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特70条1項 特許請求の範囲 切餅の上面の切り込みの解釈【明細書の役割】

(特許発明の技術的範囲)
第七十条 特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。

特許法 https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000121#Mp-Ch_4-Se_1-At_70

 

【請求項1】
角形の切餅や丸形の丸餅などの小片餅体の載置底面ではなく上側表面部に、周方向に長さを有する若しくは周方向に配置された一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設けたことを特徴とする餅。
【請求項2】
角形の切餅や丸形の丸餅などの小片餅体の平坦頂面や載置底面ではなく上側表面部の側周表面に、周方向に長さを有する若しくは周方向に配置された一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設けたことを特徴とする請求項1記載の餅。

【発明の詳細な説明】

【0007】
一方、米菓では餅表面に数条の切り込み(スジ溝)を入れ、膨化による噴き出しを制御しているが、同じ考えの下切餅や丸餅の表面に数条の切り込みや交差させた切り込みを入れると、この切り込みのため膨化部位が特定されると共に、切り込みが長さを有するため噴き出し力も弱くなり焼き網へ落ちて付着する程の突発噴き出しを抑制することはできるけれども、焼き上がった後その切り込み部位が人肌での傷跡のような焼き上がりとなり、実に忌避すべき状態となってしまい、生のつき立て餅をパックした切餅や丸餅への実用化はためらわれる。

特開2004-147598 【出願人】【識別番号】593201958【氏名又は名称】越後製菓株式会社  https://www.j-platpat.inpit.go.jp/p0200

質問:越後製菓の特許の明細書 【0007】からすると、「上面ではなく」と解釈すべきだと思うんだけど。地裁ではそう判断して、高裁ではそれがひっくり返ったんだけど。高裁の解釈は、側面であることを述べるために「上面ではなく」と書いたにすぎない、なぜなら「読点」が使われていないからという理由だったんだけどさ、たしかに、その1文だけから判断したらそうだけど、別の場所ではっきりと、上面に切り込みを入れると醜くなるって書いてたわけだよね、なぜそれが問題にならなかったの?

Gemini:ご特許明細書の記述【0007】と、それに関する裁判所の判断について解説します。特に、なぜ「上面ではなく」という解釈が地裁と高裁で分かれ、高裁では他の記述が問題にならなかったのかという点に焦点を当てます。


🧐 【0007】の記述と解釈の対立

特許明細書【0007】の記述は、以下の通りです。(便宜上、区切りを明確にします。)

一方、米菓では餅表面に数条の切り込み(スジ溝)を入れ、膨化による噴き出しを制御しているが、(A)同じ考えの下切餅や丸餅の表面に数条の切り込みや交差させた切り込みを入れると、(B)この切り込みのため膨化部位が特定されると共に、切り込みが長さを有するため噴き出し力も弱くなり焼き網へ落ちて付着する程の突発噴き出しを抑制することはできるけれども、(C)焼き上がった後その切り込み部位が人肌での傷跡のような焼き上がりとなり、実に忌避すべき状態となってしまい、生のつき立て餅をパックした切餅や丸餅への実用化はためらわれる。

1. 地裁の解釈:上面に否定的な記述

地裁(知的財産高等裁判所・大合議判決以前の東京地裁)は、この文章を読んで、以下のように解釈しました。

  • (A)でいう「切餅や丸餅の表面」とは「上面」を指す。

  • (C)の記述は、上面に切り込みを入れると「傷跡のような焼き上がり」になり、実用化はためらわれるという、従来の技術(上面への切り込み)に対する否定的な評価を述べている。

  • したがって、この明細書は、切り込みを上面に入れる技術を避けていることを示している。

2. 知財高裁の解釈:否定的な記述ではない(対比)

その後、知財高裁(大合議判決)は、地裁の判断を覆しました。高裁の解釈は以下の通りです。

  • 読点」(、)の欠如:高裁は、文脈を判断する際に、文章の句読点にも着目しました。もしこれが「上面への切り込み」を否定しているなら、(C)の前に強い区切り(読点など)があるはずだ、と。

  • 技術の対比:この文章は、従来の技術(表面の切り込み)にもメリット(突発噴き出しの抑制)はあるが、同時にデメリット(忌避すべき焼き上がり)もあるという「対比・紹介」をしているに過ぎない、と判断しました。

  • 「ためらわれる」の解釈:「実用化はためらわれる」という表現は、「特許発明(側面の切り込み)の優秀さ」を際立たせるために、従来の技術を過度に否定的に描写している(ディス・クローズ)にすぎず、発明者が本当に上面への切り込みを排除したわけではないと解釈しました。


🔑 なぜ「別の場所での明確な記述」が問題にならなかったのか?

ご指摘の通り、特許明細書全体を読めば、発明者が上面への切り込みの醜さを明確に述べている箇所があったとすれば、その解釈は変わるべきです。しかし、裁判で焦点となったのは、「特許の請求の範囲」の解釈です。

1. 請求の範囲と明細書の関係

特許権の範囲は、「特許請求の範囲」(特許法第70条第1項)の記載に基づいて定められます。明細書(【0007】の記述を含む)は、この請求の範囲を解釈するための補助資料として使われます。

2. 高裁の判断の核心

知財高裁は、明細書全体や【0007】の記述に「切り込みを上面に入れないこと」が、この発明の必須の構成要件である、とは書かれていないと判断しました。明細書は「発明の技術的範囲を明確にするための記載」であるという原則から見て、裁判所は、発明者が単に「上面の切り込みのデメリット」を説明しているに過ぎず、そのデメリットを解消するために側面に切り込みを入れることを付加的に提案している、と解釈しました。つまり、高裁は以下の論理を採用しました。

  1. 特許請求の範囲には、「上面に切り込みを設けない」という要件は明記されていない。

  2. 明細書の【0007】などの記載は、上面への切り込みを「醜いから絶対にやらない」という発明の限定(技術的範囲の除外)を意図しているとまでは言えない。

  3. もし、発明者が「上面への切り込みを排除する」ことを発明の重要な限定と考えるなら、それを特許請求の範囲に明確に記載するか、明細書内でより明確に限定しているはずである。

最終的に、高裁は越後製菓の特許の技術的範囲を広く解釈し、佐藤食品工業の製品(上面にも側面にも切り込みがある)も越後製菓の特許権の範囲内であると判断しました。これは、特許明細書という特殊な文書において、単なるデメリットの記載(ディス・クローズ)と、発明の技術的範囲を限定する記載とを区別した、高度な解釈の結果と言えます。

質問:仮に越後製菓が側面限定として特許を取ってしまっていたら、サトウの「側面+上面」特許は、越後製菓を侵害しないの?特許の一部になってることには変わりないんじゃないの?

Gemini:仮に越後製菓が「側面のみに切り込みがある切餅」という発明で特許を取得していた場合、佐藤食品工業の「側面と上面の両方に切り込みがある切餅」が越後製菓の特許を侵害するかどうかは、特許侵害の基本原則である全要件充足の原則に基づいて判断されます。結論から言うと、侵害しない可能性が非常に高いです。


1. 🔑 全要件充足の原則(Literally Infringement)

特許侵害が成立するための基本的な判断基準は、「特許請求の範囲に記載された発明のすべての構成要件を、侵害品がすべて備えていること」です。

越後製菓の仮想的な特許(側面限定)

越後製菓が取得した特許請求の範囲の構成要件を、仮に以下のように定めていたとします。

要件番号 越後製菓の特許請求の範囲(仮定)
A 切餅であること。
B 切餅の側周表面のみに切り込み(スリット)を有すること。
C (他の要件…)

佐藤食品工業の製品(侵害品)

佐藤食品工業の製品の構成は以下の通りです。

構成 佐藤食品工業の製品
A’ 切餅である。
B’ 切餅の側周表面に切り込み(スリット)を有する。
C’ 切餅の平坦上面にも切り込みを有する。

侵害判断

特許侵害が成立するためには、佐藤食品工業の製品が、越後製菓の特許要件Bを完全に満たす必要があります。

  • 要件 B: 「側周表面 のみ に切り込みを有する

  • 佐藤製品: 「側周表面に切り込みがあり、かつ上面にも切り込みがある」

この場合、佐藤製品は「上面にも切り込みがある」ため、越後製菓の特許が要求する「のみ」という限定要件を充足しません。つまり、特許要件 B を欠くと判断されます。

全要件充足の原則により、侵害は成立しないことになります。


2. 💡 なぜ「一部になっている」だけでは侵害にならないのか?

ご指摘の通り、佐藤製品は越後製菓の特許発明の一部(側面の切り込み)を含んでいます。しかし、特許法上の「侵害」は、「余分な構成の付加」によって簡単に回避されてしまうことがあります。

⭕ 侵害が回避される理由(付加・限定)

特許の請求の範囲に**「のみ」**という限定詞が入っていると、その要件を厳格に解釈します。

  • 側面のみ」という特許に対して、「側面+上面」という製品は、「上面」という**余分な構成(付加)**を有しているため、特許の範囲外(非侵害)となります。

特許権の範囲は、特許請求の範囲という法律上の文言によってカチッと定められるため、「特許発明の主要部分が含まれているから侵害だ」という感覚的な判断は適用されません。まさに、この事件の越後製菓の補正拒絶の論点は、この「のみ」という限定が、特許権の範囲を決定的に狭めてしまうことを示しています。


3. ⚖️ 結論

もし越後製菓が「側面のみ」という限定特許を取得できていたら、佐藤食品工業は「上面の切り込み」という余分な構成を付加することで、容易に特許侵害を回避し、合法的に市場で製品を販売できた可能性が高いと言えます。

質問:全要件充足の原則 って特許法の第何条に書いてある?

Gemini:「全要件充足の原則」(オール・エレメント・ルール)は、日本の特許法において明文で「この条文に全要件充足の原則が書いてある」と規定されているわけではありませんしかし、その根拠となるのは、特許権の技術的範囲を定める以下の条文です。


🔑 根拠条文:特許法 第70条第1項

全要件充足の原則の法的根拠は、特許法第70条第1項の規定と、それに基づく裁判所の解釈にあります。

特許法 第70条第1項

$$\text{特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。}$$

原則の導出

この条文は、「特許権の及ぶ範囲は、特許請求の範囲(クレーム)の記載に基づいて決まる」と定めています。

特許請求の範囲には、その発明を構成する要素(構成要件)が記載されています。

  1. 特許発明の技術的範囲を定めるためには、特許請求の範囲のすべての構成要件を抽出します。

  2. 侵害品(イ号製品)が、その抽出されたすべての構成要件一つ残らず(すべて)充足している場合に限り、特許発明の技術的範囲に属すると判断されます。

この解釈の積み重ねが、全要件充足の原則(構成要件を一つでも欠くと侵害は成立しない)として確立しているのです。


補足:均等論との関係

全要件充足の原則は文言侵害(文字通りの侵害)を判断する際の基本原則です。しかし、これだけでは特許権の保護が不十分になるため、この原則の例外として、構成要件の一部が異なっていても実質的に同じであれば侵害と認める均等論が、最高裁判所の判例(東京高裁大合議判決)によって確立されています。

特許が成立するまでの経過

質問:ブログ記事 https://www.ondatechno.com/jp/report/patent/hanrei/p2449/ によれば、越後製菓は、新規事項の追加の補正をやろうとしてダメ出しをくらってたってこと。そして、その際、明確に「上面ではなく」という意図があったってこと。この経過はなぜ高裁は取り入れなかったの?

