シングルセル解析は強力な手段です。発生学研究におけるゲームチェンジャーとも言えそうです。
Published: 14 March 2022 Systematic reconstruction of cellular trajectories across mouse embryogenesis Nature Genetics volume 54, pages328–341 (2022) https://www.nature.com/articles/s41588-022-01018-x
シングルセル解析は強力な手段です。発生学研究におけるゲームチェンジャーとも言えそうです。
Published: 14 March 2022 Systematic reconstruction of cellular trajectories across mouse embryogenesis Nature Genetics volume 54, pages328–341 (2022) https://www.nature.com/articles/s41588-022-01018-x
文献によってLeftyと総称されていたり、Lefty-1の局在が左側のみだったり正中線上だけだったり相違があるのはなぜでしょうか。アミノ酸配列や塩基配列が似ているため、どちらを検出しているかが見分けにくいためなのかもしれません。
1995年から1996年にかけてNodal遺伝子(TGFβスーパーファミリーに属する分泌蛋白)及びLefty1/2遺伝子(NODALのアンタゴニストである分泌蛋白)の胚における左右非対称な発現が発見され https://jpccs.jp/10.9794/jspccs.33.349/data/index.html
下の報告書の図だと、Lefty1は左に局在していません。?
戦略的創造研究推進事業 CREST 研究領域「生物の発生・分化・再生」 研究課題「形態の非対称性が生じる機構」 研究終了報告書 研究期間 平成12年11月~平成17年10月 研究代表者:濱田 博司 (大阪大学大学院生命機能研究科、教授)
論文Multiple left-right asymmetry defects in Shh2/2 mutant mice unveil a convergence of the Shh and retinoic acid pathways in the control of Lefty-1 の図でもLefty-1は正中線上にしか局在していません。論文の記述(下)をよくよく読んだら、Lefty-1は将来floor plate(神経管の底板)になるところの左側に局在しているのだそうです。弱拡大の写真だとよくわかりませんでした。
In the mouse, Lefty-1 is predominantly expressed in the left prospective floor plate, whereasLefty-2 is expressed more strongly in the left LPM. In Lefty-12/2 mouse embryos, Nodal, Lefty-2, and Pitx2 are ectopicallyexpressed on the right side (4).
(2) (PDF) Multiple Left-Right Asymmetry Defects in Shh-/- Mutant Mice Unveil a Convergence of the Shh and Retinoic Acid Pathways in the Control of Lefty-1. Available from: https://www.researchgate.net/publication/12800556_Multiple_Left-Right_Asymmetry_Defects_in_Shh–_Mutant_Mice_Unveil_a_Convergence_of_the_Shh_and_Retinoic_Acid_Pathways_in_the_Control_of_Lefty-1
Lefty-1とLefty-2の発現場所の違いに関しては下の図がわかりやすいです。
臓器錯位症候群の発生機序 八代 健太1,宮川 繁2,3,澤 芳樹3 1 大阪大学大学院医学系研究科心臓再生医療学共同研究講座 2 大阪大学大学院医学系研究科先進幹細胞治療学共同研究講座 3 大阪大学大学院医学系研究科心臓血管外科学 発行日:2017年9月1日 日本小児循環器学会雑誌 https://jpccs.jp/10.9794/jspccs.33.349/data/index.html
結局 shh → Lefty-1 → Lefty-2, Nordal → Pitx2 → 下流の出来事 という図式でしょうか。
左側のみで初期に発現する遺伝子が見つかったので、その遺伝子が左右差をつくるんだという理解でいいかというと、そもそもその遺伝子発現の差はどうやって生まれたのか?という疑問に答得られていません。
「左右の対称性は最初にいかにして破られるのか?」、「Nodal やLefty の非対称な発現は、どのようにしてもたらされる?」という根本的な問題はいまだに解決されていない。
戦略的創造研究推進事業 CREST 研究領域「生物の発生・分化・再生」 研究課題「形態の非対称性が生じる機構」 研究終了報告書 研究期間 平成12年11月~平成17年10月 研究代表者:濱田 博司 (大阪大学大学院生命機能研究科、教授)
5年間の目標として掲げたことのなかでも、とくに以下の問題に重点を置いた。
- 左右の対称性が破られる機構:とくに、ノード流は左右を決めているのか? 繊毛の回転運動からなぜ左向きの水流が生じる? という問題。
- ノードで生じた非対称なシグナルは、どのようにして側板へ伝わる?
