酸化還元電位は高校の化学では大きなトピックでしたが、もうすっかり忘れてました。
酸化還元反応は、一方が酸化されていれば、他方は還元されているという表裏一体の関係があります。生化学を理解するためには、酸化還元順位の理解は必須です。例で理解するのが楽なので、亜鉛と銅の組み合わせで考えてみます。
Cu2+ + 2e- ⇔ Cu
Zn ⇔ Zn2+ + 2e-
銅で電極をつくり銅イオンの水溶液につけます。他方、亜鉛で電極をつくり亜鉛イオンの水溶液を作ります。この2つを塩橋でつなぎ、2つの電極を導線でつなぎます。すると、亜鉛側では
Zn →Zn2+ + 2e- 酸化反応(電子が亜鉛原子から奪われた)
の反応がおきて電子がつくられて、導線を伝わって銅の電極のほうに移動します。銅電極ではその電子が水溶液中の銅イオンにわたされて銅が析出します。
- Figure 20.3.3 : The Reaction of Metallic Zinc with Aqueous Copper(II) Ions in a Galvanic Cell. この図はわかりやすい。亜鉛電極がやせ細り、銅の電極が太っている写真がよい。
Cu2+ + 2e- → Cu 還元反応(銅イオンが電子を受け取った)
なぜこういうことになるかというと、「イオン化傾向」というものがあって、亜鉛のほうが銅よりもイオン化傾向がつよいのでした。受験化学で、「リッチに貸そうかな まああてにすんな ひどすぎる借金」とか覚えたような気がします。
Li(リッチに) > K(貸そう) > Ca(か) > Na(な) > Mg(ま) > Al(あ) > Zn(あ) > Fe(て) > Ni(に) > Sn(すん) > Pb(な) > (H2)(ひ) > Cu(ど) > Hg(す) > Ag(ぎる) > Pt(借) > Au(金)
頭の文字しかないと覚えるのも危ういので、読み方としては、リッチに貸そうかな、ま(ぐ)あ(る)あ(えん)てにすんな(む)ひどすぎ(ん)るしゃっきん などと元素名に引きずられつつ覚えたような。
すっかりこんなごろあわせすら忘れていましたが、亜鉛のほうが銅よりもずっとイオン化傾向が大きいので、亜鉛側でイオンになって電子を出すということがわかります。
銅と亜鉛では酸化還元電位も銅のほうが高いです。電位が高いということはポテンシャルエネルギー準位が高いということで、正荷電粒子は高い位置エネルギーから低い位置エネルギーの方向へ移動します。電子は負電荷なので逆に参加還元電位が高いほうに移動します。これは、生化学のエネルギー代謝で出てくるミトコンドリアの電子伝達系で起こることです。
- イオン化傾向と電極電位
- 酸化還元平衡電位 銅 Cu2+ + 2e- → Cu 0.34V 亜鉛 Zn2+ + 2e- → Zn -0.76
さて、正極、陰極、アノード、カソードはどっちがどっちでしたっけ?下のウェブ記事がわかりやすい説明をしてくれていました。
高校化学における電池での定義:導線に向かって電子が流れ出る電極が負極であり,導線から電子が流れ込む電極が正極である。化学電池の負極では酸化反応,正極では還元反応が起こる。
高校化学における電気分解での定義:電源の正極は導線から電子が入ってくる電極。陽極では電子が奪われる酸化反応が起こる。負極は電子が流れ出る電極。そこにつながる陰極では還元反応が起こる。
正極・負極は、それぞれ電位の高い側と低い側を表す。
還元が起こる電極をカソード(cathode),酸化が起こる電極をアノード(anode)と呼ぶ。かんげん,カソード。
(参照:Chemist Eyes)
酸化還元電位の測定の原理に関しては下のスライドの図もわかりやすいです。水素電極を基準として、表します。
- 11.3 酸化剤,還元剤の強さの定量化 11.4 標準電極電位 doshisha.ac.jp
- 第11章 酸化と還元 (電気化学・分析化学参照) oshisha.ac.jp
- 19.1.1 Describe the standard hydrogen electrode. ibchemistry-review.blogspot.com/
下のBrainKart.comの説明は、生化学の文脈の中で酸化還元電位の説明をしていて、理解しやすいと思いました。
If we had two potential electron carriers, such as NADH and coenzyme Q, for example, how would we know whether electrons would be more likely to be transferred from the NADH to the coenzyme Q or the other way around? This is determined by measuring a reduction potential for each of the carriers. A molecule with a high reduction potential tends to be reduced if it is paired with a molecule with a lower reduction potential. (Reduction Potentials in the Electron Transport Chain)
下の解説記事も非常に明解な説明でわかりやすい。
fumarate + 2H+ + 2 e– succinate E°’ = 0.030 V
FAD + 2H+ + 2 e– F ADH2 E°’ = -0.180 V
remember the rule that a higher E°’ value indicates a stronger tendency for the compound to gain electrons.
