ご飯(デンプン)を食べてから、それが消化され、ブドウ糖として吸収されるまでの過程

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私たちは毎日、ご飯(お米)を食べて生きているわけですが、なぜ毎日ご飯を食べないといけないのでしょうか。それはもちろん、生きるためにはエネルギーが必要だからです。体を動かすのも、頭を使ってものを考えるのもエネルギーが必要です。エネルギー源となる主要な食べ物がご飯なのです。

そもそも炭水化物とは

ご飯は、化合物としては炭水化物に分類されます。炭水化物という名前の由来は、炭素(C)に水(H2O)が合わさったものとして、元素の組成が書けるからです。Cm(H2O)nといった具合です。炭水化物の化学的な定義はというと、水酸基(-OH)が複数個ついていて、カルボニル基(アルデヒド基またはケトン基)を持つ、炭素が複数つながった構造をした化合物です(生化学p50)。その条件を満たす最小のものを考えてみると、CH2OH-CHOHCHOすなわちグリセルアルデヒドということになります。

糖質とは

炭水化物はさらに、糖質と食物繊維に分類されます。人間が栄養として利用できるものが糖質、分解できないため栄養としては利用できないものが食物繊維です。糖質は5大栄養素(糖質、タンパク質、脂質、ミネラル、ビタミン)の一つになっています。

化合物というのは、原子が化学的に結合してできた物質という意味です。

デンプンとは

ご飯(米)は、デンプンという物質からできています。デンプンは、ブドウ糖という化合物がたくさんつながってできたものです。人間は、ブドウ糖からエネルギーを取り出す代謝経路をもっていますので、ブドウ糖(C6H12O6)を、酸素(O2) を利用して、二酸化炭素(CO2)と水(H2O) に分解する過程で、エネルギーをATP産生という形で取り出しています。このエネルギーはどこに由来するのかというと、ブドウ糖を構成している、炭素原子(C)、水素原子(H)、酸素原子(O)たちのつくる化学結合に蓄えられたエネルギーです。

このようにブドウ糖からエネルギーを取り出すための一連の化学反応を引き起こす複雑な経路を人間が兼ね備えているため、ブドウ糖は人間にとって一番エネルギーを取り出しやすい物質なのです。エネルギーが必要な患者さんにブドウ糖液を点滴するのは、ただちにエネルギーとして利用されるからというわけです。

お米はデンプンであり、デンプンはブドウ糖が数珠つなぎに連なったものなので、お米、すなわちデンプンをブドウ糖にまで分解する必要があります。その過程を理解するためには、ブドウ糖の構造がどうなっていて、ブドウ糖がどんなふうにつながっているのかを学ぶ必要があります。

ブドウ糖(グルコース)の構造

ブドウ糖の化学式はC6H12O6です。炭素原子が6個、水素原子が12個、酸素原子6個で、ブドウ糖(グルコース)1分子ができています。しかしこの化学式だとこれらの原子がどのように結合しているのかがわかりません。構造式はというと、

  1. グルコース(ウィキペディア)

を見てください。グルコースは、水に溶かしたときに直線状と環状の2つの形をとります。直線状の形をとったときのアルデヒド基(CH=O)の炭素を1位として、順番に、2,3,4,5,6位と番号がついています。環状になるときに、1位の炭素につく水酸基(-OH)の向きが、5位の炭素についているーCH2OH基と同じ側(シス)ならβ-グルコース、反対側(トランス)ならα-グルコースと呼ばれます。水に溶けた状態では、環状のα-グルコース(38%)、直線状のグルコース、環状のβ-グルコース(62%)という構造をとりえて、それらの間で平衡状態になっています。直線状でいることはほとんどなくて、α-グルコースかβ-グルコースという形で存在しています。

デンプンの構造

さて、グルコースが水の中ではα‐グルコースまたはβ‐グルコースという形をとることがわかると、デンプンの構造を理解することができます。α‐グルコース同士が1位と4位の炭素の間で結合(α‐1,4グリコシド結合)して数珠繋ぎになったものがアミロースと呼ばれます。アミロースの鎖に加えて、α‐グルコース同士が1位と6位の炭素の間で結合(α‐1,6グリコシド結合)して枝分かれ構造を含むものが、アミロペクチンと呼ばれます。私たちが日頃、デンプンと呼んでいる化合物の中身は、アミロースとアミロペクチンの混合物だったというわけです。