Gemini:ご提示いただいた情報は、この特許紛争の経緯において非常に重要な論点であり、特に**出願経過(プロセキューション・ヒストリー)**が高裁でどのように扱われたか、という点に直結します。

1. 越後製菓の補正と「のみ」の削除の事実

ご指摘の通り、越後製菓は審査の過程で、以下の補正を試みました。

  1. 当初の補正案: 「上側表面部の側周表面のみに…切り込み」という限定を加える。

  2. 特許庁の判断: この「のみ」という限定は、出願当初の明細書に記載されていない**新規事項の追加(特許法第17条の2第3項違反)**に当たるため、認められない。

  3. 越後製菓の対応: 特許を受けるために、「のみ」を削除し、「上側表面部の側周表面に…切り込み」という表現で特許を取得した。

この経過から、越後製菓が出願当初、「上面に切り込みがないこと」を必須の要件としていなかったが、審査途中でそれを限定しようとした明確な意図があったことは明らかです。


2. 裁判所の判断(高裁大合議)が「出願経過」を取り入れなかった理由

特許侵害訴訟において、裁判所が**出願経過(プロセキューション・ヒストリー)**をどこまで参酌するかは、非常に難しい問題です。

知財高裁の大合議判決が、越後製菓の「のみ」を削除した経緯を、特許請求の範囲の解釈に取り入れなかった(または重要視しなかった)主な理由は、特許権の効力範囲の決定に関する日本の原則に基づいています。

① 権利範囲は「最終的な請求の範囲」で決まる

日本の特許法において、特許権の効力は、最終的に特許として成立した「特許請求の範囲」の記載に基づいて定まります。

  • 審査の過程で限定が拒絶され、その限定を削除して成立させた場合、裁判所は「削除した限定は、特許権の範囲に含まれていない」と解釈します。

越後製菓は、「のみ」という限定を削除して特許を成立させました。高裁は、この「のみ」が削除された事実をもって、「発明者は上面への切り込みがないことを必須要件とする限定を最終的に放棄した」とみなしたと考えられます。

② 明細書の記載と矛盾しない解釈を優先

高裁は、前述の通り明細書【0007】の記述が、「上面への切り込みを忌避している」という強い限定を意味するとは解釈しませんでした。

その上で、「のみ」の削除という出願経過は、明細書の記載(【0007】)を特許請求の範囲を限定する方向に解釈する材料としては不十分である、と判断したのです。

❌ 裁判所の論理(推定)

もし、「のみ」という限定を特許請求の範囲に含めていたなら、佐藤食品工業の製品(上面にも切り込みがある)は非侵害となったはずです。しかし、「のみ」を削除したことにより、特許請求の範囲は広くなり、佐藤食品工業の製品も侵害となる、という流れを採用しました。


💡 知的財産権訴訟における教訓

このケースは、特許審査の過程で「限定を試みたが拒絶され、その限定を削除して特許を成立させた」場合、その削除された限定は将来の侵害訴訟において、権利の範囲を狭める材料としてほとんど使えない、という教訓を示しています。越後製菓の「上面に切り込みがない」という意図(真意)よりも、特許請求の範囲の文言と、その成立に至るプロセスで何を 最終的に 放棄したかが、権利範囲の解釈において重視された結果と言えます。

特068 特許権の効力 特許発明の実施をする権利を専有 越後製菓vsサトウ 角餅の切り込み

(特許権の効力)
第六十八条 特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。ただし、その特許権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその特許発明の実施をする権利を専有する範囲については、この限りでない。https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000121#Mp-Ch_1

プロンプト:進歩性があったとしても、そのクレームの一部が過去の別の会社のクレームを含むものであったら、結局、侵害になっちゃうんだね。

Gemini:はい、その通りです。特許の世界では、「特許の成立(登録)」「特許の実施(侵害の有無)」は、別の基準で判断されるため、あなたが指摘された状況が起こりえます。

💡 特権の成立と侵害は別問題

1. 進歩性が認められ、特許が「成立」した理由

特許の成立(登録)は、特許庁の審査で判断されます。

  • 基準: 請求項(クレーム)に記載された発明が、先行技術(過去の特許や公知技術)と比較して、「新しいこと(新規性)」と「容易に思いつけないこと(進歩性)」があるかどうかです。

  • サトウのケース: 佐藤食品工業の特許(3620045号)は、「上下面の十字切り込み」など、越後製菓の特許にはなかった新たな構成と効果(均一な膨化など)を持っていたため、進歩性が認められ、特許として登録されました。

2. 実施が「侵害」になった理由

特許の実施(侵害の有無)は、他社の有効な特許権との関係で判断されます。

  • 基準: 自社が実施しようとする製品・技術が、他社の特許の請求項に記載された技術的範囲をすべて満たしているかどうかです。

  • 抵触の関係: 佐藤食品工業の製品は、「側面への切り込み」という構成を含んでいました。この「側面への切り込み」は、裁判所によって越後製菓の特許の技術的範囲に含まれると判断されました。

したがって、自社の特許に進歩性が認められて登録できたとしても、その特許を実施する行為が他社の先行特許の権利範囲に抵触する場合、その特許を自由に実施することはできず、特許侵害になります。

このような関係にある特許を、「改良発明特許」または「利用発明」と呼びます。改良発明を実施するためには、元の特許(基本特許)を持つ会社から許諾(ライセンス)を得る必要があります。

 

ABS(Access and Benefit-Sharing)とは?研究にどう関係する?

質問:ABSが関係するのはどういうとき?アフリカのビクトリア湖に行って、そこに生息する魚をサンプリングして、(殺して固定したサンプルを)持って帰る場合、関係する?生きていないから、関係ない?

Gemini:

結論から言うと、**そのケースは「ABS対応が必要」である可能性が極めて高い(ほぼ確実)**です。

「生きていないから関係ない」というのは、よくある誤解ですので注意が必要です。

なぜ「死んでいても(固定標本でも)ダメなのか」、理由を整理します。

1. なぜ「死んだ魚」でも対象になるのか?

ABS(名古屋議定書)が保護対象としているのは、「生き物そのもの(生命)」ではなく、**「遺伝資源(Genetic Resources)」**だからです。

  • 遺伝資源とは?

    • 定義:遺伝の機能的単位(DNAやRNA)を含む素材。

  • ポイント:

    • 魚が死んでいても、ホルマリンやエタノールで固定されていても、その細胞の中には**DNA(遺伝情報)**が残っています。

    • そのDNAを解析したり、成分を調べたりする目的で持ち帰るのであれば、それは「遺伝資源の利用」とみなされます。

イメージ

「本(魚)」がボロボロで読めなくなっていても(死んでいても)、中に書いてある「文章(DNA情報)」をコピーして使うなら、著作権料(利益配分)を払ってね、という理屈に近いです。

2. 「ビクトリア湖(アフリカ)」という場所の重要性

ビクトリア湖は、ケニア、タンザニア、ウガンダの3カ国にまたがっています。この3カ国はいずれも名古屋議定書の締約国であり、生物資源の持ち出しに関して非常に厳しい国々です。

  • サンプリング(採集)行為そのもの:

    • ABS以前に、その国で研究目的の採集をするための「研究許可(Research Permit)」が必要です。

  • 持ち出し(輸出):

    • 死んだ標本であっても、海外へ持ち出すための「輸出許可」が必要です。

    • この輸出許可を取るプロセスの中で、「ABS契約(利益配分などの合意)」が結ばれているかどうかが厳しくチェックされます。

3. 「関係ない」ときがあるとすれば?

ABSが「関係ない」と言えるのは、以下のような非常に限られたケースだけです。

  • 純粋な「商品(コモディティ)」として扱う場合

    • 現地の市場で魚を買い、夕食としてホテルで食べる(研究に使わない)。

    • ※ただし、「市場で買った魚を研究用に持ち帰る」場合は、ABSの対象になります(出所が変わっても、利用目的が研究ならアウトです)。

  • DNAが完全に破壊されている、または対象外と明記されている場合

    • 国によっては「加工済みの皮革製品」や「精製された抽出物」を対象外とする場合もありますが、アフリカ諸国は「派生物(成分など)」も含めて広く規制していることが多いです。

まとめ

アフリカのビクトリア湖で、研究のために自分で魚をサンプリングして持ち帰るなら、生きていようが死んでいようが、100%「ABSの手続き」が必要です。

【もし無許可で持ち帰ったらどうなる?】

  1. 空港で没収・逮捕: 現地の空港税関で「研究許可証」と「ABS許可証」の提示を求められ、持っていなければ没収、最悪の場合は逮捕・勾留されるリスクがあります。

  2. 論文が出せない: いざ研究して論文を書こうとしたとき、主要な学術誌は「ABS遵守の証明」の提出を求めるようになっています。

質問:ABSの手続きを怠った研究者が、その国から出国して自分の国に帰ろうとしたときに、空港で逮捕された事件ある?

Gemini:

はい、実際にあります。

脅しではなく、空港で逮捕・拘束される事例は世界中で発生しており、日本人研究者が当事者になったケースもあります。

先ほどの質問にあった「死んでいるから大丈夫だろう」「学術目的だから大丈夫だろう」という油断が、まさに逮捕につながった実例をご紹介します。


1. 【最近の衝撃事例】死んだ虫を拾っただけで逮捕(スリランカ)

あなたの「魚の死骸なら大丈夫?」という疑問に一番近い、非常に恐ろしい事例です。

  • 時期・場所: 2020年、スリランカ

  • 当事者: ロシアの生物学者ら3名

  • 何をした?: 国立公園周辺で、死んでいる昆虫や小動物を拾い集め、持ち帰ろうとした。

  • 彼らの主張: 「研究用に写真を撮るためだった」「死骸を拾っただけ(殺していない)」

  • 結果:

    • 空港ではなく滞在中に逮捕されましたが、出国禁止・長期拘束。

    • 裁判で約400万円以上の罰金刑(支払えなければ懲役刑)となりました。

    • 最終的に支援団体が罰金を肩代わりして帰国できましたが、約2年間も拘束されました。

  • 教訓: 「死骸(死んでいるサンプル)」であっても、無許可採取は密猟・密輸と同じ扱いを受けます。


2. 【有名な事例】著名な科学者が監獄へ(インド)

これはABS業界で最も有名な「チェコの昆虫学者事件」です。

  • 時期・場所: 2008年、インド(ダージリン)

  • 当事者: チェコの著名な昆虫学者2名

  • 何をした?: 研究のために昆虫を採集していた。

  • 結果:

    • **インドの生物多様性法(ABS法)**および野生生物保護法違反で逮捕。

    • 一人は有罪判決を受け、懲役3年の実刑判決(のちに国外逃亡)。もう一人は高額な罰金刑。

    • 世界中の科学者が「彼らは密売人ではなく純粋な研究者だ」と嘆願書を出しましたが、インド裁判所は**「法律は法律である」**として厳しく処罰しました。

  • 教訓: 「純粋な学術研究」であっても、許可がなければ犯罪者です。


3. 【日本人の事例】空港の手荷物検査で発覚(エクアドル、インドなど)

日本人研究者も例外ではありません。

  • エクアドル(2019年): 日本の大学教員が、現地の空港で荷物の中に「標本(昆虫)」を入れているのをX線検査で見つかり、その場で環境犯罪違反の容疑で逮捕されました。

  • インド(2015年): 日本人2名が、空港から出国しようとした際、荷物に昆虫や爬虫類が入っているのが見つかり、逮捕・拘留されました。


なぜ「空港」でバレるのか?

