にならないもの(瑕疵の治癒)】
>  * 発明の単一性違反(37条)
>    * 本来分割すべき発明をまとめて出願してしまった場合。
>  * 先行技術文献開示義務違反(36条4項2号)
>    * 知っている文献名を記載しなかった場合。
>  * 委任省令要件違反(36条6項4号)
>    * 「請求項の記載は簡潔にすること」などの形式的ルール違反。
>
これら以外(新規性、進歩性、記載要件の主要部分、新規事項追加など)は、**「拒絶理由=無効理由」**と考えて差し支えありません。
知財勉強ノートからの提案
この違いを明確にするために、次のステップとして**「無効審判(123条)」の条文を一度素読し、49条(拒絶理由)と見比べてみる**のはいかがでしょうか?
条文番号の参照が必要であれば、主要な条文を並べて表示することも可能です。また、「異議申立」との比較が必要であればいつでもお声がけください。

(Gemini)

特018条2項 手続きの却下 取り下げ擬制との違い

「手続の却下」と「取り下げたものとみなす(取り下げ擬制)」。どちらも**「手続きが終わってしまう・権利がなくなる」という点では似ていますが、法律上の「理由」と「プロセス」**が全く違います。


試験でも実務でも混同しやすいポイントですので、すっきりと整理しましょう!


1. 結論:一番大きな違い
一言でいうと、以下の違いがあります。
* 却下(Dismissal)
   * 「形式的な不備があるから、役所として受け付けません(門前払い)」
   * 行政庁(特許庁)からの処分です。
* 取り下げとみなす(Deemed Withdrawal)
   * 「あなたが何もしなかったから、自分から諦めた扱いにします(意思の推定)」
   * 法律の規定により、自動的にそう扱われる効果です。


2. 第18条の2「手続の却下」とは?
これは、書類の不備など形式的なルール違反が原因です。
* 不備の発生: 手数料を払っていない、様式が間違っている、など(第17条3項)。
* 補正命令: 特許庁長官から「ここを直してください」と命令が来ます。
* 無視: 指定された期間内に直さなかった(補正しなかった)。
* 却下: 「直さないなら、この手続きはなかったことにします(処分)」。
> ポイント:
> いきなり却下されるわけではなく、**必ず「補正命令(直すチャンス)」**があります。それをスルーした結果、無効になるのが「却下」です。
>


3. 「取り下げたものとみなす」とは?
これは、手続きの不備ではなく、**期限徒過(やるべきことを期限内にしなかった)**が主な原因です。
* 例: 出願審査請求を3年以内にしなかった(第48条の3第4項)。
* プロセス: 補正命令などは来ません。期限が過ぎた瞬間に、法的に**「出願を取り下げた(諦めた)」**として扱われます。
> ポイント:
> 特許庁からの処分(通知)を待たず、法律の力で自動的に権利が消滅します。
>


4. 違いのまとめ(比較表)
| 比較項目 | 手続の却下 (Dismissal) | 取り下げとみなす (Deemed Withdrawal) |
|—|—|—|
| 原因 | 形式的な不備(手数料不足など) | 不作為(期限内にアクションしなかった) |
| 事前の警告 | あり(補正命令が来る) | なし(いきなり効果発生) |
| 性質 | 行政庁による**「処分」** | 法律による**「効果」** |
| イメージ | 「書類がダメだから突き返された」 | 「期限を過ぎたから諦めたと判断された」 |
| 不服申立て | 行政不服審査法による審査請求が可能 | 原則、不服申立てはできない(※救済規定がある場合を除く) |


5. わかりやすい例え(入学願書)
イメージしやすくするために、大学の入学願書で例えてみます。
* 【却下】
   * 願書にハンコが押していない、受験料が足りない状態で提出した。
   * 大学から「○日までに直して再提出してね」と言われたのに無視した。
   * 大学側から**「じゃあ、この願書は受け取り拒否します」**と返された。
   * これが「却下」です。
* 【取り下げとみなす】
   * 願書は完璧に出せた(あるいは願書を出そうとしていた)。
   * でも、二次試験の手続きや入学金納付を期限までにしなかった。
   * 大学側は**「あ、この学生は入学する気がないんだな(辞退したんだな)」**と処理した。
   * これが「取り下げとみなす」です。
どちらも結果として権利を失うことには変わりありませんが、**「書類の不備(却下)」なのか「期限のアクション忘れ(みなし取り下げ)」**なのかで区別すると覚えやすいですよ。
特に「却下」の前には**「補正命令」**というワンクッションがある、というのが試験対策上の重要ポイントです。

(Gemini)

特036条の2 外国語書面出願 あとで翻訳文を提出、出願日はどっち?

外国語書面出願は その後 1年4月以内に日本語の翻訳を出す必要がありますけれども 出願の日というのはどっちになりますか?

出願日は**「外国語書面を提出した日」**になります。後から提出する「日本語の翻訳文」を提出した日ではありません。


1. 出願日の確定(特許法第36条の2)
外国語書面出願において、特許庁に願書と外国語書面(明細書、請求の範囲、図面)が到達した日が「特許出願の日」として認定されます。
* 外国語書面の提出日 = 出願日(確保される日)
* 翻訳文の提出日 = 手続き上の提出期限(この日が出願日になるわけではない)


2. なぜ翻訳文の日ではないのか?
特許制度は「早く発明を公開・申請したもの勝ち(先願主義)」です。
もし翻訳文を出した日が出願日になってしまうと、翻訳を作成している間に他の誰かに出願されてしまうリスクがあり、外国語で緊急避難的に出願できるこの制度の意味がなくなってしまうからです。


