胚中心(germinal center)とは【免疫学】

胚中心という言葉が免疫学について書かれた文章の中で当たり前に出てきて、何それ?胚の中心?と思いました。名は体を表すといいますが、例外はつきもので、全く名称からは想像がつかない内容です。生物学は、覚えないといけない名称が無数にあって本当に難しい。

胚中心(germinal center)とは

リンパ節という組織は体のあちこちにありますが、小さくて丸い組織で、輸入リンパ管からリンパ液がリンパ節内へと流れこみます。リンパ液は白血球や死んだ細胞、死にかかった細胞、微生物、細胞残渣などからなりますが、リンパ節はこれらの「ゴミ」を濾す役割を担います。リンパ節には、マクロファージや樹状細胞といった貪食細胞が待ち構えていて、これらを処理します。こうして、「綺麗になった」リンパ液が、輸出リンパ管からリンパ節を出ていきます。

リンパ節は皮質と髄質という2つの領域に分けられますが、皮質の部分にはたくさんの濾胞があり、リンパ球集団が存在します。免疫応答があると(すなわち、抗原を認識したB細胞が、ヘルパーT細胞と相互作用すると)、それぞれの濾胞の中心部には、B細胞が増殖、分化している細胞からなる「胚中心」が生じます。

参考:

  1. リッピンコット免疫学92ページ
  2. Janeway’s免疫学 408ページ
  • 胚中心は免疫応答の際に脾臓リンパ節などの免疫組織に形成される微小な構造
  • 高親和性の抗体を産生するB細胞が分化する場
  • 胚中心における免疫応答は胚中心B細胞と濾胞性ヘルパーT細胞との相互作用により担われ,抗原受容体との親和性にもとづき選択される

胚中心B細胞のプラズマ細胞への分化は濾胞性ヘルパーT細胞との相互作用により制御される 伊勢 渉・黒崎知博 (大阪大学免疫学フロンティア研究センター 分化制御) email:伊勢 渉 DOI: 10.7875/first.author.2018.051 ライフサイエンス新着論文レビュー

Germinal centers (GC) are sites in peripheral lymphoid tissues where B cells proliferate, switch classes of antigen receptors, and increase their affinity to antigens.

https://www.sciencedirect.com/topics/medicine-and-dentistry/germinal-center

英語だと単数形と複数形があるので、胚中心が複数だということがわかります。日本語で「中心」というとひとつのように思えるので、英語のほうがわかりやすい。ウィキペディアの説明は簡潔なのに詳細。胚中心とは、二次リンパ器官(リンパ節、回腸のパイエル板、脾臓)の中にある「B細胞領域(濾胞)」の内部に一時的できる構造だそう。

Germinal centers (GCs) are transiently formed structures within B cell zone (follicles) in secondary lymphoid organs – lymph nodes, ileal Peyer’s patches, and the spleen– where mature B cells are activated, proliferate, differentiate, and mutate their antibody genes (through somatic hypermutation aimed at achieving higher affinity) during a normal immune response; most of the germinal center B cells (BGC) are removed by tingible body macrophages.

https://en.wikipedia.org/wiki/Germinal_center

胚中心は、抗原に暴露されたときにできる一時的な構造のようです。

This selective processoccurs in microanatomical structures known as germinal centers(GCs) (Berek et al., 1991; Jacob et al., 1991b), which emerge in several copies within secondary lymphoid organs upon exposure to antigen by infection or immunization.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5123673/

『もっとよくわかる免疫学』(河本宏)の113ページ~114ページにリンパ節の構造の説明があります。それによれば、リンパ節はリンパ液が入ってくる「輸入リンパ管」側とリンパ液が出ていく「輸出リンパ管」側とにそれぞれ、B細胞が多く存在する「B細胞領域」と、T細胞が多く存在する「T細胞領域」とが隣接しているそうです。その「B細胞領域」の内部に、胚中心と呼ばれる構造があります。

 

免疫学の教科書によって、あるいは、その教科書が書かれた年(新しさ、古さ)によって、肺中心で起こることの記述の詳細さには差があるようです。そうなると、何冊もの免疫学の教科書を見比べる必要がありそうですね。

胚中心の「暗帯」で、抗原に反応するB細胞が増殖するときに、免疫グロブリンのV領域に点突然変異が多数はいります。その結果、元の抗原に対してもっと高い親和性を持つものも作られます。胚中心の「明帯」には濾胞樹状細胞が抗原提示を行っており、これに強く反応するB細胞が選別されてます。濾胞ヘルパーT細胞はこの項親和性B細胞に対してIL-21やIL-4の刺激をあたえることにより活性化し、その結果、このB細胞は抗体産生細胞へと分化します。ただし一部はそのまま存続して「記憶B細胞」として長期間維持されることになります。

  1. 免疫学コア講義 改訂4版 2017年11月15日 南山堂

なぜ高親和性B細胞が生き残るのかそのメカニズムとに関しては、矢田純一「医系免疫学』改訂16版(2021年11月20日)には、濾胞樹状細胞が提示している抗原を、その高親和性ゆえに奪い取って自分がそれを抗原提示して、濾胞ヘルパーT細胞からのヘルプを受けることで生存、増殖するのだと説明されていました。ちなみにこの段階ではBCRシグナリングが働かないようにキープレイヤーは脱リン酸化された不活性な状態にあるのだそうです。なかなか複雑ですね。

  1. 矢田純一『医系免疫学』改訂16版(2021年11月20日)

教科書によって力点を置くポイントが少しずつ違っていて、どの教科書で勉強するのがベストなのか、なかなかわかりにくいです。医系免疫学』はかなり文章での説明が多いので、苦しい。『標準免疫学』 第4版 医学書院は、コンパクトなわりにポイントポイントで詳しいと思います。

胚中心反応とは

  1. Textbook Germinal Centers? Tim Manser J Immunol March 15, 2004, 172 (6) 3369-3375