Manus:
はい、非常に重要なご質問です。結論から言うと、**はい、大学内の研究発表会での発表であっても、原則として新規性は失われます。**
これは特許制度における「公知(こうち)」の考え方に基づいています。多くの人が「公の場で発表する」ことだと誤解しがちですが、法律上の扱いはもっと厳しいのです。
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### なぜ大学内の発表でも新規性が失われるのか?
特許法でいう「公然と知られた発明(公知)」とは、**「秘密保持義務を負わない不特定多数の人に、発明の内容が知られうる状態になったこと」**を指します。
大学内の研究発表会に当てはめてみましょう。
1. **参加者は「不特定」か?**
* たとえ参加者が同じ大学の教員や学生だけであっても、彼らはあなたに対して個別に「この発表内容を外部に漏らしません」という**秘密保持契約(NDA)を結んでいるわけではありません。**
* したがって、法律上は「秘密保持義務を負わない人々」の集まりと見なされます。
2. **発表内容は「知られうる状態」になったか?**
* あなたが口頭で発表し、スライドを見せた時点で、その場にいた人は発明の内容を理解できる状態になります。
* その参加者の一人が、発表会が終わった後に、善意で友人に「今日、〇〇研究室がすごい発表してたよ」と話してしまう可能性を止めることはできません。
* この**「秘密が漏れる可能性が生まれた」**時点で、発明は「公然と知られた」と判断され、新規性が失われてしまうのです。
**ポイント**:
* 実際に外部に情報が漏れたかどうかは関係ありません。
* 参加者が1人でも「秘密保持義務を負わない人」がいれば、その時点で公知となります。
* 学会の要旨集や抄録、大学のウェブサイトに発表内容が掲載された場合も、同様に新規性が失われます。
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### 新規性を失ってしまった!もう特許は取れないのか?
ご安心ください。こうしたうっかり失効を防ぐための救済措置があります。それが**「新規性喪失の例外規定(グレースピリオド)」**です。
これは、「うっかり自分で発明を公開しちゃったけど、ちゃんと手続きすれば、その公開はなかったことにしてあげるよ」という制度です。
#### 例外規定を使うための重要ルール(日本の場合)
1. **期間制限**:
* 発明を公開した日(大学での発表日)から**1年以内**に特許を出願する必要があります。この1年という期間は絶対に守らなければなりません。
2. **手続き**:
* 特許出願と**同時**に、「新規性喪失の例外規定の適用を受けたい」という書面を特許庁に提出します。
* 出願から**30日以内**に、いつ、どこで、どのように発表したかを証明する「証明書」を提出します。(例:発表会のプログラム、発表で使ったスライド、指導教員による証明など)
#### 注意点!
* **あくまで「自分の行為」に対する救済**: この制度は、自分自身や共同研究者が発明を公開した場合の救済措置です。もし、あなたの発表を聞いた第三者が、あなたより先に同じ内容で特許を出願してしまったら、もう特許は取れません(先願主義)。
* **外国出願では使えないことも**: この例外規定は、国によって制度が大きく異なります。期間が6ヶ月だったり、そもそも制度がなかったり、適用される公開の範囲が限定されていたりします。グローバルな特許取得を目指す場合は、安易にこの制度を頼りにせず、**「発表する前に必ず出願する」**を徹底するのが鉄則です。
### まとめ:研究者が取るべき行動
> **発表前(学会、論文投稿、研究会など)に、まず出願を済ませる。**
これが、研究成果を知的財産として守るための最も安全で確実な方法です。
もし、やむを得ず発表が先になってしまった場合は、慌てずに大学の知財部やTLO(技術移転機関)、あるいは弁理士にすぐに相談し、「新規性喪失の例外規定」の手続きを1年以内に必ず行うようにしてください。
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– 「新規性喪失の例外規定」の手続きについて、具体的な書類の書き方や流れをさらに詳しくご説明しましょうか?
– 日本、アメリカ、ヨーロッパでの「新規性喪失の例外規定」の制度の違いを比較してご説明しましょうか?
– 共同研究の場合、誰が特許を出願する権利を持つのか(発明者の認定)について知りたいですか?