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DL表示法

不斉炭素を含む化合物には鏡像異性体が存在します。生体物質の場合は、この区別は非常に重要で、一方の構造しか酵素で認識されないため、他方は存在しないということになります。例えばアミノ酸であればL型しか存在しませんし、グルコースでいえばD型しか存在しません。

DL型の区別方法ですが、グリセルアルデヒド CH(=O)(-OH)(-CH2OH)を基準に決められています。グリセルアルデヒド をフィッシャーの投影式で描いたときに、水酸基ーOHが右側にくるものをD体としています。

グルコースのように不斉炭素がたくさんある場合は、フィッシャー投影式で一番下にくる不斉炭素に結合する水酸基が右側にあればD体とします。

アミノ酸の場合は、どうようにアミノ基が右がわにくるものをD体とします。

D-(+)-グリセルアルデヒド

のようにD体であることを示します。その次の(+)は旋光性を表していますが、DLとの関連性はありません。D-グリセルアルデヒドの旋光性がたまたま(+)だったのでこのように表記しているのです。D-(-)-グリセルアルデヒドなる物質が別に存在するというわけでもありません。

L-システイン のようにL型であることを示すことがあります。全然関係ないのですが、α‐アミノ酸という言い方をすることがあります。混乱しないように、ここで説明しておきます。αの意味は、アミノ基がα位の炭素に結合しているという意味です。α位というのは、カルボキシ基がついている炭素のことです。生体を構成するタンパク質を構成する20個のアミノ酸はすべて、αアミノ酸ですので、わざわざαアミノ酸と呼ばずに単にアミノ酸と呼ぶことが多いです。わざわざαアミノ酸と呼ぶことがある理由は、アラニンのように炭素鎖がある場合、側鎖であるメチル基の炭素(β位)にアミノ基がつく異性体β‐アラニンが考えられるからです。

 

制御性T細胞(Treg)とは

 

Tregとがんとの関係

制御性T細胞(Treg)は免疫を抑制する方向で働き、過剰な免疫応答を抑制しています。しかし、がんにおいては、がんと闘うべき免疫システムを抑制するという好ましくない状態を作り出してしまします。

Regulatory T cells (Tregs) were initially identified in both mice [1] and humans [2] as CD4+ T cells constitutively expressing the α receptor to IL-2 (CD25) and inhibiting the immune response of effector T cells, notably their production of interferon-γ. These cells are known to be a key contributor to the maintenance of immune tolerance, preventing the emergence of organ-specific auto-immune disease. However, in cancer-bearing animals or patients, Tregs expand, migrate to tumor sites and suppress antitumor immune response mediated by NK cells, CD4+ and CD8+ T cells, and myeloid cells, through different molecular mechanisms [3]. The discovery that the transcription factor forkhead box P3 (FOXP3) was a more specific marker for distinguishing Tregs from other populations of T lymphocytes [4] strengthened their identity. Thus, nuclear immunolabeling with anti-FOXP3 antibodies has been widely used to characterize Treg cells on tissue sections, notably in human tumors.(Prognostic role of FOXP3+ regulatory T cells infiltrating human carcinomas: the paradox of colorectal cancer Cancer Immunology, Immunotherapy volume 60, pages909–918 (2011))

  1. CD4 and FOXP3 as predictive markers for the recurrence of T3/T4a stage II colorectal cancer: applying a novel discrete Bayes decision rule BMC Cancer volume 22, Article number: 1071 (2022) 18 October 2022
  2. The prognostic value of tumor-infiltrating lymphocytes in colorectal cancer differs by anatomical subsite: a systematic review and meta-analysis World Journal of Surgical Oncology volume 17, Article number: 85 (2019)
  3. FOXP3+ Tregs: heterogeneous phenotypes and conflicting impacts on survival outcomes in patients with colorectal cancer Immunologic Research volume 61, pages338–347 (2015) 大腸癌における制御性T細胞の役割に関する相反する報告のレビュー
  4. CD4+ T Cells Expressing Latency-Associated Peptide and Foxp3 Are an Activated Subgroup of Regulatory T Cells Enriched in Patients with Colorectal Cancer Published: September 30, 2014 https://doi.org/10.1371/journal.pone.0108554
  5. Expression of Foxp3 in Colorectal Cancer but Not in Treg Cells Correlates with Disease Progression in Patients with Colorectal Cancer Published: January 30, 2013 https://doi.org/10.1371/journal.pone.0053630
  6. Regulatory (FoxP3+) T-cell Tumor Infiltration Is a Favorable Prognostic Factor in Advanced Colon Cancer Patients Undergoing Chemo or Chemoimmunotherapy J Immunother. 2010 May; 33(4): 435–441. doi: 10.1097/CJI.0b013e3181d32f01 PMCID: PMC7322625 NIHMSID: NIHMS1597178 PMID: 20386463
  7. High density of FOXP3-positive T cells infiltrating colorectal cancers with microsatellite instability British Journal of Cancer volume 99, pages1867–1873 (2008) Published: 04 November 2008

制御性T細胞に関する論文

  1. Immunologic self-tolerance maintained by activated T cells expressing IL-2 receptor alpha-chains (CD25). Breakdown of a single mechanism of self-tolerance causes various autoimmune diseases S Sakaguchi 1, N Sakaguchi, M Asano, M Itoh, M Toda J Immunol . 1995 Aug 1;155(3):1151-64.

油、脂質、油脂、動物性脂質、植物性脂質、などの違いについて

脂肪の構造

生体内の脂肪の化学構造はというと、グリセロールCH3(-OH)-CH2(-OH)-CH3-(OH)と3つの脂肪酸 C-C-C-… -C-COOHがエステル結合をした中性脂肪トリグリセリド(トリグリセライド、トリアシルグリセロールとも呼ばれる)です。魚の脂肪分や動物の肉の脂肪分の見た目や味がかなり異なるのは、この中性脂肪を構成する脂肪酸の種類(炭素鎖の長さ、不飽和度すなわち二重結合の数)が異なるためです。

動物の脂と植物の油の違い

植物油と動物油脂との違い、匂いの説明に関しては、ほぼ日刊イトイ新聞の説明が非常にわかりやすかったです。

室温で液体のものを「油」 室温で固体のものを「脂」 図体の大きいイモムシは
相手の分子(この場合は脂肪)をひっぱる力も大きくなります。 分子間力が大きい脂肪はどうなるでしょう?寄り集まる力が大きいので融点、つまり固体の溶ける温度が高くなります。 バターは融点の低い、つまり揮発しやすいチビな脂肪酸イモムシが含まれた脂肪です。だから良い香りが私たちの鼻に届くのです~。 二重結合が増えるほど分子は液体になりやすい