- Nodal, Lefty タンパク質の分泌後の挙動:とくに、分泌後のタンパク質を可視化し、その拡散速度・拡散様式や分解・安定性を観察すること。
- 左右決定に関する実験データを再現できる数理モデルを構築し、in vivo の現象の裏にある原理を予測する。
- 前後が決定される機構、とくに細胞移動の制御機構を解明すること。
戦略的創造研究推進事業 CREST 研究領域「生物の発生・分化・再生」 研究課題「形態の非対称性が生じる機構」 研究終了報告書 研究期間 平成12年11月~平成17年10月 研究代表者:濱田 博司 (大阪大学大学院生命機能研究科、教授)
ニワトリ胚を使った実験で、FGF4産生細胞を脇腹(本来四肢が生じない場所)に移植すると、そこにエキストラの肢芽が生えてきて脚になるということが示されています。
consensus.aiに訊いてみました。
The formation of vertebrate limb buds is a critical process in developmental biology, involving the transformation of specific cells to initiate limb development. This process is believed to be driven by epithelial-to-mesenchymal transition (EMT), where epithelial cells convert into mesenchymal cells, which are more migratory and capable of forming the limb structure.
Key Insights
- Localized EMT Initiates Limb Bud Formation:
- Role of Lateral Plate Mesoderm (LPM):
- The somatic LPM undergoes EMT to produce mesenchymal cells that contribute to limb bud formation. This process is driven by transcriptional regulators like PRRX1 and TWIST1, although further functional data are needed to fully understand these mechanisms2.
- Epithelial-Mesenchymal Interactions:
- In Vitro Limb Bud Formation:
- Limb bud-like tissues can be induced from murine pluripotent stem cells in vitro, demonstrating the potential to recreate the mesenchymal/epithelial complex tissues necessary for limb development3.
Conclusion
The origin of limb buds is indeed mesenchymal cells derived from epithelial-to-mesenchymal transition. This process is initiated by localized EMT in the coelomic epithelium and the somatic lateral plate mesoderm, regulated by specific genes and involving critical epithelial-mesenchymal interactions. These findings underscore the fundamental role of EMT in the early stages of limb bud formation.
遺伝子発現やクロマチンの話で、H3K4me3というものをしばしば見かけますが、これは何を意味するのでしょうか?
consensus.appに訊いてみました。
ヒストン修飾は、遺伝子発現の調節において重要な役割を果たします。特に、ヒストンH3のリジン4のトリメチル化(H3K4me3)とリジン27のトリメチル化(H3K27me3)は、遺伝子の活性化と抑制に関連しています。本分析では、これらの修飾が遺伝子発現にどのように影響を与えるかについての研究結果をまとめます。
主要な研究結果
- H3K4me3は遺伝子活性化、H3K27me3は遺伝子抑制に関連
- H3K4me3とH3K27me3のバランスが遺伝子の「ポイズド」状態を維持
- 発生過程におけるH3K4me3とH3K27me3の動的変化
- がんにおけるH3K4me3とH3K27me3の役割
- 前立腺がんでは、H3K4me3とH3K27me3のエピジェネティックなスイッチが遺伝子発現の変化と関連している3。
結論
H3K4me3は遺伝子の活性化に、H3K27me3は遺伝子の抑制に関連しています。これらの修飾は、発生や分化、がんなどのさまざまな生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たします。特に、H3K4me3とH3K27me3のバランスが遺伝子の「ポイズド」状態を維持し、適切なシグナルを受け取ると遺伝子の活性化または抑制が起こることが示されています。
転写が活性化される場合に、ヒストンH3の中に多数含まれるリジンのうちの4番めのリジンがトリメチル化(H3K4me3)されます。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1097276514002044
逆に、転写が抑制される場合に、ヒストンH3の中に多数含まれるリジンのうちの27番めのリジンがトリメチル化(H3K27me3)されます。
下の論文の纏めの模式図は、逆みたいなので、生物種や文脈で異なるのかもしれません。
https://www.researchgate.net/publication/266084583_Poised_chromatin_in_the_mammalian_germ_line/figures?lo=1
K4は4番目のアミノ酸残基という意味ではありません。4番目のリジンという意味です。アミノ酸の配列を見てみましたが、確かに4番めのアミノ酸残基はリジンではありませんでした。
遺伝子発現の制御機構は結構複雑なようです。
植物を用いた研究から、真核生物に広く保存されたヒストン修飾であるH3K9メチル化が、これまでの常識に反して転写の抑制のみならず促進する機能を持つことを明らかにしました。 https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/10403/
cDNAとは、mRNAを鋳型として逆転写酵素により合成したDNA(一重鎖)のことです。cDNAはcomplemantary DNA to mRNAという意味です。通常、実験するうえでcDNAを一重鎖のままにしておくことはなく、cDNAを鋳型としてDNA合成酵素を働かせて二重鎖を得ます。そうしないと、増やしたりできないので。最初につくった一本鎖のcDNAはアンチセンス鎖ですが、それを鋳型にして二重鎖にするために合成した方は、センス鎖になります。cDNAクローニングの論文で示される塩基配列は、センス鎖の塩基配列です。cDNAはmRNAを鋳型にして作った一本鎖DNAという言い方を見ると、論文でcDNA配列といったときの配列とは逆になるのでは?という疑問が湧いて、混乱を招きそうです。そのあたりを、ハッキリさせておきます。
ChatGPTに説明してもらいました。
cDNA is initially single-stranded after it is synthesized from mRNA, and there’s a subtle distinction when considering single- and double-stranded DNA.