3. 時系列のイメージ
イメージしやすいように流れを整理します。
* 【202X年 1月1日】 外国語(英語など)で明細書を提出
   * 👉 この 1月1日 が「出願日」として確定します。
* 【1年4月以内】 日本語への翻訳文を作成・提出
   * あくまで「審査を受けるための書類を整える期間」です。
   * ここで翻訳を出しても、出願日が後ろにズレることはありません。


4. 注意点:翻訳文を出さないとどうなる?
出願日はあくまで「外国語書面を出した日」ですが、もし1年4月以内に翻訳文を提出しなかった場合は、「その特許出願は取り下げられたものとみなされる」(特許法第36条の2第3項)という扱いになります。
つまり、出願日自体は確保できていたものの、手続き不備でその出願自体がなかったことになってしまいます。

(Gemini)

特002条1項 発明の定義 技術的思想の創作 の “の” の意味

発明とは技術的思想の創作 の意味は、技術的思想を形にした、つまり創作したもの(何か具体的に作られたもの)ということでしょうか?それとも、技術的思想を創作することという意味でしょうか?

日本語の助詞「の」は確かに多様な意味を持ちますが、この「の」は**「対象」を表しています。
つまり、「技術的思想【を】創作すること(作り出すこと)」**という意味です。

なぜそうなるのか、そして「形にする」という感覚がどこから来るのか、知財勉強ノートとして整理します。
1. 文法的な解剖:「AのB」
ここでの「技術的思想の創作」は、以下のような関係性です。
* A(技術的思想): 作られる対象物(Object)
* B(創作): 作るという行為(Action)
例えば、「物語の創作」と言えば、「物語というものを新しく作り出すこと」ですよね。それと同じで、「技術的なアイデア(解決手段)というものを、新しく作り出すこと」を指します。


2. 「形にした」ではないの?(具体性の要件)
あなたが「技術的思想を、形にした」と直感されたのも、実は半分正解と言えます。なぜなら、特許法上の「発明」であるためには、単なる「願望」や「思いつき」ではダメで、**「具体性(反復可能性)」**が必要だからです。
* × 単なる願望: 「空を飛べたらいいな」という思いつき。(これはまだ技術的思想ではない)
* 〇 技術的思想の創作: 「翼の形状をこうして、エンジンをこう配置すれば空を飛べる」という具体的な体系(レシピ)を作り上げること。
つまり、物理的なモノ(試作品など)として「形」にする必要はありませんが、**「誰がやっても同じ結果が出るレベル」まで論理や構成を「頭の中で(あるいは図面上で)形にする」**ことは必要です。
3. 「創作」vs「発見」
特許法では、「創作」という言葉を使うことで、「発見」と区別しています。ここが重要です。
| 用語 | 意味 | 例 | 特許 |
|—|—|—|—|
| 発見 | 元々自然界にあったものを見つけること | ニュートンの万有引力の法則、新種の鉱石 | ×(発明ではない) |
| 創作 | 自然界になかったものを人為的に作り出すこと | 万有引力を利用した飛行機の機体構造 | 〇(発明になる) |
> 知財ノートのポイント
> 「発明」とは、自然法則(発見したもの)を利用して、新しい技術的な解決策(アイデア)を**作り出す(創作する)**ことです。
>
4. まとめ:その「の」の正体
あなたの疑問に対する答えを整理します。
* 意味: 「技術的思想【を】新しく作り出すこと」。
* 「形」との関係: 物理的な形(試作品)を作るという意味ではない。しかし、他人が再現できるレベルまで、アイデアを具体化・体系化(概念としての形作り)をするという意味を含んでいる。
このように解釈すると、特許法2条1項の全文がすっきり読めるはずです。
> 「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの」
> ↓
> (意味)
> 自然界のルール(万有引力など)を使って、
> 頭の中で具体的な技術的解決策(レシピ)を【新しく作り出したもの】のうち、
> レベルが高いもの。


(Gemini)

特017条3項 補正命令 拒絶理由通知する場合との違い

特許出願における「拒絶理由通知」と「補正命令」の違いは、弁理士試験などでも基本かつ重要な部分です。


一言でいうと、「中身(発明)がダメ」なのか、「形式(手続き)がダメ」なのかの違いです。


全体像がわかる比較表から見ていきましょう。


1. 全体比較まとめ
| 項目 | 拒絶理由通知 (Notice of Reasons for Refusal) | 補正命令 (Order for Amendment) |
|—|—|—|
| 何が問題? | 発明の内容(実体) | 書類の形式(方式) |
| 具体例 | 新規性なし、進歩性なし、記載不備など | 料金不足、印鑑漏れ、図面不鮮明など |
| 法的根拠 | 特許法 第50条(理由は第49条) | 特許法 第17条 第3項 |
| 誰が出す? | 審査官 | 特許庁長官(実務上は方式審査官) |
| 対応方法 | 意見書・手続補正書の提出 | 手続補正書の提出(方式の不備を直す) |
| 放置すると? | 拒絶査定 (Decision of Refusal)
※権利化不可の判断 | 手続の却下 (Dismissal of Procedure)
※書類が無効扱いになる |


2. 拒絶理由通知(きょぜつりゆうつうち)
**「あなたの発明、今のままでは特許にできません」**という審査官からの連絡です。
* 対象: 実体(Substance)
   * 発明そのものや、明細書の書き方が特許の要件を満たしていない場合です。
* 主な条件(理由):
   * 新規性・進歩性欠如: すでに世の中にある技術と同じ、あるいは簡単に思いつく。
   * 記載不備(36条): 説明が不明瞭、実施可能要件を満たしていない。
   * 単一性違反: 関係ない発明が混ぜて出願されている。
* 対応:
   * 意見書: 「審査官の認定は間違っています」と反論する。
   * 手続補正書: 請求項を狭くしたり、説明を明確にして理由を解消する。
* ポイント:
   * これを受け取ってもまだ終わりではありません。反論・修正のチャンス(第50条)です。これに対し何もしなかったり、反論が認められない場合に初めて「拒絶査定」となります。


