生化学でデンプン(アミロースやアミロペクチン)やグリコーゲンの構造を習うと、グルコース同士が「グリコシド結合」でつながって長い鎖を作っているという説明をされます。ここでグリコシド結合って何?という疑問が頭をよぎるのですが、グルコースだからグリコ?シド?くらいにモヤっとしてなんとなく流してきていました。
2つの単糖がつながっているグリコシド結合の部分の化学構造は -C-O-C-とかかれるので、これだけみたら -O- エーテル結合と同じ?と思います。
曖昧に理解しているとモヤモヤが消えないので、ちゃんと調べてみます。
結局、グリコシド、ヘミアセタール、アセタール、エーテルといった言葉の定義をしっかりと抑えておかないと、いつまでたってもグルグル不安定に回ってしまうようです。
グリコシド結合とは?グリコシドとは?
glycose (グルコース glucoseと混同しないこと)は、単糖 monosaccharideと同義語です。以前はglucoseの同義語としても使われていたようで、混乱しやすいですね。
- glycose oxfordreference.com 1 a less frequently used term for any monosaccharide. 2 an obsolete name for glucose (see also glyco+ (def. 2).
- glycose merriam-webster.com a simple sugar (as arabinose, glucose, or fructose): MONOSACCHARIDE
-ideは、化合物を意味する接尾語です。
- -ide dictionary.com -ide 2 or -id a suffix used in the names of chemical compounds
つまりグリコシド glycoside (glycose + ide) は糖が他の何かと結合してできた化合物ということになります。グリコシド が生じるときにできる特有の化学結合のことをグリコシド結合 glycosidic bondとよぶわけです。
グリコシド結合とは、単糖のアノマー炭素の水酸基と、相手側の分子(別の単糖の場合もあるし、糖出ない物質のこともある)との縮合により生じた結合のことです。
Glycosides are formed by condensation between the hydroxyl group of the anomeric carbon of monosaccharide, and a second compound that may be another monosaccharide or , in the case of an aglycone, not a sugar.
ハーバー生化学第30版 第15章 Sugars Form Glycosides With Other Compounds & With Each Other
グリコシド結合(glycosidic bond)により生じた化学物質はグリコシド(glycoside)と総称されます。グルコースがグリコシド結合により他の分子と結合してできたものは、グルコシド(glucoside)ですし、ガラクトースが他の分子とグリコシド結合してできたものは、ガラクトシド(galactoside)と呼ばれます。
グルコシドとグリコシドは一時違いで混乱しそうですが、グリコシドは総称で、グルコシドはグリコシドの一種です。
- https://www.chem.ucalgary.ca/courses/353/Carey5th/Ch25/ch25-2-2.html
アセタールとは
アセタールは、構造式で書くと R2C(OR’)2 のように、2つの酸素原子が中心の炭素に一重結合した形をとる物質のことです。Cの4本の手にそれぞれ、-R, -R, -OR’, -OR’ が結合しています。2つのRは同一でなくていいですし、2つR’を書きましたがこれらも別のもので構いません。簡便のためにR2C(OR’)2と書きました。本来なら、-R1, -R2, -OR3, -OR4 と書くともっとわかりやすいかもしれません。RはHのこともありますが、R’の方(酸素原子を含むほう)はHではない有機分子です。
An acetal is an organic molecule where two separate oxygen atoms are single bonded to a central carbon atom. https://byjus.com/chemistry/acetal-explanation/
- https://en.wikipedia.org/wiki/Acetal
- https://www.thoughtco.com/definition-of-acetal-604736
ヘミアセタールとは
ヘミは半分と言う意味です。アセタールは、一つの中心となる炭素に対して、 -OR’が2つ結合したもので、R’はHではないとされていました。-OR’が2つあるべきところひとつしかなくて、もう一方は-OHとなっているものがヘミアセタール R2C(OH)(OR’) です。
- https://www.masterorganicchemistry.com/2010/05/28/acetals-hemiacetals-hydrates/
グルコースの場合、環状構造を取ると、1位の炭素原子はアノマー炭素(不斉炭素)になり、となりに酸素原子がいます。つまり R-CH-OR'(-OH)の構造です。
グリコシド結合の反応機構
酸触媒の存在下で、まず酸触媒 H-B+ が二重結合の電子対を B+がもらって、生じたH+に対して1位の水酸基の酸素原子の非共有電子対があたえられて結合をつくります。水酸基部分は電子対を酸触媒のH+に渡したため、電荷は+になっており、1位の炭素との共有結合の電子対を奪います。そこでヘミアセタールのOHのOから非共有電子対が1位の炭素にわたされて、一時的にヘミアセタールのっ酸素と1位の炭素の間で二重結合が生じます。その二重結合の電子対を先ほどの酸素が取り戻して、1位の炭素がプラスの電荷をおびたところを、アルコールROHのOの非共有電子対が求核して結合します。これでグリコシドができました。
- ブルース 有機化学 第8版 1017ページ 20.12 FORMATION OF GLYCOSIDES Mechanism for Glycoside FOrmation
グリコシド結合はエーテル結合か?違いは?
