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アルコールを飲むとなぜ喉が渇く?

アルコールを飲むと喉が渇きます。アルコールの代謝に水が必要?と一瞬思いましたが、そういうわけではなく、単に、アルコールに利尿作用があるため、体から水分が失われるので水の補給が必要になるということだそうです。もしくは、細胞外液の浸透圧がアルコールのせいで上昇するため、細胞から水が失われるので水を補給したくなるということみたいです。

  1. お酒を飲みすぎた翌日は、いつも冷たい水をがぶ飲みしてしまいます。これって大丈夫ですか?(サントリー)

アルコール(エチルアルコールCH3CH2OH)は、胃や腸で吸収され、肝臓に運ばれて、ADH(アルコール脱水素酵素)の働きによりアセトアルデヒドに変換され、さらにALDH(アルデヒド脱水素酵素)の働きで酢酸になります。酢酸は、アセチルCoAになり、TCA回路に入って最終的には、二酸化炭素にまで分解されます。あるいは、脂肪酸の原料としても使われます。

アルコールが代謝されてできるアセチルCoAが脂肪酸の原料だから、飲みすぎは太るのかというと、理由としてはそれだけではないようで、お酒には糖質もかなり含まれていることが多いので、その糖質が栄養の摂りすぎになって太るという可能性もあるそう。

  1. 【酒好き必見!】太りにくいお酒の種類・飲み方・おつまみを徹底解説 MedicaLook

アルドール反応とは

解糖系について勉強していると、グルコースからピルビン酸にいたるまでの経路にでてくる反応で、フルクトース1,6ビスリン酸 CH2(-OPO4 2-)-C(=O)-CH(OH)-CH(OH)-CH(OH)-CH2(-OPO4 2-)が2つに分かれて、ジヒドロキシアセトンリン酸 CH2(-OPO4 2-)-C(=O)-CH2(OH)とグリセルアルデヒド3-リン酸 CH(=O)-CH(OH)-CH2(-OPO3 2-) が生成する反応があります。これはアルドール開裂(アルドール反応の逆反応)と呼ばれるもので、この反応を理解するためには、アルドール反応が何なのかを勉強する必要があると感じました。

カルボニル基 -C(=O)-に隣接する炭素は、α炭素と呼ばれ、そのα炭素に結合している水素はα水素と呼ばれるのだそうです。このα水素が水素イオンとして脱離することによって、α炭素がマイナスの電荷を帯びます。これが、エノラートイオンと呼ばれるそう。

アルドール反応とは

新しい炭素-炭素結合を作ることが出来る 有機化合物の基本骨格を、二つのフラグメントを結合する形で繋げ、より複雑なものに出来る。 炭素をつなげる王道反応:アルドール反応 (1) Chem-Station

aldol反応とは、α水素を有するアルデヒド(またはケトン)が酸もしくは塩基の存在下、2分子間で起きる付加反応のことです。生成物はβ-ヒドロキシルアルデヒドまたはβ-ヒドロキシルケトンとなります。ここでいう「β」はβ位のことで、カルボニル基の隣(=α位)のさらに隣(=β位)という意味です。(aldol反応・aldol縮合 yaku-tik.com)

解糖系の場合、ジヒドロキシアセトンリン酸 CH2(-OPO4 2-)-C(=O)-CH2(OH)とグリセルアルデヒド3-リン酸 CH(=O)-CH(OH)-CH2(-OPO3 2-)  の2つが構成要素で、アルドール反応の生成物が、フルクトース1,6ビスリン酸 CH2(-OPO4 2-)-C(=O)-CH(OH)-CH(OH)-CH(OH)-CH2(-OPO4 2-) なので、確かに、生成物のβ位の炭素には水酸基(アルデヒド由来)になっていて納得です。

アルドール反応のエッセンス部分は、炭素から水素イオンが脱離して、炭素がマイナスイオンになっているのを(-)と書いておくと、

-C(=O)-C(-)  + CH(=O)  ⇒ -C(=O)-C-C(OH) –

ということになります。

アルドール反応(アルドールはんのう、aldol reaction)はα位に水素を持つカルボニル化合物が、アルデヒドまたはケトンと反応してβ-ヒドロキシカルボニル化合物が生成する反応で、求核付加反応のひとつ。 アルデヒド同士がこの反応を起こすとアルドールを生成することから、この名で呼ばれる。(アルドール反応 ウィキペディア)

アルドールとは、アルデヒド+アルコールの造語だったんですね。知ってすっきり。「アルデヒド同士がこの反応を起こすとアルドールを生成」という説明で、ようやく気付きました。

なぜこんな反応が起きるのか?カルボニル基のとなりの炭素(α炭素)に水素がある化合物の場合、

R-C(=O)-CH2-R (ケト型) は、R-C(-OH)=CH-R(エノール型)の配置もとれるのだそうです。二重結合(en)をもつアルコール(-ol)なのでエノールという名称になるわけですね。この水素が脱離した分子は、エノラート(enolate)と呼ばれるそうです。R-C(=O)-CH-R  α炭素がマイナスの電荷を帯びることになります(水素は水素イオンとして脱離)。このマイナス電荷の炭素が、もう一方のケトンあるいはアルデヒドの分子内にある、プラス電荷気味になっているカルボニル基の炭素に対して「求核置換」の攻撃をするわけですね。

  1. アルドール反応・アルドール縮合:酸・塩基によるエノラート合成 Hatsudy:総合学習サイト

さて、エノラートという言葉を学んだので、もういちどアルドール反応の定義に戻ります。これが厳密な定義なのかな。

アルドール反応の定義は以下の通りである。【α水素をもつカルボニル化合物から発生したエノラート(エノール)がもう一つのカルボニル化合物へ求核付加し、β-ヒドロキシカルボニル化合物を与える反応】(炭素をつなげる王道反応:アルドール反応 (1) Chem-Station)

アルドール反応・アルドール付加・アルドール縮合という名称

自分が混乱したのは、アルドール縮合という言葉です。上記の説明では、縮合(例えば水分子が脱離するなど)していなくて、単に結合しただけです(付加反応)。付加反応のことを縮合と呼ぶ人もいるようですが、アルドール反応は実際にこの付加反応が生じたあと、次に続く反応で縮合も生じるので、それを(もしくはそれも含めて)アルドール縮合と呼ぶのかもしれません。

【縮合】2分子またはそれ以上の有機化合物が反応して、簡単な化合物の脱離を伴いながら新しい化合物を生成する反応をいう。たとえば、酢酸とエタノール(エチルアルコール)から酢酸エチルを生成するエステル化の反応は、酢酸とエタノールの両分子から簡単な化合物である水が脱離して、より大きい分子である酢酸エチルを生成するので縮合反応である。縮合反応ということばはかなり広く用いられていて、アルドール縮合のように、2種類の分子があわさって一つの大きな分子が生成するだけで、簡単な分子がとれないという例外的な縮合反応もある。(縮合 コトバンク)

コトバンクにはアセトアルデヒドCH3CHO 2分子が「アルドール縮合」して

HC(=O)-CH3   + HC(=O)-CH3   →  HC(=O)-CH2-CH(OH)-CH3

アルドールが生成される反応が例として挙げられています。

アルドール縮合反応の名称は、アルデヒドやケトンが2分子関わってこれらが縮合によって生成する、それぞれβ-ヒドロキシアルデヒド類(β-アルドール)およびβーヒドロキシケトン類(β-ケト―ル)から名付けられた。一般にはこれらのβーヒドロキシ化合物の脱水によって生成するα、βー不飽和アルデヒド、およびケトン類を含んで総称されている。(糖尿病とメイラード反応 須山亨三 仙台大学紀要 2006 Vol.38. No.1. pp47-71)

ここまでくれば、

薬剤師国家試験平成30年度第103回一般理論問題問106 は簡単に答えがわかります。

生体において解糖や糖新生は、アルドラーゼにより触媒される可逆過程(アルドール反応及び逆アルドール反応)を含む。Aの構造式として正しいのはどれか。1つ選べ。ただし、構造式はすべて鎖状構造を示している。(PDF 第103回薬剤師国家試験問題及び解答(平成30年2月24日、2月25日実施) 厚生労働省)

