血液検査の見方、意味

MCVとは

MCV(Mean Corpuscular Volume;平均赤血球容積)とは

内容
測定対象 1個の赤血球(RBC)がどのくらいの体積を占めているかを平均値で示す指標
単位 フェムトリットル (fL = 10⁻¹⁵ L)
基準値のおおまかな目安 成人で ≒ 80 – 100 fL(検査機関や年齢・妊娠などの条件で若干変動します)
算出式(自動血球計数器で自動算出) MCV = (ヘマトクリット [%] × 10) ÷ 赤血球数 [10⁶/µL]

なぜ重要か ― 診断・鑑別の「入り口」になる

MCVパターン 赤血球分類 主な鑑別疾患・代表例
低値 (< 80 fL) 小球性 (microcytic) ・鉄欠乏性貧血・サラセミア(遺伝性ヘモグロビン合成障害)・慢性疾患に伴う貧血 など
基準範囲 (80 – 100 fL) 正球性 (normocytic) ・急性出血直後・腎性貧血(エリスロポエチン低下)・骨髄抑制(再生不良性貧血、化学療法後) など
高値 (> 100 fL) 大球性 (macrocytic) ・ビタミンB₁₂/葉酸欠乏(巨赤芽球性貧血)・肝疾患・アルコール多飲・甲状腺機能低下症・溶血や出血後の網赤血球増加 など

MCVは “小さい・普通・大きい” の三分岐で貧血のタイプを瞬時に絞り込み、次に必要な検査(鉄代謝指標、ビタミンB₁₂・葉酸、網赤血球、骨髄像など)を決める羅針盤として機能します。


解釈時の注意点

  1. 二つ以上の病態が重なると平均が「正常化」する
    例:鉄欠乏(小球性)と葉酸欠乏(大球性)が併存すると MCV は見かけ上正常になり得ます。
  2. 網赤血球が多いと偽性の高値
    溶血や大量出血後では、体積の大きい未成熟赤血球が増え、MCV が上がる場合があります。
  3. 自動分析器の補正限界
    高度な高脂血症・寒冷凝集素症などでは測定誤差が生じることがあるため、周辺データや末梢血塗抹標本の確認が重要です。

まとめ

MCV は“赤血球の平均サイズ”を示す基本指標であり、

  • 貧血の 分類と鑑別 の出発点
  • 治療効果や病態変化の フォローアップ
    に欠かせません。値の高低が示唆する病態を背景臨床像と合わせて読み解くことで、次に進むべき検査・治療戦略が明確になります。

(ChatGPT o3)

見かけ貧血とは

見かけ貧血(pseudo‐anemia/相対的貧血)とは

見かけ貧血 真の貧血
本質 赤血球質量(RBC mass)は正常だが、血漿量が相対的に増えているため、Hb・Ht が希釈され低値に見える 赤血球質量そのものが減少している
機序 血漿量↑ → “薄まる” 造血低下・破壊亢進・出血など
検査 ① 赤血球指数(MCV など)は多くの場合正常範囲② RI 法などで測定するRBC mass は正常 RBC mass 低下
治療 原因となる血漿増加の是正(例:輸液過多→制限、心不全→利尿)*造血刺激や鉄剤は不要 原因に応じた造血補助・出血コントロール・補充療法

よく遭遇するシチュエーション

状況 具体例 ポイント
生理的 妊娠(妊娠中期~後期)持久系アスリート(いわゆる“スポーツ貧血”の大半) 循環血漿量が増える一方で赤血球増加は相対的に遅れる/軽度
病的 心不全・腎不全に伴う体液貯留急性大量輸液や輸血後早期重症熱傷・敗血症などでの毛細血管リーク後の輸液負荷 浮腫、体重増加、BNP 上昇など「水分過多」の手がかりがある
検査上の錯覚 採血のリンゲル希釈、点滴ルート側での採血 採血手技によるアーティファクト

鑑別のコツ

  1. 臨床状況を確認
    ・急な輸液/輸血後、妊娠中、慢性心不全……など血漿増加の条件があれば疑う。
  2. 赤血球指数は通常正常
    ・MCV, MCH は小球性・大球性に偏らない。
  3. RBC mass 測定(同位体希釈法)
    ・臨床研究・特殊例で用いるが、一般診療では体液貯留の指標(体重、尿量、BNP)や経時的変化で総合判断。
  4. 治療の反応
    ・利尿・体液管理で Hb/Ht が速やかに回復すれば見かけ貧血の裏付けとなる。