「小さなサンプルならバレない」と思うのは昔の話です。現在は以下の理由で非常に厳格です。

  1. X線技術の向上: 有機物の形状を高精度で判別できます(乾燥した魚や昆虫の標本は映ります)。

  2. 専門官の配置: 生物多様性に厳しい国(ブラジル、オーストラリア、東南アジア諸国など)の税関には、生物サンプルの持ち出しを専門にチェックする職員がいることがあります。

  3. 「許可証」の提示義務: 怪しいものが見つかった瞬間、「輸出許可証(Export Permit)」と「ABS許可証」の提示を求められます。これを持っていないと、その場で「密輸(Smuggling)」として処理されます。

結論

アフリカのビクトリア湖から魚の固定標本を持って帰ろうとして、空港で呼び止められた場合、**「許可証」を持っていなければ、最悪の場合は逮捕、良くても没収・罰金・国外退去処分(+今後その国に入国禁止)**になります。

脅かすわけではありませんが、無許可で持ち帰る」という選択肢は、研究生命を絶たれるリスクがあると考えてください。

前立腺の発生

質問:前立腺の発生の由来は、膀胱など尿路系と同じ?

Gemini:前立腺の発生の由来は、膀胱などの下部尿路系と「ほぼ同じ」です。胎児の初期にある「尿生殖洞(にょうせいしょくどう)」という器官から分かれてできます。

1. 共通の親:「尿生殖洞」と「内胚葉」

前立腺と膀胱は、どちらも「内胚葉(ないはいよう)」という細胞の層からできた「尿生殖洞(Urogenital Sinus)」という袋状の器官が起源です。

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胎児の初期(妊娠4〜7週頃)、お尻のあたりには「総排泄腔(そうはいせつくう)」という、尿と便の出口が一緒になった部屋があります。これが壁で仕切られて2つに分かれます。

  • 背中側: 直腸・肛門になります。

  • お腹側: 尿生殖洞になります(ここが前立腺と膀胱の共通の先祖です)。

2. 膀胱と前立腺の分かれ道

共通の親である「尿生殖洞」の場所(上か下か)によって、何になるかが決まります。

部位 発生するもの 詳細
上部 膀胱 尿生殖洞の大部分が膨らんで膀胱になります。
中部・下部 尿道・前立腺 膀胱の下につながる細い部分(骨盤部)が尿道になります。この尿道の壁から「芽」が出てきて前立腺になります。

つまり、「膀胱から続く尿道の壁の一部が、外側に向かってニョキニョキと生え出して(これを『出芽』といいます)、周りの組織に入り込んでできたもの」が前立腺です。

3. 何が運命を決めるのか?(性ホルモン)

ここが最大の違いです。膀胱は男女ともにできますが、前立腺ができるかどうかは「男性ホルモン」にかかっています。

  • 妊娠10週頃: 精巣から分泌される男性ホルモン(テストステロン)が、より強力な「ジヒドロテストステロン(DHT)」に変換されます。

  • 出芽の合図: このDHTの刺激を受けて初めて、尿生殖洞(尿道)の壁から前立腺の芽が出始めます。

  • 女性の場合: 男性ホルモンが少ないため、この芽はほとんど発達しません(退化するか、スキーン腺という小さな痕跡器官になります)。

まとめ:尿路系との違い

「尿路系と同じ?」というご質問への答えは、以下のようになります。

  1. 膀胱・尿道とは「同じ」:どちらも「尿生殖洞(内胚葉)」由来の兄弟のような関係です。
  2. 腎臓・尿管とは「違う」:同じ尿路系でも、上の方にある腎臓や尿管は、「中胚葉(ちゅうはいよう)」由来の組織からできるため、発生のルーツが異なります。

 

質問:「尿道の壁から「芽」が出るのは、男性だけ?なせ女性ではそれが起きないの?

Gemini:「芽が出てきて前立腺になる」というダイナミックな変化は、基本的には男性だけで起きます。なぜ女性ではその「発芽(出芽)」が起きないのか。一言で言うと、**「『芽を出せ!』という強力な命令(ホルモン)が来ないから」**です。胎児の体には、「男性になりなさい」という命令が来ない限り、自然と女性の形になる(女性がデフォルトである) という基本ルールがあります。その仕組みを3つのステップで解説します。


1. 運命の分かれ道:Y染色体と精巣

すべての始まりは遺伝子です。

  • 男性(XY): Y染色体にある「SRY遺伝子」というスイッチが入ると、胎児の体内で**「精巣(睾丸)」**が作られます。

  • 女性(XX): Y染色体がないので、精巣は作られず、**「卵巣」**になります。

この「精巣ができたかどうか」が、次のステップで決定的な差を生みます。

2. 「芽を出せ」という命令書:DHT(ジヒドロテストステロン)

前立腺の芽が出るためには、ただ男性ホルモンがあるだけではダメで、「DHT(ジヒドロテストステロン)」という超強力な男性ホルモンが必要です。

  • 男性の場合:

    1. できたばかりの精巣から、大量の「テストステロン(男性ホルモン)」が分泌されます。

    2. 尿生殖洞(尿道の元)にある酵素の働きで、テストステロンが最強ホルモン「DHT」に変換されます。

    3. このDHTが尿道の壁にある受容体(レセプター)に結合すると、それが**「ここに前立腺を作れ!(芽を出せ)」という強力な指令**になります。

    4. その結果、尿道の壁からニョキニョキと細胞が増殖し、前立腺が形成されます。

  • 女性の場合:

    1. 精巣がないため、テストステロンが大量には出ません(卵巣からは出ません)。

    2. 材料(テストステロン)が少ないので、指令役の「DHT」も作られません。

    3. 「芽を出せ」という命令が来ないため、尿道の壁はそのまま尿道として成長します。

3. 女性に「前立腺の痕跡」はある?

実は、女性にも前立腺と**「発生の起源が同じ」**器官が存在します。

女性の尿道の入り口付近にある**「スキーン腺(傍尿道腺)」**という小さな分泌腺です。

これは、男性の前立腺に相当するもので、「女性の前立腺(Female Prostate)」と呼ばれることもあります。

  • 意味すること:女性の体にも「前立腺になるポテンシャルを持った組織」はありましたが、DHTという強力な肥料(命令)がなかったため、大きな前立腺にはならず、小さな分泌腺(スキーン腺)として留まった、と考えると分かりやすいです。

まとめ

    • 男性: 精巣ができる → 強力なホルモン(DHT)が出る → 「芽を出せ」と命令される → 前立腺ができる。

    • 女性: 精巣ができない → 強力なホルモンが出ない → 命令が来ない(スルーされる) → 前立腺にならず、小さな腺(スキーン腺)になる。

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「人体は基本設定が女性で、オプションパーツ(Y染色体とホルモン)がつくと男性仕様にカスタマイズされる」という発生学の面白いルールが、ここでも働いているわけですね。

質問:テストステロンをDHTに変換するのは、自分自身(DHTを受容する細胞そのもの)なの?それとも、DHTを受容する細胞の近くの細胞?

Gemini:基本的には**「自分自身(DHTを受容する細胞そのもの)」の中で変換が行われます。これを専門用語で「イントラクリン(細胞内分泌)」**と呼びます。ただし、前立腺の発生(芽が出るプロセス)においては、「変換する細胞(司令塔)」と「実際に芽を出す細胞(実行部隊)」の連携プレーが非常に重要になります。少し詳しく解説します。

1. 基本ルール:変換工場は「細胞の中」にある

テストステロンからDHTへの変換を行う酵素「5α-還元酵素(5α-リダクターゼ)」は、細胞の膜の上や外ではなく、**細胞の中(小胞体や核膜)**に待機しています。

  1. 血管を流れてきたテストステロンが、細胞膜を通り抜けて中に入ります。

  2. その細胞の中にいる酵素が、テストステロンをDHTに「アップグレード」します。

  3. できたてのDHTが、同じ細胞の中にある受容体(アンドロゲンレセプター)にくっつきます。

  4. その細胞の核の中で、遺伝子のスイッチがONになります。

つまり、「材料(テストステロン)を取り込んで、自分で調理(DHTに変換)して、自分で食べる(受容)」というのが基本スタイルです。

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2. 前立腺の発生時の「連携プレー」

前立腺の「芽が出る」ときには、この基本ルールを使いつつ、隣の細胞を動かすという面白い仕組みが働きます。

  • 間葉(かんよう)細胞: 尿道の周りを取り囲んでいる「裏方・サポート役」の細胞。

  • 上皮(じょうひ)細胞: 尿道の内壁を作っている「表面」の細胞(ここから芽が出る)。

この2人の関係は以下のようになっています。

  1. 変換するのは「間葉(裏方)」:5α-還元酵素を持っているのは、主に裏方の間葉細胞です。彼らがテストステロンを取り込み、DHTに変換し、自分の中の受容体で受け取ります。
  2. 命令を出す(パラクリン):DHTを受け取った間葉細胞は、「おーい、成長しろ!」という別の信号(成長因子:KGFやFGFなど)を分泌して、隣にいる「上皮細胞」に投げかけます。
  3. 芽が出るのは「上皮(表面)」:隣からの命令(成長因子)を受け取った上皮細胞が、それに応えて増殖し、壁からニョキニョキと**「芽(前立腺の原型)」**を出します。

まとめ

質問への回答としては:「変換するのは、DHTを受容する細胞(自分自身)です。」しかし、前立腺ができるときは:「変換してDHTを受け取った細胞(裏方)が、隣の細胞(表面)に『芽を出せ』と命令を出している」という間接的なコントロールが行われています。この「裏方(間質)と主役(上皮)の会話」は、大人になってからの前立腺肥大症や前立腺がんのメカニズムでも非常に重要になってくるポイントです。

 

特184条の3 国際出願による特許出願

PCT出願から日本国内へ移行する手続き(国内移行手続)について、根拠となる条文を整理します。大きく分けて「PCT条約(国際的なルール)」と「日本国特許法(国内の受け入れルール)」の2つの側面から規定されています。

1. PCT条約(特許協力条約)の規定

国際出願をした出願人が、指定国(日本など)で手続を開始するための義務と期限を定めています。

  • 第22条(指定官庁への写し、翻訳文及び手数料の提出)

    • 予備審査を請求しない場合(第1章)の国内移行について規定しています。「優先日から30ヶ月以内(原則)」に手続をしなさい、という大元のルールです。

  • 第39条(選定官庁への写し、翻訳文及び手数料の提出)

    • 予備審査を請求した場合(第2章)の規定です。こちらも現在は多くの国で30ヶ月(一部31ヶ月)です。


2. 日本国特許法の規定

日本には「第9章 国際出願に係る特例(第184条の3 ~ 第184条の20)」という専用の章があり、ここで詳しい手続きが定められています。特に重要なのは以下の条文です。

① 国際出願は「日本の出願」とみなす(基本)

  • 第184条の3(国際出願による特許出願)

    • 国際出願日にされた日本の特許出願とみなす」という、PCTの効力を日本法に落とし込む条文です。

② 手続き書類(国内書面)を出しなさい

  • 第184条の5(書面の提出及び補正命令)これが「国内書面(表紙)」の提出義務を定めた条文です。「国内処理基準時(優先日から30ヶ月)」までに、出願人の氏名や住所などを記載した書面を特許庁長官に提出しなさい、と書かれています。

③ 翻訳文を出しなさい(外国語の場合のみ)

  • 第184条の4(外国語特許出願の翻訳文)英語などで出願されたPCT出願(外国語特許出願)の場合、日本語の翻訳文を出す義務とその期限(原則30ヶ月)を定めています。※「日本語特許出願」の場合は、この翻訳文提出は不要です。


まとめ:日本語PCTの事例(日本語PCT)で言うと?