生化学におけるアルドール反応の例

解糖系でC6がC3に分かれるところが、アルドール反応の逆反応(アルドール開裂)でした。重要なエネルギー代謝経路でアルドール反応が起きている別の例としては、クエン酸回路にアセチルCoAが入るときの反応があります。アセチルCoAのアセチル基がオキサロ酢酸に付加されて、クエン酸ができるわけですが、最初にこの反応を見たとき、CoAのチオール基側の炭素が骨格として繋がるのかと思ったのですが、どうやらそうではないようで、一体どういう反応でメチル基側の炭素が繋がるのだろうと不思議でした。これがまさにアルドール反応によるものと知り、なるほどと思いました。

アセチルCoA  CH3-C(=O)-S-CoA  のメチル基の炭素がまさに、カルボニル基の隣、すなわちα炭素で、それについている水素がα水素です。この水素が水素イオンとして脱離して、炭素がマイナスの電荷をもち、オキサロ酢酸 O=CCOOH-CH2(COOH) のカルボニル基の炭素(プラスに電荷が偏っている)を攻撃するわけですね。アルドール反応により、

O=C(-S-CoA)-CH2-C(OH)(COOH)-CH2COOH

加水分解(H2O)により、HS-CoA とクエン酸 HOOCCH2-C(OH)(COOH)-CH2COOH になります。

  1. アルドール反応 クエン酸 (health.joyplot.com) アセチルCoAとオキサロ酢酸がアルドール反応によりカップリングした後、チオエステル部分が加水分解を受けて生成される。
  2. 加水分解(ウィキペディア)水分子 (H2O) は、生成物の上で H(プロトン成分)と OH(水酸化物成分)とに分割して取り込まれる。

参考

  1. ブルース有機化学概説(第3版) オンライン提供「18章 酵素触媒反応の機構・ビタミンの有機化学」(p.678〜729)
  2. 有機化学 改訂2版 (丸善出版 2016年)奥山 格, 石井 昭彦, 箕浦 真生 plus on the web ウェブチャプター23 生体物質の化学 23E 代謝の化学
  3. 第24回 エノール・エラノートの反応(1) 名城大学理工学部応用化学科

論文で使える英語表現の目的別まとめ

これまでに自分たちが明らかにした

  • “We previously demonstrated that” 135,000

明らかでない

  • “remains unclear” 1,180,000 ”remain unclear” 502,000
  • ”not well understood” 756,000
  • (has/have) “not been well understood” 33400

メカニズムが明らかでない

  • “through poorly understood mechanisms” 998
  • “via poorly understood mechanisms” 345
  • “with poorly understood mechanisms” 208

あまり研究されていない・調べられていない

  1. understudied” 235,000
  2. “under-investigated” 36,400 +名詞 で使うことが多いようです。

今回は、~かを調べた

  • “In this study, we investigated if” 3250
  • “In this study, we examined if” 1560
  • “In this study, we asked if” 708

それに対して・一方

  • “in contrast” 7,520,000 何と何とを対比させたいのかを明らかにするため、前置詞を続けることも多い。
  • “in contrast to” 6,680,000
  • “in contrast with” 1,590,000

重要な点は・重要なことに

結論を述べる表現

  • “Our findings suggest that” 592,000
  • “Our findings indicate that” 365,000
  • “Our findings prove that” 1580

 

時間やタイミングを表す英語表現

by ~ ~までに by the time その時刻よりも前もしくはその時刻が該当する範囲です。その時刻も含まれることに注意(参考動画)。by next Monday 月曜までに と言った場合、日本語でも月曜日も含まれそうなので、まあ英語も同じってことですね。

  1. Almost all native contacts are formed by the time of 100 000–300 000 Monte Carlo steps. (paper) (ある時点までにその出来事が起きている、完了している)

during ~ 前置詞。~の期間の間ずっと または ~の期間の間のある時に 同じ意味で使える接続詞はwhile 。2つの使い方があり得ることに注意。

  • The accident happened during my holidays.(転載元)休暇中にその事故は起きた。(ある期間の一点で)

throughout ~  ~の間中ずっと

  1. Isofluorane was maintained at 1.0%–1.5% (v/v) in oxygen at 1.0 – 1.5 l/min throughout the surgery. (論文

until ~ ~の時刻・タイミングまで連続していたことを示すときに使います。

注意

  1. 例の少なさは、不適切であることを必ずしも意味しない。そのような言い方や用例が少なかったというだけ。もちろん、英語として不適切なので、誤用例が少数見受けられた可能性もある。
  2. 例が多くても、外国人による誤用である場合もあり得る。

「奥井 朝子 不倫(おくい あさこ ふりん)」クエン酸回路(TCA回路/クレブス回路)の中間代謝物の化合物の名称を丸暗記する方法

TCA回路での重要事項

個々の中間代謝産物の名前を覚えるよりも大事なことを列挙しておきます。

  1. クエン酸1分子あたり、この回路一周することで、NADHが3分子FADH2分子が1分子GTPが1分子CO2が2分子生じる。
  2. この回路のなかの脱炭酸反応産生するCO2および、ピルビン酸(C3)がアセチルCoA (アセチル基はC2)になる際の脱炭酸反応が、人間が肺で呼吸するときに吐き出す二酸化炭素CO2.
  3. NADH,FADH2は電子供与体として、次のステップである電子伝達系で使われる。
  4. GTPはATPをつくるのに使われる。
  5. TCA回路そのものでは直接ATPが産生されない。(注:GDP→GTPでなく直接ADP→ATPがつくられる動物種・臓器もあるため、教科書によって記述が異なることがある)

TCA回路の暗記

ATPやアセチルCoAの構造式を覚え、解糖系の反応物と働く酵素を覚え、次にやるべきは、TCA回路を覚えることでしょう。大学院入試の前には全部暗記しましたが、もうすっかり忘れています。どうすれば、長い間覚えていられるのでしょうか。

やはり語呂合わせや歌で覚えるしかなさそうです。

日本語でのTCA回路の語呂合わせ

日本語で、語呂合わせで覚える方法がありました。「おくいあさこ不倫」で覚えられます。奥井朝子不倫なのか奥居麻子不倫なのか、奥井亜佐子不倫なのか、奥井亜沙子不倫なのか、奥井阿紗子不倫なのかはわかりませんが、

  1. 「お」きさろ酢酸(オキサロ酢酸)
  2. 「く」えん酸(クエン酸)
  3. 「い」そくえん酸(イソクエン酸)
  4. 「あ」るふぁーけとぐるたる酸(α‐ケトグルタル酸)
  5. 「さ」くしにるCoA(サクシニルCoA または スクシニルCoA)
  6. 「こ」はく酸(コハク酸)
  7. 「ふ」まる酸(フマル酸)
  8. 「りん」ご酸(リンゴ酸)

の8個の化合物です。クエン酸回路という名前ですが、オキサロ酢酸がクエン酸になるところから、この語呂合わせはスタートします。サクシニルCoA よりも、 スクシニルCoAと呼ばれるほうが多いと思いますが、サクシニルCoAという呼び名も使われているようです。

  1. 代謝疾患分野|サクシニル-CoA:3-ケト酸CoAトランスフェラーゼ欠損症(平成22年度)(難病情報センター)
  2. 「奥井あさこ」不倫 星薬科大学教授 ・ファルマシアアドバ イザー 辻 勉 フアルマシア Vol.45 No.6 2009 これは先日教室で耳にした学生達の会話の一部です.聞いてみると.生化学でのTCAサイクル(クエン酸回路)に登場する代謝中間体の名称と順序の語呂合せだそうです.「」キサロ酢酸→「」エン酸→「」ソクエン酸→「」ルファーケトグルタル酸→「」クシニルCoA→「」ハク酸→「」マル酸→「リン」ゴ酸 の頭文字を繋いだものだそうで,なかなか良くできており妙に感心してしまいました.