例えば植物油の例としてオリーブオイルを考えてみると、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸(一価および二価)などの成分からなりますが、70%が不飽和脂肪酸であるオレイン酸(18:1(n-9))です。炭素数18で1個の二重結合が9位と10位の炭素間にシスの形であります。自然界の不飽和脂肪酸は基本的にシス型です。

  1. 三大栄養素の一つ!脂質について知って欲しいこと: 動物油脂 九州大学附属図書館
  2. 牛や豚の油はパルミチン酸(C16:0)やステアリン酸(C18:0)といった飽和脂肪酸が豊富

トランス脂肪酸

  1. すぐにわかるトランス脂肪酸 農林水産省

血液検査の脂質検査の値

自分の健康診断の結果を見ると、総コレステロール177㎎/dL、HDLコレステロール56㎎/dL、LDLコレステロール104㎎/dL、中性脂肪117㎎/dL、nonHDLコレステロール121㎎/dLとなっていました。

HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)は低いほうが動脈硬化の危険ありだそうで、40mg/dL以上が正常範囲。逆にLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)は高いと危険で、120を超えると要注意だそうです。中性脂肪(TG)(トリグリセリド)は高いと動脈硬化の経験、低くても病気の可能性があり基準値は30~149だそう。Non-HDLコレステロールは、動脈硬化の原因となる全てのコレステロールだそうで基準範囲は90~149だそうです。一応、どれも基準値の範囲内に収まっていました。

以前一人暮らしをしていたときにはやたらと菓子パンを買って食べていた時期がありますが、そうするとてきめんで、中性脂肪の値が要注意な範囲に突入していました。食生活を改善(無駄な菓子パンをやめた)したら、もとにもどりました。パンは炭水化物であって脂肪ではありませんんが、脂肪はそもそも炭素の鎖なので、炭水化物を取りすぎると分解された炭素が脂肪の合成に使われるわけです。

LDLとは

The LDL particle is made of a monolayer of phospholipid, unesterified cholesterol forms the surface membrane, and fatty acid esters of cholesterol make up the hydrophobic core. One copy of the hydrophobic apo-B protein is embedded in the membrane, mediating the binding of LDL particles to specific cell-surface receptors.(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK519561/

LDL (≈2.5 MDa) are one type of several spherical particles that transport lipids in the blood. The only protein component of LDL is apolipoprotein B-100 (apoB-100), one of the largest known proteins (4,536 aa, ca. 550 kDa). The apoB-100-containing lipoproteins are secreted from the liver as triglyceride-rich, very LDL (VLDL), which are converted in the blood circulation to LDL. LDL, about 220 Å in diameter, are much smaller in size than the originally secreted VLDL, which range from 600 to 800 Å. LDL contain 22% apoB-100, 22% phospholipids, 8% cholesterol, 42% cholesteryl esters, and 6% triglycerides (wt/wt). (https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC17531/

脂肪の取りすぎがなぜ動脈硬化に繋がるのか

脂質のおおい食物を多量に摂取するとなんだか血管にべっとりとその油がついて動脈硬化になりそうなイメージですが、動脈硬化はそうやってなるものではないようです。ただの間違った空想でした。

内臓まわりに脂肪がたまると、肥大化した内臓の脂肪細胞から血管を傷つける物質が分泌されます。すると、血管に炎症が起こり、動脈硬化が進行してしまいます。(動脈硬化は治る!予防・治療法、薬と食事による改善 更新日2021年9月18日 NHK)

動脈硬化の主役は「アテローム性プラーク」と呼ばれる血管壁の中に溜まった「垢」です。「アテローム」は「粥腫」と和訳され、「粥のようなドロドロした塊」がその語源です。「プラーク」は「垢」という意味です。‥ 酸化LDLコレステロールを吞食した泡沫細胞の死骸が集積 してできたのが壊死中心です。これが核となってプラークは大きくなります。(香里ヶ丘大谷ハートクリニック

血管内皮細胞と血管壁の間に入りこんだLDLコレステロールが酸化されると毒性を持つ酸化LDLになり、それを免疫細胞のマクロファージが食べて処理しようとしますが、酸化LDLが大量にあるとこの免疫反応によって死んだ免疫細胞がプラーク(細胞の死骸がかゆ状になったもの)を形成し、そのプラークが肥大化していきます。組織修復をしようとして線維化(組織が硬くなる)が起きて動脈の柔軟性が失われてしまうというのが動脈硬化にいたるストーリーでした。動脈を塞いだ部分は、食べた脂肪ではなくて、なんとかしようと頑張った免疫細胞たちの死骸および残された酸化LDLコレステロールだったんですね。

  1. 動脈硬化になる仕組みと対処法について Kracie
  2. 動脈硬化の進行 生活習慣病オンライン
  3. 動脈硬化について うしおだ診療所 副所長 渡部 琢也医師
  4. 動脈硬化と食品中の脂肪の種類 日本心臓財団 泡沫細胞が死滅すると、中身のコレステロールがまき散らされます。まき散らされたコレステロールが血管の内膜に蓄積し、これが動脈硬化に繋がるのです。

血管壁に脂肪がべったりつくイメージは一体どこから来たんだろうと思いましたが、昔の学説ではそういうものもあったようです。その記憶が自分に残ってしまっていたのでしょうか。

動脈硬化は、以前は知らず知らずのうちに血管に過剰な脂質がたまってできていくものとされていました。しかし最近では (知っておきたい動脈硬化 スマートウェルネス)

ネットの記事をみていると脂肪(コレステロール)が血管壁に蓄積すると説明しているものもたくさんありました。

家族性高コレステロール血症(FH)とは

 

不飽和脂肪酸の酸化経路

ウィキペディア 

がん

がん、腫瘍、良性腫瘍、悪性腫瘍、肉腫、悪性新生物など似たような言葉が使われていて非常に混乱するため、言葉の定義を纏めておきます。

腫瘍の分類

自分も長い間誤解していましたが、腫瘍=がん ではありません。細胞が異常に増殖した状態が腫瘍で、それが最初に生じた場所に留まって増殖しているだけであって、周りの組織にまではみだしていっていなければ良性腫瘍です。周りの組織まにまで侵入する形で広がっているのが悪性腫瘍(がん)ということになります。まとめると以下のようになるかと思います。