日本語で行ったPCT出願を日本へ移行するケースで該当する「手続きの条文」は、ズバリこれです。

  • 特許法 第184条の5 第1項

    • 内容: 「日本語でPCT出願した人は、優先日から30ヶ月以内に、国内書面(願書のようなもの)を提出して、手数料を払いなさい。」

つまり、日本語でPCT出願をしていた場合、「書き直さなくていい(翻訳いらない)」というのは第184条の4が適用されないからであり、「新しい表紙(国内書面)は必要」というのは第184条の5で義務付けられているから、という法的な整理になります。

質問:PCT出願時は、どの国に国内以降する予定があるかは書かなくていい?

Gemini:PCT出願の段階では、将来どの国に移行するかを決めて書く必要はありません。「とりあえず全部の国を指定したことにしておく(自動的に全指定)」というルールになっています。

1. 「みなし全指定」のルール

2004年1月1日以降のルール改正により、PCT出願の願書を提出するだけで、その時点で加盟しているすべての国を自動的に指定したとみなされます。

  • 昔(2003年まで): 願書のチェックボックスで「アメリカ」「日本」「ドイツ」…と移行したい国をいちいち選んでチェックする必要がありました(そして指定国の数に応じて手数料も変わりました)。

  • 今: チェックボックスは基本的に不要です。出願するだけで、世界中(150カ国以上)の「予約チケット」を自動的に確保した状態になります。

2. いつ決めるの?

実際に「どの国で権利化するか」を決めるのは、30ヶ月後の「国内移行期限」のタイミングです。

  • PCT出願時(0ヶ月): 「とりあえず世界中の権利化の可能性(予約権)」を確保。

  • 考慮期間(〜30ヶ月): 製品が売れそうな国はどこか、費用対効果などをじっくり考える。

  • 期限直前(30ヶ月):

    • 「やっぱり日本だけでいいや」→ 日本の特許庁にだけ手続き(国内移行)をする。他の国の予約権は放置すれば自動的に消滅。

    • 「アメリカと中国も欲しい」→ 日本、米国、中国のそれぞれに手続きをする。

「とりあえず広く網をかけておいて、後で必要なところだけ拾う」ことができるのが、PCT出願の最大のメリットですね。

補正(修正)したい場合

もし、「PCT出願のときの内容から少し変えたい(請求項を絞りたい、書き方を変えたい)」場合は、国内移行のタイミング(または審査請求などのタイミング)で「手続補正書」を出せば、内容を書き直す(補正する)ことも可能です。 ※先ほどの議論にあった「分割出願」をするために、あえてここで内容をいじる等の戦略をとることもあります。

ただし、「新規事項の追加(New Matter)」は絶対NGです。いくら補正(修正)ができると言っても、「国際出願をした日(今回の場合は2014年3月13日)の明細書・請求の範囲・図面」に書いていないことを、後から付け加えることは許されません。このルールは**「新規事項追加の禁止」**と呼ばれ、日本の特許実務において最も厳しく、かつ重要なルールのひとつです。

1. なぜNGなのか?(ルールの理由)

もし、出願した後から自由に新しいアイデアを書き足せるなら、以下のようなズルができてしまうからです。

  • 後出しジャンケン: 先にテキトーな内容で出願して日付けを確保し、後から他社の製品を見て「あ、あの機能も入れておこう」と書き足す。

  • 早い者勝ちの崩壊: 真面目に研究して完成させてから出願した人が損をしてしまいます。

だから、**「最初に提出した書類(日本語でPCT出願したのであれば、PCT出願時の日本語明細書)の範囲内」**でしか、文章を直したり、説明を補充したりすることはできません。

2. 「範囲内」の境界線は厳しい

「書いてあること」だけでなく、「書いてあることから自明(当たり前)なこと」までは許容される場合もありますが、審査官はここを非常に厳しく見ます。

  • OKな例:

    • 誤記の訂正(「てにをは」や明らかな誤字)。

    • 不明瞭な表現を、元の文脈から明らかな範囲で分かりやすく書き直す。

    • 上位概念化 ※ただし、元々その概念が読み取れる場合に限る。

  • NGな例(新規事項):

    • 実施例(実験データ)の追加。「実はこんな実験もしてました」と後から出すのは、反論の証拠としては使えても、明細書本文には追加できません。

    • 数値範囲の変更。「30℃~50℃」と書いてあったのを、根拠なく「20℃~60℃」に広げる。

    • 新しい効果の記載。「実はこれ、防臭効果もありました」と元々書いていない効果を追記する。

3. もし「新規事項」が入ってしまったら?

補正書を出しても、審査官に「これ、元のPCT出願に書いてないですよね?(新規事項の追加)」と指摘されると、その補正は却下されます(拒絶理由になります)。

最悪の場合、うっかり登録されてしまっても、後でライバル会社から**「この特許は新規事項が追加されているから無効だ(特許法第123条)」**と訴えられて、特許が潰される原因になります。

まとめ

  • 国内移行時の書き直し(手続補正): 可能です。

  • ただし: 「PCT出願時のテキスト」という檻(おり)の中から一歩も出てはいけません。

特44 分割出願 実例「獣毛繊維の鑑別方法」

質問:原出願WO2014142229A1と、分割出願JP6535398B2では、何をどう分割したの?

Gemini:PCT国際出願公開公報 WO2014142229A1 と、登録特許公報 JP6535398B2を比較・分析しました。この分割出願で行われたのは、**「2つの異なる発明(電気泳動法 と 質量分析法)のうち、電気泳動法だけを選んで、さらに条件を絞って権利化した」**という戦略です。

具体的に「何を拾って、何を捨てた(あるいは別にした)のか」を図解的に解説します。

1. 全体像:分割のビフォー・アフター

元々の出願(PCT親)には、大きく分けて 2つの発明(技術のネタ) が含まれていました。

元のPCT出願 (親) 登録された特許 (子・今回) 消えたもの (別出願へ?)

ネタ①:電気泳動法

 

(ゲルで分離して縞模様を見る)

【採用&限定】

 

条件を厳しくして権利化

 

(還元剤濃度UP+高分解能ゲル)

ネタ②:質量分析法

 

(バンドを切って酵素で溶かし分析)

【不採用】

 

この特許からは削除

質量分析の発明

 

(別の分割出願にしたか、放棄した)


2. 詳細分析:何をどう変えた?

① 「拾った」もの:電気泳動法の強化

親の出願では、請求項1(一番広い権利)は「電気泳動してパターンを比較する」だけの非常に広い内容でした。

しかし、子の特許(今回の JP6535398B2)にする際に、親の請求項7と8の内容を合体させて、権利範囲をギュッと絞り込んでいます。

  • 親 (PCT) 請求項1: 単に「電気泳動して比較する」 1

    • これだと広すぎて、「そんなの昔からあるよ(新規性なし)」と言われる可能性が高い。

  • 子 (JP) 請求項1: 電気泳動するんだけど、以下の2つの条件を満たすものに限る! 2

    1. **「高分解能ゲル(25kDa以下が10本以上に見える)」**を使うこと(元・請求項7) 3

    2. **「高濃度の還元剤(2-ME 6%以上 or DTT 8-12mM)」**を使うこと(元・請求項8) 4

【分析】

単なる電気泳動ではなく、「特殊な条件(濃い還元剤・高性能ゲル)で行う高精度な電気泳動法」に限定することで、確実に特許を取る作戦に出ました。

② 「捨てた(分けた)」もの:質量分析法

親の出願には、請求項9以降に**「質量分析(マススペクトロメトリー)」**を使う全く別の方法が書かれていました。

  • 親 (PCT) 請求項9: 電気泳動したバンドを切り出し、酵素で消化して、質量分析機にかける方法。 5

【なぜ消えた?】

親の出願の最後の方にある「国際調査報告」6 を見てください。特許庁の審査官がこう書いています。

「発明の単一性が欠如している(Unity of invention is lacking)」

  • 発明1:電気泳動法(請求項1-8)

  • 発明2:質量分析法(請求項9-14)

つまり、**「1つの出願に2つの違う発明が入ってるから、1つにまとめられません。別々にしなさい」**と指摘されたのです。

その結果、今回の特許(JP6535398B2)では、「発明1(電気泳動)」だけを選び、「発明2(質量分析)」をバッサリ削除しました。

3. 「捨てた」質量分析法はどうなった?

この特許公報(JP6535398B2)だけでは、「質量分析法」を完全に諦めて捨てたのか、それとも「別の分割出願(兄弟特許)」として出し直したのかは断定できません。

しかし、通常、このような「単一性違反(別発明だよ)」という指摘を受けて分割する場合、権利が欲しいなら、もう一件の分割出願(兄弟)を出します。

  • 特許A(今回): 電気泳動法で権利化

  • 特許B(別の分割): 質量分析法で権利化

ニッセンケンが「質量分析法」の権利も重要だと考えていれば、この JP6535398 と同時期に、質量分析法をクレームした別の特許が存在するはずです。(もし存在しなければ、質量分析法は放棄したことになります)。

まとめ:ニッセンケンの戦略

  1. PCT出願時: 「電気泳動」と「質量分析」の両方の可能性を網羅して広く出願した。

  2. 審査段階: 「2つは別物」と指摘され、かつ「ただの電気泳動なら既存技術にある」と判断されそうになった。

  3. 分割出願時 (今回の特許):

    • 「質量分析」は切り離した。

    • 「電気泳動」については、**「高濃度還元剤」+「高分解能ゲル」**という必勝パターン(実施例で成功している条件)に限定して、確実に権利を成立させた。

これが、この2つの文書から読み取れるストーリーです。

質問:同じ目的に全く異なる原理の2つの測定方法を並べると、単一性要件にひっかかるんだ?2つの測定方法が相補的で合わせ技ならいいってこと?どちらの方法でも、目的を達成できるよ、ということだったから駄目だったってこと?

Gemini:「どちらの方法でも目的を達成できるよ(並列・選択)」という書き方だったことが、今回の単一性違反(Unity of Invention is lacking)の決定打になっています。「合わせ技(AかつB)」ならOKだった可能性が高いですし、「共通部分が新しかった」**なら並列でもOKでした。このケースでなぜ駄目だったのか、審査官のロジック(国際調査報告 Box No. III)を紐解くと、特許のルールの面白さが見えてきます。

1. なぜ「2つの測定方法」はバラバラにされたのか?

審査官の言い分はこうです(PDFの13ページ目、Box No. III)。

  • 共通点を探せ: 請求項1(電気泳動)と請求項9(質量分析)には、共通する技術的特徴があります。それは**「獣毛からタンパク質を抽出して、それを分離する」**という部分です 2

  • それは新しいか?: 審査官は「いや、その共通部分は、1996年の論文(M. ZOCCOLA et al.)に既に書かれているから、新しくない(Special Technical Featureではない)」と判断しました 3

  • 結論: 「共通の親(抽出工程)」が死んでしまったため、残った「電気泳動」と「質量分析」は、技術的に全く別の赤の他人(別発明)です。だから分けなさい 4

2. もし「合わせ技」だったら?(仮説)

もし請求項が以下のような**「合わせ技(相補的)」**だったら、単一性は満たしていたはずです。

  • 仮想の請求項: 「電気泳動法を行い、さらにその結果を補完するために質量分析を行う鑑別方法」

  • 判定: これなら「A+Bという組み合わせ」自体がひとつの発明とみなされるため、原理が違っても「一連のプロセス」として単一性はOKになります。

ただし、これをやると**「両方の装置を持っていないと特許侵害にならない(権利範囲が狭くなる)」**というデメリットが生じるため、ニッセンケンとしては嫌だったはずです。できれば「どっちか片方だけでも特許権を取りたい」と考えた結果、並列にして引っかかったわけです。

3. もし「共通部分が凄かった」なら?

