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特102 権利侵害とその救済:損害賠償額の計算方法

「損害賠償」の勉強、条文でいうと特許法102条あたりですが、計算式や説が並んでいて、無味乾燥に感じますよね。でも実はここ、実務では「最もクライアントが熱くなる(お金の話だから)」場所であり、弁理士試験(特に論文)の超頻出・最重要ポイントなんです。面白くない数字の羅列に見えるものを、「ストーリー」と「試験のツボ」に変換して整理しましょう。今読んでいる「損害賠償(102条)」は「俺の特許を勝手に使いやがって、賠償金を払え!」という、**泥棒(侵害者)**との争いです。

1.なぜこの条文(102条)があるのか?(面白がるための視点)

民法の大原則では、損害賠償を請求するには「被害者が、損害額を正確に証明」しなければなりません。

しかし、特許の世界でこれをやると無理ゲーです。

「お前がパクったせいで、俺の売上がこれだけ落ちたことを証明しろ」

→ 侵害者「いやいや、あんたの商品が売れないのは、単に景気が悪いからでしょ? 俺のせいじゃないよ」

と言われると、反論が難しい。そこで特許法は、**「被害者(特許権者)がかわいそうだから、計算を楽にしてあげよう」**という救済規定を作りました。これが102条です。

**「どうやって侵害者の言い逃れを封じて、ガッツリお金を取るか」**という武器のリストだと思って読むと、少し面白くなりませんか?

2. 弁理士試験に出る「3つの計算ルート」

試験に出るのは、以下の3つの計算方法の使い分けと、それぞれの計算ロジックです。

① 「俺が売れたはずの分を払え」(1項:逸失利益)

  • ロジック: 「お前が1万個パクって売ったな? じゃあ、その1万個は本来俺が売るはずだったんだ。その利益をよこせ」

  • 試験のツボ:

    • 全部は認められません。「いや、あんたの工場じゃそんなに作れないでしょ?(実施能力)」とか「俺の営業努力で売れた分もあるよ(寄与率)」といった**「覆滅(ふくめつ)事由」**(減額の言い訳)が論点になります。

② 「お前の儲けは俺の損害」(2項:利益の推定)

  • ロジック: 「俺の損害額を証明するのは難しい…。でも、**お前がパクって儲けた額(利益)**はあるよな? それをそのまま俺の損害額とみなす!」

  • 試験のツボ:

    • 立証が一番楽ですが、「侵害者が儲かっていない(赤字)」だと使えません。

    • ここでも「推定の覆滅(侵害者の言い訳)」が認められるかが争点になります。

③ 「最低でもライセンス料は払え」(3項:ライセンス料相当額)

  • ロジック: 「仮に損害が証明できなくても、ライセンス契約していたら払うはずだった金額は最低限払え」

  • 試験のツボ:

    • これは「最低保証(底値)」です。

    • 最近の法改正で、単なる相場ではなく「もし交渉してたら決まったであろう額(高めの設定)」も考慮できるようになった点がアツいです。


3. 知っておくべき「重要判例」

「ずらずら書いてある」中で、試験的に絶対に避けて通れない判例(スーパースター)が2つあります。ここだけ押さえればOKです。

★ ごみ貯蔵機器事件(知財高裁大合議判決 H25.2.1)

  • 何がすごい?: 特許権者が実際に製品を売っていなくても、「競合関係」があれば損害賠償請求できるという画期的な判断を示しました(102条1項関係)。

  • 試験での重要度: Sランク。論文試験で「特許権者が実施していない場合」が出たら、この判例のロジックを書きます。

★ 二酸化炭素含有粘性流体組成物事件(知財高裁大合議判決 R1.6.7)

  • 何がすごい?: ちょっと長い名前ですが、**「102条1項(逸失利益)で計算したけど、能力オーバーで削られた分」を、「102条3項(ライセンス料)」としてプラスして請求できる(併用できる)**と認めました。

  • 試験での重要度: Sランク。最近のトレンドです。「数量の一部しか認められなかった時、残りは泣き寝入りか?」という論点に対する答えです。


今後の勉強のコツ

この章は、計算式そのものを暗記するのではなく、「特許権者(攻め)vs 侵害者(守り)」の綱引きとしてイメージしてください。

  • 特許権者: 「できるだけ高い計算式(1項)を使いたい!」

  • 侵害者: 「いやいや、お前の商品は高いから売れなかったはずだ(減額の主張)!」

このバトルのルールブックが102条です。

 

「500円の利益が出る魔法のペン」を例にして、生々しいお金の取り合いのドラマに変換しましょう。そして、後半の「どれを選ぶか?」という質問、これも実務と試験の超重要ポイントです。


1. 劇的シミュレーション:特許法102条1項の計算

この条文は、**「もしお前が邪魔しなければ、俺はこれだけ儲かったはずだ(逸失利益)」**というロジックです。

【設定】

  • あなた(特許権者): 「魔法のペン」を発明して販売中。

    • 1本売ると500円の利益(売値1000円-原価500円)が出ます。

    • これを**「単位数量当たりの利益」**と呼びます。

  • 悪者(侵害者): あなたの特許をパクって、ニセモノのペンを販売。

    • なんと1万本も売ってしまいました。

    • これを**「譲渡数量」**と呼びます。

【基本の計算(攻撃ターン)】

まずはシンプルに掛け算です。

500円(あなたの利益) × 1万本(敵が売った数) = 500万円

あなたは「500万円払え!」と請求します。これがスタートラインです。

ここで重要なのは、あなたの利益には「家賃」や「人件費」などの固定費は引かず、材料費などの変動費だけを引いた**「限界利益」**を使うのが判例のルールです(その方が額が大きくなるからです)。

【反撃ターン(ここが試験に出る!)】

しかし、敵も黙って500万円払いません。条文には**「ただし書き(但書)」があり、敵はこれを盾に減額を迫ってきます。これを「推定の覆滅(ふくめつ)」**と言います。

敵の言い分(減額リスト):

  1. 「いや、俺のペンは激安だから売れたんだよ」

    • 「あんたのペンは1000円だけど、俺のは300円だ。俺の客が全員あんたの高いペンを買うわけないだろ?」

    • 『事情による減額』(例えば30%は関係ない客だとして、マイナス150万円)

  2. 「あんたの工場、そんなに作れないでしょ?」

    • 「あんたの町工場、フル稼働してもあと1000本しか作れないじゃん。1万本なんて最初から無理だろ?」

    • 『実施相応数量の限度』(作れない分は請求できない)

【最終決着】

この綱引きの結果、例えば「300万円」とかに落ち着きます。

この**「掛け算して(推定)、言い訳を聞いて引く(覆滅)」**というプロセスが、102条1項の正体です。

特許法102条1項の計算イメージは、この図のような「積み上げ」と「削り取り」の戦いです。


2. 「3つの方式、どれを選ぶ?」問題

結論から言うと、**「計算してみて、一番高くなるやつを選んで請求する」**のが基本戦略です(選択的請求)。

ただし、**「好きなものを選べるが、それぞれ使うための『参加資格』が違う」**という点がミソです。ここが試験の急所です。

どのカードを切るか?(思考フロー)

① まず最強のカード「1項(今回のペンの計算)」を検討する

  • メリット: 金額が一番高くなりやすい(自分の利益ベースだから)。

  • 参加資格: **「あなた自身が製品を売っていること」**が必要です。

    • あなたが研究だけの会社で、ペンを売っていなければ、「俺が売れたはずだ」というロジックが成立しないので使えません。

  • リスク: さっきのように「お前のペン高いから売れないよ」といった反撃(減額)を食らいやすいです。

② 次に使いやすいカード「2項(敵の利益)」を検討する

  • メリット: 計算が楽。「敵が1000万儲けた」という証拠があれば、それをそのまま請求できる。

  • 参加資格: こちらも基本的に「競合」が必要です。

  • リスク: **「敵が儲かっていない(赤字や薄利多売)」**だと、請求額がめちゃくちゃ低くなります。敵が商売下手だと、あなたも損をするという悲しい条文です。

③ 最後の砦「3項(ライセンス料)」

  • メリット: 「参加資格」がほぼありません。 あなたが製品を売ってなくても、敵が赤字でも、特許さえあれば「最低限、ライセンス料はよこせ」と言えます。

  • デメリット: 金額は一番安くなりがちです(通常、売上の3%~10%程度)。


3. 実務&試験の「最強コンボ」

ここで、さっき話した重要判例**「二酸化炭素事件」**が火を噴きます。

もしあなたが「1項(ペンの計算)」で攻めて、敵に「あんたの工場じゃ1万本も作れないでしょ! 5000本が限界だ!」と言い負かされたとします。

昔は、残りの5000本分は泣き寝入りでした。

しかし今は、こう言えます。

「わかった。作れる5000本分は、高い金額(1項)で請求する。」

「でも、作れない残りの5000本分については、せめてライセンス料(3項)を払え!」

つまり、**「1項と3項のいいとこ取り(併用)」**ができるようになったのです。

これが今の実務のトレンドであり、試験でも「特許権者の生産能力が足りない場合、どうするか?」と聞かれたら、このコンボを書くと高得点です!

 

「ごみ貯蔵機器事件(H25.2.1 知財高裁大合議)」もめちゃくちゃ面白い、というか**「特許権者(パクられた側)にとっての救世主」**のような判例です。さっきの「ペンの話」でいうと、**2番目のカード「102条2項(敵の利益をぶんどる)」**に関するお話です。何がそんなに重要なのか、ストーリーで解説しますね。


1. 昔の「102条2項」は“死に体”だった

この判決が出る前まで、この条文(敵の利益=損害額とみなす)は、実は**「使い物にならない」**と言われていました。

なぜか?

