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特102(損害の額の推定等)

特許法102条(損害額の推定等)は、弁理士試験において「最も点数に直結し、かつ最も差がつく」条文の一つです。なぜなら、「法律のロジック(論文)」「数字の計算(事例問題)」の両方が問われるからです。特に令和元年改正で計算ロジックが少し複雑(しかし権利者に有利)になったため、ここが出題される可能性は非常に高いです。攻略法を整理しました。

1. なぜ102条があるの?(民法709条の救済)

まず大前提です。民法709条(不法行為)では、「原告(特許権者)が、実際に被った損害額を立証しろ」と言われます。しかし、「もしお前がパクらなかったら、俺はあと1万個売れていたはずだ!」なんて、タラレバの話を立証するのは不可能です。そこで、特許法102条が「計算式を用意したから、これに数字を当てはめて損害額とみなしていいよ」と助け舟を出します。以下の3つの計算ルート(メニュー)があります。

条文 呼び名 計算式のイメージ 特徴
1項 逸失利益 (泥棒が売った数) × (俺の1個あたり利益) 金額が一番デカくなりやすい(メインウェポン)
2項 利益推定 泥棒が儲けた利益 = 俺の損害 立証は楽だが、泥棒が経費を引きたがるので額が減る
3項 相当実施料 売上 × ライセンス料率(%) どんなに負けてもこれだけは貰える(最低保証)

2. 試験に出る「計算問題」の具体的ロジック

試験(特に論文や口述)で問われるのは、圧倒的に「第1項(逸失利益)」の計算です。しかも、単なる掛け算ではなく、「引き算(控除)」と「足し算(重畳適用)」をさせられます。以下の仮想事例でシミュレーションしましょう。

【事例問題】

  • 特許権者(俺): 1個売ると1万円儲かる(限界利益)。俺の工場の生産能力は残り800個分ある。

  • 侵害者(泥棒): パクリ商品を1,000個売った。売値は5万円。

  • 事情: 泥棒の製品は俺のよりカッコいいブランドロゴが入っていて、そのおかげで少し売れている(寄与度)。

  • ライセンス料率: 業界相場は5%

この場合、俺はいくら請求できるか?

Step 1: 基本の掛け算(102条1項本文)

「泥棒が売った数 × 俺の利益」

1,000個 × 1万円 = 1,000万円

(まずはここからスタート)

Step 2: 「能力相応」の引き算(102条1項1号ただし書)

「お前、1,000個も作れなかっただろ?」というツッコミが入ります。

俺の能力(実施相応数量)は800個です。

オーバーした200個分は請求できません。

したがって、800個 × 1万円 = 800万円 に減額されます。

Step 3: 「特定事情」の引き算(102条1項2号)

「泥棒が売れたのは、特許のおかげだけじゃなくて、泥棒のブランド力や営業努力のおかげもあるよね?」というツッコミです。

例えば、特許の寄与率が90%(10%は泥棒の努力)だと認定された場合。

800万円 から 10%(80万円)を引きます。

残り 720万円。

Step 4: 【最重要】「あふれた分」の足し算(102条1項3号=令和元年改正)

ここが合否を分けるポイントです!Step 2で切り捨てられた「能力オーバーの200個」は、昔は泣き寝入りでした。しかし、今の法律では**「自分で作れなかった200個分については、せめてライセンス料(3項相当額)をよこせ」**と言えます。

あふれた200個 × 泥棒の売値5万円 × 料率5% = 50万円

Step 5: 合計(ファイナルアンサー)

Step 3の額(720万円) + Step 4の額(50万円) = 770万円

3. 論文答案での「書き方」攻略(102条1項)

論文試験では、上記の計算プロセスを文章で説明しなければなりません。以下のテンプレートを暗記してください。

① 条文の適用主張

「甲(特許権者)は乙(侵害者)に対し、特許法102条1項に基づき損害賠償を請求する。」

② 構成要件のあてはめ(計算式の提示)

「乙の譲渡数量は1,000個である。また、甲の単位数量当たりの利益額は1万円である。したがって、基本となる損害額は1,000万円となるのが原則である(1項本文)。」

③ 被告の反論(能力不足・特定事情)の検討

「しかし、甲の生産能力は800個に留まる。そのため、これを超える200個については、甲は販売することができなかったと解され、賠償額から控除される(1項1号ただし書)。」

「また、乙のブランド力による顧客誘引(特定事情)がある場合、その分も相当額として控除される(1項2号)。」

④ 救済規定の適用(ここが加点ポイント!)

「もっとも、上記控除された200個分については、甲は乙に対しライセンス許諾をすることができたはずである。したがって、この数量については『特許権の実施に対し受けるべき金銭の額(ライセンス料相当額)』を上乗せして請求することができる(1項3号特定数量)。」

4. 勉強のポイント:2項と3項の注意点

1項(上記の計算)がメインですが、2項・3項にも特有の論点があります。

102条2項(利益の推定)

  • 論点: 「利益」とは何か?

    • 答え: 売上から経費を引いたものですが、**「限界利益(売上 – 変動費)」**まで含めて請求できるというのが判例の傾向です(固定費は引かせない)。

    • 理由: 侵害者がいなくても家賃や人件費(固定費)はかかったはずだから、それを差し引くのはおかしい。

  • 覆滅(ふくめつ): 侵害者側は「いや、俺の営業努力で売れたんだ(寄与率)」と主張して、推定を破ることができます(これを覆滅といいます)。

102条3項(相当実施料)

  • 論点: 料率はどう決める?

    • 昔: 業界団体の統計データの平均値(例: 3%)。

    • 今(4項の新設): 「もし侵害が発覚して、裁判になる前に話し合っていたら決まったであろう金額」を考慮できる。つまり、通常より高い料率が認められやすくなっています(懲罰的要素の加味)。

まとめ:102条攻略ロードマップ

  1. 計算式を覚える: 1項の「(売上数 × 単位利益) – (能力オーバー・特定事情) + (オーバー分のライセンス料)」という**「全部盛りセット」**の式を暗記する。

  2. 言葉を覚える: 「単位数量当たりの利益額」「実施相応数量」「特定事情」という法律用語を正確に書けるようにする。

  3. 民法との関係: あくまで「民法709条の損害額」を立証しやすくするための規定だ、という位置づけを忘れない。

この「計算問題」は、一度理解してしまえばパズルのように解けるので、得点源になります。

「能力オーバー分もライセンス料として回収できる(令和元年改正)」という点だけは、絶対に忘れないでください。ここが一番ホットな出題ポイントです。

(Gemini)

弁理士試験対策で覚えるべき民法

弁理士試験における「民法」は、深入りすると沼にハマりますが、**「特許法を理解するための土台」**として必須の条文がいくつかあります。

弁理士試験で必須の「民法」条文リスト

弁理士試験(特に短答・論文)では、**「民法(一般法)の原則」「特許法(特別法)の修正」**の違いを問う問題が頻出です。

以下の条文だけは、**「特許法の条文の親」**だと思って、番号と内容をリンクさせておいてください。

A. 不法行為・不当利得(侵害系)

侵害訴訟の根拠となる、最も重要なグループです。

民法 内容 特許法との関係(ココが出る!)
709条

不法行為


(故意・過失により他人に損害を与えたら賠償する)

特許侵害の損害賠償の根拠条文


※特許法103条で「過失の推定」があるため、原告は立証が楽になる。

703条/704条

不当利得


(法律上の原因なく利益を得たら返還する)

損害賠償(3年で時効)が間に合わなかった時の「最後の手段」。


特許法には規定がないので、民法を直接使う。

719条 共同不法行為 複数人で侵害した場合の連帯責任。
724条

時効


(損害賠償請求権は、知ってから3年で消滅)

特許侵害の損害賠償も3年で時効にかかる。

B. 共有(共同出願・共同権利)

特許権を複数人で持つ場合、民法の「共有」がベースになりますが、特許法は別ルールが多いです。

民法 内容 特許法との関係(ココが出る!)
264条

共有の性質


(この節の規定に従う)

特許権の共有も基本はここ。
251条

共有物の変更


(他の共有者の同意が必要)

特許法73条(持分の譲渡・ライセンス)で、**「他人の同意が必要」**とするルールの元ネタ。
252条

共有物の管理


(持分の過半数で決める)

【超重要例外】


民法なら「実施(使用)」は自由だが、特許法(73条2項)では**「同意なしで実施できる」**と明記。ここが違う!