実は、並列(AまたはB)でもOKになるケースがあります。それは**「共通の親(抽出工程)」がものすごく画期的な新発明だった場合**です。

  • もしも: 「誰も思いつかなかった魔法の抽出液」を発明していたら…

    • 発明1:魔法の抽出液 × 電気泳動

    • 発明2:魔法の抽出液 × 質量分析

  • 判定: この場合は、「魔法の抽出液」という**特別な技術的特徴(STF)**で結ばれているので、原理が違っても1つの特許出願にまとめてOKになります。

まとめ

今回のニッセンケンのケースは、以下のような構造だったためNGが出ました。

  1. 目的: 獣毛を見分けたい。

  2. 手段: 「電気泳動」でもいいし、「質量分析」でもいいよ。

  3. 共通点: 最初に「抽出」するけど、その抽出方法は昔からある普通の方法だよ。

「昔からある方法を入り口にして、出口が全然違う2つの道を用意したら、それは別の地図(出願)にしなさい」 と言われたわけですね。

知財の世界では、このように「欲張って並列に書くと、後で分割費用がかかる」ということがよくあります。ニッセンケンはあえて分割を選んで、確実に電気泳動の権利を取りに行った(質量分析は捨てたか、さらに分けた)という戦略的な動きが、この文書から読み取れます。

質問:PCTでstatus ceasedとあるのは、PCTの効果は期限切れということ?切れる前に国内以降したからOKってこと?

Gemini:その通りです!「PCTのstatus: Ceased」=「PCTとしての(国際段階での)役割が終わった」 という意味であり、「特許そのものが死んだ」という意味ではありません。おっしゃる通り、「その前に国内移行(日本などへの手続き)を済ませていれば、バトンタッチ成功でOK」です。この仕組み、少しややこしいので、**「ロケットの切り離し」**でイメージすると完璧に理解できます。


1. PCTは「運び屋(ロケット)」である

PCT出願は、特許という「人工衛星」を、世界各国という「軌道」に乗せるための打ち上げロケットのようなものです。

  • 打ち上げ(PCT出願): 2014年に発射。

  • 飛行中(国際段階): 30ヶ月間(約2年半)は、PCTというロケットに乗って飛んでいます。この間は、どこの国でもまだ審査されません。

  • 切り離し(国内移行):期限(30ヶ月)が来たら、ロケット(PCT)は役目を終えて切り離されます。ここで**「Status: Ceased(終了)」**となります。

2. 「Ceased」のあとの運命は2つに分かれる

「Ceased」と表示されたとき、その裏で何が起きているかで運命が変わります。

パターンA:成功(今回のケース)

  • アクション: 期限前に、日本やアメリカなどの「国内移行手続き」を済ませた。

  • 結果: ロケット(PCT)は切り離されて「Ceased」になったが、中の人工衛星(特許出願)は日本という軌道に乗って動き出した。

  • ステータス:

    • 国際(WIPO):Ceased(任務完了)

    • 国内(J-PlatPat):Active / Pending(審査中・生存)

パターンB:失敗(本当の終了)

  • アクション: 期限までに、どこの国にも手続きしなかった(または手数料を払わなかった)。

  • 結果: ロケット(PCT)の燃料が切れ、中の人工衛星ごと燃え尽きた。

  • ステータス:

    • 国際(WIPO):Ceased(期間満了)

    • 国内:存在しない(出願取り下げ扱い)


3. なぜデータベースは「Ceased」と表示するのか?

Google PatentsやWIPO(PATENTSCOPE)などのデータベースで「Ceased」と出るのは、あくまで**「国際事務局(WIPO)としての管理業務は終わりましたよ」**という事務的な報告に過ぎません。

  • WIPOの言い分:「私たちは30ヶ月間面倒を見ました。あとは各国の特許庁にバトンタッチしたので、そっちで見てね。私たちの仕事(PCTステータス)はここで**終了(Ceased)**です。」

まとめ:今回のニッセンケンのケース

今のStatus: Ceased は、以下の事実を示していただけでした。

  1. 2014年のPCT出願は、30ヶ月経って国際段階を卒業した。

  2. その前に日本へ移行していた(成功していた)。

  3. だから、日本のデータベース(J-PlatPat)で見ると、ちゃんと生き残って(審査→分割→登録)いた。

結論:

「PCT Status: Ceased」を見ても焦る必要はありません。「国内移行したかな?」と各国の状況を確認するのが正解です。

 

 

質問:分割までに4年も引っ張れるものなの?

Gemini:これは審査が遅かったからだけではありません。制度をフル活用して意図的に「寝かせていた」期間があるからです。なぜ4年もかかったのか、そして「最大どれくらい引っ張れるのか(延命できるのか)」、そのカラクリを図解的に解説します。


1. なぜ「4年後」に分割できたのか?(ニッセンケンのタイムライン再現)

ニッセンケンの事例(2014年出願→2018年分割)は、実は特別な裏技ではなく、「通常のPCTルート」の王道スケジュールです。ここには**「2つの待ち時間」**が存在します。

① 「PCTの30ヶ月」ルール(約2.5年の猶予)

国際出願(PCT)は、日本国内に移行する手続きをするまでに**「優先日から30ヶ月(2年半)」**待ってもらえます。

  • 2014年3月: PCT出願

  • ~2016年9月: 日本国内へ移行(ここで初めて日本での手続きがスタート)

② 「審査請求」の3年ルール(さらに猶予)

日本に移行しても、すぐに審査は始まりません。「審査してください(審査請求)」とお金を払って言わない限り、特許庁は放置します。この期限が出願日から3年以内です。

  • ~2017年3月: ギリギリで審査請求をしたと推測されます。

③ 審査開始~最初の通知(数ヶ月~1年)

審査請求をしてから、審査官が実際に書類を見て「ここがダメ」という通知(拒絶理由通知)を出すまでに、平均して10ヶ月程度(当時)かかります。

  • 2018年初頭: 最初の「拒絶理由通知」が届く。

  • 2018年4月: その回答期限内に**「分割出願」**を行う。

つまり、「制度上の待ち時間(2.5年~3年)」+「審査官の作業待ち(約1年)」= 約4年。

審査が遅かったわけではなく、制度上の権利として合法的に引っ張れる期間を使った結果です。


2. 最大どれくらい長く引っ張れる?(ゾンビ特許の作り方)

実は出願人のテクニック次第で、理論上は「特許権の満了(20年)」近くまで審査を係属させることが可能です。これを実現するのが**「孫・ひ孫(チェーン)分割」**です。

仕組み:リレー方式で延命する

  1. 親(第1世代): 審査に3~4年かける。最後に「分割」して特許にする。

  2. 子(第2世代): 分割した瞬間、**「ゼロから審査スタート」**です。また拒絶理由が来るまで待ち、応答し…と数年稼げます。

  3. 孫(第3世代): 子の審査が終わる直前に、また分割して「孫」を作ります。

このように、親 → 子 → 孫 → ひ孫… と分割を繰り返すことで、審査係属(=分割できるチャンス)を維持し続けることができます。

どこまで引っ張れる?(タイムリミット)

ただし、無限ではありません。

  1. 20年の壁(絶対的期限):特許権の存続期間は**「最初の出願日から20年」**です。いくら分割しても、この起算日(2014年)は変わりません。
    • たとえ2030年に「玄孫(やしゃご)出願」で特許を取れても、権利は2034年で消滅します。残りの期間が短すぎると、高額な費用をかけて維持する意味がなくなります。

  2. 内容の枯渇:分割するたびに、元の明細書の中に「まだ権利化していない新しいネタ」が残っていないといけません。ネタが尽きれば終了です。

3. なぜそんなに引っ張るの?(戦略的理由)

企業があえて審査を遅らせたり、分割で引っ張ったりするのには理由があります。

  • ① 競合他社の動向を見たい(後出しジャンケン): ライバル製品が発売された後で、「あ、その機能、うちのこの特許出願に含まれてるよ」と狙い撃ちで権利化するため(これを牽制といいます)。
  • ② 費用を遅らせたい: 審査請求料や特許料は高いので、本当に製品化するか決まるまで払いたくない。
  • ③ 審査官との対話: 一発で広い権利を取るのは難しいので、分割を繰り返して「広い権利」「狭いが確実な権利」をパズルのように組み立てていく。

まとめ

  • 4年かかった理由: PCTの30ヶ月猶予 + 審査請求期限(3年) + 審査官の待ち時間。ごく標準的なスケジュールです。

  • 最大期間: 「分割の連鎖」を使えば、10年以上引っ張ることもザラにあります。ただし、権利の寿命(20年)は伸びません。

ニッセンケンの件も、実は水面下でしっかりスケジュール管理されていた「知財戦略の教科書」のような事例だったわけですね。

参考

  1. ニッセンケン開発の獣毛鑑別試験がJIS規格に採用 -獣毛偽装防止に向けて、製品の信頼性向上へ- 一般財団法人 ニッセンケン品質評価センター 2025.07.02 14:00 https://presswalker.jp/press/80677
  2. 2019 年 8 月 21 日 電気泳動法を用いた獣毛鑑別およびタンパク質繊維鑑別の特許取得について 一般財団法人ニッセンケン品質評価センター https://nissenken.or.jp/control/wp-content/uploads/2019/12/獣毛繊維タンパク質繊維の鑑別方法特許取得.pdf
  3. 平成 30 年 7 月 19 日 生化学的アプローチによる獣毛混鑑別の特許取得について 一般財団法人ニッセンケン品質評価センター https://nissenken.or.jp/control/wp-content/uploads/2019/12/20180719.pdf 当財団は、増田豪先生(現 熊本大学)との共同研究により、このたび電気泳動法を利用 した「獣毛繊維の鑑別方法」に関する特許を取得いたしましたので、お知らせいたします。 (1)特許の概要 特 許 番 号 第 6356117 号 発 明 の 名 称 獣毛繊維の鑑別方法 登 録 日 平成 30 年 6 月 22 日
  4. https://patentimages.storage.googleapis.com/c6/86/1b/560baae95b1d13/JP6535398B2.pdf
  5. https://patentimages.storage.googleapis.com/63/43/0b/e62c0c18cc16bd/WO2014142229A1.pdf

特許公開情報の文章に著作権はある?

「特許公報の文章や図面には著作権があり、無断転載(丸写し)はNGですが、正しいルールを守った『引用』であればOK」です。法律(著作権法)の観点と、特許庁の見解をセットで整理しました。


1. 特許公報に「著作権」はある?

