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社会科学系論文の書き方:theoretical framework 理論的枠組みとは?

人文社会系の論文を読んでいると、theoretical framework、理論的フレームワークといった言葉をよく目にしますが、これは一体何なのでしょうか。

theoretical frameworkとは

Theories are formulated to explain, predict, and understand phenomena and, in many cases, to challenge and extend existing knowledge, within the limits of the critical bounding assumptions. The theoretical framework is the structure that can hold or support a theory of a research study. The theoretical framework introduces and describes the theory which explains why the research problem under study exists. https://library.sacredheart.edu/c.php?g=29803&p=185919

  1. Research Guides USC Libraries University of Southern California  https://libguides.usc.edu/writingguide/theoreticalframework theoryに関する丁寧な説明!
  2. Designing the Theoretical Framework https://resources.nu.edu/c.php?g=1006886&p=9620737  ステップバイステップで論文執筆作業の進め方がわかる。
  3. https://resources.nu.edu/ld.php?content_id=52596938

下の説明が実に分かりやすいと思いました。文系の論文でなぜtheoretical frameworkというものを目にするのか、謎が解けました。

Theoretical Frameworkとは理論的枠組み(または理論枠組み)と呼ばれ、社会科学の学問ではエッセイ課題や論文を取り組む時に、位置付ける必要のあるものです。 その理由は、「私はこの理論のものの見方で、今起こっている物事を見ているよ」ということを述べるためです。 そういった理論的枠組みなしで、ものを語ろうとすると、エッセイを書いていても 「何を根拠にそれを言っているの?あなたはどこに焦点を置いているの?」 なんて読み手に疑問を持たれてしまうわけなんです。https://saya-culture.com/theoretical-conceptual-framework/ 理論的枠組み[Theoretical Framework]と概念的枠組み[Conceptual Framework]の違いについて学んだことまとめ 2024.02.16

自分が人文社会系の論文を書いて雑誌に投稿しても、なぜけんもほろろに却下されてしまうのかも、これで説明がつきます。理論的枠組みを示さずに、記載的に書いてもそれは論文の作法に合っていなかったんですね。

Theoretical Frameworkの段落をを書くためには、まず自分がエッセイや論文で用いる理論を定め、それを理解し、その内容を咀嚼し、自分の言葉でアウトプットする。 こんな一連の流れが必要 https://saya-culture.com/theoretical-conceptual-framework/ 理論的枠組み[Theoretical Framework]と概念的枠組み[Conceptual Framework]の違いについて学んだことまとめ 2024.02.16

なるほど、しっかりと書かないといけないのですね。同じ学問といっても、科学と社会科学は全然、論文作法が異なっているようです。文系の研究者は、大学院時代にこういうことを学ぶんですね。

参考

  1. 次のような枠組みで研究の基本的な方法を整理することができます。①理論研究 ②実証研究 ③応用研究 https://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/ba/gr/m1syuusironnbun.pdf
  2. 論文における「考察」の基本の手筋3選 Dr. MM Dr. MM 2023年7月16日 21:24 https://note.com/mmatsunaga/n/n18e6491310c0
  3. 質的研究における理論的枠組みの活用のメリットとデメリット 4 M. Kawabata, RN., PhD. M. Kawabata, RN., PhD. 2025年3月14日 12:27  https://note.com/goldmist1959/n/ne9fea381fb68

組織論、経営理論、公共管理、人的資源管理などの理論的なフレームワーク

組織論、経営理論、公共管理、人的資源管理などの理論的なフレームワークって具体的にはどういうことなのでしょうか、どんな論文を読めばそれがわかるのでしょう。そんな疑問をChatGPTに訊いてみたら以下の答えが返ってきました。

 

「組織論、経営理論、公共管理、人的資源管理などの理論的なフレームワーク」とは、組織や企業、公共機関がどのように機能し、どのような意思決定や戦略、制度設計、人的資源の活用を通じて成果をあげるかを説明・予測するための理論体系のことです。具体例を挙げると、以下のようなものがあります。

  1. 組織論
  2. 経営理論
    • 動的能力論(Dynamic Capabilities)
      組織が急速に変化する環境下で持続的競争優位を築くために、内部資源や能力をどのように再構築するかを論じる理論です。
      参考文献:

      • Teece, D. J., Pisano, G., & Shuen, A. (1997). “Dynamic Capabilities and Strategic Management.” Strategic Management Journal, 18(7), 509–533.
  3. 公共管理
    • 新公共経営(New Public Management; NPM)
      公共機関に市場原理や効率性を取り入れることで、行政サービスの質や効率を向上させるアプローチです。
      参考文献:

  4. 人的資源管理(HRM)
    • 戦略的人材管理(Strategic HRM)
      組織の戦略と連動した人材の採用、育成、評価、報酬などの施策が、組織のパフォーマンスにどのように寄与するかを検討する理論です。
      参考文献:

これらの理論的枠組みを活用することで、たとえば日本の大学における研究管理職(URA)の導入やその影響を、単なる現状報告ではなく、どのように組織の制度的変化や経営戦略、公共政策、人的資源の最適化といった観点から解釈・評価できるかを議論することが可能となります。引用可能な文献として上記の論文を参考にするとよいでしょう。

心筋梗塞の予測に課する科研費研究

心筋梗塞の発症を予測することに関する科研費研究(2024年度科研費まで)をまとめてみました。

研究課題名 研究課題/領域番号 研究期間 (年度) 審査区分 研究種目 研究機関 研究開始時の研究の概要 研究概要 研究成果の概要 研究実績の概要 現在までの達成度 (段落) 今後の研究の推進方策 の順です。

  1. 急性心筋梗塞患者の予後改善を目指した新規出血リスクスコアの開発 24K11293 2024-04-01 – 2029-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 佐賀大学 本研究では、急性心筋梗塞を発症しカテーテル治療を受けた患者を対象として前向き研究を構築し、我々が独自に開発した出血予測スコアを基盤とし、より網羅的かつ詳細な解析を行い、最適な予測スコアを確立し、既存の予測スコアに代替することを目的とします。
    本研究において、より最適な出血予測スコアの有用性を示すことができれば、今後本スコアが臨床で広く利用されることにより、急性心筋梗塞患者の予後改善につながることが期待されます。また、急性心筋梗塞患者の薬物治療についての効果を検証し、至適薬物治療を確立することにより、さらなる予後改善を目指します。
  2. 若年性心筋梗塞の一次予防策確立に向けた実装研究 24K11228 2024-04-01 – 2027-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 愛知医科大学 本研究では、① 我々が開発した『心筋梗塞発症予測スコアリングモデル』を用いて、健診受診者の中から真に発症リスクの高い健常者のみを抽出する。② 高リスク健常者に対して集中的かつ積極的な一次予防策を展開する。さらに、③ 経済的・社会的・精神的環境に関する周辺因子の追加調査により、行動変容を妨げる因子を特定する。これらの研究成果を通じて、若年者の心筋梗塞発症リスクを低減する具体的なアプローチを提案し、有効かつ持続可能性の高い一次予防策の確立を目指す。
  3. 心筋梗塞後の心室リモデリングの機序の解明 24K11190 2024-04-01 – 2027-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 大阪大学 心筋梗塞後慢性期に心室リモデリング(VR)を認め、虚血性心筋症(ICM)となり心不全を発症する症例は依然ある。ICM化した症例の予後は不良であるため、心筋梗塞後VRの機序解明と、機序に基づくVR予測と予防法開発が急務である。微小循環障害、遺伝子変異、エクソソームが総合的に関与しVRに影響するという仮説を立案した。心筋梗塞発症後亜急性期~慢性期での①pressure wireによる微小循環評価、②全エクソンシーケンス心筋症原因遺伝子バリアントの検索、③血中エクソソームの多層オミックス解析により検証し、VRの病態解明と、生理学的、遺伝学的、血清学的バイオマーカーの創出を目指す。
  4. 自己教師あり学習によるマルチモーダルAIの構築:虚血性心疾患の治療最適化の実現 23KJ0414 2023-04-25 – 2025-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 特別研究員奨励費 東京大学 急性心筋梗塞患者のリスク評価において、画像や数値などのマルチモーダルな医療情報を統合的に評価する深層学習モデルを開発する。これにより、医師が実臨床で行っているマルチモーダルな判断の自動化と定量化を実現し、患者リスクの正確な評価を可能とする。また患者の予後に関わる介入可能な因子を検討する。モデルの作成に際して自己教示学習を利用し医療情報の必要量を削減する。本研究からマルチモーダルな医療情報の定量化に関する新たな知見を得ることで、将来的には他の疾患のリスク評価にも応用できる枠組みの構築を目指す。そして、深層学習モデルが医師の判断を補完することで、医療の質の向上・効率化に貢献することを期待する。 心電図・胸部レントゲン画像を用いたマルチモダリティな患者リスク評価に人工知能を適応し、虚血性心疾患患者の予後予測への応用を目指した。自己教師学習を用いて事前学習を実施したモデルを土台に、心電図から心機能の低下を検出するモデル、胸部レントゲン画像から心拡大を検出するモデルをそれぞれ作成し、患者をモデル出力に基づいて4群に分類し、各群における虚血性心疾患患者の予後を比較。結果、複数のモダリティによる評価は単一モダリティによる評価と比較して患者予後を高い性能で予測可能である可能性を示した。 臨床現場で収集できる心電図や胸部レントゲン画像を含む患者情報は、利活用を目的に作成されておらず、このことは研究成果を社会実装するための重要なボトルネックである事を確認した。今後この課題を解決するため、日常臨床で使用されている、より実用的な知識を抽出する枠組みの作成を目指す。本研究にあたり、サポートをいただいた全ての関係者に心より感謝申し上げる。 データ収集が当初の予定より速やかに進行したため研究全体が計画以上に進展し、研究成果はすでに査読付き論文として公開済みである。 本研究を通して、臨床現場で収集できる心電図や胸部レントゲン画像を含む患者情報は、利活用を目的に作成されておらず、このことは研究成果を社会実装するための重要なボトルネックであると考える。今後この課題を解決するため、日常臨床で使用されている、より実用的な知識を抽出する枠組みの作成を目指す。具体的には医師同士が日常臨床で共有する医学専門知識をQandAの形式で蓄え再利用が可能なデータベースを作成する。このデータベースを、大規模言語モデルを用いて参照することで、日常臨床への疑問に素早く効率的に回答を提示できるシステムを開発する。
  5. 死後冠動脈造影CT検査による心筋虚血部位の自動画像解析-冠動脈疾患診断法の新規開発- 23K19795 2023-08-31 – 2025-03-31 0908:社会医学、看護学およびその関連分野 研究活動スタート支援 群馬大学 法医学において造影剤を用いた死後血管造影CT検査は法医学業務において有用であることが示されている。これまでの研究で、死後冠動脈造影CT検査とそれを用いた三次元再構成画像によって、冠動脈の狭窄・閉塞の検出が可能であることが明らかになっている。しかし、冠動脈疾患に基づく死亡と診断するためには、冠動脈の病変部の検出に加えて、適切な部位における心筋サンプリングに基づく心筋虚血の評価が必要となる。本研究は、冠動脈・心筋の自動画像解析により、冠動脈の病変部や冠動脈の灌流域から予測される心筋の虚血部位を推定し、それを基にした病理組織学的検索を行うことで、適確かつ簡便な冠動脈疾患の診断法の開発を目指す。 本研究は、冠動脈・心筋の自動画像解析により、冠動脈の病変部や冠動脈の灌流域から予測される心筋の虚血部位を推定し、それを基にした病理組織学的検索を行うことで、適確かつ簡便な冠動脈疾患の診断法の開発を目指すものである。
    当施設では、当該年度に約15例の死後冠動脈造影CT検査を行い、その画像所見と病理組織学的所見について放射線科医と議論し、症例を蓄積することができた。また、一部の症例では死後MRI検査や遺伝子解析も行っており、多角的な観点から分析を行うことができた。
    一方で、研究中にFFR-CT検査に関して一定の問題が明らかになった。特に、蓄積されたデータを用いることができないことや、撮影条件及び造影剤の注入方法に大幅な改善が必要であることが判明し、今後の課題として残された。これらの問題を解決するために、撮影技術や造影剤の改良に向けた研究が必要である。
    現在、蓄積された症例について、心機能解析・冠動脈解析機能を用いて、心筋灌流域の解析を行っている。今後は、計算された心筋菅流域と、病理組織学的所見とを比較し、虚血部位にどのような特徴があるかについて具体的に検討していく。次年度は、さらなる症例の蓄積を行っていくとともに、FFR-CTを死後画像に適用するための手法の改善についても検討を行っていく予定である。
    前述した各種検査を組み合わせた包括的な冠動脈疾患の新規診断法の開発により、冠動脈疾患診断の精度の向上が期待され、本研究は法医学における死因究明の新たな一手となると考えられる。 当該年度では、15例の死後冠動脈造影CTを含む複数の診断技術を用いたデータ蓄積が行われており、これらのデータは放射線科医と議論を行うことで有効活用されている。加えて、一部の症例では死後MRIや遺伝子解析も実施され、病変部位の詳細な分析が可能になっている。さらに、蓄積された症例データを利用して心機能解析や冠動脈解析機能を用いた心筋灌流域の解析が進行中である。
    しかし、死後のFFR-CT検査に関しては予定していたデータ利用が困難であることが判明し、この部分では遅れが生じている。この問題の解決のため、撮影条件や造影剤の注入方法に改善が必要であると認識されており、これらの技術的課題に対して改善策の検討が進行中である。
    研究は多くの目標に対して順調に進展しているが、一部技術的な問題による遅延が見られる。次年度にはこれらの問題を解決し、さらなる症例の蓄積と心筋解析の症例の蓄積及び、死後CTにおけるFFR-CTの適用可能性の有無を検討することで、研究目標の達成を目指す。 以下の観点から、今後の本研究課題を推進していく。これらの推進方策を実施することにより、冠動脈疾患のより正確な診断と治療法の開発につながると期待される。
    1. 症例の蓄積: 死後冠動脈造影CTの症例数を増やし、心筋灌流域解析のためのデータを蓄積する。これにより、データの多様性を高め、解析の精度を向上させる。
    2. 多角的な解析手法の導入: 死後MRI、マイクロCT、遺伝子解析を更に活用し、放射線科医との議論を行っていく。
    3. 冠動脈解析・心機能解析:死後冠動脈造影CTを行った症例の内、冠動脈での狭窄が見つかり心筋梗塞によって死亡した可能性が高い症例について、心機能解析・冠動脈解析といった画像解析を行う。その後、計算された心筋菅流域と、病理組織学的所見とを比較し、虚血部位にどのような特徴があるかについて具体的に検討していく。
    4. FFR-CT検査の導入: 死後FFR-CT検査を行うためには、予定していたデータ利用が困難であることが判明した。この問題を解決するため、撮影条件や造影剤の注入方法の見直しと改良を進める。
  6. 心筋虚血とプラーク性状を加味した、新たな冠動脈圧指標:delta-FFRを用いた心予後予測 23K15178 2023-04-01 – 2028-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 国立研究開発法人国立循環器病研究センター 近年、冠血流予備能比(FFR)を用いた心筋虚血評価が推奨されているが、FFRで心筋陰性と判定されても心血管イベントは高率に発生している。申請者は、心筋梗塞発生に寄与する、脂質成分に富む冠動脈プラーク性状を反映する新しい冠動脈圧指標(delta-FFR)を報告した。本研究は、心筋虚血陰性症例において、1)delta-FFRの冠動脈病変内の脂質成分同定能、2)FFRとdelta-FFRを組み合わせた将来の心血管イベント発生予測能を明らかにすることを目指す。従来の心筋虚血評価(FFR)にプラーク性状評価(delta-FFR)を加えたより精密な心予後予測モデル構築につながるものと期待される。 研究計画(1):心筋虚血陰性症例におけるdelta-FFRを用いた冠動脈病変内の脂質成分の同定能検証研究に関して症例の登録を開始し、データの収集を行っている。研究計画(2):心筋虚血陰性症例におけるdelta-FFRを用いた心血管イベント発生予測能の解明研究に関してデータ解析は終了し、英文論文を執筆・投稿して査読を受けている。 研究計画1については順調に症例の登録を進めることができている。研究計画2については研究成果を論文投稿し査読が進んでいる。 研究計画1に関して引き続き症例を収集し、データを解析して論文報告を目指す
    研究計画2に関しては速やかな論文受理を目指す
  7. マルチモーダルデータ統合処理型人工知能による心疾患予後予測に関する研究 23K15152 2023-04-01 – 2026-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 東京大学 高齢化に伴い循環器疾患患者数増加が予想され、適切な治療の提供が重要となる。近年、医療AI利用が注目されており、機械学習によるリスク評価手法の有効性が報告されている。構造型データと医療画像データをマルチモーダル処理することでリスク評価手法の性能向上が期待され、高リスク患者に対して効果的な治療が可能となる可能性がある。本研究では、マルチモーダルデータ処理により心臓血管イベント再発予測の高精度化とリスク層別化を可能にする新医療AI開発を目指す。これにより、リスク層別化精度向上と診断補助用AIの診断精度向上が期待され、医療の質向上と効率化が期待できる。 心筋梗塞や心不全などの循環器疾患は、高齢化に伴い患者数の増加が予想されており、適切な治療の提供が重要である。近年、医療分野におけるAIの利用が注目を集めており、機械学習を用いたリスク評価の有用性が報告されている。しかし、既存の研究では構造化データのみを用いた手法が主流であった。また、マルチモーダルなデータの処理方法に定まった方法はなく、3種類以上のデータを統合した医療AIの報告は乏しい。
    本研究の目的は、マルチモーダルデータを統合処理することで、心臓血管イベントの再発予測を高精度に行い、患者のリスク層別化を可能にする新しい医療AIを開発することである。また、3種類以上のデータを統合する手法の確立を目指す。
    令和5年度には、入力情報となるデータのクリーニングと患者背景データモデル及び心電図モデルの作成を予定していた。実際には、データの収集とクリーニング、並びに患者背景データを用いた患者予後予測モデルの作成を同時並行で行った。新しい深層学習モデルであるTransformerを用いて、患者予後予測モデルを構築した。
    Transformerを用いた患者予後予測モデルが、従来のリスクスコアリング手法よりも高精度に予後予測を行うことができることを確認し、現在、査読付き英語論文として成果を投稿中である。本研究の成果は、循環器疾患患者の予後予測の精度向上に寄与し、個々の患者に適した治療方針の決定に役立つことが期待される。また、マルチモーダルデータを活用した医療AIの開発は、他の疾患領域にも応用可能であり、医療の質の向上と効率化に貢献することが期待される。
    今後は、引き続き画像検査のモデル作成に取り組むとともに、3種類以上のマルチモーダルデータを統合する手法の開発に着手する予定である。3種類以上のデータを統合する手法の確立は、医療分野におけるマルチモーダルデータ解析の発展に寄与すると考えられる。 令和5年度には、入力情報となるデータのクリーニングと患者背景データモデル及び心電図モデルの作成を予定していた。実際には、データの収集とクリーニング、並びに患者背景データを用いた患者予後予測モデルの作成を同時並行で行った。新しい深層学習モデルであるTransformerを用いて、患者予後予測モデルを構築した。
    Transformerを用いた患者予後予測モデルが、従来のリスクスコアリング手法よりも高精度に予後予測を行うことができることを確認し、現在、査読付き英語論文として成果を投稿中である。心電図モデルに関してはデータの収集およびクリーニングに時間を要し、現在モデルの検討を行なっている。そのため、(3)とした。 今後は各画像検査データを用いた深層学習モデルを構築し、その予後予測精度を評価する。具体的には、深層学習モデルとして従来の手法である畳み込みニューラルネットワークを用いた深層学習モデルと新しい深層学習モデルであるTransformerを用いた深層学習モデルを構築し、その精度を比較する予定である。各種の予後予測モデルが構築したのちにマルチモーダルデータの統合方法を検討する予定である。現時点では研究計画に準じて研究を遂行する予定である
  8. 心血管イベントの発症予測を目的としたdual energy CTによる尿酸塩結晶の同定 23K14849 2023-04-01 – 2026-03-31 小区分52040:放射線科学関連 若手研究 順天堂大学 高尿酸血症と心血管イベントの関係の一つとして、冠動脈プラーク内に尿酸塩結晶が蓄積し、炎症を惹起することで不安定化に寄与することが考えられている。
    本研究では、DECTによる冠動脈石灰化内における尿酸成分の同定能力を評価するため、模擬血管ファントムで検証し、さらに臨床画像における尿酸塩成分と不安定プラークの関連を評価する為、冠動脈石灰化内の尿酸塩結晶の存在と、患者背景、冠動脈造影CTで得られる情報(狭窄やプラーク情報など)との関連性を調べる。
    本成果により、従来法の石灰化スコアと尿酸塩結晶の蓄積に関する知見を組みあわせることで、より精度の高い心血管イベントリスク層別化の実現が期待される。 本研究では、模擬血管ファントムによるdual energy CTによる尿酸成分の同定能力を検証し、さらに臨床データによる解析を行い、dual energy CTで得られる尿酸反応と動脈硬化の関連を検証することを目的としている。
    模擬血管ファントムの作成に関し、尿酸が疎水性であることから、均一性を保ったファントムの作成に難渋している。現在、当初予定していた作成方法から変更し、手法1.超音波検査で活用するジェルに尿酸を混ぜる、手法2.尿酸ナトリウムを粉砕し、尿酸塩やハイドロオキシアパタイト粉末(石灰化模擬)と混ぜて、圧入することでファントムの作成が可能であることが分かり、試作版を作成している。本研究の遂行に最も良い作成方法について検討している。
    また、臨床データを用いた解析では、dual energy CTによる尿酸反応と冠動脈CTで得られる不安定プラークの特徴に関連を示す結果が得られており、単純CTから不安定プラークの存在を評価できる可能性を示した。今後さらなる解析を追加し、石灰化の成分解析と動脈硬化の関連について明らかにしていきたい。 今年度は模擬血管ファントムの作成と評価を予定していた。しかし、尿酸成分が疎水性であり、水に溶けにくことから模擬血管ファントムの作成に難渋している。
    現在、別な手法で模擬血管ファントムの作成を試みている。
    ファントムの作成と並行して、2023年度は患者データの登録を予定していたが、データの登録は完了しており画像解析と検証を行っている。 模擬血管ファントムの作成に関し、本研究を遂行する上で最も良い手法を選択し、模擬血管ファントムの作成とdual energy CTにおける尿酸塩結晶の同定能力における評価を試みる。
    また、臨床データを活用した検証では、尿酸と動脈硬化の進行における関連を示す結果が得られており、論文作成を始めていく予定である。
  9. 終末糖化産物に注目した心筋梗塞患者の心不全およびフレイルの早期発症予測 23K10525 2023-04-01 – 2026-03-31 小区分59010:リハビリテーション科学関連 基盤研究(C) 国立研究開発法人国立循環器病研究センター 心不全患者は年々増加傾向であり、高率にフレイルを合併する。心筋梗塞患者が心不全およびフレイル発症に至る病態の解明や、その発症を早期に予測するためのバイオマーカーの普及が期待される。終末糖化産物(AGEs)老化促進物質として知られており、酸化ストレスや炎症、血栓傾向を惹起するほか、コラーゲン線維間に強固な架橋形成を引き起こすため、心機能や身体機能を低下させうると考えられている。今回、心筋梗塞を発症した患者を対象に、心機能・身体機能低下と組織AGEsの関連を縦断研究により明らかにし、心筋梗塞患者の心不全およびフレイル発症の早期バイオマーカーとしての組織AGEsの意義を確立する。 高齢化社会が進展する中で、心不全患者は増加の一途をたどっている。なかでもフレイルを有する心不全患者は、介護負担・医療負担も大きく、フレイル発症を予防するための取組が重要である。心臓リハビリテーションは、心疾患患者の運動耐容能を向上させる治療であり、フレイル予防に貢献できるものである。しかしながら、心臓リハビリテーションの運動耐容能改善効果は一様ではなく、臨床においては、運動療法を実施しているにもかかわらず十分に運動耐容能が改善しない患者も存在する。終末糖化産物は、老化促進物質として知られており、横断研究を中心にフレイルとの関連も示唆されるようになってきている。本研究においては、終末糖化産物が自家蛍光を有するという特徴を利用し、skin autofluorescenceを測定することで心臓リハビリテーションを実施する患者の終末糖化産物の蓄積状況を評価し、身体機能や心機能との関連を評価する予定である。
    初年度においては、skin autofluorescenceを測定するための機器を調達した。本研究の対象となる急性心筋梗塞後患者に関する検討から、primary PCIの普及により、リモデリングのリスクが高い患者は減少していると判断した。そのため、心血管系評価については心機能の評価のみでは不十分と判断し、研究内容をさらに充実させるため、血管内皮機能を評価するための体制を整えた。そして、研究計画書を作成し、研究実施について倫理委員会の承認を得て研究を開始した。 当初の予定に加え、血管内皮機能を測定する体制を構築したため、その分研究の進捗がやや遅れている。 今後は、急性心筋梗塞後で本研究の対象となる患者に順次同意説明を行い患者登録を進めていく。研究を加速させていくため、CRCへの協力要請も検討している。
    運動療法前後での身体機能や血管機能の評価が重要であるが、患者の検査完遂率が過大となる可能性がある。必要に応じ負担軽減費をふくめ研究の見直しを行うことで対応する
  10. 血清脂肪酸分画と循環器疾患発症リスクに関するコホート研究 23K09719 2023-04-01 – 2026-03-31 小区分58030:衛生学および公衆衛生学分野関連:実験系を含まない 基盤研究(C) 大分大学 本研究は、一般住民を対象に14年間に及ぶ大規模な前向き研究を実施し、コホート内症例対照研究の手法を用いて、血中脂肪酸がその後の循環器疾患の発症に与える影響を明らかにすることを目的とする。ベースライン時(2009~2011年)に-80℃で凍結保存した血清を使用し、2023年末までの追跡により循環器疾患症例150人、対照600人を抽出し、脂肪酸分画24成分を測定し、血中脂肪酸と循環器疾患発症リスクとの関連について明らかにする。本研究は、血中脂肪酸濃度が循環器疾患発症を予測するバイオマーカーになり得るかと考え、循環器疾患の新たなスクリーニング・予防対策指標の検討を目指す研究である。 本研究は、循環器疾患発症をアウトカムとするコホート研究を用いてコホート内症例対照研究により血中脂肪酸のリスク評価を行うことを目的とする。令和5年度は、ベースライン時(2009~2011年)の凍結保存した血清(1,450検体)を用いて脂肪酸分画24成分を分析し、次の解析を行った。横断的解析:魚油に多く含まれるn-3系不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)と植物油に多く含まれるn-6系不飽和脂肪酸のアラキドン酸(AA)の比率を表すEPA/AA比の上昇が循環器疾患の発症リスクの低下に関連することが報告されているが、一般住民を対象とした疫学研究は乏しい。そこでコホート内から抽出した1,305人(脳卒中および心筋梗塞の発症・既往歴なし)において血中脂肪酸と循環器疾患の高リスク病態とされる高トリグリセリド(TG)血症(食後10時間以上の空腹時150mg/dL以上または随時175mg/dL以上)との関連を解析した。その結果、EPA/AA比が最も低いQ1群を基準とした高TG血症の多変量調整オッズ比(95%信頼区間)は、Q2群0.95 (0.61-1.41)、Q3群0.82 (0.54-1.22)、Q4群0.58 (0.38-0.90)であり、EPA/AA比は高TG血症と逆相関を示した。縦断的解析:2023年末までの追跡により循環器疾患の症例145人が得られた。コホート内症例対照研究の手法を用いて症例:対照が1:4になるようにマッチングを行った(症例145人:対照580人)。ベースラインデータには生活習慣質問紙および特定健診等の資料を含む脂肪酸分画24成分の分析結果を、追跡期間中のアウトカムには循環器疾患発症・死亡の有無を用い、血中脂肪酸と循環器疾患発症・死亡との関連を解析したが、統計パワーの問題で有意な関連は認められなかった。さらなる症例の獲得のため2024年末まで追跡期間を延長する。 我々は2009年より愛媛県大洲市の住民約3,600人を対象に大州コホートⅡを実施してきた。追跡期間は2024年で15年目になる。現在までの進歩状況は次の通りである。【循環器疾患発症調査】大洲市地域循環器疾患登録のデータを用いて、循環器疾患発症(脳卒中および心筋梗塞)の把握を行った。脳卒中は発症から24時間以内の神経学的症状ならびにCT/MRI所見に基づいて脳内出血、クモ膜下出血、穿通枝系脳血栓症、皮質枝系脳血栓症、脳塞栓症、分類不能に分類した。心筋梗塞は、WHOモニカ研究の診断基準に基づいて、胸痛、血清酵素、心電図所見、剖検所見から判断した。【異動と死因調査】追跡期間中の異動(転出・死亡)は、研究同意に基づき住民基本台帳の閲覧を通じて行った。死亡の場合、循環器疾患を原死因とする死亡例を把握する必要があることから、本研究対象者に関して厚生労働省に人口動態統計の目的外使用の申請(2009年~2023年末までの調査)を行い原死因の同定を行った。【研究対象の選定】①横断的解析:脳卒中および心筋梗塞の発症・既往歴のない1,305人をランダム抽出した。②縦断的解析:2018年末までの脳心発症に関する追跡調査(脳心発症85例、脳心死亡20例)は完了していたが、今回2023年末までの追跡により新たに40例のケースを獲得できた。コホート内症例対照研究の手法を用いて、循環器疾患を発症した症例1人に対し、地域・性・年齢(±2歳)を一致させた非発症者を同一のコホートから無作為に選び、症例:対照が1:4になるようにマッチングを行った。現在までに循環器疾患の症例145人、対照580人を抽出できている。【脂肪酸24分画分析】横断的解析用1,305検体(対照580検体を含む)と症例145検体の合計1,450検体の脂肪酸分画24成分の分析を臨床検査センターに委託した。 本研究の目的は、ベースライン時の凍結保存した血清を用いて脂肪酸分画24成分を分析し、血中脂肪酸と循環器疾患との関連を調査することである。これまでの解析結果と今後の研究の推進方策を下記に示す。横断的解析:コホート内から抽出した1,305人(脳卒中および心筋梗塞の発症・既往歴なし)において、血中脂肪酸と循環器疾患の高リスク病態とされる高TG血症(食後10時間以上の空腹時150mg/dL以上または随時175mg/dL以上)との関連を解析した。その結果、EPA/AA比が最も低いQ1群を基準とした高TG血症の多変量調整オッズ比(95%信頼区間)は、Q2群0.95 (0.61-1.41)、Q3群0.82 (0.54-1.22)、Q4群0.58 (0.38-0.90)であり、EPA/AA比は高TG血症と逆相関を示した。今回得られた研究成果は、2024年10月開催の第83回日本公衆衛生学会総会(演題名:血清EPA/AA比と高TG血症との関連:大洲コホートⅡ)において発表予定である。今後は他の血中脂肪酸と動脈硬化性疾患との関連についても解析を行う。縦断的解析:2023年末までの追跡により循環器疾患の症例145人が得られた。コホート内症例対照研究の手法を用いて、症例:対照が1:4になるようにマッチングを行った(症例145人:対照580人)。ベースラインデータには生活習慣質問紙および特定健診等の資料を含む脂肪酸分画24成分の分析結果を、追跡期間中のアウトカムには循環器疾患発症・死亡の有無を用い、血中脂肪酸と循環器疾患発症・死亡との関連を解析したが、統計パワーの問題で、有意な関連は認められなかった。今後は、さらなる症例の獲得のため、2024年末まで追跡期間を延長する。最終的には循環器疾患発症を予測する新規バイオマーカーとしての脂肪酸を同定し、これを取り入れた予防活動の方法の開発と実用化を目指す。
  11. 線溶病態に着目したDICにおける多発血栓形成プロセスの解明とその治療応用 23K06275 2023-04-01 – 2026-03-31 小区分47060:医療薬学関連 基盤研究(C) 金沢大学 心筋梗塞、脳梗塞などの血栓症(心疾患)は、本邦における死因の第二位である。血栓症の治療は、ワルファリンやヘパリンなどの凝固活性化の制御をターゲットとした薬剤が中心であるが、その治療成績は十分なものではない。血栓症の治療成績を向上させるためには、新規アプローチによる治療戦略を構築する必要がある。本研究では、生体内で生成した血栓を溶解するための重要な生体内防御機構である「線溶」に着目した。病態の異なる二種類のラット播種性血管内凝固症候群(DIC)モデルを用いた検討により、全身臓器で微小血栓が多発するDIC病態において、多発血栓形成プロセスの鍵となる線溶機序の寄与・役割を明らかとする。 2023年度は、敗血症に合併した線溶抑制型DICを模したLPS-DICモデルに対するプラスミノゲンアクチベータインヒビター(PAI)阻害薬であるtiplaxtinin(PAI-039) の有効性評価に取り組んだ。PAI-039は、PAIと結合することで、その抗線溶活性を抑制(=線溶活性化の亢進)する薬剤である。LPSーDICモデルでは、PAIが高値になるため、PAIによる線溶活性化の抑制をPAI-039により解除することで、DIC病態が改善することが見込まれる。
    PAI-039の投与により、PAI活性の有意な抑制が確認された。一方で、血小板数、フィブリノゲン濃度、トロンビンーアンチトロンビン複合体(TAT)などの凝血学的マーカーやAST(肝障害)、血清クレアチニン(腎障害)に改善はみられなかった。加えて、腎糸球体にけるフィブリン沈着の改善もみられなかった。これらの結果より、PAI阻害薬は、PAI活性は抑制するものの、重症のDICモデルにおける病勢をコントロールには、不適であることが示された。今回は、PAIー039を経口投与したため、効果持続時間は短かったことや消化管からの吸収量が予測よりも低かったことなどが推察される。そのため、PAIー039による抗DIC効果を得るためには、投与経路を経静脈投与に変更したうえで、効果持続時間が長くなるように、時速注入による投与が必要となることが考えられた。
    今後は、組織型プラスミノゲンアクチベータ(tPA)を用いた検討(線溶機序の直接的な活性化)を行い、DIC病態の進行を抑えるための最適な線溶活性化のコントロール方法を検証する。 2023年度には、LPS-DICモデルに対するPAI阻害薬の有効性評価が完了した。これは研究開始時に計画したスケジュールどおりであり、研究は予定通りに進んでいると考えられる。 2024年度中に、LPSーDICモデルに対する検証を終了し、線溶亢進型DICを模したTissue FactorーDICモデルに対する検証を開始する。
  12. 機械学習を用いた多層オミックス統合解析に基づく冠動脈疾患の精密医療の推進 22KJ3142 2023-03-08 – 2027-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 特別研究員奨励費 国立研究開発法人理化学研究所 全世界の第1位の死因である虚血性心疾患は遺伝的要因をベースに、生活習慣などの環境要因が複雑に絡み合って発症に至る。そのため発症に 関わる遺伝的要因による個人差と環境要因の関連を明らかにすることが疾患発症の予測・予防の観点から重要である。近年のゲノム解析により遺伝的要因は徐々に明らかになってきたが、オミックスや環境因子を組み合わせた解析には限界がある。本研究では従来の解析手法に加えて機械学習によるアプローチおよびウェアラブルデバイスから得られる生体情報を組み合わせる事により、遺伝情報を網羅的に解析する。これにより個人レベルで、正確な疾患発症予測と予防の実現を目指す。 心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患は全世界の第1位の死因であり患者だけでなく医療経済の観点から大きな問題となっている。虚血性心疾患のゲノム医療において多くのゲノムワイド関連解析が行われ頻度の高い変異・多型(コモンバリアント)の関わりが明らかになり、遺伝的リスクスコア(PRS)による疾患予測も行われるようになってきた。しかしレアバリアントの解析は十分でなく遺伝的リスクスコアの予測性能も限られているという問題がある。また環境因子が十分に解析されていない。そのため本研究ではバイオバンクジャパンの全ゲノムシークエンスデータに対して機械学習を用いた解析手法を応用することでレアバリアントを解析しより精度の高い遺伝的リスクスコアの作成を目指した。
    約6000人の全ゲノムシークエンスを解析した結果、約60個の遺伝子が心筋梗塞の発症に関わることが示唆された。この遺伝子群に対してタンパク質間相互作用(PPI)ネットワークの情報を重ね合わせることで疾患に関わるモジュールとして免疫や脂質に関するものが同定され、またエンリッチメント解析によりいくつかの疾患のパスウェイが同定された。またレアバリアントからなる遺伝的リスクスコアを作成し、クロスバリデーション解析および独立したデータで検証したところ有意に疾患を予測することが明らかになった。レアバリアント遺伝的リスクスコアと血液 検査やバイタルサインなどの臨床パラメータを比較すると脂質や凝固機能が有意に関連していることが明らかになり、心筋梗塞の予後にも関連が見られた。またウェアラブルデバイスによるデータを組み入れるため、米国のデータベースなどにアクセスし有用性を検討した。今後は得られた遺伝子の解析を進めると同時に、環境因子を組み入れたより精度の高いリスクモデルの構築を目指していく。 機械学習を用いた解析により遺伝子の同定や遺伝的リスクスコアの作成を行い、さらに遺伝子や疾患パスウェイの解析などを実施した。また遺伝的リスクスコアと臨床パラメータの相関についての結果も得られてきておりレアバリアントの網羅的解析とリスクモデル構築が進んでいる。環境因子についてはウェアラブルデバイスのデータを収集するため公共データベースへのアクセスを申請しデータの確認を進めている。このように得られた遺伝子についてダウンストリーム解析や、リスクスコア作成と臨床情報との関連の解析、ウェアラブルデータへのアクセスなどを行なっており、概ね順調に進んでいると考えられる。 今後は機械学習を用いたレアバリアント解析の手法について、使用するバリアントタイプ(ミスセンスやナンセンス、フレームシフト変異など)の検討やモデルの手法について、さらに検討を進めて精度の向上を目指す。また非遺伝的要因を取り込んだモデルについてもオミックスデータやウェアラブルなどの公共データベースを用いて検討を進めていく。
  13. 急性心不全患者における、新規腎障害バイオマーカーAIMの臨床的意義に関する検討 22K16152 2022-04-01 – 2026-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 大阪医科薬科大学 心不全に腎不全を合併すると死亡率が上昇する。そのため腎不全の治療が重要であるが、その治療は存在しない。AIM (apoptosis inhibitor of macrophage)は、腎不全になると尿中に移動し、障害を受けた腎臓の細胞の修復・治癒を促すユニークな蛋白質であり、治療薬として期待されている。本研究では、心不全患者における、①AIM高値患者の特徴、②AIMと他の腎障害マーカーとの関連、③AIMと予後の関連、を検討する。この研究により、新規バイオマーカーの開発や将来の腎不全治療の開発に繋がり、また腎不全を合併した心不全患者の予後改善に寄与する可能性があると考える。 心不全は腎臓を含む様々な臓器に影響を与え、急性心不全の約30%に急性腎障害を併発することが報告されている。心不全患者に急性腎障害が併存した場合の予 後は著しく不良だが、特異的な治療は存在しない。 AIM (apoptosis inhibitor of macrophage) は、マクロファージにより産生される血中蛋白質である。通常は分子量の大きな免疫グロブリンM (IgM) 五量体と結合しており、糸球体を通過できない。しかし、急性腎障害が生じるとAIMがIgMから解離し、血中の遊離AIMが急激に増加する。遊離AIMは糸球体で容易に濾過され 尿中に移動し、近位尿細管を閉塞させている壊死細胞に付着することで貪食細胞による壊死細胞の貪食を促進させ、尿細管上皮細胞の早期回復を促す働きを持つ。このようなユニークな特徴により、治療薬として期待されている。 本研究では、順天堂大学附属病院前向き多施設レジストリ (J-HHF) に登録された心不全入院患者の血液、尿サンプルを用いて新規腎マーカーであるAIMを測定し、心不全患者における、①AIM高値患者の特性、②AIMと他の腎障害マーカーとの関連、③AIMと予後の関連、を明らかにすることを目的としている。心不全に おけるAIMの臨床的意義が明らかになれば、心不全患者のAKIの早期診断や正確な予後予測が可能なバイオマーカーの考案、未だ存在しないAKI治療の開発、さら には心不全だけでなく心筋梗塞や心筋症の病態や進行に関するメカニズム解明の一助になると考える。本年度の予定は患者登録であり、2024年終了時点で、少なくとも522例の登録および予後追跡データが得られている。 目標症例数に近い数の患者登録ができているため。 今後、AIMの測定および、AIMと他の腎マーカーとの関連、予後との関連を解析、検討していく予定である。
  14. 冠微小循環と画像診断を駆使した冠動脈慢性完全閉塞の多角的評価と治療効果判定の解明 22K16150 2022-04-01 – 2025-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 東邦大学 心臓死の主な原因である虚血性心疾患のうち、冠動脈慢性完全閉塞(CTO)病変を含む複雑病変は予後不良であるが、CTO病変に対する経皮的冠動脈形成術(PCI)の治療効果判定と予後改善効果は未だ不明である。近年、虚血性心疾患に伴う冠微小循環障害が心血管イベント、すなわち予後に影響を来すことが報告されているが、CTO患者においてPCIに伴う冠微小循環障害が及ぼす影響と予後評価を検討した研究はない。本研究は、PCIの適応となるCTO患者の完全血行再建術後の治療効果判定を経時的な冠微小循環障害と123I-BMIPPを用いて検討し、PCIに伴う冠微小循環障害の改善と心血管イベント抑制の関連性を明らかにする。 冠動脈慢性完全閉塞 (chronic total occlusion; CTO) 病変を含む複雑病変は予後不良であるが、CTO病変に対する経皮的冠動脈形成術 (percutaneous coronary intervention; PCI) の治療効果判定と予後改善効果は未だ不明である。近年、虚血性心疾患に伴う冠微小循環障害が心血管イベント、すなわち予後に影響を来すことが報告され注目されているが、CTO患者においてPCIに伴う冠微小循環障害が及ぼす影響と予後評価を検討した研究はない。PCIによる治療効果判定と予測指標を開発する事が出来れば、CTOに対して治療効果の高い患者の選択ができ予後改善に繋がると考える。本研究は、予後改善効果が未だ明らかにされていないCTO-PCIの適応と有効性を明らかにするため、治療後の冠微小循環障害の変化からCTO-PCIの治療効果判定と心血管イベント発生を検討し、冠微小循環障害改善に寄与する予測因子を解明することを目的とする。研究対象は201TIと123I-BMIPPの2核種心筋シンチグラフィーで残存心筋が証明され、当研究参加に同意が得られたPCI予定のCTO症例としている。
    2022年度は約25例の登録が終わり、2023年度では新たに約15例の冠動脈慢性完全閉塞病変を有する症例登録を行った。また現在までに登録症例の全例で血行再建術を施行し術直後の冠微小循環障害評価を行った。
    随時、PCI半年後に遠隔期冠動脈造影検査も施行し、治療病変枝の冠微小循環の再評価を行い、遠隔期の心血管イベント(心臓死、非致死性心筋梗塞、標的血管再血行再建術、心不全入院)を評価し、中間成績として学会にて報告を行っている。 当院では例年年間450例ほどの経皮的冠動脈形成術(PCI)を施行している。そのうち冠動脈慢性完全閉塞病変(CTO)のPCIは全例のおよそ8%程度である。しかしここ数年は年間PCI件数の減少とともにCTOの件数も減少しておりその結果、登録症例がやや遅れている状況である。
    研究開始から現在までに研究同意が得られた治療適応となる冠動脈慢性完全閉塞病変に対して約40症例のPCIを施行しており完全血行再建が得られた症例に対して術直後の冠微小循環障害の評価の登録が済んでいる。登録症例において順次遠隔期の冠微小循環障害評価と心血管イベントとの関連を計画・評価しており、中間成績ができてきているため学会にて発表・報告を行っている。 現在も新規登録を進めており本年には予定の50例の登録が完了する予定である。
    遠隔期の冠動脈造影検査は治療半年後に施行しているため来年には全症例の遠隔期評価と心血管イベントとの関連が検討可能と考えており、学会にて報告そして論文作成の準備を進めている。
  15. 総合的血栓形成能を用いたDOACs内服患者の塞栓症/出血性合併症予測モデルの開発 22K16142 2022-04-01 – 2026-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 熊本大学 抗凝固療法の重要性が高まる高齢心房細動(AF)患者では、低体重やフレイルなど特有の問題を有する一方、転倒など出血リスクの増加が問題となる。CHADS2スコアは、これら特有の問題が反映されておらず、個々の抗凝固療法のリスク・ベネフィットを判断する指標がないのが現状である。DOACはモニタリング不要とされているが、高齢者に関しては個々の総合的血栓形性能を評価することが重要と思われる。本研究では、T-TAS(藤森工業)を用いて総合的血栓形性能を定量的に評価、抗凝固療法の有効域・過剰域を反映する指標を構築、テーラーメイド抗凝固療法の発展、ひいては高齢AF患者の健康寿命の延伸に寄与することを目的とする。 本研究は併存疾患が複数存在する、出血リスクを伴う薬剤の内服、低体重、ポリファーマシー、フレイル、認知症などを有する難しい症例に対する適切な抗凝固療法を見出すことを目的としており、心房細動アブレーション目的で入院する症例を対象に、入院期間中からアブレーション術後1年まで、血栓塞栓症(脳梗塞、心筋梗塞など)・出血性合併症などのイベント観察を行い、評価指標との関連を検討することを目的としている。
    ①凝固能の評価 ②出血の評価 ③DOACs通常量投与と減量投与での凝固能と出血の評価
    通常量投与と適切減量で投与されたAF患者の凝固能と出血に関して上記①②に従い評価する。また何らかの理由でオフラベル(適切減量でない減量)でDOACsを投与された症例の総合的血栓形性能、特に特有問題(併存疾患が複数存在、抗凝固薬以外の出血リスクを伴う薬剤の内服、低体重、ポリファーマシー、フレイル、認知症など)を有した高齢AF患者の総合的血栓形性能と既存のマーカーとの相関やイベント発生について明らかにする予定である。 昨年に続き、本年も別の施設に異動となったため、研究が思うように進行しなかった。 入院・外来症例の登録や測定器具の購入について検討。

  16. PET-CTを用いた扁桃体活性の評価による致死性不整脈のリスク評価と予防法の解明 22K16132 2022-04-01 – 2026-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 新潟大学 心疾患に伴う心室頻拍・心室細動(致死性の不整脈)の発生には交感神経の抑制が有効であるが、交感神経活性に影響を与えるストレスの関与については十分明らかにされていない。
    近年、ストレスは安静時の扁桃体活性を通して交感神経活性等を引き起こし、心不全・心筋梗塞等を増加させることが報告され、PET-CTによる扁桃体活性の評価が心不全・心筋梗塞等のリスクを予測できることが明らかとなった。本研究は、心疾患に伴う心室性不整脈の予防治療の確立を目指すため、植込み型除細動器の植込み術を受けた患者様を対象としてPET-CTを撮像し、扁桃体活性の違いがその後の経過に関連するかどうかを解明することを目的としている。 心不全患者の死亡原因の約半数は心臓突然死であり、心不全患者にとって心室頻拍・心室細動(VT/VF)は非常に重要な問題である。心不全に伴う交感神経活性の亢進は不整脈のVT/VFのtriggerとなりやすいことが知られており、β遮断薬や静注麻酔薬は交感神経活性を抑制することを通してVT/VFの発症予防に寄与している。心室性不整脈の発症において交感神経活性を抑制することは主要な戦略の一つであるが、交感神経に上流から影響を与えるストレスの管理による治療効果は解明されていない。ストレスと心血管イベントリスクを結びつけるメカニズムとして扁桃体が関与している可能性が近年指摘されている。本研究では器質的心疾患がありVT/VFを発症した既往のあるICD/CRT-D植込み患者を対象とし、PET-CTによる扁桃体活性の定量評価がVT/VF発症リスクの評価の予測因子となり得るか解明することを目的とする。
    初年度にあたる令和4年度は、研究代表者の所属機関である新潟大学医歯学総合病院の倫理審査委員会への審査申請を実施した。また、新潟大学の脳研究所と共同研究体制の構築を図り、PET-CTの撮像とその評価方法の確認を行った。2023.1月に研究体制の構築が終了し順次対象患者のPET検査を行い、扁桃体活性の評価をしつつその後の不整脈イベント等について経過観察中である。
    令和5年度はPET-CT装置の故障により患者のenrollが進まなかった。並行して過去の心サルコイドーシス患者のデータから、上記と同様の解析を行っており、そちらは順調に進行し、当初の仮説と合致している。 研究体制の構築にやや時間を要したことと、PET装置の不具合から対象患者の撮像ができない状況となっておりやや遅れている。並行して当科ですでに撮像していた心サルコイドーシスの患者を対象として画像解析を行っており、そちらは順調に扁桃体活性の解析が進んでおり、当初の仮説と合致している。 装置の復旧が済み次第、順次対象患者の検査を続ける。並行して、すでに撮像されている当科の患者のデータを解析していく。

  17. 人工知能を用いたゲノム解析に基づく虚血性心疾患における精密医療の推進 22K16128 2022-04-01 – 2026-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 国立研究開発法人理化学研究所 虚血性心疾患は全世界の第1位の死因であり大きな問題になっている。過去の双子研究では、虚血性心疾患の発症において遺伝的要因が約50%を占めると報告されていることからも、発症に関わる遺伝的要因を明らかにすることが疾患発症の予測・予防の観点から重要である。
    近年のゲノム解析により遺伝的要因は徐々に明らかになってきたが、従来の統計的解析手法の限界が指摘されていることから本研究では従来の解析手法に加えて機械学習によるアプローチにより、遺伝情報を網羅的に解析する。これにより個人レベルで、正確な疾患発症予測と予防の実現を目指す。 心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患は全世界の死因の第一位であり、遺伝的要因と生活習慣などによる環境要因が複雑に絡み合って発症に至る。虚血性心疾患の遺伝的背景明らかにするために申請者はこれまでにゲノムワイド関連解析(GWAS)が行われてきたが、GWASでは統計学的検出力などが原因でレアバリアント(頻度の低い多型・変異)を十分に解析することができなかった。またGWASの統計値から算出される遺伝的リスクスコア(PRS)の性能も十分でなかった。そのため本研究では虚血性心疾患の発症におけるレアバリアントの役割を明らかにするために、新たな人工知能を用いたモデルを用いて解析し新たな遺伝的リスクスコアを作成することを目的とした。
    心筋梗塞患者と非心筋梗塞患者の約6000人の全ゲノムシークエンスに対して人工知能を用いたモデルを訓練することで虚血性心疾患に関連する59個の遺伝子群を同定した。この遺伝子群の機能を調べるために、遺伝子の注釈付け(アノテーション)およびクラスタリングを用いた手法によりこれらの遺伝子を8個のクラスターに分類した。人およびマウスの表現型に関連している遺伝子が多く得られた。またSTRINGのデータベースを用いてタンパク質の相互作用ネットワークにこれらの遺伝子を当てはめることにより46個の疾患に関連する機能モジュールを得た。これらのモジュールの機能を推定することにより脂質や免疫、血管形成などが虚血性疾患に関連していることが示唆された。また人工知能モデルからレアバリアントを用いた遺伝的リスクスコアを作成し独立したデータで性能を検証し有意に疾患予測が可能であることを確認した。レアバリアントを用いた遺伝的リスクスコアは脂質や凝固機能などのいくつかの臨床パラメータと相関していた。引き続き遺伝子の機能推定や遺伝的リスクスコアの検証を進める。 これまでに人工知能を用いたモデルを用いて約6000人の全ゲノムシークエンスのデータの解析を行い、交差検証方法を用いてモデルのパラメータチューニングを行うことで約59の遺伝子を同定した。この59の遺伝子の機能を探索するために、Human Phenotype OntologyやGene Ongotologyのデータを用いた遺伝子セットエンリッチメント解析を行うことで機能を推定した。またこれに加えて過去のGWASやエンハンサー情報などのデータベースを参照して注釈付け(アノテーション)を行ってこれをもとにクラスタリング解析を行うことで遺伝子群のクラスター分類まで行った。さらにタンパク質間相互作用(PPI)ネットワークデータに対して遺伝子群を当てはめることにより遺伝子群の機能モジュールを推定した。
    このように同定した遺伝子群について様々なデータベースや機械学習手法を用いて機能推定を行い、またPPIやエンハンサー情報などのオミックス情報を組み合わせることにより疾患パスウェイの推定を行うことができているという点で順調に進行している。
    また人工知能モデルを用いた遺伝的リスクスコアについても臨床パラメータや夜ごとの関連についての検証が進んでおり順調に進行していると考える。 これまでに得られた結果の他人種での再現性を確認するためにUKバイオバンクのデータ解析を進める。エクソームシークエンスデータを用いた解析では日本人のデータでの結果とやや異なっていた。新たに公開されたUKバイオバンクの全ゲノムシークエンス情報を参照し再現性について改めて検討する。また得られた遺伝子群の機能解析やパスウェイ解析を更に進めることにより虚血性心疾患の発症機序を明らかにしていく。
  18. SARS-CoV-2感染症における心臓バイオマーカーを用いた予後予測法の探索 22K16124 2022-04-01 – 2025-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 地方独立行政法人神戸市民病院機構神戸市立医療センター中央市民病院(第1診療部、第2診療部、第3診療部 本研究ではSARS-CoV-2感染症(coronavirus disease 2019: COVID-19)により入院加療を要した患者を連続登録したレジストリを作成し臨床成績とそのリスク因子を探索する。心筋梗塞、心筋炎、心膜炎、たこつぼ心筋症などの心イベントをはじめとした詳細な臨床イベントの実態調査を行うことに加え、高感度トロポニンやB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)などの心臓バイオマーカーを網羅的に測定し、患者背景と併せて各々のリスク予測能を評価し、より良いリスク評価法の構築を目指す。 本研究ではCOVID-19患者を連続登録したレジストリを構築し、その臨床成績とリスク因子を探索している。本年度においては、2020年7月から2021年9月の間に神戸市立医療センター中央市民病院に入院したCOVID-19患者約900例(Cohort-1)に加え、2021年10月以降に入院した患者約1100例をCohort-2とし、心血管合併症を含む臨床イベント発症率の実態調査を行った。調査の結果、Cohort-2においてはCohort-1と比較し重症例の割合が減少し、全体としての臨床イベントの発生も少ない傾向にあった。また、Cohort-1では心筋梗塞、たこつぼ型心筋症、心筋炎、心膜炎、心不全に代表される心イベント、脳梗塞、深部静脈塞栓症などの心血管イベントの発症率が低いことが示されたが、Cohort-2においても発症率は同様に低いことが示された。さらに、本研究では心臓バイオマーカーによる予後予測能について注目して検討を行なっている。Cohort-2においてもCohort-1と同様に、高感度トロポニンI、NT-proBNPに代表される心臓バイオマーカーを用いることで全死亡のリスクを良好に層別化できることが確認された。また、Cohort-1において前年度に評価した心臓バイオマーカーのうち、異なる上昇機序を持つ高感度トロポニンI、NT-proBNPを組み合わせることで、より精度の高いリスク層別化が可能であることが示された。今後これらの心臓バイオマーカーと背景因子などのリスク因子を用い、より良い予後予測法の構築を目指す。 当初予定していた計画に沿って解析を進めている。 今後、Cohort-2を拡大しCohort-1との統合を行い、当初の計画に沿って重症化・予後予測スコアの作成、機械学習システムを用いたCOVID-19重症化・予後予測因子の探索を行う予定である。
  19. Pentraxin 3を介した大動脈瘤形成メカニズムの解明 22K16079 2022-04-01 – 2024-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 福島県立医科大学 炎症マーカーの一つであるpentraxin3 (PTX3)は心血管疾患のマーカーとして注目されているが、近年は液性自然免疫の構成因子として心血管疾患の病態形成に関与することがわかってきた。一方、大動脈瘤では血管壁における慢性炎症が瘤の拡大をきたすことが知られており、様々なメディエーターや細胞内情報伝達物質などが治療標的として提唱されている。本研究の目的は、ApoE・PTX3両欠損マウスおよび、人工血管置換術施行時に採取されたヒトの大動脈瘤組織を用いて、大動脈瘤の病勢進展におけるPTX3の役割を明らかにすることである。本研究の成果により、PTX3を標的とした大動脈瘤の新しい治療法開発を目指す。 動脈硬化を基礎とする心血管疾患のマーカーとして注目されているpentraxin 3(PTX3)は、近年、炎症マーカーとしてのみならず、液性自然免疫の構成因子として心血管疾患の病態形成に関与することがわかってきている。本研究では、ApoE・PTX3両欠損マウスの大動脈瘤組織を用いて、腹部大動脈瘤の形成・病勢進展におけるPTX3の役割を検討した。大動脈組織におけるMMP-2、MMP-9の活性化、酸化ストレスの増加に対するPTX3の関連が示唆された。大動脈瘤の形成に対するPTX3を介した自然免疫の関連が示唆され、引き続き検討が必要である。
  20. カルモジュリン制御による新しい肺高血圧治療法の開発 22K15686 2022-04-01 – 2024-03-31 小区分52010:内科学一般関連 若手研究 山口大学 本研究の目的は、肺動脈性肺高血圧症(PAH)対してカルモジュリン(CaM)のリアノジン受容体(RyR2)への結合を薬理学的に強固にすることにより、RyR2の4量体構造を安定化させCa2+漏出を阻止し、右心不全への進展を抑制し予後を改善させるという新しい発想に基づいた治療法を確立することである。
    i)モノクロタリン単回皮下注PAHモデルおよび肺動脈縮窄(PAB)モデルを作成し、ダントロレン慢性投与により右室の肥大・拡大は抑制されるか検討する。
    さらにRyR2に対するCaM結合親和性を増強したknock-in(KI)ラットを用いて、右室肥大・拡大の抑制、生命予後の改善につながるかを検証する。 本研究はCaMのRyR2への結合を強固にすることにより、圧負荷がかかる状況下でも右室肥大から右心不全への進展を抑制し予後を改善させる治療を目的とした。
    MCT誘発性ラットモデルにおいてダントロレンは、RyR2からのCaMの解離抑制を介して、右室心筋の肥大を抑制しつつ、右心機能を保ち、著しく予後を改善した。肺動脈縮窄(PAB)ラットモデルにおいて、ダントロレンの投与は、右室心筋の肥大を抑制し、右心機能を維持した。一方で、我々が開発したCaMのRyR2へのみの親和性を高めたRyR2 V3580K SD-ratでは、効果は認めなかった。このラット自体に問題があると考えられた。

  21. ミトコンドリアの品質管理に着目した心筋細胞増殖メカニズムの解明 22K15277 2022-04-01 – 2025-03-31 小区分47030:薬系衛生および生物化学関連 若手研究 大阪大学 心疾患は不可逆的に進行するため予後が非常に悪いことが知られているが、これは心筋細胞の増殖能が極めて低く、傷害を受けた心筋組織が修復されないことに起因する。そのため、心疾患の根本的な治療には心筋細胞増殖のメカニズム解明が不可欠である。哺乳類の心筋細胞は出生後直ちに増殖能を失うが、その原因の1つとしてミトコンドリアの成熟に伴う酸化ストレスの増大が挙げられる。そこで本研究では、ミトコンドリア形態やマイトファジーの制御が、ミトコンドリアの品質改善と酸化ストレスの低減を誘導し、さらには心筋細胞の増殖を活性化させるかを調べる。 本研究は、エネルギー産生系の変化によるミトコンドリアの機能と品質の変化が心筋細胞増殖能の喪失につながるという仮説の下で行っている。2022年度の研究において、遊離脂肪酸(パルミチン酸とオレイン酸の等量混合物)により、心筋細胞の増殖が抑制されること、ならびに心筋細胞の増殖を促進させる転写共役因子であるYAPを過剰発現させると遊離脂肪酸添加による脂肪酸代謝酵素の発現増加が抑制されることを明らかにしている。
    2023年度の研究において、脂肪酸代謝にかかわる転写酵素であるPPARδが心筋細胞における脂肪酸代謝酵素の発現増加や増殖の抑制に関わっていることを明らかにした。酸化ストレスによるDNA損傷は心筋細胞の増殖を止める主要な要因の一つであると考えられている。しかし、脂肪酸による刺激では酸化ストレスを増加させたものの、PPARδの阻害剤はその酸化ストレス増加を抑制せず、PPARδの活性化剤は酸化ストレスを増加させなかった。このことから、脂肪酸による酸化ストレスの増加は、増殖抑制につながる主要な原因ではないと考えられる。そこで脂肪酸やPPARδ活性化剤により特に大きな発現増加が認められたPDK4とHMGCS2に着目した。これらの過剰発現は互いの発現やβ酸化に関わる酵素の発現を増加させることなく心筋細胞の増殖を抑制させた。この結果から、PDK4とHMGCS2は互いに独立したメカニズムで、β酸化とは無関係に細胞増殖を抑制している可能性が考えられる。
    今後はPDK4ならびにHMGCS2がどのようなメカニズムで心筋細胞の増殖を誘導するのかについての解明を目指す。 脂肪酸による心筋細胞の増殖抑制に、PPARδの活性化、ならびにその下流に存在するPDK4とHMGCS2の発現増加が関与していることを示唆する結果が得られたことから、おおむね順調に進展していると考えられる。 PDK4とHMGCS2はミトコンドリアに局在するエネルギー代謝系の酵素であるため、これらの過剰発現がミトコンドリアの機能に影響を与えた結果、心筋細胞の増殖を抑制した可能性が考えられる。しかし、PDK4とHMGCS2の過剰発現は酸化ストレスの産生を増加させなかったことから、ミトコンドリア以外に影響を与えている可能性も十分考えられる。例えば、PDK4とHMGCS2はどちらもアセチルCoAが関わっていることから、これらのタンパク質の過剰発現が細胞内タンパク質のアセチル化に影響を与えている可能性なども考えられる。そのため、今後は、ミトコンドリアの品質や機能に対する解析を行いつつ、その他の細胞小器官などにも着目して研究を行う予定である。

  22. 血小板凝集能による出血リスク予測の検討ー適切な抗血小板薬投与期間の設定を目指して 22K12860 2022-04-01 – 2027-03-31 小区分90130:医用システム関連 基盤研究(C) 東京大学 抗血小板薬二剤併用療法は、冠動脈形成術後患者の標準治療となっている一方、特に日本人で、長期間継続が出血合併症頻度の増大と関連することが分かっている。我が国のガイドラインでは、出血リスクを多く持つ(高出血リスク: HBR)患者にはDAPTの短期間投与が推奨されているが、実際に出血合併症を減少できるのか検討されていない。本研究ではHBRの有無によるDAPT投与期間の設定は、出血合併症を減少しうるのか、またDAPT投与後の血小板凝集能抑制率は、出血合併症を予測できるのか検討を行うことを目的とする。 虚血性心疾患では、アスピリンによるトロンボキサンA2(TxA2)産生阻害を介した抗血小板治療が推奨されている。経皮的冠動脈形成術後は、ステント血栓症の予防のため、血小板P2Y12受容体阻害薬を併用するという、抗血小板薬二剤併用療法(DAPT)が標準治療となっている。近年、長期間のDAPT継続は心筋梗塞再発やステント血栓症を減らす一方、出血合併症と死亡率が増大することが報告された。
    さらに、重度の出血合併症が冠動脈形成術1年以内に発症する頻度は、欧米と比較して日本で2倍以上高いことが報告された。このような背景から、特に我が国では、重度の出血合併症が起こるリスクの高い患者を、冠動脈形成術施行時に予測し、DAPT投与期間を設定する必要性がある。そこで、我が国の日本循環器学会ガイドラインでは、血栓リスク因子よりもより出血リスクに重きをおいて、DAPT継続期間を決定している。具体的には、出血リスク因子を複数持った患者を高出血リスク(HBR)とし、HBRあり患者ではDAPT継続期間を短期間とした。ただし、このリスクスコアに基づいたDAPT期間の設定で、臨床成績が改善するかについてはわかっていない。
    申請者は当院で経皮的冠動脈形成術を行った患者を対象とし、冠動脈形成術施行時のHBRの有無が、術後1年以内の出血合併症を予測しうるか、血小板凝集能の変化を測定した結果を含めて解析している。 申請者の所属が変更となり、当初の想定より解析が遅れたため。 研究時間の確保に努め、引き続き解析を行う。

  23. 新規糖尿病サブクラスの病態解明:遺伝基盤を背景にした食行動・身体活動性変容の機序 22K11729 2022-04-01 – 2025-03-31 小区分59040:栄養学および健康科学関連 基盤研究(C) 福島県立医科大学 本研究課題「新規糖尿病サブクラスの病態解明:遺伝基盤を背景にした食行動・身体活動性変容の機序」では、5つの臨床パラメータによる深層学習で同定された新規糖尿病サブクラスの食行動・身体活動性の違いを遺伝的背景とともに検証することで疾患表現系を抽出し、それぞれの基盤病態を推定して動物実験等で解明すること目指す。これら病態の解明は、糖尿病診断と治療の見直しと進化、すなわち糖尿病の先制診断、先制治療につながると予測される。 第1:新規糖尿病サブクラスの食行動・身体活動性の変容の違いを遺伝的背景とともに検証(疾患表現系の抽出)
    本研究では、福島糖尿病内分泌代謝コホート等のデータベース対象者(合計2500名程度)で、5つの成人発症糖尿病サブクラス別に疾患表現系を調べた。コホート研究登録時および前向き、後ろ向きの診療情報(既往歴、家族歴、生活歴、処方薬、血液・尿検査、登録病名、腹部超音波検査、骨塩定量検査、心エコー、腹部エコー、CT等)を電子診療録で調査して、データベースへ入力する。評価項目は、①血糖関連指標(HbA1c、HOMA2R、HOMA2β、膵島関連自己抗体 等)、②古典的合併症(網膜症、腎症、心筋梗塞、脳卒中、心不全)および新規合併症・併存症(がん、骨粗鬆症、認知症、サルコペニア、抑うつ)の有病率、発症率、③身体特性(体組成、体脂肪分布、骨格筋量、筋力、歩行速度)、④食行動指標(食行動質問表、食物摂取頻度調査 FFQ、こころの健康に関する5質問表)、⑤身体・生活活動性指標(運動習慣、ADL、活動量 等)、⑥遺伝指標(網羅的遺伝子多型パネル)である。網羅的遺伝子多型パネル、ジャポニカアレイNEO(東北大学ToMMo)を用いて、5つの成人発症糖尿病サブクラス別に、有意水準の遺伝子多型が検出された(令和6年5月24日日本糖尿病学会シンポジウムで報告)。現在これらの遺伝子多型を元に多遺伝子リスクスコアの作成を試みている。
    第2、基盤病態を推定し動物実験等でそれぞれの基盤病態を解明すること(仮説作成と実証)
    上記で有意水準となった遺伝子多型より。糖尿病サブクラスの遺伝的背景と食行動、身体特性、生活活動指標から疾患表現型を抽出する(既報で有意だった遺伝子多型)予定である。 おおむね順調に推移している。 5つの成人発症糖尿病サブクラス別に、有意水準の遺伝子多型を組み込んだ多遺伝子リスクスコアの作成を試みている。
  24. 冠動脈バイパス術後患者におけるレジスタンス運動中の動脈圧受容器反射感受性の変化 22K11456 2022-04-01 – 2026-03-31 小区分59010:リハビリテーション科学関連 基盤研究(C) 学校法人文京学院 文京学院大学 我々は、座位での大腿四頭筋のレジスタンストレーニングが健常男性における運動強度の異なるレジスタンス運動によるBRSの変化について研究し、低強度レジスタンストレーニングが最も運動後のBRS活動を活性させるという所見を得た。                そこで今回は、冠動脈バイパス術後患者における無負荷・低・中強度のレジスタンス運動によるBRSの変化について検討する。冠動脈バイパス術後患者において、低強度レジスタンス運動によるBRSの変化が健常男性と同様なものであれば,低強度レジスタンストレーニングの冠動脈バイパス術後患者における運動療法の一助になる期待される。 昨年度は、倫理申請、物品購入、計測器の修理を実施した。倫理審査では該当施設でのシステムトラブルもあり、承認まで1年以上を費やし、本学での研究実施報告書の承認に3か月を有した。計測実施可能な状況ではあるが、震災の影響を受け本格実施に向けはもうしばらく時間が必要な状況であるが、計測方法の確認などをしっかり行い、計測開始時には円滑に運営できるように準備を進める。 両大学での倫理承認に時間を有した。また、計測機器に修理が必要であることが分かり修理に時間を有した。さらに、震災の影響を受けているため、通常に戻り計測を計画できる段階に至っていないことが考えられる。 計測が円滑に進むように準備を進め、計画的に計測ができるようになったら計測を実施していく。それまでは、計測の円滑な遂行をトレーニングしたり、準備していく。
  25. 心筋梗塞の2次予防のための心臓リハビリの効果:冠動脈CTから予測する検討 22K11352 2022-04-01 – 2027-03-31 小区分59010:リハビリテーション科学関連 基盤研究(C) 藤田医科大学 心臓リハビリテーション(運動療法)は、運動耐容能を向上させることが報告されている。また、運動療法を含めた包括的リハビリテーションは、予後改善に寄与できると期待されているが、その効果は確立していない。経時的な冠動脈CTで認めるハイリスクプラークとプラーク進展は、その後、急性冠症候群を引き起こすサロゲートマーカーである。そこで、急性冠症候群の患者を対象に、心臓リハビリテーションを行うことが冠動脈CTでのプラーク進展の予防とハイリスクプラーク退縮に効果があるかを明らかにすることが目的である。その結果急性冠症候群患者において、心臓リハビリテーションのプラークへの直接的な効果と有用性を示すことができる。 本研究では、急性冠症候群の患者を対象に、運動療法を含めた心臓リハビリテーションによる筋肉量増加とそれに伴う運動耐容能の向上、経時的な冠動脈CTでのプラーク進展に影響するかどうかを調査する。
    これまでに、研究計画書を作成し、患者登録を開始している。対象は、急性冠症候群(急性心筋梗塞・不安定狭心症)で入院した患者のうち、責任病変に経皮的冠動脈形成術(PCI)治療後、もしくは侵襲的治療を不要とした症例300例を予定している。患者には、冠動脈CT、身体機能評価(身長、体重、腹囲、下腿周囲長、血圧、握力、DXAによる筋肉量指数(Skeletal Muscle mass index: SMI)、BIA値(生体電気インピーダンス法)(体組成計(Inbody 770)を用いる))、CPX(心肺運動負荷検査)での評価を行い、その後、運動療法(万歩計での歩数計測、心臓リハビリテーション(運動処方)の達成の確認)を行う予定である。
    本年度は、患者の検査に必要な検査機器を購入し患者登録を開始している。
    来年度からは、患者の登録を継続するよていである。患者には、研究について書面で説明し、同意書を取得する。冠動脈CT、身体機能評価(身長、体重、腹囲、下腿周囲長、
    血圧、握力、DXAによる筋肉量指数(Skeletal Muscle mass index: SMI)、BIA値(生体電気インピーダンス法)(体組成計(Inbody 770)を用いる))、CPX(心肺運動負荷検査)での評価を行い、その後、運動療法(万歩計での歩数計測、心臓リハビリテーション(運動処方)の達成の確認)を行う予定である。1年後に、冠動脈CT、身体機能評価、CPXでの再評価を予定している。その後、画像・データ解析を行う予定である。その結果は学会や論文で報告する予定である。 本年度は研究計画書の作成、検討項目を検討し、検査機器を購入した。患者登録を開始している。来年度も患者登録を継続できる見込みである。 来年度も、今年度に引き続き、対象患者の登録を継続開始する見込みである。対象は、急性冠症候群(急性心筋梗塞・不安定狭心症)で入院した患者のうち、責任病変に経皮的冠動脈形成術(PCI)治療後、もしくは侵襲的治療を不要とした症例300例を予定している。患者には、研究について書面で説明し、同意書を取得する。冠動脈CT、身
    体機能評価(身長、体重、腹囲、下腿周囲長、血圧、握力、DXAによる筋肉量指数(Skeletal Muscle mass index: SMI)、BIA値(生体電気インピーダンス法)
    (体組成計(Inbody 770)を用いる))、CPX(心肺運動負荷検査)での評価を行い、その後、運動療法(万歩計での歩数計測、心臓リハビリテーション(運動処方)の達成の確認)を行う予定である。1年後に冠動脈CT、身体機能評価、CPXでの再評価を予定している。その後、画像・データ解析を行う予定である。
    その結果は学会や論文で報告する予定である。

  26. 心血管疾患患者の退院後再喫煙予防のための禁煙支援プログラムの開発 22K10886 2022-04-01 – 2025-03-31 小区分58060:臨床看護学関連 基盤研究(C) 愛知医科大学 心血管疾患を有する患者は,退院後の再喫煙率が高いことが知られている。退院後の再喫煙は,死亡率を上昇させ,QOLを下げることが報告されている。そのため,退院時の看護師による禁煙支援は再梗塞の予防や患者のQOL向上のためにも重要である。
    そこで本研究では,
    ①既存のデータより,日本人の心血管疾患患者の退院後の再喫煙の現状と再梗塞との関連性を縦断的に調査し,明らかにする。
    ②循環器病棟に勤務する看護師の退院時禁煙支援の現状と課題について,全国の看護師対象の質問紙調査を行い,明らかにする。
    ③心血管疾患患者への再喫煙アセスメントシートおよび禁煙支援ツールを開発する。 本年度は急性心筋梗塞と診断された患者がその診断によって喫煙行動をどのように変化させるかを評価するために,他の7種類の非感染性疾患(NCDs)の診断と喫煙率の変化を比較した。本研究では健康行動を予測するHealth Biliefモデルを用いて,重大性(病気の重症度)と罹患性(病気の喫煙との関係度)の組み合わせで4カテゴリーに分類した8種類のNCDsと診断された喫煙者13,284名を対象とした。カテゴリー1は急性心筋梗塞(AMI)と肺がん,カテゴリー2は大腸がんと胃がん,カテゴリー3は喘息と一過性脳虚血発作(TIA),カテゴリー4は虫垂炎と緑内障とした。
    AMIと診断された者は970人,男性946名(97.5%),女性24名(2.4%),年齢は50歳以上が約60%を占めた。診断後1年以内の禁煙率はAMIは59.6%で他の7種類のNCDsの中で最も高く,次いで肺がん59.3%, 胃がん40.2%, 大腸がん31.8%, TIA22.6%, 喘息16.0%, 虫垂炎12.6%, 緑内障9.3%と病気の重症度が下がるに連れて禁煙率は低下した。緑内障をreferenceとしたAMIの禁煙成功オッズ比は14.8 (95%信頼区間: 12.5-17.4)であった。AMIと診断された者は診断前の禁煙の準備性が低かったとしても診断後に禁煙している者が多かったのに対し,緑内障では準備性の低い者は禁煙しなかった。AMIなどの重症度の高い疾患は患者の禁煙への関心度に関わらず一気に禁煙動機を上げることが明らかとなった。しかし,診断から年数が経過するにつれてAMIや肺がんといった重症度の高い疾患は少しずつ喫煙率が上がり,時間の経過とともにその禁煙動機が低下することが推測された。継続的に禁煙できるように看護師から退院時に声掛けすること等の重要性が示唆された。 当初は循環器疾患に勤務する看護師にアンケート調査を行うことを考えていたが,昨今のアンケート回収率の低さから,循環器疾患を持つ対象者に対する禁煙支援の認識を質的に調査しようと計画を変更した。そのことにより,現在質的な研究の準備段階にあり,計画が遅れている現状である。しかし,全体的に評価した際に,上述した研究の論文化をし,海外雑誌に掲載されたことからも,大幅な遅れではないと考えている。 今年度は,すでに急性心筋梗塞患者に対する看護師の認識を明らかにするために質的研究の計画書を作成した。今後は,その計画書を基に本学倫理委員会の申請を行う。加えてインタビュー調査を実施することを本年度中に予定している。
    研究の目的は,循環器病棟で働く看護師の急性心筋梗塞患者に対する禁煙支援の現状とその認識を明らかにすることである。
    まず,6月中に倫理委員会の申請を行い,その結果を経て現在循環器科の病棟で勤務する全国の看護師5名程度(山形,名古屋,熊本)に8月~9月の間にインタビュー調査を行う12月までの間に質的記述的に分析し,まとめる予定である。

  27. コカイン中毒における心筋毒性機序の解明と一酸化炭素誘導効果の検討 22K10606 2022-04-01 – 2025-03-31 小区分58040:法医学関連 基盤研究(C) 東京医科歯科大学 濫用薬物の 1 つとしてのコカインは若年者を中心に世界中で濫用例が急増しており、我が国でも特に 若年~中年層のコカイン使用による突然死の法医解剖を経験することが増え、看過できない重要な課題となっている。コカイン摂取による急性中毒としては 心血管系の合併症が主であるにも関わらず、その分子学的メカニズムついてはなお不明な点が多い。
    本研究では、コカイン誘導性心毒性の分子学的な機序の解明と、生体内ガス状シグナル分子である CO 誘導による臓器保護効果について明らかにするための多角的な解析を目指している。このように検討された結果は、法医実務にでの診断、さらに臨床医学における予後予測や治療に役立つことが期待される。 コカインは麻薬及び向精神薬取締法における麻薬であり、とりわけ強い精神依存性を有することが知られている。ヒトでの摂取方法は経鼻的に吸引する方法が一般的であるが、静注や経口投与も知られている。近年、日本を含め世界的にコカイン乱用者数・製造量は共に増加しており、死亡者数も増加している。コカインの過剰摂取は、不整脈、心筋梗塞などの重篤な心血管障害を誘導し、重症例では心臓突然死を生起することがあることが分かって いる。しかしながら、コカインの心毒性機序と突然死メカニズムの解明は十分されていない。私は昨年度までにラットにコカインを20 mg/kg/dayを14日間尾静脈から投与したコカイン濫用モデルラットにおいて、過酸化脂質増加、広範囲の収縮帯壊死(Contraction Band Necrosis:CBN)、局所の心筋炎、心筋線維組織の軽度増加などの所見が認められることをを明らかにし報告した。当初期待していた結果とは異なり、一酸化炭素放出分子であるCORM(carbon monoxide-releasing molecule)は、コカイン濫用モデルによるこれらの組織学的な臓器毒性の改善に明らかな影響を認めなかった。一方で、心保護という観点からは、コカイン投与後の心筋でアポトーシスの増加、アディポネクチン濃度の上昇が観察されたことから、アディポネクチンがコカインの心毒性において保護的な役割を果たす可能性を示唆された。 当初予定していた動物実験は完了し解析も終了し成果報告した。当初はコカイン誘発性心毒性の一酸化炭素の保護効果を検討す る予定であったが効果が乏しかったため、今後はコカイン誘導性の臓器毒性について、他の臓器を使って検討を進めていきたい。 2023年度までに査読付国際英文雑誌および日本国内の学会にて成果報告を行なった。2024年度は新たに心臓以外の臓器のコカイン誘発性心毒性において保護的な役割を果たす可能性について詳細な検討を行っていきたい。

  28. 深層学習を用いた脳心事故発生予測モデルの構築と検証に関する研究 22K10557 2022-04-01 – 2027-03-31 小区分58030:衛生学および公衆衛生学分野関連:実験系を含まない 基盤研究(C) 愛媛大学 大洲コホートⅠ、コホートⅡ、脳心事故疾病登録のデータを使用したRNNモデル作成のパイロットプログラムを実装する。コホートデータの脳卒中発症の有無に対して、性別、年齢、身長、体重、BMI(Body Mass Index)、収縮期血圧、拡張期血圧、血液データの総コレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪、GOT、GPT、γGTP、ヘモグロビン、Hb判定(赤血球)の18 項目からニューラルネットワークの重みを更新する学習データ(train)を構築し、精度と損失関数を求めることによって脳心事故発生予測モデルの適正を決定する。 筆者は,脳卒中および心筋梗塞(脳心事故)の危険因子を特定するために愛媛県の中規模市である O 市(人口約 5 万人規模)において以下の(1)(2)の 2 つのコホート集団を設立した。最初に(1)第 1 期 O 市コホートⅠ(1996 年から 1998年:5161 人)においては,老人保健法に基づく成人病基本健康診査受診結果データと食生活習慣を含む脳心事故
    に関連する危険因子に関する問診等の健康関連項目を 3年間で蓄積した。次に(2)第 2 期 O 市コホートⅡ集団(2009 年から 2011 年:3600 人)においてはメタボリック症候群予防の特定健康診断結果データ,飲酒,喫煙,日常身体活動量,睡眠など様々な生活習慣の状況,首尾一貫感覚(Sense of coherence 以下 SOC と略す)を含む詳細問診項目,自律神経系機能検査,各種バイオマーカー等の脳心事故危険因子に関するベースラインデータを3 年間で蓄積した。(1)(2)のコホート集団は脳心事故発生をエンドポイントとする調査であるために 1996 年より約 27 年にわたり,O 市基幹病院において脳心事故の疾病登録を実施し,脳心事故発生および死亡の動向を把握している。脳心事故疾病登録データと 2 つのコホート集団のベースラインデータをマッチング解析することにより脳心事故発生の危険因子を明らかにしてきた。筆者らは機械学習のプラットフォーム基盤を確立することによって O 市で設立した 2 つのコホート集団である(1)O 市コホートⅠおよび(2)O 市コホートⅡのベースラインデータを(3)脳心事故発生の疾病登録情報を再帰型ニューラルネットワークモデル(RNN)モデルによるディープラーニング(Deep Learning 以下 DL と略す)手法によって健診受診者一人ひとりに脳心事故の発症予測確率を算出する試みを開始した。 地域における疾病予防活動では,リスクの大小にかかわらず集団全員を対象とした「ポピュレーション戦略」に力を入れ,特に教育や啓発を中心とした一次予防の活動を実施している。また,疾病発症リスクの高い集団には「ハイリスク戦略」として早期発見・早期治療という二次予防策をとってきた。しかし,ハイリスク戦略はすでにリスクが上昇している集団を対象とするために,被介入者が治療対象者になってしまうことが多く,予防活動となりにくいことが多いので、O市保健センター保健師との作業が必要である。 ポピュレーション戦略の教育や啓発として,過去に集積された脳心事故疾病登録データと健診データから RNN モデルを用いて,健診受診者各個人に対して脳心事故の発症確率を提示することができれば,健診受診後に実施される保健指導のエビデンスを提供することができ,健診受診者が脳心事故発症のハイリスク者になる前に積極的な予防介入ができると考えた。本研究においては,脳心事故発症のうち脳卒中発症予測確率の正解率(精度)と損失率を求めた。

  29. 専門医を凌駕する動的デバイス融合に基づく急性心不全循環制御システムの開発 22K08222 2022-04-01 – 2025-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 国立研究開発法人国立循環器病研究センター 循環器分野はデバイス医療の進歩とともに発展を遂げた。動的循環制御システムの再構築において必須である「心室補助」、「脈調節」、「自律神経調節」においては、循環補助装置、心臓ペースメーカー、神経電気刺激装置がそれぞれ開発されている一方で、独立した開発過程をたどり、動的循環制御システムにまで介入ができない。既存機器に対して、動的循環制御を目指した制御アルゴリズム構築と機器同士の動作統合を行うことで、経験をベースとした医療を超えた未来医療が可能となる。本研究では、急性心筋梗塞の心筋ダメージと急性心不全時の血行動態破綻にターゲットを絞り、革新的循環器疾患治療機器開発につながる基盤研究を推進する。 本課題では、循環ダイナミクスの再構築を行うデバイス融合による革新的治療戦略のPOCを確立する。デバイス開発への橋渡しを確実に行うことを想定し、① ソフト構築、② ハードの設計と作製、③ 動作・有効性検証および④ 臨床応用戦略策定・実施の4項目を科学的側面からすすめる。統合制御ソフトウェア作成の前段階としてシミュレーション研究を行い、経皮的左室補助装置に関連したシミュレーション論文を発表した。また、モデルや制御を目的とした自律神経性循環調節に関する報告も行った。本研究との関連研究として、自律神経刺激カテーテルの医師主導治験も開始されている。
    2023年度の目標は、さまざまな機械制御の開発を統合することで、機械・自律神経・回数(脈)を介した全ての心負荷がデバイスによって最適化される急性期治療デバイスのプロトタイプ作成につなげることである。経皮的左室補助装置の制御に関する研究を実行し、心室圧の精密かつ迅速な制御が可能となったことから、同結果をまとめ論文投稿中である。現在、神経刺激と経皮的左室補助装置の組み合わせ研究を進めており、2024年度には第一段となる循環動態に関する検討が報告できる見込みである。 デバイス融合を想定したシミュレーション研究やソフトウェア開発およびその実証実験は想定通りに進んでいる。安在准教授とのスタートアップ設立や荒船龍彦教授とのモニター読み取り機能の開発などを進め、開発したソフトウェアを実用化するためのさまざまな戦略を立てることも可能となった。 最終年度は開発物の臨床的意義を明確化する検討に入る。シミュレーション研究では、動物もしくは臨床データの再現と予測を実証し、ソフトウェア研究においては、デバイス統合を行った医療機器が心筋梗塞や心原性ショックなどの動物モデルにおいてどのような効果を発揮できるか?に主眼をおいた検証を進める。例えば、血行動態の改善や心筋梗塞サイズの縮小、遠隔期の慢性心不全抑制など臨床に外挿できる結果が得られることで同技術の有用性を強調することにつながる。

  30. 老化による血管ミトコンドリア代謝への影響解明と高齢者虚血性疾患の新たな治療戦略 22K08143 2022-04-01 – 2027-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 天理大学(2023) / 天理医療大学(2022) 我々はこれまでに、p53 とその下流にあるTIGAR (TP53-induced glycolysis and apoptosis regulator) の経路 (p53-TIGAR経路) が、ミトコンドリアのエネルギー代謝やオートファジーに影響して様々な心血管疾患の病因に重要な役割を果たすことを報告してきた。しかしながら、老化による血管ミトコンドリア代謝の変化や、それが高齢者虚血性疾患の進展にどのように影響しているかなど、わからないことは多い。
    本研究では、p53-TIGAR経路を軸に、老化モデルや代謝改変モデルを用いて、老化がどのように血管ミトコンドリアエネルギー代謝に影響し、虚血性疾患を進展させるのかを明らかにする。 老化は細胞のエネルギー代謝を変化させ、動脈硬化を進めてさまざまな虚血性心血管疾患を引き起こす。我々はこれまでに、p53 とその下流にあるTIGARの経路が、ミトコンドリアやオートファジーに影響してエネルギー代謝の変化をもたらすことを報告してきた。本研究では、老化がどのように血管ミトコンドリアエネルギー代謝に影響して動脈硬化を進展させるのかを明らかにし、動脈硬化の進展を阻止する新しい治療法の可能性を探ることを目的にした。
    昨年度、基礎研究において次の2つを明らかにした。①まず、動脈硬化の主たる危険因子である糖尿病に着目した。加齢によって増加する糖尿病はインスリンの作用不足が原因であり、適切なインスリン分泌は膵β細胞におけるミトコンドリアからのエネルギー供給に依存する。核酸成分であるピリミジン塩基の生合成中間物質の一つであるオロト酸を、肥満モデルマウスや糖尿病モデルマウスに投与したところ、p53を抑制して膵β細胞を保護し、インスリン分泌能が改善された。オロト酸は乳清に含まれるありふれたものであり、臨床に展開しうる介入候補の一つと考えられた。②若い血管内皮細胞と老化した血管内皮細胞を用意し、SARS-CoV-2を感染させ、その影響を検討した。SARS-CoV2の感染は血管内皮細胞の様々な遺伝子発現を変化させ、血管の機能不全を引き起こした。この変化は老化した細胞でより大きく、高齢者のコロナ感染患者においては、血管年齢の老化が疾患の重篤性に大きく関係する可能性を示唆した。
    今年度は以上の基礎研究をふまえ、主に臨床研究を進めた。まず、糖尿病患者を対照にコホート解析を実施し、糖尿病への介入が血管年齢にどのように影響するかを調べた。また、血管年齢の老化が疾患の重篤性に影響したことから、慢性炎症を引き起こす自己免疫疾患に着目し、症例研究を実施した。 昨年までに次の2つの基礎研究を実施した。
    ・老化による血管内皮細胞の機能変化とミトコンドリアエネルギー代謝に関するin vitro研究 ・遺伝子改変動物や動脈硬化モデルを使ったin vivo研究
    これらの研究によって、まずは老化した個体における血管のミトコンドリア代謝の変化を明らかにし、p53-TIGAR経路を軸に治療介入のターゲットを示し、次に、すでにほかの目的で使われている薬剤や一般に使用されているサプリメントなどを候補に、老化による虚血性疾患の進展を阻止する可能性を動物モデルで明らかにした。また、老化した血管の代謝研究によって、血管の機能不全に関する新しい知見を得ることができた。以上から、今年度は血管をターゲットとした臨床研究を進めた。
    まず、10年以上糖尿病加療を続ける60歳以上の高齢者を対象に、血管年齢に関するコホート解析を実施した。全体では、これまでの報告と同じく、糖尿病患者ではどの年齢階級でも公表される全国平均と比べて血管年齢値は高かったが、平均値以下を示す者も55%以上あり、治療を継続すると血管年齢の老化を遅らせる可能性を示唆した。また、血管に慢性炎症を引き起こすことで知られる膠原病について、いくつかの症例研究を実施した。具体的には、巨細胞性動脈炎との鑑別を要した若年性側頭動脈炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、血管炎の寛解後に重症化した心病変などについて検討した。血管の慢性炎症はミトコンドリア代謝に長期的に影響を及ぼし高齢期のアウトカムに影響することが予測され、早期からの学際を越えた包括的な治療介入の必要性が示唆された。
    本研究では、当初予定の基礎研究をもとに、コホートと症例研究による臨床研究を展開しているため、おおむね順調に進展していると判断した。 現在までの成果により、血管代謝は、高齢者のアウトカムにとって重要なポイントであることを再認識した。血管年齢が進むと心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントが増え、健康長寿を阻害する。糖尿病は生活習慣が深く関与し息の長い治療が必要であり、糖尿病患者ではり患しない者に比べて健康寿命が6,7年短縮することが知られている。以上から、今後もひきつづき糖尿病患者を対象に観察研究を継続する。また、今年度展開した膠原病による血管炎に関するいくつかの症例研究から、予後と治療に関する様々な知見を得ることができた。自己免疫疾患による血管の慢性炎症をどのようにコントロールするとよりよいアウトカムにつながるか、ひきつづき血管の慢性炎症をターゲットとした症例研究を積極的に継続する予定である。

  31. 急性心筋梗塞患者の末梢血で増加するMUSE細胞のプロファイル 22K08111 2022-04-01 – 2025-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 獨協医科大学 Muse細胞はSSEA-3陽性細胞として同定されるが、末梢血に循環するMuse細胞が間葉系系譜とは異なる性質を示すことが明らかになり、均一の細胞集団ではない可能性がある。急性心筋梗塞発症後に末梢血で増加するSSEA-3陽性のMuse細胞を、単一細胞レベルで発現プロファイルする。これにより従来「SSEA-3陽性=Muse細胞」と一括りにしていた細胞集団の内訳と、患者ごとの個人差を明らかにする。 ST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)を発症し、PCIで冠動脈責任病変を治療し得た症例を対象に、経時的に末梢血を採取、遠心分離により末梢血中の単核球分画を採取 しMuse細胞数を経時的に測定している。現在60症例を登録し、先行研究(Tanaka T, Circ J 2018)ではPCI治療前、治療翌日、第7、14、21病日における観察によ り治療翌日での最大増加1.5倍を示していたが、本研究では第3、5病日で最大増加を示しベースラインに比べ3-4倍のMUSE細胞増加を示したことは新たな知見である。またMuse細胞の誘導蛋白であるS1Pを測定し、Muse細胞との相関を検討している。S1Pは傷害組織から産生される警報シグナルであり、Muse細胞は S1Pに対する受容体を有していることからMuse細胞動態への影響を確認するとともに心機能修復との関連を明らかにする。 更にSTEMI患者の末梢血で増加するSSEA-3陽性細胞を、ソーターで分取して保存している。 その中から陽性細胞の多い検体を選別して、single cell RNA-seq解析を実施する。細胞単離、ライブラリー作製、配列情報取得を受託し、インフォマティクス 解析を出澤らのグループと共同で行う。受託解析は、他の代替手段では獲得できない膨大なデータが得られる点、稀少な患者検体を使用する点、期待される知見 の波及効果を考慮して本研究に相応と判断する。解析対象は、MUSE細胞発現ピーク時と慢性期の末梢血Muse細胞であるが、高額な解析費用であるため症例選別に時間を要している。 コロナ禍であったため、STEMI症例に対するPCI治療の対応が難しく、コロナ陽性症例の細胞は扱うことができないなど、課題発案時には予測していなかった状況があった。
    現状STEMI症例に対するPCI治療がほぼ通常通りとなり、症例数が増えている。引き続きSTEMI患者の末梢血で増加するSSEA-3陽性細胞を、ソーターで分取して保存し、その中から陽性細胞の多い検体を選別してsingle cell RNA-seq解析を実施する。高額な解析費用であるため失敗は許されず、症例選別に時間を要している。 現在Muse細胞の誘導蛋白であるS1Pを測定しMuse細胞との相関を確認中である。引き続きSTEMI患者の末梢血で増加するSSEA-3陽性細胞を、ソーターで分取して保存し、その中から解析に足りる十分な陽性細胞の多い検体を選別して、single cell RNA-seq解析を実施し解析を急ぐ予定である。
  32. プラーク構造ストレスとコラーゲンリモデリングを標的とした冠動脈疾患の病態解明 22K08109 2022-04-01 – 2025-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 大阪公立大学 プラーク構造ストレスが線維性皮膜コラーゲンの機械的強度を上回るとプラーク破綻に至る。血管内画像診断法の一つである光干渉断層法(optical coherence tomography)を用いて行う偏光測定(OCT-polarimetry)は、OCTによるプラーク構造の観察に加え、プラーク組織性状を観察できる。本研究では、潜在的プラーク不安定化因子であるプラーク構造ストレスとコラーゲンリモデリングを介した心筋梗塞の発症機序を解明する。 近年、慢性炎症が種々の生活習慣病の病態に関与することが示唆されている。冠動脈壁は、血流の剪断応力や血管固有の構造ストレスなど、過剰なメカニカルストレスに晒されている。本研究は、動脈硬化の基盤病態である血管の慢性炎症を惹起する機序として、プラークのバイオメカニカルストレスに注目し、切除プラークを用いた分子生物学的解析を行い、抗炎症治療確立のための標的分子の探索を行う。(検討1)細胞外マトリックスのリモデリングを血管内画像診断により観察し、プラーク構造ストレスとの関連を解析することで、動脈硬化プラークの不安定化の機序の探索を目的としている。冠動脈内でコラーゲン性状を観察するイメージング技術(PS-OFDI)を開発し、冠動脈疾患を対象とした臨床研究を開始した。急性冠症候群、慢性冠症候群患者の病変をPS-OFDIを用いて観察した。また、同部位をNIRS-IVUSを用いて観察した。これらの画像から融合画像を作成し、有限要素解析を行う予定である。また、機械学習を用いて解析した病変部のPS-OFDI画像により得られた複屈折値を算出した。(検討2)方向性粥腫切削術により得られた冠動脈プラークを-80度で凍結保存した(15例)。得られたプラーク組織を解析し、プラークの形態、コラーゲン性状、メカニカルストレスと比較検討を行っている。また、病変局所、大動脈基部、末梢血を保存し、cell free DNAの濃度を測定した。検討1および2から、不安定プラークの形態と機能解析を行い、プラーク構造ストレスと血管炎症機序の相関関係を解析する予定である。 本研究では、PS-OFDIシステムを大阪公立大学医学部附属病院に導入した。冠動脈疾患患者を対象とし、PS-OFDIを含む血管内画像診断を用いて、プラークの光学特性と構造ストレスを比較検討した。冠動脈疾患患者の責任/標的冠動脈病変部にPS-OFDIとIVUSを施行した。有限要素解析に必要な融合画像を作成し、プラーク構造ストレスを算出した。今後、症例数を増やし、構造ストレスとプラークのコラーゲン性状の解析を行う予定である。 最新の血管内イメージング技術と、冠動脈病変枝の血液やプラーク組織を分子生物学的・バイオインフォマティクス的手法を組み合わせることにより、過剰なメカニカルストレスに伴う細胞外マトリクス分解と血管炎症、プラーク不安定化に関わる標的分子を同定する。一般的炎症経路に加えて、メカニカルストレスにより引き起こされる血管炎症や血管内皮治癒に着目し、心筋梗塞の病態を解明することで新規治療戦略の開発に繋げたい。
  33. 虚血性心疾患に対する半定量的心筋血流SPECTでの心筋血流予備能の予測法の開発 22K07781 2022-04-01 – 2025-03-31 小区分52040:放射線科学関連 基盤研究(C) 日本医科大学 虚血性心疾患の診療では核医学検査での心筋血流イメージングが治療適応決定に用いられている。心筋血流SPECTにてMBR-IRからMFRを算出できれば、従来は心筋SPECTでは虚血の診断が困難とされてきた多枝病変や左冠動脈主観部病変によるびまん性の虚血の診断にも効果を発揮する可能性がある。本研究では、①半導体SPECT装置を用いて撮像された心筋血流SPECTにおいてスタティック画像から半自動的にMBR-IRを算出可能なソフトウェアを開発し、②虚血性心疾患例において心筋血流SPECTでのMBR-IRからMFRを予測する公式を導き出し、③臨床例を経過観察することでその手法の妥当性を検討する。 本研究の目的は①半導体SPECT装置を用いて撮像された心筋血流SPECTにおいてスタティック画像から半自動的にMBR-IRを算出可能なソフトウェアを開発すること、②虚血性心疾患例において心筋血流SPECTでのMBR-IRからMFRを予測する公式を導き出すこと、③臨床例を経過観察することでその手法の妥当性を検討することである。
    目的のソフトウェアを開発するため、ソフト作成企業の選定と契約を実施した。ソフトウェア作成企業決定後は、解析プログラムの打ち合わせを重ねた。現在は打ち合わせた内容に沿ってソフトウェアを作成中である。 ソフト作成企業の選定と契約に時間を要したが、研究に必要なソフトの目途が立ったところである。 選定した企業により、半導体SPECT装置を用いて撮像された心筋血流SPECTにおけるスタティック画像から半自動的にMBR-IRを算出可能なソフトウェアを開発する。
    その後、虚血性心疾患例において心筋血流SPECTでのMBR-IRからMFRを予測する公式を導き出し、臨床例を経過観察することでその手法の妥当性を検討する。

  34. 心臓内科系集中治療室入室時の血小板活性化マーカー””sCLEC-2″”測定の意義 22K07487 2022-04-01 – 2025-03-31 小区分52010:内科学一般関連 基盤研究(C) 藤田医科大学 通常の採血手法により測定可能な新しい血小板活性化マーカー“soluble C-type lectin-like receptor 2(sCLEC-2)”の測定系が開発された。
    本研究では『心疾患患者の実態調査および生化学マーカーと予後に関する検討』に参加された症例の内、心臓内科系集中治療室に入室した1500例の入室時残存検体を用いて血漿sCLEC-2濃度を測定する。血漿sCLEC-2濃度と心血管疾患の重症度、急性腎障害の発症・進展の有無、抗血小板剤などの薬剤使用や12ヶ月予後との関連について検討し、心臓内科系集中治療室入室時のsCLEC-2測定の臨床的意義を明らかにする。 2022年度に通常の採血管と採血手技により測定可能な新しい血小板活性化マーカー“soluble C-type lectin-like receptor 2(sCLEC2)”は急性腎障害発症の独立した規定因子であることを明らかにした。一方、リポプロテイン(a)はプラスミノゲンと相同性の高いクリングル4構造を有するため、プラスミノゲン受容体に対するプラスミノゲンの結合を競合的に阻害し、線溶抑制に作用する事が知られている。しかし、リポプロテイン(a)と急性腎障害発症との関係は十分に検討されていない。本年度(2023年度)は心臓内科系集中治療室入室患者1000例(急性冠症候群 47%、非代償性心不全 39%)を対象に、リポプロテイン(a)、sCLEC2、B型ナトリウム利尿ペプチド、高感度トロポニンT、高感度C反応性蛋白および酸化ストレスマーカーである酸化リポプロテイン(a)と急性腎障害発症との関係を検討した。
    結果は、リポプロテイン(a)とsCLEC2は有意な相関関係を認めなかった。一方、リポプロテイン(a)は酸化リポプロテイン(a)と中等度の相関関係を認めた。急性腎障害は182例(18%)に発症した。急性腎障害例における非代償性心不全の割合は非発症例に比べて高く、リポプロテイン(a)、sCLEC2、B型ナトリウム利尿ペプチドと酸化リポプロテイン(a)は高値であった。一方、血色素量と推定糸球体濾過値は低値であった。単変量ロジスティック解析ではリポプロテイン(a)とsCLEC2はともに有意な急性腎障害発症の規定因子であった。しかし、多変量解析ではリポプロテイン(a)ではなくsCLEC2のみが有意な独立した規定因子であった。これらの結果からsCLEC2は心臓内科系集中治療室入室患者における急性腎障害発症リスクの評価にリポプロテイン(a)より有用であると考えられた。 本研究では、先行研究である『心疾患患者の実態調査および生化学マーカーと予後に関する検討』に参加された1500例の保存検体と、データベースに入力してある患者背景、心血管疾患の重症度と臨床検査パラメーターを用いた。2022年度と2023年度にsoluble C-type lectin-like receptor 2(sCLEC2)、リポプロテイン(a)、B型ナトリウム利尿ペプチド、高感度トロポニンT、高感度C反応性蛋白および酸化リポプロテイン(a)の測定を終えた。2022年度に急性腎障害の診断は終了している。本年度(2023年度)はリポプロテイン(a)と急性腎障害との関係を検討した。 現在、対象患者における短期(6ヶ月)予後の調査を行っている。エンドポイントは全死亡、複合エンドポイントは心血管死と維持透析導入である。2024年6月までに短期予後の調査を終える予定である。
    2024年度にsoluble C-type lectin-like receptor 2(sCLEC2)、リポプロテイン(a)、B型ナトリウム利尿ペプチド、高感度トロポニンT、高感度C反応性蛋白および酸化リポプロテイン(a)と短期予後との関係を検討する。特に、sCLEC-2と短期予後との関係を明らかにする。さらに複数のバイオマーカーを組み合わせた短期予後の予測モデルの構築を試みる。
    一方、心筋トロポニンと同等の心筋特異性を有し、しかも心筋含量が心筋トロポニンより多い心筋ミオシン結合蛋白Cの測定キットが登場した。心筋ミオシン結合蛋白Cは急性心筋梗塞の早期トリアージに高感度心筋トロポニンより適していることが示されている。しかし、非急性冠症候群における心筋ミオシン結合蛋白Cの臨床的意義に関しては十分に検討されていない。非急性冠症候群患者における心筋ミオシン結合蛋白Cと高感度トロポニンTの測定は終了しているので、2024年度に短期予後予測における心筋ミオシン結合蛋白Cの有用性を高感度心筋トロポニンTと比較検討する予定である。

  35. miRNAをバイオマーカーとして利用するための簡易迅速検査法開発 22K07486 2022-04-01 – 2025-03-31 小区分52010:内科学一般関連 基盤研究(C) 藤田医科大学 MiRNAは、様々の疾患のバイオマーカーや疾患の予後予測等に利用可能である。しかし、miRNAの測定は、研究室レベルでの測定にとどまり、臨床現場においてmiRNAのバイオマーカーとしての利用は進んでいない。2009年に発表されたISO-RAM法は、煩雑な検査工程と長い測定時間が問題であるが、等温増幅様式であることから我々が長年培ってきた同様の遺伝子増幅法であるLAMP法の技術を応用した改良が可能であると着想した。測定時間1時間、簡易な卓上小型機器での測定をコンセプトに臨床応用としてHSV-1脳炎予後予測、心筋梗塞診断を対象にバイオマーカーとしての利用するための簡易迅速な測定系構築をめざす。 等温遺伝子増幅法は、定温増幅が可能で安価な機器で実施可能な核酸増幅法である。昨年、等温増幅法を用いたmiRNA定量を行うIsothermal ramification amplification (Iso-RAM)の工程を簡略化、オリジナル法に対し測定時間を短縮する改良を行った。今年度は、選択的冠動脈形成術(PCI)や冠動脈造影(CAG)の予後予測を目的に心不全や心筋梗塞で発現上昇が報告されるmiR-19bを標的とし臨床検討を行った。
    最初に心臓カテーテル検査に必須であるヘパリンの影響を検討しIso-RAMのThreshold time (Tt)は、ヘパリン濃度に比例したTt値の上昇を観察した。選択的心臓カテーテル検査(PCI 10名 CAG 22名)32名の術前、術直後、術後1日に採血し外因性コントロールcel-miR-39-3pをスパイク後にRNAを抽出、改良Iso-RAM、real-time RT-PCRによるmiR-19b測定を行った(術直後はヘパリンによる反応阻害を認め検討から除外)。術前・術1日後の血清中miR-19bは、改良Iso-RAM(⊿Tt)、real-time RT-PCR(⊿Ct)との間に有意な相関(r=0.722 p<0.001)を認めた。心臓カテ検査の合併症4a型心筋梗塞の診断は、術後トロポニン値が正常上限の5倍以上上昇し、かつ新たな血管像消失の両者を満たす必要がある。32名中8名(25%)が施術後にトロポニン値の基準をこえた上昇が確認された。この8名の術前のmiR-19b⊿Ttは基準を満たさない群と比較して有意に低いことが確認されreal-time RT-PCRでも同様の結果を得た。ROC解析は、4a型心筋梗塞基準のトロポニン上昇をmiR-19bカットオフ11.8とした時、感度69.6%、特異度77.8% AUC0.727であることを示した。 心臓カテーテルで利用されるヘパリン(3000-5000単位)を加えた血清に人工合成したcel-miR-39-3pをスパイク後、抽出したRNAからはいずれのヘパリン濃度からもreal-time RT-PCRで未検出であった。改良IsoRAMは、測定可能であったが濃度に比例してTt値は上昇した。臨床検体による検討でも改良IsoRAM によるcel-miR-39-3p Tt値は術前と術後において有意差を認めないが術直後のTt値は、術前、術1日後の両方に対し有意に大きかった。したがって改良Iso-RAMによる測定でも術直後検体の測定にはヘパリンを分解したのち測定する(ヘパリナーゼ処理)ことが必要になる。臨床検討では、改良Iso-RAMとreal-time RT-PCRの間に良好な相関を認め改良Iso-RAMでも測定は可能であることが示された。さらに術前のmiR-19bにより術後に大幅なトロポニンが上昇する患者を事前に予測可能であるデータを得た。近年、トロポニン上昇を認めるものの明らかな冠動脈狭窄が観察されない患者(INOCA)が指摘されておりこのうちの一部に冠動脈の微小循環障害がトロポニン上昇と関与していると報告されている。miR-19bは、アテローム性動脈硬化症以外にも血管平滑筋細胞の増殖、冠動脈内皮の血管新生など、血管内皮機能に影響を与えるいくつかの病態生理学的プロセスを調節していると報告されている。術前からmiR-19b発現の強い患者は、心臓カテーテルによるプラークやデブリにより冠微小循環が閉塞または循環に影響が出た結果トロポニンの上昇をみたと考えられた。今後、冠微小循環を示すバイオマーカとしてmiR-19bが利用できないか検討する必要があると考察した。 現時点では改良Iso-RAMによって工程の簡略化、測定時間の短縮が可能となり測定結果はReal-time RT-PCRと良好な相関をもっていることが確認できた。問題点の一つは、オリジナルのIso-RAMに比して、改良miR-19bは、102倍ほど感度が低い点である。この原因は、オリジナル法では行われているIso-RAN増幅起点構造形成において障害となるmiRNAの分解工程であるリボヌクレアーゼ処理を行っていないことが可能性の一つとしてあげられる。改良法は、cDNA動的平衡状態によるIso-RAN増幅起点構造形成であるがこれが感度に影響している可能性がある。逆転写にRase H活性をもつ酵素をもちいcDNAを作る過程で不要となったmiRNAが分解できればリボヌクレアーゼ処理を不要とできる可能性がある。今年度は逆転写酵素を変更して感度実験を行う。
    今後、さらに簡便な検査法としての利用を目指すにあたり試薬の乾燥化による工程の簡略化が必要と考える。最初にIso-RAM工程について必要となる試薬であるprimer、Bst polymerase、d-NTPsの乾燥化を行い、逆転写サンプルを希釈液にまぜて反応がスタートできることを目的とする。乾燥試薬を用いても液状試薬と同様の感度や安定した再現性が得られるかを確認する。

  36. 食事を含む生活習慣とがん・循環器疾患生存者の予後に関するコホート研究 23K21522 2021-04-01 – 2025-03-31 小区分58030:衛生学および公衆衛生学分野関連:実験系を含まない 基盤研究(B) 国立研究開発法人国立がん研究センター わが国では、がん罹患・循環器疾患罹患後の生存者が増加しており、がん・循環器疾患生存者の予後に関する生活習慣・食習慣を明らかにすることは、国内外ともに喫緊の課題である。
    本研究では、1990年開始の多目的コホート研究において、罹患前の食事や生活習慣を考慮したうえで、罹患前後の食事や生活習慣の変化と、がん・循環器疾患罹患生存者の、予後との関連を明らかにする。本研究では、予防から予後の改善までの長期に推奨される生活習慣の提唱が期待でき、予防行動をとる、より強い動機付けにつながる根拠の創出が可能であり、がんや循環器疾患と共生する時代において、社会的意義の大きい研究となる。 わが国で増加しているがん生存者・循環器疾患生存者の、罹患後の予後を改善する生活習慣・食習慣については、いまだエビデンスが少ない。そこで、本研究では、1990年開始の全国11保健所地域住民14万人(研究開始当時年齢40-69歳)の多目的コホート研究で行われている、複数回の食習慣・生活習慣に関するアンケート調査を用い、食事や生活習慣の罹患前後の変化を検討したうえで、がん・循環器疾患罹患生存者の、予後との関連を明らかにすることを目的としている。
    令和5年度は、令和4年度に論文化した、がん罹患前後の食事・栄養素摂取量について変化がなかった要因(Ishii et al. Sci Rep. 2023;13(1):982.)は、がん生存者ががん診断後も変わらず摂取するものであるとして、がん生存者の予後に関連する要因の解析に着手した。中でも、最も多いがん部位であった、大腸がん罹患者2664名について、先行研究において大腸がん罹患のリスクを下げること、また、死亡のリスクを下げることが報告されている、コーヒー摂取量と甘味飲料摂取量についての解析を始めた。現在、論文作成中である。また、がん罹患前後の食事・栄養素摂取量を検討した方法をもとに、循環器疾患対象者800名(脳卒中649名、心筋梗塞155名)サバイバーを対象に循環器疾患発症前後の食事・栄養素摂取量の解析を開始した。 多目的コホート研究の追跡調査により、繰り返し調査の比較が可能な5年後調査と10年後調査を用いて、アンケート情報、食事・栄養摂取情報を付与し、がん生存者解析データベースの作成を行い、がん罹患前後の食事・栄養素摂取量の変化について検討を行い、がんサバイバー群の診断後の食事の変化は、診断なし群の食事の変化と概ね同様であることを論文化した。この結果より、がん罹患による食事変化の影響を受けず、がん罹患の予防要因として多くの報告がある、コーヒー摂取量および甘味飲料と2664人の大腸がんサバイバーにおける予後との関連の研究計画を立て、データセットを作成し解析中である。また、がんサバイバーの食事変化と同様、循環器サバイバーの食事変化の解析に着手し、循環器疾患対象者800名(脳卒中649名、心筋梗塞155名)について解析中であり、おおむね順調に進捗している。 今後の研究として、がん生存者の食事・栄養素摂取と予後との関連を明らかにするための解析手法の検討を行い、相対危険度を算出し、リスク因子・予防因子を明らかにしていき論文化する。また、循環器疾患生存者の診断前後の食事・栄養素の変化を解析し、論文化し、その結果をもとに、循環器疾患生存者の予後との関連を明らかにしていくための検討も継続する。