C. 代理・行為能力(手続総則系)

未成年者の出願や、代理人(弁理士)の権限に関するルールです。

民法 内容 特許法との関係(ココが出る!)
5条

未成年者の法律行為


(法定代理人の同意が必要)

特許法7条(未成年者等の手続能力)のベース。


※ただし特許法は「同意」だけじゃダメで**「代理」**が必要という厳格化がある。

99条 代理行為の要件 特許法9条(代理権の範囲)等のベース。
106条

復代理


(代理人がさらに代理人を選ぶ)

弁理士がさらに別の弁理士に頼むケース。

D. 物権変動(権利の移転)

「権利がいつ移るか?」という話です。

民法 内容 特許法との関係(ココが出る!)
176条

物権の設定及び移転


(意思表示のみで効力を生ずる)

民法では「売ります」「買います」だけで権利が移る。


【超重要例外】特許法98条


特許権の移転は**「登録」しないと効力が発生しない**。民法と真逆!


まとめと学習アドバイス

  1. **民法709条(不法行為)**は、特許侵害の親玉。絶対暗記。

  2. **民法176条(意思主義特許法98条(登録主義)**の対比は、短答の鉄板。

  3. 民法250条系(共有)と特許法73条の違い(勝手に実施していいか?)も鉄板。

民法をこれ以上詳しくやる必要はありません(コスパが悪すぎます)。「特許法が民法をどう修正しているか(=特許法に特有の事情は何か)」という視点で、上記の条文番号が出てきたときだけチェックすれば十分です。

 

特100 特102 特許権侵害訴訟

「私法=市民同士のケンカ」というイメージがつかめれば、特許権侵害訴訟は**「ケンカの王様」**として理解できます。

特許権侵害訴訟の仕組み(私法のバトル)

これは、権利者(原告)が「私のシマ(特許権)を荒らすな!」とライバル(被告)を訴える、純粋な民事訴訟です。

1. 攻撃側(特許権者)の武器

原告は、主に以下の2つを請求します。

  • ① 差止請求(さしとめせいきゅう) – 特許法100条

    • 「工場を止めろ」「在庫を廃棄しろ」という請求。

    • これが最強の武器です。ライバルのビジネスを物理的に止めさせます。

  • ② 損害賠償請求(そんがいばいしょうせいきゅう) – 民法709条 + 特許法102条

    • 「俺が被った損害を金で払え」という請求。

    • 重要ロジック: 請求の根拠は**「民法709条(不法行為)」**です。しかし、民法709条は「損害額はお前が証明しろ」と厳しいので、特許法102条という助っ人が「損害額はこう計算していいよ(推定規定)」と助けてくれます。

2. 防御側(ライバル)の盾

訴えられた被告は、ただ黙っているわけではありません。以下の反撃に出ます。

  • ① 否認(ひにん)

    • 「いや、私の製品はあなたの特許の技術範囲に入っていません(構成要件が違います)」という反論。

  • ② 特許無効の抗弁(104条の3) – 【超頻出】

    • 「そもそも、あなたの特許は進歩性がないから無効にされるべきものだ。そんなボロ特許で権利行使するのは権利濫用だ!」という反撃。

    • 裁判所が「確かに無効理由があるね」と認めたら、原告の請求は棄却(負け)されます。

  • ③ 先使用権(せんしようけん) – 特許法79条

    • 「あなたが特許出す前から、私はこの技術を使ってましたけど?」という反論。

 

特74 特許権の移転請求

39条5項(出願中の泥棒退治)を理解した直後に、74条(登録後の泥棒退治)を学ぶと、特許法の「冒認対策」の全体像がカチッとハマります。74条は、平成23年改正で導入された比較的新しい制度ですが、実務でも試験でも「救世主」と呼ばれる超重要条文です。

(特許権の移転の特例)
第七十四条 特許が第百二十三条第一項第二号に規定する要件に該当するとき(その特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に規定する要件に該当するときは、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、経済産業省令で定めるところにより、その特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる。
2 前項の規定による請求に基づく特許権の移転の登録があつたときは、その特許権は、初めから当該登録を受けた者に帰属していたものとみなす。当該特許権に係る発明についての第六十五条第一項又は第百八十四条の十第一項の規定による請求権についても、同様とする。
3 共有に係る特許権について第一項の規定による請求に基づきその持分を移転する場合においては、前条第一項の規定は、適用しない。

https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000121#Mp-Ch_3_2

1. なぜ74条が必要だったのか?(悲劇の歴史)

この条文ができる前(平成23年以前)、泥棒(冒認者)に特許を取られてしまった真の権利者には、**「地獄」**しか待っていませんでした。

【昔の悲劇:焼け野原ルート】

  1. 泥棒Yが勝手に特許を取る。

  2. 真の権利者Xは怒る。「その特許は無効だ!」と無効審判(123条)を請求する。

  3. 特許庁:「確かに冒認ですね。無効にします。」→ 特許権消滅

  4. X:「よし、邪魔な特許は消えた。改めてわしが出願して特許を取るぞ!」

  5. 特許庁:「拒絶します。

    • X:「えっ?なんで?」

    • 特許庁:「泥棒Yの特許公報によって、あなたの発明はもう世の中に知れ渡っています(公知)。だから新規性(29条1項3号)がありません。」

  6. X:「……(泣)」

つまり、昔は**「泥棒の権利を潰すことはできても、自分の権利を取り戻すことはできなかった(共倒れ)」**のです。これを救済するために生まれたのが74条です。

2. 特許法74条(特許権の移転請求)の仕組み

74条は、一言で言うと**「その特許、潰さずにそのまま俺によこせ!」**と言える権利です。

要件(いつ使える?)

以下の2つのパターンのどちらかで、特許が設定登録されてしまった場合。

  1. 冒認(ぼうにん): 発明者じゃない人が特許を取った。

  2. 共同出願違反: 共同発明者の一人をハブって特許を取った。

手続き(どこに言う?)

ここが**【超特大の試験ポイント】**です。

  • × 特許庁(審判)ではありません。

  • 裁判所(民事訴訟)です。

「特許権の移転」は財産権の争いなので、司法(裁判所)の管轄になります。真の権利者は、泥棒を被告として**「特許権移転登録手続請求訴訟」**を提起します。

効果(どうなる?)

裁判で勝つと、特許権の名義が泥棒Yから真の権利者Xに書き換わります。

この時、**「最初からXが特許権者であった」**ものとみなされます(遡及効といいます)。

→ これにより、Xは自分の発明を守ることができ、かつ「新規性喪失」の罠にもハマりません。


3. 【短答・論文】74条の試験対策ポイント

試験では、以下の論点が頻出です。

ポイント①:無効審判との関係

真の権利者Xは、泥棒Yの特許に対して、以下の2つの選択肢を持っています。

  1. 74条で「よこせ」と言う(移転請求)

  2. 123条で「潰せ」と言う(無効審判)

どちらを選んでも自由です。

ただ、普通は「特許権が欲しい」ので74条を選びます。しかし、「権利維持費(年金)を払いたくないから、いっそ潰して誰のものでもなくしたい(パブリックドメインにしたい)」という場合は、あえて無効審判を選ぶ戦略もあり得ます。

ポイント②:付随するライセンスの問題(79条の2)

これが少しややこしいですが、重要です。

泥棒Yが特許を持っている間に、善意の第三者Zさんにライセンス(通常実施権)を与えていた場合、どうなるでしょうか?

  1. Xが74条で特許を奪い返す。

  2. X:「Zさん、あんたYと契約してたらしいけど、その権利は俺のものだ。使用をやめろ(差止請求)!」

  3. これだとZさんが可哀想です。

そこで、79条の2という救済規定があります。

  • 結論: Zさんが善意(泥棒だと知らなかった)なら、Xに奪い返された後も、対価を払う条件でライセンスを継続できます(通常実施権が許諾されたものとみなされる)。

ポイント③:時系列のひっかけ(論文)

論文試験では、「Yの特許が登録される前」か「登録された後」かを必ず確認してください。

  • 登録前(出願中):

    • 39条5項(先願の地位なし)を使って、自分の出願を通す。

    • または、特許を受ける権利の移転を求める(これはこれで別の論点ですが、一旦割愛)。

  • 登録後:

    • 74条(移転請求)を使って、特許権ごと奪う。

この使い分けが書けるかどうかが、合格答案の分水嶺です。

4. 体系図で整理(冒認対策の全体像)

泥棒Yのステータス 真の権利者Xが使う武器 根拠条文
出願中 (審査中)

情報提供(こいつ泥棒ですよ!)