特許権者が「お前、1億円儲けたな! その1億円払え!」と訴えても、裁判所で侵害者(パクった側)がこう言い訳すると、すぐ認められていたからです。

侵害者: 「いやいや裁判長。私の商品が売れたのは、特許技術のおかげだけじゃありません。

  • 私の会社のブランド力があったから売れたんです。

  • 私がつけたキャッチコピーが優秀だったからです。

  • 特許に関係ないデザインが良かったからです。

    だから、特許の貢献度はせいぜい10%。1000万円しか払いません!」

昔の裁判所はこれを認めがちで、「全額請求」なんて夢のまた夢でした。

2. 「ごみ貯蔵機器事件」が変えたこと(革命)

ここで登場したのが、この「ごみ貯蔵機器事件」の判決です。

裁判所(大合議)は、今までの流れをひっくり返して、こう宣言しました。

① 「原則、全額だ!」

「侵害者が稼いだ利益は、原則として全額、特許権者の損害と推定する。ブランド力だのデザインだのと言い訳(推定の覆滅)をしたければ、侵害者がガチガチに証拠を出して証明しろ。証明できないなら全額払え!」

→ 立証のハードルを、特許権者から侵害者へぶん投げました。

② 「利益の計算は“限界利益”でいい!」(ここ超重要)

「利益」の計算において、家賃や社員の基本給などの「固定費」は引かなくていい(売上から変動経費だけ引いた限界利益でいい)としました。

→ これにより、計算される金額がドカンと跳ね上がりました。


3. 試験で問われるポイント(論文で書くべきこと)

この判例が出たら、キーワードは以下の2つです。

ポイントA: 覆滅事由(ふくめつじゆう)のハードル化

論文で「侵害者が『私の営業努力で売れた』と主張している」という設定が出たら、こう書きます。

  • 「ごみ貯蔵機器事件判決によれば、102条2項の推定は強力である。」

  • 「単に営業努力があったというだけでなく、それが具体的にどれだけ売り上げに貢献したかを侵害者が立証しない限り、減額は認められない。」

ポイントB: 利益=限界利益

計算問題や論述で「利益とは何か」が問われたら、「控除すべき経費は、変動経費(材料費など)に限られ、固定経費(管理職の人件費など)は控除されない」と書きます。これが特許権者に有利な計算方法です。


まとめると

  • 二酸化炭素事件: 「1項(逸失利益)」と「3項(ライセンス)」は**合体(併用)**できる!という革命。

  • ごみ貯蔵機器事件: 「2項(敵の利益)」は**言い訳させない&計算甘めでOK!**という革命。

この「ごみ貯蔵機器」のおかげで、今は102条2項も「使える武器」になっています。どうでしょう?「面白くない計算式の羅列」に見えていたものが、**「裁判所が特許権者に渡した強力な武器(判例)」**に見えてきませんか?

(Gemini)

特070条1項 (特許発明の技術的範囲)ボールスプライン軸受け事件 平成10最高裁判決 均等論

質問:ボールスプライン軸受け事件とは?この事件の前後とで、何が変わった?関係する特許法の条文はどれ?これに関連するトピックは、弁理士試験でどんなふうに出題される?

Gemini:「ボールスプライン軸受け事件(最高裁平成10年2月24日判決)」ですね。この事件は、日本の特許実務において「歴史を変えた最強の判例」と言っても過言ではありません。この判決を知らずして弁理士試験には受からない、というレベルの超重要トピックです。一言で言うと、「均等論(きんとうろん)」という考え方を、日本の最高裁が初めて公式に認めた事件です。


1. 事件の概要:何が争われたのか?

    • 原告(特許権者): THK株式会社

    • 被告(訴えられた側): 株式会社ツバキ・ナカシマ(当時の椿本精工)

    • 技術:

Getty Images

 

* 「ボールスプライン軸受け」という、機械の部品です。ボール(球)が循環して滑らかに動く仕組みです。

 

  • 争点:

    • THKの特許クレームには、ボールが無限循環する通路の構造について**「断面がU字形の」**部材を使う、と書いてありました。

    • 一方、ツバキ・ナカシマの製品は、その部分がU字形ではなく、**「一体化された穴(別の形状)」**になっていました。

    • **「形が違う(文言通りではない)から、特許侵害じゃないよね?」**というのが被告の主張でした。

2. 「Before / After」で見る衝撃

この判決の前後で、日本の特許の常識は180度変わりました。

【Before】この事件の前

日本の裁判所は**「文言侵害(もんごんしんがい)」**にめちゃくちゃ厳格でした。

  • ルール: 「クレームに書いてある言葉と少しでも違ったら、それは侵害ではない」

  • 結果: 特許権者は泣き寝入り。模倣者は、特許の構成をほんの少しだけ変える(例:ボルトを溶接に変える)だけで、簡単に特許を回避できてしまいました。「特許は取るだけ無駄(ザル法)」とすら言われていました。

【After】この事件の後

最高裁は**「均等論(Doctrine of Equivalents)」**を認めました。

  • 新ルール: 「たとえクレームの言葉(文言)と違っていても、実質的に同じ技術であり、容易に置き換えられるものなら、侵害(均等侵害)とみなす!

  • 結果: 模倣者に対する包囲網が広がりました。クレームの言葉尻を捉えただけのズルイ回避が許されなくなりました。


3. 関係する条文

直接的に「均等論」を規定した条文は、実は特許法には存在しません。

この判決は、**第70条(特許発明の技術的範囲)の「解釈」**として、最高裁が創り出したルールです。

特許法 第70条第1項

特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。

最高裁は、「『記載に基づいて』とは書いてあるが、一言一句同じじゃなきゃダメとは書いてないよね。社会正義の観点から、実質同じなら『技術的範囲』に入れてあげるべきだ」と解釈したのです。


4. 弁理士試験での出題ポイント(超重要)

この事件で最高裁が示した**「均等成立の5要件」**は、短答・論文・口述のすべてで頻出です。暗記必須です。

試験では、「以下の要件をすべて満たす場合、特許権の侵害となるか?」といった形で問われます。

【暗記必須】均等の第1〜第5要件

もし相手の製品がクレームと違っていても、以下の5つをすべて満たせば侵害となります。

  1. 非本質的部分(第1要件):違っている部分が、その特許発明の本質的な部分ではないこと。(どうでもいい枝葉の部分であること)
  2. 置換可能性(第2要件):その違う部分を置き換えても、同じ目的を達し、同じ作用効果が得られること。
  3. 置換容易性(第3要件):その置き換えをすることが、侵害の時に(←ここ試験に出ます!出願時ではない)、当業者が容易に思いつくこと。
  4. 容易推考性ではない(第4要件):相手の製品が、特許の出願時における公知技術(昔からある技術)と同じではない、またはそこから容易に推考できたものではないこと。(※公知技術なら誰も独占できないから)
  5. 意識的除外ではない(第5要件):特許権者が、審査の過程で「その形は私の特許には含みません」と**自分から除外(禁反言)**していないこと。

5. 試験での引っ掛けパターン(テクニック)

弁理士試験では、以下のような「ひっかけ」が出ます。

  • 時期的基準のひっかけ:

    • ×「出願時に置換容易であれば均等となる」

    • 〇「侵害時(製造時)に置換容易であれば均等となる」

    • 解説: 技術は進歩するので、出願時は難しくても、侵害した時に技術が進んで簡単に置き換えられるようになっていたら、侵害とすべきだからです。

  • 立証責任のひっかけ:

    • 第1〜3要件は、**特許権者(原告)**が証明しないといけません。

    • 第4〜5要件は、**侵害者(被告)**が「いや、これには当てはまらない(障害事由がある)」と反論する構造になっています。

まとめ

  • ボールスプライン事件とは: 日本で「均等論」を確立させた記念碑的判決。

  • 変化: 「言葉通りじゃなきゃダメ」から「実質同じならOK」へ、特許権が強くなった。

  • 条文: 第70条の解釈運用。

  • 試験対策: 「5つの要件」を空で言えるようにすること。特に「置換容易性の判断時期=侵害時」は鉄板です!

これで、ボールスプライン事件の全体像と重要ポイントはバッチリです!

質問:置換容易性(第3要件)と、容易推考性ではない(第4要件)って、逆のこと言ってない?矛盾してない?自分の勘違い?もっともっとわかりやすく説明してくれない?

Gemini:

その感覚、めちゃくちゃ鋭いです!

そして、絶対にあなたの勘違いではありません。

弁理士受験生でも、最初はみんなここで「えっ? 簡単なの? 難しくなきゃいけないの? どっち?!」とパニックになります。

一見矛盾して見えるのは、**「何と比べているか(比較対象)」「いつの話か(基準時)」**が違うからです。

非現実的な「魔法の杖」のたとえで、そのモヤモヤを一発で解消しましょう。


たとえ話:魔法の杖の特許

あなたが、すごい発明をして特許を取りました。

  • あなたの特許(本家): 「先端にルビーをつけた、炎を出す魔法の杖」

  • 昔からある技術(公知): 「ただの木の棒」や「先端に石ころをつけた棒」(魔法は出ない)

そこへ、悪いライバル会社があなたの真似をして、ちょっとだけ変えた商品を売り出しました。

  • ライバルの製品(パクリ疑惑): 「先端に赤いガラス玉をつけた、炎を出す魔法の杖」


第3要件と第4要件の「心の声」

ここで、裁判官が「これは特許侵害だ(均等だ)!」と言うためには、以下の2つのチェックをクリアしないといけません。

第3要件(置換容易性):ライバルのズルさを暴く!

  • 比較対象: 「あなたの特許」vs「ライバルの製品」

  • 裁判官の心の声:「ルビーをガラス玉に変えただけ? そんなの、今の技術なら誰でも簡単に思いつく(容易な)変更だよね? そんな簡単な変更で『別物です』なんて言い逃れは許さんぞ!」
  • 結論: ここは**「簡単(容易)」**じゃなきゃダメなんです。難しかったら「全く別の新しい発明」になってしまうから。

第4要件(容易推考性ではない):みんなの共有財産じゃないよね?