  • 腫瘍 tumor(=新生物):
    • 上皮性腫瘍
      • 良性 benign tumor
      • 悪性(がん cancer; malignant tumor
    • 非上皮性腫瘍
      • 良性
      • 悪性(=肉腫 sarcoma

腫瘍(新生物)とは

腫瘍(新生物)には上皮性腫瘍と非上皮性腫瘍があります。上皮性腫瘍は表皮や消化管、腺組織の性質を具えた腫瘍で、悪性である場合「」と言います。これに対し非上皮性腫瘍は、非上皮性間葉組織(中胚葉由来の脂肪組織、線維組織、血管、リンパ管、筋、腱、滑膜、骨、軟骨)および外胚葉由来の末梢神経組織の性質を具えた腫瘍で、悪性である場合「肉腫」といいます。(肉腫 東京医科大学病院)

上の説明がいちばんスッキリしていると思いました。

がんとは

  1. がんの基礎知識がんという病気について がん情報サービス がんのことを「悪性腫瘍」ということもあります。‥ 何らかの原因でできた異常な細胞が、体の中に細胞のかたまりを作ることがあります。これが腫瘍です。‥ 悪性腫瘍とは、このような腫瘍のうち、無秩序に増殖しながら周囲にしみ出るように広がったり(浸潤)、体のあちこちに飛び火して新しいかたまりを作ったり(転移)するもののことをいいます。一方、浸潤や転移をせず、周りの組織を押しのけるようにしてゆっくりと増える腫瘍良性腫瘍といいます。

悪性新生物とは

生命保険や健康保険の説明書内で、悪性新生物という言葉を良く見かけます。

  1. 病気:悪性新生物とは 作・山口百子:2002/12/09 国立栄養健康研究所  悪性新生物とはがん並びに肉腫のことです。

肉腫(にくしゅ)とは

  1. 肉腫(サルコーマ) 更新日 : 2022年12月9日 公開日:2014年4月28日 国立がん研究センター  全身の軟部組織(筋肉、脂肪、神経など)から発生する腫瘍骨軟部腫瘍と言い、悪性の骨軟部腫瘍肉腫(英語ではSarcomaサルコーマ)と言います。

浸潤(しんじゅん)とは

  1. Q1 がんの転移とは何ですか?浸潤とどう違うのですか? 安井 弥 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科分子病理研究室・教授)jamr.umin.ac.jp 浸潤とは、原発巣のがん細胞が直接に周囲の組織や臓器に広がっていくことです。転移でも、リンパ管や血管にたどり着くまでの最初のステップには、この浸潤の過程が必要です。
  2. 悪性腫瘍と良性腫瘍の違いはなにか? mrso.jp がん細胞の最大の特徴は、浸潤だ。悪性腫瘍は、まわりの組織臓器にも入り込み広がっていく。
  3. 腎癌 Minds版やさしい解説 がん細胞が、発生した場所で増え続けていくとともに、周りの器官に直接広がっていくこと浸潤(しんじゅん)といいます。
  4. 非浸潤がん firstopi.jp がんが発生した場所(乳管や小葉の中)にとどまっているタイプのもの

転移とは

  1. Q1 がんの転移とは何ですか?浸潤とどう違うのですか? 安井 弥 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科分子病理研究室・教授)jamr.umin.ac.jp がん細胞が発生した場所(原発巣)から離れて、リンパ節や肝臓、肺などの他の臓器に移動して定着し、そこで再び増殖して腫瘍(転移性腫瘍)を形成

転移が起きる3つのルート

リンパ行性転移

  1. Q1 がんの転移とは何ですか?浸潤とどう違うのですか? 安井 弥 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科分子病理研究室・教授)jamr.umin.ac.jp
  2. 周囲にあるリンパ管に侵入し、リンパ流にのってリンパ節に運ばれ、そこで転移性腫瘍をつくる まず、原発巣の近くのリンパ節に転移し、そこからリンパ管を伝わって次々に遠くのリンパ節まで転移

血行性転移

  1. Q1 がんの転移とは何ですか?浸潤とどう違うのですか? 安井 弥 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科分子病理研究室・教授)jamr.umin.ac.jp
  2. 原発巣の近くにある毛細血管や細い静脈にがん細胞が侵入し、血流を介して全身の臓器に転移  静脈の流れにしたがってがん細胞は移動するので、大腸がんでは肝臓に腎がんでは肺に転移しやすい

播種性転移

  1. Q1 がんの転移とは何ですか?浸潤とどう違うのですか? 安井 弥 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科分子病理研究室・教授)jamr.umin.ac.jp からだには胸腔(肺)や腹腔(消化管や肝臓など)という隙間があり、それに面した臓器に発生したがんが別の部位に転移性腫瘍を形成

 

がんの薬物療法

ホルモン療法

  1. 予後不良で知られるトリプルネガティブ乳がんの新規治療標的を同定―新たながん個別化治療の開発に期待― 北海道大学 日本医療研究開発機構 用語解説 ホルモン療法 乳がん標準治療の一つであり、乳がんの増殖を促すホルモンの働きを阻害する治療法のこと。乳がん細胞の表面にホルモン受容体が出ている場合にのみこの治療法が有効

細胞内情報伝達機構

人間が他の人間とコミュニケーションをとるのと同様に、細胞も他の細胞とコミュニケーションをとっています。その仕組みとして、一方の細胞が「シグナル伝達物質」を出して、相手の細胞がそのシグナルを「受容体」によって受け取り、さらに細胞内へとそのメッセージを伝えて、受けて側の細胞の挙動が変化するという仕組みがあります。挙動の変化の具体例としては、代謝の変化であったり、遺伝子発現の変化であったり、細胞の形や動きの変化であったりします。

受容体と結合する分子のことはリガンドと呼ばれるため、シグナル伝達物質は受容体に対するリガンドとして働くと言えます。シグナル伝達物質には大別すると水溶性のものと脂溶性のものとがあります。

水溶性のものとしては、タンパク質、ペプチドホルモン、神経伝達物質、サイトカインなどがあります。これらは、水にとけて油にはとけないため、「油」である細胞膜を通過できません。そのため、細胞膜上にある受容体のタンパク質と結合することにより、その情報が内部へと伝わることになります。