  37. 高齢者の精神的健康に関する長期疫学縦断研究(黒川町研究) 21K21192 2021-08-30 – 2025-03-31 0908:社会医学、看護学およびその関連分野 研究活動スタート支援 大分大学 これまでに佐賀県伊万里市黒川町で平成16~29年に4期に分けて行ってきた地域在住の高齢者を対象とした疫学調査のデータを使用し、血清中のバイオマーカー(オキシトシン、sTREM2、BDNF、コルチゾールなどを想定)の濃度と脳体積、認知機能との関連を横断的また縦断的に解析して明らかにする。そしてここで新たに得られた結果を黒川町在住の高齢者に引き続きタイムリーに還元し、高齢者自身の疾病の予防や健康維持への関心に応えること、そして高齢化が進展する中での健康寿命の延伸と医療費の軽減に繋がるよう遂行する。 本研究の目的は、高齢者の認知機能低下を事前に予測するバイオマーカーの開発を行うこと、より効果的な認知症予防のためのエビデンスを確立することである。その結果高齢者自身の疾病の予防や健康維持への関心に応え、高齢者の健康寿命の延伸と医療費の軽減に寄与することである。
    令和5年度は、これまでに得られたデータから、高齢者の血清中のオキシトシンと老年期うつ病評価尺度との関連について有意な所見をまとめた。その内容について英語論文を作成し、学術雑誌に論文を投稿し受理、掲載された。現在は、血清中のsTREM2と前頭葉機能検査との関連について、また血清中の脳由来神経栄養因子とオキシトシンとの関連について有意な所見をまとめ、英語論文を作成し、学術雑誌に論文を投稿している。現在査読中である。 必要なデータを解析し、順次論文の作成と投稿を進めることができている。 現在投稿中の査読が終了し次第、修正を行い早期に受理、掲載されるよう進めていく。

  38. 腸内細菌を標的とした妊娠高血圧腎症の創薬開発 21K16813 2021-04-01 – 2026-03-31 小区分56040:産婦人科学関連 若手研究 近畿大学 妊娠高血圧腎症の治療薬は未だ開発されておらず、根本的な治療は妊娠の終了、すなわち分娩である。本研究では、メタボローム解析により同定した妊娠高血圧腎症の胎盤において有意に増減する代謝産物が、妊娠高血圧腎症の発症や母児の予後に関する新規バイオマーカーになるかどうかを検討することと、腸内細菌を標的とした創薬開発を目指すことを目的とする。腸内細菌に着目した本研究による妊娠高血圧腎症の発症・予後予測バイオマーカーの開発、そして創薬は周産期母子医療の向上、ならびに女性の生涯にわたる健康推進、新生児長期予後の改善に貢献できる可能性がある。 妊娠高血圧腎症の罹患者は次回妊娠時妊娠高血圧腎症を発症し、また将来的に心筋梗塞などの冠動脈疾患を発症するリスクが非罹患者に比して高いことが知られている。本研究では、妊娠高血圧症候罹患者と非罹患者の分娩後の腸内細菌叢を比較することにより、妊娠高血圧症候群の発症や再発、また将来の冠動脈疾患発症に関与する腸内細菌叢の変化を評価することを目的とする。
    本研究では先行研究「メタボローム解析により妊娠高血圧腎症の病態に関与する代謝異常を同定する」に参加した患者と新規患者を対象とした。妊娠高血圧腎症を発症した妊婦10例と正常妊婦10例より、分娩後の糞便を回収した。回収した糞便を持ち16S rRNA 解析(メタゲノム解析)を施行した。2群間で腸内細菌叢の構成に差を認めた。今後は、妊娠経過などの臨床情報や食生活など生活習慣に関するアンケート調査結果と腸内細菌叢との関連につき評価を行っていく予定である。また、先行研究に参加した患者については、メタボローム解析データとの関連も調査する。
    動物を使用した腸内細菌研究については、皮下埋め込みポンプを用いアンギオテンシンII を持続放出する妊娠高血圧腎症マウスモデルを用いて検証する予定である。現在、マウスモデルを作成し、実際に高血圧や胎仔発育不全など妊娠高血圧腎症の病態が発現することを確認した。今後は、モデルマウスとコントロールマウスの糞便回収を行い、メタゲノム解析を行う予定である。 ヒト検体を用いた糞便メタゲノム解析を施行し解析を行うことができたため、順調に進展していると考えます。 アンギオテンシンII持続静注により妊娠高血圧腎症の病態を模倣したマウスを作製し、実際に高血圧や胎仔発育不全を呈することを確認した。このマウスを用い、胎盤プロテオーム解析やRNAsequence、糞便メタゲノム解析を行い、妊娠高血圧腎症の発症に関与する蛋白、遺伝子、腸内細菌叢を抽出し、発症メカニズムについて検討する予定である。
  39. Sykはどのような機序により膠原病・慢性炎症における動脈硬化に促進的に作用するか 21K16294 2021-04-01 – 2024-03-31 小区分54020:膠原病およびアレルギー内科学関連 若手研究 帝京大学 全身性慢性炎症を来す関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)では動脈硬化性疾患が合併症・死因の1つとなり、近年、慢性炎症が動脈硬化症の原因の1つであることも分かってきている。慢性炎症がRA/SLEと動脈硬化症を繋ぐ鍵となり得るが、その関連について詳しいメカニズムは不明である。そこでspleen tyrosine kinase (Syk)に着目し、Sykを中心とした慢性炎症と動脈硬化性疾患との関連を証明するとともに、Sykが関与する分子メカニズムを解明する。 全身性慢性炎症を来す関節リウマチや全身性エリテマトーデスと動脈硬化症は、慢性炎症という点で共通している。これらの疾患への関与が考えられる非受容体型チロシンキナーゼspleen tyrosine kinase (SYK)に注目した。初めにSyk遺伝子欠失動脈硬化モデルマウスにより動脈硬化が抑制されることを示した。その機序として、Syk遺伝子欠失マクロファージでは細胞遊走能が低下し、SYK/JNK/FOXO1/CD11系が関与していることが明らかになった。最終的にFOXO1阻害薬を動脈硬化モデルマウスに投与し動脈硬化が抑制されることを示した。
  40. 大規模保健医療情報を用いた、心血管疾患の個別化発症予測モデルの開発 21K16093 2021-04-01 – 2024-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 国立研究開発法人国立循環器病研究センター 生活習慣病を背景として発症する心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患を予防するには、個々人にあわせた将来の心血管イベント予測を行うことが重要である。従来のコホート研究等では、心血管疾患発症のリスク同定は可能であるが、患者数や患者背景の多様性から、個々人に応じたイベント予測は困難であった。
    我々は、奈良県において経年的に収集されている数十万人規模の検診・医療・介護情報を解析することで、大規模保健医療情報を用いて、心血管疾患の発症や死亡の個別化された発症予測を行うことを考えた。本研究を行うことで、将来、個人単位、都道府県単位での心血管疾患発症の予防策を展開するための基礎的資料となることが期待される。 本研究では、医療・介護の突合データを構築し、将来の心血管疾患等の発症予測等につながる解析を行った。医療・介護・検診レセプトの抽出及び統合データベースを構築し、疾患発症前から死亡に至るまでの大規模疾患コホートの作成を行った。検診で初めて高血圧を指摘された患者を中心として解析を行った。初めて高血圧を指摘された患者のうち、実際に医療機関受診に至る症例は限られる一方で、降圧薬等の治療に結びついた場合、受診をしていない場合と比較して、その後の良好な血圧コントロールとの関連を認めた。同様の傾向が、脂質異常症に関しても認められ、今後、受診にスムーズに結びつけていく方策が必要であることが示唆された。

  41. 左室リバースリモデリングを目指したHFrEFの新規治療ガイド指標の確立 21K16091 2021-04-01 – 2025-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 熊本大学 左室収縮の低下した心不全(HFrEF)において,治療による左室リモデリング改善は予後改善と関連するが,その予測指標は確立されていない.本研究では,活性型の線維芽細胞に特異的に発現するHE4に着目し,その血中濃度測定が将来の左室リモデリング改善と関連するかを検討する.結果,将来のLVRRを簡便に予測し,かつこれを目標とした心不全治療をガイドするHFrEFの新たなバイオマーカーとしての応用へつなげる. 昨年の報告にも記載の通り、HFrEFの主要な基礎疾患である拡張型心筋症患者を対象とした予備検討にて、血中HE4濃度が将来の左室病的リモデリングの程度と相関することを明らかにしている。さらに、カプランマイヤー曲線の作成やCox比例 ハザード解析などにて、HE4血中濃度の高い患者群では有意に心血管イベント発生が多いことも確認されており、サロゲートマーカーとしての“左室リモデリングの程度”のみならず、続発する“心血管イベント”とも関連する 有用なバ イオマーカーとなる可能性が示唆された。これらの臨床データは、本研究で明らかにする“HFrEF患者の左室リバースリモデリングの予測因子となり得 るか”という主題につながる研究成果と考えてい る。
    令和4年度はこのデータを元に、拡張型心筋症以外のHFrEF患者についてのデータベース作成とHE4血中濃度測定を進め、当科で血清サンプリングを既に行ってい る患者のうち177名のHE4血中濃度を測定した。
    令和5年度も引き続きこのデータベースの作成を進めているが、今回測定したHE4血中濃度は平均値が108pmol/Lと前述の拡張型心筋症データベースでの測定よりも全体的に高値であり、陳旧性心筋梗塞など拡張型心筋症以外のHFrEF症例が加わることによって異なる患者群となっていることが推測された。患者背景がよりヘテロになったことでフォローアップの検査の時期や有無にばらつきがあり、解析を進めるとともにn数の追加を進めているところである。
    なお、このデータベース作成の過程でHE4血中濃度と心臓造影CTで評価した細胞外容積値との関連を認めたため、この点についてはHFrEF以外の心疾患も含め検討中である。 令和3年度については、予備検討にあたる拡張型心筋症患者を対象とした臨床研究、基礎研究の論文発表に想定より過度なエフォートを割くこととなってしまったこと。
    令和4年度については、想定よりもサンプリング血清の残数が無かったことや、コロナ禍で新規のサンプリングやデータベース作成が想定より進まなかったこと。
    令和5年度については引き続きデータベース作成を進めていたが、本研究の対象患者が既報のそれよりもヘテロであったことも影響してか十分なフォローアップがなされていない症例が予測よりも多かったため、データベースの完成に時間がかかっている。 引き続き当科のデータベースにある患者のうち、漏れたサンプル血清が無いかを確認する。さらに、当院医療情報経営企画部と連携しての患者抽出を継続して行う。
    さらに、令和5年度は研究サポートをするメンバーを拡充し、上記のデータ収集やデータベース作成のスピード感を上げて研究を進めていく。

  42. 非侵襲的に記録された皮膚交感神経活動の心房細動治療における役割の解明 21K16083 2021-04-01 – 2025-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 金沢大学 心房細動の発生や持続には自律神経の過剰な興奮が関与している。申請者らは星状神経節の神経活動と相関性のある皮膚交感神経活動を非侵襲的に記録する方法を確立し、再発性心房細動の発生や心房細動中の心拍コントロールに皮膚交感神経活動が相関していることを報告してきた。しかし、心房細動の治療による交感神経への影響や、術後の異常な交感神経興奮が再発や心血管イベントに関与するかは不明である。
    本研究では非侵襲的に記録した皮膚交感神経活動を解析し、交感神経活動の変化、術後の再発率や心血管イベント合併との関連を調べる。これにより、実臨床に応用可能で簡便な指標としての皮膚交感神経の役割の解明と応用展開が期待される。 心房細動はカテーテル治療後に20-30%程度で術後に不整脈が再発し、また重大な心血管イベントを合併することもあるが、その機序は明らかになっていない。実 験動物の研究でカテーテル治療によって星状神経節が修飾されてリモデリングが起き、交感神経活動が低下することが分かっている。申請者らはヒトでの予備研 究でカテーテル治療の前後で皮膚交感神経活動の変化に個人差があることがわかった。この差はカテーテル治療による星状神経節への効果に影響され、修飾が不 十分な場合には交感神経活動が低下せず再発や心血管イベントのリスクになると考えられる。本研究の目的は、心房細動患者において、非侵襲的に記録された皮 膚交感神経活動の特徴およびカテーテル治療による変化を解明することによって、治療効果、再発予測、有害イベント予測という実臨床で求められるバイオマー カーとしての皮膚交感神経活動の活用の可能性を明らかにすることである。 令和4年度も引き続きコロナ禍の影響で診療制限などの影響もあったが、心房細動に 対するカテーテルアブレーション目的に入院した約50例を含む、総計100例において皮膚交感神経活動のデータを収集した。本研究を申請した時点では、年 間100例のデータ収集を目標としており、おおむね達成したものと考える。令和5年度日本不整脈心電学会総会で本研究の結果の一部を発表し、その他令和5年度日本循環器学会で皮膚交感神経活動に関して2本の演題を発表した。引き続 き心房細動をはじめ、多くの循環器疾患に関して皮膚交感神経活動のデータ集積を進める。さらに令和 3-5年度にデータ収集した症例の追跡調査を行い、不整脈の再発、主要有害心血管イベントの発生(心血管死、非致死的心筋梗塞、不安定狭心症、心不全、脳卒 中、その他の入院を要する心血管イベント)を 評価し、皮膚交感神経活動との関係を解析す、論文執筆中である。 令和5年度は心房細動に対するカテーテルアブレーション目的に入院した50例を含む、総計100例において皮 膚交感神経活動のデータを収集した。本研究 を申請した時点では、年間100例のデータ収集を目標としており、おおむね達成したものと考える 令和6年度も引き続き心房細動に対するカテーテル治療の目的で初めて入院する患者において、治療の前後で皮膚交感神経活動のデータを収集し、その生理学的 特徴やアブレーションによる影響を明らかにする。また血液データ、心エコー検査など、入院時の患者背景データをもとにして皮膚交感神経活動との関係を解析 する。 さらに、令和3年度にデータ収集した症例では、術後3か月、6か月、12か月後の時点で外来の心電図検査あるいは電話による追跡調査を行い、不整脈の再発、主 要有害心血管イベントの発生(心血管死、非致死的心筋梗塞、不安定狭心症、心不全、脳卒中、その他の入院を要する心血管イベント)を評価し、皮膚交感神経活動との関係を解析し、論文執筆、投稿を予定している。
  43. 急性心筋梗塞後のMDCT遅延造影による左室内血栓症の予測 21K16077 2021-04-01 – 2026-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 筑波大学 左室内血栓症は急性心筋梗塞の合併症の1つであり、脳梗塞を含む全身塞栓症の原因となる。一方、我々は心筋梗塞の急性期に治療として行う経皮的冠動脈形成術(PCI)中に冠動脈に注入した造影剤を利用して、PCI終了直後に心電図同期下に非造影でMDCTを撮像することで得られる遅延造影像を用いて心筋梗塞の梗塞範囲、左室リモデリングや心筋のバイアビリティを評価できることを明らかにした。本研究では、この手法を用いて急性心筋梗塞患者に対するPCI直後に施行したMDCT遅延造影が心筋梗塞後の急性期左室内血栓の発症および慢性期全身塞栓症の発症を予測しうるかを多施設共同研究で明らかにする。 本研究は、心筋梗塞の急性期に治療として行うPCI中に冠動脈に注入した造影剤を利用してPCI終了直後に非造影で心電図同期下のMDCTを施行し得られる遅延造影像を用いて心筋梗塞の心筋傷害を評価した研究である。本研究の目的は、心筋梗塞後のMDCTによる遅延造影像が急性期左室内血栓症、慢性期の全身塞栓症および、急性の腎障害、心不全や心血管死亡などの心血管イベントの発症を予測しうるかを検証することである。左室内血栓症は急性心筋梗塞患者の4~15%程度に生じる合併症であり、脳梗塞を含む全身塞栓症の原因となり、発症後のADLの低下や死亡に関連する。また、急性心筋梗塞の急性期に急性腎障害の発症は慢性期の心血管イベントの発生と関連していることが報告されている。そのため、左室内血栓症の発症や急性腎障害の発症を来しうるハイリスク患者を同定することは臨床上重要な情報となる。これまでに約300症例が対象患者として登録されており、現在5年~10年程度の長期予後の評価を行っている。本年の研究実績としては、2023年8月に開催された第31回日本心血管インターベンション治療学会で急性心筋梗塞後のMDCTによる遅延造影像が急性の腎障害および長期心血管イベントの発症を予測することを報告した。現在、予定していた登録症例数に達しており、慢性期の心血管イベントの発生の観察、解析を行なっており、結果が揃い次第論文作成を予定している。 予定していた症例の登録数に達し、急性期および慢性期のイベントの評価もおおよそ評価できている。現在明らかとなった研究成果に関する論文作成を進めている。 今回の研究で得られた①心筋梗塞後のMDCTによる遅延造影像と急性期左室内血栓症、慢性期の全身塞栓症との関連、および②急性腎障害と慢性期の心血管イベント発症との関連に関して論文作成を行っていく。
  44. 脳心血管病高リスク患者の個別化リスク管理のための包括的リスク層別化モデルの開発 21K16075 2021-04-01 – 2025-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 東北大学 二次予防を必要とする冠動脈疾患、脳梗塞、末梢動脈疾患の既往や、糖尿病や慢性腎臓病を有する患者は脳心血管イベントの高リスク病態である。しかし、本邦において二次予防を必要とする患者を含んだこれらの高リスク病態のためのリスク層別化モデルのエビデンスは確立していない。そこで、本研究では東北大学と国立循環器病センターの共同研究として国内最大級のコホートデータを用い、高リスク患者における脳心血管イベント予測のための包括的リスク層別化モデルを開発する。今後の本邦主要ガイドラインにおける動脈硬化リスクの管理指標の基盤をなすリスク層別化モデルの決定を目指す。 本研究課題は、二次予防を必要とする冠動脈疾患、脳梗塞、末梢動脈疾患の既往や、糖尿病や慢性腎臓病を有する高リスク病態の患者のための包括的リスク層別 化モデルの開発を目的として研究を開始した。まず、これらの高リスク病態の中でも特に重要な冠動脈疾患もしくは脳梗塞の既往を有する患者におけるリスク予 測モデルの開発に着手した。2021年度は、CHART研究(東北大学)と吹田コホート(国立循環器病センター)の患者データから、冠動脈疾患もしくは脳梗塞の既 往を有する患者を同定し抽出した。CHART2研究には3550人、吹田コホートには355人の冠動脈疾患もしくは脳梗塞の既往を有する患者を解析対象として同定した。CHART2研究からの患者3550人は、フォローアップ期間の中央値は9.9年であり、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳梗塞からなる心血管複合エンドポ イントは681イベントが観察された。そのデータを基に、10年間絶対リスク予測モデルを作成した(age, smoking status, systolic blood pressure, diabetes, renal function, number of ASCVD events, atrial fibrillation, lipid levels, left ventricular systolic dysfunction, and statin use)。さらに、吹田研究でも外的妥当性の確認も行い、C-indexは0.64と十分な外的妥当性を確認した。2024年8月行われるヨーロッパ心臓病学会に発表のために本研究内容を投稿した。 吹田研究データを利用するために国立循環器病センター内での倫理委員会での審査に時間がかかったため。 今後は作成したリスク予測モデルと外的妥当性のデータに関しての論文作成を行う。最終的には、Webアプリで簡易計算ツールを作成する。
  45. microRNAに着目した川崎病冠動脈瘤での血管微小粒子役割解明と創薬標的検索 21K16051 2021-04-01 – 2026-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 富山大学 川崎病急性期の血管炎が生じる際に、この2種類の特異的なmicroRNAが中小血管である冠動脈に限局して発現するかどうかを確認し、血管壁の3層構造(内膜/中膜/外膜)のどの層から産生され、 EMPs内に封入されどのような経路で他の細胞/組織へと情報伝達するかを示し、さらにCAL 症例のiPS細胞から誘導した血管内皮細胞やCA WS血管炎マウスモデルの刺激実験を用い、この特異的なmicroRNAが誘導する川崎病急性期に上昇するTNF-αおよびIL-6の炎症性サイトカインとin silico解析で予測した他遺伝子とのカスケードを示し、川崎病急性期におけるCAL 形成の病因を明らかにする。 Candida albicansの培養上清から得られる可溶性多糖分画(CAWS; Candida albicans water soluble fraction)1mgを5日間連日腹腔内投与し、川崎病に類似した冠動脈炎CAWSマウスモデルを作成は成功している状況である。現在、作成した冠動脈炎CAWSマウスモデルから得られる経時的な血清での炎症性サイトカインの測定を行い、同時に冠動脈切片での炎症反応、線維化の進行について測定中である。今後は、CAWS投与前日、投与中(1日目、3日目、5日目)、投与後翌日のそれぞれのマウスに、我々は同定した川崎病急性期における血管内皮細胞から遊離される血管微小粒子(EMPs)に含まれる冠動脈病変に特有の特異的な2種類のmicroRNAを腹腔内投与し、光学顕微鏡および 電子顕微鏡にて血管内皮細胞傷害の程度を計測し、さらに炎症性サイトカインのmRNAをリ アルタイムPCRで、炎症性サイトカインの蛋白量をELISA法で測定し、コントロールCA WSモデルと比較検討する。さらにの特異的な2種類のmicroRNAのノックアウトマウスをそれぞれ作成し、 CAWSを腹腔内投与し冠動脈血管炎を惹起させ、光学顕微鏡および電子顕微鏡にて血管内皮 細胞傷害の程度を計測、さらに炎症性サイトカインのmRNAをリアルタイムPCR、蛋白量を ELISA法で測定し、コントロールCAWSモデルと比較検討する。この2種類の特異的な microRNAが冠動脈血管炎のカスケードにおいて非常に重要な役割を果たしていることを証明 するため、microRNAノックアウトマウスにおいてCAWS投与で冠動脈血管炎が惹起されな いもしくは過剰に惹起されるかを明らかにする。 順調にCandida albicansの培養上清から得られる可溶性多糖分画(CAWS)1mgを5日間連日腹腔内投与し、川崎病に類似した冠動脈炎CAWSマウスモデルを作成は成功し、予定している次の実験へ進めている。 今後は、CAWS投与前日、投与中(1日目、3日目、5日目)、投与後翌日のそれぞれのマウスに、我々は同定した川崎病急性期における血管内皮細胞から遊離される血管微小粒子(EMPs)に含まれる冠動脈病変に特有の特異的な2種類のmicroRNAを腹腔内投与し、光学顕微鏡および 電子顕微鏡にて血管内皮細胞傷害の程度を計測し、さらに炎症性サイトカインのmRNAをリアルタイムPCRで、炎症性サイトカインの蛋白量をELISA法で測定し、コントロールCAWSモデルと比較検討する。
  46. 人工知能を用いた血管内超音波画像によるリスク予測モデルの構築 21K16046 2021-04-01 – 2025-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 千葉大学(2023) / 川崎医科大学(2021-2022) 血管内超音波(IVUS)は血管内側から冠動脈内腔の大きさだけでなく血管壁、冠動脈プラークの容量や性状に関する情報が得られることから、経皮的冠動脈形成術(PCI)時の治療戦略の決定・治療成績向上に欠かせない装置となっている。本研究では、PCI前後のIVUS画像からディープラーニングモデルを作成し、人工知能によるIVUS診断の確立を目指す。血管内構造物の定量評価のみならず、PCI時のslow flow / no reflowや側枝閉塞といったPCI時の合併症リスク予測を目標とする。 血管内超音波(IVUS)画像から経皮的冠動脈インターベンション(PCI)時の合併症リスク予測するモデル作成を目標とし、前年度までに臨床データ収集や画像データの抽出、画像のアノテーション作業を行ってきた。2023年度は臨床的データの収集の継続および、リスク予測モデルの構築をすすめた。臨床的イベントの有無の二値分類の深層学習モデルを構築したが、初期モデルの精度は十分でなく今後の改善を要すると考えられ、モデルの改良を進めることとした。 リスク予測モデルの構築の段階まですすんだが、完成には至らなかった。次年度にモデルの改良をすすめることとした。したがって、進捗状況は予定よりやや遅れていると考えられた。 血管内超音波画像から臨床的イベントの有無の二値分類の深層学習モデルを構築したが、初期モデルの精度は十分でなく今後の改善を要する。前年度までにすすめたアノテーションデータのモデルへの活用などを行い精度改善を行っていく予定である。
  47. 大動脈解離を予測するための大動脈内視鏡を用いた大動脈ハイリスク病変の検討 21K16041 2021-04-01 – 2025-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 日本大学 急性大動脈解離は突然発症し、死亡率80%以上といわれる致死的で極めて重篤な疾患の一つである。また発症までは無症状であることが多く、発症前の早期診断が極めて困難である。
    急性大動脈解離により年間6千人以上命を落としており、その発症を未然に予測するためにバイオマーカーやCT撮像など様々な研究がなされているが、未だ十分な予測能を有した因子は明らかになっていない。
    今回我々は、新たに大動脈に応用可能となり、大動脈の微細な損傷や動脈硬化性状を観察し得る血管内視鏡を用いて、大動脈内腔の微細な損傷をとらえ、その病変の形状から将来大動脈解離に発展し得るハイリスク病変を特定することを目的とする。 急性大動脈解離は突然発症し、死亡率80%以上といわれる致死的で極めて重篤な疾患の一つである。また発症までは無症状であることが多く、発症前の早期診断が極めて困難である。私は、従来の画像診断機器よりも大動脈内腔を詳細に評価できる大動脈内視鏡が、大動脈解離の予測因子になる可能性を報告してきた。今回我々は、大動脈内視鏡をもちいて大動脈内腔の微細な損傷をとらえ、その病変の形状から将来大動脈解離に発展し得るハイリスク病変を特定することを目的とした。
    本研究を進めるにあたり①大動脈内視鏡で検出される内皮障害の有病率を明らかにすること、②2年間フォローし、ベースラインで大動脈内視鏡による内皮障害を有していた群では造影CTを施行する。内皮障害部位の大動脈に径の拡大やULPが生じていないか評価すること、③大動脈解離発症時には、解離のエントリー部位に相当する大動脈内視鏡所見を検討すること、を掲げている。
    3年目である2023年度は、エントリーした症例のフォローアップを進めるとともに、取得できた大動脈内視鏡および造影CTデータを解析し、ベースラインの大動脈内腔の血管内皮障害の有病率および対応する大動脈CTの所見を発表した。注目すべきは造影CTで正常内膜に見えていても大動脈内視鏡では内膜が破綻したり、血栓が付着していることがあることを示したことである。本研究結果はJournal of American heart associationに掲載された。 本研究の進捗状況としては、症例のエントリー完了までに想定したよりも多くの時間を要したため、やや遅れていると評価する。その理由として未曾有の大災害ともいうべきコロナ禍があげられる。コロナ禍により、遠隔診療で代用されたり、カテーテル検査が延期され、症例のエントリーが思うように進まなかった状況である。しかしながら予定症例は何とか2年目でエントリーを終了できた。エントリーされた症例に対しては、大動脈内視鏡、造影CTを行いデータを集積できており、またこれらのフォローアップも継続している。 ベースラインでの大動脈内視鏡による内皮障害の種類、有病率を検討し、これらと造影CTによる所見の比較を行い論文化に成功した。
    次に並行して行っているフォローアップから、臨床イベントと2年後の造影CT所見の変化を検討し大動脈内視鏡による大動脈解離に関連するハイリスク病変を検討する予定だが、症例エントリーは予定通り完了したものの、エントリーまでに時間を要したことからフォローアップ期間が短くなる可能性がある。このため経時的な変化を十分とらえることができるか慎重に検討していく必要がある。
    またこれらの検査所見の関連と今後のフォローアップにより、大動脈内視鏡による血管内皮障害のうちどのような所見が、大動脈解離の発症前段階のハイリスク病変であるかどうかを引き続き検討していきたい。
  48. 高血糖に着目した急性心筋梗塞における再灌流後心筋内出血の機序解明 21K16032 2021-04-01 – 2025-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 和歌山県立医科大学 心筋内出血は、早期再灌流治療の残された最大の課題である。その臨床的予測因子ならびに機序を知ることは、急性心筋梗塞患者の予後を改善する新たな治療法の確立につながる。我々は来院時高血糖が心筋内出血を惹起する臨床的因子であること、ならびに両者をつなぐ分子がMMP-9であると仮説を立て、基礎研究および臨床研究の両面からアプローチし仮説の証明を行う。 ST上昇型急性心筋梗塞患者における来院時高血糖が、予後悪化に関与することは古くから報告されている。さらに、来院時高血糖は急性心筋梗塞再灌流治療後の冠微小循環障害に関与すると報告されており、それが患者予後を悪化させる機序の一つと考えられている。冠微小循環障害の最重症型である心筋内出血と来院時高血糖との関係についての報告は少数であり、機序に関する報告は皆無である。我々は174人の初回急性心筋梗塞患者でprimary PCIを施行した患者を対象に、来院時高血糖と心筋内出血との関連を調査した。なお、心筋内出血は、心臓MRI検査T2強調像での「高信号内低信号域(hypointense core in hyperintense area)」と定義した。本研究において、心筋内出血群では非心筋内出血群と比較し有意に来意時血糖値が高いことが判明した[心筋内出血群 vs. 非心筋内出血群; 208.5 (157.8-300.5) mg/dL vs. 157.0 (128.8-204.3) mg/dL, p<0.001]。また、来院時高血糖が心筋内出血発症の独立した予測因子であることを証明した(Odd ratio: 1.012; 95 % CI: 1.005-1.020, p=0.001)。さらに、コホート内の13人において、来院時血糖値と責任冠動脈内MMP-9濃度に正の相関関係があること、および心筋内出血患者では有意にMMP-9濃度が高いことを見出した。すなわち、来院時高血糖患者では責任冠動脈内においてMMP-9が過剰分泌され、それが心筋内出血を惹起する可能性があることを見出した。本研究内容は、令和4年度に、日本心臓病学会が発行する学会誌であるJournal of Cardiology誌に発表した。令和5年度は、本研究結果をもとに来院時高血糖とMMP-9および心筋内出血の関係について前向き研究を施行中である。 ST上昇型急性心筋梗塞患者数が当初予定していた人数より少なく、患者登録に遅延が生じているため。 当院にてprimary PCIを施行するST上昇型急性心筋梗塞患者を可能な限り全例登録する。
  49. 18F-NaF PET/MRIを用いた不安定プラークの検出 21K16029 2021-04-01 – 2023-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 福島県立医科大学 本研究では虚血性心疾患を有する患者において、冠動脈プラークへの18F-NaFの集積と同時撮影したMRIのT1強調画像におけるHIPを冠動脈CT、侵襲的検査(冠動脈造影検査、血管内超音波)で得られた画像を比較、および遠隔期の心血管イベント発生の関連を検討する。本研究により不安定プラークの画像診断法が可能となり、急性冠症候群発症に対してのリスクの層別化を行うことで生命予後を改善できる可能性につながる。 18F-NaF PET/MRIを用いて虚血性心疾患患者の冠動脈におけるNaFの集積およびMRIによるhigh intensity plaqueの同時評価を行い、良好なfusion画像を確認することができた。18F-NaF PET/MRIを用いることによって、従来の画像診断法に比べてより正確に不安定プラークを検出できる可能性があり、狭窄の進行の程度を予測する新規の診断方法として有用である可能性が示唆された。
  50. IL-33/ST2を介した川崎病および冠動脈病変発症機序の解明 21K15906 2021-04-01 – 2025-03-31 小区分52050:胎児医学および小児成育学関連 若手研究 山口大学 川崎病は乳幼児に好発する原因不明の全身性血管炎である。合併症として冠動脈病変があり、心筋梗塞や冠動脈破裂による若年性突然死の原因となる。近年、自然免疫の異常によるサイトカイン過剰産生が病態の主体と考えられている。現在、腫瘍壊死因子(TNF-α)に対する分子標的療法が保険収載されているが、副作用の観点から好発年齢である乳児に使用しにくい。本研究では冠動脈疾患および心筋炎のバイオマーカーであるインターロイキン(IL)-33に注目し、IL-33/ST2系を介した冠動脈病変の発症機序解明、冠動脈病変発症予測バイオマーカーおよび特異的治療法の確立を目的とする。 川崎病は主に1歳前後の乳幼児に好発する全身性血管炎であり、少子化に関わらず患者数が増加傾向である。長らく原因不明とされてきたが、自然免疫異常による過剰なサイトカイン産生が病態の主体であるという考えが有力視されている(自然免疫説)。川崎病は冠動脈に最も強い炎症が生じ、冠動脈病変(拡大・瘤化)を合併し、若年突然死の原因となる。川崎病の標準治療は長らく免疫グロブリンおよびアスピリン併用療法であったが、近年ステロイド、抗腫瘍壊死因子(TNF)-αモノクローナル抗体製剤(インフリキシマブ)、シクロスポリンなどの抗炎症療法が新たに保険収載された。しかしながら約8%の症例に急性期冠動脈病変を認め、新たな治療法の開発が望まれている。自然免疫制御機構の一つであるインターロイキン(IL)-33/ST2系が川崎病冠動脈炎の発症および増悪に関与している可能性について、ヒト血清および培養冠動脈細胞を用いて解析したものである(2021-2023年度 科研費若手研究採択課題)。川崎病患者の血清を用いた解析では、可溶性IL-33受容体であるsST2が冠動脈病変合併群において有意に高値であった(冠動脈病変合併群87.2 ng/mL vs. 非合併群31.7 ng/mL、p = 0.017)。in vitro実験では、IL-33刺激はヒト冠動脈内皮細胞(HCAEC)表面の膜型IL-33受容体であるST2Lの発現を増強させた。さらにIL-33刺激濃度依存性にHCAEC培養上清中の炎症性サイトカイン(sST2、IL-6、IL-8、単球走化性因子[MCP]-1)濃度が上昇した。さらに注目すべき結果として、従来川崎病リーディングサイトカインとされてきたTNF-αに比し、IL-33はHCAECにおけるIL-6およびIL-8の産生を有意に増加させることが示された。 治療前の川崎病患者血清を用いた解析では、インターロイキン(IL)-33の可溶性受容体であるsST2濃度が冠動脈病変(CAL)合併群おいて有意に高値であることを報告した。また、培養ヒト冠動脈内皮細胞(HCAEC)を用いた実験で、従来川崎病リーディングサイトカインとされてきたtumor necrosis factor-αに比し、IL-33による刺激はHCAECからのより強い炎症性サイトカイン産生を惹起することを明らかにし、川崎病冠動脈炎においてIL-33/ST2系は新たなバイオマーカーおよび治療標的となり得る可能性を報告した。
    (成果物:Okada S, Yasudo H, Ohnishi Y, Matsuguma C, Fukano R, Motonaga T, Waniishi T, Hasegawa S. Interleukin-33/ST2 Axis as Potential Biomarker and Therapeutic Target in Kawasaki Disease. Inflammation. 2023 Feb;46(1):480-490.) 今後は冠動脈内皮細胞および冠動脈平滑筋細胞の共培養実験を行い、より生体内に近い環境でのIL-33/ST2系の解析を行う。また冠動脈炎モデルマウスを用いた実験系を計画している。

  51. 血栓形成を調節するヒートショックプロテイン72の生理的メカニズムの解明 21K15665 2021-04-01 – 2025-03-31 小区分52010:内科学一般関連 若手研究 福島県立医科大学 今までの我々の研究により、ストレスに応答し放出されたHSP72が、血小板活性化因子と共存することで血小板凝集を促進し血栓を形成するのでないかと推測した。しかし、HSP72による血小板凝集の特異的メカニズムと抗HSP72抗体の働きは依然として不明である。
    本研究は生体内でのHSP72の血小板への関与メカニズムと抗HSP72抗体の出現意義を明らかにする。本研究により、ストレス条件下で血栓が形成されやすくなる原因究明の一助となり、過度なHSP72増加の抑制は血栓形成を遅らせ、HSP72および抗HSP72抗体の作用をモニタリングすることで血栓形成の進行を遅らせ血栓形成に起因する疾患の予防に繋がる。 我々は細胞外に放出されたHSP72の役割を解明するため、HSP72の血小板への作用を明確する研究を遂行している。我々の今までの試験管内研究では血小板凝集惹起物質の血小板凝集力をHSP72が増強することを明らかにした。また、抗HSP抗体がその作用を抑制することも示すことができた。HSP72は細胞にストレスを付加すると放出される。ストレス条件下で血小板凝集すなわち血栓が形成されやすくなる原因を究明し、HSP72増加抑制は血栓形成を遅延させ、さらにはHSP72および抗HSP72抗体のモニタリングにより血栓形成の進行を把握し、心筋梗塞などの血栓形成に起因する疾患の予防に繋がるのではないかと推測している。
    該当年度においては昨年度に引きつづき、血栓形成患者の血漿中HSP72濃度と抗HSP70抗体濃度を解析を検体数を増やして試みた。病院ルーチン検査のうち凝固線溶系を測定した患者血漿を収集し、HSP72濃度や抗HSP70抗体濃度を測定し、血栓形成マーカーと比較検討した。播種性血管内凝固症候群(DIC)と非DICとに分類し比較した。その結果、HSP72は非DICよりもDICの方が有意に高値になり血栓形成にHSP72 が関与していると示唆された。また、我々が新たに見出した血小板活性化マーカーとなりうるアミロイドβ前駆体タンパク質と比較したところ、高い相関がみられた。今後さらにデータの蓄積する。
    HSP72が血小板に作用する部位を特定するために血小板凝集能検査を利用し解析した結果、作用部位の予想を得ることができたので、今後さらに精査する。 本学倫理委員会の承認を得て本学附属病院で外来または入院で血栓症と診断された患者のHSP72および抗HSP70抗体を動態解析した。昨年度に引き続き症例数を重ね、解析は進んでいる。一方、ボランティアの冨血小板血漿を用いた検討でのHSP72の血小板への作用機序解明については、解析が遅れている。今後はのHSP72の血小板への作用機序解明について解析を深める計画である。 該当年度はDIC患者のHSP72の動態について傾向を得ることができ、データの信頼性を高めることができた。今後は、より症例数を増加させ血栓症におけるHSPの動態について解析を積み重ねる。 また、HSP72の血小板作用機序を血小板凝集能検査やフローサイトメトリーを利用して解明を進める。

  52. 高齢心不全患者におけるマイオカインのバイオマーカーとしての臨床的有用性の検討 21K15643 2021-04-01 – 2026-03-31 小区分52010:内科学一般関連 若手研究 山梨大学 近年骨格筋から産生される骨格筋由来因子(マイオカイン)が全身の代謝調整に関連することが明らかになり、健康寿命延伸のキーファクターとして注目されている。マイオカインは骨格筋のみならず心筋からも産生され、循環器疾患の病態にも深く関わっている。しかし近年激増する高齢心不全患者の重症度や運動耐容能とマイオカインの関係について、詳細は未だ明らかではない。今回の研究は、基礎実験で報告されている様々なマイオカインの作用について、臨床的な検証を行うことを目的とする。マイオカインの産生が循環器疾患の重症度を反映し運動耐容能の向上と関連することを検証し、健康寿命のバイオマーカーとしての確立を目指す。 骨格筋や心筋から産生される骨格筋由来因子(マイオカイン)は全身に作用し、他の臓器と連携しながら全身の代謝調整を行うことが明らかになっている。マイオカインはこれまで20種類以上報告されている。本研究はマイオカインと循環器疾患の臨床的側面の関連について明らかにすることを目的としている。
    本研究では、当院に入院する循環器疾患患者を対象に末梢静脈血サンプルを採取し、各種マイオカイン値を測定し、疾患重症度、動脈硬化抑制効果、栄養状態、心臓リハビリテーションの効果との関連などを調べる。これによりマイオカインが健康寿命のバイオマーカーとして有用であるかを検証する。
    これまで入院患者の症例登録と血液検体サンプルの収集・蓄積とフォローアップを行なうとともに、蓄積した血液サンプルでELISAキットを用いてマイオカインの測定を行なった。候補となるマイオカインXは骨格筋から産生されるマイオカインの一つで、基礎実験において様々な心保護作用が報告されており、臨床的にも循環器疾患の患者の予後予測因子になりうることが報告されている。しかしまだ報告が少なく実臨床における詳細は明らかではない。今回マイオカインX値の測定を行ったところ、全身筋肉量が多いほど、マイオカインXの値は高かった。また有意差はないものの、低年齢、男性、体表面積が大きい、高LDL-コレステロール、低BNPであると、マイオカインX は高い傾向を示した。
    またコントロールに比べて、急性心筋梗塞患者でマイオカインX はやや高値を示し、陳旧性心筋梗塞患者でやや低値を示す傾向がみられた。
    今後さらに多くの血液サンプルで複数のマイオカインの測定を行い、マイオカインのバイオマーカーとして有用性を検証していく予定である。 患者の症例登録と血液検体サンプルの収集・蓄積とフォローアップデータは順調に蓄積している。
    蓄積した血液サンプルの一部をELISAキットを用いて候補マイオカインX値を測定し、臨床データとの関連の検討を行い、一定の傾向を見出した。しかしサンプルの測定、解析が遅れており、数十例にとどまっている。今後複数のマイオカインについてさらに多くの血液サンプルの測定を行い、解析を行っていく。 令和6年度も循環器疾患で当院に入院する患者を対象に、年間200例を目標として、経時的な末梢静脈血サンプル採取、臨床パラメータチェック、フォローアップを継続する。各種マイオカインをELISAにて測定し、臨床パラメータとの関連を解析する。各マイオカインの差違、バイオマーカーの候補の選定を行う。マイオカインの抗動脈硬化作用、栄養状態の指標、運動やリハビリテーションとの相乗効果について確認していく。

  53. 舌骨上筋群表面筋電位パタン解析を用いた至適食品選択手法の開発 21K11738 2021-04-01 – 2025-03-31 小区分59040:栄養学および健康科学関連 基盤研究(C) 聖隷クリストファー大学 本研究は、多チャンネル表面筋電計を用いた舌骨上筋群の筋電位パタン解析を通じて、摂取者の筋活動と合致した食物の選択手法を開発するものである。硬さ・凝集性・付着性が異なる食品群の舌骨上筋群表面筋電位パタンのデータを蓄積しデータベースを構築する。同時に、空嚥下時の舌骨上筋群表面筋電位パタンとの相関性を検証する。その上で、至適食品を推定するアルゴリズムを開発し、食品選択手法を検討する。開発した手法を用いて、実際に摂取している食品物性との一致を検討する。 本研究は、佐々木らが開発した多チャンネル舌骨上筋群表面筋電を用いた舌運動・嚥下可視化法を応用させて、摂取時に必要な嚥下運動の観点から客観的に判断しデータベース化された市販食品から抽出し判定する方法を開発することである。本開発を通じて、個々の嚥下能力に合致した食品選択が非侵襲的に可能とする基盤を開発することを目標としている。
    2023年度は、2021年度と2022年度に計画をしていた舌骨上筋群筋電位パタン計測全12レベルの食物物性の筋電データ集積を目標としていたが、一部データ収集までにとどまった。その他、2023年度については、2018年~2021年に実施した科研費研究課題(基盤研究C:課題番号18K11033)「舌骨上筋群表面筋電位パタン解析を用いた市販食品分類」で得られた4パタンの客観的に食品分類に区分けする方法構築のためにトポグラフィーソフト開発を行うことができた。
    2022年度に実施した食品分類を行うデータベースについては、日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021の各段階で必要な口腔運動の時間的タイミングを推定するアルゴリズムでデータを蓄積している。今後は、本アルゴリズムと多チャンネル筋電計で得られた結果を結びつけることが必要である。なおこれまでの結果を、The 32th World Congress of IALPにて公表した。表面筋電を用いた口腔運動検証からの食品推定については、食品物性を決定する口腔運動の時間的関係性のデータの蓄積を行うことができた。本内容を第29回日本摂食嚥下リハビリテーション学会で公表した。加えて、結果の一部を論文や書籍にて公表した。 2023年度は次の通り計画していた。
    舌骨上筋群多チャンネル筋電位パタン計測データを集積する。使用食品は粘度の異なる液状食品3種類、半固形食品5種類、固形食品12種類の咀嚼および嚥下時の舌骨上筋群筋電位パタン計測を実施する。方法は、分担研究者である佐々木らが開発した方法で実施する。被験者は嚥下障害を認めない若年健常被験者、高齢被験者、嚥下障害と診断された者に対して実施する。加えて、得られたデータを集積するデータベースの開発を分担研究者と共に行う。最終的に基礎データベースを構築する。しかし、機械学習にて分類をするためにはトポグラフィーでのデータ蓄積が必要となった。そのためデータベース用のデータは蓄積しつつ、トポグラフィーの開発を優先した。この点が理由で、3グループのデータ集積にまでは至らなかった。これがやや遅れていると判断した理由である。 2023年度に機械学習用のトポグラフィー変換ソフトの開発を終えた。2024年度は、3グループに対して、日本摂食嚥下リハビリテーション学会の基準物性である12種類の食品物性について,まずデータを蓄積する。そのうえで、データベースとのマッチングやデータベースからの抽出ソフトについて開発をする。それができると、個々の多チャンネル筋電計での結果から同じパタンの物性を抽出することができるようになる。
    2024年度はこれまで検討してきた一部の公表と同時に学会で意見交換をしつつ、方向性の誤りがないかを確認する計画である。6月の国内学会、8月の国内学会、12月の国際学会にエントリーし採択を得ている。

  54. 心不全パンデミックの予防を目指した高齢者心疾患に関わる糖鎖関連因子の解明 21K11666 2021-04-01 – 2025-03-31 小区分59040:栄養学および健康科学関連 基盤研究(C) 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) 急速な高齢化に伴い心不全の罹患率は著しく増加し、2030年には「心不全パンデミック」になると予想される。高齢者の心不全は、生活の質を低下させる大きな要因であるが、老化に伴う心機能の低下は疾患としての認識が遅れ重症化することが多い。根本的な解決のために、心臓老化の状態を把握し機能低下の原因解明が必須である。本研究では、細胞接着や情報伝達など様々な生体内機能に深く関わる糖鎖に着目し、老化と疾患についての新たな知見を得ることを目的とする。そのために、高齢心不全患者を対象に、心臓の質的変化および性差における心臓と疾患との関連性について検討する。また、将来的な治療および予防のための糖鎖機能解明を目指す。 急速な高齢化に伴い心不全の罹患率は著しく増加し、近い将来心不全パンデミックが到来すると予測される。特に高齢者においては慢性的な心不全の繰り返しが悪化を促進させるため、軽度なうちに適切な治療を受けることが重要である。しかし、心不全は様々な要因に起因するため、原因や発症機序を明確にすること、効果的な薬を判断することは難しい。また、心疾患によりもたらされる心不全は性別や年齢により異なることも知られている。そのため、まずは心臓組織の状態を詳細に検討し、性別や年齢を考慮した組織の特徴を把握することが重要である。
    本研究では、病態が細胞群の加齢に伴う量的・質的変化の多様性を反映した結果と捉え、糖鎖に焦点を当てた心臓組織の変化に着目し、高齢心不全患者の検体を用いた心臓の質的変化を捉えるための特徴的な分子の検出を目的としている。そして、糖鎖ならびに糖タンパク質の動態とその機序を明らかにすることを目指している。そのために、レクチンマイクロアレイ法や組織染色を用いた心臓検体における糖鎖情報の取得に加え、加齢および疾患に関わる糖タンパク質発現情報の取得を実施している。さらに、病態、年齢、性別などを考慮した網羅的な比較を実施することで、糖鎖変化と各々の関連性について明らかにすることを目指している。また、心臓との相互作用が想定される関連臓器における糖鎖情報などを考慮することで、加齢に伴う臓器の老化と病態との相関を視野に検討を進めている。 令和5年度はこれまでに得られたマウス心臓における組織糖鎖の局所的な加齢変化を中心に、左室壁・心室中隔・乳頭筋などにおける糖鎖変化と細胞の特定および分子変化に関する検討を重ねた。そして、その加齢変化において、血管や組織における炎症ならびに線維化領域などの経時的な変化との相関について検討を行った。また、ヒト心疾患患者の組織検体において、糖鎖発現ならびに炎症の状態などについて観察し、マウス心臓に生じた変化と比較検討した。
    一方、心不全の要因をより理解するために心臓に影響を与える周辺の関連臓器について、若齢・老齢マウスにおける糖鎖発現および炎症の状態などを引き続き解析し、臓器特異的な糖鎖の加齢変化を見いだした。
    以上により、現在までの達成度は「おおむね順調に進展している」と考えられる。 引き続き、心疾患患者の心臓組織の状態を把握するために患者検体における糖鎖情報の取得、組織染色による糖鎖発現領域ならびに組織変化を観察する。また、線維化においては組織検体の他、ヒト由来培養細胞・ヒト血清を用いた標的分子の解析を行い、詳細な検討を行う。
    線維化発症領域およびその周辺領域の細胞等の糖鎖・タンパク質情報を解析して線維化と糖鎖の相関ならびに糖鎖の機能的意義の解明に継続して取り組み、ヒトとマウスの比較解析により、加齢ならびに病態における組織変化とその相関を明らかにしていく。
    また、加齢変化の解析から得られた血管の状態および糖鎖発現変化を念頭に、血管を通して様々な臓器が心臓へ影響を及ぼすことを考慮して、加齢に伴う糖鎖変化の見られた臓器に関する詳細についてさらなる検討を重ねる。

  55. リアルワールドデータ分析と機械学習による健康寿命延伸/介護予防エビデンスの確立 21K11569 2021-04-01 – 2024-03-31 小区分59040:栄養学および健康科学関連 基盤研究(C) 新潟大学 本研究は、以下に示す研究計画の通り、以下の1で構築したデータベースを基に2のプロジェクトを実施する。
    1. 健診・健康保険レセプト・介護発生/重症化を一体化したデータベースの構築
    匿名化した上で収集された薬剤/歯科情報を含む膨大なレセプト情報、臨床指標(血液検査/生活習慣調査)、介護要因並びに増悪の情報を含む介護保険情報を連結可能匿名化し、約1万人を個人突合する
    2. 介護発生の誘因となるアウトカムの発生及び介護発生/重症化リスクの解析
    95%以上の正確性をもつ独自システムを用いた診療内容の医学的評価を基盤とした手法から、イベントと介護保険情報と照らし合わせ、介護発生/増悪のリスク因子を分析する。 健康寿命の短縮は、QOLの低下だけでなく、社会経済的影響においても深刻な問題である。成人ではリアルワールドデータを活用した科学的エビデンスの創出が進む一方で、高齢者領域では研究実施に多くの障害があり、データ構築/分析が大きく遅れている。実際の現場診療実務者の医学的評価に基づいた、正確なアウトカム判定と組み合わせることで、介護分析に特化したリアルワールドデータベースを構築する。同データを長期縦断的に解析することで、従来の断面データや個別コホートの検討では得られない、「個別化予防・個別化指導」の現場実践を容易にするための科学的エビデンスを創出する。

  56. 遠隔医療デバイスを用いた遠隔心不全管理プログラムの早期構築と普及 21K11211 2021-04-01 – 2025-03-31 小区分59010:リハビリテーション科学関連 基盤研究(C) 東京大学 心臓リハビリテーション(心リハ)は心疾患患者の予後改善、再発予防、社会復帰に有用であるが、COVID-19流行のために心疾患患者が通院による心リハを行うことはますます困難となっている。心不全入院患者を母集団として、退院時に外来心リハを行う「外来心リハ群」、遠隔デバイスによる情報をもとに心リハスタッフによる電話指導を受ける「遠隔心リハ群」、通常の外来診察のみを行う「標準治療群」の3群にランダム割付を行う。心リハ群には心リハを150日間行い、その安全性・有効性・費用対効果を、心イベント・左室拡張能・心肺機能・増分費用対効果の指標から調査する。 ウェアラブルデバイスについては、心不全患者にとって必要は脈拍数、血圧、体重、EQ5Dなどの情報が得られるようになっており、心肺機能検査を組み合わせることで、有酸素運動レベルでの運動処方が可能となる。心不全患者に関しては特に、安全で効果的な運動処方が重要であり、同時に遠隔でのモニタリングによって早期の介入を可能とすることが患者予後改善に貢献すると考える。またテレナースによる医療者と患者間の親密性に関しては、今回の調査でも明らかになった。
    重症心不全患者に対して、ウェアラブルデバイスを配布し、退院後のvital checkとテレナースに得られた生体情報を活用している。本邦では超重症心不全患者や若年の虚血性心筋症による重症心不全患者に提供し、退院後の早期再入院の予防にサポートとして利用している。最近はPHQ9などの不安スケールが介入前後で改善することが明らかになった。
    遠隔の効果の考察としては、心不全患者の再入院の予防だけでなく、病院と繋がっている安心感が得られるため、心理面でも効果が外来心リハより高いことが判明した。心不全患者は退院後、気軽に病院受診して疑問に思うことを質問できない状況に陥っており、遠隔テレナースは退院後の日常生活で生じた質問をしやすく、将来テレナースは医療者の在宅勤務を可能にするツールとしても利用できそうなことが考察された。
    また対面ではないことによる利点として、公認心理師の考察としては、電話による顔が見えなうことによる親密性が得られることが挙げられ、対面では話しにくいことを電話では相談できる心理効果が働いているのではないかと議論された。 テレナースチームの介入が外来チームと病棟チームで分かれており、その調整が必要になったため、個々の症例では介入に成功しているものの研究の進行は遅れており、もう一年延長が必要である。 心不全患者に対して、現状の遠隔心臓管理プログラムを継続する。
  57. HDL機能を利用した心臓リハビリテーションによる心血管疾患予後因子の解明 21K11184 2021-04-01 – 2025-03-31 小区分59010:リハビリテーション科学関連 基盤研究(C) 福岡大学 本研究では動脈硬化を引き起こす機序に着目し、HDL機能をターゲットとした。HDL機能が心血管疾患の予後予測因子となることを、高齢者に対象を絞りながらも多くの観察症例経験数から心臓リハビリテーションによってもたらされる多面的効果と心血管疾患の予後改善効果とともに示したい。そのため臨床、基礎医学の両面から証明を行い、さらなる長期にわたって継続可能となる高齢者心臓リハビリのエビデンスを構築したい。 進行していく高齢化社会において、高齢心血管疾患患者を対象とする心臓リハビリを長期に行うことにより、高比重リポ蛋白質(HDL)機能が向上し、心血管・腎保護効果が期待される。本研究の目的は、心臓リハビリテーション(心臓リハビリ)による心血管疾患患者のHDL機能変化を測定し、臨床、基礎の両面から動脈硬化治療の機序を解明し、心血管病の予後を推測可能とすることにある。運動療法前後でHDL機能を測定し、HDLの質・機能を改善させることを観察できれば、運動療法による動脈硬化性病変の治療機序が解明される一つの可能性になる。研究初年度の2021年度の臨床研究では心不全患者において、心肺運動負荷検査(CPX)において運動前と運動直後を比較し、HDL機能の急性変化を検討しており、血清の抗酸化マーカーやコレステロール引き抜き能の変化を計測している。基礎研究では、動脈硬化モデルマウスであるアポリポ蛋白E欠損マウスを用いた運動療法の実験を行っており、中高年齢層に相当する52週齢のマウスに高脂肪食を摂取させた上で、運動群と非運動群に分けた。血液中のサイトカインIL-6を測定したところ、運動群で低下し、非運動群では増加していた。2022年度と2023年度は動脈硬化について観察を行い、運動群と非運動群の比較を行った。今後は高齢者において比較的長期の心臓リハビリがもたらす心・腎機能の向上、脂質代謝の変化、特にHDLの質・機能の向上により、心血管疾患の予後が改善されると同時に予後予測因子となることを臨床研究及び基礎研究から証明していく計画である。 マウスの動脈硬化性変化を確認するため、肉眼での大動脈病変を観察したが、さらに大動脈切片を観察することにより、動脈硬化の変化を定量的に行うことができる。切片作成には細かい技術が求められ、作成に時間がかかり、遅れている。 基礎実験においては、これまでの研究において保管しているマウスの血漿検体を用いて、HDL機能の一つであるコレステロール引き抜き能の確認を予定している。保存している臓器のうち、大動脈の切片標本による動脈硬化性変化や肝臓脂肪量、骨格筋繊維などが変化するかを確認する予定である。臨床研究では、引き続き心血管疾患患者における心臓リハビリによる予後を解明するため、さらに期間を追い、臨床検査値のほか、コレステロール引き抜き能や抗酸化ストレス能、ミオカインなどのサイトカインを指標にして評価を継続していく。
  58. miRNA発現パターンと病理所見に基づく機械学習による冠動脈硬化症のクラスター化 21K10533 2021-04-01 – 2025-03-31 小区分58040:法医学関連 基盤研究(C) 日本大学 本研究は、法医解剖が行われたご遺体の組織・血液を対象とし、死体血中の循環miRNAを網羅的に解析し、実際の冠動脈病理所見と紐付け、機械学習による統合的な分析を加えることで、冠動脈硬化症の発症・重症化に影響を及ぼしうる「miRNAクラスター」を明らかにすること目的とする。CADは不安定狭心症・心筋梗塞など重篤な心疾患から突然死を引き起こす。特定の発現パターンを示すmiRNA群をmiRNAクラスターとして分析することで、臨床医学で活用できるCADの新規診断法の開発に資することを主眼に置く。 本学で行った司法解剖の遺体の心臓血または末梢血液を採取し試料とした。解剖症例は男性81名、女性70名で、平均年齢は65.79歳であった。血液から血漿と血球を分離し、検査まで-80℃フリーザーで保存した。左冠動脈主動脈、左前下行枝、回旋枝、右冠動脈をそれぞれ、病理切片を染色し、ImageJソフトウェアを使用して、冠動脈狭窄を顕微鏡で評価した。閉塞率が10%以上のグループを冠動脈狭窄群(CAD群)、10%未満のグループをCAD群とした。TaqMan Assay法のよりmicroRNAマーカーの発現量、精製したゲノムDNAからTaqMan SNP Assay法によりSNPジ=ノタイビングを分析した。
    前年度のmiR-143(rs41291957)とmiR-146a (rs2910164 G>A)に引き続き、本年度はmiR-31およびmiR-584の結合部位の3’UTRに位置するアンジオテンシノーゲン(AGT)遺伝子(rs7079)およびmiR-2861と関連するメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)rs915014多型とヒトCADリスクの漸進的評価により、CAD診断としてのこれら2つのmiR-SNPの有用性を調査した。
    +11525C/A (rs7079)多型は、AGT遺伝子の3’UTR側、2つの異なるmiR-31とmiR-584の結合部位の間に位置している。これら2つのmiRNAは、rs7079多型のCバリアントに対しては完全に相補的な結合を示す。さらに、MTHFRは、循環ホモシステインの代謝における重要な酵素である。研究では、MTHFR rs915014遺伝子型とrs915014がアテローム性動脈硬化のリスク増加と関連している可能性が示唆されている。 miR-143(rs41291957)とmiR-146a (rs2910164 G>A)はCADグループと非CADグループ(対照グループ)を比較してrs41291957遺伝子座では有意差が認められ、SNPアリルによりCADとの関連性が示唆された。引き続き、miR-31およびmiR-584の結合部位の3’UTRに位置するアンジオテンシノーゲン(AGT)遺伝子(rs7079)およびmiR-2861と関連するメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)rs915014多型とヒトCADリスクの漸進的評価を調査した。rs7079多型は、AGT遺伝子の3’UTR側、2つの異なるmiR-31とmiR-584の結合部位の間に位置している。これら2つのmiRNAは、rs7079多型のCバリアントに対しては完全に相補的な結合を示した。SNPアリルとCADの関連性が示唆されたが、MTHFRは、循環ホモシステインの代謝における重要な酵素である。本研究では、日本人におけるMTHFR rs915014遺伝子型とrs915014がアテローム性動脈硬化のリスク増加と関連している可能性が示されていなかった。
    以上によって予定通りにmiRNAの発現量やその関係するSNPと関連性が明らかにした。これから研究結果を論文にして投稿するために20万円の繰越金を使用する予定である。 本研究の主な実験が終了して結果の総括の段階に入ると考えている。日本人におけるこれらのデータの統計やソフトにより結果の解析及びmiR-SNPとCADの関連性の作業に入り、まとめた。
    最終的にmiRNAとCADの国際会議に発表、また論文をまとめ、国際専門誌に投稿する予定である。

  59. 脳卒中発症後の要介護状態の推移とそのリスク要因に関する大規模コホート研究 21K10477 2021-04-01 – 2025-03-31 小区分58030:衛生学および公衆衛生学分野関連:実験系を含まない 基盤研究(C) 岩手医科大学 本研究では、脳卒中多発地域である岩手県北・沿岸地域住民26,469人を対象として2002年から追跡調査を継続実施している、岩手県北地域コホート研究を基盤とし、岩手県地域脳卒中登録事業のデータを用いて同定された脳卒中発症情報と、機能障害の指標として介護保険における要介護区分を用いて、一般化推定方程式により、①脳卒中発症後の要介護区分の推移を明らかにするとともに、②脳卒中発症後の要介護区分の推移に影響を及ぼす、発症前の生活習慣や健診所見を明らかにする。本研究で得られる結果から、日本人の脳卒中に伴う機能障害による長期介護の予防対策や介護計画を立案するのに有用な科学的根拠を示す。 本研究では、脳卒中多発地域である岩手県北・沿岸地域住民26,469人を対象として2002年から追跡調査を継続実施している、岩手県北地域コホート研究(県北コホート研究)を基盤とし、岩手県地域脳卒中登録事業のデータを用いて同定された脳卒中発症情報と、機能障害の指標として介護保険における要介護区分を用いて、一般化推定方程式により、①脳卒中発症後の要介護区分の推移を明らかにするとともに、②脳卒中発症後の要介護区分の推移に影響を及ぼす、発症前の生活習慣や健診所見を明らかにする。
    県北コホート研究の対象地域は岩手県北部・沿岸の二戸、久慈、宮古の3保健医療圏である。県北コホート研究では追跡調査として、2002年度から2017年度まで住民基本台帳の閲覧及び住民票照会による生死・転出情報、人口動態調査票の二次利用申請による死因情報、介護保険制度による要介護認定情報、岩手県地域脳卒中登録事業及び岩手県北・沿岸心疾患発症登録協議会の登録データとの照合による脳卒中及び心疾患(心筋梗塞、心不全、急性死)の発症情報を追跡してきた。
    2023年度は県北コホート研究の追跡調査を継続した。具体的には、対象地域のうち二戸地域及び久慈地域において住民異動調査及び要介護認定情報の収集を行った。独自に開発した名寄せシステムによって照合されなかった参加者については、住民票(除票)請求を行った。また宮古地域においては対象4市町村と打合せを実施し、住民異動情報及び要介護認定情報の収集を行う準備を行った。 本研究は対象地域の行政機関と連携して実施している。2022年度中に住民異動情報を収集する準備が整った二戸及び久慈地域では予定通り情報を収集した。一方、宮古地域では対象4市町村において情報収集に係る準備が整わなかったため、情報収集は2023年度に見送った。 宮古地域における情報収集については対象4市町村すべてで情報収集に係る準備が整ったため、2024年度は住民異動情報及び要介護認定情報を収集する。また二戸地域及び久慈地域では収集された住民異動情報及び要介護認定を含む追跡データの整理を行う。

  60. 血管新生因子を搭載した人工型エクソソームによる、難治性心疾患の新規治療法の開発 21K08824 2021-04-01 – 2024-03-31 小区分55030:心臓血管外科学関連 基盤研究(C) 山口大学 エクソソーム投与による組織再生について様々な研究が行われている。血管新生を機序とするものが多い。心臓においても心筋梗塞モデルの心機能を回復させた報告が増えている。一方でこれまでも、drug delivery system などの方法で同様の報告が多数、成されてきた。「様々な手段で、動物モデルの心機能は回復し得る」と言える。従って今後は、臨床応用にあたって障害となる部分を如何に改善できるか、有害な副作用を如何に抑制できるか、などが重要と思われる。
    本研究で提案する心臓病変部への集積性・特異性を高めたエクソソームの開発は、このコンセプトに合致し、今後の発展性および社会からの必要性が強く見込まれる。 本研究では、マウス心筋梗塞モデルを使用して、梗塞領域または梗塞領域周辺に特異的に発現している細胞表面抗原分子を探索する研究を行った。マウス心筋梗塞モデルに対して2通りの方法で、梗塞領域または梗塞領域周辺に特異的に発現している細胞表面抗原分子を探索したところ、アレイ解析では、発現レベルが高い遺伝子候補を得ることが出来たが、その後のqPCR解析や免疫染色で発現レベルを確認したところ、発現レベルが高い遺伝子を得ることは出来なかった。
  61. 肺高血圧症ラットモデルにおけるQQ細胞の移植効果 21K08167 2021-04-01 – 2024-03-31 小区分53030:呼吸器内科学関連 基盤研究(C) 獨協医科大学 Quality-Quantity Cultured Cells (QQ細胞) は血管再生能・組織再生能・抗炎症効果を有する。近年の研究により、QQ細胞は、血管再生作用だけでなく、血管内を炎症部位に遊走し、炎症の強い臓器において抗炎症作用が働くことで炎症の波及を抑制・組織再生を促進する作用について示唆されている。自己末梢血の単核球から無血清生体外培養増幅法により効率的に獲得され、静脈内投与により心筋梗塞後の心機能改善や脚虚血の救肢の治験で有効性が示されている。本検討では、QQ細胞の抗炎症作用を活かし、PHモデルラットを用いQQ細胞静脈投与による予後不良かつ治療困難なPHの治療効果を評価する。 炎症性サイトカインの関与が示唆されている特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)は、生命予後が悪く, 治療が確立されていない。本研究で用いるQuality-Quantity Cultured Cells (QQ細胞) は、血管再生能・組織再生能・抗炎症効果を有する細胞群である。IPAHラットモデルを用い、QQ細胞の抗炎症作用による細胞移植治療効果を検討した。PAH未治療群と比較し、QQ細胞投与群の生存率は高く、肺組織のPCR解析では、抗炎症作用を示すM2マクロファージが増加し、炎症性サイトカインが減少していた。上記の結果より、QQ細胞移植による肺への抗炎症作用の有用性が示唆された。
  62. 家族性高コレステロール血症の残余リスク制圧:コレステロール搬出促進薬の開発基盤 21K08143 2021-04-01 – 2025-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 順天堂大学(2023) / 千葉大学(2021-2022) 脳梗塞や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患は麻痺・寝たきり・認知症・心不全などの原因となり、健康寿命を短縮させるため、その予防は重要課題です。悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールを低下させても動脈硬化性疾患のリスクはゼロにならないため、善玉コレステロールと考えられてきたHDL-Cを増加させる戦略が考えられてきました。しかし、HDLコレステロールを増やしても心血管イベントは減らないことが報告され、HDLの研究は量から質にシフトしています。本研究計画ではHDLの質の悪化と動脈硬化の重症化に共通する特定の物質を明らかにし、その阻害薬を開発するための基盤研究です。 心筋梗塞症例と非心筋梗塞症例においてHDLコレステロール(HDL-C)値とコレステロール引き抜き能(cholesterol efflux capacity: CEC)、全身の酸化ストレス指標となるマーカー(酸化アルブミン)との関連を検討する症例対照研究を開始し、①HDL-C値とCECの関連は正常対照群よりも心筋梗塞患者において低いこと、②心筋梗塞患者における全身の酸化ストレス指標はCECで予測できるが、HDL-C値では予測できないこと、という知見を得た(J Atheroscler Thromb. 2024 Feb 20. doi: 10.5551/jat.64691)。
    また、CECがHDLの抗酸化作用の一部を担うparaoxonase 1 (PON1)の活性とPON1遺伝子多型の両方に関連することを明らかにした(J Atheroscler Thromb. 2024 Mar 19. doi: 10.5551/jat.64711)。
    家族性高コレステロール血症患者におけるコレステロール取り込み能(cholesterol uptake capacity: CUC)の臨床的意義に関する金沢大学と神戸大学の共著論文に対し、Editorial Commentsを執筆した(Circ J. 2023 May 25;87(6):813-814)。
    家族性高コレステロール血症患者のコレステロール引き抜き能を低下させる要因としてのLp(a)の関与を見出し、2024年度の国内および国外学会での発表に採択されたため、現在、論文化を進めている。
    家族性高コレステロール血症関連では、日本循環器学会の「冠動脈疾患の一次予防に関するガイドライン(改訂版)」の班員として「家族性高コレステロール血症」の項を担当し執筆した(Circ J. 2024 Apr 25;88(5):763-842.) sPLA2-VのELISAキットの不具合により予備検討結果の検証が遅れている。一方でHDL-C値よりもCECが心筋梗塞急性期における酸化ストレス状態を反映していること、抗酸化能とCECの関連について新たな発見があった。 引き続きPLA2活性とCECの関連を追究したいが、ELISAキットの不具合が改善されない場合は、新たに見出したLp(a)とCECの関連についてさらに検討を深め、論文化につなげたい。
  63. 多施設レジストリデータベースを用いた心不全患者の多面的評価 21K08142 2021-04-01 – 2024-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 公益財団法人榊原記念財団(臨床研究施設・研究部門) 心不全患者は極めて非均一な集団であり、ゆえに治療戦略は複雑化し、効果的な介入につなげることが難しくなっている。こうした現状を打破するには、従来からの臨床評価項目に加えて、多職種からの視点を含んだ医療チームによる多面的な患者評価が必要である。また近年、Shared Decision Makingの機運が高まっており、医師患者間の情報共有が重要となっている。本研究では質問紙票を用いて、患者と医師双方の理解を評価し、効果的な介入方法を探索する。 多規模データベースを用いて入院加療を要した急性心不全患者の多面的評価を行った。腎機能障害によるフェノマッピング、至適心拍数の個別化、低栄養におけるガイドライン推奨心不全治療の実態、AIによる心電図解析を用いた突然死予測、非心臓系合併症によるフェノマッピング、GNRI栄養スコアによる予後予測などについて研究成果を公表した。この10年間における6877例の心不全患者の治療実態を調査し、収縮機能の低下した心不全例については予後に格段の改善がみられ、それ以外の心不全例については明らかな改善が見られないことが明らかとなった。今後の高齢者の収縮機能の保たれた心不全例の治療に新たな課題が浮き彫りとなった。
  64. 12誘導心電図生成モデルを用いた新たな心臓突然死予測支援技術の開発 21K08140 2021-04-01 – 2024-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 藤田医科大学 日本では年間約7万人が心臓突然死で亡くなる。この原因の多くは心室性不整脈である. 心臓突然死による社会的、経済的損失は大きく、また、遺族の心理的ダメージも大きい. 本研究では、心臓突然死を起こす可能性の高い患者を予測する新たな方法を開発することを目的とする。正常あるいは境界域の膨大な心電図データを、敵対的生成ネットワーク(generative adversarial network)を用いて、心臓突然死を起こした症例の仮想心電図に変換し、変換前の心電図との差を検出評価することによって、心臓突然死発生に関連する心電図部分を明らかにする斬新な技術を開発する. 心臓突然死の多くは致死性頻脈性不整脈によって発生する。心肺蘇生により生還すると、突然死の二次予防のために植込み型除細動器を埋め込むが、ショック治療がなされた際のダメージは大きい。また、低心機能や遺伝性不整脈など心臓突然死ハイリスク群では一次予防として同機器が植込まれるが、適切作動は少ないため、正確な心電図リスク層別法が望まれる。本研究では敵対的生成ネットワーク(generative adversarial network)により、心臓突然死例の心電図を正常心電図に変換することにより、変換前後の心電図の差を検出評価することによって、心臓突然死リスクを予測する斬新な技術を開発することを目標とした.
  65. 急性心筋梗塞の超急性期臨床指標を用いた汎用型予後予測モデルの開発 21K08130 2021-04-01 – 2024-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 佐賀大学 本研究は、心筋梗塞の超急性期において、臨床的汎用性が高い指標を用いて予後に関するリスク予測モデルを構築するものである。つまり、客観性・再現性が高い一般的臨床所見のみを用いて、中長期的な心腎合併症を含めた予後予測能の評価に焦点を当てた新たなリスク予測モデルの確立を目的とした研究であり、心筋梗塞患者の中長期的な予後の改善に寄与しうると期待される。また、本研究で得られたリスク予測モデルの汎用性を広く検証することにより、臨床現場における活用の可能性を拡大させ、心筋梗塞診療の質向上に資する研究となることを最大の目的とする。 データベースに登録された連続する心筋梗塞症例に対して、心筋梗塞超急性期に採取された複数の一般採血指標を組み合わせ、院内での急性腎障害の発症、院内での大出血の発生、一年後の死亡率の各リスクを予測する新規のモデルを構築した。構築されたモデルは既存の予測モデルよりも簡便に評価が可能であり、リスクの層別能も向上することが判明した。次に、同データベースを用いて、心筋梗塞急性期から慢性期にかけての血清アルブミンおよび左室収縮率の変化の軌跡パターンを解析し、予後予測能に優れた軌跡パターンを同定することに成功した。軌跡パターンを同定するため、慢性期における臨床検査のリアセスメントの意義を提言することができた。
  66. 深層学習とマルチトレーサーを活用した心外膜下脂肪の次世代病態イメージングの開発 21K08127 2021-04-01 – 2024-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 広島大学 心臓の周囲に存在する内臓脂肪である心外膜下脂肪(EAT)がどのように心臓病やその重症度と関連しているかに着目し、心臓手術中に採取したEATの組織検体を用いた解析を実行し、深層学習やPET用の様々な試薬等を活用した画像診断の開発を目指します。心臓の血管(冠動脈)、心臓の筋肉(心筋)や弁膜とEATの評価を組み合わせた画像技術により、新たな心血管病の評価、診断手法の確立に繋げることを目的としています。 心臓手術前のCT画像解析と術中に採取した心外膜下脂肪組織(EAT)の組織学的解析を通し、EATにおける炎症、石灰化基質の発現が大動脈弁石灰化に関わっていること、EATの分子生物学的変性の臨床的サロゲートとしてCT値を用いたイメージングマーカーが活用できる可能性を見出した。
    一方、PET用バイオトレーサー18F-フッ化ナトリウム(18F-NaF)の冠動脈プラークにおける集積が冠動脈イベントの予測指標として有用であることを示し、冠動脈プラークのNaF信号が近傍EATのCT値上昇(炎症亢進)と相関することから、CTとPETを用いた新たな病態イメージング評価法の構築に繋がる知見を得た。

  67. 肥満型心不全の分子機構の解明とその制御 21K08109 2021-04-01 – 2025-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 埼玉医科大学(2023) / 熊本大学(2021-2022) 本研究では、詳細な臨床データベースをもとに肥満型心不全の臨床特性を明らかにする。さらに、肥満型心不全の病態を制御しているmicroRNAsを同定し、同標的microRNAあるいは同microRNAの関与する標的シグナルの分子の遺伝子操作を加えた間葉系幹細胞の機能をキメラマウスモデルによって解析し、新規治療標的を同定する。本研究による肥満型心不全の分子機構の解明が新たな治療戦略へとつながることが期待される。 令和5年度は、肥満型心不全の制御に関して肥満に密接に関連する糖尿病と心不全の代表的な原因の一つである心筋梗塞の関連について解析を施行した。腎障害を合併した急性心筋梗塞は予後が悪いことが知られているが、腎障害を合併した急性心筋梗塞の予後と糖尿病の関係については未解明な点が多いため、連続2988人の腎障害 (推算糸球体濾過量 < 60 mL/min per 1.73 m2) を合併した急性心筋梗塞患者の院内予後における糖尿病の影響を詳細に検討した。臨床像では、若年者 (65歳未満) で肥満の指標である体格指数が有意に高値であった。多変量解析の結果、糖尿病は若年者では独立した院内予後規定因子であるものの、高齢者 (65歳以上) では院内予後規定因子とはならなかった。本研究ではさらに対象患者全体を男性と女性に分け、院内予後における糖尿病の影響の性差についても解析した。臨床像では、男性で肥満の指標である体格指数が有意に高値であった。多変量解析の結果、糖尿病は男性では独立した院内予後規定因子であるものの、女性では院内予後規定因子とはならなかった。本研究の結果は腎障害を合併した急性心筋梗塞において糖尿病が若年者では独立した院内予後規定因子であるものの高齢者では院内予後規定因子とはならず、男性では独立した院内予後規定因子である一方で女性では院内予後規定因子ではないという新たな知見であり、肥満・糖尿病・心筋梗塞・心不全の病態に関する重要な研究成果と考えられ、Hellenic Journal of Cardiology誌に報告した (Matsushita K et al. Hellenic J Cardiol. 2023 Nov 11: S1109-9666(23)00221-X. doi: 10.1016/j.hjc.2023.11.002. Online ahead of print)。 肥満と心不全に関連する臨床情報解析から研究を開始し、現在継続中である。肥満型心不全の制御に関して肥満に密接に関連する糖尿病と心不全の代表的な原因の一つである心筋梗塞の関連について詳細に検討した。臨床上ハイリスク群として知られている腎障害を合併した急性心筋梗塞患者について連続2988例を解析した結果、若年者 (65歳未満) で肥満の指標である体格指数、糖尿病合併率、男性の割合、脂質異常症合併率、喫煙率、緊急冠動脈造影検査の施行率等が有意に高く、高齢者 (65歳以上) で高血圧症合併率等が有意に高いという結果であった。高齢者の方が若年者よりも院内死亡率が高い傾向であったが統計学的に有意なレベルには達しなかった。多変量解析の結果、糖尿病は若年者では独立した院内予後規定因子であるものの、高齢者では院内予後規定因子とはならなかった。さらに、男女別の比較では男性で肥満の指標である体格指数、喫煙率、緊急冠動脈造影検査の施行率等が有意に高く、女性で年齢、高血圧症合併率等が有意に高いという結果であった。院内死亡率は女性の方が男性よりも有意に高かった。多変量解析の結果、糖尿病は男性では独立した院内予後規定因子であるものの、女性では院内予後規定因子とはならなかった。本研究の結果は腎障害を合併した急性心筋梗塞において糖尿病が若年者では独立した院内予後規定因子であるものの高齢者では院内予後規定因子とはならず、男性では独立した院内予後規定因子である一方で女性では院内予後規定因子ではないという新たな知見であり、肥満・糖尿病・心筋梗塞・心不全の病態に関する重要な研究成果と考えられ、Hellenic Journal of Cardiology誌に報告した。今後も肥満と心不全の関連に対する解析を継続予定である。 臨床情報解析をさらに発展させる。研究計画に掲げていたとおり、最新の知見に基づいて検討項目を細かく変更していきながら研究を施行する。心不全を左室収縮能保持性心不全 (Heart Failure with preserved Ejection Fraction: HFpEF)と左室収縮能の低下した心不全 (Heart Failure with reduced Ejection Fraction: HFrEF)に分け、それぞれの臨床像と肥満の関連について研究を進め、肥満型HFpEFと肥満型HFrEFの臨床特性を明らかにする。また、肥満に密接に関連する糖尿病と心不全の関係についても解析を施行する。心不全治療薬については、新規治療薬を含めて入院前の服薬状況から入院中の治療薬、退院時の投薬内容まで詳細に解析する。退院日以降は、心不全による再入院の有無、心不全死の有無、非心臓死の有無を含めた経過・予後の解析も施行する。
    さらに、肥満型心不全の分子機構の解明につながる分子生物学的研究へと発展させる。肥満型心不全の病態を制御している可能性のある標的シグナル・分子の探索へと研究を発展させ、新規治療標的についても検討する。
    未だ不明な点が多く複雑な病態である肥満型心不全の機序・修飾因子を解明し、新たな治療戦略へとつながる成果を得ることを目的として、これらの研究を継続する予定である。
  68. 冠動脈プラーク内部に発生する応力評価を用いた高リスクプラーク同定の試み 21K08106 2021-04-01 – 2024-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 神戸大学 動脈硬化の進展や不安定化はプラークの形態、質、種々の血行力学的因子が複雑に絡み合い生じているが、ACS発症の原因となる高リスクプラークを正確に同定する画像診断法は存在しない。本研究では、OCTと2方向の血管造影から得られた画像情報をもとに数値流体力学解析を用いてプラーク内外から発生する機械的ストレスを定量化する新たな手法を確立し、プラークの不安定化や破綻との関連を検討する。また、OCTで得られるプラークの形態的評価、質的評価にプラーク内外にかかる血行力学的評価を加え一元的に検討することで、ACSを発症する高リスクプラークをより正確に同定する方法を模索する。 本研究では, 2 方向の冠動脈造影画像と光干渉断層撮影画像を用いて、屈曲やねじれを考慮した3D血管モデルを作製する方法を確立した.次に同様の手法で18名の心筋梗塞患者の血管モデルを作製し,血流解析を行った。結果、狭窄部前後の圧損失は実臨床で取り得る範囲内であり,本血管モデルが妥当なモデルであることが確認された.さらにWall shear stressの解析では、心筋梗塞の原因となった最狭窄部位、プラークの破綻部位において最も高いWall shear stressを示していた。今後は、このモデルを用いてプラーク内部にかかる機械的ストレスを算出し、プラーク破綻の機序をより詳細に解明する方針である。
  69. 左室リバースリモデリングにおけるオートファジーの病態的意義と治療応用の探索 21K08077 2021-04-01 – 2024-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 岐阜大学 本研究ではヒト心筋生検組織と臨床データを用いてオートファジーと左室リバースリモデリングや心不全予後との関連を明らかにする。さらに動物実験により長期的なオートファジーへの介入が左室リモデリングに与える影響についてSGLT2阻害薬を用いて明らかにする。SGLT2阻害薬の抗心不全作用は持続的な心筋オートファジーの亢進による効果である可能性がある。これらの臨床研究と動物実験から新しい心不全治療戦略を追求する。 オートファジーは細胞内蛋白分解機構の1つである。左室リバースリモデリング(LVRR)における心筋オートファジーの役割を調べるためヒト拡張型心筋症(DCM)の心筋生検標本を用いた検討を行った。LVRR成功例と非成功例を調べたところLVRR成功例ではオートファジー空胞が多くリソソーム活性の指標であるカテプシンDの発現が増加していた。ロジスティック解析によりオートファジー空胞の数とカテプシンDの発現はLVRRの予測因子であることが示された。またLVRRが成功した症例はその後の心血管イベントが少なかった。以上より心筋オートファジーはDCMの予後予測因子となると同時に治療標的になりうることが示された。
  70. 深層学習による冠動脈粥腫自動診断システムの開発とその臨床応用に関する研究 21K08065 2021-04-01 – 2024-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 関西医科大学 本研究では深層学習の手法を用い、高性能コンピューターに膨大な光干渉断層画像装置(OFDI)と病理のペア画像を学習させ、人間による読影では達成し得ない高い精度で冠動脈の組織性状診断が行えるプログラムを開発することを目的とする。本研究の未来として、同プログラムをOFDI装置に組み込むことで、経験の浅い非専門医でも不安定粥腫を正確に診断することができ、経皮的冠動脈インターベンションによる合併症発生リスクを軽減させる適切な治療戦略や急性心筋梗塞発症の予防方法を確立させることを可能とする。 ディープラーニングを用いてOFDI画像から冠動脈組織性状の診断を自動化することを目指しました。対象は、45例の剖検心から得た109本の冠動脈で、ex vivoでOFDI検査を行い、1,103セットの一致した動脈硬化性変化を有する病理切片画像とOFDI画像を取得しました。これらの画像をトレーニング、検証、テストの3つのデータセットに分割し、トレーニングセットからPSPNetをベースにした深層学習モデルを構築しました。モデルの評価を行ったところ、検証セットで平均Fスコアが0.6255、IoUが0.488を、テストセットでは平均Fスコアが0.6577、IoUが0.5166を達成することができました。
  71. 冠動脈疾患各種画像診断からの情報統合と深層学習を融合した革新的治療補助法の開発 21K08044 2021-04-01 – 2024-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 国立研究開発法人国立循環器病研究センター 本研究では、深層学習法によって各種画像情報から得られる位置情報・形態情報・機能情報・質的情報を統合させることに加え、質的情報の精度を向上させるために冠動脈プラークの病理組織解析から得られた分子病理学的情報も融合させる事により、冠動脈疾患の急性期治療の段階から長期予後改善を見据えた至適治療法(薬物療法・血行再建術)の選択を支援するシステム開発を目指す。 急性心筋梗塞・冠動脈疾患における侵襲的画像所見を中心として心電図所見・臨床情報を統合したリスク層別化技術の開発を行った。急性心筋梗塞後の侵襲的画像診断・心電図・低侵襲画像を統合した突然死予測、複雑冠動脈病変に対するカテーテルインターベンション治療予後予測因子を明らかにした。冠動脈疾患における低侵襲画像診断を中心としたリスク層別化技術開発研究では、冠動脈CT・MRI所見から心筋虚血発生の推定法の開発、画像所見と病理像の検証に加え、深層学習法による高リスク冠動脈プラークを認識する技術開発を行なった。
  72. デジタル心電データを用いた不整脈ストーム化の予測と心臓突然死予防 21K08028 2021-04-01 – 2024-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 岡山大学 心臓突然死は心室頻拍、心室細動といった重症心室性不整脈が主要な原因を占める。不整脈発生リスクを評価し、適切な治療を行っていても、高リスク例では不整脈ストームが発生し、短時間に頻回の心室頻拍・細動をくり返し、治療抵抗性で極めて予後不良となる。我々はデジタル心電情報における新しいリスク指標であるQRS波形の分裂電位やJ波、T波細分析などに注目し、心疾患における致死的不整脈や心不全の発生リスクを検討し、予測因子としてその有用性を報告してきた。心室ストーム化の基盤として障害心筋やイオンチャネル機能異常があり、これらの基質は、デジタル心電情報に反映されると考えられる。 重症不整脈症候群における解析を行った。心臓サルコイドーシスでは、QRS棘波の程度・分布、ε波が不整脈ストームと関連していた。いずれも著明な伝導障害を示す所見であり、その結果心拍数の早い心室頻拍(VT)、多形性VT、多種類のVTが不整脈ストーム時に発生した。Brugda症候群の完全右脚ブロックは60%の例で右脚末梢から右室心筋にかけての伝導障害が原因であった。得に興奮伝播遅延が著明な例では、心室細動(VF)発生が頻回であった。早期再分極症候群(ERS)では、QT・QTp間隔の短縮、上海スコアシステム高値、低体温療法がストーム発生と関連していた。致死的不整脈発生に共通して伝導障害が重要である。
  73. 高齢者コホートデータ人工知能解析によるフレイルネットワーク分析及び予後因子の同定 21K07372 2021-04-01 – 2024-03-31 小区分52010:内科学一般関連 基盤研究(C) 鹿児島大学 健康長寿・QOL保持を目指すフレイル制御のために、毎年1000名以上の高齢者を多職種・専門的・多面的に評価した高齢者コホート研究データ(垂水研究)を用いて、『フレイルを規定・悪化させている因子は何か?』、『身体的・精神的・社会的フレイルはどのように影響しあっているのか?』、『フレイル出現・悪化を予知・予防できるのか?』の3つのなぞに関して、AI(機械学習・ニューラルネットワーク)解析の手法を用いて明らかにする。 本研究対象の垂水研究は新型コロナ禍により2020年中止、2021年からの70%規模縮小により計画通りに研究が進んでいない。垂水研究2019年データ・大規模健診データを用い解析で2024年垂水研究再開後速やかに本研究を遂行するための準備をした。アパシーと墓参り・総合的フレイル・満足度、フレイルと意味のある活動・満足度・高次能力・食事の多様性、オーラルフレイルと蛋白摂取・フレイル・サルコペニアといったフレイルの多面的解析を報告した。大規模健診データから高血圧、MetS、慢性腎臓病、心房細動といった疾患発症予測モデルを構築し、高血圧および慢性腎臓病においてAI解析予測能を持つことを証明した。
  74. 糖尿病におけるケトン体代謝シフトの意義と長期予後予測 21K06797 2021-04-01 – 2024-03-31 小区分48030:薬理学関連 基盤研究(C) 千葉大学 生涯疾患である糖尿病の長期予後改善のため、特に心血管イベントリスク(CVR)の総合的予測を目指し、疾患時間軸に基づいてリスクを分析する疾患数理モデルの構築と精密予測に寄与する新規バイオマーカーの創出に取り組む。モデル構築には被験者個別の公開臨床試験情報を活用し、短期間のバイオマーカー情報から全病期の長期推移を予測する独自技術を用いる。さらにCVRに寄与する新規バイオマーカーとしてSGLT2阻害薬の臓器保護作用で見いだされたケトン体代謝の有用性を探る。最終的に疾患数理モデルのパラメータにケトン体情報を追加することで精密予測への寄与を検証する。 本研究では2型糖尿病患者(T2DM)の心血管イベントリスク(CVR)の総合的予測を目指した。T2DMを対象に実施されたACCORD試験の被験者個別情報を活用し、個別に全病期の疾患時間を推定した。推定疾患時間に基づき全死亡リスクが増加し、科学的に妥当な予測と見込まれた。また、SGLT2阻害薬の心保護作用で示唆されている代謝シフトと組織炎症の相関を特に心外膜脂肪を想定して検討した。SGLT2 阻害薬は抗炎症作用を示し、一部のアミノ酸や糖代謝経路が炎症及び治療に連動して変化した。将来的には疾患数理モデルのパラメータに代謝シフトから探索するバイオマーカー情報を追加することで精密予測を目指す。
  75. ミトコンドリアが制御する心組織恒常性維持機構解明と心疾患治療への応用 21H04825 2021-04-05 – 2024-03-31 中区分53:器官システム内科学およびその関連分野 基盤研究(A) 熊本大学 ミトコンドリア機能は、ストレスに対して数・質・形態を適切に変化させるミトコンドリア恒常性(マイトスタシス)機構により制御されている。本研究では、心筋細胞のマイトスタシス制御に関わる遺伝子の遺伝子改変マウスを用いた各心病態モデル解析、オミックス解析、ミトコンドリア機能解析、およびエネルギー代謝解析から、十分に解明されていない心臓組織の応答・修復機構とその変容(病態発症)とマイトスタシス制御との連関および分子基盤を解明し、その制御戦略創出による応用開発を目指す。 心臓組織の応答・修復機構とその変容による心疾患発症の分子機構は十分に解明されていない。本研究により、心筋細胞のミトコンドリアの量・質の変容が、心臓組織の応答変容による病的な心筋細胞肥大と心線維化を促進し、心疾患発症に繋がることが示唆された。さらに、加齢や圧負荷によって心筋細胞における新規long non-coding RNA Carenの発現量が低下することで、その心保護作用が減弱し、心筋細胞におけるミトコンドリア生合成低下やDNA損傷応答活性化が促進され、心不全の発症・進展に繋がることを解明した。また、心筋細胞へのCaren発現補充が、心不全の新規治療戦略として有用であることも示唆された。
  76. 地域住民を対象とした生活習慣病の包括的リスクアルゴリズムの検証的疫学研究 21H03206 2021-04-01 – 2024-03-31 小区分58030:衛生学および公衆衛生学分野関連:実験系を含まない 基盤研究(B) 久留米大学 我々は、1994年から生活習慣病の大規模横断研究基盤(15700例)と、愛知県北名古屋市住民(参加者:3975例)及び大企業従業員(3486例)を対象とした縦断研究基盤を構築してきた。本研究では、横断研究基盤を用いて、ゲノムワイド関連解析およびゲノムワイドDNAメチル化解析により生活習慣病のリスクマーカーを同定し、従来の古典的リスクマーカーを統合したリスク診断アルゴリズムを確立する。さらに、高血圧症罹患後の心疾患および脳血管疾患の発症と関連する候補血清microRNAをスクリーニング後、縦断研究基盤を用いて、前向き疫学研究で検証し、高血圧症の予後を反映するmicroRNAを同定することを目的とする。 高齢化社会を迎えた現在の我が国において、循環器疾患を含む生活習慣病に対する予防法の確立は、医学・医療における重要な課題となっている。本研究では、過去に我々が蓄積してきた研究基盤を基に、国内・国際コンソーシアムへ参画してゲノムワイド関連解析を行い、2型糖尿病、高血圧症、脂質異常症、体格指標(肥満)の4大生活習慣病のリスクマーカーの更なる同定に成功した。さらに、独自研究として血中のmicroRNAに着目し、我々の前向きコホート研究の検体を用いることで心疾患と関連するmicroRNAの同定に成功した。
  77. 偏光感受性OCTを用いたコラーゲンリモデリングと冠動脈プラーク不安定化機序の解明 20K22923 2020-09-11 – 2023-03-31 0903:器官システム内科学およびその関連分野 研究活動スタート支援 大阪公立大学(2022) / 大阪市立大学(2020-2021) 急性心筋梗塞は冠動脈プラークの不安定化により発症する。しかし、冠動脈壁コラーゲン組織の改変が生体内でどのようにプラーク不安定化に影響しているかは未解明である。偏光測定光干渉断層法は、光干渉断層法による構造的観察に加え、組織の偏光特性を測定することでコラーゲン性状を観察できるイメージング技術である。本研究では冠動脈疾患を有する患者にカテーテル型偏光測定光干渉断層法を施行し、冠動脈プラークコラーゲンの特性と3次元構造を解明し、プラーク不安定化におけるコラーゲン組織改変の意義を解明する。本研究により、コラーゲン性状を指標とした新規治療戦略の確立に繋げたい。 PS-OCTコンソールを導入し、大阪公立大学医学部附属病院に設置した。倫理委員会の承認後、冠動脈インターベンションを行う患者を対象とし、慢性冠症候群患者(n=6)と急性冠症候群(n=5)患者を登録した。プラーク破綻やびらんによる血栓、血管内皮の治癒過程をと考えられる層状プラークについて、複屈折の差異を観察した。急性冠症候群患者の責任病変の複屈折は、慢性冠症候群患者の複屈折と比較して低いことから、細胞外マトリックス性状の差異が示唆された。今後さらに、症例数を増やし、追跡症例の画像解析を行なう予定である。
  78. 世界初のヒト嗅覚に基づく匂い分析技術による心不全予後予測バイオマーカーの探索 20K21893 2020-07-30 – 2023-03-31 中区分90:人間医工学およびその関連分野 挑戦的研究(萌芽) 大阪大学 心不全の予後を、血清や尿中の単一の代謝物質の測定で、簡便に予測することは難しかった。本研究では心不全患者の匂いに着目し、終末期に近い入院中あるいは在宅医療を実施中の心不全患者から、呼気、尿、皮脂より遊離するガスを収集し、大阪大学産業科学研究所黒田俊一教授らが独自に開発した、網羅的匂い解析装置「ヒト嗅覚受容体センサー」により解析する。本装置では、ヒトが感じる匂い分子のみをヒト嗅覚と同等に検知し、単一の匂い分子のみならず複数の匂い分子を組み合わせとしてパターン認識が可能であり、予後予測に有用なヒト嗅覚受容体を数個特定し、これに対応した患者由来匂い成分を心不全予後予測バイオマーカーとして同定する。 本研究では、終末期心不全におけるポータビリティの高い検査機器の開発を目指し、心不全患者から匂いサンプルを収集し、大阪大学産業科学研究所黒田俊一教授らが独自に開発した網羅的匂い解析装置“ヒト嗅覚受容体センサー”により解析を試みた。
    匂い成分の収集方法は、予備検討で、尿が検体輸送、検体保存が容易であり、比較的匂い物質の濃度が高いことが想定された尿とし、少数例の心不全患者から尿検体の解析を開始した。不特定多数の匂い物質が検出された一方で、研究期間を通じてCOVID-19感染症が拡大し多くの臨床検体を解析することが困難となり、機械学習等での解析も難しかったため特定の物質の同定には至らなかった。

  79. 唾液中の炎症性バイオマーカーがメタボリックシンドロームの罹患に及ぼす影響 20K18629 2020-04-01 – 2022-03-31 小区分57050:補綴系歯学関連 若手研究 大阪大学 メタボリックシンドロームは、肥満、高血圧、高血糖および脂質異常などの代謝異常が複合した病態であり、現在世界中で有病率の増加が懸念されている。これまで、歯周病とメタボリックシンドロームとの関連について様々な報告がなされてきた。近年、歯周病の臨床的指標として、唾液中の炎症性バイオマーカーが注目されている。そこで本研究では、都市部一般住民を対象としたコホート研究により、唾液中の炎症性バイオマーカーがメタボリックシンドロームの罹患に及ぼす影響を、これまでにない大規模なサンプルサイズを用いた縦断解析によって明らかにすることを目的とする。 都市部一般住民を対象に、国立循環器病研究センターにおいて、基本健診ならびに歯科健診を行い、以下のような関連を見出した。
    1.唾液中のストレスマーカーであるIL-6やコルチゾールと咀嚼能率との関連が明らかになった。2.歯周病の悪化が経年的な咀嚼能率低下に影響を及ぼすことが明らかになった。3.咀嚼能率の低値および歯周病と将来的なメタボリックシンドローム新規罹患との関連が明らかになった。4.最大咬合力の低値が将来的な循環器病発症のリスクであることが明らかになった。

  80. 脳梗塞に対応する血清抗体マーカーによる発症予測と病型診断 20K17953 2020-04-01 – 2024-03-31 小区分56010:脳神経外科学関連 若手研究 千葉大学 動脈硬化に関与する自己抗体が存在する可能性を背景に、発現クローニング法により脳梗塞に対する抗体マーカーを同定してきた。新たなマーカーを同定していく中で、動脈硬化を反映するマーカーと脳虚血に特異的なマーカーが存在することがわかった。これらを応用すると、動脈硬化の進行により脳梗塞発症リスクを判定できるだけでなく、血栓症か塞栓症か、脳梗塞の病型を判別できる可能性が見出された。
    本研究では、脳梗塞病型に応じた新たな抗体マーカーを同定するとともに、既知のマーカーとも組み合わせて脳梗塞マーカーの臨床応用を図る。これにより脳梗塞の発症予測と病型診断が可能となり、日常診療へ貢献できることを確信している。 新たなマーカーを同定する中で、本研究期間に12マーカーに関する9つの論文を発表した。それぞれのマーカーには、脳梗塞のみならず、動脈硬化関連疾患や各種がんにおいても有意に上昇するという特徴があり、有用なマーカーと考えている。
    また、今までのマーカーを複数組み合わせることで診断精度が上がるか検証し、単独マーカーより高い精度で脳梗塞発症を予測できる結果が得られた。タンパク機能解析や機械学習を取り入れることでさらに診断精度が高くなることも実証できたため、臨床応用へ進めていく。
  81. エリスロポエチン受容体を介した急性腎障害の新規治療法の開発 20K17268 2020-04-01 – 2024-03-31 小区分53040:腎臓内科学関連 若手研究 久留米大学 エリスロポエチン(EPO)は動物実験では虚血障害に対して有効な薬剤である。一方、ヒトにおいてEPOは心腎血管系に対する保護効果は認めず、臓器障害は貧血よりEPO低反応性を引き起こす病態の方が大きいと考えられている。申請者は尿毒素物質の1つであるADMAがエリスロポエチン受容体低下を引き起こしEPO低反応性を誘導することを見出した。術後の急性腎不全や腎移植から生じる急性腎障害は不可避な医原性腎疾患であるが、障害発症が予想できるため予防可能な急性腎障害ともいえる。急性腎障害時のADMA-エリスロポエチン受容体を明らかにすることは、急性腎障害の新たな治療戦略となり腎臓分野へ貢献ができると考えている。 我々は腎不全時のエリスロポエチン低反応性にNO合成阻害物質であるADMAが関与することを明らかにしてきた。本研究では急性腎障害時の貧血や腎障害にもADMAによるエリスロポエチン低反応性が関与すると仮説をたて、急性腎障害のマーカーおよびエリスロポエチン低反応性を介した治療法の開発を目指した。結果、急性腎障害時は貧血と腎機能障害が相関し、ADMAの構造異性体であるSDMAが初期の腎不全予測の有用なマーカーになることを明らかにし、ADMA/SDMAのELISA用抗体を作成した。さらにADMAを抑制する化合物を探索するため2種類のHTSを構築し既知化合物1,234種類から9種類の化合物を見出した。
  82. 急性腎障害後の予後予測因子に関する前向き研究 20K17253 2020-04-01 – 2024-03-31 小区分53040:腎臓内科学関連 若手研究 名古屋市立大学 本研究では、急性腎障害(AKI)のリスクの高い慢性腎臓病または蛋白尿陽性の患者を対象とし、AKIの発症率の高い状況として、消化器外科の開腹手術、心臓血管外科手術、化学療法を受ける患者を対象として研究を行う。対象患者を前向きに長期経過観察を行い、AKIを起こさなかった患者に比べてAKIを起こした患者で起こっている変化を調べる。一般的な心血管系イベントや末期腎不全のリスク因子(血圧、蛋白尿、脂質、血糖、喫煙など)だけではなく、炎症、貧血、骨代謝などについても検討し、さらに予後との関連を検討することで、今後の介入研究につなげていくことを目的とする。 予備解析で、eGFR、ヘモグロビン濃度ともにAKIを起こした症例で長期に低かった。一方、エリスロポエチン(EPO)の血中濃度はAKI症例の方が高い傾向にあった(p for interaction 0.08)。また、ln(フェリチン/TSAT)で定義した鉄囲い込み指数(慢性炎症の指標)は、AKIを起こした症例で高い傾向にあった。AKIを起こした症例でもEPO産生能は保たれており、貧血が起こるのはむしろ、慢性炎症による鉄囲い込みが起こるからであることを示唆する結果となっている。腎容積はeGFRと独立してAKIと関連しており、腎容積が小さい症例では、RAS阻害薬投与でAKIが多かった。
  83. 4D flow MRIによる血流解析を利用した、心筋梗塞に伴う左室内血栓症の予測 20K17144 2020-04-01 – 2025-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 浜松医科大学 心筋梗塞に伴う重大な合併症として左室内血栓症に伴う全身性塞栓症が挙げられる。
    血栓形成には血流の緩慢が関わっているが、血流速度と左室内血栓の関係について詳細はわかっていない。我々は4D flow MRIを用いて心筋梗塞患者の急性期と遠隔期に血流動態を解析し、左室リモデリングや左室内血栓と血流動態との関係を明らかにする。最後に血流動態パラメーターを含めたリスク因子を組み合わせることにより、左室内血栓を予測するリスクスコアリングを確立する。左室内血栓の予測や抗凝固療法の必要性を判定することで、急性心筋梗塞後の患者マネージメントを改善することが期待できる。 これまで、計121例の急性心筋梗塞(急性期)に対し、4D flow MRIを含む心臓MRIを施行した。また59例において遠隔期の4D flow MRIを施行した。現時点では5例で左室内血栓を認めている。早期の血行再建や薬物治療の発達により、左室内血栓を生じる症例はかなり少数であるため、統計解析を施行するほどの症例数を蓄積するのは難しいと考えている。このため、心筋梗塞後の薬物治療と左室リモデリングの関係性について、4D flow MRIを用いて評価する方針としている。
    本研究の基盤となる先行研究のなかで、4D flow MRIで計測した左室心尖部血流速度や左室サイズに対する相対的渦流サイズが左室内血栓に関与する可能性があることを解明した。このことより、左室心尖部血流速度や渦流サイズに関与するその他の因子について検討する。具体的には、NYHAや心不全に関与する身体所見、血液データ、心臓MRIパラメーター、心エコーパラメーター、薬物治療などのパラメーターについて検討する予定である。その中でも特に注目しているのがβ遮断薬の使用に関してである。先行論文のなかにβ遮断薬により左室内血栓形成の頻度が高くなるという報告があるため、詳細に検討する。 左室内血栓症例の蓄積が少数であるため、血栓症群と血栓のない群での統計学的比較は困難と判断した。症例蓄積のために登録期間を延長していたため、やや遅れている。
    今後は、副次評価として現在蓄積した症例について、その他の観点からの比較検討を行う方針を進める。 左室内血栓症の症例が少数であるため、本来の目的である左室内血栓の有無による血行動態の比較は困難である。左室内血栓を認めた小数例については、血行動態の特徴についてここに評価することとする。
    先行論文に基づき、左室内血行動態と血栓形成に関与する因子との関連についての検討をおこなっていく。とくにリモデリング・リバースリモデリングの観察とともに血行動態の変化について、研究を進めていく。次年度にデータをまとめ、報告する予定である。

  84. 循環器病に対する薬物療法認知コンピューティング支援ツールの開発と臨床応用 20K17138 2020-04-01 – 2024-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 国立研究開発法人国立循環器病研究センター 超高齢社会の本邦において循環器病の社会的負担は著しく大きい。その治療は薬物療法が中心となるが、併存疾患が多く、テイラーメードの薬物選択が必要とされる。本研究は申請者が発表してきた抗凝固療法を要する急性心筋梗塞の至適な薬物療法の知見をもとに、パラメータの一つ一つを解析する機械学習による認知コンピューティングを用い、急性心筋梗塞症例における心血管事故予防のための、複数にわたる内服薬、また投薬量、投薬期間を至適に選択することを可能とする薬物治療選択支援ツールを開発する。循環器病に対する薬物療法の最適化を図り、そのツールに支援された医療と人間による従来の医療との比較から実臨床への応用の可能性を探る。 認知コンピューティング診療支援ツールを用いた診療が従来の人間による診療と代替なりえるかを追求すべく以下の研究を継続した。
    1)令和4年度までに抽出、作成したデータベース(2015年から2022年に当院入院もしくは通院されている患者のうちワルファリンを内服している患者)から、ワルファリン内服量、PT-INRの推移から現在ワルファリン量、投与期間を決定する人工知能による薬物療法認知コンピューティング診療支援ツールの開発に取り掛かった。
    2)急性心筋梗塞患者の診療データからアンサンブル学習を用いた複数モデルの組み合わせにより、薬物療法を最適化するツール②を開発すべく、2015年から2022年に当院に入院した急性心筋梗塞患者のデータベースのクリーニング作業を行った。
    3)診療データベースの作成の過程で、急性心膜炎の患者のデータベースを用いて以下の臨床研究の報告を行った。
    4)令和4年度までに作成したデータベースで、研究の継続、遂行がウェブなどを用いた遠隔対応、対処で可能と考えたが、症例数が不足し、研究代表者(藤野雅史)が海外渡航の状況下では研究の継続が困難であるため、2023年5月31日をもって本研究は中断とした。
  85. 生体内コレステロール結晶の三次元構造解析によるプラーク破裂発症機序の解明 20K17092 2020-04-01 – 2025-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 和歌山県立医科大学 コレステロール結晶が心筋梗塞発症のトリガーであることが明らかとなり、世界的に注目されている。コレステロール結晶には、針状、板状、凝集状の形態が存在し、炎症惹起性や力学的応力などが大きく異なる。そのため三次元構造の差異は、病態に影響を及ぼしていると示唆されている。本研究の目的は、高解像度三次元光干渉断層法(HR-3D-OCT)を開発し、コレステロール結晶の三次元構造と病態との関係を明らかにする事である。本研究は、新たな心筋梗塞の発症予測法開発に繋がるため、国民の健康増進に貢献すると考えられる。 近年、我々の生体内イメージングを用いた研究により、動脈硬化病変に存在するコレステロール結晶が心筋梗塞発症のトリガーであることが明らかとなり世界的に注目されている。コレステロール結晶には、針状、板状、凝集状の形態が存在し、炎症惹起性や力学的応力などが異なる。そのため三次元構造の差異は、病態に影響を及ぼしていると示唆されている。しかし結晶の三次元構造を生体内で可視化する機器は存在せず病態との関係は不明である。本研究の目的は、高解像度光干渉断層法(HR-OCT)を用いて、動脈硬化病変におけるコレステロール結晶の三次元構造と病態との関係を明らかにする事である。本研究により冠動脈内コレステロール結晶が、冠動脈治療に伴い冠動脈内に遊離することでno-reflow現象を引き起こし、心筋梗塞の梗塞範囲を拡大させる可能性を示した。コレステロール結晶遊離による梗塞範囲の拡大は心筋梗塞患者の予後の悪化に影響を及ぼすと考えられる。これにより心筋梗塞の新たな治療ターゲットとして微小循環に注目することとなった。本研究を発展させることにより、心筋梗塞発生に伴うコレステロール結晶を含む血栓の遊離によって生じる微小循環障害に対する超音波を用いた新規治療方法を着想した。本研究のこれまでの実績と新規治療方法のアイデアが評価され、オーストラリア州政府より研究資金を獲得するに至った。 コレステロール結晶に関する研究に一区切りがつき、新たな治療ターゲットの仮説が見出されたため。 本研究を発展させ、心筋梗塞発生に伴うコレステロール結晶を含む血栓の遊離によって生じる微小循環障害に対する治療を検討する。そのため、オーストラリアのシドニー大学の根岸教授と国際共同研究を企画し、2024年度に開始が予定されている。
  86. 心不全患者における腹部臓器うっ血と低灌流の意義:ヘパトカインとの関連性 20K16529 2020-04-01 – 2022-03-31 小区分52010:内科学一般関連 若手研究 福島県立医科大学 心不全はあらゆる心疾患の終末像であり、心機能低下による全身臓器のうっ血と低灌流を来す。腹部臓器のうっ血は心不全患者の予後と関連するが、うっ血と低灌流の双方の評価方法とその臨床的意義については確立されていない。本研究では、心不全患者における腹部臓器のうっ血および低灌流を、腹部超音波検査を用いて定量的に評価する方法を確立し、その指標が心不全の治療効果判定や予後予測に有用かを明らかにする。近年、肝臓由来液性因子のヘパトカインが、様々な生理活性を有すると報告されており、心臓-肝臓連関に着目して、血中ヘパトカイン濃度を測定し、うっ血や低灌流におけるヘパトカイン産生の差異を検討してその意義を明らかにする。 心不全患者集団と対照群集団において、心不全患者における腹部臓器のうっ血及び低灌流を、腹部超音波検査を用いて評価する方法について検討した。また肝臓由来タンパクであるヘパトカインselenoprotein-P(Sep-P)及びfetuin-Aを測定し血行動態との関連について評価した。
    心不全群では対照群に比較して血清Sep-P/fetuin-Aが有意に高値/低値であり、かつ肝臓のうっ血に関わらず肝低灌流群でSep-P/fetuin-Aが高値/低値を呈した。さらにSep-P高値群では低値群に、fetuin-A低値群では高値群に比較して心不全再増悪イベントが増加していた。