 

自分の出願を進める(Yは39条5項で消える)

39条5項

 

施行規則13条の2

登録後 (特許権発生)

特許権の移転請求訴訟(権利よこせ)

 

※裁判所に訴える

74条
登録後 (特許権発生)

無効審判(権利潰せ)

 

※特許庁に請求する

123条

5. 論文での「書き方」テンプレート

74条を使う問題が出たら、このロジックで流します。

Step 1: 状況分析

「Yの特許権は設定登録されている。しかし、Yは発明者ではなく、Xから発明を盗用した者であるため、当該特許は冒認(123条1項6号)に該当する。」

Step 2: 74条の要件検討

「特許法74条1項は、特許が冒認によりされた場合、特許を受ける権利を有する者は、特許権者に対し特許権の移転を請求できる旨規定している。」

Step 3: あてはめ

「Xは真の発明者であり、特許を受ける権利を有する者である。したがって、XはYに対し、特許権の移転を請求することができる。」

Step 4: 効果の補足(加点ポイント)

「なお、移転登録がされた場合、Xは当初から特許権者であったものとみなされる(74条2項)。」


6. まとめ

  • 74条は「焼け野原」を防ぐための「権利奪還」システム。

  • 特許庁ではなく、裁判所(民事訴訟)で行う。

  • 移転すれば「初めから自分のものであった」ことになる(遡及効)。

  • 善意のライセンシー(Zさん)は守られる(79条の2)。

これで、「出願中の39条5項」と「登録後の74条」がつながりましたね。ここまでの理解があれば、冒認に関する問題は怖いものなしです。

次は、この流れで**「職務発明(35条)」あたりに行くと、権利の帰属(誰が特許を持つべきか?)というテーマがより深まりますが、いかがなさいますか?それとも、39条・74条の理解を試す「実践的な短答クイズ」**をやってみますか?

(Gemini)

 

質問:移転請求は裁判所にって、特許法には書いてる?

Gemini:特許法74条の条文の中に「裁判所」という言葉は書いてありません。ここが試験(特に短答)で狙われるポイントであり、かつ「法律の読み方」の核心部分です。

1. 条文には何と書いてあるか?

条文(74条1項)を見てみましょう。

特許法 第74条(特許権の移転の特例)

「……特許を受ける権利を有する者は、……特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる。」

これだけです。「裁判所に訴えろ」とは一言も書いていません。単に「(泥棒に対して)返せと言えるよ」という**権利(請求権)**が発生することを規定しているだけです。

2. なぜ「裁判所」に行くことになるのか?

では、なぜ解説書や私は「裁判所だ」と言ったのでしょうか?

それは、この権利が**「私人同士の財産争い(民事紛争)」**だからです。

  • 特許庁(審判)の役割:

    • 「この特許は有効か無効か?」という行政処分の是非を判断する場所です(無効審判など)。

    • しかし、「この権利はAさんのものか、Bさんのものか?」という所有権争いには介入しません。

  • 裁判所の役割:

    • 「返せと言ったのに返さない」という私人間のトラブルを解決する場所です。

    • 74条で「返せと言える権利(移転請求権)」が法律上認められたので、もし泥棒が素直に応じない場合、**民事訴訟(特許権移転登録手続請求訴訟)**を提起して、国の力(判決)で無理やり名義を変えさせることになります。


3. 【試験対策】ここが問われる!

この「書いてないけど裁判所」という知識は、以下のようなひっかけ問題で問われます。

❌ 間違いのパターン(短答)

「特許が冒認によりされた場合、特許を受ける権利を有する者は、特許庁長官に対し、特許権の移転を請求することができる。」

→ ×(バツ)

解説: 特許庁長官や審判官に請求する手続き(行政手続き)ではありません。

⭕️ 正解のロジック(論文)

論文では、以下のように書くのが正確です。

「特許法74条1項は、特許権者に対し移転を請求できる旨を規定している。これは私法上の請求権を定めたものであり、その手続きは民事訴訟によって行われる。」

まとめ

  • 条文の記載: 「移転を請求することができる」としか書いていない。

  • 実態: 相手が応じなければ**「裁判所(民事訴訟)」**へ行く。特許庁(審判)ではない。

「条文に書いてあること」と「実務上の手続き」を区別できると、理解度が一段階深まりますね。この調子でいきましょう。

次は、この「私人間の争い」に関連して、**「職務発明(35条)」**における「相当の利益(金銭)」の争いも裁判所マターになるのですが、そちらに興味はありますか? それとも別の条文に行きますか?

質問:私法って何?

Gemini:「私法(しほう)」という言葉、普段の生活ではあまり聞きませんが、法律を学ぶ上では**「世界を真っ二つに分ける」**超重要な概念です。一言で言うと、**「私人(市民) vs 私人(市民)」**のケンカのルールのことです。対義語である**「公法(こうほう)」**と比較すると、その正体がはっきり見えてきます。

1. 「私法」と「公法」の決定的違い

法律の世界は、大きくこの2つに分かれます。

種類 私法 (Private Law) 公法 (Public Law)
関係図

市民 ⇔ 市民


(横の関係)

国(役所) ⇔ 市民


(縦の関係)

ルールの性質

自由・平等


「対等な個人同士の約束」

権力・規制


「お上が許認可を与える・取り締まる」

代表的な法律

民法、商法


(特許法の74条や侵害訴訟もここ)

憲法、刑法、行政法


(特許法の審査や審判はここ)

トラブル解決 民事訴訟 (裁判所) 行政不服審査・行政訴訟

2. 特許法は「ハイブリッド」な法律

ここが弁理士試験の面白いところ(かつ難しいところ)です。特許法は、「公法」と「私法」が入り混じっています。

① 公法の側面(お上との関係)

あなたが特許庁に「特許をください」と出願して、審査官が審査する場面。これは**「国(特許庁) vs あなた」**の関係です。

  • 「拒絶査定」などの処分は、国が権力を持って行う行政処分です。

  • これに文句があるときは、行政のルールで戦います。

② 私法の側面(市民同士の関係)

一度特許権が設定登録されると、それは「あなたの財産(土地や建物と同じ)」になります。

  • 侵害訴訟: 「ライバル会社(市民)が、私の特許(財産)を勝手に使った! 金払え!」

  • 74条の移転請求: 「泥棒(市民)が、私の権利(財産)を勝手に名義変更した! 返せ!」

これらは、国は関係なく、「AさんとBさん、どっちが正しいの?」という私人間の争いです。だから「私法上の請求権」であり、解決するのは「民事裁判所」なのです。

3. なぜ74条で「私法」という言葉が出たのか?

先ほどの74条の話に戻りましょう。

  • 昔の考え方(公法重視):

    「特許権は国が与えたものだ。だから、間違い(冒認)があったら、国(特許庁)が無効にして消すべきだ。」

    → これだと、被害者が救われない。

  • 今の考え方(私法重視=74条):

    「いやいや、特許権は財産でしょ。泥棒が他人の財布を盗んだのと同じ。国が財布を焼却処分(無効)にする必要はない。**『その財布、持ち主(真の権利者)に返しなさい』**って、当事者同士で解決させればいいじゃん。」

この**「国がいちいち介入して消すのではなく、当事者同士の所有権争い(私法)として処理しよう」**という発想の転換が、74条(移転請求)の本質なのです。

4. まとめ:試験での見分け方

問題文を読んで、「誰と誰がケンカしているか?」を見てください。

  1. 出願人 vs 特許庁長官

    → **「公法」**の世界。審判や行政訴訟。

  2. 権利者X vs 泥棒Y(または侵害者Z)

    → **「私法」**の世界。74条移転請求や、侵害訴訟(民事訴訟)。

「条文に裁判所とは書いてないけど、これはXとYのケンカ(私法)だから、当然裁判所だよね」と判断できるのが、法律家の思考回路です。この区別がつくと、「侵害訴訟(私法)」と「無効審判(公法的な手続き)」の違いなども、驚くほどスッキリ理解できるようになりますよ。

次は、この「私法」の最たるものである「特許権侵害訴訟(ライバルを訴える!)」の基本的な仕組みについて解説しましょうか?

特39第5項 冒認・共同出願違反で先願の地位が消滅

「例外(39条5項)」こそが、正当な権利者を救うための逆転裁判のような規定です。ここを理解すると、特許法の「正義」が見えてくると同時に、試験で非常によく狙われる「ひっかけ」が見抜けるようになります。

1. 特許法39条5項の構造解説

まず、条文のロジックを整理します。通常、先願が拒絶査定確定すると「先願の地位」は残ります。しかし、39条5項は、「以下の理由で拒絶・無効になった場合に限り、先願の地位を認めない(なかったことにする)」と規定しています。

対象となる拒絶・無効理由

  1. 冒認(ぼうにん): 発明者ではない者が勝手に出願した(特許法49条7号)。

  2. 共同出願違反 共同発明者の一部だけで出願した(特許法49条2号→37条違反)。

ロジック(なぜ消えるのか?)