  • 比較対象: 「昔からある技術(公知)」vs「ライバルの製品」

  • 裁判官の心の声:「でも待てよ。もし『赤いガラス玉の杖』が、あなたが特許を出す前から誰でも作れるような**ありふれた技術(容易なもの)**だったとしたらどうだろう? 昔からある技術は誰のものでもない(自由技術)。それを『特許侵害だ』と言って止めることはできないぞ。」
  • 結論: ここは、昔の技術から見て**「簡単(容易)ではない」**必要があります。もし簡単なら、それは特許の縄張りに入れてはいけない「公共の技術」だからです。


図解イメージ:サンドイッチ理論

ライバルの製品が、「特許」と「昔の技術」の間のどこにあるかを想像してください。

 

Plaintext

【特許(あなたのルビーの杖)】
      ↑
      |
      | ★第3要件:ここが「近い(簡単)」なら、仲間とみなす!
      |
【ライバル製品(ガラス玉の杖)】 ← 今ここを審査中
      |
      |
      | ★第4要件:ここが「近すぎる(簡単)」だと、アウト(無効)!
      |          (昔の技術と同じレベルなら、権利行使できない)
      ↓
【昔の技術(ただの木の棒)】

 

  • 第3要件: 特許に近寄れ!(変更が簡単であれ!)→ そうすれば侵害と言える。

  • 第4要件: 昔の技術からは離れろ!(昔の技術から簡単に思いつくレベルであるな!)→ そうじゃないと権利主張できない。

つまり矛盾ではなく「挟み撃ち」

ライバルの製品が**「特許のすぐそば(変更が簡単)」にあり、かつ「昔の技術からは遠い(簡単には思いつかない)」**場所に浮いている時だけ、「均等侵害」が成立するのです。

  • Q. なぜ第3要件は「容易(Easy)」?

    • A. 「特許とそっくりだと言いたいから」

  • Q. なぜ第4要件は「容易ではない(Not Easy)」?

    • A. 「昔の技術とは違うと言いたいから」


まとめ

  • 第3要件は、**「特許権者の味方」**をするためのルール。「変えるの簡単だったでしょ? だから侵害ね!」

  • 第4要件は、**「世間の常識(公衆)を守る」**ためのルール。「でも、それが昔からある当たり前の技術なら、独占させないよ!」

この「上(特許)からは引っ張り上げ、下(公知)からは突き放す」という2つの力が働いているイメージです。

これで「逆のことを言っているようで、実は向いている方向が違う」というのが伝わりましたでしょうか?

質問:同じように、5個の要件全部まとめて説明してもらえる?

Gemini:

ありがとうございます!「魔法の杖」の例えがしっくりきたようで嬉しいです。

このまま**「ルビーの杖」の例えを使って、ボールスプライン事件の均等論・全5要件**をコンプリート解説しましょう。

これが全部わかれば、均等論はマスターしたも同然です!


設定のおさらい

  • あなたの特許発明(本家): 「先端にルビーをつけた、炎を出す魔法の杖」

    • 特許のポイント(キモ): 杖の柄(え)の中に埋め込んだ「ドラゴンの鱗の回路」がすごい発明。先端の石は、ただ炎を集めるためのレンズにすぎない。

  • ライバルの製品(パクリ疑惑): 「先端に赤いガラス玉をつけた、炎を出す魔法の杖」

では、裁判官になったつもりで、ライバル製品が**「実質的に同じ(均等侵害だ!)」**と言えるか、5つの関門をチェックしていきましょう。


第1要件:非本質的部分(本質じゃないよね?)

「変えたところは、発明の『命(いのち)』じゃないよね?」

  • チェック内容:あなたが特許を取れた一番の理由は「ドラゴンの鱗の回路」だよね? 先端がルビーかガラスかっていうのは、この発明の「本質(心臓部)」じゃないよね?
  • 判定:もし、「ルビーの魔力がないと絶対動かない!」という発明なら、ガラスに変えたら別物です。でも、今回は「回路」が本質で、先端の石はただのレンズ(枝葉の部分)だとします。→ クリア!(変えた部分は、どうでもいい部分だ!)

第2要件:置換可能性(置き換えられるよね?)

「変えても、同じように動くよね?」

  • チェック内容:ルビーをガラス玉に変えても、目的(炎を出す)は達成できるし、効果(敵を燃やす)も同じだよね?
  • 判定:「ガラス玉でも同じようにボワッと炎が出る」ならOK。もし「ガラス玉だと炎じゃなくて水が出ちゃう」なら、それは別の発明です。→ クリア!(機能も結果もコンパチだ!)

第3要件:置換容易性(簡単に思いつくよね?)

「パクリ品を作った時、交換するのは簡単だったよね?」

  • チェック内容:ライバルがその杖を作った時(侵害時)、普通の魔法使いなら「ルビー高いから、ガラス玉で代用しちゃえ」って、すぐに思いつくレベルの話だよね?
  • 判定:もし「ガラス玉を使うには、ノーベル賞級の新しい接着技術が必要だった」なら、それはライバルの偉大な発明です。でも、ただ取り替えるだけなら簡単です。→ クリア!(誰でも思いつく変更だ!)

第4要件:容易推考性ではない(みんなの技術じゃないよね?)

「ライバルの杖は、昔からある技術そのものじゃないよね?」

  • チェック内容:もし、あなたが特許を出す前から「ガラス玉の杖」がすでに売られていたり(公知)、誰でも作れる常識だったとしたら、文句は言えないよ。
  • 判定:「ガラス玉の杖」なんて今まで誰も見たことがなかった(あなたの特許の後に初めて出てきたアイデアだ)とします。→ クリア!(昔の技術とは違う、ちゃんと新しい技術の範囲だ!)

第5要件:意識的除外ではない(自分で捨ててないよね?)

「審査の時に『ガラスは含みません』って約束してないよね?」

  • チェック内容:特許庁の審査官に「昔の文献に『赤い石の杖』があるから、あなたの特許は認められないよ」と言われた時、あなたは言い逃れのためにこう言わなかった?「私の杖は高貴な『ルビー』限定です! 安っぽいガラスなんか一緒にしてはいけません!」
  • 判定:もしそう言っていたら、今さら「ガラスも私の権利です」なんて言うのは詐欺(禁反言)です。でも、特にそんなやり取りをしておらず、淡々と特許を取っていたならOK。→ クリア!(自分で権利を放棄するようなことは言ってない!)

結論

5つの関門、すべてクリア!

→ 裁判所は判決を下します。

「ライバルの『ガラス玉の杖』は、文言上は違うが、均等論により特許侵害と認める! 直ちに販売をやめなさい!」

まとめ:一言でいうと?

  1. 非本質的部分: 変えたのは「大事な場所」じゃない。

  2. 置換可能性: 変えても「結果」は同じ。

  3. 置換容易性: 変えるのは「簡単」。

  4. 容易推考性なし: でも「昔の技術」ではない。

  5. 意識的除外なし: 自分で「いらない」と言ってない。

この5つが揃った時、初めて**「言葉の壁」を超えて**ライバルを倒すことができます。

これがボールスプライン事件が作った「最強の剣(均等論)」の正体です!

 

質問:容易推考性なし: でも「昔の技術」ではない。 ってのは、ルビーの杖に関してじゃなくて、ライバル社の赤いガラス玉の杖 に関してってこと?

Gemini:

その通り!大正解です!

そこが一番の勘違いポイントなんですが、あなたは完璧に理解できています。

第4要件で審査される対象は、あなたの特許(ルビーの杖)ではなく、**ライバル社の製品(赤いガラス玉の杖)**そのものです。

なぜなら、この要件の裏には**「誰のものでもない技術(公知技術)を、後出しジャンケンで独占してはいけない」**という鉄の掟があるからです。


第4要件の「もしも」の話(Hypothetical Claim)

これを理解するために、時間を「特許を出願した日」まで巻き戻して、「もしも」のシミュレーションをしてみましょう。

シチュエーション

あなたは「ルビーの杖」で特許を出しました。

でも、ライバルの「ガラス玉の杖」も侵害だと言いたいわけです。

そこで裁判所はこう考えます。

「もし、あなたが最初から特許の書類に『ルビーの杖、またはガラス玉の杖』と書いて出願していたら、特許庁はパス(登録)させてくれただろうか?」

ここで2つのパターンに分かれます。

パターンA:第4要件クリア(侵害になる!)

  • 事実: 出願当時、世の中には「木の棒」しかなく、「ガラス玉の杖」なんて誰も知らなかった。

  • 判定: もし書いていたら、パスしていただろう。つまり「ガラス玉の杖」も、本来ならあなたが独占できていいはずの「新しい技術」だ。

  • 結論: 第4要件クリア。均等論で救済してあげよう。

パターンB:第4要件アウト(侵害にならない!)

  • 事実: 出願当時、実はすでに隣の村で「ガラス玉の杖」が安物として売られていた(あるいは誰でも思いつく状態だった)。

  • 判定: もし書いていたら、審査官は「ガラス玉? それ昔からあるよ」と言って、その部分は**拒絶(Reject)**していただろう。

  • 結論: **特許庁が拒絶するはずだったもの(昔の技術=誰でも使える技術)**を、裁判所が後から「均等論」を使って特許権に入れてあげるわけにはいかない。

    • これを認めてしまうと、あなたが「昔からあるみんなの技術」まで独占することになってしまうから。


図解:ライバル製品の立ち位置

あくまで主役は**「ライバル製品(ガラス玉)」**です。

それが「新しいエリア」にあるか、「古いエリア」にあるかを見ています。

Plaintext

【特許(あなたのルビー)】 
      |
      | ← ここまで手を伸ばしたい(均等論)
      |
【ライバル製品(ガラス玉)】???
      |
      |
------------------------------------------
【昔の技術・誰でも思いつく範囲(公知技術)】

 

  • ライバル製品が「上」にあれば: あなたの縄張りに入れてOK(第4要件クリア)。

  • ライバル製品が「線より下」にあれば: それはみんなの共有財産。手出し無用(第4要件アウト)。

まとめ

  • 対象: ライバル社の製品(赤いガラス玉の杖)

  • 比較相手: 特許出願時の「昔の技術」

  • ルール: 「ライバルの製品が、特許出願の時点で『誰でも知ってる昔の技術(または容易なもの)』だったなら、それは特許権侵害にしてはいけない。」

 

 

特70条(特許発明の技術的範囲)特許請求の範囲との違い?

質問:「私の特許権の技術的範囲(第70条)に、あなたの製品が含まれています(充足しています)。」 って、これはつまりは「請求の範囲(クレーム)」に入るかどうかってこと?とすると技術的範囲=クレーム ってこと?