  87. がん患者におけるミトコンドリア関連miRNAを介した心血管機能への影響の解明 20K16528 2020-04-01 – 2025-03-31 小区分52010:内科学一般関連 若手研究 琉球大学(2022-2023) / 鹿児島大学(2020-2021) 抗がん剤や放射線などの心血管への影響に関しては様々な報告があるが、「がん」自体による心臓への影響については十分には検討されていない。ミトコンドリアは自身の形態変化(ミトコンドリアダイナミクス)により質管理され、がんとの関連が報告されているが、がん関連心機能障害との関連についての検討は不十分である。本研究ではがん患者においてミトコンドリアダイナミクス関連因子を従来の心機能・血管内皮機能指標と比較することで、がん自体やがん治療への関連、心毒性リスク指標としての妥当性を検討し、さらに新規治療法の開発につなげる。 本研究の目的は、Drp1関連miRNAのmiR-499、miR-30及びmiR-140を測定し、これらと未治療がん患者の心機能、血管内皮機能、がん重症度、がん治療による心毒 性との関連を検証し、ミトコンドリアダイナミクスの心毒性リスク予測の新規ツールとしての妥当性を明らかにすることである。そのために1)未治療がん患者に 対してmiR-30・miR-499・miR140濃度を測定し、心機能・血管内皮機能、がん重症度との関連の検討、2)miR-30・miR-499・miR140の抗がん剤治療後の心毒性リス ク因子としての臨床的意義の検討、の2点を検討することである。本研究では、当院外来・入院患者で未治療がん患者に研究同意書を取得後、症例登録を行う (150名登録予定。年齢20歳以上)。ミトコンドリアダイナミクス関連指標のmiR-30・miR-499・miR140用の採血を通常採血時に同時に採取し、得られた測定値と 従来の心機能、血管内皮機能指標(BNPも含めた生化学データ、心エコー検査、FMD検査で得られた各計測値など)を比較検討する。これらの解析により1)miR30・miR-499・miR140と従来の心機能・血管内皮機能指標との関係、がん重症度との関係、2)miR-30・miR-499・miR140が抗がん剤治療後の心毒性リスク因 子となるかを明らかにすることができる。昨年度は、プロトコール作成、倫理審査提出を行い、研究を開始し症例登録を進めたが、症例登録が進んでいない状況である。他、急性冠症候群のmiRNAに関する論文ならびに確率スコアの癌患者における有用性の検討を行った論文を投稿中である。 新規のがん関連心機能障害患者が少なく、登録が進んでいない状況。 登録症例が少ないため、更にがん治療関連科との連携をより強化し、治療前患者の紹介、受診、登録までの流れを整理する必要がある。
    現在の通院症例のmiRNAを測定し、背景因子と心機能との関連を評価する横断研究を実施予定である。
  88. マイクロ流路回路搭載ウェアラブルデバイスによる血中乳酸モニタリング法の新規開発 20K16516 2020-04-01 – 2024-03-31 小区分52010:内科学一般関連 若手研究 岐阜大学 脳心血管障害の一次予防や、心疾患の二次予防としての心臓リハビリテーション、さらに集中治療領域など、血中乳酸濃度の測定は日常臨床において有益であるがそれをモニタリングする方法はない。申請者は乳酸測定ウェアラブルデバイスを用いた先行研究で健常者において運動中の血中乳酸上昇タイミングが判定できることを報告した。しかし、汗をかきにくい心疾患患者では判定が困難であることが課題である。本研究では新たにマイクロ流路回路を応用した微量汗回収装置を用いてこの課題を解決し、簡便・非侵襲的かつ持続的な血中乳酸濃度モニタリング方法を確立することを目的とする。 汗中の乳酸と血中乳酸に相関があることは既に報告した。しかし微量汗での測定が困難であることが問題であった。そこで当初はマイクロ流路回路を応用した微量汗回収パッチの応用を試みたが、結果、微量汗の測定は困難であったため、吸水性の高いセルロース多孔体であるスポンジを用いた。結果、微量な発汗でもより鋭敏に汗中乳酸がモニタリングできる可能性が示唆された。本研究の結果、心肺運動負荷試験が施行できない場合など、微量汗中乳酸モニタリングを行うことで、嫌気性代謝閾値が推測できる可能性が示唆された。今後、心臓リハビリ領域での応用に向け前向き臨床研究を予定し、臨床におけるエビデンスを構築する予定である。
  89. 腸内細菌が代謝する新規機能性脂肪酸による肥満誘導性肝がん抑制機構の解明 20K16121 2020-04-01 – 2023-03-31 小区分48020:生理学関連 若手研究 大阪公立大学(2022) / 大阪市立大学(2020-2021) 腸内細菌は同じ物質を宿主とは異なる経路にて代謝する。腸内細菌代謝系に変化が生じると疾患発症のリスクとなることが、そのメカニズムについてはほとんど解明されていない。腸内細菌の代謝物が肝癌を誘発し、肝臓が代謝する脂質が抗腫瘍免疫を抑制する。そこで、宿主と腸内細菌の代謝の不均衡が肝癌誘発に繋がると考え、両者の代謝系が知られているリノール酸(LA)に着目した。我々は、低濃度LA食では高頻度に肝癌が形成され、高濃度LA食では肝癌が抑制される知見を得た。本研究では、LAによる肝癌抑制メカニズムの解明を目的とした。宿主と腸内細菌の代謝関係を明らかにし、ヒト肝癌発症メカニズムの解明や治療法の開発に繋げる。 肥満誘導性肝がんマウスモデルに対して、高リノール酸含有の高脂肪食を負荷した際、脂肪肝の程度が著しく抑制され、それに伴う腫瘍形成も抑制される。本研究では、この現象を解明するにあたり、腸内細菌の働きを中心に解析した。マウス腸内に生息する常在細菌によって産生されるリノール酸代謝物を検出し、代謝酵素、及び細菌を同定した。そして、精製したリノール酸代謝物を含む高脂肪食の開発に成功した。一方で、抗生物質投与による腸内細菌除去、または上記リノール酸腸内細菌代謝物含有高脂肪食では高リノール酸による脂肪肝、及び腫瘍形成の変化を説明するに至らず、腸内細菌を介さないメカニズムであると結論付けた。
  90. ドーピング規制薬物に関する高次学術的解析と応用 20K11325 2020-04-01 – 2025-03-31 小区分59020:スポーツ科学関連 基盤研究(C) 福山大学 本研究の概要は、薬物の適正使用に向けて、ドーピング規制対象の薬物の利点と欠点を人工知能(Artificial Intelligence:AI)を活用し、従来行われてきた世界的な学術的研究を精査し、副作用の防止や治療薬としての活用性など薬理的作用の情報を深く考慮する事(Deep learning:深層学習)によって不正使用を防止するための応用的方策を明示する事を行う研究である。 新型コロナウイルス感染症の世界的流行は今年に入って縮小傾向にあるものの、感染は依然として続いており、研究活動にも影響を及ぼしている。円安の影響で日本経済に打撃を与え、研究費用の支出増加につながっている。さらに、ロシアのウクライナ侵攻やイスラエルのガザ侵入は、世界の政治的安定を脅かし、研究の国際交流にも障害をもたらしている。それらはスポーツ界にも暗い影を落としているが、昨年3月には野球のWBCが開催され、日本が優勝して多くの日本人に勇気を与えた。幸いにも、その大会はドーピング問題がなく、クリーンなイベントとして高く評価された。しかし、情報を検索すると若いアスリートの薬物乱用が増加しており、特に大麻使用による刑事事件の発生が我が国でも問題となっている。これらは米国デンバー(ACSM)や東京(体力医学会)での学会に参加し、ドーピングに関する情報交換の結果収得できた事柄である。新型コロナの問題が解決に向かう中、スポーツ大会の平常開催が増えることから、これらの大会に向けたドーピング規制薬物の情報収集と防止対策が今後さらに重要な活動となる。一昨年暮れから始まったマイクロソフト社のChatGPTを利用したAIプログラムの進化は、CopilotやMonicaといった補助アプリを通じてPythonプログラムの改善に貢献してきた。Google社の新しいAIプログラム開発にも影響を与え、PerplextyやGeminiアプリとして既に活用されており、今後の研究の進展が大きく期待される。今年度は研究のまとめに注力し、医学や薬学のビッグデータ解析とディープラーニングを組み合わせた総合的な解析基盤を整理する事が重要である。2024年度はパリでオリンピック・パラリンピックが開催され、これまでの研究成果の有効性が明らかにされる事が期待できる。 今年度も、一昨年度以来継続している新型コロナ(COVIC-19)の感染拡大は収まらず、多くの教育・研究活動に支障をきたしている。しかし、完全ではないものの一時的に移動制限が解除される機会が増え、試合会場での集団的な応援も徐々に許可がされつつある。しかし、予想外の円安という経済状況が年度初めから発生し出張費の支出増加や物価の高騰という環境を作り出した。前年度より、学会参加は可能になったものの十分ではなく研究に関する情報収集のための学会参加や資料収集のための活動は制限され、十分な活動を行う事が出来なかった。そこで、昨年度同様に情報収集のための人的サポートを得て、引き続いて高次機能としてのディープラーニングを可能にするシステム設計とプログラミングの開発と改善に専念する予定であったが、人的サポートが得られず研究活動が停滞した。また、今年度が雇用契約の終了期であったため後任人事の募集に時間が費やされたことと職場での学生の大麻事件が発生し、その対応に多くの時間が消費され研究に専念できないという状況に陥ってしまった。
    一昨年末から始まったマイクロソフトのChatGTPと言うAI用のソフトの公開により、その有効性を確認し、今年度は、これまでの研究成果を活用し、より広い範囲のデータベースを確保するためのPythonでのプログラミング設計のさらなる改良を部分的に行った。これにより、ChatGTPの有効活用が可能であることが分かり、これまで行ってきた研究データをWeb解析だけでなく医学や薬学での研究資料として活用できる汎用性の高いプログラムの構築と改善を引き続き行い進行中である。またGoogle社の新しいGeminiというAIプログラムの有効性も同時に検討中である。 今後は新しい研究機関での研究協力員として研究活動に専念する事が可能になったので研究テーマの最終のまとめを行う予定である。
    最近は駅伝やマラソンなどの持久性スポーツでの高速化が進んでいるが、その中で多くの優秀な選手を送り出してきたケニアなどの選手のドーピング薬の使用が話題となっている。これらの中では、造血作用に関係するEPO(エリスロポエチン)に関するものが多く、貧血との関係から注意が必要である。ディープラーニングの技術が急速に進んでいることからマイクロソフト社のChatGTPやCopilotの活用とGoogle社のGeminiの活用は研究分野だけでなく、薬物の適正使用と新しいドーピング薬に対する防止策の準備上極めて重要な機能を発揮する事が期待出来る。また、海外への移動規制が大きく緩和されてきたので海外での学会参加による新しい情報の収集が可能であり、大谷選手を始めとした日本人の多くの選手が活躍する分野での情報収集は、新型コロナ問題で遅れた研究成果の取得を回復させる大きなきっかけとすることが可能である。次回のパリオリンピック大会に向けた情報収集と分析に集中し成果をまとめる。また、社会問題化しつつある若いアスリートの薬物乱用(特に大麻問題)やオーバードーズ(過剰摂取)と言った社会問題についても薬物の適正利用という観点から原因と対策を考察し、スポーツの健全化に務める。

  91. 高齢心不全の心臓リハビリテーションにおけるマイクロRNAを用いた効果予測法の開発 20K11291 2020-04-01 – 2023-03-31 小区分59010:リハビリテーション科学関連 基盤研究(C) 昭和大学 高齢者心不全では、心肺運動負荷試験実施困難例が多く、病態評価や心臓リハビリテーション効果・予後判定が不十分であるのが現状である。
    末梢循環中マイクロRNAは、疾患や治療効果判定のバイオマーカーとしての可能性が注目されている。申請者は、予備試験よりマイクロRNAの一種miR-181cの末梢循環中発現レベルが心筋梗塞例の運動耐容能と相関することを同定した。高齢者心不全にも応用可能であると考え、本研究において、心臓リハビリテーションの効果予測への有用性を検証する。マイクロRNAと言う新たな診断技術の可能性を探索し、心臓リハビリテーション学において学術的展開を起こすための基盤研究となることを目指す。 本研究では、心疾患患者の運動耐容能バイオマーカーとしての末梢血マイクロRNA(miR)の可能性を検討した。先行検討より心筋ミトコンドリア関連miRであるmiR-181cとmiR-484に着目した。急性心筋梗塞後では、両miRとも最高酸素摂取量と相関を示した。心不全などでは、両miR 発現は相関し、高齢者で発現が高い傾向であった。また、miR-484発現は運動耐容能指標のひとつである酸素摂取効率勾配と関連していた。更なる検証を要するが、miR-181cとmiR-484による運動耐容能評価の可能性が示唆された。
  92. 心不全・不整脈の悪性サイクルの病態解明と治療介入 20K11152 2020-04-01 – 2023-03-31 小区分59010:リハビリテーション科学関連 基盤研究(C) 山形大学 心不全が増悪する要因に不整脈があり、一方で不整脈が先行して心不全が進行する病態がある。本研究ではこの悪循環を「心不全と不整脈の悪性サイクル」と呼ぶが、この悪性サイクルの病態は十分解明されておらず、治療介入の方法・基準も発展途上にある。この研究では、心不全と密接に関係する心房細動と徐脈に着目し、心臓自律神経機能や潜在的な心筋傷害、心筋線維化、心筋炎症など視点から調査し、悪性サイクルに陥るメカニズム解明を目指す。同時に薬物療法、カテーテル治療、植込みデバイス治療、心臓リハビリテーションを行って、悪性サイクルを断つ治療戦略を確立する。 心不全パンデミックとCOVID19パンデミックにより循環器疾患の死亡率が予測値を上回った。心房細動と心不全が悪循環の関係にあること、そのメカニズムに活性酸素種の増加に関わるxanthine oxidoreductase活性が関わることを報告できた。悪性サイクルを食い止める手段として、薬物、カテーテル治療さらに身体活動能を維持するための心臓リハビリテーションについて報告した。特に不整脈専門医が舵取りする心臓リハビリテーションは注目が高く、シンポジウム発表や学会の優秀賞を受賞した。さらにデバイス学会レジストリーを用いてペースメーカ植込み症例の身体活動能と予後との関係を報告することもできた。
  93. 新たな高齢者向け包括的症状測定ツールSymTrak-健康指標としての意義 20K10405 2020-04-01 – 2025-03-31 小区分58010:医療管理学および医療系社会学関連 基盤研究(C) 埼玉県立大学(2022-2023) / 福島県立医科大学(2020-2021) 高齢者における23の症状および2つの健康状態を包括的かつ簡便に測定できる新たな自己記入式調査票(SymTrak)が米国で開発,公表された.本研究では,日本語版の信頼性・妥当性を評価する.次に,日本語版SymTarkを用いて大規模住民調査を実施し,高齢者における症状の頻度を明らかにする.そして,SymTrakで測定可能な症状とQOL変化,転倒,介護認定,医療費等との関連を検証し,これらの健康アウトカムを予測するための予後予測ルールを作成する.SymTrakの健康指標としての意義が明らかになれば,高齢者の診療および地域における症状スクリーニング・予防介入に役立てることが期待できる. 2020年3月の調査をベースラインとした。ベースラインでは、基本情報(年齢、性別)、基礎疾患(がん、脳卒中、心筋梗塞の既往など)、生活習慣(喫煙、飲酒)、SymTrak、5感(視力、聴力、味覚、触覚、嗅覚)、痛み(強さ、部位、対処法)、生活の質(QOL)、身体活動度、サルコペニア、手段的日常生活動作(IADL)、孤独、社会的背景(教育歴、収入、同居人数など)、ヘルスリテラシーを測定した。
    ベースラインデータを用いて日本語版SymTrakの信頼性と妥当性を検証した。SymTrakは23の症状と2つ健康状態で構成されている。症状は頻度(4段階)、健康状態は程度(5段階)の回答選択肢からなり、各症状の頻度およびトータルスコアを集計した。因子分析では、主因子法を用いて固有値および各項目の因子負荷量を算出した。信頼性の検証ではChronbachαを算出した。基準関連妥当性の検証ではSF-8、SARC-F、転倒歴等を参照とした。解析の結果、原版と同様にSymTrakを構成する23症状は1因子構造であり、内的整合性はよく、SF-8と強い相関を認めた。
    追跡は調査票および自治体が保有するデータを用いて実施した。調査票は2020年10月、2021年3月と10月、2022年3月に配布回収し、SymTrakトータルスコアの変化、QOLの変化、IADLの変化、転倒の有無などを測定した。また、自治体が保有する情報として、2021年6月までの死亡転出、2021年3月までの介護認定を集計した。
    各種データを突合して解析用データセットを作成し、ベースラインデータを用いた横断的解析とともに追跡データを加えた縦断的解析を進めている。 日本語版SymTrakの信頼性と妥当性の検証を終了した。2020年3月のベースラインデータおよびその後2年間の追跡データを突合して解析用データセットを成形した。ベースラインデータを用いた横断的解析、SymTrakとアウトカムとの関連を検証するための縦断的解析を進めている。 日本語版SymTrakの信頼性・妥当性の検証結果、ベースラインデータを用いた横断的分析結果、追跡データから抽出した死亡や介護認定、転倒の発生などのアウトカムを整理して提示する。更に縦断的解析を進め論文化する。

  94. GIS上の複雑系ネットワーク分析による地域包括ケアと地域医療構想の予測評価分析 20K10371 2020-04-01 – 2025-03-31 小区分58010:医療管理学および医療系社会学関連 基盤研究(C) 和洋女子大学(2022-2023) / 東京大学(2020-2021) 令和2年度(1)ネットワーク理論に基づくMASによるシミュレーションに関するレビュー(2)地域包括ケアの根幹を成す多職種間ネットワークのスモールワールド性を評価する
    令和3年度以降(1)地域包括ケアネットワークのシミュレーションモデルの作成し、スモールワールド性の点から将来予測を行う(2)地域医療構想にシステムダイナミクスによるシミュレーションモデルを作成し、システム転換の効果を評価する 地域包括ケアと地域医療構想に関する研究として、小児と周産期の医療とネットワークに関する分析を中心に研究を行った。
    第94回日本衛生学会総会(鹿児島)において学会発表を行った研究で、出産後から、5歳児健診までの乳幼児健診のデータを用いて、発達障害・情緒障害の経過観察あるいは加療が必要と判断されて児に着目した研究である。特に、母親の育児あるいは子供への発達障害不安の予測について分析し、高い予測能があることが示され、医療へのアクセスおよび医療ネットワーク、そして地域包括ケアへ早期に繋げることの重要性を示す報告を行った(豊川智之,他:5歳児健診での発達障害・情緒障害の経過観察児と3歳児健診における母親の不安)。
    Am J Obstet Gynecol誌に掲載された研究は、早産児における重度の脳性麻痺の胎児心拍数の進化と脳画像所見について着目した研究で、胎児心拍数のモニタリングが脳性麻痺の発生を効果的に減らす明確な証拠はまだないことから行った研究である。胎児心拍数の進化パターンに基づいて脳性麻痺と出産との因果関係や脳損傷のタイミングを推定し、必要に応じて医療ネットワークに繋げることの重要性を示すことに貢献する研究である。脳性麻痺の57%の乳児が胎児期に発症し、13%の乳児が分娩中の侵害によって引き起こされたと推定され、早産児における脳性麻痺の原因となる脳損傷のタイミングとタイプを示唆することができ、早期発見から周産期医療ネットワークに繋げることで、脳性麻痺の予防につながる研究であった(Nakao et al: Fetal heart rate evolution and brain imaging findings in preterm infants with severe cerebral palsy. Am J Obstet Gynecol 228(5): 583.e1-583.e14, 2023.doi: 10.1016/j.ajog.2022.11.1277) コロナ感染症流行によりネットワーク分析の技術的セミナー受講が叶わなかった。分析可能な範囲でのネットワーク面の分析により研究成果を蓄積に努めている。 残された研究期間において当初の計画に近い研究成果物の公表に努める。

  95. 骨格筋量による周術期日常生活活動低下予測と日常生活活動維持のための管理法の確立 20K09242 2020-04-01 – 2025-03-31 小区分55050:麻酔科学関連 基盤研究(C) 京都大学 本研究では、高齢手術患者における周術期ADL低下の予測因子を明らかにする。ADL低下の予測因子の候補として特に骨格筋量に着目する。具体的には、①高リスク手術を受ける65歳以上の高齢者を対象として骨格筋量が周術期ADL低下に及ぼす影響を解明するための大規模前向きコホート研究を遂行する、②上記コホートを用いてADL低下と関連する周術期の呼吸・循環管理方法や周術期合併症を探索する。本研究の成果からは、ADL維持のための周術期管理指針の策定に寄与するという高い臨床的波及効果が期待できる。 2023年度は、プロポフォールの脳内濃度の予測モデルの構築に関する研究、新型コロナウイルス感染症が集中治療に及ぼした影響に関する国際共同研究、覚醒下手術における合併症調査などに取り組んだ。
    プロポフォールの薬物動態は、ヒトの血液サンプルを用いて広範囲に研究され、標的制御点滴システムにも応用されているが、脳内濃度に関する情報はまだ少ない。そこで、覚醒下開頭手術を受けた患者においてプロポフォールの血漿中濃度と脳内濃度を同時に測定し、新たな薬物動態モデルを確立した。プロポフォールの脳内濃度は血漿中濃度よりも高かった。測定された脳内濃度は、以前のモデルを用いた効果部位濃度よりも高かった。脳/血漿分配係数(Kp値)を組み込むことにより、測定濃度に基づいて拡張モデルを構築した。拡張モデルは、検証群の脳内濃度に対して良好な予測精度を示した。新型コロナウイルス感染症のパンデミック前(2017年)とパンデミック中(2022年)のアジアの国・地域における人口規模に対する成人重症患者病床数を比較する国際共同研究に取り組んだ。人口10万人当たりの累積重症病床数は、2017年の3.0床から2022年には9.4床に増加した(p = 0.003)。長時間の覚醒を必要とする覚醒下手術での合併症発症状況が知られていなかったため、長時間の覚醒を伴う覚醒下手術における合併症発症状況調査を実施した。また、日本Awake Surgery学会主導の覚醒下手術ガイドライン策定に関わった。「手術手技」「麻酔管理」「言語評価」の論文のシステマティックレビューに基づきガイドラインを策定した。術前の呼吸機能検査と術後呼吸不全の関連に関する論文を学術雑誌に投稿中である。
    上記の研究は手術患者の安全な管理と円滑な回復、ひいては日常生活活動維持につながると考えている。 患者との濃厚な接触が必要となる研究計画から異なるアプローチでの研究を模索していた。 術前の呼吸機能検査と術後呼吸不全の関連に関する論文を学術雑誌に投稿中であり、この受理に向けて努力していきたい。また、周術期の循環動態と術後経過との関連を調査する研究の準備を進めており、これを推進していく。手術患者の日常生活活動維持のための研究を推進していきたい。
  96. 大動脈弁狭窄症の発症メカニズムにおけるDNA損傷・細胞老化の役割 20K08494 2020-04-01 – 2023-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 福島県立医科大学 大動脈弁狭窄症(AS)の危険因子は冠危険因子とほぼ同様であるが、AS患者においては動脈硬化とASの程度にかい離が見られることが多く、未知の因子がASの発症に強く関与している可能性が高い。本研究はDNA損傷と細胞老化がASの発症に関与しているという仮説を検証することを目的とする。このためAS患者においてDNA損傷、細胞老化と大動脈弁の硬化・肥厚との関連を検討する。本研究によりDNA損傷および細胞老化のASの発症における関与が明らかになれば、これらを制御するシグナル伝達分子が治療の標的になり得る。 本研究では、DNA損傷が大動脈弁狭窄症(AS)の発症・進展に関与しているか否か検証した。重症AS患者より末梢血を採取、単核球を分離し、DNA二本鎖切断の指標として核内のgammaH2AXのフォーカスを免疫蛍光法にて描出し、1細胞あたりのフォー カス数を算出した。またFISHを用いて二本鎖切断に基づく異常染色体として二動原体染色体を検出した。AS群は非AS群に比して、DNA損傷が多かったが、男性に比して女性においてその傾向が強かった。また単核球中のいくつかの炎症性サイトカインが、AS群の方 が多かった。
  97. 心臓突然死、心不全における新規発生機序解明とその分子機能解析 20K08466 2020-04-01 – 2024-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 東京大学 我々は肥満脂肪細胞でS100A8蛋白の発現が増加し、炎症細胞をリクルートさせることを見いだし、S100A8が脂肪組織炎症を惹起する新規アディポカインである可能性を示唆する結果を得ている。S100A8は脂肪以外にも心臓血管・腎臓・肺・肝臓にも発現し、各臓器への炎症を惹起することが我々の行った研究であきらかとなっており、これらの結果を基に、本研究ではS100A8シグナルを介して心血管に生ずる慢性炎症や各臓器での炎症が相互に関連し、心房細動や心室細動などの不整脈に寄与する可能性について検討する。さらに、S100A8シグナルへの介入による不整脈領域における新規治療戦略の基盤的検討を行う。 近年の研究で、心臓組織における慢性炎症や線維化が不整脈の発症原因であることが明らかになってきた。特に心臓周囲の脂肪組織の炎症や全身の炎症が不整脈の発生要因である可能性を示す知見が報告されてきている。また、S100A8は脂肪以外にも心臓血管・腎臓・肺・肝臓にも発現し、各臓器への炎症を惹起することが我々の行った研究であきらかとなっており、これらの結果を基に、本研究ではS100A8シグナルを介して心血管に生ずる慢性炎症や各臓器での炎症がお相互に関連し、心房細動や心室細動などの不整脈に寄与する可能性について検討する。
  98. 閉経期女性冠動脈疾患患者のエクオール摂取の有用性 20K08457 2020-04-01 – 2025-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 獨協医科大学 動脈硬化性疾患のうち心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患の発症や死亡率には男女差があり、女性は、男性に比べエストロゲンの抗動脈硬化作用により閉経までは罹患率が低いが閉経以降には徐々に男女差は消失する。近年大豆イソフラボン由来の代謝産物エクオールが更年期以降の女性の美容上のサプリメントとして注目されている。エクオールはエストロゲン受容体のリガンドであり動脈硬化保護作用の報告も見られているが冠動脈疾患患者への有用性は未だ知られていない。そこで本研究では閉経期以降の女性冠動脈疾患患者にエクオールを投与し血管内皮機能への有用性を検討する。 動脈硬化性心血管病は閉経期以降の女性においても増加の一途を辿っている。女性はエストロゲン分泌のある期間は、その抗動脈硬化作用により、男性よりも罹患しづらいものの、閉経前において冠危険因子の並存する女性が増加したことにより、閉経期以降の女性での心筋好梗塞の罹患率は急増している。大豆由来イソフラボン代謝産物のエクオールはエストロゲン受容体リガンドである。更年期不定愁訴や皮膚の皺に対する美容上の効果のサプリメントそして販売されているが、昨今動脈硬化予防効果への期待も報告されているものの、閉経期女性の動脈硬化に対する作用に関する検討は未だ明らかではない。
    本研究は閉経期以降の虚血性心疾患女性を対象にエクオール10㎎/日を3か月間投与した際の血管内皮機能改善効果を検討することを目的とし、エクオール摂取により内皮機能が保護される可能性に期待を寄せている。現在31例の患者がエントリーされており28例で3か月後の内皮機能の追跡が完了している。 コロナ禍の影響で冠動脈造影検査自体が減少したことで進捗が遅れており、第5類感染症に移行した後も定期的に院内クラスターが生じており、思いの外、冠動脈造影検査の件数が増えず症例収集に難渋している。 現時点で進捗の遅れはあるものの昨年に比べて着実に症例は積み重ねられ、研究期間を2025年まで延長した。またエクオールサプリメントや検査キット購入に科研費は全て充当された。今後も症例収集を続けて解析を行う所存である。
  99. 急性心不全及び急性心筋梗塞後の予後予測因子としての血漿遊離DNAの臨床応用 20K08436 2020-04-01 – 2024-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 金沢医科大学 血漿遊離DNAが簡便かつ有用な左室リモデリングのバイオマーカーであるか否かを検証するため、以下の3つを検討する。①血漿遊離DNAが新規心不全患者で検出されるか否か、また②血漿遊離DNAの一部が心臓に由来しているか否か、③血漿遊離DNAが急性心不全及び急性心筋梗塞後の左室リモデリング評価による予後予測因子になり得るかどうかを明らかにすることである。 急性心不全患者において血漿遊離DNA(cfDNA)がその予後予測に有用化検討するため、まず30人の急性心不全患者で心筋からcfDNAが放出されているかどうかを冠静脈洞と大動脈基部のcfDNA濃度差により検討したところ、18人が正の値(陽性群)、12人が負の値(陰性群)となった。組織学的検討から陽性群が陰性群より線維化が軽度であった。陽性群では心筋細胞のアポトーシスが生じており、線維化が生じる過程を反映している可能性が示唆された。
  100. 冠動脈プラーク形成における拍動と局所血行動態の影響および降圧薬の効果に関する研究 20K08430 2020-04-01 – 2025-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 自治医科大学 冠動脈近位部のプラーク破綻は心筋梗塞を誘発し致死的状態となり、プラーク破綻する部位を認識することは重要である。プラークは空間的不均一に認めており、この一つの原因は蛇行や分岐で生じる局所血流動態によると知られている。しかし、局所血流動態のみでは説明できない空間的不均一なプラーク形成に臨床上遭遇する。一方で心臓の収縮・拡張を繰り返す冠動脈運動(coronary artery motion:CAM)は空間的不均一性を認める。このCAMがプラーク形成・破綻に関連した報告はあるが、確定的な見解ではない。このためCAMとプラーク形成への影響を検討し、プラーク形成・破綻の予測ができる可能性がある。 冠動脈プラークの形成に冠動脈運動が関連するのか検証するために,冠動脈運動によりどの部位に大きな力学的ストレスが加わり,また,冠動脈内を流れる血流 がどの様な流動変化を起こすかを明らかにするため,冠動脈の動きが再現可能なコンピュータシミュレーションの作成をすることが第一の目的である。心臓CTデータは心臓を輪切りした数百枚の断面画像が積み重ねられている。医療用デジタルイメージの画像処理ソフトである[OsiriX]を用いて,心臓CTのDICOMデータか ら冠動脈の3Dモデルの構築を試みた。作成した冠動脈の3D画像は3Dプリンタで構築も可能となるSTL(Standard Triangulated Language)フォーマットとして出力した。しかしながら、STLデータが粗く高度な3Dモデルを作成することが困難であった。このため他のCTデータを画像処理ソフトであるVincentでSTLデータとし、これをもとに拡張期と収縮期の冠動脈モデルを作成した。OsiriXより細かいデータを得ることができ、3Dモデルの構築が可能であった。また心周期を6分割しそれぞれのタイミングでのモデルを作成し各時相での3Dモデル作成を試みたが、CTデータが主に収縮期と拡張期を中心に撮像されているため、中間相は現状では抽出困難であった。2時相での血流解析(CFD)を行い、これが再現性のあるデータとなるかを検証する必要がある。COVID19のため研究が中断していたが、現在工学部との連携が徐々に再開出来つつあり、CFD解析の再現性追究過程にある。更にartificial intelligence(AI)を用いて冠動脈運動を解析することを追求する予定である。過去のCTデータを用いて動脈硬化性プラークを発生させている部位を特定し、その部位と運動の関係性を探索する予定である。 コロナなどのため連携が取れず、かなり進捗が遅れている。今後工学部との連携を深めることで進めていきたい。 CTを用いて収縮期と拡張期のデータは抽出できたが、(心拍変動による)冠動脈運動を全て2相のみでは評価できないと考えられた。つまり中間相での冠動脈運動を推定できるも収縮期と拡張期の間を取る補完的なデータとなるのみで正確ではない。このため実際の動きを3次元に表現し直すことが可能となるデータの収集が必要であった。冠動脈造影は様々な方向から冠動脈運動を表現しているため、冠動脈造影をサンプルに3次元化モデルの構築が可能となれば実際の臨床に合致した冠動脈運動を示すことができると判断した。このため冠動脈を数点に分解しそれをどのように動くかを評価する方針とした。この点で放射線科との協力も考えている。
  101. 安定型冠動脈疾患から心不全発症を予測する新規バイオマーカー開発 20K08412 2020-04-01 – 2025-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター) 冠動脈疾患は心不全の一番の原因疾患であるが、安定型冠動脈疾患から新規に心不全を発症する機序やそのリスクを反映するバイオマーカーについてはあまり知られていない。リンパ管新生因子である血管内皮増殖因子C(VEGF-C)は動物実験や我々の冠動脈疾患疑い患者でのコホート研究の結果、心筋保護能力を反映するバイオマーカーである可能性が示唆されている。VEGF-Cは低酸素誘導因子(HIF1-α)を介した調整をうけることが知られており、本研究ではVEGF-C/HIF-1αが安定冠動脈疾患患者の新規発症の予測因子となるか調査する。 急増する心不全の原因の第1位は冠動脈疾患であるが, 安定型冠動脈疾患から心不全を発症する機序やリスクを反映するバイオマーカー不明である. 最近, 動物実験レベルで, 心筋梗塞後の心臓にリンパ管新生因子, 血管内皮増殖因子C (VEGF-C) を投与すると心機能が改善することが報告された. 我々は心不全の既往を有する安定型冠動脈疾患患者を対象とした比較的短期 (3年間) のコホート研究により, 血清VEGF-Cレベルが死亡リスクと有意に逆相関することを見出した. すなわち, 心臓のVEGF-Cは虚血に対する心筋保護作用を有し, 血清VEGF-Cレベルが心筋保護能力を反映する予後予測バイオマーカーとなる可能性がある.
    2021年度までに, 心不全の既往のない安定型冠動脈疾患患者1,308名の最大6年間の長期追跡データと登録時追加データとして, 左室駆出分画, 弁膜症の有無, 慢性閉塞性肺疾患の有無のデータを収集・クリーニング・固定した。追跡率98.9%で、追跡期間中のイベント発症は、全死亡 308 (23.5%)、心血管死亡 89 (6.8%)、心不全入院 121 (9.3%)、心血管死亡と心不全入院の複合エンドポイント 181 (13.8%) であった。左室駆出分画データが欠損した13名を除く, 心不全の既往を有さない安定型冠動脈疾患1,295例において, VEGF-C低値 (<25パーセンタイル) は, 全死亡, 心血管死亡と有意に関連していた.
    2022年度はVEGF-Dとイベント発症の関連を検討した. 様々な交絡因子で調整した後, VEGF-Dは全死亡と有意に関連していたが, 心血管死亡, 心不全入院とは有意な関連を認めなかった.
    2023年度は, 新たに低酸素誘導因子1α (HIF-1α) を市販のELISAキットを用いて測定した. 新規バイオマーカー候補の低酸素誘導因子1α (HIF-1α) を市販のELISAキットを用いて測定した. 2023年度に測定した低酸素誘導因子1α (HIF-1α) と (1) 新規心不全発症, (2) 心血管死亡と心不全発症の複合エンドポイント, (3) 心血管死亡, (4) 全死亡との関連を解析する.
    その他の未測定バイオマーカーを測定して, 上記のアウトカムとの関連を検討する.
  102. 心筋梗塞後の病態変化と左室リモデリングに関する生体シグマ-1受容体イメージング 20K08047 2020-04-01 – 2023-03-31 小区分52040:放射線科学関連 基盤研究(C) 金沢大学 シグマ-1受容体が左室心筋肥大において治療のターゲットになりうることが報告されている。そこで心筋梗塞後の修復過程においてこの受容体の心筋での発現がいかに変化してゆくかを画像化するための放射性トレーサーを開発する。救急医療での経皮的冠動脈形成術(PCI)による再灌流療法を模したラット心筋虚血再灌流モデルにおいて、画像化をオートラジオグラフィおよび生体イメージングであるSPECT/CTで行い、梗塞後の継時的な変化を評価する。治療的介入による受容体の発現の変化、受容体刺激薬がもたらす心筋保護作用の有無、また受容体発現程度と治療効果の関連についても検討し、イメージングの意義を考察する。 生体内でのSigma-1 receptor (Sig-1R) の発現分布を画像化するために、アイソトープで標識可能なSig-1Rに高い親和性を有するリガンドOI5Vを作成した。ラット30分虚血再灌流心筋梗塞モデルを用いてI-125-OI5Vを投与し、その分布からSig-1Rの発現と病理組織学的関連を評価検討した。OI5V集積は心筋生存性が低下し、マクロファージ浸潤を示す部を反映し、障害心筋の評価に有用なイメージングであった。doxorubicin心筋障害モデルでの集積変化を経時的に検討した。左心機能低下の2週前からOI5V集積の低下を認め、抗癌剤の心毒性の早期検出が可能であることが示された。
  103. CT/SPECT 融合画像における冠動脈狭窄枝支配領域の心筋血流製剤の定量評価 20K07998 2020-04-01 – 2024-03-31 小区分52040:放射線科学関連 基盤研究(C) 独立行政法人国立病院機構四国がんセンター(臨床研究センター)(2021-2023) / 愛媛大学(2020) 本研究は,ボロノイ図という「平面や空間を与えられた点または線で二等分する数学的アルゴリズム」を用いた分割方法を,冠動脈狭窄と心筋虚血の程度を一度に評価するCT/SPECT融合画像の中に統合することで,冠動脈狭窄枝の支配灌流域にある核医学検査の心筋血流製剤の集積をより正確に定量評価し,心臓核医学検査の新たな評価方法を開発することを目的とする.この評価方法によって,狭心症症例の冠動脈病変の個々の重症度を正確に評価することが可能にあり,残存狭窄枝の虚血評価や予後評価だけでなく,治療後の心筋血流SPECTの結果を組み込むことで狭窄枝ごとの治療効果判定などの詳細な評価が可能になると考える. 本研究は,心臓CTデータ上でボロノイ図という数学的アルゴリズムを用いた冠動脈狭窄の支配領域の抽出技術と心臓核医学(SPECT)の心筋血流イメージングを統合し、責任冠動脈病変の支配かん流域の心筋血流製剤集積をより正確に定量評価する心臓核医学の新たな評価方法を開発した。狭心症例や陳旧性心筋梗塞例において、この方法は、左心室17セグメントと視覚的5段階のスコア評価を組み合わせた従来法と比較し、心臓CTと負荷心筋SPECTを施行した冠動脈疾患例において、個々の冠動脈責任病変が及ぼす心筋虚血や心筋梗塞領域の重症度を定量的に評価することが研究の中で示され、冠動脈疾患の治療戦略に有用な検査方法と考えられた。
  104. 高分解能24時間心電図による心臓突然死予測スコアリングモデルの樹立 20K07816 2020-04-01 – 2024-03-31 小区分52010:内科学一般関連 基盤研究(C) 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛 本邦の心臓突然死(心突然死)の原因の多くは心室頻拍・心室細動等などの致死性不整脈であり年間約12万人にのぼる。心突然死の予防には、植込み型除細動器手術が唯一有効であるものの手術適応を決める高精度の心電図指標はない。近年計測可能となった24時間心電指標(心室遅延電位、T波オルタナンス、心拍タービュランス)及び心拍変動解析、心室期外収縮を組み合わせ高精度で不整脈死を予測できる可能性がある。本研究では、心突然死予測24時間心電図指標を組み合わせた独自の予測スコアリングモデルを構築し、高精度に心不全患者の心突然死を予知できるか検討する。本研究により心不全患者のリスク層別化を行い、心臓突然死防止への貢献を目指す。 本研究の目的は心臓予後予測24時間心電図指標の健常値(正常値)や至適計測方法を定めることと、これらを組み合わせた独自の心臓の予後予測スコア表を作成し心不全患者の心突然死を予知に役立てることである。24時間心電図指標のうちT波オルタナンス値は19,9μV以下、心室期外収縮は366/日以下が健常値であった。24時間心電図指標のうち加算平均心電図に関しては日内変動を有し、LAS40が最長の時に測定すると精度が高く、加算回数が多いほど検査精度が高くなることが明らかになった。今後、症例登録数を増加させ心突然死予測スコア表を完成させ、心不全の治療や再発に役立てる研究に役立てることが望まれる。
  105. うつ病と統合失調症の多様な治療反応性に適合する革新的な薬物投与量設定法の開発 20K07134 2020-04-01 – 2023-03-31 小区分47060:医療薬学関連 基盤研究(C) 熊本大学 本研究は、新たな治療戦略の開発が求められている、うつ病と統合失調症を対象疾患として、全ての患者でQOL向上と健康寿命の延長を目指した、精密で合理的な臨床薬学研究である。具体的には、多面的な生物統計学・情報科学的手法を駆使して、当該患者の治療効果・副作用発現に関連する、あらゆる内的・外的要因(遺伝子型や生活習慣等、未知の因子含む)を評価し、モデリング&シミュレーションの手法で統合処理する。その結果を基に、上記患者に対して、最も効果的で、かつ、副作用リスクの低い最適な治療を提供するための、独自の個別化医療支援システムを構築・提起し、その臨床応用を目指す。 本研究では、使用頻度の高い抗うつ薬パロキセチンを対象薬として、患者情報等による治療反応性の予測を試みた。その結果、血中パロキセチン濃度と、治療反応性の指標としてMADRSを用いて解析した結果、投与開始後1週目での薬物動態パラメータが、その後の8週目までのMADRS変化量を効果的に予測できる可能性を示した。一方、統合失調症患者の死亡率の増加に関係する抗精神病薬誘発性の代謝異常について、その関連因子を探索したところ女性患者では、抗精神病薬3剤以上服用者において過体重の頻度が高く、男女共にリスペリドン高用量服用者で、過体重の頻度が高いことを明らかにした。
  106. 次世代型フレームワークを用いた冠動脈疾患関連レアバリアントの網羅的探索と機能解析 20J11705 2020-04-24 – 2022-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 特別研究員奨励費 東京大学 心筋梗塞は、その発症に遺伝的要因が重要な役割を果たすことが明らかになっており、その遺伝的要因の研究は比較的頻度の多い遺伝的多型(コモンバリアント)を中心に大きな成功をおさめてきた。しかし、稀な遺伝的多型(レアバリアント)の網羅的評価は未だ成功例がなく、その遺伝的基盤の全貌は未だ未解明なままである。私たちはそれを明らかにし疾患発症メカニズムを詳細に検討するため、人工知能を使った次世代型フレームワークを用いてレアバリアントを遺伝情報全体を網羅的に解析し、疾患関連遺伝子群を同定する。また遺伝情報を用いた心筋梗塞発症リスクスコアを作成し精密・個別化医療の実現に貢献するツールを作成する。 心筋梗塞患者と対照群合わせて5000人の全ゲノムシークエンスを行い、データのクオリティコントロールを実施した。そのデータを用いて心筋梗塞発症の有無をゲノムのレアバリアントの情報のみから推定するスパースモデリングを用いた機械学習モデルを構築した。
    その結果として、心筋梗塞の発症に関連が示唆されるレアバリアントを含む遺伝子群を同定し、その中には家族性高コレステロール血症の原因遺伝子などが含まれていることを確認した。この機械学習モデルを用いてレアバリアント遺伝的リスクスコア(RVS)を作成した。バイオバンクジャパンのSNPアレイジェノタイピングデータを用いてゲノムワイド関連解析(GWAS)を行いコモンバリアントからなる多遺伝子リスクスコア(PRS)を作成した。
    これらのリスクスコアは、独立した1000人の全ゲノムデータでRVSが有意な予測性能を示し、PRSと統合した包括的遺伝的リスクスコアで予測性能が有意に向上することを確認した。
    この結果の他人種での再現性を確認するためにUKバイオバンクのエクソームシークエンスのデータのクオリティコントロールと機械学習モデルの適応を進めている。
    機械学習を用いた新たなフレームワークでゲノムデータを解析することによりレアバリアントを網羅的に解析し、疾患に関連する遺伝子群を同定し、リスクスコアの作成まで行なっており、missing heritabilityの一部をレアバリアントにより説明することが可能であることを示唆する結果が得られた。 令和3年度が最終年度であるため、記入しない。 令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
  107. ビッグデータを用いた全ゲノム情報解析による腎臓リハビリテーションの個別化構築 20H04034 2020-04-01 – 2023-03-31 小区分59010:リハビリテーション科学関連 基盤研究(B) 東北大学 申請者らが科学研究費補助金等により行ってきた腎臓リハに関する基礎研究や共同開発した負荷可変式携帯型エルゴメータ(てらすエルゴ)を用いる臨床研究を通じて,糖尿病以外の腎症や軽症~中等症の腎症の適応拡大を目指すためのエビデンス構築とビッグデータを用いた全ゲノム情報解析による生活習慣と腎機能障害などの分析を通じて、腎臓リハビリテーションプログラムの個別化構築を行う. 625個の腎障害関連遺伝子の日本人保有率調査を行い,ToMMoに登録されているビッグデータを用いて腎障害リスク因子を検討した。また、腎障害関連遺伝子から導かれるrisk scoreとeGFRの関連を分析,同様にApoL1遺伝子多型とeGFRの関連の分析を進めた。また、腎機能悪化を予測するベースラインの危険因子を分析した。腎障害動物モデルでの運動療法による腎保護作用の機序として、運動が腎間質のコラーゲンを抑制すること、ならびに、腎臓のレニン・アンジオテンシン系を抑制すること、酸化ストレスを増やすNADPH oxidase と xanthine oxidase活性を抑制することを明らかにした。
  108. 高温な気候曝露の循環器系疾患リスク評価とAIを利用した予測手法の構築 20H03949 2020-04-01 – 2024-03-31 小区分58030:衛生学および公衆衛生学分野関連:実験系を含まない 基盤研究(B) 岡山理科大学 人口が集中する都市の屋内外環境における急性循環器系疾患の死亡リスクを、気象と都市の数値流体モデルによって高解像でマップ化することが、本研究の主課題である。
    建物室内での生活、屋外空間での歩行や労働など、個々の活動条件を想定した疾患リスクの定量評価を試みる。この物理モデルで得られた結果をもとに、AI(機械学習)による疾患リスク予測の簡易手法を確立する。また、将来の気候変動によって予想される極端な高温化が、急性循環器系疾患の死亡リスクをどの程度上昇させるかについても、予測評価を試みる。 気候変動に伴う夏の高温化によって、熱中症だけでなく心筋梗塞など急性循環器系疾患(以降、循環器疾患)発症や死亡が増える懸念がある。本研究では、最新の疫学情報データを用いて、日本主要都市の気候と循環器疾患の罹患率や死亡率の関係を明らかにすることができ、また人の屋外活動との関係も示唆する結果が得られた。さらに、都市大気を再現できる数値流体モデルと、近年目覚ましい進歩を遂げている機械学習(以降、AI)を組み合わせる手法によって、都市への高温化対策の導入による循環器疾患の発症および死亡リスクの減少効果や、将来に起こり得る極端高温によるリスク上昇の予測が可能となった。
  109. 医療データとAI/Analytics融合による循環器疾患の発症・重症化予測 20H03681 2020-04-01 – 2023-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(B) 東北大学 循環器疾患は、比較的長い間身体機能が保たれるガンとは異なり、適切なタイミングで適切な介入を行わないと、ドミノ倒しのように軽快と増悪を繰り返しながら連続的に進行してしまう一連の疾患群である。加齢に伴ってリスクが増大する循環器病に対して発症前またはできるだけ早期の段階で治療的介入を行うこと、特に一人ひとりに着目して将来予想される病気を防ぐ、「個の視点」で発症・重症化を予測する診断方法が求められている。本研究では、先端的な診断技術(生体バイオマーカー)とその経験を定量化し、診断精度向上/自動化を実現する人工知能を活用した診断支援システムを開発し、先制医療への応用を目指す。 心不全では増悪・再入院を繰り返しながら、QOL低下・死亡に至るため重症化予測・リスク層別化が重要である。人工知能は多因子の変数の相互作用を考慮して重要度を選択する効果に優れている。心不全患者の単施設後ろ向きデータ(n=987)を使用し機械学習を行い、単施設前向き登録データ(n=197)を用いて1年以内の生命予後を予測するリスクモデルを開発した。従来のシアトル心不全モデルと比較して良好な予測精度が得られた(AUC 0.85 vs. 0.68)。他施設でのvalidation studyでは予測精度の低下を認め(AUC 0.67-0.69)、患者背景の差異などが影響する可能性が示唆された。
  110. 重症心不全を根治する“3D Mini Heart” 創成 20H00542 2020-04-01 – 2023-03-31 中区分55:恒常性維持器官の外科学およびその関連分野 基盤研究(A) 大阪大学 重症心不全の治療法として細胞移植による再生治療が期待されている。我々はこれまでにiPS細胞由来心筋シート治療法を開発し、虚血性心筋症モデル動物を用いて有効性と安全性を確立し、昨年度に臨床試験を開始した。本研究では、重症心不全患者にターゲットして、心筋シートより高い心機能改善効果が期待できる“3D Mini Heart”を生体外で創成し、移植に用いることを目的とする。足場材料を用いて、生体心臓内の微小環境を再現する多層化した 重厚な心筋組織の構築を目指し、動物心筋梗塞モデルへの移植実験及びPOC取得を行う。最終的に組織工学技術を駆使した高機能化心筋組織による次世代心不全根治法を開発する。 これまでにiPS細胞由来心筋シート治療法を開発し、臨床研究まで有効性安全性を確認されている。しかし厚みは0.1mm程度であるため、更なる厚み組織の形成が望まれる。本研究では、より高い心機能改善効果が期待できる“3D Mini Heart”を生体外で創成し移植に用いることを目的とする。我々は生体分解性材料で作製 した足場を用いて、心筋以外、線維芽細胞と血管内皮細胞、血管誘導因子を融合し、3次元回転培養装置を利用して、最終的に1mm厚みを有する3次元配向性のMini Heart組織の開発に成功した。心筋梗塞モデル小動物へ移植の有効性と安全性を確認することができた。
  111. 流体力学の理論と実験的手法を用いた冠血流動態の解析 17K16009 2021-03-01 – 2022-03-31 若手研究(B) 愛媛大学 虚血性心疾患は本邦において年々増加しており、その主な侵襲的治療としてカテーテルを用いたステント留置術が行われている。ステントを留置した後に、ステントが閉塞し心筋梗塞を起こすことがあり、その原因の大きな要因としてステントの不完全拡張がしられている。体外実験によりステントの不完全拡張の影響を調べる。
    また、粥腫破綻は心筋梗塞の主要な要因である。遠赤外線を用いた冠動脈の構造を再構成し、流体解析を行うことにより、粥腫破綻の詳細な原因の検討を行う。 虚血性心疾患の治療に際し、冠血流予備量比(FFR)による治療方針決定の有用性が確立されている。しかし、冠動脈内イメージングデバイス(血管内超音波検査:IVUSおよび光干渉断層法:OCT)で得られた冠動脈の解剖学的情報を用いてFFRを計算する報告は国内外を問わず少ない。そこで申請者は,解剖学的情報を用い、流体力学理論に基づいてFFRを推定する新たなアルゴリズムをすでに作成した。本申請では、(1)当該アルゴリズムを用いた解剖学的情報によるFFR解析、(2)数値流体解析ソフトウェアを用いた血流の解析し研究した。
  112. 慢性心不全患者における下肢陽圧負荷心エコー法の臨床応用 17K01412 2021-01-01 – 2022-03-31 基盤研究(C) 徳島大学 本研究は、下肢陽圧負荷試験による前負荷増大に対する左室拡張能応答を評価することで左室コンプライアンスを推定し,下肢陽圧負荷試験で心不全悪化の高リスク群と判断された患者に対し心不全の追加治療を行う事が,心不全患者の心不全再入院および心血管死の減少に有用であるかを前向きに検討する事を目的としている。 我々の研究グループは,まず下肢陽圧負荷心エコー図検査が臨床的に有用であるかを検討するために,左室駆出率の保たれた心不全患者において下肢陽圧心エコー図検査の安全性を確認し,下肢陽圧負荷心エコー図検査を用いて前負荷増大時の血行動態的指標の変化を観察することで心不全悪化の高リスク群を検出できることを発表した。
  113. ヒト心筋細胞の成熟過程の理解に基づく、成熟制御メカニズム解析基盤の構築 19KK0219 2019-10-07 – 2025-03-31 中区分53:器官システム内科学およびその関連分野 国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B)) 自治医科大学 多能性幹細胞から得られる心筋細胞(PSC-CMs)は再生医療に加えて、疾患研究や創薬への利用が期待されている。しかし、PSC-CMsは、成体の心筋細胞とはその特性に大きな乖離がある。今後の応用を進めるためには、ヒト心筋細胞の成熟過程の理解と、その理解に基づいた成熟法や解析基盤が必要となる。Johns Hopkins大学Chulan Kwon准教授は新生仔ラットの心臓へPSC-CMsを移植することで、成熟した成体型のPSC-CMsを得る生体内成熟法を確立した。本研究では、生体内成熟法を用いることで、成熟過程のトランスクリプトームと、成熟レポーター細胞の開発と検証を行う。 本研究では、心筋細胞の成熟メカニズムの解明に向けて、研究を進めている。
    コロナ禍の状況が落ち着いた2023年度は研究開始以来初めてJohns Hopkins大学への訪問が実現し、今後の共同研究の進め方についての打ち合わせを行うことができた。Kwon研究室メンバー全員との打ち合わせを行ったが、研究開始当初予定していた心臓内移植法の技術を持つメンバーが学位取得に伴い研究室を離れること、またその技術継承がうまく行っておらず現時点ではiPS細胞由来心筋細胞の心臓内移植が困難であることが明らかとなった。そのため今後の方針として、胚盤胞補完法、子宮内移植法など新しい手法の開発も含めて検討を行うこととした。
    さらに、魚崎Gではin vitroでの成熟法の研究を進めており、一定の成果が得られており、in vitro側からのアプローチについても進めている。 iPS細胞由来心筋細胞を心臓内へと移植することで成熟させ、リファレンスデータを取る予定であったが、この実験を担当する予定であったKwon研究室メンバーが研究室を離れたことで、実験ができなくなっているため。 新しい心筋細胞の移植法の開発、in vitroからのアプローチなどを進める予定である。
  114. 急性心筋梗塞後のMDCT遅延造影による心筋バイアビリティと予後予測精度の検証 19K23936 2019-08-30 – 2022-03-31 0902:内科学一般およびその関連分野 研究活動スタート支援 筑波大学 心筋梗塞の急性期に治療として行う経皮的冠動脈形成術(PCI)中に冠動脈に注入した造影剤を利用して、PCI終了直後に心電図同期下に非造影でMDCTを撮像することでMRIと同様に遅延造影像が得られる。本研究では、急性心筋梗塞患者においてこの手法を用いて得られたMDCTの遅延造影所見がMRIの遅延造影と同様に慢性期の心筋バイアビリティや急性期および慢性期の予後を評価しうるかを明らかにする。 本研究は、心筋梗塞の急性期に治療として行うPCI中に冠動脈に注入した造影剤を利用してPCI終了直後に非造影でMDCTを撮像することで得られる遅延造影像を用いて心筋梗塞の心筋傷害を評価した研究である。この研究により心筋梗塞領域においてMDCTによる遅延造影の深達度が深い領域では慢性期に壁運動が改善する可能性が低下するということを明らかにした。また、急性期合併症の予測に関しては、心筋ダメージの範囲が広範囲であることを示すHeterogeneous enhancement(HE)という所見がみられる患者では急性腎障害の発症や心血管合併症の発生が有意に多く発生することを明かにした。
  115. 光干渉断層診断におけるプラーク不安定性に着目した冠動脈疾患新規リスク層別法の開発 19K23931 2019-08-30 – 2021-03-31 0902:内科学一般およびその関連分野 研究活動スタート支援 北海道大学 心筋梗塞の原因となる動脈硬化症は、現在、依然として生命に関わる重要な疾患である。動脈硬化症には炎症が関与していることが知られており、また、光干渉断層診断法(Optical coherence tomography:以下、OCT)は、経皮的冠動脈形成術(Percutaneous coronary intervention:以下、PCI)中に用いられる画像診断装置である。
    本研究では、①PCI時に施行されたOCTで得られた画像所見から、動脈硬化の不安定性を定量化し、慢性期の予後との関連性を前向きに検証し、また、②不安定な動脈硬化病変を検出できるような新規炎症性バイオマーカーの探索を行う。 本研究の目的は、心臓カテーテル治療が行われた狭心症患者の光干渉断層診断(Optical coherence tomography; OCT)画像所見を用いて、①冠動脈病変の不安定プラークの特徴と慢性期予後との関連性を検証し、②OCT画像での不安定プラークを簡便に検出可能な新規血中バイオマーカーを探索することである。具体的には、有意狭窄病変を有する冠動脈疾患患者(症例数32名)を対象に、OCT画像を用いて冠動脈プラークを解析し、予後を追跡調査している。バイオマーカーに関しても、研究計画に示された項目に従って、提出、測定済みであり、今後、予後との関連性を検証していく予定である。
  116. 音響誘起電磁法を利用した臓器線維化の定量可視化 19K22956 2019-06-28 – 2021-03-31 中区分90:人間医工学およびその関連分野 挑戦的研究(萌芽) 東京農工大学 本研究の目的は、超音波を利用する新手法――音響誘起電磁(ASEM)法――を用いて、非侵襲に臓器の線維化を定量可視化する基盤技術を提供することである。安全で繰り返し検査を行うことができる線維化の診断技術の確立は、循環器系、泌尿器系、消化器系、呼吸器系等の治療判断に大きく貢献することが期待される。 音響誘起電磁法(ASEM法)は、超音波(音圧)により誘起される電気分極(圧電分極)を検出する方法である。この分極は、一軸対称性をもつコラーゲン等の線維組織の圧電性に由来する。そこで、臓器の慢性疾患に伴う過剰なコラーゲンの蓄積が検出・画像化されることが期待される。本研究では、ラットの慢性心筋梗塞モデルおよび腎不全モデルを用いて、線維化の可視化検証を行った。その結果、①健康な心臓では分極がほとんど観測されないため、心筋梗塞モデルにおいて明確なコントラストをもって線維化分布が得られた。②腎臓については、健全な腎臓でも分極が観測されたため、分極発生面積比として評価したところ、明確な有意差が得られた。
  117. 剖検用光干渉断層法開発によるoptic autopsyの構築 19K22776 2019-06-28 – 2025-03-31 中区分58:社会医学、看護学およびその関連分野 挑戦的研究(萌芽) 和歌山県立医科大学 今日の法医学において急増する虚血性心疾患の死後診断は、極めて重要な問題である。しかし剖検率が低い日本では、直接的根拠に基づく死後診断に苦慮している。光干渉断層法(Optical Coherence Tomography: OCT)は、光を用いた高解像度断層法で、血管の狭窄度や病理診断が可能である。本研究の目的は、世界で初めて剖検用OCTを開発し、OCTによる死後病理診断””optic autopsy””の有用性を明らかにする事である。本研究の成果からoptic autopsyの有用性が確認されれば客観的根拠に基づく虚血性心疾患の死後診断が、従来の手法に比較し遥かに小さい死体損壊で行えるようになる。 CT, MRIによる死後画像診断にて頭蓋内、胸腔内、腹腔内等に死因となる異常がないことを確認し、その後、通常の手順で胸腹部の皮膚切開後、心窩部および左胸骨肋間から、前後室間溝、房室間溝に沿い剖検用OCTプローベを挿入し、心膜上から左右冠動脈を観察し、冠動脈狭窄・閉塞、石灰化、脂質沈着、粥腫破裂、血栓の有無等を診断する。引き続き通常の手順で開胸し免疫病理標本を作成し診断を行った。通常剖検診断とOCTによるoptic autopsy診断を比較検討している。その中で動脈硬化病変の光干渉断層法による観察、そして病理組織との比較検討を行い、様々な知見が得られている。
    例えば、冠動脈CTと光干渉断層法の所見からスタチンによる資質低下療法が,冠動脈プラーク,特に臨床上重要なlow attenuation plaqueの形態変化に及ぼす影響について検討を行い、英文誌にfull paperとして報告した。低侵襲剖検により、生体のあった姿により近い状態で冠動脈プラークを観察しえたため着想を得た研究である。
    また、剖検例の低侵襲光学的剖検により得られた新知見より着想をえて、ATTRアミロイドーシスの心電図所見とエコーによる左室壁肥大のシンプルなたった2つのパラメーターで、ATTRアミロイドーシスを病初期に診断可能であることを英文誌にfull paperとして報告した。本知見は、早期診断を通じ、アミロイドーシス患者の予後を改善する可能性がある。
    さらに、動脈硬化病変に普遍的に存在するコレステロール結晶に関し、その生成や消退に関する知見が得られている。 コロナ禍によるサプライチェーンの寸断や、ウクライナ紛争の影響を受け,当初研究計画より遅れが生じたが、概ね順調に推移している。 コレステロール結晶に関する新たな知見をまとめ、研究論文を公刊する予定である。

  118. 高齢者医療を支援する背景依存型臨床判断閾値推定モデルに関する研究 19K21589 2019-06-28 – 2025-03-31 超高齢社会研究 挑戦的研究(萌芽) 高知大学 高齢者医療での臨床医の臨床判断支援を目的とする研究である。
    具体的な研究目標は、高齢者の慢性疾患(糖尿病、高血圧症、高脂血症、心臓病等)に対する医療介入のタイミングの目安となる臨床判断閾値を高齢者個々の生活・医療背景を反映して推定できる機械学習モデルを作成し、臨床医が治療計画を立て易い情報提供を行うことである。 本研究では、糖尿病、高血圧症および高脂血症の生活習慣病を1つ以上持つ高齢者の病態追跡により急性循環器疾患(心筋梗塞、脳卒中等)の発症予測を可能とする臨床判断閾値を見出すことを目指している。急性循環器疾患発症の主要因子の1つは動脈硬化であるが、動脈硬化の進行状況を正確に測定することは困難である。そこで、本年度は、高知大学病院の医療データを活用して、動脈硬化の促進に繋がる病態悪化の状況を時系列で把握することで、急性循環器疾患の発症を予測する可能性を検討した。
    病態の悪化の指標としては、まず本研究の中心となっている3つの生活習慣病の発症である。本研究では生活習慣病の診断が1つ以上ある症例を対象としているが、時間経過と共に生活習慣病の診断数が増えれば、より動脈硬化が起き易くなっていると考え、診断された生活習慣病の数を病態悪化指標の1つとした。また、腎臓や肝臓の働きが鈍ると血液浄化機能が落ち、動脈硬化が起き易くなるので、慢性腎炎と慢性肝炎の診断に着目した。さらに、動脈硬化がある程度進むと冠動脈の血流が一次的に止まる狭心症が発症する。そこで、動脈硬化に関連するリスク疾患として慢性腎炎、慢性肝炎および狭心症の診断数をもう一つの病態悪化指標とした。生活習慣病診断数と関連リスク疾患診断数を合わせた数を総病態悪化指数として、3つの指標を最初の生活習慣病診断から最初の急性循環器疾患診断まで追跡することとした。
    最初の生活習慣病診断から最初の急性循環器疾患診断までの年数毎にグループ化して、平均の生活習慣病診断数、関連リスク疾患診断数および総病態悪化指数を算出した結果、早く急性循環器疾患が発症する群ほど、早くそれぞれの平均値が増加することが見出された。特に、急性循環器疾患発症の1年前に急に増加する傾向が見られた。見出された病態悪化指標の変化が急性循環器疾患発症予測に利用可能か見極めることが課題である。 新型コロナウイルス感染拡大の影響に加え、急性循環器疾患(心筋梗塞、脳卒中等)の発症予測モデル構築において、当初の研究計画で考慮していた事項以外の検討事項が増えたことにより、全体として進捗が遅れることとなった。 本年度の研究により、急性循環器疾患発症の主因の1つである動脈硬化の悪化に繋がる疾病診断数の増加が急性循環器疾患発症症例で多く見られることが分かったので、この病態悪化指標を従来から分かっている急性循環器疾患発症リスク指標に加味することにより、急性循環器疾患発症予測の精度を高めることができるか高知大学病院の医療データを用いて分析を進める。
  119. サルコペニア合併虚血性心疾患に対する心臓-骨格筋連関の機序解明および治療法の開発 19K19824 2019-04-01 – 2022-03-31 小区分59010:リハビリテーション科学関連 若手研究 旭川医科大学 骨格筋の萎縮を合併した心疾患は予後が悪く、骨格筋と心臓間には臓器連関があると考えられている。しかし、萎縮骨格筋と心疾患の詳細な機序については不明な点が多い。そこで、この実験動物モデルを確立した上で、循環エクソソーム中マイクロRNAから、萎縮骨格筋と虚血心に関連する候補を見出した。本研究では、この候補マイクロRNAに着目し、培養した骨格筋細胞、心筋細胞に対しての影響を解明するために、傷害を与えた細胞中の発現およびミミックやインヒビターによる細胞傷害の程度を解析する。さらに、間葉系幹細胞が与える影響に着目して、間葉系幹細胞による骨格筋萎縮と心疾患の両者をターゲットとした新規治療を検討する。 マウスの心筋虚血後に尾懸垂でサルコペニアを誘導したマウスは心収縮能の回復が阻害された。血清中のエクソソーム中マイクロRNA解析で、 miR-16-5pが有意に上昇していた。ラット新生仔から単離した心筋細胞(NRVMs)に対して低酸素培養した上でmiR-16-5pを遺伝子導入したところ、直接的なターゲットであるSESN1の転写が阻害され、さらに下流のmTOR活性化を介してオートファジーが低下、アポトーシスを促進させた。miR-16-5pはサルコペニア誘導によって骨格筋および心筋から分泌され、SESN1-mTOR経路を介したアポトーシス促進が心機能回復不全を引き起こすことが明らかとなった。
  120. 急性冠症候群発症時における早期受診を目的とした患者教育プログラムの構築 19K19590 2019-04-01 – 2025-03-31 小区分58060:臨床看護学関連 若手研究 四国大学(2020-2023) / 大阪市立大学(2019) 急性冠症候群は発症から受診までの時間を短縮することで生命予後の改善が期待できる。そのため、発症から受診までの時間を短縮することは非常に重要である。先行研究では、受診までの時間に影響を及ぼす要因や時間短縮を目的とした研究は行われているが、大半は海外で行われており、社会的・文化的な背景の違う国内に当てはめることは難しい。また、発症から受診までの時間短縮を目的とした介入研究は国内では行われておらず、受診時間に影響を及ぼす要因に関する国内のエビデンスも乏しい。そのため、本研究では、急性冠症候群患者の現状を明らかにし、急性冠症候群を発症した患者の早期受診を促す患者教育プログラムの構築を目指す。 AMI(急性心筋梗塞)患者の発症から受診までの時間を短縮するための取り組みは、その効果的な患者教育プログラムの構築に重点を置いている。この目的を達成するために、インタビュー調査によって収集されたデータを質的に分析し、発症から受診までのプロセスや受診判断の要因、前駆症状の影響などについて分析を行った。同時に、医療機関の診療記録をベースにしたデータセットの分析により、地理的要因が受診までの時間に及ぼす影響を明らかにすることを行っている。
    先行研究では、発症時には認知的・感情的要因が受診行動に影響を与えることが示唆されているが、これが国内のAMI患者にどのように関連しているかはまだ明らかにされていない。認知的・感情的要因をより詳細に理解するためには、インタビュー調査やアンケート調査などの手法を用いて、患者の心理的側面をさらに探求していく必要がある。そのため、今回の研究結果を次につなげていくことも検討してる。
    本研究の主要な目標の一つは、ACS(急性冠症候群)発症時の早期受診を促進するための患者教育プログラムを構築することである。これまでの研究結果を基に、効果的なプログラムの内容を検討しているが、プログラムの提供方法やアウトカムの設定なども検討していく必要がある。さらに、患者教育プログラムの効果を評価するための適切な指標や評価方法の検討も重要である。プログラムの効果を客観的に測定し、必要に応じて修正を加えることで、より効果的なプログラムの構築につながる。そのためには、定性的・定量的データの収集方法や長期的なフォローアップの実施方法などについても検討を行っている。 新型コロナウイルスの影響でインタビュー調査の開始時期が遅れたことが影響している。また、研究対象施設である医療機関の研究協力者への負担も考慮して研究を進めているため、当初の計画より遅れている。さらに、研究協力施設の協力者の異動もあったことから、施設内の協力者の調整が必要となったため、当初の計画よりもやや遅れている。 新型コロナウイルスの影響で、研究計画が当初の予定より遅れた。研究の開始や進捗自体は遅れたが、データ収集や分析、患者教育プログラムの検討などは、概ね順調に進めることができている。今後は、インタビューデータの分析、診療記録を基にしたデータセットの分析を行い、学会発表や論文化を進めていく。また、患者教育プログラムの内容や提供方法、アウトカムの設定などを検討していく必要がある。プログラムの内容は分析を進めていき真奈が国内の状況にあった内容を取り入れていく。提供方法については、マンパワーなどを踏まえて、VRやオンラインなどの方法を検討していく。患者教育プログラムのアウトカムの設定は、評価方法と合わせて検討していく必要がるため、先行研究を参考にしながら設定していく。さらに、AMI患者の発症時の状況をより詳細に解明するため、認知的・感情的要因を明らかにするための研究を開始するための準備として、先行研究の整理やインタビューガイドの作成、アンケート項目の作成なども行っていく。
  121. 水素ガス吸入療法による薬剤性肝障害に対する新規治療法の開発とそのメカニズムの解明 19K18359 2019-04-01 – 2023-03-31 小区分55060:救急医学関連 若手研究 鹿児島大学 薬剤性肝障害のうち解熱鎮痛目的の処方薬や一般用医薬品の総合感冒薬などにも多く使用されているアセトアミノフェンは、自殺目的の過量内服や疼痛改善目的に大量内服されることがあり、重篤な肝障害を引き起こす可能性がある代表的な薬剤である。水素ガス吸入による臓器保護効果が近年注目されており、様々な報告がなされている。アセトアミノフェン肝障害に対する水素ガス吸入療法の有用性を検討し、さらに、未だ不明な点が多い水素ガスの臓器保護メカニズムの解明を様々な代謝経路を有する肝臓で研究することで明らかにし、水素ガス吸入療法を薬剤性肝障害の新たな治療法として確立をしていく。 アセトアミノフェン(APAP)肝障害に対する水素ガス吸入の効果について検証した。16時間絶食の後、APAP300mg/kgを投与するモデルを使用した。水素ガス(N2をベースとした、H2 1.29%、O2 21%の混合ガス)吸入群とコントロールガス(N2 79%、O2 21%の混合ガス)をAPAP投与後2時間吸入させ、24時間後に臓器保護効果について評価を行った。その結果、ALTは水素ガス吸入群が観光その上昇が抑えられる傾向にはあったが、統計学的な有意差は認めなかった。GSHに関しては群間で差はみられなかった。今後、モデルの重症度の検証や既存医療薬との併用など、さらなる検証を検討している。
  122. 心不全における血管内皮グリコカリックスの超微形態学的検討 19K18347 2019-04-01 – 2022-03-31 小区分55060:救急医学関連 若手研究 岐阜大学 血管内皮細胞表面に存在するグリコカリックスは血管の恒常性維持に重要な役割を果たしているが、循環血液量増加で生じる機械的刺激によりグリコカリックスが障害されると水分の血管外漏出が増加するため浮腫形成および臓器障害が生じる。
    急性期重症患者はしばしば心不全を併発し、そのポンプ機能の低下により十分な酸素や栄養が臓器に供給されなくなるため全身の臓器機能が低下する。本研究では心不全による体液貯留が血管内皮グリコカリックスに対してどのような影響を与え、臓器連関にどのような影響を与えるのかをうっ血性心不全モデルマウスを用いて検討する。 血管内皮細胞表面に存在するグリコカリックスは血管の恒常性維持に対して重要な役割を果たしている。循環血液量増加で生じる機械的刺激によりグリコカリックスが障害されると水分の血管外漏出が増加するため浮腫形成および臓器障害が生じる。
    多臓器にわたる心不全の臨床症状が出現する原因のひとつにこの血管内皮グリコカリックスの障害にあると仮定した。心不全で入院した患者において血管内皮グリコカリックスの障害マーカーである血清シンデカン-1濃度を測定したところ、血清シンデカン-1濃度が高値の患者は再入院また死亡率が有意に高値であった。また、心不全モデルマウスは多臓器にわたって血管内皮グリコカリックス障害が認められた。
  123. 機械学習を用いた集中治療部における急性腎障害の発症予測と層別化 19K18321 2019-04-01 – 2024-03-31 小区分55060:救急医学関連 若手研究 東京大学(2022-2023) / 京都大学(2019-2021) 急性腎障害(acute kidney injury: AKI)は、急性に糸球体ろ過量の低下を示す病態である急性腎不全に加え、早期段階の腎機能低下も包括した概念であり、致死的な病態を合併する。特に集中治療部(intensive care unit: ICU)において敗血症性ショックをはじめとした様々な病態が原因になり、高頻度で発生する。事前にAKIの高リスク患者を同定し、適切に介入を行うことは臨床上重要である。本研究ではICU患者時系列データに対して、昨今発展の著しい機械学習手法を適用しAKIの発症予測、最適な介入法を同定することを目的とする。 急性腎障害は、集中治療部において敗血症性ショックをはじめとした様々な病態が原因になり、高頻度で発生する。事前にAKIの高リスク患者を同定し、適切に介入を行うことは臨床上重要である。本研究では1次元畳み込みニューラルネットワークを用いてリアルタイムにAKIの発症予測及びその根拠可視化を行うモデルを開発し、その精度を検証した。結果として、高精度でAKIの発症予測が可能であり、予測の根拠も臨床的に妥当なものであった。さらに、医用画像データの評価手法や、モデルの不確実性の評価手法を開発し、その評価を行った。
  124. 心房細動発症におけるDHAの役割~リン脂質組成に着目した検討~ 19K18192 2019-04-01 – 2025-03-31 小区分55030:心臓血管外科学関連 若手研究 順天堂大学 心房細動は、心原性脳塞栓症の原因として生命予後とQOL低下に関与するため、その予防と治療は重要である。疫学研究において、多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acid, PUFA)の摂取が心房細動の発生率を減少させることが報告されているが、その分子機序は明らかにされていない。本研究の目的は、動物モデルとヒト組織、特に左心耳検体を用いて脂肪酸メタボローム解析を実施し、心筋組織の膜リン脂質含有PUFAの組成が心房細動発症に関与するとの仮説を検証する。特に、DHAを軸として、その代謝機構にも注目して解析し、心房細動の発症および進展を予測するマーカーの同定と、その機序の解明による新規治療薬開発を目指すものである。 本研究の目的は、心疾患において心筋におけるDHAを中心とした脂肪酸含有リン脂質の組成の違いを動物モデルおよびヒト検体を用いて基礎的および臨床的検討を行うことである。具体的には、DHAの作用機序、特に心筋組織の線維化などの組織学的な変化(リモデリング)を抑制する作用について、リン脂質の脂肪酸組成に着目して検証する。マウスおよびヒト心筋において、他の脂肪酸含有リン脂質と比較して、DHA含有PC・PEが多く含まれていることを明らかにし、心房細動患者におけるDHA含有リン脂質組成の違いを検討している。
    当院心臓血管外科において、様々な心疾患患者の心臓手術に際して実施された左心耳切除術で得られた左心耳組織からリピドローム解析を行いDHA含有リン脂質組成を解析した。腎機能・維持透析・心筋障害の重症度など、様々な患者背景によってリン脂質組成が変化することが検討できている。
    令和5年度は左心機能の保護された狭心症に対する冠動脈バイパス患者に限定し、心房細動発症の既往および術後心房細動発症の有無で、患者背景、心筋代謝マーカー、左心耳組織の線維化等と関連するかを比較検討した。具体的には、DHA含有リン脂質の中でも、PEやPIの組成が左室機能低下例や腎機能低下例では少ない傾向があったが、全脂質ではないことから、これらの中での一定の傾向をヒートマップなどで導き出そうとするため、解析の外注依頼を行い改めて解析を行った。今後結果を欧州心臓病学会で発表および論文投稿を目標としている。 心房細動患者にDHA含有リン脂質組成の違いの検討を行い、得られた左心耳組織からDHA含有リン脂質組成を解析している。左心機能の保護された狭心症に対する冠動脈バイパス患者に限定し、心房細動発症の既往および術後心房細動発症の有無で、患者背景、心筋代謝マーカー、左心耳組織の線維化等と関連するかを比較検討している。ほかにも様々な患者背景で比較検討し解析をすすめている。また、解析方法に関して難渋しており、AIを用いた解析なども考慮中であったが、解析までの時間と研究費不足のため、通常の解析にて対応しているが、研究計画よりも遅れている。心筋梗塞後心不全モデルおよび心肥大モデルマウスを用いての検討に関しては、準備段階にあり研究計画よりも遅れている。 現在得られているデータをAIでの解析を行うことを検討中であったが、解析までの時間と研究費不足のため、通常の解析にて対応している。年内に解析を終了し、欧州心臓病学会での学会発表および論文投稿の準備をすすめている。
    また追加解析の中で、これらの左心耳検体に対して、炎症や線維化の組織学的評価も行い、線維化の指標となる血清中Galectin-3、マッソン・トリクローム染色、M1様、M2様マクロファージの指標評価を免疫組織化学染色にて、遺伝子およびタンパク発現の評価(IL-6、TNF-α、α-SMA、MCP-1、CD11c、F4/80)をqPCRおよびウエスタンブロットにより行う。

  125. 心筋梗塞後組織修復及びリモデリングにおける一細胞レベル病態ダイナミクスの解明 19K17587 2019-04-01 – 2022-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 東京大学 申請者はこれまで心臓の一細胞RNA-seq解析を行ってきたが、一細胞解析の欠点として、解析した細胞がどのような系譜を辿ってきたのかを検証できないことが挙げられる。
    本研究では一細胞レベルでの細胞系譜追跡を可能にするPolyloxマウスを用いて、心筋梗塞後に心筋及び非心筋細胞に生じる経時的遺伝子発現応答変化,細胞間系譜変化を一細胞レベルで同時に解析して明らかにすることを目的としている。本研究は虚血性心不全の新規治療法を創出する基盤になると期待されるだけでなく、本研究で構築される系譜追跡とトランスクリプトーム同時解析による解析方法は、他の疾患モデルや生体組織の解析にも応用可能である。 本研究は心筋梗塞の病態理解のため、時間的・空間的なとランスクリプトーム解析を行うことを目指した。心筋梗塞時の心臓内の時空間的遺伝子発現制御を調べるため、健常時お及び心筋梗塞後1, 7, 14日目の心臓組織に対してシングル核RNA-seq及びspatial transcriptome解析を行った。その結果、梗塞後の超急性期に虚血辺縁領域特異的にメカノストレスに反応する遺伝子群の発現上昇を認めた。また、これとは別に、心臓線維芽細胞に対するシングルセルRNA-seqの解析結果から見出したHtra3という遺伝子が圧負荷, 虚血の双方において心保護的役割を果たすことも明らかにした。

  126. 冠動脈疾患におけるPD-1/PD-L1の役割の解明 19K17570 2019-04-01 – 2023-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 熊本大学 冠動脈疾患患者において次の項目と血球のPD-1、PD-L1発現および血清中の可溶性PD-1、PD-L1値との関連性を調べる
    ①冠動脈病変の重症度を表すSYNTAX scoreやGensini score
    ②冠動脈血管内超音波(IVUS)で評価した冠動脈プラーク容積
    ③炎症マーカーと炎症性サイトカインの血中濃度
    ④非侵襲的末梢血管内皮機能検査であるReactive hyperemia peripheral artery tonometry (RH-PAT)で評価した血管内皮機能 冠動脈疾患には免疫機構が関与しているが、それを制御する免疫チェックポイントタンパクであるProgrammed death-1 (PD-1)、Programmed death-ligand 1 (PD-L1)の役割は分かっていない。本研究では冠動脈疾患におけるPD-1, PD-L1の関与を調べた。
    急性冠症候群患者では慢性冠症候群患者よりも血清PD-L1値が高値であった。また冠動脈疾患患者においてsPD-L1が高い集団はそうでない集団と比較して心血管イベントが高率に発生した。
    以上からPD-1, PD-L1は冠動脈疾患の新たなマーカーおよび予後予測因子となりうることが示唆された。
  127. 数値流体力学血流解析による早期ステント被覆と新生動脈硬化の機序解明と治療最適化 19K17527 2019-04-01 – 2023-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 山口大学 冠動脈インターベンションの課題は、ステント内再狭窄、ステント血栓症、遠隔期新生動脈硬化、抗血小板薬二剤併用療法の早期終了である。これらを解決するために第3世代の冠動脈ステントが開発され、各種ステントには特徴的な技術が搭載された。我々は抗血小板薬二剤併用療法の早期終了と晩期再狭窄の抑制に効果的な因子は何かを明らかにするために、各種ステント留置後の状態に関する画像データを元に血管の状態をモデル化し、数値流体力学解析によりフローシミュレーションすることで、早期新生内膜、遠隔期新生動脈硬化の機序を解明し、抗血小板薬二剤併用療法の終了タイミングを決定するための客観的指標づくりに貢献することが目的である。 冠動脈血流解析の技術の確立、向上のためまずは冠動脈瘤の血流解析を行い、冠動脈瘤による急性心筋梗塞発症の要因解析を行った。この検討では冠動脈血流低下、Recirculation flowが観察された。Wall shear stress 0.2Pa以下で定義したExtremely low wall shear stressが全ての症例で観察された。冠動脈血流の低下、Recirculation flowは正常冠動脈症例では認められず、急性心筋梗塞発症要因である可能性が示唆された。本技術を用いて今後はステント留置後のフローシミュレーションを行う予定である。
  128. 4D flow MRIによる血流解析を利用した、心筋梗塞に伴う左室内血栓症の予測 19K17518 2019-04-01 – 2023-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 浜松医科大学
  129. Ex vivo 冠動脈CTと病理を用いた脆弱性プラーク診断法の開発と生体への応用 19K17221 2019-04-01 – 2025-03-31 小区分52040:放射線科学関連 若手研究 北海道大学 冠動脈の脆弱性プラークは急性心筋梗塞や心突然死の原因となる。冠動脈CT読影は読影者の技量に影響され、すべての患者で早期の治療介入がされているとは言えない。冠動脈の病理組織では脆弱性プラークと非脆弱性プラークの鑑別が可能であるが生体からの病理組織採取はほぼ不可能である。申請者の施設では病理解剖施行例に死後単純CT撮像を行っているが、加えて冠動脈CT撮像を行い病理組織と詳細に対比することができれば読影者の技量に影響されない画像診断方法が確立でき、患者の早期治療介入が可能となり得ると考え、画像からプラークの病理組織を客観的に予測可能な画像診断を行う方法を開発することを目的とする。 本研究は、当該施設において死亡し、病理解剖が行われた際に摘出される心臓を用いてCTやMRI画像撮像をし、画像データと病理標本の組織データとともにAI解析する研究である。
    冠動脈造影CTでは生体に使用される造影剤をそのまま使用することはできず、過去に報告のある作成方法を応用して造影剤を作成する。予備実験において、造影剤作成方法の確認を行い、模擬心臓を用いて冠動脈CT撮像を行った。模擬心臓を用いてMRI撮像のプロトコル調整も行った。
    研究協力者の病理診断専門医とともに、冠動脈CTやMRIで冠動脈プラークや石灰化が認められる箇所を同定し、同部の病理組織標本を作製し、それぞれを照らし合わせ、AIを用いた解析を行うこととしている。画像撮像から摘出した心臓のホルマリン固定、病理標本作成、組織評価につき情報共有をした。異動先の施設からも症例を得て研究を行えないかの確認も行った。
    本研究では摘出された心臓を用いて同一時間軸で画像-組織評価を行うことで、組織情報をより正確に反映した画像データが得られることが期待される。それにより生体における冠動脈病変の画像的早期発見が可能となると思われ、あわせて早期治療介入を行うことができるのではと期待される。当該年度では、国内外の研究情報収集を行い、先行論文を発表している海外の研究者とも交流を図った。
    次年度では症例蓄積およびデータ収集、引き続き主に国内の学会等での情報収集を継続、可能であれば、国内学会において発表できるよう、研究を進めていきたいと考えている。 新施設へ異動したが、日中の研究活動状況に関し、方針の変化があり活動がしにくい状況であった。時間外の活動に関しては、家族の都合および研究責任者の体力的な問題で施行することが難しい状況が続いた。年度途中よりリハビリ通院を開始し、徐々にではあるが、研究代表者の体力面が回復してきている。また、子も成長するにつれて発熱等の日中の呼び出しが減るのではないかと考えており、これらの点から次年度は研究活動が行えるのではないかと考えている。 限られた年休の使用で日中の研究活動を行うことは難しい状況ではあるが、子の成長や自身の体力回復により研究以外の年休消化が減るのではないかと考えている。また、子の成長や自身の体力回復は時間外の研究活動も行いやすくなる環境に近づくものと考えている。現所属施設においても症例蓄積できるか検討したい。
  130. 多面的アプローチによる石灰化結節における冠動脈イベント発症機序の解明 19K16987 2019-04-01 – 2024-03-31 小区分52010:内科学一般関連 若手研究 和歌山県立医科大学 冠動脈イベントは末期腎不全患者の死因の半数を占めるため、発症機序の解明は重要課題である。冠動脈壁ずり応力の解析が可能な数値流体解析モデルを開発し、石灰化病変の形態、壁ずり応力、内皮障害、血小板活性の関係を多面的アプローチにより明らかにし、末期腎不全患者における冠動脈イベント発症機序を解明する。そのため、三次元光干渉断層法を利用した数値流体解析モデルを開発し、拍動流解析実 験装置にて検証を行う。末期腎不全患者の冠動脈に、三次元光干渉断層法および数値流体解析モデルを適用し、病変形態、壁ずり応力、血栓付着部位、血液マーカーによる内皮障害や血小板活性の評価を行い、冠動脈イベント発症機序を明らかにする。 急性心筋梗塞症例に対して、冠動脈血行再建術治療時に光干渉断層法(OCT)および近赤外線スペクトロスコピー法(NIRS)を用いて冠動脈責任病変の組織形態を評価し、生体内での石灰化結節病変の診断アルゴリズムを開発しました。このアルゴリズムを通じて、石灰化結節の冠動脈形態性状と組織性状を同定しました。さらに、心臓MRI検査により脂質含有量が微小循環障害に強く影響することを確認し、石灰化結節を起因とする急性心筋梗塞症例の予後を追跡しました。予後はプラーク破裂例と同様に不良でした。また、非責任病変における石灰化および非石灰化病変の組織性状の差異を検証し、石灰化結節の発生因子を考察しました。
  131. 冠動脈の心筋血流予備量比と壁応力を測定できる超高速血管内光干渉断層法の開発 19K12846 2019-04-01 – 2022-03-31 小区分90130:医用システム関連 基盤研究(C) 和歌山県立医科大学 我々は、血管内光干渉断層法の技術を基礎にした、心臓冠動脈の血流循環・壁ストレス情報の獲得を可能にする、新しい画像診断装置を開発する。病理解剖例の摘出心臓の冠動脈で実験を行い、(1)心筋血流予備量比・壁ストレス測定の実行可能性を検証する。(2)急性心筋梗塞の発症予知の可能性を探る。(3)医療における有用性の検証と今後の臨床使用に向けての課題抽出を行う。 本研究は、血管内光干渉断層法(OCT)から得られる冠動脈の解剖学的情報を基に、冠動脈病の生理学的重症度を算出する技術を発展させた。OCTは、正確な血管の内腔狭窄面積の自動計測能力によって、冠動脈病変における血流量の変化を見積もることができた。また、OCTは、急性心筋梗塞の発生リスクの高い動脈硬化性プラークの病理組織学的特徴を詳細に評価することができた。本研究の結果は、OCTが、狭心症の心筋虚血を正確に診断でき、急性心筋梗塞の予測精度を向上させることを提示した。
  132. 心大血管リハビリテーションによるHDL機能の改善と再発予防効果の解明 19K11426 2019-04-01 – 2025-03-31 小区分59010:リハビリテーション科学関連 基盤研究(C) 昭和大学 急性冠症候群患者の発症時と6・24か月後のHDL機能(コレステロール引き抜き能と抗酸化酵素活性)、身体機能(心肺運動能力と血管内皮機能)および発症時と6か月後の生活習慣(食習慣、身体活動量)を評価する。心肺運動能力の増加や生活習慣の是正が得られれば、心大血管リハビリテーション(心リハ)に参加しなくても、HDL機能改善効果がえられるか、またHDL機能改善が3年間の心血管イベント回避効果を有するかを分析する。心リハの効果を多面的に解明する。 急性冠症候群(ACS)発症時の冠動脈病変と強く関連する脂質因子の分析を論文発表した。従来の古典的因子であるLDLコレステロール(LDL-C)ではなく、small dense LDLコレステロール(sdLDL-C)高値が光干渉断層法(OCT)で診断した不安定プラーク成分、例えば、プラーク破裂、コレステロール結晶、マクロファージの集積と関連した。またsdLDL-C値はトリグリセリド(TG)の代謝に寄与するリポ蛋白リパーゼ(LPL)と負相関した。
    ACS患者535例を6ヶ月間の心臓リハビリテーション(心リハ)完遂群と脱落ないし不参加の非心リハ群に分けて比較した結果では、心リハ群でlarge buoyant LDL-C、sdLDL-C、LDL-TGの低下効果が大きかった。ACS患者253例では、ACS発症時と6ヶ月後の2回LPLを測定した。心リハ群(205例)でLPLは有意に上昇し、TGとLDL-TGは有意に低下した。その中の181例ではACS退院時と6ヶ月後に心肺運動負荷試験を実施できた。6ヶ月後に運動耐容能の向上した群でのみ、LPL、HDL-C、HDL2-C、アポリポ蛋白A1は有意に上昇し、TGは有意に低下した。HDL関連の抗酸化酵素活性paraoxonase-1とarylesetrase活性を測定した結果では、心リハによりparaoxonase-1は有意に上昇したが、高強度スタチン服用者ではむしろ減弱していた。HDL機能に関しては、一部の症例でHDLコレステロール引き抜き能とHDLのコレステロール取り込み能を測定した。両者とも心リハにより上昇したが、少数例の結果であり、現在、測定を継続している。
    心リハはACS患者の二次予防に有効であるが、その効果は心リハによる運動耐容能の向上と関連しており、有効な心リハプログラムの工夫が必要である。 分担研究者でのHDLコレステロール引き抜き能の測定が遅れているため。 今年度内にHDL機能の測定を行う予定である。心リハによる心肺機能の変化、リポ蛋白代謝酵素の変化、リポ蛋白組成の変化の相互の関連を分析し、心リハの抗動脈硬化機序の解明に引き続き取り組む。

  133. 在宅心臓リハビリテーション確立に向けた客観的な身体活動・座位行動の予測モデル構築 19K10921 2019-04-01 – 2025-03-31 小区分58060:臨床看護学関連 基盤研究(C) 名古屋女子大学(2021-2023) / 白鳳短期大学(2019-2020) わが国の外来での心臓リハビリテーション(心リハ)の普及は大幅に遅れており、早急な改善は困難である。そのため、外来心リハが実施困難な患者への現実的な代替手段として、在宅心リハが挙げられる。在宅心リハでの運動処方・指導において、日常の「身体活動・座位行動」が重要と考えられるが、詳細な実態は未解明である。
    そこで本研究では、身体活動を数値として表すことが出来る活動量計を用いて心疾患患者の退院後の身体活動・座位行動を計測し、その実態の詳細を明らかにすることと、それに基づいて退院後の身体活動・座位行動を退院時に予測できるような評価モデルの構築を行う。 これまで収集してきたデータを詳細に解析し、在宅心疾患患者の身体活動・座位行動の特徴が明らかとなった。さらにこれらを活動強度別(軽強度・中高強度)や活動の種類別(移動動作・生活動作)に分けるた時の特徴も明らかとなった。これらの得られた知見を、第29回日本心臓リハビリテーション学会学術集会で「外来心臓リハビリテーション患者における在宅での客観的に測定された身体活動・座位行動時間の特徴 」として口述発表し、優秀賞を受賞した。この内容を現在国際誌(オープンアクセスジャーナル)に投稿し、リバイス対応中である。
    さらに研究の過程で、身体活動について常識で考えられている運動強度と実際が乖離する例が散見された。これらは、心臓リハビリテーションや生活指導を行う際に重要な知見であるため、総説論文として、理学療法ジャーナルに「内部疾患とPhysical Activity 」と題した原稿が掲載され、これまでの成果の一部を公表した。 新型コロナウイルス感染症下でデータ収集が遅延した分、論文作成など成果発表も遅れているため。 現在、最終の成果発表である論文が、オープンアクセスジャーナルに投稿中で、リバイス対応中である。このリバイスを終え、採択されれば、完了となる予定である。
  134. 睡眠時無呼吸症候群ラットモデルにおける高脂肪食付加の心・血管機能への影響 19K10694 2019-04-01 – 2022-03-31 小区分58040:法医学関連 基盤研究(C) 東京医科大学 睡眠時無呼吸症候群(SAS)患者の突然死のメカニズムは重要な研究課題である。SASの患者では、睡眠時の低酸素発作が、心筋梗塞、心不全による心臓突然死を誘発すると言われている。また、高脂肪食による肥満は心血管に脂肪を蓄積し、代謝を変化させ、心機能に影響を与える。肥満と脂質異常はSAS発病のもとにあり、突然死のリスクを上昇させる。この病態の背景には間欠的低酸素(IH)による血液濃縮、血液粘調度の増加、中枢神経の変調機構を介する異常、高脂肪食による赤血球変形能異常、また、それらに対する生体反応が関与していることが言われてはいる。SASに関連した突然死の病態を解明することで先制医療の基盤構築を目指す。 高脂肪食を付加した間歇的低酸素ラットモデルにおいて間歇的低酸素曝露をすると4-5日目をピークに心筋の過収縮がおきることが分かった。心筋過収縮の原因は血液粘度の増加によるもので、粘性の高い血液を体の隅々まで送るために、心臓が強く収縮し、心筋の過収縮が起こることが分かった。そのため、HO-1は生物学的防御反応として放出される。 HO-1は血管拡張作用があり、過収縮を抑制する。 このことから、HFD付加後のIH曝露は一過性の過収縮を引き起こし、その生物学的反応としてHO-1を放出する。 そして血管が拡張し、左室駆出率が正常に戻ったと結論付ける。
  135. 病院医療の質評価指標としての病院標準化死亡比(HSMR)の確立と活用に関する研究 19K10518 2019-04-01 – 2023-03-31 小区分58010:医療管理学および医療系社会学関連 基盤研究(C) 東邦大学 通常の医療事故では、当該事故事例をもとに根本原因、再発防止策などを検討し、病院システムの改善を図るという手法が取られる。こうした活動に加え、病院の医療の質と安全を総体として把握し、管理する活動も併せて重要であり、その際にはHospital Standardized Mortality Ratio(HSMR:病院標準化死亡比)が利用可能である。
    本研究では、DPCデータを用いて、リスク調整済HSMRを算出し、病院の安全性を含めたパーフォーマンスを示す指標としてのHSMRの妥当性と信頼性を評価するとともに、HSMRに影響を及ぼす院内体制を明らかにし、今後の改善を支援するための基礎資料を得る。 本研究では、DPC/PDPSデータを用いて、複数のリスク調整済質指標を開発した。具体的には、疾病別のHospital Standardized Mortality Ratio, Readmission Ratio, ADL Ratioを開発、実際に算出しており、病院の安全性を含めたパーフォーマンスを示す指標としての妥当性と信頼性を学術誌の査読および掲載によって獲得した。各指標の算出結果から、質改善が必要だと考えられる病院を特定することに成功し、今後の改善を支援するための基礎資料を得た。

  136. 包括的地域保健データに基づく歯周病と全身疾患の関連に関する研究 19K10462 2019-04-01 – 2022-03-31 小区分57080:社会系歯学関連 基盤研究(C) 信州大学 歯周病の慢性化に関わる要因,および歯周病と全身疾患との関連を地域保健データに基づいて探索し,歯周病治療が全身疾患の病態の改善や医療費の削減に効果的であるか検証する。本研究の解析対象として,母子保健,学校保健,歯周疾患検診,特定健診および健康保険診療報酬明細を統合した包括的な地域保健データを構築する。対象地域は歯科医師会と医師会が研究会を組織した長野県松本市,そして信州大学医学部と地域連携協定を締結した長野県北安曇郡松川村と同東筑摩郡麻績村とする。医科歯科診療連携により歯周病の慢性化要因の解明と全身疾患との関連,歯周病治療による全身疾患の予防が可能か検証し,先進的な予防医療の立案と提言を目指す。 松本市の特定健診(8,312例)および後期高齢者検診(16,240例)の歯科的問診項目(食事時の口腔・嚥下機能の自覚症状)に対する回答を解析した結果、「やや気になることがある」および「問題があり食べにくい」に該当する例の割合は、30―39歳で7.4%、40―74歳で10.4%、75歳以上では15.3%であった。当該例の歯科受診状況は、調査時点で通院(治療)中が51.4%と高値だった。
    歯周病と全身疾患との関連とその診療経過の前向き研究は、コロナ禍により遂行困難となった。そこで計画を中途で修正し、長野県の国民健康保険データベース(KDB)に基づいた大規模データの解析を進めることとした。

  137. 血液透析患者における歯周病が心血管病に与える影響 19K10423 2019-04-01 – 2025-03-31 小区分57080:社会系歯学関連 基盤研究(C) 九州歯科大学 慢性腎臓病(CKD)における心血管疾患による死亡原因は最も多く、CKDは心血管病の危険因子であることが明らかになっている。また、歯周病は、心血管病とCKDに共通する危険因子である。歯周病が予防可能、治療可能な疾患であることを考慮すると、歯周病と心血管病の関連を明らかにする意義は大きいが、歯周病とCKDの関連性を検討した臨床研究のほとんどは欧米人が対象で、コホート研究は少ない。本研究では、日本人の血液透析患者を対象とした心血管病データベースを再構築した疫学研究の成績を用いて、心血管病発症とそれによる死亡を標的として、歯周病重症度との関連を評価し、歯周病が心腎連関進展へ与える影響について検討する。 日本人の血液透析患者を対象とした心血管病データベースを再構築した疫学研究の成績を用いて、心血管病発症とそれによる死亡を標的として、歯周病重症度および歯周病原細菌感染度との関連を評価し、歯周病が心腎連関進展へ与える影響についての検討を行っている。
    既往歴、家族歴、生活歴(飲酒・喫煙)、服薬状況(降圧薬、糖尿病治療薬など)、透析期間、透析基礎疾患の基本情報、身体計測(身長、体重、基準体重)、透析前後血圧、Kt/V(標準化透析量)、血液検査(血計、脂質、血糖など)の医科項目、残存歯数、歯冠・歯根の状態、咬合状態、歯周病罹患の有無、口臭、口腔粘膜、唾液検査(分泌量、pH)、縁下プラーク、 舌苔、唾液・プラーク・舌苔中の歯周病原性細菌の歯・口腔診査のデータベースの確認を行い、追跡調査として、本研究のエンドポイントである心血管病(心筋梗塞、狭心症、冠攣縮性狭心症、冠動脈バイパス術後、経皮的冠動脈形成術後、脳出血、脳梗塞、くも膜下出血、心不全、心房細動、高血圧、その他の不整脈、大動脈瘤)発症と死亡のデータ収集中である(①近隣医療機関との緊密な連携のもと、心血管病発症や死亡の有無を定期的に調査する。②転院した者については、郵送・電話による アンケート調査を行い、心血管病発症や死亡の有無について調査する。上記①・②で心血管病が疑われた場合、および死亡が確認された場合には、医療機関においてその診断に必要な臨床情報を系統的に収集し、心血管病の発症の有無を調査し、死亡の場合は死亡時の臨床情報と死亡診断書により死因を確定する)。 転院した者について追跡調査を行ったが、返事が戻ってこなかったり、詳細不明で戻ってきたため、情報不足が多くなった。現在解析中である。 データ解析中であり、2008年時の歯周病レベルにより対象者を層化し、心血管病の罹患率と死亡率等を比較し、血液透析患者における心血管病リスク予測の精度を向上していく。

  138. 閉塞性睡眠時無呼吸症の夜間血圧サージに対する口腔内装置の治療効果 19K10255 2019-04-01 – 2023-03-31 小区分57050:補綴系歯学関連 基盤研究(C) 大阪歯科大学 閉塞性睡眠時無呼吸症患者では、睡眠中に周期的に繰り返される低酸素血症が引き金となり、急峻で甚大な血圧サージ(スリープサージ)を引き起こし、脳卒中や心筋梗塞をはじめとする脳心血管イベントの発生に関わると言われている。本研究では、閉塞性睡眠時無呼吸症のスリープサージに対する口腔内装置の治療効果を心拍ごとの血圧測定技術を用いて評価し、その有効性について明らかにすることを目的とする。
    口腔内装置治療のスリープサージに対する効果を明らかにすることで、心血管疾患・脳血管疾患の進行や心臓突然死のリスクを下げるなど生命予後に対しても効果が期待できると考えている。 高血圧の既往があるOSA患者22名に対して、OA治療群とプラセボ群をランダムに振り分けクロスオーバー試験を行った。REIは22.8 vs 10.0/h (p<0.01)とOA群で有意な減少を認めた。 PTT血圧に関して、覚醒時の収縮期平均血圧は131.7 vs 121.4mmHg(p<0.01)、睡眠中の収縮期平均血圧は123.3 vs 112.8mmHg(p<0.01)OA群で有意な減少を認めた。OA治療は夜間血圧サージに対しても有効である可能性が示唆された。

  139. コンピュータ分子設計PAI-1阻害薬を用いたぶどう膜炎モデル軽症化の検討 19K09924 2019-04-01 – 2023-03-31 小区分56060:眼科学関連 基盤研究(C) 北海道大学 PAI-1は線溶系の生理的阻害因子の一つと考えられている。PAI-1の増加はアテローム性動脈硬化や心筋梗塞に代表される血栓症の誘引となり、動脈硬化症や血管の再構築にも関与する。
    一方でその発現はTGF-β、IL-1などの炎症性サイトカインに制御され、活性化マクロファージの遊走に不可欠なタンパクとして機能していることが明らかとなり、マクロファージ浸潤に伴う炎症と線維化に至る疾患の新たな治療標的分子として注目されている。
    本研究では眼炎症疾患の動物モデル(EAUマウス)を用いてPAI-1の関与を解明し、さらに治療標的としてPAI-1阻害薬による眼炎症の軽症化について検討する。 本研究では眼炎症疾患の動物モデルであるEAUを用いてPAI-1と炎症の関連と、PAI-1阻害薬による眼炎症の軽症化について検討した。まずぶどう膜炎患者の硝子体液中ではPAI-1濃度が有意に高くなることが明らかとなった。またEAUマウスの網膜ぶどう膜でPAI-1の発現が亢進すること、さらにPAI-1阻害薬によりその重症度が低下することを確認した。さらにTranswell Assayで、阻害薬によりマクロファージの遊走が低下することを確認した。
    これらの結果からPAI-1が非感染性ぶどう膜炎の炎症の進展に関与しており, PAI-1が非感染性ぶどう膜炎に対する新たな治療標的となる可能性が示された。