臨床的意義

  • 過剰治療を防ぐ
    鉄剤・エリスロポエチンなど不適切な造血刺激を避けられる。
  • 体液バランスのモニター指標
    Hb/Ht の日内変動が大きい ICU 患者では、希釈の程度を推定するバロメータになる。
  • 妊婦健診での指導
    妊娠中期の軽度 Hb 低下は生理的であり、必要以上の鉄剤投与を抑制。

まとめ

見かけ貧血は “血が薄まって見えるだけ” の状態で、赤血球そのものは不足していません。

  • 血漿量増加が原因 → 心不全、輸液、妊娠、アスリートなど
  • MCV や RBC mass で真の貧血と区別
  • 治療は 体液調整が中心、造血刺激は不要

臨床では「Hb が低い=すぐに鉄剤や輸血」ではなく、まず 希釈性かどうか を見極めることが重要です。

(ChatGPT o3)

γーGTとは

γ‐GT(γ‐GTP/GGT:γ-グルタミルトランスペプチダーゼ)とは

内容
正式名称 γ-glutamyl transpeptidase(国際名称:γ-glutamyltransferase, GGT)
主な局在 肝胆道系上皮、小腸上皮、腎尿細管、膵臓、脾臓ほか(血清値はほぼ肝由来)
生理機能 グルタチオン(GSH)分解→アミノ酸輸送を助ける「γ‐グルタミル回路」の要酵素
基準値の目安 ♂ 10–50 U/L、♀ 7–32 U/L(施設・測定法で幅あり)
測定意義 肝細胞障害・胆汁うっ滞・アルコール多飲・薬剤性障害などのスクリーニング

なぜ上がるのか ― 病態別の“典型パターン”

上昇パターン よくある原因例 同時に見やすい検査変化
急性アルコール摂取/慢性大量飲酒 飲酒量の指標 として健診で重宝 AST/ALT ≧ 2、MCV↑、HDL↑ など
薬剤性肝障害 抗けいれん薬(フェニトイン、バルプロ酸)、抗菌薬(リファンピシン)、向精神薬 ほか ALP、ALT も上昇しやすい
胆道系障害 胆石症、胆管炎、原発性胆汁性胆管炎(PBC)、原発性硬化性胆管炎(PSC) ALP↑、ビリルビン↑、IgM↑(PBC)
脂肪肝・メタボ関連 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD/NASH)、肥満、糖尿病、脂質異常 ALT優位の上昇、FIB-4指数評価
心疾患・肺疾患 うっ血性心不全、肺梗塞 などのうっ血性肝障害 BNP↑/D-dimer↑、ALP+ビリルビン併存

解釈のコツと注意点

  1. 単独上昇だけでは“肝機能障害の重症度”は語れない
    • GGT は感度が高い一方、特異度が低い。ALT・ALP・ビリルビンとの組み合わせで「壊死系」(ALT) か「胆汁うっ滞系」(ALP, GGT) かを見極める。
  2. アルコール曝露指標として日常診療で便利
    • 飲酒中止後 2–3 週で速やかに低下するため、断酒指導のモニターになる。
  3. 薬剤・ハーブ・サプリにも気を配る
    • フェノバルビタール、アスピリン長期高用量、セントジョーンズワートなどでも上昇。
  4. 偽陰性・偽陽性
    • 妊娠(特に後期)で ALP は上がるが GGT は変わらず ⇒ 胆汁うっ滞の鑑別に寄与。
    • 透析患者では基準値の上限まで下がることがある。
  5. 下限値低下の臨床意義は乏しい
    • 軽度低値は通常無視できる。極端な低下はおおむね測定誤差か希釈採血をまず疑う。

ざっくりまとめ

  • γ‐GT は“肝胆道にストレスが掛かったサイン”
    • 肝細胞よりむしろ胆管・小葉内導管の膜損傷に敏感
  • 上昇=即重症ではない
    • ALT/ALP/GGT 比 でパターン分類して原因検索へ
  • 飲酒量・薬剤歴・メタボ評価とセットで読む
    • 生活習慣病マーカーとしても臨床的価値が高い

“肝臓の信号機”AST・ALT・ALP・γ‐GTを並べると、障害部位と原因がおおよそ描ける――その中で γ‐GT は 胆汁うっ滞とアルコール多飲 を最も鋭敏に照らし出すライト、という位置づけです。

GOTとは

GOT(Glutamic-Oxaloacetic Transaminase)とは

※現在の国際名称は AST:Aspartate Aminotransferase ですが,日本では旧称「GOT」がいまだに日常診療で使われます。

内容
正式名称 L-aspartate:2-oxoglutarate aminotransferase(EC 2.6.1.1)
主な分布 肝細胞(特にミトコンドリア内),骨格筋,心筋,腎臓,脳,赤血球など
生理機能 アミノ酸代謝(アスパラギン酸 ⇄ 2-オキソグルタル酸 ⇄ グルタミン酸 ⇄ オキサロ酢酸)糖新生や尿素回路に関与
基準値の目安 ♂ 10 – 40 U/L,♀ 7 – 32 U/L(施設・測定系により差)
同族酵素 ALT(GPT)―肝細胞質に豊富で肝特異性が高い