3. 補正命令(ほせいめいれい)
**「書類のルールを守っていません。直してください」**という事務的な連絡です。
* 対象: 方式(Formality)
   * 手続の形式的要件に違反している場合です。
* 主な条件(理由):
   * 手数料未納: 出願料や審査請求料が足りない。
   * 方式違反: 図面が不鮮明、文字サイズが規定外、必要な記載事項の欠落。
   * 代理権の不備: 委任状がない(代理人の場合)。
* 対応:
   * 指定された期間内に手続補正書を提出し、不備を修正します。
   * ※ここでの補正は、あくまで「形式的なミス」を直すもので、発明の内容を変えるものではありません。
* ポイント:
   * 「手続の却下」: 補正命令を無視すると、その出願(手続)自体がなかったことにされます(門前払い)。「拒絶査定(内容はダメという判断)」とは全く重みが違うので注意が必要です。


4. 紛らわしい用語の整理(上級編)
勉強が進むと混同しやすいのが以下の3つです。
* 補正命令(Formality)
   * 今回説明したもの。形式不備。無視すると「却下(門前払い)」。
* 拒絶理由通知(Substance)
   * 今回説明したもの。内容不備。解消しないと「拒絶査定」。
* 補正の却下(Dismissal of Amendment)
   * ★これと混同しやすい!
   * 拒絶理由通知への対応として出した**「補正書」が、内容を変えすぎた(新規事項追加など)場合に、その補正書だけ**を却下すること(第53条)。
   * 「補正命令」は庁側から「直しなさい」と言うこと。「補正の却下」は出願側の「直しすぎ」を認めないこと。


図解イメージ
審査の流れとしては、まず「補正命令(入り口チェック)」があり、それをパスして審査請求されると「拒絶理由通知(中身チェック)」が来るイメージです。

共同出願違反(特許法第38条)は「書類の書き方」や「手続き上の不備」のように見えるかもしれませんが、、知財法上では明確に**「拒絶理由(実体的な欠陥)」**として扱われます。


なぜ「補正命令(形式)」ではなく「拒絶理由(実体)」なのか、そのロジックを解説します。


1. なぜ「拒絶理由」なのか?
結論から言うと、これは手続きのミスではなく、「特許を受ける権利(権利の帰属)」という根幹に関わる問題だからです。
補正命令と拒絶理由の境界線はここにあります。
* 補正命令(形式):
   * 「権利はあるけど、書類の書き方が汚い/不備がある」
   * 例:印鑑がない、手数料が足りない、図面が薄い。
   * → 直せば済む事務的なミス。
* 拒絶理由(実体):
   * 「そもそもあなた(達)には、その内容で特許をもらう権利がない」
   * 例:発明が新しいものではない(新規性)、権利者が揃っていない(38条)。
   * → 権利の存否に関わる重大な欠陥。
2. 「共同出願違反」の深刻さ
共同出願違反(第38条)は、**「主体的要件(Subjective Requirements)」**という実体要件の一つです。
例えば、AさんとBさんが共同で発明をした場合、「特許を受ける権利」はAとBの共有財産(民法上の準共有)になります。
これをAさん一人だけで出願してしまうと、**「Bさんの持ち分(権利)を無視して、勝手に権利化しようとしている」**ことになります。
これは単なる「名前の書き忘れ」という事務ミスではなく、**「真の権利者全員から許諾を得ていない(権利の欠缺)」**という、権利そのものの欠陥(実体違反)とみなされるのです。だから審査官が判断する「拒絶理由」となります。


3. イメージしやすい例え
**「土地の売却」**で考えるとわかりやすいです。
* 補正命令レベル:
   * 契約書の住所の番地を書き間違えた、ハンコが少し欠けている。
   * → 書類を書き直せばOK(事務手続き)。
* 共同出願違反レベル:
   * 夫婦共有の土地なのに、夫が妻に無断で、夫一人の名義で勝手に売ろうとした。
   * → これは書類のミスではなく、**「売る権利(権限)が完全ではない」**という重大な契約違反。


4. 実際の条文の整理
弁理士試験等でも問われる分類です。
| 分類 | 根拠条文 | 内容 | 扱い |
|—|—|—|—|
| 客体的要件 | 29条など | 発明そのものの内容(新規性・進歩性) | 拒絶理由 |
| 主体的要件 | 38条、37条 | 出願人の資格(共同出願、冒認出願でないか) | 拒絶理由 |
| 形式的要件 | 17条3項 | 書類の様式、手数料 | 補正命令 |


まとめ
手続きっぽく見えますが、「権利の持ち主が全員揃っていない=権利化する資格が足りない」という判断になるため、中身(実体)の問題として拒絶理由通知が打たれます。
これに関連して、「冒認出願(ぼうにんしゅつがん)」(他人の発明を勝手に出願すること)も、同じ理由(権利がない)で拒絶理由になります。
理解の整理のために、**「特許要件の分類図(主体的要件・客体的要件)」**について、もう少し詳しく整理します。

