遺伝率の計算方法、統計遺伝学入門など

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無理ゲー社会など一般書でも「遺伝率」と言う言葉が普通に紹介されていますが、そもそも遺伝率とは何でしょうか。遺伝率は書籍によっては遺伝規定性とも呼ばれます(例:IQの遺伝と教育 A.R.ジェンセン)。

遺伝率とは

遺伝率を定義する以前の、そもそもの話として、量的遺伝学において、

表現型値P=遺伝型値G+環境型値E

というモデル式を仮定します。この式はまだDNAが発見される以前の話です。このモデルが有効だったので、現在に至るまで使われているわけです。

  1. Introduction to Quantitative Genetics by Bruce Walsh(YOUTUBE 28:44~)

遺伝率という言葉は、知能に限らず一般的に、「量的形質」に関する概念として定義されています。

自然界の多くの形質は、メンデル性のような二値形質ではなく、正規分布のような量的な分布にしたがう。これを量的形質と呼び、その遺伝性については伝統的に遺伝率(heritability)で計測されてきた。簡単には、それは表現型分散に占める遺伝分散の割合として定義され、‥

遺伝率 H^2 =VG/VP

表現型分散 VP=遺伝分散VG+環境分散VE

(ゲノム医学のための遺伝統計学 共立出版 付録6.1 量的形質の遺伝学 128~129ページ)

なぜ分散を足し合わせるのかについては、以下の説明が参考になります。独立性を仮定しているわけですね。遺伝子型値という変数と、肝局効果という変数が独立なので、それらの和(つまり表現型値)の分散は、各々の分散の和として書けます。これは、相互作用がある場合の項がゼロになるからです。

Var[X+Y] = Var[X] + Var[Y] + 2∙Cov[X,Y]  で Cov[X,Y]がゼロなので、

Var[X+Y] = Var[X] + Var[Y]

  1. 2012年度前期「(上級)エコノメトリックスI」 (大学院・学部)  エコノメトリックスI」講義ノート 05/15/2012(PDF)

分散 variance:

データのちらばり具合を示す尺度で平均からのデータのずれの2乗を平均したもの。2つの独立な変量の和の分散それらの分散の和に等しいという相加性量的形質の分析にとって最も重要な法則である。

例)表現型値=遺伝子型値+環境効果、表現型分散=遺伝分散+環境分散

育種の原理 北海道立総合研究機構 畜産試験場)

量的形質の遺伝

下の説明が、直感的に理解しやすいと思います。

ある興味のある形質に着目し、優良な親を選抜して掛け合わせるとする。そうして得られた子供集団での表現型値の平均選抜された親集団での平均と同じなら、それは遺伝によって決定されていると考えるだろう。かたや、子供集団での平均が、選抜の効果なく一般集団の平均と同じになるなら、遺伝の関与はなく、環境がすべてを決めているのだろう。(ゲノム医学のための遺伝統計学 共立出版 付録6.1 量的形質の遺伝学 128ページ)

遺伝率とは何ではないか

遺伝規定性(heritability)は、ある特定の個人間の変動(個人差)を規定する遺伝の割合を表す。遺伝性、遺伝率などとも訳されている。これは母集団に関するものであるから、一人の個人のなかの遺伝の割合を表したものではない

(訳注(1)363ページ IQの遺伝と教育 A.R.ジェンセン)

遺伝率の計算方法

Using Falconer’s formula () heritability can be calculated as twice the difference between monozygotic and dizygotic twin correlation (rmz and rdz, respectively), as shown in Equation 1.

H2 = 2(rmz − rdz)           (1)
GWASデータ解析と遺伝率の計算
GWAS:genome-wide association studies
SNP:single nucleotide polymorphism
GRM:genetic relationship matrix
LMM:linear mixed models
GCTA:genome-wide complex trait analysis
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5127448/
  1. Analysis of Heritability Using Genome-wide Data Jacob B. Hall and William S. Bush(Author manuscriptCurr Protoc Hum Genet. 2016 Oct 11; 91: 1.30.1–1.30.10. doi: 10.1002/cphg.25
  2. GCTA: A Tool for Genome-wide Complex Trait Analysis. The American Journal of Human Genetics Volume 88, Issue 1, 7 January 2011, Pages 76-82 (Open access) There has not been any consensus on the explanation of the “missing heritability.” Possible explanations include a large number of common variants with small effects, rare variants with large effects, and DNA structural variation.
  3. Broad-sense heritability in plant breeding Maria Belen Kistner & Flavio Lozano-Isla

一つの変数のうち、ほかの変数に帰せられる分散の割合、r^2、つまり二変数間の相関係数の二乗である

(IQの遺伝と教育 A.R.ジェンセン)

遺伝規定性h^2は、遺伝子型分散に対する表現型分散の割合、すなわち h^2=VG/VPとして定義される。

全表現型分散VP=遺伝成分VG+環境成分VE+V誤差

各々の項はさらに細かく分けられる。

全遺伝子分散VG=家族遺伝分散VGB+家族遺伝分散VGW

全環境分散VE=家族VEB+家族VEW

(参照:IQの遺伝と教育 A.R.ジェンセン 319ページ、320ページ)

遺伝子に関する分散を、全分散(個々に関する分散の和)で割っているので、単純に、遺伝子に関する分散が全分散に占める割合を求めているだけです。

For quantitative traits, heritability can be estimated as 2(rMZ − rDZ) where rMZ refers to the co-twin phenotypic correlation for MZ twins and rDZ refers to the correlation for DZ twins.

ScienceDirect
  1. Quantitative Genetics  Heritability ndsu.edu Two specific types of heritability can be estimated.
  2. Calculate heritability from an anova result stats.stackexchange.com

統計遺伝学入門

  1. GenomeDataAnalysis2 遺伝統計学・夏の学校 講義実習資料 2023年8月25-27日
  2. Principles of Plant Genetics and Breeding, 3rd Edition George Acquaah ISBN: 978-1-119-62632-9 December 2020 Wiley-Blackwell 848 Pages 初版2007年(PDF)

失われた遺伝率 Missing Heritability

双子研究では高い遺伝率が示されたのに対し、同じ表現型に関してGWASデータに基づいて計算された遺伝率は、ずっと低いということがしばしば起こり、失われた遺伝率の問題として知られています。

MPG Primer: Heritability and SNP-heritability (2020) Broad Institute

 

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