  140. エラスチン架橋アミノ酸に着目したもやもや病バイオマーカー診断法の確立 19K09498 2019-04-01 – 2021-03-31 小区分56010:脳神経外科学関連 基盤研究(C) 北里大学 本研究の目的は、動脈壁の 構成成分であるエラスチンの架橋アミノ酸desmosineおよびisodesmosineがもやもや病患者の血管に生じる異常を客観的に検出可能なバイオマーカーであるという作業仮説を検証し、 新規診断法の開発へつなげることである。もやもや病は致死的な脳血管イベントを発症することが知られているが、現状では画像診断による病期評価のみで、発症前診断をとらえる手法がない。本研究では、もやもや病患者のdesmosineおよびisodesmosineの定量分析を推進することで、 病院前診断が可能となる試薬・診断薬の開発につながることが期待される。 本研究の目的は、臨床医学と有機化学の異分野融合型の学際型研究として、動脈壁の構成成分であるエラスチンの架橋アミノ酸desmosineおよびisodesmosineが、もやもや血管の増勢や脳出血、脳梗塞などの致命的となり得る脳血管イベントの発症を推測可能なバイオマーカーであるという作業仮説を検証し、もやもや病の病態評価に関する簡便かつ高精度な診断法を初めて開発することである。
    もやもや病患者ではウイリス動脈輪に内膜線維性肥厚、内弾性板の屈曲、中膜の菲薄化などが認められている。その為、動脈壁中膜の主要成分である弾性線維エラスチンが組織学的に破綻している可能性が示唆されるが、生体内での血液生化学的動態には不明な点が多い。したがって、本研究では血液などの臨床試料中のエラスチン架橋アミノ酸の変動をバイオマーカーとする前例のない、簡便かつ客観的で高精度なもやもや病の病期進行予測モデルを構築できる。本研究により、若年者脳梗塞の不要な治療行為の減少や医療費の多大な削減が期待される。また、がん、急性心筋梗塞、脳卒中の三大疾病のうち、脳卒中のみ早期診断が可能なバイオマーカーが開発されていないが、本手法はもやもや病以外の他の脳卒中治療への水平展開も可能と考えられる。
    もやもや病患者の体内動態に関する以下の3項目につき、計3年間の研究期間内に明らかにする。そして最終的には、もやもや病の診断および病期進行予測をより客観的に遂行する為のバイオマーカーを同定し得る簡易的スクリーニングキットの開発につなげることを目指し、もやもや病患者の臨床試料中のdesmosine/isodesmosineの定量分析をおこなった。
  141. 血糖値変動は冠攣縮性狭心症発症の危険因子となりうるか 19K09398 2019-04-01 – 2022-03-31 小区分55060:救急医学関連 基盤研究(C) 大分大学 冠攣縮性狭心症(CSA)は冠状動脈が異常収縮により灌流組織の虚血を生じる疾患である。冠攣縮を原因とする心室細動や急性心筋梗塞により突然死の危険があり本疾患の克服は救急分野における重要課題である。CSAの発生機序は血管内皮障害と血管平滑筋の過収縮である。治療は血管拡張薬を使用するが効果は一時的であり定期的に薬物を摂取する必要がある。近年、血糖値変動と心疾患との関連が注目されている。血糖値変動が大きいことにより ①血管内皮機能を障害する、②冠動脈硬化を促進することが報告されておりCSAの発症を促進する可能性は十分あり得る。今回我々は大きな血糖変動がCSAの病因となるか明らかにしたい。 本研究では冠攣縮性狭心症と血糖変動、不飽和脂肪酸との関係を明らかにすることを目標とした。血糖変動と冠攣縮性狭心症の関係は症例数の関係で明らかにできなかった。しかし不飽和脂肪酸と冠攣縮性狭心症の関係は副交感神経を優位にするDHAが高いと冠攣縮性狭心症を発症していた。不飽和脂肪酸と冠攣縮性狭心症の関係を日本循環器学会で発表し、心臓で報告した。
  142. 心筋幹細胞移植による心機能再生メカニズム解明とcell-free再生治療法の開発 19K09246 2019-04-01 – 2022-03-31 小区分55030:心臓血管外科学関連 基盤研究(C) 山口大学 様々な心疾患において、cardiosphere-derived cells (CDCs)を用いた細胞移植療法による心機能改善効果が報告されている。その機序として血管新生が挙げられ、広く知られている。本研究は血管新生以外の機序を明らかにし、新たな治療標的分子を探索することを端緒の目的とする。将来的には、明らかにした標的分子を制御するリコンビナントタンパク・低分子化合物・microRNA・exosomeなどを利用する、cell-free再生療法の開発を目指している。まずは、マウス陳旧性心筋梗塞モデルにおいて、CDCs治療がホスト心筋細胞、繊維芽細胞・マクロファージに与える影響を検討する。 難治性心不全に対する心臓移植の機会は非常に限られ、これに代わる新規治療法の開発が必要である。様々な細胞が放出するエクソソーム(膜小胞)は成長因子やmiRNAを含み、細胞移植と比較して免疫原性も少ないとされ、幹細胞移植に代わる新規治療法として期待されている。当研究室では過去に、陳旧性心筋梗塞(OMI)モデルに心筋幹細胞 (CDCs)を移植し、心機能の改善を報告した。一方で、CDCs由来エクソソームの心筋保護は明らかになっておらず、これを検討した。
    結果、CDCs由来エクソソームはOMIモデルにおいて心臓を保護し、血管新生や線維成分のターンオーバーを促進することが示唆された。
  143. 2型糖尿病の膵島内神経血管構築異常の解析とその修復の試み 19K09036 2019-04-01 – 2024-03-31 小区分54040:代謝および内分泌学関連 基盤研究(C) 東邦大学 糖尿病では膵島に分布する毛細血管や自律神経も同じように障害を受け、膵島病変を進展させることが推定されるがこれまで糖尿病での膵島細小血管障害、神経障害の病理・病態、およびその進展に関する情報は極めて少ない。2型糖尿病でのβ細胞減少やインスリン抵抗性状態と膵島神経・血管構築の異常との関連を解析し、かつ治療によるその介入を試みることは2型糖尿病の病態を改善させる新しい治療法の探索へとつながる。本研究では、ヒトおよびラットでの2型糖尿病の膵島での神経・血管構築異常を明確にし、因果関係を含めた糖尿病病態との関連を解析する。また、病理変化に関与する因子を明らかにし治療による可逆性の有無について検討する。 2型糖尿病(T2DM)の病態としてインスリン分泌低下は膵島β細胞の脱落で表されるが、インスリン抵抗性がどのような膵島変化で示されるかは知られていない。本研究ではT2DMでインスリン抵抗性がどのような膵島病理変化をもたらすのか、膵島血管・神経構築の変化から検討を試みた。T2DM剖検例で得られた膵組織を用い、対照には非糖尿病症例を用いた。その結果、インスリン抵抗性の強いT2DMでは著明な膵島アミロイド沈着、血管数減少、血管狭窄や壁肥厚、周皮細胞の減少、さらには副交感神経線維の消失を認めた。この結果はインスリン抵抗性が膵島内血管・神経障害をもたらしT2DMを惹起し、予後不良を導く過程が考えられた。
  144. チロシンキナーゼ阻害剤による動脈硬化促進に関わるバイオマーカーの網羅的探索研究 19K08809 2019-04-01 – 2022-03-31 小区分54010:血液および腫瘍内科学関連 基盤研究(C) 浜松医科大学 慢性骨髄性白血病(CML)はチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の導入で生命予後が劇的に改善したが、長期服用により動脈硬化が進行して心筋梗塞などの血管閉塞の合併症が起こりうることが問題となっている。しかしこのような合併症が起こる原因は、はっきり分かっていない。今回の研究では、動脈硬化モデルマウスに本邦で使用できる全ての種類のTKIを投与し、動脈硬化の程度を比較する。また血管内皮細胞と血管平滑筋細胞から抽出したmRNAを解析して、血管内皮細胞や血管平滑筋に影響を与え、動脈硬化に関わりうる分子の同定を試みる。これによってCML患者さんの適切な治療薬選択と血管閉塞合併症の予測が可能になると考えられる。 ダサチニブ(DAS)が投薬されたマウスではDMSO、イマチニブ、ニロチニブが投薬された場合と比較して大動脈全体と起始部で動脈硬化病変が減少した。総コレステロール、LDLコレステロールはDASが投薬されたマウスで上昇が認められた。骨髄由来マクロファージにおけるDiI-oxLDLの取り込みはDAS暴露群で低下していた。肝臓におけるRNAシーケンスによる網羅的解析ではDASにおいてSort1発現が低下していた。ウェスタンブロッティングではSortilin発現は他のTKIと比較してDASで低下していた。一方、腹腔マクロファージではスカベンジャー受容体であるCd36発現が低下していた。
  145. 自己抗体マーカーによる睡眠時無呼吸症候群の脳梗塞・心筋梗塞発症予測とモニタリング 19K08596 2019-04-01 – 2023-03-31 小区分53030:呼吸器内科学関連 基盤研究(C) 千葉大学 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)は,OSA特有の様々な機序を介して動脈硬化形成が促進され,高率に脳血管障害・虚血性心疾患が合併することが知られている.そのためOSA診療では,症状改善に加えて動脈硬化性疾患の制御が重要な課題であるが,症例が多様であり従来の臨床検査ではリスク評価及び発症予測は容易ではない。
    我々は,動脈硬化に関連する血清自己抗体に着目し,脳梗塞・心筋梗塞既往のあるOSA症例に特異的に発現する2つの自己抗体マーカーを同定した.本研究ではこの成果を発展させ,脳梗塞・心筋梗塞合併リスクの高いOSA症例を選別しうる自己抗体マーカーの組み合わせを見出し,実臨床での有用性を検証する. 研究計画4年目の研究に関しては、睡眠時無呼吸症候群外来に受診した例の診療を進めながら,採血データ,臨床データの蓄積を行った.研究期間は特に世界規模でCOVID-19が流行拡大し,受診控えによる精査ができなかった例の蓄積を行うことができた.その中で,睡眠呼吸障害を呈していると想定される症例の血液検体を用いて動脈硬化疾患に関連した自己抗体の同定・解析研究を進めた.これまで同定したCOPE抗体(Matsumura T, Terada J, et al, 2017 J Clin Sleep Med),抗NBL抗体(Matsumura T, Terada J, et al 2018 PlosOne)に続いて、本研究計画の中で追加報告した自己抗体-抗SNX-16(Sorting nexin 16:Katumata Y, Terada J, et al 2020 Diagnostics)抗体についても解析を進めた.
    具体的には,これまで自己抗体-抗SNX抗体を測定評価した睡眠時無呼吸症候群患者200名に対して,それぞれの抗体値が高い例が心血管イベント発生を生じているかについてひきつづき調査し,診断検査時の血清で抗体価高値が判明している患者の外来診察及びカルテ,電話で確認を行い,以後の追跡を行った.重大な動脈硬化性疾患を発症していたのは昨年と変わらず6例であり(脳梗塞2名,心筋梗塞2名,腹部大動脈解離1名,下肢動脈閉塞1名),追加のイベント発症は確認されなかった.現時点では,当初の仮説と異なり,睡眠時無呼吸症候群診断検査時の血清で評価した抗SNX16抗体値と動脈硬化性疾患発症に相関はみられていない.引き続き経過f/uが必要と考えられた.
  146. 高感度偏光光干渉断層法(PS-OCT)の開発と臨床応用の確立 19K08587 2019-04-01 – 2023-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 和歌山県立医科大学 心筋梗塞や狭心症の原因になる冠動脈硬化病変を従来の高解像度の光干渉断層画像だけでなく、新たに開発された高感度偏光光干渉断層像を併用して解析することにより、冠動脈硬化の進展機序やプラーク破綻による急性冠症候群の発症機序を検討し、急性心筋梗塞発症の予測と脂質低下薬をはじめとする薬物治療による冠動脈プラーク安定化の効果判定やステント留置部位の再狭窄予防の可能性を検討する。同時に高感度偏光光干渉断層法による複屈折画像・脱分極画像の日常診療における意義を確立する。 血管内光干渉断層法(OCT)の施行15症例(平均72歳)の標的病変に、偏光感受性(PS)-OCTを行い、5症例で近赤外線スペクトロスコピー血管内超音波(NIRS-IVUS)を併用した。PS-OCTでは線維性皮膜の厚さと複屈折の有意な相関(r=0.32、p<0.05)を認め、偏光度画像と光強度画像で計測した線維性皮膜厚(162μm)に良好な相関(r=0.92、P<0.001)を認めた。PS-OCTの偏光度の対数とNSD(normalized standard deviation)との間に相関傾向(ρ=0.12、P=0.062)を認め線維性皮膜内マクロファージの客観的検出の可能性が推察できた。
  147. 尿毒素による心不全発症・再発の病態解明と新規治療戦略の基盤構築 19K08558 2019-04-01 – 2022-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 岡山大学 慢性腎臓病は心血管疾患発症のリスク因子である。心腎連関の主因物質は十分明らかでないが、血液中の尿毒素の一つであるインドキシル硫酸の関与が示唆されている。本研究では、基礎研究として、尿毒素が心不全発症に関与する分子病態を動物実験にて明らかにし、心臓における心腎連関の新規標的分子の探索を行う。同時に、臨床研究として血中インドキシル硫酸と心不全発症の関連を前向きの多施設レジストリーにて検証する。このように、基礎と臨床の両面からインドキシル硫酸の心臓への影響を明らかにし、心不全に対する新規治療戦略の基盤を構築する。 高齢化に伴い心不全患者は増加の一途をたどっており、その予後は収縮障害・拡張障害ともに不良である。心不全発症において心腎連関が近年注目されるようになり、腎機能低下が心不全に悪影響を及ぼすことが多く報告されるようになってきたが、心腎連関の病態進展の分子機構は未だ不明な点が多い。本研究では、臨床研究として尿毒素の1つである血中インドキシル硫酸と心不全発症の関連を前向きの多施設レジストリーにて検証した。慢性腎臓病を合併した心不全患者におけるインドキシル硫酸濃度は、その後の全死亡や心血管イベントと関連することが明らかとなった。
  148. 心筋梗塞の再生微小環境内の再生アソシエイト細胞解析研究 19K08525 2019-04-01 – 2022-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 東海大学 再生治療の開発が進み、ヒトへの臨床応用も始まっている。しかし、疾患による臓器再生環境が改善されていないと、再生治療効果が充分でないことが指摘されている。再生環境の血管再生細胞、マクロファージ・リンパ球の抗炎症・免疫寛容細胞などは、糖尿病・肥満・老化などの慢性炎症病態で機能が低下し再生環境不全を引き起こし動脈硬化症・虚血性疾患の進行に繋がっている。本研究では、健康マウスおよび糖尿病・肥満・老化などのモデルマウスにおける、虚血疾患モデルでの再生環境細胞を病期ごとに分離し、そのフェノタイプ・機能を比較解析する。再生環境不全の病態メカニズムをより効果的な再生医学の発展に繋げる。 再生微小環境の血液細胞群のフェノタイプは、臓器・血管再生メカニズムにおいて重要な 役割を担うが、糖尿病・肥満・老化などの慢性炎症病態では、このフェノタイプ異常から再生環境不全が起こり、動脈硬化症・虚血性疾患の進行に繋がると考え られている。本研究では、健康マウスおよび糖尿病・肥満・老化など のモデルマウスにおける、組織虚血モデルでの再生環境細胞を病期ごとに分離し、そのフェノタイプ・機能を比較解析し、再生アソシエイト細胞に比べた炎症関連細胞の浸潤優位の観察など、心筋梗塞後の再生環境細胞の動態を明らかにする事が出来た。ただし、メカニズムあるいは治療応用のへ解明に必須の課題が残された。
  149. 非線形超音波法を用いた心筋浮腫の診断 19K08494 2019-04-01 – 2024-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 和歌山県立医科大学 様々な心疾患の急性期に出現する心筋浮腫は、非常に大きな臨床的意義を有する病態であるが、心疾患急性期における診断は困難である。非線形超音波法は、射出された超音波により標的内で副次的に生成される非線形信号を捕捉し画像化する画像診断法である。本研究の目的は、非線形超音波法を用いた心筋浮腫の診断である。ブタ心臓浮腫モデル、非線形超音波法、人工知能を用い、心筋浮腫特有の非線形信号パターンを抽出し、さらに非線形評価指数を併用し、浮腫の存在と程度を診断するアルゴリズムを作成する。本研究から非線形超音波診断法による心筋浮腫診断が可能となれば、急性期にベッドサイドで心筋浮腫の診断が可能となる。 心筋浮腫と正常心筋との超音波反射波の違いを見るために、ぶた心臓の左冠動脈にカテーテルを用いて生理食塩水を急速に注入して、心筋浮腫を作成した。浮腫部分と非浮腫部分の違いを見るために、Shear Wave Elastography(SWE)で心筋の硬さを同じ心臓での浮腫作成前後で計測を行った。心筋浮腫部分は、浮腫作成前よりSWEは高値を示した。このことからSWEは、心筋性状を評価できる新たな手法となる可能性が示唆された。
  150. 細胞外マトリックス(テネイシンC)による放射線肺障害の病態解明とその臨床応用 19K08226 2019-04-01 – 2023-03-31 小区分52040:放射線科学関連 基盤研究(C) 三重大学 肺癌に対する放射線治療においては、照射後数か月で放射線肺臓炎:RPや肺線維症:PFが発生する事があるが、その重症度の予測は困難である。この病態をより詳細に解明していく事は、社会的・医学的にも重要である。一方、細胞外マトリックス分子の一つテネイシンC(TNC)は、組織傷害とその後の組織リモデリングに大きく関与し、その血中濃度が心筋梗塞などの心室リモデリングの評価因子として有用であることが明らかにされている。本研究では、RP/PFを組織リモデリングとして捉え、TNC の血中濃度とRP/PFの程度との相関を明らかにし、放射線性肺傷害に対する早期治療介入の指標として用いる事が可能であるか検証する。 pilot study として、肺癌の放射線治療患者7 例に対し、経時的に血中TNC濃度の測定を行い、放射線肺臓炎陰影が最も強くなる時期にかけて血中TNC濃度が上昇し、その後肺臓炎陰影が収束するにつれて低下するという結果を得ている。また、肺癌で照射後に手術が行われた症例(Archival tissue samples)において、切除肺の照射領域においてTNCが高発現していることを確認している。これらの結果を検証する為、マウスの肺部分照射モデルを作成し、その方法を確立した。現在、その結果を欧米のJournalに投稿中。
  151. 頸動脈エコー動画解析による動脈硬化度の定量-生活習慣病・膠原病での検討- 19K07934 2019-04-01 – 2022-03-31 小区分52010:内科学一般関連 基盤研究(C) 岐阜大学 現在臨床応用されている動脈硬化の定量的指標として、頸動脈エコー検査による内膜・中膜厚(IMT)と四肢血圧同時測定による心臓足首血管指数(CAVI)がある。我々は、動脈壁そのものの硬化度に注目し、頸動脈エコーでの経時的な壁の動き(動画撮影)から動脈壁(主として外膜)の硬さを測定する新たな動脈硬化指標(弾性係数:E1)を開発し、それから頸動脈年齢の推定が可能になっている。本研究では、特に生活習慣病患者と膠原病患者を対象にこの方法を用いて健常者との血管年齢差を明らかにするとともに、種々の薬物療法導入前後での測定によって血管年齢への効果を検証する。 様々な疾患の患者の頸動脈US動画撮影とCAVIの同時測定を行った。頸動脈US動画解析から得られた動脈硬化指数から血管年齢を算出し、CAVIから既存の報告に基づき血管年齢を算出した。患者を動脈硬化のリスク因子から動脈硬化低リスク群と高リスク群)の2群に分け、頸動脈USとCAVIから得られたそれぞれの血管年齢と実年齢との関係を検討した。頸動脈USおよびCAVIの両方において、動脈硬化高リスク群での直線の傾きがいずれも低リスク群に比較して有意に急峻になった。すなわち動脈硬化高リスク群では低リスク群に比較して、頸動脈USとCAVIから得らえたそれぞれの血管年齢が実年齢より高くなっていることが判明した。
  152. オルタナティブオートファジーとマクロファージを標的としたサルコペニア治療法の確立 19K07891 2019-04-01 – 2023-03-31 小区分52010:内科学一般関連 基盤研究(C) 鹿児島大学 サルコペニアの原因に、オルタナティブオートファジーを主体としたマイトファジーが関与するか、コンベンショナルオートファジーとオルタナティブオートファジーいずれが関与するか、またどのようなマクロファージ(Mφ)活性化機構が関与するか、さらにこれらマイトファジーとMφ活性化とがどのように連携してサルコペニアを形成するか、分子生物学的アプローチのもと基礎および臨床から研究する。 我々は、フレイルとその主たる要素であるサルコペニアに関して研究を行った。動脈硬化の要因である脂質異常や閉経モデルの状況下では、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、骨格筋細胞におけるミトコンドリア機能障害に伴う酸化ストレス増大から細胞老化を来しており、さらに骨格筋細胞では分化が抑制された。その原因はRab9依存性のオルタナティブオートファジーを起源としたマイトファジーの低下であることを基礎研究で明らかにした。さらに、動脈硬化性心血管疾患患者では、フレイル・サルコペニアの主たる要因である低栄養があるとその後の心血管イベントを発症しやすく、また生命予後が不良であることを、臨床研究にて明らかにした。
  153. 血糖・血圧・脂質の蓄積・変動効果を基にした糖尿病合併症発症予測モデルの構築と応用 19K07166 2019-04-01 – 2022-03-31 小区分47060:医療薬学関連 基盤研究(C) 熊本大学 血糖・血圧・脂質の異常は“メタボリックメモリー”として身体に記憶され、糖尿病合併症の発症に関わる。本研究は、未だその実態が不明なメタボリックメモリーに着目し、糖尿病患者の健康寿命の延長と新規治療ターゲットの同定を目指した臨床研究である。具体的には、糖尿病患者、冠動脈疾患患者、人間ドック受診者の長期観察データを基に、モデリング&シミュレーションを基盤とした手法により、メタボリックメモリーを定量化し、糖尿病合併症の発症・治療薬の薬効を予測する統計学的モデルを構築する。その結果を基に、個々に効果的な治療の提案・支援を行うための汎用性の高い医療システムの開発と、新規治療ターゲットの創出を目指す。 本研究では、メタボリックメモリーの観点から糖尿病合併症発症に関わる因子について検討し、以下の知見を得た。
    1).持続的な高血糖状態をHbA1c曲線下面積で表現し、その増加が腎機能低下に関係することを明らかにすることで、糖尿病患者では曝露された高血糖の程度や期間の重要性を示した。2).HbA1c変動の指標として「HbA1c-時間曲線下面積(HbA1c-AUC)」を新たに考案し、HbA1c-AUCが、平均HbA1c値と独立して2型糖尿病患者の微量アルブミン尿発現に関係することを明らかにした。また、HbA1c変動が大きい患者の血清アルブミン酸化度は高く、酸化ストレス状態が関係していることを示唆した。
  154. 人工知能を用いた臨床試験個人データの解析による抗凝固治療個別化システムの開発 19J11609 2019-04-25 – 2021-03-31 小区分47060:医療薬学関連 特別研究員奨励費 千葉大学 本研究では、脳卒中の予防薬である抗凝固薬に関する複数の臨床試験データを、人工知能(AI)により統合解析する。1年目は、主にAIの構築・検証を行う。ClinicalStudyDataRequest.comから提供されるデータを用いて、脳卒中リスクや抗凝固薬の治療効果・副作用など、様々なリスクを患者個別情報から予測できるようにAIを学習させる。2年目は、学習したAIを使用して、脳卒中に対する新規のリスク因子や、そのようなリスク因子の存在が治療効果に与える影響を詳細に解析する。得られる結果は、最適な治療薬やその用量を患者ごとに選択するなど「抗凝固治療の個別化」に貢献すると考えられる。 前年度に引き続き、機械学習による臨床試験個別データの解析を進め、急性冠症候群(ACS)患者の院内死亡予測において従来のGRACEスコアよりも高い予測精度を有する新たなリスク予測スコア(PRIMEスコア)を開発した。成果については第85回日本循環器学会学術集会や日本薬学会第141年会、さらにAHA Scientific Sessions 2020 (November 13-17, 2020)においてLate Breaking Posterとして発表した。年度末には論文原稿を循環器分野の英語雑誌へ投稿した。 令和2年度が最終年度であるため、記入しない。 令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
  155. 生活習慣病の予防に働く神経回路シフトの解明と臨床応用に向けた分子基盤の構築 19J00816 2019-04-25 – 2022-03-31 小区分59040:栄養学および健康科学関連 特別研究員奨励費 東北大学 現代社会では肥満を背景にした生活習慣病患者が増加しており、その対策が喫緊の課題となっている。また、環境因子によるエピゲノム記憶と生活習慣病発症の関連も指摘されている。そこで本研究では、生活習慣病予防に働く神経回路の機能シフトにおけるエピゲノム機構を解明し、その臓器連関を介した作用に着目して、生活習慣病の新規治療薬・予防法の分子基盤を構築することを目的とする。 現代社会では肥満を背景にした生活習慣病患者が増加しており、その対策が課題となっている。また、環境因子によるエピゲノム記憶と生活習慣病発症の関連も指摘されている。そこで本研究では、ある種のエピゲノム酵素を欠損した生活習慣病のモデルマウスを用いて、肥満の原因となる神経系のエピゲノム異常を探索することを目的とした。
    1年目(2019年度)は、上記のノックアウトマウスとその同腹仔の野生型マウス(オス)を用いて、体重・摂食量を追跡した。すると、若齢時には体重に有意差がないものの、摂食量はノックアウトマウスで有意に多く、その後週齢を経るにつれて、摂食量の差が持続するとともに、体重にも有意差が生じ、ノックアウトマウスが過体重となった。
    2年目(2020年度)は、上記と同様の計測をメスのノックアウトマウスとその同腹仔の野生型マウスでも行った。そして、体重差に先行して摂食量に差が見られていたことから、過食が肥満につながっていると考え、食欲の中枢である視床下部の遺伝子発現を調べた。すると、オスの場合と同様に、食欲亢進に作用することが知られているAgrp, Npy遺伝子の発現は過食のノックアウトマウスで低下しており、一方で、食欲抑制に作用することが知られているPomc遺伝子の発現は野生型マウスとノックアウトマウスで同程度であった。
    3年目(2021年度)は前年度までの結果に基づいて更に解析を進めた。ノックアウトマウスにおける摂食量の増加は食欲亢進作用の増強が原因ではなく、食欲抑制作用が適切に機能していないことが原因であると考えた。そして、野生型マウスおよびノックアウトマウスの視床下部を対象として行ったRNA-seq解析の結果に基づき、下流の遺伝子候補を探索した。そしてその遺伝子の欠損マウスを用いて摂食量の測定などを行い、論文投稿に至った(論文投稿中)。 令和3年度が最終年度であるため、記入しない。 令和3年度が最終年度であるため、記入しない。

  156. 循環器疾患発症変動と新規発症要因の探索を含む発症要因の変動との関連に関する研究 19H03902 2019-04-01 – 2023-03-31 小区分58030:衛生学および公衆衛生学分野関連:実験系を含まない 基盤研究(B) 敦賀市立看護大学 本研究は、滋賀県高島市において1988年より継続している脳卒中および急性心筋梗塞等の高島循環器疾患発症登録研究から30年にわたるわが国の病型別脳卒中、急性心筋梗塞および突然死の発症率、重症度および生存率等の推移を明らかにする。またこの循環器疾患の発症率・重症度の推移に対する既知予知指標の寄与の定量的変化、さらに脳卒中、心筋梗塞を含む動脈硬化性疾患予知指標(脳性ナトリウム利尿ペプチド;BNP、高感度CRP、既知制御遺伝子群におけるメチル化等DNA修飾、ゲノムワイド関連解析による未知制御遺伝子群の探索など)の同定・定量を同地域で実施しているコホート研究「高島コホート研究」の成績を用いて検証する。 循環器疾患の発症率の推移とその危険因子を明らかにする目的で、滋賀県高島市において循環器疾患の発症登録および生活習慣病に関するコホート研究を実施した。循環器疾患発症登録から、脳卒中の発症率は1990年代から2010年代にかけて減少傾向を示した。一方、急性心筋梗塞は男女ともに2000年以降減少傾向を示している。
    コホート研究の成績から、余暇や生活のなかで意識的に活動量を増やすことより、冠動脈疾患の発症を予防することができることが示された。また、高感度CRP値は身体機能の予後に関連していることが示された。この傾向は男性において顕著であった。

  157. 口腔機能と低栄養と認知機能障害発生リスクとの関連:歯科からみた予防対策について 19H03899 2019-04-01 – 2023-03-31 小区分58030:衛生学および公衆衛生学分野関連:実験系を含まない 基盤研究(B) 兵庫教育大学 2019年度:地域高齢者を対象に口腔機能検査、栄養調査、認知機能検査を行う。前向きコホート研究の追跡健診であるが、新たなベースライン健診とも位置付けし、調査項目の選定、調査票作成に取り掛かる。予備調査を済ませ、本調査を行う。
    2020年度:残りの高齢者を対象に追跡健診を実施する。
    2021年および2022年度:対象者全員の転帰を調査する。認知機能障害に対する歯周病の影響評価と機序を探索する。咀嚼力維持群と低下群における栄養指標の違いが体重減少および新規の認知機能障害の発生リスクの差につながるかについて検証する。歯科からみた高齢期の認知機能障害の予防対策を確立させる。 高齢者における残存歯数と歯周病原細菌血清抗体価と認知機能障害との関連では、MMSE23点以下に対する歯の1本減少のオッズ比は1.06(95%CI;1.01-1.11, P= 0.030)で、歯の本数が少ないことと認知機能障害との間に有意な関連がみられた。口腔機能と栄養状態との関連では、5つのすべての食品群を咀嚼できないことはBMI 21未満に有意に関連していた(オッズ比1.51:95%CI 1.21-1.89)。研究期間の大半が新型コロナウイルス感染症拡大の時期と重なり、対面で口腔機能や認知機能検査を行うことが困難であった。しかし、郵送とWebのアンケートを実施し、新規の対象者から回答を得た。
  158. 細胞活性化時の生理機能変化を担う「分子レバレッジ機構」の解明 19H03661 2019-04-01 – 2024-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(B) 東海大学 活性化による血小板細胞の機能変化は膜糖タンパクGPIIb/IIIaの細胞外ドメインの高次構造変化による。細胞内ドメイン・細胞膜貫通ドメイン・細胞外ドメインを統合したGPIIb/IIIaモデルを、分子を構成する全ての原子と周囲の水分子の位置座標から作成する。血小板細胞活性化に伴う細胞内環境のわずかな変化がGPIIb/IIIaの細胞外ドメインの大きな構造変化を惹起するメカニズムとして「分子レバレッジ機構」の解明を目指す。 細胞内カルシウムイオン濃度の上昇、細胞内ドメインへのリン酸化蛋白の結合など、血小板活性化時の細胞内の環境変化が、フィブリノーゲン、von Willebrand因子などの血漿蛋白とのGPIIb/IIIa細胞ガイドメインの構造と機能を変化させるメカイズムを、分子動力学計算にて「分子レバレッジ」としての解明を目指した。GPIIb/IIIaの細胞内・細胞膜貫通・細胞外ドメインを連成した基盤モデルの作成に成功し、細胞外ドメインと細胞内ドメインの動的構造変化の一体的解明を可能とした。
  159. シングルセルオミックス解析による心筋リプログラミングを介した心不全治療法の開発 19H03649 2019-04-01 – 2022-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(B) 東京大学 心不全は、心臓の中心的な構成要素である心筋細胞の機能的な破綻により生じます。我々は、心臓の中に存在する全ての細胞のシングルセルレベルの全遺伝子発現を解析することで、心不全発症過程において心筋細胞でどのような遺伝子発現のダイナミクスが生じるかを明らかにすることに成功しました。本研究では、この遺伝子発現の情報を基にして、不全型の心筋細胞をリプログラミングして心不全の病態を改善する治療法の開発を目指します。 我々は、シングルセルRNA-seq解析によって心不全発症において心筋細胞が代償型・不全型に分岐することを明らかにし、不全心筋細胞の誘導の際にはDNA損傷・p53シグナルの活性化が重要であることを見出した。続いて、シングルセルデータから細胞間相互作用を抽出し、心臓線維芽細胞から心筋細胞へと誘導されるTGF-betaシグナルが心筋細胞の老化を誘導していることを解明した。また心筋梗塞後の心臓を空間的トランスクリプトームとシングルセルRNA-seqで統合的に解析し、心筋梗塞境界部で活性化するメカノセンシング遺伝子陽性心筋を同定し、それが心臓リモデリングを代償的に制御していることを見出した。
  160. アテローム血栓症の発症につながる血栓の増大・成長機序の解明 19H03445 2019-04-01 – 2022-03-31 小区分49020:人体病理学関連 基盤研究(B) 宮崎大学 心筋梗塞や脳梗塞に代表されるアテローム血栓症は、動脈硬化性プラークの破綻に伴う血栓形成により発症する。このため、これまでの研究の多くはプラーク破綻の機序をターゲット としたものであったが、近年、無症候性プラーク破綻が多く存在することが明らかとなり、本疾患の発症には、プラーク破綻部の血栓が増大・成長するプロセスが重要であることが推察される。
    本研究は、プラーク破綻後の血栓の増大・成長機序に焦点を当て、人体病理標本を中心に、病理形態学・代謝解析・血流レオロジーの観点から包括的に検討を進め、アテローム血栓症の発症病態の解明と新たな治療法への展開に繋げる。 アテローム血栓症の発症に繋がる血栓の形成機序について、人体病理標本、動物モデルを用いて検討した。また出血リスクの少ない抗血栓薬のターゲット因子について検討した。
    その結果、動脈硬化巣破綻部での血栓形成部では凝固系が著しく亢進していること、血小板はフォンビルブラン因子やフィブリンを足場に凝集していること、好中球細胞外トラップは血栓の初期の器質化に寄与してことを見出した。また血栓・プラークの網羅的解析から、冠動脈ハイリスクプラークの新たな画像診断の標的となる分子を見出した。凝固XI因子阻害により、出血リスクは軽微で有意な抗血栓作用が確認され、安全性の高い新規の抗血栓薬の可能性が示唆された。
  161. 定量キラルメタボロミクスを実現する三次元LC分析基盤開発と腎・心不全の早期診断 19H03359 2019-04-01 – 2022-03-31 小区分47020:薬系分析および物理化学関連 基盤研究(B) 九州大学 定量キラルメタボロミクス実現のため、世界に先駆けて三次元LC分析基盤を開発し、腎・心不全の診断マーカーを探索する。これらは生活習慣を含む様々な要因で発症し、日本でも1000万人以上が罹患している。慢性化することが多く、早期診断が予防と治療に直結する。応募者は予試験を通しキラル識別により新規マーカーが発見でき、早期診断には微量キラル化合物を正確に定量する三次元LCの構築が有用となる確信を得た。本研究では定量三次元LC分析法を開発し、疾患モデル動物および臨床検体を用いた含量解析を行う。本研究の達成は侵襲性の低い血液・尿分析による腎・心不全の早期診断、鑑別を可能とし、人々の健康寿命延長に貢献する。 腎不全の低侵襲早期診断法として、キラルメタボロームプロファイリングを利用した方法を開発した。各種アミノ酸・ヒドロキシ酸を対象として三次元LC装置を開発し、腎不全および健常群における含量解析を行った。三次元LC分析装置に関しては一次元目の逆相カラム、二次元目の陰イオン交換・ミックスモードカラム、三次元目の光学分割カラムの高性能化を行い、迅速化と選択性の向上を達成した。D-Ser、Ala、Asn、Proの血中含量は腎不全の病態進行とともに明確な含量上昇が確認された。また、腎不全検体には健常人に存在しない多数のD-アミノ酸が確認され、腎不全早期に鋭敏な血中含量変化を示すことを明らかにした。
  162. 保健医療介護の資源・過程・費用と健康成果における地域システム格差の要因構造の解明 19H01075 2019-04-01 – 2022-03-31 中区分58:社会医学、看護学およびその関連分野 基盤研究(A) 京都大学 本研究は、日本全国で、地域毎に、健康・医療・介護のパフォーマンス(健康寿命・日常生活自立期間、医療のリスク調整アウトカム、要介護状態のリスク調整悪化率、エビデンスに基づく推奨の遵守率等)を定量化し、その要因構造を解明することを目的とする。その要因構造を礎に予測・シミュレーション技術を開発する。
    上記のパフォーマンスの要因には、個人レベルの資質・環境や行動・生活習慣のみならず、地域社会レベルの保健医療介護の資源配備、すまい・生活支援・環境等の社会経済因子など多因子を含む。この時間・空間的にも複雑な要因構造を、機械学習・人工知能技術も導入し、学際的に広く要因を捉えて解明する。 本研究では、日本全国の地域ごとに、健康・医療・介護のパフォーマンス(日常生活自立期間、認知症自立度に基づく健康余命、医療のリスク調整アウトカム、プロセスの質指標等)を定量化した。まず、定量化が難しいパフォーマンスの計測方法を研究開発し、それに基づき全国の値を計測して、ばらつきの実態を示した。その上で、地域社会レベルでの保健医療介護の資源配備状態、社会支援・環境・教育レベル・就業状態等の社会経済因子などの地域間の複雑なばらつきの要因構造とパフォーマンスとの関連につき、幅広く示した。
  163. 自己集合性生理活性小分子の開拓 19H00922 2019-04-01 – 2022-03-31 中区分37:生体分子化学およびその関連分野 基盤研究(A) 京都大学 自己集合体とは分子が自律的に集合してできる物質のことである。核酸・脂質・タンパク質などの自己集合体は、生命現象を巧みに維持している。これを逆に考えれば、自己集合する人工化合物で、生命の営みを操作することが可能だと推測できる。本研究の目的は、そのような人工化合物を発見し、解析することである。免疫治療、細胞治療などの分野で、古典的な薬物の枠を超えた生理活性を実現できる可能性がある。 本研究では、「自己集合性生理活性小分子」というコンセプトを開拓した。核酸・脂質・タンパク質などの自己集合体は、生命現象を巧みに維持している。これを逆に考えれば、自己集合する人工化合物で、生命の営みを操作することが可能だと考えられる。本研究では、学際的なチームを組んで、生命の営みを操る自己集合性小分子を網羅的に発見し、解析し、最適化し、利用した。例えば、細胞移植を効率化する自己集合分子、ワクチンを活性化する自己集合性アジュバント、チューブリン濃縮体を形成する自己集合化合物などを開発した。
  164. 高感度心筋トロポニンTの腎機能補正式の考案開発と臨床応用 19H00414 2019 3190:生体の構造と機能、病理病態学、感染・免疫学およびその関連分野 奨励研究 旭川医科大学 高感度心筋トロポニンT(hs-cTnT)測定は、急性心筋梗塞の診断補助として有用であるが、明らかな心疾患のない慢性腎臓病患者で高値となる例を多数認め診断に影響する。本年度は、eGFRcys(腎機能を意味する)が低下することでhs-cTnTの増加傾向を認めることを確認した。また、腎臓の尿細管と呼ばれる組織の障害マーカーと尿を遠心して得られる尿沈渣成分、他の検査データおよび疾患との関連性を精査したデータから、腎機能を調べる際の一般的指標である血清クレアチニンの経年変化率よりも血清シスタチンCの経年変化率の方が急性冠症候群発症とより強い関連を認めた。本研究成果を日本臨床化学会学術集会にて報告した。
  165. 薬物を検出し難い合成カンナビノイド系薬物中毒の病態解析に関する研究 18K19703 2018-06-29 – 2024-03-31 中区分58:社会医学、看護学およびその関連分野 挑戦的研究(萌芽) 東京医科大学 高スループット行動解析装置(Danio-vision)を用いて、危険ドラッグ等を投与した後、ゼブラフィッシュ(Zf)の行動を同時・多数・経時的に記録・解析し、死亡率を推定できる実験系を確立した。
    これを用いて、大麻(CB)成分の一つカンナビジオール(CBD)、及び、興奮性薬物カフェインを投与した後、明暗刺激を反復し、行動、及び、生存率に対する影響を観察した。本研究で確立したZfの実験系が、未知の物質の不安、学習行動、運動障害の評価、そして、致死濃度の予測に、迅速性、効率性、簡便性及び再現性の観点から有用であることが確認された。
  166. 分子情報を統合した医療ビッグデータと人工知能の融合による健康寿命延伸ツールの開発 18K17897 2018-04-01 – 2020-03-31 小区分59030:体育および身体教育学関連 若手研究 新潟大学 健診結果と診療報酬明細書の結果を突合した医療ビッグデータベースを作成し、糖尿病をはじめとした生活習慣病領域において、冠動脈疾患、細小血管合併症のリスクの評価を行った(1.糖尿病と冠動脈疾患(CAD)の既往がその後のCADイベントに及ぼす影響の検討 2.糖尿病の有無別にみた血糖・血圧・脂質・喫煙の各管理目標達成(状況)がCADに及ぼす影響 3.糖尿病の治療状況と冠動脈疾患、重症視力障害発症の関連の検討 4. 糖尿病患者における脈圧が重症視力障害・透析発症に及ぼす影響の検討)。結果の一部は診療ガイドラインに引用された。
  167. 健常男性における運動強度の異なるレジスタンス運動中の動脈圧受容器反射感受性の変化 18K17731 2018-04-01 – 2023-03-31 小区分59010:リハビリテーション科学関連 若手研究 学校法人文京学院 文京学院大学 健常男性における異なる3つの運動強度によるレジスタンス運動が、圧受容器反射感受性に及ぼす影響について検討することを目的とした.対象は健常男性27名である。参加者は,20.50.80%1RMで座位にて膝伸展運動を行った.測定項目は,圧受容器反射感受性,副交感神経,交感神経であった.統計解析は、運動前後の各測定項目の変化の比較を,Wilcoxonの順位和検定で行った.本研究は,文京学院大学の倫理委員会の承認を得た(承認番号 2017-0042).
    BRSの運動前後の変化は,20%強度でのみ運動後に有意に増加した.健常男性において低強度レジスタンス運動後、BRS機能は改善することが示唆された.
  168. 地域医療における需給評価手法の開発:NDBを活用した将来予測モデル構築 18K17308 2018-04-01 – 2022-03-31 小区分58010:医療管理学および医療系社会学関連 若手研究 一般財団法人医療経済研究・社会保険福祉協会(医療経済研究機構(研究部)) 高齢化や人口減少等の人口構造変化に対する医療提供体制の対応は、諸外国の課題である。この社会課題に先んじて直面する日本で、地域医療という視点から、医療需給を評価することは、学術のみならず社会的にも要請される。本研究では、医療計画の戦略的な立案を支援する情報提供を可能にすための析手法開発を主目的とし、公的統計情報およびレセプトデータベースを活用し研究を進めた。特に、後者のレセプトデータベース利用の普及に伴い、本研究ではその利用可能性を検討した。具体的なテーマとして医療需給バランス将来推計、医療資源とアクセシビリティの関係、費用対効果評価を取り上げ、論文・学会発表にて報告した。
  169. 口腔機能低下がメタボリックシンドロームおよびその構成因子の発症に及ぼす影響 18K17117 2018-04-01 – 2020-03-31 小区分57050:補綴系歯学関連 若手研究 大阪大学 都市部一般住民を対象に、国立循環器病研究センターにおいて、基本健診ならびに歯科検診を行い、以下のような関連を見出した。
    1.咀嚼能率の経年的な低下を予測する統計モデルを開発した。2.継続的な歯科受診行動が咀嚼能率低下に対して有効であることが明らかになった。3.咬合力の低値が循環器病発症のリスクであることが明らかになった。4.咀嚼能率の低値が将来的なメタボリックシンドローム罹患のリスクであることが明らかになった。
  170. ヒト脳脊髄液プロテオームによる全身麻酔後認知機能障害に対する創薬標的の網羅的探索 18K16468 2018-04-01 – 2020-03-31 小区分55050:麻酔科学関連 若手研究 三重大学 ヒト脳脊髄液という貴重な臨床検体の経時的なプロテオーム変化の解析を行った。血液と比較してタンパク濃度の薄い脳脊髄液で質量分析を行うにあたり、Amicon Ultra(Merck社)にて限外濾過した後、Pierce Albumin/IgG Removal Kits(Thermo Fisher Scientific社)にてabundantなタンパク質を除去するという前処理方法を確立し、脳脊髄液でもプロテオーム解析が可能であることを示した。さらに、二次元電気泳動、iTRAQという多角的なプロテオーム解析でタンパクの経時的な増減を探索した。
  171. 他家MSCs細胞シート移植による心機能改善効果の検討 18K16395 2018-04-01 – 2020-03-31 小区分55030:心臓血管外科学関連 若手研究 山口大学 心不全の症例が増加する我が国において自家・他家幹細胞移植療法が期待されたが、近年、幹細胞が機能的な細胞に分化することは稀で、分泌された成長因子等が内因性の再生を促し、臓器機能を回復させることが判明した。
    本研究は当初「心疾患に対する他家MSCs移植」を検討する予定だったが、修正し「MSCsが分泌するエクソソーム」等に関する検討を行った。幹細胞由来のエクソソームは成長因子等を含み、保存や反復投与が可能で、次世代の治療方法として期待される。諸条件を検討した結果、CDCsはMSCより優位だった。CDCs由来エクソソームの投与は陳旧性心筋梗塞モデルの心機能を改善させ、新規治療法に成る可能性を示した。
  172. HDLに存在するmicroRNAによる、冠動脈疾患症例の予後への影響を検討する 18K15905 2018-04-01 – 2021-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 順天堂大学 本研究計画では、冠動脈インターベンションデータベースから得られたデータと保存検体を用いて、動脈硬化性疾患におけるhigh density lipoprotein (HDL)上のマイクロRNA (miRNA)のスクリーニングと予後の関連を検討した。凍結保存された血漿からHDLを特異性の高い方法で単離し、さらにごく少量しかないHDL上のmiRNAを単離してスクリーニングを行なった。3症例ずつ、背景因子を厳密に揃えた心血管死亡あり、なし症例でmiRNAをスクリーニングすると、282種類のmiRNAが全ての症例にh発現しており、さらに125種類のmiRNAの発現が50%以上異なっていることを見出した。
  173. 急性心筋梗塞患者における腸内細菌叢とその代謝産物TMAOの役割の解明 18K15896 2018-04-01 – 2023-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 横浜市立大学 急性心筋梗塞患者の入院後初回の糞便で次世代型シ-ケンス技術を用いて腸内細菌叢メタゲノム解析を行い腸内細菌の多様性を解析し、急性期、慢性期の血清サンプルよりTMAO測定を行った。TAMOは腸内細菌から代謝される物質である。今回の研究では慢性期の血清TMAO値が高値であると、冠動脈動脈硬化進展と関与し、その後の心血管イベント発生とも関係することが明らかになった。また、腸内細菌の多様性の高い(腸内細菌がバランスよく豊かな状態)では抗血小板薬の効果も良く、血液の血栓性が良く抑制されていた。以上より急性心筋梗塞患者においても腸内細菌叢やその代謝物質が病態や予後に影響を及ぼしていることが考えられる。
  174. 心筋梗塞時の心筋壊死を極小化し遠隔期心不全を予防する機械-神経最適減負荷治療開発 18K15893 2018-04-01 – 2021-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 国立研究開発法人国立循環器病研究センター(2019-2020) / 九州大学(2018) 心筋梗塞時の心筋壊死を極小化する機械-神経最適減負荷治療の開発において、動物を用いた個別の動作検証を行った上で、経皮的左室補助装置と神経刺激装置を両立して駆動する制御アルゴリズムを開発した。犬を用いた動物実験により、経皮的左室補助装置に徐拍化を加えることによって、血行動態を改善させながら、有意(20-40%以上)な酸素消費抑制が得られることや心筋梗塞急性期に制御アルゴリズムを用いることで、安定的な左室減負荷が可能となることを証明した。最終的に、犬虚血再灌流モデルを用いて、同システムの有効性を検証したところ、著明な梗塞サイズ抑制と心不全指標の改善が認められた。
  175. 虚血性心臓病の病態生理を考慮した高精度・非侵襲的な発症リスク評価法の確立研究 18K15872 2018-04-01 – 2023-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 国立研究開発法人国立循環器病研究センター 虚血性心疾患の発症に関連する冠動脈プラークの病態解明をおこなうために、MRIを用いた冠動脈プラークの研究や冠動脈内イメージングであるNIRS IVUSを用いた研究を行った。まず、MRIで検出される冠動脈高輝度プラーク容量がカテーテル治療における周術期心筋梗塞の発症リスクを予測することを報告した(J Cardiovasc Magn Reson 2020;22:5.)。また、NIRS-IVUSにおいて、冠動脈疾患発症に関連する石灰化病変における脂質成分と冠動脈イベントの関連を検討し報告した(Int J Cardiovasc Imaging. 2023 Jun 28.)。
  176. 遠隔虚血プレコンディショニングによるmicroRNAを介した心筋保護の機序解明 18K15869 2018-04-01 – 2022-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 川崎医療福祉大学(2019-2021) / 川崎医療短期大学(2018) 心筋の虚血再灌流障害において、RIPCによって増加したmicroRNAが心筋保護に関与するという報告がされているが、本研究では、虚血再灌流障害に対するRIPCの心筋保護効果の機序の解明を行った。特に、細胞が分泌するエクソソーム内に含まれるmicroRNAに着目し、ヒト検体と動物実験の両方から検討を行った。RIPC前後で血液から分離したエクソソーム内のmicroRNAが明らかに変化ずることが明らかとなり、ヒトとラットの両方で共通して変化しているmicroRNAを絞り込むことができた。そこからmRNAとの関連も踏まえてさらにターゲットを絞り込むことができた。
  177. 慢性腎臓病におけるPlGFとsFlt-1の発現不均衡に関する機序の解明 18K15857 2018-04-01 – 2020-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 若手研究 奈良県立医科大学 慢性腎臓病患者では心血管疾患が,逆に心疾患患者では腎機能低下が予後に大きな影響を与えている.この心腎連関の機序の一つとして,動脈硬化を促進する胎盤増殖因子(PlGF)とPlGFに拮抗的に働く可溶性Flt-1(sFlt-1)の発現不均衡がある.
    本研究では既存薬剤である球形吸着炭AST-120の投与によりsFlt-1の発現低下が抑制され,抗動脈硬化作用を示すことが示唆された.また,慢性腎臓病を多く含む急性心不全患者において,血清PlGF値の上昇が予後悪化に強く関連していることを示した.
  178. 64列CTによる心臓CTの開発と糖尿病患者での予後予測因子の確立 18K15605 2018-04-01 – 2021-03-31 小区分52040:放射線科学関連 若手研究 順天堂大学 本研究は心臓CTを64列CTで行う方法論を確立した上で、糖尿病患者での有用性を示すことを目的とした。1年目から2年目にかけては技術面の確立に主眼を置いた。Helical scanではなく、sequential scanを用いることや逐次近似法を用いるなどの工夫をした結果、7mSvと低被ばくで心臓CTを施行できるようになった。この方法を踏まえて、主に糖尿病患者での心臓CTによる予後評価を行った。背景心筋血流量が低いことが、冠危険因子や虚血の有無と独立した心血管イベントの予後因子であることが示された。このことから、糖尿病患者の予後評価における心臓CTの役割が示された。
  179. 循環器疾患及びがんにおける血中Lp(a)濃度・KIV2多型の統合的な関連の探索 18K15055 2018-04-01 – 2023-03-31 小区分48040:医化学関連 若手研究 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所)(2019-2022) / 国立研究開発法人国立国際医療研究センター(2018) 本研究はがんや循環器疾患などの疾患リスクの予測を想定して、血中Lp(a)濃度とKIV2多型を統合的に解析した。本研究では、東京都健康長寿医療センターの剖検例を対象として、血中Lp(a)濃度・臨床情報・実験により決定されたKIV2多型のコピー数およびSNPチップの情報を利用して、先行研究にある通りに血中Lp(a)濃度ががんで低値、心筋梗塞で高値がリスクになっている傾向があることを確認した。また、本研究では遺伝的背景が血中Lp(a)濃度を介して各疾患と関連しているか、あるいは独立な因子なのかについて探索的な検証分析を行い、血中Lp(a)濃度を介して各疾患と関連していると示唆された。
  180. 全国手術データベースを用いたCABG周術期の薬剤使用戦略の改善に向けた研究 18K14975 2018-04-01 – 2023-03-31 小区分47060:医療薬学関連 若手研究 東京大学 本研究では、ほぼ100%の症例カバー率を持つ日本心臓血管外科手術データベース(JCVSD)を用いて、本邦の日常診療において、ガイドラインでCABG周術期に使用が推奨される循環器系薬剤がどの程度使用されているか、ガイドライン遵守率が低い症例施設の特徴を明らかにした。2013-21年において、18歳以上で待機的単独CABGを施行された患者に対する術前アスピリン使用の割合は2013年の使用割合35.3%から2021年の45.4%まで増加し、術前スタチンについては45.5%から60.7%まで増加した。アスピリン使用は過去のPCI実施例、オフポンプ手術症例、ACS症例で割合が高かった。
  181. 機能性食品成分-GPR30システムによる腸管免疫を介した血管機能改善機構の解明 18K14414 2018-04-01 – 2020-03-31 小区分38050:食品科学関連 若手研究 東京農工大学 本研究において、エストロゲンの新規細胞膜上受容体であるGPR30は食事誘導性肥満時の脂質代謝調節に関与することを見出した。その作用機序として、腸管からの脂質吸収の抑制に寄与する可能性が示唆された。なお、それらの機能発現に関しては、雌雄間で異なる様子が認められた。本研究成果は、GPR30が肥満症や糖尿病などの代謝性疾患の予防・改善に向けた新たな標的分子となり、効果的治療戦略の開発に大きく貢献できると考えられる。
  182. ストレスフリーなウェアラブル指向型全血行動態モニターと循環管理システムの統合開発 18K12126 2018-04-01 – 2021-03-31 小区分90130:医用システム関連 基盤研究(C) 国立研究開発法人国立循環器病研究センター 今回の研究では、重要な血行動態指標である血圧・心拍出量・左右心房圧を無侵襲的・ストレスフリーにモニターするウェアラブル指向型機器(ストレスフリー全血行動態モニター)の基礎開発を行った。ストレスフリー24時間血圧モニターを開発し、麻酔下成犬6頭にてこの方法の推定精度を検討し、良好な精度を確認した。このような血圧計で得られる上腕動脈の脈波解析から、心拍出量推定することを企図し、その予備研究として上腕動脈血圧波形と経食道心エコーによる大動脈血流の機械学習解析から、心拍出量を正確に推定する方法を開発した。麻酔下犬12頭を用いた動物実験で心拍出量推定精度を検討し、良好な精度を確認した。
  183. 短時間の階段昇降運動がもたらす健康増進効果の検討 18K11051 2018-04-01 – 2023-03-31 小区分59040:栄養学および健康科学関連 基盤研究(C) 名古屋市立大学 60-70歳代の中高齢者を対象に75日間の階段昇降運動(15~25段の階段、週4日以上、1日4分以上)運動介入を行い、耐糖能および血清脂質値指標、および行動体力に関わる指標の維持・改善につながるかを調査した。その結果、中性脂肪値、HDL-コレステロール値、HbA1c値、オステオカルシン値および連続血糖モニターによる1日のAUC値、さらに下肢の敏捷性について機能の改善・向上を示す有意な変化が認められた。以上より、階段昇降運動は、高い健康増進効果を持つことが示された。
  184. Adiposity変化に強く関連する生活習慣病予測因子の探索―エクソソーム解析 18K11020 2018-04-01 – 2021-03-31 小区分59040:栄養学および健康科学関連 基盤研究(C) 大阪大学 本研究では、長期間の体脂肪の変化(BMI・腹囲)と生活習慣病リスクの変化に着目して、新たな生活習慣病予測因子を同定することをめざした。これまで研究してきた老化関連因子のαKlothoは、高血糖の出現や心不全の治療反応性に関連することを新たに見いだしたが、経年的体脂肪変化に伴うリスクの増加には有意な関連を認めなかった。10年間保管した凍結血清を用いエクソソーム由来の新規因子の網羅的検索を行ったが、有意なマーカーは同定できなかった。長期間の体脂肪変化に係わるリスク変化の同定にはさらなる検索が必要である。
  185. 救急外来で急性心筋梗塞の安全な除外を支持するトロポニンとリスクスコアの実証研究 18K08902 2018-04-01 – 2024-03-31 小区分55060:救急医学関連 基盤研究(C) 藤田医科大学 高感度心筋トロポニンを用いた連続測定法による非ST上昇急性心筋梗塞診断のスコーピングレビューでは、特定2アッセイが証拠の大多数を占め、多くの方法論的問題点が認められた。高齢者、腎障害患者におけるデータが不足していた。欧州心臓病学会の0/1時間迅速プロトコールを検討したネットワークメタアナリシスではアッセイの種類に関係なく本法は高い精度で同等に運用できると評価した。新しいアッセイ法のほうがより優れた結果を示す可能性が示唆されたが証拠は不十分であり、さらなる検証が必要である。当施設で実施した妥当性検証研究でも特定のアッセイに限られるが同様の結果であった。
  186. 低酸素刺激を併用した心筋幹細胞シート移植による重症心不全治療法の開発 18K08761 2018-04-01 – 2021-03-31 小区分55030:心臓血管外科学関連 基盤研究(C) 山口大学 超高齢社会である本邦の心不全は160万人になる。重症心不全に対する心移植はドナー不足などの問題から普及に至らず、幹細胞を用いた細胞移植療法が期待されてきた。近年の研究から移植した幹細胞が心臓組織へ生着することは稀であり、分泌される成長因子が心機能改善効果の主因だと判明した。心不全に対する細胞移植療法の最適化は喫緊の課題である。本研究では、中型動物であるウサギの陳旧性心筋梗塞モデルに心筋幹細胞(CDC)シートを移植し、効果を検証した。また、低酸素刺激による細胞シートの機能賦活化も検討した。結果、これらによって有意な心機能改善が得られると分かり、パラクライン作用による血管新生が機序と考えられた。
  187. 難治性皮膚潰瘍に対する他家細胞移植を見据えた積層細胞シート凍結保存法の開発 18K08735 2018-04-01 – 2021-03-31 小区分55030:心臓血管外科学関連 基盤研究(C) 山口大学 本研究では、一晩細胞が培養された細胞培養容器の蓋をした状態で3Dフリーザーを用いて凍結後に-80℃で保存した場合、細胞生存率が約60%以上の結果となった。また、本研究から、3Dフリーザー凍結は、同じ細胞保存液であっても、凍結条件によっては、、高い細胞生存率を生み出す可能性があることが示唆された。
    3Dフリーザーでの細胞凍結は、細胞シートを作製時の高密度細胞でも凍結保存可能な凍結方法になる可能性があることを示唆した。

  188. 梗塞後心室リモデリングに対するバイオメカニクスによる新たなる治療戦略の開発 18K08608 2018-04-01 – 2023-03-31 小区分55010:外科学一般および小児外科学関連 基盤研究(C) 近畿大学(2018, 2020-2022) / 神戸大学(2019) In-vivo豚心にて行う予定であったが、動物用MRIが廃棄処分となったため、PLL濃度/PMN濃度(%)を変えて異なる粘性のナノコンポジット・ジェルをEx-vivo豚心に注入し、一般用MRIを用いて心筋内での心筋線維の錯綜配列を定量化して比較検討した。その結果、4%のジェルが最も理想的な広がりを心筋内で示すことが判明した。
    コロナ感染拡大によりMRI実験そのものが不可能となったため、立命館大学生命情報学科の協力で臨床CT画像データを用いて胸部大動脈の形状モデルを作成して血流シミュレーションを行い、血管形状モデル曲面の曲率半径の分布から壁張力を求める簡便で有用な方法を開発した。

  189. 2型糖尿病疾患感受性遺伝子多型を基にした膵島病理学的変化と臨床経過、予後予測 18K08462 2018-04-01 – 2023-03-31 小区分54040:代謝および内分泌学関連 基盤研究(C) 弘前大学 1.SNPs解析:弘前大学の剖検症例111症例(2型糖尿病症例を32症例、非2型糖尿病症例を79症例)を選択した。剖検時に採取した肝臓、腎臓組織からgenomic DNAを抽出した。DNAの品質を確認後、東芝にジャポニカアレー(東芝)にて、DNAのSNPsを網羅的に検討した。
    2.病理学的解析:膵島細胞/アミロイド容積、細胞動態の解析を行う。膵臓切片を用いて(1)膵島の各内分泌細胞容積、(2)膵島細胞の増生能、(3)膵島細胞死、(4)膵島細胞の新生能を検討した。既報と同様に、2型糖尿病でβ細胞容積の減少、α細胞容積の増加、膵島新生の増加を認めた。
  190. MRIと分子イメージングに基づく動脈硬化の定量的診断と新しい予防戦略の構築 18K08126 2018-04-01 – 2023-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 国立研究開発法人国立循環器病研究センター 冠動脈疾患患者141名がMRI検査を受け、2次元プラーク-心筋信号強度比(2D-PMR)および新たに開発された3次元積分PMR(3Di-PMR)を測定した。結果: PCI後の心筋梗塞(pMI)は46人(33%)で観察された。3Di-PMRは、pMIのある患者においてpMIのない患者より有意に高かった。pMIを予測する最適な3Di-PMRのカットオフ値は51 PMR*mm3で、ROC解析においてはAUCが2D-PMRよりより著しく改善していた。結論: 3Di-PMR冠動脈評価により、PCI後のpMIのリスク層別化が容易となった
  191. 急性冠症候群の高リスク患者の抽出、および再発予防を目指した病理組織診断の構築 18K08123 2018-04-01 – 2021-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 宮崎大学 本研究では、急性冠症候群(ACS)の血管内治療中に得られたサンプルの組織所見と冠動脈イメージングを含めた臨床データを比較検討した。その結果、ACS症例の吸引サンプルに多数の陳旧性血栓を認め、その存在が心筋壊死やカテーテル治療への反応性の悪さと相関し、さらには治療後半年時点での死亡と関連していること、動脈硬化巣が破綻して血栓形成・増幅(病状悪化)するための局所の接着因子としては、フィブリンとvW因子が重要な役割を担っていることを明らかにした。また家族性高コレステロール血症合併ACS患者の責任病変において、酸化LDLコレステロールが富んでいることを病理所見と冠動脈イメージングを用いて報告した。
  192. 非虚血性心不全における冠微小循環障害のメカニズム解明と治療戦略開発 18K08110 2018-04-01 – 2023-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 熊本大学 本邦の高齢化に伴い心不全患者が激増し心不全パンデミックの様相を呈している。高齢者心不全の病態には冠微小循環障害(Microvascular Dysfunction: MVD)が潜んでいることが想定されているが、その評価指標も確立しておらず、評価指標の確立と標準化が求められていた。
    本研究から、MVD評価指標の確立・標準化への道筋がつけられると同時に、高齢者心不全の主体である非虚血性心不全の多くのカテゴリーにMVDが潜んでいることが明らかにされた。また、これらのMVDへの治療戦略としていくつかのオプションの可能性が示唆され、これらの成果はガイドラインに記載された。
  193. 心不全患者の医療チームによる多面的評価と医師患者間のギャップの検証 18K08056 2018-04-01 – 2021-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 公益財団法人日本心臓血圧研究振興会(臨床研究施設・研究部門) 7施設に入院する非代償性心不全患者のデータベースを構築し、様々な側面から検討を行った。高齢者心不全における栄養状態指標、入院日数・入院回数がその後の予後に及ぼす影響、短時間・長時間作用型利尿薬、収縮能の保たれた心不全における左室径、入院時血糖値、標準的治療薬の効果の男女差、標準的治療薬投与に及ぼす低栄養の影響、急性期陽圧呼吸管理の意義、退院時BNP測定の意義、入院中の尿酸値の変動、CTで評価した腸腰筋量の意義、突然死予測モデルの検証、他院後早期・中期の再入院の予後に及ぼす影響などについて成果を公表した。
  194. 酸化HDLによる冠動脈疾患の予後への影響を検討する 18K08049 2018-04-01 – 2021-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 順天堂大学 本研究計画では、凍結保存された血清中のHDLの酸化、その主要な構成成分であるApoA1の72番目のアミノ酸、トリプシンの酸化(Ox ApoA1-Trp72)をtargeted proteomicsを用いて同定し、予後との相関を検討する計画としていた。しかしながら凍結検体におけるtargeted proteomicsは検出が難しい上に非常にばらつきが大きく、むしろApoA1濃度やHDL機能(コレステロール引き抜き能)を動脈硬化性疾患だけでなく、心房細動や悪性腫瘍による死亡などと関連させて検討し、様々な病態におけるHDLの重要な働きを明らかにした。
  195. 虚血性不整脈の原因遺伝子同定による病態解明と新たな個別化治療の開発 18K08029 2018-04-01 – 2022-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 新潟大学 我々は、虚血性心室細動の遺伝的素因を解明する目的で、心室細動患者100例以上のゲノムを集積し関連遺伝子の絞り込みを行った。その遺伝的背景を明らかにできなかったが、心室性不整脈に関与する新たな遺伝子異常の検出に成功し、臨床的意義とともに論文にて報告した。
    また、虚血性不整脈の臨床データの解析から心筋虚血の残存が心室性不整脈の再発リスクであること、冠動脈造影時の心筋虚血や心筋伝導遅延が心室細動に関連する早期再分極所見(J波)形成の機序に関与していることを示し論文にて報告した。
  196. 多層オミックス解析を用いた糖尿病性心筋障害の病態解明 18K08024 2018-04-01 – 2024-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(C) 国立研究開発法人国立循環器病研究センター(2020-2023) / 東北大学(2018-2019) 糖尿病性心筋障害は糖尿病による代謝異常を起点として生じる心筋障害である。しかしながら糖尿病性心筋障害の発生機序は明らかではなく、虚血性心不全の発症予防と治療に対する糖尿病・代謝面からのアプローチが未だ困難である。そこで本研究では糖尿病を合併する虚血性心疾患症例においてオミックス解析を行い、虚血性心疾患における糖尿病性心筋障害の病態形成機序の解明を試みた。脂肪酸は生体脂質の主要な構成物質であり、様々な物質と結合及び代謝されることにより,エネルギー産生や細胞膜の構成等の生命の維持に関与する。本研究では遊離脂肪酸の心不全を含む心血管イベント発症での予後予測因子としての可能性を示した。
  197. サルコペニアに着眼した2型糖尿病の骨形状劣化に対する新規骨質評価法の開発 18K07446 2018-04-01 – 2022-03-31 小区分52010:内科学一般関連 基盤研究(C) 島根大学 日常診療内で撮影された閉経後2型糖尿病女性の腹部CT画像を二次利用し、脊柱起立筋群の筋および脂肪面積の定量法を構築した。椎体骨折者では非骨折者と比較して、「背筋」と呼ばれる脊柱周囲筋は、腹腔内の脊柱起立筋である大腰筋と比較して、有意に脂肪含有面積が高値でおよび脂肪化を伴わない筋面積が低下していることを見いだした。
    この成果は、2型糖尿病において脊柱起立筋群のサルコペニア化や脂肪化が椎体骨強度の脆弱化の病因である可能性を示唆しており、脊柱周囲筋の筋量増進による骨粗鬆症予防戦略が期待される。
  198. レニン・アンジオテンシン系に着眼した癌転移制御機構の解明と新規転移抑制療法の開発 18K06907 2018-04-01 – 2021-03-31 小区分48030:薬理学関連 基盤研究(C) 産業医科大学 本研究では、血圧調節機構であるレニン・アンジオテンシン系(RAS)において昇圧ペプチドとして作用するangiotensin II(Ang II)に注目し、血行性癌転移モデルマウスにおける転移調節メカニズムについて検討した。Ang Ⅱは、肺血管内皮細胞において細胞接着因子の発現を増加させることで、内皮細胞と癌細胞の接着を増加させ、メラノーマ細胞の血行性肺転移を促進させることが明らかになった。また、Ang Ⅱはがん細胞周辺の線維芽細胞を介して乳がん細胞の増殖や転移を促進することが示唆された。
  199. 新規心線維化シグナリング分子の同定と拡張不全治療への応用 18K06898 2018-04-01 – 2021-03-31 小区分48030:薬理学関連 基盤研究(C) 京都府立医科大学 心筋細胞のNOX1/NADPHオキシダーゼは心線維芽細胞の抑制因子の産生もしくは活性を抑制していることを明らかにした。NOX1を欠損させた心筋芽細胞株(H9c2)では細胞外マトリックス分子(ECM)であるCollagen4a1 (Col4a1)、 Osteoglycin (Ogn)およびPodcan遺伝子の発現上昇がみとめられた。これらECM分子をゲノム編集法により欠損させると、NOX1欠損心筋芽細胞のモジネートで認められた心線維芽細胞の増殖抑制作用は有意に回復した。以上の結果からCol4a1、 OgnおよびPodcanがNOX1により調節される心線維化抑制因子であることが明らかとなった。
  200. 女性管理職のストレスマネジメントに関する包括的考察:経営学と経済学の両面から 18K01751 2018-04-01 – 2021-03-31 小区分07080:経営学関連 基盤研究(C) 三重大学(2020) / 信州大学(2018-2019) 女性管理職がストレスを抱えている際に、どのような原因がストレスになるのかを実証的に検討した。結果として女性に特有のストレスの原因として、長時間労働が挙がる。ただし、実際の残業時間は男性管理職の方が長いため、残業時間がストレスに与えるインパクトは、女性管理職の方が大きいことを明らかにした。また、男性・女性管理職ともに、役割葛藤が最も大きなストレスの原因であった。
    また、ストレスマネジメントに関連して、バランススコアカードという技法を用いて、従業員の健康と企業経営を両立する方法についても検討し、ストレスを削減する能力が従業員の健康と企業経営の両立に大きな影響を与えることを実証的に明らかにした。

  201. Canstatin活性部位の同定と新規心疾患治療への応用 18J20623 2018-04-25 – 2021-03-31 特別研究員奨励費 北里大学 本年度はcanstatinの活性部位同定と新規治療薬への応用を目指して検討を行い、以下の成果を得た。
    ①N末端側およびC末端側のリコンビナントcanstatin断片(N-canstatinおよびC-canstatin)はラット心線維芽細胞のangiotensin II (Ang II)誘導性I型コラーゲン発現増加を抑制する傾向を示し、N-canstatinは新生仔ラット心筋細胞のAng II誘導性細胞肥大を有意に抑制することを明らかにした。②N-canstatin長期投与はAng II誘発高血圧モデルラットにおける血圧上昇には影響を及ぼさないが、左室重量/脛骨長比の増加や左心室における心筋細胞肥大および間質性線維化を抑制する傾向を示すことを明らかにした。③Monocrotaline誘発肺高血圧症モデルラットの血漿canstatin濃度は対照ラットと比較して有意に減少しており、肺高血圧症病態の重症度(肺高血圧および右心肥大)と強い相関を示すことを明らかにした。④新生仔ラット心筋細胞においてin vitroでの虚血再灌流(I/R)を再現したoxygen glucose deprivation reperfusion (OGD/R)刺激を行った。全長canstatinはOGD/R刺激によるnicotinamide adenine dinucleotide phosphate oxidase活性化を介した活性酸素種(ROS)産生増加やROS誘導性細胞内カルシウム濃度上昇を有意に抑制することを明らかにし、これらが全長canstatinのI/R誘発不整脈抑制機序の1つであることが示唆された。
    成果①、③および④は学会で発表、③および④は学術論文として公表した。
    前年度までにcanstatinが心リモデリング(心肥大および間質性線維化)抑制作用を中心とした心保護作用を持つことや、心筋梗塞後の梗塞領域において発現が減少することを明らかにしている。これまでの研究成果から、本研究はcanstatinの心疾患に対する新規治療薬・バイオマーカーとしての応用可能性を提示した。 令和2年度が最終年度であるため、記入しない。 令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
  202. ゲノムコホート研究による塩分摂取と糖尿病発症・進展に関わる遺伝環境相互作用の解明 18H03188 2018-04-01 – 2021-03-31 小区分59040:栄養学および健康科学関連 基盤研究(B) 山形大学 塩分ストレスは糖尿病発症・進展の危険因子と考えられるが、遺伝子情報を含めどの様な要因が糖尿病発症・進展につながるのかは不明である。私どもは、山形県コホート研究を用い塩分過剰摂取(塩分ストレス)と遺伝子や生活習慣を含め糖尿病発症に関わる要因の解明を試みた。塩分摂取増加にしたがって、血圧(収縮期・拡張期)、Body Mass Index、糖尿病の罹患率の上昇が認められた。また問診結果より減塩意識は必ずしも塩分摂取量低下につながらなかった。ネットワーク解析は、複合的な要因解析に極めて有用であり、塩分摂取量の低い群では複数の野菜を同時に摂取する食事嗜好があることを明瞭に示した。
  203. 受療行動促進モデル保健指導による重症化予防長期効果検証とAIによる支援効果の検討 18H03111 2018-04-01 – 2022-03-31 小区分58080:高齢者看護学および地域看護学関連 基盤研究(B) 大阪大学 本研究は、J-HARP研究で受療行動を促進する効果が立証された受療行動促進モデルによる保健指導が、脳・心臓血管疾患等の発症抑制にも効果があるかどうかの評価を目的にしたが、COVID19蔓延の影響を受け、データ収集が中断したことで、最終解析には至らなかった。また、脳・心臓血管疾患をエンドポイントとし、各検査項目間及び各検査項目とエンドポイントとの変数間の因果関係についてパス図を与えた上で求めたところ、脳血管疾患と関連が最も強かったのはHbA1cで、心血管疾患と関連が強かったのは拡張期血圧であった。AIによる心血管疾患発症の関連要因は年齢、メタボの有無、LDLコレステロールの順であった。
  204. 核酸分解酵素(DNase)における疾患への病態遺伝および生理学的関与の解明 18H03065 2018-04-01 – 2021-03-31 小区分58040:法医学関連 基盤研究(B) 島根大学 DNase I 遺伝子内にmissenseやnonsense変異を引き起こすSNP、indel変異のような遺伝的変異が活性レベルに影響を与えるfunctional variantであるか調査・解析した。
    酵素活性消失がみられた18 SNPsのほとんどがin silico解析によっdamaging/deleteriousと判定され、高い予測精度が確認されたこれらのDNase Iの酵素活性消失・低下を引き起こす変異の解析結果は、自己免疫疾患等の遺伝的危険因子を検討する上で有益であると考えられた。
  205. 多臓器連関を基盤に骨脆弱性で脳心血管疾患予測性能を改善する男性骨粗鬆症10年追跡 18H03059 2018-04-01 – 2021-03-31 小区分58030:衛生学および公衆衛生学分野関連:実験系を含まない 基盤研究(B) 大阪医科大学 FORMEN研究10年次追跡調査を実施し、1455名について脳心血管疾患発生を把握した。追跡できた対象全体(1455名)では骨粗鬆症または脆弱性骨折既往と脳心血管疾患発生は有意な関連を認めなかったが、循環器疾患既往無し(1333名)では、骨粗鬆症または脆弱性骨折既往は、向こう10年間の脳血管疾患及び脳卒中の発生リスク上昇と関連する傾向を示した。また、循環器疾患の既往が無く高値血圧以上(SBP130mmHg、またはDBP80 mmHg以上)の者(1101名)では、脳心血管疾患及び脳卒中について循環器疾患リスク要因と独立して発生リスク上昇と関連する可能性が示唆された。
  206. 心臓線維芽細胞由来血管新生抑制因子Lypd-1の発現機能解析による心疾患病態解明 18H02813 2018-04-01 – 2021-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(B) 東京女子医科大学 これまでに我々は、心臓由来線維芽細胞が血管形成を抑制する働きがあり、その責任因子として新規の血管新生抑制因子であるLYPD1を同定した。本研究では、心臓由来線維芽細胞においてなぜLYPD1の発現が高いのか、また心疾患におけるLYPD1発現の意義について検討した。網羅的遺伝子発現データを用いたバイオインフォマティクス解析を駆使した結果、LYPD1の発現調節を介して血管新生を抑制する転写因子の同定に成功した。また心臓において高発現するLYPD1が、心筋梗塞後に一過性に低下することを見出し、心筋梗塞モデル動物に対するLYPD1中和抗体投与によって、左室駆出率の低下が抑制される傾向が確認された。
  207. 高脂肪食負荷に伴うT細胞老化の分子機序と制御法の解明 18H02812 2018-04-01 – 2021-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(B) 慶應義塾大学 内臓脂肪組織に脂肪が蓄積するとマクロファージを中心とした免疫細胞が浸潤して慢性炎症が生じる。我々は、内臓脂肪組織の慢性炎症には、老化したT細胞から分泌されるオステオポンチンが関与していることを見出した。本研究では、PD-1を標的として老化したT細胞を除去することによって糖代謝が改善することを明らかにした。この方法だと活性化したT細胞も除去することになり好ましくない。オステオポンチンの転写活性の制御こそが治療標的としては重要である。内臓脂肪肥満のみならず心筋梗塞や糖尿病性腎臓病でも観察されるオステオポンチンの転写活性の活性化機序と制御機構を明らかにすることを試みてきた。
  208. 3次元スクロールフィラメント・キネティクス解明が導く新たな心室細動治療法の確立 18H02802 2018-04-01 – 2021-03-31 小区分53020:循環器内科学関連 基盤研究(B) 東京大学 VFを維持する3次元スクロール描画することでVF発生・維持の機序を解明することを目標に据え、新たな心筋焼灼手法を臨床応用するための技術基盤を構築する。VFが繰り返し発生し植え込み型除細動器が頻回作動するVFストーム家兎モデルを確立し、我々が考案した”位相分散解析”をVF中に実施したところ、心室中隔に投錨する安定した3次元スクロールを持続的に捉えることに成功した。
  209. 組織幹細胞維持機構解明のための微小血管システムの構築 18H01793 2018-04-01 – 2021-03-31 小区分27040:バイオ機能応用およびバイオプロセス工学関連 基盤研究(B) 東京大学 我が国では、高血圧、糖尿病、高脂血症といった生活習慣病の増加にともない、心筋梗塞や脳卒中に加えて、閉塞性動脈硬化症やその重症型である重症下肢虚血の頻度が確実に増加すると予測されている。このため血管再生療法に期待が寄せられており、本研究では、多分化能をもつ毛細血管周皮幹細胞(CapSC)に着目し、In vitro三次元微小血管モデルで各種物理化学因子を変化させたときの、血管新生におけるCapSCの役割について各段階のバイオプロセス評価系を構築した。本研究成果は、組織幹細胞維持機構の解明と細胞移植による効率的血管再生療法への応用が期待される。
  210. 深層学習を用いた非侵襲的マイクロイメージアナリシスによる超早期糖尿病眼障害予測 17K20036 2017-06-30 – 2020-03-31 挑戦的研究(萌芽) 国立研究開発法人国立国際医療研究センター 糖尿病は全身的な様々な合併症の原因となり、眼科領域においても糖尿病網膜症や角膜症といった合併症を呈する。角膜内皮細胞において、糖尿病患者ではこれまで、特徴的・定量的な形態的変化は明らかになっていなかった。
    本研究では糖尿病の重症度による眼科的な病態と全身的なデータを統合したデータベースより角膜内皮画像を用いたデータセットを作成し、CNNを用いて糖尿病症例を判別する特徴量をピックアップした。これをもとにバリデーションデータセットを追加し、解析の検証を行っている。また糖尿病を合併する代謝疾患について、角膜所見を主とした詳細な症例検討を行い、前眼部OCTによる解析の有用性を確認した。
  211. 自己抗体マーカーによる脳梗塞発症予測の精緻化に関する疫学研究 17K19810 2017-06-30 – 2020-03-31 挑戦的研究(萌芽) 大阪大学 日本人において最も多い動脈硬化性疾患である脳梗塞の症例と一般健康住民である対照について、過去の凍結保存血漿中の動脈硬化候補マーカーの抗体レベルを高感度ELISAであるAlphaLISA法によりハイスループットに測定し、nested case-control studyの手法を用いて、脳梗塞の発症との関連を分析した。その結果、複数の抗体について発症予測マーカーとしての活用可能性が見出された。なお、特に顕著な関連が見られた一部のマーカーについては、特許申請中である。
  212. スーパーコンピューターによる「分子レバレッジ」仮説の検証 17K19669 2017-06-30 – 2019-03-31 挑戦的研究(萌芽) 東海大学 細胞機能は環境に応じて変化する。各種細胞膜蛋白質の細胞外ドメインが細胞に特異的な生理機能を担う。血小板ではGPIIb/IIIaの細胞外ドメインの高次構造変化が細胞活性化後に起こる。活性型構造のGPIIb/IIIaはフィブリノーゲンなどのリガンドに結合し、血小板凝集、血栓の成長に寄与する。活性化に伴う血小板細胞内の環境変化はカルシウムイオン濃度上昇など大きくない。小さな細胞内環境変化が細胞外ドメインの大きな構造変化を惹起する力学メカニズムとして「分子レバレッジ仮説」を提案し、妥当性を分子動力学計算により検証した。
  213. ベルト式骨格筋電気刺激を用いた治療的透析ケアの新戦略 17K18050 2017-04-01 – 2020-03-31 若手研究(B) 獨協医科大学 本研究は透析期糖尿病性腎症透析患者における、B-SESを用いた血糖上昇抑制および骨格筋機能改善による治療的透析ケアの検討である。急性効果として糖尿病性腎症透析患者11例に対して、透析中に補助栄養を摂取し、その後B-SESを実施した結果、血糖上昇抑制と透析後24時間の平均血糖変動幅の改善を認めた。また、長期効果として3ヶ月間の一部の症例数においてはB-SES実施により有意な血糖コントロールの改善や骨格筋機能の改善は認めなかったが、顕著な改善例も認められ、透析中のB-SES実施は骨格筋機能や耐糖能の改善に一部有用である可能性を示唆した。
  214. DPCデータを用いた日本の外傷診療の評価 17K17045 2017-04-01 – 2020-03-31 若手研究(B) 東京医科歯科大学 本研究はDPCデータを解析することにより、外傷をはじめとして救急集中治療医学領域のいくつもの重篤疾患や希少疾患に関する疫学研究の結果を広く世界に発表することができた。
    重症外傷については施設あたりの症例数増加が患者の生命転帰改善および入院医療費減少と有意に関連することを示し、患者の集約化が医学的・社会的観点から有用である可能性を示した。一方で重症熱傷患者についてはこのような傾向は認めず、課題が残ることを示した。
    上記に加えて外傷急性期の最適な輸血戦略についての研究成果を発表した他、重症急性膵炎、急性期脳梗塞、甲状腺クリーゼなどの疾患についても複数の因果推論研究を行い、成果を国際誌に発表した。

  215. SCN5A-Nedd4-2系の電気的リモデリングに関する病態解明 17K16019 2017-04-01 – 2019-03-31 若手研究(B) 横浜市立大学 本研究では、Nedd4-2 C2ドメインノックアウトマウス(KO)を用いて、安静時モデルと心筋梗塞・心房細動モデルでの検討を行った。安静時モデルの心電図波形において、KOはQT延長、QRS延長、PR短縮を認め、交感神経優位であるにも関わらず、除脈を呈した。心筋梗塞モデルでは、Tpeak/Tend間隔開大を認め、心房細動モデルでは心房細動持続時間の延長を認めた。
    心臓の生理学的表現型を調べたが、形態的差は認めなかったにも関わらず、心電図変化が認め、病態モデルでも電気的脆弱性を示したことから、刺激伝導系におけるイオンチャネルの膜発現増加によりNedd4-2 C2 KOの効果が現れていると予測された。
  216. 心不全患者におけるNeprilysin濃度決定因子および予後への影響に関する研究 17K16015 2017-04-01 – 2020-03-31 若手研究(B) 熊本大学 心保護作用を持つナトリウム利尿ペプチドの分解を防ぐneprilysin(NEP)の血中濃度を測定し、心不全症例を対象に1.血中NEP濃度に影響を与える因子 2.血中NEP濃度と予後との相関 3.心臓から放出されるNEPと血行動態の関係を検討した。左室駆出率や脳性ナトリウム利尿ペプチドなど心不全の重症度を示すサロゲートマーカーと相関はみられず、予後予測因子とはならなかった。冠循環中に放出されるNEPを評価したが、値のばらつきが大きく冠循環中のNEP濃度の定量的評価は困難であった。本研究からNEP濃度測定の臨床的な意義や有用性を示すことはできなかった。
  217. 心臓CTを用いた心室内腔および血管内プラーク表面凹凸の臨床応用に関する検討 17K16007 2017-04-01 – 2019-03-31 若手研究(B) 岡山大学 本研究は、心臓CTを用いて胸部大動脈内のプラークの表面凹凸を解析し、プラークの凹凸の度合いを定量化することが可能であった。虚血性心疾患と非虚血性心疾患において、プラークの表面凹凸の度合いを比較したところ、虚血性心疾患で凹凸度合いが高い傾向が示された。CTで評価したプラークの表面凹凸が虚血性心疾患のリスク因子になり得る可能性があり、臨床的な有用性が示唆された。
  218. 動脈硬化発症に寄与する新規エクソソームmicroRNAの探索 17K15991 2017-04-01 – 2020-03-31 若手研究(B) 東京医科歯科大学 心血管疾患は先進国における主要な死因の1つであり、その原因の大部分を占める動脈硬化の新規診断法・治療法の確立は医学領域における喫緊の課題である。本研究では、マイクロアレイや超高速シーケンサーを用いてヒト血管内細胞を炎症性刺激した際の遺伝子変化を詳細に解析した。その結果、動脈硬化に寄与する新規miRNAとしてmiR-3679-5pを同定した。エクソソームは血液や尿などの体液中に分泌される小胞で、その診断マーカーや薬剤担体としての可能性が注目されている。現在、miR-3679-5pの創薬標的および診断マーカーとしての可能性について、ヒト患者血清エクソソームに着目して研究を進めている。
  219. 植え込み型除細動器のショック治療において成功率の高い除細動を行うには? 17K13042 2017-04-01 – 2019-03-31 若手研究(B) 千葉大学 慢性心不全症例は、心室性不整脈のハイリスク群であり、植え込み型除細動器(ICD)が広く使用されている。現在本邦で使用されている全てのICDの初期設定では、ショック治療の通電時間である「パルス幅」は自動設定である「チルト固定設定」であるが、通電時間が長すぎることで除細動効率が低下している可能性がある。本研究においては、急性心不全モデルの豚において、手動にて至適「パルス幅」設定を行うことで除細動閾値を低下させることができるかどうかを検討した。結果、16頭中13頭において、「パルス幅固定設定」が「チルト固定設定」に比して、除細動閾値が低く、より有効な除細動治療を行うことができた。
  220. 在宅高齢者夫婦世帯における行動変容をもたらす継続可能な転倒予防プログラムの開発 17K12451 2017-04-01 – 2023-03-31 基盤研究(C) 名古屋大学 高齢者夫婦世帯の暮らしの中での転倒リスクの実態と転倒予防の工夫について、まず文献検索を行い、項目の抽出を行い134項目を抽出した。それを基に、高齢者夫婦世帯10世帯インタビューを行った。転倒要因と関連する項目は、『感覚機能』、『四肢の運動機能』、『身体バランス』、『認知機能』、『栄養状態』であった。転倒予防の工夫は、玄関に椅子を置く、室内でスリッパを履かない等24項目があがった。その後転倒予知要因の精選をした。それを高齢者夫婦世帯800世帯1600人に送付し、607人からの回答をもとに転倒予防シートと転倒予防教育プログラムを作成した。
  221. 来院時心肺停止患者における赤血球表面上の補体沈着とその侵襲の評価 17K11600 2017-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(C) 関西医科大学 救命救急センターに搬送された患者72名(うち13名が院外心肺停止)、並びに対象となる健康成人の赤血球表面上の補体沈着量をフローサイトメトリーを用いて測定し、収集した臨床データ、血液データとの関係を検討した。72名の年齢の中央値は74歳で男性は39名(54%)であった。心停止においては健康成人に比べて有意に補体成分の沈着が見られる(p<0.05)ことが確認された。検体全体で測定されたC4dの沈着量と各検査データ、臨床データとの比較検討を行い、補体沈着量とBase Excess、乳酸値、白血球数などと弱い相関関係がみられた。
  222. 放射光微小血管撮影法を用いた肺高血圧症における微小肺細動脈リモデリング解析 17K10722 2017-04-01 – 2023-03-31 基盤研究(C) 筑波大学(2017, 2021-2022) / 埼玉医科大学(2018-2020) 本研究では、非侵襲的に微小肺動脈閉塞性病変の進行を可視化し定量評価する事ができれば、早期肺高血圧症の診断が可能となると考え、高エネルギー加速器研究機構放射光研究施設との共同研究において放射光微小血管撮影法の開発を行った。放射光微小血管撮影法を用いて高肺血流性肺高血圧症ラットモデルにおける微小肺血管リモデリングを可視化し、肺細動脈造影画像から血管内濃度変位測定ソフト(Gray-val, Library Co., Ltd., Tokyo, Japan) を用いて、造影剤コントラスト変化とトランジットタイム解析をおこない、末梢肺動脈における肺血流量測定を可能とするシステムを構築した。
  223. 心筋梗塞後の病態変化と左室リモデリング予測に関する継時的生体分子イメージング研究 17K10435 2017-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(C) 金沢大学 心筋虚血再灌流ラットにおける梗塞後の早期炎症性変化と慢性期左室リモデリングの関連において治療的介入としてのpost-conditioning(PC)と直接的な抗炎症薬としてのコルヒチン治療の影響を検討した。 マクロファージ浸潤を反映して集積するC-14メチオニン集積はPCにより梗塞3日後には低下しなかったがその後の低下が促進された。一方、コルヒチン投与では3日後から全経過においてメチオニン集積は抑制された。いずれにおいても2か月後の左室リモデリングは抑制され、メチオニンイメージングにより炎症性変化に対する治療効果判定が可能で、左室リモデリング抑制予測の可能性が示唆された。
  224. MRI T1T2 mappingを用いた腎機能障害関連心筋症の重症度評価 17K10419 2017-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(C) 日本大学 腎臓の機能が低下した患者や透析中の患者の主な死因は心血管障害であり、なかでも不整脈や心不全が重要な病態である。この病態の基礎として心筋線維化や炎症が知られておりこれらを非侵襲的に評価するためにT1T2 mappingという心臓MRIの技術を用いた。我々の検討では心筋T2値が患者群では正常者よりも有意に高値を示した。ただし患者内で検討すると心機能の低下の程度と相関したのは、心筋T1値であった。T1T2 mappingは腎機能障害関連心筋症の重症度の評価に有用であると結論した。
  225. 腎血管性高血圧への血行再建術の適応基準の確立と病態改善機序の解明 17K09743 2017-04-01 – 2023-03-31 基盤研究(C) 関西医科大学(2022) / 獨協医科大学(2019-2021) / 国立研究開発法人国立循環器病研究センター(2017-2018) 二次性高血圧の代表的疾患の一つである腎血管性高血圧への血行再建術(経皮的腎動脈形成術: PTA)に伴う病態の変化や、治療効果を予測するための指標を検討した。
    一連の検討によって、① 腎血管性高血圧へのPTA後の降圧効果は腎動脈狭窄の原因疾患により異なり、診察室外血圧を併用して術後の降圧効果を評価することが重要であること、② PTAにより心肥大の退縮効果が期待できること、③ 術前の腎機能は術後の予後と深く関わり、また、術後の腎機能改善の予測因子であること、④ 腎内の血液灌流は血圧変動性や、自律神経・ナトリウム利尿の概日変動性を調整すること、⑤ 線維筋性異形成の具体的な患者像、などを明らかにした。
  226. 新規心臓特異的プロテインキナーゼが修飾する生理機能の解明 17K09571 2017-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(C) 名古屋大学 心不全は心ポンプ機能が破綻する臨床症候群であり、予後不良の重要な健康課題である。低分子量GTP結合タンパク質RHOAは細胞遊走や細胞増殖を制御し、その標的分子であるRHOA関連タンパク質キナーゼ(ROCK )はタンパク質の病理学的なリン酸化を引き起こし、心血管疾患と深く関連することが報告されている。プロテインキナーゼN(PKN)の機能は不明な点が多く、心不全におけるPKNの役割を明らかにした。
  227. 高リスク冠動脈硬化巣を認識する多面的非侵襲的画像診断法確立のための基盤研究 17K09566 2017-04-01 – 2021-03-31 基盤研究(C) 国立研究開発法人国立循環器病研究センター 非造影T1強調核磁気共鳴画像法(MRI)を用いた低侵襲冠動脈硬化疾患の診断技術は、将来における冠動脈硬化症のスクリーニング技術として期待されることから、本研究ではT1強調MRIの精度の高いリスク層別化法としての技術の確立、分子を含めた病態の解明を行う研究を行った。まず将来の冠動脈イベントと直結する、T1強調MRIにて高信号に可視化される冠動脈プラークの病的意義および自動定量を目標に取り組んだ。結果高信号冠動脈プラークは血管内画像診断法・病理組織所見から脂質成分に富み、プラーク容量が大きいことが推定され、市販ソフトを用いた3次元半自動冠動脈プラーク評価法は精度高くその後の事故予測可能であった。
  228. 歯周炎症が動脈硬化におよぼす影響の解明 ~FDG-PET/CTを用いた検討~ 17K09564 2017-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(C) 久留米大学 FDG-PET/CTにより定量評価した歯周炎症は、男性、肥満、高血圧、高中性脂肪、低HDL血症、高血糖、喫煙、低アディポネクチン血症、血管炎症と有意な関連を認めた。インスリン抵抗性改善薬による治療介入は、低HDL血症、低アディポネクチン血症を改善し、歯周炎症や血管炎症を軽減させた。急性冠症候群例では、安定狭心症例と比べて喪失歯数と歯周炎症が有意に高かった。Direct coronary atherectomyや血栓吸引から得られた冠動脈プラークは歯周炎症が強い症例ほどCD68陽性細胞の集簇が認められた。また、P. gingivalis DNAの検出, Gingipain活性を認めた。
  229. 新規HDL機能評価法を用いた糖代謝異常患者に対する急性冠症候群発症阻止の戦略 17K09553 2017-04-01 – 2021-03-31 基盤研究(C) 昭和大学 冠動脈疾患予防には、低比重リポ蛋白(LDL)低下のみでは不十分であり、残余リスクとして高比重リポ蛋白(HDL)特異的コレステロール取込み能 (Cholesterol uptake capacity: CUC)の意義を検証した。冠動脈疾患患者において、光干渉断層映像法 (OCT)でみた脆弱性プラークとCUCに逆相関が認められ、冠動脈ステント留置後の患者では、新生内膜内新規動脈硬化病変の形成にCUCが有意に関連していることが示された。高強度スタチンとEPA製剤を用いた介入により、動脈硬化病変の進展を抑制することが判明した。本法を用いて、冠動脈疾患に対する新規の治療戦略を開発することが期待される。
  230. 重症下肢虚血におけるメタボローム解析を用いた病態および治療マーカーの解明 17K09550 2017-04-01 – 2023-03-31 基盤研究(C) 新潟大学 平成29年度から令和元年度において、血管内治療を予定していた末梢動脈疾患患者のうち同意書の得られた計11例に対して、下肢動静脈血サンプリングを行った。
    平成30年には、法改正により対外増幅赤芽球移植(EVEETA)を用いた再生医療が終了し、令和2年以降は新型コロナ感染症の拡大により待機的な血管内治療が可能な重症下肢虚血患者が減少し、症例リクルートに難渋した。
    一方で同時並行で行っていた心臓からのサンプリングにおいては、虚血性心疾患に伴う低心機能症例において、解糖系からTCAサイクルに至る経路に関わるアミノ酸が心筋により多く取り込まれている可能性が示唆された。
  231. 心不全大規模データベースによる突然死の日米比較:適正治療検証の新規システムの構築 17K09526 2017-04-01 – 2022-03-31 基盤研究(C) 杏林大学(2019-2021) / 慶應義塾大学(2017-2018) Seattle Proportional Risk Model [SPRM]の本邦における精度は不明であったが、我々はWest Tokyo Heart Failure Registryに登録された急性心不全症例連続2240例で検証した。このRegistryにおける 2年全死亡率は 15.9%、うち突然死率は3.4%であった。我々は本患者群におけるLVEFとNYHAによる従来基準の突然死予測精度とSPRMの予測精度を比較し、SPRMのそれが従来基準をはるかに上回ることを確認した (c-index 0.65 [95%CI 0.55-0.75] vs 0.53 [0.42-0.63])。
  232. 左室収縮能保持性心不全の病態解明と新規治療法開発に向けたトランスレーショナル研究 17K09523 2017-04-01 – 2022-03-31 基盤研究(C) 熊本大学(2020-2021) / 杏林大学(2017-2019) 左室収縮能保持性心不全を含む急性心不全のデータ解析を中心に研究を遂行した。心エコー指標と心不全の病態との関連、慢性腎臓病併存の有無による心不全治療薬の効果の差異、高齢者の左室収縮能保持性心不全の臨床的特徴等の臨床的に意義ある結果が得られ、報告を重ねた。また、間葉系幹細胞による左室収縮能保持性心不全の新規治療の可能性、および急性心不全に対する間葉系幹細胞の治療応用に関与する可能性のあるmicro RNAsについても纏め、報告した。
  233. EPAによる残余リスク介入のための分子機構解明とそれを応用した患者層別化法の開発 17K09519 2017-04-01 – 2023-03-31 基盤研究(C) 和歌山県立医科大学 ACS患者の無作為前向き研究を行った。スタチンは早期のプラークの安定化に寄与することが分かった一方、局所MMP-9についてはスタチン早期群と後期群の変化率に有意差がなく、スタチンの残余リスクを示唆する所見と考えられた。
    さらにST上昇型心筋梗塞患者は入院時の血糖値とMMP-9値には正の相関があることと、心臓MRI検査において認められた予後不良因子である心筋内出血がある患者は非出血群と比較し入院時の血糖値が高いことを報告している。
    さらに、魚食など食習慣の異なるタイ国と心筋梗塞と気候を比較した研究を実施し他の気候条件も心筋梗塞の発症機序に関与している可能性を明らかにし、それを発表している。
  234. 肥大型心筋症の心不全発症メカニズム-トランスクリプトーム網羅解析からの検討- 17K09507 2017-04-01 – 2023-03-31 基盤研究(C) 愛媛大学 肥大型心筋症患者30と正常対象者10名を対象とした。。対象者に対して血液検査)、自律神経機能検査(ホルター心電図)、心エコー検査、心臓MRI検査で評価し、フォロー開始時の基本情報を取得した。血液からmiRNAを抽出しillumina社製次世代シーケンサーMiSeq を用い網羅的Seq解析を施行した。結果、肥大型心筋症患者と正常患者で有意に異なるmiRNAは認めなかった。加えて肥大型心筋症の各病型(閉塞性肥大型心筋症、非閉塞性肥大型心筋症、拡張相肥大型心筋症)間でも有意なmiRNA発現の差異は認めなかった。
  235. 大規模コホートデータを用いた脳出血の部位別リスクとその医療介護需要予測への活用 17K09148 2017-04-01 – 2023-03-31 基盤研究(C) 千葉県衛生研究所 急性期、回復期、慢性期(要介護)の医療介護需要を予測するためのモデル開発には、初回発症から死亡までの転帰をトータルにとらえる必要がある。本研究では、日本動脈硬化縦断研究(JALS)の追跡集団(後期高齢者までをカバーする118,239 名)を対象とし、脳卒中病型別リスク検討、リスク因子からの発症予測を行うリスクスコアの評価、さらにはそれらを活用した長期予後(発症や要介護)の推計を試みた。
    脳卒中発症予測については、JALS追跡集団を対象にポアソン回帰モデルを用いて検討を行った。脳卒中、心筋梗塞(AMI)、脳卒中とAMIの複合アウトカム、すべての心血管疾患(CVD)の5年および10年発症リスクを推定するためのリスクスコアリングシステムを開発した。
    最終年度は、以上の成果の一般集団への適用を試みた。千葉県特定健診・特定保健指導データ収集、評価・分析事業の集計値(オープンデータ)より、性・年齢、メタボ判定による3つのリスク(高血圧、脂質異常、糖尿病)の重積状況(381,733名)でコホートを設定した。中長期推計を行う上で、以下の仮定をおいた。①各リスク階層・性・年齢でコホートとし、該当するリスクスコアから5年発症数を推計した。②5年間の発症例を除いた集団に対し、次の5歳階級でのリスク因子構成割合で再配分し、新たなスコアから5年後の発症数を算出した。上記①②の過程を繰り返し行い80歳まで算出した。
    本推計は多くの仮定を含み、年齢階級上昇に伴うリスク構成の変化、脳卒中以外の疾患との競合リスク、死亡による追跡打ち切りなど、精緻な仮定検討が課題と考えられた。また、モデルに使用する死亡、脳卒中発症、病型別データ、発症後予後データ、要介護発生等については、現状、利用可能なデータが限られるうえ、時代効果も存在することから、国内コホートからのエビデンスの経年更新と検証が必要であると考えられた。
  236. 高齢胃癌患者に対する手術治療基盤の確立 17K09108 2017-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(C) 京都大学 複数の医療施設で手術を受けた80歳以上の高齢胃癌患者660人の情報を後ろ向きに、241人のデータを前向きに収集した。12%は軽作業で困難、17%は高度の全身疾患を有していた。35%は既に配偶者と死別/離婚しており、16%が独居であった。6%の患者は何かしらの侵襲的な合併症が発生し、在院死は0.1%であった。3年生存率は63%で、胃癌以外の病気で死亡する患者が全体の42%であった。開腹手術と低侵襲手術で合併症発生率、生存率の比較では有意な差は認めなかった。個別の患者の生存の確率を予測できるノモグラムという統計モデルを開発し、進行度からの予測より良好であった。
  237. HDL-miRNAの動脈硬化発症および進展に対するバイオマーカーとしての可能性 17K08996 2017-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(C) 藤田医科大学 我々は、高比重リポタンパク(HDL)中に存在するmiRNA注目して、動脈硬化とHDL-miRNAの関連性を調査した。そこで、現在報告されているHDL-miRNAの測定法よりも簡便な定量法を確立した。この方法を用いて、一般住民健診受診者の血漿サンプルから3種類のHDL-miRNA(miR-223、miR-92、mmiR-150)を測定した。その結果、動脈硬化所見を有する者では2種類のHDL-miRNA(miR-223、miR-92)の有意な増加を認め、HDL-miRNAは動脈硬化の進展に関する新規バイオマーカーになり得ることが示唆された。
  238. 骨折・転倒転落死亡と環境温度の関係に関する時系列解析 17K01829 2017-04-01 – 2022-03-31 基盤研究(C) 立命館大学 ICD10転倒・転落、不慮の事故、疾病の外因死及び要介護となる疾患群:認知症、脳血管疾患の月別死亡率(2010-2021)を対象とした。月別年齢別死因統計(京都、札幌、東京)は日本の厚生労働省から公表されているものを用いた。死亡率を対数変換し、気温との時系列解析によって最適曲線を求めた。【結果と考察】65歳以上の高齢者の気温と不慮の事故、疾病の外因死は、総死亡率と同じく、対数回帰が最も適合した。転倒の死亡率は気温による有意な差は認められなかった。至適温度に有意な差は認められなかった。秋の月間平均気温1℃の上昇は、不慮の事故死亡率において約3%上昇し、総死亡率の上昇と比較して約10倍であった。
  239. 高齢化社会における循環器疾患患者への身体機能向上のための包括的プログラムの構築 17K01500 2017-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(C) 神戸大学 我々は、高齢循環器疾患患者における入院期のリハビリテーションプログラム進行に際し、入院前の歩行能力および腎機能の低下が歩行自立度に影響を与えることを示した。また、入院前の長期介護保険制度の段階により、入院後の退院時歩行自立度は異なることも明らかにした。さらに、患者の90日以内再入院と日常生活活動との関連および再入院を予測するための日常生活活動の目安について明らかにした。
  240. 脂肪酸の質的量的変化に着目した新規心骨格筋フレイル治療プログラムの開発と臨床応用 17K01470 2017-04-01 – 2023-03-31 基盤研究(C) 順天堂大学 臨床研究:急性冠症候群、虚血性脳梗塞、腹部大動脈瘤、心房細動、急性静脈血栓症、心不全にEPAやDHA、EPA/AA比、DHA/AA比が関連、心臓リハ例において特性不安は非フレイル群のみで改善、1H-MRS法は中性脂肪蓄積心筋血管症例の心筋内中性脂肪量の評価に有用であることを明らかにした。
    基礎研究:angiotensin IIによる骨格筋萎縮は、Nox4-Nrf2系を介した酸化ストレスが関連、高齢マウスの骨格筋萎縮では、アラキドン酸、EPA、DHAの代謝物が増加、心筋梗塞マウスにおける自発運動は心機能の改善を認め、梗塞周囲や骨格筋のサイトカインやマイオカインの発現と関連することを明らかにした。
  241. マイクロ流路を用いた新規白血球活性化指標の心血管リハビリテーションへの臨床応用 17K01463 2017-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(C) 獨協医科大学 動脈硬化疾患は慢性炎症を基盤とした病態であり、白血球は動脈硬化ならびに心臓リハにおいて重要な役割を持つ。新しく作成した微細血管モデルを用いて、白血球活性化の指標を検討し論文発表した(Heart & Vessels 2020)。対象は、健常者79例、糖尿病患者42例、急性冠症候群36例。健常者に比べ糖尿病患者や急性冠症候群患者ではヘパリン採血管と(ヘパリン+EDTA-2Na採血管)の全血通過時間の差ならびに接着白血球数は増加した。ヘパリン採血管とヘパリン+EDTA-2Na採血管の全血通過時間の差は、MPO濃度、接着白血球数と正の相関を示し、白血球活性化のマーカーとして使用できることが示された。
  242. 光減衰イメージングによる冠動脈不安定プラークの新たな定量的診断法開発 17K01417 2017-04-01 – 2023-03-31 基盤研究(C) 東北医科薬科大学(2018-2022) / 和歌山県立医科大学(2017) 急性心筋梗塞の原因となる不安定プラークの早期発見は重要な研究テーマである。 血管内イメージング:光干渉断層法 ( OCT )と近赤外線分光法/血管内超音波 (NIRS-IVUS)を比較検討し、冠動脈不安定プラークの診断法を開発した。OCTによる定量的動脈硬化診断法開発には至らなかったが、NIRS-IVUSによる新たな冠動脈動脈硬化プラーク診断診断アルゴリズムを開発した。OCTでのプラーク破裂、プラークびらん、粒状石灰化をNIRS-IVUSを用いた診断アルゴリズムで区別できることが示された。
  243. 医療ビッグデータと人工知能を用いた新次元的アプローチによる心筋梗塞発症予測 17H05078 2017-04-01 – 2020-03-31 若手研究(A) 国立研究開発法人国立循環器病研究センター 本研究の目的は、循環器ビッグデータを用いて機械学習およびコグニティブコンピューティング等の人工知能応用技術を利用し、あらゆる診療情報をもとに、心筋梗塞発症の精緻な予測を目指すことである。
    電子カルテや部門システムからのデータを自動抽出することに成功し、大規模データベースを構築し、妥当性の検証を行った。本研究により、人工知能による情報の自動抽出、因子間の関係性の探索、予測精度向上という、最小の予測因子の違いで良好な結果を予測可能にするアルゴリズムを提案することができた。
  244. 口腔健康の悪化はメタボリックシンドロームのリスク因子となるか?ー吹田研究 17H04388 2017-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(B) 新潟大学 横断解析では、1780名を対象に、咀嚼能率4群におけるメタボリックシンドロームの罹患率を比較したところ、最も高い群に較べて下位から2番目の群において、有意に高いodds比(1.46)が得られたことから、咀嚼能率の低下とメタボリックシンドローム罹患との間に関連があることが示唆された。次に、縦断解析では、599名における追跡期間(平均4.4年)中の新たなメタボリックシンドローム罹患(88名)のリスク因子として、年齢、歯周病、喫煙、飲酒を調整した上でも、 男性において咀嚼能率低下は有意であった。すなわち、咀嚼能率の低下は、男性においてメタボリックシンドロームのリスク因子であることが示唆された。
  245. 心筋梗塞・がんに伴ううつ病と血中脂肪酸の関連:地域住民及び患者コホート研究 17H04253 2017-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(B) 国立研究開発法人国立がん研究センター 地域住民コホート及び患者コホートの臨床情報並びに保存試料を用いて、不飽和脂肪酸とうつ病の関連を検討した。地域住民コホートから1日111gの魚食、307gのエイコサペンタエン酸摂取、111gのドコサペンタエン酸摂取が老年期うつ病の発症リスクを低下させることが示された。患者コホートから、心筋梗塞発症直後の血清リノール酸が高値であると、3・6か月時点のうつ病の発症リスクを高めることが示された。
  246. 家族内発症例の遺伝的要因の同定を基盤とした骨髄増殖性腫瘍発症機序の解明 17H04211 2017-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(B) 順天堂大学 フィラデルフィア染色体陰性骨髄増殖性腫瘍(MPN)は、末梢血の血球の増加を特徴とする血液のがんである。MPN患者の多くが、JAK2V617F遺伝子変異を有しており、この変異が病気の発症を規定していると考えられている。これまでマウスや、細胞株を用いた解析がされてきたが、JAK2V617F遺伝子変異がMPNで見いだされる末梢血の血球の増加を、単独で引き起こすか否かは明らかでなかった。本研究では、健常人由来のiPS細胞を用いて、JAK2V617F遺伝子変異を導入すると、MPN患者において観察される現象が生じることを示した。
  247. 新規創薬標的としてのEPHX2 phosphatase:生理的基質と阻害剤の探索 17H02201 2017-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(B) 東京農工大学 可溶性エポキシドヒドロラーゼ(EPHX2)は、N末端領域にホスファターゼ活性(N-phos)を、C末端領域にエポキシドヒドロラーゼ活性(C-EH)を有する2機能酵素であり、sEH欠損マウスは多様な炎症抵抗性を示す。従来、この形質はC-EH機能に依存すると考えられてきたが、独自に見出した選択的阻害剤を用いた解析により、N-phos機能が血管内皮活性化や脂肪肝の抑制に決定的な役割を果たすことを明らかにした。さらに、新規開発した同位体標識タグとLC-MS/MSを利用した網羅的解析により、sn-2位に多価不飽和長鎖脂肪酸を有するホスファチジン酸をN-phos基質として同定した。
  248. 無負荷センサ統合による見守りシステムの構築法 17H01823 2017-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(B) 電気通信大学 本研究では,高齢者施設における居住者の生活全般にわたる見守りを支援するシステムを設計・開発するための要件をまとめ,その構築法について,システムモデリング言語であるUMLによって設計を行い,IoTのセンサネット技術を応用することによってシステムの開発・実装をし,老人ホームで実証実験することで有効性を評価した.
    RFIDやマイクロ波センサなどの無負荷センサを統合することによって,自立的な日常生活を行えるための最低限の行動群ADL(Activities in Daily Living)を認識し,健康状態をモニタするとともに,転倒などの異常状態に対しても的確に検知できるシステムの基盤技術を確立した.
  249. 大規模コホートの疾病横断的ゲノム解析に基づく個別化予防に資するエビデンスの構築 17H01557 2017-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(A) 国立研究開発法人国立がん研究センター 多目的コホート研究で既に収集されている試料・情報を活用し、遺伝および環境情報を有する、がんと循環器疾患のケースコホートを構築した。構築したケースコホートを活用し、循環器疾患のゲノム網羅的関連解析、遺伝環境交互作用解析、メンデリアン・ランダマイゼーション解析を行うことにより、我が国の地域住民を対象に、遺伝要因と環境要因を組み合わせた疾患発症との関連がみられるかどうかを検証した。
  250. 不整脈および除細動のための数学的基盤整備 16KT0022 2016-07-19 – 2020-03-31 基盤研究(B) 明治大学 不整脈とは,心臓が正常な収縮リズムを失っている状態をいう.心房細動,心室細動はその一例である.不整脈の成り立ちを数理的に解明することは,臨床医学的にも大きな示唆を与えることが期待できる.本研究課題では,不整脈や除細動のメカニズム解明のため,電位の伝播に関する方程式の解のパターンダイナミクスを調べる手法の開発を行った.具体的には,自由境界問題(反応界面系)の導出,1次元ダイナミクスの決定などを行った.一方,心筋梗塞巣のような障害物の形状が不整脈に与える影響を調べ,自発的スパイラル形成のメカニズムを得た.また,電位の伝播に複数の障害物が与える影響についても調べた.
  251. ヒト血清中に存在する抗結核菌物質の同定と発病リスクとの相関解析 16K21044 2016-04-01 – 2018-03-31 若手研究(B) 大阪市立大学(2017) / 新潟大学(2016) ヒト血清が特異的に有する結核菌増殖抑制効果に着目し、新規の抗結核菌物質の同定を図った。ヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)またはウシ型結核菌弱毒株BCGを用いて検討した。ヒト血清中に存在し、タンパク質や核酸など多くの生体分子を内包するエキソソームに注目し検討を行ったが、エキソソームによる抗結核菌作用は認められなかった。また、血清の抗結核菌作用は、非働化により消失し、補体による影響を受けなかったため、血中の抗菌ペプチドの関与が疑われた。今後、さらなる解析により抗結核菌物質の同定を図る。
  252. 軽度~中等度OSAが睡眠時の短期血圧変動に及ぼす影響およびOAによる影響 16K20488 2016-04-01 – 2020-03-31 若手研究(B) 東京医科歯科大学 閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)は寝ている時に無呼吸や低呼吸を生じる病気です。この病気が睡眠時の短期血圧変動に及ぼす影響および口腔内装置による影響を本研究では解明することを試みました。
    現在OSAの重症度はポリソムノグラフィー(PSG)で診断され、一晩に20個以上のセンサーを装着します。これらのセンサーは患者を煩わせることが多く、患者の睡眠やOSAに影響を及ぼす可能性があります。本研究の過程で、患者のいびき音を分析してOSAの重症度を検出する方法を検討しました。今回同定したいびき音の特徴は、OSAの重症度を判定する可能性を秘めていました。この結果は論文として広く公開することができました。
  253. 36℃低体温法の心筋虚血再灌流障害保護作用:水素によるさらなるROSの制御 16K20383 2016-04-01 – 2020-03-31 若手研究(B) 浜松医科大学 ランゲンドルフ装置を用いた孤立心筋モデルを作成した。37℃で95%酸素濃度の灌流液で20分間の安定化後に、30分間の完全虚血にする。その後、温度を変化させて、再灌流を90分行った。孤立心筋の灌流液の温度を37℃から36℃と34℃に低下させ低体温法の、虚血再灌流に及ぼす影響を検討した。心筋梗塞サイズの変化の結果はコントロールグループは45.2%±13.9% 34度の低体温群では、10.9%±5.3% (p<0.001) 、36度低体温群では28.2%±9.5%(p<0.001)であった。これにより心筋梗塞のサイズは体温によって変化することがわかった。
  254. 3次元の心臓ストレイン解析法の開発と修正大血管転位の予後予測への応用 16K19860 2016-04-01 – 2021-03-31 若手研究(B) 九州大学(2017-2020) / 帝京大学(2016) 本研究の目的は、MRI、CT画像を用いた3次元の心臓ストレイン解析法を開発し、修正大血管転位の診断や予後の予測に有用な画像診断法を確立することであった。我々は、目的を達成するためのコンピュータ画像解析手法の開発と、それらの手法を応用した臨床研究に取り組んだ。
    その成果として、心臓の運動性を3次元的に解析する手法と、心臓の形態の複雑性を定量して心室リモデリングの診断に応用する手法とを特許出願した。また、それらの技術を応用した臨床研究はそれぞれ、European RadiologyとRadiology: Cardiothoracic Imagingに掲載された。
  255. 光音響イメージングによる腎組織酸素飽和度測定の腎障害予後のバイオマーカーへの応用 16K19813 2016-04-01 – 2019-03-31 若手研究(B) 金沢大学 欧米を中心に急速に普及しつつある新たなる画像診断機器として光音響画像がある。従来は被曝下の画像や造影剤の投与でしか評価不可能であった血流情報に起因する組織酸素化程度の画像化及び定量化を可能とした。腎臓は酸素を消費する臓器であり、従って一定の障害が生じると酸素が消費されないため組織酸素飽和度は増加すると考えられている。私は、腎臓虚血再灌流モデル(一旦、臓器虚血状態を生じさせ、一定時間後に解除する)を作成し、その虚血程度の時間の長さにより軽度及び重症虚血状態を生じさせたが、軽度虚血の場合には再灌流後早期に酸素化程度が上昇し、元に戻る一方で、重症ではその傾向が見られず遅れて酸素化上昇がみられた。
  256. 小児肥満リスク予測因子としての日齢0から3歳までの腸内細菌叢解析 16K19673 2016-04-01 – 2023-03-31 若手研究(B) 日本医科大学 日齢0から3歳時に至るまで出生コホート研究(身体計測・腸内細菌叢解析・血液検査等)を行った。腸内細菌叢後世に変化を与えうる項目として分娩方法・抗菌薬投与・栄養方法・家族歴も調査を行った。対象児102名、drop out症例は15例でありほぼ予定通りに検体を集めることができた。現時点で肥満を呈する対象者は7名で、腸内細菌叢解析を行った。COVID-19流行にともない、腸内細菌叢解析が予定より遅延したが、肥満群では非肥満群と比較し有意に腸内細菌叢の構成が異なっていることが示された。また、対象者のバックグラウンドとその後の経過に関する統計処理(多変量解析)を行っている。
  257. 冠動脈プラークの進展や不安定化における睡眠呼吸障害の関与を解明する 16K19431 2016-04-01 – 2019-03-31 若手研究(B) 順天堂大学 血管内超音波(IVUS)で得られた冠動脈プラーク(n=289)を詳細に解析したことで、睡眠呼吸障害(SDB)の合併が冠動脈疾患患者における責任病変の不安定性に関与していることを明らかにした。具体的には、プラークの不安定性指標であるエコー減衰角度がSDB合併患者で高値である傾向がみられた。SDB合併群のプラークにおいては減衰角度の中央値以上の割合が有意に高率であった(34.9% versus 22.6%; P=0.03)。多変量ロジスティック回帰分析においてもSDBの存在は有意な予測因子であった。従って、SDBの存在は冠動脈疾患患者におけるプラークの不安定性に関与している可能性が示唆された。
  258. miRNAを用いたコリン作動性心筋保護システム賦活化による虚血性心疾患の病態制御 16K19410 2016-04-01 – 2019-03-31 若手研究(B) 高知大学 本研究により、虚血性心疾患モデルの病態部においてAChEのスプライシングバリアントのひとつであるAChE-Rの発現が増加することが明らかとなった。加えて、心筋細胞におけるAChE-Rの機能解析を行った結果、AChE-Rの発現増加は虚血ストレス刺激に対する抵抗性の獲得を促し、細胞の生存率を上昇させることが見出された。これらの結果より、AChE-Rは虚血性心疾患における心筋保護機能があることが示唆され、AChE-Rを基軸とした新たな分子治療法の足掛かりになる可能性が示された。
  259. 循環器疾患におけるSDF-1αのバイオマーカーとしての臨床的有用性の検討 16K19395 2016-04-01 – 2019-03-31 若手研究(B) 山梨大学 Stromal cell-derived factor-1α(SDF-1α) は炎症性ケモカインの一つで、心血管病の病態に深くかかわっていることが報告されている。本研究は循環器疾患におけるSDF-1αの臨床的意義を明らかにすることを目的とした。その結果、①末梢血のSDF-1α値は心筋梗塞後の二次心血管イベントの予測因子になること、②アンギオテンシン受容体拮抗薬は心筋からのSDF-1αの産生を抑制すること、③腎不全進行の予測因子になることがわかった。SDF-1αは心血管病の臨床病態に深くかかわっており、新しいバイオマーカーになりうる可能性がある。
  260. 術後の急性心筋梗塞予防のための周術期心筋マーカーモニタリング用センサの創製 16K18112 2016-04-01 – 2018-03-31 若手研究(B) 東京医科歯科大学 本研究の目的は、手術後の主な死亡原因の一つである急性心筋梗塞を予防するために、光バイオセンサを利用した周術期血中心筋マーカーモニタリングシステムの要素技術を構築することであった。血中の心筋マーカー濃度を連続計測できれば急性心筋梗塞の予測・早期発見にむすびつくと考え、研究を進めてきた。28年度には繰り返し免疫測定が可能な光バイオセンサの構築を行うとともに、モデル実験によるセンサシステムの評価・改良を行った。29年度には、引き続きマウス、抗マウス抗体によるモデル実験を行い、装置の最適化や、システムの修正などを行うとともに、本センサによる繰り返し測定の可能性を検証した。
  261. 心電図伝送による心臓救急患者の救命救急法の開発 16K11397 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C) 信州大学 急性冠症候群の早期治療に有効な心電図伝送を普及・有効利用するために、メディカルコントロールを活用した。現場救急隊がオンラインメディカルコントロール医師に心電図伝送を行うことで地域全体の症例に対応する地域救急システムを構築し、その効果や問題点を検証した。
    その結果、当該医療圏内において伝送件数が増加した。また、ST上昇型心筋梗塞以外の超重症例の早期認識や、的確な指示による救急隊の救命処置にも貢献した。このシステムは国内各地域に導入可能なシステムに発展しうる。