「主体(しゅたい)」とか「客体(きゃくたい)」なんて言葉、法律の勉強以外ではめったに使いませんよね。言葉の響きだけで難しく感じてしまうのは当然です。
でも、特許の世界ではこれを**「人(ヒト)」と「物(モノ)」**に置き換えると、驚くほどスッキリ理解できます。
先ほどの「共同出願違反」がなぜ拒絶理由なのかも含めて、この「ヒトとモノ」の視点で整理しましょう。
1. ズバリ、簡単な置き換え
法律用語を普通の言葉に翻訳します。
* 主体(Subject) = 「人(ヒト)」 = 出願人
   * アクションを起こす主人公。「誰が」出願しているか?
* 客体(Object) = 「物(モノ)」 = 発明
   * アクションの対象物。「どんな技術」を出願しているか?
2. 「運転免許」で例えると?
特許庁の審査は、**「運転免許センター」**だと思ってください。
あなたが「免許(特許権)をください」と申請に行きました。
① 主体的要件(ヒトの審査)
* チェック内容: あなた自身のこと。
* 具体例:
   * 「あなた、まだ18歳になってないですよね?」(能力なし)
   * 「これ、他人の住民票ですよね?」(なりすまし=冒認)
   * 「あなた一人で来てますけど、この車は奥さんとの共有名義だから、奥さんのハンコも必要ですよ」(共同出願違反)
* 結果: 免許はあげられません(拒絶)。
   * ※車(モノ)がどれだけ高性能でも、「あなた(ヒト)」に資格がないからです。
② 客体的要件(モノの審査)
* チェック内容: 車(技術)のこと。
* 具体例:
   * 「この車、ブレーキがついてませんね」(産業上の利用可能性なし)
   * 「この車、世界中どこにでもある普通の車ですね。新しい機能ないですよね?」(新規性・進歩性なし)
* 結果: 免許はあげられません(拒絶)。
   * ※あなた(ヒト)がどれだけ立派でも、「技術(モノ)」に価値がないからです。
③ 形式的要件(書類の審査)
* チェック内容: 申請書の書き方。
* 具体例:
   * 「写真のサイズが違います」
   * 「住所のフリガナ抜けてます」
   * 「手数料が足りません」
* 結果: その場で直してね(補正命令)。
   * ※ヒトもモノもOKだけど、事務手続きがダメなだけ。
3. 表で整理:特許審査の3つの壁
審査官は、この3つの視点であなたの出願をチェックしています。
| 分類 | 法律用語 | イメージ | 審査のポイント | ダメだった時の扱い |
|—|—|—|—|—|
| ① | 主体的要件 | 人(ヒト) | **「あなたに」**権利をもらう資格はあるか?
(真の発明者か? 全員揃っているか?) | 拒絶理由通知
(実体違反) |
| ② | 客体的要件 | 物(モノ) | **「その発明に」**特許になる価値はあるか?
(新しいか? 凄いか?) | 拒絶理由通知
(実体違反) |
| ③ | 形式的要件 | 紙(カミ) | **「書類は」**ルール通り書かれているか?
(誤字脱字、料金、印鑑) | 補正命令
(方式違反) |
4. 結論:なぜ共同出願違反は「手続き」じゃないの?
質問に戻ると、共同出願違反は、
「書類のミス(③形式)」ではなく、
「権利をもらうべきヒト(①主体)が欠けている」という、「人」に関する重大な欠陥だからです。
だから、中身の審査(実体審査)で引っかかり、「拒絶理由」となります。


実務でのチェック順序(フロー)
最後に、これらがどのタイミングでチェックされるかを知っておくと、特許の流れがコンプリートできます。
実は、チェックされる順番が決まっています。
* 【入り口】方式審査(形式チェック)
   * まず**「B:形式」**をチェックします。
   * ここで不備があれば**「補正命令」**。これをクリアしないと、中身すら見てもらえません。
   *  ↓
* 【本番】実体審査(中身チェック)
   * 審査官が登場し、**「A:客体」と「C:主体」**を同時にチェックします。
   * ここで引っかかると**「拒絶理由通知」**が来ます。
これで「拒絶理由」と「補正命令」の違い、そして「主体・客体・形式」の分類はバッチリですね。
(Gemini)



特036 特許出願から権利化までの流れ

特許出願について、基本から全体の流れまでを整理してまとめます。
特許は、新しい技術的アイデア(発明)を独占的に利用するための強力な権利ですが、**「出願しただけでは権利にならない」**という点が最大のポイントです。
以下に要点を整理しました。


1. 特許出願から権利化までの流れ(重要)
日本の特許制度では、出願書類を特許庁に提出した後、いくつかのステップを経て初めて権利が発生します。
* 出願(Filing)
   * 願書、明細書、特許請求の範囲、図面などを提出します。
   * 重要:この時点では、特許庁は中身の審査を行いません。
* 出願公開(Publication)
   * 出願から1年6ヶ月経過すると、内容が世の中に公開されます(誰でも見られるようになります)。
* 審査請求(Request for Examination)
   * ここがポイントです。 出願から3年以内に「審査してください」と手数料を払って請求しないと、出願は取り下げられたものとみなされます。
* 実体審査(Substantive Examination)
   * 審査官が「新しいか?」「容易に考えつかないか?」などを審査します。
* 拒絶理由通知(Notification of Reasons for Refusal)
   * 多くの場合、一度は「今のままでは特許にできません」という通知が来ます。これに対し、意見書や補正書で反論・修正を行います。
* 特許査定(Grant of Patent)
   * 審査をクリアすると、特許査定が下ります。
* 設定登録(Registration)
   * 特許料を納付することで、特許権が発生します。


2. 特許が認められるための3つの壁(特許要件)
審査官は主に以下の3点を厳しくチェックします。
* 産業上の利用可能性(Industrial Applicability)
   * 単なる学術的理論や治療方法ではなく、産業として実施できる発明であること。
* 新規性(Novelty)
   * 出願時点で、世の中に知られていない新しいものであること。
   * 注意:自分でSNSやブログで発表してしまった後に出願すると、原則として新規性が失われ、特許が取れなくなります。
* 進歩性(Inventive Step)
   * その分野の専門家が、既存の技術から容易に思いつかないレベルのものであること。


