コレステロールの構造、生合成、阻害剤スタチン

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コレステロールは生体において非常に重要な物質です。押さえておくべき知識としては、

  1. コレステロールは細胞膜の重要な成分
  2. コレステロールは、ステロイドホルモン(コルチゾール、アンドロゲン(男性ホルモン)、エストロゲン(女性ホルモン)の前駆体になる。
  3. 胆汁酸の前駆体
  4. 動脈に沈着すると心臓病脳卒中のリスク要因になる(アテローム性動脈硬化(atherosclerosis)  ギリシャ語:athera かゆ + sclerosis 硬さ)
  5. 肝臓で、アセチルCoAから多数の反応を経て作られる。
  6. HMG-CoAレダクターゼ(メバロン酸をつくる酵素)の量と活性が、コレステロール生合成の制御として重要
  7. LDL受容体によって血中コレステロール濃度は低く保たれている
  8. Konrad Blochらがコレステロールの生合成経路の研究に貢献
  9. 高コレステロール血症の治療薬であるスタチンは、HMG-CoAレダクターゼを阻害する薬
  10. 食べものから摂取および生体内でde nove生合成されることにより、得られている

参考

  1. ヴォ―ト基礎生化学
  2. KONRAD BLOCH The Biological Synthesis of Cholesterol SCIENCE 1 Oct 1965 Vol 150, Issue 3692 pp. 19-28 DOI: 10.1126/science.150.3692.19 コレステロールの構造を決める研究の歴史の概観 1930年代にコレステロールの構造が完全に決定された  Sire Robert Robinsonがコレステロールの環状の骨格はスクアレンによってできているのではないかという仮説を提唱 Blochらは、同位体トレーサーを用いることにより、酢酸がコレステロールの側鎖および4員環骨格の構成要素になることを発見。
  3. ARTICLE THE BIOLOGICAL CONVERSION OF LANOSTEROL TO CHOLESTEROL. R.B.ClaytonKonradBloch Journal of Biological Chemistry Volume 218, Issue 1, 1 January 1956, Pages 319-325 https://doi.org/10.1016/S0021-9258(18)65895-8
  4. SYNTHESIS OF LANOSTEROL IN VIVO* BY PETER B. SCHNEIDER, R. B. CLAYTON, AND KONRAD BLOCH (Received for publication, June 14, 1956) Journal of Biological Chemistry Volume 224, Issue 1, 1 January 1957, Pages 175-183

コレステロールの構造が複雑でいつまでたってもなかなか覚えられないでいました。しかし、目で映像的に覚えれば、案外、覚えられることがわかりました。

ステロイド

コレステロールはステロイドの一種ですが、ステロイドsteroidは、六員環3つと、五員環1つの4つの環の骨格をもつ脂質のことです。覚えるときは六角形を2つ、一辺を共有するかたちで横に並べて描き、右の六員環の右上にもうひとつ接するように描きます。その右横に五員環を接するように描きます。環の名前は左からA,B,C,Dと呼ばれます。炭素の番号はAの一番上から反時計回りに1,2,3,4,5とつけて、環Bにうつって6,7,8,9,10とします。次に環Cを時計まわりに11,12,13,14として、環Dにうつって反時計回りに15,16,17とします。炭素13についているメチル基がのCが18,炭素10についているメチル基のCが19になります。17の炭素に「側鎖」がつきます。

  1. マクマリー生化学反応機構第2版 2・2 生体分子:脂質 テルペノイド、ステロイド、エイコサノイド 55ページ

コレステロールの構造

上のステロイド骨格に加えて、コレステロールの場合は側鎖は炭素8個からなるので、合計するとコレステロールは27個の炭素からなることになります(化学式C27H46O)。3番の炭素には水酸基がついています。また、5-6番の炭素間は二重結合になっています。側鎖の番号は、17の次の、側鎖の最初が20,分岐したメチル基が21,長い鎖のほうにむかって22,23,24,25,26,先端の枝分かれの炭素が27となります。25からは先が割れて26と27になるイメージです。

  1. Fig. 1. Structure of cholesterol with the numbering of the carbon atoms. Analytical methods for cholesterol quantification Journal of Food and Drug Analysis Volume 27, Issue 2, April 2019, Pages 375-386 https://doi.org/10.1016/j.jfda.2018.09.001

 

コレステロールの生合成経路

コレステロールの生合成経路は長大でかなり複雑に見えます。しかし炭素5個(C5)からなるイソプレンCH2=C(-CH3)-CH2-CH3が5個結合した形であるスクアレン(C30)が、メチル基除去などのいくつかの反応を経てC27になると理解すれば、見通しが良くなります。

イソプレンは、ピロリン酸が結合したイソペンテニルピロリン酸(IPP)CH2=C(-CH3)-CH2-CH2-O-(P)-(P) として反応にかかわります。

コレステロールの産生を抑制する薬としてスタチンが有名ですが、スタチンHMG-CoA還元酵素を阻害して、HMG-CoAからメバロン酸が生成する反応を阻害します。

アセチルCoA

コレステロールの構造は複雑ですが、環になる前の鎖状の構造を見てみると、イソプレン(C5)が6個つながったもの(C30)が主骨格のもとになっています。イソプレンに2リン酸が結合したイソペンテニルピロリン酸(IPP)を作るための材料が、アセチルCoAです。