さて、構造式ですが。

クエン酸

クレブス回路、クエン酸回路、TCA回路といろいろな名前で呼ばれますが、この回路は、解糖系でできたピルビン酸がアセチルCoAになって、そのアセチル基が使われることでクエン酸が再生されるところから始まります。クエン酸という名前を知っていても、構造式は思い浮かびません。構造式を覚える手がかりになるのは、TCA回路という名前です。これはトリカルボン酸回路の略で、つまりカルボン酸が三つあるということです。クエン酸の構造は、カルボン酸(カルボキシ基)が3つついていることを知っていれば、CH2(COOH)-C(OH)(COOH)-CH2(COOH) は覚えやすいでしょう。真ん中の炭素には、水酸基がついているのは、覚えておくしかありません。

イソクエン酸

イソという名前(isomer 異性体)が示すとおり、クエン酸の異性体で、水酸基が炭素一つ移動して、

HO-CH(COOH)-CH(COOH)-CH2(COOH) になります。

α‐ケトグルタル酸

さて、イソクエン酸HO-CH(COOH)-CH(COOH)-CH2(COOH) の水酸基がついた炭素  C(-OH)-は酸化されてカルボニル基 -C(=O)-になります。この酸化反応と同時にNADH+が還元されてNADHが産生します。続いておこる脱炭酸反応により二酸化炭素が産生されます。脱炭酸が起きるカルボキシ基は真ん中の炭素についたものです。

-OOC-C(=O)-CH2-CH2(COO-)

炭素6個の化合物から二酸化炭素が抜けたので、炭素5個の化合物になりました。

  1. Isocitrate Dehydrogenase (NADP)  sciencedirect.com

スクシニルCoA

さて、脱炭酸反応は、続けて起こります。スクシニルCoAという名前が示すようにsuccinilate(コハク酸)にCoAが結合した化合物です。α‐ケトグルタル酸のケトン基がついている炭素のカルボキシ基で脱炭酸反応が起きます。また触媒する酵素がデヒドロゲナーゼですので水素ものぞかれます。そこにCoAが結合しますので、CoA-S-C(=O)-CH2-CH2(COO -)  となることがわかります。-S-はCoAのチオール基のSを明示的に書いたものです。

  1. Alpha-ketoglutarate dehydrogenase: a target and generator of oxidative stress Laszlo Tretter and Vera Adam-Vizi Published:04 November 2005 https://doi.org/10.1098/rstb.2005.1764

コハク酸

スクシニルCoA CoA-S-C(=O)-CH2-CH2(COO -) からCoAが外れて、そこに水酸基がつきます。CoAのチオールエステル結合は、「高エネルギー結合」のひとつであり、この結合がきれることでたくさんのエネルギーが放出され、そのエネルギーはGDPをGTPにすることに使われます(共役する)。

– O-C(=O)-CH2-CH2(COO -)   同じことですが少し書き直すと

– OOC-CH2-CH2-COO - 対称的な構造をしていることがわかります。

ここで、酸素の数が合わないような気がして、一体どこから来たのだろうという疑問が生じました。加水分解と考えると、

CoA-S-C(=O)-CH2-CH2(COO -)  + H2O  ⇒ CoA-SH + HO-C(=O)-CH2-CH2(COO -)

つじつまがあいます。ところが、話はそう単純ではありません。

スクシニルCoAはステップ5において加水分解されてコハク酸となるが、この反応は水分子による単純な求核アシル置換反応のように思われる。しかし、酵素に結合したチオエステルが加水分解される解糖系のステップ6,7でみられたように、この反応は見かけよりは複雑である。スクシニルCoAシンテターゼにより触媒されるこの”加水分解反応”は、水分子は関与しない。(マクマリー生化学反応機構 186ページ)

上の教科書では加水分解という言葉をちょっと使っていますが、見かけは加水分解だけど実は水は登場しないと注意を促しています。

これは、全体の反応を考えると、疑問が解消しました。

スクシニルCoA + 無機リン酸 + GDP  ⇒ コハク酸 + CoA + GTP

が全体としての反応です。無機リン酸(inorganic phosphate)はPiと略記されることが多いですが、オルトリン酸(正リン酸 orthophosphate) H3PO4のこと。水素が電離する個数によって、H3PO4, H2PO4 -, HPO4 2-, PO4 3- となります。スクシニルCoAからいきなりコハク酸になるのではなくて、スクシニルCoAと無機リン酸( OPO3H 2-)が反応して、succinyl phosphate(日本語名???)がまずできます。

-OOC-CH2-CH2-C(=O)-S-CoA  + OPO3H 2-   ⇒ -OOC-CH2-CH2-C(=O)-OPO3 2-   +   HS-CoA

次にsuccinyl phosphateのリン酸基がGDPに転移されてGTPを生じ、自身はコハク酸になります。

-OOC-CH2-CH2-C(=O)-OPO3 2-     + GDP  ⇒ -OOC-CH2-CH2-C(=O)-O –  +  GTP

無機リン酸からもらった酸素でした。

  1. 無機リン酸 photosyn.jp
  2. Step 5 of the Krebs cycle: Succinyl-CoA Synthetase proteopedia.org

フマル酸

コハク酸の骨格部分の2つの炭素から水素が除かれて二重結合が導入されます。異性体がありえますが、フマル酸はトランス型です。ちなみに、シス型の異性体は、マレイン酸(maleic acid)です。

HC(-COOH)=CH-COOH

リンゴ酸

フマル酸に水分子が反応して二重結合があったところに水酸基がひとつ導入されます。

HOOC-CH(-OH)-CH2-COOH

オキサロ酢酸

リンゴ酸から水素が除かれて、水酸基だったところはケトン基に変わります。

HOOC-C(=O)-CH2-COOH

オキサロ酢酸もα‐ケト酸であることが構造式から読み取れます。

クエン酸

オキサロ酢酸HOOC-C(=O)-CH2-COOHに、アセチルCoAからアセチル基がもらわれて(アルドール反応)、クエン酸に戻ります。HOOC-CH2-C(OH)(COOH)-CH2-COOH

  1. アルドール反応とは

クエン酸回路は8個の化合物からなって、一見複雑ですが、化合物名を覚え、酵素名を覚え、反応を考えれば、案外構造式は書き下せるものだと思いました。クエン酸から出発してぐるっと一周するのを3,4回も書けいていると、自然に覚えられます。

 

TCA回路を覚えさせられるのは日本の学生だけでなく、世界でも同じ。英語の語呂合わせもあるみたいです。

TCA回路の中間代謝物の名称の語呂合わせ(英語)

  1. CITRIC ACID CYCLE SONG | Science Music Video Jam Campus (YOUTUBE)

下の動画に、Can I Keep Selling Substances For Money, Officer?  という文で覚えましょうと、覚えかたの語呂が紹介されていました。

  1. Krebs Cylcle Trick How to remember krebs cycle FOREVER!! MEDSimplified

早速試してみました。これは、いけます。2回くらい白紙に書き出してみたら、頭に入りました。

  1. Citrate
  2. Isocitrate
  3. Ketoglutarate
  4. Succinyl CoA
  5. Succinate
  6. Fumarate
  7. Malate
  8. Oxalo acetate

の8つの化合物が自分の頭の中から出てきます。初めてTCA回路を勉強する人には難しいかもしれませんが、一度TCA回路を学んでいて、化合物名やその英語名をある程度聞いていて、なかなか覚えられないという状態の人であれば、お勧めの語呂合わせだと思います。

さて、次に構造式をどうやって覚えるかです。なにしろ、「呼吸」の過程なので、二酸化炭素CO2が発生します。クエン酸はC6(炭素6個)ですが、CO2が発生するとCの数が減っていきます。ですので、Cの数およびCO2の発生がどこで生じるかに気をつけたほうが、覚えやすくなります。

  1. Citrate   C6
  2. Isocitrate   C6
  3. α-Ketoglutarate C5  脱炭酸反応で、CO2発生
  4. Succinyl CoA C4   脱炭酸反応で、CO2発生
  5. Succinate C4
  6. Fumarate C4
  7. Malate C4
  8. Oxalo acetate C4
  9. Citrate   C6 (アセチルCoAから、アセチル基(C2)をもらったので、Cの数が2増えて、もとに戻った)

ということになります。クエン酸が異性化してイソクエン酸になったあと、次々と脱炭酸反応が起き、C6,C5,C4ときてその後はC4のままで、最後にアセチルCoAからアセチル基(C2)をもらうことで、C6にもどり、一周すると覚えればいいでしょう。