3. 知っておくべきキーワード
* 先願主義(First-to-File Rule)
   * 同じ発明をした人が複数いた場合、「先に発明した人」ではなく**「先に特許庁に出願した人」**が勝ちます。1日でも早い出願が重要です。
* 明細書・特許請求の範囲(Claims)
   * 特許出願の心臓部です。「特許請求の範囲」に書かれた言葉が、そのまま権利の及ぶ範囲(独占できる範囲)になります。


4. 費用と期間の目安
* 期間: 出願から権利化まで、審査請求のタイミングにもよりますが、平均して2年〜4年程度かかることが多いです(早期審査制度を使えば数ヶ月に短縮可能)。
* 費用:
   * 特許庁への印紙代+弁理士費用などを含めると、出願〜登録までスムーズにいって総額30万〜60万円程度が相場となることが多いです(拒絶対応の回数や請求項の数で変動します)。

特許出願して、補正命令や、補完命令されたとき、出願日は、いつになる?補正や補正の日?

「補正命令」か「補完命令」かによって、出願日が変わるかどうかが決定的に違います。
結論から言うと、以下のようになります。
* 補正命令(形式的なミスの修正)の場合
   * 出願日は**「最初に出願書類を提出した日」のまま**です(変わりません)。
* 補完命令(明細書などが丸ごと抜けていた場合)の場合
   * 出願日は**「足りない書類(補完書)を提出した日」に繰り下がります**(遅くなります)。
詳細解説
1. 補正命令(Amendment Order)の場合
手数料の未納や、願書の記載ミス、図面の不鮮明さなど、形式的な不備がある場合に出されます。
* 出願日: 変わりません。
* 効果: 指定された期間内に「手続補正書」を提出して不備を解消すれば、最初に出願書類を提出した日に有効な出願がされたものとして扱われます。
2. 補完命令(Completion Order)の場合
これは非常に危険な状態です。「明細書」や「特許請求の範囲」などが丸ごと添付されていないなど、出願として成立するための最低限の書類が足りない場合(特許法第38条の2)に出されます。
* 出願日: 「手続補完書」を提出した日(足りない書類を特許庁に出した日)になります。
* リスク: 最初に書類を出した日から、補完書を出した日までの間に、他人が同じ発明を出願していたり、その技術が公知になっていたりすると、特許が取れなくなります。
まとめ:出願日の判定表
| 命令の種類 | 理由(例) | 対応策 | 出願日はいつになる? |
|—|—|—|—|
| 補正命令 | ・手数料不足
・印鑑漏れ
・様式違反 | 手続補正書を出す | 最初の提出日のまま
(安心してください) |
| 補完命令 | ・明細書がない
・請求の範囲がない | 手続補完書を出す | 補完書を出した日
(繰り下がるので注意!) |
※ごく稀な例外として、補完命令の場合でも、優先権主張の基礎となる出願に内容が含まれている場合など、所定の要件を満たせば元の出願日を維持できる制度もありますが、非常に複雑な手続きが必要です。基本は「繰り下がる」と覚えておいてください。

特038条の3(相当な損害額の認定)

特許法第38条の3(相当な損害額の認定)について解説します。
この条文は、特許権侵害訴訟における「最後の砦」とも言える重要な規定です。侵害は認められたけれど、具体的な金額の計算で詰んでしまった…という原告を救済するためのものです。
サクッと理解できるようにまとめました。
1. 条文の概要(ざっくり理解)
第38条の3は、「損害額の立証がめちゃくちゃ難しいときは、裁判所がこれまでの経緯や証拠を見て、**『まあ、これくらいが妥当だろう』**と金額を決めていいよ」という規定です。
> 条文(要約)
> 特許権侵害による損害が生じたことは認められる場合において、損害額を立証するために必要な事実を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。
>
なぜこの条文があるの?(趣旨)
特許権侵害の損害賠償請求では、原告(特許権者)が「具体的にいくらの損害が出たか」を立証しなければなりません。
しかし、侵害品がブラックボックスだったり、侵害者が帳簿を隠したりしていると、正確な販売数量や利益率を出すのは不可能なことがあります。
「侵害はあったけど、計算できないから賠償金はゼロね」となるのはあまりに不公平なので、裁判所に裁量権を与えました。
2. 解説:適用の要件
この条文を使うためのポイントは以下の2点です。
* 損害の発生自体は立証されていること
   * 「損害が出たかどうか分からない」状態では使えません。「損害は間違いなくある」という前提が必要です。
* 事実の立証が「極めて困難」であること
   * 単に「面倒くさい」ではダメです。性質上、証明が不可能に近い場合や、証拠が偏在していて出せない場合などを指します。
この要件を満たすと、裁判所は**「口頭弁論の全趣旨」(法廷でのやり取り全体の雰囲気やニュアンス)と「証拠調べの結果」**を総合して、エイヤ!と(もちろん論理的にですが)金額を決めることができます。
3. 【重要】試験に出る!出題ポイント
弁理士試験(短答・論文)での狙われどころを整理します。
① 民事訴訟法第248条との関係
* ポイント: 実はこれ、民事訴訟法248条の特則(ほぼ同じ内容)です。
* 出題: 「特許法には民訴248条と同旨の規定があるか?」 → YES。
* 特許法にわざわざ書かれているのは、特許侵害訴訟において立証の困難性が特に高いため、注意喚起的に規定されている側面があります。
② 「極めて困難」の解釈
* ポイント: 「立証が不可能」である必要はありません。「極めて困難」であれば足ります。
* 引っかけ: 「立証が不可能であるときに限り」という選択肢が出たら × です。
③ 適用される場面(第102条との関係)
* ポイント: 損害額算定の規定(102条1項、2項、3項)を使おうとしたけれど、数量や利益の細かい数字が出せない場合に、この38条の3が顔を出します。
* 論文対策: 論文試験で損害額の計算問題が出た際、具体的な数字が資料になく「計算不能」な状況が示唆されていたら、「38条の3による認定を求める」と記述するのが正解ルートになることがあります。
④ 職権探知主義ではない
* ポイント: 裁判所が勝手に証拠を探してくるわけではありません。あくまで提出された証拠と弁論に基づいて判断します。
4. まとめ:38条の3の位置づけ
損害賠償請求の流れの中で、以下のようにイメージしてください。
* 第102条(推定規定)にトライ:販売数量 × 利益などで計算を試みる。
* 壁にぶつかる:証拠が足りない、複雑すぎて数字が出せない。
* 第38条の3 発動:「裁判長!正確な数字は出せませんが、状況から見てこれくらいが相当です!」と主張し、裁判所に決めてもらう。
この条文は単独で出るというより、第102条(損害額の推定等)とセットで理解しておくのが鉄則です。