  262. NCDとACS-NSQIPによる外科医療の質の国際比較 16K10437 2016-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(C) 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪急性期・総合医療センター(臨床研究支援センター)(2018-2019) / 福島県立医科大学(2016-2017) これまでわが国の消化器がん手術の質に関して国際比較がなされたことはなかった。
    本研究はNCDと米国のACS-NSQIPの2015年のデータをもちい、①肝切除及び膵頭十二指腸切除術における術前・術後合併症と術後死亡との関連性の有無、②NSQIPのriskcalculator の妥当性を検証し、がん医療の質向上にむけた方策を検討した。
    ①では術前より術後合併症が術後死亡に大きく関与すること、②ではrisk calculatorそのままでは予測が難しいが、一定の統計的介入を導入することにより予測能は改善することが明らかとなった。
  263. HIV感染者合併脳心血管疾患におけるvWFとADAMTS13の関与 16K09937 2016-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(C) 熊本大学 50歳以上のHIV感染患者の半数で、50歳未満の若年患者の約3人に1人に、動脈硬化性病変が認められ、von Willebrand因子(vWF)抗原高値が動脈硬化の危険因子であった。また、ADAMTS13抗原活性/ADAMTS13阻害因子活性比は動脈硬化のない患者は高値である傾向にあった。さらには、vWFマルチマー解析では、動脈硬化を有する患者は6~10量体以上のマルチマーの割合が増加しており、HIV感染患者での動脈硬化へのvWFとADAMTS13の関与を認めた。また、CD4数の最低値が200/μL未満の患者においてvWF抗原値が経過中に高値となり、病期進行と血管病変の関連性が示唆された。
  264. CCN2機能制御による慢性腎臓病の新規治療法の開発 16K09627 2016-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(C) 埼玉医科大学 慢性腎臓病は国内患者数1300万人の国民的な病気であるが、現在は特効薬が無く、食事療法で対応している。進行すると腎臓の働きが損なわれて透析(人工腎臓)治療が必要になる。さらに、腎臓の働きが悪いと動脈硬化が悪化して、心筋梗塞や脳梗塞の原因にもなる。この研究では、慢性腎臓病の治療薬を開発するために、まず、腎臓を悪くする因子の1つであるCCN2という物質に注目し、その機能を詳しく調べた。結果として、CCN2が腎臓の中の尿細管上皮細胞に働いて、その細胞の機能を病的な状態に変更することで、慢性腎臓病が進行することが解った。今回の研究を糸口に、腎臓の新薬の開発を進めることが可能となるだろう。
  265. 血清抗体を用いた睡眠時無呼吸症候群の脳・心血管イベント発症予測マーカーの同定 16K09528 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C) 千葉大学 本研究は,閉塞性無呼吸症候群(OSA)患者の血液検体を用いて動脈硬化疾患に関連した自己抗体の同定・解析を目的として研究を実施した.その中で,OSA患者の中で心血管疾患既往のある例に有意に上昇する2種の抗体を同定し英文誌に報告した.1つ目の抗体-抗COPE抗体に関しては,OSA患者の中で重症無呼吸,高血圧,肥満,心筋梗塞,脳梗塞既往のある例に高値を示すことを明らかにした.2つ目の抗体-抗NBL抗体に関しては,重症OSA患者及び心血管疾患既往(合併例)において,急性発症の急性冠症候群患者と同程度に抗体価が上昇していることが示された。
  266. mTORシグナル異常制御による心不全治療の開発 16K09505 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C) 札幌医科大学 慢性心不全症例の心筋生検組織を用いて、心不全症例では細胞増殖及び成長のmaster regulatorとして知られている哺乳類ラパマイシン標的蛋白質(mTOR)が恒常的に活性化していることを解明した。さらに、心筋細胞を用いた検討では、ネクロプトーシスシグナル活性化が心不全に対して保護的に働いているオートファジーを抑制すること、mTOR活性阻害薬はネクロプトーシスシグナルを抑制しオートファジーを回復させることが明らかとなった。mTOR活性阻害薬のこれらの効果は、RIP1の抑制的リン酸化を介していた。以上の結果から、mTORの恒常的活性化は心不全治療の新たな標的であると思われた。
  267. ATP産生増強による新規心不全治療法開発に向けた心筋エネルギー代謝調節機構解明 16K09501 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C) 大阪大学 心臓は莫大なエネルギー(ATP)を消費している。ATPはミトコンドリアにおける酸素を用いた酸化的リン酸化により産生される事が知られているが、心不全では相対的虚血によるエネルギー不全が関与している事が報告されている。我々が同定したミトコンドリアでのATP産生を活性化させるタンパク質G0s2に着目した新たな心不全治療開発に向けて、動物モデルを用いてG0s2が心機能改善に関与するかどうかを検討した。ゼブラフィッシュを用いたG0s2の強制発現系、および発現抑制系を用いた検討によりG0s2は低酸素に対する臓器機能保持に関与していることが示された。
  268. 腫瘍循環器データベースの構築と抗がん剤による心毒性の評価および分子機序の解明 16K09470 2016-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(C) 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(研究所) 腫瘍循環器学(onco-cardiology)という新しい学際領域において我が国の臨床データは不足している。本研究では、がん治療における心血管毒性の実態を明らかにするため、症例報告(Int Heart J, 2018, Intern Med 2019, J Cardiol Cases 2019, Intern Med 2020, SAGE Open Med 2020, J Cardiol Cases 2020)に加え、オシメルチニブ投与を受けた非小細胞肺がん患者の心血管有害事象についての後方視的観察研究をJACC: CardioOncology (2020: 2(1); 1-10)に発表した。
  269. 薬物負荷造影心筋血流CTによる定量的心筋血流量評価 16K09461 2016-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(C) 藤田医科大学 目的はATP負荷ダイナミック造影CTによる定量的心筋血流量の測定方法を検討することで、負荷時と安静時にダイナミック造影CTを行い、時間減衰曲線を得た。アップスロープ、ピーク直後のワンショット、クリアランスの三相からコンパートメントモデルを用いて心筋血流量を計算した。対象は全7例。アデノシン負荷タリウム心筋シンチも全例で行った。心筋を17セグメントに分割し、セグメント毎にCTから算出したMBFとシンチから求めた%uptakeを比較した。結論は、ATP負荷ダイナミック造影CTから算出した心筋血流量のうち、ワンショット、クリアランスから算出したものが、心筋シンチの%uptakeと良い相関を認めた。
  270. 心臓リモデリング抑制のための最適な抗炎症療法の検討 16K09453 2016-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(C) 順天堂大学 虚血性心疾患において、炎症と組織修復に関する因子がどのように関連しているのかを解明し、組織損傷および修復の最適な条件を示すことを目的とした。心筋梗塞モデルマウスにて心筋梗塞後の1-14日で心臓のどの部位にいつにそれぞれの因子が発現するかを観察したところ、炎症は主に1-2日に高く、幹細胞マーカーは7-14日でピークを示した。また梗塞周囲巣で最も発現が高かった。このマーカーの陽性細胞を心筋梗塞モデルに投与したところ、陽性群で心機能の回復と血管新生の増強効果が見られた。その他の血管新生因子や心筋転写因子は差異が大きいものの、多くは5日目以降であり、炎症の過剰発現が収束する時期と一致していた。
  271. OCT及びMRIを用いての急性冠症候群(ACS)におけるエクソソームの関与の検討 16K09450 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C) 大阪市立大学 急性冠症候群の原因としてはプラーク破裂とびらん以外にcalcified noduleが認められた。今回の我々の検討ではその程度は少なかった。心筋梗塞後の心機能、心臓リモデリングや心筋救済率が急性心筋梗塞患者の予後を規定すると考えられた。しかし来院から再灌流までに要する時間が心筋救済率とは必ずしもはっきりした関係は認められなかった。今回測定したエクソソームは細胞間コミュニケーションの重要な役割を担っていると考えて焦点を当てた解析を行ったが、心筋救済率が高い群と低い群ではエクソソームに関してはその群間では特に優位な変化は認められなかった。
  272. 慢性心不全における脳アンジオテンシン受容体による神経グリア連関異常の時空間的解析 16K09443 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C) 九州大学 心筋梗塞誘発心不全急性期から交感神経中枢(RVLM)・神経性入力部位(NTS)・液性因子入力部位(PVN)でアンジオテンシン受容体タイプ1(AT1R)が発現したアストロサイト・ミクログリアが持続的に増加し、NTS・RVLM両方であらかじめアストロサイト選択的AT1R阻害を行なっておくことにより心不全急性期の交感神経活動抑制・左室拡張末期圧低下を認めた。
    さらに、脳への神経性入力不全と過剰な液性入力はそれぞれNTS及びPVNから最終的にはRVLMのアストロサイトAT1R発現を過剰発現させることで交感神経過剰活性化から左室拡張末期圧上昇など心不全の血行動態を悪化させることが確認できた。

  273. 急性心筋梗塞患者におけるMuse細胞動員の動態と左室リモデリングへの関与 16K09427 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C) 岐阜大学 急性心筋梗塞を発症し、心筋に重篤な虚血性のダメージが出現すると、そのダメージをシグナルとして、内因性のMuse細胞は増加する。また、ダメージが大きい程、Muse細胞数は増加も大きく、Muse細胞の自己修復能力としての働きが示唆される。S1P濃度とMuse細胞数が正の相関関係を示しており、Muse細胞はS1Pのシグナルで増加する可能性がある。
    慢性期において、左室収縮能が悪化したり、左室リモデリングの進行を認める症例では急性期のMuse細胞の動員が少なかった。このような症例では,内因性のMuse細胞が十分動員できていない可能性があり,急性心筋梗塞に対するMuse細胞の再生療法の可能性が示された。
  274. 末梢血単核球膜型マトリックス分解酵素発現を用いた冠動脈イベントリスクの層別化 16K09426 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C) 福井大学 冠動脈病変の異なる病態におけるMT1-MMP発現を評価するため、急性心筋梗塞、不安定狭心症、陳旧性心筋梗塞、安定した労作性狭心症のそれぞれの患者において計測を行った。病態の違いにおける、MT1-MMP発現の違いも見られ、特に急性冠症候群とされる急性心筋梗塞、不安定狭心症の患者群では他の冠動脈疾患群と比較して有意に高い発現となっている。また、CTより得られるLow-HU値とMT1-MMP発現の間に急性冠症候群においては相関の傾向がみられている。イベント発症の誘因となる冠動脈プラークの不安定化とMT1-MMP発現の関与が強いことが導き出された。
  275. 左室収縮能が保持された心不全患者におけるアディポネクチンの病態生理学的意義の解明 16K09421 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C) 新潟大学 心不全はあらゆる心臓病の終末像であり、癌とともに最も予後不良な疾患群の一つである。しかしながら、心不全の病態生理はいまだに不明な点が多く、有効な治療法も確立されていない。そこで、本研究では、網羅的代謝物質解析技術(メタボロミクス)を用い、臨床的指標と比較検討することにより、心不全患者(特に、治療抵抗性患者)における代謝リモデリングの解明を目指す。その結果、心不全患者の血液検体のメタボローム解析や心筋生検サンプルを用いたトランスクリプトーム解析により、Mfn1が心不全治療反応性に関連する分子であることが明らかとなった。
  276. 難治性冠攣縮性狭心症患者における冠微小循環障害バイオマーカーに関する検討 16K09413 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C) 東北大学 本研究の成果は以下の2点が挙げられる。一つ目はこれまで長期予後を判断する指標が確立されていなかった冠攣縮性狭心症においてのRhoキナーゼ活性が長期予後新規バイオマーカーであることを同定したことである。二つ目は強力な血管収縮作動作用と血小板凝集作用を有する血管作動物質として古くから知られているセロトニンの血漿内濃度が、治療抵抗性を示すことが報告されている微小血管型狭心症の診断バイオマーカーであることを世界に先駆けて明らかにしたことである。
  277. タコツボ型心筋症の発症機構の解明―心筋微量元素とストレス蛋白発現の関連 16K09272 2016-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(C) 大阪保健医療大学 タコツボ型心筋症の発症機序は不明であるが、ストレスにより中枢神経から心臓交感神経に強い刺激が送られ、心臓に限局したカテコラミンの瞬間的な過剰放出が契機となるとされる。
    本研究では、カテコラミン投与ヒト培養心筋細胞において、質量分析法、世界最高性能を有する大型放射光施設 (SPring-8) X線蛍光分析装置等の利用により、ストレス蛋白発現ならびに微量元素動態の解明を進めた。その結果、カテコラミン投与により心筋細胞にストレス蛋白が過剰発現し、一部の必須微量元素動態が変化する事実を見出した。
  278. 冠動脈疾患患者におけるFrailtyと心血管事故の関連 16K09042 2016-04-01 – 2024-03-31 基盤研究(C) 順天堂大学 外来に通う高齢者のフレイルの有病率は、地域在住の一般の高齢者よりも高く、特に冠動脈疾患、心不全患者で高かった。フレイル群は非フレイル群に比べ高齢、低BMI、認知機能低下、骨粗鬆症、脳卒中/心筋梗塞/心不全/悪性腫瘍/糖尿病の既往歴が高かった。多変量解析を施行すると心不全や心筋梗塞がフレイルのリスク増加に関連していた。一方、心不全や心筋梗塞既往のフレイルは日常生活の活動度が高ければ、進展が抑制される傾向があった。
  279. 冠動脈硬化巣の血栓性リスクを反映する非侵襲的画像診断の開発 16K09019 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C) 宮崎大学 心筋梗塞では冠動脈の動脈硬化巣(プラーク)の血栓形成能が重要となるが、その血栓能を反映する画像指標は確立していない。本研究では,心筋梗塞の予測因子と報告されている冠動脈プラークMRI T1強調画像の高信号の成分の同定と血栓形成能の解明を目的とし、病理解剖により摘出された心臓を用いて検討した。T1強調画像の高信号は赤血球、平滑筋細胞、マトリックスプロテアーゼ9および血液凝固の開始因子である組織因子の増加が認められた。MRIを用いた冠動脈プラークを検出するT1WIの高信号は、プラーク内出血に関与し、プラークの安定性や血栓形成のリスクを評価する指標の確立への展開が期待される。
  280. 動脈硬化の早期発見に向けた新たな頸動脈エコー動画解析による動脈硬化度の定量 16K08965 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C) 岐阜大学 現在,患者の血管年齢の推定は心臓足首血管指数(CAVI)を用いて行っている.我々は,血圧変動に伴う頸動脈壁の動きをエコー動画に記録し,その画像解析から血管年齢を推定する新たな方法を開発した.臨床的に動脈硬化のリスクを評価できた患者を対象とし,CAVIと頸動脈エコーのそれぞれから血管年齢を求めた.CAVIと頸動脈エコーからそれぞれ推定した血管年齢の間には弱い相関が認められた.実年齢との差は,CAVIより頸動脈エコーから推定した血管年齢の方が小さかった.一方,動脈硬化高リスク患者に対するそれぞれの検査での正確度に関しては,CAVIより頸動脈エコーの方がやや劣っていた.
  281. 疾病別社会的負担推計による地域医療構想の効果測定に関する研究 16K08886 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C) 東邦大学 本研究は、医療計画の中で取り上げられる5疾病を中心として、各疾病の社会的負担をCOI法を用いて都道府県別に推計した。COIは、社会における疾病負担を貨幣タームで示す代表的な方法で、直接費用、罹病費用、死亡費用から構成される。算出にあたり、割引率は3%とし、推計対象年は2014年とした。
    胃、大腸、肺の各がんについて都道府県別の人口当たりのCOIをみると、平均で胃がん7,400円、大腸がん9,600円、肺がん10,000円と肺がんが最も高かった。また、脳血管疾患では、全国の人口当たりCOIは平均28,540±5,365円であり、虚血性心疾患では、11,439±3,048円であった。
  282. 不安定プラークに関わる内膜平滑筋細胞の未熟性の解明 16K08675 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C) 東京医科大学 我々が提示した、プラーク不安定化の指標としての、動脈内膜h-Caldesmon/α-SMA比率の低下が、血管内膜平滑筋の未熟性を意味することを、未熟奇形腫のグレード進展と奇形腫内血管におけるこの比率の低下が相関することから示した。また、剖検例で急性心筋梗塞が疑われた場合にはこの比率の低下が認められることを報告した。高安大動脈炎の時相進展とともにこの比率が低下することから、この比率は、時間経過によって変動することが示唆された。
  283. 糖尿病の的確医療を実現する治療効果・心血管リスク予測法と新規治療法の開発 16K01838 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C) 東京医科大学 当院に通院する生活習慣病の患者からDNAを抽出し次世代シークエンサーでDNA解析を行ったところ単一遺伝子病としての脂質異常症の原因遺伝子であるPCSK9やLDLR遺伝子の多型を一定の割合で認め、生活習慣病においてもこれらの遺伝素因が心血管リスクと関連し、残余リスクの少なくとも一部を説明していることが示唆された。また、エクソーム解析により心血管疾患との関連性や変異自体の報告がない遺伝子変異を保持する症例を認め、機能解析で遺伝子産物の酵素活性の低下を確認した。
  284. 体質と環境のミスマッチが生じる糖尿病発症の機構解明による先制医療の実現 16K01834 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C) 順天堂大学 低出生体重児は体質と環境のミスマッチにより、成人になってからメタボリック症候群のみならず、耐糖能異常・高血圧・心疾患・精神疾患などの非感染性慢性疾患 (NCDs) 発症リスクが高まる事が知られている(DOHaD説)。
    しかしながら、低出生体重児がなぜこのような疾患発症リスクを負うのか、そのメカニズムについては明らかになっていない。そこで、この体質と環境のミスマッチにより生じるNCDs発症リスク因子を同定する為、低出生体重仔と標準出生体重仔ラットモデルに高脂肪食を負荷し、糖尿病に関係する代謝物変化の解析を行った。その結果、低出生体重仔において糖尿病に起因するリスク代謝物候補を見つける事ができた。

  285. iPlaqueを用いた頸動脈プラークの性状評価による動脈硬化疾患の予後予測 16K01412 2016-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(C) 徳島大学 頸動脈エコー検査で観察することができる頸動脈プラークの性状が,脳梗塞や心筋梗塞の発症と関連する可能性がある.研究代表者のグループは頸動脈プラークの超音波性状を定量化することができるソフトウェアiPlaqueを開発し,その臨床応用を試みた.
    脳梗塞患者における検討では,無症候性例と比較して有症候性例においてプラークに占める脂質領域の面積が大きい傾向があった.
    動脈硬化リスクをもつ生活習慣病患者において,iPlaqueを用いて定量化した頸動脈プラークの超音波性状が将来のイベント発症を予測できるかどうかの検討については,解析の途中であり後日報告する.

  286. 細胞外マトリックス分解産物tumstatinの心疾患における役割解明と臨床応用 16J07684 2016-04-22 – 2019-03-31 特別研究員奨励費 北里大学 細胞外マトリックス(extracellular matrix, ECM)は細胞の周囲に存在しており、組織の構造支持体として働く。虚血性心疾患に伴う低酸素・低栄養ストレスや高血圧症による持続的な圧過負荷ストレスによって、ECMの産生と分解を伴う心リモデリングが引き起こされる。近年、ECMの分解により産生されるmatricryptinsが心臓において様々な生理活性を示すことが明らかになってきた。そこで申請者は「細胞外マトリックス分解産物tumstatinの心疾患における役割解明と臨床応用」というテーマで研究を進めてきた。平成29年度までに、①tumstatin活性断片であるT3 peptideが活性酸素種誘導性H9c2心筋芽細胞死を抑制すること(Eur. J. Pharmacol. 2017)、②T3 peptideが心線維芽細胞の増殖・遊走能を亢進すること(Naunyn-Schmiedeberg’s Arch. Pharmacol. 2017)を明らかにした。また③T3 peptideがH9c2心筋芽細胞(in vitro)とラット摘出心臓標本(ex vivo)両方で虚血再灌流障害を改善する可能性が示唆される結果を得た。
    本年度は昨年度から継続して③の課題について、in vitroの培養条件を一部変更して、心筋虚血再灌流障害モデルに対するT3 peptideの保護作用の更なる詳細を検討した。その結果、T3 peptideは虚血再灌流障害に対してミトコンドリア由来ROS産生の阻害を介して心筋保護作用を示すことが明らかとなり、その保護作用を介して心機能の維持だけでなく抗不整脈作用を示す可能性が示唆された。これらの結果をまとめて学術誌に公表し、また学会でも発表した。
    本研究により、tumstatinが心保護作用を持つ可能性が提示された。今後の更なる研究の進展が期待される。 平成30年度が最終年度であるため、記入しない。 平成30年度が最終年度であるため、記入しない。

  287. 医療ビッグデータ活用による心血管プレシジョン医療の実現 16H07500 2016-08-26 – 2018-03-31 研究活動スタート支援 国立研究開発法人国立循環器病研究センター 本研究の目的は、(1)電子カルテに含まれる莫大な診療情報1つ1つを「データ」として捉え、診療録、オーダリングシステム、画像システム等さまざまなシステムを超えて、それらを自動的に抽出し、大規模なデータベースを構築すること、そして、(2)機械学習を用いて分析することにより、循環器疾患の新しい分類体系を確立し、精緻な心血管疾患の予後予測を行うことである。平成28年度は、(1)を計画しており、下記の通り実施した。
    2012年以降当院心臓血管内科へ入院した全患者を対象とし、電子カルテ内のあらゆる診療情報、検査データ、生理機能検査データ、カテーテル検査データ等を、データウェハウスへ自動的に抽出することを可能にした。次に、米国心臓病学会で用いられている循環器疾患全般のレジストリ項目(全226項目)を自動抽出するシステムを開発した。わが国の特性や医療制度等による違いを加味した上で、項目の電子カルテからの自動抽出可否を検討し、約7割の自動抽出が可能であった。1入院を1レコードとして、患者毎に一次データベースを構築した。抽出の妥当性に関しては、院内の各種レジストリデータをもとに、心筋梗塞患者に関し検証したところ、98%一致した。心筋梗塞患者として抽出できなかった例は、心停止による来院患者において、その原因疾患が心筋梗塞が疑われると後に判明した場合、病名入力がなされていないため等の理由であった。その後、統一的データクレンジングによりデータエラーの検出を行い、データベースを構築した。
    本データベース構築後、機械学習を用いた“phenomapping” 解析による新たな分類体系と予測モデルの開発を開始している。 翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。 翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
  288. 死因究明における死後MRI検査の有用性の検討 16H06242 2016-04-01 – 2021-03-31 若手研究(A) 東京大学 法医解剖前に死後MRIを撮影し、頭部・頸部・胸部を中心として, 複数のシークエンスを撮像し、死後CT所見及び解剖所見と対比を行った。その結果、死後MRIでは総じて脳・頸髄・肺動脈・心臓といった領域において、これまで死後CTでは指摘困難と考えられてきた病変/損傷を拾い上げることができた。特にこれまでに検討されて来なかった、 3D系、グラディエントエコー系のシークエンスにより診断可能な領域が広がることが確認された。今後さらに検討・報告を行い, 死後MRIを加えた死後画像診断を応用した死因究明の改善を目指していく予定である。
  289. Flt-1系を介する心腎連関分子機序の解明:新規LncRNAの関与 16H05301 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(B) 奈良県立医科大学 心腎連関の分子機序は十分に理解されていない。本研究では、慢性腎臓病では胎盤由来増殖因子(PLGF)の産生が増加し、PLGFの内因拮抗物質であるPLGF特異的受容体(Flt-1)の可溶性アイソフォームであるsFlt-1の産生が低下することにより、PLGF/Flt-1系が活性化していることを証明した。その結果その下流に存在するMCP-1の活性化が心不全発症に関係していること、また、Flt-1下流でMEKに直接結合し、MEK活性を抑制する新規のLnc RNAXを同定し、それが心肥大や心不全の発症に関係していることを発見した。これらの分子は心腎連関の分子機序に関与し、創薬の対象となる可能性を示した。
  290. 心筋梗塞やがんなどへのDNase familyの病態遺伝・生理学的関与の解明 16H05272 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(B) 福井大学 (1) DNASE1に合計42個の活性喪失型となるgenetic variantsを同定した。これらはin vivo酵素活性レベルを減弱させるものであり、自己免疫疾患等のリスクファクターになる。
    (2) 関節リウマチに係るDNase 1-like 3及びDNase II遺伝子に活性喪失型を産生する、それぞれ4及び5個の非同義置換型SNPsを同定した。
    (3)皮膚角化に関与するDNase 1-like 2遺伝子に活性消失を惹起する32 個の非同義置換型SNPs、19個のnonsense型及びframeshift 変異を同定し、これらは尋常性疥癬などに見られる不全角化のリスクファクターになる。
  291. 現代の後期高齢者における循環器疾患リスク要因の検証 16H05263 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(B) 帝京大学 全国33コホートの大規模研究「日本動脈硬化縦断研究 (JALS)」で長期追跡されている高齢者を対象に、ベースライン調査で測定した各種危険因子および問診項目と総死亡、循環器疾患 発症・死亡 (脳卒中、心筋梗塞)との関連を性・年代別(中高年(65歳未満)、前期高齢者、後期高齢者)に検討した。これらをもとに発症・死亡の予測に有用な測定項目・問診項目を明らかにし、リスクスコア算出のためのモデル化を行った。加えて、高齢者における心房細動について詳細な分析を行い、心房細動の存在が脳梗塞のみならず脳出血発症リスクの有意な増大と関連していることを明らかにした。
  292. 勤労者における心血管疾患及び重大疾病群のリスクスコアの開発 16H05251 2016-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(B) 国立研究開発法人国立国際医療研究センター 労働者における死亡や長期疾病休業といった重大な健康障害の予防のため、職域多施設研究で収集された健康管理情報に基づく疫学データベースを使用して、1)心血管疾患の発症、2)「重大疾病群」(在職死亡及び30日以上の休業に至った疾病)の発生、3)糖尿病発症に関するリスク予測モデルを開発し、その精度を評価した。糖尿病と心血管疾患は比較的高い予測精度であったが、重大疾病群の予測精度は中等度であった。これらのリスク予測ツールは、労働者に予防行動を促す動機付け支援として活用できるほか、ハイリスク者を同定することで保健医療資源の効果的・効率的な投入に役立てることができよう。
  293. 救急搬送及び入院治療データの分析による救急医療システムの検討 16H05247 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(B) 九州大学 今後、わが国では高齢化が進み、救急搬送から治療までを含む救急医療サービス需要の一層の増加が予想される。そこで、本研究では、効率的な救急医療システムの構築に資する知見を獲得する目的で、救急搬送および入院治療データを用い、迅速・適切な救急搬送システム、および、効果的な治療法の検討を行った。救急搬送を要する疾患の予後は搬送時間と入院後の治療の影響を受ける。しかし、高度な治療が行える医療施設は限られており、搬送時間と高度な入院治療はトレードオフの関係になっている。本研究では急性疾患のデータを用い、救急搬送時間、病院到着までの効果的な処置等について包括的に検討し、実務的に意義のある知見が得られた。
  294. 冠動脈疾患の診療適格化:循環器領域でのPrecision Medicineの実践 16H05215 2016-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(B) 慶應義塾大学 本研究の目標は、循環器分野における Precision Medicine (精密医療)を実践し、大規模データベースの発展的な活用を行うことである。具体的には施設レベルでの診療実態や治療成績のベンチマーキングを行い、さらに主要な治療手技である冠動脈インターベンション(PCI)の潜在的リスクとされる出血・腎障害の予測モデルの構築や検証を行い、個別化されたリスクの提示を行っていく。現在、① 患者背景、② 冠動脈血管造影や PCI の術中情報、③ 院内予後・合併症、さらに ④ 退院後長期予後の収集を継続的に実施している。主要な院内予後に関するリスク補正式の現場活用への検討も行われている。
  295. 病理組織学、網羅的代謝解析、レオロジーを融合したアテローム血栓症の発症機序の解明 16H05163 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(B) 宮崎大学 アテローム血栓症の発症機序の解明を目的として、プラーク破綻と血栓の形成・増大機序について、病理形態学・代謝系変動・レオロジーの観点から検討を行った。
    閉塞性血栓は非閉塞性に比して、フィブリンの占める割合が優位に高く、凝固系の寄与が大きいことから、組織因子の発現促進因子を検討し、炎症性サイトカイン、低酸素、およびキヌレニンの関与を明らかにした。また急性心筋梗塞症例の約6割はプラーク破綻から数日経過した血栓の器質化像が存在することを見出し、プラーク破綻部における血栓の増大機序の重要性を示した。併せて血栓能の高いプラークの画像イメージングを試み、核医学・MRIによるプラーク評価を進めた。
  296. 心臓リハビリテーションによる骨髄老化への有効性の検証 16H03206 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(B) 昭和大学 本研究は、急性心筋梗塞後における運動耐容能に焦点をあて、バイオマーカーとしてmicroRNA(miR)に着目し、その関連性を検討した。網羅的small RNA解析・定量的RT―PCR解析により、急性心筋梗塞の急性期経過中に大きな変動を示す一群のmiRを同定した。その中で、免疫老化関連miRであるmiR-181cが、急性心筋梗塞例の運動耐容能・換気効率と統計学的に相関することが明らかになった。また、心臓リハビリテーションにおける換気効率の改善効果とも関連していた。
  297. 24時間尿分析でタンパク質摂取量を知る テーラーメードの生涯食育でロコモ予防 16H03049 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(B) 武庫川女子大学 日本人の蛋白質摂取の実態を調べ、24時間尿の国際比較で、魚・大豆蛋白質の摂取量のバイオマーカー、タウリンとイソフラボンが多いのが日本人の心臓死を先進国中最低としているが、食塩摂取が多い為、高血圧、脳卒中によるロコモの原因でもある事を明らかにした。
    大豆・魚の摂取は葉酸、マグネシウムの増加で認知症予防に、大豆摂取はインスリン抵抗性抑制で糖尿病予防、骨粗鬆症の予防に寄与する。従って24時間尿で食塩やその害を抑えるカリウム、マグネシウム、更にタウリン・イソフラボンを分析し、生涯食育で大豆・魚・野菜・海藻など、適塩和食の摂取を勧めれば、ロコモや認知症も少ない健康長寿が可能である。
  298. 動脈硬化診断支援システムの実用化最終段階に向けた実証研究 16H02875 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(B) 山口大学 心筋梗塞はプラークと呼ばれる冠動脈内の蓄積物が破綻することにより引き起こされる.プラークの破綻を予測するためには,プラークの組織性状(組織成分)を正確に特定する必要がある.冠動脈内にカテーテルを挿入し,カテーテルの先端に装着された超音波プローブから得られた信号を各種ソフトコンピューティング手法を用いて解析し,プラークの組織性状を判別,その後,その構造を表示する動脈硬化診断支援システムを開発し,その有効性を多くの実データを用いて実証した.
  299. 超高齢社会の医療介護における地域格差の構造と資源制約下の持続可能なシステム最適化 16H02634 2016-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(A) 京都大学
    持続可能な医療介護提供システム構築に資するべく以下を行った。健康、医療、介護の大規模データベースとその連結データも活用し、医療・介護の質、効率・費用、健康寿命(平均自立期間)など各側面のばらつきを可視化し、要因構造の解明を行った。また、高額医療費や薬剤耐性政策の国際比較を行い、認知症の発症予測モデルや居住形態別社会的コストを明らかにした。
    さらに、地域格差に焦点をあて、二次医療圏毎の医療の質を急性心筋梗塞、脳梗塞等で定量化し評価体系の構築を進めた。全国の各地域での医療資源配備の傾向を解析し、地域間・診療科間格差の拡大傾向とその将来予測を示した。

  300. 心不全フレイルの診断基準開発を目的とする前向きコホート研究 16H01862 2016-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(A) 名古屋大学 生理学的予備能の低下で特徴づけられるフレイルは心不全の予後因子であり、心臓リハビリテーションの主要なターゲットとして認識されるようになった。そこで本研究では、多施設前向きコホート研究により、心不全のアウトカムに基づいたフレイルの診断基準を開発することを目的とした。
    広く用いられているフレイル項目(歩行速度低下、握力低下、易疲労性、身体不活動、体重減少)を量的に測定し、アウトカムである心不全再入院・全死亡との関連を分析した。その結果、アウトカムとの関連の強さは指標間で異なることが明らかとなり、フレイル項目の該当数に基づく従来型の判定方法ではなく、各指標の重みを考慮したフレイル基準の開発に至った。
  301. 自己組織化による生きた細胞立体構造物“セルカプセル”の開発と心筋再生治療への応用 15K21693 2015-04-01 – 2017-03-31 若手研究(B) 岡山理科大学(2016) / 国立研究開発法人国立循環器病研究センター(2015) 本研究では、我々が開発した細胞の自己組織化を誘導する培養皿に細胞を播種するだけで異なる種類の細胞が核と被膜(コアシェル構造)を持って棲み分けられた細胞凝集塊を“セルカプセル”として作製することに成功した。セルカプセルを実験動物の体内(腹部大動脈表面)に移植すると良好に生着して、3週間後には核細胞が被膜細胞から侵出して組織を再構築し得ることが分かった。核細胞として心筋細胞を、被膜細胞として心筋保護作用や抗炎部位への遊走能力のある間葉系幹細胞を用いた心筋/間葉系幹細胞のセルカプセルの心筋梗塞部位への移植による能動的かつ高効率な心筋再生が期待される。
  302. 敗血症環境におけるNecroptosisを中心としたHMGB1の主導的役割の解明 15K20347 2015-04-01 – 2018-03-31 若手研究(B) 熊本大学 ストレス高血糖とHMGB1との関連性を解明し新たな敗血症治療戦略を検討する目的で研究計画に至った。
    急性心筋梗塞症例においてBG/HbA1c 40以上の群で予後が悪く、BG/A1cがストレス高血糖の指標となる可能性を示した。この結果を踏まえ、感染症症例におけるBG/A1cとHNGB1の予後に関する検討を行った。HMGB1値と入院期間との間に有意差を認め、感染症重症化の早期診断マーカーとしての可能性を認めた。尚、一部の症例でメタボローム解析を行った結果、生体侵襲の差により活性が上昇する代謝経路が異なる可能性が示唆された。敗血症領域でもメタボローム解析を用いた研究が進んでいくものと思われる。
  303. 心不全における呼気低分子化合物の意義 15K19401 2015-04-01 – 2018-03-31 若手研究(B) 福島県立医科大学(2016-2017) / 国立研究開発法人国立循環器病研究センター(2015) 呼気検査の心不全患者における有用性について検討した。非虚血性心不全患者102名を対象として、呼気中のアセトン濃度を測定した。その結果、呼気アセトン濃度が右心カテーテル検査における血行動態と関連していた。また、35名の心不全のある糖尿病患者と20名の心不全のない糖尿病患者の呼気アセトン濃度を比較したところ、糖尿病患者においても心不全で呼気アセトン濃度が上昇していることが分かった。さらに急性心不全においても、呼気アセトン濃度が治療後に低下することを示した。心不全に対する呼気低分子化合物の中でも、呼気アセトン濃度が有用な非侵襲的バイオマーカーとなる可能性が示唆された。
  304. 血栓性動脈硬化の経時的変化と臨床への影響について 15K19393 2015-04-01 – 2018-03-31 若手研究(B) 和歌山県立医科大学 心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患は急性発症も多く、再発リスクも高いため、発症予測が重要である。発症予測に対してさまざまな検討がなされてきた中、我々は、一般的な発症リスクとされる脂質プラークではなく、無症候性血栓症に引き続きおこる治癒血栓について検討を行った。血栓は血管内腔側に付着し治癒するため、治癒血栓は層構造をなす。剖検の冠動脈において治癒血栓と考えられる層構造をシリウスレッド染色で同定したところ、狭窄病変の約3割に治癒血栓を認め、光干渉断層像(OCT)で高い検出力を示した。本研究により、今後は臨床的、経時的に治癒血栓を検討することが可能になり、発症予測に繋がると考えられる。
  305. 口腔と全身の関係によるプロフェッショナリズムの臨床教育開発研究 15K15780 2015-04-01 – 2019-03-31 挑戦的萌芽研究 福岡歯科大学 全国より抽出した開業歯科医師において「医学を学習する意欲」の高い者ほど「職業に対する満足度」の高いことが判明した。次に、短時間で実施できる「医学知識の必要性を示す講話と実習のモデル」を開発し、本学4・5年生の一部にそれぞれを試行したところ、両者とも9割弱の学生がさらなる医学知識の必要性を認めた。最後に、本学を除く国内28の歯学部の教務担当責任者に「現状の医学教育をさらに拡充する」場合の障壁を聞いたところ、教育時間の確保が難しいこと等が判明した。本研究で開発した短時間で実施できる「医学知識の必要性を示す講話と実習のモデル」は歯学部における医学教育の効率的な実施の一例になるものと思われた。
  306. サイクロフィリンA受容体を介した新規凝固薬の多面的作用の分子機序の解明 15K15046 2015-04-01 – 2017-03-31 挑戦的萌芽研究 東北大学 新規抗凝固薬 (DOACs) によるサイクロフィリンA (CyPA) とその受容体Basiginの阻害作用を介した多面的作用の可能性について基礎的・臨床的な観点で検討を進めている。これまで全く知られていなかった、CyPA-Basigin系の著明な炎症促進作用や心血管疾患促進機構における重要性が判明し、学会発表や論文報告準備を進めている。DOACsの全く新しい薬理作用の可能性について、非常に興味深い知見が得られつつある。以上の最新の研究成果を、国内外の学会やシンポジウムで報告した(日本循環器学会総会シンポジウム、米国心臓病学会議、欧州心臓学会議)。引き続き、機序の解明を進めていく。
  307. 看護師の臨床的想像力の育成支援プログラムの開発 15K11533 2015-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C) 京都橘大学 本研究の目的は、臨床看護師の臨床的想像力の実際を明らかにすることである。データ産出は事例想起で、「提示した事例に遭遇した場合に何を想像し、どのように行動するか」について、事例を読み進めながら、半構造的インタビューを行った。研究参加者は、臨床看護師女性16名、男性4名であった。
    想像したことについて、7つの領域<血圧低下の原因><患者の病態悪化><患者の状況への対応><医師の認識への疑問><他者と患者の情報を共有する必要性><患者の生活の改善の必要性><患者の状態回復への見通し>が明らかになった。
    経験年数による特徴および想像力に影響を及ぼした経験や事柄について明らかになった。
  308. テストステロンによる虚血性心脈管障害の増悪機構の解明 15K10644 2015-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C) 金城学院大学(2018) / 琉球大学(2015-2017) テストステロンは、心血管保護作用を有することが知られているが、近年、虚血性心疾患を増悪するという臨床報告が相次いでいる。この機序の解明のため、我々は生体内の一酸化窒素合成酵素を完全欠損した心筋梗塞発症モデルマウスを用いた実験を行い、テストステロンが、血管収縮増強を介して血圧を上昇させ、糖や脂質の代謝を促進するアディポネクチンを減少させ、血中脂質や血糖値を増加させることにより、心筋梗塞を伴う死亡を招くことを見出した。本研究により、テストステロンによる虚血性心疾患の増悪作用には、生体内の一酸化窒素量の低下が一つの要因となる可能性が示唆された。
  309. 重症心不全のreverse remodelingの特異的バイオマーカーの探索 15K10213 2015-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C) 国際医療福祉大学(2016-2018) / 大阪大学(2015) 補助人工心臓(LVAD)を装着した拡張型心筋症患者においてメタボロミクスによる代謝産物の変動を解析した。患者は健常人に比べてエネルギー代謝産物、およびコラーゲン代謝産物が増加しており、これらはLVAD装着による心負荷軽減で正常化した。一方で男性ホルモンの代謝産物や鬱病のマーカーは低下しており、これらはLVAD後も軽減しなかった。以上より、治療介入でエネルギー代謝やミトコンドリア機能が正常化する事が新たに示された。
  310. 地域一般住民において慢性腎臓病と脂質異常症が心血管病発症に及ぼす影響:久山町研究 15K09267 2015-04-01 – 2018-03-31 基盤研究(C) 九州大学 福岡県久山町の一般住民を対象とした疫学研究(久山町研究)の成績を用いて、CKDの有無別に脂質異常が心血管病発症に及ぼす影響を検討した。1988年の循環器健診を受診した40歳以上の男女2630名を19年間追跡した成績をみると、non HDL-C上昇はCHDの有意な危険因子であり、non HDL-Cの評価はCKD患者のCHD発症を予測する上で重要であることが明らかになった。直ちにこの研究内容を論文化し、2017年に英文専門誌に掲載された。
    (Usui T, Nagata M, Hata J,et al. J Atheroscler Thromb, 2017.24:705-716)
  311. HDLの質は心血管病の治療ターゲットとして有望か? 15K09130 2015-04-01 – 2018-03-31 基盤研究(C) 国立研究開発法人国立循環器病研究センター 高比重リポタンパクコレステロール(HDL-C)は善玉コレステロールと呼ばれてきたが、単純にHDL-C量を増加させることでは心臓病を予防できない。そこでHDLの研究は量(HDL-C値)から質(HDL機能とその規定因子)にパラダイムシフトした。我々はHDL機能として細胞からのコレステロール引き抜き能と抗酸化能の測定法を確立し、高率に冠動脈疾患を発症する家族性高コレステロール血症患者および吹田研究に参加した一般住民において動脈硬化性疾患の予測因子としてHDL機能がHDL-C値よりも有用であることを明らかにした。今後はHDL機能規定因子を探索し、新たなバイオマーカーの開発や創薬を目指したい。
  312. 急性冠症候群の予測のための冠動脈プラークの力学的ストレス解析超音波装置の開発 15K09119 2015-04-01 – 2018-03-31 基盤研究(C) 岐阜大学 最近、時間とともに変化する局所の組織の位置を追跡することが可能となるスペックル・トラッキング・エコー技術が開発された。これはこれまで、左心室の動きを自動的にトラッキングすることにより、左心室機能の評価に応用されていた。そこで、スペッキング・トラッキング技術を冠動脈超音波に応用する技術を開発すれば、冠動脈のプラークに加わる力学的ストレスの評価が可能となり、プラークの組織性状診断と組み合わせれば、急性冠症候群の発症の予測と予防に向けた取り組みが革新的に前進すると考えた。この研究では冠動脈の心周期における力学的ストレス(辺縁の動きの量や速度、ストレイン)を定量化して表示する方法が確立できた。
  313. 高磁場核磁気共鳴法とポジトロン断層法を用いた冠動脈プラークの定量的画像診断の構築 15K09114 2015-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C) 国立研究開発法人国立循環器病研究センター ハイリスクプラーク描出に最適な非造影T1強調法の撮像パラメーターの標準化を目的として、冠動脈高信号プラーク(HIP)描出標準撮像プロトコルを作成した。さらに、冠動脈HIPを有する虚血性心疾患患者を対象に、中性脂肪を低下させるEPA/DHA製剤である(オメガ-3脂肪エチル)を服用させることによってHIPの信号強度が変化するかを観察する前向き薬剤介入研究を終了し2019年に成果発表予定である。また、冠動脈HIPの病理学的特徴を明らかにするためにヒト剖検心を用いたMRIと組織標本との対比を行い、冠動脈HIPは粥腫内出血であることが判明した。
  314. 心筋症症例における血清FGF23・α-Klothoと心リモデリングの関連について 15K09106 2015-04-01 – 2018-03-31 基盤研究(C) 大阪医科大学 循環器内科に入院した患者885例を対象に血清FGF23・α-Klothoの測定を行った。心筋症症例は49例で、FGF23は有意に上昇していた。特定の心筋症で血清FGF23の有意な増加は認めず、心筋症の種類によるFGF23上昇に差異はないと考えられた。急性心筋梗塞患者では、FGF23値は第1-3病日には来院時に比べ有意に低下し、第5-7病日には有意に上昇していることが判明した。心筋梗塞急性期のFGF23上昇率と慢性期における左室駆出率とは有意な負の相関が認められ、FGF23が心臓リモデリングの指標になる可能性が示唆された。今後の心臓リモデリング予防の治療ターゲットになることを期待する。
  315. 神奈川循環器救急レジストリーの構築―急性重症心筋梗塞の予後改善へ向けての対策― 15K09101 2015-04-01 – 2018-03-31 基盤研究(C) 昭和大学 神奈川循環器救急レジストリー(K-ACTIVE)において急性心筋梗塞(AMI)診療の実態を明らかにし治療成績向上のため本研究を行った。
    2015.10月から約3200例のAMI症例を登録した。受診形態では、救急隊によるカテーテル可能な病院への直接搬送ではなく、他院からの転院搬送例が21%も認められた。病院前12誘導心電図 (PH12ECG)の有無では、記録群がFirst medical contact to Door time等が有意に短かく、PH12ECG記録の重要性が明らかとなった。今後のAMI治療成績向上のためには、救急隊によるPH12ECG記録並びに直接搬送が重要である。

  316. 冠動脈粥腫不安定化とPCI後再狭窄におけるmiRNAおよびスルファチドの検討 15K09094 2015-04-01 – 2018-03-31 基盤研究(C) 獨協医科大学 本研究において、一部の狭心症患者ではステントを用いないバルーンのみによるカテーテル治療(ステントレスPCI)が薬剤溶出ステントを用いる治療と同等の成績であることが示された。
    ステントレスPCIでは、ステントが残存しないことによりステント血栓症やステント周囲に出現する新たな病変が予防される。そのため安全に抗血栓療法が減量可能となり、出血や心筋梗塞が同時に予防されることにより長期予後改善が期待される。
    加えて、手術の際も安全に抗血栓療法が中断可能となり、出血を中心とした術後合併症の予防にも貢献しうると考える。さらに、冠動脈バイパス術が必要となった場合もステントが手術の障害になるという事態も回避できる。
  317. 三次元右室分割モデルを用いた三次元的右室部位別心機能評価のための新手法の開発 15K09092 2015-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C) 奈良県立医科大学 本研究では、複雑な三次元的構造を有するために従来から詳細な心機能の評価が困難であった右室に関して、三次元右室分割モデルを用いた従来にはない右室部位別心機能評価法を確立し、この評価法を用いて肺高血圧による右室局所機能への影響を解明することを目的とする。まずは、三次元心エコー図を基に、各時相毎の三次元右室分割モデルを作成し、このモデルを用いた右室部位別心機能評価手法を確立した。次に、この手法を用いて肺高血圧症例の右室局所心機能を部位別に詳細に検討し、肺高血圧症の重症度と右室局所心機能との関連、肺高血圧症の原疾患による右室局所心機能の差異、さらに右室局所心機能と予後との関連について検討した。
  318. 循環器疾患における新規血栓形成能測定システムを用いた至適抗血栓療法の確立 15K09089 2015-04-01 – 2018-03-31 基盤研究(C) 熊本大学 冠動脈疾患患者372症例の血栓形成能をT-TASを用いて評価した。血小板機能の指標であるPL-AUC値を測定すると、抗血小板薬非服用群に比べて、抗血小板薬単剤群と二剤併用群ではPL-AUC値が段階的に低下し、抗血小板薬の相加的な効果を証明できた。次に、心房細動に対する高周波カテーテルアブレ-ション(CA)施行例に対しては、CA前、3日後、1ヶ月後にT-TAS値(AR-AUC)を測定し、同様に周術期出血性合併症との関連性を評価した。その結果、CA周術期の出血性合併症に関しても、T-TAS値は有意に相関しており、CA手技による出血性合併症を予測できる可能性が示唆された。
  319. α-Klothoの冠動脈プラーク組織性状評価における役割と臨床的意義の解明 15K09087 2015-04-01 – 2018-03-31 基盤研究(C) 長崎大学 本研究では、血中可溶性α-Klothoが冠動脈プラークの石灰化量を反映するバイオマーカーになり得るかを調べた。そのために、血清α-Klotho値と血管内超音波で測定したcalcium indexの関係を検討した。その結果、血清α-Klothoとcalcium indexの間には非常に強い逆相関関係があることが判明し、多変量解析で交絡因子の影響を補正しても、血清α-Klothはcalcium indexの有意な独立予測因子でああった。以上から、本研究によって、血清α-Klothoは冠動脈プラーク内の石灰化量を反映する有用なバイオマーカーとして日常臨床に応用可能であることが明らかになった。
  320. ミトコンドリア酵素ALDH2遺伝子変異と心不全:iPS細胞誘導心筋細胞での検討 15K09084 2015-04-01 – 2018-03-31 基盤研究(C) 広島大学 Aldehyde dehydrogenase 2 (ALDH2)は心筋細胞ミトコンドリア内で酸化ストレス制御の中心的役割を果たしているが、同遺伝子変異に基づく酵素機能低下を日本国民の40%が公被っている。心筋障害のStage2である慢性・発作性心房細動のためにカテーテル焼灼術を受ける患者において、ALDH2 遺伝子変異の有無が及ぼす影響を検討した。仮説に反して心房症例の方が対象群に比しALDH2マイナーアレルAは少なかった。その他のSNPについては有意差を認めなかった。孤立性心房細動症例を抽出し、同年齢対象と同様の検討を行ったが同様であった。
  321. 加算微分心電図を用いた分裂性QRSとJ波の定量化による心臓突然死リスクの予測法 15K09082 2015-04-01 – 2018-03-31 基盤研究(C) 岡山大学 分裂性QRS(fQRS)は障害心筋・線維化による心室内興奮伝播が様々な方向に変化していることを示しており、不整脈発生の基質や心機能障害の推測に有用である。またJ波は心臓興奮後の再分極早期の電位異常を示しており、致死的不整脈発生に結び付くと考えられる。fQRSやJ波がさまざまな心室頻拍・細動発生にどのように関わるかを検討し、欧米・アジア太平洋の不整脈学会誌のJ波症候群専門家会議報告や日本循環器学会遺伝性不整脈ガイドラインに成果が取りいれられた。
  322. ミャンマーにおける生活習慣病に関する実態解明と予防策の検討 15K08820 2015-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C) 順天堂大学 本研究はミャンマーにおける1914年の2型糖尿病患者有病率が10.5%(男性11.5%、女性9.2%)、耐糖能異常が19.7%(男性16.5%、女性23.0%)であることを明らかにした。これはスリランカ(8.8%)やタイ(6.7%)と比べても際立って高い。特にヤンゴン首都圏は18.2%と著しく高かった。
    また、医療経済評価のMarkovモデルを用いた糖尿病負荷を予測したところ、65歳で約半数が患者となり、医療費は13,000USDであった。
  323. 抗リン脂質抗体症候群の検査診断ガイドラインの作成と病態発症機序の解明 15K08616 2015-04-01 – 2018-03-31 基盤研究(C) 山口大学 日本抗リン脂質抗体標準化ワークショップに参加する3大学病院の共同研究にて,抗リン脂質抗体検査の標準化を試みた。日本で市販されている10種類のELISAキットについて健常人基準範囲を決定した。さらに、各キットの臨床的有用性を検討し、抗リン脂質抗体症候群の診断に最も適したELISAの組み合わせを明らかにした。さらに、各ELISAキットの臨床的有用性を検証し、抗リン脂質抗体症候群の診断に最も適したELISAキットの組み合わせを明らかにした。
  324. 腎周皮細胞と腎臓病コホートサンプルを用いた腎線維化抑制治療の探索 15K08065 2015-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C) 東北大学 慢性腎臓病(CKD)における腎性貧血は、腎線維化に伴うエリスロポエチン (EPO)の不足やEPO不応性病態により引き起こされる。本研究ではコホート研究とメタボローム解析行い、腎性貧血と関連深い要因を明らかにし、積極的な介入を要する患者の同定を行なった。CKDコホート解析でHb10 g/dL未満の貧血は末期腎不全あるいは脳心血管病・全死亡の発症に繋がることを明らかにした。消耗状態にある患者において低栄養が貧血や予後に関連することを明らかにした。栄養指標と貧血との関連が示唆された。腎不全患者血清中の最終糖化産物中間体とサルコペニア関連を認め、EPO抵抗性一因となる可能性が示された。
  325. 高性能イミュノトキシンによるEGFR阻害薬耐性肺腺癌に対する標的化治療の開発 15K06876 2015-04-01 – 2018-03-31 基盤研究(C) 札幌医科大学 私たちはジフテリア毒素(DT)とプロテインG(3C)を含むリコンビナントタンパクであるDT3Cを開発した。この系を応用した選択法でEGFR阻害薬耐性肺腺癌に特異的なMoAbを187個樹立した。これらのMoAbはいずれも高いイミュノトキシン活性を示し、抗体薬候補抗体が含まれており、ADC型抗体薬として開発中の抗原分子が多く含まれていた。以上から、この方法が抗体薬の選別法として優れていることが示された。この研究において、私たちはCD98hc, CD155, CD224, ACE2, EGFR, ICAM1などのADC候補抗体を樹立した。これらの抗体は今後臨床応用へ進めたいと考えている。
  326. in vivo安定同位体標識代謝物を用いた定量メタボロミクス技術の開発 15K06557 2015-04-01 – 2018-03-31 基盤研究(C) 九州大学 現状のメタボローム解析技術により取得できる定量情報は,「相対定量」に制限されているため,細胞内の精確な代謝物濃度の決定には至っていない.また,相対定量情報では,他施設での異なる分析装置や異なる分析手法で取得したデータと直接比較検証できないため,生理学的・生化学的考察を深めることが困難である.そこで,当該研究では,様々な生体試料に適用可能な包括的な安定同位体標識代謝物の調製法の開発を軸に,試料調製,高感度定量メタボローム分析,データ解析手法を含む「安定同位体標識代謝物カクテルを用いた定量メタボロミクス技術の開発」に取り組んだ.
  327. 交通事故防止のためのパーソナライズド・セーフティ・システムの研究開発 15K00439 2015-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(C) 岩手県立大学 本研究では,特定の運転者に対してパーソナライズされた危険箇所の教示を実現する運転支援システムの構築を目的とし,(1)客観的事故要因の特定とそれに基づくリスク予測法,(2)運転者固有情報の抽出方法,(3)運転者固有情報のリスク予測法への反映方法の構築を行なった.ここで,「パーソナライズされた」とは,運転者の心理状態,個人差により同じ場所,状況でも交通事故リスクが変容ことを考慮し,運転中の運転者にとって必要な時だけ危険を教示することを指す.(1)から(3)のそれぞれについて可能性のある複数の手法を構築した.
  328. 医療ビッグデータのプライバシー保護ロジスティック回帰の研究 15K00194 2015-04-01 – 2018-03-31 基盤研究(C) 明治大学 本研究課題では垂直に分割された2つのデータセットに対するロジスティック回帰を安全に実行する新しいプロトコルを提案する.提案方式は,反復再重み付け最小二乗(IRLS)を適用し,従来よりも少ない繰返し回数で収束する効率の良いプロトコルである.従来の最小勾配法(SGD)の収束回数30,000回と比較して,提案プロトコルは7回で収束する.大規模な国内の患者の診療情報を含む診療情報データベース(DPC)を用いて,その実現可能性を評価している.提案により,対象患者の機微情報を関連組織に漏洩することなく,死亡確率のみを予測することを可能とする.疑似データによる本方式のパフォーマンスと精度の評価を与えている.
  329. 医療情報の高度利用による健康寿命予測推定モデルの構築と健康寿命の推計に関する研究 15K00049 2015-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(C) 立命館大学(2016-2019) / 福島県立医科大学(2015) 国保加入者の健診受診、未受診群からコホート研究を立ち上げた。健診受診と生命予後は、喫煙習慣、飲酒習慣、生活習慣病の既往歴、日頃の運動習慣であり、健診受診群の循環器疾患死亡率は未受診群と比して低かった。
    平均寿命と健康寿命の差は男女とも約10年ある。健診受診群において健康寿命に影響が大きかった因子は肥満度であり、やせが介護保険受給に至っていたことから、健康寿命延伸においても、生活習慣の改善が重要であった。
  330. オートファジー機能異常による心不全発症機構を制御標的とする創薬をめざした研究 15H04817 2015-04-01 – 2018-03-31 基盤研究(B) 東京医科歯科大学 本研究では、心不全の発症および病状進展に深く関わっているオートファジーの機能不全はBeclin1の賦活化により改善させることが可能であることを踏まえて、Beclin1を活性化できる新規化合物による心不全治療法を確立することを目的とした研究を行った。Beclin1のBH3ドメインに結合しうるBcl-xLのHis117周囲の構造に類似した、Beclin1とBcl-2/xLのタンパク質間相互作用を標的とした阻害低分子化合物を複数見出したが、そのうちのひとつの低分子化合物Xが効果的にBeclin1とBcl-2/xLのタンパク質間相互作用を阻害しオートファジーを効果的に促進する作用があることを見出した。
  331. 超音波による生きた細胞の非侵襲粘弾性イメージング 15H04017 2015-04-01 – 2018-03-31 基盤研究(B) 豊橋技術科学大学 本研究では、個々の培養細胞を、集束超音波を用いて連続的・非侵襲的に定量観察し、絶対値としての弾性パラメータと等価な意味をもつ音響インピーダンスで表示するシステムを開発した。細胞の弾性には細胞骨格の状態が大きく反映されることから、これらの変化が現れやすい抗癌剤投与後のガン細胞の細胞骨格の変性過程,および筋芽細胞の分化過程を連続観察し、観察手法の有効性を実証した。あわせて再生医療への応用を目指し,iPS細胞の観察を試みた。
  332. システム定量解析を用いた運動時換気亢進の病態生理機構の解明 15H03101 2015-04-01 – 2019-03-31 基盤研究(B) 森ノ宮医療大学 正常ラット及び心不全モデルラットを対象に、運動時の換気亢進機構を定量評価する方法論の開発に取り組んだ。呼吸化学調節系の制御部であるController及び制御対象部であるPlantを両坐骨神経遠心路の通電刺激時に定量化した。平衡線図を用いて運動時の動作点(VE値)決定機構の定量評価を行った。通電刺激によってPaCO2→VE関係は強度依存で上方へとシフトすることが判明した。一方、VE→PaCO2関係は強度依存で右上方へとシフトすることが判明した。平衡線図を用いたシステム定量解析法を用いて小動物の運動時における換気決定機構や呼吸異常が生じる病態生理機構を定量評価することに成功した。
  333. 虚血性心疾患の再発予防に向けた冠動脈血栓および動脈硬化巣の組織性状の解析 26893210 2014-08-29 – 2016-03-31 研究活動スタート支援 宮崎大学 心筋梗塞患者の冠動脈からカテーテル治療の際採取された血栓と動脈硬化巣の組織標本を病理学的に検討し、患者背景や予後との関連性を検討した。274例の治療中に得られた吸引物を免疫組織化学的に評価した結果、冠動脈吸引物には石灰沈着を16%に認め、冠危険因子との明らかな関連は認めなかった。その一方、性別と多枝病変が石灰沈着の独立した危険因子であることを明らかにした。さらには、石灰沈着と院内死亡には関連はないものの、石灰沈着がある場合はカテーテル治療を行っても良好な血流を得られない傾向にあった。これらのことから、吸引物内の石灰沈着は、患者背景や臨床像により異なる可能性が示唆された。
  334. メタボリックシンドロームにおける血栓症リスク評価および治療モニタリングの確立 26860691 2014-04-01 – 2016-03-31 若手研究(B) 東京医科歯科大学 肥満・糖尿病患者では、心筋梗塞や脳梗塞などの致死性血栓症を発症するリスクが高く、その予防および治療が極めて重要であるが、血栓症の発症機序は解明されていない。肥満・糖尿病における血栓症発症の重要な要因として血液凝固能亢進に着目し、血液凝固による誘電率の変化を測定することにより血液凝固能を定量的に評価する方法の開発に成功した(Anal.Chem. 82:9769-9774, 2010)。本方法による解析の結果、糖尿病患者では健常人と比べ有意に血液凝固能が亢進しており、血液凝固能と内臓脂肪面積との間に有意な相関を認め、糖尿病患者における血栓症予測の有用なリスク評価法になりうると考えられた。
  335. 心不全進行における低酸素環境と組織幹細胞システムの意義 26860560 2014-04-01 – 2017-03-31 若手研究(B) 大阪大学 食生活の欧米化、高齢化に伴い心不全患者数は急増しているが、病態メカニズムは未だ不明な点が多い。我々は心不全時に発現が変化する因子が心筋、心臓幹細胞システムにどのような影響を与えるのか検討をした。まずいくつかのラット心不全モデルを用いて、共通して発現が亢進する因子としてペリオスチンを見出し、そのC末端側に存在するアイソフォームの機能検討を行った。結果、心筋細胞のアポトーシスを誘導するアイソフォームが確認でき、選択的中和抗体を作成し、心筋梗塞モデルでの有効性を証明した。残念ながらいずれのアイソフォームも心臓再生には関与していなかったが、今後は独自に作成した中和抗体の臨床応用を目指す予定である。
  336. 家庭血圧計を用いた血圧日内変動測定の妥当性検証と予後予測能の検討 26670313 2014-04-01 – 2017-03-31 挑戦的萌芽研究 京都大学 高血圧は脳卒中や心筋梗塞などのリスク因子となる。血圧は、一般に睡眠時には10~20%程度低下するが、夜間降圧の消失、あるいは逆に上昇することは、高血圧とは独立した循環器疾患のリスク因子となる。夜間血圧の測定には専用の機器が必要であり簡便に測定できない。しかし、本研究では、指定した時間に血圧を測定できる家庭血圧計を用いることで、夜間血圧を簡便に評価できることを示した。血圧には食塩摂取量や季節などが影響し、日間差も多いため、一般的な血圧計を用いて繰り返し測定できれば、血圧日内変動の異常を精度良く捉えられるようになり、循環器疾患の予防をさらに前進させる。
  337. 生体幹細胞ニッチを保持した人工ECMによる自己幹細胞からの拍動心筋細胞分化誘導 26560251 2014-04-01 – 2016-03-31 挑戦的萌芽研究 国立研究開発法人国立循環器病研究センター 心筋梗塞などに対して患者自身の間葉系幹細胞などを移植する再生医療が注目されている。しかしその効果は、細胞多産生する有用成分にもとづくものであり、また、その効果も十分ではない。そこで、さらに高い治療効果を目指して、iPS細胞から拍動する心筋細胞などの機能性細胞を誘導して移植する治療法が注目されている。本研究では、ブタ等の組織(心筋・肝・能)から細胞成分を取り除いた脱細胞マトリックスをiPS分化基材として用いることでその有用性を確認した。
  338. HCN4イオンチャネルを指標とした心筋純化法の開発と心疾患への再生医療 26501003 2014-04-01 – 2017-03-31 基盤研究(C) 鳥取大学 心臓は、洞結節ペースメーカ細胞や刺激伝導系細胞などの特殊心筋と、心房筋や心室筋など作業心筋など、各種のサブタイプ心筋から構成されている。近年、再生医療、創薬においてヒトES/iPS細胞に由来する心筋細胞の有用性が広く認められている。しかし、これらの多能性幹細胞からの分化誘導心筋には、各種サブタイプ心筋が混在している。本研究では、これらの混在した心筋細胞集団の中から、それぞれのサブタイプ心筋を純化できる実験系の確立と、純化した各種心筋の解析、およびその再生医療あるいは創薬への応用を目標とした。
  339. 整数心拍数・呼吸数変動の非線形解析によるICU入室患者の重症度と転帰の判定 26462749 2014-04-01 – 2017-03-31 基盤研究(C) 新潟大学 病的状態になると生体信号はより単純化すると報告されている。集中治療部のベッドサイドモニターに記録・保存されている心拍数データに対して複雑性解析を行い、転帰・重症度予測の可能性を検討した。敗血症における検討では、24時間心拍数(1分ごと計1440個)の複雑性指標とAPACHE II 及びSOFA スコアと有意な高い相関を認めた。蘇生後24時間以内の転帰予測の検討では、心拍数の変動がより複雑になると、良好な転帰が期待されることが示された。以上、成人のICU入室患者において、ベッドサイドモニターが記録する心拍数の変動により、重症度や転帰の予測が可能であることが示された。
  340. 3テスラMOLLI MRIによる急性心筋梗塞の心筋組織性状評価法の開発 26461787 2014-04-01 – 2017-03-31 基盤研究(C) 三重大学 心血管MRIの急速な革新により、重要な組織特性である心筋T1値定量測定が日常的に可能となっている。
    我々は、虚血性心疾患患者を中心に、その有用性を研究した。その結果、急性心筋梗塞患者においては、非梗塞心筋においても細胞外液分画と心筋T1値の有意に上昇していることが示され、それは梗塞を生じる程度の強い虚血イベントによってもたらされることが示された。また、細胞外液分画と心筋T1値は、組織学的な線維化の指標と良好に相関することが示された。更に、心筋梗塞診断のゴールドスタンダードと考えられている遅延造影MRIとの比較において、非造影心筋T1値は梗塞を高い正確性を持って検出できることが示された。
  341. 脂肪幹細胞を軸とした、脂肪組織機能異常と脂肪・膵臓連関の分子メカニズムの解明 26461140 2014-04-01 – 2017-03-31 基盤研究(C) 千葉大学(2016) / 東京大学(2014-2015) 多くの研究成果が肥満症と動脈硬化の密接な関連を示唆しているが、そのメカニズムに関しては未知の部分が多く残されている。我々は、脂肪幹細胞に着目し、脂肪組織が肥満ストレスに暴露された際に脂肪幹細胞が炎症性サイトカインを多く分泌する全く異なった遺伝子のマシナリーを持つ細胞(APDP細胞)に分化することを見出した。この細胞は、肥満ストレス下への適応反応として、脂肪組織中の血管新生を促す働きを持つことが明らかとなったが、過度な脂質過剰状態になると適応反応が破たんしむしろ炎症を惹起し、膵臓β細胞の慢性的な炎症から糖尿病を引き起こす可能性が示唆され、全く新しい治療戦略の糸口になると考えている
  342. 不安定動脈硬化巣を検出する核磁気共鳴法を用いた新たな冠動脈・分子画像診断法の開発 26461119 2014-04-01 – 2017-03-31 基盤研究(C) 国立研究開発法人国立循環器病研究センター 非造影核磁気共鳴画像法を用いた冠動脈硬化評価法が 経皮的冠動脈インターベンション術時(PCI)の心筋障害発生予測のみならず、薬物療法による動脈硬化安定化作用を可視化したことを初めて報告した。(JACC cardiovascular imaging 2015; 8: 741-743, JACC 2015; 66: 245-256) また急性心筋梗塞における冠動脈塞栓症予後及び 冠動脈バイパス術後のPCIの予後を及び予後予測因子の報告を行なった。また大型動物を用いた自然発症冠動脈硬化モデルを作成し、今後動脈硬化巣の表現系解析及び発生機序を明らかにすべく検討中である。
  343. 糖尿病による心血管障害におけるROCKの役割:基礎から臨床へ 26461110 2014-04-01 – 2017-03-31 基盤研究(C) 広島大学 細胞実験および動物実験によって、高糖状態によりROCK活性が亢進、活性酸素種が増幅、血管内皮機能は低下するが、ROCK阻害薬によって、それらは改善することを確認した。臨床研究では、糖尿病においてROCK活性が亢進傾向を認めた。これらトランスレーショナル研究により、糖尿病患者においてROCKは治療ターゲットとなり得る可能性、また糖尿病により惹起される心血管疾患において有用なバイオマーカーとなり得る可能性が示唆された。
  344. 新規骨粗鬆症治療薬デノスマブによる冠動脈石灰化抑制効果の検討 26461104 2014-04-01 – 2017-03-31 基盤研究(C) 新潟大学 パイロット研究としてデノスマブ投与による冠動脈石灰化進展抑制効果および安全性の検討を行った。骨粗鬆症を合併した冠動脈疾患患者12症例に対してデノスマブ投与を行い、うち10例において評価可能であった。デノスマブ投与により骨密度は0.662±0.11 g/cm2 から0.679±0.12 g/cm2まで改善した。主要評価項目である 冠動脈石灰化スコアは366.5±438.0から362.9±435.1まで改善しており、石灰化の進展を抑制する可能性が示唆された。さらに骨密度改善度と石灰化改善率には相関関係があり、本薬剤が骨粗鬆症に有効であれば、冠動脈石灰化に対しても抑制効果を示す可能性が示唆された。
  345. 迷走神経刺激による心筋幹細胞の賦活化を利用した新規心血管再生治療法の開発 26461099 2014-04-01 – 2017-03-31 基盤研究(C) 国立研究開発法人国立循環器病研究センター 本研究では、迷走神経刺激による心筋幹細胞賦活を利用した新規心血管再生治療法の可能性を検討した。その結果、早期に介入した迷走神経刺激による急性心筋梗塞ラットの早期致死性不整脈の抑制作用及び早期生存率の劇的改善作用、著明な抗炎症・抗心筋繊維化作用、心筋梗塞面積の縮小作用、及び心臓リモデリングの抑制効果を明らかにした。これらの治療効果が迷走神経刺激による心筋幹細胞の増殖・分化誘導の促進作用が関与する可能性を示唆した。これらの研究結果から迷走神経刺激による心筋幹細胞の賦活を利用した新規心血管再生治療法は、今後臨床の急性心筋梗塞・慢性心不全治療に新たの治療効果を得られることが期待できると予測する。
  346. ウサギ除神経モデルにおけるMIBGを用いた交感神経増生の検討 26461091 2014-04-01 – 2018-03-31 基盤研究(C) 東海大学 健常なNew Zealand White rabbitを用い、フェノール塗布による除神経モデルを作成し鏡面心筋病理切片を用いたオートラジオグラフィーおよび免疫染色(GAP43, TH)を用いて定量し、電気生理学的研究を行った。除神経が存在する心筋では、MIBGとりこみ正常領域においても過増生が存在した。すなわち異質な神経リモデリングがMIBGで一見正常な非除神経領域まで広がり、電気的不安定性に寄与する可能性を示唆した。
  347. 健常住民における心血管疾患発症・死亡予測指標としての心電図の意義に関する研究 26461083 2014-04-01 – 2017-03-31 基盤研究(C) 岩手医科大学 安静時12誘導心電図 (ECG)検査により診断された左室肥大は、高血圧のみならず非高血圧においても循環器疾患発症の予測因子になり、さらに血圧、脂質などの既存の危険因子とECG 検査との組み合わせにより,リスク分類の向上をもたらすことが明らかになった。さらに、心血管病リスクのバイオマーカーであるB型ナトリウム利尿ペプチドとECG 指標との組み合わせによる評価が、循環器疾患発症リスク予測のうえで有用であることが明らかになった。
  348. 冠動脈MRIによる心血管イベント、およびPCI中のno-reflowの予知・予防 26461080 2014-04-01 – 2018-03-31 基盤研究(C) 大阪市立大学 侵襲的血管内イメージングによる不安定プラーク評価は飛躍的に進歩した。しかしながら、侵襲的イメージングは無症状患者の心血管イベントの予知・予防を目的として使用するには限界があった。近年、非造影でプラークの描出が可能な冠動脈核磁気共鳴画像 (magnetic resonance imaging; MRI)が導入され、いくつかのグループが冠動脈壁の高信号を呈するプラーク(hyperintense plaque: HIP)は冠動脈不安定プラークと関連していることを明らかにしている。今回われわれはHIPがPCI中のno-reflow現象の予測因子であることや心血管イベント予測因子であることを示した。
  349. サルコペニアを標的とした心臓悪液質および誤嚥性肺炎の病態解明と栄養療法の確立 26461068 2014-04-01 – 2017-03-31 基盤研究(C) 滋賀医科大学 慢性心不全患者34名、健常コントロール19名を対象に、心不全患者の栄養状態を体成分分析、間接熱量測定などから評価を行った。その結果、重症心不全患者ではコントロール群と比較して体脂肪の消耗と下肢骨格筋肉量の低下を特徴とする栄養障害を認めた。また、重症心不全患者ではエネルギー消費量がエネルギー摂取量を上回っており、負のエネルギー出納状態であることが示唆された。その原因は、エネルギー摂取量の低下およびエネルギー消費量の両方によるものであった。この負のエネルギー出納は、心不全の重症化に伴って悪化する可能性が示唆された。
  350. 薬剤溶出性ステント留置後の冠動脈内皮機能障害軽減による長期予後改善に関する研究 26461059 2014-04-01 – 2017-03-31 基盤研究(C) 山梨大学 薬剤溶出性ステント(DES)留置後の冠動脈内皮機能障害の経時的変化と慢性期の心機能・臨床転帰への影響を検討した。急性前壁心筋梗塞症例を対象として、梗塞責任冠動脈の内皮機能と左室造影検査を治療2週と6か月後に測定した。当科関連循環器施設との多施設共同レジストリーに登録された4000例以上の症例を追跡し、長期予後を調査した。第2世代DESは第1世代に比べて2週後の内皮機能障害が軽度で、6カ月後の回復も良好であった。長期予後に関しては、観察期間が十分でなかったため調査継続中である。
  351. ハイブリッド・コンディショニングによる心筋救済法の開発とHSPを介する機序の解明 26461052 2014-04-01 – 2018-03-31 基盤研究(C) 旭川医科大学 初回急性心筋梗塞症例を対象にコントロール群とハイブリッド・コンディショニング群の2群に無作為に割り付けた。ハイブリッド・コンディショニング群では、下肢を5分間の加圧と5分間の除圧を繰り返すリモート・プレコンディショニングを3サイクル行う。その後、バルーンによる60秒間の拡張と30秒以内の再灌流を4回繰り返すポストコンディショニングを行い、最終的に適切なサイズのステントを留置した。両群ともに再灌流治療の前後で経時的に採血を行い、分離白血球中のHSP72発現量を定量的に評価した。ハイブリッド・コンディショニング法はHSP72、HSP73の発現を増加させ、再灌流障害抑制をもたらすことが示された。
  352. 臨床検査での超極端値と短期的予後との関連性-横断的縦断的解析とその臨床的意義- 26460916 2014-04-01 – 2020-03-31 基盤研究(C) 自治医科大学 臨床検査データで超極端外れ高値100例の72時間後死亡率(%)は,血ガスCO2(67.9),乳酸(63.0),無機リン(IP;47.1),アンモニアおよびLD(42.9)の順で、超極端外れ低値は、血液ガスpH(100),Base Excess(44.0),重炭酸イオン(41.8),フィブリノ-ゲン(39.7)の順だった。72時間後死亡は、随時血糖 (>500 mg/dL)ではCK,Albで、AST(>3,000 U/L)ではALP,NaとIPで、CRP(>40 mg/dL)では年齢,IPとBUNで、無機リン(>10 mg/dL)では年齢, LDとT-CHOでモデル化(研究成果報告参照)できた。
  353. 大規模コホートに基づく個別化されたリスク予測ツール、バイオマーカーの有用性の研究 26460790 2014-04-01 – 2017-03-31 基盤研究(C) 国立研究開発法人国立循環器病研究センター 冠動脈疾患発症の10年間発症危険度を予測する日本人を対象とした初めてのリスクスコアである吹田スコアを開発した。発症に関する前向き研究データから、古典的サポートベクターマシンおよびランダムフォレストの複数モデルの組み合わせにより、日常診療上よく使用される約40項目のルーチン検査から、MIDAS研究の総数1920症例に基づき、アンサンブル学習を用いた複数モデルの組み合わせによMACE(Major Adverse Cardiac Event)予測モデルを構築し、約40モデルの識別距離の組み合わせから偽陽性5%程度、偽陰性立5%程度で予測するモデルを構築し、既存予測モデルの成績より良好な成績を得た
  354. 長期・連続・自動生体情報記録による疾患別遠隔予防・治療システムの臨床効果の研究 26460787 2014-04-01 – 2017-03-31 基盤研究(C) 関西医科大学 生体センサーとして歩数計、体重計、血圧計およびリストバンド型生体センサーを用い遠隔支援を行った。行動変容支援は、クラウド上での記録をもとにメールにより個別支援およびデータ自動解析ロジックを用い、自動的に支援メールを送信した。
    長期連続生体データの解析による行動変容支援により、歩数の増加等の行動変容が得られ、肥満患者では有意な減量を得た。これらの結果より、生体センサーによる自動行動変容支援の有用性が示された。
  355. 世界初の急性冠症候群疾患モデルの実現 26430089 2014-04-01 – 2017-03-31 基盤研究(C) 神戸大学 働き盛りの生命を前触れなく奪う急性冠症候群は、その予防法の開発が必須だが、この病態を再現できる生体モデルが存在しないことが予防法開発の障壁となっていた。本研究課題では、我々が独自に開発した疾患モデルを応用し、急性冠症候群を再現できるモデルの開発を試み、疾患発症のきっかけとなる現象(冠動脈硬化プラークの損傷)を高率に誘発できるモデルの開発に成功した。この新規モデルは、急性冠症候群の予防を目的とした新薬の生体レベルでの薬効評価において優れたツールとなることが期待される。
  356. 動脈硬化を診断・予知するための近赤外レーザ血管血流画像情報計測技術の臨床応用 26350523 2014-04-01 – 2017-03-31 基盤研究(C) 富山高等専門学校 マウスの腸間膜血管内のin-vivo計測を行い、血流速分布のイメージングを行った。線計測μLDV法により、乳癌を植え付けたマウスのin-vivo測定により乳癌移植前、移植後1日目、3日目、6日目の写真と乳癌まわりの血流画像を示し、乳癌部位の異常流速分布の検出とその血流場の考察を行った。健常マウスのマウス頸動脈の2次元血流速分布画像と血流速の時間変化からマウス拍動の時間変化の計測とその有効性を確認した。
    狭窄のある人工流路に水、グリセリン溶液、マウス血液を流入させ面計測μ-MLDV 法による血流速分布計測を行い、CFD解析と実験結果とを比較検討し、粘度による流動状態の違いを確認することが出来た.
  357. イベント発現時間推定に競合リスクを加味した臨床試験のデザインに関する統計学的研究 26330055 2014-04-01 – 2018-03-31 基盤研究(C) 東京慈恵会医科大学 臨床試験現場では無視できない競合リスクが存在することも多い. 臨床試験において経時的データが何らかの理由により完全には観測できない場合について, 何らかの理由を競合リスクとして扱い優越性試験および非劣性試験それぞれの状況設定でデザインと評価方法を検討した.被験者の便益という新たな観点から評価方法の改良を検討し,結果を国際学会などで発表した.また, 入院治療においては, 退院理由は軽快とは限らず, 悪化や死亡もありこれらは競合リスクとなる. 看護必要度と経時的理由別退院との関連性の分析に関して競合リスクを考慮した解析方法を例示し, 国内外の学会で発表した.
  358. 慢性心不全患者の急性期と在宅療養支援をつなぐ急性増悪予防・看護実践モデルの構築 26293461 2014-04-01 – 2018-03-31 基盤研究(B) 神戸大学 本研究では、慢性心不全患者の急性増悪予防(再入院予防)と在宅療養支援の連携強化に資するために、再入院を繰り返す慢性心不全患者の療養行動の特徴、ならびに急性増悪予防に有効である看護支援内容の抽出に基づいた、急性期から回復期、慢性期の各期とそれらをつなぐ支援プロトコールを作成した。1)慢性心不全患者が認識する再入院の誘因、2)在宅療養を可能とする看護実践内容、3)退院早期の慢性心不全患者の身体活動とセルフマネージメントについて調査した。これらの結果を統合し、患者の症状認識と生活行動、回復期における身体活動に伴う身体感覚とセルフモニタリングへの働きかけを中心とした支援プロトコールを作成した。
  359. 医療の質向上と発症予測モデル開発のための包括的循環器疾患登録プラットフォーム構築 26293160 2014-04-01 – 2017-03-31 基盤研究(B) 国立研究開発法人国立循環器病研究センター 本研究では1) DPC(診断群分類包括評価)情報を用いた中核的循環器治療施設における疾患登録とQIによるQuality of Care研究、2) 日本の代表的地域レジストリを用いた疾患登録データベースによる循環器疾患の重篤度予測、3)米国NDCR(National Cardiovascular Data Registry)を手本としたIT化による半自動抽出システムの仕様開発、これらを基に包括的循環器疾患登録プラットフォームを整備した。
  360. 健康的日本食の構築を目指した食物・栄養と動脈硬化性疾患に関するコホート研究 26293155 2014-04-01 – 2017-03-31 基盤研究(B) 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(2015-2016) / 独立行政法人国立健康・栄養研究所(2014) 地域住民コホート研究において食事パターンと冠動脈疾患・脳卒中の罹患・死亡リスクとの関連を検討した。対象は平成16~19年の基礎調査に参加した約13,000名である。5年後2次調査と死因調査により罹患症例を把握した。主成分分析により健康的食事パターン、動物性食事パターン、洋朝食パターンの3つが同定された。いずれの食事パターンも冠動脈イベント、脳卒中イベント、冠動脈死亡とは関連していなかった。動物性食事パターン、肉類、緑茶が脳卒中死亡リスクの低下と関連していた。日本人の健康な食事の構成要素としては、野菜、果物、きのこ、海藻、大豆製品、魚、緑茶に加えて、適度の肉摂取を考慮する必要がある。
  361. 脳血管障害の遺伝・環境要因解析を可能にする次世代ゲノムコホートの構築 26253072 2014-04-01 – 2017-03-31 基盤研究(A) 山形大学 脳血管障害を含めた生活習慣病などの頻度の高い疾患は、ゲノムの遺伝要因や生活習慣などの環境要因が複雑に組み合わさって発症すると考えられており、グローバルCOE研究から続く山形県コホート研究を用いたゲノムコホートによる前向き研究として、ITネットワーク化による網羅的疾患追跡方法の開発と脳血管障害のゲノムコホートによる病因遺伝子の探索を行った。この結果、遺伝子Xならびに遺伝子Yを候補遺伝子として得た。遺伝子Xは脳血管障害の基礎疾患として知られる心房細動に強く関連し、遺伝子Yは基礎疾患とは関係なく脳血管障害と関連していた。
  362. 社会環境から個人要因の認知症発症プロセスの解明に関する社会疫学研究 26253043 2014-04-01 – 2018-03-31 基盤研究(A) 大阪大学 高認知症予防を進めるため、地域の社会環境・経済要因から、個人の社会経済・心理要因、生活習慣、心理・生化学マーカー、生物学的危険因子、動脈硬化、認知症の発症への一連のプロセス解明を目的に40~69歳住民約11万人を対象とした疫学研究を実施した。社会環境・経済指標の不良な状態が、喫煙、食塩の摂取過剰、栄養バランスの低下、運動不足と関連し、個人要因とは独立して肥満あるいは痩せ、高血圧、糖尿病と関連し、さらに総死亡リスク、脳卒中発症リスクとも関連した。壮年期からの高血圧、眼底の細動脈狭細所見、糖尿病、喫煙、血中の酸化・炎症マーカーの高値、食物繊維の摂取不足、脳卒中の既往が認知症の発症リスクと関連した。
  363. 血管ニッチによって制御されるステムセルエイジングと加齢関連疾患発症機序の解明 26115008 2014-07-10 – 2019-03-31 生物系 新学術領域研究(研究領域提案型) 新潟大学
    加齢やゲノムストレスに伴う様々な刺激が、どのように血液幹細胞のニッチ(間葉系細胞・類洞血管細胞)の老化に影響を与えるか、ニッチの老化がどのように血液幹細胞の機能不全に関与しているかについてはよく知られていない。そこで本研究では、血管ニッチの老化に焦点を当てて研究を進めることとした。加齢マウスや放射線暴露モデル、血管特異的p53/Mdm遺伝子改変マウスを用いて解析を進めた結果、血管ニッチにおける老化シグナルの活性化が、血液幹細胞のステムセルエイジングを促進することが明らかとなった。さらに同様のマウスモデルを用いて、心不全や生活習慣病における血管老化シグナルの活性化の意義を明らかにした。

  364. 脂質メタボロミクスを用いた肺疾患の新規バイオマーカー探索 14J00728 2014-04-25 – 2017-03-31 特別研究員奨励費 大阪大学 肺炎,肺がん,喘息などの肺疾患は,難治性のものが多く先進国における死者数も多い.中には日本の特定疾患に指定されている肺疾患もあり,有効な治療法の開発が望まれている.肺疾患の発生においては,肺胞の表面張力を低下させる肺サーファクタントの構成成分の組成変化が関与していると考えられており,当該構成成分の約90%が脂質であることから,肺サーファクタントを対象とした脂質プロファイリングは,肺疾患の早期診断のためのバイオマーカーの探索や疾患機序解明に有用な手段であると考えられる.本年度は,昨年度に構築した超臨界流体クロマトグラフィー質量分析 (supercritical fluid chromatography/mass spectrometry: SFC/MS) 分析系を用い,肺疾患モデルラットから採取した気管支肺胞洗浄液 (bronchoalveolar lavage fluid: BALF) および血漿を対象として包括的脂質プロファイリング(脂質メタボローム解析)を実施した.
    まず,SFC/MS分析によりデータを取得した後のデータ解析の工程を円滑に進めるため,データ処理ソフトウェアの解析条件を当該SFC/MS分析条件に対して最適化した.その結果,解析者の熟練度に依存せずハイスループットかつ正確な脂質プロファイリングを行える実用的な脂質メタボロミクスプラットホームを開発することができた(投稿準備中).
    次に,当該脂質メタボロミクスプラットホームを用い,肺疾患モデルラットのBALFおよび血漿を対象とした脂質メタボローム解析を実施した.その結果,疾患発生直後の軽微な症状から重症化に至るまでの様々な段階における脂質分子種の変動を包括的かつ詳細にとらえることができ,脂質メタボローム解析が肺疾患のバイオマーカー探索および病態解明に有用であることが示された(投稿準備中). 翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。 翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
  365. 血管攣縮分子機構に関する新規シグナル分子の探索 25893150 2013-08-30 – 2015-03-31 研究活動スタート支援 山口大学 血管攣縮は、突発的に、脳・心筋梗塞などの重篤な血管病を誘発し、我が国突然死の主因として恐れられているにも拘らず、根本的な治療法が見つかっていない。本研究では、新たな治療標的を探すため、スフィンゴシルホスホリルコリン(SPC)による血管平滑筋異常収縮シグナル伝達『SPC→Fyn→Rhoキナーゼ』経路の中で、全く未解明のFynとRhoキナーゼの間の分子機構に着目し、Fyn下流の新規分子としてパキシリンを見出した。新たな治療分子標的として血管攣縮治療に創薬開発の根拠を提供する事を目指す。
  366. 突発性難聴と酸化ストレスの関係に関する検討 25861543 2013-04-01 – 2016-03-31 若手研究(B) 信州大学 突発性難聴は特定疾患(難病)に含まれ、患者のQOLを著しく低下させるため疾患の克服が期待されている。信州大学医学部耳鼻咽喉科の管理する難治性内耳疾患の遺伝子バンクに集積された突発性難聴患者のサンプル192例(患者群)およびコントロール群を対象に、過去に騒音性難聴や心筋梗塞、動脈硬化との関連が報告されている酸化ストレス関連遺伝子の遺伝子多型(31遺伝子39SNPs)を中心に、患者群とコントロール群とでの遺伝相関解析を行い、酸化ストレス関連遺伝子であるSOD1が突発性難聴の発症に関与することを見出した。
  367. 抑うつ状態における心筋保護機構阻害因子の解明とその制御 25861380 2013-04-01 – 2016-03-31 若手研究(B) 長崎大学 抑うつ状態での虚血再灌流障害に対して心筋保護効果を得るためには、JAK-STAT系を介さずにPI3K-Aktを活性化させることが重要であると考えられている。本研究により、Rhoキナーゼ阻害薬である塩酸ファスジルはJAK-STAT、COX-2を介さずにm-KATPチャネルを活性化させて心筋保護効果を発揮することが明らかとなった。そのため、塩酸ファスジルは抑うつ状態において、心筋保護効果を発揮する可能性がある。
  368. 小児期発症の神経筋疾患における心拍変動解析の臨床応用 25860877 2013-04-01 – 2017-03-31 若手研究(B) 名古屋市立大学 心拍変動解析を用いて、神経筋疾患における予後指標を見出すことが本研究での究極の目標である。今回は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを対象とし、生命予後を予測する因子について検討した。死亡例で生前に施行されていた24時間ホルター心電図、15人分計77データを解析対象とした。不整脈、心拍変動の各パラメーターを解析し、生命予後との関連を検討した。心拍変動の各パラメーターはすべて、死亡日に近くなると有意に低下する傾向を認めた。不整脈の出現に関しては有意な傾向はなかった。これらの結果は心筋梗塞における生命予後予測と類似する。心拍変動解析は、神経筋疾患の生命予後を予測できることが示唆された。
  369. 心筋血流量の高精度測定を実現するマルチスケール薬物動態モデルの開発 25750170 2013-04-01 – 2016-03-31 若手研究(B) 国立研究開発法人国立循環器病研究センター 核医学イメージングによる心筋血流量測定のため,低侵襲的入力関数推定の精度向上を研究目的とした。塩化タリウムと単一光子断層撮影法における頻回採血により測定した健常者11例の個別入力関数から,一点校正標準入力関数法の最適な条件を決定した。個別入力関数を基準とする,標準入力関数それ自体の誤差は,3.9 ± 2.9%であった。心筋血流量における誤差は0.7 ± 7.8 %であった。低侵襲を実現しつつ心筋血流量定量の可能性と,その誤差を確認したことは意義があると考える。下行大動脈領域からの入力関数推定法の検討から,-9.0 ± 8.1 %の過小推定が確認され,さらなる精度向上が必要であることがわかった。
  370. 重症虚血性心筋症に対する心移植代替療法の開発 25670390 2013-04-01 – 2014-03-31 挑戦的萌芽研究 徳島大学 虚血性心筋症と呼ばれる重症心疾患患者に対して唯一の治療法は心臓移植であるがドナーは絶対的に不足している。そこで、心移植の代替となる革新的治療法の開発を試みた。冠動脈バイパス手術中に得られたヒト心臓周囲脂肪ならびに冠動脈内膜摘出標本の解析から、動脈硬化部位では血管壁のみでなく周囲脂肪組織に慢性炎症が生じていることが明らかになった。また、脂肪細胞死により放出された核酸がマクロファージのTLR9と相互作用することが、脂肪組織における慢性炎症の惹起機構として重要であることが判明した。この知見をもとに、血管と同時に良質の脂肪組織を移植する画期的なバイパス手術法の開発に着手した。
  371. 動脈血栓症の発症前予測法の開発 25560205 2013-04-01 – 2016-03-31 挑戦的萌芽研究 宮崎大学 本研究では心筋梗塞を代表とする動脈血栓症の事前予測を目標とし、家兎モデルにおいて、プラークびらんと数値計算上での血行力学的諸因子の関連性について検討した。
    家兎の動脈硬化性病変に対して外的に狭窄し、プラークびらんを誘発し、その分布と力学的因子を解析したところ、びらんの広がりは、ずり応力、乱流エネルギー、圧勾配と相関していた。ずり応力、乱流エネルギーの値は、びらん発生部位で有意に高値であったが、閾値は認めなかった。免疫染色では、びらん周囲でcaspase3が陽性であり、アポトーシスの関与が示唆された。以上より、プラークびらんは単なる力学的現象ではなく、細胞応答を伴っていると想定された。
  372. iPS細胞由来再生心筋組織と心臓をインターフェイスする電子デバイス 25560197 2013-04-01 – 2016-03-31 挑戦的萌芽研究 大阪大学 培養組織によって不全に陥った神経筋器官の機能を再建するには、ホスト組織と移植組織のインターフェイス(IF)が必要である。本研究の目的は、この培養組織活動を制御する電子デバイスIFの開発である。研究の結果、多チャネルで任意の刺激パターンを生成できる集積型IFを開発した。このIFは、刺激電流を高い精度で制御でき、また刺激の時空間パターンを自由に設定できることから、今後の生理学実験を大きく加速することが期待できる。また刺激システムが集積化されていることから、システムを顕微鏡にセットし、培養組織を長時間連続的に刺激しその応答をモニターすることができる。
  373. 食品機能性成分の血管新生抑制ー評価法の開発と新規物質の探索 25560034 2013-04-01 – 2017-03-31 挑戦的萌芽研究 上武大学(2016) / お茶の水女子大学(2013-2015) 食品中の様々な機能性成分に着目し、本研究は癌などの悪化に関与する血管新生を制御する作用をもつ食品成分の探索と評価法の検討を行った。
    探索はマトリゲルとともにヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)を培養し、添加した探索物質のネットワーク形成能の差違を評価して行った。さらに、HUVECとヒト成人皮膚線維芽細胞の共培養系を作製し、形成される細管に対する物質の制御効果を解析ソフトで定量化する方法を検討した。
    その結果、肥満の予防や改善に有効とされるある物質が、血管新生の促進作用を示すことが明らかになった。本物質の促進作用については国内外で報告がなく、血管再生療法の一助としての新たな展開が期待できる。
  374. 大腸癌血清エクソソーム由来microRNAの癌バイオマーカーとしての意義 25462070 2013-04-01 – 2016-03-31 基盤研究(C) 帝京大学 大腸癌の新たなバイオマーカーとして血漿エクソソーム由来のmicroRNAに注目し、早期癌診断、再発予測診断、治療効果診断のmicroRNAパネルを作製し、有用性を検討した。早期癌診断パネルは、健常人でいずれのmicroRNAも陰性を示したのに対し、早期大腸癌はいずれかのmicroRNAが陽性を示した。再発予測診断パネルの有用性を、大腸癌530例で検討した結果、選択したmicroRNAは、再発高危険群および予後予測のバイオマーカーとして重要であることが判明した。化学療法剤と分子標的薬投与症例で、治療効果モニタリングパネルの有用性を検討したところRECISTの結果を反映しており有用性が確認された。
  375. 自然免疫系の活性制御システムの開発:難治性肉芽腫形成疾患の新規治療法開発 25461511 2013-04-01 – 2016-03-31 基盤研究(C) 山口大学 サルコイドーシス発症と、自然免疫因子複合体インフラマソーム因子(NLRP1、NLRP2、NLRP3)の遺伝子多型との関連を明らかにした。肉芽腫形成疾患の発症に関与することが想定されるインフラマソーム構成因子(NLRP3、NLRP1、ASC、Caspase-1)、自然免疫因子TLR4、抗酸化因子(Catalase、Heme-oxygenase)の発生段階での臓器別に異なる発現変化と、臨床症状の変化との関連を示した。アクネ菌のカタラーゼタンパクはサルコイドーシスにおいてTh1免疫応答を誘導することを明らかにした。また前立腺がんの発症にアクネ菌の感染が関与していることを明らかにした。
  376. 肺高血圧症の肺血管病変をターゲットとしたバイオマーカーの開発と遺伝子的素因の解析 25461148 2013-04-01 – 2016-03-31 基盤研究(C) 千葉大学 本研究の目的は、肺高血圧症(PH)および肺血管病変の程度の評価法として、新しいバイオマーカーを開発し、個別化医療に関する遺伝子多型の関与を明らかにすることである。結果、ペントラキシン-3は、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の早期診断に有用なマーカーであった。一方、重症度とは遺伝子多型に分けても相関がみられなかった。術前fibrinogen高値、plasminogen低値が、術後遠隔期原疾患関連死に関連した。PET に関しては、肺動脈壁集積がCTEPHでもみられたが、腫瘍よりも軽度であった。血中蛋白抗体の網羅的検討を行い、肺特異的でCTEPHに関連する4つの新規ペプチドマーカーを発見した。
  377. 慢性心房細動アブレーション治療の標的と最適アプローチに関する理論的研究 25461106 2013-04-01 – 2016-03-31 基盤研究(C) 滋賀医科大学 慢性心房細動アブレーションで標的とされる心房内分裂電位CFAEの成因には不明な点が多い.本研究は慢性心房細動の治療戦略に理論的根拠を与えるため,ヒト慢性心房細動のコンピュータモデルを開発し,CFAE成因をシミュレーションで検証した上で,慢性心房細動アブレーション最適戦略の提案を目指した.その結果,研究代表者らは,心房筋で線維芽細胞が増生するとローター(渦巻き状興奮旋回)が持続しやすくなること,さらに慢性心房細動アブレーションの成否は,ローター制御による興奮波増減バランスで決まること等を示唆した.また,本研究で得られた知見をヒト慢性心房細動のリアルタイムマッピング装置の開発に応用した.
  378. 心臓微小低酸素領域における遺伝子発現・血管新生の3次元解析を応用した治療法の開発 25461104 2013-04-01 – 2017-03-31 基盤研究(C) 名古屋大学 哺乳動物の心臓における低酸素領域における新生血管発達のメカニズムや時相は明らかになっていない。血管新生の詳細を解明することで革新的な治療が可能になるものと考えられる。我々は左室心内膜から発達する新しい血液循環の仕組みを発見し、障害心筋を救うことができることを確認した。これらはVEGFシグナルに依存していた。さらに血管新生により心内膜側の残存心筋細胞を増加することで左室のリモデリングも抑制していた。一方、いわゆる虚血境界域と言われている領域では虚血心筋のほとんどすべてが12時間以内にアポトーシスに陥り、その後の治療によって治療に期待できる細胞は同定できなかった。
  379. 光学ナノパーティクルによる単球標識とOCTを利用した不安定プラーク診断法の開発 25461088 2013-04-01 – 2016-03-31 基盤研究(C) 川崎医科大学(2014-2015) / 奈良県立医科大学(2013) 冠動脈疾患患者では、不安定プラークの破綻による二次心血管イベントの発症率は非常に高く、不安定プラークの正確な同定と効率的な安定化治療法の開発が望まれている。我々は光干渉断層法(OCT)を用いて、脂質コアを覆う線維性被膜の薄層化(TCFA)、マクロファージの浸潤、プラーク内微細血管が不安定プラークの重要な所見であることを明らかにした。さらに、これらの特徴が、プラークの不安定性を介してPCI後の微小心筋梗塞の発症、冠動脈ステント留置後の新生内膜内に発生する新規動脈硬化病変の発症、冠動脈ステント留置遠隔期における心血管イベントの発症に深く関与していることなどを発表した。
  380. 血管内皮細胞障害におけるミトコンドリア機能の役割検討と臨床評価、新治療の探索 25461086 2013-04-01 – 2016-03-31 基盤研究(C) 熊本大学 糖尿病、冠動脈危険因子を複数有するハイリスク患者において、RH-PATにて評価した血管内皮機能障害は、心血管イベントの独立した有意な寄与因子であることが明らかになった。冠動脈疾患における2剤抗血小板治療に対する抵抗性は血管内皮機能障害と関連する事を示した。ヒト冠動脈血管内皮細胞において、テルミサルタン (Telmi)は、ミトコンドリア機能を増強した。Telmiにより細胞老化抑制効果、抗アポトーシス効果、血管新生増強効果が認められた。TelmiはAMPKを活性化しており、Telmiによるミトコンドリア機能増強効果や抗老化・抗アポトーシス作用は、AMPKの薬理学的・遺伝的阻害により打ち消された。
  381. 高血圧症における心房細動の一次予防に関する研究 25461079 2013-04-01 – 2016-03-31 基盤研究(C) 川崎医科大学 心エコー検査時洞調律で器質的心疾患を有しない高血圧患者1118例を対象とし、その後の心房細動発症に関与する背景因子ならびに心エコー指標を縦断的に調査した結果、多変量解析で有意な独立規定因子となったのは、年齢、喫煙歴、および慢性腎臓病(CKD)の合併であった。また、各種降圧薬ならびにスタチンが心房細動発症におよぼす影響を検討した結果、種々の交絡因子で調整した場合、レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬のみが心房細動の新規発症を有意に抑制していた。すなわち、日本人高血圧患者においてCKDの合併は心房細動発症の強力なリスク因子となり、一方RAS阻害薬は心房細動の新規発症を抑制することが示された。
  382. 心筋梗塞後の心不全発症を予測するマイクロRNAの同定 25461055 2013-04-01 – 2015-03-31 基盤研究(C) 大阪大学 平成25年度は心筋梗塞後の虚血性心不全発症にかかわるマイクロRNA候補を同定した。すなわち急性心筋梗塞慢性期の症例の血清において検討を行い、心筋梗塞後の虚血性心不全発症、および心血管死亡にp53関連のマイクロRNA(miRNA)が関与することを明らかにした。すなわち生存退院した急性心筋梗塞症例において、生存退院後1年以内に心不全を発症した症例ではmiRNA-34a,192,194(Circ Res 2013;113:322-6.)、早期に心血管死亡した症例ではmiRNA-380*の血清レベルが心血管事故に先行して生存退院時に既に上昇していることを明らかにした(Biochem Biophys Res Commun. 2012;427:280-4.)。さらに興味深いことに生存退院時のmiRNA-34aの血中レベルは1年後の左心室径と有意な相関を認めることも明らかにした(Circ Res 2013;113:322-6.,Circ Res 2013;113:e48-9.)。従来、心筋梗塞およぶ圧負荷モデルマウスにおいて心不全・心筋リモデリングの進展に腫瘍因子p53の活性化が関与することが示されており(Nature.2009;460:529-33.)、これらの結果は臨床例においてもその虚血性心不全発症にp53経路が関与することを明らかにする結果となった。平成26年は引き続きその機序に関する検討を行う予定であったが、主任研究者の大阪大学からの転出に伴い、平成26年度夏以降は予定していた検討が困難となった。そのため研究計画を変更し、大阪急性冠症候群研究会のデータベースを用いて、虚血性心不全の発症機序に関しての統計解析を推し進めた。その結果、近年の虚血性心不全の増加を明らかとするとともにそこには急性期医療の向上に伴う心筋梗塞急性期の予後改善の結果、生存退院症例の症例背景リスクが増大し、容易に虚血性心不全を発症する要因となっていることを明らかにした。本研究成果は現在論文化を行っており、平成27年度中の公表を目指している。
  383. 冠攣縮の日内変動におけるRhoキナーゼ活性の関与 25461038 2013-04-01 – 2016-03-31 基盤研究(C) 東北大学 本研究の目的は冠攣縮性狭心症(VSA)患者における日内変動のメカニズムを明らかにすることである。冠攣縮誘発試験を施行した連続49例において白血球Rho-kinase活性を1日3回(12時、21時、6時)測定した。VSA群のRho-kinase活性は6時に最高値を示し、対照群より有意に高値であり、両群間のRho-kinase活性変動パターンは異なっていた。さらにVSA群の白血球Rho-kinase活性は冠動脈basal tone、収縮反応と正相関し、交感神経活性とは負の相関を認めた。以上から、Rho-kinase活性はVSA発作の日内変動を生み出す機序に関与する可能性が示唆された。
  384. 生活習慣に潜む高密度リポタンパク質粒子の形態異常を引き起こすリスク因子の解析 25460779 2013-04-01 – 2015-03-31 基盤研究(C) 立教大学 近年、心筋梗塞・脳梗塞などの患者が急増しており、とりわけ、40~50代の発症が社会問題になっている。これらの疾病は、健康診断の項目の低密度リポタンパク質(LDL)や中性脂肪の量とは正の、高密度リポタンパク質(HDL)の量とは負の相関があるとされているが、心筋梗塞・脳梗塞の発症事例の中には、そのスクリーニングにひっかかっていないケースも多い。また、生活習慣と密接に関わっているとされているが、どのような因子がどのようにかかわっているかは明らかになっていない。我々は、生活習慣の違いにより、HDLの粒子に特殊な形態をもつものを見出した。HDLの質的解析により、脂質代謝のリスク予測ができる可能性がある。そこで、特殊なHDL形態について、生活習慣に潜む形態異常を示すリスク因子の解明、および、形態異常の生成メカニズムを解析することを目的とした。
    HDL粒子の走査プローブ顕微鏡(SPM)解析により、異常形態を示す検体を見出した。異常形態群と正常群に分類して、生化学検査値と比較すると、生化学検査値の異常値と異常形態とに相関があることがわかった。また生活習慣との相関があることがわかった。中でも喫煙、食生活の乱れ、運動不足が因子であることがわかった。
    さらにHDL粒子の凝集状態が異なることを見出した。凝集構造をとるものは、先のHDL粒子の異常形態のものと一致した。生活習慣が、生化学検査値のみならず、HDLの粒子形態そのものに影響を与えていることがわかった。

  385. 健診時系列データの混合効果モデルによる糖尿病と動脈硬化性疾患の発症要因の検討 25460770 2013-04-01 – 2016-03-31 基盤研究(C) 札幌医科大学 本研究では動脈硬化性疾患やその危険因子の発症にかかわる、健診での血圧や血液検査の経年齢的変化の影響について検討した。まず、3年間の研究期間で、地域住民健診を継続し、健康情報の入手、これまでのものに統合し30年間2000名の健診受診年の検査成績を含むデータベースを整備した。このデータベースを用い、混合効果モデルにより動脈硬化危険因子、動脈硬化疾患の進展についての解析を行った。
    今回は、インスリン抵抗性(IR)と血圧の関連について解析し、IRレベルが経年的な血圧レベルの上昇に関連することを明らかにした。また、トリグリセリド値にも同様の傾向があったが、他の脂質異常との関連は認められなかった。

  386. 急性冠症候群の系統的実態把握ならびに救急搬送・診療ストラテジーの確立に関する研究 25460750 2013-04-01 – 2017-03-31 基盤研究(C) 京都大学 本研究は、急性冠症候群(ACS)の治療成績改善を目指し、病院前の救急搬送体制及び、病院到着後の治療に関するデータベースを構築し、救急搬送されるACSの実態把握と課題の検討を目的とした。パイロット地域である大阪府泉州地域におけるデータ解析の結果、ACSと診断された症例351例のうち、救急隊が用いるプロトコルでACSが推定された患者は224例(63.6%)であった。ACSの危険性がある患者を広く抽出するプロトコルの開発と救急隊の患者アセスメント能力の強化が必要と考えられた。
    本研究を踏まえ,大阪府全域を網羅した救急搬送事例の登録システムの構築・運用に当たって必要な知見を提供している。
  387. ボトムアッププロテオミクスを応用した多因子遺伝性疾患感受性遺伝子検索 25460703 2013-04-01 – 2016-03-31 基盤研究(C) 日本大学 主に本態性高血圧症、脳梗塞、心筋梗塞、糖尿病の78症例を収集した。同意書取得後に採血しゲノムDNAを抽出した。家族歴を正確に聴取することで、遺伝性の関与を検証した。臨床データは、性別、年齢、当該疾患家族歴、身長、体重、Body mass index、総コレステロール、中性脂肪、HDLコレステロール、尿酸、血糖、尿データ、心電図、喫煙歴、飲酒歴をインプットした。血漿はディープフリーザに保存しMALDI-TOF MSによるプロテオミクス解析に使用した。ゲノミクス解析についてはエクソーム解析およびターゲットシークエンスに次世代シークエンサーを使用、個々の遺伝子の解析にはサンガー法を用いた。
  388. 血中sCLECー2測定法の臨床応用と実用化に向けた検討 25460677 2013-04-01 – 2016-03-31 基盤研究(C) 山梨大学 本研究では,sCLEC-2 測定の抗血小板薬のモニター法としての可能性を探るとともに,扁平上皮癌,セミノーマ,脳腫瘍などの転移予測,慢性関節リウマチ患者検体での病因マーカーの可能性を検討した.また,汎用装置に対応するsCLEC-2測定試薬の構築を目指した.sCLEC-2測定法は,生体内の血小板活性の指標となる簡便な検査であり,糖尿病性血管障害や慢性関節リウマチなどで健常者と比べて高値となることから,生体内の血小板活性化マーカーとなり得ることが示唆された.汎用装置に対応する測定試薬を構築できなかったが,新規の臨床検査項目としての応用が期待できる.
  389. 外国語学習における言語学習観の形成とパブリック・ディスコース 25370730 2013-04-01 – 2016-03-31 基盤研究(C) 玉川大学 本研究では外国語学習の動機付けを左右する学習観が学習者の発達段階でどのように形成されて行くのかを通時的な観点から論ずる。学習者が自らの外国語学習を振り返るインタビューの結果、成人マスメディアなどによって形成される言説に影響を受け、学習観を変化させていく事例がより顕著になることが分かった。学習者に継続的に必要な情報を与え、彼らが正しい判断を行うよう援助することが外国語教育従事者の義務である。
  390. 罹病高齢者の生活習慣病修飾因子と生命予後情報を用いた運動処方最適化指針基盤の確立 25350910 2013-04-01 – 2016-03-31 基盤研究(C) 関西学院大学 国民的疾患である心筋梗塞発症後において適切な運動が、長期予後を改善することが期待されている。しかし、real-worldでの実情は明らかでなく、大阪急性冠症候群研究会に登録された急性心筋梗塞生存退院例5170例において運動習慣・能力との5年予後との関連の調査を行い運動の意義について検討した。退院後の定期的運動習慣は22.3%のみに認められ、5年間の累積死亡率は3.47%と非定期的運動群7.94%に比し有意に少ないが、梗塞サイズなどの多変量解析により有意差は消失した。しかし高運動強度、運動習慣の獲得と予後改善効果は有意に関連しており、心筋梗塞後の運動習慣獲得の意義が示された。
  391. 動脈壁と周囲脂肪組織における慢性炎症の可視化と病態解明 25293184 2013-04-01 – 2016-03-31 基盤研究(B) 徳島大学 慢性炎症の起点となるインフラマソームの活性化をCaspase1活性をでFRETを用いて評価する系の確立を試みたが困難を極めた。また他のグループから、当初の計画では低強度の慢性炎症を可視化することが不可能であることが報告された。そこで、慢性炎症の機序を明らかにすることにした。肥大化によって変性した脂肪細胞から遊離したDNA断片が病原体センサーを活性化することで、無菌的慢性炎症の契機となるという仮説を、遺伝子改変マウスやオリゴヌクレオチドを用いた実験で証明した。変性脂肪細胞から遊離するDNA断片が、TLR9を介してマクロファージを活性化することで脂肪組織の慢性炎症を引き起こすことが明らかとなった。
  392. 都市部一般住民を対象とした心房細動の実態とリスクスコアー作成に関する研究 25293147 2013-04-01 – 2016-03-31 基盤研究(B) 国立研究開発法人国立循環器病研究センター 心房細動のリスクスコアーを作成し、我が国の心房細動予防に貢献できるエビデンスを提示することを目的とした。
    都市部地域住民を対象に追跡可能な6906名を平均12.8年間追跡し、追跡期間中に心房細動253名が罹病した。年齢、性別、body mass indexと収縮期血圧の組み合わせ(収縮期前高血圧で過体重、収縮期高)、血圧で正常体重または過体重、弁膜症または心雑音、虚血性心疾患、喫煙(20本未満、20本以上)、過剰飲酒は心房細動罹病リスクと関係がみられた(C検定0.73、95%信頼区間0.70-0.75)。これらの組み合わせで心房細動のリスクスコアーが検討した。
  393. 新しい網膜血管イメージング・バイオマーカーを応用した循環器疾患の発症予測 25293138 2013-04-01 – 2016-03-31 基盤研究(B) 山形大学 背景:網膜血管系は生体下で唯一直接血管を観察できる「窓」であり、高血圧や細動脈硬化の評価は循環器検診で用いられてきた。従来の方法では再現性が低く、定量的な新しい網膜血管解析法が望まれていた。目的:より精度の高い循環器疾患のイメージング・バイオマーカーとして改めて網膜血管の定量的評価指標が持つ意義を評価した。結果:網膜血管性疾患の存在は有意に脳卒中のイベント発症の危険が高く、また、網膜血管径は喫煙者における呼吸機能悪化につながる喫煙感受性の他、微量アルブミン尿、インスリン抵抗性など循環器危険因子と密接な関連があることが明らかとなった。
  394. 生活習慣病予知のための医療健康データ解析による日常生活と発症の潜在的機構解明 25240038 2013-05-31 – 2017-03-31 基盤研究(A) 兵庫県立大学 本研究では以下の成果を得た.1.ファジィ集合を利用した健診データの分析手法を提案した.2.定期健康診断の結果を活用し,個別に予測した糖尿病発症リスクを提示できた.3.自己組織化マップを使用して,糖尿病の指標であるHbA1cと他の検査項目との関わりを調査した.4.心電,気温,湿度等を計測できる多機能ウェアラブルセンサを装着して日常生活中のデータ取得し,これを通常の状態と定義し,この状態から逸脱する,もしくは逸脱へと向かう状態を検出できた.5.脳動脈瘤の先制医療実現に向け,大脳動脈輪三次元形状から得られる血管構造の形状や血管分岐角度に注目することにより,脳動脈瘤発生予測システムを構築した.
  395. 細胞周期を可視化する蛍光プローブを用いた新規の心筋細胞周期調節因子の探索 24890227 2012-08-31 – 2014-03-31 研究活動スタート支援 慶應義塾大学 終末分化した心筋細胞はほとんど細胞分裂しないため、自己修復できないことが末期心不全の難治性を規定する大きな要因となる。心筋細胞を再び細胞分裂させ、組織を再生することができれば、末期心不全患者の根治的な治療法を確立することができる。そのため我々は、心筋細胞の増殖を調節している機構を解析し、心筋細胞の細胞周期を制御している新たな調節因子を探索することを目的として研究を計画した。我々は心筋細胞の増殖期において発現量が変化しているタンパク質を同定した。現在はこのタンパク質を心筋細胞の細胞周期を調節する新たな候補分子として、心筋細胞レベルもしくは動物レベルでの解析を進めている。
  396. 核医学画像診断による放射線心筋障害の早期検出のための前向き研究 24791267 2012-04-01 – 2016-03-31 若手研究(B) 東北大学 本研究の目的は、放射線治療による心筋障害の予測における、核医学画像診断の有用性を検討することである。早期食道癌に対する根治的化学放射線療法を施行した12症例を対象とし、治療前後の心筋脂肪酸代謝障害を、放射性薬剤(I-123 BMIPP)とSPECT/CTを用いて計測し、心筋への照射線量との相関を検討した。boost照射前・照射3ヶ月後では、心筋脂肪酸代謝障害と心筋照射線量に相関が見られたが、照射1年では、相関は認められなかった。本結果から、化学放射線療法後の長期的な心筋脂肪酸代謝障害は、心筋照射線量のみでは予測困難と考えられ、核医学画像診断は、長期的な心筋障害の予測に資する可能性が示唆された。
  397. 循環器系疾患の病態解析と循環器予防学の確立 24790744 2012-04-01 – 2015-03-31 若手研究(B) 東京大学 近年、循環器疾患の罹患率上昇に伴い、動脈硬化性疾患予備群の増加が危惧されている。疾病の予防と早期発見を目指す予防医学に欠かせないのは疫学研究であり、健常人の集団から均質的な情報を引き出し包括的な臨床研究を行うことは重要である。申請者は、東京大学検診部のデータベース構築に携わり、横断・コホート研究を多面的に行ってきた。酸化ストレスに着目した研究では、生体内の酸化促進因子である慢性炎症や感染が動脈硬化に及ぼす影響に焦点をおき、鉄過剰状態が、動脈硬化を促進的することを見出した他、凍結保血清の酸化促進因子を測定し影響を分析した。また、潜在的な甲状腺機能異常と循環器疾患の関りについても新たな知見を得た。
  398. 疾病負担の将来推計に関する研究 24790520 2012-04-01 – 2016-03-31 若手研究(B) 東邦大学 傷病による社会的な費用を測定する手段であるCost of Illness(以下COI)研究は、傷病や傷病群分類別に経済的な負担を測定することで、傷病に罹患しないとした場合に得られる金銭的価値や、潜在的に節約することが可能な金額を推計する。そのためCOI研究で得られる結果は、限りある資源を使って提供される医療サービスの資源配分や、優先順位を決める場面で重要な役割を担う。
    本研究では、国内外におけるCOI研究の現況と課題を明らかにし、我が国の悪性新生物等に関するCOIの将来推計を同一の方法を用いて行うとともに、COI値の変化に寄与する要因を傷病毎に明らかにした。
  399. 移植用自己拍動心筋細胞作成のための心筋分化用基材の開発 24659597 2012-04-01 – 2014-03-31 挑戦的萌芽研究 独立行政法人国立循環器病研究センター 幹細胞移植による心疾患治療は、終末医療としての体内埋込み型補助人工心臓に代わる根治的治療法として重要であるが、拍動する心筋細胞の入手は容易でない。間葉系幹細胞から自立拍動する心筋細胞を得ることに成功したがその効率も極めて低い。そこで、様々な組成および力学特性を有する人工細胞外マトリックスニッチェ上で、iPS細胞および新生ラット心筋細胞を培養し、心筋分化、拍動関連タンパク質発現、拍動開始、拍動継続期間与えるニッチェの影響を解明した。それぞれのステップにおいて、異なった培養環境が最適であること、さらに未分化維持における有用な培養環境が存在することも示唆される結果を得た。
  400. 早期喫煙暴露とCOPD患者における頸動脈内膜中膜複合体肥厚度の関係 24659246 2012-04-01 – 2014-03-31 挑戦的萌芽研究 東海大学 頸動脈内膜中膜複合体肥厚度(IMT)を用いて、動脈硬化による血管壁の肥厚を測定し、心血管イベントの発症リスクと早期喫煙暴露の関係を調べた。結果、COPDを合併した患者群では、非合併群よりも動脈硬化の状態が進行していた。特にCOPDにおける早期喫煙暴露群でIMT値の有意な上昇を認めた。本成績は、早期喫煙暴露はCOPD患者の中でも動脈硬化性変化を一段と助長し、脳血管障害のみでなく、心血管イベント発症の危険とも相関し、COPDにおけるこれらの合併症の発症リスクを高めることに繋がることが示唆された。今後、IMTの計測を行うことで、COPDにおける併存症・合併症の予測因子になることが考えられる。
  401. ゲノム情報や視細胞の形態・生理に基づく加齢黄斑変性の僚眼発症予測モデルの確立 24592626 2012-04-01 – 2015-03-31 基盤研究(C) 京都大学 この研究は、ゲノム情報や視細胞の形態・生理変化に基づく加齢黄斑変性の僚眼発症予測モデルの確立を目的として計画された研究である。
    3年間の研究期間全体を通しては、2眼目発症予測モデルに用いる予測因子の選定、一般的予測因子のデータ収集、ARMS遺伝子のA69S多型をはじめとした複数の関連遺伝子からなる遺伝子スコアの決定、補償光学を適用した走査レーザー検眼鏡の測定条件決定とデータ収集及び解析、で得られたデータを統合的に解析し、加齢黄斑変性の両眼発症の時期や可能性の予測モデルを作成した。