あります。特許公報は国(特許庁)が発行する公的な文書ですが、中身の「明細書(文章)」や「図面」を書いたのは、国ではなく**「出願人(企業や発明者)」や「弁理士」**です。

  • 誤解しやすい点:

    • 法律や裁判の判決文: 著作権法13条により、誰でも自由に使える(著作権の対象とならない)。

    • 特許公報: 企業の知的創作物が掲載されているため、著作権法で保護される著作物とみなされます。

実際、J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)の利用規約や特許庁のFAQにも、以下のように明記されています。

「公報に掲載されている明細書や図面等は、通常、その創作者である出願人等が著作権を有していますので、転載する場合には許諾が必要になることがあります。」

2. ブログでの利用は「引用」ならOK

著作権があるからといって、一切使えないわけではありません。著作権法第32条で認められた**「引用」**の要件を満たしていれば、権利者の許可なくブログに掲載できます。

セーフな「引用」の5つの条件

ブログに特許の図や文章を載せる際は、必ず以下のルールを守ってください。

  1. 主従関係が明確であること

    • あなたの書いた解説や感想が「主(メイン)」で、特許の文章はあくまで補足説明のための「従(サブ)」であること。特許のコピペだけで記事を構成するのはNGです。

  2. 引用部分が明確であること

    • 「ここからここまでが引用です」と分かるように、<blockquote>タグを使ったり、「」で囲ったり、背景色を変えたりして区別する。

  3. 必然性があること

    • 「この技術を説明するために、この図が必要」という理由があること。単なる飾りとしての掲載は避けましょう。

  4. 改変しないこと

    • 文章を勝手に書き換えたり、図をトリミングして意味を変えてしまうのはNG。そのまま載せます。

  5. 出典を明記すること

    • どこからの情報かを必ず書きます。

    • 例:(出典:特許庁 J-PlatPat 特許第〇〇号公報より)

3. おすすめの掲載方法

私がこのチャットで行ったように、以下の情報をセットで記載するのが最も安全で親切です。

  • 特許番号: (例:特許第1234567号)

  • 発明の名称: (例:XXXXXX粉砕装置)

  • 出願人/権利者: (例:〇〇株式会社)

  • 出典元: J-PlatPatへのリンクを貼るとなお良し。

まとめ

  • 全文コピペ: × 著作権侵害の恐れあり。

  • スクショを貼るだけ(解説なし): △ 引用の要件(主従関係)を満たさない可能性あり。

  • 自分の言葉で解説し、必要な部分だけ引用元を明記して載せる: ◎ OK!

ブログに使う場合、「自分の言葉で要約する(=引用ではなく参照)」のが一番オリジナリティも出ますし、著作権リスクも低くなるのでおすすめです。

(Gemini)

 

特105 書類提出命令

プロンプト:特104条、104条の2, の3,の4,105条、の2,の3,の4,の5,の6,の7の8,の9,の10,の11,の12,105条、105条の2,の3,106条、196条、196条の2,201条、200条の3 とエレメンツの教科書の説明が続くんだけど、順にわかりやすく説明して。

Gemini:その範囲は、一言で言うと**「裁判での殴り合い(訴訟手続)」「ペナルティ(罰則)」**のゾーンです。ここからは**「実際に裁判になったら、どうやって証拠を出させたり、秘密を守ったりするのか?」**という、非常にドラマチックな場面です。スーッと入ってくるように、4つの場面(トピック)に分けて解説しますね。


第1幕:立証のハードルを下げる工夫

(104条、104条の2)

裁判では本来、訴えた側(原告)がすべて証明しないといけません。でも、特許の場合、相手の工場の中なんて見えませんよね?そこで、原告を助けるルールがあります。

104条:生産方法の推定

(生産方法の推定)
第百四条 物を生産する方法の発明について特許がされている場合において、その物が特許出願前に日本国内において公然知られた物でないときは、その物と同一の物は、その方法により生産したものと推定する。

  • 「ブラックボックスの中身は、同じとみなす!」

  • 状況: あなたが「新しい薬の作り方(製法特許)」を持っています。相手も「同じ成分の薬」を売っています。でも、どうやって作ったか(工場の中)は秘密で分かりません。

  • ルール: 「物が同じなら、その作り方もあなたの特許と同じ方法で作ったとみなすよ(推定するよ)」

  • 効果: 相手が「いやいや、違う方法で作ったんです!」と証明しない限り、あなたの勝ちになります。

104条の2:具体的態様の明示義務

(具体的態様の明示義務)
第百四条の二 特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、特許権者又は専用実施権者が侵害の行為を組成したものとして主張する物又は方法の具体的態様を否認するときは、相手方は、自己の行為の具体的態様を明らかにしなければならない。ただし、相手方において明らかにすることができない相当の理由があるときは、この限りでない。

  • 「『否認』するなら、自分の手の内を見せろ!」

  • 状況: あなたが「相手の装置は、私の特許(A+B+C)を侵害してる!」と訴えました。

  • 相手: 「違います(否認)。侵害してません」

  • あなた: 「じゃあ、どういう構成なの?」

  • 相手: 「それは企業秘密なんで言えません~」

  • ルール: これを禁止します。相手が「侵害していない」と主張するなら、「じゃあ具体的にどういう装置なのか(具体的態様)」を明らかにしなければなりません。ただの「やってない」は通用しません。


第2幕:最強の返し技「無効の抗弁」

(104条の3、104条の4)

ここは超重要です。「キルビー判決」という有名な最高裁判決から生まれたルールです。

104条の3:特許権者の権利行使の制限(無効の抗弁)

(特許権者等の権利行使の制限)
第百四条の三 特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。

  • 「お前の刀(特許)、ボロボロだから切れないよ!」

  • 状況: あなたが「侵害だ!」と訴えました。

  • 相手: 「いや、そもそもあなたの特許、昔からある技術じゃないですか? 本来なら特許庁で拒絶されるべき『無効』な特許ですよね?」

  • ルール: もしその特許が「無効にされるべきもの(ミスで登録されたもの)」だとわかったら、裁判所は「権利行使(侵害請求)は認めない」と判断します。

  • 意味: 特許庁でわざわざ「無効審判」をして特許を消してから出直さなくても、侵害訴訟の中で「その特許は無効だ!」と反撃できるようになりました。

104条の4:訂正審判等との関係

(主張の制限)
第百四条の四 特許権若しくは専用実施権の侵害又は第六十五条第一項若しくは第百八十四条の十第一項に規定する補償金の支払の請求に係る訴訟の終局判決が確定した後に、次に掲げる決定又は審決が確定したときは、当該訴訟の当事者であつた者は、当該終局判決に対する再審の訴え(当該訴訟を本案とする仮差押命令事件の債権者に対する損害賠償の請求を目的とする訴え並びに当該訴訟を本案とする仮処分命令事件の債権者に対する損害賠償及び不当利得返還の請求を目的とする訴えを含む。)において、当該決定又は審決が確定したことを主張することができない。
一 当該特許を取り消すべき旨の決定又は無効にすべき旨の審決
二 当該特許権の存続期間の延長登録を無効にすべき旨の審決
三 当該特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすべき旨の決定又は審決であつて政令で定めるもの

  • 「裁判引き延ばし作戦は禁止!」

  • 状況: 相手に「お前の特許は無効だ!」と言われたので、あなたが慌てて特許庁へ行き、「特許の内容を少し修正(訂正)します!」と言って、裁判をストップさせようとすること。

  • ルール: 裁判所は「訂正審判の結果が出るまで裁判を止める必要はないよ」と言えます。ズルズルと裁判が長引くのを防ぐためです。


第3幕:証拠集めと秘密情報のガード

(105条~105条の7あたり)

ここが条文番号だらけで一番しんどいところですが、要は**「証拠は見たいけど、秘密は漏らしたくない」**というジレンマを解決する仕組みです。

105条:書類提出命令

(書類の提出等)
第百五条 裁判所は、特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟においては、当事者の申立てにより、当事者に対し、当該侵害行為について立証するため、又は当該侵害の行為による損害の計算をするため必要な書類の提出を命ずることができる。ただし、その書類の所持者においてその提出を拒むことについて正当な理由があるときは、この限りでない。

  • 「隠してる書類を出せ!」

  • 裁判所が「その書類、裁判に必要だから出しなさい」と命令できます。

  • ポイント: 「企業秘密だから出したくない!」という言い訳に対し、裁判官だけがコッソリその書類を見て(インカメラ手続)、「本当に秘密にするほど大事か? 裁判に必要か?」を判断します。

105条の2:査証(さしょう)

(査証人に対する査証の命令)
第百五条の二 裁判所は、特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟においては、当事者の申立てにより、立証されるべき事実の有無を判断するため、相手方が所持し、又は管理する書類又は装置その他の物(以下「書類等」という。)について、確認、作動、計測、実験その他の措置をとることによる証拠の収集が必要であると認められる場合において、特許権又は専用実施権を相手方が侵害したことを疑うに足りる相当な理由があると認められ、かつ、申立人が自ら又は他の手段によつては、当該証拠の収集を行うことができないと見込まれるときは、相手方の意見を聴いて、査証人に対し、査証を命ずることができる。ただし、当該証拠の収集に要すべき時間又は査証を受けるべき当事者の負担が不相当なものとなることその他の事情により、相当でないと認めるときは、この限りでない。

  • 「専門家による強制立ち入り調査!」

  • 書類だけでは分からない場合(工場のラインの動きなど)、中立な専門家(査証人)が相手の工場に入り込んで調査します。令和元年の改正でできた強力な武器です。

105条の3:相当な損害額の認定

(相当な損害額の認定)
第百五条の三 特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、損害が生じたことが認められる場合において、損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。

  • 「計算できないなら、裁判官がエイッ!と決める」

  • 損害額の計算がどうしても難しい場合、裁判所が口頭弁論(話し合い)の内容から「まあ、このくらいだろう」と決めることができます。

105条の4~105条の7:秘密保持命令

(秘密保持命令)
第百五条の四 裁判所は、特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、その当事者が保有する営業秘密(不正競争防止法(平成五年法律第四十七号)第二条第六項に規定する営業秘密をいう。以下同じ。)について、次に掲げる事由のいずれにも該当することにつき疎明があつた場合には、当事者の申立てにより、決定で、当事者等、訴訟代理人又は補佐人に対し、当該営業秘密を当該訴訟の追行の目的以外の目的で使用し、又は当該営業秘密に係るこの項の規定による命令を受けた者以外の者に開示してはならない旨を命ずることができる。ただし、その申立ての時までに当事者等、訴訟代理人又は補佐人が第一号に規定する準備書面の閲読又は同号に規定する証拠の取調べ若しくは開示以外の方法により当該営業秘密を取得し、又は保有していた場合は、この限りでない。

  • 「ここだけの話(トップシークレット)にする」

  • 裁判で大事な技術情報(営業秘密)を出さないといけない時、「この情報は、弁護士と当事者以外には絶対見せない!漏らしたら罰則!」という命令(秘密保持命令)をかけます。これがあるから、安心して証拠を出せるわけです。

    • ※105条の8以降の細かい枝番は、この秘密保持命令の手続きの細かいルール(誰に通知するか、どう取り消すか等)なので、「秘密を守るための事務手続き」とまとめて覚えてOKです。


第4幕:名誉とペナルティ

(106条、196条~201条、200条の3)

最後は、負けた時の「償い」と「刑罰」です。

106条:信用回復の措置

(信用回復の措置)
第百六条 故意又は過失により特許権又は専用実施権を侵害したことにより特許権者又は専用実施権者の業務上の信用を害した者に対しては、裁判所は、特許権者又は専用実施権者の請求により、損害の賠償に代え、又は損害の賠償とともに、特許権者又は専用実施権者の業務上の信用を回復するのに必要な措置を命ずることができる。

  • 「新聞に『ごめんなさい』を載せる」

  • パクリ商品を売られて、あなたの会社のブランドイメージ(信用)が落ちてしまった場合、お金の賠償だけでなく、「謝罪広告」などを新聞に出させる命令ができます。

196条:侵害の罪

(侵害の罪)
第百九十六条 特許権又は専用実施権を侵害した者(第百一条の規定により特許権又は専用実施権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く。)は、十年以下の拘禁刑若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

