ヒスチジンのプロトン化の生理的な意義 

ヒスチジンは生理的なpH=7.4ではプロトン化されていませんが、弱酸性になるとプロトン化されています。

The imidazole ring in histidine exhibits a pKa value within the pH range from 5.5 to 7.4); at pH 5.0, the imidazole ring is protonated and positively charged, whereas, at pH 7.0, it is electrically neutral. https://www.jstage.jst.go.jp/article/bpb/44/5/44_b20-01013/_html/-char/ja

研究セミナーを聞いていたら、ヒスチジンのプロトン化がpHセンサーとして働くという例が示されていて、「へぇ~」と思いました。生き物はうまくできていますね。ヒスチジンのプロトン化は、pHセンサーとして働く意外にも、様々な重要な役割がありました。

 

酵素の活性調節

酵素の活性中心に存在するヒスチジンは、pHに応じてプロトン化・脱プロトン化しやすい性質を持ち、酸-塩基触媒として機能します。 例: セリンプロテアーゼ(例: キモトリプシン)では、ヒスチジンが触媒三重体の一部として、基質の加水分解に関与します。 **カルボン酸脱水酵素(炭酸脱水酵素)**では、ヒスチジンがH⁺の授受を媒介して反応を促進します。 意義: ヒスチジン残基のプロトン化状態が変化することで、酵素反応の速度や特異性が制御されます。

  1. Cancer-associated arginine-to-histidine mutations confer a gain in pH sensing to mutant proteins Science Signaling 5 Sep 2017 Vol 10, Issue 495 DOI: 10.1126/scisignal.aam9931  Given that histidine residues are critical in proteins that respond to changes in pH, White et al. looked at two proteins that frequently have Arg-to-His mutations in tumors and found that a rise in intracellular pH conferred these mutants with oncogenic effects. Molecular modeling of the growth factor receptor EGFR suggested that the mutation stabilizes the kinase in an active conformation, but only when the cells have a high pH.
  2. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0021925820447714

 

pHセンサーとしての機能

ヒスチジンは、側鎖のpKaが約6.0と生理的pH(7.2〜7.4)に近いため、小さなpH変化に敏感に反応します。 例: イオンチャネルや輸送体タンパク質では、ヒスチジンがpH変化を感知して活性を調節します。 **pH感受性Gタンパク質共役受容体(GPCRs)**では、ヒスチジン残基が細胞外のpH変化に応答します。 意義: 組織や細胞環境の酸塩基平衡を感知することで、生体の恒常性維持に寄与します。

  1.  A Transmembrane Histidine Kinase Functions as a pH Sensor Biomolecules . 2020 Aug 14;10(8):1183. doi: 10.3390/biom10081183. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32823946/
  2. Protonation of Individual Histidine Residues Is Not Required for the pH-Dependent Entry of West Nile Virus: Evaluation of the “Histidine Switch” Hypothesis J Virol. 2009 Sep 23;83(23):12631–12635. doi: 10.1128/JVI.01072-09 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2786769/ Histidine residues have been hypothesized to function as sensors of environmental pH that can trigger the activity of viral fusion proteins.
  3. Histidine-Proline-rich Glycoprotein as a Plasma pH Sensor THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY Vol. 273, No. 10, Issue of March 6, pp. 5493–5499, 1998 https://www.jbc.org/article/S0021-9258(18)67800-7/pdf

 

金属イオンとの結合

ヒスチジンは、プロトン化状態によって金属イオン(Zn²⁺, Cu²⁺, Fe²⁺など)への親和性が変化し、タンパク質の構造や機能に影響を与えます。 例: ヘモグロビンでは、ヒスチジンが鉄(Fe²⁺)と結合し、酸素結合に寄与します。 メタロ酵素(例: カルボン酸脱水酵素やスーパーオキシドジスムターゼ)では、金属イオンとの結合を通じて触媒活性を発揮します。 意義: 金属イオンの結合や解離を調節し、酵素の触媒機能や基質特異性を制御します。

 

タンパク質間相互作用の調節

ヒスチジンのプロトン化状態が変化すると、分子間の静電相互作用や水素結合の形成が変化し、タンパク質間相互作用を調節します。 例: シグナル伝達経路の中で、タンパク質の結合部位のヒスチジンがプロトン化状態を変えることで結合強度が調整されます。 ヒスチジンリン酸化(プロカリオットでよく見られる)は、細胞内シグナル伝達に関与します。 意義: タンパク質の動的な挙動や複合体形成に重要です。

 

タンパク質の構造変化と機能調節

プロトン化されたヒスチジン残基は、タンパク質の三次構造や四次構造を安定化または不安定化する場合があります。 例えば、酸性環境下では、ヒスチジンのプロトン化により静電相互作用が変化し、タンパク質のフォールディングやアンフォールディングに影響を与えます。 pHに依存したタンパク質の構造変化や機能調節に寄与しするという意義があります。

  1. Protonation State of a Histidine Residue in Human Oligopeptide Transporter 1 (hPEPT1) Regulates hPEPT1-Mediated Efflux Activity Biological and Pharmaceutical …/ 2021 年 44 巻 5 号 p. 678-685 https://www.jstage.jst.go.jp/article/bpb/44/5/44_b20-01013/_html/-char/ja

 

細胞内外のpH調節

ヒスチジン残基がプロトンの供与体または受容体として働き、細胞内外のpH調節に関与します。 例: ヘモグロビンのボーア効果では、ヒスチジンのプロトン化状態が酸素解離能を調節します。 意義: 酸素輸送や代謝調節において重要な役割を果たします。

 

その他の参考論文

  1. A pH-sensitive histidine residue as control element for ligand release from HLA-DR molecules December 5, 2002 99 (26) 16946-16950 https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.212643999
  2. https://elifesciences.org/articles/29002