生化学の勉強をしていると、NAD+, NADH, NADPH+, NADPH, FAD, FADH2といろいろ似たものが登場して頭が混乱させられます。たいていの場合、まずは解糖系、TCA回路、電子伝達系というエネルギー代謝経路を学び、その際にNAD+/NADH、FAD/FADH2が登場します。ところが、そのご、何かの機会でNADP+/NADPHが登場してきて、こんがらがるわけです。何が共通点で、何が相違点なのかを纏めておきます。
NAD+/NADH、FAD/FADH2、NADP+/NADPH は酸化還元反応で活躍する補酵素です(電子受容体(酸化型)/電子供与体(還元型))。酸化反応や還元反応では電子のやり取りがありますので、電子の担体(運び屋さん)という言い方もされますし、電子の受容体、電子の供与体などと言われることもあります。
NADHは、Nicotineamide Adenine Dinucleotideの略。水素Hがついているので還元型(還元された状態)。NADHという名前の文字のうち、N,A,Dは略号で、Hだけは水素そのもので、還元型であることを示しています。
NAD+(酸化型) + 2e− + H+ ⇔ NADH(還元型)
FADH2は、Flavin Adenine Dinucleotideの略。で水素が2つついているので(H2)、還元型。
FAD(酸化型) + 2e− 2H+ ⇔ FADH2(還元型)
NADPHは、Nicotineamide Adenine Dinucleotide phosphateの略。水素Hがついているのは、還元型。
NADP+(酸化型) + 2e− + H+ ⇔ NADPH(還元型)
NAD,NADP,FADはアデニンやリボース、リン酸エステルなど複雑な構造で圧倒されますが、これらは酵素による構造認識で重要なだけで反応に重要なのはニコチンアミドの部分やフラビンの部分だけです。それを知れば、複雑な構造を目にしてビビらなくて済みます。また、構造が異なるということは、その構造を認識できる酵素も異なるというわけなので、これらの補酵素が関与する化学反応も異なるということは理解できます。
下のの図中のニコチンアミドの6員環の中の炭素に、還元型では水素がひとつ付加して、N+の電荷もゼロになっています(NADHの構造式に描かれた2つの水素のうちの一つは、もともとついていたもの。NAD+では描かれていなかっただけです。)。
NADPは、NADにリン酸基がついたもので、それ以外の部分の構造はNADと同一です。このリン酸は、補酵素NADPが酵素に認識される際の構造的な特異性を生み出すために存在するものであって、リン酸基を他に供与したりするのに使われるものではありません。NAD+/NADHがエネルギー代謝(リン酸基が転移される反応が多い)で登場するため、紛らわしいので要注意。
- Protein Engineering for Nicotinamide Coenzyme Specificity in Oxidoreductases: Attempts and Challenges. Andrea M. Chánique1 and Loreto P. Parra Front Microbiol. 2018; 9: 194. Published online 2018 Feb 14. doi: 10.3389/fmicb.2018.00194 Different structural motifs enable the union of the coenzyme and give the specificity for NAD or NADP. Usually, enzymes preferring NADP have larger pockets with positively charged or hydrogen bond donating residues that interact with the phosphate group of the adenine ribose (Pick et al., 2014). NAD preferring enzymes contain negatively charged amino acids that generate repulsion toward NADP and form hydrogen bonds to the 2′-OH and 3′-OH of the adenine ribose (Petschacher et al., 2014).
NADHとNADPHとの違いは何かというと、NADHはエネルギー代謝(異化、つまり高分子の分解)の際に、電子受容体としてつかわれ、NADPHは同化反応(生体高分子の合成)の際に電子供与体として使われるという、使い分けです。
- Better than Nature: Nicotinamide Biomimetics That Outperform Natural Coenzymes. J Am Chem Soc. 2016 Jan 27; 138(3): 1033–1039. Published online 2016 Jan 3. doi: 10.1021/jacs.5b12252 Oxidoreductases, for example, rely on the nicotinamide coenzymes to supply them with the redox equivalents required to sustain their catalytic cycles. Two forms of natural coenzymes exist: the phosphorylated (NADP+/NADPH) and nonphosphorylated (NAD+/NADH) forms (FigureFigure11A). Nicotinamide coenzymes essentially contain two structural motifs, the nicotinamide moiety conferring their electrochemical function (i.e., serving as an electron source or sink in the form of a hydride) and the adenosine dinucleotide moiety conferring the separation between anabolic and catabolic pathways. NADP is involved in anabolic redox processes, whereas NAD is mostly found in processes dealing with energy metabolism.
NADHとFADH2は、TCA回路で作られます。一方、NADPHは、ペントースリン酸回路で作られます。
NADPHの役割
NADPHの還元作用は、生体内で様々な役割を果たしています。
- 高分子の生合成(脂肪酸、コレステロール、アミノ酸、ヌクレオチドなどのde nove合成)
- 活性酸素種H2O2の消去(捕捉) (還元型グルタチオンGSHを再生あるいは抗酸化タンパク質チオレドキシン(TRX)を還元することによって)
- NADPH oxidases (NOXs) によるスーパーオキサイド (O2−) 産生の際の補酵素として
NADHやFADH2と違って、ATP産生に使われるわけではありません。
- NADPH-The Forgotten Reducing Equivalent. Cold Spring Harb Perspect Biol . 2021 Jun 1;13(6):a040550. doi: 10.1101/cshperspect.a040550. Navdeep S Chandel (PubMED)
- SOSA (Superoxide Radical Scavenging Activity) 技術用語解説 活性酸素消去(活性酸素捕捉)フリーラジカルとは対になっていない孤立した電子を持っている物質の総称で、一般的に不安定で反応性が高い。一重項酸素は酸素ラジカルではないが、広義の活性酸素に含まれる。