総説論文(review article, review paper)には、目的や形式によっていくつかの種類があります。総説論文を書く際には、そもそも自分はどの種類の総説論文を書こうとしているのかを決める必要があります。逆に自分が総説論文を読む場合には、その総説論文がどの種類に該当するものなのかを素早く見抜く必要があります。
総説論文の種類に関して、代表的なものを見てみましょう。
Narrative Review(ナラティブレビュー)
特定のトピックに関する研究を包括的にまとめて、そのテーマの全体像を提示してみせるようなレビューはNarrative Review(ナラティブレビュー)と呼ばれます。ナラティブレビューの特徴としては、 執筆者の独自の視点に基づいているということが上げられます。つまり、ナラティブレビューを書く人が自分で問題意識を持ち、問題設定をしてそれに基づいて文献を調べてまとめるというものです。ナラティブレビューは主観的な要素が強く、 レビュー論文を書くにあたって文献をどのようにして系統的に検索したかという方法を示すことは要求されていません。注目した論文の選び方にそもそも主観が入るというわけです。
Systematic Review(系統的レビュー)
Systematic Review(系統的レビュー)というのは、特定の研究課題について、事前に定めた方法論に基づき、系統的に客観性をもった手順で文献を収集し、評価し分析してかかれたレビュー論文です。その特徴:としては、明確なリサーチクエスチョンが設定されます。その際には、いわゆるPICOなどのフレームワークが利用されます。また、文献検索のプロセスは詳細に記載されるのが普通です。
Meta-Analysis(メタアナリシス)
Meta-Analysis(メタアナリシス)は文字通り「分析」であり、系統的レビューの一部として行われることが多いです。全ての系統的レビュー論文がメタアナリシスを含むというわけではありません。逆に、メタアナリシスが必ず統計的レビューの一部とうわけでもなく、すでに統計的レビュー論文が存在する場合に、その統計的レビュー論文に基いてメタアナリシスを実施して、「メタアナリシス論文」として発表されることもあります。
統計的手法を用いて複数の研究結果を統合・解析するレビューであるという特徴があります。 とくに、定量的な結果を導き出すことが目的です。異なる研究論文を比較することにより、一貫性や総合的な効果を検討します。
Scoping Review(スコーピングレビュー)
Scoping Review(スコーピングレビュー)は、設定したテーマに関して全体的な範囲を探索し、主要な概念、証拠の種類、研究ギャップなどを特定するためのレビュー論文です。 特徴としては、メタアナリシスにみられるような厳密な評価や統合を必ずしも目的としないということがあります。 例えば、「人工知能を用いた医療診断に関する研究の現状」といったテーマがスコーピングレビューとしては考えられます。
スコーピングレビューとナラティブレビューの共通点として、どちらも広範なトピックを扱い、特定のテーマについて包括的に情報を収集し、全体像を示すことを目的としているということがあります。また、メタアナリシスのような厳密な統計解析を行わず、定量的な統合は行わないこと、質的な情報を主に扱うことにおいても共通しています。系統的な手法が必須とはされておらず、: スコーピングレビューもナラティブレビューも、方法論的には柔軟なアプローチがとられます。
スコーピングレビューがナラティブレビューと異なる点はいくつかあります。まず、目的が明確に異なります。ナラティブレビューでは、知識の整理やトピックの概要を提供するという目的があります。執筆者の主観に基づき、情報の解釈や選択が行われます。それに対して、スコーピングレビューではトピックの範囲をマッピングすることに焦点を当てます。「何がわかっているか」「研究のギャップはどこか」を明らかにすることはスコーピングレビューの目的です。スコーピングレビューは、ナラティブレビューに比べて、もっと構造化された方法論を用いることが求められます。またその方法論の記載すんわち、透明性も要求されます。スコーピングレビューでは、系統的レビューほど厳密ではないものの、文献検索の手順や選定基準を明示することが求められます。
スコーピングレビューは、研究分野がまだ発展途上であり、系統的レビューを行うのに十分なエビデンスが揃っていない場合に特に有用とされます。それに対して、ナラティブレビューは、発展段階に関わらず幅広いテーマで行われることが多いといえます。
スコーピングレビューもナラティブレビューも、とられる方法論に柔軟性があること、定量的な分析を伴わないこと、研究のギャップの特定や広範な概要を示すことなどはナラティブレビューの目的と重なることから、スコーピングレビューをナラティブレビューの一形態とみなす場合もあり得ます。
Critical Review(クリティカルレビュー)
Critical Review(クリティカルレビュー)は、執筆者が選んだトピックに関連する文献を批判的に評価することにより、現在受け入れられている仮説を見直して、新たな洞察や解釈を提供するレビュー論文です。 クリティカルレビューの特徴は、過去に行われたそれまでの研究に対して批判的に解釈し、研究に関する改善の提案、新たな仮説の可能性の提示を行うものです。クリティカルレビューにおいては、 執筆者の分析力や理論的な視点・考察が重要になります。
Mini Review(ミニレビュー)
ミニレビューは話題を限局し、特定の側面について簡潔にまとめたレビュー論文です。 通常、1,000~3,000語程度の短い記事になります。新規性の高いトピックや急成長している分野で執筆されることが多い種類の論文です。
Umbrella Review(アンブレラレビュー)
アンブレラレビューとは、複数の系統的レビューやメタアナリシスを統合し、広範なテーマについて俯瞰的な結論を導き出すレビューです。「レビューのレビュー」ともいえます。そのため、エビデンスレベルが高い論文とされます。
State-of-the-Art Review(ステート・オブ・ザ・アートレビュー)
文字通り、特定の研究分野の最前線の進展や知識をまとめたレビュー論文になります。 最新の研究成果に焦点を当てているという特徴があります。 将来の研究課題や展望を示すことが多いです。例えば、「量子コンピューティングの現状と未来」といったテーマがありえます。
Historical Review(ヒストリカルレビュー)
ヒストリカルレビューとは、特定のトピック・分野の歴史的な発展を追ったレビュー論文です。 時系列に沿って知識や理論の進展を記述するという特徴があります。 現在の理解に至った歴史的経緯、背景が書かれます。「がん研究の歴史的展望」といったテーマが例としてありえます。