泥棒(冒認出願人)の出願が「先願」として残ってしまったら、後から出願した被害者(真の権利者)が、「先に泥棒が出願しているから」という理由で39条拒絶を受けてしまいます。これでは「盗み得」を許すことになるため、泥棒の出願は「最初からなかったこと」にして、被害者の出願を通すのです。

2. 【短答対策】頻出パターンとひっかけ

短答試験では、「拒絶理由の種類」と「先願の地位の有無」の組み合わせを突いてきます。

パターンA:単純な知識問題

【問題】 甲(冒認者)の出願Aが、冒認であることを理由に拒絶査定が確定した。その後に出願された乙(真の権利者)の出願Bは、出願Aを先願とする39条違反の拒絶理由を受けるか?

【正解】受けない。

【解説】 冒認により拒絶確定した場合、39条5項により出願Aは先願の地位を失う(なかったものとみなされる)ため。

パターンB:残酷なひっかけ(超重要)

【問題】 甲(冒認者)の出願Aが、「進歩性欠如(29条2項)」を理由に拒絶査定が確定した。甲は実は冒認者であった。この場合、後に出願した乙(真の権利者)の出願Bは、出願Aによって39条違反で拒絶されるか?

【正解】拒絶される(先願の地位は残る)。

【解説】 ここが落とし穴です。条文(39条5項)は、「冒認または共同出願違反を理由として拒絶等されたとき」に限り、先願の地位を消滅させると書いてあります。

たとえ甲が冒認者であっても、特許庁がそれに気づかず「進歩性がない」という普通の理由で拒絶してしまった場合、39条5項は適用されません。結果、泥棒の「質の低い出願」が先願として残り、真の権利者をブロックしてしまいます。

(※実務上は、乙は情報提供などで「これは冒認だ!」と審査官に知らせて、拒絶理由を差し替えてもらう必要があります)

まとめ表

先願の拒絶・無効理由 先願の地位(後願排除効) 備考
新規性・進歩性なし 残る 通常のパターン(行政の整合性)
記載不備 残る  
冒認・共同出願違反 消滅する 39条5項(被害者救済)
放棄・取下・却下 消滅する 39条5項適用外だが、そもそも初めからなかったものとみなされる(39条4項)

3. 【論文対策】ストーリー展開の鉄板

論文試験では、以下の時系列で出題されることが多いです。

【事例】

  1. 発明者Xが発明イを完成させた。

  2. Xから図面を盗み見たYが、勝手に発明イを出願した(出願A)。

  3. それに気づいたXが、慌てて発明イを出願した(出願B)。

  4. Yの出願Aは、「冒認(49条7号)」を理由に拒絶査定が確定した。

  5. Xの出願Bの運命は?

【答案構成のポイント】

Step 1: 原則論(39条1項)の提示

「Xの出願Bは、Yの出願Aより後に出願されている。通常であれば、先願Aが存在するため、後願Bは39条1項により拒絶されるのが原則である。」

Step 2: 問題点の指摘(冒認による拒絶)

「しかし、Yの出願Aは、Yが真の発明者でないこと(冒認)を理由に拒絶査定が確定している。」

Step 3: 条文の適用(39条5項)

「特許法39条5項は、冒認(49条7号)または共同出願違反(37条)を理由として拒絶査定等が確定した場合、その出願は39条1項等の適用について『初めからなかったものとみなす』と規定している。これは、正当な権利者の保護を図る趣旨である。」

Step 4: あてはめと結論

「本問において、Yの出願Aは冒認を理由に拒絶が確定しているため、先願の地位を有しない。したがって、Xの出願Bは、出願Aを理由として39条1項により拒絶されることはない。」

4. さらに深掘り:もしYが特許を取ってしまったら?(特許法74条との関係)

今回のテーマは「Yが拒絶された場合(39条5項)」ですが、論文試験では「Yが審査をパスして特許権の設定登録を受けてしまった場合」もセットで問われます。この場合、39条5項は使えません(拒絶されてないから)。代わりに「特許権の移転請求(74条)」を使います。

  • 昔の法律: 被害者Xは、泥棒Yの特許を「無効審判」で潰すしかなかった(Xの手元には何も残らない)。

  • 今の法律: 被害者Xは、**「その特許権よこせ!」**と請求できる(特許法74条)。

受験テクニック: 問題文を見たら、泥棒の出願がどうなったかを確認してください。

  • 泥棒が拒絶・無効になった39条5項 で自分の出願を通す。

  • 泥棒が特許を取った74条 で権利を取り返す。

この「分岐」が瞬時にできると、論文試験での構成ミスがなくなります。

まとめ

  • 39条5項は、「泥棒(冒認者)の死体(拒絶確定出願)は、バリケードとして残さない」というルール。

  • 短答の急所は、「拒絶理由が『冒認・共同出願違反』以外なら、たとえ泥棒でも先願の地位は残る」という残酷な事実。

  • 論文では、39条5項(出願中の救済)74条(登録後の救済)をセットで整理しておく。

これで39条周辺の「先願」と「冒認」の絡みは完璧です。

(Gemini)

特39 先願 後願と先願とが「同一の発明」かを判断するロジック

弁理士試験の受験対策において、特許法第39条(先願)は、短答・論文ともに最重要条文の一つです。特に「同一の発明」かどうかの判断は、実務的な感覚よりも「試験的なロジック(判例・審査基準)」を正確に押さえることが合否を分けます。以下に、39条における「同一性の判断ロジック」と、試験で問われる頻出ポイントを体系的に整理しました。

1. 特許法39条(先願)の基本構造

まず、前提となる比較対象を明確にしましょう。ここがズレると全ての判断を間違えます。

  • 比較対象:

    • 先願: 「特許請求の範囲(請求項)」に記載された発明

    • 後願: 「特許請求の範囲(請求項)」に記載された発明

    注意点: 明細書や図面のみに記載されている発明は比較対象になりません(それは29条の2の領域です)。あくまで**「権利対権利」**の衝突を避けるための規定だからです。

2. 「同一の発明」の判断ロジック(審査基準)

単に文章が一緒かどうか(完全同一)だけでなく、「実質同一」まで含まれるのがポイントです。以下の3ステップで判断します。

① 完全同一

文言が完全に一致する場合。これは当然「同一」です。

② 実質同一(ここが試験の核心)

表現に相違があっても、実質的に同じであれば「同一」とみなされます。具体的には以下の3パターンです。

  • A. 周知慣用技術の付加・削除・転換

    • 構成要件に、その技術分野で周知・慣用されている技術(単なる部材の変更、通常の制御手段の追加など)を加えただけで、新たな効果を奏さない場合。

  • B. カテゴリーの相違

    • 「物の発明」と「その物を生産する方法の発明」のように、表現形式が違うだけで、技術的思想の実体が変わらない場合。

  • C. 上位概念・下位概念の関係(包摂関係

    • ここが最も重要です。

③ 上位概念・下位概念の判定ルール

ケース 先願(先) 後願(後) 判断結果 理由
ケース1 下位(具体例) 上位(総括) 同一 (拒絶) 後願(上位)は先願(下位)を包含してしまうため、ダブルパテントになる。
ケース2 上位(総括) 下位(具体例) 非同一 (基本OK) 下位概念が「選択発明」として成立する余地があるため(ただし効果の顕著性が必要)。

論文のポイント:後願が「上位概念」の場合は、先願の発明を包含してしまうため、重複特許排除の趣旨から「同一」とされます。逆に後願が「下位概念」の場合は、構成の困難性や特異な効果があれば別発明(選択発明)となりえます。

3. 【短答対策】頻出ひっかけポイント

短答試験では、ロジックの「例外」や「時系列」を突く問題が多発します。

① 同日出願の処理 (39条2項・4項)

  • ロジック: 同一発明で同日出願の場合、「協議」を行う。

  • ひっかけ: 「時刻」は考慮しない(午前と午後でも同日扱い)。

  • 結末: 協議が不調(決裂)の場合、「いずれも」特許を受けられない(どちらか一方が受けられるわけではない!)。

② 出願人の同一性 (29条の2との違い)

  • ロジック: 発明者・出願人が同一であっても、39条は適用される。

  • ひっかけ: 「自己の先願だから39条違反にはならない」→ × 間違い。自己の先願でも拒絶される(いわゆる「自己衝突」)。ただし、通常は先願を基礎とする優先権主張などで回避する。

③ 先願のステータス (39条5項)