  • 「泥棒は牢屋へ」

  • 特許権を(故意に)侵害した人は、10年以下の懲役 または 1000万円以下の罰金です。けっこう重いです。

196条の2:詐欺の行為の罪

第百九十六条の二 第百一条の規定により特許権又は専用実施権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者は、五年以下の拘禁刑若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

  • 「嘘ついて特許取ったら犯罪」

  • 特許庁を騙して特許を取ったら、3年以下の懲役または300万円以下の罰金です。

201条:両罰規定(りょうばつきてい)

(両罰規定)
第二百一条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号で定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
一 第百九十六条、第百九十六条の二又は前条第一項 三億円以下の罰金刑
二 第百九十七条又は第百九十八条 一億円以下の罰金刑

  • 「やった社員も、やらせた会社も罰する」

  • 社員が勝手にやったとしても、会社(法人)にも罰金刑が科されます。しかも、会社への罰金は**「3億円以下」**と超高額です。

200条の3:秘密保持命令違反の罪

(秘密保持命令違反の罪)
第二百条の三 秘密保持命令に違反した者は、五年以下の拘禁刑若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
3 第一項の罪は、日本国外において同項の罪を犯した者にも適用する。

  • 「裁判の秘密をバラしたら逮捕」

  • 第3幕で出てきた「秘密保持命令」を破って情報を漏らした人は、5年以下の懲役などになります。これは「親告罪(被害者が訴えないと罪にならない)」ではないのが特徴で、バレたら即アウトの厳しい罪です。


まとめ:ストーリーでつなげる

  1. 裁判開始! 工場の中が見えないから「同じものなら同じ製法とみなす」(104条)。

  2. 相手の反論! 「やってない」と言うなら「じゃあ何やってるか見せろ」(104条の2)。あるいは「お前の特許自体が無効だ」(104条の3)と逆ギレしてくる。

  3. 証拠合戦! 「書類出せ」(105条)、「工場見せろ」(105条の2)。

  4. 秘密ガード! 「出した証拠は絶対漏らすなよ、命令だぞ」(105条の4)。

  5. 決着! 負けたら「謝罪広告」(106条)や「懲役・罰金」(196条~)、秘密をバラしても「刑罰」(200条の3)。

この流れで教科書を読むと、「今どこのフェーズの話をしているか」が見えてくるはずです!

特103 過失の推定

(過失の推定)
第百三条 他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。

 

特102 権利侵害とその救済:損害賠償額の計算方法

「損害賠償」の勉強、条文でいうと特許法102条あたりですが、計算式や説が並んでいて、無味乾燥に感じますよね。でも実はここ、実務では「最もクライアントが熱くなる(お金の話だから)」場所であり、弁理士試験(特に論文)の超頻出・最重要ポイントなんです。面白くない数字の羅列に見えるものを、「ストーリー」と「試験のツボ」に変換して整理しましょう。今読んでいる「損害賠償(102条)」は「俺の特許を勝手に使いやがって、賠償金を払え!」という、**泥棒(侵害者)**との争いです。

1.なぜこの条文(102条)があるのか?(面白がるための視点)

民法の大原則では、損害賠償を請求するには「被害者が、損害額を正確に証明」しなければなりません。

しかし、特許の世界でこれをやると無理ゲーです。

「お前がパクったせいで、俺の売上がこれだけ落ちたことを証明しろ」

→ 侵害者「いやいや、あんたの商品が売れないのは、単に景気が悪いからでしょ? 俺のせいじゃないよ」

と言われると、反論が難しい。そこで特許法は、**「被害者(特許権者)がかわいそうだから、計算を楽にしてあげよう」**という救済規定を作りました。これが102条です。

**「どうやって侵害者の言い逃れを封じて、ガッツリお金を取るか」**という武器のリストだと思って読むと、少し面白くなりませんか?

2. 弁理士試験に出る「3つの計算ルート」

試験に出るのは、以下の3つの計算方法の使い分けと、それぞれの計算ロジックです。

① 「俺が売れたはずの分を払え」(1項:逸失利益)

  • ロジック: 「お前が1万個パクって売ったな? じゃあ、その1万個は本来俺が売るはずだったんだ。その利益をよこせ」

  • 試験のツボ:

    • 全部は認められません。「いや、あんたの工場じゃそんなに作れないでしょ?(実施能力)」とか「俺の営業努力で売れた分もあるよ(寄与率)」といった**「覆滅(ふくめつ)事由」**(減額の言い訳)が論点になります。

② 「お前の儲けは俺の損害」(2項:利益の推定)

  • ロジック: 「俺の損害額を証明するのは難しい…。でも、**お前がパクって儲けた額(利益)**はあるよな? それをそのまま俺の損害額とみなす!」

  • 試験のツボ:

    • 立証が一番楽ですが、「侵害者が儲かっていない(赤字)」だと使えません。

    • ここでも「推定の覆滅(侵害者の言い訳)」が認められるかが争点になります。

③ 「最低でもライセンス料は払え」(3項:ライセンス料相当額)

  • ロジック: 「仮に損害が証明できなくても、ライセンス契約していたら払うはずだった金額は最低限払え」

  • 試験のツボ:

    • これは「最低保証(底値)」です。

    • 最近の法改正で、単なる相場ではなく「もし交渉してたら決まったであろう額(高めの設定)」も考慮できるようになった点がアツいです。


3. 知っておくべき「重要判例」

「ずらずら書いてある」中で、試験的に絶対に避けて通れない判例(スーパースター)が2つあります。ここだけ押さえればOKです。

★ ごみ貯蔵機器事件(知財高裁大合議判決 H25.2.1)

  • 何がすごい?: 特許権者が実際に製品を売っていなくても、「競合関係」があれば損害賠償請求できるという画期的な判断を示しました(102条1項関係)。

  • 試験での重要度: Sランク。論文試験で「特許権者が実施していない場合」が出たら、この判例のロジックを書きます。

★ 二酸化炭素含有粘性流体組成物事件(知財高裁大合議判決 R1.6.7)

  • 何がすごい?: ちょっと長い名前ですが、**「102条1項(逸失利益)で計算したけど、能力オーバーで削られた分」を、「102条3項(ライセンス料)」としてプラスして請求できる(併用できる)**と認めました。

  • 試験での重要度: Sランク。最近のトレンドです。「数量の一部しか認められなかった時、残りは泣き寝入りか?」という論点に対する答えです。


今後の勉強のコツ

この章は、計算式そのものを暗記するのではなく、「特許権者(攻め)vs 侵害者(守り)」の綱引きとしてイメージしてください。

  • 特許権者: 「できるだけ高い計算式(1項)を使いたい!」

  • 侵害者: 「いやいや、お前の商品は高いから売れなかったはずだ(減額の主張)!」

このバトルのルールブックが102条です。

 

「500円の利益が出る魔法のペン」を例にして、生々しいお金の取り合いのドラマに変換しましょう。そして、後半の「どれを選ぶか?」という質問、これも実務と試験の超重要ポイントです。


1. 劇的シミュレーション:特許法102条1項の計算

この条文は、**「もしお前が邪魔しなければ、俺はこれだけ儲かったはずだ(逸失利益)」**というロジックです。

【設定】

  • あなた(特許権者): 「魔法のペン」を発明して販売中。

    • 1本売ると500円の利益(売値1000円-原価500円)が出ます。

    • これを**「単位数量当たりの利益」**と呼びます。

  • 悪者(侵害者): あなたの特許をパクって、ニセモノのペンを販売。

    • なんと1万本も売ってしまいました。

    • これを**「譲渡数量」**と呼びます。

【基本の計算(攻撃ターン)】

まずはシンプルに掛け算です。

500円(あなたの利益) × 1万本(敵が売った数) = 500万円

あなたは「500万円払え!」と請求します。これがスタートラインです。

ここで重要なのは、あなたの利益には「家賃」や「人件費」などの固定費は引かず、材料費などの変動費だけを引いた**「限界利益」**を使うのが判例のルールです(その方が額が大きくなるからです)。

【反撃ターン(ここが試験に出る!)】

しかし、敵も黙って500万円払いません。条文には**「ただし書き(但書)」があり、敵はこれを盾に減額を迫ってきます。これを「推定の覆滅(ふくめつ)」**と言います。

敵の言い分(減額リスト):

  1. 「いや、俺のペンは激安だから売れたんだよ」

    • 「あんたのペンは1000円だけど、俺のは300円だ。俺の客が全員あんたの高いペンを買うわけないだろ?」

    • 『事情による減額』(例えば30%は関係ない客だとして、マイナス150万円)

  2. 「あんたの工場、そんなに作れないでしょ?」

    • 「あんたの町工場、フル稼働してもあと1000本しか作れないじゃん。1万本なんて最初から無理だろ?」

    • 『実施相応数量の限度』(作れない分は請求できない)

【最終決着】

この綱引きの結果、例えば「300万円」とかに落ち着きます。

この**「掛け算して(推定)、言い訳を聞いて引く(覆滅)」**というプロセスが、102条1項の正体です。

特許法102条1項の計算イメージは、この図のような「積み上げ」と「削り取り」の戦いです。


2. 「3つの方式、どれを選ぶ?」問題

結論から言うと、**「計算してみて、一番高くなるやつを選んで請求する」**のが基本戦略です(選択的請求)。

ただし、**「好きなものを選べるが、それぞれ使うための『参加資格』が違う」**という点がミソです。ここが試験の急所です。

どのカードを切るか?(思考フロー)

① まず最強のカード「1項(今回のペンの計算)」を検討する

  • メリット: 金額が一番高くなりやすい(自分の利益ベースだから)。

  • 参加資格: **「あなた自身が製品を売っていること」**が必要です。

    • あなたが研究だけの会社で、ペンを売っていなければ、「俺が売れたはずだ」というロジックが成立しないので使えません。

  • リスク: さっきのように「お前のペン高いから売れないよ」といった反撃(減額)を食らいやすいです。

② 次に使いやすいカード「2項(敵の利益)」を検討する

  • メリット: 計算が楽。「敵が1000万儲けた」という証拠があれば、それをそのまま請求できる。

  • 参加資格: こちらも基本的に「競合」が必要です。

  • リスク: **「敵が儲かっていない(赤字や薄利多売)」**だと、請求額がめちゃくちゃ低くなります。敵が商売下手だと、あなたも損をするという悲しい条文です。

③ 最後の砦「3項(ライセンス料)」

  • メリット: 「参加資格」がほぼありません。 あなたが製品を売ってなくても、敵が赤字でも、特許さえあれば「最低限、ライセンス料はよこせ」と言えます。

  • デメリット: 金額は一番安くなりがちです(通常、売上の3%~10%程度)。


3. 実務&試験の「最強コンボ」

ここで、さっき話した重要判例**「二酸化炭素事件」**が火を噴きます。

もしあなたが「1項(ペンの計算)」で攻めて、敵に「あんたの工場じゃ1万本も作れないでしょ! 5000本が限界だ!」と言い負かされたとします。

昔は、残りの5000本分は泣き寝入りでした。

しかし今は、こう言えます。

「わかった。作れる5000本分は、高い金額(1項)で請求する。」

「でも、作れない残りの5000本分については、せめてライセンス料(3項)を払え!」

つまり、**「1項と3項のいいとこ取り(併用)」**ができるようになったのです。

これが今の実務のトレンドであり、試験でも「特許権者の生産能力が足りない場合、どうするか?」と聞かれたら、このコンボを書くと高得点です!