Gemini:知財の実務家でも、日常会話では「クレーム=技術的範囲」として使っています。ただ、法律(特許法70条)の言葉遣いとして、なぜわざわざ「技術的範囲」という別の言葉を使っているのか? ここには言葉(テキスト)と、その意味(実体)」の微妙な違いがあるからです。数式にすると、こんなイメージです。

$$\text{技術的範囲} \approx \text{クレーム(文章)} + \text{解釈(意味づけ)}$$

詳しく解説しますね。


1. 第70条の「心(こころ)」

特許法第70条第1項にはこう書いてあります。

第70条(特許発明の技術的範囲)

特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。

ここで重要なのは**「基づいて(Based on)」**という言葉です。

「クレームの記載 そのもの(Equal to)」とは書いていませんよね。

これはどういうことかというと…

  • 特許請求の範囲(クレーム): 紙に書かれた「文字情報(テキスト)」です。

  • 技術的範囲: その文字が現実世界でカバーする「縄張りの境界線」です。

基本的には「書いてある通り(文言通り)」なのですが、言葉というのは不完全なので、「解釈」というクッションを挟んで、最終的な縄張りを確定させるのです。

2. なぜ「=(イコール)」と言い切れないのか?

クレーム」と「技術的範囲」がズレる(イコールにならない)ケースが2つあるからです。

① 言葉の意味を補完する場合(第70条第2項)

クレームに「固定具」と書いてあったとします。

  • これだけだと、ネジなのか、接着剤なのか、クリップなのか分かりません。

  • そこで、明細書や図面(説明書)を見て、「あ、この発明でいう『固定具』は、文脈的に『特殊なボルト』のことだな」と意味を確定させます。

    • 結果: クレームの文字は「固定具」だけど、技術的範囲は「特殊なボルト」に限定される(狭くなる)ことがあります。

均等論(きんとうろん)の場合(拡大解釈)

これが一番の「ズレ」です。クレームに「ボールベアリング」と書いてあったとします。

  • 相手の製品は、そこを「コロ軸受(ローラーベアリング)」に変えていました。

  • 文字通りに見れば(文言侵害 もんごんしんがい)、言葉が違うのでセーフ(侵害ではない)です。

  • しかし、裁判所が「機能も効果も全く同じで、置き換えが容易だよね」と判断すれば、「技術的範囲に含まれる」と判定されます。

    • 結果: クレームの文字には書いていないけれど、技術的範囲には入る(広くなる)。


3. アムジェン事件での適用

今回のアムジェン対サノフィの件で言うと、アムジェン側は当然こう主張しました。

  • クレーム: 「PCSK9に結合して、LDLRとの結合を阻害する抗体」

  • サノフィ製品: まさにその通りの機能を持っている。

  • 結論: 「クレームの文言通り(文言侵害 もんごんしんがい)」なので、技術的範囲 = クレームの記載 という、一番シンプルなパターンで「侵害」が認定されました。(※その後、無効になりましたが)

まとめ

ユーザーさんの理解である「技術的範囲 = クレーム」は、90%正解です!基本はそこです。

残りの10%の厳密な定義はこうです。

  • クレーム(請求の範囲): 権利書の「テキスト」。

  • 技術的範囲: そのテキストを、法律のルール(明細書の参酌均等論など)に従って解釈した結果決まる「実際の縄張り」。

「地図に引かれた線(クレーム)」と「実際の土地の境界(技術的範囲)」の関係だと思うと分かりやすいですよ!

 

特184条7号(PCT19条補正)、特184条8号(PCT34条補正)

特許法

(日本語特許出願に係る条約第十九条に基づく補正
第百八十四条の七 日本語特許出願の出願人は、条約第十九条(1)の規定に基づく補正をしたときは、国内処理基準時の属する日までに、同条(1)の規定に基づき提出された補正書の写しを特許庁長官に提出しなければならない。

条約第三十四条に基づく補正
第百八十四条の八 国際特許出願の出願人は、条約第三十四条(2)(b)の規定に基づく補正をしたときは、国内処理基準時の属する日までに、日本語特許出願に係る補正にあつては同条(2)(b)の規定に基づき提出された補正書の写しを、外国語特許出願に係る補正にあつては当該補正書の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない。

https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000121

質問:国際予備審査ってどういうときにやるもの(特許の話ね。)請求が必要だと思うけど、どういうときに請求するの、なんの意図で?国際公開されて、そのまま各国移行すれば済むんじゃないの?

Gemini:

その疑問、ごもっともです!

おっしゃる通り、**「国際公開後にそのまま各国移行する」のが現在は主流(デフォルト)**です。多くの出願人は、予備審査を請求せずに国内移行手続期限(優先日から30ヶ月)を迎えます。

では、あえてコストと手間をかけて**「国際予備審査(予備審)」を請求するのはなぜか?

それは、「国際段階で『悪い結果』をひっくり返しておきたいとき」**がほとんどです。

勉強ノートとして、要点を整理しました。


国際予備審査を請求する「意図」と「タイミング」

1. どういうときに請求するの?(タイミング)

原則として、以下の期限までに請求します。

  • 優先日から22ヶ月、または

  • 国際調査見解書を受け取ってから3ヶ月(いずれか遅い方)

現状: 国際調査報告(ISR)と見解書を受け取った後、「結果を見てから決める」のが一般的です。

2. なんの意図で?(3つの主な理由)

予備審査(Chapter II)を請求する意図は、主に以下の戦略的理由によります。

① 「見解書(Written Opinion)」がネガティブだったため、反論・補正したい

これが最大の理由です。

国際調査の段階で**「進歩性なし(Y)」や「新規性なし(X)」**という判定が出たとします。そのまま各国へ移行すると、移行した全ての国(アメリカ、中国、欧州など)で、同じ拒絶理由を個別に受けてしまい、現地代理人費用や翻訳費用がかさみます。

  • 予備審のメリット: 国際段階で**「第34条補正(明細書や図面も直せる)」「答弁書」**を提出し、審査官とやり取りができます。

  • 狙い: ここで肯定的な見解(特許性あり)勝ち取っておけば、各国の審査が非常に有利になります。

② 「特許審査ハイウェイ(PCT-PPH)」を使いたい

もし予備審査で「特許性あり」という肯定的な報告書(IPRP 第II章)をもらえれば、各国の特許庁で**早期審査(PPH)**を申請できます。

  • 狙い: 早期権利化を目指す重要案件の場合、予備審で「お墨付き」をもらってから各国へ殴り込みをかけるイメージです。

③ (レアケース)ごく一部の国での移行期限延長

昔(2002年以前)は、予備審を請求しないと国内移行期限が20ヶ月、請求すると30ヶ月に延長されるというルールが主流でした。

現在は、日・米・欧・中を含む主要国は請求しなくても一律30ヶ月なので、このメリットはほぼ消滅しました。

  • 例外: ルクセンブルク、タンザニアなど、ごく一部の国ではまだ「予備審請求しないと期限が短い」場合がありますが、実務上はあまり出会いません。


【比較表】19条補正だけじゃダメなの?

よくある疑問として「国際調査報告のあとにできる『19条補正』で直せばいいのでは?」というものがあります。予備審(34条補正)との違いはここが重要です。

特徴 第19条補正(国際調査段階) 第34条補正(予備審査段階)
補正できる範囲 請求の範囲(クレーム)のみ クレーム、明細書、図面のすべて
審査官との対話 一方的に出すだけ(答弁書なし) 答弁書を出して審査官に再考を促せる
タイミング 国際調査報告を受け取ってから 予備審査請求と同時、またはその後
使い道 とりあえずクレームを絞っておく 本格的に特許性を主張して反論する

ここがポイント!

19条補正は「明細書の誤記」や「実施例の追加説明」などはできません。抜本的に発明の内容を説明し直して審査官を説得するには、予備審(34条補正)が必要になります。


まとめ

  • 基本: そのまま各国移行でOK(コストも安い)。

  • 予備審をやる場合: 国際調査の結果がボロボロ(拒絶)で、「このまま各国に行くと全滅する! 国際段階で明細書ごと修正して、良い評価に変えてから各国へ行きたい!」という敗者復活戦の意図が強いです。


質問:19条補正とか34条補正って、PCT条約の「条」の番号だよね?これらの条文も覚える必要ある?

Gemini:絶対に覚える必要があります!特許の勉強(特に弁理士試験や実務)において、PCTの条文番号の中で「19条」と「34条」は最重要ランクです。「特許法29条(新規性・進歩性)」と同じくらい、番号だけで会話が成立するレベルの共通言語だからです。一字一句の暗記までは不要ですが、条文番号」と「手続きの内容・要件」をセットで条件反射的に出てくるようにしておく必要があります。

覚えるべきポイントを整理しました。


なぜこの2つは「条文番号」で覚える必要があるの?

1. 構造上の大きな区切りだから

PCT条約は大きく2つのパート(章)に分かれています。この構造を理解するためのアンカー(目印)になるのが19条と34条です。

  • 第1章(Chapter I):国際調査

    • 全出願人が必ず通るルート。

    • この章の最後にある補正のチャンスが「19条」。

  • 第2章(Chapter II):国際予備審査

    • オプション(選択制)のルート。

    • この章の中で行う補正が「34条」。

試験では「第1章の段階でできることは?」「第2章を請求した場合の特例は?」といった問われ方をするので、この区分けが必須です。

2. 条文特有のキーワードがあるから

それぞれの条文には、試験でひっかけ問題になりやすい「キーワード」が含まれています。

■ PCT第19条(国際調査段階の補正)

覚えるべき骨子:

  • 時期: 国際調査報告(ISR)を受け取った後

  • 提出先: 国際事務局(IB) ※調査機関ではない!