エーテルの構造は、R−O−R′ です。グリコシド結合も 結合部分をみると R-O-R’の形をしています。では、グリコシド結合はエーテル結合である(もしくは、エーテル結合の一種である)と言ってよいのでしょうか?
Glycosidic bond is an ether linkage between two monosaccharides. Oxide or ether linkage between two monosaccharides formed generally by the loss of water. https://byjus.com/question-answer/glycosidic-linkage-is-an-1/
上のクイズでは、グリコシド結合は、何結合でしょうか?という選択式問題になっていて、エステル結合、ペプチド結合、エーテル結合という選択肢の中から、正解としてエーテル結合を選ばせる問題でした。だとすると、グリコシド結合はエーテル結合の一種という言い方はしてよいようです。しかし高校の化学と大学の化学は多少ズレがある可能性もあるので、鵜呑みにできません。上のサイトは高校生向けの学習サイトのようです。
A glycosidic bond or glycosidic linkage is a type of ether bond that joins a carbohydrate (sugar) molecule to another group, which may or may not be another carbohydrate. A glycosidic bond is formed between the hemiacetal or hemiketal group of a saccharide (or a molecule derived from a saccharide) and the hydroxyl group of some compound such as an alcohol. A substance containing a glycosidic bond is a glycoside.
https://en.wikipedia.org/wiki/Glycosidic_bond
ウィキペディア英語サイトには、グリコシド結合はエーテル結合の一つだと書いてありました。
化学においてグリコシド結合(ぐりこしどけつごう、英: glycosidic bond)とは、炭水化物(糖)分子と別の有機化合物とが脱水縮合して形成する共有結合である。 具体的にグリコシド結合とは、単糖(または単糖誘導体)のヘミアセタールとアルコールなどの有機化合物のヒドロキシ基との間の結合である。文献では、アミノ基または他の含窒素基と糖との結合もグリコシド結合としばしば呼ばれる(しかしIUPACは間違った用法であるとしている)。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%82%B3%E3%82%B7%E3%83%89%E7%B5%90%E5%90%88
興味深いことに、日本語のウィキペディアサイトには、エーテル結合だという説明はありません。ヤフー知恵袋や教えてGooでも同じ質問が多数挙がっていますが、どの回答が信頼できるのかは、回答だけ読んでもわかりません。
- https://study.com/academy/lesson/alkyl-ether-compound-formula.html
- 5: Acetals & Ethers LibreText Chemistry
- エーテル結合のなかで特にグルコースどうしをなぜ、グリコシド結合と呼ぶのですか? ヤフー知恵袋 -NH-CO-はアミド結合ですが、アミノ酸どうしならペプチド結合 同じ結合でも特定の物質に対して呼び方を区別した方が、説明する上で科学者たちにとって分かりやすい
- グリコシド結合とはエステル結合の一種ではないのですか? ヤフー知恵袋 糖のアノマー位の水酸基は、普通の水酸基とは異なり、ヘミアセタールのOHである。 したがって、グリコシド結合は、ヘミアセタールがさらに脱水縮合したものであるから、アセタール結合である。
- グリコシド結合とエーテル結合の違い 教えて!goo 両者とも、-OH基同士が脱水をともなう結合をすることで成り立つもののように思うのですが、違うでしょうか??