TCA回路の酵素名の語呂合わせ(英語)

さて、上の動画では、酵素名の覚えかたも紹介されていたので、まずは酵素名から覚えましょう。

So, At Disco, Divil Sipped Five Drinks.  と覚えるのだそうです。ここで、SはSyntase(合成酵素)、DはDehydrogenase(脱水素酵素)で、AとFだけは、そのまま、Aconitaseと、Fumaraseと覚えるしかありません。

  1. Citrate  →   Isocitrate   [Aconitase]   At
  2. Isocitrate  →  α-Ketoglutarate  [Isocitrate dehydrogenase]   Disco
  3. α-Ketoglutarate →   Succinyl CoA  [α-ketoglutarate dehydrogenase]   Devil
  4. Succinyl CoA →  Succinate    [Succinyl CoA synthetase]   Sipped
  5. Succinate  →   Fumarate   [Succinate dehydrogenase]    Down
  6. Fumarate  →    Malate [Fumarase]    Five
  7. Malate →   Oxalo acetate   [Malate dehydrogenase]  Drinks
  8. Oxalo acetate →     Citrate   [Citrate synthase]    So,

Succinyl CoA synthetaseだけは、合成酵素なのに生成物ではなく反応物の名前が来ます。これは、逆反応も触媒するもので、逆反応のほうで名前がついたからなんでしょうね。

あと、Sは合成酵素といっても、synthase(シンターゼ)とsynthetase(シンテターゼ)の区別があります。ややこしいですね。例えばATPを合成する酵素は、ATPシンターゼです。シンテターゼは、高エネルギーリン酸結合の加水分解と共役して何かを結合させる酵素のようです。

  1. シンターゼとシンセターゼの違い(ultrabem.com)

コハク酸(Succinate)からスクシニルCoA(Succinyl CoA)を合成するときに、スクシニルCoAシンテターゼ(Succinyl CoA synthetase)が働くわけですが、その際GTPを加水分解します。今、TCA回路ではこの逆反応なので、GDPからGTPが生成されます。TCA回路では実はATPは一つもできませんが、GTPが一つできるんですね。このGTPは、このあとADPからATPを産生するのに使われますので、トータルで産生されるATPを数えるときには、数にカウントされます。

上の語呂合わせでは、synthaseとsynthetaseとの区別をつけていなかったというのが、要注意だと思いました。

また、自分の手元の教科書だと、

aconitaseのことは、aconitic acid hydratase アコニット酸ヒドラターゼ で紹介されており、

fumarate は、 fumarate hydratase フマル酸ヒドラターゼ となっています。酵素には名前が複数あることがるので、ややこしい。違う人が違う呼び方をするかもしれないので、結局、全部覚えるはめになります。

まあ、機械的に丸暗記するより、こういう語呂合わせでもいいので手がかりがあったほうが覚えやすいのは確かです。

クエン酸回路の図

自分にとって見やすい図を一つ決めておくと、いいです。

中間代謝物の構造と酵素

  1. 畠山 生化学 80ページ 図4-11

収支の概略

  1. 畠山 生化学 82ページ 図4-12
  2. https://www.sciencedirect.com/topics/neuroscience/citric-acid-cycle

参考

  1. マクマリー生化学反応機構 4・4 クエン酸回路 180ページ~
  2. Bruice Organic Chemistry 5th edition Chapter 25 The Organic mechanisms of the coenzymes ・Metabolism page 1038 Figure 25.3 The citric acid cycle
  3. 畠山 生化学 80ページ 図4-11
  4. 酸と塩基の強さ NHK高校講座

 

アセチルCoAの構造式を丸暗記する方法:

生化学でアセチルCoAは主役中の主役です。しかし、その構造式は想像を絶するほど複雑で、きちんと書ける人は一体どれだけいるんだろうと思ってしまいます。しかし、よくよく眺めると、いくつかの重要な物質に分けて考えることができるため、丸暗記できなくもなさそうです。

アセチルCoAの構造式

まずアセチルCoAという名前が示す通り、アセチルCoAはCoAにアセチル基が結合したものです。CoAは補酵素AまたはコエンザイムAと呼ばれるもの。また、補酵素AのAとは何かというと、名前の由来は実は、acetate(酢酸)を活性化する補酵素というものです。acetateのaだったんですね(もしくはactivation のa?)。

  1. https://en.wikipedia.org/wiki/Coenzyme_A
  2. 酢酸を活性化する酵素(アセチルCoA合成酵素)欠損マウスは絶食時に体温、持久力が低下する。 ―酢酸が絶食時の燃料になることを発見―

酢酸の構造はCH3COOHで、アセチル基はCH3CO-です。つまりアセチルCoAは、酢酸の水酸基とCoAのチオール基(-SH)とが脱水縮合して結合した構造をしていて、CH3CO-S-CoAと書けます。SはCoAの一部なのですが、チオール基のところにアセチル基が結合していることを明示するためにSをあえて書く書き方です。そんなわけで、アセチルCoAの構造を覚え長ければCoAの構造を覚えればよいということになります。

CoAの構造式を眺めてみて、真っ先に気付くのは、ATPに似た構造があること。アデニンがリボースに結合しており、リボースの3位にはリン酸が結合しているのがちょっと特徴的。6位の炭素にはリン酸基が2つついています。その先に、いろいろ複雑な構造がつながっているわけです。リン酸に結合しているうちの真ん中部分は、ビタミンの一種である、パントテン酸です。パントテン酸の先に、端にチオール基をもつ化合物があります。2-アミノエタンチオールです。パントテン酸だけとっても、その構造は複雑ですが、パントテン酸はさらに2つに分解して考えることができます。β‐アラニンパントイン酸(2,4‐ジオキシ-3,3,ジメチルブタン酸)です。パントイン酸と覚えても構造式は出てこないので、2,4‐ジオキシ-3,3,ジメチルブタン酸で覚えましょう。ブタンなので炭素は4つ(メタン、エタン、プロパン、ブタン、‥)。酸なので、端はカルボキシ基。カルボキシ基の炭素から順に1,2,3,4と炭素に番号が振られます。2,4に水酸基が、3,3にメチル基がついた構造ですので、書き下してみると、

HOOC-C(OH)-C(CH3)2-CH2OH となります。

また、β‐アラニンの構造式は?と考えると難しいですが、最初にアミノ酸のα‐アラニンを思い出して、側鎖はメチル基だったので、HOOC-CH(NH2)-CH3を思い出せます。これはα位の炭素にアミノ基がついていますが、β‐アラニンはβ位の炭素にアミノ基がつくので、HOOC-CH2-CH2(NH2)だということがわかります。さて、β‐アラニンとパントイン酸を結合させてやると、

HOOC-CH2-CH2(NH2) と HOOC-C(OH)-C(CH3)2-CH2OH  との、アミノ基とカルボキシ基の間で脱水縮合させて、

HOOC-CH2-CH2(NH) -C(=O)-C(OH)-C(CH3)2-CH2OH

これがパントテン酸。

さて、これに2-アミノエタンチオール HS-CH2-CH2-NH2 を結合させると、同様にアミノ基とカルボキシ基の間で脱水縮合させて、

HS-CH2-CH2(NH)-C(=O)-CH2-CH2(NH) -C(=O)-C(OH)-C(CH3)2-CH2OH  となります。これを、さきほどの3-ホスホアデノシンの6位のリン酸2つに結合させて、

HS-CH2-CH2(NH)-C(=O)-CH2-CH2(NH) -C(=O)-C(OH)-C(CH3)2-CH2O-リン酸-リン酸-(5位)アデノシン 3-リン酸 となります。これがCoAの部分。このチオール基にアセチル基 CH3-C(=O)-を結合させば、アセチルCoAです。

アセチルCoAの構造式:

CH3-C(=O)-S-CH2-CH2(NH)-C(=O)-CH2-CH2(NH) –C(=O)-C(OH)-C(CH3)2-CH2-O-リン酸-リン酸-(5位)アデノシン 3-リン酸