  • 囲: 請求の範囲(クレーム)について補正できる明細書・図面はNG

  • おまけ: 補正と同時に簡単な「説明書(Statement)」を提出できる(第19条(1))

  • ひっかけポイント: 「説明書」を出せるのは19条だけ。34条にはない制度です。

■ PCT第34条(国際予備審査段階の補正)

覚えるべき骨子:

  • 時期: 予備審査を請求したとき、または予備審査報告が作成される前まで

  • 提出先: 国際予備審査機関(IPEA)

  • 範囲: 請求の範囲、明細書、図面のすべてについて補正できる

  • 権利: 口頭で意見を述べたり、審査官と面接したりする権利はない(原則書面のみ)が、補正をする権利はある。

覚え方のコツ(対比イメージ)

これだけ覚えておけば、大体の問題には対応できます。

項目 19条補正 34条補正
ステージ 第1章(国際調査)のシメ 第2章(予備審査)のメイン
いじれる場所 クレームだけ 全部(クレーム・明細書・図面)
提出先

国際事務局 (IB)

 

(ジュネーブに送るイメージ)

予備審査機関 (IPEA)

 

(審査官に直接送るイメージ)

セット 「説明書」を付けられる 「答弁書」と一緒に議論する

一歩進んだアドバイス

もし試験対策(特に短答式)であれば、条文番号に加えて**「国内法とのリンク」**も意識すると完璧です。

  • PCT19条補正 → 日本国内移行時には特許法第184条の7(日本語翻訳文の提出)

  • PCT34条補正 → 日本国内移行時には特許法第184条の8(日本語翻訳文の提出)

「19条補正をしたけれど翻訳文を出さなかったらどうなる?」といった問題は頻出です。まずは「19条=クレームのみ・IBへ」「34条=全部・IPEAへ」という基本を叩き込んでおきましょう。

質問:国際予備審査に一番関連する特許法は第何条?それとも無関係?

Gemini:無関係ではありません!国際予備審査(およびその中で行う34条補正)に一番関連する日本の特許法の条文は、ズバリこれです。

特許法 第184条の8(条約第34条の規定による補正の特例)

この条文がなぜ「一番関連する」のか、その意味を整理しておきましょう。


1. なぜ「第184条の8」なのか?

国際予備審査そのもの(審査官がどう審査するか)はPCT条約のルールで行われますが、**「その結果(34条補正)を日本国内にどう反映させるか」**を決めているのが、この特許法184条の8だからです。

この条文は、以下のルールを定めています。

  1. 翻訳文の提出義務:国際予備審査の段階で「34条補正(明細書やクレームの書き換え)」をした場合、その**「日本語翻訳文」**を日本の特許庁に提出しなさい。
  2. 期限:国内書面提出期間(原則30ヶ月)までに提出しなさい。
  3. ペナルティ(重要!):もし翻訳文を出さなかったら、「その34条補正は、なかったものとみなす」。

つまり、せっかく高いお金を払って予備審査を受け、補正をして良い結果(肯定的な見解)を勝ち取ったとしても、**この「184条の8」の手続きをミスると、日本ではすべて水の泡(補正前の状態に戻る)**になってしまうのです。


2. 「無関係?」という疑問の正体

「無関係?」と思われたのは、おそらく以下の感覚からではないでしょうか。

  • 「予備審査」をしているのは、日本の特許庁の審査官かもしれないけれど、あくまで「国際段階」の話だよね?

  • 日本の特許法(国内法)は、日本に入ってきてからの話だよね?

その感覚は半分正解です。

日本の特許法には「予備審査をどう進めるか(審査基準など)」は書いてありません。それはPCTガイドラインの話です。

しかし、**「予備審査の『成果物』を日本でどう受け入れるか」**という入り口の部分(税関のような役割)については、日本の特許法(184条シリーズ)がガッツリ関わっています。


3. もうひとつ関連する条文(上級編)

もし余裕があれば、特許法 第184条の10(翻訳文の特例等) も「予備審査に関連する条文」としてメモしておいてください。

これは、**「34条補正の内容が、日本での審査対象になりますよ」**と定めた条文です。

具体的には、34条補正の翻訳文が提出された場合、その翻訳文の内容をもって「特許請求の範囲」や「明細書」とみなして審査を進める、というルールです。


まとめ

  • 国際予備審査(34条補正)の受け皿となる条文→ 特許法 第184条の8
  • 覚えるべきポイント→ 「34条補正の翻訳文を出さないと、補正はなかったことになる(無効ではなく、みなし不提出)」

この「184条の8」は、弁理士試験の短答試験でも、実務での期限管理でも、非常によく出てくる番号です。「34条補正といったらイッパチヨンのハチ(184-8)」とセットで覚えておくと強いですよ!

質問:19条補正や34条補正って、日本語で出すの?

Gemini:「最初に出願した言語(国際出願の言語)」**に合わせて出します。つまり、

  • 日本語で国際出願したなら → 補正書も日本語

  • 英語で国際出願したなら  → 補正書も英語

で出します。

「日本の特許庁(JPO)を通して手続するんだから、全部日本語でいいでしょ?」と思いがちなのですが、ここは**「国際段階」の手続きなので、あくまで「出願そのものの言語」**に合わせるのがルールです。

以下に、試験や実務で間違えやすいポイントを整理しました。


1. 補正書の言語の基本ルール

PCT出願(国際出願)がどの言語で書かれているかによって決まります。

ケース 出願の言語 19条・34条補正の言語 提出先
日本語特許出願ベース 日本語 日本語

19条:国際事務局 (IB)

 

34条:予備審査機関 (IPEA)

英語出願ベース 英語 英語 同上

イメージ:

英語で書かれた明細書の中に、急に日本語の補正を差し込んでも、審査官(外国人かもしれないし、英語案件担当の日本人)は読めませんし、文章がつながりませんよね。だから言語を統一します。


2. 【超重要】ここからが「試験に出る」話

「国際段階で補正書を出した」だけで安心していませんか?実は、そのあと**「日本国内に移行するとき(国内移行段階)」**に大きな落とし穴があります。ここで、さきほどの**特許法184条の7(19条補正の翻訳文)184条の8(34条補正の翻訳文)**の話が出てきます。

ケースA:日本語で国際出願していた場合

  • 国際段階: 補正書は日本語で出した。

  • 日本移行時: もともと日本語なので、翻訳文は不要

    • そのまま日本の審査官が読みます。楽ちんです。

ケースB:英語で国際出願していた場合

  • 国際段階: 補正書は英語で出した。

  • 日本移行時: 日本の審査官は日本語で審査します。

    • したがって、**「補正書の日本語翻訳文」**を日本の特許庁へ提出しなければなりません。

    • 期限: 国内書面提出期間(優先日から30ヶ月)まで。

試験でのひっかけポイント!

  • Q. 英語でした国際出願について、19条補正(英語)をした。日本国内移行時に、この補正内容で審査してもらいたい場合、どうすればよいか?

  • A. 補正書の**「日本語翻訳文」**を提出する。(これを出さないと、補正はなかったものとして扱われます!)


まとめ

  1. 出すとき(国際段階): 出願した言語に合わせる。(日本語出願なら日本語、英語出願なら英語)

  2. 各国に入るとき(国内段階): 行く国の言葉に翻訳する。(日本に入るなら日本語、アメリカに行くなら英語)

この**「国際段階」「国内移行段階」**を頭の中でパキッと分けておくのが、PCTを理解する最大のコツです!

 

暗記すべき法律の条文

特1条(目的)この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。

特2条1項(定義)この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。

特2条3項 「実施」とは、一 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為
二 方法の発明にあつては、その方法の使用をする行為
三 物を生産する方法の発明にあつては、前号に掲げるもののほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

著2条1号(定義)著作物 思想又は感情創作的表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

著2条 定義 志賀直哉もガーナチョコレートを食べたい

 