普段食べるご飯(うるち米)は、アミロースとアミロペクチンが1:3の割合で含まれています。また、もち米はほとんどがアミロペクチンです。もち米がもちもちする理由はアミロペクチンの存在だったのですね。うるち米の場合、アミロースの割合が高いコメの品種ほど、食感の粘りはなくなります。化学構造からご飯の食感が理解できるのですから、化学の勉強は面白いと思います。

  1. お米の品種による「食感」の違い もちもち、あっさり、しっかり歯ごたえ、柔らかめ(にほんものストア)
  2. デンプン分 子の微細構造とアミラーゼの作用 檜作進  1940年にMeyerがデンプンは直鎖分子のアミロースと樹枝分子のアミロペクチンの2種の分子の混合物であることを発見し

セルロースの構造

α‐グルコース、β‐グルコースという構造の違いと、それらがつながってできる化合物を勉強しているついでに、セルロースについても学んでおきましょう。β‐グルコース同士が1位の炭素と4位の炭素で結合(β‐1,4グリコシド結合)したものが、セルロースです。直線的につながった構造になります。

食物繊維の実体はセルロースです。植物細胞の細胞壁を構成しているのがセルロースです。食物繊維(セルロース)はなぜ栄養源になりえないのかというと、人間はβ‐1,4グリコシド結合を分解する酵素をもっていないからなんですね。じゃあ、牛やヤギなどの草食動物はなぜ草を食べてエネルギーが得られるのかというと、β‐1,4グリコシド結合を分解してくれる細菌を胃の中に共生させているからなのです。なぜ肉食動物と草食動物がいるかという疑問が、これで明らかになりました。勉強すればするほど、世の中の道理がわかっていくところが、科学の面白いところです。

さて、ごはんの話に戻りましょう。

ご飯を炊く理由:デンプンのアルファ化

生米をかじって食べてもほとんど消化されません。「ご飯」として食べるためには、生米を炊かなければならないのですが、なぜご飯を炊くのでしょうか?生米の主成分もデンプンですが、このデンプンの形状は、β‐デンプンと言って、コンパクトに結晶化した構造をとっています(いわゆる水素結合によって、コンパクトにまとまっています)。硬くて水にとけず、アミラーゼのような消化酵素が近づけないため、消化できません。そこで、炊くことでβ‐デンプンの状態から、もっとほぐれた、α-デンプンの状態にしてあげるために加熱する必要があります(加熱のエネルギーにより、水素結合を解き放つ)。

水につけておくだけで食べられるようになる「α化米」が、登山用などに市販されていますが、これはお米を炊いて急速凍結乾燥したものです。α‐デンプンの状態にしてあるので、水を加えるだけで食べられるようになるんですね。

また、せっかく炊いたお米も、長時間放置しておくとまたカチカチに固くなってしまいます。これは、アルファ-デンプンだった状態から、ベータ-デンプンへの状態に逆戻りしてしまったからなのです。

αデンプンのアルファと、αグルコースのαは、特に関係ありません。単に二つの状態を区別したいときに、アルファ、ベータという言葉を使っているだけのことです。

  1. 食品を科学する―リスクアナリシス(分析)連続講座―第2回「誰もが食べている化学物質~食品の加工貯蔵中の化学変化と安全性~」(質疑応答概要)分子内で水素結合をして、とてもコンパクトにま とまっている。グルコースは本来、水に溶けやすいものだが、グルコースの分子間同士で水素結合をしてしまっているので、その中に水が入っていけないので、生デ ンプンは水に溶けない
  2. 短鎖アミロペクチン米梗系統「愛知 132号」の和菓子への利用に向けた米粉の特性評価 あいち産業科学技術総合センター 研究報告2019

デンプンの消化

デンプンの消化は口の中で始まります。唾液にはアミラーゼという、デンプンを消化する酵素が含まれているからです。デンプンが部分的に分解されたものは、デキストリンと呼ばれます。飲み込んだご飯はそのあと、胃を通過して、膵臓から分泌されたアミラーゼが小腸で働くことで、小さな分子に分解されます。