なぜ上がるのか ― 病態別の特徴

上昇レベル 代表的原因 コメント
軽度(×1.5〜3) 脂肪肝,慢性肝炎,アルコール多飲,運動後,筋肉注射 ALT もやや上がるが AST≧ALT ならアルコール性を示唆
中等度(×3〜15) 急性ウイルス性肝炎,薬剤性肝障害,胆道疾患の一部 ALT が優位のことが多い
高度(> 500 U/L) 劇症肝炎,虚血性肝障害(ショック肝),アセトアミノフェン過量,広範な筋壊死 AST と ALT がともに急上昇;AST の方が早くピークアウト
AST 単独高値 急性心筋梗塞(発症 6–12 h で上昇,3–7 日で正常化)横紋筋融解症,筋ジストロフィー,溶血 CK・トロポニン・LDH,ミオグロビンなど併せて評価

AST / ALT(De Ritis)比の臨床的意味

De Ritis 比(AST÷ALT) 臨床的示唆
< 1.0 急性ウイルス性肝炎,脂肪性肝障害(NAFLD/NASH)
≈ 1.0 正常人,慢性肝炎の安定期
> 2.0 アルコール性肝障害,肝硬変(進行例),薬剤性ミトコンドリア障害
> 3.0 劇症肝炎,筋壊死,溶血 など外肝性の可能性も

解釈のポイント

  1. AST は“肝特異的”ではない
    肝+筋(心筋・骨格筋)由来が混在するため,CK,ALP,LDH や病歴(胸痛・運動・外傷・注射)で部位を絞り込む。
  2. ALT(GPT)とのペア読みが基本
    ・ALT 優位 → 肝細胞障害主体
    ・AST 優位 → アルコール性/筋原性/進行肝硬変を疑う
  3. ミトコンドリア型 AST(m-AST)
    劇症肝炎やアルコール性肝障害で細胞崩壊が強いと血中に漏出し AST 値が不釣合いに高くなる。
  4. 偽性上昇
    溶血サンプル,激しい筋トレ直後,骨格筋注射後などは一過性に上昇。
  5. 低値 にはほぼ臨床的意義なし。

まとめ

  • GOT=AST はアミノ酸代謝酵素で,肝・心・筋の細胞傷害を反映
  • AST / ALT(De Ritis)比 を用いると,アルコール性肝炎や筋障害の鑑別に有用。
  • AST 高値を見たら 「肝以外の筋肉もチェック」 が鉄則。

検査値は“単品”より パターン読み+臨床文脈 で真価を発揮します。

Glutamic-Oxaloacetic TransaminaseとAspartate Aminotransferase がなぜ同じ?

なぜ “GOT” と “AST” が同じ酵素なのか

――化学反応(トランスアミナーゼ反応)の視点から


1. 基本反応式

L-Aspartate+α-Ketoglutarate        Oxaloacetate+L-Glutamate\boxed{ \text{L-Aspartate} + \alpha\text{-Ketoglutarate} \;\;\rightleftharpoons\;\; \text{Oxaloacetate} + \text{L-Glutamate} }

  • アミノ基供与体(アミノ酸) …… L-Aspartate
  • アミノ基受容体(2-オキソ酸) …… α-Ketoglutarate
  • 生成物(新たなアミノ酸) …… L-Glutamate
  • 生成物(新たな 2-オキソ酸) …… Oxaloacetate

この可逆反応を触媒するのがひとつの酵素であり,命名の観点が違うだけでGOT=ASTです。


2. 命名のロジック

名称 焦点を当てた化学種 英名略称の由来
Glutamic-Oxaloacetic Transaminase 両方の基質を列挙(L-Glutamate + Oxaloacetate) 「Glu + OAA を用いるトランスアミナーゼ」→ GOT
Aspartate Aminotransferase アミノ基供与体(L-Aspartate)を強調 「Asp からアミノ基を転移する酵素」→ AST

歴史的には,1950–60 年代に各国の臨床化学教科書で “GOT/GPT” の表記が浸透しましたが,**IUBMB 酵素委員会(EC 名)**では “donor:acceptor aminotransferase” という体系化が進み,

L-aspartate : 2-oxoglutarate aminotransferase(EC 2.6.1.1)
が正式名になっています。


3. 反応機構(ピリドキサールリン酸依存)

