人を対象とした研究、すなわち臨床研究においては、研究のデザインというものがいくつか存在します。研究のデザインをどう分類するかは、教科書によって多少異なることもあるのですが、大きく分けるとまず、「介入研究」と「観察研究」があります。介入研究は研究者が研究対象となる人達を2つの群、対照群と実験群に分けて、実験群に対して「介入」すなわち何らかの操作を行います。操作は薬剤投与など何かしら効果を試したい内容のものです。一方、観察研究では研究者は何かの要因に基づいて研究対象を2つに分けて比較します。その場合、研究者が何か操作をするわけではなく、もともと存在した要因(暴露因子)に基づいてグループ分けをします。例えば、喫煙者と非喫煙者といった具合です。
観察研究は、「暴露」と「イベント」(例えば、暴露として喫煙、イベントとして肺がんを罹患すること)が、時間的に追って分析しているか、同時に分析しているかにより、「縦断研究」と「横断研究」とに分類されます。縦断研究は、前向き研究と後ろ向き研究とに分けられます。前向き研究では、研究開始時に暴露群と対照群を設定し、これらの「コホート」(集団)を時間的に追跡調査して、例えば喫煙者と非喫煙者で将来肺がんに罹患する人がどれくらいいるかを調べます。これに対して、後ろ向き研究では、研究開始時点ですでに、患者のデータが出そろっています。つまりカルテなどの診療記録に基づいて過去の喫煙歴とその後の肺がんの罹患の有無を調べるわけです。
後ろ向き研究は、観察研究を後ろ向きに行うものなので、後ろ向き観察研究とも呼ばれることもあります。
後ろ向き研究(rerospective study)は研究開始時点からさかのぼってデータを収集し解析する観察研究の一種で、臨床研究における”対象”、”イベント”、”エンドポイント”は重要な要素ですが、後ろ向き研究ではこれらの情報はすでに”収集され”、”発生した”ものです。それらを電子カルテなどから”拾ってきて”データベースを構築することになります。(臨床研究アウトプット術 中外医学社 105ページ)
後ろ向き研究の中には、後ろ向きコホート研究と症例対照研究とがあります。後ろ向きコホート研究では、「暴露群」と「非暴露群」とにまずわけて、両群がその後どれくらい病気を発症したかを調べます。症例対照研究では、まず最初に病気を発症した群と、発症していない群とを定めて、それぞれに関して過去における暴露の有無を調べます。
稀な疾患の場合には、症例対照研究に利点があります。逆に、暴露が稀な場合には、暴露の有無が研究の起点となる後ろ向きコホート研究に分があります。
参考
- 臨床研究アウトプット術 中外医学社 2020年2月25日
- 感染症集団発生事例調査 の基本ステップ 平成16年度 国立感染症研究所 感染症情報センター 中島一敏
- 表2-1 疫学の研究デザインのまとめ
- 疫学の研究方法