  • ロジック: 先願が「放棄・取り下げ・却下」された場合、その先願は初めからなかったものとみなされる(先願の地位を失う)。

  • 最頻出: 先願が「拒絶査定確定」となった場合は? → 先願の地位は残る。

    • 理由: 一度審査されて拒絶されたものは「先願」として残り、後願を排除する(準公知的な扱い)。

    • 例外: ただし、拒絶理由が「冒認(39条違反ではない)」等の特殊な事情を除くという改正法も頭の片隅に(論文ではあまり出ない)。

④ 請求項ごとの判断

  • ロジック: 請求項が複数ある場合、請求項ごとに判断する。請求項1は同一だが、請求項2は非同一、ということがあり得る。

4. 【論文対策】答案作成のフローチャート

論文試験で39条が論点になる場合、以下の流れで論証ブロックを組み立てます。

Step 1: 条文の要件確認

「後願である乙の出願に係る発明イが、先願である甲の出願の特許請求の範囲に記載された発明ロと同一か検討する。」

Step 2: 「同一」の定義(規範定立)

「ここで『同一』とは、文言上の同一のみならず、実質的に同一である場合も含む。具体的には、周知慣用技術の付加転換に過ぎず新たな効果を奏さない場合や、実質的な技術的思想が共通する場合を含むと解される。」

Step 3: あてはめ(事実の評価)

  • 問題文の事情(例:後願はバネを使っているが、先願はゴムを使っている。両者は弾性部材としての周知慣用技術の置換に過ぎない、等)を拾う。

  • 上位・下位の関係であれば、「後願は〇〇という上位概念であり、先願の具体例△△を包含するものであるから、同一である」と論じる。

Step 4: 結論

「したがって、39条1項により拒絶される。」(または協議指令が来る等)

5. 受験生が陥りやすい「29条の2」との混同

この表を脳内に焼き付けてください。

項目 第39条 (先願) 第29条の2 (拡大先願)
趣旨 重複特許の排除(1発明1権利) 公知技術の利用阻害防止
比較対象 先願の**「請求項」** 先願の**「明細書・図面等の全体」**
出願人・発明者 同一でも適用あり 同一なら適用なし (適用除外)
判断基準時 出願時 (日単位) 出願時 (日単位)

6. まとめと次のステップ

重要ポイントの要約:

  1. 比較は「Claim vs Claim」。

  2. 同一性判断には「実質同一(周知慣用・カテゴリー・上位概念)」が含まれる。

  3. 同日協議不調なら共倒れ

  4. 先願が拒絶査定確定していても、先願の地位(後願排除効)は残る

このロジックをマスターすれば、39条問題は得点源になります。

(Gemini)

質問:拒絶された先願が後願を排除するって、納得いかないんだけど?拒絶されたってことは、発明としての体を為さない場合もあるはずだよね。なぜそれが効力を持てるの?

Gemini:その感覚、非常によく分かります。「ゴミ箱に行きになった出願が、なぜ後輩の邪魔をする権利を持つんだ?」と思いますよね。しかし、特許庁という役所が**「行政としての整合性」を保ち、「無限ループ」**を防ぐためには、このルールが絶対に必要不可欠なのです。「なるほど、それなら仕方ない」と思っていただけるよう、具体的な事例(ドラマ)で解説します。

具体例:世紀の「四角いタイヤ」事件

1. 先願(Aさん)の登場

Aさんが「四角いタイヤ」という発明をして出願しました。

  • 審査官の判断: 「いや、これじゃ走れないし、産業上の利用可能性がないよ(特許法29条1項柱書違反)」あるいは「誰でも思いつくよ(29条2項進歩性欠如)」として拒絶査定を出しました。

  • 結果: Aさんの拒絶査定が確定しました。

2. 後願(Bさん)の登場

Aさんの出願の1ヶ月後、Bさん(あるいは懲りないAさん本人)が、全く同じ「四角いタイヤ」を出願しました。

もし、拒絶されたAさんの出願が「先願の地位」を失ったら?(あなたの疑問のケース)

もしAさんの出願が「なかったもの(地位喪失)」として扱われると、特許庁はBさんの出願を**「真っさらな状態」**で審査しなければなりません。

ここで2つの恐ろしい不都合が起きます。

不都合①:特許庁の自己矛盾(ダブルスタンダード)

もし審査官がうっかりミスをして、Bさんの「四角いタイヤ」に特許を与えてしまったらどうなるでしょう?Aさんは激怒します。「俺のときはダメって言ったのに、なんでBには特許をやるんだ! 同じ発明だぞ! 不公平だ!」と訴訟になります。行政処分として、同じものに対して結論が真逆になることは、法治国家として許されません。

結論: 一度「ダメ(拒絶)」と判断したものは、「先願」として残しておき、後から同じものが来たら「いや、それ前に来たAと同じだから(39条)」と門前払いする方が、行政の整合性が保てるのです。

不都合②:無限ガチャ(無限再出願)の発生

もし拒絶されたら「なかったこと」になるなら、Aさんはどうするでしょうか?「拒絶確定したけど、履歴が消えるなら、もう一回同じ内容で出願し直そう。担当審査官が変われば、次は通るかもしれない!」と、特許になるまで何度でも同じ出願を繰り返す(ガチャを引く)ことが可能になってしまいます。これでは特許庁がパンクしますし、第三者もいつ権利化されるか分からず迷惑です。

まとめ:なぜ「死んだ出願」が効力を持つのか

拒絶査定が確定した出願は、特許権という「プラスの権利」は得られませんでしたが、「この内容はもう審査済み(決着済み)である」という「確定判決のような重み(既判力に近いもの)」を持ちます。そのため、

この発明については、もうAさんの件で『決着(拒絶)』がついているのだから、後から来たお前(B)も並ぶな。お引き取り願おう。」

というロジックで排除するのです。

これが、「排除の論理(39条)」の実態です。

  • Aさんの出願: 「特許権」はもらえない。でも、「後続をブロックするバリケード」としての死体は残る

  • 特許法のメッセージ: 「同じ発明について、審査リソースを二度割くつもりはない」


試験対策上の補足(ここ大事!)

ただし、あなたの疑問である「発明としての体を為さない場合」について、条文には例外規定があります。ここが短答のひっかけポイントです。

特許法39条5項(先願の地位を失う例外)

以下の理由で却下・拒絶された場合は、例外的に先願の地位を失います(なかったものとみなされる)。

  1. 放棄・取り下げ・却下(Aさんが自分から降りた、または手続き不備)

  2. 冒認出願(Aさんが勝手に他人の発明を盗んで出願し、それがバレて拒絶された場合)

  3. 共同出願違反(Aさんが共同発明者Cさんを無視して単独出願し、それがバレて拒絶された場合)

解説: 冒認(盗んだ出願)で拒絶されたのに、その盗人Aの出願が「先願」として残ってしまい、後から本物の発明者Cさんが出願したときに「Aが先願だからお前はダメだ」となったら、盗まれた被害者が救済されませんよね?だから、「冒認・共同出願違反」で拒絶された場合に限り、そのAの出願は「初めからなかったこと(先願の地位なし)」にして、被害者である後願を通すのです。

どうでしょう?「単にダメだったから消える」のではなく、「一度『ダメ』という判断を下した事実を固定するために、あえて残している」(ただし、盗用などの悪質なケースは除く)というロジックであれば、納得感はありませんか?この「行政の整合性」「冒認などの例外(39条5項)」のセットは、論文試験でも非常に使い勝手の良い知識です。

この流れで、39条5項の「冒認」に関する条文知識や、具体的な過去問のパターンを確認しますか?