胃の中は強い酸性なので、アミラーゼは酵素として働くことはできません。デンプンの消化に胃は貢献しないのです。胃を通過したあと、十二指腸で、再び消化作業がはじまります。

消化という言葉を聞くのですが自分は胃が思い浮かぶのですが、胃で働く消化酵素は、タンパク質を分解するためのペプシンという酵素であり、ペプシンは強酸性という特殊な条件で最もよく働くようにできているのです。胃=タンパク質の消化を行う場所、です。タンパク質は多数のアミノ酸がつながったものですから、タンパク質が消化された結果としてアミノ酸が生じます。アミノ酸は、小腸で吸収されます。

デンプンの消化と吸収

さてデンプンの話にもどると、小腸でデンプンは、最小の大きさになったα‐限界デキストリングルコースオリゴマー(グルコースが数個つながったもの)、マルトトリオース(3個のグルコースがα-1,4結合したもの)、マルトース(2個のグルコースがα-1,4結合した二糖。麦芽糖ともいう)になります。さらに、小腸の上皮細胞の細胞膜上に存在するマルターゼ、イソマルターゼ、グルコアミラーゼによって、これらがグルコース(ブドウ糖)に分解されて、腸上皮細胞の中へと取り込まれます。イソマルターゼは低分子オリゴ糖のα‐1,6結合を切断することができるので、α-1,4結合を切断するアミラーゼでは切断することができない、分岐の部分を切断することができます。マルターゼはマルトースやマルトトリオースのα‐1,4結合を切断してグルコースにします。グルコアミラーゼはα‐1,4結合を、アミロースの端から切断できます。

いろいろな酵素名が出てきてややこしいですが、α‐グリコシド結合を切断する酵素を総称してα-グルコシダーゼと呼び、マルターゼ、スクラーゼ(スクロースを、グルコースとフルクトースに分解する酵素)、イソマルターゼなど、二糖類を単糖類に変える酵素が含まれます。これらの酵素は、小腸粘膜上皮細胞表面の刷子縁(さっしえん)という場所に存在しています。

細胞内に取り込まれたブドウ糖細胞を通過して反対側から細胞外へ出されます。そのあと、血管の中に入り、体内を循環します。

参考

  1. 生化学 人体の構造と機能2 医学書院 糖質の消化と吸収 p69
  2. 「酵素の仕事」シリーズ 8)糖分解酵素ーマルターゼ、スクラーゼ、ラクターゼ DOJINDO
  3. α-グルコシダーゼ阻害剤(Acarbose)摂取のラット小腸二糖類水解酵素に及ぼす影響 栄養と食糧Vol.35No.5351~3551982  小腸吸収上皮細胞の微絨毛膜には多くの膜消化酵素が存在しており, 食物の消化の最終段階と吸収の初発段階に関与している1)。このうち, 二糖類の膜消化に関係する酵素として, グルコアミラーゼ, マルターゼ, トレハラーゼ, スクラーゼ・イソマルターゼ, ラクターゼなどが存在する2)。
  4. 小腸吸上皮細胞の消化と吸機構 藤田守,馬場良子 (a中村学園大学解剖,大学院栄養科学研究科) 食物中のデンプンの多糖類は, 唾液から分泌されたα-アミラーゼによる管腔液消化を受け, 二糖類(マルトース, スクロース, ラクトース), マルトリオース, α-リミットデキストリンなどに分解され, 糖衣に吸着する. 微絨毛膜のグリコシダーゼにはグルコアミラーゼ複合体, スクラーゼイソマルターゼ複合体, β-グリコシダーゼ複合体などが存在する. これらは1本のポリペプチドとして合成され, N末端の疎水性部分で膜を貫通し, 酵素活性部位を膜から突き出している15). 膜消化を受けた糖類(グルコース, ガラクトース, フルクトース)は微絨毛膜にある担体分子によって輸送され, 細胞内に吸収される. グルコースとガラクトースはD-グルコース-D-ガラクトース・Na+共輸送体(SGLT1)によって能動輸送で取り込まれ, 拡散によって細胞を移動する. フルクトースはフルクトース輸送体(GLUT5)により, 促進拡散で取り込まれる. 細胞に輸送され,蓄積された糖は, 基底側部細胞膜領域の促進拡散の担体(GLUT2)を介して, 細胞外に出ると言われている29). 糖質も一部は細胞のエネルギー源として, ミトコンドリアでATPの合成などに利用されるが, 大部分は細胞質を通過し, 基底側部細胞膜領域から能動輸送機構によって細胞外へ放出され, 毛細血管から門脈を経て肝臓に送られる.
  5. 生化学 信州大学医学部保健学科検査技術科学専攻 炭水化物(糖)の消化・吸収と代謝
  6. エゾアワビ・デンプン分解酵素の生化学的研究 : α-アミラーゼとα-グルコシダーゼによる海藻からのグルコース生成
  7. デンプン分解酵素 HBI
  8. 酵素の仕事シリーズ 3)アミラーゼ DOJINDO
  9. α-アミラーゼ PDBj入門
  10. ペプシン(ウィキペディア)
  11. 炭水化物は胃で消化されない!2018.02.24 院長ブログ
  12. 炭水化物は消化が悪い!2021年11月14日 みらい胃・大腸内視鏡クリニック
  13. 形態機能学Ⅱ「食べる」 食物はどこを通って消化・吸収されるのか? No.1 第4(8)回 2020.5.27 酒井 消化・吸収 本日の目標 1. 既習内容を想起しながら、嚥下した後、食物がどう変化するかを説明できる。 2. 吸収後の栄養分の流れを説明できる。
  14. 【課題】食物の消化と吸収について考えよう。 理科⑥
  15. 第2章栄養素とその代謝2-1:栄養素の消化・吸収 ニュートリー
  16. 小腸は消化と吸収のどちらを行っているの? 看護roo!
  17. 澱粉の消化とその応用 上田誠之助
  18. 消化と吸収 中学生の生物