  402. 不全心筋におけるミトコンドリア品質管理因子の制御機構解明及び治療への応用 24591102 2012-04-01 – 2015-03-31 基盤研究(C) 京都薬科大学 ラット培養心筋細胞及び心筋梗塞モデルを用いて、ミトコンドリア(MIT)機能、形態、品質制御因子(融合(OPA1)、分裂(Drp1)、ミトファジー(Parkin))の関連を検討した。培養細胞へのノルエピネフリン投与は細胞死を増強し、断片化MITを増加させたが、Drp1、Parkinの減弱が認められ、障害MIT除去機構不全が認められた。低酸素再酸素化障害では細胞死増加、MIT膜電位低下及び断片化を認め、Drp1、Parkinの増加が認められた。GLP1作動薬はこれらを改善しATPを保持した。
    心筋梗塞後心不全モデルでは脂肪酸のEPAが心不全を軽減し、OPA1を維持しMIT形態・機能を改善した。
  403. 抗加齢に着目した難治性心不全に対する新しい治療法の開発 24591100 2012-04-01 – 2015-03-31 基盤研究(C) 福島県立医科大学 野生型マウス、SMP30遺伝子ノックアウトマウス、心筋細胞にのみSMP30遺伝子を選択的に過剰発現したトランスジェニックマウスにドキソルビシンを投与した。ノックアウトマウスではドキソルビシンによる心機能低下が増悪し、酸化ストレスによるアポト-シスシグナルの活性化を認めた。一方、心筋細胞に抗加齢遺伝子SMP30を高発現することで、ドキソルビシンによる酸化ストレスの抑制とアポト-シスシグナル抑制が認められ、SMP30 のドキソルビシンに対する心保護作用を直接的に示すことができた。
  404. SIRS治療のためのPTX3吸着カラムの開発 24591070 2012-04-01 – 2018-03-31 基盤研究(C) 順天堂大学 PTX3カラムのヒストンの非特異的吸着は、PTX3塩基配列の調節、ビーズの種類、ブロッキングバッファーの調整等々試みたが、ついには解決に至らなかった。PTX3とヒストンの結合のメカニズムについて検討した。リコンビナントPTX3とヒストン4 (H4)を結合反応させたのち、電子顕微鏡で観察するとタンパク質構造が失われているほどの強い凝集反応観察された。このあまりに強い凝固凝集反応が、カラム作成における非特異的結合の原因になると考えられた。しかしこの強い凝固反応が、ヒト内皮細胞に対するヒストンの細胞毒性をPTX3添加で抑制されるメカニズムであることがわかった。
  405. 心臓リハビリテーション療法へのマイオカインおよび心血管機能による多面的アプローチ 24591066 2012-04-01 – 2015-03-31 基盤研究(C) 大阪市立大学 マイオカインは、筋性由来の分泌蛋白質の総称であり、新しく提唱された概念である。マイオカインについては、慢性心不全への心臓リハビリテーション療法との関連性については知られていない。今回の研究では、心臓リハビリテーション療法において、優位にマイオカインであるBDNF、irisinの上昇が認めら、それらの値が高いグループでは優位に主要有害心イベント発生が低かった。マイオカインは、今後、本治療法の効果指標や予後規定の指標として臨床応用できる可能性があると考えられた。
  406. バイオマーカーを用いた急性冠症候群の病態解明と早期診断確立に向けた研究 24591064 2012-04-01 – 2015-03-31 基盤研究(C) 福島県立医科大学 急性冠症候群の早期診断に役立つ可能性のあるバイオマーカーとして、ネオプテリン、レクチン様酸化LDL受容体-1(LOX-1)、テネイシンC、COヘモグロビン、アクロレイン、RAGE(receptor for AGE: advanced glycation end products)およびHMGB-1(high mobility group box 1)について、その血中濃度を急性冠症候群患者の採血サンプルと安定狭心症患者のものを比較することで検討した。このうち、LOX-1およびテネイシンCの血中濃度は急性冠症候群患者で有意に上昇しており、その早期診断に役立つ可能性が示された。
  407. 循環器病における時計遺伝子の解析 24591060 2012-04-01 – 2015-03-31 基盤研究(C) 佐賀大学 運動の体内リズムへの作用の検討の為、毛包細胞を使い時計遺伝子活性を測定した。就寝前の過度の運動により、PER3の位相が有意に偏位した。一方、PER3の振幅は有意差がなかった。過剰な夜間の運動がPER3の位相の変化をもたらし、睡眠の質に影響を与えることが示唆された。運動療法がリズム異常による病気の治療になる可能性と、アスリートが体内リズムを正常に維持し、適正な運動効率を保つためには厳格な運動時間のスケジュール管理が必要である。
  408. 加算微分fQRSを用いた新しい心臓突然死リスク予測法 24591051 2012-04-01 – 2015-03-31 基盤研究(C) 岡山大学 QRS波形加算微分解析システムのソフトウェアを開発、使用し、分裂性QRS(fQRS)の意義を、様々な心疾患で検討した。Brugada症候群患者321例ではfQRS、早期再分極、ST自然変動が心室細動の予測因子となることが判明した。心室細動の発症時には、有意なfQRS波形の増悪がみられ、潜在的な心筋障害の進行が心室細動発生に重要であることを報告した。
    拡張型心筋症78例の検討では、fQRSの存在は、心不全の有意な予測因子であった。サルコイドーシス患者127例では心室頻拍例ではfQRS陽性率が高率で、心室頻拍発生の予測因子となった。
  409. 心筋症における心筋蛋白遺伝子発現と運動耐容能評価による新規病態解明 24591046 2012-04-01 – 2016-03-31 基盤研究(C) 名古屋大学 拡張型心筋症において,心肺運動負荷試験による運動耐容能の評価は,肺高血圧症の合併を見出すことができる。また,肺高血圧症を合併した拡張型心筋症は,比較的短期間での心臓死を起こす独立した予後規定因子であったことから,心肺運動負荷試験における運動耐容能の評価は,重要な非侵襲的生理学的検査として,重症心不全においても積極的に行うべきであることを示した。拡張型心筋症において,心筋遺伝子発現であるCaハンドリングやミトコンドリア関連蛋白と心筋拡張障害との関連を報告した。
  410. 超音波と光干渉波を組み合わせた新しい冠動脈不安定プラーク診断装置の開発 24591043 2012-04-01 – 2015-03-31 基盤研究(C) 岐阜大学 急性心筋梗塞の主な成因は不安定プラークの破裂と血栓形成である。従って、心臓の動脈に存在する不安定プラークの検出が可能になれば、急性心筋梗塞の発症の予測と予防が可能となる。現在、不安定プラークの画像化には血管内超音波画像と光干渉波断層像があるが、それぞれには長所と短所がある。本研究の目的の1つである、二つの方法を同時に行う技術の開発は、光干渉波断層像自体がワイヤー型からカテーテル型に変更されたので、血管内超音波カテーテルの内腔に光干渉波ワイヤーを挿入することは不可能になったが、もう1つの目的であるプラークの変形の度合いを画像化する技術の開発に関しては、オフラインで表示が可能となりつつある。
  411. 高温暴露時の心臓への熱による直接的傷害の機序解明 24590853 2012-04-01 – 2015-03-31 基盤研究(C) 三重大学 心疾患は熱中症発症のリスクファクターの一つとされているが、そのメカニズムについては詳細な報告はない。そこで、心筋梗塞モデルラットに熱暴露を行い、心疾患と熱暴露の関係について検討した。
    本研究では健常心と比較して、心疾患(心筋梗塞)がある場合には、熱暴露直後から心臓の傷害を示す指標の上昇がみられ、熱暴露による心臓への直接的な傷害があったことを示している。また、熱暴露後でも、数時間にわたり心筋傷害や心筋虚血などの形で心負荷が継続する可能性が示唆された。これらのことから、心疾患がある場合には、健常心より熱暴露に対してより脆弱であり、熱暴露における熱中症発症・増悪リスクを高めていると考えられる。
  412. 冠動脈疾患の特異的な新規予測マーカーの疫学的検討 24590792 2012-04-01 – 2015-03-31 基盤研究(C) 大阪大学 冠動脈疾患新規発症者120人と対照240人におけるコホート内症例対照研究の結果、高感度心臓トロポニンT(hs-cTnT)第1四分位群(≦0.004ng/mL)に対する冠動脈疾患発症の多変量調整オッズ比は、第3四分位群2.50(1.08-5.77)、第4四分位群2.61 (1.10-6.20)と有意な関連が認められた。また、循環器ドック受診者870人を対象とした横断研究の結果、hs-cTnT≦0.003ng/mL群に対する冠動脈石灰化有所見の多変量調整オッズ比は0.004-0.005ng/mL群で2.12(1.08-4.35)、0.006ng/mL以上群で1.54(0.72-3.28)であった。
  413. 血管内皮機能障害と高血圧発症・進展に関する疫学研究 24590790 2012-04-01 – 2015-03-31 基盤研究(C) 大阪大学 本研究は、地域一般住民男女を対象として、血流依存性血管拡張反応(FMD)検査、中心動脈圧・上腕血圧の測定を実施した。血管内皮機能障害の指標としてFMDを用いて、血管内皮機能の障害と血圧との関連を分析した。その結果、FMD値と収縮期血圧・拡張期血圧、中心動脈圧及び多量飲酒とは負の相関を示した。また、中心動脈圧値と心電図ST-T異常・左室肥大との関連は、収縮期血圧とは独立して、正の相関を示した。
  414. 慢性腎臓病の早期発見と末期腎不全・心血管障害予防のための個別化予防システムの開発 24590746 2012-04-01 – 2015-03-31 基盤研究(C) 三重大学 慢性腎臓病252例・対照249例においてゲノム全領域関連解析を行い、慢性腎臓病に関連する遺伝子多型を5個抽出した。さらに別の2つの集団(慢性腎臓病 910人・対照 838人および慢性腎臓病 190人、対照 1412人)において再現性を検証し、慢性腎臓病に関連する染色体3q28領域のA→G多型(rs9846911)を同定した。また糖尿病性腎症に関連するALPK1遺伝子A→G多型(rs2074381)とG→A多型(rs2074380)を発見した。慢性腎臓病感受性遺伝子多型加え、年齢・性別・肥満・喫煙・高血圧・糖尿病・脂質異常症を包括した慢性腎臓病の個別化予防システムのプロトタイプモデルを開発した。
  415. 血管平滑筋細胞の多彩な形質転換を制御するリゾフォスファチジン酸シグナリングの解析 24590462 2012-04-01 – 2015-03-31 基盤研究(C) 久留米大学(2014) / 琉球大学(2012-2013) 動脈硬化病変で酸化LDLを起源として合成されるリゾフォスファチジン酸LPAは血管平滑筋細胞の多彩な形質転換を誘導する因子として病変形成に関与する。本研究では培養平滑筋細胞で従来知られていたEDG型レセプターアイソフォーム(LPA1-3)よりも非EDG型のレセプター(LPA4-6)の発現レベルが相対的に高く、非EDG型のレセプター下流ではEDG型レセプター下流とは異なる様式の転写因子活性の調整を介して細胞機能の調整に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
  416. 酸化ストレス・病態マーカーとなる酸化リン脂質の高感度定量系の構築 24590094 2012-04-01 – 2015-03-31 基盤研究(C) 昭和大学 動脈硬化症の発症要因である生体内の酸化LDLは、これまでその性状がほとんど分かっていなかった。本研究では、①LC-MS/MSを用いて酸化ホスファチジルコリン(PC)の高感度定量法を構築し、LDL酸化過程で生じる種々酸化PCやリゾPCを検出できるようにした。②陰イオン交換カラムとモノクローナル抗体を用いて、電気泳動度の増加、抗酸化PC抗体陽性を示すヒト血漿中の酸化LDLの分離に初めて成功した。酸化LDLは、全身性あるいは組織局所での酸化ストレスを評価するマーカーとなる可能性が期待できる。
  417. 糖尿病合併症の発症を予防する食品因子の探索とその作用機序解明 24500986 2012-04-01 – 2018-03-31 基盤研究(C) 修文大学(2017) / 名古屋大学(2014-2016) / 京都府立医科大学(2012-2013) 糖尿病では高血糖によりメチルグリオキサール(MG)がタンパク質特に抗酸化酵素ペルオキシレドキシン6(Prx6)を修飾する。本研究においてMG修飾によるPrx6失活の機構解析を行った。また、血液に含まれるPrx6は主要な抗酸化酵素であり、発現量も多くヘモグロビンと並んで血糖値の影響を受けやすく、有望な指標と考えられる。そこで、糖尿病合併症の発症前段階を血液数マイクロリットルで精度高く判定可能なMG修飾Prx6を指標とした測定系の確立を目指した。さらに、この測定系を利用し、食品因子を生体レベルで評価し、食品の機能性因子による糖尿病合併症発症予防作用機序の分子メカニズム解析を行うことを目的とした。
  418. 担子菌の発酵能による機能性大豆の開発 24500960 2012-04-01 – 2016-03-31 基盤研究(C) 武庫川女子大学 ヤマブシタケは小さめの粒度、シイタケは大きめの粒度で、生理活性やイソフラボン濃度、核酸濃度が高くなることが判明した。また、マウスを用い発酵黒大豆が安全であることを明らかにした。発酵することで新たな機能性が付加され、また、スエヒロタケにおいて抗酸化活性が著しく高値を示す味噌を作成することができた。さらに、アレルゲンタンパク質の低下も観察され、機能性を有する黒大豆味噌の試作に成功した。
    スエヒロタケで発酵させた発酵黒大豆中に、エクオールを検出することができた。つまり、腸内の乳酸菌でなければ作ることができないと考えられてきたエクオールを、担子菌発酵で製造することの可能性を示唆した。

  419. 南アジアと日本における若年冠動脈疾患患者の新しい危険因子の同定とその予防法の開発 24406026 2012-04-01 – 2015-03-31 基盤研究(B) 独立行政法人国立国際医療研究センター バングラデシュで心血管危険因子について調査を行った。危険因子は不健康な食事(86.9%)たばこ(53.5%)活動量の低下(41.4%)高血圧(28.5%)過体重(24.1%)内臓肥満(19.7%)空腹時血糖上昇(10.2%)HDL-コレステロール低値(65.7%)総コレステロール高値(35.6%)中性脂肪高値(33.8%)であった。
    急性冠症候群の若年の患者の危険因子は、糖尿病(17.4%)高血圧(28.77%)低HDLコレステロール(61.19%)中性脂肪高値(44.29%)過体重(19.49%)肥満(4.73%) であった。高齢発症の患者の危険因子と較べて違いが見られた。

  420. 入浴事故の実態解明と入浴の安全性および危機管理システム構築に関する研究 24390492 2012-04-01 – 2016-03-31 基盤研究(B) 群馬県立県民健康科学大学 入浴事故は後期高齢者に多く、その要因は明らかではない。しかし、今回、入浴事故からの生存者を含めた調査を実施した結果、入浴中に「意識障害と失神」の発生が最も多く、しかも浴槽内、洗い場、脱衣室の順に多発していることが分かった。
    次に入浴中の「意識障害と失神」の誘因は、浴槽内で身体を温めた後の起立動作による立ちくらみと関連づけて実験を行った。その結果、入浴5分後の起立動作保持で脳血流(oxy Hb)と収縮期血圧の有意な低下、脈拍が増加することが分かった。
  421. 血小板細胞の構成論的理解による心筋梗塞発症メカニズムの理解と制御法の開発 24390202 2012-04-01 – 2017-03-31 基盤研究(B) 東海大学 心筋梗塞などの血栓性疾患の発症に血小板細胞は必須の役割を演じる。血流による血管壁損傷部位への血小板の運搬と接着、接着部位から局所的に開始される細胞内活性化シグナル伝達とエネルギー代謝の連成、活性化血小板から生理活性物質の局所放出とその物質拡散におよぼす血流の影響、活性化血小板膜上のおける凝固系の活性化など血栓イベント発症における血小板の生理機能をコンピューターシミュレーターを用いて構成論的に理解する。血小板細胞接着現象は膜糖蛋白GPIbとvon Willebrand因子の結合のみにより仲介される。両蛋白質と周囲の水分子を構成する全原子の運動から、両分子の接着構造、接着力を予測する。
  422. 慢性腎臓病における骨・血管連関の分子メカニズムの解明と心血管リスク予測への応用 24390194 2012-04-01 – 2015-03-31 基盤研究(B) 群馬大学 FGF23は骨細胞が産生するリン利尿ホルモンである。腎臓でのFGF23/Klotho系の機能低下は、高リン血症、高カルシウム血症、高1,25(OH)2D血症、高FGF23血症が起こし、血管石灰化につながる。私たちは、FGF23の血管平滑筋細胞への直接作用を解析した。培養ヒト大動脈血管平滑筋細胞にリコンビナントFGF23を添加することによって骨芽細胞の分化マーカーの発現が抑制さて、逆に骨分化抑制作用をもつオステオプロテジェリン(OPG)の発現が増加した。FGF23は転写レベルでOPGの発現を誘導した。この効果はKlothoに依存することも明らかにした。
  423. サイクロフィリンを基盤とする心血管病の成因解明と新しい診断・予防・治療法の開発 24390193 2012-04-01 – 2016-03-31 基盤研究(B) 東北大学 心血管病発症における酸化ストレス分泌蛋白 Cyclophilin A (CyPA)の基礎的・臨床的有用性については、研究目的をほぼ達成できた。遺伝子改変動物を用いた基礎研究を継続し、CyPAが動脈硬化・大動脈瘤・心不全・肺高血圧症にとって重要な促進蛋白であることを証明した。また、基礎研究の成果を昇華させるべく、心血管病患者由来の組織や血清を用いた血清学的診断法の開発を行った。特に、冠動脈疾患や肺高血圧症患者の重症度に応じて、血漿中CyPA濃度が高くなることや、CyPA高値群は長期生命予後が著しく悪いことを証明した。助成期間内に計42演題の国際学会発表および計36本の英文論文発表を行った。
  424. 骨折リスク評価を基盤に関連疾患の同時対策を目指す男性骨粗鬆症コホート5年次追跡 24390170 2012-04-01 – 2015-03-31 基盤研究(B) 近畿大学 藤原京スタディ男性骨粗鬆症研究参加者を5年追跡して新規骨折を把握し、骨折リスク評価モデルFRAXの有用性を確認し、骨折と死亡、心血管疾患との関連を検討した。
    主要骨粗鬆症性骨折(MOF)をFRAXの予測確率で予測した場合のROC曲線下面積は0.681だった。新規骨折は死亡のリスクをfrailty indicesを調整しても2.75倍に上げた。MOFを起こすとdefinite anginaのリスクが2.9倍になった。
    日本人男性においてもFRAXはある程度の骨折予測性能を持つが、改良の余地があった。骨折は死亡のリスクを上げ、その一部は虚血性心疾患である可能性が示唆された。
  425. 健康科学と臨床医学を統合した日本人における生活習慣病の予防・治療のエビデンス確立 24300233 2012-04-01 – 2016-03-31 基盤研究(B) 新潟大学 [1] 各種生活習慣病とその危険因子・治療法に関する定量的メタアナリシス、[2] 若年者における運動習慣の効用に関するコホート研究、[3] 若年者における食習慣の影響に関するコホート研究、[4]生活習慣を考慮したより効率的な生活習慣病スクリーニングの開発、[5] 生活習慣病患者における合併症予防に関わる因子の解明、[6] 生活習慣・健康科学情報リテラシー確立のための方策の検討、を行い、その成果は、極めて多数の国際誌英文論文、内外の招待講演やシンポジウム、メディアなどで発表した。学会診療ガイドラインへの採用を始め、生活習慣病予防・治療の現場に役立つ科学的エビデンスを多数樹立できた。
  426. 地域在住高齢者のQOLと生活機能の低下要因に関する大規模コホート研究 24249043 2012-04-01 – 2015-03-31 基盤研究(A) 奈良県立医科大学 本研究は、高齢期の生活機能の低下とQOL(Quality of Life, 生活の質)の低下につながる可能性の高い認知機能障害、うつ、聴覚障害、嚥下障害、排尿障害、慢性閉塞性肺疾患、眼疾患の危険因子と防御因子を検討することを目的とした前向きコホート研究である。対象者は地域在住の自立高齢者4,427名であり、本研究期間中に5年次追跡健診を実施した。歯牙喪失(軽度認知障害と嚥下障害の危険要因)、メタボリックシンドローム(抑うつの危険要因)、排尿症状あり(夜間頻尿の危険要因)、地域活動への不参加は高齢期の生活機能とQOLの低下に関与していることが示された。
  427. 当事者研究による発達障害原理の内部観測理論構築とその治療的意義 24119006 2012-06-28 – 2017-03-31 複合領域 新学術領域研究(研究領域提案型) 東京大学 当事者研究には、他の研究と同様、新しい知識を「発見」するための方法という側面と、生きやすさをもたらす「回復」の側面がある。
    まず発見については、自閉スペクトラム症のメカニズムに関して当事者研究の中で提案された「情報のまとめあげ困難説」を、他分野の専門家と協力しながら理論的に精緻化した。またその仮説を、発声制御、顔認知、パーソナルスペース、ボディイメージ、聴覚過敏や慢性疼痛などに適用して検証実験を行った。
    次に回復については、横断調査、追跡調査によって効果検証を行うとともに、当事者研究の方法をプロトコール化し、当事者主導型の臨床研究による介入研究を行った。

  428. 共働き夫婦における関係焦点型コーピングの検討-育児と就業の両立に注目して- 12J08092 2012 – 2013 特別研究員奨励費 東北大学 当該年度は, 学術振興会特別研究員の最終年度であり、主に研究成果の報告を行った。
    昨年度の成果を含めた内容は、日本心理学会の小講演にて発表され、国内の研究者と意見交換した。小講演では、1. 関係焦点型コーピングは, 先行研究が対象としてきた疾病を抱える夫婦のストレスに限定されず, 夫婦げんかや仕事と家庭の両立困難など, より一般的な夫婦間ストレス場面に適応可能な概念である, 2. 発生した夫婦間ストレス場面の収束には積極的な話し合いが有効であり, ストレス場面の予防には自分が我慢することや相手との距離を置くコーピングが有効であること, 3. ポジティブなスピルオーバーは, 相手と積極的に話し合うなどの適応的なコーピングにつながることを報告した。また、夫婦ペアデータを統計的に再分析し、関係焦点型コーピングの使用が本人に与える影響(本人効果)とその配偶者に与える影響(配偶者効果)を検証した。本人効果としては、積極的な関係維持は、行う本人の精神的健康度や結婚満足度の高さにつながり、回避的関係維持は行う本人の結婚満足度の低さとつながっていた。調査としては, 専業主婦5組を対象に夫婦合同面接(ジョイント・インタビュー)をおこない, ストレスと対処のパターンをまとめた。結果、ストレス場面の深刻度や解決可能性が、関係焦点型コーピングの有効性に影響することが示された。また、共働き夫婦と専業主婦家庭の違いとして、家事と家庭内の役割分担(妻が家事育児に専念するか、妻がフルタイムで働いているか)がストレス場面に影響することが見受けられた。この内容に関しては、昨年度までの共働き夫婦の夫婦同時面接のデータとあわせ、今後、論文投稿していく予定である。
    個人内にとどまらず, 職場との関係, 及び配偶者との関係でストレスとコーピングを捉えなおした点が本研究の意義である。 (抄録なし)
  429. 酸素代謝をターゲットにした新規心不全治療薬の開発 23790850 2011 – 2012 若手研究(B) 大阪大学 本研究は慢性心不全の運動耐容能改善薬として、ヘモグロビン酸素親和性を下げる RSR13 を元に、より効果の高い薬剤を探索する事である。 RSR13 は、その芳香環がヘモグロビンポケットにはまり込む事により、その効果を発する。 RSR13 の芳香環の側鎖を大きくすると薬剤効果が大きくなるが、大きくなりすぎるとヘモグロビンは変性した。 RSR13 の骨格を変更する事でも、薬剤効果が大きくなる事が明らかとなった
  430. 睡眠呼吸障害のスクリーニング・治療における費用対効果の検討 23790567 2011 – 2013 若手研究(B) 独立行政法人国立循環器病研究センター 睡眠時無呼吸症候群を中心とした睡眠呼吸障害(SDB)は、交通事故や産業事故などに加え、循環器系疾患の発生リスクを増大させることから、二次予防の面で非常に重要な疾患である。しかしながら、症状を自覚していない患者に対し、積極的に診断・治療することについては議論がある。本研究では、SDBのスクリーニングによる患者の早期発見・治療が、交通事故や将来の循環器系疾患の発症の減少といった社会的にもたらす効果を、マルコフモデルを用いた費用対効果分析により検討した。SDBのスクリーニングを実施することは、イギリスのNICEで取り入れられている医療技術の基準を用いて評価した場合、費用対効果が高いことが示唆された。
  431. 慢性心不全患者に対する入院早期からの神経筋電気刺激の効果と安全性に関する研究 23700622 2011 – 2013 若手研究(B) 北里大学 神経筋電気刺激療法(NMES)は、骨格筋の萎縮予防に効果的であることが分かっているが、急性期の心疾患患者や左室補助人工心臓が装着された患者に対する効果は明らかでない。本研究は、NMESが急性期の心疾患患者やLVAD患者に有効であるか否かを検討した。
    その結果、NMESにより過剰な交感神経活動を亢進せずに,血管内皮機能や末梢循環動態の増加が認められた。また、短期間のNMES介入によってLVAD患者の筋力、バランス機能や歩行能力が改善した。
    急性期の心疾患やLVADが挿入された心不全患者に対するNMESは、心臓に過剰な負担をかけることなく、運動機能、歩行能力および血管機能の改善をもたらす可能性がある。
  432. 非ガウス統計を応用した心拍変動解析法の開発と生体情報計測への応用 23700544 2011 – 2013 若手研究(B) 大阪大学(2012-2013) / 日本大学(2011) 生体信号時系列の確率分布に見られる正規分布からの乖離(非ガウス性)を定量化する時系列解析法を開発した.ここでは,非ガウス時系列の非対称性に対して中央値まわりの変動を正負の方向に分解し,それらを局所半正規分布で近似することで非対称な変動特性を評価する方法を開発した.この方法を健常人の心拍変動時系列に応用し,加齢の影響が時系列の非対称性に見られることを明らかにした.また,広いクラスの対称非ガウス分布に対して,相乗分解による非ガウス性の統計的評価法を開発した.この方法を,心疾患患者の心拍変動解析に応用した結果,分布の裾の形状が予後の予測因子である可能性が示された.
  433. 全血液成分を対象とするプロテオミクスによる脳低体温療法に関する網羅的研究 23659845 2011 – 2013 挑戦的萌芽研究 島根大学 蘇生後脳症に対する脳低体温療法を実施した9症例の低体温導入直前、導入24時間経過後、復温終了の3時点で採血した。血漿サンプルのプロテオミクス解析にて、188個の蛋白質を同定し、低体温導入と復温による蛋白質発現変化をバイオインフォマティクスにて解析した。低体温導入により、セリンプロテアーゼインヒビター、免疫関連蛋白質が有意に増加し、復温によりこれらのタンパクの他に、アポリポプロテイン、補体成分の有意な増加を認めた。全9症例のうち、3症例は全く後遺症なく退院したが、6症例は死亡1例を含め高度脳障害を認めた。蛋白質発現変化と予後との関連を検討すると、複数のタンパクで予後との関連が示唆された。
  434. 老年者フレイルティーの新しい評価指標としての立位動揺性 23659382 2011 – 2013 挑戦的萌芽研究 愛媛大学 一般地域住民を対象とした疫学研究から、開眼片足保持時間の低下が、無症候性脳血管障害や認知機能の低下、サルコペニアの独立した規定因子であることを明らかにした。これらの臨床的形質自体は明らかな疾患ではないものの、高齢期におけるQOLに大きく影響する。本研究から、立位保持時間がフレイルティの共通した指標となりうることが示されたことは、潜在的なリスクを有する老年者を簡便に見分ける手立てを提案した点で、貴重な成果といえる。
  435. 中心血圧:動脈硬化性臓器障害の新たなリスク因子としての意義付け 23659352 2011 – 2013 挑戦的萌芽研究 京都大学(2012-2013) / 愛媛大学(2011) 中心血圧の臨床的意義を明らかにする目的で、中心血圧と動脈硬化や動脈硬化性疾患との関連を、血圧変動性も含めて検討した。中心血圧にはインスリン抵抗性や喫煙など様々な因子が影響しており、血圧リスクを正しく評価するためには、上腕血圧に加えて中心血圧を測定すること必要といえた。血圧変動が循環器疾患リスクとなることを示した。血圧変動性については、中心血圧の優位性は認められなかった。
  436. 高密度リポタンパク質の粒子形態の多様性と脂質代謝異常リスク相関 23659310 2011 – 2012 挑戦的萌芽研究 立教大学 近年、動脈硬化症、心筋梗塞、糖尿病、高脂血症等の患者が急増し、医療や救急現場では脂質異常を従来以上に精度よく診断できる技術が求められている。本研究では、健康診断項目の1つにもなっている高密度リポタンパク質(HDL)の粒子形態と生活習慣との相関を調べることにより、脂質異常のリスクを予測できることを見出した。
  437. 超音波速度変化イメージングによる血管不安定プラークの無侵襲検出 23656267 2011 – 2012 挑戦的萌芽研究 大阪府立大学 血管内壁のプラークの剥離は心筋梗塞や脳梗塞をもたらし非常に深刻な問題である。剥がれやすさを判定するためにプラークの構成物質や構造を検出することは重要である。本研究では、超音波速度変化イメージング法を血管内部の脂質コアの検出に適用した。超音波速度変化画像装置を作製し、血管ファントムに適用した。超音波速度変化画像は血管ファントム内部の脂質分布領域を明確に示した。脈流の影響を抑制するための信号処理法を検討し、実験によってその効果を確認した。
  438. 心肺停止蘇生後に対する体性感覚誘発電位を用いた脳低温療法の適応に関する研究 23592685 2011 – 2013 基盤研究(C) 日本大学 自己心拍再開したものの昏睡状態の持続する患者に対し、低体温療法導入前に予後良好な結果が期待できる症例を予測することは困難であった。そこで我々は、低体温療法を導入する前に、体性感覚誘発電位N20波成分の出現の有無を検査した。
    N20が出現しない症例は全例予後不良であった。一方、N20が出現した例は高率に意識障害の改善を認めた。この事実は、低体温療法前に施行する体性感覚誘発電位N20により、低体温療法により効果が期待できる症例を高率に選びだすことが可能となった。
  439. 血管炎の急性期における血管平滑筋細胞の形質転換に伴う細胞機能・応答機構の解明 23591588 2011 – 2013 基盤研究(C) 日本医科大学 川崎病類似の血管炎動物モデルを作成し、血管炎に伴い内弾性板の破壊により中膜から内皮下に血管平滑筋細胞が迷入することを組織学的に解明した。さらに、血管平滑筋細胞が形質転換を促すとされる転写因子((Kruppel-like zink-finger transcription factor 5:KLF5、Early growth response factor-1:Egr-1)などの発現から内皮下に迷入した血管平滑筋細胞が構成型から分泌型に形質転換している可能性が示唆された。ただし、形質転換した血管平滑筋細胞の機能や応答機構については十分な解明がなされなかった。
  440. 蛋白脱アセチル化酵素SIRT1の核移行誘導による心不全治療の開発 23591085 2011 – 2013 基盤研究(C) 札幌医科大学 SIRT1の細胞質から核への移行は不全心における心筋細胞死の進行および置換性の線維化を抑制する。その核移行の機序にはAkt/PI3KによるSer517残基のリン酸化が寄与していることを証明した。さらに、酸化ストレスによりSIRT1と結合が増加する蛋白、減少する蛋白を免疫沈降法、2次元電気泳動法およびmass spectrometryにより同定した。この蛋白-蛋白相互作用の生理的意義は今後検討予定である。
    次にSIRT1の心不全での効果をin vivoで観察するモデルとして肥満インスリン抵抗性2型糖尿病モデルでの心機能低下の機序を解析し、SIRT1活性化による効果の検討に着手した。
  441. 我が国における冠動脈疾患の治療戦略の確立 23591063 2011-04-28 – 2016-03-31 基盤研究(C) 順天堂大学 1984年から2010年までの冠インターベンションの背景因子と長期予後、予後規定因子を時代別に比較した。総計3831名が対象で、それぞれ時代における患者数は1147名、1180名、1504名であった。背景因子を比較すると第三期患者が有意に高齢で、糖尿病と高血圧患者は第一期時代に有意に少なかった。また第一期に比べ第二期では34%、第三期では56%有意にイベントは減少した。また予後予測因子として年齢、急性冠症候群、左室機能低下、第一期のPCIなどが関与していた。この26年間にPCIにおいて患者背景因子は悪くなっているが、イベントは減少傾向にあった。
  442. 日本人における心血管疾患の発症リスクスコアの開発 23591059 2011 – 2013 基盤研究(C) 岩手医科大学 心血管疾患発症リスクの評価に様々な新規バイオマーカー(高感度CRP,BNP,アルブミン尿など)の有用性が模索されている。しかし、日本人においてはそれらの有用性は十分解明されていない。本研究では、日本人において血中の高感度CRP、BNP、脂質比(HDL/LDL)、および尿中アルブミンが将来の心血管事故の予測に有用であることを明らかにした。特に、BNP単独あるいは他のマ-カに追加することで今までのリスク・スコア評価法と同一あるいはその予測能を改善することを明らかにした。これらの指標を組み合わせて日本人の包括的な心血管疾患の発症リスクを客観的にスコアリングする。
  443. 冠動脈プラーク破裂後の血栓形成における単球サブセットの関与と治療法の確立 23591058 2011 – 2013 基盤研究(C) 和歌山県立医科大学 急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)における末梢血および責任冠動脈血の単球上のP-selectin glycoprotein ligand-1 (PSGL-1)の発現と冠動脈内血栓の関係について血管内光干渉断層法(OCT)を用いて検討した。OCT所見とPSGL-1の発現について検討した結果、ACSでは冠動脈内に血栓およびプラーク破裂を認めた群では認めなかった群と比較してCD14++CD16+単球上のPSGL-1の発現頻度が有意な上昇を認めた。
    CD14++CD16+単球上のPSGL-1の発現増強がプラーク破裂後の冠動脈内血栓形成に関与することを明らかにした。

  444. 冠動脈MRI・MRAによる不安定プラークの診断、及び薬剤の冠動脈血管径への影響 23591057 2011-04-28 – 2015-03-31 基盤研究(C) 大阪市立大学 急性心筋梗塞、脳梗塞は前兆なく突然発症するため、不安定プラークを持った患者の同定はその発症予防にきわめて重要である。われわれは非侵襲的画像診断法である核磁気共鳴画像(MRI)にて高信号を呈した冠動脈プラークは不安定プラークの特徴と強い相関を呈することを示し、論文掲載された。
    さらに、MRIを用いて、心不全患者治療薬である心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、およびニトログリセリン(NTG)の冠動脈血管径、および冠動脈血流に及ぼす影響を検討し、ANPは心拍数などに影響を与えず、NTGと同等の冠動脈拡張作用を有することを明らかにし、すでに論文掲載された。
  445. ホルター心電図による睡眠時無呼吸スクリーニングの有用性の実証 23591055 2011-04-28 – 2015-03-31 基盤研究(C) 名古屋市立大学 心電図による効果的な睡眠呼吸障害(SDB)のスクリーニング法の確立を目的に、SDBに伴う心拍数の周期的変動を自動検出するアルゴリズム(ACAT)を開発した。SDBを疑い睡眠ポリグラフ検査を受けた862例において、ACATは中等症以上のSDBを感度83%、特異度88%で検出した。また、1運送会社の全男性トラック運転手165例において、ACATは、中等症以上のSDBを感度88%、特異度98%で検出した。さらに、ACATを急性心筋梗塞発作後のうつ状態を含む716例に適用したところ、SDBはうつ状態を有する人では死亡のリスクと関連するが、非うつ状態の患者では関連しないことが分かった。
  446. 致死性虚血性不整脈の予測因子の確立および原因遺伝子同定による病態解明と治療構築 23591031 2011-04-28 – 2015-03-31 基盤研究(C) 新潟大学 心筋梗塞などの虚血性心疾患は致死的となるが、その大部分は合併する不整脈による突然死である。我々は致死性不整脈の予測因子として、心電図のJ波所見に着目した。一般に見られるJ波の頻度を検討し報告した。続いて冠攣縮による心筋虚血が誘発され患者群において、安静時心電図におけるJ波の存在および虚血時のJ波の変動が虚血性心室細動の発生と関連していることを示し、J波が虚血性心室細動の発生に関与しており予測因子になり得ることを示して論文と学会にて報告した。また、虚血性心室細動を生じた約70症例の心電図を含めた臨床的特徴や遺伝子情報を集積し、解析結果を虚血性不整脈の治療方法を含めて学会報告した。
  447. 大規模コホートに基づく循環器発症リスクスコア開発と新規バイマーカーの有用性研究 23590835 2011 – 2013 基盤研究(C) 独立行政法人国立循環器病研究センター 吹田コホートの約20年の追跡データをもとに10年間の虚血性心疾患発症リスクに関する予測スコアを開発した。同スコアでは、新規のリスクとして慢性腎臓病(CKD)を取り入れており、FRSが実際の発症確率に比べ、リスクを過大評価するのにくらべ、より正確に日本人の虚血性心疾患発症リスクを予測できることを示した。またCKDを取り入れることにより予測精度(net reclassification improvement, NRI)が42.1%向上した。(P<0.001) また、冠動脈疾患患者においてMPO/PON-1比が再狭窄に関連すること、CAVIと酸化LDL関連のLOX-1との関連を見出した
  448. 突然死と心不全予防のための発症前診断の総合戦略と、その実践 23590813 2011 – 2013 基盤研究(C) 北里大学 本研究は我国固有の遺伝子に着目し、心筋内の核とミトコンドリアの両ゲノムを網羅的に解析する日本人用アレイの臨床展開を目指した。日本人家系は心不全と突然死を頻発したが、メタボ所見は全く見られなかった点から、mt遺伝子変異が核遺伝子に対して優位な階層構造を示している。即ち、両ゲノム変異は独立して心不全を呈するのではなく、両者の相互作用で複雑な病態を示すことが明らかになった。
  449. 地域健診受診者の予後と医療費過剰支出の予測因子に関する大規模コホート研究 23590810 2011 – 2013 基盤研究(C) 岩手医科大学 健診受診者を対象とした大規模な前向きコホート研究(岩手県北地域コホート研究)のデータに診療報酬明細(レセプト)に基づく医療費情報を追加することによって、75歳未満の市町村国保被保険者10899人(平均58.7歳)について医療費過剰支出の要因解析を行った。循環器疾患の危険因子(肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常、喫煙、慢性腎臓病(CKD))がある者はない者に比べて1か月当たりの総医療費が高かった。各危険因子の過剰医療費割合は高血圧ありで12.9%、CKDありで6.4%であった。高血圧およびCKDが医療費過剰支出に寄与する危険因子であることが示唆された。
  450. 地域における循環器疾患対策のための新たな評価モデルの構築 23590795 2011 – 2013 基盤研究(C) 愛媛大学 長期間にわたり疫学調査を行ってきた地域において、一次予防の指標を用いてこれまでの保健事業の評価ができるか検討した。1999~2011年の虚血性心疾患と脳血管疾患の発症率は男女とも有意に減少した。死亡率も同様であり発症率の割合を上回った。循環器疾患発症等に対して高血圧、糖尿病、喫煙の影響は大きく、逆に肥満や高脂血症の影響は小さかった。循環器疾患発症に対する集団寄与割合は、高血圧16.4%、糖尿病5.9%、喫煙5.5%であった。同地域において血圧レベルは男性で横ばい、女性では減少した。喫煙率は男性で10%近く減少した。血圧レベルの低下や喫煙率の減少がこれらの指標の改善につながっていた。
  451. 血漿マイクロRNAのバイオマーカーとしての有用性の検討 23590705 2011 – 2013 基盤研究(C) 独立行政法人国立循環器病研究センター 障害された細胞から遊出してくるmiRNAが血漿中で比較的安定であることより、細胞特異的miRNAを見出すことができれば、バイオマーカーとして利用可能となる。このコンセプトに基づき、心筋梗塞の診断マーカーとしてmiR-499、脳梗塞の診断マーカーとしてmiR-124、心不全の重症度診断マーカーとしてmiR-126及びmiR-210、膵炎の診断マーカーとしてmiR-216a及びmiR-216bが使えることを見出した。平滑筋、心筋、骨格筋(速筋及び遅筋)が、筋肉に特異的なmiR-1, 133a, 133b, 145, 499などの組み合わせで分類可能であることを見出した。
  452. 若年時放射線被曝後のT細胞のp53遺伝子不安定性がもたらす免疫能低下機構の解析 23510070 2011 – 2013 基盤研究(C) 産業医科大学 若年時は放射線感受性が最も高く、被曝時年齢によって老年時でみられる影響が異なると考えられる。今回、p53+/-マウスの脾臓を用いて、8週齢、17週齢、30週齢及び41週齢にてγ線3Gyを照射し、56週齢におけるNF-κB関連の炎症系サイトカインの解析を行った。CDK2, p21, phospho (p)-IKKα, p-IκBα、p-p65、NF-κB及びATP は8週齢照射群でのみ増加していた。これらの結果から、若年時に被曝すると老齢期においてNF-κBが活性化し、ATP レベルが亢進すると考えられた。NF-κBの亢進は炎症の継続であり、がんの誘発にも関係すると考えられた。
  453. 細胞老化・脱分化を制御するInk4/ARF遺伝子座の調節機構の解析とその応用 23501277 2011 – 2013 基盤研究(C) 独立行政法人理化学研究所 転写因子JDP2によるInk4a locusのエピジェネティックな発現制御機構の解析を行い、JDP2 がヒストンメチル化因子であるPRC1,PRC2の活性阻害の他に脱メチル化酵素Jmjd3と協調的に働きヒストンの非メチル化を促進するメカニズムを提唱した。またJDP2の分化、脱分化における影響を検討するためにアデノウイルスを用いた遺伝子導入による心筋分化誘導系と iPS誘導系を確立し、 それぞれJDP2の抑制下で分化、脱分化効率が上昇することを示唆する結果が得られた。
  454. 多疾患有病者の早期社会復帰に必要な回復期心臓リハビリテーションの介入方法の確立 23500612 2011 – 2013 基盤研究(C) 北里大学 生活習慣病患者はインスリン抵抗性を有し,骨格筋の代謝障害が生じている.本研究は,生活習慣病患者におけるインスリン抵抗性の増大が,嫌気性代謝閾値に与える影響を検討した.
    生活習慣病患者をHOMA-R高値群と低値群に分類し,心肺運動負荷試験で嫌気性代謝閾値(AT)までの運動時間とAT時の酸素摂取量(VO2 AT)を測定した.
    HOMA-R高値群は,低値群と比べてATまでの運動時間とVO2 ATが低下し(P<0.05, P<0.05),VO2 ATはHOMA-Rと負の相関を示した(r=-0.433,P<0.05).インスリン抵抗性が増大した生活習慣病患者は,身体活動量に関わらず嫌気性代謝閾値が低下した.
  455. 循環管理を支援する自動薬物医療システムを臨床実用化し、自律神経医療と統合する研究 23390415 2011-04-01 – 2014-03-31 基盤研究(B) 独立行政法人国立循環器病研究センター 集中治療医学における循環管理は、患者生命に直に決する専門医療であるが、最近の医師不足による診療不可や、過重労働を背景とした医療過誤が社会問題となっている。本研究は、生理学、生体医工学、テクノロジーを融合して自動医療システムを創出することによって、この問題の解決を目指す取り組みである。コンピューターが循環動態を自動診断し、さらに多薬剤を同時に投与して循環動態を改善するような自動医療システムの開発を、特に、その左心房圧の推定法、安全・アラーム装置、神経医療との統合等に力点をおいて進めた。
  456. ソフトコンピューティングによるリアルタイム高性能動脈硬化診断システムの実用化 23300086 2011-04-01 – 2014-03-31 基盤研究(B) 山口大学 心筋梗塞を含む急性冠動脈症候群の原因の一つは冠動脈内に堆積したプラークの破綻である.心筋梗塞は最悪の場合死に至る.プラークは構造に依り安定プラークと不安定プラークに分類され,破綻しやすい不安定プラークを見つけることは心筋梗塞の予防に非常に重要である.本研究では,冠動脈内に挿入したカテーテルから得られる超音波RF信号を基に,人間の情報処理に似た柔軟な知的情報処理により,プラークを構成する組織の性状と構造を高い精度でかつ手術室のベッドサイドで2Dと3Dで表示するシステムを開発した.
  457. 一般地域住民を含む糖尿病患者データベース構築による前向きゲノムコホート研究 23249037 2011-04-01 – 2016-03-31 基盤研究(A) 九州大学 糖尿病治療の目標は糖尿病患者の予後をできるだけ健常者の予後に近づけることである。そのためには糖尿病患者と健常者を比較する疫学研究が必要である。我々は福岡県内の糖尿病専門施設に通院中の糖尿病患者5131人(福岡県糖尿病患者データベース研究、追跡期間5年間 追跡率97%)と耐糖能正常者を含む福岡県久山町住民3351人(久山町研究)からなるデータベースを構築した。
    本研究期間では生活習慣(早食い、食物繊維・マグネシウム摂取量、運動、飲酒、喫煙、睡眠時間、うつ症状、生活習慣スコア)、2型糖尿病患者の膵島自己抗体、2型糖尿病感受性遺伝子、重症低血糖、慢性腎臓病、癌、遺伝子―環境相互作用について報告した。
  458. 確率関係モデルによる医療臨床データの高度活用に関する研究 23240043 2011-04-01 – 2014-03-31 基盤研究(A) 独立行政法人産業技術総合研究所 本研究課題では、日常の診療行為の中で日々生み出される膨大な臨床情報をより高度に活用するための新たな統計解析手法を開発することを目的とした研究を実施した。治療過程を患者と医師とのインタラクションとみなす立場から、マルコフ決定過程を用いて医療臨床時系列データをモデル化し、強化学習や逆強化学習などの手法を用いて、患者の状態の価値や、医師の処方の価値を評価するという新たな分析の枠組みを提案した。そうした分析を容易に実行するためのツール群を整備し、臨床データを可視化しながら、医師にとって重要な意味のあるデータ群を抽出し、分析することを可能にした。
  459. 糖尿病ラットでの薬理学的ポストコンディショニング法の開発と分子機序の解明 22791442 2011 – 2012 若手研究(B) 長崎大学 ラットの心筋梗塞モデルにおいてRho kinase阻害薬である塩酸ファスジルを再灌流直前に投与することで心筋保護効果が得られた(ポストコンディショニング)。塩酸ファスジルのポストコンディショニング作用はミトコンドリアATP感受性カリウムチャネル(mKATPチャネル)の活性化を介しており高血糖により阻害されるが、高用量の塩酸ファスジルは高血糖下においてもポストコンディショニング作用を発揮することが明らかになった。
  460. 重粒子線心臓照射における電気生理学的及び照射容積線量関係の検討 22791236 2010 – 2012 若手研究(B) 名古屋大学(2011-2012) / 独立行政法人放射線医学総合研究所(2010) 縦隔への重粒子線照射患者に、ホルター心電図を施行し、心臓の重粒子線被曝による電気生理学的影響と、心臓に対する重粒子線被曝の相関を検討した。重粒子線被曝量を照射容積-線量関係を用いて定量化し、不整脈不変群と不整脈消失群に対して検討した。しかし照射容積-線量関係曲線より求められた平均線量、最大線量には、有意な相関は認めなかった。本研究登録症例に、頻度は稀であるが致死的な心臓原発悪性腫瘍が 1 例あり、重粒子線治療の安全性と抗腫瘍効果が確認された。重粒子線治療は、心臓原発悪性腫瘍に対して新たな治療法になる可能性を秘める。
  461. 地域一般住民前向き追跡研究からのハイリスクメタボリックシンドロームの同定 22790563 2010 – 2011 若手研究(B) 札幌医科大学 地域一般住民におけるメタボリックシンドローム(MetS)、高感度CRP、尿中8-OHdGと心血管疾患、総死亡との関連について検討を行った。断面調査ではMetSに該当しさらに高感度CRPが高値を示すものが、心血管疾患のハイリスク者であることが示された。前向き調査においては、MetSに該当し尿中8-OHdGや高感度CRP高値の群で総死亡リスクが高い傾向を示したが、統計学的な有意差は検出できなかった。追跡期間が短くイベント数も少なかったことが影響していると考えられ、さらなる追跡を行うことでMetSとの組み合わせによる有効性を検討できる可能性が示唆された。
  462. 専門医の治療戦略を考慮した知的な適応予測制御による薬剤投与支援システムの開発 22700466 2010 – 2012 若手研究(B) 徳島大学 麻酔科医の不足が深刻な問題となり、 緊急手術を行えない事態も起きている。本研究では、知的な適応予測制御方式を用いて、薬剤投与作業を支援するシステムの有効性を検討した。構築したシステムでは、数段階先の血圧の予測応答と最適な薬剤入力量をモニタリングしながら、作業者自身が最終判断を行える。初心者による評価実験では、出血等の突発的な事態に対して、本支援システムの有効性が示された。また、医師の左心不全における薬剤治療戦略(複数薬剤投与への対応策等)を考慮したシミュレータを構築した。
  463. 高齢者歯科治療時の異常高血圧を予測する無侵襲モニターの開発に関する研究(V) 22592255 2010 – 2012 基盤研究(C) 東京医科歯科大学 高齢者歯科治療では様々な全身的偶発症が発生するが,なかでも高血圧性危機の頻度は高い.高血圧性危機は単なる血圧上昇だけでなく,重篤な不整脈,心筋虚血,脳卒中などに進展しうるため,その予防・予測が重要である.循環系は多重な正・負のフィードバック機構により制御された,極めて複雑なシステムと考えることができる.この制御の目的は刻々と変化する外的環境変化から,循環系の平衡状態を守ることである.しかし,加齢とともにこの制御システムの機能は低下し,平衡状態の破綻リスクが上昇する.高齢者における高頻度の異常高血圧はそのひとつの現れである.異常高血圧を予測するためには,この循環制御系の複雑なシステムの動的な機能低下の把握が必要である.しかし,その非線形性,複雑性などから,全貌を正確に把握するのはほとんど不可能であった.そこで,このような内部が不明なシステムを,システムへの入力と出力信号から数学モデルとして表現できるシステム同定を用いるという着想に至った.本研究の目的はシステム同定を用いて,高齢者歯科治療における高血圧性危機の予測方法を確立することである.この高齢者の歯科治療における著しい血圧上昇をシステム同定により予測するためには,その循環動態制御系において重要な役割を果たしている自律神経緊張について事前に検討する必要がある.しかし,高齢者歯科治療における異常高血圧と正常血圧を示した患者の自律神経緊張について調査した報告は見あたらない.そこで,まず,心拍変動のスペクトル解析を用いて,これらの関連について検討した.その結果,各パラメータにおける絶対値において,高血圧危機群が正常血圧群に比較して,交感神経緊張が強く,副交感神経緊張が相対的に弱い傾向を示すという結論を得た.この結果は生理学的に理解しやすいものであった.続いて,システム同定における各要素の解析,すなわち,各要因のインパルス応答,伝達関数の算出,圧受容体感受性,ならびに基本的な患者背景との関連について,統計学的に解析し,演算速度向上を目的としてアルゴリズムを改善する試みを行った.しかし,ばらつきが大きく,一定した結果は得られなかった.
  464. ストレス脆弱性への胎生期環境の分子基盤 22591207 2010 – 2012 基盤研究(C) 昭和大学 マウス胎児に低栄養を負荷し肝臓の遺伝子発現を解析することで成人期疾患の胎児期起源説に関与する遺伝子を検索した。カロリー制限の成人と胎児での効果が逆なことに注目することでtrib1などの心筋梗塞と関係の深い遺伝子が検索された。また、免疫系とストレスホルモンシグナルに関する多くの遺伝子の発現とpromoterのDNAメチル化に変化を認めた。今回見出された遺伝子群は生活習慣病のリスクや胎児期栄養環境の予測に有用であると考えられた。
  465. 心臓型アデニル酸シクラーゼを標的にする高齢化社会にむけた新しい心不全治療 22590811 2010 – 2012 基盤研究(C) 横浜市立大学 本研究は心臓型アデニル酸シクラーゼ抑制薬を心不全ならびに不整脈治療薬として開発する。マウス心不全ならびに不整脈モデルを作成し、ビダラビンが心不全ならびに不整脈治療薬として有用である基礎薬理データを得た。また水溶性であり、ビダラビンと同等の作用を有する新規薬剤を開発した(H22-23)。 平成24年度には横浜市立大学附属病院心臓血管外科で術後心房細動症例を対象にして、ビダラビンの抗不整脈薬としての有用性を確認した (H24)。
  466. 次世代光干渉断層法によるスペクトロスコピー開発と不安定プラーク治療効果判定 22590791 2010 – 2012 基盤研究(C) 和歌山県立医科大学 次世代光干渉断層法(frequency-domain OCT;FD-OCT)を用いたステントストラッドの自動認識は既に論文投稿し、最新の FD-OCT システムに搭載して 3 次元画像表示に臨床応用しており、スペクトロスコピーによるプラーク画像表示の開発は現在も継続している。 FD-OCT のグレースケール画像による不安定プラークの特徴に関しては多数の論文を報告し、今後これらの画像に対してスペクトルスコピー解析をする予定である。
  467. 薬物負荷3次元心エコーを用いた虚血性心疾患に対する診断法の確立 22590789 2010 – 2012 基盤研究(C) 福島県立医科大学 虚血性心疾患を疑った患者74例において、アデノシン負荷三次元心エコー図法による心筋動態評価、冠血流速予備能、および冠動脈造影による冠狭窄度の評価を行い、三次元負荷心エコー法による局所拡張能の変化が虚血性心疾患の診断に有用であるか否か、またリスクエリアの三次元表示が可能であるか否かを検討した。アデノシン負荷三次元心エコー図法による心筋動態評価において、area strain rateを用いた拡張能の評価とその三次元表示が冠動脈疾患の存在診断に有用であり、さらに著明な冠動脈予備能低下例では収縮遅延が伴うことが明らかとなった。
  468. 糖尿病合併冠動脈疾患患者における心拍低下療法の妥当性を問う観察研究 22590788 2010 – 2012 基盤研究(C) 琉球大学 本邦において、冠動脈疾患患者における心拍低下療法の妥当性を評価をする事を目的に、糖尿病合併安定冠動脈疾患の前向きコホートを構築し、心拍数と総死亡、心筋梗塞および脳卒中の複合との関連を評価した。1591 人を平均 3.2 年間追跡した結果、治療期間中の心拍数の上昇は、総死亡、心筋梗塞および脳卒中発症リスクを有意に増大させた。
  469. 薬剤溶出性ステントによる気絶または冬眠心筋の機能回復に対する阻害作用に関する研究 22590773 2010 – 2012 基盤研究(C) 山梨大学 虚血性心疾患において気絶心筋および冬眠心筋の責任冠動脈に対する再灌流療法は、心筋収縮能の改善を促し長期予後を改善させることが示されている。本研究では多施設共同研究で薬剤溶出性ステント (DES) から溶出される薬物の気絶心筋または冬眠心筋の心機能回復への影響を検討することを目的とした。その結果、溶出した薬剤は DES の末梢側に留置したベアメタルステント内の新生内膜増殖を抑制することが分かった。
  470. 拡張不全型心不全の実態解明と効果的治療戦略の確立 22590766 2010 – 2012 基盤研究(C) 東北大学 本研究では我々が行っている観察研究(CHART研究)のデータベースを用いて、ステージC/Dの拡張不全例とステージBの軽症慢性心不全例においてCONUTスコアによる栄養状態評価を行い、栄養状態が予後に及ぼす影響を検討した。その結果、ステージC/D拡張不全型心不全、ステージB軽症慢性心不全の両者において栄養不良状態は心臓死の独立規定因子であることが示された。慢性心不全は軽症の段階から栄養状態に留意することが重要であり、栄養状態の改善は拡張不全型心不全治療の新たなターゲットとなる可能性が示唆された。
  471. 心筋梗塞地域連携クリニカルパスにおける2次予防戦略は心血管イベント抑制に有効か? 22590611 2010 – 2012 基盤研究(C) 日本医科大学 我々は””心筋梗塞地域連携クリニカルパス(以下「パス」)””運用の中で””心筋梗塞2次予防ガイドライン””に基づいた診療体制が心血管イベント再発抑制に寄与するかを検討した。疫学的調査では、冠動脈疾患患者(2次予防群)のうちLDLコレステロール(LDL-C)がガイドライン基準(<100mg/dL)を達成しているのは47%であった。経皮的カテーテル治療後のスタチン治療が予後(5年間の冠動脈イベント再発)に与える影響を検討すると、スタチン開始後3か月間のLDL-C低下率がイベント再発率と相関し、スタチン開始早期の脂質改善が将来の冠動脈イベント回避に重要であることが示された。低HDL-Cに対する介入研究では、低HDL-C血症(<40mg/dL)を呈する冠動脈疾患患者に対するピタバスタチン投与は脂質プロファイル改善(HDL-C増加、LDL-C/HDL-C比低下)とともに高感度トロポニンT(hsTnT)低下をもたらした。すなわち、スタチンの心血管イベント抑制効果は脂質改善とともに心筋傷害軽減が関与するものと考えられた。
    本研究にて冠動脈疾患2次予防に関し脂質(LDL-C、HDL-C)管理、とくにスタチン治療の重要性が明らかとなった。今後「パス」運用をさらに効率的にするため、我々は心筋梗塞診療を説明した啓蒙用DVDを作成し、最終年度にこれを地域のかかりつけ医に配布した。
  472. 新しいバイオマーカーのアテローム血栓症発症予測能評価に関する研究 22590601 2010 – 2012 基盤研究(C) 岩手医科大学 追跡開始後6年以上経過したコホート研究の保存血清468例のS100A12蛋白と補体成分C3a分解産物の濃度を測定し、ベースライン調査との比較を行った。S100A12 と C3a 分解産物の血清濃度の Spearman の相関係数は 0.504 で、 P 値は 0.0001 未満であった。S100A12 濃度と中性脂肪、白血球数と有意な相関が認められた。C3a 分解産物は HDLコレステロール、白血球数、血糖値、HbA1c、収縮期血圧、拡張期血圧、Body Mass Index と有意な相関を認めた。既往疾患および脳卒中罹患とは何れも有意な関連は認められなかった。
  473. データマイニング等の手法を用いた急性心筋梗塞患者のリスク評価と 予後予測 22590590 2010 – 2012 基盤研究(C) 山口大学 本研究では、日本人の急性心筋梗塞患者に関した前向き多施設共同研究である Japan Acute Coronary Syndrome Study (JACSS)のデータベースをもとに、
    1)データマイニングの手法や統計手法を用いて、治療法の選択を含めた判断の影響、その効果を評価する。
    さらに、2)予後予測モデルの作成を試みた上で、得られた結果について妥当性の検証を行った。急性心筋梗塞患者に対して、30 日後での死亡に関する侵襲的な再還流療法の効果についての評価を行ったところ、中程度のリスクと考えられた群に対して、もっとも効果は高かったと考えられた
  474. 慢性心不全患者における悪性新生物の発生・進展に関するコホート研究 22590574 2010 – 2012 基盤研究(C) 東北大学 本研究では、心血管疾患症例(N=10,114)における悪性新生物の既往と予後に関する検討を行った。症例は平均68±12歳、男性は70%、悪性腫瘍の既往は12%であった。悪性腫瘍の既往がある症例は、既往のない症例と比較し高齢で男性が多く、特に心不全症例ではBMIが低く、収縮期血圧が低く、心拍数が早かった。約3年間の追跡では悪性腫瘍の既往のある症例は、心血管疾患のステージ(BまたはC/D)に関係なく予後不良であった。
  475. 血中sCLEC-2測定法の確立と臨床応用に向けた検討:動脈血栓症の予防を目指して 22590520 2010 – 2012 基盤研究(C) 山梨大学 本研究は、血中soluble CLEC-2(sCLEC-2)が生体内で血小板活性化を示すマーカーとなり、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈血栓症の発症を予測する検査として利用できると考え、その測定系を構築すると共に臨床応用に向けた検討を行うことを目的とした。作成したsCLEC-2 のELISA法は、生体内の血小板活性化を鋭敏に捉えることができ、動脈血栓症の発症を予測する検査法となりうると考えられた。
  476. 新規 S1P 供与体を用いた初期動脈硬化病変の先駆的治療法の開発 22590139 2010 – 2012 基盤研究(C) 名古屋市立大学 動脈硬化症制圧のため新しい標的を確立することが重要である。抗動脈硬化作用をもつ高密度リポタンパク質 HDL は生理活性脂質スフィンゴシン 1-リン酸 (S1P)に富む。S1P の培養血管内皮細胞への作用、および心血管危険因子保有者の血漿 S1P 濃度と血管内皮機能の関係を明らかにした。また、新規 S1P 供与体として人工 HDL 粒子を創製し、その生理活性を評価し動脈硬化の先駆的治療方法を開発した。
  477. 慢性心不全における下肢陽圧負荷心エコー法の臨床的有用性の確立 22500437 2010-04-01 – 2014-03-31 基盤研究(C) 徳島大学 慢性心不全を呈する様々な心臓病患者において,安静時および下肢陽圧負荷時に心エコードプラ法で得られる僧帽弁口血流速波形から,安静時に偽正常化パターンを呈する群(PN),安静時は弛緩異常パターンで下肢陽圧時にも弛緩異常パターンのままの群(安定IR)あるいは偽正常化パターンに変化する群(不安定IR)に分類して予後を観察したところ,不安定IR群のの予後はIR群より不良で,PN群と同等であった.慢性心不全患者における下肢陽圧負荷心エコー検査は,予後不良な症例の判別に有用である.
  478. 動脈硬化プラーク脆弱化の分子機構の解明と急性冠症候群予測因子の同定 22390159 2010 – 2012 基盤研究(B) 徳島大学 動脈硬化プラーク脆弱化の分子機構を明らかにするために、臨床材料ならびに動物モデルを用いて検討を行った。冠動脈疾患患者の冠状静脈洞採血において、核内非ヒストン蛋白質であるHMGB1の濃度が亢進していた。特に、急性心筋梗塞、不安定狭心症患者において、健常者の10倍程度の上昇が認められた。また、動物実験の結果から、HMGB1-DNA複合体シグナルが、骨髄由来細胞のTLR9を刺激して、血管壁の不安化に貢献していることが明らかになった。
  479. 職域コホート長期追跡による生活習慣病発症要因の解明 22390133 2010-04-01 – 2014-03-31 基盤研究(B) 藤田保健衛生大学(2012-2013) / 名古屋大学(2010-2011) 都市部勤労者世代からなるコホートを長期間追跡し、特有の危険因子や新規マーカーを明らかすることを目的に、某職域従業者男女6,648名の追跡調査を実施し、冠動脈疾患59例、脳卒中47例、糖尿病430例、高血圧1,599例の発症を観察した。統計解析の結果、BMIが25 kg/m2以上の肥満(ハザード比:1.9)、I度高血圧(2.1)、II・III度高血圧(4.1)、現喫煙(2.5)は統計学的有意にCVD発症リスクの上昇と関連した。また、アディポネクチン低値、CRP高値、喫煙あり、朝食欠食、家族歴ありが糖尿病発症率の増加と関連していることを示した。また、生活習慣等の再調査を6,046名に実施した。
  480. わが国の高血圧に及ぼす身体・心理・社会的危険因子の時代的変遷と予防法に関する研究 22390123 2010-04-01 – 2014-03-31 基盤研究(B) 福島県立医科大学(2013) / 大阪大学(2010-2012) 秋田、大阪、茨城の地域住民における高血圧の有病率は、女性では1970年代から2000年代にかけて継続的に低下傾向がみられたが、男性では、1990年代までは低下傾向であったものの、2000年代になって上昇に転じた。高血圧の危険因子を検討した結果、特に男性では高血圧に対する肥満の寄与率が1970年代から2000年代にかけて上昇傾向がみられることから、近年の男性における高血圧者の増加には肥満が寄与している可能性が考えられた。また家庭血圧との関連では、肥満者に隠れ高血圧が多くみられていたことから、我が国の高血圧対策には今後肥満の管理が重要と考えらえた。
  481. 過疎地3次救急を対象とした医療情報デジタル伝送と高速専用退出路に関する実証的研究 22360203 2010 – 2012 基盤研究(B) 金沢大学 現在の3次救急活動において,救命率向上を図るためには,救急車と救急病院の連携強化が不可欠であり,ドクターカーの導入や高速道路救急車専用退出路の設置,さらには救急医療情報のデジタル無線伝送システムの高度化がその鍵を握る。本研究では,通常時におけるドクターカー・システムやドクターヘリ・システムの導入可能性を評価する計画検討システムの開発と高速道路からの救急車専用退出路の最適設置位置の検討システムの開発を行った。
  482. 医療・保健・介護資源の地域システムにおける連携・効果・効率・公正の評価と要因分析 22249015 2010 – 2012 基盤研究(A) 京都大学 1.医療の質を示すプロセス指標に加え、アウトカムの優れたリスク調整方法を急性心筋梗塞、心不全、脳梗塞、集中治療症例等において開発し、効率性とともに質を可視化し、その関連要因を特にハイリスク領域で明らかにした。
    2. 地域レベルの保健と医療と介護について、需給バランスやアクセス公正性の評価方法、拠点化・集中化の影響シミュレーション方法等を開発し、さらに資源・費用と質との関係性を明らかにした。

  483. プラズモイドー定常高熱流プラズマ複合照射装置を用いた先進プラズマー壁相互作用研究 22246120 2010-04-01 – 2013-03-31 基盤研究(A) 名古屋大学 定常高熱流ダイバータプラズマ模擬試験装置(名古屋大学)と高密度プラズモイド入射装置(兵庫県立大学)を結合したプラズモイドー定常高熱流ブラズマ複合照射装置を開発した。プラズモイドのパラメータ計測(電子密度,イオン温度)をレーザー干渉計と分光計測を用いて行った。
    また,プラズマ対向材料への熱負荷計測をカロリーメータを用いて行うとともに,熱流入過程を詳細に調べるためにInGsダイオードを用いた高時間分解の温度計測システムを開発した。
    さらに,プラズモイドのタングステン材への照射実験を実行し,表面構造変化を走査型電子顕微鏡計測により明らかにした。
  484. 適応性心リモデリングとその破綻による不整脈発生機転の統合的解明 22136008 2010-04-01 – 2015-03-31 複合領域 新学術領域研究(研究領域提案型) 福岡大学 本課題では、実証的研究と理論研究を融合し、ストレス応答性Ca/Naチャネル分子TRP蛋白質が不整脈基質形成や異常興奮誘発に寄与する機構の解明を目指した統合的な基礎研究を行った。その結果、心リモデリング時のTRPM4・TRPCチャネルの発現増加や、そのPIP2感受性のアイソフォーム間・遺伝子変異体間における軽微な違いが、異常興奮生成や不整脈の基質として重要であることが分かった。本研究の成果は、新しい不整脈機序の探索や抗不整脈作用のある新規化合物の開発により現実的な数理モデルを提供し、多階層システムとしての心臓の興奮・伝播メカニズムの更なる解明に資することが期待される。
  485. 次世代多階層生体機能シミュレーション基盤構築と実証研究 22136002 2010-04-01 – 2016-03-31 複合領域 新学術領域研究(研究領域提案型) 大阪大学 生理機能の多階層的モデル構築をサポートするため、モデル記述言語(PHML)を開発した。さらにプラットフォームであるPhysioDesigner、ならびにそれらのモデルシミュレーションを実行するアプリケーションFlintを開発し、ウェブサイトにて公開した。
    また、心臓の拍動リズム制御や不整脈に関する研究も行った。G蛋白質制御カリウムチャネルやhERGチャネルの機能を実験科学的に解析すると共に、数理モデル化とシミュレーションによる理論研究を進めた。イオンチャネルの機能や制御、その局在が心機能に果たす役割に関して新たな知見を多く得ることができ、不整脈の制御に関する新たな戦略を提案することができた。

  486. 統合的多階層生体機能学領域の確立とその応用 22136001 2010-04-01 – 2016-03-31 複合領域 新学術領域研究(研究領域提案型) 大阪大学 本年度は、前年度までの5年間(平成22年度から平成26年度)に実施された新学術領域研究「統合的多階層生体機能学領域の確立とその応用」(以下、領域)の成果の取りまとめをおこなった。
    本領域を構成した全ての計画研究、公募研究の研究成果を総括し、研究項目毎、そして領域としての学術的成果を纏めた。また、関連学会や社会への影響を整理した。さらに、成果取りまとめ状況、学際的共同研究の実施状況、研究費の使用状況、若手研究者の育成状況を調査し、総括班で自己評価を行った。その結果、当該領域は申請時に計画した到達目標を完全に達成したという結論に達した。また、外部評価委員による書面審査、ヒアリング審査に対応する準備のため、総括班メンバーで会議を行った。研究代表者を中心にそれらの審査に臨んだ結果、「A(研究領域の設定目標に照らして、期待通りの成果があった)」との最終評価を頂いた。
    本年度も、領域研究期間に上がった成果を報告するため、班員のシンポジウム開催などの支援を行った。
    冊子体の研究成果報告書を作成し、日本学術振興会への提出、関係・関連研究者、研究機関への配布のための準備を行った。
    本領域に関わった研究者は本領域が開拓した研究分野の重要性を認識している。最終評価においても、新しい学理を生み出すような研究成果が期待として述べられている。今後この分野をさらに発展させるために必要な研究、取り得る方法に関して、領域外の研究者も交えて議論を行った。 27年度が最終年度であるため、記入しない。 27年度が最終年度であるため、記入しない。
  487. 肥満におけるアディポサイトカイン異常と病態発症機構の解析 22126008 2010-04-01 – 2015-03-31 生物系 新学術領域研究(研究領域提案型) 大阪大学 肥満形成過程早期より脂肪組織マクロファージはダイナミックに活動しS100A8阻害により抑制された。アディポネクチンは定常状態より脂肪組織間質細胞や大動脈内皮細胞に結合しており、肥満では脂肪組織間質への集積が増加、動脈硬化ではプラーク内平滑筋細胞に集積した。大動脈局在にはT-cadherinが必須であった。急性冠症候群では低アディポネクチン血症にも関わらず流血中でC1qとの複合体濃度が増加していた。アディポネクチンは新たな概念の内分泌因子と考えられた。2型糖尿病症例で全身血管エコーや内臓脂肪評価を行いメタボリックシンドローム型は特に多発性動脈硬化病変やアディポサイトカイン異常と関連していた。
  488. 虚血性心疾患患者の社会的孤立構造モデルの検討 21792237 2009 – 2012 若手研究(B) 北海道医療大学 社会的孤立感は、年齢の高い者、女性、配偶者がいない者、無職の者で高く、PCI・CABG両方の治療経験を持つ者、胸痛発作を頻繁に体験している者ほど高かった。構造モデルでは、虚血性心疾患の特徴でもある[胸痛・発作]が[生活への影響]を自覚させ、病気が良くならないという[病気の回復]の不確かさにもつながっていた。さらに[病気の回復]に対する不確かさは[生活への影響]と社会的孤立を促進させていた。また、社会的孤立感は心理反応として[不安]と[混乱]をもたらし,最終的には[抑うつ]を生じさせるという構造が明らかとなった。
  489. 冠動脈インターベンションの国際比較と質的向上を目指したデータベース構築 21790751 2009 – 2010 若手研究(B) 慶應義塾大学 レジストリ登録されたデータを用いて(15施設、4000例)、PCI に伴ってみられた出血合併症の発症率の計算を行い、関連する臨床的因子の寄与度の定量化を行った。さらには、PCI施行後の適切な処方の用いられ方、そして休日と週末のPCI入院による実際の成績の違い等に関しての解析を行い、その結果を平成23年3月に行われた日本循環器学会にて発表、現在論文として学術誌に順次投稿している。また、四半期に一度程度継続的なフィードバックをかけて各施設の医療の質の向上に努めている。
  490. 生物学的製剤による白質脳症発症機序 21790526 2009 – 2010 若手研究(B) 福岡大学 関節リウマチにおける脳血管内皮障害は、脳梗塞の発症リスクを上昇させ、また、血液脳関門(BBB)機能の脆弱化による治療薬物の中枢有害作用発現の危険因子ともなる。そこで、関節リウマチのモデル動物としてコラーゲン誘導関節炎(CIA)マウスを使用しBBB機能障害について解析を行った。CIAマウスでは、脳血管透過性が尤進ならびにTJsタンパク質発現の減少が観察され、BBB機能が障害されていることが判った。さらに、関節リウマチ病態下において発現増加するS100A4が、脳血管内皮細胞に作用し、TJsタンパク質の発現を減少させ、脳血管透過性を元進させることが示唆された。以上、本研究は、関節リウマチにおけるS100A4の増加がBBB機能を脆弱化させることを示唆する実験証拠を提示し、関節リウマチの薬物治療における白質脳症の発症に関与する可能性を示唆するのである。
  491. 地域保健医療福祉計画の策定・評価における地理情報システムの応用に関する研究 21790491 2009 – 2011 若手研究(B) 北海道情報大学(2010-2011) / 弘前大学(2009) 本研究では、都道府県医療・介護計画の策定・評価への地理情報システム(GIS)の適用について検証した。その結果、(1)青森県での入院患者の受療動向分析により地域医療政策の影響を受けている、(2)全国の電子カルテシステム導入状況の分析により地域間・病院間の格差拡大と、遠隔医療研究の動向分析により地域と研究分野の偏在、(3)北海道での脳卒中と急性心筋梗塞に関わる診療科医師数の時系列分析と介護資源の統合的分析により地域偏在と連携上の問題を明らかにし、GISの有用性を確認できた。
  492. アテローム血栓症の発症におけるペントラキシン3の関与 21790358 2009 – 2011 若手研究(B) 宮崎大学 急性心筋梗塞に代表されるアテローム血栓症は、動脈硬化性プラークの破綻による血栓形成により発症する。その過程において、炎症性因子は重要性な役割を果たす。本研究では、新規催炎因子:ペントラキシン3(PTX3)の心血管イベント発症への関与を検討した。PTX3は冠動脈吸引血栓に存在し、更に、心血管イベントである不安定狭心症症例において高率に存在した。また、リコンビナントPTX3は、血小板凝集や血流下における血栓形成を抑制した。以上より、PTX3はプラーク破綻後の血栓形成に対し、抑制的および防御的機能を発揮していると予測され、新規抗血栓薬の開発など、臨床面への応用も期待された。
  493. CRPとLOX-1による血管機能病的変化誘導に関する研究 21790259 2009 – 2010 若手研究(B) 独立行政法人国立循環器病研究センター 酸化LDLの内皮細胞受容体lectin-like oxidized LDL receptor-1(LOX-1)とC-reactive protein(CRP)の相互作用によって、補体カスケードの古典経路が活性化されることが明らかとなった。虚血性心疾患危険因子である酸化LDLの受容体として見出されたLOX-1が、やはり独立した危険因子であるCRPの生理活性発現に強く関わっていることがin vitro、in vivoの実験で明らかとなった。また、CRPはLOX-1だけでなく、マクロファージに多く存在し、LOX-1と同じスカベンジャー受容体に属するSR-AIIとも相互作用する可能性が示唆された。
  494. エストロゲン受容体遺伝子多型が身体活動による動脈硬化改善効果の個人差に及ぼす影響 21700699 2009 – 2010 若手研究(B) 札幌大谷大学 閉経前女性において,エストロゲン受容体(ER)αおよびβの遺伝子多型が動脈硬化指数および身体活動による動脈硬化改善効果の個人差への関与について検討した。その結果,ERβ遺伝子多型(既知の5つ)のうちの1つは動脈硬化指数に明らかな影響を及ぼすこと,また,1つのERα遺伝子多型と3つのERβ遺伝子多型は身体活動による動脈硬化抑制効果の程度に関係していた。これらの成果は,エストロゲン受容体に関連する遺伝子多型は,閉経前女性において,習慣的な運動による動脈硬化抑制効果の個人差に関連する可能性を示唆するものである。
  495. 赤血球を用いた酸化ストレス簡易モニタリングデバイスの開発 21656214 2009 – 2010 挑戦的萌芽研究 名古屋大学 酸化ストレスは糖尿病合併症をはじめ多くの疾患の発症に関与している.糖尿病合併症のうち動脈硬化,心筋梗塞,脳梗塞等の大血管症の発症には,持続的な高血糖や代謝異常に由来する酸化ストレスの亢進が関与するため,血糖値管理のみでは十分に予防できない.本研究では,酸化ストレスに起因する血管障害を反映する新規指標として赤血球の表面電荷の変化に着目し,微量血液により簡便で日常的に測定できるPoint of Care Testing(POCT)の開発を目指した.簡易血糖値センサを利用し,赤血球の表面電荷の変化に伴う電極への付着量を電気化学的に検出した.正電位印加後の電極を赤血球懸濁液中に浸漬した後,電子メディエータ溶液中でサイクリックボルタンメトリーを行った.酸化剤としてt-butyl hydroperoxide処理した赤血球を測定した結果,酸化剤濃度や処理時間に伴い電流応答が変化した.また,高グルコース負荷を行った赤血球においても,電流応答が変化した.これより,in vitro試験において酸化ストレスを受けた赤血球の影響を電気化学的に測定できることが示唆された.そこで,糖尿病患者から静脈血をヘパリン採血して測定した結果,健常者群と比較して患者群では電流値の上昇がみられ,得られた電流密度は長期的な血糖コントロールを反映するHbA1cと相関する傾向が得られた.以上のことから,赤血球を用いて簡便に酸化ストレスによる血管障害リスクを測定できることが示唆された.
  496. PETを用いた心筋エネルギー消費効率(心筋燃費)測定による心病態評価法の開発 21591551 2009 – 2011 基盤研究(C) 長崎大学(2010-2011) / 福井大学(2009) 炭素11標識酢酸PET(ポジトロン断層撮影)の動態撮影を中心としたPET検査を心疾患患者に応用することで、心機能・代謝・血流の同時評価が可能となり、心筋燃費の評価が可能であった。心筋燃費はミトコンドリア心筋症などのエネルギー産生経路に異常のある疾患において、特徴的な異常を示し、その評価が病態把握に有用であることが示された。
  497. DNase Iを用いた急性心筋梗塞の早期鑑別診断の確立 21590732 2009 – 2011 基盤研究(C) 群馬大学 これまでに、血清中のDNase I活性値の上昇が、急性心筋梗塞(AMI)の特異的診断マーカーになり得ることを報告している。 しかし、従来のSingle Radial Enzyme Diffusion (SRED)法は判定に長時間を要するため、短時間でDNase I 蛋白量を測定するELISA法を開発し、AMIの早期診断に有用であることが確認された。AMI発作時の血清DNase I 上昇機構を解明するため、QGP-1培養細胞を用いて、DNase I遺伝子の発現調節の検討を行った。法医領域では、ELISA法がAMIの鑑別診断に応用できるか検討した。
  498. 日本人代表コホートと大都市部コホートの比較による記述疫学研究 21590730 2009 – 2011 基盤研究(C) 独立行政法人国立循環器病研究センター 日本の代表集団を対象としたコホート研究(NIPPONDATA90)と日本で唯一の都市部(大阪府吹田市)でのコホート研究(吹田研究)を用いて、死亡率やその推移を比較した。全悪性新生物の年齢調整死亡率はコホート間で大きな差はなかったが、日本の代表集団に比べ、都市部では循環器疾患の年齢調整死亡率は低かった。また、都市部では虚血性心疾患の占める割合が高く、都市部と日本の代表集団では疾病構造が異なる可能性が示唆された。
  499. 全身炎症モデルにおける多能性前駆細胞の同定および急性・慢性炎症性疾患への応用研究 21590589 2009 – 2011 基盤研究(C) 富山大学 敗血症病態において、骨髄から動員される幼若球が、骨髄由来多能性前駆細胞である可能性を検討した。本研究の結果、細胞表面抗原(CD34)の違いにより少なくとも2種類の前駆細胞の存在が考えられた。CD34陰性前駆細胞は早期に肺に動員されるが、CD34陽性の前駆細胞の動員は遅いことが確認された。また、これら2種類では貪食能などに違いがあり、CD34陽性前駆細胞は貪食能が強く、CD34陰性前駆細胞は肺組織に対して保護的に働くと考えられた。
  500. 急性心筋梗塞の非侵襲的な早期診断に適した磁性ナノ粒子の開発 21550165 2009 – 2011 基盤研究(C) 中部大学 高温熱分解法を用いて4-メチルカテコール(4-MC)やN-ビニル-2-ピロリドン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸三元共重合体[P(VP-MMA-MA)]で被覆されたマグネタイトナノ粒子(MNPs)を調製した。マクロファージに高い特異性がある標的分子を結合させた磁性ナノ粒子の調製法を開発し、磁性粒子が核磁気共鳴画像法(MRI)の強力な造影効果を示すことを利用して、急性心筋梗塞の原因となる不安定プラークを非侵襲的に早期診断できる材料の開発を行った。
  501. 生活習慣病と心腎連関の機序の検討 21390259 2009 – 2011 基盤研究(B) 東北大学 本研究では慢性腎臓病における脳心腎障害とmethylglyoxal MGの関与を検討した。Dahl食塩感受性高血圧(DS)ラットに1%Gを経口飲水投与すると高血圧と心腎障害が観察された。次に高食塩を負荷した脳卒中易発症自然高血圧発症ラット(SHR-SP)での脳腎障害を検討したところ、脳と腎障害に関連がみられ血圧および酸化ストレスの関与している可能性が示唆された。腎髄質外層尿細管は管腔内glucose濃度の上昇により、ミトコンドリア活性酸素および過酸化水素は増加し、Glyoxylase1過剰発現ラットではこの反応が抑制され、カルボニルストレスの関与が示唆された
  502. 予防介入の有無による費用対効果分析および医療費適正化の実証研究 21390170 2009 – 2012 基盤研究(B) 保健医療経営大学 今回、私達は生涯医療費の推計を試みた。さらにリスク予測と医療財政資源の効率的な割当を検討した。健診を受けたことによる医療費増加の検討は、予防介入の有無により医療費・生存年数の差を推定した。推計結果により、生涯医療費と平均余命医療費は減額された。この成果を踏まえ、リスク予測と医療財政資源の効率的な割当を検討した。予防・治療の両面において、前年で推計した「死亡前医療費調整による生涯医療費」により、各年代別に対象者一人にかかる平均余命医療費およびこの時点tごとにかかる平均医療費支出を推定した。
  503. 病気の不確かさ尺度(成人用)の開発 19592530 2009 – 2010 基盤研究(C) 北海道医療大学 本研究では、入院か通院かという療養の場を問わず使用できる病気の不確かさ尺度(成人用)を開発し、その信頼性と妥当性を検討した。探索的因子分析の結果、尺度は26項目6因子構造(【生活予測】【情報解釈】【病気の意味】【病気の性質】【病気の回復】【闘病力】)で構成された。6因子の累積寄与率は60.89%であり、尺度全体または6因子においても十分な信頼性や妥当性が確認され、モデル適合度も良好なことから臨床での使用基準を充たしていると判断した。
  504. 就労している初回急性心筋梗塞患者の体験に関する現象学的研究 20890147 2008 – 2009 若手研究(スタートアップ) 山口大学 壮年期から中年期の就労している初回急性心筋梗塞患者の発症から退院3ヶ月後までの体験について現象学的アプローチを用いて面接を行い、内容を分析した。その結果、局面1:生の不確かさを感じ動揺する、局面2:生を前向きに受け入れ、自己コントロールを考える、局面3:今後の人生と自分の死生観とを統合し、終局を迎えた時に後悔がないように生きるという3つの局面へと意識が変遷していくことが明らかになった。
  505. 頚動脈推定血圧の有効性と脳卒中発症の関連についての研究 20790621 2008 – 2009 若手研究(B) 獨協医科大学 頭蓋内血管の動脈硬化性変化の評価法について検討した.超早期動脈硬化は頚動脈脈波速度検査で予想でき,早期動脈硬化は,頚動脈推定血圧と上腕動脈一足首動脈間脈波速度検査が有効であること証明した.また高度な動脈硬化の評価には,頚動脈超音波検査と上腕動脈一足首動脈間脈波速度検査が有用であることが判明した.さらに,頚動脈の動脈硬化には,上肢血圧よりも頚動脈推定血圧がより強く関与することを明らかにした.
  506. マウス心筋虚血再灌流障害および心筋梗塞モデルにおけるケミカルシャペロンの影響 20790521 2008 – 2009 若手研究(B) 金沢大学 心筋虚血再灌流障害において、ケミカルシャペロンである4-フェニル酪酸(4-PBA)が小胞体ストレスを軽減し、梗塞巣の縮小と心機能保持に寄与する可能性を検討した。同様に心筋梗塞モデルにおいても4-PBAが心機能保持に寄与するか否かを検討した。その結果、虚血再灌流モデルにおいて、4-PBAは小胞体ストレスを軽減することで梗塞巣を縮小し、心機能を保持し生存率を改善した。一方心筋梗塞モデルでは4-PBAは線維化を抑制したが心破裂をきたす傾向を認めた。
  507. 非線形非平衡系にみられる間欠性ゆらぎの統計力学とその応用 20740227 2008 – 2010 若手研究(B) 日本大学 間欠性ゆらぎの解析法を開発し,非線形非平衡系にみられる現象を解析した。発達乱流などの非線形非平衡系で観測される間欠性ゆらぎの非ガウス確率密度関数は,分散の異なるガウス分布の重ね合わせで記述できる場合がある。我々はこの点に注目し,非ガウス過程を確率変数の積として分解する方法を開発した。ここでは,観測された確率過程が局所的なガウス過程と,分散の非一様性を表わす対数振幅のゆらぎで相乗的に記述されることを仮定した。この仮定の枠組みに基づけば,観測時系列の対数絶対値モーメントの推定を通じ,対数振幅の統計的性質を明らかにできることを示した。この方法では,べき的な裾をもつ分布で分散が有限でない非ガウス分布についても,対数振幅の統計量は有限になるため,非常に幅広い確率過程に適用可能になる。理論的・数値的例として,ランダムカスケードモデルやsuperstatisticsの性質を議論した。粗視化スケールの増加にともなうガウス分布への遅い漸近に注目し,その速さを数値的,理論的に見積もった。また,応用例として,心拍変動の解析を行った。
    さらに,複雑系で観測される,非対称間欠性を特徴づけるために,中央値を中心とした正側,負側の非ガウス統計量を提案した。そのような非対称過程の数値例として,カスケード過程を拡張した確率過程を構築し,このモデルの理論的性質が,我々の提案した推定法で求められることを数値実験で確認した。この方法を心拍変動解析に応用し,心拍変動に見られる非対称性が加齢や自律神経系異常に依存して変化することを見出した。

  508. 植込み型除細動器患者に対する生活の質の向上をめざした看護ケアモデルの開発 20659343 2008 – 2010 挑戦的萌芽研究 九州大学 最終年度として新たに研究連携機関となった都立広尾病院でICD患者における長期経過観察中のQOLや予後を改善することを目的とし、心身医学的手法を用いた看護ケアモデルの普遍性を強化するために共同研究を開始した。
    【対象と方法】都立広尾病院において外来経過観察されている139名のICD患者にQOL質問票(SF8),ベックの抑うつ尺度,ICD作動に関連した「出来事インパクト尺度」,日本版STAIを用いて横断的に調査を行い、九州大学病院の症例40例とあわせて179例の解析を行った。ICD植込患者のQOL低下と心理的葛藤の予測因子における男女差を検討するために臨床背景データ、アンケート調査項目に対して重回帰分析をおこなった。
    【結果】179例中、女性は34例で平均年齢は女性が若かった。女性にはβ遮断薬の投与例が少なく、女性のSF8におけるQOLの身体的健康度は男性より低く(男:47.6 vs.女:44.0,P=0.024)、ICD作動に関連した出来事インパクト尺度は高く(男:31.0 vs.女:40.6,P=0.008)、うつの程度も男性より高い指標(男:5.8 vs.女:9.3,P=0.019)であった。重回帰分析の結果、男性においては、うつはQOL低下の強い予測因子となるが(β-coefficient=-8.52,P<0.001)、女性ではそうではなかった。また、男性に於いては植込み型除細動器の作動歴がQOL低下やうつと関連していた。一方、女性に於いては喫煙(β-coefficient=-12.39,P=0.006)、心不全の既往(β-coefficient=-7.28,P=0.001)がQOLの低下と強い関連が見られた。
    【結語】ICD患者においては心的な障害を合併しており、その障害の程度には男女差があることが明確となった。今後、心身両面の看護ケアを行うに際し、この性差を考慮することが重要である。
  509. 水代謝異常症におけるバソプレシン分泌と腎アクアポリン水チャネルの動態 20591083 2008 – 2010 基盤研究(C) 自治医科大学 今回の基盤研究(C)では、in vitro、in vivoおよび臨床研究を通じて、水利尿不全の病態におけるバソプレシン(AVP)と腎アクアポリン-2(AQP2)水チャネルの役割を検討した。In vitroの研究では、AVPがAQP2転写調節の主要因子であることはよく知られているが、同時に浸透圧因子がAQP2転写に関わること、さらに低浸透圧がAQP2 5’上流域の浸透圧反応部位(-570~-560bp)を介してcAMPによるAQP2転写の促進を抑制することを見いだした。In vivoでは、糖質コルチコイド欠乏ラットにおけるAVP依存性AQP2 mRNA、蛋白発現が亢進すること、さらにこの変化は高齢ラットでより顕性化する事実を示した。この変化は、糖質コルチコイド欠乏時AVPの産生、分泌が増加して、水利尿不全を引き起こすもので糖質コルチコイドの補充で正常化できる。臨床的には、急性感染症時の血清Na値を3群化、低Na血症を引き起こす群では著しいAVPの分泌亢進を認めた。この変化は循環血液量の減少によるのでなく、炎症性サイトカインIL-1βの分泌亢進にもとづく中枢性のAVP分泌の増加によるものと考えられた。従ってこの病態はSIADH様のものと判断できる。急性心筋梗塞では発症後72時間以内に低Na血症が20.9%に認められた。これらの低Na血症群では血漿AVP値が明らかに亢進する。短期予後では、低Na血症群では心不全への移行、入院病日の延長が、長期予後では心不全への移行が有意に増加していた。
  510. 新しいベータアドレナリン受容体シグナルEpacの心不全発症にはたす役割 20590871 2008 – 2010 基盤研究(C) 横浜市立大学 敗血症性ショック時にインターロイキン6 (IL-6)などの血中サイトカインが有意に亢進する。交感神経の過剰刺激、すなわちカテコラミン刺激による循環動態の改善はProtein kinase A (PKA)を介する心筋収縮力の亢進作用であると考えられている。我々はサイクリックAMPによる新規活性化因子EpacのIL-6の心筋収縮力の低下に与える影響を検討した。その結果Epacの活性化はIL-6による心筋細胞内のJak-STAT pathwayの活性化ならびに、それに続くiNOS発現上昇を抑制して心機能抑制に対して保護的に作用することが明らかになった。
  511. 神経反射性失神の診断と病態に関する総合的研究 20590851 2008 – 2011 基盤研究(C) 産業医科大学 本研究では、反射性失神を中心に失神の原因と頻度、就労に関すること、長距離バス運転手の失神状況を分析し、更には失神の治療としての薬物治療と非薬物治療の効果、及び原因疾患の鑑別診断に関する植込み型心電計(ILR)の有用性を調べ、欧州での成績と比較検討した。就労中の失神が原因で辞職する患者は少なくないことが判明した。長距離バス運転手の事故の多くは運転中に失神発作を来していることが原因であることは判明した。ストレスが原因と考えられた。反射性失神の治療として起立調節訓練法は極めて有効性の高い治療法であり、患者自身は自宅で行うことができるため非常に有用な治療法であることが判明した。植込み型心電計は、原因不明の失神患者の鑑別診断に高い有効性を示し、その成績は欧州に比し本邦ではより高い原因疾患の診断率があった。今後本邦での多施設前向き研究が望まれる。
  512. 血中S100A12タンパク質の動脈硬化および心血管イベントへの関与に関する研究 20590846 2008 – 2011 基盤研究(C) 関西医科大学 我々は本研究により慢性腎不全による維持透析患者において、(1)血液中のS100A12という名前のタンパク質の濃度が明らかに上昇し、それが頚動脈の動脈硬化指数への増悪因子である事、(2)脳梗塞、心筋梗塞、狭心症、手足の閉塞性動脈硬化症などの血管障害を起こした事のある患者において、この血中S100A12タンパク質濃度が上昇している事を発見いたしました。この結果より、血液中のS100A12を測定する事で各種の血管疾患の発症を予測する事が出来るのではないかと考えます。
  513. 難治性血管炎に対する新規治療法開発 20590844 2008 – 2011 基盤研究(C) 日本医科大学 細胞や増殖因子を用いた血管再生治療が世界的に行われるようになり、骨髄細胞から分泌される増殖因子が血管新生に寄与していることが判明した。しかし最適な血管再生の方法はまだ定まっていない。我々は特に難治性血管炎を対象として、徐放化bFGFによる血管再生治療を考案、臨床研究を行った。初年度には治療効果判定のための最適な血流評価法を提唱した。次年度、次々年度には難治性疾患であるChurg-Strauss症候群とSLEによる末梢潰瘍への有効性を症例報告した。最終年度には閉塞性動脈硬化症、Buerger病を対象とし、徐放化bFGF血管再生治療の効果を自己骨髄採取血管再生治療の効果と比較し、同等の有効性を証明した。また、このような多様な難治性血管病での有効性を学術本「血管炎」にて紹介し、海外からも評価を受けている。
  514. 心血管疾患発症リスク因子としての腎機能障害:地域住民での意義と検証 20590836 2008 – 2010 基盤研究(C) 岩手医科大学 日本人の心血管疾患発症リスク因子としての慢性腎臓病(CKD)の最適な定義を明らかにする事を目的に研究を行った。血清クレアチン濃度と尿蛋白を測定した地域一般住民を対象とした(n=14131、平均63歳)。心血管疾患(脳卒中、心不全、心筋梗塞・突然死)を前向きに調査した(追跡期間=平均2.7年)。CKDの定義を糸球体ろ過速度(eGFR)と尿蛋白(UP)で、(1)eGFR<60、(2)eGFR<60またはUP陽性、(3)eGFR<60またはUP偽陽性以上、の3種類として各定義毎に心血管疾患発症リスク予測能をCoxの多変量回帰モデルから算出したハザード比(HR)で比較した。その結果、上記の定義で、非CKDに比較し、最も心血管疾患発症リスクのHRが高かったのはCKD定義(3)であった(HR=1.36, 95%信頼区間1.07-1.74 ; p<0.05)。以上より、日本人での心血管疾患発症リスク因子としての慢性腎臓病(CKD)のスクリーニングのためには、血清クレアチニンの他、尿検査も必要と考えられた。
  515. ホルター心電図の自動解析による閉塞型睡眠時無呼吸の検出と予後予測 20590832 2008 – 2010 基盤研究(C) 名古屋市立大学 睡眠時無呼吸にともなう特徴的な心拍数の変動であるcyclic variation of heart rateをホルター心電図から自動検出するアルゴリズムとしてautocorrelated wave detection with adaptive threshold(ACAT)を開発した。ACATは中等症以上の睡眠時無呼吸を感度83%、特異度88%で検出し、睡眠時無呼吸のスクリーニング法としての有用性を証明した。
  516. 慢性心不全患者における免疫異常と自律神経異常の相互連関に関する研究 20590821 2008 – 2010 基盤研究(C) 信州大学 慢性心不全は心血管疾患を有する患者の長期予後を規定する病態であり,人口構成の高齢化に伴い有病率が上昇している。本研究では,心不全の病態解明と予後規定因子の解明のため心臓自律神経機能解析および免疫制御システムの解析を行った結果,心臓交感神経機能評価において新たな予後予測指標を見出した。さらに,症例の末梢血中の調節性T細胞の割合(%)を測定する研究を確立し,調節性T細胞の割合と一部の動脈硬化性疾患の病態との関連が示された。
  517. 健診所見と生活習慣の医療費予測性に関する大規模コホート研究 20590655 2008 – 2010 基盤研究(C) 岩手医科大学 健診受診者を対象とした大規模前向きコホート研究データに医療費情報を追加することによって、75歳未満の市町村国保加入者4,481人について循環器疾患危険因子(肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常、現在喫煙)保有数別の医療費支出状況を明らかにした。結果として、危険因子が多い者ほど医療費を過剰に支出している現状を示すとともに、危険因子保有者によって総医療費の20.2%が過剰支出されたことが示唆された。
  518. 可溶性フィブリンの血中動態と血栓症における測定意義に関する研究 20590583 2008 – 2010 基盤研究(C) 北海道医療大学 可溶性フィブリン(SF)には様々な複合体が存在しており、血栓形成直前に現れるSF複合体の血栓早期診断の予測因子なるか検討した。血栓性素因および急性心筋梗塞患者の急性期のFMC値は有意に増加しており、局所の血管内の血栓も反映することが示唆された。0.2μmおよび0.45μmフィルター処理検体による検討では、急性期に高~中分子SF複合体が増加した。二次元等電点電気泳動後F405を用いたWestern Blotによる解析でも、急性期に様々な分子量のSFがpH5~10領域の広い範囲で確認され、血栓形成急性期におけるSFの多様性が示唆された。
  519. 遺伝子素因に基づくニトログリセンリン生体応答性の客観的評価とその個別医療への応用 20590553 2008 – 2010 基盤研究(C) 独立行政法人国立病院機構函館病院 ニトログリセリン(GTN)が生体内で一酸化窒素(NO)を遊離して血管拡張をきたす機序は不明である。近年、アルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)がGTNからNOを遊離させると報告されている。モンゴロイド系人種では遺伝的にALDH2の変異が一定の割合で存在することから、GTNの効果減弱または無効の可能性が推測される。今回の研究では、ALDH2の変異と飲酒高感受性をアンケートにより検討し強い関連性を確認。ALDH2遺伝子変異(すなわち飲酒耐性)にかかわらずGTN による血管拡張反応が同様に認められ、生体内ではALDH2に依存する代謝経路以外の存在が示唆された。
  520. 精神機能と生活習慣行動特性およびメタボリックシンドローム出現との関連性の検討 20500598 2008 – 2010 基盤研究(C) 京都文教大学 本研究では、低い精神健康度レベルがいかなる生活習慣行動特性と生理・生化学的特性に関連するか検討し、低い精神健康度レベルと代謝異常出現の双方に関連する因子を明らかにすることを目的とした。健常者と糖尿病患者両群において、低い精神健康度群では代謝異常との関連が報告されている睡眠と運動行動が抑制されていた。さらに、患者群における低精神健康度群では生活リズムも乱れており、低い精神健康度がこれらの因子とともに代謝異常に関わる可能性が示唆された。
  521. プロフェッショナルキャリア形成を導くフィジカルアセスメント教育モデルの構築と評価 20390540 2008 – 2012 基盤研究(B) 名古屋大学 看護基礎教育から継続教育まで一貫性のあるフィジカルアセスメント教育システムの構築を目指し、教育と臨床の両者が求めるフィジカルアセスメント教育のミニマム・エッセンシャルズと、フィジカルアセスメントの集合教育および個別的教育の方法とシミュレータを用いた認識能力評評価の標準化とその可能性及び実効性について明らかにし、これらの成果を継続教育に活用できるように訪問看護師のための教育プログラムを開発した。
  522. 循環器疾患発症の長期推移と地域のリスク要因の推移との関連に関する研究 20390184 2008 – 2011 基盤研究(B) 滋賀医科大学 循環器疾患の発症率の推移とその危険因子を明らかにする目的で、滋賀県高島市において循環器疾患の全数登録の研究および生活習慣病の危険因子を明らかにするコホート研究を実施した。循環器疾患の全数登録研究から、現在、出血性脳卒中はわずかな減少傾向を示し、脳梗塞は微増傾向を示した。また、コホート研究は現在第2次ベースライン調査(リスク要因の推移の把握)実施中であるが、動脈硬化がすすむことによって総死亡率および循環器疾患発症率が上昇することを一般住民を対象とした研究において初めて明らかにすることができた。
  523. ある地域集団における循環器疾患の発症率とその関連要因 08F08124 2008 – 2009 特別研究員奨励費 滋賀医科大学 1)急性循環器疾患の発症登録研究
    急性循環器疾患発症登録を実施している滋賀県高島市において、1990年~2001年の脳卒中の年齢調整発症率の推移を検討した。男性の脳梗塞は1990代中期に顕著な減少を示したが出血性脳卒中(脳出血およびくも膜下出血)はほとんど変化(やや上昇傾向)が認めらなかった。脳梗塞の傾向は女性でも認められた。一方、急性心筋梗塞は、男性および女性ともに顕著な上昇を認めた。
    2)循環器疾患のコホート研究
    滋賀県高島市の住民健診受診者を対象とするコホート研究において、動脈硬化指標として測定した上腕動脈-足首動脈間脈波伝播速度が生命予後との関連について検討した。baPWVは血圧脈波検査装置(フォルムPWV/ABI)を用い測定した。解析対象はbaPWVの測定者2642名のうち、調整変数がそろう2480名(男性839名,平均年齢61.0±12.4歳、女性1641名,平均年齢57.1±12.8歳)である。現在までに65名の死亡を確認しており、平均追跡期間は6.5年であった。
    上記対象者をbaPWV値で低値(<13.36m/sec)、中位(<16.22m/sec)、高値群(16.22m/sec〓)の3群に分け、Cox比例ハザードモデルを用いて低値群を基準群とする総死亡ハザード比を算出した。調整変数は年齢、性別、BMI、HDLコレステロール値、LDLコレステロール値、血清中性脂肪値、HbAlc値、収縮期血圧値、糖尿病・高血圧治療歴、喫煙飲酒歴であった。baPWVの多重調整ハザード比は、中位群で2.1(95%CI:0.4-10.2)倍、高値群で6.8(95%CI:1.4-32.8)倍となり、総死亡リスクの上昇を認めたbaPWVの上昇は一般住民においては年齢、血圧等を調整しても総死亡の独立した予測因子であることが示唆された。

  524. 水素ガス吸引による虚血再潅流障害の軽減 19659331 2007 – 2008 萌芽研究 日本医科大学 組織が虚血再灌流(I/R)に曝露されると、再灌流の早期段階でROSが大規模に生成され、肝、脳、心臓および腎など様々な臓器の組織に深刻な障害を引き起こす。これまで酸化ストレスによる1/R傷害は基礎研究および臨床研究の重要な焦点とされてきた。
    I/R誘発性臓器障害の考えられる基礎的な機序は、多くの因子が関与し、相互依存的であり、低酸素症、炎症反応およびフリーラジカル障害に関与している。I/R傷害の病因は未だ解明されていないが、酸素フリーラジカルが重要な役割を担っていることは明らかである。それゆえI/R傷害への臨床的対応としては、フリーラジカル・スカベンジャーが実用的であると考えられている。実際に、これまでにもnicaraven, MCL-186,MESNA,およびαトコフェロールとGdCl_3などの多くの薬剤が、I/R傷害を予防するためのスカベンジャーとして試みられてきた。
    私たちは、2007年に水素分子がラットの中脳動脈閉塞モデルを用いた研究で、水素分子が治療的抗酸化活性を呈することを報告した。また、昨年は、肝臓の虚血再灌流障害が、水素ガス吸引によって軽減されること、ヘリウムでは効果がなかったことを示した。虚血再灌流障害で、最も患者が多く、適用可能性が高いのは心筋梗塞であると予測されるので、心筋の虚血再灌流障害に対する水素ガスの吸引効果をラットモデルを用いて調べた。
    結果は、水素ガスを吸引させると虚血状態でも心臓内に水素が浸透しることが確認できた。また、心筋梗塞モデルラットで水素ガスを吸引させることで、梗塞層が小さくなり、心機能の低下も抑制された。分離した心臓を用いても虚血再灌流障害を水素は抑制することが明らかとなった。