(Gemini)

実014 却下 実用新案には拒絶はない

実用新案では、「中身(新規性や進歩性)を審査して拒絶する」ということはありません。 しかし、「門前払い(形式不備など)」による拒絶(却下) は存在します。

この「拒絶がない」と言われる仕組み(無審査登録制度)について整理しましょう。


1. なぜ「拒絶がない」と言われるのか?
特許出願では、特許庁の審査官が「これには新しい発明が含まれているか?」「容易に考えつくものではないか?」といった**中身の審査(実体審査)**を行います。ここでNOと言われると「拒絶査定」を受けます。
一方、実用新案は**「無審査登録制度」**を採用しています。
* 実体審査を行わない: アイデアの新しさや高度さはチェックされません。
* 早期登録: 書類さえ整っていれば、出願から半年程度(特許は数年かかることも)で登録されます。
つまり、「中身がショボいからダメ!」という理由での拒絶は、実用新案には存在しません。


2. でも、絶対に登録されるわけではない?(基礎的要件)
ここが落とし穴です。「何でもかんでも登録できる」わけではありません。
中身の審査はしませんが、**「基礎的要件」と「方式」の審査は行われます。これらをクリアできないと、登録されず却下(実質的な拒絶)**されます。
【ここで引っかかるとダメ(拒絶・却下)】
* 物品の形状・構造ではないもの: 方法(レシピや製造フロー)、液体、プログラムなどは実用新案の保護対象外です。
* 公序良俗に反するもの: 反社会的なデバイスなど。
* 書類の不備: 必須項目が抜けている、手数料が支払われていないなど。


3. 特許と実用新案の「審査」比較表
| 項目 | 特許 (Patent) | 実用新案 (Utility Model) |
|—|—|—|
| 審査の対象 | 実体審査あり
(新規性・進歩性を厳しくチェック) | 実体審査なし
(無審査登録制度) |
| チェック内容 | 発明の高度さ、先行技術との違い | 基礎的要件
(物品であるか、書類不備がないか等) |
| 拒絶の理由 | 「すでに似た技術がある」「容易に発明できる」など | 「保護対象(物品)ではない」「書類が変」など |
| 登録までの期間 | 審査請求から平均14ヶ月〜 | 出願から平均2〜3ヶ月 |


4. 重要な注意点:権利行使のハードル
「拒絶されないなら、とりあえず実用新案を出しておけばいいのでは?」と思うかもしれませんが、ここに大きなリスクがあります。
> 警告・権利行使には「実用新案技術評価書」が必要
>
中身を審査せずに登録してしまっているため、その権利が「本当に有効か(新規性があるか)」は誰にもわかりません。
そのため、他社に対して「権利侵害だ!やめろ!」と警告したり訴えたりする前には、特許庁に評価を依頼し、**「この権利は有効ですよ」というお墨付き(肯定的な評価書)**を得る義務があります。
もし、この評価書で「新規性なし(無効理由あり)」と判定されたまま権利を行使すると、逆に相手から損害賠償を請求されるリスクがあります。


まとめ
* 実用新案には、「中身の良し悪し」による拒絶はない。
* ただし、「形式や対象」が間違っていると却下(拒絶)される。
* 簡単に登録できる分、権利として使う時のハードル(技術評価書)が高い。
「入り口(登録)は広いけれど、出口(権利行使)は狭い」というイメージを持つと分かりやすいかもしれません。

実用新案技術評価書の中身を一言で言うと、**「その権利が『本物(有効)』かどうかの通信簿」**です。
無審査で登録された実用新案に対して、特許庁の審査官が後から**「本当に新規性や進歩性があるか?」**を調査し、その結果をズバリ書いてくれます。
この評価書には、一番重要な**「評価(ランク)」**が記載されています。これがすべての判断基準になります。


1. 運命を分ける「6段階評価」
評価書の中には、請求項(権利範囲)ごとに**「1」~「6」の数字**が書かれています。これが通信簿の成績です。
| 評価ランク | 判定 | 意味(ざっくり) |
|—|—|—|
| 評価 6 | 合格 | 「◯」有効な権利である可能性が高い。
(登録を否定するような文献は見つからなかった) |
| 評価 1~5 | 不合格 | 「×」無効になる可能性が高い。
(すでに似た技術がある、簡単に思いつく、などの理由あり) |
* 評価6(肯定的見解): これが出れば、堂々と「ウチの権利を侵害するな!」と他社に警告できます(※ただし100%絶対ではありません)。
* 評価1~5(否定的見解): これが出てしまった場合、その権利は**「実は無効である(登録されるべきではなかった)」**と判断されたことになります。この状態で他社に警告すると、逆に「無効な権利で脅してきた」として損害賠償請求をされるリスクがあります。