(目的)
第一条 この法律は、著作物並びに実演レコード放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 想又は感情創作的表現したものあつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
二 著作者 著作物を創作する者をいう。
三 実演 著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)をいう。
四 実演家 俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、又は演出する者をいう。
五 レコード 蓄音機用音盤、録音テープその他の物に音を固定したもの(音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)をいう。
六 レコード製作者 レコードに固定されている音を最初に固定した者をいう。
七 商業用レコード 市販の目的をもつて製作されるレコードの複製物をいう。
七の二 公衆送信 公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うことをいう。
八 放送 公衆送信のうち、公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送信をいう。
九 放送事業者 放送を業として行う者をいう。
九の二 有線放送 公衆送信のうち、公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う有線電気通信の送信をいう。
九の三 有線放送事業者 有線放送を業として行う者をいう。
九の四 自動公衆送信 公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)をいう。
九の五 送信可能化 次のいずれかに掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう。
イ 公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号において「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。以下同じ。)の公衆送信用記録媒体に情報を記録し、情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え、若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し、又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。
ロ その公衆送信用記録媒体に情報が記録され、又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続(配線、自動公衆送信装置の始動、送受信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には、当該一連の行為のうち最後のものをいう。)を行うこと。
九の六 特定入力型自動公衆送信 放送を受信して同時に、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力することにより行う自動公衆送信(当該自動公衆送信のために行う送信可能化を含む。)をいう。
九の七 放送同時配信等 放送番組又は有線放送番組の自動公衆送信(当該自動公衆送信のために行う送信可能化を含む。以下この号において同じ。)のうち、次のイからハまでに掲げる要件を備えるもの(著作権者、出版権者若しくは著作隣接権者(以下「著作権者等」という。)の利益を不当に害するおそれがあるもの又は広く国民が容易に視聴することが困難なものとして文化庁長官が総務大臣と協議して定めるもの及び特定入力型自動公衆送信を除く。)をいう。
イ 放送番組の放送又は有線放送番組の有線放送が行われた日から一週間以内(当該放送番組又は有線放送番組が同一の名称の下に一定の間隔で連続して放送され、又は有線放送されるものであつてその間隔が一週間を超えるものである場合には、一月以内でその間隔に応じて文化庁長官が定める期間内)に行われるもの(当該放送又は有線放送が行われるより前に行われるものを除く。)であること。
ロ 放送番組又は有線放送番組の内容を変更しないで行われるもの(著作権者等から当該自動公衆送信に係る許諾が得られていない部分を表示しないことその他のやむを得ない事情により変更されたものを除く。)であること。
ハ 当該自動公衆送信を受信して行う放送番組又は有線放送番組のデジタル方式の複製を防止し、又は抑止するための措置として文部科学省令で定めるものが講じられているものであること。
九の八 放送同時配信等事業者 人的関係又は資本関係において文化庁長官が定める密接な関係(以下単に「密接な関係」という。)を有する放送事業者又は有線放送事業者から放送番組又は有線放送番組の供給を受けて放送同時配信等を業として行う事業者をいう。
十 映画製作者 映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう。
十の二 プログラム 電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいう。
十の三 データベース 論文、数値、図形その他の情報の集合物であつて、それらの情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものをいう。
十一 二次的著作物 著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう。
十二 共同著作物 二人以上の者が共同して創作した著作物であつて、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないものをいう。
十三 録音 音を物に固定し、又はその固定物を増製することをいう。
十四 録画 影像を連続して物に固定し、又はその固定物を増製することをいう。
十五 複製 印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、次に掲げるものについては、それぞれ次に掲げる行為を含むものとする。
イ 脚本その他これに類する演劇用の著作物 当該著作物の上演、放送又は有線放送を録音し、又は録画すること。
ロ 建築の著作物 建築に関する図面に従つて建築物を完成すること。
十六 上演 演奏(歌唱を含む。以下同じ。)以外の方法により著作物を演ずることをいう。
十七 上映 著作物(公衆送信されるものを除く。)を映写幕その他の物に映写することをいい、これに伴つて映画の著作物において固定されている音を再生することを含むものとする。
十八 口述 朗読その他の方法により著作物を口頭で伝達すること(実演に該当するものを除く。)をいう。
十九 頒布 有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与することをいい、映画の著作物又は映画の著作物において複製されている著作物にあつては、これらの著作物を公衆に提示することを目的として当該映画の著作物の複製物を譲渡し、又は貸与することを含むものとする。
二十 技術的保護手段 電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法(次号及び第二十二号において「電磁的方法」という。)により、第十七条第一項に規定する著作者人格権若しくは著作権、出版権又は第八十九条第一項に規定する実演家人格権若しくは同条第六項に規定する著作隣接権(以下この号、第三十条第一項第二号、第百十三条第七項並びに第百二十条の二第一号及び第四号において「著作権等」という。)を侵害する行為の防止又は抑止(著作権等を侵害する行為の結果に著しい障害を生じさせることによる当該行為の抑止をいう。第三十条第一項第二号において同じ。)をする手段(著作権等を有する者の意思に基づくことなく用いられているものを除く。)であつて、著作物、実演、レコード、放送又は有線放送(以下「著作物等」という。)の利用(著作者又は実演家の同意を得ないで行つたとしたならば著作者人格権又は実演家人格権の侵害となるべき行為を含む。)に際し、これに用いられる機器が特定の反応をする信号を記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は当該機器が特定の変換を必要とするよう著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。
二十一 技術的利用制限手段 電磁的方法により、著作物等の視聴(プログラムの著作物にあつては、当該著作物を電子計算機において実行する行為を含む。以下この号及び第百十三条第六項において同じ。)を制限する手段(著作権者等の意思に基づくことなく用いられているものを除く。)であつて、著作物等の視聴に際し、これに用いられる機器が特定の反応をする信号を記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は当該機器が特定の変換を必要とするよう著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。
二十二 権利管理情報 第十七条第一項に規定する著作者人格権若しくは著作権、出版権又は第八十九条第一項から第四項までの権利(以下この号において「著作権等」という。)に関する情報であつて、イからハまでのいずれかに該当するもののうち、電磁的方法により著作物、実演、レコード又は放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像とともに記録媒体に記録され、又は送信されるもの(著作物等の利用状況の把握、著作物等の利用の許諾に係る事務処理その他の著作権等の管理(電子計算機によるものに限る。)に用いられていないものを除く。)をいう。
イ 著作物等、著作権等を有する者その他政令で定める事項を特定する情報
ロ 著作物等の利用を許諾する場合の利用方法及び条件に関する情報
ハ 他の情報と照合することによりイ又はロに掲げる事項を特定することができることとなる情報
二十三 著作権等管理事業者 著作権等管理事業法(平成十二年法律第百三十一号)第二条第三項に規定する著作権等管理事業者をいう。
二十四 国内 この法律の施行地をいう。
二十五 国外 この法律の施行地外の地域をいう。
2 この法律にいう「美術の著作物」には、美術工芸品を含むものとする。
3 この法律にいう「映画の著作物」には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする。
4 この法律にいう「写真の著作物」には、写真の製作方法に類似する方法を用いて表現される著作物を含むものとする。
5 この法律にいう「公衆」には、特定かつ多数の者を含むものとする。
6 この法律にいう「法人」には、法人格を有しない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものを含むものとする。
7 この法律において、「上演」、「演奏」又は「口述」には、著作物の上演、演奏又は口述で録音され、又は録画されたものを再生すること(公衆送信又は上映に該当するものを除く。)及び著作物の上演、演奏又は口述を電気通信設備を用いて伝達すること(公衆送信に該当するものを除く。)を含むものとする。
8 この法律にいう「貸与」には、いずれの名義又は方法をもつてするかを問わず、これと同様の使用の権原を取得させる行為を含むものとする。
9 この法律において、第一項第七号の二、第八号、第九号の二、第九号の四、第九号の五、第九号の七若しくは第十三号から第十九号まで又は前二項に掲げる用語については、それぞれこれらを動詞の語幹として用いる場合を含むものとする。

https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048

参考

  1. 著作物 定義 https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/pdf/93726501_05.pdf
  2. 将棋ナレーション事件と著作権(1)知財高裁令和5年3月16日判決 弁護士クラフトマン https://www.ishioroshi.com/biz/mailmag/topic/topic20250121/
  3. 「はじめての著作権法」 著者:池村 聡 出版社:日本経済新聞出版社 出版日:2018年1月 基本書ですが、侮るなかれ。 https://www.ip-ginoushikai.org/view_popup.php?pageId=1495 知財を勉強された方であれば、著作物の4要件「思想又は感情を」「創作的に」「表現したものであって」「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」は、空で言えて当たり前。

特036第6項1号 サポート要件 アムジェンvsサノフィ事件:日米の判断ロジック完全比較

バイオ特許の歴史的転換点となった「アムジェンvsサノフィ(PCSK9)事件」。結論から言えば、日米ともにアムジェンの敗訴(特許無効)で幕を閉じましたが、そこに至る**「法的ロジック(無効理由)」**には、興味深い違いがあります。本記事では、この世紀の特許論争の論点を、日米の法制度と判決文を引用しながら徹底比較します。


1. 争点:何が問題だったのか?

全ての発端は、アムジェンが取得した特許の**「クレーム(請求項)の書き方」**にありました。

  • 対象: PCSK9に結合し、LDLRとの結合を阻害する(中和する)抗体。

  • アムジェンの主張(機能的クレーム):「私が発見した特定の抗体(26個の実施例)だけでなく、**『同じ場所に結合して、同じように中和する機能を持つ抗体』**なら、構造(アミノ酸配列)がどうであれ、すべて私の権利である」
  • サノフィの反論:「その定義だと、理論上数百万種類の抗体が含まれる。アムジェンはごく一部(26個)しか作り方を教えていない。残りの膨大な抗体まで独占するのは、発明の公開(代償)と独占権のバランスを欠いている」

2. アメリカでの判断: 「実施可能要件」の壁

米国連邦最高裁は、2023年5月、アムジェンの特許を**「実施可能要件(Enablement)」違反**として無効にしました。

根拠条文:米国特許法 112条(a)

35 U.S.C. § 112(a)

“The specification shall contain a written description of the invention, and of the manner and process of making and using it, in such full, clear, concise, and exact terms as to enable any person skilled in the art … to make and use the same…”

(明細書は、当業者がその発明を作り、かつ使用することができるように(enable)、十分、明確、簡潔かつ正確な用語で記述しなければならない…)

判決のロジック:「過度な実験(Undue Experimentation)」

最高裁(ゴーサッチ判事)は、以下の論理でアムジェンを断罪しました。

  1. 「作るための努力」が重すぎる:クレームされた範囲(Genus)に含まれる数百万の抗体を作るには、アムジェンが開示した方法(スクリーニング)だけでは不十分。研究者は無作為に抗体を作り、一つひとつテストする**「トライ&エラー」**を繰り返さなければならない。
  2. 構造と機能は予測不能:サノフィが示した実験データの通り、アミノ酸を一つ変えただけで機能が失われることがある。つまり、構造から機能を予測できないため、論理的な設計ができず、手当たり次第の実験が必要になる。

決定的な判決文(名言)

最高裁は、アムジェンの開示を「発明」ではなく「宿題」だと切り捨てました。

“That is not enablement; it is a research assignment.”

(それは実施可能要件を満たすものではない。それは**『研究課題(Research Assignment)』**である。)

Amgen Inc. v. Sanofi, 598 U.S. 594 (2023)


3. 日本での判断: 「サポート要件」の壁

日本の知財高裁(大合議)は、2023年1月、アムジェンの特許を**「サポート要件」違反**として無効にしました。

※米国と異なり、日本は「作り方(Enablement)」よりも「記載の整合性(Support)」を問題視しました。

根拠条文:特許法 第36条第6項第1号

特許法 第36条第6項第1号

「特許請求の範囲の記載は、…次の各号に適合するものでなければならない。

一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」

判決のロジック:「一般化・拡張できない」

知財高裁は、以下の論理を展開しました。

  1. 未知のメカニズムまで含んでいる:クレームは「競合阻害」という機能で定義されているため、明細書に書かれたメカニズムとは異なる結合様式や、異なる構造を持つ抗体まで含まれてしまう。
  2. 一部の例から全体は言えない:抗体の構造と機能の相関関係は予測し難い(Unpredictable)。したがって、少数の実施例(26個)のみに基づいて、クレーム範囲全体(数百万個)にわたって課題解決できると一般化・拡張することはできない。

決定的な判決文

「発明の詳細な説明に、クレームに含まれる広範な抗体等まで拡張ないし一般化できるといえるだけの具体的な例の記載があるか、そうでなくても、当業者が…(中略)…課題を解決できると認識できる程度の記載があることを要する」

知財高裁 令和2年(行ケ)第10093号


4. 日米比較まとめ

項目 🇺🇸 アメリカ (Supreme Court) 🇯🇵 日本 (知財高裁 大合議)
無効理由 実施可能要件 (Enablement) サポート要件 (Support Requirement)
重視した点

「実験の手間・労力」

 

(How to make)

「説明の論理・整合性」

 

(Description vs Scope)

キーワード

過度な実験

 

(Undue Experimentation)

 

研究課題

 

(Research Assignment)

拡張ないし一般化

 

(Generalization)