食べてから出るまでの時間

3大栄養素の消化吸収のまとめ

デンプン、タンパク質、脂質がそれぞれどこでどんな消化酵素によって分解されて何になってどこに吸収されるのかを、まとめて覚えたほうが良いです。どうやら消化吸収は中学2年の理科(生物)で勉強するみたいで、中学生向けの解説がめちゃくちゃわかりやすかったりします。中学で学ぶことと大学で学ぶこと(のうち記憶に残ること)とが、大して違わないんですね。

  1. 消化酵素(しょうかこうそ) ナースタ
  2. 中学理科2分野カラー 生物 動物の世界 動物のからだのはたらき 消化と吸収 Web教材イラスト図版工房
  3. 消化液とは?こうやって覚える!種類や酵素、はたらきを現役医学生がわかりやすく解説! study-z.net
  4. ④身体細胞の新陳代謝と五大栄養素の役割 未来ecoシェアリング
  5. ①食生活アドバイザー(栄養と栄養素について) note.com

デンプンの種類

  1. でん粉の顕微鏡写真 三和澱粉工業
  2. 健康な体をつくる「お米vsパン」米と小麦の違い・栄養価比較 関西業務用米.com ご飯は収穫された生鮮食品、パンは小麦に砂糖や塩、油脂などを加えて作った加工品です。
  3. デンプン(ウィキペディア)
  4. でん粉の性質その⑤ 木下製粉
  5. 各種でんぷんの糊化温度 料理科学の森

糖質の消化、ブドウ糖の吸収を抑制する薬

糖尿病の場合は血糖値(血液中のブドウ糖の濃度)をコントロールすることが重要です。食事の直後は急激に血糖値があがってしまうため、それを抑制する薬が、糖尿病薬として用いられています。

  1. ミグリトール Miglitol 糖尿病食後過血糖改善剤
  2. α-グルコシダーゼ阻害 ヤクルト中央研究所
  3. α-グルコシダーゼ阻害薬(α-glucosidase inhibitor;α -GI)は,臨床応用されて20年以上が経過するなかで数多 くのエビデンスを蓄積した,成熟した糖尿病治療薬である。アカルボースはα-グルコシダーゼとα-アミラーゼの阻害作用を有するが,ボグリボースミグリトールはα-グルコシダーゼの阻害作用のみを有している。

参考

  1. グルコース(ウィキペディア)
  2. 蛋白質を糖質より先に食べる訳とは?2021年4月1日ドクター蜂谷の医療コラム

 

 

 

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