がんと糖代謝

生体の細胞がエネルギーを生産する際、解糖系とそれにつづくTCA回路を利用しています。解糖系の部分だけだとエネルギー通貨であるATPは2個しか生産されません。解糖系の最終産物であるピルビン酸は、アセチルCoAに変換されて、TCA回路に入り、TCA回路で生産されたNADHが電子伝達系に入って、最終的にはATPが産生されます。電子伝達系では、酸素分子が消費されます。解糖系では酸素は必要とされないため、嫌気的なエネルギー産生と言えます。

さて、がん細胞はエネルギーを産生するために解糖系を好んで利用します。つまり、グルコースを大量に必要とするのです。そのため、グルコースを多量に取り込んだ細胞を可視化することによりがん細胞を可視化することが可能です。

がんの可視化

がんに特徴的な糖代謝の亢進を利用してがんを可視化することができます。

がん細胞は、正常な細胞よりも糖(グルコース)を大量に消費します。グルコースと類似の化学構造を持つ化合物フルオロデオキシグルコース(FDG)は、グルコースと同様にがん細胞に多く取り込まれますが、解糖系[でのエネルギー産生には用いられず、細胞内にとどまり続ける特徴があります。一般的なPET診断では、FDGを放射性同位体フッ素(18F)で標識した18F-FDGを患者に投与し、がん組織に集積した18Fに由来する放射線の量と分布を検出することで、がんの位置や大きさを可視化します。この診断法は「18F-FDG-PET」と呼ばれ、非侵襲的ながん検査として広く普及しています。https://www.riken.jp/press/2021/20210517_1/index.html

がん患者における筋肉量の低下

がん細胞はエネルギー源としてグルコースを利用するため、多量のグルコースが必要です。筋肉は実はグルコースの供給源の一つになっています。筋肉のタンパク質が分解されてできるアラニンは、グルコースの材料になります。

 

がんが生体の正常た代謝を変化させている、つまり、がん細胞がエネルギー源として必要なグルコースの供給が十分得られるように巧妙に生体の代謝を制御しているということに注目した研究が増えてきています。

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