Here’s a more precise breakdown of what happens:
Thus, when cDNA is single-stranded, it is effectively the anti-sense strand (complementary to mRNA). However, once you make it double-stranded, the complementary strand matches the sense strand of the original genomic DNA.
通常、cDNA合成というときは、 first-strand synthesis, second-strand synthesisといった言い方をします。そのあたりをChatGPTに説明してもらいました。
キーワードとして、「唾液 心理ストレス バイオマーカー」で検索したところ、31件の文献が得られました。タイトルを読んで自分の興味と照らし合わせていきます。
学会発表要旨が多くて、論文は数報しかありませんでした。総説はひっかからず、この検索はあまり効果的に思えません。
CINIIで「唾液 心理ストレス バイオマーカー」で検索したところ、結果は0件でした。
saliva psychological stress biomarker のキーワードで検索してみましたところ、757件ヒットしました。今度は多すぎて全部読むのは大変そうです。左側の際メニューでReviewのチェックボックスをオンにしたら54件に絞られました。いくつか関連性が少ないものを除外すればもっと減ります。30報弱ならひとつずつ要約をまず読んで、さらに吟味できる分量でしょう。これくらいの総説論文を読み込めば、総説論文がどのように書かれているものなのかのイメージもつかめると思います。
総説や原著論文のイントロなどでは、原著論文を引用して様々な主張が展開されます。なので、読むべき論文を見つける方法として、論文の最後にある引用文献一覧が非常に役立ちます。
ヘッケルが唱えた発生反復説「個体発生は系統発生を繰り返す」という言葉は、トカゲとヒトの胎児がそっくりな図とともに、自分の心に食い込んできました。ヒトが発生する途中で一度トカゲになるわけでも、一度サルになってから人間になるわけでもないので、「個体発生は系統発生を繰り返す」という言葉は誤解を招きやすい表現です。種に特異的な構造は発生の後期に現れるという解釈が妥当なのだと思います。
しかし、カエルの発生を学んだあとで哺乳類の発生を学ぶと、最初から全然違うことに啞然としてしまいます。カエルの場合は、精子侵入点の逆側が将来の背側になります。受精卵の時点で、背側の構造が、一見、一様な球体のどこにできるかが決定されてしまっているわけです。それに対して、哺乳類では、卵割が進んで胚盤胞のなったときに外側の細胞層(栄養膜)と内部細胞塊にまず分化します。つまり、卵割期においては哺乳類ではどちら側が背中側になるかは決定していないわけです。そもそも栄養膜は胎盤をつくったりするので、卵割した割球の全てが個体の体になる両生類とは全然、最初からして違うわけです。
そのような初期の違いにもかかわらず、中胚葉誘導の分子メカニズムを勉強すると、同じようなシグナル分子が使われていることにまた驚かされます。最初の多様さが、一度収斂して、普遍性を垣間見ることができるわけです。そしてもちろん発生が進んで体のそれぞれの臓器が作られるときにはまた生物種固有の多様性が生じます。このように多様性ー普遍性ー多様性という形をとることから、「発生反復説」に代わって、「砂時計仮説」というものが提唱されています。
カエルの卵の場合、卵黄が多い半球(色素が少なく白く見える部分)と卵黄が少なめの半球(表面に色素がたくさんあって黒っぽい色をしている部分)とがあります。受精前は、カエル卵はランダムな方向を向いていますが、受精すると動物極(つまり黒い半球)が上を向くようになります。これは受精膜の中で卵という球体が自由に回転できるようになって、卵黄が詰まっていて重い植物極が重力によって下に向くからでしょう。
受精卵は、極体があるほうを動物極、その反対側を植物極といいます。受精卵の段階で、動物極は頭になり、植物極は尾部や足になることが決まっているのです。https://www.try-it.jp/chapters-15244/sections-15245/lessons-15255/
上のトライの説明は少し意外でした。受精して極体を放出するまえの卵母細胞の段階でカエル卵などはすでに卵黄分布の非常に大きな偏りが存在していて、植物極と動物極はそれで決まっているからです。
Wntシグナリングにはカノニカル経路と、非カノニカル経路とがあります。カノニカル経路は古くから研究が進んで明らかとなったほうの経路といった意味合いだと思います。具体的にはβ-カテニンが関与する経路の方です。それに対して非カノニカル経路の一つが、PCP経路です。PCPは、planer cell polarityの略で、平面上に並んだ上皮性の細胞の極性が揃うことを指します。
https://en.wikipedia.org/wiki/Planar_cell_polarity
PCP経路が阻害されると例えば細胞の線毛の向きが揃わないといった表現型が生じるようです。
https://www.tmd.ac.jp/mri/press/detail/id=58961
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352304223000557