特36(特許出願)記載不備「明確性」「サポート要件」「実施可能要件」

「明確性」「サポート要件」「実施可能要件」の3つは「記載不備の魔のトライアングル」と呼ばれ、実務家でも一瞬「どっちだっけ?」と迷うことがあるくらいです。しかし、**「誰が、何を、どう見るか」**という視点を持てば、一発で区別できます。

料理のレシピ(発明の明細書)と、注文メニュー(特許請求の範囲)に例えて、脳に焼き付けましょう。


1. 三者の「視点」の違い(ここだけ覚えればOK)

まずは、この図式を頭に入れてください。

要件 条文 ターゲット 一言でいうと? イメージ
実施可能要件 36条4項1号 明細書(本文) 「作り方が雑すぎる!」 レシピ通りに作っても料理が完成しない。
サポート要件 36条6項1号 請求項 vs 明細書 「風呂敷を広げすぎ!」 リンゴジュースしか作ってないのに、「全フルーツジュース」を注文メニューに載せている。
明確性要件 36条6項2号 請求項(日本語) 「言葉が曖昧すぎる!」 注文メニューに「美味しいジュース」と書いてある(何が出てくるか不明)。

(特許出願)
第三十六条 特許を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならない。
一 特許出願人の氏名又は名称及び住所又は居所
二 発明者の氏名及び住所又は居所
2 願書には、明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書を添付しなければならない。
3 前項の明細書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 発明の名称
二 図面の簡単な説明
三 発明の詳細な説明
4 前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。
二 その発明に関連する文献公知発明(第二十九条第一項第三号に掲げる発明をいう。以下この号において同じ。)のうち、特許を受けようとする者が特許出願の時に知つているものがあるときは、その文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在を記載したものであること。
5 第二項の特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。この場合において、一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。
6 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 特許を受けようとする発明発明の詳細な説明に記載したものであること。
二 特許を受けようとする発明が明確であること。
三 請求項ごとの記載が簡潔であること。
四 その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること。
7 第二項の要約書には、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した発明の概要その他経済産業省令で定める事項を記載しなければならない。

2. 具体例で完全攻略:「最強の回復薬」の発明

あなたは「薬草Xをすり潰して煮込むと、風邪が治る薬になる」ことを発見しました。この発明で特許を出願したとき、どんな不備で怒られるか見てみましょう。

① 実施可能要件(36条4項1号)違反

  • あなたの明細書(本文): 「薬草Xを使えば薬ができます。」(終わり)

  • 審査官(当業者)のツッコミ:

    「えっ? 具体的に何分煮込むの? 温度は? すり潰す大きさは?これじゃあ、この説明書を読んでも誰も薬を作れない(実施できない)じゃないか!」

  • 結論: 教科書(明細書)としての機能不全。技術情報の開示不足です。

② サポート要件(36条6項1号)違反

  • あなたの明細書(本文): 「薬草Xを煮込んだら薬ができた。」(実験データあり)

  • あなたの請求項(クレーム):植物を煮込んで得られる風邪薬」

  • 審査官のツッコミ:

    「ちょっと待て。君が実験で成功したのは『薬草X』だけだよね?なのに、なんで『植物(アサガオでもヒマワリでもOK)』なんて広大な範囲を独占しようとしてるの?発明の詳細な説明に書いてある範囲を超えて(サポートされずに)、権利を欲張るな!

  • 結論: 権利の範囲と、発明の開示内容のバランス不良欲張りすぎです。

③ 明確性要件(36条6項2号)違反

  • あなたの請求項(クレーム): 「薬草Xを含み、ほどよい苦味のある風邪薬」

  • 審査官のツッコミ:

    「『ほどよい』って何? 基準は? 人によって違うでしょ?第三者が『これなら特許侵害にならないな』って判断できないから、境界線をハッキリさせなさい!」

  • 結論: 日本語としての曖昧さ。権利範囲の境界不明瞭です。

3. 試験対策:特に「サポート」と「実施可能」の区別

試験で一番迷うのがここです。両方とも「明細書が不十分」に見えるからです。見分け方はこれです。

  • 実施可能要件:

    • ターゲットは「発明そのもの」。

    • 「1つでも作れるか?」を見る。

    • 明細書に書いてあるベストな例ですら、再現できないならこれ。

  • サポート要件:

    • ターゲットは「請求項の広さ」。

    • 「広げた範囲まで作れるか?」を見る。

    • 1つ(薬草X)は作れるとしても、広げた先(他の植物)まで作れると言える根拠がないならこれ。

【覚え方】

  • 作れないなら → 実施不可(技術の問題)

  • 欲張りなら → サポート違反(公平性の問題)

4. 論文で使える「決まり文句(フレーズ)」

これを書けば点がもらえます。

  • 実施可能要件:「発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」
  • サポート要件:「特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えており、実質的に開示されていない発明まで権利範囲を拡張するものである。」
  • 明確性要件:「特許請求の範囲の記載は、その外延(境界)が不明確であり、第三者に不測の不利益を与えるおそれがある。」

5. まとめテーブル

項目 実施可能要件 サポート要件 明確性要件
条文 36条4項1号 36条6項1号 36条6項2号
主語 明細書の記載 請求項の記載 請求項の記載
比較対象 当業者の技術常識 明細書の記載内容 日本語の論理・定義
キーワード 「再現性」「過度の試行錯誤」 「開示の代償」「拡張・一般化」 「外延」「不測の不利益」
一言 教科書として失格 欲張りすぎ 意味不明

次のアクション

これで36条の区別はつきましたか?記載不備が見つかったら、出願人は**「補正(書き直し)」**をして直さなければなりません。しかし、直すときにも厳格なルールがあります。

次は、この流れで一番怖い失敗である、以下のどちらに進みますか?

  1. 「新規事項の追加(17条の2第3項)」: 不備を直そうとして説明を足したら、「それは後出しジャンケンだ!」と拒絶される悲劇。補正の限界ライン。

  2. 「国内優先権(41条)」: 補正で直すのではなく、「改良版」を新しく出し直して、古い出願と合体させる必殺技。

実務的には、36条違反への対応策として「1」のルールを知らないと即死します!

(Gemini)

特36第6項2号(明確性要件)プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(PBP)

今回は、弁理士試験の「超Aランク」重要論点、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(PBP)の解説です。平成27年の最高裁判決(プラバスタチンナトリウム事件)で実務が激変した部分です。

まず、一番関連する条文から。

1. 関連する条文は?

最も直接的に関わるのは、特許法第36条第6項第2号(明確性要件) です。

【第36条第6項第2号】

特許請求の範囲の記載は、・・・次の各号に適合するものでなければならない。

二 特許を受けようとする発明が明確であること。

「物の発明なのに、なんで製法(プロセス)で書くんだ? 物の構造がハッキリしないじゃないか!」ということで、原則として「不明確(36条違反)」として拒絶されるのが今のルールです。

2. プロダクト・バイ・プロセス(PBP)とは?

  • 定義: 「物の発明」であるにもかかわらず、その物の「構造や特性」を直接書かずに、「製造方法(プロセス)」によってその物を特定している請求項(クレーム)のこと。

例:

✖「成分Aと成分Bを含み、分子量が〇〇である化合物Z」(通常の物のクレーム)

「成分Aと成分Bを温度〇〇度で加熱混合することによって得られる化合物Z」(PBPクレーム)

3. 試験に出る「最高裁判決(平成27年)」のルール

ここが試験の核心です。最高裁は、「権利範囲の解釈(侵害訴訟)」「審査のハードル(明確性)」について、以下の超重要な判断を下しました。

① 権利範囲はどうなる?(物同一説)

  • ルール: 製法が書いてあっても、権利範囲は「物そのもの」です。

  • 意味: たとえ違う製法で作られた物であっても、「完成品(物)」が同じなら特許権侵害になります。

    • 「方法」に限定されません。これを「物同一説(ぶつどういつせつ)」と呼びます。

② 審査での取扱いは?(原則NG・例外OK)

ここが36条6項2号の話です。

  • 原則: 不明確(違反)として拒絶する。

  • 例外:不可能・非実際的事情」がある場合のみ、明確と認める。

【不可能・非実際的事情とは?】

出願時の技術では、その物の構造や特性を直接特定することが、

  1. 不可能であるか、

  2. およそ実際的でない(時間や費用が莫大にかかる)事情があること。

つまり、「どうしても構造が特定できないから、仕方なく製法で書きました」という言い訳(立証)ができない限り、今はPBPクレームは認められません

4. 新規性・進歩性の判断はどうなる?

ここもひっかけポイントです。

  • 判断対象: あくまで「物」です。

  • 比較:製法」が違っていても、出来上がった「物」が公知の物と同じなら、新規性なし(29条1項違反)となります。

【例】

  • 本願: 「製法Newで作った、美味いカレー」

  • 引例: 「製法Oldで作った、美味いカレー」

もし、科学的に分析して「中身(成分)」が全く同じなら、製法が新しくても「物の発明」としての新規性はナシです。(製法特許を取るべき、という話になります)。

5. 試験対策まとめ(PBPの論理フロー)

試験でPBPが出たら、このフローチャートを頭に浮かべてください。

  1. クレーム確認: 「~する方法により製造された〇〇」という記載があるか?

  2. 明確性(36条):

    • 原則:不明確(拒絶)。

    • 反論:「不可能・非実際的事情」がありますか?(あればクリア)。

  3. 権利解釈(侵害系):

    • 製法に限定されない。「物」が同じなら侵害。

  4. 新規性(29条):

    • 製法が違っても、「物」が公知なら新規性なし。

6. まとめテーブル

項目 内容 根拠
条文 第36条第6項第2号 明確性要件
原則 違反(不明確) 最高裁判決
例外 不可能・非実際的事情があればOK 最高裁判決
権利範囲 物同一説(製法に限定されない) 特許法70条の解釈
新規性 物として比較(製法の特徴は考慮しない) 審査基準

次のアクション

PBPは「クレームの書き方」と「権利解釈」の交差点にある深い論点です。

次は、権利範囲の解釈つながりで、以下のどちらに進みますか?