fumarate + FADH2 succinate + FAD
Redox Reactions (https://sceweb.sce.uhcl.edu/wang/biochem/redox/4_reduction_potential.html University of Houston-Clear Lake Dr. Wang’s Homepage)
- 標準酸化還元電位 (pH = 7) dbp.akita-pu.ac.jp/ フマル酸 / コハク酸 +0.03 FAD / FADH2 -0.22
- http://www.fumi-theory.com/img/TYV.pdf
まとめ
ここまで勉強したことを自分なりに纏めておきます。結局、酸化還元反応を行う物質A,Bがあったとき、半反応をそれぞれに関しして書き出してみて、
AH2 ⇔ A2+ + 2H + 2e- 酸化還元電位=a
BH2 ⇔ B2+ + 2H + 2e- 酸化還元電位=b
どっちが酸化される側で、どっちが還元される側になるかを考えるわけですが、それはそれぞれの酸化還元電位できまります。これは実験的にきまるので表を参考にします。
酸化還元電位がaのほうが高い、a>bだとすれば、電位が高いほうから低いほうに正電荷が流れる(すなわち、電子は電位が低いほうから高いほうに流れる)ので、Aのほうが電子を受け取る側、つまり還元される側になります。つまりBのほうは電子を取られる(酸化される)側になるので、
BH2 → B2+ + 2H + 2e-
という反応が起きて、その電子をAのほうに渡しますのでAのほうは電子を受け取ります。つまり
A2+ + 2H + 2e- → AH2
という反応が起きるわけです。こう書いてみれば、酸化の定義として、電子を奪われる、水素をとられる、還元の定義が電子をもらう、水素をもらうというのも納得がいきます。酸化が酸素が結合することでなくても良いのも当然で、酸素は
1/2 O2 + 2H+ + 2e- → H2O
という反応で、電子を受け取っているわけです。電子を受け取るものでありさえすればなんでもいいので、別に酸素でなくても、酸化反応というのは成り立つというわけ。だいぶ頭が整理されてすっきりしました。
主な物質の酸化還元電位
- 酢酸/アルデヒド -0.60V
- 水素イオン/水素 -0.42V
- NAD+/NADH -0.32V
- アセトアルデヒド/エタノール -0.20V
- ピルビン酸/乳酸 -0.19V
- FAD/FADH2 -0.16V 別の資料だと -0.06V
- デヒドロアスコルビン酸/アスコルビン酸 0.08V
- ユビキノン(酸化型)/ユビキノン(還元型) 0.10V
- シトクロムc(酸化型)/シトクロム(還元型) 0.22V
- Fe3+ / Fe 2+ 0.77V
- 酸素/水 0.82V
参考
- 酸化還元酵素反応と電極反応
酸化還元電位測定に関する論文
- Amperometric Biosensors Based on Direct Electron Transfer Enzymes Molecules 2021, 26(15), 4525; https://doi.org/10.3390/molecules26154525
- Extremophilic Oxidoreductases for the Industry: Five Successful Examples With Promising Projections Front. Bioeng. Biotechnol., 12 August 2021 Sec. Industrial Biotechnology Volume 9 – 2021 | https://doi.org/10.3389/fbioe.2021.710035
- An uncharacteristically low-potential flavin governs the energy landscape of electron bifurcation PNAS March 15, 2022 119 (12) e2117882119 https://doi.org/10.1073/pnas.2117882119
- Reversible, Electrochemical Interconversion of NADH and NAD+ by the Catalytic (Iλ) Subcomplex of Mitochondrial NADH:Ubiquinone Oxidoreductase (Complex I) J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 20, 6020–6021 Publication Date:April 30, 2003 https://doi.org/10.1021/ja0343961