2. 具体的に何が書かれているの?
書類はシンプルで、主に以下の3つの要素で構成されています。
* 評価の結論(ランク)
   * 例:「請求項1に係る考案:評価6」
* 引用文献(証拠)
   * 評価1~5(不合格)の場合、「なぜダメなのか」を示す証拠として、過去の特許や論文(先行技術文献)がリストアップされます。
   * 「この文献Aに、あなたのアイデアと同じことが書いてありますよ」という指摘です。
* 対比説明
   * あなたの考案と、引用文献の技術を比べ、「どこが同じで、どこが容易に思いつくか」という審査官のロジックが書かれています。
3. もし「不合格(評価1~5)」だったらどうする?
評価書を見て「うわ、評価2(進歩性なし)だ…」となっても、即座に権利が消滅するわけではありません。しかし、そのままでは使い物にならない(武器にならない)権利です。
この場合、選択肢は主に2つです。
* 訂正する(訂正請求):
   * 権利の範囲を狭く絞り込む(例:「椅子」→「〇〇な機能を持つ金属製の椅子」)ことで、引用文献との違いを明確にし、有効な権利に変えようと試みます。
   * ※ただし、訂正できる回数や時期には制限があります。
* 諦める(放棄):
   * 権利を維持する価値がないと判断し、権利を放棄します(無駄な年金コストをカット)。
まとめ
* 実用新案技術評価書は、「権利の有効性を判定する通信簿」。
* **「評価6」**だけが、権利行使のチケットになる。
* **「評価1~5」**が出たら、そのままでは使えない(訂正するか諦める)。
こう見ると、**「とりあえず登録は簡単だけど、いざ『評価書』を取ってみたらボロボロ(評価1~5)だった」**というケースが実用新案には非常に多いのです。これが「実用新案は使いにくい」と言われる最大の理由ですね。

実用新案の最も怖いところであり、特許と大きく違う点ですが、評価書の評価が悪かったからといって、「その評価はおかしい!審判だ!」と不服を申し立てる(審判請求する)ことはできません。
評価書の結果はあくまで「特許庁の鑑定意見」であって、「処分(行政決定)」ではないため、争う道が閉ざされているのです。
少し複雑な部分なので、2つのパターンに分けて整理しましょう。


パターンA:訂正はできたが、評価が低いままだった場合
(「訂正して範囲を絞ったけど、それでも『評価1(新規性なし)』と言われた」ケース)
* 審判・訴訟: できません。
* 理由: 実用新案技術評価書の結果に対しては、法的に文句を言う手段がありません。「この評価書は間違っている!」と裁判所に訴えることもできません。
* 結果: その実用新案権は「死に体(使えない権利)」のまま残り、権利行使を諦めるしかなくなります。


パターンB:訂正そのものが認められなかった場合
(「訂正のルール(範囲を広げてはいけない等)を破っているため、訂正を却下する」と言われたケース)
* 審判・訴訟: できます。
* 流れ: 特 許庁に対して「訂正を認めてくれ」という審判を起こし、それでもダメなら知財高裁へ訴訟(審決取消訴訟)に行くことができます。
* 実情: ただし、これはあくまで「訂正の手続き」の話です。これに勝っても、評価書の評価(ランク)が良くなる保証はありません。
では、いつ「審判」や「訴訟」になるのか?
実用新案で泥沼の戦い(審判・訴訟)になるのは、あなたが**「ダメ元で権利行使をした時」や「ライバルに喧嘩を売られた時」**です。


1. 無効審判(むこうしんぱん)
ライバル会社が、「お前の実用新案はショボいから消してやる」と特許庁に訴え出ることです。
* ここで初めて、特許庁の審判官(3人組)が本格的に**「この権利は有効か無効か」**をジャッジします。
* ここで「無効」という審決(判決のようなもの)が出されると、権利は初めから無かったことになります。


2. 審決取消訴訟(しんけつとりけしそしょう)
上記の無効審判で負けた側(権利者またはライバル)が、**「特許庁の判断はおかしい!裁判所で決着だ!」**と訴えるケースです。
* 場所は**「知的財産高等裁判所(知財高裁)」**になります。
恐怖の「実用新案あるある」ルート
実用新案における「失敗の典型例」を見ると、リスクがよく分かります。
* 登録: 無審査ですぐ登録。「やった!権利化できた!」
* 警告: ライバルの真似商品を見つけ、「権利侵害だ!」と警告状を送る。
* 反撃: ライバルが「評価書取ってみろよ、どうせ無効だろ」と言い返す。
* 評価: 慌てて評価書を請求したら**「評価2(進歩性なし)」**が出る。
* 詰み:
   * 評価書に対して不服申立(審判)はできない。
   * 警告してしまったため、ライバルから「不当な権利行使で営業妨害された」として損害賠償請求される。


まとめ
* 評価書の結果(中身)には、文句(審判・訴訟)を言えない。 一発勝負に近い。
* 訂正の手続きミスに対しては、争うことができる。
* 本格的な審判・訴訟になるのは、ライバルから「無効審判」を請求された時。
「手軽に取れるけれど、一度『ダメ(低い評価)』というレッテルを貼られると、名誉挽回のチャンスがほとんどない」。これが実用新案の厳しさです。
こうなると、「じゃあ最初から特許で出しておけば、審査官とやり取り(意見書・補正書)して粘れたのに…」という後悔につながりやすいんですね。

ここまで「怖い話」ばかりしてしまったので、「なんでこんな制度があるの?」と不思議に思いますよね。
実は、ビジネスの現場では、「あえて実用新案を選ぶ」という賢い戦略が存在します。特許にはない**「スピード」と「手軽さ」**が最大の武器になるからです。
実用新案が輝く4つのメリットを整理しましょう。