脂溶性のものとしては、ステロイドホルモン、甲状腺ホルモン、ビタミンDなどがあります。脂溶性なので、脂質でできている細胞膜や核膜を通過することができます。

リガンドが水溶性か脂溶性かをなぜ考えるのかというと、それによって受容体が細胞のどこに存在しうるかが決まるからです。hbjj

水溶性リガンド→細胞膜を通過できないので、受容体は細胞膜表面にないといけない

脂溶性リガンド→細胞膜を通過できるので、細胞質中に受容体があるか、もしくは、さらに核膜も通過可能なので、核内に受容体があってもいい。

  1. ホルモンの化学構造|内分泌 2017/01/22 看護roo!  アミノ酸型ホルモンは甲状腺ホルモン(T3およびT4)だけである。アミノ酸は本来、水溶性であるが、甲状腺ホルモンベンゼン環を2個ももつ化合物なので脂溶性である。
  2. 第2章栄養素とその代謝 2-3:チロシン代謝[tyrosine metabolism] ニュートリー株式会社 甲状腺ではチロシンから甲状腺ホルモンが合成される.甲状腺で合成されるのは主にヨウ素が4つ結合したチロキシン(T4)である.全身に分布するトリヨードサイロニン(T3)の大部分は,T4が肝臓や腎臓などの甲状腺以外の組織で脱ヨード化して生じたものである.甲状腺ホルモンとしての作用は,T4よりもT3の方が10倍高いといわれている.

お酒(アルコール)の飲みすぎが体に悪い理由を生化学的に説明すると

お酒は適度に飲むと健康に良いと言われますが、大量に摂取するといろいろ不具合が生じます。そもそも代謝がおっつかなくてエタノールの血中濃度が高すぎると、エタノールそのものが毒になります。また、中間代謝物であるアルデヒド自体にも毒性があります。アルコール代謝が最後まで進んだとしても、やはり問題が生じますが、どのような問題なのかを生化学的に考えてみたいと思います。

お酒(アルコール)はエタノールですが、エタノールCH3-CH2-OHは酸化されてアセトアルデヒドCH3-CHOになり、さらに酸化されて酢酸CH3-COOHになります。この2つの酸化反応でNAD+が還元されるので、2当量のNADHが産生されます。つまり、アルコールを大量に摂取すると、NADHが大量に産生されることになります。

肝臓で産生された酢酸は、骨格筋、心臓、腎臓などでアセチルCoAに変換されてエネルギー源となります。

  1. 食事とスタミナ(hobab.fc2web.com)
  2. 酢酸の生理機能

NADHが大量に産生されたときに、代謝系のどこが影響を受けるかというと、例えば、乳酸からピルビン酸が作られる過程があります。乳酸がピルビン酸になるときにはNAD+が使われてNADHが生じます。すでにNADHが飲酒により大量に存在すると、乳酸→ピルビン酸という反応が進まなくなります。その結果、乳酸→ピルビン酸→糖新生 の経路が抑制されます。もし糖が十分にない場合には糖新生が抑制される結果、低血糖になってしまいます。また乳酸が代謝されないため、乳酸アシドーシスになる恐れがあります。

化学反応が起きるかどうかを決めるのは、反応前後のギブス自由エネルギーの差でした。それは、

ΔG=ΔG0+RT ln 「生成物濃度」/「反応物濃度」

と書けます。エネルギー代謝の反応が進むためには

ΔG=ΔG0+RT ln 「生成物濃度」/「反応物濃度」

「生成物濃度」/「反応物濃度」が大事で、[NADH]/[NAD+]が大きくなってしまうと(比が1よりおおきいとその対数は0よりおおきくなる)、この第2項が負にならなくなって、結果的に右辺全体として負にならなくなってしまいます。するとギブス自由エネルギー差が負にならなくなり、反応が進みません。クエン酸回路をまわしたり、脂肪酸をβ酸化するのは、[NADH]/[NAD+] の比が小さい(NADHが少ない)状態で、NADHを産生することが目的なわけです。NADHが多量に存在して[NADH]/[NAD+]の比が大きいということは、クエン酸回路や脂肪酸β酸化がまわらない、つまり阻害されるということになります。肝臓で脂肪酸の分解ができないということは、肝臓に脂肪がたまる一方になり、つまりは脂肪肝と呼ばれる病的な状態になってしまいます。

  1. マークス臨床医学 第29章 エタノール代謝 498~510ページ
  2. 畠山『生化学』164ページ
  3. GLUCOSE | Metabolism and Maintenance of Blood Glucose Level V. Marks, in Encyclopedia of Human Nutrition (Second Edition), 2005
  4. Ethanol-induced oxidative stress: basic knowledge Genes Nutr. 2010 Jun; 5(2): 101–109. Published online 2009 Dec 24. doi: 10.1007/s12263-009-0159-9 PMCID: PMC2885167 PMID: 20606811

 

急性アルコール中毒(死)

短時間での大量飲酒(一気飲みなど)で死亡する場合は、上で説明した代謝がそもそもおっつかなくて、アルコールが肝臓で処理されるのが間に合わなくて血液中のアルコール濃度が高くなりすぎて、脳にアルコールが入り、神経系の働きを直接乱してしまうことが原因のようです。

  1. 急性アルコール中毒 ドクターズファイル 血液に溶けたアルコールが脳に作用し、まひなどの症状を起こすことで発症

 

お酒に弱い人・お酒が飲めない人

世の中には一定数、お酒が全く飲めない人が存在します。その人達がお酒が飲めない理由は、エタノールの代謝でアルデヒドから酢酸に変換する酵素ALDHを持っていないか、働きが弱いからだと考えられます。アセトアルデヒドは毒性があり、吐き気や動悸、二日酔いなどの原因となります。

エタノール → アセトアルデヒド

アルコール脱水素酵素(alcohol dehydrogenase: ADH

アセトアルデヒド → 酢酸

アルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase:ALDH)

ADHには、ADH1BとADH1Cの型があります。ALDHには、ALDH1とALDH2があり、ALDH2が主要な働きをする酵素。ALDH1は補助的です。ALDH2の活性の強さが、お酒の強さを決めると言われているようです。

  1. アルコール代謝関連遺伝子(アルコール・アルデヒド脱水素酵素)と飲酒量に基づく胃がん罹患について
  2. 1B型アルコール脱水素酵素 1B型アルコール脱水素酵素は、エタノールをアセトアルデヒドに酸化する酵素の一つです。かつてADH2と呼ばれていました。現在の正式名はADH1Bです。
  3. 2型アルデヒド脱水素酵素 2型アルデヒド脱水素酵素は、エタノールの代謝産物のアセトアルデヒドを分解する主要な酵素です。ALDH2と略します。日本、中国、韓国などの東アジアのひとでは遺伝子の点突然変異により、酵素の働きが弱いひとが多くみられます。
  4. アルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)の構造・機能の基礎と ALDH2遺伝子多型の重要性

