大学の研究者の多くが、研究そのものに興味を持って行っているために、何が特許になりえるものであり、何が特許にならないかという一番根本的なことを理解していない場合が多いように思います。自分も、特許のことは、数年に1回程度、大学で知財に関連したセミナーがあるのを聴講したことがある程度で、聴いた話も使うことがないので時期に忘れてしまって、ほとんど何も知らないまでした。なので、治療方法が特許にならないと聞いて、少々驚きました。今の日本ではという但し書きがつくので、何年かすれば状況が変わっている可能性もあります。
特許の考え方
特許制度は、創作された技術的思想を、「物」の発明又は「方法」の発明として保護する制度である。一般的に、「物」の発明は装置、機器の構造や化学物質、材料の組成等に特徴のあるものであるのに対し、「方法」の発明は「時間的な要素」を含むものをいい、例えば、段階的工程などの時系列的ステップを含む製造方法や通信方法は「方法」の発明として保護される。また、技術開発の過程では、多数の「物」や「方法」の発明が生み出される場合があるが、特許制度はこれらを、どちらか一方に限定して保護するということではなく、「物」「方法」両方の発明として多面的に保護することを基本としている。
医療の分野における特許の対象としては、現状では、「物」の発明としては医療機器や医薬があり、「方法」の発明としては医療機器・医薬の製造方法、医療機器の内部の制御方法等がある。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/iryou/torimatome.pdf
日本では治療方法で特許は取れない
現在、治療方法(診断方法、手術方法を含む)等の医療行為は、下記の理由によ
り特許の対象としていない。
① 医療行為の研究開発は、大学や大病院において医学の研究としてなされ、特
許制度によるインセンティブ付与のニーズが高くなかった。また、医学研究
はそもそも営利目的で行うべきではないので、研究開発競争には馴染まない
という考え方があった(研究開発政策的理由)。
② 医薬品、医療機器等に比較して、医療行為では緊急の対応が求められる場合
が多いと考えられていた。したがって、医療行為に特許が付与されると緊急
の患者の治療にも医師は特許権者の許諾を求めなければならず、患者の生命
や身体を危険に陥れるおそれがあると考えられていた(人道的理由)。現行規定では、医療行為に特許を付与しないと明記されていない。そこで運用上
は、特許の要件について規定した特許法第 29 条柱書の「産業上利用することがで
きる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けること
ができる。」との規定を根拠に、医療行為の発明は産業上利用できる発明にあたら
ないという趣旨の審査基準を定め、医療行為に関する特許出願を拒絶している。 https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/tokkyo_shoi/document/seisakubukai-01-shiryou/tokkyo_6.pdf知財要求項目では、人間または動物の手術方法、治療方法、診断方法に関する発明に、特許性を認めなければならないとしております(知財要求項目8. 2条(b))。 現在、日本の特許法の審査基準においては、人間が対象に含まれないことが明らかであれば、動物の手術方法・治療方法・診断方法については、特許の対象となるとされております。しかしながら、人体の存在を必須の要件とするもの、具体的には、人間を手術する方法、人間を治療する方法、人間を診断する方法に関する発明は、「産業上の利用可能性」(特許法29条1項柱書)がないとして、特許を受けることができません(特許庁審査基準第Ⅱ部1. 2. 1)。ただし、医療機器、医薬それ自体、医療材料の製造・処理方法(細胞の調製、加工による製品・製剤化)、医療機器の作動方法は、特許の対象になります。 なお、諸外国においては、アメリカは手術方法、治療方法、診断方法ともに特許の対象となるとし、欧州においては、手術方法、治療方法、診断方法の一部は特許の対象になりません(諸外国の法制については、平成20年11月25日付け特許庁「我が国と各国の特許制度比較~医療分野~」(PDFはこちら)(知的財産戦略本部 先端医療特許検討委員会資料))。https://www.kottolaw.com/column/000354.html
- 医療行為の特許保護 https://inoue-as.com/409.html
TPPと特許
TPP11の18.37.3には、以下のように規定されています。「締約国は、また、次のものを特許の対象から除外することができる。
(a) 人又は動物の治療のための診断方法、治療方法及び外科的方法
(b) 微生物以外の動物並びに非生物学的な方法及び微生物学的な方法以外の動植物の生産のための本質的に生物学的な方法」https://inoue-as.com/409.html
治療法は日本では特許にならないことに関する議論
治療方法の発明について保護が認められない、そうであると、医薬やその用途の発明については物として特許法が認められているけれども、方法の発明を物として表現することはもともと困難でございます。先ほど言いましたように、剤という形で表現することはございますけれども、剤で表そうと思うと、先ほどの投与部位であるとか、タイミングであるとか、併用であるとか、そういう発明の本質、これを剤ですべてカバーするということはできませんし、そういうものが現実には特許化されない。そうであると、もしそういうことをヒト・カネ・モノを投入して開発したとしても、保護がなければ他社が容易に入ってくる。そうであれば企業としてヒト・カネ・モノを投入することはできない。
第3回 医療関連行為の特許保護の在り方に関する専門調査会 議事録 1. 日 時: 平成15年12月18日(木) https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/iryou/dai3/3gijiroku.html
皮膚などを患者から切除して、これを培養して拡大し、拡大したものを同じ患者に移植するような場合。切除と移植は医行為、それも絶対的医行為になるということだと思いますが、その中間段階で行われる培養そのものは医行為ではないのではないか。このような行為について、現行の特許法の運用では治療方法に含まれるということで、前回ご説明いたしましたとおり、特許法29条で、産業上利用可能でないということで、治療方法はすべて特許を付与しないという扱いになっておりますので、それとの関係で、特許の対象にならないわけでございます。
第2回医療行為WG 議事録 特許庁総務部総務課 制度改正審議室 日時:平成14年11月14日(木曜日) https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/iryoukoui-wg/02-gijiroku.html
特許と医療を取り巻く現状
- https://www.iip.or.jp/summary/pdf/detail00j/12_04.pdf
知財の活用に関する考え方
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinshumedj/56/2/56_2_65/_pdf/-char/ja
- 医療系アカデミアにおける知財戦略と必要な知財教育 〈日本知財学会誌〉Vol. 16 No. 1― 2019 : 65- 72 https://www.ipaj.org/bulletin/pdfs/JIPAJ16-1PDF/16-1_p65-72.pdf
参考
- 知財のひきだし! https://www.jpaa.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/03/senseihikidashi_20230323.pdf
- 知的財産政策第4回 令和2年4月24日(金) https://www.pp.u-tokyo.ac.jp/wp-content/uploads/2020/04/808fdfa0e945601e0a4aa33814bddebd.pdf
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