 

予測し難い

 

(Unpredictable)

判断の核心 スクリーニングで正解を見つけるのは「宝探し」であり、発明の完成とは言えない。 一部の例だけで、異なるメカニズムを含む全範囲を独占する理屈が通っていない。

5. 結論: 「機能的クレーム」の終焉

日米で適用した条文やロジックのアプローチは異なりますが、到達した結論は完全に一致しています。

それは、**「構造と機能の関係が予測できないバイオ分野において、少数の実施例だけで広範な権利(機能的クレーム)を独占することは、もはや許されない」**ということです。

アムジェン敗訴は、特許実務における「機能的クレーム時代の終わり」と、「構造(配列)に基づいた堅実なクレーム作成の重要性」を世界に知らしめました。


読者へのNext Step

より詳細な原文を確認したい方は、以下のリンクを参照してください。

 

(This blog article was generated by manus. Prompt used: アムジェンvsサノフィの特許論争の論点をまとめて。アメリカでの判断と日本での判断を対比させて。必要に応じて特許法の条文や判決文を引用して、根拠を示しながら。)

特036第4項1号 サポート要件 抗体の機能特許アムジェンの敗訴

# アムジェン対サノフィ特許論争:機能的クレームの有効性に関する日米の判断対比

## 1. 序論:論争の概要と核心的論点

本報告書は、高コレステロール血症治療薬であるPCSK9(プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)を標的とする抗体を巡り、アムジェン社(Amgen Inc.)とサノフィ社(Sanofi)との間で繰り広げられた国際的な特許権侵害訴訟について、その核心的な論点と、米国および日本における司法判断の対比を、根拠となる特許法の条文や判決文を引用しつつ分析するものです。

この論争の核心は、**抗体の機能**によってその技術的範囲を定義する**機能的クレーム**(上位概念クレーム)が、各国の特許法における**記載要件**(米国ではWritten DescriptionおよびEnablement、日本ではサポート要件および実施可能要件)を満たすか否かという点に集約されます [1] [2]。

アムジェンが権利行使を試みた特許クレームは、PCSK9の特定の残基に結合し、かつPCSK9とLDL受容体との結合を阻害するという**機能**によって、無数の抗体を含む広範なクラスを定義していました。

## 2. 米国における判断:実施可能要件(Enablement Requirement)の観点

米国における訴訟は、連邦最高裁判所まで争われ、2023年5月18日にアムジェン敗訴の判決が確定しました [2]。

### 2.1. 根拠条文と判断の焦点

米国連邦最高裁判所は、アムジェンの特許が米国特許法第35編第112条(a)項に規定される**実施可能要件**(Enablement Requirement)を満たさないと判断しました。

> **米国特許法第35編第112条(a)項(35 U.S.C. § 112(a))**
> “The specification shall contain a written description of the invention, and of the manner and process of making and using it, in such full, clear, concise, and exact terms as to enable any person skilled in the art to which it pertains, or with which it is most nearly connected, to make and use the same…” [3]

この条文は、特許明細書が、当業者が**過度の実験**(undue experimentation)をすることなく発明を実施できる程度に、その製造および使用の方法を記載していなければならないと定めています。

### 2.2. 判断の理由

最高裁は、アムジェンの明細書に記載された26個の抗体の例示と、それらを作製するための2つの一般的な方法だけでは、クレームが定義する**膨大な数の抗体**のクラス全体を、過度の実験なしに作製・使用できるとは言えないと結論付けました [2]。

裁判所は、開示された方法が、クレームの範囲全体を実施可能にするための**共通の特徴**を特定しておらず、単に「**研究課題を設定したにすぎない**」(”research agenda”)と指摘しました。すなわち、クレームの範囲が広大であるのに対し、明細書の開示がその広範な技術的範囲を裏付けるには不十分であるという点が、実施可能要件違反の決め手となりました。

## 3. 日本における判断:サポート要件(Written Description Requirement)の観点

日本における訴訟では、2025年4月16日の知的財産高等裁判所(知財高裁)判決(令和5年(ネ)10107号)において、アムジェンの特許が**サポート要件**に違反するとして、特許権侵害に基づく請求が棄却されました [1]。

### 3.1. 根拠条文と判断の焦点

知財高裁は、特許法第36条第6項第1号に規定される**サポート要件**を主要な論点としました。

> **特許法第36条第6項第1号**
> 「特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものでなければならない。」 [4]

この要件は、特許請求の範囲に記載された発明が、明細書の発明の詳細な説明によって裏付けられていること、すなわち、発明の詳細な説明に記載された事項によって、請求項に係る発明が**課題を解決できる**と当業者が認識できることを要求します。

### 3.2. 判断の理由

知財高裁は、クレームが「参照抗体と競合する、PCSK9とLDLRの結合を中和する抗体」という機能的クレームであることに対し、明細書には、抗体が参照抗体と競合するという事実のみから、直ちに中和機能を備えると評価できるほどの**合理的なメカニズムの開示**がなされていないと判断しました [1]。

特に、より包括的な「競合」概念と「中和」機能との関係の不明確性に着目し、機能的クレームを裏付ける**技術的裏付けが不十分**であるとして、サポート要件違反を認定しました。これは、機能的クレームを用いる際には、それを裏付ける合理的なメカニズムの開示が不可欠であることを改めて示したものです。

## 4. 日米の判断の対比と論点の共通性

アムジェン対サノフィの特許論争における日米の判断は、異なる法制度の下で異なる記載要件を適用しながらも、実質的には**広範な機能的クレームの有効性**という共通の論点に帰着しました。

項目 米国(連邦最高裁) 日本(知財高裁)
最終判断 アムジェン敗訴(特許無効) アムジェン敗訴(特許無効)
主要な論点 実施可能要件(Enablement Requirement) サポート要件(Written Description Requirement)
根拠条文 35 U.S.C. § 112(a) 特許法第36条第6項第1号
判断の核心 過度の実験なしにクレーム範囲全体を実施できるか(実験の負担を重視)。 クレームが発明の詳細な説明に記載されたものと言えるか(技術的裏付けを重視)。
共通する問題 機能で定義された上位概念の抗体クレームの範囲が広大であるのに対し、明細書の開示がその広範な技術的範囲を裏付けるには不十分であった点。

米国では、クレームの範囲全体をカバーするために必要な**実験の負担**(過度の実験)が実施可能要件違反の根拠となりました。一方、日本では、クレームの範囲が明細書に記載された**技術的知見**によって裏付けられているか(課題解決の可能性)という**技術的裏付け**の観点からサポート要件違反が認定されました。

両国の判断は、バイオ医薬品、特に抗体のような複雑な技術分野において、**機能的クレーム**を設定する際には、そのクレームが包含する広範な技術的範囲に見合うだけの**具体的かつ網羅的な開示**が明細書に求められるという、重要な実務的指針を示しています。


### 参考文献

[1] 「2025.04.16 「アムジェン v. サノフィ」 知財高裁令和5年(ネ)10107 ― 機能的クレームにおけるサポート要件の適用と無効理由の再主張の可否 ―」. 医薬系 “特許的” 判例ブログ.
[2] 「【速報】【米国】【特許】Amgen v. Sanofiアメリカ連邦最高裁判決」. TMI総合法律事務所 Our Eyes.
[3] 「2164-The Enablement Requirement」. United States Patent and Trademark Office (USPTO) Manual of Patent Examining Procedure (MPEP).
[4] 「第 2 節 サポート要件(特許法第 36 条第 6 項第 1 号)」. 特許庁 審査基準.

 

(This article was generated by manus.im)

Prompt used: アムジェンvsサノフィの特許論争の論点をまとめて。アメリカでの判断と日本での判断を対比させて。必要に応じて特許法の条文や判決文を引用して、根拠を示しながら。

特041 国内優先権、 特043 パリ条約、 特184の3 PCT出願

プロンプト:パリ条約、PCT、国内優先権など国際出願に関するもろもろを、網羅的にかつわかりやすくまとめて。頭がこんがらがったので。

Gemini:その気持ち、痛いほどわかります!特許法の学習において、「パリ条約」「PCT」「国内優先権」が絡み合うこのエリアが、最大の挫折ポイントの一つです。「条文番号」と「中身」がごちゃ混ぜになる原因は、ルート(道筋)が整理できていないからです。シンプルに**「3つのルート」**に分けて整理しましょう。これで頭の中の地図が完成します。

【全体地図】3つのルートだけ覚えればいい

まず、以下のどれに当てはまるか?で適用条文が決まります。

  1. 【国内ルート】 日本 $\rightarrow$ 日本 (国内優先権)

  2. 【パリルート】 外国 $\rightarrow$ 日本 (直接)

  3. 【PCTルート】 どこか $\rightarrow$ PCT $\rightarrow$ 日本 (国際特許出願)

これらを一つずつ解きほぐします。

1. 【国内ルート】 日本 $\rightarrow$ 日本

「去年の俺の出願(日本)をベースに、改良して出し直す」

  • 状況: 日本で出願Aをして、1年以内に内容を追加して日本で出願Bをする。

  • 使う条文:第41条(国内優先権)

  • 何が起きる?

    • 出願Bの審査時、共通する発明は「出願Aの日」に出したとみなされる。

    • 先願Aは「みなし取下げ」で消滅する(重複防止)。

  • ポイント: ここには外国も国際も関係ありません。「41条」はドメスティックな話です。

2. 【パリルート】 外国 $\rightarrow$ 日本(直接)

「アメリカで出した出願を、日本でも直接出しに来た」

  • 状況: 米国で出願Aをして、1年以内に日本国特許庁へ直接出願Bをする。

  • 使う条文:第43条(パリ条約による優先権)

  • 何が起きる?

    • 出願Bの審査時、新規性などの判断基準日が「米国出願Aの日」になる。

    • 手続き: 日本への出願と「同時」に優先権主張し、1年4ヶ月以内に証明書を出す。

  • ポイント: これが「THE・優先権」の基本形です。

3. 【PCTルート】 PCTを経由して日本へ

ここが混乱の元凶です。**「入り口」「優先権の処理」**の2段構えで考えます。

ステップ①:日本に入ってくる(入り口)

PCT出願(国際出願)を日本に入れるには、まずこの条文を通ります。

  • 使う条文:第184条の3(国際特許出願)

  • 何が起きる?