色で覚えるヘムの代謝:尿が黄色くて便が茶色い理由、黄疸で皮膚が黄色になる理由

脾臓にて

血が赤いのは、赤血球に含まれるヘモグロビンが赤い色をしているからです。

  1. fig.2──ヘモグロビンの色調の変化。酸素が結合したオキシヘモグロビンは赤色、酸素を除去したデオキシヘモグロビンは赤紫色をしている。 鉄に依存した赤血球による酸素輸送と人工赤血球酒井宏水【奈良県立医科大学医学部化学教室・教授】 生環境構築史 第3号  特集:鉄の惑星・地球 Earth, the Iron Planet 铁之星球——地球

赤血球は脾臓で分解されます。酸素を運搬する役目であったヘモグロビンは、ヘムとグロビンにわかれ、ヘムは鉄とポルフィリン環にわかれます。ポルフィリン環は分解されてビリベルジンになります。ビリベルジンは緑色をしています。これが還元されてビリルビンになります。ビリルビンは黄色です。

  1. ヘモグロビン 血液生物学研究室 丹羽和紀
  2. 図1 ビリベルジン還元酵素の結晶状態での反応 結晶状態で酵素反応を進めると、ビリベルジンとビリルビンの混合状態を示す色(黄緑色)に変化する。(BV:ビリベルジン、BR:ビリルビン)

ビリルビンは水に溶けませんので、アルブミンと結合した形で血液中を移動して、肝臓へと運ばれます。

肝臓にて

肝臓ではビリルビンをグルクロン酸で抱合した、抱合型ビリルビン(直接ビリルビン;ビリルビンジグルクロニド)に変換し、胆汁の成分として捨てます。

肝臓でのビリルビン処理が滞ってしまうと、ビリルビンは血液中に蓄積し、皮膚に沈着します。その結果が黄疸と言う病気です。ビリルビンは黄色いので、皮膚や白目の部分が黄色くなります。ちなみに、みかんの食べ過ぎで皮膚が黄色くなるのは、全く異なる理由からです。みかんにはβカロチンという脂溶性の黄色い色素が多量にふくまれているため、βカロチンが脂肪組織に蓄えられた結果、黄色くみえるだけです。その場合、白目が黄色くなることはありません。

  1. 成人の黄疸 執筆者: Danielle Tholey , MD, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University 医学的にレビューされた 2020年 1月 MSDマニュアル家庭版
  2. 柑皮症とは?社団法人母子保健推進会議会長●巷野悟郎

腸管にて

胆嚢から腸管にこのようにして捨てられた抱合型ビリルビンは、腸内細菌によってさらにウロビリノーゲンになります。ここで腸管で再吸収されるものと、そのまま腸管から排出に向かうものとにわかれます。

ウロビリノーゲンからからステルコビリノーゲン(この化合物の色は無色)、さらにステルコビリンになったものが便に排出されます。便が褐色である理由は、便に含まれるステルコビリンは褐色だからです。

腎臓にて

ウロビリノーゲンの一部は腸管で吸収され血中にはいったあと腎臓に送られて、ウロビリンに変換され尿に排泄されます。尿が黄色いのは、尿に含まれるウロビリンは黄色だから。

  1. 正常な尿の色 尿の色について ときわ会

参考記事

  1. 【連載】看護に役立つ生理学 第16回【ヘモグロビン代謝】どうやってヘモグロビンがビリルビンになるのか 公開日: 2015/4/11 ナース専科
  2. ビリルビン代謝の概要 肝臓の構造および機能 執筆者: Steven K. Herrine , MD, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University 医学的にレビューされた 2018年 1月 MSDマニュアルプロフェッショナル版
  3. ビリルビン代謝からみる黄疸の臨床 上 硲 俊 法 近畿大学医学部附属病院臨床検査医学部 近畿大医誌(Med J Kindai Univ)第43巻1,2号 67~76 2018
  4. 黒緑色便の原因とは?黒色便と緑色便の違いを知りたい 消化器科2018-11-13 レバウェル看護
  5. アンバウンドビリルビンの検査について 2022年10月25日 新生児は肝臓で間接ビリルビンをグルクロン酸抱合する処理能力が低いため血液中に間接ビリルビンのまま残り、さらに腸から肝臓へのウロビリノーゲン再吸収量が多いため、ほとんどの新生児では生理的に肌や白目が黄色に染まって見える黄疸が出現します
  6. 緑色の便 たまプラーザ南口胃腸内科クリニックブログ

生化学の知識は日常生活や看護、医学にどのように関係していて、何にどう役立つのか?

 

医学の土台としての生化学

医学を理解するためには生化学の知識は必須です。なぜなら、人間が生きているということはとりもなおさず生体内で生化学の反応が起きているということであり、その生化学反応のバランスが崩れたときに病気になるからです。生化学反応のバランスを崩す要因はいろいろありえます。化学反応を触媒する酵素の遺伝子が欠損していたり、栄養のバランスが悪かったり、必要なビタミンが不足していたり、病原菌に感染して病原菌が産生する毒素が特定の生化学反応を阻害していたり、遺伝学的な要因などにより生化学反応を調節する細胞内情報伝達機構に異常が生じていたりと言った具合です。

看護学に必要な生化学

看護師は医師とともに医療を実践する立場にあります。与薬するときにその薬の作用機序を患者さんに聞かれて答えられるにこしたことはありません。万が一の投薬ミスなどに気付くためにも薬の作用機序、すなわちどんな生化学反応に影響を及ぼすのかを知っていたほうがよいでしょう。

  1. 事例で学ぶくすりの落とし穴 [第1回] 看護師に求められる与薬の知識とは 連載 柳田 俊彦 2020.07.27 医学界新聞 医学書院
  2. What is the role of biochemistry in medicine? Quora
  3. A New Approach to Teaching Biochemistry to Nursing Students 1981

体の中の変化を分子の変化として捉えるのが「生化学」です.生化学を学ぶと,体の中で起こるさまざまな反応を,分子レベルで説明することができます.さらに,疾病の症状が起こるメカニズムも説明できるので,生化学は疾病の治療とも密接にかかわっています.‥ 生化学の知識があれば,なぜ発熱するのかといった症状や,熱を下げるにはどうしたらよいかという治療の方針まで理解できます.つまり生化学を勉強することは,ヒトの体の中で起こっていることを理解するもっとも効率のよい方法なのです.(石堂一巳『生化学』2022年1月)