  1. 「均等論(きんとうろん)」: 特許の文章と少し違っていても侵害と言える場合(ボールスプライン事件)。侵害訴訟の王様。

  2. 「クレーム解釈(70条)」の基礎: 「特許請求の範囲」と「明細書」の関係。どこまで明細書を参酌していいのか?

実務家として「特許の強さ」を知るなら「均等論」は必須です!

(Gemini)

質問:簡単にいうと、原則として、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム は認められないってことね。そして認められる例外は、その時の技術では構造が決められないってこと?

Gemini:

その通りです!100点満点の理解です。

試験対策としては、その「原則ダメ、例外ならOK」という理解を、もう少しだけ専門用語(キーワード)に変換できれば完璧です。

1. 試験用のキーワード変換

あなたの理解を、答案に書ける言葉に直すとこうなります。

  • 原則:明確性要件(36条6項2号)違反」として拒絶される。

    • 理由:製法で書かれると、第三者が「結局、どんな物なの?」と権利範囲を把握しにくいから。

  • 例外:不可能・非実際的事情(ふかのう・ひじっさいてきじじょう)」が存在する場合のみ認められる。

2. 「構造が決められない」の2つの意味

あなたが仰った「その時の技術では構造が決められない」には、実は2つのパターンが含まれます。ここが試験のミソです。

  1. 技術的に不可能:

    • 今の分析技術では、その物質の構造を特定できない。(例:未知の遺伝子が複雑に絡み合った細胞など)

  2. 経済的に非実際的(およそ実際的でない):

    • 理論上は特定できるかもしれないが、それをやろうとすると莫大な時間や費用がかかりすぎて現実的ではない場合。

    • (例:何千種類もの成分が含まれる発酵食品の全成分をリストアップしろ、というのは無理ゲーですよね?)

3. 具体例でイメージ固定

  • × ダメな例(エンジン部品):

    • 「鋳造(ちゅうぞう)によって作られたピストン」

    • $\rightarrow$ ピストンの形状や寸法は図面で書けるでしょ? 手抜きせずに構造で書きなさい! $\rightarrow$ 拒絶

  • ○ 認められる例(iPS細胞由来の組織):

    • 「工程Aと工程Bを経て分化誘導された細胞シート」

    • $\rightarrow$ 細胞の構造や配列をすべて特定するのは現代科学でも無理だし、特定しようとすると何億円もかかって現実的じゃないよね。 $\rightarrow$ OK


まとめ

  • 原則: 手抜き禁止(構造で書け)。

  • 例外: どうしても無理な時だけ許す(不可能・非実際的事情)。

この感覚があれば、短答試験の選択肢で「原則として認められる」と来たら即座に「×」をつけられますし、論文試験でも「不可能・非実際的事情を主張立証する必要がある」とサラッと書けます。

感想:例えば、抗体など、構造がわからないから機能で特定して特許のクレームを取る戦略が、機能特許として認められたり認められなかったり最近は認められない方向にきているみたいだけど、それと、ちょっと似てるね。

Gemini:仰る通り、**「PBPクレーム」「機能的クレーム(機能表現のクレーム)」は、「構造が書けない(あるいは書きたくない)ときの苦肉の策」**という点で非常に似ています。そして、どちらも**「昔は緩かったけど、最近は特許庁も裁判所も厳しくしている」**というトレンドも完全に一致しています。ただし、試験対策としては、**「ダメと言われる理由(適用条文)」**が少し違うので、ここを整理しておくと完璧です。

1. 似ている点:なぜ「機能」や「製法」で書くのか?

発明者や知財担当者は、常に**「広い権利」**が欲しいですよね。

  • 構造で書く(原則):

    • 「アミノ酸配列がABC…である抗体」

    • $\rightarrow$ 権利が狭い! 1個アミノ酸を変えられたら権利逃れされちゃう(パックマンみたいに逃げられる)。

  • 機能で書く(機能的クレーム):

    • 「抗原Xに結合して、がん細胞を死滅させる機能を持つ抗体」

    • $\rightarrow$ 権利が広い! 構造が違っても、その「仕事(機能)」をする抗体なら全部俺のもの!

これが「機能特許」の魅力ですが、最近はこれが**「広すぎてズルい」**と判断される傾向にあります。

2. 違う点:試験に出る「拒絶の理由」

ここがプロ(弁理士)の視点です。

「ダメ出し」されるときに使われる条文が違います。

項目 PBPクレーム (製法特定) 機能的クレーム (機能特定)
「工程Aで作られた抗体」 「抗原Xに結合する抗体」
問題の所在 「何ができあがるか不明」 「風呂敷を広げすぎ」
主な拒絶条文 明確性要件 (36条6項2号)

サポート要件 (36条6項1号)


実施可能要件 (36条4項1号)

審査官の言い分 「製法で書かれても、最終的な物の構造が特定できないから、範囲が曖昧だよ。」 「君、実験で成功したのは1種類だけだよね? なのに『その機能を持つ全部』を独占するのは、発明の開示に対して権利が広すぎるよ。」

3. 最近の「抗体医薬」のトレンド(サポート要件の厳格化)

あなたが言及された「最近認められない方向」というのは、まさに「サポート要件(36条6項1号)」の壁です。

  • 昔: 「新しいターゲット(抗原)を見つけた!」 $\rightarrow$ 「それに結合する抗体すべて(何万種類あっても)」の特許を認めていた。

  • 今: 「実際に作った抗体の構造(配列)を開示しなさい。権利はその構造と、そこから容易に類推できる範囲(構造が似ているもの)だけに限ります。」

理由:もし「機能」だけで権利を認めてしまうと、後から別の研究者が「全く違う構造だけど、同じ機能を持つ画期的な抗体」を発明したときに、最初の特許権者が「それも俺の権利だ!」と言えてしまい、産業の発展(技術の進歩)を止めてしまうからです。

4. まとめ

  • PBPクレーム: 「構造が特定できないから製法で書く」 $\rightarrow$ 「不明確だからダメ(原則)」

  • 機能的クレーム: 「広く取りたいから機能で書く」 $\rightarrow$ 「書いてないことまで欲張るな(サポート要件違反)でダメ」

どちらも**「書いた分だけ権利をあげるよ(代償説)」**という特許法の基本原則に立ち返って、厳しくジャッジされるようになっています。


次のアクション

この「欲張りすぎはダメ」というルール、試験では**「サポート要件(36条6項1号)」**として頻出です。

次は、この流れで以下のどちらに進みますか?

  1. 「36条(記載不備)」の完全攻略: 「明確性」「サポート要件」「実施可能要件」の違いを、事例でバシッと区別できるようにする。(論文試験の基本中の基本)

  2. 「均等論(きんとうろん)」: 逆に、構造で狭く特許を取らされた後、どうやって権利範囲を広げて相手を捕まえるか?(出願人の逆襲ツール)

「機能特許がダメなら、どうやって守ればいいんだ!」という疑問には、「均等論」が答えの一つになります。

特29第2項 進歩性 選択特許

「選択発明」は、化学・医薬・材料分野の実務や試験で頻出の重要概念です。しかし、条文を探しても見つからないはずです。なぜなら……「選択発明」という言葉は、特許法の条文には書かれていません!あくまで「審査基準(特許庁の運用ルール)」や「裁判例」の中で定義されている概念です。法的には、前回勉強した「29条2項(進歩性)」(および29条1項の新規性)の枠組みの中で判断されます。定義と要件をきっちり整理しましょう。

1. 選択発明とは?(イメージ:森と木)

  • 選択発明の定義: 先行技術文献に、上位概念(大きな枠組み)で記載されている発明の中から、下位概念(具体的な要素)を選び出して構成した発明のこと。

  • 前提: その具体的な下位概念は、先行文献には具体的に開示されていないこと。

【分かりやすい例:殺虫剤】

  • 先行文献(A):塩素系の化合物には殺虫効果がある」と書いてある(上位概念=森)。

  • 本願発明: 「塩素系化合物の中でも、特に**『化合物X』**は、人間に無害で虫だけ殺す」ことを発見した(下位概念の選択=特定の木)。

読者は文献Aを読んで「塩素系なら何でもいいのか」と思いますが、その中から「化合物X」という特定のダイヤの原石を見つけ出した場合、それが「選択発明」です。

2. 登録されるための「3つの壁」

試験では、選択発明が認められる(進歩性ありとされる)ための条件が問われます。審査基準に基づく、以下のロジックを暗記してください。

① 新規性の壁(29条1項)