    • **「このPCT出願は、日本の特許出願とみなす!」**と宣言されます。

    • これによって初めて、日本の特許法の土俵に乗ります。

ステップ②:優先権はどう扱う?

土俵に乗った後、「そういえばこれ、優先権ついてるよね?」という処理をします。

ここで、**「元ネタ(基礎出願)がどこか」**によって2パターンに分かれます。

パターンA:外国 $\rightarrow$ PCT $\rightarrow$ 日本

(例:米国の出願を基礎にPCTをして、日本に来た)

  • 基本は「パリルート(43条)」と同じ考え方ですが、PCT用の特例を使います。

  • 使う条文:第184条の15(優先権主張の特例)

  • 仕組み: 「本来は日本出願と同時に主張しなきゃダメ(43条)だけど、国際段階で主張してあるから、それでOKとみなすよ」という読み替え規定です。

パターンB:日本 $\rightarrow$ PCT $\rightarrow$ 日本(自己指定)

(例:日本の出願を基礎にPCTをして、日本に戻ってきた)

  • これは実質的に「国内ルート(41条)」と同じことをPCT経由でやっています。

  • 使う条文:第41条第1項のカッコ書き & 第184条の15

  • 仕組み: 184条の3で「日本出願」とみなされた結果、**「日本の出願(基礎) $\rightarrow$ 日本の出願(PCT)」**という形になるので、第41条(国内優先権)のルールが適用されます。

    • 重要: だから、PCT経由であっても、基礎になった日本の出願は**「みなし取下げ」**になります。

【最終まとめ】 混乱解消マトリクス

この表だけスクショして保存してください。

ルート 状況 優先権の条文 基礎出願の運命
国内ルート 日本 $\rightarrow$ 日本

第41条

 

(国内優先権)

消える

 

(みなし取下げ)

パリルート 外国 $\rightarrow$ 日本

第43条

 

(パリ優先権)

消えない

 

(外国の主権だから日本は消せない)

PCTルート

 

(外国発)

外国 $\rightarrow$ PCT $\rightarrow$ 日本

第184条の15

 

(実質は43条の特例)

消えない

PCTルート

 

(日本発)

日本 $\rightarrow$ PCT $\rightarrow$ 日本

第41条

 

(184条の3を経由して適用)

消える

 

(国内優先権と同じ扱い!)

つまり…

  • 184条の3 は、PCTを日本出願に変身させる「入り口の魔法」。

  • 41条 は、日本と日本をつなぐ「上書き保存(古いの消去)」。

  • 43条 は、外国の日付を借りる「借用書」。

  • 184条の15 は、PCT経由の時に43条を使いやすくする「変換アダプタ」。

これで少し整理できましたでしょうか?

「日本発のPCT(自己指定)」が、実は41条の世界に引きずり込まれる…というあたりが、一番のハマりポイントだったかもしれません。

 

質問:今の回答で、PCTルートで 日本 → PCT → 外国 を含めなかったのは、日本の特許に絞ったってこと?

Gemini:その通りです!さすが、全体像が見えてきましたね。おっしゃる通り、先ほどのまとめは**「日本の特許法(日本の特許庁)がどう判断するか?」**という視点に絞っていました。なぜ「日本 → PCT → 外国」をあえて外したのか。理由はシンプルで、**「そこから先は日本の法律(特許法)の管轄外だから」**です。この違いを整理すると、特許法の勉強において「どこまで覚えればいいか」の境界線がハッキリします。

## 1. なぜ「日本 → 外国」は特許法の試験(条文)に出にくい?

日本の特許法(第1条~第204条)は、あくまで**「日本の特許庁と、日本の審査官のためのルールブック」**です。

あなたが「日本 → PCT → アメリカ」に出願した場合を想像してください。

  1. 日本でPCT出願する時:

    • 日本の特許庁(受理官庁)に書類を出します。ここまでは日本の特許法(国際出願法)のルールです。

  2. アメリカに移行した後:

    • 審査をするのはアメリカの審査官です。

    • 彼らが使うルールブックは**「米国特許法」**です。

    • 彼らがあなたの優先権を認める根拠は、日本の特許法43条ではなく、**「パリ条約(という国際条約)」と「米国特許法」**です。

つまり、「日本の特許法第43条(優先権主張)」は、外国へ出ていく時には使われません。(43条は、日本に入ってくる人に「優先権証書を出せ」と命令する条文だからです。)

## 2. ベクトル(方向)で整理すると完璧

混乱の原因は、**「Inbound(日本に入ってくる)」「Outbound(日本から出ていく)」**が混ざっていることです。

条文勉強のメインは、圧倒的にInboundです。

方向 ルート 適用される日本の法律 備考

Inbound

 

(日本へ入る)

外国 $\rightarrow$ 日本

 

PCT $\rightarrow$ 日本

第43条

 

第184条の3 など

試験のメイン!

 

「日本の審査官がどう扱うか」の規定。

Outbound

 

(日本から出る)

日本 $\rightarrow$ 外国

 

日本 $\rightarrow$ PCT $\rightarrow$ 外国

特になし

 

(条約に基づく権利)

日本の法律は「行ってらっしゃい(受理)」まで。

 

向こうでの扱いは現地の法律次第。

## 3. ただし、1つだけ「特大の落とし穴」がある

「じゃあ、日本から出ていくPCT(日本 $\rightarrow$ PCT $\rightarrow$ 外国)は無視していいんだね?」

ここで**「自己指定(日本も指定国に含む)」**という罠があります。

多くの日本企業は、PCT出願をする際、**「外国(アメリカ等)」だけでなく「日本」**も指定国に入れます(全指定が自動ですが)。

すると、1つのPCT出願の中に2つの顔を持つことになります。

  • 顔A(対 外国): 日本を出ていく出願 $\rightarrow$ 日本の特許法は関係なくなる。

  • 顔B(対 日本): ブーメランのように日本に戻ってくる出願 $\rightarrow$ 第41条(国内優先権)が発動!

先ほどの解説で「PCTルート(日本発)」を含めたのは、この**「顔B(ブーメラン)」**があるため、日本の特許法上、無視できない(みなし取下げ等の影響が出る)からです。

## まとめ:頭の中のスイッチを切り替える

  • **「第43条」「第41条」「第184条」**という単語が出たら $\rightarrow$ **「日本に入ってくる(日本の審査官が見る)」**話をしているんだな、と考える。

  • **「日本から外国へ出す」という話なら $\rightarrow$ それは「条約」「外国の法律」**の話だな、と割り切る。(日本の特許法の条文操作などの細かい議論は発生しない)

これで、「なぜ解説から省かれたのか」が腑に落ちましたでしょうか?

この「管轄(どこの国の法律か)」の意識を持つだけで、条文を読む解像度がグッと上がります!

 

特77 専用実施権

質問:専用実施権と独占通常実施権との違いは何?

Gemini:独占通常実施権と専用実施権の違い、および関連する特許法の条文について解説します。


💡独占通常実施権と専用実施権の違い

項目 専用実施権(特許法77条) 独占通常実施権(特許法に明文規定なし、契約による)
法的性質 物権的権利(特許権に準じる強力な独占排他権) 債権的権利(契約に基づく特約により独占性を付与)
独占性 法律上の独占・排他性が保証される(特許権者も実施できない) 契約上の独占性が保証される(特許権者も実施しない特約を付けることが一般的)
効力発生要件 特許庁への登録効力発生要件(特許法98条1項2号) 登録は不要(当事者間の契約のみで有効)
対第三者効 登録により第三者にも対抗できる(排他性がある) 原則として第三者に対抗できない(特許法上の排他性がない)
差止請求権 自己の名で侵害者に請求できる 原則として請求できない(特許権者が行う)
損害賠償請求 自己の名で侵害者に請求できる 原則として請求できない(独占侵害の場合など、限定的に可能とされる説もある)
情報公開 登録されるため、情報が公開される 登録不要のため、情報が公開されない

重要なポイント

  1. 専用実施権は、特許法に規定された独占的かつ排他的な物権的権利です。登録が必須であり、その範囲内では特許権者自身も実施できなくなり、実施権者自身が侵害者に差止請求などができます。

  2. 独占通常実施権は、特許法には直接的な規定がなく、通常実施権(特許法78条、債権的権利)に「特許権者が他に実施許諾をしない」という独占特約を付けたものです。契約上の独占性はありますが、法律上の排他性はないため、原則として侵害者に直接差止請求はできません。ただし、実務上は柔軟性があるため、広く用いられています。


📜特許法の関連条文

独占通常実施権については、特許法に直接その名称で規定された条文はありませんが、そのベースとなる通常実施権に関する条文があります。

専用実施権

  • 特許法 第77条(専用実施権)

    • 特許権者は、その特許権について専用実施権を設定することができる(1項)。

    • 専用実施権者は、設定行為で定めた範囲内において、業としてその特許発明の実施をする権利を専有する(2項)。

通常実施権(独占通常実施権の法的ベース)

  • 特許法 第78条(通常実施権)

    • 特許権者は、その特許権について他人に通常実施権を許諾することができる(1項)。

    • 通常実施権者は、この法律の規定により又は設定行為で定めた範囲内において、業としてその特許発明の実施をする権利を有する(2項)。

登録による効力発生

  • 特許法 第98条(登録の効果)

    • 次の事項は、登録しなければその効力を生じない。

      • 一:特許権の移転(相続その他の一般承継の場合を除く。)、変更、消滅(混同による場合を除く。)又は処分の制限

      • 二:専用実施権の設定、移転(相続その他の一般承継の場合を除く。)、変更、消滅(混同による場合を除く。)又は処分の制限

  • 特許法 第99条(通常実施権の対抗力)

    • 登録した通常実施権は、その特許権若しくは専用実施権又はその通常実施権について後に取得した者に対しても、その効力を有する(1項)。

    • (独占通常実施権は、この99条に基づく「登録した通常実施権」ではありません。独占通常実施権は、特許法上の排他性を伴うものではないため、原則としてこの登録をもって第三者への対抗力(排他性)は生じません。)

より詳しく、それぞれの実施権者が侵害者にどのような対抗措置を取れるか知りたいですか?