日常生活と生化学との関係

What you are is what you eat.という言葉があります。自分が食べたものが自分の体になるということです。どんなものをどれくらいの量食べればいいのか?その答えは生化学が教えてくれます。

 

参考

生化学biochemistryとよばれる学問分野は、歴史の長い生物学biologyや医学medicine (or medical science)と化学chemistryという異なる学術領域をミックスさせた学際的な出自をもつ、比較的あたらしい分野です。ちなみに、生化学分野おいて歴史的も内容的にも最も有名な学術雑誌The Journal of Biological Chemistryの創刊は1905年です。生化学では、生体のもつ分子(生体分子)の化学構造を決定し、生体中で起こっている化学反応(生化学反応)をひとつひとつあきらかにしてゆくことを勃興当時の中心テーマとしていました。やがて、生化学反応をつかさどる酵素enzymeの本体がタンパク質であることがわかってくると、タンパク質を分離・解析して、タンパク質の機能をあきらかにすることも大きなテーマとなってきました。そして、タンパク質の設計図は遺伝子が担うことも知られるようになり、生化学反応と遺伝子との関連をみいだしてしていくことも生化学が取り組む重要な課題となってきています。(https://www.niid.go.jp/niid/ja/from-biochem/3263-2013-02-25-07-34-02.html)

飢餓時に脂肪酸のβ酸化が活発になりケトン体が増える理由 第99回 看護師国家試験 午前問題28 脂肪分解の過剰で血中に増加するのはどれか。

第99回 看護師国家試験 午前問題28 脂肪分解の過剰で血中に増加するのはどれか。

  1. 尿素窒素
  2. ケトン体
  3. アルブミン
  4. アンモニア

さてなぜ脂肪分解が過剰になるとケトン体が増えてしまうのでしょうか。

脂肪酸は、心筋や、骨格筋では、β-酸化によりアセチル-CoAに分解された後、さらに、TCA回路で代謝され、二酸化炭素と水にまで、分解されますが、肝臓では、β-酸化によりアセチル-CoAに分解された後、ケトン体に生成されます。(絶食時の代謝 http://hobab.fc2web.com/)

脂肪酸の酸化で作られるアセチルCoAの多くはTCA回路(クエン酸回路)に入りますが、絶食時などグルコースの供給が少ない状況ではアセチルCoAをTCA回路で処理する時に必要なオキサロ酢酸が不足するためTCA回路が十分に回りません。そのためTCA回路で処理できなかった過剰のアセチルCoAは肝臓でケトン体の合成に回されます。(385)ケトン体の健康作用と抗がん作用 「漢方がん治療」を考える)

  1. More Than One HMG-CoA Lyase: The Classical Mitochondrial Enzyme Plus the Peroxisomal and the Cytosolic Ones. Int J Mol Sci. 2019 Dec; 20(24): 6124. Published online 2019 Dec 4. doi: 10.3390/ijms20246124 PMCID: PMC6941031 PMID: 31817290 There are three human enzymes with HMG-CoA lyase activity that are able to synthesize ketone bodies in different subcellular compartments. The mitochondrial HMG-CoA lyase was the first to be described, and catalyzes the cleavage of 3-hydroxy-3-methylglutaryl CoA to acetoacetate and acetyl-CoA, the common final step in ketogenesis and leucine catabolism. This protein is mainly expressed in the liver and its function is metabolic, since it produces ketone bodies as energetic fuels when glucose levels are low.
  2. Fatty Acids: Metabolism P.C. Calder, in Encyclopedia of Food and Health, 2016 Ketone Body Synthesis https://www.sciencedirect.com/topics/agricultural-and-biological-sciences/ketone-bodies Ketone bodies are produced using acetyl-CoA derived from fatty acid β-oxidation in the liver under specific metabolic conditions.

β酸化でアセチルCoAとNADHが多量にできるとクエン酸回路が抑制される理由

絶食時には脂肪組織から脂肪酸が肝臓へと送られてきて、肝臓のミトコンドリア内ではβ酸化により多量のアセチルCoAが産生されます。ここで解糖系を思い出すと、解糖系の最後、ピルビン酸がクエン酸回路に入るためには、ピルビン酸CH3-C(=O)-COO- はピルビン酸デヒドロゲナーゼ酵素複合体の働きで脱炭酸反応により、アセチルCoA  構造式 CH3-C(=O)-S-CoA に変換するのでした。しかしながら、今、β酸化によってアセチルCoAがたくさんありますので、多量のアセチルCoAの存在は、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ酵素複合体の働きを抑制します。そのかわりに、ピルビン酸カルボキシラーゼを活性化します。

  1. アセチルCoAによるピルビン酸カルボキシラーゼの構造と活性の調節 巻: 519 号: 2 ページ: 118-130 発行年: 2012年03月15日 ピルビン酸カルボキシラーゼの構造と触媒活性の両方に及ぼすアロステリックアクチベーター,アセチルCoAの効果を調べた。

ピルビン酸カルボキシラーゼは、名前が示す通り、ピルビン酸にカルボキシル基をつけてオキサロ酢酸を産生します。

CH3-C(=O)-COO-   → オキサロ酢酸 -OOC-CH2-C(=O)-COO-

さらに、クエン酸回路の最後のステップを思い出してください。クエン酸回路の最後の反応は、リンゴ酸(malate)とNAD+から、オキサロ酢酸とNADHができる反応でした。しかし今の場合は、オキサロ酢酸とNADHがたくさんある状態ですので、クエン酸回路は逆向きの反応がおきてリンゴ酸(malate)が産生されます。実はオキサロ酢酸はミトコンドリアの膜を通って細胞質にいけないため、一度リンゴ酸の形になって膜を通過するのです。細胞質に出たリンゴ酸は、再度オキサロ酢酸に変換され、さらに、ホスホエノルピルビン酸(PEP)になって解糖系を逆向きに進みます。

注) リンゴ酸(malate)を、似た名前のマレイン酸maleic acidと混同しないこと。マレイン酸は、フマル酸(トランス型)の異性体でシス型のもの。

さてこのようにオキサロ酢酸が少なくなった状態で何が起きるかというと、アセチルCoAがケトン体の産生に使われることになるのです。

During a fast, the liver is flooded with fatty acids mobilized from adipose tissue. The resulting elevation of acetyl CoA produced by fatty acid oxidation inhibits pyruvate dehydrogenase and activates pyruvate carboxylase (PC). The OAA (Oxaloacetic acid) produced by PC is used by the liver for gluconeogenesis rather than for the TCA cycle. Additionally, fatty acid oxidation decreases the NAD+/NADH ratio, and the rise in NDAH shifts OAA to malate. The decreased availability of OAA for condensation with acetyl CoA results in the increased use of acetyl CoA for ketone body synthesis.