まず、選び出したものが、先行文献に**「ズバリそのもの」として載っていないこと**が大前提です。

  • もし文献Aに「化合物Xも使えるよ」と例示されていたら、その時点で**新規性なし(拒絶)**です。選択発明の土俵にすら上がれません。

② 効果の壁(29条2項・進歩性)

ここが核心です。単に選んだだけでは「誰でも選べるでしょ(容易)」と言われて終わりです。

進歩性が認められるには、以下のどちらかの効果を主張・証明する必要があります。

効果の種類 内容
A. 質的に異なる効果 先行技術からは予測できない、全く別の性質の効果がある。 殺虫剤として開発されたが、特定の化合物だけ「育毛効果」もあった。
B. 量的に顕著な効果 性質は同じだが、数値(性能)が桁違いに優れている 殺虫効果が、他の化合物に比べて100倍強力である。

③ 疑義の壁(試験対策)

もし、先行文献に「化合物X」そのものは書いていないけれど、「このあたりのグループが良いよ」とヒントがあった場合、進歩性は否定されやすくなります(動機づけがあるため)。

「あえてそこを選んだ理由」と「効果のすごさ」で突破しなければなりません。


3. なぜ条文にないのに認められるの?

「後出しジャンケン」のようにも見えますが、趣旨はこうです。

  • 技術の発展への貢献:大雑把なアイデア(上位概念)が出た後、具体的にどの素材(下位概念)がベストなのかを実験して見つけ出すには、膨大なコストと労力がかかります。その努力によって「埋もれていた優れた技術」が見つかったなら、それも保護すべきだ、という考え方です。

4. まとめ(試験用論証パターン)

論文試験で「選択発明」が出たら、以下のフレーズを使います。

  1. 認定: 本願発明は、引用発明の上位概念に含まれる下位概念を選択した「選択発明」である。

  2. 要件1(新規性): 引用発明には、本願発明の具体的構成が開示されていないため、新規性を有する

  3. 要件2(進歩性): 引用発明と比較して、質的に異なる効果、または量的に顕著な効果を奏する場合、進歩性が肯定される。


5. 似ているけど違う「数値限定発明」

選択発明の兄弟分に**「数値限定発明」**があります。

(例:温度を「100℃〜200℃」に限定した発明)

考え方はほぼ同じですが、試験では「臨界的意義(りんかいてきいぎ)」という特別なワードが登場します。

 

選択発明のロジックはつかめましたか?次は、この流れでセットで覚えるべき以下のどちらに進みますか?

  1. 「数値限定発明」と「臨界的意義」: グラフのカーブが急変するポイントが合否を分ける? 化学系の天王山。

  2. 「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(PBP)」: 「物の発明」なのに「製法」で書くしかない場合の特殊ルール。(最高裁判決がある超重要論点)

どちらも試験(特に論文)で頻出です!

(Gemini)

特29第2項 進歩性 容易に思いつく動機づけ4要素

特許法最大の山場、「進歩性(29条2項)」**です。実務でも試験(特に論文・口述)でも、合否を分けるのは間違いなくここです。「なんとなく難しそうだから」ではなく、「審査官が使うロジックの型(テンプレート)」を覚えると、霧が晴れたようにスッキリ理解できます。


1. そもそも「進歩性」とは?

  • 条文: 特許法第29条第2項

  • 定義: その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、特許出願前の公知発明に基づいて容易に発明をすることができたときは、特許を受けることができない。

要するに、**「既存の技術(A)と(B)を組み合わせたら、誰でも簡単に思いつくレベルのものは、特許として認めない」**というルールです。


2. 登場人物:「当業者」とは誰か?

まず、基準となる人物像「当業者(Person Skilled in the Art)」を定義します。彼はスーパーマンではありませんが、素人でもありません。

  • 知識: 出願時点での、その分野の全ての公知技術・一般知識を知っている。

  • 能力: 技術を理解し、研究開発し、材料を選んだり設計変更したりする普通の能力を持っている。

  • 創造性: ゼロ!(ここが重要)。彼にはひらめきや創造力は一切ありません。論理的にしか動きません。

試験用イメージ:

「世界中の文献をすべて暗記しているが、自分で新しいアイデアを出すことはできない、超優秀なロボット」


3. 進歩性判断の「基本ロジック(型)」

審査官は、以下のステップで「進歩性なし(拒絶)」の論理を組み立てます。このフローを暗記してください。

Step 1: 主引用発明(主引例)を選ぶ

審査官は、あなたの発明に一番近い既存技術(A)を見つけてきます。これをベースにします。

Step 2: 差異(違い)を認定する

あなたの発明と、主引例(A)を比べます。

  • 一致点: そのままAにある部分。

  • 相違点: Aにはなくて、あなたの発明にある特徴。

Step 3: 相違点を埋める論理(動機づけ)があるか? 【最重要】

ここが勝負です。

審査官は、別の文献(副引例 B)や周知技術を持ってきて、こう言います。

「当業者なら、主引例(A)の足りない部分に、副引例(B)を組み合わせることを『容易に』思いついたはずだ」

この**「組み合わせる理由(動機づけ)」**が成立すれば進歩性なし(×)、成立しなければ進歩性あり(○)です。


4. 審査官の武器:「動機づけ」の4要素

審査官が「AとBを組み合わせるのは簡単だ」と言うためには、単に「似てるから」ではダメです。以下の4つの理由のいずれかが必要です。

(試験で書かされるキーワードです!)

  1. 技術分野の関連性

    • 例:ボールペンの技術(A)に、万年筆のグリップ技術(B)を使う。(同じ筆記具だから簡単でしょ?)

  2. 課題の共通性

    • 例:スマホの発熱を抑えたい(A)ときに、PCの放熱シート(B)を使う。(同じ「熱対策」という課題があるから使うでしょ?)

  3. 作用・機能の共通性

    • 例:ネジ止め(A)の代わりに、溶接(B)を使う。(どちらも「固定する」機能は同じだから置換できるでしょ?)

  4. 引用発明の内容中の示唆

    • 例:文献Aの中に「文献Bの部品を使うと良いよ」とヒントが書いてある。

これらがある場合、当業者は「AにBを適用してみよう」と考える(動機づけられる)ため、進歩性が否定されます。


5. 出願人の反論:「進歩性あり」にするための2つの切り札

逆に、どうすれば「進歩性あり」と認めさせられるのか? 2つの強力な防御策があります。

① 有利な効果(予測できない顕著な効果)

「AとBを組み合わせたら、単に足し算(A+B)以上の、**想像を絶するすごい効果(A×B=∞)**が出ました!」という場合。

  • 当業者の予測を超えているため、「容易には発明できなかった」ことの裏付けになります。

  • 化学・バイオ分野で特によく使われます。

② 阻害要因(Teaching Away)

「文献Aには、『Bと組み合わせると性能が落ちるから絶対にやるな』と書いてあります!」

  • これを指摘できれば、「当業者は組み合わせようと思わない(動機づけがない)」となるため、一発逆転で特許になります。


6. 試験で狙われる「後知恵(Hindsight)の禁止」

最後に、一番大切な心構えです。

完成した発明(答え)を見た後だと、どんな発明も「なんだ、そんなの簡単じゃん」と思えてしまいます。これを**「事後的考察(後知恵)」**と言います。

  • 審査官への戒め: 「答え(出願明細書)を見てから、それに合うようにパズルのピース(引例)を集めてきて、『簡単だ』と言うのはズルいぞ。」

  • 試験でのポイント: 「動機づけがないのに、結果だけ見て容易と判断してはいけない」という論述ができるかどうかが問われます。


まとめ

進歩性の判断ロジックは、以下の数式で表せます。

  • この矢印($\rightarrow$)がつながれば拒絶

  • 「阻害要因」や「顕著な効果」で矢印を断ち切れば特許


次のアクション

進歩性の基本ロジックはこれで完璧です。

次は、さらに実戦的な以下のどちらに進みますか?

  1. 「選択発明」や「数値限定発明」: 公知の範囲内であえて特定の条件を選んだ場合、どうやって進歩性を主張する?(化学・材料系で頻出)

  2. 「新規性(29条1項)」との違い: 意外と曖昧になりがちな「新規性なし」と「進歩性なし」の境界線をクリアにする。

実務家を目指すなら「1」の考え方は必須スキルです!

(Gemini)