 

「ごみ貯蔵機器事件(H25.2.1 知財高裁大合議)」もめちゃくちゃ面白い、というか**「特許権者(パクられた側)にとっての救世主」**のような判例です。さっきの「ペンの話」でいうと、**2番目のカード「102条2項(敵の利益をぶんどる)」**に関するお話です。何がそんなに重要なのか、ストーリーで解説しますね。


1. 昔の「102条2項」は“死に体”だった

この判決が出る前まで、この条文(敵の利益=損害額とみなす)は、実は**「使い物にならない」**と言われていました。

なぜか?

特許権者が「お前、1億円儲けたな! その1億円払え!」と訴えても、裁判所で侵害者(パクった側)がこう言い訳すると、すぐ認められていたからです。

侵害者: 「いやいや裁判長。私の商品が売れたのは、特許技術のおかげだけじゃありません。

  • 私の会社のブランド力があったから売れたんです。

  • 私がつけたキャッチコピーが優秀だったからです。

  • 特許に関係ないデザインが良かったからです。だから、特許の貢献度はせいぜい10%。1000万円しか払いません!」

昔の裁判所はこれを認めがちで、「全額請求」なんて夢のまた夢でした。

2. 「ごみ貯蔵機器事件」が変えたこと(革命)

ここで登場したのが、この「ごみ貯蔵機器事件」の判決です。

裁判所(大合議)は、今までの流れをひっくり返して、こう宣言しました。

① 「原則、全額だ!」

「侵害者が稼いだ利益は、原則として全額、特許権者の損害と推定する。ブランド力だのデザインだのと言い訳(推定の覆滅)をしたければ、侵害者がガチガチに証拠を出して証明しろ。証明できないなら全額払え!」

→ 立証のハードルを、特許権者から侵害者へぶん投げました。

② 「利益の計算は“限界利益”でいい!」(ここ超重要)

「利益」の計算において、家賃や社員の基本給などの「固定費」は引かなくていい(売上から変動経費だけ引いた限界利益でいい)としました。

→ これにより、計算される金額がドカンと跳ね上がりました。


3. 試験で問われるポイント(論文で書くべきこと)

この判例が出たら、キーワードは以下の2つです。

ポイントA: 覆滅事由(ふくめつじゆう)のハードル化

論文で「侵害者が『私の営業努力で売れた』と主張している」という設定が出たら、こう書きます。

  • 「ごみ貯蔵機器事件判決によれば、102条2項の推定は強力である。」

  • 「単に営業努力があったというだけでなく、それが具体的にどれだけ売り上げに貢献したかを侵害者が立証しない限り、減額は認められない。」

ポイントB: 利益=限界利益

計算問題や論述で「利益とは何か」が問われたら、「控除すべき経費は、変動経費(材料費など)に限られ、固定経費(管理職の人件費など)は控除されない」と書きます。これが特許権者に有利な計算方法です。


まとめると

  • 二酸化炭素事件: 「1項(逸失利益)」と「3項(ライセンス)」は**合体(併用)**できる!という革命。

  • ごみ貯蔵機器事件: 「2項(敵の利益)」は**言い訳させない&計算甘めでOK!**という革命。

この「ごみ貯蔵機器」のおかげで、今は102条2項も「使える武器」になっています。どうでしょう?「面白くない計算式の羅列」に見えていたものが、**「裁判所が特許権者に渡した強力な武器(判例)」**に見えてきませんか?

(Gemini)

特許法第102条第1項~第5項

条文通りに第1項から第5項まで、「魔法のペン(利益500円)」の例を使って、逐条解説(ちくじょうかいせつ)といきましょう。この102条全体は、「特許権者が、損害賠償という名の『お金』を最大限回収するための武器セット」です。


第1項:逸失利益(いっしつりえき)

(損害の額の推定等)
第百二条 特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、次の各号に掲げる額の合計額を、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。
一 特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額に、自己の特許権又は専用実施権を侵害した者が譲渡した物の数量(次号において「譲渡数量」という。)のうち当該特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた数量(同号において「実施相応数量」という。)を超えない部分(その全部又は一部に相当する数量を当該特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量(同号において「特定数量」という。)を控除した数量)を乗じて得た額
二 譲渡数量のうち実施相応数量を超える数量又は特定数量がある場合(特許権者又は専用実施権者が、当該特許権者の特許権についての専用実施権の設定若しくは通常実施権の許諾又は当該専用実施権者の専用実施権についての通常実施権の許諾をし得たと認められない場合を除く。)におけるこれらの数量に応じた当該特許権又は専用実施権に係る特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額

「俺が売るはずだった分を払え!」

条文の要約:

侵害者が物を譲渡した数量(譲渡数量)に、特許権者の「単位数量当たりの利益」を乗じた額を損害額とすることができる。ただし、特許権者が販売できない事情(能力不足など)があるときは、その分を引く。

  • ペンの例:

    • あなた: 1本売ると500円の利益が出る。

    • 悪者: 1万本売った。

    • 計算: 500円 × 1万本 = 500万円請求!

  • ここがポイント:

    • これは**「特許権者が自分で製品を売っている場合」**専用の最強カードです。

    • ただし、「うちは小さな工場だから、どう頑張っても3000本しか作れなかったよ…」という場合は、作れない7000本分はあきらめる(控除する)必要があります。

    • ★R1年改正ポイント: あきらめた7000本分は、後述の「第3項(ライセンス料)」で請求できるようになりました(二酸化炭素事件のルール化)。


第2項:利益の推定

2 特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。

「お前の儲けは、そのまま俺の損害だ!」

条文の要約:

侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と推定する。

  • ペンの例:

    • 悪者: 安物を作って売った結果、通帳に300万円の利益が残っている。

    • あなた: 「その300万円、そのまま俺の口座に振り込め」と言える。

  • ここがポイント:

    • 立証が楽です(悪者の帳簿を見ればいいから)。

    • **「ごみ貯蔵機器事件」**のおかげで、ここで言う「利益」は固定費を引かない「限界利益」で計算してOKになりました。つまり金額が高くなりやすい。

    • ただし、悪者が商売下手で**「実は赤字なんです」**という場合、請求額はゼロになってしまうリスクがあります。


第3項:ライセンス料相当額

3 特許権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。

「最低でもショバ代(使用料)は払え!」

条文の要約:

その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額(ライセンス料)に相当する額を、損害額として請求できる。

  • ペンの例:

    • 業界の相場: ペンの特許ライセンス料は売上の**5%**とする。

    • 悪者: 1000万円売り上げた(利益ではなく売上全体)。

    • 計算: 1000万円 × 5% = 50万円請求。

  • ここがポイント:

    • これは**「最低保証(底値)」**です。

    • あなたが製品を作っていなくても(1項が使えない)、悪者が赤字でも(2項が使えない)、これなら確実に取れます。

    • 1項や2項の計算が難しいときの「逃げ道」としても使われます。


第4項:ライセンス料の増額考慮(★R1年新設)

4 裁判所は、第一項第二号及び前項に規定する特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額を認定するに当たつては、特許権者又は専用実施権者が、自己の特許権又は専用実施権に係る特許発明の実施の対価について、当該特許権又は専用実施権の侵害があつたことを前提として当該特許権又は専用実施権を侵害した者との間で合意をするとしたならば、当該特許権者又は専用実施権者が得ることとなるその対価を考慮することができる。

「事後承諾なんだから、普通の相場より高くて当然だろ?」

条文の要約:

前項(第3項)のライセンス料を決める際、裁判所は「特許権侵害があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額」を考慮できる。

  • ペンの例:

    • あなた: 「普通に契約してくれたら5%で良かったけど、勝手にパクったんだから5%じゃ納得いかないよ」

    • 裁判所: 「確かに。泥棒した後でお金を払うなら、相場より高くて当然だね。**10%**で計算しよう」

    • 計算: 1000万円 × 10% = 100万円にアップ!

  • ここがポイント:

    • これが出来る前は「パクり得(バレたら相場のライセンス料を払えばいいや)」という風潮がありました。それを防ぐための「懲罰的(制裁的)な意味合い」を含んだ規定です。

    • 第3項を使うときは、必ずこの第4項をセットで主張します。


第5項:過失がない場合の減額

5 第三項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、特許権又は専用実施権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。

「わざとじゃなかったなら、まけてあげる(かも)」

条文の要約:

侵害者に「故意」も「重大な過失」もないときは、裁判所は損害賠償の額を定めるときに、その事情を参酌(さんしゃく)することができる。

  • ペンの例:

    • 悪者: 「本当に知らなかったんです! 調査もしたけど見つからなかったんです!」(と、ものすごく善意でドジっ子だった場合)

    • 裁判所: 「まあ、それなら全額払わせるのは可哀想だから、少し減額してあげようか」

  • ここがポイント:

    • 実務では「死に体(ゾンビ)」条文です。

    • なぜなら、特許法には**103条(過失の推定)**があり、「特許公報は公開されてるんだから、見てないお前が悪いでしょ?」と、ほぼ自動的に過失ありと認定されるからです。

    • 試験でも「一応こういう規定はある」程度でOKです。


全体像の図解

どの武器を使うか、フローチャートで見るとすっきりします。

まとめの試験対策

  1. 1項: 自社実施しているなら最強。生産能力オーバー分は3項と合体(二酸化炭素事件)。

  2. 2項: 立証が楽。限界利益で計算(ごみ貯蔵機器事件)。

  3. 3項: 最低保証。

  4. 4項: 3項を使うなら「相場より高く!」と言える根拠。

  5. 5項: ほぼ使われない(103条が強すぎるから)。

これで102条は完璧です!

 

ついでに、「損害賠償の減額規定(102条5項)が103条によって無力化されている件。


102条5項が「死に体」である理由

1. 102条5項の役割(本来の姿)

この条文は、侵害してしまった人(被告)への**「慈悲(情け)」**の規定です。

特許法102条5項(要約)

「わざと(故意)でもなく、ひどい不注意(重大な過失)もなかったなら、裁判所は賠償額をまけてあげることができるよ(参酌できる)。」

つまり、**「うっかりやっちゃっただけの可哀想な人なら、賠償金を安くしてあげよう」**という条文です。

2. 103条(過失の推定)の役割

一方で、103条はこう定めています。

特許法103条(要約)

「他人の特許権を侵害した者は、過失があったものと推定する。」

これは、「特許公報は誰でも見られるんだから、侵害した時点でお前は不注意(過失あり)だぞ!」と決めつける、特許権者にとっての強力な武器です。

3. どうして「無力化」されるのか?

ここで、102条5項を使いたい被告(侵害者)の立場になってみてください。

  1. 被告: 「賠償金をまけてください(102条5項適用)! 私はわざとやったんじゃないし、不注意もなかったんです!」

  2. 103条の壁: 「いやいや、103条で『お前には過失がある』って推定されてるから。『過失がなかったこと』を証明できない限り、お前は不注意だった扱いだから。

  3. 結果: 被告が「過失ゼロ(無過失)」を証明するのは至難の業です(特許公報がある以上、「知らなかった」は通用しないため)。

その結果、「過失がないならまけてあげる」という102条5項の条件を満たせる人が実務上ほとんどいなくなってしまい、この条文は使われることがない**「死に体(ゾンビ条文)」**と化しているのです。


まとめ

102条5項(減額規定)はあるけど、103条(過失推定)が強すぎて、実際には誰も減額してもらえない(=無力化)