アセチルCoAを最初に学ぶのは、ピルビン酸(C3)がTCA回路に入るときに、脱炭酸(C1)されて、まずアセチルCoAに変換されて、そのアセチル基(C2)がオキサロ酢酸(C4)に結合してクエン酸(C6)が回復するという場面でした。TCA回路ではこのC6化合物が2回、脱炭酸してC4化合物になります。この酸化の過程でATPにのちに変換するのにつかわれるNADH(3分子)やFADH2(1分子)、GTP(1分子)を作るのでした。

つまり、分解され、酸化されてエネルギーを取り出すためのアセチルCoAだったわけですが、実はアセチルCoAは「異化」だけでなく、種々の高分子化合物(コレステロール、脂肪酸など)を合成する「同化」反応において、炭素骨格を提供する原材料としても使われるという点が重要だと思います。

  1. 畠山『生化学』121ページ 図6-9 アセチルCoAの移動とNADPHの供給

 

さて、ステロイド合成に向けた反応の出発点ですが、アセチルCoA 2分子が「クライゼン縮合」と呼ばれる反応によって、アセトアセチルCoAになります。

CH3-C(=O)-S-CoA  + CH3-C(=O)-S-CoA   → CH3-C(=O)-CH2-C(=O)-S-CoA  + HS-CoA 

  1. マクマリー生化学反応機構第2版 1・8カルボニル縮合反応の機構 29ページ エステルの縮合はクライゼン縮合反応と呼ばれ
  2. チオエステル結合(コトバンク)カルボキシル基(-COOH)とチオール基(-SH)が脱水縮合してできる結合(-CO-S-)。高エネルギー結合の一つ。
  3. クライゼン縮合 Claisen Condensation(Chem-Station)塩基性条件下におけるエステル同士の縮合反応。 2 R1-C-C(=O)-OR2 → R1-C-C(=O)-R1-C(=O)-OR2
  4. クライゼン縮合(ウィキペディア)2分子のエステルが塩基の存在下に縮合反応してβ-ケトエステルを生成する反応である。 R-C-C(=O)-O-R’ + R-C-C(=O)-O-R’→ R-C-C(=O)-C(-R)-C(=O)-O-R’ + R’OH
  5. クライゼン縮合 (FUJIFILM)

アセトアセチルCoA

アセトアセチルCoAは、再度アセチルCoAと反応します。この反応はアルドール反応で、

CH3-C(=O)-CH2-C(=O)-S-CoA  + CH3-C(=O)-S-CoA →(アルドール反応)

さらに加水分解がおこり、3-ヒドロキシ3-メチルグルタリルCoA(HMG-CoA)

HOOC-CH2-C(OH)(CH3)-CH2-C(=O)-S-CoA

が生成します。

ヒドロキシメチルグルタリルCoA(HMG-CoA)

ヒドロキシメチルグルタリルCoA(HMG-CoA)は、2分子の(NADPH + H+)によってチオエステル基の部分が還元されて、メバロン酸 HOOC-CH2-C(-CH3)(-OH)-CH2-CH2OH (と2分子のNADP+)を生成します。

メバロン酸

メバロン酸 HOOC-CH2-C(-CH3)(-OH)-CH2-CH2OH

メバロン酸は、メバロン酸キナーゼにより、5-ホスホメバロン酸になり、さらにホスホメバロン酸キナーゼによって、5-ピロホスホメバロン酸になります。それから、ピロホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの働きによって、イソペンテニル二リン酸(C5)が生じます。

イソペンテニル二リン酸 H2C=C(-CH3)-CH2-CH2-O-PO2(-)O-PO3(2-)

イソペンテニル二リン酸(IPP)

イソペンテニル二リン酸 H2C=C(-CH3)-CH2-CH2-O-PO2(-)O-PO3(2-) が生成します。

イソペンテニル二リン酸 が異性化して、ジメチルアリル二リン酸(DMAPP)

ジメチルアリル二リン酸(DMAPP)

イソペンテニル二リン酸 (C5)とジメチルアリル二リン酸(DMAPP)(C5)との結合により、ゲラニル二リン酸(C10)が生成します。

ゲラニル二リン酸(C10)

H3C-C(-CH3)=CH-CH2-CH2-C(-CH3)=CH-CH2-O-PO2(-)-O-PO(2-)   (C10化合物)

ゲラニル二リン酸(C10)にイソペンテニル二リン酸(C5)が結合してファルネシル二リン酸(C15)が生成します。

ファルネシル二リン酸(C15)

ファルネシル二リン酸(C15) 2分子が向かい合わせになるような向きで結合してスクアレン(C30)になります。

スクアレン(C30)

H3C-C(-CH3)=CH-(CH2-C(-CH3)=CH-CH2)2 – (CH2-CH=C(-CH3)-CH2)2 -CH2-CH=C(-CH3)-CH3

上記の構造であるスクアレン(C30)は直鎖構造をしていますが、これが環状になったものがラノステロール(C30)です。

ラノステロール

ラノステロール(C30)から3つのメチル基が取り除かれます。また、側鎖の二重結合が還元されて、環構造の中にある二重結合は場所が移動します。こうしてコレステロールになります。

コレステロール

コレステロールは、他の種々のステロイドの前駆体としての役割を担います。

 

スタチン

HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系) 働き・特徴肝臓におけるコレステロールの合成に関与するHMG-CoA還元酵素の作用を阻害することによって、コレステロールの産生を抑制する薬です。

参考

  1. マクマリー生化学反応機構第2版 3・6ステロイドの合成 141ページ~
  2. マークス臨床生化学 第28章 コレステロールの吸収、合成、代謝、運命

 

 

 

 

 

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