新型コロナウイルスの蔓延が連日ニュースとして報道され、疫学・医療統計学で使われる「罹患率」、「有病率」といった医学用語が日常生活にも入ってきました。それらの意味や英語での呼び方、それぞれの違いなどを纏めておきます。ちなみに罹患の読み方は「りかん」です。自分は初めて見た時、「らかん」?と読んでしまいましたが、「りかん」と読むのでした。
罹患率(発生率)(incidence rate)とは
発生率(罹患率、発病率とも呼ばれる)は、ある集団を一定期間観察したときにアウトカムが発生した人の割合ですが、罹患率の求め方としては分母に「リスク人口」を用います。すなわち観察期間内にすでに罹患した場合や脱落した場合には、それ以降の期間を計算に含めません。別の言い方をすれば、リスクとの違いは、発生率には時間(速さ)の概念が含まれることです。
例えば、5人のオリンピック参加者を10日間、毎日PCR検査したときに、新型コロナウイルス陽性者数が2日めと4日めの検査で2人出たとして、別の一人は6日めの夜に選手村から脱走して行方不明になり、残り2人が最後まで陰性だったとします。このとき1日あたりどれくらいの頻度で陽性の人が発生したかを考えてみます。考慮すべき日数としては、「その人が陽性と判定されえた日数」に限定する必要があります。例えば2日めで陽性が分かった人ののこり8日間は、発生率に無関係です。また6日めの夜に脱走した人の、7日目以降も検査ができていないので、発生率に無関係です。陽性になり得る日数を人数分考えてみると、10+10+2+4+6=32[日・人]ですので、陽性者 2[人] / 32 [日・人] = 0.0625[/日] (6.25%)が1日あたりの発生率になります。発生率が取り得る値は0以上で上限は特に決まっていません。短い時間に多数の人にアウトカムが発生すれば、大きな値になります。
新型コロナウイルスの罹患率のウェブ記事を見ると、上記のようないわゆる「人年法」ではなく単純に毎日の感染者数と人口との比を報告しているように思います。分子に対して分母が十分に大きいので、観察期間がそもそも1日単位なので上のようなややこしい計算が不要なのでしょう。また期間に幅があったとしても分母が十分に大きければ上記の算出法は不要なのかと思います。
研究対象集団の人口が小さい場合,あるいは,研究期間が比較的短く,かつ,発症・死亡した例数が多い場合などにおいては,人年法・人月法などによる罹患率や死亡率を求めることを考える。しかし,研究対象集団の人口が大きく,発症あるいは死亡した症例数が比較的少ない場合には,一般的な罹患率や死亡率を計算した方が望ましいことが多い。(人年法の計算と利用方法 第26巻 日循協誌 第1号 1991年 4 月)
累積罹患率(または リスク(risk)とも呼ばれる)とは
罹患率に関連する言葉として累積罹患率(cumulative incidence, cumulative incidence rate)があり、累積罹患率はincidence propotion(発生割合)、あるいはリスクとも呼ばれます。同じ事柄を指すのにいくつもの言葉があって、すこしややこしいですね。初学者泣かせです。
臨床研究において、累積罹患率(リスクとも呼ばれる)とは、ある集団を一定期間観察したときにアウトカムが発生(例えば、新たに病気を発症するなど)した人の割合を意味します。ここでアウトカムは、必ずしも病気のような望ましくないものに限定されません。また、観察期間内のいつアウトカムが発生したかも問いません。5人のオリンピック参加者を10日間毎日PCR検査したときに新型コロナウイルス陽性者数が10日間のうちに2人出たとしたら、リスク=2人/5人 = 0.4 (40%)と計算されます。ある集団の総人数に対する、アウトカムが発生した人の人数の割合なので、リスクが取り得る値は0から1です。
- 罹患率と累積罹患率 第30巻日循協誌第1号 津金昌一郎
- Incidence: Risk, Cumulative Incidence (Incidence Proportion), and Incidence Rate (bu.edu) In contrast to prevalence
, incidence is a measure of the occurrence of new cases of disease (or some other outcome) during a span of time. There are two related measures that are used in this regard: incidence proportion (cumulative incidence) and incidence rate. - 『臨床研究の道標』第2版下巻第4章第3節「発生の指標とは?:リスクと発生率」147ページ
リスク(risk)と発生率(罹患率)(incidence rate)の違いに関して、『臨床研究の道標』第2版下巻第4章第3節「発生の指標とは?:リスクと発生率」にわかりやすい説明と簡単な”例題”があったので、その内容を少しアレンジして、自分なりに説明してみました。
有病率(prevalence rate)とは
ある時点においてある集団内で病気になっている人の数の割合。有病率と、リスクや罹患率との違いは、有病率の場合はある時点で既に病気になっている人の割合だという点です。それに対してリスクや罹患率を計算するときには一定期間観察して新たに病気になった人を調べます。通常、人口10万人に対する割合を人数で表します。
- incidenceとprevalenceの違いは?【新患者とすでにその疾患を持っている人の割合】 No.4843 (2017年02月18日発行) P.65 原野 悟 (かみや町駅前クリニック院長/日本大学医学部兼任講師) 日本医事新報社
- 疫学用語の基礎知識 日本疫学会
新型コロナウイルスの罹患率
- 都道府県単位に見る10万人当たりの感染者数
- COVID-19 INCIDENCE RATE The incidence rate is a measure of the frequency with which the event, in this case COVID-19, occurs over a specific period. Numerically, it is defined it as the number of new cases for the disease within a time frame, as a proportion of the number of people at risk for the disease.
- Daily Case Incidence Rate Maps The seven-day incidence is calculated by taking the total number of unique cases in each county over the past seven days, divided by seven to get a daily average, divided by the U.S. census bureau county population and multiplied by 100,000 to get the incidence per 100,000 people.
- COVID-19 Cases And Incidence Rate Calculations
参考
- 『臨床研究の道標』第2版下巻第4章第3節発生の指標とは?:リスクと発生率
- 懺悔─有病率の計算を間違えてしまいました 2020/07/02森井大一(大阪大学感染制御学)日経メディカル
- 正しい年間感染率・罹患率の計算方法