言葉で書くなら、

アセチル基-(2-アミノエタンチオール)-(β‐アラニン)-パントイン酸-リン酸-リン酸-アデノシン-3-リン酸

となります。β‐アラニンの両端は、どちらも -NH-C(=O)- という、ペプチド結合と同じ形なので覚えやすいです。パントイン酸は、別名2,4-dioxy-3,3-dimethyl butanoic acidと覚えておくしかありません。これで3~4回、書いてみれば、一晩たっても覚えていられる程度になりました。

アセチルCoAの産生

アセチルCoAはグルコースの代謝や、脂肪酸代謝によって産生されます。

アセチルCoAは、グルコースC6H12O6が解糖系で分解されてできるピルビン酸CH3C(=O)COOHが、ミトコンドリアのマトリックスに入ってピルビン酸脱水素酵素複合体によって脱炭酸されてCoAと結合することによりできます。

  1. ピルビン酸脱水素酵素複合体 PDBj 入門 今月の分子 最初の段階を実行する酵素は、チアミンピロリン酸(thiamine pyrophosphate)を使ってピルビン酸(pyruvate)から二酸化炭素を取り出す。

アセチルCoAから作られる化合物

アセチルCoAは脂肪酸のβ酸化(分解)により産生されますが、逆に、脂肪酸合成のための原材料にもなります。また、コレステロールの合成材料にもなっています。

血液型と抗原と抗体、血液型不適合臓器移植について

血液型は、A型、B型、AB型、O型がありますが、これらは特異的な抗原の有無によって分類された型です。A型の人は、A型抗原を、B型の人はB型抗原を、AB型の人はA型抗原とB型抗原を持っており、O型の人はA型抗原もB型抗原も持っていません。

血液型により持っている抗体も異なります。A型の人は、B型に対する抗抗体を持ち、B型の人はA型に対する抗体を持っています。AB型の人は、どちらの抗原に対する抗体も持っていません。O型の人は、両方に対する抗原を持ちます。

  1. 「血液型不適合腎移植:血液型が異なる場合の腎移植」 亀田メディカルセンター

臓器移植のことを考えた場合、血液が不一致だと移植できない(拒絶反応が起きる)というわけではなくて、移植提供者側の血液型の抗原に対する抗体を受ける側の人が持っているかどうかが決めてになります。

AB型の人は、抗体を持っていないのでA型の人もB型の人も移植臓器の提供者になれます。O型の人は抗体を両方のタイプ持っているので、O型の人に移植できるのはO型の人のみになります。

血液型が「不一致」でも「適合」になる場合があるというわけです。

なお医療技術が進展した今の時代、「不適合」だから腎臓移植ができないということでもなくて、レシピエントから、抗体を除去して移植するという方法(血液型不適合腎移植)があるそうです。

  1. 患者さんが腎移植に抱く3つの誤解(今井直彦)寄稿 2013.06.03 医学会新聞

血液型不適合腎移植

  1. 【腎臓病の体験談】出産の夢をかなえた患者さん。膠原病から腎不全になり、透析から血液型不適合の腎移植を成功して26年目 NPO法人 腎臓サポート協会 2015年08月18日
  2. ABO 血液型不適合腎移植 Update 高橋公太 日腎会誌 2008;50(7):880-886.

血液型不適合肺移植

  1. 血液型不適合で肺移植、10代女性に 京大病院が世界初  2022年4月12日 20:46 日本経済新聞

 

参考

  1. ABO血液型不適合腎移植は、生存・生着を改善するか/Lancet 2019/05/13
  2. 2010年 臓器移植法改正 本人の書面による同意がなくても家族の承諾だけで提供可能に
  3. 1997年10月 臓器移植法 施行  脳死者からの臓器提供が合法化

C型肝炎ウイルスについて

C型肝炎ウイルスの感染者数

日本人のC型肝炎患者数は推計100万~150万人。 https://news.yahoo.co.jp/articles/0c52a59a73da4d09d7687bc37427a331b7fa6ea6

国内にはC型肝炎ウイルスのキャリアは約200万人いるとされています。 https://medical-checkup.info/article/44965342.html

C型肝炎ウイルス感染の経過

約15~45%の感染者では、治療を受けなくても感染後6か月以内に自然にウイルスが排除 残る60~80%の感染者は、慢性HCV感染症へと進展 https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/2017/12081116.html

C型肝炎ウイルスに感染すると70%が持続感染者となる。 https://news.yahoo.co.jp/articles/0c52a59a73da4d09d7687bc37427a331b7fa6ea6

治療でウイルスを排除しなければ肝臓の線維化が進み、「慢性肝炎→代償性肝硬変→非代償性肝硬変→肝臓がん」と進行。非代償性肝硬変、肝臓がんでは死に至るリスクもある。https://news.yahoo.co.jp/articles/0c52a59a73da4d09d7687bc37427a331b7fa6ea6

沈黙の臓器」ともいわれる肝臓は、肝硬変となっても、はじめのうちは特に症状を感じることはありません。こうした自覚症状がほとんどない状態を「代償性肝硬変」と呼びます。しかし、実際には肝臓の機能は正常よりも低下しており、肝臓が無理に働き続けるため、肝機能の低下が進みやすい状態です。肝機能の低下がさらに進むと、肝臓が本来の働きを発揮しきれなくなることで、腹水や黄疸、肝性脳症、浮腫(むくみ)などの様々な症状が自覚されるようになります。この状態を「非代償性肝硬変」と呼びます。https://www.hcvcanbecured.jp/kankohen/decompensation/

C型肝炎に感染すると約70%の割合で慢性肝炎に移行する https://cgatakanen-support.net/before/liver_cancer.html

慢性肝炎は自覚症状がないまま10年~30年が経過し、肝硬変に進行する。https://cgatakanen-support.net/before/liver_cancer.html

日本の肝がんの原因の65%がC型肝炎と言われ、年間3万人以上が肝がんで亡くなっています。 https://cgatakanen-support.net/before/liver_cancer.html

肝癌の90%以上は肝硬変を伴っていることから、肝硬変の死因の60%以上は肝癌によるもの http://www.kanazawa-med.ac.jp/~hiromu/new_page_10.htm

肝癌による死亡者数は全世界で年間70万人にも上ります※3肝癌のうち約60-70%はC型肝炎ウイルス(HCV)感染が原因とされています。https://www.osaka-cu.ac.jp/ja/news/2017/170920

肝がんで亡くなる人の数は、肺、大腸、胃、膵臓に続き5番目 https://cgatakanen-support.net/before/liver_cancer.html

C型肝炎ウイルス感染の治療

今年8月、直接的抗ウイルス薬のひとつ「エプクルーサ」が適応拡大となり、C型肝炎の進行にかかわらず使えるようになった。しかも1日1回1錠、12週間服用すればよく、安全性が高い上に、ウイルスを100%排除できる。より使い勝手のいい薬https://news.yahoo.co.jp/articles/0c52a59a73da4d09d7687bc37427a331b7fa6ea6

今では「直接的抗ウイルス薬」という飲み薬が複数種類登場しており、ほぼ全員がウイルスを排除できる。https://news.yahoo.co.jp/articles/0c52a59a73da4d09d7687bc37427a331b7fa6ea6

抗ウイルス薬はC型肝炎患者の95%以上を完治 https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/2017/12081116.html

2014年以後、DAA(Direct acting antivirals; 直接型抗ウイルス薬)の開発に伴い、C型肝炎患者数が減少。 https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000781258.pdf

C型肝炎治療(第ガイドライン8 2020版)年7月日本肝臓学会肝炎診療ガイドライン作成委員会編 https://www.jsh.or.jp/lib/files/medical/guidelines/jsh_guidlines/C_v8_20201005.pdf

肝硬変

慢性肝炎が肝硬変まで進行すると、手掌紅斑と言って手のひらが赤くなってきたり、からだが黄色くなる黄疸という症状が出現したり、むくみが出たり、おなかに水がたまる腹水によって妊婦さんのようにお腹が膨らんだりすることがあります。さらに鼻血などが出やすくなったり、出血が止まりにくくなったりする症状がみられることがあります。
https://www.kanen.ncgm.go.jp/cont/010/c_gata.html

肝臓がん・肝癌

肝臓がんの治療 http://keijinkai-hp.net/chiryo/kanzo.html

肝臓がんの統計と他との比較

https://jams.med.or.jp/event/doc/123013.pdf

肺癌による死亡者数 死亡数(2020年) 75,585人(男性53,247人、女性22,338人)https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/12_lung.html

大腸癌による死亡者数 死亡数(2020年) 51,788人(男性27,718人、女性24,070人)https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/67_colorectal.html

胃癌による死亡者数 死亡数(2020年) 42,319人(男性27,771人、女性14,548人)

https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/5_stomach.html

肝癌による死亡者数 死亡数(2020年) 24,839人(男性16,271人、女性8,568人)

 

ATPの高エネルギーリン酸結合とは?結合エネルギーの大きさにあらず。放出されたエネルギーはどこに蓄えられていた?