  525. 蛋白多項目解析の基盤技術確立と臨床応用 19650136 2007 – 2008 萌芽研究 (財)東京都医学研究機構 高齢化社会を迎え、癌、糖尿病、脳卒中、心筋梗塞などの生活習慣病人口が急増し、経済的にも社会的にも大きな問題を将来に控えている。この状況を打破し医療費の削減や患者のQOL向上を実現する為にも、疾患を早期に診断し、的確な薬効予測に基づく投薬で早期に完治する予防的治療の確立が重要である。本申請では、血液一滴で、数十種類の、蛋白質バイオマーカーを、超高感度に迅速診断できる診断法として、超高感度多項目同時診断法(MUSTag:Multiple Simultaneous Tag)を用いて、共同研究、共同開発を通して、新規の解析機器の開発、さらには、これらを用いたトランスレーションリサーチへの応用を推進することを目的とした。
    (1)アッセイ時間の短縮は、バッファーや測定法の改良にて、1時間前後に短縮可能となった。
    (2)最高検出感度は、使用する抗体にもよるが、数fg/mlを達成できた。
    (3)多項目数の目標として、現状のアッセイ系が3Plexで十分との判断から、今回はPlex数を増やすことは残念した。ただ、測定機器が改良されれば5-10Plexは可能であることが明らかとなった。
    (4)MUSTagアッセイでもっとも時間を有する定量PCRの過程を短縮するため、企業との共同開発にて超高速RT-PCRを開発し、プロトタイプが完成した。これによりアッセイ時間が10分程度に短縮でき、目標を達成できた。今後はさらに改良を加えていく予定である。
    (5)ヒト臨床サンプルを用いたMUSTagアッセイでは、血清を用いた遺伝病、尿を用いた膀胱癌、髄液を用いたアルツハイマー病において、アッセイ条件が決定できた。また、細胞培養液、細胞抽出液においても良好なアッセイ結果が得られた。今後は、各疾患に応用し、実用化を目指す。
  526. 脆弱動脈硬化病変におけるメタボリックシンドロームの関与と血管内皮細胞障害の検討 19590869 2007 – 2008 基盤研究(C) 熊本大学 CB1受容体がヒト冠動脈粥腫に存在し、動脈硬化に対してCB1受容体遮断が何らかの有益性をもたらすかどうかを検討した。ヒト冠動脈粥腫、特にマクロファージに一致してCB1受容体が発現している事、冠動脈疾患患者では内因性カンナビノイドシステムが活性化している事が示された。抗肥満の治療戦略であるCB1受容体拮抗薬rimonabantは動脈硬化病変におけるマクロファージの炎症性cytokine産生を抑制し、抗動脈硬化作用を有する可能性がある事が示された。
  527. 心筋梗塞後重症心不全に対する最新薬物治療法の開発 19590843 2007 – 2008 基盤研究(C) 国立循環器病センター(研究所) アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ロサルタン)とアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(塩酸ドネペジル)長期併用投与が心筋梗塞後心不全ラットの神経液性因子、心機能、心臓リモデリングに及ぼす効果を検討した。その結果、ロサルタン単独投与に比べて、ロサルタンと塩酸ドネペジルの併用投与によって、心筋梗塞後心不全ラットの神経液性因子レベル、心機能、心臓リモデリングに更なる改善効果があることを明らかにした。
  528. 新しいヒトキマーゼ測定法の確立とその臨床応用 19590841 2007 – 2008 基盤研究(C) 福岡大学 まず第一に、特異性の高いキマーゼ阻害薬を使用し、新しいヒトキマーゼ依存性アンジオテンシンII(AII)産生能の測定法を確立した。この方法を用いて、人の末梢血検体を分析し、ヒトキマーゼAII産生能がヒトの循環単核球中に存在し、単球に多く、男性で高値であり、白血球数・CRP、HOMA指数・尿中微量アルブミン/クレアチニン比などと正相関することを見出した。すなわち、生活習慣病の病態で循環単核球中のキマーゼ活性が増加することを明らかにした。
  529. Pentraxin3の心不全発症と進展における役割 19590804 2007 – 2008 基盤研究(C) 福島県立医科大学(2008) / 山形大学(2007) 体液性の自然免疫を担うpentraxin 3が心不全の発症と進展に関与していることを、pentraxin 3ノックアウトマウスと心臓選択的pentraxin 3過剰発現トランスジェニックマウスを用いて明らかにした。圧負荷による心肥大、心機能低下、線維化、生存率の低下はノックアウトマウスで抑制された。反対に、心臓選択的 pentraxin 3過剰発現トランスジェニックマウスでは、圧負荷に対する心肥大、心機能低下、線維化はより顕著で、生存率も低かった。臨床的には、血漿中のpentraxin 3濃度が高い心不全症例では心血管死を高頻度に認めた。また、心嚢液中のpentraxin 3濃度の高い例では心機能が低値で、開心術後の回復が遷延した。自然免疫が感染症の制御だけでなく、心不全の発症・進展機序として関与していることが明らかになった。
  530. PDGFd関連因子を標的とした悪性中皮腫診断および治療法確立への試み 19590323 2007 – 2008 基盤研究(C) 兵庫医科大学 悪性中皮腫の早期診断・治療法の確立を実現化するため、我々は悪性中皮腫由来細胞株において高発現しているPDGFd(血小板由来増殖因子d)に注目した。我々はPDGFd そのものが早期発見に必須の因子である可能性を示したのみならず、PDGFd の活性をタンパク質レベルで制御するウロキナーゼおよびウロキナーゼ受容体、あるいは転写レベルで調節する(タンパク質の設計図であるmRNA の量的な調節)アンジオテンシンII 受容体阻害薬が新規治療薬開発のキーとなる事を示唆した。
  531. 血清DNase Iを用いた急性心筋梗塞の鑑別診断に関する法医学的研究 19390184 2007 – 2009 基盤研究(B) 福井大学 血清DNase Iを急性心筋梗塞の”鑑別診断マーカー”として利用するための基礎的研究を行い、以下の成果を得た。(1)血清DNase Iは心筋虚血によって一過的に上昇し、心筋虚血の新規な診断マーカーとして活用できる。(2)DNase I遺伝子の低酸素応答が心筋虚血に伴う血清DNase Iの一過的上昇に関与する。(3)ELISA法を利用した血清DNase Iの高感度・迅速な定量法が開発でき、血清DNase Iの法医実務・臨床応用を可能とした。(4)DNaseI familyであるDNase II及びDNase I-like3遺伝子内の非同義置換型SNPに酵素活性の消失を引き起こすアレルが分布し、これらアレルは自己免疫疾患の疾患感受性遺伝子となることが示唆された。
  532. 拒食症の感受性遺伝子の網羅的同定と機能解析による発症カスケードの解明 19101008 2007 – 2011 基盤研究(S) 東海大学 摂食障害は90年代後半より若年層を中心に急増した精神疾患であり、治療法や予後予測法の確立が待ち望まれる。我々は、マイクロサテライトを用いたゲノムワイドな相関解析法により新たに見出した拒食症感受性遺伝子群について、その分子機能解明の鍵となる多数の相互作用を同定するとともに、83アミノ酸から成る領域等、創薬ターゲットとして有望な機能ドメインを特定した。
  533. 乳がん患者と家族の関係性の向上を目指した心理支援プログラムの開発 07J02833 2007 – 2009 特別研究員奨励費 近畿大学(2009) / 大阪大学(2007-2008) 本年度は、乳がん患者に対する縦断的質問紙調査を引き続き行ったことに加え、乳がん患者の配偶者に対する質問紙調査を行い、結果をまとめた。
    まず、乳がん患者に対する縦断的調査の7時点のうち、入院時(T1;N=201)、1ヶ月後(T2;N=196)、半年後(T3;N=196)のデータを用いて、解析を行った。親しい他者からのネガティブサポートの中で、過剰関与と問題回避は時間の経過に従って減少するサポートであり、過小評価は変化しないサポートであることが示された。また、各時点でのネガティブサポートが心理的適応に及ぼす影響を検討したところ、3時点ともに問題回避のみが有意な影響を及ぼしていた(T1:β=0.27,p<0.01;T2:β=0.34,p<0.01;T3:β=0.27,p<0.01)。親しい他者が問題回避していると報告している患者には、NEOによる性格傾向に特徴はなかったが、感情抑制傾向が強いことがわかった(r=0.27,p<0.01)。このことから、二者間の問題回避は、どちらか片方ではなく両者のダイナミズムの問題として捉える必要があることが示唆された。
    そのため、乳がん患者の配偶者(N=368)を対象に、どの程度患者に対して問題回避を行っているのか、また、問題回避を行う配偶者の特徴を調べることを目的に質問紙調査を行った。その結果、ときどきよりも頻回に問題回避をしている配偶者が、診断直後では約半数、また現在(術後平均2.4年)でも約35%いることが明らかになった。また、配偶者自身の問題回避と患者がとっていると認識している問題回避との相関は強かった(r=0.62,p<0.01)。問題回避をとる配偶者の特徴として、がんに対する脅威性が高い、侵入想起症状が強いという特徴が明らかとなり、問題回避をとることには、配偶者の性格傾向や家族機能ではなく、配偶者自身の心理的不適応が背景にあることが明らかとなった。
    これらの結果から、患者と配偶者の両者の視点にたった心理支援ツールを開発し、乳腺外科のある病院やクリニックの外来、ホームページなどで情報発信する準備を進めている。
  534. 閉塞性睡眠時無呼吸症候群に対する口腔内装置の治療効果予測 18791581 2006 – 2007 若手研究(B) (財)神経研究所 本研究の目的は,閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)に対する口腔内装置の治療効果予測因子として,食道内圧陰圧値(Pes)と経鼻持続的陽圧呼吸療法(nCPAP)利用時の処方圧(P_)が有効であるかにつき検討することとした。nCPAP治療を開始しているOSAS患者35名を対象とした。Pesの測定とP_の決定は,平成18年度中に終了している。nCPAP治療を中断し,nCPAPの効果を排除した後に口腔内装置を装着,下顎位の前方調節終了後に装置装着状態で終夜ポリグラフを採得した。PesおよびP_の治療効果予測能の評価には,ROC曲線および曲線下面積(AUC)を用いた。口腔内装置装着により無呼吸低呼吸指数(Apnea Hypopnea Index;AHI)は有意に減少した(p>0.001)。治療によりAHIが,5未満かつ初診時の50%以上減少した者を治療反応者とみなす場合,AUCは0.72(Pes),0.76(P_)となった。最適カットオフ値は10.5cmH_2O(Pes:感度/特異度=76/69),12cmH_2O(P_:感度/特異度=90/56)であった。さらにPesおよびP_との間には有意な正の相関が認められた(Y=0.184X+6.41,r=0.74,P>0.05)。以上より、PesおよびP_はともに口腔内装置の予測因子となりうることが判明した:初診時Pes値が12cmH_2O未満,またはP_が10.5cmH_2O未満であるOSAS患者を対象にすることにより,口腔内装置の治療成績は向上すると判断された。
  535. 地理情報システム(GIS)を用いた地域医療計画の評価に関する基礎的研究 18790351 2006 – 2008 若手研究(B) 弘前大学 本研究では、地理情報システム(GIS)を用いた地域医療計画の評価のための基礎資料とするために、北海道と青森県を事例として、
    (1)患者の受療動向、
    (2)医療機関へのアクセシビリティ、
    (3)二次医療圏の医療機能および圏域について分析・評価を行った。その結果、医療情報と生活経済情報をGIS上で重ね合わせることで、地域住民・患者の移動選好度との地理的関係や医療機能の状況、医療資源の地理的分布による地域格差および二次医療圏の圏域を二次元的かつ総合的に検証できたとともに、地域医療計画でのGISの有用性を示すことができた。

  536. 新規心血管疾患発症リスクマーカーの有用性の検証 18590786 2006 – 2007 基盤研究(C) 岩手医科大学 本研究は、岩手県北地域コホート(Iwate-KENKO)研究の平成14-16年度の参加者を対象として、本研究助成金を用いて平成18から19年度に予後(死亡、心血管事故、介護認定度、医療費)を追跡調査し、新規リスクマーカー(血中B型ナトリウム利尿ペプチド濃度、高感度CRP値、尿中アルブミン値)が本邦人の死亡、心血管事故発症、介護認定度および医療コストの予測にどの程度役立つかを明らかにする事である。
    二戸、久慈、宮古医療圏の地域住民26,469,を対象として、平成19年度に各種リスク指標と死亡や心血管事故発生との関連を調査した。平均追跡期間は2.7年であった。その結果、血中B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)濃度は、男女に関わらず新規心不全発症のマーカーとして有用であり、全死亡に関しては男性のみが関連した(論文投稿中)。また、BNP濃度は脳卒中とくに新規脳梗塞発症との関連が男性で明らかであり、心房細動例を調整してもこの関連性は有意であった(欧州心臓病学会2007、2007年9月ウイーンで発表、論文作成中)。また、高血圧前症を血清CRP値の中央値で2群に分けると2.7年の追跡期間で、CRP高値の高血圧前症群の虚血性脳卒中の発症リスクはCRP低値の高血圧前症に比較して男性で約4倍であり、高血圧群と比較して同等のリスクであった(欧州心臓学会2007、2007年9月ウイーンで発表、論文作成中)。
  537. 骨格筋サイドポピュレーション細胞を用いた重症心不全への細胞移植療法 18590785 2006 – 2007 基盤研究(C) 大阪市立大学 我々は米国ミネソタ大学との共同研究にてブタの骨髄間葉系幹細胞を用いて、免疫不全マウスの心筋梗塞モデルに直接心筋細胞移植を行った。移植後経時的に心臓超音波検査を施行し、心機能評価を行った。その後、心臓の組織切片を作成し蛍光多重免疫染色を行い、骨髄間葉系幹細胞の分化を評価した。その結果、心機能は骨髄間葉系幹細胞を移植することにより対象群と比べて心臓リモデリングは抑制されており、収縮能の改善を認めた。また、蛍光多重免疫染色法より、心筋に移植した骨髄間葉系幹細胞はCardiac-Troponin T,Myocyte Enhanced Facter-2の発現を確認した。また、N-Cadherin,Connexin 43,CD 31,von Willebrand factorの発現も確認した。これらの結果は欧米論文のStem cells.25(3):612-20.2007に掲載された。これらの経験と実績をもとに、骨格筋サイドポピュレーション(SP)細胞を用いて、細胞移植療法の検討を行う予定である。骨格筋細胞を使用する利点は再生能の高い器官の一つであり、筋生検により容易に採取可能であること。自家移植であり拒絶反応を有しないこと、また、細胞を培養することにより増殖可能なことが挙げられる。マウス心筋梗塞モデルに細胞移植療法を行うことにより、その有用性を検討したいと考える。また、近年細胞シートを用いた移植療法が注目を集めている。今後直接心筋細胞移植ばかりではなく、細胞シートを用いた細胞移植療法の有用性も検討する。
  538. 大血管症と細小血管症・微小血管障害に対するアディポネクチンの有効性に関する研究 18590780 2006 – 2009 基盤研究(C) 熊本大学 冠動脈疾患患者ではアディポネクチンレベルは低下していることを明らかにした。急性心筋梗塞患者において、男性では入院時のアディポネクチンレベルが、女性では入院時と退院時のアディポネクチンの差が独立した予後因子であった。低アディポネクチン血症では冠動脈プラーク内の脂質成分を占める領域が多く、スタチンを投与することにより脂質成分を含むプラーク形成を抑制できることが予想された。細小血管である眼動脈の血流パターンは冠動脈疾患の重症度を反映するものと考えられた。我々の研究結果より大血管から細小・微小血管レベルに至るまで、アディポネクチンとの関連が明確となり、アディポネクチンレベルを上昇させることによる動脈硬化の進展抑制の可能性が示唆された。
  539. 機械的交互脈の成因解明 18590763 2006 – 2007 基盤研究(C) 新潟大学 心筋リモデリングの進行を反映している機械的交互脈と、心室細動の前兆である電気的交互脈の関連を検討した。慢性心不全では機械的交互脈の易出現性が高まっており、大きな機械的交互脈は電気的交互脈を伴っていることを臨床例で明らかにした。また、多数の慢性心不全例を治療し、機械的交互脈が出現しやすい症例が心室細動により突然死するリスクが高いことを発見し報告した。陳旧性心筋梗塞および拡張型心筋症による慢性心不全症例について、診断的心臓カテーテル検査の際、ミラー圧トランスデューサーを用いて、左室圧dP/dtを記録するとともに、ペーシング法を併用して連結期収縮性特性、頻度収縮性特性、期外収縮後収縮増強反応、機械的交互脈出現閾値を測定した。機械的交互脈が持続している状態で左室圧容積曲線を求め、臨床例では左室収縮性と前負荷の両者が交互に変動していることを示した。これは一方で、交互脈の持続が前負荷依存性(Starlingの法則)だけでは説明できないことを示したことになる。慢性心不全の多数例について頻度収縮性特性を求め、新たな定量的指標、最高強度心拍数(peak force rate)と収縮性増強幅(force gain)を提唱した。この指標を用いて慢性心不全例の予後予測能を検討し、収縮性増強幅が予後指標となることを示した。これまでの検討では頻度収縮性特性の障害と交互脈出現性には強い関連がある。以上から、交互脈は慢性心不全症例にみられる「心筋リモデリングの進行」と「心室細動リスクの上昇」という二大死因の基盤をなす心挙動と考えられる。
  540. 急性冠症候群の発症におけるADAMTS-13の関与 18590336 2006 – 2007 基盤研究(C) 宮崎大学 ADAMTS-13は、血栓形成を抑制する作用や血小板粘着凝集の抑制を介した内皮細胞の活性化防止作用を有していると考えられ、動脈硬化の進展や急性冠症候群(ACS)の発症に関与していると予想される。本班究においては、ACS患者から採取した検体を用いてADAMTS13を検討し、またIn vitroおよび動物実験により血栓形成に対する作用を検討した。方法:(1)急性心筋梗塞患者の冠動脈から吸引採取された新鮮血栓におけるvon Willebrand factor(VWF)とADAMTS13の局在を、免疫組織化学的手法を用いて検討した。(2)コラーゲンを固層化したガラス板上に、蛍光標識した血小板を含む全血を灌流し、共焦点顕微鏡によるイメージング後、形成された血栓の面積を計測した。(3)動脈硬化性血栓の形成におけるADAMTS-13の役割を検討するために、家兎大腿動脈バルーン再傷害モデルを用いて検討した。結果:(1)ADAMTS13は全ての冠動脈血栓に存在し、VWFとほぼ一致して局在した。(2)コラーゲン上に形成された血栓においても、ADAMTS13はVWFとほぼ一致して存在した。またADAMTS13活性阻害抗体により、灌流6分後の1500/Sにおける血栓面積率と血栓長径は有意に増大した。一方、100/Sずり速度下では、血栓面積率、血栓長径に有意な差を認めなかった。灌流により高分子量のVWFマルチマーは減少したが、ADAMTS13阻害抗体はこれを抑制した。
    (3)ADAMTS13活性阻害抗体の投与により、肥厚内膜の傷害15分後に形成される血栓の面積は有意に増大した。考察:ADAMTS13は血栓内に存在し、高壁ずり速度下においてVWF切断を介して動脈硬化性血栓の形成を抑制することが示唆された。したがって、ACS発症に対しても深く関与していると考えられた。
  541. 虚血心筋ターゲティング微小バブル超音波療法の確立:冠微小血管三次元構築への効果 18500390 2006 – 2007 基盤研究(C) 川崎医科大学 虚血性心疾患患者の新規の非侵襲的治療法として超音波と微小バブルを用いた冠血管新生療法を目指すために本研究を行った。虚血領域の冠血管内皮に発現する標的蛋白に対する抗体を結合させた分子ターゲティング微小バブルを作成し、標的局所に集積した微小バブルを体外から非侵襲的に照射する超音波によってこれを破壊し、微小血管への機械的刺激がトリガーとなって冠血管新生・側副血行路発育が促進されるという作業仮説を立て、これを検証すべく研究をすすめた。対象は(心筋梗塞には至らない)反復的虚血刺激法により次第に心機能低下が進行する独自の慢性ラットモデルを用いた。本モデルの標的領域の標的局所の冠血管内皮には炎症性タンパクiNOS、MCP1、IL6などが発現していた。これらを標的とする抗体を結合させた微小バブルを作成し、これを本モデルに静注して経胸壁的超音波刺激で標的虚血領域に存在する微小バブルを破壊する刺激を繰り返した。その結果、我々の仮説に反して、いずれの抗体バブルの処理においても心機能低下予測回帰直線を改善しなかった。冠微小血管構造のイメージングそのものには成功したが、本モデルにおいてバブル/超音波治療による変化を見出す事は困難であった。微小バブルの作成を行う過程の中で、バブルのサイズのフィルタリングの必要性、標的抗体結合の確実性、バブルの局所への結合能力と集積密度の検討など、さらなる確認作業が必要であることが今後の課題として明らかとなった。また、摘出灌流心の実験系で観察された所見とは異なって、生体心では現在臨床利用可能な超音波エネルギーと周波数帯域の条件下では、おそらく減衰による効果の減弱が関与していると推測された。
  542. 医学的な重要性を加味した臨床試験のデザインと評価方法に関する統計学的研究 18500224 2006 – 2007 基盤研究(C) 国立保健医療科学院 本研究は、既存の方法がとりあげなかった、死亡や心筋梗塞、脳卒中、心疾患など、生起するイベントの医学的重大さを加味した検定方法の提案を目的とする。その際、重みの付け方、一つの検定結果を出すための成分の合成方法が重要な課題である。
    複数のTime to event dataの解析、および複数のエンドポイントという観点から、最近の統計分野の関連研究の調査を行い、これらを発展させて医学的意味を反映させた新しい複合仮説および合成エンドポイントの新しい構成方法を提唱した。また、この合成エンドポイントについての検定統計量を定式化した。この考え方は連続変量に関しても拡張できるので、これについても新しい検定統計量として定式化した。
    複数のエンドポイントの解析において、医学的重大さについては定式化においてこれまでまったく考えられていないので、文献調査や医学分野の学会に参加し見解を調査し、医学的重みの与え方を検討した。呼吸器疾患領域で具体的に相対的な医学的重さをFEV1とFVCについて決める方法を、文献調査を行ったり医学専門家の意見をきいたりして検討した。これらの情報を統合して相対的な医学的重さを決める方法の一案を提示した。
    汎用ソフトを利用して、Time to event dataおよび連続変量に関して考案した方法の理論に基づき解析プログラムを開発し、simulationによりそれぞれの開発手法の性能の評価を行った。検定統計量の挙動は概ね予測どおりであった。これらの成果を国際臨床生物統計学会、国内の統計関連学会連合大会、統計数理研究所重点型研究シンポジウムなどで発表した。連続変量に関する本研究の成果は東アジア国際計量生物学会議での招待講演として公表され、論文として投稿中である。
  543. 入浴・サウナ浴を用いた心疾患患者における治療的患者ケアプログラムの開発 18390586 2006 – 2009 基盤研究(B) 九州大学 我が国においては高齢者の入浴時の死亡事故が諸外国に比べ頻度が高く、このために心疾患後のリハビリテーションとしても入浴やサウナ浴は危険度の高いレベルに位置づけられている。しかし、入浴やサウナ浴は環境条件を整備するとけして危険ではなく、むしろ血圧が正常化、心拍出量の増大、QOLの改善などが得られることがわかった。これらの結果を踏まえて本研究では入浴やサウナ浴が心疾患患者において治療的にどのような効果があり、患者ケアプログラムとして位置づけるためにはどのような条件が最適であるか検討した。
  544. 性ホルモンによる心筋イオンチャネル制御の検討-不整脈の性差医療の基礎戦略 18390231 2006 – 2008 基盤研究(B) 東京医科歯科大学 性ホルモンのテストステロン、エストラジオール、プロゲステロンの心筋イオンチャネルに対する調節メカニズムを明らかにし、これらによる非ゲノム作用による心筋イオンチャネル調節という新たな制御機構を確立することに成功した。得られた基礎データを使って、心筋電気生理の男女差、女性性周期による変動のコンピューターシミュレーションモデルを構築した。
  545. 日本人における循環器疾患の発症要因に関する研究成果の還元方法に関する検討 18390198 2006 – 2008 基盤研究(B) 自治医科大学 JMS コホート研究は心血管疾患のコホート研究である。ベースラインデータは1992 年から1995 年に収集され、全対象者数は12,490 人、平均追跡期間は10.7 年であった。年齢調整発症率では、10 万人年あたり脳卒中で男性311.5、女性221.0 であり、心筋梗塞でそれぞれ83.2、30.9 であった。また、脳卒中、心筋梗塞の発症率、および脳卒中、心筋梗塞の10 年後の発症におけるリスクチャートを作成した。
  546. 相互作用放射線治療 18209039 2006 – 2008 基盤研究(A) 北海道大学 いままでの先端放射線医療に欠けていた医療機器と患者のinteractionを取り入れた放射線治療を可能にする。臓器の動き・腫瘍の照射による縮小・免疫反応などは、線量と時間に関して非線形であり、システムとしての癌・臓器の反応という概念を加えることが必要であることが示唆された。生体の相互作用を追求していく過程で、動体追跡技術は先端医療のみならず、基礎生命科学でも重要な役割を果たすことがわかった。
  547. ゲノム全領域関連解析による脳血栓のオーダーメイド予防システムの開発 18209023 2006 – 2008 基盤研究(A) 三重大学 候補遺伝子アプローチによる300遺伝子多型の関連解析を行い、IL6遺伝子-572G→C、ABCA1遺伝子-14C→T、IRAK1遺伝子A→C、C→T(Ser532Leu)、ROS1遺伝子G→C(Cys2229Ser)が脳血栓の発症に、IL6遺伝子-572G→C、LIMK1遺伝子-428G→Aが脳出血の発症に、UCP3遺伝子-55C→T、TNF遺伝子-863C→A、KIAA0319L遺伝子G→A(Gly243Asp)、CYP3A4遺伝子13989A→G(Ile118Val)がくも膜下出血の発症にそれぞれ関連することを見出した。次に、3つの独立した集団で合計6341例(脳血栓992例および対照5349例)についてゲノム全領域関連解析を行い、脳血栓発症と強く関連するCELSR1遺伝子と2個のSNPs、A→G(Thr2268Ala, rs6007897)およびA→G(Ile2107Val, rs4044210)を同定した。
  548. 脳血管障害のオーダーメイド予防システムの開発 18018021 2006 – 2007 生物系 特定領域研究 三重大学 研究参加施設の協力により、患者対照集団4,500例(脳梗塞1,000例、脳出血500例、対照3,000例)のDNAサンプルおよび臨床データを収集した。これらのサンプルについて202遺伝子多型の関連解析により、interleukin-6遺伝子多型がアテローム血栓性脳梗塞および脳出血の発症に強く関連することを報告した。さらにアテローム血栓性脳梗塞では7個の多型が、脳出血では8個の多型が発症と有意に関連した。またアテローム血栓性脳梗塞発症に関連する遺伝子多型は、男性と女性、あるいは高血圧・糖尿病・高脂血症などの危険因子の有無によって異なることを明らかにした。また、ミトコンドリアのハプログループAが女性のアテローム血栓性脳梗塞の危険因子であることを報告した。さらに、98遺伝子多型について関連解析を行い、ABCA1遺伝子多型、IRAK1遺伝子多型、ROS1遺伝子多型がアテローム血栓性脳梗塞の発症に、LIMK1遺伝子多型が脳出血の発症にそれぞれ強く関連することを見出した。これらの多型に加え、アテローム血栓性脳梗塞では4個の多型が、脳出血でも7個の多型がそれぞれ発症と有意に関連した。
    また、アテローム血栓性脳梗塞131例、対照135例について、SNPチップ(GeneChip Mapping 500K Set, Affymetrix)を用いたゲノム全領域関連解析を行い、アテローム血栓性脳梗塞発症と強く関連する(P<10^<-20>)SNPsを100個抽出した。これらのSNPsについて別の集団で関連解析を行い、発症に関連するSNPsを8個同定した。これらのSNPsの中でも、とりわけ関連の強い上位3個のSNPsについて連鎖不平衡ブロックのシークエンスを行っており、アテローム血栓性脳梗塞発症に強く関連するSNPsを確定することにより、より精度の高いオーダーメイド予防システムを開発する予定である。

  549. エストロゲン受容体ゲノムネットワークの解析 17710174 2005 – 2006 若手研究(B) 国立国際医療センター(研究所) ヒトのような複雑な制御機構を持つ生物における転写調節領域のゲノム規模での解析は、有効な手法が模索されている現状であり、転写因子ネットワークの解明が機能ゲノム学の重要課題となっている。近年、我々は、ヒトゲノムからの転写因子結合配列の網羅的かつ効率的な同定を可能とする改良型酵母one-hybridシステムの開発に成功し、これをエストロゲン受容体に適用することで、骨粗鬆症・心筋梗塞・乳癌および子宮癌などの多彩な疾患の発症に深い関わりを持つエストロゲン受容体(ER)の作用機所を解明することを本申請の目的とした。
    平成17度は、ほぼ予定通りに研究を遂行することに成功し、ヒトゲノムから1700クローンのエストロゲン結合部位をクローニングした。そこで、平成18年度は、これらのシークエンスを解析して重複したクローンを整理し、最終的に約300ヶ所の標的結合配列を同定した。同定した結合配列を遺伝子上の位置で分類すると、上流領域、イントロン、下流領域にそれぞれ30%程度ずつ分布しており、プロモーター近傍以外の転写調節への重要性が示唆された。これまでの転写調節研究のほとんどは転写開始点上流のプロモーター領域に焦点を絞ったものである。本研究では、我々が開発したオリジナルな実験系を用いたため、これまで見逃されてきたイントロンや下流領域に存在するERターゲット配列を同定できたと考えられる。同定した標的遺伝子の中から興味深い遺伝子を100個選び、動物細胞で発現および精製したERタンパク質と各DNA配列との生化学的な結合実験を行った。そして、ERとターゲットDNA配列の結合強度のデータをもとに、新しいER結合配列の規則性を見出すことに成功した。本研究によって明らかとなった新たなターゲット遺伝子やER結合配列の新たな規則性は、エストロゲン受容体ネットワークの全貌解明に大きく貢献するものである。

  550. 在宅高齢者の家庭内事故および発症の予防に関する住環境学的研究 17700549 2005 – 2007 若手研究(B) 京都教育大学(2007) / 梅花女子大学(2005-2006) 高齢者の在宅環境における家庭内事故や発症予防に関する住環境問題を明らかにするため、救急出動記録や突然死の検案事例から、在宅高齢者の事故および急病に関するデータを抽出、分析してきた。以下に平成19年度の研究実績の概要を列記する。
    1.O市の救急出動記録データおよび国勢調査等から得られる人的データ(年齢、世帯の家族類型等)や建物データを小、中学校区を単位として収集整理し、高齢化率の高い地域の潜在的脆弱性が救急事故の形で顕在化している等地域の人的あるいは物的特性と日常的に発生する事故との間には密接な関係があることが確認できた。
    2.O市の1990年代の救急出動記録データベースを精査し、「高齢化」、「阪神淡路大震災」、「バブル崩壊後の経済低迷」、「ホームレス問題」といった1990年代の社会状況と合せてその動向を検討した。救急搬送のうち高齢者の占める割合は高く、高齢化とともに救急搬送件数が急増していた。一方で、少子化にも関わらず、乳幼児の救急搬送件数も増加していた。事故種別では交通事故は横ばいであるのに対し、急病、一般負傷、自損行為が増加傾向にあり、在宅環境における救急対応問題は深刻化することが予想された。
    3.S県の在宅高齢者の家庭内事故および急病による突然死に関するデータ抽出を依頼し、その統計処理および分析をS県の気象データと対応させ、気象、温熱環境に着目して行った。また、高齢者住宅の温熱環境を実測した。突然死については、心臓大血管系疾患と脳血管系に分類し、死亡前日の気温および気温差(最高気温と最低気温の差)や死亡場所等の居住環境について検討した。最低気温が低いほど死亡数が増加傾向にあるが、高齢者の中でも後期高齢者、後期高齢者の中でも女性にその傾向は顕著であった。

  551. アディポネクチン欠損による高血圧・心血管リモデリング異常発症機序の解明 17590960 2005 – 2006 基盤研究(C) 大阪大学 本研究はアディポネクチン欠損マウスを用いて、高血圧・心血管リモデリング異常発症の分子機構を解明し、ヒト低アディポネクチン血症に基づくこれらの病態発症機構解明につなげることを目的として行ったものである。
    1.アディポネクチン欠損マウスは、食塩負荷により対照に比し有意な収縮期血圧の上昇を生じた。この現象は全身血管におけるアディポネクチンの内皮型NO合成酵素誘導機構の作用不全に基づくものであった。このモデルにアディポネクチンを補充することによりアディポネクチン欠損マウスの血圧は有意に低下した。
    2.アディポネクチン欠損マウスは冠動脈の虚血再還流により、有意な心筋梗塞巣の拡大を生じた。この現象はアディポネクチンのAMPキナーゼ経路を介した心筋細胞死抑制とCox-2経路を介したTNF-alpha産生抑制機構に基づくものであった。これらのモデルに、アディポネクチンを補充することにより、心筋梗塞巣は有意に縮小した。
    3.アディポネクチンの新たな動脈硬化防御機構として血管内皮細胞におけるIL-8産生をアディポネクチンが抑制することを明らかにした。
    4.アディポネクチンの新たな意義として、(1)アンジオテンシン受容体拮抗剤が脂肪組織の酸化ストレスを低下させることでアディポネクチン血中濃度を増加させること、(2)喫煙が脂肪細胞の酸化ストレス増加を介してアディポネクチン血中濃度を低下させること、(3)チアゾリジン誘導体が左室拡張能を改善すること、(4)末梢動脈閉塞症における動脈硬化進展の指標や、(5)慢性腎臓病における心血管イベント予測因子としてアディポネクチン血中濃度測定が有用であることを明らかにした。
    以上の研究により、アディポネクチンを介した、高血圧・心血管リモデリング異常発症の新たな分子機構が明らかとなった。

  552. 動脈硬化症患者に於ける脆弱性の評価・検討とその指標の臨床応用 17590753 2005 – 2006 基盤研究(C) 熊本大学 既に動脈硬化病変が存在する中高年者を対象としてVulnerable Plaque, Vulnerable Bloodを有するVulnerable Patientsを評価・同定するための新たな臨床マーカーの確立を目的とし、更にこれらの臨床マーカーを用いて種々の動脈硬化治療戦略が脆弱患者安定化、冠動脈疾患・心血管イベント抑制をもたらす””安定化療法””として有効であるか臨床的検討を行った。超音波検査において低エコー輝度プラーク(echolucent plaque)は脆弱なプラークとして認識される。我々は非高脂血症冠動脈疾患患者において、スタチンによる積極的脂質低下療法が脆弱頸動脈プラークを安定化させ得るかについて頸動脈超音波検査にて検討した。スタチン群ではecholucentプラークのエコー輝度が有意な増加を示し、プラーク安定化が認められたが、ダイエット群では認めなかった。スタチンを用いた積極的脂質低下療法は非高脂血症冠動脈疾患において、約6ヶ月という短期間から脆弱プラーク安定化に効果的であることが明らかとなった。非侵襲的で繰り返し行うことができるIBSを用いた頸動脈エコー検査により、動脈硬化病変の質的評価を定量的に行う事は、high riskな動脈硬化患者の治療、管理にあたって有用であると考えられた。
    我々は人血中にCD144陽性血管内皮細胞由来microparticles(CD144-EMP)が存在することを示し、この血中マーカーが冠動脈血管内皮細胞機能障害の程度と良好な相関があることを示し、糖尿病患者でその血中レベルが上昇している事を明らかにした。このCD144-EMPレベルは糖尿病患者に於いて有意な独立した冠動脈疾患の危険因子である事が明らかとなった。冠動脈疾患患者において、血中CD144-EMPレベルを測定し2〜3年間の脳・心血管疾患予後を検討した。血中CD144-EMPレベルは、将来の心事故発生において古典的冠動脈疾患危険因子とは独立した有意な予測因子となる事が明らかとなった。

  553. 汎用生体触媒の機構解明と機能制御 17550155 2005 – 2006 基盤研究(C) 岡山大学 1.リパーゼのエナンチオ選択性の合理的制御
    メカニズムとX-線結晶構造に基づいて、burkholderia cepacia由来リパーゼのエナンチオ選択性を制御するための変異導入サイトを287番目のイソロイシンに決定した。位置指定変異導入により立体的嵩高さを上げて遅く反応するエナンチオマー(S-体)の反応性を押さえればエナンチオ選択性は向上し、逆に立体障害を取り除いてS-体の反応を促進すればエナンチオ選択性は低下すると予測した。種々の変異体を調製し、2種類の2級アルコールの速度論的光学分割を実施した。エナンチオ選択性はE値で評価した。287番目のアミノ酸の嵩高さとエナンチオ選択性(E値)の間には明らかな相関が確認され、合理的にエナンチオ選択性を制御(上げたり下げたり)することに成功した。
    2.リパーゼ反応を経由した光学活性ポルフィリン二量体の合成とその機能
    リパーゼ反応により得た光学的に純粋なポルフィリンアルコールをイソフタル酸で連結し二量体とし、その亜鉛ポルフィリンの不斉識別機能を確認した。
    3.遺伝子組換え大腸菌を用いたケトンの不斉還元
    幅広い範囲の基質に対して高いエナンチオ選択性を示すカルボニル還元酵素を高発現する組換え大腸菌を構築し、それを用いて20種類以上のケトンを不斉還元した。そのうち12種類において98% ee以上の光学純度のアルコールを得た。2,4-オクタンジオンに対する反応条件を最適化したところ、位置特異的かつ立体特異的に還元反応が進行し、対応するアルコールを41g/Lの生産性で単離した。その他、重要医薬品の中間体を高効率・高光学純度で不斉合成した。
    4.カルボニル還元酵素の単結晶作製に向けた実験
    N末端側及びC末端側にヒスチジンタグを有するカルボニル還元酵素の遺伝子を構築し、それを大腸菌にて発現させた。今後、酵素の単結晶を作製する。
  554. 冠動脈冶療のための血管内超音波RF信号を用いたプラーク性状診断 17500340 2005 – 2006 基盤研究(C) 兵庫医科大学 血管内超音波(lntra Vascular Ultrasound : IVUS)の後方散乱波(radio frequency信号:RF信号)を利用し、冠動脈プラークの組織性状の診断を行った。冠動脈ステント留置後患者IVUSのRF信号を再構築し、組織性状を測った結果ノイズは減少するもプラーク間の差が出にくくなってしまい現在修正中である。又、冠動脈のIVUSRF信号をウェーブレット変換しウェーブレット係数を算出し、それを用いてIVUS画像を再構築した。そしてその結果を従来の組織性状診断に用いられていたRF信号の信号強度計測する手法(Integral Backscatter法:IB法)と比較検討した。ウェーブレット係数にて再合成された像では雑音と考えられていた部分がウェーブレット係数にて除去可能となり、IB法では認められなかった組織性状を認めるようになった。今後は症例数を増加させ、検討していく予定である。超音波RF信号のパターンをカオス理論に基づいて解析し、組織性状診断を行う方法をIVUSに応用し、プラークの組織性状診断に使用することを試みているが、体表エコーに比べRF信号のサンプル数が少く従来の手法では解析困難であり、現在少ないサンプルで相関次元を算出可能なJ法による解析を現在開発中である。急性心筋梗塞患者治療後の体表超音波RF信号をカオス解析し、組織性状を見ることで、急性期の心筋の生存について評価が可能か否かの検討では実際に再灌流治療後の心筋RF信号のカオス解析を施行したところ、再灌流後の梗塞部のRF信号の相関次元は非梗塞部と比べて若干低い傾向にあり、心機能の改善と共に非梗塞部の相関次元に近づくことが判明した。我々の研究室の他のグループの結果より、心筋の繊維化と相関次元の間には逆比例があり、この変化は繊維化がより少ないと予後は良いのではないかと予測される。今後解析対象数を増やし、更なる検討を行い、相関次元の変化と心機能についての検討を行い、早期再灌流後の心筋生存についての評価が可能となるようにする予定である。
  555. モンゴル人の血中酸化ストレス度・抗酸化能から見た老化の診断と日本人の抗老化対策 17406006 2005 – 2008 基盤研究(B) 女子栄養大学 モンゴル人は日本人に比べ平均寿命が男女とも15 年以上短い。その理由を知るためにモンゴル人の健康調査を行った。モンゴル人は食生活に偏りがあり、肉食が主で野菜や果物は少なく、酸化ストレスが高く、老化の訪れが早かった。彼らの短寿命を解決するにはこれらの改善が重要であり、日本人の老化を考える上でモンゴル人の食生活と高い酸化ストレス度は重要な警鐘と思われた。
  556. メタボリックシンドロームの分子基盤としての脂肪細胞分泌因子の臨床的実験的研究 17390271 2005 – 2006 基盤研究(B) 大阪大学 メタボリックシンドロームはインスリン抵抗性、脂質異常、高血圧を合併する病態で動脈硬化疾患の易発症基盤である。私達は脂肪組織が多彩な生理活性物質を分泌する巨大な内分泌臓器であることを見出し数々の新規遺伝子を発見しアディポサイトカインと概念付けた。本研究は、Adiponectin, Visfatin, Glycerolという3つの脂肪細胞分泌因子に焦点をあて、メタボリックシンドロームの病態解析をおこなった。1)Adiponectinについては、その欠乏が食塩依存性高血圧をきたし、心筋虚血や圧負荷、血管への易血栓刺激に対し炎症シグナルや肥大化シグナルを活性化させ、虚血再還流障害、心拡張障害、血栓形成に繋がる分子メカニズムを実験的に示した。臨床的にも低Adiponectin血症が冠動脈複雑性病変やスパスム、心筋拡張障害、末梢動脈疾患と関わることを示した。特に心血管エベントの予測因子としての低Adiponectin血症のエビデエンスが蓄積された。糖尿病関連では低Adiponectin血症の糖尿病発症リスクとしてのエビデエンス、インスリン抵抗性指標としての意義を報告し、慢性腎臓病の心血管疾患発症リスクとしての低Adiponectin血症の意義を示した。低Adiponectin血症対策として禁煙も含めたライフスタイル改善の意義を報告し、酸化ストレス減少、核内受容体活性化薬剤などの低Adiponectin血症改善機構について明らかにした。2)Visfatinについては発現増加に低酸素が関与することが明らかになった。3)Glycerolについてはノックアウトマウス解析で、Aquaporin7がGlycerolのチャネル分子として機能することを示してきたが、詳細な解析により、本分子の欠損が細胞内グリセロールを活性化し肥満に関わる新しいメカニズムが明らかになった。
  557. 心筋虚血時における炎症細胞由来マーカーの遺伝子発現に関する基礎および臨床的研究 17390232 2005 – 2006 基盤研究(B) 熊本大学 前年度より、マイクロアレイを用い急性冠症候群発症に関与する候補遺伝子同定に着手している。急性期と慢性期の末梢血単核球を単離し、DNAチップを用いたマイクロアレイにより26,600の遺伝子発現を解析した。Gene ontology解析により急性冠症候群に関与する遺伝子群の中でSR-A(クラスAスカベンジャー受容体)に焦点を絞り検討を行ったところ、急性冠症候群の末梢血単核球中では有意に遺伝子発現が亢進していた。冠動脈アテレクトミー(DCA)組織における検討でも、ACS群では安定労作狭心症群に比し、DCA組織中のSR-A遺伝子発現が上昇していた。73例の虚血性心疾患症例(急性冠症候群と安定労作狭心症症例)の予後について検討すると、高SR-A遺伝子発現群に多くの心血管イベントの再発症が認められた。以上より、SR-A遺伝子発現は特異的に急性冠症候群で上昇しており、心血管イベント再発の予測マーカーとなりうる可能性が示された。
    実験的急性心筋梗塞モデルにおける検討では、単球遊走因子の受容体であるCCR2欠損マウスを用い心筋虚血再灌流モデルを作成した。CCR2欠損マウスでは、再灌流後の梗塞組織内のマクロファージ浸潤、細胞外マトリックスの分解酵素であるMatrix Metalloproteinases(MMPs)、IL-1β、TNF-αの産生が抑制されており、梗塞形成度の軽減が認められた。虚血再灌流後の酸化ストレスの増加におけるCCR2欠損の影響を検討したところ、NADPH oxidase活性、nitrotyrosineの発現強度、inducible NOS、およびチオレドキシン1の遺伝子発現がCCR2欠損マウスにて有意に減少していた。以上より、MCP-1/CCR2経路を遮断することにより心筋虚血再灌流傷害を軽減できる可能性が示唆された。

  558. 脳卒中・心筋梗塞及び悪性新生物の遺伝子を含む発症要因解明を目的としたコホート研究 17390186 2005 – 2007 基盤研究(B) 滋賀医科大学 本研究は、地域集団における脳卒中・心筋梗塞・悪性新生物等の生活習慣病の発症要因を明らかにすることを目的に滋賀県高島郡(現、高島市、人口55,537人)において老健法基本健診および特定健診受診者を対象としてコホート研究を実施した。同地域におけるベースライン調査は2002年から旧5町1村を巡回する方法で実施し、本研究費申請期間の最終年度において第1次ベースライン調査が終了した。調査項目は、食生活および活動量に関するアンケート調査、既往歴および現在の健康に関する問診、高島市実施の健診項目に加えて理学的所見としてABIおよびbaPWV、生化学所見としてBNP、高感度CRP、インスリン、HbAlc、尿中Na、Kおよびクレアチニンなどを本調査の追加検査項目とし、さらにSNP s解析を目的としたDNAを採取した。この集団を追跡対象として転出、死亡、脳卒中、心筋梗塞、悪性新生物の発症を把握する追跡調査を実施している。
    申請最終年度までのベースライン調査で男女計7,406名の健診受診者に対して本研究への協力に関する同意を求めたところ男性2,187名、女性3,905名の計6,092名(承諾者の割合;82.3%)から本調査に対して協力する旨の同意が得られた。これらの対象者についての現在追跡調査を行っている。平均追跡期間5.0(±1.9)年の現時点での追跡調査において、死亡180例、転出72例、脳卒中113例、心筋梗塞19例、悪性新生物24例の発症を把握している。しかしながら、コホート研究の主目的である各疾病の発症および死亡に関するリスク評価については解析に足る十分なイベントが得られておらず、本報告にリスク評価の成果を記述することはできなかった。今後解析が進み次第論文等で公表する。
    また、本研究と併せて同調査地区全住民を対象として実施している脳卒中および急性心筋梗塞の発症登録研究において、1990年から2001年にかけての脳卒中の発症率は減少傾向にありことが認められたが、急性心筋梗塞については1995年以降明らかに増加していることが認められ、今後、これらの成績と合わせてリスク評価を試みる。
  559. 疾患遺伝子探索の方法論の開発 17019063 2005 – 2009 生物系 特定領域研究 東海大学 生活習慣病をはじめとする多因子疾患の感受性遺伝子を同定する方法として30,000個のマイクロサテライトを用いたゲノムワイドな相関解析法と事後同祖性による集団を用いた連鎖解析法を開発し、30以上感受性遺伝子を同定した。これらの感受性遺伝子の創薬に向けての機能解析として、in silicoネットワーク解析と新酵母ツーハイブリッド法の開発を行った。
  560. 心臓血管手術周術期における炎症性サイトカイン上昇機序の解明と遺伝子治療の応用 16790891 2004 – 2005 若手研究(B) 京都府立医科大学 (研究計画)心臓血管手術に於いては虚血再還流障害等が原因で、高サイトカイン血症によりSIRSに陥る危険性が知られている。従って適度な炎症性サイトカイン産生抑制は患者に利益をもたらす可能性がある。よって心臓血管外科周術期においてグルココルチコイド投与がサイトカインバランスを修飾し、患者のOutcomeを改善するか否かを検討する事が一つの目的であった。またラットを用いた実験に於いて同様の結果が得られる実験系を確立する事がもう一つの目的であった。
    (研究経過及び成果)ストレス用量のHydrocortisoneの投与(2-3mg/kg)により血漿中及び肺胞上皮被覆液中のIL6,IL8,CD40,MMP9産生の抑制,IL10濃度の上昇と共に、血漿中Fatty Acid Binding Protein, NT-proBNP, Troponin I濃度の低下を認めた。よってストレス用量のグルココルチコイド投与が心筋保護に働いている事が示唆された。ラットを用いた動物実験においては、冠状動脈前下行枝結紮モデルに於いてIL10発現アデノウイルス(Ad-IL10)を尾静脈より注入することにより、冠状動脈前下行枝結紮による心筋梗塞発症後の血漿中Troponin I濃度の上昇が抑制された。従って、ステロイド投与による血漿中IL10上昇が心筋保護に作用していることが示唆された。これらの結果は学会にて発表予定である。また、心拍動下冠動脈バイパス術における術後心房細動の予測因子の解析研究発表は2004年の国際心臓血管麻酔学会において藤田昌雄賞にノミネートされた。
  561. 新しい動脈壁硬化指標としてのAugmentation Indexの有用性 16790336 2004 – 2006 若手研究(B) 愛媛大学 愛媛県下の一般企業従業員を対象に、前年度までにAugmentation index(AI)の測定を行った約600例について追跡調査を行っている。急性心筋梗塞、脳卒中の発症に関する調査を、平成18年度は7月と12月の定期健診時に行った。退職あるいは移籍による健診未受診者については、別に問診票を郵送して調査を行っている。健診日程の都合から年度内に発症者の確定と医療機関における採録が終了しなかったが、今後も継続して調査を行い、特にAIの予後予測能について検討していく計画である。3年間での発症が10例に満たなかったことから、縦断的な解析は行えなかったが、今後の疫学研究のベースとなる貴重なデータが蓄積された。一方、横断面での検討では、AIが片頭痛の有無と相関することを高齢一般地域住民を対象とした解析から明らかにした。片頭痛は若年女性において高頻度に認められ、加齢に伴ってその頻度は減少する。高齢者においても、若年者ほどではないものの、一定の頻度で観察される。最近になって片頭痛が動脈硬化と相関することを示唆する成績が報告された。本研究において、一般地域住民ならびに愛媛大学医学部附属病院抗加齢ドック受診者を対象に、片頭痛とAIとの相関を検討したところ、片頭痛例(n=30,97±12%)では、その他の頭痛群(n=102,89±11%)、頭痛なし群(n=140,88±13%)に比しAIが有意に高値であった(p<0.001)。この相関は年齢や身長、心拍数など他の交絡因子を調整しても同様であった(β=0.154,p=0.002)。高齢者片頭痛が将来の動脈硬化性疾患のマーカーとなる可能性を示した貴重な成績といえる。メンタルストレスのAIに対する影響を検討した成績からは、健常大学生においても、軽度の肥満は血管床の過剰なストレス応答性を来たしていることをAIを指標とした検討から明らかとした。安静時、ストレス負荷、回復期でAIと血圧とを評価したところ、非肥満例(n=73)ではストレス下でAIの低下(54±12,51±12,53±12%)を来すのに対し、肥満例(BMI25kg/m2以上、13例)では逆に増加していた(54±11,56±13,52±11%,p=0.032)。同様に血圧も肥満例でストレス下の上昇度が大きく、特にAI高値の影響を受けて収縮期血圧後方成分の増加も顕著であった。後方成分は中心血圧の変化と相関することから、肥満と心血管系イベントととの相関の一つに、AIの増加が関与していることが示された。今後もこのような横断面でのAIに関する検討を継続するとともに、心血管系疾患に対する縦断的検討も行う予定である。
  562. 歯科用パノラマX線写真による心血管系疾患の早期スクリーニング支援システムの開発 16659519 2004 – 2005 萌芽研究 広島大学 前年度(16年度)には,パノラマX線写真の指標と心血管障害のリスク因子(総コレステロール,低密度コレステロール,高感度CRP及び酸化LDL)が関係することを解明したが,17年度はこのパノラマの指標を,自動的に抽出する手法の確立を行った.すなわち,パノラマX線写真上の下顎骨下縁皮質骨厚みを,オトガイ孔を手動設定するだけで,自動的に測定するシステムを新たに開発した.この自動システムは,従来の専門医による手動測定に比して,優れた測定能力を有していた.この知見に関する論文は,国際骨粗鬆症財団の機関誌であるOsteoporosis Internationalに受理された.
    また,パノラマX線写真における総頸動脈の石灰化所見が,脳梗塞や心筋梗塞とどのような関係にあるのかあるいは,血管の石灰化能力を実際に反映しているのか否かについて検討を行った.結果,(1)総頸動脈の石灰化所見は,日本人における脳梗塞や心筋梗塞の発症と関連を有する可能性があること,及び(2)総頸動脈の石灰化所見を有する女性では,骨形成マーカーが有意に高値を示す(日本歯科骨粗鬆症研究会研究奨励賞受賞)ことが判明した.今後は,これらの知見を基にして,総頸動脈の石灰化所見を自動的に抽出するシステムの構築に取りかかる予定である.

  563. 糖尿病患者に対する経皮的冠動脈形成術および冠動脈バイパス手術の治療成績・予後調査 16615002 2004 – 2005 基盤研究(C) 京都大学 本研究には最終的に30施設が参加し、2000年〜2002年の間の初回経皮的冠動脈インターベンション(PCI)または冠動脈バイパス手術(CABG)施行例を登録・解析した。平成17年度には、前年度に続き症例の登録を行い、対象となる症例のうち、大部分の登録と初回の予後追跡調査を終えた。研究期間終了までの登録症例の中でCABG施行の際に合併手術を行った症例を除く8,647症例のうち、糖尿病合併症例は3,350症例であり、さらに、75歳未満で左冠動脈主幹部病変を持たない多枝冠動脈疾患患者1,741例をPCIとCABGの血行再建法の違いによる予後の比較・解析の対象とした。また、糖尿病合併症例全体をインスリン治療群と非インスリン治療群に分け、初回冠血行再建術後の独立した予後を比較した。
    PCIとCABGの間で施行後3年間のイベント回避率を比較した場合、死亡、脳血管障害、主要心血管イベント(死亡+脳血管障害+心筋梗塞)には差がなかったが、心筋梗塞(p=0.03)、再血行再建術(p<0.0001)に関してはCABG群のほうが回避率が高かった。他の主要な交絡因子を含めた多変量解析を行ったところ、腎機能障害などが独立した強い予後規定因子となるのに対し、冠血行再建法はCABG群で予後が良い傾向を示すものの有意な予後規定因子にはならなかった。
    インスリン治療の予後への影響に関しては、単変量解析ではインスリン治療群は非インスリン治療群に比べ罹患枝数を問わず予後不良であったが、腎機能障害や心不全の既往などと多変量解析を行うと、インスリン治療は独立した予後規定因子ではなかった。
    本研究結果では、糖尿病合併多枝疾患の血行再建法の違いは生命予後には重大な影響を与えないが、再血行再建術の頻度はCABGが有意に低いという結果が得られたが、薬剤放出性ステント使用下での同様の研究が今後必要であろう。
  564. 動脈硬化の質的診断のための分子イメージング 16390337 2004 – 2006 基盤研究(B) 京都大学 本研究の目的は、虚血性心疾患や脳血管障害などの疾患の基盤的な原因である動脈硬化の質的な診断、特に血栓形成に関与する動脈血管内膜内の不安定プラークの選択的な画像診断のための『分子イメージング』に適した放射性薬剤およびそれによる高感度核医学イメージング法を開発することにある。そこで、血管内のプラークを効率よく測定するために、直接血管内に挿入でき、荷電粒子(ベータ線)の測定を可能とするシンチレータを検出器とする、超小型放射線検出器を作成し、その性能を基本的に評価した。その結果、チューブを用いた模擬的血管内プラークおよび冠状動脈における模擬的血管内プラークを作成し、各点線源の放射能を測定したところ、線源の放射能と超小型放射線検出器による測定値との間には直線関係が得られ、本測定器は定量性に優れた測定が出来ることを見出し、本検出器が血管内から放射能の集積状態を直接測定できる可能性を見出した。また、放射性分子プローブとして、不安定プラークを選択的にイメージングするために、プラークの生成や破綻過程に深く関与するマクロファージに選択的に取り込まれる分子プローブ、およびプラークの生成や破綻過程で特異的に発現する、スカベンジャー受容体LOX-1に高い親和性をもって選択的に結合する放射性プローブをそれぞれ設計、合成し、それらのプラークイメージング剤としての有効性を評価した。前者はグルコース誘導体18-F-フルオロデオキシグルコース(FDG)、後者は二官能性分子プローブの概念のもとに、99m-Tcで標識された抗LOX-1抗体をそれぞれ設計、合成した。両化合物を動脈硬化の実験動物モデル(WHHLウサギ)を用いて組織化学的手法、オートラジオグラフィー(ARG)、体内動態により検討した結果、F-18-FDGは血管内膜の不安定プラークに存在するマクロファージに高く取り込まれること、また、99m-Tc標識抗LOX-1抗体その結果F-18-FDGを用いれば動脈血管内膜内の不安定プラーク部位に選択的に集積していることを見出し、両者とも不安定性動脈硬化プラークの核医学画像診断薬として有用である可能性が示された。
  565. 自己組織再生能を有するナノハニカムシートによる心筋再生治療法の確立 16209042 2004 – 2005 基盤研究(A) 大阪大学 直径数マイクロメーターサイズの微細孔が、規則正しくパターン化された基材表面上で細胞を培養すると、細胞の増殖や形態、機能に影響を与えることが知られている。両親媒性高分子溶液を高湿度下で基板上にキャストすることで、規則的なハニカム(蜂の巣)構造を有するパターン化フィルムを作製することができる。本研究では、生分解性材料からなるハニカム構造膜上で心筋再生の細胞源として用いられている細胞を培養し、心筋再生用スキャホールドとしての可能性を検討した。
    ラット筋芽細胞株L6では、無孔平膜とハニカム構造膜上では、細胞の形態に差は見られなかった。細胞増殖率においてハニカム構造膜は平膜と比較して有意な増加を認めた。また、細胞と基材との接着に関するタンパク質であるintegrinベータ1の遺伝子の転写量を測定した結果、増加する傾向が認められた。脂肪間葉系幹細胞についても、細胞増殖率においてハニカム構造膜は平膜と比較して有意な増加を認めた。ラット初代筋芽細胞をラミニンコートを施したハニカム構造膜で培養した場合、無処理の膜と比較して筋芽細胞の増殖が促進された。
    ハニカム構造膜を引き伸ばして伸展させた膜上で初代心筋細胞を培養し、SEM・免疫染色による形態観察を行った。心筋細胞の配向がハニカム膜の伸展方向と一致する様子が観察された。さらに、ハニカム構造膜をラット背部皮下に移植した結果、ハニカム構造膜により誘導された再細胞化が観察された。
    以上の結果から、筋芽細胞株L6、骨髄間葉系幹細胞、脂肪間葉系幹細胞、筋芽細胞などの増殖性が高い細胞種において、ハニカム構造膜は増殖を促進する効果をあることが示された。伸展させたハニカム構造膜上では、心筋細胞の配向がハニカム膜の伸展方向と一致することから、基材の構造を制御することにより、細胞の形態や配向を制御することが示された。

  566. ゲノム全域罹患同胞対連鎖解析による心筋梗塞責任遺伝子座の同定 16012223 2004 生物系 特定領域研究 名古屋大学 心筋梗塞・冠動脈疾患感受性遺伝子には人種差が存在し、しかも複数存在することが予想される。本研究の目的は、ゲノム全域を網羅する心筋梗塞・冠動脈疾患罹患同胞対連鎖解析により新たな感受性遺伝子領域を同定することである。
    本研究を達成するために、東海地区を中心とした名古屋大学、岐阜大学、名古屋市立大学、山形大学、藤田保健衛生大学医学部附属病院、浜松医科大学及び愛知医科大学附属病院、昭和大学藤ヶ丘病院を含む公的45協力病院を組織した。
    本研究は、我々が既に進めている心筋梗塞・冠動脈疾患・高血圧症等生活習慣病感受性遺伝子同定プロジェクトの1つとして行われる。本研究では、冠動脈疾患に関して我が国最初の全ゲノム罹患同胞対連鎖解析を用いて感受性遺伝子座を同定し、既に構築されいる大規模データベースを用いた候補遺伝子/症例-対照研究(ポジショナル候補クローニング)により感受性遺伝子の同定を試みる。
    平成16年12月末現在までに対照約10000名、心筋梗塞約6000名、その他の冠動脈疾患約7000名からなるゲノムDNA及び臨床データベースを構築した。研究推進の情報基盤の確立は順調に進んでいる。
    現在、心筋梗塞罹患同胞対201対のゲノムDNAを収集しておりサンプル収集は順調に進んでいる。心筋梗塞罹患同胞対109対を対象とした予備的連鎖解析では、1番染色体をはじめ7染色体において、LOD=2.0前後の連鎖領域を得ており、さらに、同胞対数を増加することにより、有意な染色体連鎖領域を同定することが可能であると考えている。なお、ゲノムDNA提供者に対しては、充分な説明により理解を頂き、書面でインフォームドコンセントを得ている。
  567. 最適治療に向けた急性心筋梗塞における動脈圧反射過渡応答の定量的解析 15590786 2003 – 2004 基盤研究(C) 国立循環器病センター(研究所) 本研究の目的は、急性心筋梗塞の最適治療に資するために、急性心筋梗塞が循環調節に及ぼす影響を定量的に解析し、急性心筋梗塞における循環動態を過渡応答を含めて正確に反映できる循環系モデルを作成することである。これによって急性心筋梗塞における循環調節の異常を、循環系モデルのパラメータの変化として客観的に評価できるようになる。このような評価は急性心筋梗塞のリスクの層別化に役立つと考えられる。また、急性心筋梗塞の病態に特化した循環系モデルを用いて、循環系及び自律神経系の動態を含めて投薬に対する生体応答を予測すれば、投薬量を必要最小限に留めることができ、投薬の無駄を省く等の最適治療の開発に繋がると考えられる。本研究では、動脈圧反射の動特性と静特性をそれぞれ伝達関数と平衡線図を用いて定量化に解析した。麻酔ウサギを用いた実験の結果、フェニルビグアニド投与で迷走神経を介する病的な心臓反射を惹起すると、圧入力に対する交感神経活動の変化から計算した動脈圧反射ゲインが約1/2に低下することが判明した。このような血圧調節機能の変化を考慮した上で、血圧を維持する自動投薬アルゴリズムの検討を行った。係数固定型の古典的比例積分微分型(PID)制御では、生体応答の違いによって血圧制御が不安定になったが、ニューラルネットを用いた逐次学習型の制御では生体応答の大きさが変化しても安定した制御が可能であった。左冠動脈閉塞による急性心筋梗塞が動脈圧反射に与える影響についても検討を行ったが、心臓ポンプ機能の低下に伴う平均血圧の低下は見られたものの、動脈圧反射の動特性に大きな変化は見られなかった。麻酔ウサギにおいては迷走神経活動が顕著に抑制されるので、薬物投与で惹起されるような迷走神経反射が観察できなかった可能性がある。
  568. 心筋梗塞予後とセロトニントランスポーター多型のゲノム疫学的手法による関連解析 15590743 2003 – 2004 基盤研究(C) 大阪大学 研究基盤の整備、症例の集積と調査
    各情報入力用フォームの整備、コーディネーターへの事前指導、血液の採取・DNA抽出・セロトニントランスポーター(5-HTT)遺伝子多型同定、SDSテストなどの準備を行った。急性心筋梗塞症例5188人中、予後追跡および遺伝子多型の同定が可能であった2509人を最終的な予後関連解析対象とした。予後追跡率は99%であった。SDSテストはアンケート回収不能および不完全回答例が特に高齢者で多く存在し、完全回答が得られたのは1803例であった。
    セロトニントランスポーター遺伝子多型とSDSスコア・心血管イベントとの関連
    2509例中、心血管イベント(死亡・心筋梗塞・不安定狭心症・致死性不整脈・血行再建術の複合)は777例に発生した。5-HTTのゲノタイプ頻度はSS : SL : LL=16H:795:103(S : L=4:1)であった。過去の機能解析より、SL型はSS型と同等の機能を有することから、SS+SL多型とLL多型の間の相違を検討した。SS+SL群はLL群に比較しSDSテストが有意に高値であり(39.5±8.6vs37.3±8.0,p=0.02)、心血管イベントが高率であった(31.3%vs22.3%、p=0.046)。多変量解析において、Sアレルの存在は患者背景・重症度・治療とは独立したイベントの予測因子であった(HR1.69、95%CI 1.03-2.78)が、SDSスコアを加えたモデルにおいてその独立性は消失した(HR1.30、95%CI0.84-2.01)。一方、SDSスコア>40点で定義される抑うつ性気分障害はこのモデルにおいても独立した予後規定因子(HR1.35、95%CI1.13-1.63)であった。以上より、抑うつ性気分障害は心筋梗塞後の心血管イベントと関連しており、5-HTT遺伝子多型はその規定因子として機能する可能性が示唆された。
  569. 糖尿病、狭心症患者における運動療法の代謝因子及び動脈硬化に対する影響の検討 15590726 2003 – 2004 基盤研究(C) 東京大学 高血圧・高脂血症・肥満のうちいくつかの合併症を有する急性・陳旧性心筋梗塞及び狭心症患者36例においてアディポネクチンと肥満度、血糖値、運動耐容能の間の関係について検討した。急性・陳旧性心筋梗塞等の心疾患患者において心臓リハビリテーション(心リハ)を行った群と、行わなかったコントロール群の2群にわけ、その前後でアディポネクチンなどと運動耐容能、呼気中一酸化窒素(NO)の変化について検討した。その結果、アディポネクチンは狭心症患者では8.1±5.9μg/mLと健常者の報告例と比べ低下していた。BMIは25.4±3.1であった。また、空腹時血糖は126±39mg/dL、HbA1cは5.9±1.2%と増加しており、耐糖能異常例・糖尿病例が多かった。最大酸素摂取量は正常予測値の68±12%と、中等度低下していた。さらに、アデイポネクチンは心リハ群では前の14.3±2.0から後に16.1±2.1μg/mLへと増加した(p<0.05)が、一方コントロール群では不変であった。最大酸素摂取量は心リハ群では前に比べ後で増加したが、一方コントロール群では不変であった。最大運動時の呼気NO排泄量は心リハ群では心リハ前に比べ後の方が増大したが、コントロール群では不変であった。以上より、虚血性心疾患患者においてアディポネクチンは低下していたが、これには肥満、糖尿病の影響が強いと考えられた。また、これらの患者では最大酸素摂取量、嫌気性代謝閾値などの運動耐容能も低下していたが、運動不足がアディポネクチンの低下に影響していると考えられた。さらに、心筋梗塞症例等の心疾患患者において心リハを行うと、低下していた最大酸素摂取量などの運動耐容能も改善するとともに、アディポネクチンの増加も同時に見られた。心疾患患者で多く見られるアディポネクチンの低下を心リハは改善し、インスリン抵抗性の改善につながると考えられた。心リハは運動時の呼気NO排泄量を増加させたが、血管内皮よりのNO産生を増加させ、血管内皮機能の改善を引き起こすと考えられた。
  570. 心筋梗塞後の血管新生、心室リモデリングにおけるマトリクスメタロプロテアーゼの役割 15590713 2003 – 2004 基盤研究(C) 弘前大学 我々はマトリクスメタロプロテアーゼ(MMP)の役割として心筋梗塞発症早期には血管新生を促進し、心筋梗塞後期ではリモデリングに対して促進的に作用すると仮設し、これを検討するためにラット心筋梗塞モデルを用いてMMP阻害薬の効果を検討した。MMP阻害薬を心筋梗塞発症直後より投与した群が発症1週後より投与した群や発症1週間のみ投与した群に比較してリモデリングの抑制効果が強いという結果を得た。次にヒトにおける心室リモデリングとMMPの関係を検討するために、ヒト心嚢液中でのMMP活性について検討を加えた。心嚢液中で酸化ストレスマーカーである8-iso prostagrandin F2a濃度とMMP活性との間には正の相関が認めら、また左室容積との間にも正の相関を認めた(Europ Heart J 2003)。更に急性心筋梗塞(AM1)患者におけるMMP活性の亢進は慢性期の心筋梗塞後リモデリングの予測因子と成り得るのではないかと考えた。まずAMI患者の末梢循環血中のMMP活性の変化を入院時より経時的に観察し、発症直後に高値を示し、発症5日目には低下し、発症14日目に再度上昇することを見いだした。発症14日目の末梢血中MMP活性が亢進している群では、低値群に比較して梗塞慢性期(発症後6ヶ月)における心室リモデリングが進行すること見いだした(Int J Card 2005 in press)。ヒトにおけるMMPと血管新生との関係を検証するために、米国のChilian教授のグループとの共同研究で、MMPがプラスミノーゲンを器質として産制される血管新生抑制因子のひとつであるアンジオスタチン濃度が心嚢液中で亢進している冠動脈疾患患者では冠動脈側副路の発達が低下していることも報告した(Am J of Physiol 2005 in press)。
  571. LOX-1とTNF-αは危険因子と独立し原爆被爆者の冠動脈疾患発症を予測し得るか 15590570 2003 – 2004 基盤研究(C) (財)放射線影響研究所 放射線影響研究所・長崎研究所では原爆の後影響を縦断的に調査する目的で、1958年より原爆被爆者7,564名(男性3,374名、女性4,190名)を対象として、2年に一度検診を行っている。1958年から2003年(平成15年)までに死亡したり、他市へ転居したりしたために平成15年と16年に実際に受診した対象者は1,691名(男性586名、女性1,105名)である。この対象者で、問診、診察、身長・体重測定、血圧測定、一般検血、生化学検査(血清コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪、尿酸、血糖、CRP、インスリン)、腹部超音波検査、心電図検査、脈波速度測定を行い、このうち325名ではアディポネクチン測定を行った。肥満度が大きいと血圧、中性脂肪、LDL-コレステロール、尿酸、空腹時血糖、HbAlcが高く、逆にHDL一コレステロールは低値であった。肥満に伴いHOMO-IRは高くなり、インスリン抵抗性が増大する事が示唆された。肥満者では脈波速度の増大を認め、肥満に伴い動脈硬化が進展していると考えられた。また肥満者では脂肪肝の合併が多く、この脂肪肝では高血圧、高中性脂肪、低HDLコレステロール、耐糖能異常、高尿酸血症を伴い、アディポネクチンが低下していた。脂肪肝ではアディポネクチンの低下によりインスリン抗性が増大する事で高血圧、高中性脂肪、低HDL-コレステロール、耐糖能異常、高尿酸血症を合併し、動脈硬化が引き起こされると考えられた。原爆被爆で脂肪肝が増える事により、被爆者では脈硬化が進展し、心筋梗塞の増大が認められると考えられた。
  572. 血圧・心拍数の調節に時計遺伝子clockはどのように関与するか? 15590210 2003 – 2004 基盤研究(C) 徳島大学 心筋梗塞や狭心症、脳血管発作など、循環器の多くの疾患には朝方に発症率が高いというサーカディアンリズムが存在する。近年、サーカディアンリズムの発生機構にかかわる時計遺伝子群が明らかにされている。本実験では、時計遺伝子のひとつであるclockに注目し、clockが循環調節にどのように関連するかを、clock遺伝子変異マウスを用いて明らかにすることを目的とした。血圧測定にはマウス用のテレメトリシステムをもちいた。まず、clock遺伝子変異マウスとその野生型マウスに、血圧送信器と脳波・筋電図用の電極を植え込んだ。充分な回復を待って、48時間のポリグラフ記録を行った。野生型マウスでは、血圧・心拍数とも、暗期に高く明期に低いというサーカディアンリズムを示した。一方、clock遺伝子変異マウスでは、明期の血圧の低下が有意に小さく、また、暗期の心拍数の上昇が有意に小さかった。すなわち、clock遺伝子に変異によって、血圧・心拍数のサーカディアンリズムの振幅が低下することが分かった。次に、体液量調節機構の異常を予測し、副腎の摘出実験を行った。副腎を摘出した後、野生型とclock遺伝子変異マウスの間で、血圧・心拍数の値やサーカディアンリズムの振幅に差がなくなった。それぞれの位相には影響がなかった。また、血液中のコルチコステロンは、clock遺伝子変異マウスにおいて、大きな位相のずれが存在するものの、分泌量には差がなかった。アルドステロンは、clock遺伝子変異マウスにおいて明期に有意な分泌低下がみられ、リズムも消失していた。血圧・心拍数のサーカディアンリズム振幅の低下は、副腎皮質ホルモンの分泌動態の変化に起因する可能性が示唆された。時計遺伝子clockは、副腎皮質ホルモン分泌に大きく関与しており、clock遺伝子の変異が、体液調節を介して血圧・心拍数の調節にかかわっていることが明らかになった。
  573. 急性冠症候群の成因、治療における分子生物学的研究 15390248 2003 – 2004 基盤研究(B) 熊本大学 【急性冠症候群症例におけるDNAチップの結果】本研究の第一段階として、我々は不安定プラークの存在予測をするのに最も適したマーカーを特定するために急性冠症候群の急性期と慢性期において末梢血より単核球を分離し総RNAを抽出し、26600の遺伝子について、その遺伝子発現を検討した。症例は、急性心筋梗塞、不安定狭心症の2症例を対象として行った。結果としてはOntologyを用いたクラスター解析の結果、Macrophage Scavenger Receptor A (SR-A)が最も適切なマーカーであると判断した。【臨床症例におけるSR-A遺伝子発現の検討】対照群12例、安定労作狭心症症例10例、急性冠症候群症例16例について単核球におけるSR-Aの遺伝子発現を定量的Real-Time PCRを用いて検討した。結果は急性冠症候群のみでSR-A遺伝子発現の有意な上昇が認められた。対照群と安定労作狭心症とにSR-A遺伝子発現に有意な差はなかった。【冠動脈アテローム切除術サンプルを用いた検討】心臓カテーテル法を用いた冠動脈アテローム切除術(DCA)によって得られた不安定な動脈硬化巣のサンプルに用いてSR-Aの存在を免疫組織染色法により確認した。結果、不安定プラークに分布するマクロファージに一致してSR-Aの発現が認められた。さらに、不安定狭心症症例13例の不安定プラークと安定労作狭心症症例10例のプラークにおけるSR-A遺伝子の発現についで定量的Real-Time PCRを用いて検討した。その結果、不安定狭心症症例におけるプラークのSR-A遺伝子が安定労作狭心症症例の遺伝子発現に比べて有意に高かった。【総括】SR-Aの遺伝子発現は不安定プラークに存在し、SR-Aを発現したマクロファージが末梢血に漏出し、末梢血における単核球中のSR-A遺伝子発現が上昇する可能性が示唆された。今後、より簡便な、フローサイトメトリーなどの方法を導入する必要がある。それらの簡便な方法により、より多くの症例で確認する予定である。その上で、末梢血におけるSR-Aの発現を不安定プラークの存在予測をするマーカーとする手法の実用化を予定している。
  574. 心筋梗塞の一次予防を目指した遺伝子リスク診断システムの開発 15209021 2003 – 2005 基盤研究(A) 三重大学 公的データベースを用いて血管壁因子(高血圧・動脈硬化・血管攣縮・動脈瘤など)、血液因子(凝固線溶系、血小板機能など)、代謝因子(糖尿病・高脂血症・高ホモシステイン血症など)、神経因子(循環・血圧調節、内分泌機能など)を中心として包括的・総合的に心筋梗塞発症との関連が推定される138遺伝子を抜粋し、それらの遺伝子に存在する多型群の中で遺伝子発現またはタンパク質の構造・機能変化が推定される164多型を選択した。研究参加施設(岐阜県立3病院、弘前大学病院と関連病院)の協力により、患者対照集団3,483例(心筋梗塞1,192例、対照2,291例)のDNAサンプルおよび臨床データを収集した。これらのサンプルについて164多型(合計571,212多型)のタイピングを行った。これらの多型についてカイ2乗検定による関連解析スクリーニングを行い、P<0.05を呈したものについてさらにロジスティック回帰分析(年齢、性別、body mass index、喫煙頻度および高血圧・糖尿病・高脂血症の罹患頻度で補正)およびステップワイズ変数増加法により関連解析を行った。最終的に心筋梗塞発症に強く関連する(P<0.001)多型を4個確定し、この4個の多型の組み合わせにより、最大オッズ比が8.02(最小オッズ比は1)となることを見出した。またこれらの多型以外に、心筋梗塞発症と有意に関連する(P<0.05)多型を10個同定した。これらの14多型に年齢・性別および喫煙・高血圧・糖尿病・高脂血症などの冠動脈疾患危険因子を組み合わせた心筋梗塞のオーダーメイド予防システムを開発した(心筋梗塞の遺伝的リスク検出法:特願2006-025514)。本研究は三重大学医学部および共同研究施設の倫理委員会の承認を得ており、対象者から書面でインフォームドコンセントを得ている。
  575. 難治性循環器疾患を克服する人工脳幹部による戦略的な自律神経制御 15200040 2003 – 2005 基盤研究(A) 九州大学(2004-2005) / 国立循環器病センター研究所(2003) 本研究は虚血性心不全モデルにおいて電子的な人工脳幹部を用いて自律神経系の緊張を自在に制御することにより、心不全による死亡率の低減と心臓リモデリング抑制が可能であることを示した。迷走神経を標的とした電子治療では、ベータ遮断薬単独投与群よりも電子治療併用群の心臓リモデリング抑制効果が強く、迷走神経治療が単なるベータ遮断作用とは別のメカニズムであることを明らかにした。さらに、動脈圧反射の求心路を標的とした電子治療を行い、迷走神経の切除によって急性心不全の死亡率の改善効果が低下することから、治療メカニズムとして迷走神経遠心路が重要であることを明らかにした。続いて、腹部迷走神経を介する抗炎症作用が心不全の改善に貢献しているものと予測して、腹部迷走神経切除群において電子治療を実施した結果、腹部迷走神経は血行動態の改善には貢献するものの、死亡率の改善にはあまり寄与していないことが示唆された。これらの一連の治療実験と並行して、動脈圧反射の圧受容器特性の同定、動脈圧反射中枢弓の特性の新しい同定法についての研究を行った。動脈圧反射中枢弓の機能同定に関するこれらの研究は、人工脳幹部を生体システムに整合させていく上で重要な基盤データを提供するものである。
    このような人工脳幹部を用いたバイオニック医学は先端医学と先端工学が融合した治療戦略であり、類似の治療戦略は医学の歴史になく極めて独創的である。バイオニック医学で、これまでの交感神経作用を抑制する薬物治療とは異なるメカニズムで心不全の予後を改善させることができたことから、本治療戦略は現代の医療に大きなインパクトを与えるものと考える。心不全は先進諸国において最大の医療問題(社会的・財政的)であることから、本研究結果をさらに臨床展開することは、単に患者の救済のみならず、社会の経済効率をあげ、知的資産や新規産業の創出に直結すると期待される。

  576. 脂肪細胞発現遺伝子と機能異常による病態発症解明 15081208 2003 – 2007 生物系 特定領域研究 大阪大学 メタボリックシンドロームは動脈硬化性心血管病の基盤病態である。我々は内臓脂肪過剰蓄積がその本態であることを報告し、ヒト脂肪組織cDNAライブラリーよりアディポネクチンとアクアポリンアディポースを発見した。
    アディポネクチン血中濃度は、インスリン感受性や内皮機能と正相関し、内臓脂肪量と逆相関した。低アディポネクチン血症は2型糖尿病・高血圧・冠動脈疾患の独立危険因子であり、遺伝性低アディポネクチン血症は高頻度にメタボリックシンドロームを呈した。アディポネクチン欠損マウスは、食事負荷により糖尿病や高血圧を、血圧負荷で心肥大を、虚血再灌流負荷で広範囲な心筋梗塞を、糸球体過剰濾過負荷で尿アルブミンと腎臓線維化の増悪を発症した。これらはアディポネクチン補充で正常化し、アディポネクチン作用不全が、肥満による糖尿病・高血圧・腎臓病・心血管疾患に関与することが示唆された。アディポネクチンは血管内皮細胞と心筋細胞の細胞死を抑制し、マクロファージの泡沫化とマトリックス分解活性を抑制した。これらの成果から、アディポネクチンは栄養やストレスの過剰から全身の血管系を保護することが示唆された。次にアクアポリンアディポース欠損の検討を行い、絶食によって血中グリセロールが増加せず低血糖を来たすこと、脂肪組織増加と脂肪細胞サイズの増大を示すこと、脂肪細胞でのグリセロールキナーゼ活性上昇とを明らかにした。これらの成果から、アクアポリンアディポース欠損により絶食時低血糖と脂肪細胞中性脂肪合成の増加が生じ、最終的に肥満の表現型を呈することが示唆された。
    アディポネクチン血中濃度測定は臨床的に糖尿病・動脈硬化性疾患のリスク評価に有用であり、アディポネクチンやアクアポリンアディポースなどの脂肪細胞発現遺伝子は生活習慣病としての代謝異常や心血管疾患を予防するための標的分子となり得ると考えられる。

  577. 怒り・敵意・攻撃性と虚血性心疾患の関連性について 03J01112 2003 – 2004 特別研究員奨励費 早稲田大学 怒り・敵意・攻撃性(anger, hostility, aggression : AHA)と虚血性心疾患の関連性を検討するために2つの研究を実施した。
    第一に、AHA傾向の他者評定法の有効性の検討を行った。従来、AHA傾向を測定する際には、その本人自身のAHA傾向を評定するが、この方法はその人の内省力や自分自身を良く見せようとする傾向(社会的望ましさ)によって回答が歪められるといわれている。このようなことを考慮して、AHA傾向を自分で評定した場合と他人が評定した場合でどのような違いがみられるかを検討した。その結果、AHA傾向を自分で評定した場合では社会的望ましさに影響を受けるが、他者が評定した場合ではそのような影響は受けないことが示された。また他者評定は親しいものが行った場合、特に正確である可能性が示された。
    第二に、虚血性心疾患を発症した患者のAHA傾向について調査を行った。対象は急性心筋梗塞を発症した患者40名であり、研究参加の同意を得た後に、質問紙への記入を依頼した。また患者の配偶者にも、患者のAHA傾向について評定(他者評定)を依頼した。健常群との比較を行った結果、健常群と比較して、患者群では敵意の得点の高いものの多い傾向が示された。つまり、敵意が虚血性心疾患発症の危険因子である可能性が示された。
    これらの結果から、虚血性心疾患の発症予防を考える際には、従来の生物学的な要因のみならずAHAなどの心理的な要因についても検討が必要であることが示された。

  578. 臍帯血細胞を用いた多能性幹細胞の単離と心筋細胞への分化誘導法の確立 14770330 2002 – 2004 若手研究(B) 慶應義塾大学 事前に慶応義塾大学の倫理審査において研究計画・意義・危険性につき同意を得る。ヒト膀帯血を入手するにあたり、患者夫婦に膀帯血の採取法、危険性や研究結果の発表方法(個人が特定されることはなくプライバシーが保たれることなど)等につき情報提供を行い膀帯血採取の同意を得る。
    ヒト膀帯血を入手後にヘパリンを混入し凝血を予防する。比重の違いを利用してヒト膀帯血より赤血球、血小板等の不要と思われる細胞を除き単核細胞のみを分離する。ヒト膀帯血の表面抗原を様々な抗ヒト表面抗原抗体に反応させflow cytometryを用いて解析、分離を行う。ある特定の表面抗原を呈する単核細胞集団を用い、ある特定の基質への反応性の違いから更なる細胞集団の分離精製を繰り返す。そこで得られた、細胞は特定の培養条件下において増殖能と分化性が維持されることが確認された。
    ここで得られた細胞に対して、様々なスクリーニングを行った結果から特定の基質と、増殖因子を組み合わせることにより一定の確立で心筋細胞が誘導されることが確認された。この細胞は自己拍動を開始し、心筋細胞特異的な転写因子、収縮蛋白、分泌因子などの発現がRT-PCR, Nortern blot, Western blot, Immunostainingなどの手法により確認された。
    この細胞を用いることにより、心筋梗塞モデル、心不全モデルの動物に細胞移植を行い、心機能改善・予後改善の程度を検討している。
  579. 心筋脂肪酸結合蛋白FABPを用いた急性冠症候群の診断とリスク層別化 14770321 2002 – 2003 若手研究(B) 札幌医科大学 【目的】近年、血中の傷害心筋マーカーとして開発された心筋脂肪酸結合蛋白(FABP)は、高い特異性を持ち、急性冠症候群発症後、極めて早期の診断が可能である。FABP迅速測定キットを用いて、急性冠症候群の鑑別診断、リスク層別化、および予後評価が可能かを明らかにし、胸痛患者の救急外来におけるトリアージの確立を試みた。【方法】胸痛を主訴に救急外来を訪れ、症状、病歴、身体所見、心電図所見から、急性冠症候群もしくは急性心筋梗塞またはその疑いと診断された症例を対象に病歴聴取、FABP定性(迅速判定)、トロポニンT(TnT)定性(迅速判定)を測定。初回受診時から1ヶ月以内および1年後を予後追跡期間とした。【結果】北海道内7施設より208症例が登録された。全ての症例において同意を取得。119症例において急性冠症候群の診断を受け、その内訳は急性心筋梗塞78例、新規発症型狭心症3例、増悪型狭心症30例、冠攣縮性狭心症8例で、うちFABP定性検査陽性は86例、TnT定性検査陽性は65例であった。FABP陽性およびTnT陽性所見の急性冠症候群診断に対する感度はそれぞれ67%、53%、特異度は93%、98%、そして急性心筋梗塞診断に対する感度79%、67%、’特異度82%、91%であった。1ヶ月以内の心事故は12例(全症例の5.8%)で再梗塞1例、狭心症再発5例、心不全1例、冠動脈バイパス術3例、心不全死1例、心臓突然死1例であり、FABPの陽性予測値は10.5%、陰性予測値は97.5%であった。1年後予後追跡を行い得た191例における心事故は27例(14.1%)で、再梗塞1例、狭心症再発16例、心不全2例、冠動脈バイパス術4例、心不全死2例、心臓突然死2例であり、FABPの陽性予測値は22.5%、陰性予測値は92.0%であった。【結語】FABP迅速定性検査は急性冠症候群の鑑別診断、予後評価に有用であり、リスクに応じた診断、治療方針の決定に貢献できる。特にハイリスク症例への積極的な治療による予後改善が図られると同時に、不適切な侵襲検査、入院、治療が回避でき、医療経済的にも寄与できる。
  580. 歯周炎をインスリン抵抗性症候群に包括するための研究 14657555 2002 – 2003 萌芽研究 岡山大学 肥満が危険因子となって発症する高血圧、高脂血症、2型糖尿病等の一連の生活習慣病は、仮に個々の疾患の程度が軽度であっても複数個合併することで動脈硬化を経て虚血性心疾患で命を落とす危険性が極めて高まることから、危険因子重積症候群あるいはインスリン抵抗性症候群として一括されている。近年、この虚血性心疾患の発症にsub-clinical rangeの慢性炎症が関与すること、従ってこういった慢性炎症はインスリン抵抗性症候群の一つに位置づける必要性があることが指摘されている。とくに、従来健常域とされているc-反応性蛋白(CRP)の範囲内であっても高めの値を示す者ほど将来的に心筋梗塞を起こす危険性が高まることが示され、CRP値の上昇は虚血性心疾患の発症を予測するうえで有用なマーカーとして捉えられるようになった。申請者らは昨年、歯周病感染の程度を示す歯周病菌に対する血清抗体価の上昇と高感度CRP値が有意に相関すること、すなわち歯周病菌に感染すればするほどCRP値が上昇することを示した。
    しかしながら歯周病によってCRP値が上昇するという概念を説得力を持って確立するには、上昇したCRP値が歯周治療によって低下することを証明しなければならない。そこで虚血性心疾患に対するハイ・リスク患者で重度の歯周炎を合併している患者に対して歯周治療を施し、治療前後におけるCRP値を比較検討した。その結果、歯周治療によってCRP値は有意に低下することを明らかにした。過去の報告を参考に考察した場合、この低下は虚血性心疾患に対する相対危険度を50〜60%低下させるに匹敵するものであった。
    肥満や2型糖尿病は歯周炎の危険因子と捉えられている。こうして発症した歯周炎が逆に虚血性心疾患のリスクを亢進することは、この種の患者の歯周炎もまたインスリン抵抗性症候群に包括する必要性があることを示すものと考えられた。

  581. テロメアによる心血管の生物学的老化の診断法の開発 14572183 2002 – 2003 基盤研究(C) 広島大学 白血球テロメア長が潜在的な動脈硬化や血管の老化の診断に応用できる可能性につき検討した。本年度は、広島大学医学部附属病院において高血圧、高脂血症、糖尿病などの心血管リスクファクターの治療中の患者、または心筋梗塞、脳卒中、閉塞性動脈硬化症の既往のある患者、または検査のため来院しこれらの疾患が除外された患者合計83例を対象に血管内皮機能、動脈硬化の重症度と白血球テロメア長の関連を検討した。動脈硬化の重症度は上記の各疾患が1つ存在する毎にポイント1としてその合計を各人算出し、cardiovascular damage score(CVDスコアー)として評価した。内皮機能は反応性充血による前腕動脈径拡張反応(Flow mediated dilatation, FMD)から評価した。対象はCVDスコア0から4までの5群にわかれ、FMDはCVDスコアの上昇に伴い低下した。すなわち、CVDスコアから評価した動脈硬化重症度と内皮機能が相関することが示され、CVDスコアによる分類は妥当であることが立証された。次に、白血球テロメア長をCVDスコアーの群別に比較したところ、スコアの増加にともなってテロメア長が減少していた。テロメアの加齢による正常な低下を考慮してテロメア短縮を評価したテロメア係数もCVDスコアーの上昇にともない低下することが観察され、テロメア長の短縮は加齢とは関係ないことが明らかになった。
    以上の結果から白血球テロメア長の短縮は潜在的またはすでに存在する動脈硬化性血管障害の進行と何らかの機序を共有していると考えられ血管の老化が診断できる可能性が示された。
    この結果は英文専門誌(Hypertension Res)に掲載され、国際学会(The22nd World congress of Pathology and Laboratory Medicine)で招待講演演目となった。
  582. 予後調査による冠動脈疾患の行動医学的リスクファクターの検討 14570309 2002 – 2003 基盤研究(C) 愛知医科大学 Japanese Collaborative Group Study(日本人における冠動脈疾患親和性行動を解明するために、Japanese Coronary-prone Behavior Scale (JCBS)という質問紙を開発し、冠動脈疾患との関連を検討する多施設共同研究)に1990年から1995年までの期間にエントリーした、11施設の男性冠動脈造影459例について、Japanese Collaborative Group Study事務局に集計されたデータのIDから担当施設、対象者の同定を行って、各施設にフィードバックした。各共同研究施設の診療記録により、coronary event(心筋梗塞、狭心症、percutaneous transluminal coronary angioplasty (PTCA)・coronary artery bypass grafting (CABG)等のintervention、心不全)の有無、生存しているか否か、死亡している場合は死因及び死亡日時を調査した。共同研究施設の診療記録からは、上記のような情報が十分に得られない対象者に対しては、情報提供依頼書を郵送し、承諾者に電話して、上記の情報を得た。協力の得られた施設は9施設で、279例についての情報が得られた。内訳は、狭心症・心筋梗塞33件、PCI 28件、CABG 21件、死亡34件(心臓死14件)、生存167名であった。追跡期間中の心事故の有無について、従来の冠動脈危険因子を強制投入したロジスティック解析によってJCBSの3項目が選択され、診断的冠動脈造影男性症例のその後の心事故に行動医学的要因の関与が示唆された。
  583. 急性冠症候群の発症における補体とC反応性蛋白の関与 14570153 2002 – 2003 基盤研究(C) 宮崎大学(医学部) 急性冠症候群の患者の血中でC反応性蛋白(ORP)、IL-6値が上昇していることが報告されており、動脈硬化巣の発生・進展過程における炎症の関与が検討がされてきている。本研究では、狭心症患者の冠動脈アテレクトミー(DCA)標本を用いて、冠動脈硬化巣における補体系、CRPの蛋白局在とそのmRNA発現を検討し、病理組織所見と臨床所見と併せて解析した。
    その結果、動脈硬化巣では、補体(C3)とCRPの強い遣伝子発現が観察された。これらの分子は、免疫組織化学において、動脈硬化巣内のマクロファージと平滑筋細胞に陽性所見を認め、特にマクロファージにおいて非常に強い発現を認めた。臨床所見との検討において、不安定狭心症患者のDCA標本では安定狭心症患者に比べて、CRP陽性細胞の比率とCRP発現量が有意に高かった。またCRP陽性細胞の比率はDCA後再狭窄率と正の相関を示した。血中CRPの由来を検討する目的で、冠動脈流入側(バルサルバ洞)と流出側(冠静脈洞)でのCRP濃度を計測したところ、流入側に比して流出側でCRP値は高く、狭心症患者では有意な高値を示した。以上のことから、(1)冠動脈硬化巣の主にマクロファージにおいてCRPが産生され、冠循環に流出していること、(2)動脈硬化巣で産生されたCRPが動脈硬化巣の不安定化に関与し、不安定狭心症ならびに急性心筋梗塞の発症に関わっている可能性があること、(3)またCRP陽性細胞比がDCA後再狭窄率と相関することより、DCA標本の検討は、心血管イベントと再狭窄の予測因子の一つとなりえると期待された。
    本研究の結果は急性冠症候群の病態解明ならびに術後再狭窄予防に直結するもので、非常に意義のある結果と考えている。現在、さらに症例を重ねたデータの解析を進めており、他の炎症性サイトカイン類についての検討も始めている。

  584. 光干渉利用断層画像システム(Optical Coherence Tomography : OCT)を用いた表在血管病変評価法確立のための基礎的研究 14370272 2002 – 2004 基盤研究(B) 東京大学 光干渉断層画像装置(OCT)の供給元会社の買収やその後の薬事申請のための供給停止により、この研究のために購入予定であった装置自体の入手ができなくない状態で研究を開始した。そのために大幅な研究の遅れが生じたが、大阪大学の研究グループとの協力により下記の成果を上げることができた。
    OCTを用いて皮下浅層動脈の動脈硬化性変化や糖尿病に伴う細動脈病変を非侵襲的に評価することを目的とした。標準的OCT装置の空間分解能は10-20μmであるが、現状装置の最大光到達深度1mmであるため、実験対象として皮下浅層に位置し、かつ、測定体位を取りやすい動脈として手指の近位指節間関節上の背側指動脈を選び、OCTの測定実験を試行した。その結果、光の到達深度が不足していること、描出範囲(FOV)が限定されるので動脈を検出してfield of view (FOV)内に確実にとらえることが困難であること、などの理由のために、非常に低い描出率しか得られず、測定法の最適化不能であった。光の到達深度をより深くするために光波長1.53μmのファイバ自然放出光源を用い、インフォーカス・コヒーレンスゲート検出光学系を構築し、高周波数プローブを用いた超音波装置とのコンビネーションによって目的血管をFOV内に描出する方法を開発中である。さらに体動によるmotion artifactの影響を最小化するために光ファイバPZT位相変調器を低コヒーレンス干渉計に組み入れた高速OCT装置を試作した。
    これまでの研究は装置の開発が中心となっていたが、今後は臨床分野への応用のために実際のアプリケーションの開発に取りかかる。
  585. 院内症例登録による急性心筋梗塞の多元的へルスアウトカム予測システムの構築 14207102 2002 – 2005 基盤研究(A) 京都大学 急性心筋梗塞は各種治療法の進歩により、近年、臨床現場では生命予後の向上が実感されている。それに伴い、臨床的なアウトカムとしてQuality of life(QOL)への関心が高まっている。しかし、急性心筋梗塞患者のQOLとその関連要因を前向きに検討した研究は限られており、特に日本を含むアジア諸国からの報告は少ない。本研究では5大学の循環器内科による多施設共同前向き症例登録を実施した。追跡の主要アウトカム指標は退院後6ヶ月時点のQOL(SF36を含む質問票を郵送し回収)。質問票調査は退院1ヵ月後、1年後にも実施して、QOLの経時的変化を評価。質問票調査は入院時点、退院1ヵ月後、6ヵ月後(主要アウトカム)、1年後に実施した。社会的活動性の指標として復職状況を同時に把握した。予測因子としては宿主要因(性・年齢などの人口学的要因、疾病重症度、治療への反応性などの生物的要因)、治療的介入要因、喫煙習慣の続行・中止などの行動学的要因、心理社会的要因(理解力、治療意欲、医療に対する満足度、ソーシャル・サポート)などを評価した。各施設の倫理審査によって研究実施の承認を得、平成15年8月より順次症例登録を開始し、平成18年10月時点で331症例が登録(男性289人、女性42人)された。追跡率維持のため参加者へのニュースレター送付、プライバシーマークを取得している調査会社から郵送調査の前に安否確認を兼ねた挨拶電話、調査票未回収時の催促電話を実施。平成19年3月まで追跡期間中の再入院は7例、死亡は6件。上記の作業により院内症例登録と追跡調査によるコホート研究のデータベースが構築された。主要アウトカム指標(退院後6ヶ月時点のQOL)の予測因子をはじめ、この後の多変量解析(Cox比例ハザードモデル)を含む各種解析に供するものとする。
  586. 高血圧・心筋梗塞の発症・治療感受性遺伝子の診断システム構築 14013014 2002 生物系 特定領域研究 東京大学 心血管病は環境要因に加え遺伝子多型性を背景に発症すると考えられ、遺伝子多型と臨床像とを対比して解析することは個々の患者の発症素因や予後、および薬剤治療効果の推定に有効で、最終的には個別化医療の基盤となり得る。
    我々は東大病院循環器内科症例を約1800例をデータベース化し、あわせて約1300例から遺伝子解析用DNAを収集した。これらを活用し動脈硬化症発症に関与することが期待される遺伝子の多型・機能解析を行った。(1)ATP-binding casette A1(ABCA1)遺伝子のMet823Ile多型が日本人においてHDL濃度と関連することを示した。(2)隣接して存在するmatrix metalloproteinase-1および3の2つの遺伝子のプロモーター多型のハプロタイプが心筋梗塞発症に関連することを明らかにした。(3)転写因子KLF5/BTEB2の生理学的機能解明のため遺伝子欠損マウスを作成、ホモ致死であることから発生初期に重要であること、および心血管リモデリングの主たる病態制御因子であることを証明した。現在この遺伝子の変異・多型を同定し臨床像との対比を検討中である。(4)心筋梗塞発症の病態として重要な血栓形成に寄与する遺伝子PAI-1に着目し、プロモーター機能解析を行い、時間遺伝子に属するEbox結合型転写因子CLIFが転写調節を行っていることを解明、このことが血中PAI-1濃度の日内変動を来す一機序になることを証明した。このPAI-1遺伝子プロモーター多型との関連を検討中である。
    このような心血管病に関連すると予測される多数の遺伝子群について遺伝子多型解析をすることにより実地臨床において有用な遺伝子が選別され、それらに基づく個別化医療の実践が将来的に可能になるものと考えられる。

  587. 動脈硬化・高血圧関連遺伝子群の解明に関する研究 02J61448 2002 – 2004 特別研究員奨励費 愛媛大学 高脂血症や高血圧に代表される生活習慣病の治療は、ライフスタイルの改善が第一義である。しかし、効果が不十分な場合やコンプライアンスが悪い場合などは、薬剤による治療を併用する。現在、高脂血症の薬物治療は、HMG-CoA還元酵素阻害(スタチン)が主流である。スタチンの中でも臨床使用頻度が高いプラバスタチンは、消化管より吸収され、肝臓への取り込みには、肝有機アニオントランスポーターOATP-C(organlc anion transporting polypeptide C)が関与することがin vitro実験により明らかとなっている。本研究では、スタチン系薬剤の血中コレステロール量に対する影響とOATP-C遺伝子V174A多型との関連を、一般地域住民を対象に検討した。
    愛媛県下でコホート設定している対象地区の住民健診あるいは病院を通じて本研究に同意の得られた3071例を調査対象とした。このうち、平成15年7月1日から8月28日までに、同町立病院でスタチン系高脂血症薬が処方された101例について診療録に基づき追跡調査した。101例のうち投薬前後での検査値が得られた66例を解析対象とした。遺伝子多型の解析はTaqManプローブ法により行った。
    調査対象者の平均年齢は70.4±8.4歳(男性17人/女性49人)、平均BMIは23.7±2.6kg/m^2であった。服用していたスタチン系薬剤の内訳は、プラバスタチン22例、アトルバスタチン11例、シンバスタチン33例であった。解析したOATP-C遺伝子V174A多型の頻度は、遺伝子型が決定できなかった2例を除き、VV型44例(66.7%)、VA型20例(30.3%)、AA型0例であり既報告と一致していた。対象者全員におけるスタチン服薬前後での血中総コレステロールは有意に低下した。また、3種のHMG-CoA還元酵素阻害剤で脂質低下作用に有意差は認められなかった。OATP-C遺伝子多型との関連については、スタチン系薬剤の脂質低下作用はV174A多型で有意に異なっており、AアレルではVアレルに比し、効果が減弱していた(p=0.041)。各薬剤の詳細な体内動態に関しては今後さらなる解明が必要とされるが、以上の理由からOATP-C遺伝子多型が総コレステロール低下作用に有意に影響することが示唆された。
  588. 新規生理活性物質・エンドセリン(1-31)の意外な顆粒球・好酸球ケモカイン作用 13878119 2001 萌芽的研究 徳島大学 我々は最近31個のアミノ酸からなる新規生理活性ペプチドのET(1-31)が、肥満細胞に由来するキマーゼによってBig ETから形成されることを見い出した。ET(1-31)はET(1-21)と同様に平滑筋収縮能を示すが、in vitroにおいてET(1-21)には全く見られない顆粒球と単球対するケモカイン作用(白血病遊走作用)をET(1-31)は示し、中でも好酸球に対するケモタキシス作用の強いことが明らかになった。さらにET(1-31)は顆粒球に高濃度存在し、血管壁に付着した後に放出され末梢循環不全を引き起こすことが予測される。このことは、心筋梗塞や脳の血流障害の病態を良く説明する。本年度はET(1-31)とET(1-21)の好酸球に対するケモカイン作用をin vivoレベルで検討した。その結果、ET(1-31)とET(1-21)は局所のエオタキシンとIL-5レベルを増加させ、好酸球を最も強く遊走させた。一部弱いながらも好中球の遊走も認められたが、リンパ球の遊走作用はほとんど認められなかった。好酸球の遊走に先立ってエオタキシンが誘導されることから、好酸球の遊走に直接関与するケモカインはエオタキシンであると考えられ、また好酸球の遊走後にIL-5が上昇することから、局所の好酸球の活性化にはIL-5が関与すると推定された。なおエオタキシンの誘導と、好酸球の遊走は、エンドセリンAレセプターのアンタゴニストでほぼ完全に抑制され、エンドセリンレセプターの関与が推定された。
  589. 葉酸投与による冠動脈内皮機能改善、動脈硬化進展およびステント内再狭窄予防の研究 13770376 2001 – 2002 若手研究(B) 久留米大学 目的:冠動脈内ステント後の患者に葉酸を長期投与(6ヶ月)することで、冠動脈内皮機能を改善するか否か、冠動脈新生内膜の増殖(ステント内)および新規冠動脈病変(対照血管)を抑制するか否かについて検討した。
    対照:二重盲検プラセボコントロール研究とし、左冠動脈前下行枝または回旋枝のいずれかに有意狭窄があり、経皮的冠動脈内ステント留置術を施行する患者を対象とした(各群n=6)。心筋梗塞患者、心不全患者、左室肥大患者、高度腎不全患者は除外した。
    方法および結果:1)ステント留置部血管径:冠動脈内ステント留置部位において、冠動脈造影で血管径の評価(最小血管径、対照血管径)を行った。葉酸群の慢性期最小血管径が大きい傾向を示したものの、両群間に有意差はなかった(p=0.08)。
    2)対照血管(ステント非留置血管)の血管反応測定:冠動脈造影とドップラーフローワイヤーを併用し対照血管の冠血流量を測定した。内皮依存性血管拡張反応(アセチルコリン)、内皮非依存性血管拡張反応(硝酸イソソルビド)、最大血管拡張能(パパベリン)を検討した。葉酸群の慢性期内皮依存性拡張反応は改善傾向であった(p=0.14)が有意差はなかった。内皮非依存性血管拡張反応、最大血管拡張能は両群間で有意差はなかった。
    3)各種指標の血中濃度:対象患者における、血中の総ホモシステイン、葉酸、Vit B5、Vit B12、酸化ストレスの指標(MDA modified LDL,尿中OH dG),NO代謝産物(尿中Nox、テトラヒドロビオプテリン)、ADMA、喫煙の指標(コチニン)を測定したが葉酸投与による有意差はなかった。
    考察:葉酸投与によりステント内再狭窄の予防、対照血管における内皮依存性血管拡張反応の改善、酸化ストレスの改善が予測されたが有意差はなかった。葉酸投与量および症例数が問題であった可能性が残された。

  590. 発酵食品における生理活性物質の探索と健康・機能性食品の開発 13680172 2001 – 2004 基盤研究(C) 武庫川女子大学短期大学部 近年、心筋梗塞や脳血栓などの血栓症およびガンが急増し、社会的に重大な問題となっている。そこで本研究では、種々の発酵食品の生理活性物質を検索し、薬用効果を明らかにすると共に、生理活性物質を有する微生物を用いた新規な発酵食品への応用を試みた。したがって、本研究の主目的は血栓症およびガンに対して予防効果を示す健康・機能性食品の開発にある。
    まず、世界各国の発酵食品の抗トロンビン活性および線溶活性等について調べたところ、味噌やチーズなどに顕著な抗トロンビン活性および線溶活性が認められた。
    従来、アルコール飲料の製造には酵母がアルコール脱水素酵素を持っていることから使用されている。同様に、チーズの製造には乳酸菌と凝乳酵素が使用されてきた。さらに、味噌の製造では麹カビ、耐塩性乳酸菌、耐塩性母がそれぞれアミラーゼとプロテアーゼ、乳酸脱水素酵素、アルコール脱水素酵素を持っていることから使用されてきた。本研究では、これらの酵素をきのこ(担子菌)が持つことを発見し、担子菌の発酵力を用いた場合においても、ビール、ワイン、チーズ、味噌等を製造することが可能であることを見出した。そして、きのこで生産したアルコール飲料やチーズ、味噌などは、β-D-グルカンを含むと共に、線溶活性や抗トロンビン活性があり、免疫力を高め、ガンや心筋梗塞、脳血栓などの血栓症の予防にもつながる可能性が示唆された。
    ガンや血栓症の患者に対しては、患部の切除やバイパス手術などで応急的に処置しているにすぎず、現在の医学では根本的な治療は不可能である。したがって、医食同源・予防医学の観点に立ち、日常の食生活から、これらの疾病を予防することが大切であり、今後も健康・機能性食品の開発についての研究が必要である。

  591. バブル期前後の縦断的データでみた就労状況の変化が身体的・心理的健康に及ぼす影響 13680042 2001 – 2004 基盤研究(C) 広島県立大学 バブル期以降の「失われた90年代」は、様々な形で日本人の生きる姿に深刻な影響を及ぼし始めている。日常生活の安寧さや凡庸さは、より善く人間が生きて行こうとする時に不可欠な条件となる。日常生活における心理的充足感(LSI)の高さは生活の糧を得る労働の場での活力の源泉であり、あるいは家庭生活の豊かさと表裏一体である。同時に身体の健康度の優れていることは安寧な生活の必要条件でもある。
    本研究では、職場や職業における就労状況の変化が「心理的健康度」、「身体的強壮度」、「基礎医学的健康度」に及ぼす影響の様態を明らかにし、また、これらの変容に寄与すると考えられる外的(環境的)・内的(個体)因子を検索・構造化することを目的とした。
    得られた結果の主要な点は以下のようになる。
    1.経済指標と日本人の疾病、死因内容の変遷との関係について行政統計データを交差相関係数によって検討したところ、特に顕著な時差的関連は認められなかった。
    2.日本人成人就労者の7つのフィットネス測定値を因子分析した結果、肥満と循環器系因子、体躯の筋力因子、柔軟性の因子が確認された。これらフィットネス因子LSI27項目を検討したが、特に顕著な関連は認められなかった。
    3.就労者の縦断的なフィットネス検査値を10年間隔で獲得し、10年間のLSI変化との関連を検討した。LSI変化度と関連があったのは女子では最大酸素摂取、男子では柔軟性であることがわかった。
    4.この他、動作(スタンツ)系テストを用いた年齢予測モデルの作成、ロジスティック回帰分析を用いた血圧値と健康習慣の関連性検討を行い、それぞれ個別論文としてまとめた。
  592. 心不全病態の進展と心筋熱ショックタンパク質の発現 13672306 2001 – 2003 基盤研究(C) 東京薬科大学 心筋梗塞後不全心の熱ショックタンパク誘導能変化が心機能および心筋代謝に及ぼす作用について検討した。心筋梗塞後8週目、すなわち心ポンプ機能が低下する心不全期ではHsp70のストレスに対する誘導能が低下していることを示したHsp70によるストレス性障害から心筋細胞を保護する機序として、Hsp70は核に移行することにより、poly(ADP-ribose)synthetase活性化の抑制を介してストレスによる酸化的障害からDNAを保護することを示した。次に、不全心ではHsp70タンパク量が増加した。通常、Hsp70は、ミトコンドリア内で分子シャペロンとして機能すると考えられている。心筋梗塞後不全心ではミトコンドリアだけでなく細胞質でのHsp60量が増加した。ミトコンドリアへのストレスの増大が、Hsp60合成を促進させる他に、ミトコンドリア外でのHsp60の新たな役割が推測された。ミトコンドリア内でHsp60は低分子量シャペロンのHsp10と複合体を形成するとされている。心筋梗塞後不全心のHsp10はわずかに増加するものの、Hsp60増加の度合いとHsp10のそれは一致しなかった。すなわち、Hsp60量がミトコンドリア内でHsp10と複合体を形成する量よりも過剰となるため、Hsp10と複合体を形成できなかったHsp60が細胞質に残留し、ストレスに対するミトコンドリアの耐性を上昇させることができないと考えられた。
  593. プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)の冠動脈硬化予測因子としての意義 13670755 2001 – 2003 基盤研究(C) 愛知医科大学 近年、食生活の欧米化に伴い日本においても狭心症、心筋梗塞などの冠動脈硬化を原因とする虚血心疾患は増加の一途を辿っている。これらの疾患は高脂血症、高血圧、糖尿病、喫煙などの冠危険因子がその成因に深く関与してことが知られているが、確定診断には冠動脈造影カテーテル検査などの侵襲的検査が不可欠である。もし外来で採血などにより手軽にかつ迅速に診断できる虚血性心疾患のマーカーがあれば、患者にとっての利益のみならず、医療コストの削減にも結びつくことが期待される。
    最近、リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)が人間の冠動脈の動脈硬化病変部位に多く存在し、このような症例においてはこのL-PGDSの血中濃度も上昇していることが明らかとなった。今回、私たちはリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)と冠動脈硬化の進展課程に注目し、L-PGDS値と冠動脈造影(QCA)から得られた狭窄度や冠動脈内エコー(IVUS)によるプラークボリュームとの関連を検討し、L-PGDSの冠動脈硬化の予測因子としての可能性を検討した。私たちはL-PGDSが採血により迅速に診断できることにも注目し、このL-PGDSが虚血性心疾患のマーカーになるのではないかとの可能性を明らかにするため、正常冠動脈群42例と有意冠動脈病変群132例(1枝病変群67例、2枝病変群49例、3枝病変群16例)の合計174例の冠動脈造影所見と血中L-PGDS値との関連を検討した。L-PGDSは正常冠動脈群の平均が0.565μg/mlに対し、1枝病変群0.594μg/ml、2枝病変群0.653μg/ml、3枝病変群0.674μg/mlと病変重症度が増すに従い、L-PGDSが高くなることが明らかとなった(p<0.05)。また、83症例に対し冠動脈内エコーを施行したが、この検討では病変部冠動脈プラーク面積とL-PGDS値とにはr=0.51の有意な相関を認めたのに対し、中性脂肪値とプラーク量との相関はr=-0.01、HDLコレステロール値とはr=-0.19、空腹時血糖との相関はr=-0.01と極めて弱い相関しか認められず、このことからL-PGDS値が冠動脈硬化の指標になりうる可能性が示唆された。

  594. 心不全における生体リズムの内的脱同調に関する実験的・臨床的研究 13670697 2001 – 2003 基盤研究(C) 富山医科薬科大学 1)心拍リズムと心収縮性
    不全心ではCa2+サイクリングが遅延し収縮弛緩に時間を要するにもかかわらず心拍数が増加しており収縮弛緩のリズムと心拍リズムの脱同調が起こっている。そこでシステム同定法を用いて心拍変動から心収縮性および左室前負変動への伝達関数を求め、Ca2+サイクルと心拍リズムの再同調を目的とする心拍制御が成功する条件を定量的に示すことができた。
    2)呼吸リズムと交感神経活動の統制
    呼吸による交感神経活動の制御様式をシステム同定法によりモデル化し、呼吸統制により交感神経活動が呼吸に同調してどの程度抑制されるか予測した。その結果、肺を長時間伸展させる深い呼吸により交感神経活動が効果的に抑制できることがわかった。かかる成績は、慢性心不全患者における呼吸統制による交感神経抑制法としての呼吸トレーニングの有用性に対して理論的根拠を与える。
    3)日常身体活動へのウルトラディアンリズム
    睡眠深度がおよそ90分周期のウルトラディアンリズムを示し、このリズムと同期して自律神経活動や循環動態が変動することは周知の事実である。心不全患者の昼間の身体活動および心電図の長時間記録から種々の生体リズムを抽出し、この中に睡眠周期と同じリズムが存在するかを検討した。比較的軽症例の昼の活動量にはウルトラディアンリズムがよく認められたが、重症例ではこれが不明瞭となった。この成績は重症化するにつれて、生体リズムに対して身体活動が対応できなくなり内的脱同調が起こっていると解釈される。
    4)身体活動、循環動態、および神経調節の概日リズム
    自由行動下の覚醒心不全ラットの活動量、血圧、心拍数、および神経調節機能の長時間追跡システムを開発し、これら相互の同調性を検討した。正常ラットでは、活動量、心拍変動、血圧および自律神経活動はいずれも同調しながら60-150分周期のウルトラディアンリズムを示した。また二酸化炭素化学反射の日内変動は副交感神経活動と対称的変動を示した。心筋梗塞ラットではこのようなウルトラディアンリズムや概日リズムが不明瞭となり活動、循環、神経調節の相互の同調性が失われていた。