- APC(adenomatous polyposis coli)タンパク質は、2843アミノ酸残基からなる大きなタンパク質で、がん化や形態形成に重要な役割を果たします。WNTシグナル経路のシグナル伝達因子であるβ-カテニンに結合して、その分解を誘導することでWNTシグナル経路を抑制します。
- Behrens, J; von Kries, JP; Kühl, M; Bruhn, L; Wedlich, D; Grosschedl, R; Birchmeier, W (15 August 1996). “Functional interaction of beta-catenin with the transcription factor LEF-1.”. Nature 382 (6592): 638–42. https://www.nature.com/articles/382638a0
- Wntシグナル伝達機構がβ-カテニンタンパク質の細胞質存在量を調節し、その結果としてβ-カテニンが細胞核へ移行することのみが知られていた。しかしながら、β-カテニンにはDNA結合ドメインが存在せず、核内でどのようにWnt標的遺伝子を調節しているのかは不明であった。この発見を受けて、Wntシグナルによって調節されたβ-カテニンは細胞核でTCF/LEF型DNA結合タンパク質に結合し、TCF/LEFが’CTTTG’からなるコア周辺のコンセンサス配列(Wnt応答エレメント [Wnt response element, WRE])を認識しているというモデルが確立された(ウィキペディア)
https://www.embopress.org/doi/full/10.15252/embj.201798873
Cartoon representation of Planar Cell Polarity in fly wing hair cells and mouse paw hair cellsFigure 1. (A and B) Drosophila cuticular wing hair cells of the adult wing. Wing hairs point distally (to the right) in wild-type (WT) animals (A) but lose orientation in PCP mutants (fz) (B). (C and D) Hairs on the mouse paw point away from the body (pointing up) in WT (C) but grow in a swirling pattern in PCP mutants (fz6) (D). Inspired by the work of Paul Adler (A and B) and Guo et al. (2004) (C and D). https://en.wikipedia.org/wiki/Planar_cell_polarity
ヒトを含む幅広い生物種は、発生過程で特定の組織において平面内細胞極性(Planar Cell Polarity; PCP)を獲得することが知られています。平面内細胞極性とは、平面上に並んだ多数の細胞が一定方向に沿って形成する細胞極性のことで、哺乳類の体毛や魚類の鱗が一定の方向に生えそろうためにはこの平面内細胞極性の形成が非常に重要です。https://www.nibb.ac.jp/press/2022/07/13.html
Biophysics in oviduct: Planar cell polarity, cilia, epithelial fold and tube morphogenesis, egg dynamics February 2019 Biophysics and Physicobiology 16:89-107 DOI:10.2142/biophysico.16.0_89 LicenseCC BY-NC-SA https://www.researchgate.net/figure/Formation-of-planar-cell-polarity-A-D-Establishment-of-planar-cell-polarity-PCP-is_fig1_331338403
Planar cell polarity pathway in kidney development, function and disease Nature Reviews Nephrology volume 17, pages369–385 (2021)
Published: 15 March 2017 Planar cell polarity in development and disease Nature Reviews Molecular Cell Biology volume 18, pages375–388 (2017) https://www.nature.com/articles/nrm.2017.11
組織に働く張力が平面内細胞極性の形成を制御していることがわかりました。
雑誌名 Development 掲載日 2022年6月16日 オンライン公開 論文タイトル: Alignment of the cell long axis by unidirectional tension acts cooperatively with Wnt signalling to establish planar cell polarity 著者:Sayuki Hirano, Yusuke Mii, Guillaume Charras, Tatsuo Michiue DOI: 10.1242/dev.200515
https://www.nibb.ac.jp/press/2022/07/13.html