ATPは高エネルギーリン酸結合に蓄えていたエネルギーを放出するのか?

ATPは、高エネルギーリン酸結合をもっているのでエネルギーを蓄えることができるといった説明を目にすることがあります。

ATPがADPに加水分解されるときに、高エネルギーリン酸結合が切れ、たくわえられていた化学エネルギーが放出される。(畠山『生化学』24ページ)

ATPというのは実は高校の生物基礎で勉強するので、そこではどう教えているんだっけと思ってみてみると、教育産業の動画ですが、

この2番目のリン酸と3番目のリン酸、実はここにはエネルギーが蓄えられている。エネルギーが蓄えられているんだけど、ここの結合のことを高エネルギーリン酸結合っていうふうに言います。ここにはエネルギーが実は蓄えられているから、ここの リン酸を取ると、ここの高エネルギーリン酸結合のエネルギーが外に放出されて、このエネルギーを例えば熱を作るとか筋肉を収縮させるみたいなことに使ったりするんだね。(TryIt 5分でわかる!ATPの構造

自分がこの動画で勉強したわけでは勿論ないのですが、高校レベルだと学習塾などではこういう説明がなされているのかもしれません。さすがに教科書であればもっと正確に記載しているのだろうと思います。この2例からわかるように、学習者が、結合にエネルギーが蓄えられていると誤解してしまうような説明が巷にあることは、自分のもやもやの一因かなと思います。

上の解説のような、化学結合にエネルギーが蓄えられているという表現は、自分には理解しづらいものでした。原子と原子のほうがエネルギー準位が高くて、結合したほうがエネルギーが低くなるからこそ、結合しているわけです。結合を切り離すためにはむしろエネルギーが必要なわけですから、エネルギーを蓄えているというのがしっくりきません。

上の教科書をもう一回じっくり読んでみると、

どのようにしてATPにエネルギーが貯蓄されているのだろうか。ATPのリン酸基は、リン酸結合でつながっている。このリン酸基の酸素原子(O)には電子がかたよっており、酸素原子同士は反発している。この結合は、高エネルギーリン酸結合とよばれる。ATPがADPに加水分解されるときに、高エネルギーリン酸結合が切れ、たくわえられていた化学エネルギーが放出される。(畠山『生化学』24ページ)

最初に静電的な反発のことが説明されていたので、リン原子と酸素原子との間の結合そのものにエネルギーが蓄えられていたという意図での説明では実はなかったのかもしれないと思い直しました。自分が読み違えてしまっただけかもしれません。高校化学の塾の動画は、高校レベルだから仕方がないのかもしれませんが、結合にエネルギーが蓄えられているという説明だったと思います。

別の教科書を見てみると、

化合物の特定の共有結合の加水分解によって大きなエネルギーが放出される場合、その化合物を高エネルギー化合物と言い、加水分解を受ける共有結合を高エネルギー結合という。(三輪・中『生化学』173ページ)

上の説明だと、呼び名の説明をしているだけであって、エネルギーが何に由来するのかといった原理的な説明をしているわけではないので、記述としては正しいのだと思います。だからといって、説明してもらった気はしないので、分かった気にはなりにくいです。

まあ、「高エネルギーリン酸結合が切れ、たくわえられていた化学エネルギーが放出される」という説明は、どこにたくわえられたていたのかはハッキリとは書かれていないので、「結合にたくわえられていた」と誤解して読んでしまいそうです。

 

エネルギーはリン原子と酸素原子との間の結合そのものに由来するわけではない

もしもATPの「高エネルギー」がリン酸エステルのPとOとの結合にだけ由来するというのであれば、ATPがADPになるときに放出されるエネルギー、ADPがAMPになるときに放出されるエネルギー、AMPがアデノシンになるときに放出されるエネルギーがどれも同じであるべきでしょう。実際のところ、これらの値はいくつなのでしょうか。

The hydrolysis of ATP to ADP + P, and that of ADP to AMP + P, have , values of -30.5 kJ/mol, while the hydrolysis of AMP to adenosine and P has a value of -14.2 kJ/mol. (study.com)

AMPの加水分解による自由エネルギーの値は、ATPやADPの加水分解のときの約半分のようです。これをみても、結合そのものに由来するエネルギーではなさそうです。

ストライヤーやヴォ―ト(VOET)の生化学の教科書にその点がはっきりと書かれていました。

”高エネルギー”化合物における”エネルギー”の由来 加水分解が大きな負のΔGo’値(習慣で-25kJ・mol-1より負)をもつ結合を”高エネルギー”結合(high energy bondまたはenergy-rich bond)とよび、その結合をふつう波印(~)で表す。ATPはAR-P~P~Pとなる。Aはアデニン、Rはリボシル基、Pはリン酸基を表す。しかしATPのアデノシル基にリン酸基を付けるリン酸エステル結合と、ATPのα、β、およびβとγのリン酸基の結びつける”高エネルギー”結合とは電子的にあまり差があるとは思えない。事実これらの結合に変わった性質はなく、”高エネルギー”結合という言葉は正しいとはいえない(いずれにしても”結合エネルギー”は共有結合している原子を加水分解ではなく切離すのに必要なエネルギーと別に定義されている)。(ヴォ―ト基礎生化学第5版 300ページ)

どう考えれば納得のいくのかと思ってあれこれ調べていたら、より正確な説明では、この高エネルギーリン酸結合というものは、(リン酸エステルのリン原子と酸素原子との結合に由来するエネルギーというわけではなく)加水分解されたときにエネルギーをたくさん放出するからそう呼ばれるということのようです。ウィキペディアや、メジャーな生化学の教科書には詳細な説明がありました。

反応の自由エネルギー変化が大きいのであって、P-O間の結合エネルギーは一般の化合物と比べて特に大きいわけではない点に注意が必要である。‥ 「高エネルギー」という用語は、負の自由エネルギー変化の直接的な原因が結合それ自身の切断によるものではないため誤解を招きかねない。これらの結合の切断は、ほとんどの結合の切断と同様に吸エルゴン的であり、エネルギーを放出するよりむしろ消費する。負の自由エネルギー変化はそれよりむしろ、加水分解後に生じる結合(またはATPによる残基のリン酸化)が加水分解前に存在する結合よりもエネルギー的に低いという事実から来ている(これには、リン酸結合自身だけでなく、反応に関与する「全て」の結合が含まれる)。この効果は反応物と比較した生成物の共鳴安定化および溶媒和の増大など数多くの原因によるものである。(高エネルギーリン酸結合 ウィキペディア)

 

高エネルギーリン酸結合というのは、結合エネルギーが高いという意味では決してありませんよという丁寧な説明をしている教科書もありました。

高エネルギー結合とは、この結合を切断(開裂)するためのエネルギー(結合エネルギー)が高いことではない。(カラーイラストで学ぶ集中講義生化学改訂第2版 9ページ)

ここまではっきり言ってくれると、紛れがなくていいですね。「高エネルギーリン酸結合」と言う言葉の中には、「結合」、「エネルギー」という言葉が含まれてしまっているため、非常に誤解を招きやすいと思います。 他の生化学の教科書でもこの点を明瞭に説明していました。

高エネルギーリン酸結合(~P)は通常いわれている結合エネルギーと同じ内容を意味していない。リン酸結合エネルギーは、リン酸化合物が加水分解され、リン酸が生成されたときの生成物と反応物の自由エネルギーの差であるが、通常いわれている結合エネルギーは、2原子間の結合を切断するのに必要なエネルギーを意味している。小野寺ほか『生化学』朝倉書店 85ページ)

中垣ら『生物物理化学』だったかマクマリー『有機化学概説』だったか、どっちか忘れましたが、高エネルギーリン酸結合は、化学熱力学でいう結合エネルギーが大きい結合という意味ではなく、逆で、結合エネルギーが小さい結合だと述べられていました。

数十年前の高校の生物の教科書を見ると「切れやすい」結合なのエネルギーが高いという説明をしていました。切れやすいということはとりもなおさず結合エネルギーが小さいということです。化学熱力学でいう結合エネルギーは結合を切断するのに要するエネルギーのことです。

高エネルギーリン酸結合のエネルギーはどこから?