  1. 内部アルジミン形成
    PLP(ピリドキサールリン酸)のアルデヒド基が酵素の Lys 残基とシッフ塩基を形成し待機。
  2. 外部アルジミン → キノイド中間体
    L-Aspartate が結合し PLP とシッフ塩基交換 → アミノ基が PLP に移動してピリドキサミンリン酸(PMP)を生成。
  3. 第一産物放出
    脱アミノ化された Oxaloacetate が遊離。
  4. 第二基質結合
    α-Ketoglutarate が入り,PMP からアミノ基を受け取って L-Glutamate が生成。

つまり “アミノ基を運ぶタクシー” が PLP/PMP ペアであり,タクシー乗客が Asp⇄Glu,降車地が OAA⇄αKG というイメージです。


4. 命名の違いが生じた背景

時代・分野 主な測定系 呼称
1950–60s 臨床化学創成期 Glutamate + OAA → Glutamate 消費 を指標に連続測定 GOT
1970s〜 酵素名の国際標準化 アミノ基 “供与体” を先に書く IUBMB 方式 AST
現在(臨床現場) 日本では旧称が残存,欧米論文はほぼ “AST” 併記(AST/GOT)も多い

まとめ

  • 同一反応・同一酵素
    • 基質 2 つを並列で呼ぶGlu-OAA Transaminase(GOT)
    • アミノ基ドナーで呼ぶAspartate Aminotransferase(AST)
      と命名しただけの違い。
  • 反応の本質は PLP 依存性トランスアミネーション で,アミノ基を Asp と Glu 間で往復させ,OAA と αKG を介して TCA 回路と尿素回路をつなぐ要酵素

命名の変遷を踏まえると,「GOT で測った昔の健診データも,AST と同じ酵素活性を示す」と理解できます。

(ChatGPT o3)

GOTだと逆向きの反応?

「GOT だと逆向きの反応?」――結論から言うと “いいえ、同じ酵素が可逆的に両方向を触媒します”

名前が取り上げる基質が違うだけで、「前後どちら専用」というわけではありません。以下、化学反応の向きと歴史的背景を整理します。


1. 可逆反応そのものは 1 本

L-Aspartate+α-Ketoglutarate        Oxaloacetate+L-Glutamate(1)\underset{\text{(1)}}{\boxed{\text{L-Aspartate} + \alpha\text{-Ketoglutarate} \;\;\rightleftharpoons\;\; \text{Oxaloacetate} + \text{L-Glutamate}}}

  • (1) の左向き(Asp ➝ OAA)を強調して呼ぶと Aspartate Aminotransferase(AST)
  • 逆向き(Glu ➝ Asp)を強調して呼ぶと Glutamic-Oxaloacetic Transaminase(GOT)

どちらも EC 2.6.1.1、同一タンパク質です。


2. 方向性を決めるのは「名前」ではなく 基質濃度と共役反応

典型的な生化学コンテクスト 主反応の実際の流れ
尿素回路・アスパラギン酸供給(ミトコンドリア) Glu + OAA → Asp + αKG(=“GOT 方向”)
アミノ酸分解/糖新生前駆体生成(細胞質) Asp + αKG → OAA + Glu(=“AST 方向”)
マラテ‐アスパラギン酸シャトル ミトコンドリア側:Glu → Asp(GOT2)細胞質側:Asp → OAA(GOT1)

平衡定数

KeqK_{eq}

はおおよそ 1 付近で “ほぼ可逆” なので、
どちらの呼称でも “逆向き” という概念自体が当てはまりません


3. GOT と呼ばれた理由 = 「測定法の都合」

  • 1950 年代の Reitman–Frankel 法 では
    L-Glutamate + OAA → Asp + αKG を走らせ、生成した αKG をカラー発色体で定量。
    ⇒ 使用した基質名をそのまま並べて Glutamic-Oxaloacetic Transaminase (GOT)
  • その後、国際酵素命名委員会(IUBMB)が
    “アミノ基ドナーを先に書く” というルールを採用 → Aspartate Aminotransferase(AST) が推奨名に。

4. まとめ — “呼び名の向き”と“化学的向き”を混同しない

誤解 正しい理解
「GOT と言うと Glu→Asp の逆向き酵素?」 いいえ、単なる呼称。酵素は同一で 可逆
「AST は肝指標、GOT は別物?」 ラボや論文で AST=GOT と併記されるのはこのため。
「臨床値の差は向きの違い?」 血中活性の高さは組織由来・細胞障害の程度が主因で、“反応向き”と直接関係しない。

したがって “GOT だと逆向き” ではなく、
「どちらの方向も同じ酵素が自在に触媒する。その可逆反応を昔は G-OAA 方向で測っただけ」──これが正確な答えです。

(ChatGPT o3)