抗がん剤の心毒性とは
心臓は筋肉で動いていますが、抗がん薬で心筋の機能を低下させる心筋障害を引き起こすことがあり、これを広く心毒性と言ったりします。(心疾患患者さんのがん治療 がん治療中は心臓にも注目を!心疾患の症状に要注意 監修●庄司正昭 国立がん研究センター中央病院総合内科循環器内科医長 取材・文●町口 充 発行:2014年1月 がんサポート)
古くから知られてきた抗がん剤の心毒性
がん化学療法に伴い心不全が発症することは以前から広く知られ,抗がん剤に伴う心不全は,不可逆的心筋障害であるtypeⅠ(心筋傷害)と,可逆的心筋障害を中心とするtypeⅡ(心機能障害)に分類される。(抗がん剤による心毒性への対応 Web医事新報)
アンスラサイクリン系薬剤は、その高い抗腫瘍効果から様々な腫瘍に用いられるが、心血管系への副作用が常に問題となってきた。1970年代から蓄積されたエビデンスに基づき、 現在ではドキソルビシン換算で生涯投与量が 500 mg/㎡ を超えないように慎重に投与されて いるにもかかわらず、約 9%に心毒性が発生する。(アンスラサイクリン系薬剤による心毒性の早期診断を目的とした 前向きコホート研究)
抗がん剤がもつ心毒性の問題
化学療法では、がんの治療を優先させたいという場合でも、なるべく心毒性が少ない薬を使う。しかし、抗がん薬で命を落としては本末転倒なので、人命優先のため抗がん薬の投与を見送ることもある。(がん治療中は心臓にも注目を! がんサポート)
一般に心不全というと高齢者に多い疾患のイメージがあるが、乳がんの患者さんの中には30代、40代の若い人が少なくないため、ハーセプチンで治療していて30代なのに心不全というケースもある。(がん治療中は心臓にも注目を! がんサポート)
抗がん剤がもつ心毒性に関する研究が重要な理由
化学療法を中心としたがん治療の飛躍的な進歩は、多くの患者の命を救うと同時に「がん サバイバー」の加速度的な増加につながっており、がん患者に対するケアや医療のあり方・ 視点を大きく変えようとしている。なかでも心血管合併症の発生は患者の生命予後や QOLに 直結するため、循環器専門医が積極的に取り組むべき領域である。(アンスラサイクリン系薬剤による心毒性の早期診断を目的とした 前向きコホート研究 -フィージビリティ調査- 筑波大学医学医療系 循環器内科 助教 田尻 和子 PDF)
心毒性が問題となる抗がん剤のリスト
アンスラサイクリン系抗がん薬
ドキソルビシン
エピルビシン
ダウノルビシン
ミトキサントロン
イダルビシン
代謝拮抗薬
カペシタビン
フルオロウラシル
シタラビン
植物アルカロイド
パクリタキセル
ドセタキセル
エトポシド
イリノテカン
ビンデシン
ビノレルビン
分子標的薬
ベバシズマブ
トラスツマブ
イマチニブ
ソラフェニブ
スニチニブ
参考
- がんサバイバーの多くが中長期のCVDリスク増加/Lancet提供元:ケアネット2019/08/30
- 成人がんサバイバーで心血管疾患リスクが増加(2019年9月24日 cancerit.jp) 2019年8月20日号のLancet誌に掲載された集団ベースコホート研究において、研究者らは、英国Clinical Practice Research Datalinkからプライマリケア、病院、がん登録、のリンクされたデータを用いて、一般的な20種のがんについて診断後12カ月時点で生存している成人のがんサバイバー群と、がんの既往歴がない対照群とを同定した。ほとんどのがん種のサバイバーは、一般集団に比べて、一つまたはそれ以上の心血管疾患の中長期的なリスクがあり、腫瘍のタイプによって、かなりの差があることがわかった。
- 心疾患患者さんのがん治療 がん治療中は心臓にも注目を!心疾患の症状に要注意 監修 庄司正昭 国立がん研究センター中央病院総合内科循環器内科医長 2014年1月 がんサポート
- (1)抗がん剤による心毒性への対応─心筋障害を中心に [特集:がん化学療法中の心血管系副作用にどう対処するか]Web医事新報
- アンスラサイクリン系薬剤による心毒性の早期診断を目的とした 前向きコホート研究 -フィージビリティ調査- 筑波大学医学医療系 循環器内科 助教 田尻 和子 PDF