じゃあエネルギーはどこに蓄えられていたのという話なのですが、ウィペディアや上の教科書(小野寺ほか『生化学』)によれば、ATPにリン酸が3つ結合しているわけですが、マイナスイオンになっている酸素が4つも密集していて電気的な反発があり不安定なこと、P=Oの結合でも電子は酸素のほうに引き寄せられるのでPはプラスに偏っていること(δ+)そのP同士が、プラスとプラスで反発するので不安定なことなどが挙げられています(他に、生成物のほうが電子の共鳴によって安定だそう)。加水分解による生成物は、そういった静電的な反発が減って安定になるので、その差が自由エネルギー変化というわけです。

自分の疑問に生化学の教科書はどう答えてくれるのか?という興味で、もう少し他の教科書も見てみます。

「高エネルギー結合」という用語は、ATP加水分解のΔG0’で定義される生物学的用語である。ATPとほぼ同等あるいはそれ以上のエネルギーの放出を伴って加水分解される結合はどれも高エネルギー結合と呼ばれる。‥ これらの分子に共通する特徴は、すべての高エネルギー結合が「不安定」でその加水分解がかなりの自由エネルギーを生む点であり、これは分子内での電子共鳴のため生成物がはるかに安定だからである。(マークス臨床生化学 5th edition 251~252ページ)

この教科書は、高エネルギー結合という言葉は生物学で使う言葉ですよと言っています。つまり化学で出てくる言葉とは別物ということなんですね。この教科書は、静電反発には触れずに、電子共鳴による安定化が、大きなエネルギーの由来だと説明していました。不安定ということはエネルギーが高いという意味ですから、この説明なら頭に入りやすいです。

ストライヤーの生化学の教科書に至っては、そもそも高エネルギー結合という言葉を前面に出していません。そのかわりの表現として、ATPはリン酸基転移ポテンシャルが高いという言い方をしています。ひとしきり説明を終えたあとに、注釈的な扱いで、説明があります。

ATPはしばしば高エネルギーリン酸化合物とよばれ、そのリン酸無水物結合は高エネルギー結合といわれる。そして、このような結合を表記するのに~Pがよく用いられる。といっても、結合それ自体は特別なものではない。上記の理由により、加水分解されるときに大量のギブズエネルギーが放出されるという意味において高エネルギー結合なのである。(ストライヤー 基礎生化学 第4版 東京化学同人 193ページ)

上記の理由というのは、静電的反発、共鳴安定化、エントロピーの増大、水和による安定化 の4つで、それぞれの解説がなされています。ADPに結合した~Pに対してもよりも、無機リン酸に遊離した場合のほうが水分子が四方八方からアクセスできるので、水和しやすいというのは理解できます。また、エントロピー増大というのは、単純に1分子(ATP)が2分子(ADPとPi)になったからというわけです。加水分解なので水分子が一つ減っていますが、水の濃度を考えれば加水分解で使われる水のことは無視してよいそうです。共鳴安定化というのは、いくつの配置をとりえるかということで、HPO4 2- であれば、4つのOとの間でPとの二重結合が形成できて共鳴するそうです。水素がついている酸素との間に二重結合ができるときは、-P=OH+ となっています。ところがAMP~P~Pにおいては、このような配置(共鳴構造式)は実現しないため、共鳴する配置の数が一つ少ない、つまり共鳴による安定性と言う意味では、無機リン酸よりも不安定なのだそう。

さすがストライヤーの教科書ですね。化学的な説明が詳細でした。

ハーパーの生化学でも、基転移ポテンシャル(group transfer potential)という語の方が、”高エネルギー結合”よりもよいとする人もいる。(イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書30版 丸善出版 136ページ) と説明しています。ハーパーの教科書では、ATPがADPに加水分解されることに伴う自由エネルギー変化の説明として、ATP4-にある4つの負の電荷間の反発が、ADP3で3つになることでやわらげられていること、遊離したリン酸は3つの電荷が4つの酸素原子間に振り分けられてて共鳴混成体を形成することで安定化するということを説明しています(137ページ 図11-6)。

ヴォ―ト(VOET)の生化学の教科書にも、高エネルギーの由来が説明されています。この教科書では、理由として、共鳴安定化、静電反発力の差、溶媒和のエネルギーの差が挙げられています。ちなみに、α、β、γというのはAMP、ADP,ATPの順につくリン酸の呼称。AR-P~P~Pの三つの線(結合)のうち、-は、「リン酸エステル結合」、~は「リン酸無水物結合」と呼ばれます(ヴォ―ト基礎生化学第5版 299ページ)。AR-Pの結合はリン酸エステル結合で、~はリン酸無水物結合、と種類(呼称)が違うんですね。今まで混同していました。この「リン酸無水物結合」の方が、高エネルギー結合と呼ばれて~という記号をわざわざ使って表記します。

  1. リン酸エステル結合はリン酸とヒドロキシ基の間で起こるエステル結合です。リン酸無水物結合はリン酸同士の間で起こる縮合です。YAHOO!JAPAN知恵袋
  2. リン酸無水結合 2個のリン酸が脱水して重合した結合(ピロリン酸結合)で、生体における高エネルギー結合。 ウェブリオ
  3. 酸無水物とエステル結合の違い YAHOO!JAPAN知恵袋 エステルは、アルコールと酸が結合したもの 大きく脱水縮合という枠があって、その中にエステル化や酸無水物

ひとくちメモ 共鳴 化学構造における電子の非局在化を共鳴という。ある分子の構造式が2通りも、3通りもの方法で描けるとき、多数の方法で描ける分子ほど共鳴による安定化が大きい。(ヴォ―ト基礎生化学第5版 300ページ)

  1. 7.6: ATP as Energy carrier LibreTexts(Chemistry) Table of common cellular phosphorylated molecules and their respective free energies of hydrolysis, under physiological conditions.
  2. 生命エネルギーの通貨ATP 〜ATPのエネルギー放出の分子メカニズム〜 東北大学 化学結合が切れるのに、エネルギーが放出されるとは、どういうことでしょうか?これまでの生物学の教科書には、そのエネルギー放出のメカニズムについていくつかの推測が書かれていますが、まだ本当のことは分かっていないのです。

確かに教科書の説明は、意外なことにあまり断定的に書かれていません。確定的なことは言えないということなのでしょうか。こんな古典的な内容が、実はメカニズムという点では現在の研究対象になるというのは面白いものです。比較的最近の科研費研究にもこのテーマがありました。

反応に関与する分子を量子化学の方法で扱い、周りの水分子を経験的分子力場で扱うQM/MM法を用いた。特に、最近提案された平均場近似に基づく方法(溶質の波動関数を溶媒平均場の下で決定し、得られた平均波動関数を溶媒に埋め込む)を用いて、反応に伴う自由エネルギープロファイルを定量的に計算した。その結果、全自由エネルギーの変化は溶質分子内のエネルギー寄与(リン酸基間のクーロン反発)と、溶質–溶媒間の静電相互作用による安定化(溶媒和自由エネルギー)の大きなキャンセレーションによって生じていることが分かった。溶質分子内におけるクーロン反発は末端リン酸基を解離させる力として働くが、まわりの水分子はリン酸基の解離を抑制する方向の力を与えており、両者のつりあいが反応速度を決めていることになる。その結果、誘電率の低い溶媒(有機溶媒)では、溶媒和による反応の抑制効果が十分でなくなり、末端リン酸は非常に解離しやすい状態となることが分かる。これは、酵素中(低誘電率のタンパク環境)におけるATP加水分解を促進する物理的な原因の一つであると考えられる。(研究課題/領域番号 21118508 多中心プロトン移動を含むATP加水分解とその自由エネルギープロファイルの理論研究 研究期間 (年度) 2009 – 2010)