Lippincott Illustrated Reviews: Biochemistry 8th Edition 217ページ

肝臓で糖新生が行われているときはオキサロ酢酸が不足するので、アセチルCoAはTCA回路に入れない。このため、アセチルCoAからケトン体が産生される。

カラーイラストで学ぶ生化学 277ページ

脂肪酸アシルCoAのアセチルCoAへの酸化が肝臓のATP需要の供給に十分なNADHとFAD(2H)を産生するとき、アセチルCoAはTCA回路からケトン体合成へと移行し、TCA回路のオキサロ酢酸もリンゴ酸になる方向に向かい、グルコース合成(糖新生)に移行する。このパターンは、β酸化で比較的高いNADH/NDA+比によって制御される。

マークス臨床生化学 431ページ

オキサロ酢酸の合成経路

  1. オキサロ酢酸 hobab.fc2web.com オキサロ酢酸オキサロ酢酸(oxaloacetate)は、ピルビン酸(焦性ブドウ酸)を、ピルビン酸カルボキシラーゼによりカルボシキ化して、生成される。

ピルビン酸 CH3-C(=O)-COOH

オキサロ酢酸 HOOC-CH2-C(=O)-COOH

ピルビン酸の構造式の覚え方として、まずアセチルCoAの構造はCH3-C(=O)-S-CoAだと知っているものとして、ピルビン酸から二酸化炭素がはずれてアセチルCoAになると覚えておけば、

CH3-C(=O)-COOHという構造が出てきます。ピルビン酸にカルボキシル基を付加すると覚えておけば、オキサロ酢酸も構造式HOOC-CH2-C(=O)-COOHが浮かびます。

 

ケトンの産生

β酸化の最後のほうでアセトアセチルCoAができます。もしくは最後までいくとアセチルCoAになりますが、アセチルCoAが2分子できる逆反応でアセトアセチルCoAになります。

CH3-C(=O)-CH2-C(=O)-S-CoA

aceto- はアセチル基をもつという意味です。アセチル基ーアセチル基ーCoAといったネーミングです。これにHMG CoAシンターゼとアセチルCoAが作用して、HMG CoAができます。

3-hydroxy-3-methylglutaryl CoA の略です。これからアセチルCoAがとれてアセト酢酸(acetoacetate)  CH3-C(=O)-CH2-COO- になります。これがケトン体。その誘導体、アセトンおよび3ヒドロキシブチル酸とあわせてこの3つの化合物をケトン体と呼びます

 

脂肪分解の過剰によって、なぜ血中のケトン体が増加するのでしょうか?

脂肪分解の過剰によって、血中のケトン体が増加する主な理由は以下の通りです:

  1. グルコース供給の低下: 脂肪分解が過剰に起こる場合、脂肪酸が過剰に放出されます。この結果、脂肪酸が肝臓に取り込まれ、ケトン体として代謝されます。一方で、この過剰な脂肪分解によって肝臓でのグルコース合成の速度が低下し、血中の利用可能なグルコース供給量が減少します。その結果、組織や臓器は代替のエネルギー源としてケトン体を利用するようになります。
  2. アセチルCoAの蓄積: 脂肪分解によって生成された脂肪酸は、肝臓でミトコンドリア内でβ酸化反応を経てアセチルCoAに分解されます。過剰な脂肪分解が続くと、肝臓内でアセチルCoAの供給が増えクエン酸回路(TCAサイクル)の速度制限が生じます。この結果、アセチルCoAはケトン体の合成経路に偏り、ケトン体の生成が増加します。
  3. ケトン体生成酵素の活性化: 過剰な脂肪分解によって、肝臓のケトン体生成酵素が活性化されることがあります。例えば、アセチルCoAカルボキシラーゼ3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAリアーゼなどの酵素が増加し、ケトン体合成の速度が促進されます。

したがって、脂肪分解の過剰は、グルコース供給の低下とアセチルCoAの蓄積によってケトン体の生成を増加させます。この状態は、絶食状態糖質制限ダイエットなどの条件下でよく見られます。また、糖尿病高脂血症などの代謝異常状態でも脂肪分解が亢進し、ケトン体の増加がみられることがあります。(https://chat.openai.com/)

エネルギー代謝経路は、食事をしたとき、食間(運動時や睡眠時)、飢餓時(何日も食事を取っていない状態)によって変化します。

ヒトの体内では、空腹時には体脂肪が分解され、満腹時には脂肪の合成が活発になっている。脂肪や炭水化物摂取が過剰になると脂肪は蓄積の方に偏り、肥満や、肥満に起因した様々な疾病を引き起こしやすくなる。‥ 空腹時の肝臓では脂肪酸が分解されてケトン体が生じ、ケトン体は生体燃料として利用されることが知られている(酢酸の生理機能性 日本栄養・食糧学会誌67(4):171-176(2014))

ケトン体飢餓絶食糖質制限時のエネルギー(ATP)産生源として重要だ。‥ 絶食を行うと、エネルギー代謝の経路が変化することも明らかになっている。絶食当初は肝臓のグリコーゲンを分解する糖代謝で生命活動を保つが、その後は腹部に蓄えられた脂肪を分解し、脂肪酸として心臓や筋肉の機能を維持する。ところが脳は、脂肪酸をダイレクトにATPに変換できないため、肝臓でつくられたケトン体を介してエネルギーを受け取るのである。(ケトン体は諸刃の剣、使い方次第で臓器保護 各種モデルの腎障害を抑制 2022年11月11日 17:50 MedicalTribune)

下の解説記事で紹介されているエネルギー代謝の図が非常にわかりやすいです。また解説もかなり詳細でわかりやすい。

絶食が数日以上におよぶと、脂肪組織から遊離した脂肪酸の分解(β酸化)が亢進し、肝臓でケトン体の産生が増え、血中のケトン体の濃度が上昇し、脳を含め多くの組織のエネルギー源としてケトン体が利用されるようになる。‥ グルコース(ブドウ糖)が枯渇した状態で脂肪酸が燃焼するとき、肝臓ではケトン体(アセト酢酸β-ヒドロキシ酪酸)という物質ができます。‥ アセトンはエネルギー源にはならず呼気から排出されます(図)。(385)ケトン体の健康作用と抗がん作用 「漢方がん治療」を考える)