- エーテル結合とグリコシド結合の違いってなんですか? ヤフー知恵袋 https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q13247313968 グリコシド結合はエーテル同様にヒドロキシの脱水反応によってできているように見えがちですが、正確にはヘミアセタールとアルコールの結合です。
- エーテル結合とグリコシド結合の違いって何ですか? ヤフー知恵袋 https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q13232898173
手元にある看護学生向けの生化学の教科書を読むと、
単糖どうしは、脱水縮合によりエーテル結合(-O-)でつながることができる。単糖におけるエーテル結合をとくに、グリコシド結合 glycosidic bondという。
59ページ 生化学 第14版 医学書林
とありました。結合部分の構造に着目すれば、そういう言い方ができるようです。ただし、アルコール同士の脱水縮合によるエーテル結合の生成と、糖(ヘミアセタール)と相手との脱水縮合によるグリコシド結合の生成とは、反応機構が異なると思いますので、わざわざグリコシド結合のことをエーテル結合のひとつであると表現する場面は、教育的な場以外ではあまりないように思います。
結論として、グリコシド結合の反応機構において糖のヘミアセタールの構造が重要な役割を持っているので、できた結果だけみてエーテル結合と同じと言わないほうがよいのではないかと思いました。結果としてできた構造だけに着目すれば、グリコシド結合はエーテル結合の一種と言えるでしょうが、反応物や反応機構の違いに着目すれば、グリコシド結合はエーテル結合とは違うと言えます。
アセタールはエーテルか?
ChatGPT-3.5に聞いてみました。
YouChatGPTAcetal is not an ether; it’s actually a functional group in organic chemistry. Acetals are formed by the reaction of aldehydes or ketones with alcohols under acidic conditions. They have the general structure R2C(OR’)2, where R and R’ are alkyl or aryl groups. Ethers, on the other hand, have the general structure R-O-R’, where R and R’ can be alkyl or aryl groups. While both acetals and ethers contain oxygen atoms bonded to carbon atoms, their structures and methods of formation are different.YouIt seems that R-O-R’ can be found in R2C(OR’)2. So acetal may be a kind of ether. right?ChatGPTYou’re correct that both acetal and ether contain the R-O-R’ structure. In fact, acetal is sometimes referred to as a type of ether. However, there are significant differences between them.Acetals are formed specifically from the reaction of aldehydes or ketones with alcohols under acidic conditions. They are often used as protecting groups in organic synthesis. On the other hand, ethers are a broader class of compounds where the oxygen atom is directly bonded to two organic groups. Ethers are typically formed through the reaction of alkoxide ions with alkyl halides or through Williamson ether synthesis.So while there are similarities in their structures, their methods of formation and chemical properties are different enough that they are treated as distinct functional groups in organic chemistry.
エーテル
エーテルの定義は、2つのアルキル基が一つの酸素原子に結合した化合物です。
- ブルース 有機化学 第8版 第3章 Alkanes 139ページ
- Williamsonエーテル合成 東京化成工業 Williamson (ウィリアムソン) エーテル合成は,アルコールとアルキルハライドからエーテルを合成する反応です。この反応では,アルコールにナトリウムヒドリドなどの塩基を作用させ,生じたアルコキシドがアルキルハライドとSN2形式で反応することで,エーテルが得られます。
- エーテル https://www.hamajima.co.jp/rika/chemterm/54121601.html 酸素原子に2個の炭化水素基が結合した構造をもつ化合物。酸素原子による−𝑂−の結合をエーテル結合という。
エーテルの合成
There are two primary reactions to generate ethers: either by Dehydration of Alcohols or by the Williamson Synthesis. Acyclic ethers can be prepared using Williamson’s synthesis, which involves reacting an alkoxide with a haloalkane. https://chem.libretexts.org/Bookshelves/Organic_Chemistry/Supplemental_Modules_(Organic_Chemistry)/Ethers/Synthesis_of_Ethers
- https://chem.libretexts.org/Bookshelves/Organic_Chemistry/Supplemental_Modules_(Organic_Chemistry)/Ethers/Synthesis_of_Ethers/Dehydration_of_Alcohols_to_Make_Ethers As shown in the following two equations, the success of this procedure depends on the temperature. At 110º to 130 ºC an SN2 reaction of the alcohol conjugate acid leads to an ether product. At higher temperatures (over 150 ºC) an E2 elimination takes place.
その他の参考
- アリル基 allyl group CH2=CH-CH2–
- アセタールを用いた立体選択的反応の研究(183ページPDF) 石原一彰
- https://ultrabem.com/other_topics/biochem_basic/bond_list
アルカン alkanes
アルカンとは、炭素と水素のみが一重結合だけでつながった分子の総称です。アルカンは炭素の数に応じて1から10までを挙げると、 メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、へプタン、オクタン、ノナン、デカンです。
- ブルース 有機化学 第8版 第3章 Alkanes 125ページ
アルカンから水素原子一つを除いた官能基をアルキル基と呼びます。alkane の語尾 -ane を -ylに変えるわけです。なのでメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基のようになります。
- ブルース 有機化学 第8版 第3章 Alkanes 128ページ