  595. 働き盛りの循環器疾患罹患および死亡状況の把握と機能予後に関する研究 13670361 2001 – 2003 基盤研究(C) 滋賀医科大学 滋賀県高島郡(人口約5万5千人)において、1989年から脳卒中および急性心筋梗塞の発症登録を行っている。登録は高島郡内の3医療機関および郡外の3医療機関の計6医療機関に保管されている診療記録(外来および入院カルテ)を閲覧することによって行った。脳卒中および急性心筋梗塞発症の診断基準はWHO MONICA PROJECTに準拠した。本報告では、1990年から1994年まで、1995年から1999年までとに1990年代を2分し、同期間の前後において脳卒中罹患率の推移を明らかにする。解祈の結果、男女ともに脳卒中罹患率は減少し、特に男性でその傾向か顕著であった。病型別に見ると、脳梗塞の罹患率の減少が顕著であった。また、同時に発症から死亡までの期間が4週未満であった急性期死亡の割合についても両期間における推移をみると、男女ともに顕著な差はなかった。
    脳卒中わが国の1990年代の脳卒中死亡率の推移をみると、前半部に比べて1995年以降の死亡率は増加しているように見える。この傾向はおそらく1995年に改訂された国際死因分類の寄与が大きいのではないかとの指摘があるが、根拠となるデータはない。本報告の成績に基づいて考察するならば、おそらく、死亡率は減少傾向にあったものと推察され、死亡統計における1990年代の前半部と後半部の死亡率の差はまさに指摘の通り死因分類の改訂の影響によるいわば作為的な変動と考えることができる。

  596. 生活習慣病の発症予防に関する職域コホート追跡研究-生活習慣変容がインスリン濃度と危険因子集積に及ぼす影響の検討- 13470087 2001 – 2004 基盤研究(B) 名古屋大学 このコホート研究は約11,000名の被用者を対象として、生活習慣病の発症予防のため、平成9年以降毎年の定期健診成績と生活習慣病の発生をデータベース化している。出発時に続き、平成14年にも日常生活習慣アンケートと血液保存を行った。両年の保存血清について、インスリン、レプチン、CRP等の測定を行った。本研究は本学倫理委員会の承認を得ている。以下に主な成果を述べる。
    (1)平成9年以後5年間におけるアンケート回答に基づく心疾患発病者は52名(心筋梗塞15名、狭心症14名、PTCA 17名、CABG 3名、:重複回答あり)であった。同意を得た18名について主治医への問い合わせを行った結果、心筋梗塞については100%の一致を見たが、他については100%に達しなかった。脳卒中と答えた36名では、脳梗塞とくも膜下出血については100%の正答率であった。高血圧、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症の正答率は95%を超した。(2)一事業所の被用者2,000名について20歳から5歳間隔の実測体重を把握し、その変動と現在のインスリン値、CRP、メタボリック症候群(MS)との関連を検討した結果、各指標の悪化に現在の肥満度やその増加の勾配のみならず体重の変動自体も関わっており、若年からの体重維持の重要性が示唆された。(3)約3,500名の解析において、MSの構成要素は白血球数やCRPの上昇と関連したが、インスリン値は白血球数との間に独立した関係を示さなかったことから、インスリンはMSの発症を介して低炎症状態あるいは動脈硬化を招くと推論した。レプチンは肥満の影響を除外しても白血球数の増加に関連していた。(4)血圧と塩味の好みとの関連性が女性では50歳以上で強くなることから、食塩感受性に対する閉経の影響が示唆された。(5)約2,600名の血清リン脂質転送タンパク質は血清脂質、BMIとの間に強い関係を示し、37ヶ月の追跡期間中の冠動脈疾患発生との間に有意な負の関連性を示した。脳卒中の発生とは関連しなかったので、冠動脈疾患に特異的な予測因子である可能性が示された。(6)食事摂取頻度と食行動に関する簡易アンケートの再現性と妥当性を確認した。20歳時の体重の自己申告値と実測値との比較を行い、前者の信頼性を確かめた。

  597. 冠動脈バイパス術後のリハビリテーションによるインスリン抵抗性改善効果に関する研究 12832049 2000 – 2002 基盤研究(C) 埼玉医科大学 冠動脈バイパス術(CABG)後患者を対象にして、運動療法を主体とした包括的心臓リハビリテーションを約2週間実施し、短期的なインスリン抵抗性改善効果について評価した。
    次の項目が結論として導かれた。
    1)インスリン抵抗性指標として臨床現場で可能な検査は75gOGTTにおける120分での血糖値ならびにインスリン値である。
    2)高インスリン血症を認める症例は、若年で血中中性脂肪が高値かつBMI(体格指数)が大の傾向にある。
    3)入院中の包括的心リハビリテーションにより、高インスリン血症は改善傾向を示すものの十分ではなく、退院後の外来回復期リハビリテーションが重要と思われる。
    4)入院中における心臓リハビリテーションの運動強度はAT(anaerobic threshold)レベルが安全かつ有用と考えられた。
    5)血糖値改善と入院中の身体活動量は有意な相関を認めたことから、自転車エルゴメータートレーニング以外にも積極的に歩行を心がける必要がある。

  598. 遺伝子多型性に基づく心血管病患者の予後予測評価および治療薬の開発 12794012 2000 – 2002 地域連携推進研究費 東京大学 本研究の目的は心血管病の発症・重症度を規定する遺伝子マーカーを同定することである。
    我々は東大病院循環器内科用い包括的臨床データベースを構築し約1800例のデータを得ており、あわせて東京大学医学部の当該倫理委員会の承認のもと遺伝子検体採取を行い約1300例のDNAが解析可能である。これらを活用し動脈硬化症発症を規定する遺伝子多型およびそれに付随する遺伝子機能解析を行い以下の結果を得た。(1)ATP-binding casette A1 (ABCA1)遺伝子Met823Ile多型が日本人においてHDL濃度と関連することが判明した。(2)matrix metalloproteinase (MMP)のMMP1およびMMP3のプロモーター多型のハプロタイプが心筋梗塞発症に関連することを示した。
    (3)ヘムオキシゲナーゼー1(HO-1)のプロモーター領域多型が冠動脈疾患発症に関連することを示した。(4)血栓形成に関わるglycoprotein Ia遺伝子多型と心筋梗塞発症の関連を検討したが日本人では関連性は認めなかった。(5)ホモシステイン濃度を規定するMTHFR遺伝子多型と動脈硬化性発症との関連性を以前に示したが、その病態機序をラット血管障害モデルにより内皮機能障害を証明した。(6)血管平滑筋の形質転換に関与する転写因子KLF5の発現が冠動脈形成術後の再狭窄に関与し、また同遺伝子欠損マウスの解析により同遺伝子が心血管リモデリングの主たる制御因子であることが証明された。
    このような心血管病との関連が予測される遺伝子群についての多型解析・機能解析により実地臨床において有用な遺伝子が選別され、それを活用した個別化医療が将来的に可能になると考えられる。

  599. 慢性疾患患者の自己管理姿勢を規定する要因の構造化-看護婦の臨床判断に焦点を当てて 12771520 2000 – 2001 奨励研究(A) 大阪府立看護大学 慢性疾患患者(糖尿病5名、心筋梗塞・狭心症3名)の看護記録を点検したところ、<知識不足>、<無効な治療計画管理>といった看護診断名で画一的に患者の自己管理上の看護問題が記述されていた。また、実践内容を記録する経過記録では、患者の自己管理姿勢の判断に関わる記述をみると「意欲的」、「消極的」、「積極的」といった言葉で示され、変化の過程を捉えるような記述はなかった。さらに、患者の自己管理上の課題に応じた患者教育のアプローチ方法についての記述はほとんどなかった。
    記録上には十分に患者の自己管理姿勢とそれに応じたアプローチの実践状況が十分に示されていなくても、実際には看護婦は患者の自己管理姿勢とそれに影響する要因については、患者の全体像を捉えて把握しようとしていた。つまり、入院中にみられる現在の自己管理に対して意欲的な姿だけで自己管理姿勢を判断するのではなく、入院に至るまでの経過、退院後の生活の見通しを含めてクリティカルシンキングの技法を用いて総合的にアセスメントを行っていた。しかし、アプローチ方法は知識指導が中心となって進められていた。
    以上のことから、看護婦は自己管理姿勢について、患者の過去・現在・予測される将来の生活状況を総合的に捉えて判断しようとしていた。すなわち臨床判断能力の高さが示された。しかし、問題点を明らかにしょうという試みとは別に、その問題状況や変化の過程の表現は、感覚的なものであり、臨床看護婦においてもそれらが難しいことが明らかとなった。
    今回は一般病棟で慢性疾患患者を看護する看護婦を対象として分析したが、今後さらにエキスパート性の高いものを対象として研究を継続する必要がある。

  600. ドブタミン負荷-心電図同期心筋SPECTの有用性に関する研究 12770347 2000 – 2001 奨励研究(A) 大阪市立大学 テクネシウム標識心筋血流トレーサーによる心筋SPECTは心電図同期収集により左室壁運動の評価が可能となる。最近、心電図同期SPECTから左室心内膜面を自動抽出し、三次元再構成を行い、左室壁運動を定量評価できるソフトウエア(QGSソフトウエア)が臨床的に使用可能となっている。そこで、本研究では、ドブタミン負荷-心電図同期心筋SPECTによる心筋バイアビリティの評価の有用性を明らかにする。
    平成13年度は、ドブタミン負荷-心電図同期心筋SPECTによる心筋バイアビリティの評価の妥当性を、血行再建術後の壁運動の改善を基準に検討した。
    対象は急性期に再疎通療法が行われた急性心筋梗塞患者で、発症1〜2週(急性期)にドブタミン負荷-心電図同期心筋SPECTを行い、4〜10か月後(慢性期)に運動負荷-安静心電図同期心筋SPECTを施行した15例。
    QGSソフトウエア上で、左室を20分画に分け、梗塞領域でかつ運動負荷-安静心電図同期心筋SPECT上虚血所見を示さなかった83分画の壁内方運動の大きさを検討した。
    結果、急性期ドブタミン負荷-心電図同期心筋SPECTにおけるドブタミン負荷時の壁運動の改善と、急性期から慢性期にかけての安静時の壁運動改善の間には有意な正の相関(r=0.502、P<0.0001)が見られた。急性期ドブタミン負荷-心電図同期心筋SPECTにおけるドブタミン負荷時の壁運動の改善2.25mm以上をカットオフとすると、急性期から慢性期にかけての2mm以上の壁運動改善予測の感度、特異度はそれぞれ70.0%、69.8%であった。
    急性心筋梗塞急性期におけるドブタミン負荷-心電図同期心筋SPECTは慢性期の壁運動の改善予測に有用であると考えられた。
  601. 動脈硬化症・血栓症のリスクとなる遺伝子多型の診断システムの構築 12672250 2000 – 2002 基盤研究(C) 慶應義塾大学 本研究は、血栓形成因子のなかで、最近提唱されている遺伝的危険因子(遺伝子多型)に着目し、候補遺伝子アプローチ法にて血栓症との関連について日本人のデータを蒐集し、個人個人の疾患予測のための遺伝子診断システムを構築することを目的とした。研究の前半で患者の蓄積と検体採取、臨床所見、検査値の整理を行い、ついで主に血小板受容体の遺伝子タイピングを中心に研究を進めた。その結果、血栓形成の初期段階を決定する重要分子であるvon Willebran因子の受容体(GPIb/IX/V)に新たな遺伝子多型を発見し、多型が受容体機能に与える影響を報告した。ついで研究期間の後半では、血小板機能に重要な血小板活性化因子受容体(PAF receptor)やPAF-3cetylhydrolaseの多型についても検討した。PAFを血小板に添加すると遺伝子型AAに比べDDではその凝集能が弱く、この多型の血小板機能への関与が示唆された。タイピングの結果、日本人におけるPAF-R遺伝子多型の出現頻度は、wild typeのホモAAが約75%、ヘテロであるADが23%、mutantのホモDDが3%であることが明らかになった。さらにPAF-AH遺伝子多型(Val279Phe)と血小板機能との関連、および虚血性脳血管障害患者(CVD)と健常者における出現頻度について検討を行ったところ、PAF-AHの酵素活性は、PAF-AH遺伝子多型と対応し、PAF-AH遺伝子多型(Val/Phe)は、PAF-AHの血小板活性化抑制作用を減弱させた。また日本人集団ではPAF-AH遺伝子多型とCVD発症との間に有意な関係あることが示された。両者の関係が血小板活性化抑制作用によるものか、酸化リン脂質の分解による抗動脈硬化作用によるものかについては、更なる検討が必要であるが、欧米における血栓症の主要な危険因子であるAPC抵抗性が我が国には存在しない一方、PAF-AH遺伝子多型のように我が国独自の危険因子の候補が発見された意義は大きい。また虚血性脳血管障害の多型-疾患関連研究として、Connexin37遺伝子多型C1016Tについても検討した。脳血管障害患者ではT alleleの頻度が有意に多く、この多型は脳血管障害の危険因子となり得るが、高血圧を介した機序が推測された。3年間の研究で得られたこれらの成果は今後の血栓症リスクの遺伝子診断を考える上で非常に貴重な知見を提供したといえる。
  602. Multiple Risk Factor Syndromeの疫学的病態解明 12670352 2000 – 2003 基盤研究(C) 名古屋大学 本研究は、約7000人の男性従業員を対象としたコホートを用いて進めた。本研究では、先ずMultiple Risk Factor Syndrome即ち近年では広くMetabolic syndrome(MS)と呼称されているが、その病態カスケードの中でインスリン抵抗の上流に存在すると考えられている肥満の役割について検討した。そして、肥満はインスリン抵抗性と強く関連するとともに、青年期からの体重変動がインスリン抵抗性及びMSと関連するという新しい知見を得た。次にMSの病態カスケード各段階と全身の低炎症状態との関連を検討することにより、全身の低炎症状態がこの病態カスケードの中で如何なる位置づけであるかを検討した。そして、MSの各構成因子,(肥満、高血庄、耐糖能異常、高トリグリセリド血症、高LDL血症、低HDL血症、高インスリン血症、高尿酸血症)と低炎症状態が関連し、それらの因子が集積するほど低炎症状態との関連が強くなることを明らかにした。そして、これらの結果から、Multiple Risk Factor Syndrome(MS)の病態カスケードが、肥満→インスリン抵抗性→Multiple Risk Factor Syndrome(MS)の構成因子→(動脈硬化)→全身の低炎症状態→動脈硬化→心血管疾患事故の発生の各段階から成ることが推測された。
    本研究結果から、Multiple Risk Factor Syndrome(MS)における肥満の役割は重要であることが明らかとなった。近年、肥満と関連するホルモンとしてレプチンが注目されており、高レプチン血症、レプチン抵抗性が一連のカスケードの中で如何なる位置付け、役割をはたしているかを明らかにすることが今後の研究課題である。

  603. 糖尿病の医療費と糖尿病対策の経済評価に関する研究 12470512 2000 – 2002 基盤研究(B) 東北大学 目的:糖尿病は患者数が多く、長期慢性の経過を辿って重篤な合併症が少なくないことなどから、その医療費は今後とも増加傾向を辿り、医療財源逼迫の大きな要因になると予想される。本研究では、医療経済の面から糖尿病対策の意義を明らかにする。
    方法:糖尿病の臨床経過をシミュレーションするシステムモデルを開発し、自覚症状から受療開始、治療法の変更、コントロール状態の変化、合併症の発症・進行、腎透析の開始、QALYの変化、医療費と生産額とのバランスシートなどについて実測値(糖尿病患者231例に対する調査結果)による係数と乱数を組み合わせてモデルのパラメータを決定し、モデルの信頼性、妥当性を検証した。
    結果:1)システムモデルで仮想患者を立てランダムにイベントを与える方法でシミュレートすると、性・年齢階級別生存率は実測値に近く、モデルの汎用性が検証された。感度分析によってもモデルの信頼性は高いと考えられた。
    2)システムモデルでは、糖尿病の年間新規罹患数は32万7千人、初診後の平均余命は一般より3.4年短い23.0年、QALYsは18.8年であった。初診時40〜44歳の平均余命およびQALYsは、男で各28.9年、22.9年、女で各33.3年、25.5年であった。
    3)罹病期間別に合併症の発生状況をみると、罹病20年未満で1つ以上の合併症を有する割合は、腎症24.1%、網膜症22.9%、神経障害11.5%、虚血性心疾患9.0%、脳血管疾患3.6%である。2つ以上の割合は、腎症と網膜症9.0%、腎症と神経障害7.2%、網膜症と神経障害7.2%などであった。
    4)糖尿病医療の費用便益比は、男女合計0.78(全年齢)、男1.18、女0.30と性差が大きく、女では医療費が生産額を大幅に上回った。Cost/QALYは、男女合計で166万円、男で159万円、女で177万円で、性別で大差はなかった。

  604. 虚血及び各種中毒における新規過酸化脂肪酸の病態生理機能と診断法開発に関する研究 12470107 2000 – 2001 基盤研究(B) 東京大学 1.脳一酸化炭素(CO)中毒における過酸化脂質生成と障害に関する研究 遷延性CO中毒死症例の脳の基底核・皮質・海馬などにおいてアポトーシス・ネクローシスによる細胞死が混在していた。病変の分布は虚血では説明できなかった。基底核では、DNA断片化を確認した。
    ラットCO暴露後回復モデルを作成し、脳の特に皮質下壊死を認めた。壊死巣に一致して、細胞核に過酸化脂質の指標である4-hydroxynonenal(HNE)が生成し、低体温により皮質下壊死とHNEの発生は抑制された。また、過酸化脂質の指標である7-hydoroxysterol測定系を確立し、CO吸入後回復ラット脳で増加していること、低体温が、この増加を抑制することを見出した。以上の結果よりCO中毒の病変生成に脂質過酸化が寄与していること、低体温によりこれが抑制され、治療効果が予測されることが示された。
    2.心筋梗塞における過酸化脂質生成と障害に関する研究 ラット心筋梗塞モデルでHNEとTNF-αが著増し(1時間でピーク)、この増加を梗塞前狭心症を再現する短時間虚血再潅流反復によるischemic preconditioning(IP)が梗塞によるHNE増加を増強し、TNF-α増加を抑制することを見出した。組織学的・生化学的分析でHNEは血管内皮と心筋細胞膜に局在した。TNF-α増加に転写因子(NFκB)が関与することが示唆された。
    3.心筋梗塞における血管内皮由来成長因子(VEGF)を介した血管新生と一酸化窒素産生酵素(NOS)誘導ラット心筋梗塞モデルにおいて、IP後の梗塞はPKC-_εを介してVEGF遺伝子を誘導し、血管新生を促すことを見出した。一方、恒常発現型内皮eNOS遺伝子・蛋白の発現がIP後の梗塞で増加し、側副血行路の拡張を促すことを見出した。
    4.心筋梗塞におけるコネクシン43(Cx43)の分解とIPによる抑制 早期梗塞心筋(1h)でCx43がリソソーム・プロテアソームにより分解・脱リン酸化すること、IPがPKC依存性に分解を抑制することを見出した。Cx43は細胞間伝達と収縮協調に寄与するので、分解は不整脈に繋がると思われ、突然死における不整脈関与の証拠と考えることもできる。
    5.ラット心筋由来(H9c2)細胞の虚血細胞死と活性酸素種(ROS)生成をCOが抑制する Hgc2細胞は虚血によりROSを生成し、ネクローシスにより死ぬ。COが虚血細胞死とROS生成(DCF蛍光)と脂質過酸化(HNE生成)を抑制する。細胞死抑制作用は、MAP kinase/ERK活性化酵素阻害剤で抑えられることより、この経路を介した抗細胞死蛋白誘導か活性化によると思われる。
  605. Marshall tractへの冷凍凝固による心房細動発現の予防効果に関する研究 11877228 1999 – 2000 萌芽的研究 岩手医科大学 本研究の目的は、術後の心房細動の発現を永久に予防することである。術前に洞調律であった冠動脈バイパス術(CABG)症例30例を対象に、心房細動発現のトリガーと思われるMarshall靭帯を、心表面より冷凍凝固(cryoablation)し、術後の心房細動発現頻度を比較検討した。Marshall靭帯を心表面より冷凍凝固した群15例と、冷凍凝固しなかった群15例とで、両群の素因(左房径、左室駆出率、陳旧性心筋梗塞の既往歴、CABGのグラフトの本数)に有意差はなく、また術後3日間の心房細動発現頻度は両群とも4例(27%)であり差を認めなかった。冷凍凝固した群のうち2例に術前に存在しない心房頻拍を認めた。今回の研究ではMarshall靭帯の冠状静脈端のみの冷凍凝固では心房細動の発現頻度を減少することはできなかった。むしろ不用意な冷凍凝固は、術後に心房頻拍の不整脈基盤を作ってしまう可能性も示唆された。また、興奮発現部位は必ずしもMarshall靭帯の冠状静脈端と一致しないことも報告されており、心房細動の発現を防止するには個々の症例に合わせた興奮部位の証明を行う必要があると思われた。今後、低侵襲かつ有効な冷凍凝固の方法の探求と、電気生理学的な心房細動発現の予測を行うことが切望される。
  606. 多変量解析を利用した理学療法の効果判定 11835035 1999 – 2001 基盤研究(C) 北里大学 多変量解析の手法を用いて,理学療法の効果判定で用いられるテスト項目の選択論理を調べ,少数回のテストで効率よく治療効果を評価する方法を提案することを本研究の目的とし,以下のテーマで研究を進めた.
    脳血管障害による歩行移動動作テスト項目の難易度順序付けの研究を発展させた結果,テスト項目を3潜在変数に集約することが可能であり,片足立ちテストにより各因子はそれぞれを70%程度説明可能であった.
    脳梗塞患者のデータを用いて発症時所見で2年後の日常生活活動状況の予後予測が可能か解析を加え,構造方程式モデリング(SEM)が理学療法関連データにも応用可能であることを確認した.
    人工股関節全置換術後の症例を2年間日本整形外科学会股関節判定基準とSF-36,筋力データによりSEMを行って,障害の因果関係を明らかにした.
    心臓リハビリテーションの領域で,対象となる急性期心筋梗塞直後の症例の臨床症状と背景因子を統計的に整理した.次いで,機械的トレーニングを中心とした理学療法の適応と効果の評価法を論じた.
    在宅介護症例を対象として,労働厚生省が提示する60例のモデル状態像が介護認定時の重症度評価に妥当なものかクラスター分析などの統計的手法で調べた.介護度が高くなると分離が困難となることが認められ,評価項目の尺度構成の再検討が必要であると考えられた.
    一方,研究を進めるにあたり,文献および検索を行って,リハビリテーションの対象となる患者の予後予測に使われる統計手法を概観し,治療効果を見るには,どのような注意が必要かを調べた.また,エビデンスにもとづき有効とされる理学療法が現在どの程度存在するのか,コクランレビュー,リハビリテーション治療選択基準,Medlineを対象に検索を行って調査を行った結果、理学療法の基礎となるエビデンスがまだ十分でないこと,集録済み情報も検索法によって利用できないことが示唆された.

  607. 機能回復訓練及び日常労作が肢体不自由者の呼吸循環応答に及ぼす影響 11835005 1999 – 2001 基盤研究(C) 国際医療福祉大学(2000-2001) / 東北大学(1999) 四肢の機能障害では、患肢を使用する動作遂行時に効率が低下し、呼吸循環系に対する負荷を増加させると考えられる。運動負荷様式が異なる場合(運動負荷と間歇的負荷)では、連続負荷で、酸素消費量・疲労度が大きくなる傾向であった。また、等張性運動と等尺性運動では、等尺性運動が等張驪助より心肺系に強い負荷をかけやすいというこれまでの報告は、低強度負荷では必ずしも当てはまらず、等尺性運動を間歇的に行う訓練プログラムが有効である可能性を示唆する成績が得られた。また、プリン体代謝過程から生産さるヒポキサンチンを過酸化化合物増加状態の指標として測定することにより、運動負荷時の組織障害を推定する指標として、血清ヒポキサンチンが有用である可能性が示唆された。
    心臓の各拍動間の変動を解析する心拍変動法を用い、急性心筋梗塞、患者に運動療法を継続させて検討したところ、安静時の副交感神経活動亢進、負荷時の交感神経活動抑制、心拍応答における応答性改善を認め、心拍変動を運動療法の効果判定に利用できることが明らかとなった。同様の成績は、肥満患者、脳梗塞片麻痺患者等でも観察された。
    軽度の片麻痺を有する脳梗塞患者では、低強度の運動負荷でも自律神経の変化が認められる事実から、特に高齢者での訓練時における呼吸循環速度は低強度でも刺激されると考えられ、身体機能の維持・向上のための運動としては、低強度でも効果を得られる可能性が示唆された。
    健常者における睡眠をとらない状態(断眠)での運動負荷試験成績から、断眠時には交感神経系の活動が亢進する傾向があり、身体機能とは関係のないストレスが、肢体不自由者の呼吸循環応答にどのように影響するかについては、今後さらに検討が必要であると考えられる。

  608. 多施設共同大規模臨床調査による急性冠症候群の危険因子に関する分子疫学的研究 11794035 1999 – 2001 地域連携推進研究費 大阪大学 平成11年度より急性心筋梗塞の登録および専用フォームを用いて症例サマリーを作成し、患者情報の蓄積管理を行った。また、数施設の人間ドックの協力により症例とage-、sex-matchedさせた健康人を登録し、健康人を対照としたcase-control studyの環境整備を行った。平成11年4月から平成13年12月末までに2491例が登録され、平成10年4月以後の症例も合わせ合計3377例の症例が登録された。予後調査は退院後3か月、6か月、さらに1年毎に予後調査票の郵送、回収により行い、現在、回収率は90%であり、電話調査を含めた予後追跡率は99%である。また症例登録と同時に急性心筋梗塞患者および健康人より、インフォームドコンセントを取得の上、血液採取し、血清保存およびDNA抽出を開始した。平成13年度は、1.症例登録および予後調査による古典的疫学調査の実施。2.急性心筋梗塞の発症における感染症の関与。3.分子疫学調査による心筋梗塞症の内因性危険因子の解明を行った。
    -症例登録および予後調査による古典的疫学調査の実施-
    側副血行路の存在が急性心筋梗塞症の予後を改善することが示唆され、その予後改善効果は加齢、糖尿病、梗塞前狭心症の存在によって修飾されることが示唆された。
    -急性心筋梗塞の発症における感染症の関与-
    患者および健常人の血清を用いてクラミジア、ヘリコバクター・ピロリの感染症検査を行った。高脂血症合併、喫煙者では急性心筋梗塞発症にクラミジア感染が関与している可能性が示唆された。
    -分子疫学調査による心筋梗塞の内因性危険肉子の解明-
    急性心筋梗塞の抽出DNAを用いて分子疫学調査を行った。約10万一塩基多型についてスクリーニングしたところ、2つの一塩基多型が心筋梗塞関連一塩基多型と同定され、現在この一塩基多型に関して機能解析を施行中である。

  609. モノクロタリン誘発性肺高血圧における血管病態の解明 11770857 1999 – 2000 奨励研究(A) 長崎大学 研究目的は、モノクロタリン誘発性肺高血圧における血管病態を解明することである。
    モノクロタリンによる肺高血圧の機序として、血管拡張作用の減弱が起こっていることが予測されるため、作用機序の異なる血管拡張作用をもつ新しい心筋梗塞治療薬であるJTV-519やNa^+/Ca^<2+>交換機構阻害薬のKB-R7943の肺血管拡張作用の変化を検討することにした。
    雄性ウイスターラットにモノクロタリンを皮下注し、3週間後に肺高血圧を発症しているのを確認した。そのモノクロタリン誘発性肺高血圧ラットの肺動脈を取り出し、2〜3mmの血管リングを作製した。マイクロイージーマグヌスを用い、酸素95%二酸化炭素5%で通気したKrebs-Henseleit液中で最適の静止張力を与え定常状態をえた。ノルエピネフリンで収縮させた肺動脈リングに、新しい心筋梗塞治療薬であるJTV-519を段階的に投与し容量反応曲線を描き、NOS阻害薬やGlibenclamideの前投与の影響も調べた。またNa^+/Ca^<2+>交換機構阻害薬KB-R7943も段階的に投与し容量反応曲線を描いた。結果は、JTV-519はコントロール群で容量依存性に血管拡張を示した。その拡張作用はNOS阻害薬やGlibenclamideに影響されなかった。またモノクロタリン群ではコントロール群に比べ拡張作用が抑制された。またKB-R7943は肺血管拡張作用を示さなかった。
    これらの実験結果より、モノクロタリンはJTV-519の肺血管拡張作用の感受性を変化させることがわかった。JTV-519の血管拡張の機序は、NOやATP感受性カリウムチャンネルの可能性は低くその他の機序が考えられた。また肺血管のトーヌスの調節にはNa^+/Ca^<2+>交換機構は関与していないことが示唆された。

  610. 磁気共鳴断層装置を用いた生体内圧力分布の画像表示 11770517 1999 – 2000 奨励研究(A) 東京都立保健科学大学 心臓が収縮拡張を行なう弾性体の一つと考えた場合に,心筋梗塞を起こしていない正常心筋部位と比較して心筋梗塞部位は比較的硬く、弾力性が正常と異なるために,梗塞部位と正常部位との境界では歪みが発生する.この歪みによる応力で心筋梗塞が進行するといわれている。そこで、MR装置により生体内の圧力を定量して画像表示する技術を開発するにあたり、In vitro実験でその可能性について検討した。
    マイクロバブル造影剤を封入した混濁液を加圧して撮影した場合の、圧力と信号強度との関係について検討した。非常に小さな気泡(マイクロバブル)を封入した液体に対して陽の圧力をかけると気泡の容積が小さくなり、結果としてMR I信号の大きさも変化するという現象を利用するために、撮影シーケンスおよびパラメータはT2強調を主体にして実験をおこなった。臨床用MR装置を用いて、以下のような結果が得られた。
    (1)造影剤を調整後の時間経過と信号強度との関係
    造影剤の調整後、時間経過とともに信号強度が増加した。信号強度が増加した原因は、マイクロバブルが時間の経過とともに壊れた為に起きたと思われる。圧力が大きいほど、マイクロバブルが速く壊れる傾向がある。しかし、この造影剤を超音波装置で使用する場合と比較して、MR装置ではマイクロバブルが長時間保たれる事が理解された。
    (2)圧力とT2値との関係
    試験管内の圧力を高くすると、T2値が短縮傾向を示した.
    (3)圧力と信号強度との関係
    圧力を増加すると信号強度は低下傾向を示した。
    以上の結果を第27回日本磁気共鳴医学会大会および第85回北米放射線学会で報告した.この研究成果が日本磁気共鳴医学会において高く評価され、大会長賞を受賞した.
  611. 急性冠症候群での組織因子、外因系凝固インヒビター,血小板機能の動態に関する研究 11670692 1999 – 2000 基盤研究(C) 熊本大学 急性冠症候群における組織因子(tissue factor:TF)および組織因子経路インヒビター(tissue factor pathway inhibitor:TFPI)の関与について臨床的および病理学的に検討した。血小板の凝集塊を小凝集塊、中凝集塊、大凝集塊に分けて測定できるレーザー散乱法による粒子計測法を加えた血小板凝集能測定装置が開発され、急性冠症候群の病態を血小板の活性化の面から検討した。不安定狭心症患者では安定労作狭心症患者や対照患者に比べTFが上昇していた。さらに急性冠症候群患者の冠動脈硬化内膜にTFがマクロファージに一致して発現しておりプラーク破綻後の血栓形成に重要な役割を果たしていることを明らかにした。TFPIには遊離型とリポ蛋白結合型があるが、プロテアーゼ活性は遊離型が高い。不安定狭心症患者からの末梢血レベルの検討の結果、遊離型のTFPIが上昇していることを証明した。組織学的にも動脈硬化組織標本においてTFPIがTF発現領域に一致して発現していた。血小板凝集能に関する検討では、中および大凝集塊では差がないものの小凝集塊の形成は急性冠症候群で増加していた。本研究においてはTFや血小板凝集能と予後についての検討も行った。急性冠症候群において血中TFが高値でありそのレベルが高いほどその患者の予後が悪く心事故が起こりやすいことを証明した。血小板凝集能では小凝集塊の増加の著しい患者ではその後の心事故の多いことを示した。以上のことより急性冠症候群ではTF、TFPIが冠動脈に過剰に発現しており、その増加におおじて血中レベルも増加し凝固能が亢進していることと、血小板機能が亢進し小凝集塊の形成が亢進していることを結論とした。また急性冠症候群での治療のマーカーとしてTFや血小板の小凝集塊の測定が有用であり、心事故の発症が予想される症例においては通常の治療に増して抗凝固、抗血小板療法が必要であると考えられた。
  612. レクチン様酸化LDL受容体を用いた診断・治療・治療薬開発の試み 11557006 1999 – 2002 基盤研究(B) 国立循環器病センター(研究所) ヒトのLOX-1の遺伝子のクローニングを行い、LOX-1の遺伝子構造を明らかにするとともに、12番染色体の短腕に遺伝子が位置することも明らかにした。また、LOX-1の発現調節について検討を行い、リガンドである酸化LDLや炎症性のサイトカイン、高血圧・糖尿病・高脂血症のような病態下で発現が亢進することがわかった。
    LOX-1の機能については、内皮細胞における酸化LDLの作用点としてLOX-1が活性酸素の産生やNO産生の抑制に重要であることも示唆された。また、LOX-1が活性化血小板や白血球との相互作用を媒介することも明らかになった。
    病態におけるLOX-1の意義については、LOX-1を血管特異的に発現させたトランスジェニックマウスとアポE欠損マウスとの交配により得たマウスの解析を行い、血管へのLOX-1の過剰な発現により酸化LDLの血管への作用が増強し、動脈硬化が増悪することを見出した。また、マクロファージの血管への浸潤も亢進していることが明らかとなった。このことから、LOX-1が動脈硬化促進分子として生体内で機能することが明らかとなった。
    さらに、動脈硬化以外の疾患の解析も行い、エンドトキシンによるブドウ膜炎や、ザイモザンによる関節炎モデルにおいてLOX-1機能の抑制はこれらの炎症を抑制し、臓器障害を軽減した。また、心筋梗塞モデルにおいてもLOX-1機能の抑制は梗塞巣の拡大を抑制した。これらのことより、種々の病態においてLOX-1機能制御が治療に役立つ可能性が示唆された。

  613. 救急車からの高速データ通信を目指した高軌道衛星の調査研究 11480096 1999 – 2001 基盤研究(B) 東海大学 救急隊員が気管内挿管を行っているアメリカバージニア州では、その15%が食道に誤って入っているという情報があり、また現行の通信システムでは、救急隊員に適切な指示を出す、メディカルコントロールが確立されていない。見通し通信(仲上-ライス フェージング)は、通信の中でももっとも簡単な通信で、多量のデータを伝送できる。本研究は、天頂に飛来し、一見、止まって見える衛星があれば、都市部を走行中の救急車から高速データ通信(アップリンク)が可能と考え、その調査研究を行った。
    都市環境での受信電力測定では、長楕円軌道衛星COMETS衛星(さきがけ)のICEビーコンを走行しながら受信電力を測定し、高仰角(73度)では、静止軌道に比して格段の見通し率の改善することを確認した。
    都市環境における光学的障害物計測では、試験走行のデータから、2つのアンテナ(空間的タイバーシティ)を2.3m以上離さすとシャドウイングを高い確率で回避できることが算出された。
    また過去の東京都救急搬送データより、日本全国4800台の救急車には、呼損率0.02では6回線、全国規模では84回線が必要であること、またITU BT.500-9に準拠したMPEG-2医療画像評価より、帯域3.0Mbpsが最適であることが分かった。
    搭載機器、ことに中継器では、相互変調積による影響を回避すべき設計を提案した。
    また高軌道衛星の経済性として、IMT-2000との比較、また医療費削減と打ち上げコストの比較を、急性心筋梗塞をモデルに検討を加え、高軌道衛星4機が十分採算の合う通信手段であることが求められた。

  614. 心筋細胞・非心筋細胞相互関係に立脚した心保護機構の解明-遺伝子変異動物による解析 11470161 1999 – 2000 基盤研究(B) 京都大学 本研究では、まずマウスのin vivoにおける心不全・心筋梗塞等の研究を遂行するために、マウスに於ける心筋梗塞と虚血再灌流モデルを確立した。
    BNP-TGマウスを用いた研究;BNP-TGマウスは、肝臓にてマウスBNPが高発現し循環血中濃度が数ng/mlに達するモデルである。このBNP-TGに急性心筋梗塞を作製すると、作製後3-5日で死亡するマウスが野生型マウスより有意に頻度が高くその死因がほとんど心破裂であることが明らかになった。BNP-TGでは、梗塞巣に白血球浸潤が野生型と比べ多く、同時にmembrane metalopr ot eaase-9(MMP9)の発現がTGマウスで有意に亢進していた。
    GC-Aノックアウトマウスを用いた研究:急性心筋梗塞症では発症24時間以内に血中BNP濃度の急峻且つ高度の上昇が認められるが、急性期の虚血再灌流傷害に及ぼすANP系の作用を研究する目的でGC-Aノックアウトマウスに虚血再灌流モデルを作製した。再灌流6時間後、および2日後に組織を切り出し梗塞サイズ、浸潤細胞に関して検討した。GC-Aノックアウトマウスでは梗塞サイズが野生型マウスと比べ有意に梗塞サイズが減少していることが証明された。また、浸潤細胞数、MPO活性を検討するとGC-Aノックアウトマウスでは浸潤細胞数が減少し、MPO活性も減少していた。さらに、この白血球浸潤の減少には虚血再灌流後に冠動脈血管内皮細胞に発現するPセレクチンの発現がGC-Aノックアウトマウスでは野生型マウスと比べて有意に減少していることが観察された。このPセレクチンの発現低下が白血球の内皮へのrolling attachmentを抑制させ梗塞サイズの現象に繋がったものと理解された。この結果からGC-Aノックアウトマウスでは、当初は心保護効果により虚血再灌流傷害が増強することを予測していたが結果は予想外であり、炎症急性期に於けるANP系の新たな役割が示唆された。

  615. 心筋梗塞後不全心の熱ショックタンパクの誘導能と薬物治療の効果に関する検討 10771304 1998 – 1999 奨励研究(A) 東京薬科大学 ラットを用いて左冠状動脈を結紮することにより、心筋梗塞後不全心を作製した。正常ラットの摘出灌渡流心臓に42℃,15分間の熱ショック(HS)を行うと、HS後6時間目の熱ショックタンパク、HSP72およびHSP73の心筋組織含量が最大となった。心筋梗塞後2週目では、HS後のHSP73含量は正常動物のそれと同様のレベルまで上昇した。一方、HSP72の含量も上昇するものの、HS後の正常動物のレベルには達しなかった。心筋梗塞後8週目ではHS暴露を受けたにもかかわらず、HSP72およびHSP73の含量は上昇しなかった。実験動物の血行動カ学的指標を測定したところ、心筋梗塞後2週目は、心筋組織の運動性を表す左心室収縮期圧(LVSP)は低下しているものの心臓のポンプ機能を表す指標の左心室拍出量(COI)は維持されている機能代償期であることが分かった。一方、心筋梗塞後8週目ではLVSPだけでなくCOIも低下しており、典型的な低拍出量性不全心となっていた。すなわち、心筋梗塞後、心臓のポンプ機能が維持される機能代償期にはHS後HSPは誘導されるものの、心ポンプ機能を代償できなくなった心不全期にはHSP誘導不全状態に陥ることが明らかにされた。心不全治療を模倣するため、心筋梗塞後2週目から8週目までの6週間、ACE阻害薬trandorapril(Tra)3mg/kg/day p.o.を投与すると心不全動物のHS後のHSP誘導能が回復した。
    本研究により、心筋梗塞後不全心ではストレス後のHSP72およびHSP73誘導を介する心機能保持に障害のあることが明らかにされた。同時に、HS後のHSP誘導能と灌流心臓の収縮機能の間には相関があることも明らかにされた。さらに、心不全治療薬Tra投与によりHSP誘導が改善されることから、Traの不全心治療の機序の一つにHSP誘導能を回復させることが考えられた。
  616. 心筋梗塞急性期の脳性利尿ペプチド(BNP)が左室再構築に与える影響 10670684 1998 – 2000 基盤研究(C) 関西医科大学 脳性利尿ペプチド(BNP)は利尿作用、血管拡張作用等があり、心不全例では代償機転として働く。心筋梗塞急性期にも血漿BNP値が上昇し、重症度が高ければ血漿BNP値がより上昇すると考えられるが、発症早期にBNPが充分分秘された例では、左室再構築が抑制される可能性がある。本研究では、当院CCUに搬送された初回心筋梗塞患者連続223例中177例で急性期のBNPを測定し、138例で発症後14日目の心エコーを実施した。発症後1年目の心エコーは86例に実施した。急性期のいずれかのBNP値と左室再構築のデータを有する症例は63例(平均年令60±10才)であった。急性期BNP値はいずれも発症14日目に心エコーにて記録した急性期左室駆出率とr=-0.274〜-0.359、また、発症1年後の慢性期左室駆出率とはr=-0.255〜-0.304の有意な相関を認めた。発症1年後の左室拡張率と定義した左室再構築は、年令、梗塞部位、急性期再潅流療法の施行、ACE阻害剤の服用の有無、発症14日目の左室駆出率を共変量とし、発症3、7、14日目の血漿BNP濃度と左室再構築の関係についてそれぞれ別のモデルで重回帰分析により検討した。その結果、急性期のいずれの時点のBNP値も左室再構築と有意な関与は認められなかった。従って、急性期の高BNP濃度がその作用により将来の左室再構築を抑制するということは認められなかった。逆に、急性期の高BNP値が将来の左室再構築を予測するということも否定的であった。即ち、心筋逸脱酵素が高値であることが広範囲な梗塞を反映し、そのことによって単純に将来の左室再構築を予測するのとは違って、広範囲な梗塞でBNPは高値を示したが、BNP自身の減負荷作用で左室再構築促進が相殺されたため、急性期BNP高値は左室再構築を抑制せず、将来の左室再構築の予測もしなかったと考えた。
  617. 心血管病における血管機能調節異常の成因に関する実験的研究:膜過分極を介した内皮依存性血管弛緩代償機構の分子生理学的解明 10670628 1998 – 2000 基盤研究(C) 秋田大学 1)ラットintermediate conductance型Ca-activated K channel(lmK)の構造配列決定と機能解析:BKチャネルとともに内皮依存性血管過分極因子の標的分子とされるlmKチャネルの心血管病態における発現修飾を検討するため、種々の心血管病態モデルの作成が容易な実験動物であるラットのlmKチャネルのcloningを行った(GenBankへ登録:AF149250)。本遺伝子のcoding regionは1278塩基対で、翻訳蛋白産物は425アミノ酸からなり、ヒトおよびマウスと塩基配列で88%、95%、アミノ酸配列で各々ほぼ98%の相同性を示した。6個の膜貫通部位を有し、S5とS6間には本チャネルの特異的阻害物質とされるcharybdotoxin感受性aspartate residueが、またcarboxy-terminal側には細胞内Ca sensorの役割を担うcalmodulin-binding domainおよびtyrosin phosphorylation consensus sequenceがあり、またpromotor領域にはNFkB、heat shock protein、AP2などでregulationされる部位が存在した。これらの事実から本チャネルの発現調節とその活性化が細胞増殖刺激と密接に関連することが確実となった。さらに、本遺伝子をHEK細胞に発現させ、その細胞電気生理学的特性を解析し、本チャネルは細胞内Ca濃度上昇により活性化され、charybdotoxinにより抑制されるなど、これまで生理学的に予測されていたlmKの特性が再現された。
    2)心血管病態におけるKCaチャネル発現の変化:ラット心筋梗塞モデルを用いて、KCaチャネルの分子種5種類(BK、lmK、SK1、SK2、SK3)のmessenger RNAの発現をRT-PCR法、RNase Protection Assay法により経時的に追跡し、BKおよびlmKの発現は梗塞後1〜3日をピークとする初期増強と7日以降再度upregulationを示す後期増強相からなる2峰性ピークを形成することを見いだした。また、in situ hybridizationおよびラットlmKに対する特異抗体を用いた免疫組織染色の結果、lmKはmRNAレベルのみならず、翻訳蛋白発現のレベルでもその発現が亢進することが確認された。さらに組織内局在について検討すると、lmKは対照時には主として血管内皮細胞および血管平滑筋に局在するが、梗塞心では単核白血球、繊維芽細胞などの浸潤細胞にも著明な発現が見られ、初期上昇相はこれら細胞浸潤により特徴づけられる炎症反応に、後期上昇相は梗塞巣内の血管リモデリングに一致することが明らかとなった。この所見は、これまで生理学的、薬理学的に示されてきた病態での過分極-弛緩連関の代償性増強現象をKCa発現修飾の面から説明するはじめての所見と考えられる。また、以上のlmK発現の増強は、アンギオテンシンllのl型受容体拮抗薬の投与によりほぼ完全に抑制されることなどが明らかとなり、lmK発現調節の細胞内情報伝達系にMEK/ERK系の関与が示唆された。
    さらに、NO生合成長期抑制モデルにおいても同様なlmK発現の増強を見いだしており、lmKは心血管病態時における血管リモデリングの共通なkey moleculeである可能性が高まってきた。
    これらの成果は、平成13年3月31日よりアメリカ合衆国フロリダ州オーランドで開催されるExperimental Biology 2001におけるアメリカ生理学会主催の血管系カリウムチャネルに関するシンポジウムにおいて招待講演として発表するとともに、Journal of Clinical and Experimental Pharmacology and Physiologyに公表予定である。

  618. 勤労者の突然死と定期健診データの関係に関する研究 10670364 1998 – 1999 基盤研究(C) 帝京大学 勤労者の突然死が日本社会の話題に上るようになって10年以上が経過している。その原因として過労が取り上げられているが、未だにはっきりとした因果関係が証明されていない。過労死による主たる死因は心筋梗塞等の心臓死と言われているが、毎年行われている職場の定期健診時にこれらの疾患の発病予測が十分行われていないのが現状である。このため、労働安全衛生規則44条で規定された職場定期検診の10項目(血圧、尿検査、貧血、肝機能、脂質、心電図等)の意議が問われている。
    本研究で明らかにした主たる研究成果は以下の3点である。(1)突然死した勤労者の生前に行われていた定期健診の心電図波形を、健常な勤労者で見られる心電図波形の頻度、性質において比較した。突然死症例と健常症例の間で心電図波形の異常に有意差が認められず、通常の定期健診で行われている心電図検査では突然死を予測することが不可能であると推測された。(2)突然死の予測に有効であるデータが何かを文献で検討すると、心筋梗塞や糖尿病等の患者の生命予後の予測にある程度有効である指標として心電図QTc時間と心拍変動CV_が挙げられていた。前者は通常の定期健診で測定される心電図計の自働解析結果に含まれているが、健診結果として記載されることもなく、当然のことながら健診の事後措置(健康相談)などでも利用されていない。現在健康である勤労者の心電図Qtc時間を有効に活用すれば、今後の予測因子となりうる。(3)交代勤務者は、日勤者と比べ虚血性心疾患等に罹るリスクが1.4倍高いと欧米の総説で報告されている。そこで交代勤務の循環器系(自律神経)機能に及ぼす影響を心電図Qtc時間を用いて検討すると日勤者に比べ、交代勤務者で心電図Qtc時間が有意に延長していた。さらに異常QTc(440msec以上)を示すリスク(多要因調整Odds比)が日勤者を1とした場合に交代勤務者で8.15(90%信頼区間1.31〜50.5)となることが示された。
    以上により、突然死に至る前駆状態(症状)を自律神経系指標である心電図QtcやCV_で察知することにより今後の「突然死」の予知・予防に結び付ける可能性が示唆された。

  619. 地域大規模集団における脳卒中・心筋梗塞の発症率の推移と発症者の予後 10470168 1998 – 1999 基盤研究(B) 琉球大学 今年度は1998〜1991年度の脳卒中・心筋梗塞発症者の予後調査の分析を行った。死亡小票と住民票を確認することにより、脳卒中発症者4,363名、心筋梗塞発症者992名の生死が確認できた。追跡率はそれぞれ96.7%、96.6%であった。脳卒中発症者のうち脳梗塞発症者2,218名の約10年での累積生存率は38.7%、50%生存期間は7.8年であった。脳出血発症者1,589名ではそれぞれ38.7%、8.1年であった。脳梗塞患者では慢性期の死亡に関与する因子は発症時年齢が高いこと、男性、再発例、心房細動の既往、発症時に意識障害があること、皮質枝梗塞であった。脳出血患者では発症時の年齢が高いこと、男性、再発例、発症時に意識障害があること、出血が大であることであった。心筋梗塞発症者では約10年での累積生存率は41.0%、50%生存期間は7.5年、慢性期死亡に関与する因子は、発症時年齢が高いこと、発症前の高血圧の既往、非Q波梗塞、発症時の心不全の存在であった。いずれの病型においても発症後28日間の急性期死亡に関与する因子と共通するものがおおかった。本研究は大規模集団で脳卒中や心筋梗塞の長期生命予後を明らかにしたことで意義深い。今回の分析では全症例を対象とし、生命予後に影響する因子を分析したが、今後急性期死亡を除いた群、あるいは初発例のみ、脳梗塞の病型別、など群を分け分析することで、さらに新しい知見が得られるものと思われる。
    また今年度は沖縄県南部保険所管轄地域での脳卒中・心筋梗塞発症者の1988〜1991年度の発症率を算出した。年齢調整発症率は脳卒中141(男187、女108)、心筋梗塞32(男52、女16)であった。この発症率と比較するため1999年1月1日〜12月31日の発症者の登録を行った。現在確認作業を進めている。確認作業・死亡小票との照合がすんだ時点で発症数を確定し、10年間で心血管病発症に変化があったか検討する予定である。

  620. 超音波治療法の深部血管内血栓に対する臨床応用 9670758 1997 – 1998 基盤研究(C) 東京慈恵会医科大学 血栓溶解剤静注時に、塞栓部に対し体表から超音波照射することで深部血管内血栓溶解時間を短縮し、早期血流再開を可能とする。低侵襲早期血管開存法についてin vitro in vivo実験を通してその基本的有効性を確認した。超音波周波数は200KHz〜300KHz、再開通時間は30分前後、rt-PA 投与時間の短縮に伴う使用量の軽減などを確認し、経胸的冠動脈再開通や経頭蓋的脳血流再開通などの深部血管への適用の基礎検討を行った。
    (1)超音波プローブの試作と同ビーム音場内組織温度上昇分布
    超音波周波数200KHzを用い、0.8W/cm^2暴露時の組織内温度上昇を肉片(厚さ5〜80mm)を用いたシュミレーション実験で確認した。サーモグラフィーを用いた結果は3℃以下(プローブ表面から5mmの深さ)であり、深さ50mm以上では0.5℃以下であった。また、5mm間隔での比較では、局所的な高温スポットが見つからず、温度は深さ方向に指数関数的に減衰した。ただし、プローブとの接触面では熱傷があった。針型(0.5mm)サーミスタ温度計を用いて、局所高音圧領域の温度上昇を経時的に測定した。上昇温度は最大でも2〜3℃に留まり、試作プローブは体内に hot spot を形成しないことを経時的にも確認した。
    (2)冠動脈血栓溶解における超音波照射併用の有効性
    犬の自家血(一定量)を用いた人工血栓を冠動脈前下行技末梢に注入し、心筋梗塞モデルを作り、rt-PA0.5mm/kg点滴静注下で超音波併用(200KHz、0.25W/cm^2)による再開通時間の短縮程度を評価した。rt-PA単独投与(非併用)例7頭、超音波併用療法例6頭で比較した結果、併用例では非併用例より再開通時間が20分早まり31.7分となった(P=0.022)。投与量は35%減少し、0.29g/kgで有効であった(p=0.022)。
    (3)深部血管内陳旧化血栓への有効性検討
    深部血管内の陳旧化血栓に対する有効性についてヒト血液による24時間血栓(3ml)を作成し検討した。超音波照射併用の有効性が認められ、血栓溶解剤単独投与時の約1/2の時間でFDP-DD増加が進み、再開通時間の短縮、また予後の良好なことを予測させるものとなった。
    超音波治療法としての深部血管内血栓溶解に関連する安全性の確認を終了し、また陳旧化血栓への有効性も確認したことで、十分な超音波パワーを照射しながら早期血流再開を行う超音波併用血栓溶解療法の深部血管への臨床的適用性を示した。

  621. 体外式心肺補助と低体温による脳蘇生の基礎的研究 9470331 1997 – 1998 基盤研究(B) 熊本大学 体外式心肺補助と低体温による脳蘇生の研究には,長期体温自動コントロール装置が必要であるから,まず長期間動物の体温を自動的にコントロールする装置を作成した。この装置を利用して脳温と体の他の部位の温度(末梢温)の違いを調べた。
    ECLHA自体の合併症として出血がある。低体温自身も血液凝固能を抑制するので長期間軽度低体温時の血小板凝集能とthrombelastigraphy(TEG)の変化を調べた。これらの基礎的実験により,方法の安全性を確認後にECLHAと低体温併用の実験を実施した。
    長期間体温コントロール装置は,体温を0.4℃の誤差の範囲にコントロールし,1分間おきにデータを記録し,脳波のパワースペクトログラムを解析し保存できた。脳温と末梢温度の相違の研究により,脳温は,頚静脈血温,脳脊髄液温度(cistema magna温度),肺動脈血温等と相関することが分かった。肺動脈血の温度と脳温の間に0.5℃の差があった。直腸温は脳温と相関性はあるが,低体温時に下痢と粘液性便(心停止後)が起こりやすいので正確に脳温を表さない場合が多い。低体温時の動物の体温測定結果により,低体温体外式心肺補助動物実験では,出血防止,脳循環保持の点から,脳実質の直接体温測定,大槽脳脊髄液温度測定,頚静脈温度測定等にくらべ,肺動脈血温で脳温を代用することが一番適切であることが判明した。血液凝固能の研究によると低体温48時間の時点から血小板凝集能が抑制された。しかし,24時間低体温では血小板凝集能と血小板数が影響されなかった。したがって24時間のECLHAと低体温併用を決定した。
    ECLHAと低体温を併用した蘇生法は、15分間の心停止動物モデルで劇的な蘇生効果を示したので、今後実験症例数を増やして蘇生効果を確認する必要がある。

  622. 器質的心疾患に伴う心臓性急死/致死性不整脈の予見と治療効果判定に関する前向き研究 9470158 1997 – 1999 基盤研究(B) 東北大学 本研究は陳旧性心筋梗塞,心筋症,心不全などの患者を対象にしてT波オルタナンスを計測しSCD、致死的不整脈の発生をend pointとした前向きstudyの導入を行うことが本研究の大きな目的であった。これまでに器質的心疾患約250症例の初回検査を終了し現在は予後観察中である。前向き研究の特性上本申請研究の終了時点での解析は追跡期間が必ずしも十分でない症例も存在するが現時点での研究成果をまとめることとする。
    TWA陽性率及び陽性症例におけるSVT/NSVT合併頻度は基礎心疾患によって異なっていた。つまりμVTWA判定基準は心疾患別に考慮すべきと考えられた。
    持続性心室頻拍群(SVT)、非持続性心室頻拍群(NSVT)及び心室性頻拍のない群率は他2群に比して有意に低下していた。駆出率3群間で有意差がなかった。収縮及び拡張末期佐室径指標はSVT/NSVT群とNVT群間に有意差を認めたが、SVT群とNSVT群に差はなかった。これに対しTWA陽性またはLP陽性率はSVT/NSVT群で高く、SVT群とNSVT群の区別にも比較的高い陽性予測精度を示した。特にTWAとLPがともに陽性の場合最も高い陽性予測精度を示した。
    また研究期間中において植え込み型除細動器(ICD)の使用が一般的となりVT/VF症例のうち薬剤抵抗性のものにはICDが使われており、当初計画した薬剤による介在研究はより治療確度の高いICD治療にシフトしており、介在研究を行うことは論理上出来なかった。

  623. 肝ミトコンドリアの還元化に伴う重症病態における生体NMRによる個別臓器代謝評価 9307024 1997 – 1999 基盤研究(A) 滋賀医科大学 基礎的実験では、黄疸ラットでの出血性モデルを作成し、こうした重篤な循環不全状態において、心筋のエネルギーレベルは良好に保たれているにもかかわらず、動脈血中ケトン体比(AKBR)は低下し、全身の代謝失調を反映する良好な指標となることが明らかとなった。また、^<13>C-NMR、^<31>P-NMRを併用し、エンドトキシンショックや肝虚血・再灌流などの病態における肝臓でのアラニンからの糖新生能とリン酸エネルギー代謝の関係を明らかにした。その他、出血性ショック・エンドトキシンショック・心筋梗塞・脳梗塞・てんかん、糖尿病等の病態モデルを作成し、動物実験用MR装置2TCSI Omega Systemを用いて、肝臓・心臓・脳、骨格筋など個別臓器の非侵襲的な代謝評価を行った。特にMR代謝画像の時間分解能を向上させるため超高速撮像法であるEPIを^1Hスペクトロスコピーに応用した高速化に成功し、脳の一時虚血・再灌流時の変化をMR代謝画像として追跡することが可能となった。更にこの手法を^<13>C-NMRに拡張しラット脳梗塞モデルでの脳内グルコース、グルタミン酸の高速代謝画像に成功し報告した。
    一方、臨床研究では、皮膚潰瘍を伴う重症の糖尿病では、細胞内pHの上昇を伴う足底筋群のエネルギー代謝の障害が認められ、虚血性潰瘍とは明らかに異なる病態が検出された。心臓では、狭心症の診断、心筋生存の評価にハンドグリップ負荷^<31>P NMRが有効であった。脳研究では、^1H NMRは、脳腫瘍の悪性度の評価、筋緊張性ジストロフィーの病態診断、正常圧水頭症の治療効果予測、双極性障害患者の診断に適用した。また光刺激時の^<31>P NMRは、双極性障害のリチウム治療、断眠療法、電気痙攣療法などの治療効果の予測、治療機序の解析に有用であった。更に、実験装置で開発したEPIを応用した高速MR代謝画像法を臨床装置で実現した。
  624. Kex2ファミリー蛋白分解酵素furinの発現によって心筋細胞が肥大する機序 9267202 1997 重点領域研究 群馬大学 成長因子等の前駆体を活性型に転換する酵素furinは、神経内分泌細胞でプロホルモンを活性型に転換するPC2,PC3と同じ酵母Kex2ファミリーに属するセリンプロテアーゼである。我々はfurinが増殖期の膵β細胞で高発現していることを報告したが、更に肥大した心筋で高発現していることを見出した。ラットの左冠動脈下行枝を結紮して心筋梗塞を作成すると、ラットの血中脳型利尿ペプチド(BNP)は術後3日目と14日目以降に二峰性のピークをもつ上昇パターンを示した。BNPとfurinは、心房では3日目に両者共高発現し、14日目以降もそれに近い発現を示した。心室筋では3日目の上昇は軽微で、14日目以降に高発現を示し、心房、心室共BNPとfurinの発現パターンはよく一致した。BNPとfurinは共に梗塞部位に隣接する細胞群でよく染色されたので伸展刺激により発現が亢進すると予測された。そこで我々はラット心筋細胞の培養系でBNPとfurin発現を検討した。心筋細胞をシリコン膜上で培養し、伸展すると両者が高発現することが確認された。そこでfurinのペプチド阻害剤dec-RVKR-CMK及びfurinを阻害するように変異させたα_1アンチトリプシン(α_1-PDX)存在下で心筋細胞を培養するとBNP前駆体の活性型BNP-45への転換が妨げられた。更に伸展刺激を加えると阻害剤存在下では心筋肥大そのものが抑制された。BNPには心筋を肥大させる作用はないので、この事実はfurinがBNP以外の成長因子前駆体を活性型に転換している可能性を示唆した。その前駆体候補として我々は現在PTHrPの可能性を検証している。心筋肥大の機序を抑制する因子として現在アンギオテンシンII(AII)が注目され、AII転換酵素阻害剤カプトプリルが臨床で用いられているが、本研究はAII以外にも肥大誘発ペプチドの存在を示唆するもので、心筋肥大機序解明に大きく貢献すると考えている。
  625. 虚血・再潅流に伴う心筋傷害の防護法の開発-代謝改善による機能回復の促進(METABOLIC INTERVENTION)の可能性- 8770488 1996 奨励研究(A) 山形大学 1.^<123>I-BMIPP 心筋摂取率の検討
    Ishii-Maclntyre法により、^<123>I-BMIPPの心筋摂取率を算出した。^<123>I-BMIPP 心筋摂取率は、血中のコレステロール、中性脂肪、血糖、インスリンの値にかかわらず2%前後でほぼ一定であった。冠動脈疾患に合併することが多い高脂血症、糖尿病症例においても、虚血による代謝異常を検出できることを示した(Nucl Med Comm 17:675-680,1996)。
    2.^<123>I-BMIPP 集積低下の臨床的意義
    狭心症例において、心筋血流(^<99m>Tc-sestamibi)は正常であるが、^<123>I-BMIPPの集積低下を高頻度に認め、心筋虚血の検出率は^<123>I-BMIPPが高かった。^<123>I-BMIPPの集積低下を認める症例は、高度冠動脈狭窄、側副血行、壁運動異常を伴い、PTCAを必要とした。したがって、^<123>I-BMIPPの集積低下は重症な心筋虚血の存在を意味し、インターベンションの指標となることを示した(J Nucl Med 1997,inpress)。急性心筋梗塞症例では、心筋血流/代謝(sestamibi/BMIPP)ミスマッチから、慢性期の壁運動回復を予測できることが明らかになった。
    3.グルコース負荷時の心筋代謝の検討
    グルコース負荷により、^<123>I-BMIPPの心筋摂取率は低下し、心筋からのwashoutが亢進した。虚血性心疾患患者において、Washoutの亢進は、虚血領域で正常領域よりも顕著であり、グルコース負荷により、心筋の脂肪酸代謝異常が顕在化した(J Nucl Med 37:175-180,1997)。急性心筋梗塞症例において、グルコース負荷の壁運動回復に対する影響を、現在検討中である。

  626. 重複障害患者リハビリテーション時の至適運動量に関する研究 8671633 1996 – 1998 基盤研究(C) 東北大学 1, 心筋梗塞患者のリハビリテーション
    心筋梗塞患者のリハビリテーションにおいては、ライフスタイルの変更が再発予防に重要である。回復期に集中的な患者教育を行うことにより、運動習慣を獲得させ生活様式を変更させること可能であった。また、6カ月後の運動耐容能、血中脂質も改善し、患者のQOL(quality of life)も改善することから、短期集中型患者教育の有効性が示された。心拍変動について検討した結果では、運動療法を継続した群で心拍応答の速応性に改善を認めたことから、運動療法を指示通り継続しているかどうかの判定に、心拍変動を利用可能である。
    2, 脳卒中患者のリハビリテーション
    脳卒中急性期患者多数例における心臓超音波検査所見では、異常所見として最も高頻度に認められたのは左室壁肥厚で、大動脈弁石灰化、心房細動、大動脈弁閉鎖不全、僧帽弁輪石灰化などが高率であった。脳梗塞患者の再発例では、高血圧性左室壁肥厚、心房細動(特に左房拡張を伴うもの)、大動脈弁石灰化などが高頻度に認められ、これらの進展に関わる高血圧、高脂血症、糖尿病等の管理の重要性が示唆された。リハビリテーション前後の心拍変動検討成績では、リハビリテーション後の安静時心拍数の減少は副交感神経系の相対的機能亢進に起因し、立位負荷時の心拍数増加軽減は交感神経活動の抑制に起因する。また心拍応答の速応性にも改善を認めた。基本的にこのような変化は、心筋梗塞患者と同様であった。
    3, 重複障害患者におけるリハビリテーション
    これまでの成績を総合すると、重複障害患者における運動強度として各種障害が進行しない場合には、嫌気性代謝閾値レベル程度の強度が循環応答性などの改善効果等から、至適運動強度と予想される成績であった。各障害の指標となる数値が悪化する場合は、症例に応じた変更が必要である。

  627. リエントリー回路の伝導遅延部位形成に及ぼすIsthmusの影響-Multiplexing mapping systemによる検討- 8670839 1996 – 1998 基盤研究(C) 産業医科大学 [目的]犬心房筋を用いて、ペーシングインパルスが異方向性伝導に及ぼす影響について検討した。
    [方法]雑種成犬8頭を用い、右房のcrista terminalisに対して平行に、また垂直方向に外科的切開・縫合を行い、人工的にisthmusを作成した。pectinate muscleより高頻度ペーシングを行い、マッピングシステムによりisthmus部位でのインパルスの伝導性を観察した。
    [結果]isthmusの伝導がcrista terminalisに対し、parallelにpacing impulseが伝導すると、pacing cycle lengthの短絡によっても、叉isthmusの長さによっても、伝導性にあまり影響を受けなかった。pacing impulseがtransverseにisthmusを伝導する場合、isthmus部位の輻が短縮するにつれ、またpasing cycle lengthが短縮するにつれ、isthmus内での伝導遅延と伝導ブロックが発生した。また伝導ブロックが観察される部位では、double potentialsが観察された。
    [総括]impulseの伝導性に心房筋の異方向性伝導が大きく影響しており、isthmusの幅の短縮によって、伝導遅延が大きくなり、伝導ブロックを来たすことが判明した。リエントリー性不整脈の発生にisthmusの存在と異方向性伝導が重要な役割を果たしていることが示唆された。
  628. 二次元図形解析法を用いた心電図“カオス”の解析 8670799 1996 – 1998 基盤研究(C) 九州大学 平成8年度には自律神経系の温存された犬交叉潅流心において房室結節の生理的機能を不規則な白色ノイズ刺激を与える事により検討し、機能的不応期が連続的先行RR間隔の変化に連動して変わる事を報告した。平成9年度は動物実験での房室結節の生理的機能をふまえてヒト心房細動における変行伝導と心室期外収縮の鑑別が可能である事、また、その定量的鑑別法について検討した。平成10年度はさらに心房細動に心室期外収縮を合併した症例において心室期外収縮の詳細な検討を行った。対象は81例で弁膜症などの基礎心疾患を合併していた。ホルター心電図のRR間隔時系列データのRRnをX座標、RRn+1をY座標として二次元図形表示し、心室期外収縮と変行伝導の二次元図形パターンの違いから各々の不整脈を診断した。心室期外収縮の連結時間の違い、発生時の先行RR間隔の違い、および不整脈の悪性度や心機能などの臨床的指標との関連を検討した。心室期外収縮の連結時間は非常に連結時間の固定したものから変動するものまで混在し、連結時間の変動する症例ほど不整脈の悪性度が高く、心室頻拍などがみられた。また、心室期外収縮の発生時の先行する2つのRR間隔が最初に短く、次に長いRR間隔がくるという規則性があって心室期外収縮が出現するものと全く不規則なRR間隔の関係のものまでみられ、不規則な症例において心室頻拍などのような、より悪性の不整脈が出現していた。心機能もこのような症例において低下していた。このように本法は一見カオスと思われる心房細動のRR間隔と心室期外収縮の発生において規則性を解析するのに有用な方法であることが解った。また、心室性不整脈の発生機序を考える上でも有用な方法である。
  629. 蘇生のABCを見直す 8457412 1996 – 1997 基盤研究(B) 京都府立医科大学 病院外における救急救命率の改善のために、一般市民を舛象とした、心肺蘇生の方法について検討した。従来広く普及している「蘇生のABC」は、気道確保(A)、人工呼吸(B)、心マッサージ(C)を重視した処置である。長年この方法が用いられてきたが、救命率の改善は認められていない。その原因として、推奨されている「口対口」人工呼吸時の身体接触による感染症伝播の危険性のために、心肺蘇生の行為自体が忌避されることがあげられる。また、早期に心室細動に対する処置がなされないので、自己心拍に復帰する機会を失っている。心室細動には電気的除細動が必要であるが、低酸素状態が進行していると無効であるだけでなく、通電がかえって心筋に障害を及ぼし、蘇生を困難にする。
    そこで、本研究では、まず、心室細動に対して電気的除細動を正しく行うために必要な「最適条件」を、心電図波形と経皮的二酸化炭素分圧を指標として検討した。心室細動の心電図の波形を指標とした電気的除細動の最適条件は、振幅が0.5mV以上の大きな電位で、かつ、10Hz以上の細かい周波数を持ったものであることが示された。その範疇を外れた場合、心筋の酸素化を目的として、酸素を投与しつつ、冠状動脈圧を保つために血管収縮剤を使用して心マッサージを続行するべきである。経皮的二酸化炭素分圧を指標とした場合は、これが80mmHg以下であることが必要であることが明らかとなった。以上の条件を組み込んだ自動除細動器を広く普及させることによって、心室細動に対する処置を、一般市民が、安全に適確に早期に行えることが期待できる。
    次に、「圧すだけの蘇生」の有効性について検討した。「口対口」の人工呼吸を行わなくても、心マッサージの間欠的に前胸部を圧迫する行為と、低酸素血症による自発的なGaspinng(喘ぎ呼吸)が、蘇生に必要な肺胞換気を確保していることが実験的に示された。

  630. 循環器疾患の発症予防を目的とした頸動脈硬化の進展度及びその関連要因の疫学的研究 8457125 1996 – 1997 基盤研究(B) 筑波大学 地域において、脳梗塞や心筋梗塞等の動脈硬化性疾患のハイリスク者を早期発見し、疾病の発生予防に結びつけるために、臨床的検査である頸部エコーを、地域における循環器検診に導入した。
    対象集団は東北農村(人口7千人)、四国農村(人口1.3万人)、関東農村(人口1.7万人)、大阪近郊M地区(人口2.1万人)の住民及び大阪事業所勤務者である。脳梗塞は東北農村で特に高率で、次いで四国農村、関東農村で、大阪近郊M地区、大阪事業所勤務者は低率である。一方、虚血性心疾患は大阪事業所勤務者が比較的高率で、その他の地域集団では低率である。
    それぞれの集団から50〜74歳男子1,236人(東北農村213人、四国農村302人、関東農村291人、大阪近郊地区188人、大阪事業所勤務者242人)に対して、循環器検診時に頸動脈エコー検査を実施した。そして、集団間の頸部エコー所見の差を検討するとともに、各集団において、従来の循環器疾患のリスクファクター(血圧、心電図、STT異常、眼底の高血圧・動脈硬化性変化、血清総コレステロール、喫煙、飲酒、糖尿病)に加えて、新しいリスクファクターである血漿フィブリノーゲンとの関連を分析した。
    その結果、頸部エコー所見で内膜・中膜複合体(IMC)の厚さが総頸動脈で1.5mm以上、膨大部から内頸動脈で2.0mm以上、又は多発性プラークが存在する者の割合は、他の集団に比べて東北農村で高かった。これはこの集団が血圧レベルが高く、脳卒中の発生率が高いことと対応している。次に、各集団を通じて、頸動脈硬化度はHDL-コレステロール値、喫煙、糖尿病と関連が認められ、総コレステロール値、飲酒との関連は、明らかでなた。
    一方、血漿フィブリノーゲンに関してはまず、心筋梗塞患者169名と、性、年齢をマッチさせた一般住民集団の中から、1対1で抽出した対照者に対し、フィブリノーゲンを測定し、心筋梗塞患者で血漿フィブリノーゲンが高値を示すことを確認した。次に健常人のコホート研究(大阪近郊M地区住民と大阪事業所勤務者40歳以上男女、11,920人の3年間の追跡調査)により、血漿フィブリノーゲンの高値が従来の循環器疾患のリスクファクターとは独立に、虚血性心疾患の発生と関連することを示した。また予備的な成績であるが、血漿フィブリノーゲンの高値が、脳卒中、中でも脳内出血と関連することが認められ、今後追跡を続けてゆく計画である。
    以上の研究を通じて、頸動脈エコー検査が循環器疾患の発生を予測する上で有益であり、新しいスクリーニング検査としてさらに検討をすすめる必要性が示された。

  631. 心血管病におけるアンジオテンシン変換酵素の遺伝子多型とその病態生理的意義の検討 7770504 1995 奨励研究(A) 大阪大学 ヒトアンジオテンシン変換酵素(ACE)遺伝子の第16イントロンにおける挿入/欠失多型(I/D)が心血管病の遺伝的感受性に関与する重要な因子であることが報告されている。本研究は、血管壁ACEの病態生理的役割と、ACE遺伝子の挿入・欠失多型が意味する心血管病に関連する遺伝的異常の本体を明らかにすることを目的とした。
    1.ACE遺伝子の挿入・欠失多型と関連する心血管病の検索:対照群(296人)、労作性狭心症群(96人)、心筋梗塞群(296人)でのDD型の頻度は、それぞれ13%、17%、22%で対照群と心筋梗塞群でのみ有意差を認めた。また、検診受信者4000人の対象から、マスター2階段テストで陽性であった無症候性心筋虚血患者(71人)について、ACE遺伝子多型は関連を示さなかったが、アポリポプロテインE遺伝子のε4多型が関連を示し、多変量解析でも血圧とともに有意な予測因子であった。脳卒中患者群と対照群の間でACE、アンジオテンシノジェン、アポリポプロテインEに、疾患との関連を認めなかったが、動脈硬化の関与が大きい脳梗塞に限るとACEのDD型が多い傾向にあった。更に、アンジオテンシノジェン遺伝子多型(TT型)とACE遺伝子DD型の組合せでは、脳梗塞群18%は非卒中群4%より有意に高かった。
    2.ヒト冠動脈におけるACE発現:ACE遺伝子多型と血中・組織ACE活性との相関が認められており、遺伝子型と血管病変の関連の基礎的検討として、ヒト冠動脈病変でのACEの発現を免疫組織学的に検討した。hypercellular lesionや粥腫性プラークの内膜内平滑筋細胞およびマクロファージにおいて有意なACEの発現を認めた。冠動脈形成術後の反応性内膜においても、修復反応(再狭窄を含む)の強い部位での平滑筋細胞およびマクロファージにおけるACE発現を認めた。

  632. 大動脈の動脈硬化症の重症度評価と動脈硬化の術中循環動態変化に及ぼす影響 7671688 1995 – 1996 基盤研究(C) 帝京大学 人工の高齢化と生活の欧米化に伴い動脈硬化性病変を合併症に持つ患者を麻酔する機会が増えている。また動脈硬化症が周術期合併症のリスクファクターであることは疑う余地はない。しかし術前に動脈硬化の合併の有無やその程度を知る方法は少ない。
    動脈硬化症では動脈のコンプライアンスが低下することが知られている。そこでコンプライアンスの低い人工血管で腹部大動脈に人工血管置換術を施行した患者で人工血管置換術の前後で大動脈脈波速度を測定し、血管のコンプライアンスの変化が大動脈脈波速度に及ぼす影響を調べた。
    (結果)
    1) 全身麻酔に人工血管置換術を予定された腹部大動脈瘤、閉塞性動脈硬化症の患者について、大動脈脈波速度計PWV-200による大動脈脈波速度の測定を行なった。すべての症例で健常者(7.9m/s)に比べて、大動脈脈波速度は大きい値が得られ、11.4m/s(平均)であった。
    2) 1)で大動脈脈波速度を測定した患者の人工血管置換術後に再度大動脈脈波速度を測定した。すべての症例で人工血管置換術後の大動脈脈波速度は人工血管置換術前のそれに比べてより大き値が得られ、その平均は15.3m/sであった。
    以上のことから大動脈の一部を人工血管に置換しただけで大動脈脈波速度は大きく変化したことが分かった。つまり大動脈脈波速度は大動脈の性状の変化を鋭敏に反映することが示唆された。
  633. 心筋細胞内free Mg^<2+>によるエネルギー代謝調節機序の解明と心筋生存性の評価 7671487 1995 – 1997 基盤研究(C) 北里大学 ^<31>P NMR法を用いて心筋のfree[Mg^<2+>]_iを測定し,細胞内Mg動態と細胞外液の無機リン酸(Pi)の関係について検討した.多目的低磁場装置の大塚電子製BEM250/80NMR分光計を用い,フーリエ変換(FFT)あるいは線形予測z変換(LPZAR)によって^<31>P NMRスペクトルを算出した.細胞内ATPの多くはMgイオンと結合しているため,β位リンのピークは結合型ATPと遊離型ATPの存在量で加重平均した位置に現れる.結合型および遊離型ATPのα位とβ位リンの共鳴周波数の差と,実測のスペクトルの共鳴周波数の差からfree[Mg^<2+>]_iを算出した.実験はウィスターラットの摘出心(n=9)を用いて,[Mg^<2+>]あるいは[Pi]を変化させたKrebs-Henseleit bufferでLangendorff灌流を行った.^<31>P NMRスペクトルは,灌流液の[Mg^<2+>]を0.52mMから20mMに変更した場合と,灌流液の[pi]を1.2mM,5.0mM,さらに1.2mMと変化させた場合の2通りで測定した.LPZARによるスペクトルは,FFTに比べSN比が高く容易に共鳴周波数の差を確定できた.濯流液の[Mg^<2+>]を0.52mMから20mMと変化させると,ATPβ位リンのピークは低磁場側に偏位し,心筋free[Mg^<2+>]_iが増加したことを示した.算出したfree[Mg^<2+>]_iは,それぞれ0.537mMと0.731mMであった.濯流液の[Pi]を1.2mM,5.0mM,再度1.2mMと変化させると,^<31>P NMRスペクトルは[Pi]の上昇とともにATP-β位リンのピークは高磁場側に偏位し,心筋free[Mg^<2+>]_iが減少したことを示した.[Pi]を1.2mMに戻すとβ位リンのピークはcontrolの位置に戻り,心筋free[Mg^<2+>]_iは元の濃度に戻った.算出したfree[Mg^<2+>]_iは,1.2mM Pi溶液では0.525±0.048mM,5.0mM Pi溶液では0.407±0.025mMと有意に低下し,再び1.2mM Pi溶液に戻すと0.601±0.053mMと上昇しcontrolの状態に戻った.また灌流液の[Pi]が1.2mM,5.0mM,1.2mMと変化すると,細胞内Σ ATPに対するMgATPの濃度比はそれぞれ91.7±0.7%,89.8±O.7%,92.8±0.6%と変化した.LPZARによるスペクトル解析で,多目的低磁場装置の^<31>P NMRからfree[Mg^<2+>]_i測定が可能であった.^<31>P NMR法により細胞外液[Pi]を高くするとfree[Mg^<2+>]_iの減少が直接観測され,心筋細胞膜におけるMgイオン輸送系の存在が示唆された.
  634. アンジオテンシン遺伝子多型と心筋梗塞後左室再構築の関係 7670821 1995 – 1997 基盤研究(C) 関西医科大学 アンジオテンシン変換酵素(ACE)遺伝子(insertion/deletion)多型は、血中および心筋ACE活性と関係する。ACE遺伝子DD型とID型II型の間で慢性期左室再構築および急性心筋梗塞の予後の差について検討した。
    82例で発症2週間後と1年後の心エコーが記録され、19例(23%)が左室再構築群であった。DD型II例、ID型38例、II型33例で左室再構築を認めたのは、DD型4例(36%)、ID型9例(24%)、II型6例(18%)とDD型、ID型、II型の順に左室再構築の頻度は減少したが、統計学的有意差には至らなかった(p=0.1591)。年齢、梗塞部位、急性期再潅流療法の有無、ACE阻害剤使用の有無、高血圧の有無、14日目のEFを共変量としたlogistic回帰分析では、DD型はII型ID型に比し2.486倍左室再構築が多いが、これも統計学的有意差には至らなかった(p=0.1722)。欧米での報告で、DD型に左室再構築が有意に多いと報告されている。私達の結果が、この結果に類似しているものの有意に至らなかったのは検出力の差で、左室再構築とACE遺伝子多型の関係における人種差ではないと考えた。
    一方、初回心筋梗塞290例で、DD型は45例、ID型は128例、II型は117例に認められ、院内心臓死は28例で、DD型1例(2%)、ID型18例(14%)、II型9例(8%)であった。logistic回帰分析では、DD型が、年齢、性別、梗塞部位、Killip分類、急性期再潅流療法、ACE阻害剤の使用、β遮断剤の使用と独立して院内予後が良好なことと関係した(p=0.0227)。DD型では、臨床的に種々の循環器疾患の頻度が高く、予後も不良と報告されている。私達の結果はDD型の方が予後良好と、従来の報告に相反する結果であった。そのメカニズムについては、アンジオテンシンIIが、Protein Kinase Cを介して虚血耐性を生じるとの動物実験結果があり、これを証明する初めての臨床モデルと考えた。
  635. 剖検所見の音声入力化装置の開発 7557041 1995 – 1997 基盤研究(A) 福島県立医科大学 法医解剖数は年々増加傾向を示し,証拠としての剖検所見の厳格性が一層求められている.そのため,書証作成に多くの時間を費やさざるをえないのが実情であり,本研究では,解剖時に口述される剖検所見の連続音声を文字系列に変換する音声入力装置の開発を目的として研究を行った.本研究の特色は,ユーザーである法医学者と,開発者である工学者とが密接に連携して装置を開発したことにある.現在の連続音声入力装置では,一般的な文章音声を入力することはまだまだ困難である.そこで本研究では,利用者特有の条件,例えば,1)特定の話者を対象とする.2)文の言い回しがほぼ決まっており,文の構造が比較的簡単である.3)剖検所見に出現する文章の語彙数は3千語から4千語であり,書証の構成から,身体の各部ごと出現する語彙数は更に少ない,ことを考慮することによって,装置への負荷を軽くし,より使いやすい装置の開発を目指した.本研究では,文書の構造を表すために,ECGI法によってオートマトンを構築し,さらに出現が予想される単語への対応を強化するために,オートマトンの状態同士の距離を定義し,それに基づいてオートマトンを修正して一般化する方法を,平岩,勾坂,牧野が開発した.認識システムの音素認識部には,二矢田が開発したモデル音声法を用いた.以上の方法を組み合わせて全員で剖検所見の音声入力システムを作成した.システムはほぼ実時間で音声を認識することができるが,認識精度は十分なものとは言えず,今後も改善を続ける.
  636. 長寿の遺伝・環境要因に関する国際共同研究 7044251 1995 – 1997 国際学術研究 京都大学 本研究代表者が過去15年間をかけ世界25カ国、60地域での循環器疾患と栄養に関する国際共同研究(CARDIACStudy)により、平均寿命は心筋梗塞や脳卒中の死亡率と有意の逆の相関を示すこと、また前者は魚介類の摂取指標である24時間尿中タウリン量や血液燐脂質中n-3脂肪酸と逆相関、後者は尿中ナトリウム、ナトリウム/カリウム比と正相関することから、これらの栄養因子が循環器疾患の死亡率を介して長寿決定の要因となること、一方、脳卒中ラット(SHRSP)などの循環器疾患モデルで食塩感受性高血圧などの遺伝子マーカーを見出しており、長寿を支える遺伝・環境要因を明らかにするため沖縄出身という遺伝は同一で環境が著しく変化し、平均寿命ものびたハワイ在住日系人と逆にそれが短縮したブラジル在住日系人を調査し、ブラジル日系人では魚介類摂取が最低で食塩と脂肪摂取が多く心筋梗塞が多発して短命になっており、一方、ハワイの日系人では食塩は少なく脂肪摂取は多めであるが、魚介類も比較的よく摂って世界一の長寿に日本人の中で最も早く到達したことを明らかにした。さらにブラジルの日系人集団で、日本食の中の長寿の栄養因子で介入試験を実施し、高血圧、高脂血症、糖尿病のコントロールが可能であることを示した。すなわち、長寿に関しては、たとえ心筋梗塞や脳卒中を多発する遺伝要因を有していても栄養による積極的な介入試験を実施することによりこれらの生活習慣病の予防が可能であることを証明し、栄養因子の改善ですこやかな長寿を実現出来ることを示した。
  637. 小児のLipoprotein (a)に関するコ-ホ-ト家族歴調査 6670828 1994 – 1995 一般研究(C) 順天堂大学 血中リポ蛋白Lp(a)が小児において将来の動脈硬化症の発症を予測しうる危険因子であるかどうかを明かにするために,小児コ-ホ-ト集団において,まず血清Lp(a)濃度およびLp(a)表現型の正常値と正常パターンを明かにし,肥満度・血清脂質値との相関を検討した.さらに,アンケート調査による動脈硬化性疾患の家族歴の有無とLp(a)値,Lp(a)表現型との間に相関関係があるかにを検討した.対象は人口約8600名のS町の小・中学生.Lp(a)表現型はSDS-PAGE法で測定し,Lp(a)分子量のにより7種類に分類し,さらに,1個体で単一バンド(ホモ表現型)を持つものと2バンド(ヘテロ表現型)を持つものに分けた.本研究は本邦小児のLp(a)表現型をコ-ホ-ト集団で測定した最初のものである.その結果,1.小児の286名のLp(a)値は0.4〜106.9mg/dlの範囲で正規分布をとらず低値に偏よった分布をし,50mg/dl以上の高Lp(a)値の割合は5.4%であった.男女差は認められなかった.各種の血清脂質・アポ蛋白・血圧との有意な相関はなく,肥満度との関係もなかった.ただし,肥満(肥満度>20%)を伴わない高コレステロール血症(TC>200mg/dl)の場合において,Lp(a)値が有意に高値に偏位していた.2.動脈硬化症家族歴に関しては,Lp(a)値が30mg/dl(88パーセンタイル)以上の高値を示した小児の祖父における冠動脈硬化症の発症率がLp(a)30mg/dl未満の場合に比べて高い傾向にあった.3.小児264名のLp(a)表現型と動脈硬化症家族歴との関係においては,脳血管障害と心筋梗塞については明かではなかったが,Lp(a)の表現型が2バンドの場合に表現型が単一バンドの場合に比較して,家族歴での狭心症の発症率が高かった.以上より,血中Lp(a)は小児期においも動脈硬化症の危険因子と考えられ,Lp(a)のある種の表現型において将来の動脈硬化性疾患発症の危険率が高まる可能性が示唆された.
  638. 心筋特異的レニンアンジオテンシン系遺伝子発現と心筋肥大発生機序の解明 -Transgenic mouseを用いた検討- 6404033 1994 – 1995 一般研究(A) 北海道大学 研究の背景と目的;近年、心肥大発生のメカニズムとしてα受容体、アンジオテンシンII受容体あるいは機械的な進展刺激が注目されている。これらは、受容体を介してイノシトールリン脂質-ホスホリパーゼC(PLC)系あるいはadenylyl cyclase系の細胞膜情報伝達系により制御され、細胞内に刺激が伝達される。中でも、心筋組織レニン・アンジオテンシン系はパラクライン-オートクライン機構により筋細胞肥大や間質の線維化に関与すると考えられるがその詳細な機序は解明されていない。それは、心筋組織内ではいわゆるレニン・アンジオテンシン系以外にもアンジオテンシンIIを産生する系が存在、あるいは循環血液中に増加したアンジオテンシンIIが血圧上昇を介して心肥大を引き起こす機序も考えられるからである。そこで、本研究の目的は心筋肥大発止機序および心筋障害促進機序を解明するために、心筋組織RA系因子(レニン、アンジオテンシノーゲン、アンジオテンシン変換酵素)を心筋特異的プロモーターに結合させたgeneをマウス卵細胞にtransfectionし、transgenic mouseを作製し心筋組織内RA系の発現様式を変化させ、心筋組織RA系の心肥大における独立した役割を明らかにすることにある。本年度、肥大型心筋症における心肥大発症にレニン-アンジオテンシン系遺伝子ことに,アンジオテンシノーゲン、アンジオテンシン変換酵素遺伝子の関与を示した。また、実験的心肥大モデルにおいて組織レニン-アンジオテンシン系遺伝子発現の亢進を示し、in vitroの系におけるアンジオテンシンII細胞内情報伝達系を明らかにし、G蛋白質による細胞機能制御機構やレニン-アンジオテンシン系遺伝子組み込みによる細胞機能変化を検討した。また、レニン-アンジオテンシン系遺伝子トランスジェニック動物作製の試み心筋に特異的にRA系遺伝子を発現させるために心筋特異的に発現させるためミオシン遺伝子のプロモーター領域を増幅することに成功した。さらに、Eμの発現ベクターにACE遺伝子を組み込み、培養線維芽細胞、大動脈内皮細胞にトランスフェクションしACE活性、ACEmRNA発現を確認した。また、ACE遺伝子をin vivoでトランスフェクションするためにアデノウイルスベクター系の作製に成功した。今後さらに、ミオシン遺伝子のプロモーターにレニン、アンジオテンシン変換酵素DNAを結合させ、それぞれの遺伝子を有するtransgenic mouseの作製を試みる予定である。
  639. 全身性エリテマトーデスの多様性に関する分子病理学的研究 6404024 1994 – 1997 基盤研究(A) 順天堂大学 全身性エリテマトーデス(SLE)は多彩な自己抗体と多様な病態の発現を特徴とする代表的自己免疫疾患である。しかし、各症例における病態の著しい多様性から、SLEは1つの疾患単位としてよりは症候群として位置づけようとする考えもある。にも拘らず、免疫学的並びに免疫病理学的観点からみると、SLEにはやはり一定の共通した異常が認められる。SLEの発症病理の理解には、この共通性と多様性の発現する機構の解明が必要不可欠と思われる。我々はこの点にアプローチすべく、NZB,(NZBxNZW)F1,(NZWxBXSB)F1マウスの各SLE症候についてマイクロサテライト解析法によるprogeny testingを行うとともに、congenic mouse strainsやtransgenic mouse strainsの樹立を通して、素因遺伝子数や染色体座位の推定、候補遺伝子の検索を行った。対象とした症候は、SLEに比較的共通な高免疫グロブリン血症やループス腎炎、比較的限られたSLEサブセットに現れる血小板減少症、自己免疫性溶血性貧血、抗リン脂質抗体症候群、B細胞性慢性リンパ性白血病(B-CLL)である。今回の研究を通して、SLE症候に共通する遺伝的素因の感受性遺伝子群や修飾遺伝子群については相当の進展がみられ、標的となる候補遺伝子の目標も狭められ、その免疫細胞における機能についても大凡の見当がつき、研究は最後の詰めの段階に達した。一方、多様性SLE症候に関してはその遺伝様式や遺伝子座の同定は出来たが、今尚その機能や遺伝子効果については不明な点が多い。特有の自己抗体産生を拘束するユニークなMHCクラスII分子とともに加算的に働く独立した感受性遺伝子の存在するところに特徴がある。今後、染色体座位から推定される候補遺伝子の解析や、マイクロサテライト-congenic系を用いたexon-trappingで予測される遺伝子について、免疫細胞レベル、固体レベルで調べていくことが必要と思われる。
  640. ニューラル・ネットワークおよびファジ-理論による検体検査支援システムの研究 5454601 1993 – 1995 一般研究(B) 名古屋大学 本研究の目的はコンピュータを使用して検体検査情報の解釈を専門家と同じようにできる診察支援システムの構築にある。最初に肝疾患診断支援システムを作成した。肝疾患症例の慢性非活動性肝炎32例、慢性活動性肝炎45例、肝硬変36例、肝癌17例、脂肪肝21例、アルコール性肝障害14例を階層型ニューラル・ネットワークに入力して、誤差逆伝播法にによって学習し、慢性非活動性肝炎(40.6%)、慢性活動性肝炎(66.7%)、肝硬変(61.1%)、肝癌(35.3%)、脂肪肝(61.9%)、アルコール性肝障害(28.6%)の診断率を得た。専門医5人に検体検査診断を依頼し、その注目検査項目、診断過程の特徴を検出してニューラル・ネットワークに組込むと、診断率は慢性非活動性肝炎(78.2%)、慢性活動性肝炎(71.1%)、肝硬変(52.8%)、肝癌(70.6%)、脂肪肝(76.2%)、アルコール性肝障害(78.6%)と著しく改善し、これを肝疾患診断エキスパートシステムとした。ファジ-理論では検査項目ごとにメンバーシップ関数と診断論理(IF THEN RULE)を作成した結果、感度は高かったが、特異度が低かった。総合検体監査診断支援システムを構築する目的で、日本臨床病理学会提唱のルーチン検体検査26項目を用いて感染症、筋疾患、貧血、悪性疾患、腎尿路疾患、肝胆道疾患、糖尿病、消化器疾患、骨疾患、高脂血症、正常など系219名について枝分れ論理およびニューラルネットによって診断した。診断率は感染症50%、悪性腫瘍46%、筋疾患33%、貧血100%、腎尿路系疾患76%、糖尿病57%、消化器疾患45%、骨疾患12%、高脂血症72%であった。さらに同じ症例を使って各疾患ごとにその疾患であるか否かを識別する専門ネットワークから成るシステムを構築して鑑別診断を行うと、全体として84.7%の高い精度で識別ができた。従ってルーチン検査項目から専門ニューラルネットにより、ある程度の疾患群の予測ができることが判明した。
  641. 血栓症の危険因子、アポリポプロテイン(a)遺伝子の発現調節機構の研究 5454327 1993 – 1994 一般研究(B) 山形大学 アポリポプロテイン(a)[アポ(a)]の分子量や血中レベルは各個人によって大きく異なり、共優性遺伝する。そこで、アポ(a)アイソタイプと血中レベル、血栓傾向を予測することを目標に、アポ(a)遺伝子の5′転写調節領域やクリングル4領域の相違を検索してきた。まず、米国人と日本人の健常人、及び日本人の脳梗塞と心筋梗塞症例の末梢血からゲノムDNAを抽出して、個人のアポ(a)遺伝し5′領域をタイピングした。また、4つの5′領域タイプの転写活性をCAT(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)ベクターを用いて直接比較し、次の結果を得た。
    (1)健常の白人66名のアポ(a)遺伝子の5′発現調節領域は、A、B、C、Dの4つのタイプに分類された。これに対して日本人の正常者58名のアポ(a)遺伝子の5′発現調節領域には、上記の4つのタイプのうち3つしか見られず、Bタイプを欠いていた。日本人の脳梗塞68例のアポ(a)遺伝子の5′発現調節領域は正常人のそれとほぼ同様に頻度分布しており、有意差がなかった。また、日本人の心筋梗塞50例では、Dタイプが有意に少なかった。
    (2)CATアッセイの結果、Aタイプの転写活性を100%として他のタイプの活性と比較すると、Bタイプはほぼ100%、C、Dタイプはそれぞれ200%、70%であった。従って、最も転写活性の高いCタイプと最も低いDタイプの間には約3倍の差があった。
    従って、心筋梗塞症例でリポ(a)血中濃度が高いことの一部は個人のアポ(a)遺伝子の5′領域の転写効率の違いで説明できる。5′発現調節領域の多型性は個人のリポ(a)血中濃度の高脂血症薬に対する反応や各種疾患での変動に関与している可能性があるので、臨床例の検体とこのCATアッセイ系を用いて検討する予定である。

  642. 自己混合型半導体レーザ・ドプラ血流計の開発 4557117 1992 – 1993 試験研究(B) 川崎医療短期大学 病変発症部位の微小循環と高い時間・空間分解能で計測し、評価することは病変の診断・治療にとって極めて重要である。なぜならば癌のような血管新毛の盛んな病変では血流は増殖に伴って大きく変化し、癌の転移とも深い関係があること、心筋梗塞のような臓器の虚血性疾患では虚血部位が病変の部位を示し、手術後再潅流によって生じる血流パターンは術後の経過を予測できるものであるからである。このために近年レーザ・ドプラ血流計が応用され始めたが、本研究では1.半導体が有する自己混合効果や2.生体組織透過性に優れた近赤外光を利用するために波長780nmの半導体レーザ・ドプラ血流計の検討を行った。その結果、自己混合効果は光吸収のある血球のような多重散乱体に対しても有効であること、モデル流絡内の多くの速度ベクトルを有する流れに対しても最高シフト周波数を認識することによって生体組織内の血流計測への可能性が示された。特に周波数パターンの最高シフト周波数をF-V変換することが可能となれば自己混合効果によって計測プローベがシンプルになると共に、信号処理系のシンプル化を計ることができる。しかし、血流からの信号は自己混合効果の特徴でもあるドプラ信号の1コギリ波は見られず、このことから信号のS/N比を改善することが今後重要な問題点となることが窺われた。
    一方、癌などの悪性腫瘍の血流パターンは細胞増殖の形態によって異なることや、癌の治療に伴って腫瘍の瘢痕化が進み血流が減少していくことなどから、光ファイバ付き半導体レーザの自己混合効果を利用すればこの様な生体局所の血流情報から癌の進行状況のモニタの可能性も示された。また、細胞賦活であるルミンとの伴用により癌の免疫学的な治療の可能性も示唆され、半導体レーザの診断・治療への応用性の高さが窺われた。

  643. 急性心筋梗塞の発症機序に関する実験的研究-局所要因と神経体液性要因の役割 4454273 1992 – 1994 一般研究(B) 中村学園大学 (研究目的)急性心筋梗塞(以下AMIと略す)は冠動脈硬化巣に発生した血栓によって、冠動脈内腔が突然閉塞されることによって起こる事が、臨床病理研究家から明らかにされている。しかし、冠動脈造影法によってその後起こるAMIの原因となる閉塞性血栓の発生部位を予測すつ事は極めて困難であり、しばしば軽度ないし中等度の狭窄部位に起こるとされている。従って、冠動脈の血栓の発生機序は全く不明であり、AMIの発症誘発因子も定かでない。
    本研究では、冠動脈硬化部に血栓が発生する機序を明らかにする手がかりとして、異なるタイプの動脈硬化家兎に、血液凝固能を亢進させた状態で、血圧を上昇又は降下させる事により、AMIを実験的に誘発させる事を試みた。(方法)血液凝固剤を安定して亢進させるため、150μg/kgのRussel’s viper venom(以下RVVと略す)を腹腔内投与した。RVV投与後30分後、静脈内にセロトニン(100μg/kg)叉はアンジオテンシンII(20,30,40μg/kg)を注入し、これを2日繰り返したのち、48時間後に屠殺した。高コレステロール食を間歇的又は連続して8〜12ケ月負荷した家兎と、遺伝性高脂血症家兎(WHHL)を用いた。(結果と考察)定型的AMI病変は正常家兎にセロトニンを投与しても起こるが、病巣が小さかった。WHHLでは29羽中7羽にAMI病変を認めたが、コレステロール負荷群には認めなかった。RVVとアンジオテンシンを投与したWHHL家兎では、RVVとセロトニンを投与したWHHL家兎に比し有為に大動脈の血栓の発生頻度が上昇し、高頻度に肥厚内膜のめくれ減少と中膜壊死を誘発し得た。従って、血圧の急激な上昇は動脈血栓を誘発する可能性があると考えられる。今後、冠動脈に複雑病変を作る必要があると思われる。

  644. テクネガスの生成と肺換気検査への応用に関する研究 2670505 1990 – 1993 一般研究(C) 東京慈恵会医科大学 換気検査には従来より ^<133>Xeガス、 ^<81m>Krガスが使われているが、入手に予約を必要とし、緊急検査に間に合わない。 ^<99m>Tc-エロゾル吸入検査も換気検査の代用とされるが、エロゾルの粒子径が大きいため、疾患肺では換気分布を表さない。
    ^<99m>Tc-テクネガスは、 ^<99m>Tcを炭素の微粒子に標識し、換気分布に近いガス分布を得る放射性医薬品として開発された。
    本研究では、テクネガスの粒子径、捕集効率、生体における挙動、および種々肺疾患における臨床応用などについて検討した。
    テクネガスの粒子径は、電顕で計測した結果、大部分が20〜30nmφであったが、一部これらの粒子が魂状となって、100〜200nmの粒子を形成していた。
    テクネガス発生装置内の炭素るつぼに、 ^<99m>Tc-パーテクネテート溶液(300MBq/0.1ml)を入れ「るつぼ」を高熱で昇華することにより、微細炭素粒子を作成、これに ^<99m>Tc-が標識される。
    テクネガス生成後、粒子は次第に沈澱するので10分以内に吸入することが望ましい。
    血液中放射能は吸入後2時間において、吸入量の0.2%/1血液、尿中放射能は、24時間後においても4.96%であった。肺におけるテクネガスの生物学的半減期は135時間で肺のイメージは、24時間後においても安定していた。肺の被曝量は0.04Gy/37MBqであった。肺疾患例におけるテクネガスの分布は ^<81m>Kr分布に類似していたが、閉塞性病変の強い症例では、中枢気道に過剰に沈着し、スポット形成がみられた。しかし、未梢気道にも分布しており、換気分布の評価は可能であった。

  645. 冠血行再開通と左心機能 1480252 1989 – 1991 一般研究(B) 近畿大学 1.犬を用いた冠動脈閉塞・再潅流実験:犬の開胸実験で冠動脈左前下行枝の15分の閉塞を行い、開放後2時間までの局所心筋収縮能、局所心筋血流量、陽性変力負荷による左室機能を検討し、stunned myocardiumには冠副血行量が最も影響することを明らかにした。冠閉塞時のstunned myocardiumの出現と回復は副血行からの心筋流量の増加と相関することを明らかにした。
    2.核磁気共嗚法(NMR)による心筋代謝の研究:家兎心を摘出し、人工血液FC43を用いたランゲルドルフ法で潅流、15分の虚血を加えた後の心筋代謝をNMRを用いてATP,CrP,Pi,pHなどを測定、また3Fカテ先マノメ-タ-を用いて心内圧や心拍数などを測定し、心筋代謝と対比した。メチルプレドニゾロンの前投与は、その膜安定化作用によって心機能と心筋エネルギ-代謝の両面を改善するが、後投与は膜安定化作用を発揮できないため心筋エネルギ-代謝が改善しないこと、膜安定化の発現には最低数分間が必要であることを明らかにした。
    3.心筋梗塞患者での臨床的研究:ウロキナ-ゼ療法を行った者あるいは再開通がえられた者では、発症2〜4日での心室壁の拡張、壁の菲薄化が抑制されて、心機能に改善傾向がみられた。心筋梗塞慢性期の運動時ST上昇は、心筋虚血や心室壁協同運動異常の増大ではなくて、梗塞部周辺の正常心筋に対する交感神経β受容体刺激の増大による電気生理学的変化に基因するであろうことを証明した。

  646. 大学病院における医療の質の評価に関する研究 1304062 1989 – 1990 総合研究(A) 筑波大学 1.文献的考察の結果、医療の質の評価を、期待される医療に対してどの程度差があるかを検討すること、少なくとも、数量的な客観的デ-タを用いて行うことにした。デ-タは病院で最も入手容易なものを選択することがよいと考えた。これらの検討を経て、本研究では、大学病院で代表的な疾患と考えられる、肺癌、白血病、心筋梗塞の3疾患の医療費デ-タを用いて、デ-タのばらつきに注目した検討をすすめることが、大学病院医療の質的評価を行うための一方法論となりうると考え、検証を試みた。 2.研究分担9大学病院から、昭和61年4月から62年3月までに入院および退院した、肺癌(864例)、白血病(455例)、心筋梗塞(890例
    )、計2209例の医療費8区分デ-タ(投薬料、注射料、処置料、手術料、検査料、画像診断料、その他料、入院料)等を収集し、それを基磯デ-タとした。 3.分析の結果、(1)その他料、入院料を除く6区分医療費(純医療費)における各医療費の配分に注目すると、特定の条件下(例:肺癌で肺切除実施)では医療費配分に特微的なパタ-ンが存在した。(2)1日あたり純医療費の分布では、いわば基磯構造と特殊構造に分けられる2群が認められた。(1)、(2)の結果は、2209例が疾患別にあるまとまった群とその群からはずれた群に分けられること。はずれた群(outlier群)がなゼoutlierとなったの検討が、大学病院医療の質の評価を可能にすることを示唆した。 4.outlier群を、1日あたり医療費で高額な症例(上位5%)とし、その診療行為を診療録にもとづいて調査した(162例)。 5.分析の結果、outlier群の特微として、死亡、紹介、重症、特殊検査・治療例が多かったが、疾患別にも特微のあることがわかった。最も入手容易な医療費デ-タでも、2209例は各々特徴的な集団に分類可能で、とくに高額群を疾病別に特定診療行為で調査する方法は医療評価に効果的と考えられた。

  647. 奇形心に於ける循環動態のコンピュ-ターシミュレ-ションと術後心機能の予測 63570662 1988 – 1989 一般研究(C) 宮崎医科大学 1.循環シミュレ-ションモデルの作成:これまで8ビットマイクロコンピュ-タ-上で開発していた循環モデルを、1989年1月に購入したワ-クステ-ション上に移植、再構築している。すでにプロトタイプの構築はほぼ済んでおり、正常な循環動態では満足の行く結果を得ている。現在シャント疾患、特に実験動物で作成しやすいと思われるPDA(大動脈-肺動脈シャント)をモデルとして、異常循環シミュレ-ションモデルのプロトタイプを作製し、システムの特性を計測し、臨床デ-タにマッチするようにパラメ-タ及びモデル構造の調整中である。PDAプロトタイプの構築段階は終了し、PDAの臨床例との比較などを行った。その成果は既に論文として発表した。
    2.教育用プログラムの開発:前述のモデルを用いて、学生実習用のプログラム(出血モデル、心筋梗塞モデルなど)を作成し、循環生理学の講義に使用し、著しい教育効果をあげている。また、その成果は学会、論文で発表し多方面からの関心を呼んでいる。本研究の副産物として、有効に利用し、発展させて行きたい。
    3.動物実験:雑種犬をもちいて以下の実験を行っている。
    (1)循環系の各コンパ-トメントのVolume-pressure curre及びcomplianceの測定。
    (2)急速な容量負荷を与えた場合の、両心系の圧、流量変化、及び過渡特性。
    (3)大動脈-肺動脈シャント(A-Pshunt)を人工血管を用いて作製し、急性期における大動脈、肺動脈など各点の圧、流量の変化を測定している。
    以上の実験より得られたデ-タをシミュレ-ションモデルにフィ-ドバックし、異常循環シミュレ-ションモデルの精度を高めていく作業を行っている。現在行っている急性実験と、そのデ-タにもとずいたシミュレ-ションモデルの確立を急いでいる。

  648. 大学附属病院における医療の構造的研究 62304068 1987 – 1988 総合研究(A) 筑波大学 大学病院の医療について、医療費の高額さが指摘されているが、その多くは平均値によるもので、十分な資料による分析をふまえたものではない。
    本研究は大学病院医療の典型ではないかと思われる。肺癌・白血病・心筋梗塞の入院患者の入院医療についてのデータを8大学病院からの1672の例につき検討分析を行った。
    3疾患のおのおのにつき転帰別、手術料の有無別、在院日数、診療区分別の分析を行った。
    転帰別では特に死亡患者に高額の医療費が使われており、死亡患者の多い大学病院の医療の特徴が明らかであり、疾患毎にはそれぞれ独自の医療費構造が認められた。このことは一律に検査や処置・投薬を実施しているのではなく、更に手術料の有無が医療費の構造を特徴づける大きな要因となっていること、特定の診療目的のための大学病院への入院の存在が証明された。これも、大学病院医療の構造的特徴であった。
    またそれぞれの疾患毎に、基本構造的医療と特殊構造的医療の存在することが確認され、特殊構造的医療に大学病院医療の特徴の存在があると推測され、基本構造の部分も一般病院との差も存在することがうかがわれたが、これは、この手法による比較を必要とするであろう。在院日数と1日当たり医療費による分布領域の分析は、大学病院のおかれた環境による医療の多様性を明らかとした。
    本研究は症例数、データ内容等の制限はあったが、大学病院の医療内容を構造的に把握するわが国で恐らく最初の試みであり、ここで開発した分析手法は将来の大学病院医療の質の向上に役立つものであろう。

  649. 病態におけるロイコトリエン類の役割と5ーリポキシゲナーゼ阻害薬の治療への応用 61480442 1986 – 1988 一般研究(B) 北里大学 ロイコトリエン(LT)類の病態における役割を知るために次のいくつかの実験を行い、生体内で重要な働きをしていることがわかった。
    1.LT類の簡便な抽出精製法の開発:ラジオイムノアッセイで測定するためには抽出精製が必須である。試料をpH3.5以下の酸性にし、すばやくSEPーPAKC_<18>カラムで抽出精製すると、90%以上の回収率でよい結果が得られた。
    2.ツベルクリンによるラット胸膜炎:結核死菌で感作し遅延型アレルギー胸膜炎をおこすと、血漿滲出は3,9〜18,48時間にピークを示し、これにブラジキニン、プロスタグランジンの関与はあったがペプチドLTの関与はなかった。また好中球、単核球の浸潤について、LTB_4も補体も関与しなかった。
    3.ラット心筋梗塞:左主冠動脈を結紮すると左室の50%が虚血になるが、周囲より次第に血流が入り、48時間後には27%に縮小し、左心室の42%が12時間までに梗塞となった。好中球は12時間までの増加と12〜24時間までの著しい増加の二相性で心組織に浸潤した。LTB_4が心組織内で8時間をピークとして増量し、5ーリポキシゲナーゼ阻害薬(AAー861)を予め投与すると第一の好中球増加が著しく抑制された。12〜24時間の第二の増加は補体の活性化により起った。第一の好中球増加は34%の梗塞巣拡大に重要な役割を演じていた。
    4.エタノールによる胃粘膜障害:ラットの胃内腔に3分間30%エタノールを投与すると直ちに集合細静脈を中心に毛細血管にうっ血が生じ血流が停止した。この時胃壁内にはLTC_4が4.4ng/胃(6倍)に増大した。LTC_4により集合細静脈基部で収縮がおこるらしくAAー861で胃のうっ血が著しく抑制された。
    5.ハムスター頬袋の微小循環:LTB_4を微小血管表面に投与すると、細静脈内壁に好中球が転がり、粘着し、その数の90%以上が内皮細胞間を通過するが、内皮細胞と周細胞との間隙に停留し、30分以上たつと始めて周囲の組織に出現した。
  650. 長期の環境変化が成人循環器疾患に及ぼす影響とその未来予測についての疫学的研究 59440036 1984 – 1985 一般研究(A) 筑波大学 昭和30年代末より昭和50年代末までの20年間にわたり大阪,秋田両地域の固定集団を追跡観察し、20年前,10年前、現在の3時点において、脳卆中、心筋梗塞の発生率、循環器検診の所見、栄養摂取状況等の生活環境要因を世代別に比較検討した。その結果、中年に到るまでは在来の酷しい生活環境の中で質素な生活を営み、中年に達した昭和40年代頃から、最近の生活環境の近代化の影響を受けた人々と、青年期後半よりすでに豊かな生活環境にあった現在の中年期前半の人々では、近年の環境変化の影響が大いに異なっていることが明らかになった。
    (1)秋田農村では生活の近代化に伴い、30才代以上では血圧値は低下し、逆に血清総コレステロール値や肥満度は、従来の極端な低値から脱し上昇した。しかし、血清総コレステロール値は都市住民よりもなお低値を示す。そして、脳出血は減少し、脳梗塞も中年期、初老期では減少してきた。従来、脳出血のリスクファクターとされてきた高血圧と、ネガティブリスクファクターとされてきた血清総コレステロール値は、ともにその影響力が低下した。しかし、現在の30才代,40才代では20年前の30才代,40才代と異なり、肥満と高血圧の間に有意の相関が認められるようになった。今後、農村においても、これより後の世代には肥満と関連の深い都市型高血圧の動向に注意を要する。
    (2)都市では血圧値は20年前から比較的低値を示しており、血清総コレステロール値、肥満度は比較的高値を示していたが、この傾向を20年間で多少強めながら現在に到っている。そして、都市の事務職、現業職の集団では、現在の40才代,50才代は20年前の同年代の人々に比

内臓脂肪と皮下脂肪の違い

内臓脂肪とは

内臓脂肪は、胃や腸、肝臓などの臓器や筋肉にからみついたように蓄積した脂肪。男性に多い肥満タイプの代表で、いわゆる「太鼓腹」のことです。https://www.kracie.co.jp/ph/coccoapo/magazine/16.html

内臓脂肪という言葉と、太鼓腹と言う言葉はどちらも知っていましたが、頭の中で今までつながっていませんでした。太鼓腹のことは、英語でpot bellyというようです。

  1. Potbelly May Be a Sign of More Than Just Weight Gain Newsweek

「ビール腹」も同じ意味ですね。アルコールはカロリーが高いので、ビールを毎日飲んでいると、アルコールが酸化されて酢酸になり、それがアセチルCoAになり、脂肪酸が合成されて中性脂肪になって脂肪細胞に取り込まれて内臓脂肪がふえるというわけです。

ちなみにアセチル基の構造はCH3C(=O)- なので、アセチルCoAの構造式は、CH3C(=O)-S-CoA です。酢酸とCoAの間で脱水縮合した形ですね。

An excess of adipose visceral fat is known as central obesity, the “pot belly” or “beer belly” effect, in which the abdomen protrudes excessively. https://en.wikipedia.org/wiki/Abdominal_obesity