L-FABPとは

L-FABPの発見

腎臓を解剖学的にみると、糸球体を含む腎小体以外のほとんどを尿細管間質が占めている。そして尿細管間質障害が糸球体病変よりも腎予後に関係することは古くから指摘されている7)。そこで我々は尿細管障害を反映するマーカーこそが重要であると考え、尿細管障害が生じるメカニズムに着目した。研究の結果、アルブミンに結合した脂肪酸が尿細管障害を惹起する主要なファクターであることを見出し、その脂肪酸の処理に関わる蛋白として、肝臓型脂肪酸結合蛋白「L-FABP(liver-type fatty acid-binding protein)」に行き当った。 (https://dm-rg.net/news/2018/02/018465.html)

L-FABPとは

L-FABPはいくつか存在するFABPサブタイプのうち、初めに肝臓で発見されたため”肝臓型”と呼ばれているが、実際は近位尿細管により多く発現している。その機能は、ミトコンドリアや脂肪酸をβ酸化する細胞内小器官に輸送してATP産生に寄与したり、脂質をリガンドとする転写因子であるPPAR(peroxisome proliferator-activated receptor)を活性化することなどにより、細胞内の脂肪酸レベルの恒常性維持に関与すると考えられている8)。 我々はマウス近位尿細管でのL-FABPの発現増加が腎保護的に作用することを認め、ヒトにおいても腎生検での尿細管間質障害の程度と尿中L-FABPが相関することを報告した9)。これらは尿中L-FABPが尿細管障害を反映する新規バイオマーカーであることを意味している。(https://dm-rg.net/news/2018/02/018465.html)

L-FABPの働き

酸化ストレス状態では、活性酸素によって遊離脂肪酸が細胞毒性の強い過酸化脂質に変換される。L-FABPはこの過酸化脂質と結合し尿中への排出されることで、保護的に働く。L-FABPは、近位尿細管が虚血や酸化ストレスの負荷を受けると発現が増強することから、組織障害が進行する前のストレスの程度を反映する新しいバイオマーカーになると考えられている。

  1. ヒトL型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)キット ノルディア® L-FABP 積水メディカル株式会社

参考

  1. 腎疾患における尿中L-FABPの臨床的意義 池 森 敦 子聖マリアンナ医科大学解剖学機能組織、腎臓高血圧内科
  2. 腎疾患診断用バイオマーカーL-FABP情報サイト
  3. 日本発のバイオマーカー 尿中L-FABPを活用した腎疾患管理 2018.02.15 糖尿病リソースガイド
  4. 尿中L-FABPによる造影剤誘発急性腎障害(CI-AKI) の予測 Manabe, et al., European Journal of Clinical Investigation, 2012; 42 (5): 557-563 論文ピックアップ
  5. 循環器領域におけるバイオマーカーとしての尿中L-FABPの有用性と可能性 第83回 日本循環器学会学術集会ランチョンセミナー48 会議センター315(パシフィコ横浜)共催:シミックホールディングス株式会社、積水メディカル株式会社
  6. 敗血症性AKIにおける急性腎障害マーカーL-FABPの可能性 糖尿病ネットワーク(http://www.dm-net.co.jp/)の記事を再編集したものです。司会:東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科野入 英世先生演者:医療法人沖縄徳洲会 湘南鎌倉総合病院 麻酔科・集中治療部(現在:自治医科大学附属さいたま医療センター 集中治療部)小室 哲也先生
  7. 集中治療における急性腎障害バイオマーカー~L-FABPの可能性~ 第44回 日本集中治療医学会 学術集会教育セミナー19 第9会場(ホテルさっぽろ芸文館3F 黎明の間)共催:シミックホールディングス株式会社、積水メディカル株式会社
  8. AKI次世代バイオマーカーの可能性 透析会誌 51(2):129~133,2018
  9. 腎疾患などの研究へ:【糖尿病性腎症】非臨床(動物用)L-FABP測定キット

L-FABPに関する科研費研究

  1. 閉塞性腎障害における腎保護性蛋白であるL-FABPの前臨床研究 2019-04-01 – 2022-03-31 片山 泰章 岩手大学, 農学部, 准教授 (70436054) 小区分90130:医用システム関連 基盤研究(C)
  2. 腎障害の新規バイオマーカー ; L-FABP、NGALは尿の遠心処理により測定値が変化するか 2019 佐藤 恵美 東京大学, 医学部附属病院, 臨床検査技師 3180:医療薬学関連 奨励研究
  3. 腎障害マーカーL-FABPを用いた抗菌薬の新規投与設計法に関する研究 2018-04-01 – 2021-03-31 鈴木 貴明 千葉大学, 医学部附属病院, 講師 (30396676) 小区分47060:医療薬学関連 若手研究
  4. 腎障害早期マーカーL-FABPを用いた抗MRSA薬のTDM精度向上に関する研究 2017-04-01 – 2018-03-31 鈴木 貴明 千葉大学, 薬剤師 奨励研究
  5. 慢性腎臓病発症予測バイオマーカーとしての尿中L-FABPの前臨床研究 2016-04-01 – 2019-03-31 片山 泰章 岩手大学, 農学部, 准教授 (70436054) 基盤研究(C)
  6. 脳内酸化ストレス応答における腎交感神経系と尿細管L-FABPの影響 2014-04-01 – 2017-03-31 金口 泰彦 順天堂大学, 医学部, 助教 (30569728) 基盤研究(C)
  7. 移植腎傷害早期診断バイオマーカーとしての尿中L-FABPの前臨床研究 2013-04-01 – 2016-03-31 片山 泰章 岩手大学, 農学部, 准教授 (70436054) 基盤研究(C)
  8. 近位尿細管の尿中L型脂肪酸結合蛋白を介した腎内RASの調節機構並びに関連病態の解析 2010 – 2011 谷藤 千暁 順天堂大学, 医学部, 助教 (80449058) 若手研究(B)
  9. 腎疾患バイオマーカーとしての尿中L-FABPの基礎的検討 2007 – 2008 野入 英世 東京大学, 医学部・附属病院, 准教授 (00301820) 基盤研究(C)