 

高エネルギーリン酸結合は誤解を招く呼称

上で参照した教科書に書いてあったとおり、高エネルギーリン酸結合というのは、非常に誤解を招きやすい表現だと思います。名は体を表さない一例でしょう。初学者は、この落とし穴にはまらないようにしたいものです。

実際、教える側の一部もこの誤解をしたまま教えているようなフシがあります。

 

参考記事(その他)

  1. ATPの加水分ӂで、AMPとピロリン酸になるときがあるが、なぜATP→ADPとリン酸ではなく、ピロリン酸とAMPとに分解されるのか。ATPからひとつずつリン酸がとれるのではなく、一度にピロリン酸がとれるのか。→それだけのエネルギーが必要な時は、いきなりAMPに分解されます。sci.kumamoto-u.ac.jp/bio.iden/takano

 

なぜATPをエネルギー通貨として使うのか?と考えてみると、グルコースを酸素により、水と二酸化炭素にするときに発生するギブズの自由エネルギーは非常に大きいわけで、いきなりこの反応を起こしてしまうと、その場で使わない限り、無駄になってしまうわけです。これって、2万円の商品券があるんだけど、使うさいにお釣りは出ませんというようなものです。500円の商品券が2万円分あれば、それで400円の品物を買ったり(お釣りがでないので無駄が少しでますが)、950円のものを買ったりできて、使いやすいということになります。エネルギーは発生させたら何かに「共役」させて使わないと無駄になるので、使いやすい、適当な大きさで貯めておけることが大事なんですね。

 

教科書を何冊も読み比べると、理解がしやすいと思いました。一冊だけだと、ある部分は詳しくても別の部分はあまり詳しく説明していないということがあります。

 

ギブスの自由エネルギーとは何か?最もわかりやすい説明

ギブスの自由エネルギーが何かを知るために熱力学の教科書を開いても、その定義式G=H-TSからわかるように、まずエンタルピーHが何か、そしてエントロピーSが何かを知っておく必要があり、教科書の章を遡って読み始めない限り、理解に達しません。数式を負いながらの理解はなかなか大変です。そこで、言葉による、最もわかりやすい説明がないかと調べてみました。

それが何か?なぜそれを考えたのか(定義したのか)?それで何ができるのか?それは何ではないか。といった視点での理解も大事かと思います。

Thermodynamics and Chemical Dynamics 131C. Lecture 14. The Gibbs Energy. UCI Open チャンネル登録者数 28.5万人

ギブスの自由エネルギーを考えるわけ

ある変化が自発的に生じるかどうかは、熱力学の第二法則「孤立系のエントロピーは増大する」というもので判断できます。「系」というのは、任意に決められるわけですが、系と系の外側に区別できるようなものです。例えば、お湯をわかすヤカンを系と考え、ヤカンの外側の部分と区別して考えることができます。ピストンがついたシリンダーであれば、そのシリンダーが系と考えられます。人間という個体を系と考えてもよいし、細胞一つを系と考えてもいいでしょう。ただし重要なことは、系と系と外側との間に、物質の移動やエネルギーの移動があるかどうか。エネルギーの移動も物質の移動もない系が、孤立系と呼ばれます。厳密にいうと、孤立系なんて存在しないんじゃないのということにもなります。すると宇宙全体が、唯一実在する孤立系なのかもしれません。そこで、通常は、自分の興味の対象としての「系」とそれを取り囲む周囲の「系」そしてこの周囲の系は、そのさらに外側とは物質もエネルギーも移動しないと考え、「系」+「その周囲」を合わせて孤立系と考えます。教科書によって使う言葉が多少違うけれども、指している内容は同じです。

熱力学第2法則によれば、全系のエントロピーは減少しない。

∆S全系 =∆S反応+∆S熱浴 ≥0                           (1.2)

しかし、この式そのものはあまり便利ではない。これが述べているのは、全系のエントロピーが減少しないということだけであって、肝心の反応系における変化については何も分からない。‥ 我々にとっては、熱浴に関する詳細は興味がなく、反応系で何が起こるかが関心事である。そこで、上の式から反応系に関する情報だけを抽出することが望ましい。この目的のために、反応系の「ギブス自由エネルギー」という量を次のように定義する。

∆G反応 =∆H反応−T∆S反応                           (1.3)

(京都大学OCW 安藤耕司 第1章 熱力学の復習  第4回 自発的過程と自由エネルギー 基礎物理化学B )

ギブスの自由エネルギーとは

ウェブ上に大部の大学化学の教科書が公開されていました。

自由エネルギー変化は、以前に特定された自発性の指標ΔS宇宙と直接関連しており、プロセスの自発性についての信頼できる指標です。‥ 自由エネルギーG=ΔH−TΔSは、プロセスによって生成されるエネルギーΔHと、周囲に失われるエネルギーTΔSを表しているものと解釈することができます。生成されたエネルギーと失われたエネルギーの差は、そのプロセスによって有用な仕事をするために利用可能な(すなわち「自由な」)エネルギーΔGです。(第16章 熱力学 Chemistry 2nd Edition)

生物版もありました。

熱力学の第二法則によれば、すべてのエネルギー伝達は熱のような使用不可能な形でエネルギーを失うことを含み、その結果エントロピーが生じることを思い出してください。ギブズの自由エネルギーは、私たちがエントロピーを考慮したうえで利用可能であるような、化学反応で起こるエネルギーのことを特に指しています。言い換えれば、ギブズの自由エネルギーは、使用可能なエネルギー、つまり仕事をするために利用可能なエネルギーのことです。 ‥ ΔGを計算するには、系の総エネルギー変化からエントロピーとして失われたエネルギー量(ΔSと表示)を引きます。科学者たちはこの系の総エネルギー変化のことをエンタルピーと呼び、私たちはそれをΔHと示します。ΔGの計算式は次のとおりです。ここで、記号Tはケルビン単位での絶対温度(摂氏温度 + 273)を表します: ΔG = ΔH — TΔS (第6章 代謝 生物学 第2版  Japanese translation of “Biology 2e”)

生化学の教科書によくある反応前後のエネルギーの模式図の縦軸は何エネルギーか

エネルギーにいろいろな種類(エンタルピー、ギブス自由エネルギーなど)があるのなら、反応前後でのエネルギー差を示した生化学の教科書によくある図の縦軸は何なのだろうと思いました。教科書によっては単に「エネルギー」と書いてあり、別の教科書には「自由エネルギー」と書いてあります。ΔG=ΔHーTΔSなので、A+B→C+Dの反応におけるエネルギーの差ΔGは、ΔHからTΔSを引いたものであり(つまりΔH=ΔG+TΔS)、そのように図示している教科書もありました(集中講義生化学 MEDICAL VIEW)。A+Bのところの線から活性化エネルギーを超えてC+Dの線まで降りる(ΔGが負の場合)わけですが、示されている値は「自由エネルギー」なので、縦軸は自由エネルギーということになろうかと思います。

 

参考となる教科書やウェブ記事

  1. 『集中講義 生化学』 MEDICAL VIEW社 8ページ 自由エネルギーとはなにか?
  2. 「エントロピーから読み解く生物学」を読み解く -.hiroshima-u.ac.jp
  3. https://icho.csj.jp/36/pre/P-5ans.pdf
  4. https://www.bio.phys.tohoku.ac.jp/~ohki/Physics_C/Aug11.pdf
  5. http://kek.soken.ac.jp/sokendai/wp-content/uploads/15phy_MSS.pdf
  6. 結合エネルギーとは 技術情報館 SEKIGIN 分子の持つ全結合を切断するためのエネルギーの総和である。
  7. 反応熱とは 技術情報館 SEKIGIN 最初の状態と最終状態の結合エネルギーの差に基づき,出入りする熱を反応熱という
  8. 結合エネルギーと反応熱 fromhimuka.com 結合エネルギーを通常は発熱、吸熱の場合を分けずに絶対値で表します。(反応熱)=(生成物の結合エネルギーの和)-(反応物の結合エネルギーの和)ただ、この関係が成り立つのは「反応物も生成物も気体」に限ります。