ファイザー社の新型コロナウイルスワクチンはmRNA、モデルナ社の製品もmRNAというのはテレビニュースなどで一般の人にとっても常識となっていますが、アストラゼネカ社のワクチンは少し仕組みが複雑なため、どういうタイプのものなのかがわかりにくいようです。
ワクチンを体に届ける仕組みを理解するためには、タンパク質はmRNA(えむあーるえぬえー、めっせんじゃーあーるえぬえー)から作られること、mRNAはDNAから作られることを知っておく必要があります。また、体内にそれらを届ける仕組みが必要であり、モデルナ社のワクチンの場合は、運び屋(ベクターと呼ばれる)が必要です。
ウイルスのワクチンは従来ですと、感染力や病原性を失わせた不活性化されたウイルスそのものをワクチンとして用いたり、あるいは、ウイルスを構成する一部の蛋白質(一部の蛋白質だけだと感染もしないし、病原性も発揮されない)をワクチンとして用いることが一般的でした。それに対して、今回の新型コロナウイルスワクチンの画期的なところは、従来のワクチンの作り方とは全く異なる新しい方法が開発されて実用化されたところです。ウイルスを構成するスパイク蛋白質をワクチンの成分とする目的で、タンパク質そのものではなく、その前段階の物質であるmRNAをワクチンとして体の中に注射するようにしたのがファイザー社やモデルナ社のmRNA型ワクチンです。もちろん、ただ単にmRNAを水に溶かして体内に注射しても細胞内に取り込まれにくいので、効率良く細胞に取り込まれるようにする工夫が施されています。mRNAは水の中にむき出して溶けているわけではなく、リピッドナノパーティクルと呼ばれる脂質の粒の中に収められています。
- mRNA-lipid nanoparticle COVID-19 vaccines: Structure and stability. International Journal of Pharmaceutics Volume 601, 15 May 2021, 120586 International Journal of Pharmaceutics Review
アストラゼネカのワクチンは、抗体が認識する標的(抗原)はファイザーと同じくスパイク蛋白質ですが、mRNAの形でいれるのではなく、そのさらに前段階であるDNAの形で入れます。DNAをどうやって運び入れるかが問題になるわけですが、そこで運び屋(ベクター)として使われるのが、アデノウイルスです。アデノウイルスは文字通りウイルスなのですが、これを改変して増殖できなくしてベクターとして利用します。新型コロナウイルスのスパイク蛋白質をコードするDNAをアデノウイルスベクターの中に収納しておいて、このアデノウイルスベクターを注射して人間に感染させます。アデノウイルスはありきたりのウイルスなので人間はすでにそれに対する抗体を持っていて、免疫機能によって排除されてしまうので、チンパンジーのアデノウイルスが使われます。すると人間はチンパンジーのアデノウイルスに対する抗体は持っていないので、感染して細胞内に入りスパイク蛋白質がDNAから作られるわけです。しかし、このワクチン接種を一度受けた人は、このチンパンジーのアデノウイルスに対する抗体もつくることになるため、もう一度同じようにワクチン接種することはできません。そんなわけで、アストラゼネカ製のワクチンは2回接種ではなく一回きりの接種ということになります。
- アストラゼネカ社新型コロナワクチン どのような対象者に接種すべきか 忽那賢志 | 感染症専門医 5/22(土) 13:51 YAHOO!JAPAN オックスフォード大学/アストラゼネカ社の新型コロナワクチン(ChAdOx1 nCoV-19、AZD1222)はウイルスベクターワクチンという技術を用いています。 ウイルスベクターワクチンとは、人体に無害なウイルスを「ベクター(運び屋)」として使用し、新型コロナウイルスのスパイク蛋白の遺伝情報をヒトの細胞へと運ぶものです。 ベクターを介して細胞の中に入った遺伝子からスパイク蛋白が作られ、体がスパイク蛋白に対する免疫を作ることで効果を発揮します。 新型コロナウイルスそのものを接種するわけではなく、また接種することによってヒトの遺伝子が書き換えられることもありません。 ChAdOx1 nCoV-19はチンパンジーのアデノウイルスをベクター(運び屋)として使っています。 このチンパンジーアデノウイルスはヒトには無害であり、また体内では増殖できないようになっています。 ヒトのアデノウイルスは多くの人が免疫を持っているためベクターとして使えないため、チンパンジーのアデノウイルスが用いられていますが、一度ワクチンを接種してしまうと、このチンパンジーアデノウイルスに対しても免疫ができてしまうため、2回以上は接種できないと考えられています。