1. 圧倒的なスピード(ライフサイクルの短い商品に最適)
特許は権利になるまで数年かかりますが、実用新案は出願から2〜3ヶ月で登録されます。
【こんな商品に最強】
* スマホケース、文房具、流行のおもちゃ
* 「半年〜1年でブームが終わる商品」や「来月のクリスマス商戦に間に合わせたい商品」の場合、特許を待っていたら商機を逃します。
* 「商品発売と同時に『登録第◯◯号』とパッケージに書きたい!」というニーズに応えられます。


2. コストが安い(「小さなお宝」を守る)
審査がない分、費用が格段に安く済みます。
* 特許: 出願〜登録まで数十万円〜(弁理士費用含むと高い)
* 実用新案: その半分〜3分の1程度で済むことも。
* 「ちょっとした工夫(改良)」で、そこまで莫大な利益は見込めないけれど、他社にタダで真似されるのは嫌だ…という**「小粒なアイデア」**を守るのに適しています。


3. 「カカシ」としての抑止力
ここが実用的なメリットです。評価書がなくても、登録さえされていれば**「実用新案権」という立派な権利**です。
* 他社への心理的プレッシャー:
   ライバル会社があなたの製品を見て「真似したいな」と思った時、パッケージに「実用新案登録済」と書いてあると躊躇します。
   「この権利が有効か無効か」を調べるには、お金を払って評価書を取ったり、弁理士に相談したりする必要があります。**「わざわざ調査するコストや手間」自体が参入障壁(カカシ効果)**になるのです。


4. 実は「後出しジャンケン」ができる(特許への変更)
これが一番の裏技です。
とりあえず実用新案で出しておいて、**「やっぱりこれ、すごく売れた! もっと強力に守りたい!」となった場合、一定条件下なら後から特許出願に切り替える(変更する)**ことができます。
* 条件: 出願から3年以内、かつ「評価書」をまだ請求していないこと。
* 戦略:
   * とりあえず安くて早い実用新案でキープ。
   * 商品がヒットしたら、特許に変更してガッチリ守る。
   * 売れなかったら、そのまま実用新案で終わらせる(コスト節約)。
   * ※この「様子見」ができるのは大きなメリットです。


まとめ:特許 vs 実用新案の使い分け
| 判断基準 | 特許 を選ぶべき | 実用新案 を選ぶべき |
|—|—|—|
| 技術の寿命 | 長い(5年〜20年使える基幹技術) | 短い(1〜3年で陳腐化する流行品) |
| 重要度・収益 | 社運をかける大発明、高収益が見込める | ちょっとした改良、隙間商品のアイデア |
| 目的 | 独占的にガッツリ権利行使したい | 「登録済」と表示して牽制したい、早期に権利化したい |
| 予算 | 潤沢にある | 抑えたい |
「なんでもかんでも特許」ではなく、**「この商品は寿命が短いから、あえて実用新案でサクッと権利化して、ブームが去ったら捨てる」**という使い方が、実用新案のプロの活用法ですね。

実用新案における「形式不備」には、実は2つのレベルがあります。それぞれ根拠条文が異なります。
結論から言うと、実用新案法特有の**「第14条(出願の却下)」**が最も重要です。


1. 【最重要】「基礎的要件」違反による却下
「中身の審査はしないけど、最低限これは守ってね」という実用新案特有のルール(基礎的要件)を守らなかった場合の却下です。
> 実用新案法 第14条(出願の却下)
> 特許庁長官は、・・・(中略)・・・手続の補正をすべきことを命じた場合において、その者が指定された期間内にその補正をしないときは、その実用新案登録出願を却下することができる。
>
この「前段階」として、「直せ!」と命令する条文があります。
> 実用新案法 第6条の2(審査官による命令)
> 特許庁長官は、実用新案登録出願が次の各号のいずれかに該当するときは、・・・(中略)・・・手続の補正をすべきことを命ずることができる。
>
【第6条の2 でチェックされる「基礎的要件」】
* 物品の形状、構造ではないもの(方法、材料、プログラムなど)
* 公序良俗違反
* 請求項の記載不備(書き方が不明確など)
* 単一性違反(無関係な発明を一度に出願している)
→ これらに違反すると第6条の2で補正命令が出て、無視すると第14条で却下されます。


2. 一般的な「方式」違反による却下
これは特許など他の知財と共通する、「書類のハンコがない」「手数料が足りない」といった事務的なミスです。
実用新案法が、特許法のルールを「借ります(準用)」という形をとっています。
> 実用新案法 第2条の3(特許法の準用)
> 特許法第17条(手続の補正)及び第18条(手続の却下)・・・の規定は、実用新案登録出願に準用する。
>
> (読み替え後のイメージ)
> 手数料未納や様式違反がある場合、特許庁長官は補正を命じ、それに従わない場合は手続を却下する。
>


条文構造のまとめ
| 却下の種類 | 引っかかる内容 | 根拠条文(命令 → 却下) |
|—|—|—|
| ① 基礎的要件違反
(実用新案特有) | ・物品ではない(方法など)
・公序良俗違反
・記載がグチャグチャ | 第6条の2(補正命令)

第14条(出願の却下) |
| ② 方式違反
(全法域共通) | ・手数料を払っていない
・願書の必須項目が空欄
・誤字脱字 | 第2条の3 で準用する
特許法 第17条(補正命令)

特許法 第18条(手続の却下) |
勉強ノートのポイント
試験や実務で**「実用新案の却下」と言われたら、まずは第14条(基礎的要件違反)**を思い浮かべるのが正解です。なぜなら、これこそが「無審査登録制度の防波堤」だからです。
普通の「方式違反(第2条の3)」は事務的なミスですが、「基礎的要件違反(第14条)」は**「実用新案として保護できる対象か?」という、実体審査に限りなく近いチェック**を行っている点が重要です。