グルコースが枯渇したときのエネルギー源としてのケトン体の利用

食事で炭水化物を摂取していれば、それを消化してグルコースが得られます。食べないでいると、グルコースを得るためにエネルギー貯蔵の形態であるグリコーゲンを分解して、グルコースを得ることができます。しかし絶食の期間が長引くと、グリコーゲンの貯蔵は枯渇してしまうため、糖質以外の物質から糖新生に拠ってグルコースを作る必要があります。

筋肉のタンパク質はアミノ酸にまで分解され、アミノ酸代謝によりピルビン酸、α-ケトグルタル酸、スクシニルCoA、フマル酸、オキサロ酢酸がつくられ、糖新生に利用されます。糖新生に利用されるアミノ酸は、糖原性アミノ酸と呼ばれます。

脂肪組織に貯蔵された中性脂肪(トリアシルグリセロール TAG)は分解されてグリセロールと脂肪酸が生成し、脂肪酸からはβ酸化によってアセチルCoAとプロピオニルCoAが生成されます。プロピオニルCoAはスクシニルCoAに変換され、糖新生に利用されます。

ちなみに、心臓は遊離脂肪酸を取り込んで自分でβ酸化してエネルギーを得ることができますが、脳は遊離脂肪酸を利用できないため、別の方法が必要になります。

そこで、糖新生と並ぶ重要性が出てくる代謝経路が、ケトン体の生成です。脂肪組織の中性脂肪が分k内されてできる脂肪酸は肝臓でβ酸化されアセチルCoAが得られますが、アセチルCoAは水に溶けないので、血流にのって体の各所に移動することができません。そこで肝臓では、アセチルCoAは一旦、ケトン体に変換されて、ケトン体が血流にのって体の各組織に運ばれ、などの臓器で取り込まれて再びアセチルCoAに変換され、クエン酸回路に入ることでエネルギー源として利用されます。いわば、飢餓時においてケトン体はグルコースの代替として活躍するわけです。

ATP release from damaged cells and tissues has recently attracted attention, and has been reported as an alarm signal compound, alarmin. ‥ The released ATP in serum, however, is rapidly degraded within few minutes (Blood Lactate/ATP Ratio, as an Alarm Index and Real-Time Biomarker in Critical Illness April 5, 2013 PLOS ONE https://doi.org/10.1371/journal.pone.0060561)

図 https://www.researchgate.net/publication/353171740_Physiological_impact_of_in_vivo_stable_isotope_tracing_on_cancer_metabolism/figures?lo=1 ケトン体(βヒドロキシ酪酸)がグルコースと同じ位置付けに示されている図でわかりやすい。

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アセチルCoAからのケトンの合成

  1. Biochemistry, Ketogenesis Kiranjit K. Dhillon; Sonu Gupta. Author Information Last Update: February 10, 2022.

ケトン体はなぜ肝臓自身では利用されないのでしょうか?

ケトン体肝臓によって生成されますが、肝臓自身ではほとんど利用されません。その主な理由は以下の通りです:

  1. 代謝の優先順位: 肝臓は、エネルギー源としての優先順位が異なります。ケトン体は脂肪酸の代謝によって生成され、通常は他の組織や臓器でエネルギー源として利用されます。肝臓は、他の組織がエネルギーを必要としている場合に、ケトン体を優先的に供給するため、自身で利用する必要性が低くなります。(*コレ、日本語が変で意味をなしていない!chat.openai.comダメじゃん)
  2. グルコースの重要性: 肝臓はグルコースの生産と調節を主な役割としています。ケトン体は脂肪酸から生成されるため、主に有酸素条件下での脂肪酸代謝の産物として形成されます。しかし、肝臓は一酸化炭素の形成によるエネルギー源であるグルコースの合成に重点を置いています。グルコースは中枢神経系や赤血球など、特定の組織において重要なエネルギー源として必要です。(*コレも回答になっていない!chat.openai.comダメじゃん)
  3. ケトン体の代謝能力: ケトン体は一部の組織で効率的に利用されますが、肝臓自身の細胞内でのケトン体代謝能力は比較的低く、代謝に必要な酵素や転送システムが制限されています。そのため、肝臓自身がケトン体を利用することは限られています。(*コレが唯一回答らしい説明)

ケトン体は特に長時間の絶食状態糖質制限ダイエットなどの条件下で、他の組織や臓器がエネルギー源として活用するために重要な役割を果たします。肝臓は他の組織のエネルギー供給やグルコースの維持に注力するため、自身でのケトン体利用は限られています。(https://chat.openai.com/)

呼気中のアセトンの定量

  1. 呼気を用いて体脂肪の燃焼をモニタリングする簡易な方法を開発 医療技術ニュース 2021年02月16日 15時00分 Monoist 体脂肪が燃焼、分解される際、脂肪の代謝反応によって血中に生成されたアセトンが、アセトンガスとして呼気中に現れる。
  2. 安静時および運動時における呼気アセトン排出量と脂肪酸化量の関連 早稲田大学審査学位論文博士(スポーツ科学)
  3. 呼気中アセトン濃度を指標とした糖代謝・脂質代謝の評価(KAKEN 18K19763)

 

参考

  1. Ketosis, ketogenic diet and food intake control: A complex relationship February 2015Frontiers in Psychology 6:27 Follow journal DOI: 10.3389/fpsyg.2015.00027 Nutrient-sensitive neurons reacting to glucose but also to fatty acids (FAs) concentrations are present at many sites throughout the brain and may play a key role in the neural control of energy and glucose homoeostasis.
  2. FUEL METABOLISM IN STARVATION George F. Cahill, Jr. Annu. Rev. Nutr. 2006. 26:1–22 doi: 10.1146/annurev.nutr.26.061505.111258
  3. Ketone Strong: Emerging evidence for a therapeutic role of ketone bodies in neurological and neurodegenerative diseases Thomas N. SeyfriedJournal of Lipid Research VOLUME 55, ISSUE 9, P1815-1817, SEPTEMBER 01, 2014  DOI:https://doi.org/10.1194/jlr.E052944

 

代謝マップいろいろ

代謝経路は複雑に絡みあっています。エネルギーを得るための異化反応の経路の中間産物であっても、場合によっては他の化合物をつくるための材料として別の経路に分岐して利用されるということがあります。そんな複雑な代謝経路の全体像を一目で見られるように代謝マップが描かれています。

  1. https://pathways.embl.de/ipath3.cgi?map=metabolic
  2. 絶食時の代謝