高校化学の熱化学方程式に出てきた熱エネルギーと、大学で習う内部エネルギー、エンタルピー、エントロピー、ギブスの自由エネルギーとの関係

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高校の化学では熱化学方程式というものが出てきて、化学反応式に熱エネルギーの項もあり、方程式を足したり引いたりして最終的な反応を求めると言ったことをやっていた記憶があります。ところが、大学に入るとなぜか熱化学方程式に出会うことは二度とありませんでした。あの熱化学方程式の中に出てきたエネルギーとは、一体何だったのでしょうか。大学の熱化学で習う熱エネルギーとしては、エンタルピー、ギブスの自由エネルギー、ヘルムホルツの自由エネルギーなどがありましたが、これらとの関係はどうなっていたのでしょう。

ヘスの図の表などでは、縦軸の「エネルギー」のところを、「エンタルピー」と書いてもいい。 「だったらエネルギーでもいいのでは?」と思う高校生読者もいるだろう。 なので実際、以前の化学I〜化学II 方式の教科書では「エンタルピー」という用語は用いていない。 ‥ 欧米の化学者たちは、慣習的に、ヘスの法則の計算で使うエネルギーのことを「エンタルピー」と読んでいる。wikibooks.org

望ましい高校化学 3) 渡辺正氏 入試で定番の「熱化学方程式」がムラ文化の筆頭だろう。日本の大学でも,海外の高校でも,ああいう表記はせず,「反応式」と「エンタルピー変化」を横または縦に並べて書く。

高等学校化学で用いる用語に関する提案(2) 日本化学会 化学用語検討小委員会 見直すべき表現法 4)【現状】日本の高校では,N 2(g)+3H 2(g)=2NH 3(g)+92 kJのような表記を「熱化学方程式」と呼び,発熱を正値吸熱を負値で表す。【案】(中長期的な視点に立てば)化学反応で出入りする熱は,エンタルピー変化ΔHで表すのが望ましい。【理由・背景】大学の化学熱力学ではΔHを使うため,発熱・吸熱の符号が逆転する。日本の「熱化学方程式」は,古いPauling『一般化学』などの表記を引き継いだものだろうが,いま欧米では高校でもΔHを使い,日本と同じ表記法の教科書は見当たらない。[反応式(N 2(g)+3H 2(g)→2NH 3(g))とエンタルピー変化(ΔH=-92 kJ)のセットをthermochemical equation”と呼ぶ]。 エンタルピーを教える手間は増すものの,本件では大学への接続を主眼とするのが望ましい。https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/66/9/66_454/_pdf

高校の熱化学方程式のエネルギーの正体は、大学で習うエンタルピー変化のことでした。なお、高校の化学と大学の化学とで教え方に差があると混乱を招くということで、今後はエンタルピーに統一されるようです。

高校化学の熱エネルギーは大学の化学のエンタルピー

さて、なぜ熱化学方程式で出てくる熱エネルギーがエンタルピー変化のことだといえるのでしょうか。そもそもエンタルピーとは何だったかというと定義は、

エンタルピー H=U+pV (Uは内部エネルギー、pは圧力、Vは体積)でした。エンタルピー変化ΔHは、ΔH=ΔU+pΔV+VΔp これはただの数学。

ここで熱力学の第一法則を思い出すと、内部エネルギー変化は与えられた熱量と加えられた仕事の和でした。すなわち、 ΔU=ΔQ+ΔW

ここで、ΔW = -pΔV ですから、

ΔU=ΔQ-pΔV これを上のエンタルピー変化の式に代入すると

ΔH=ΔU+pΔV+VΔp = ΔQ-pΔV+pΔV+VΔp = ΔQ+VΔp

今、定圧過程とすると圧力変化はゼロなのでΔp=0 すなわち +VΔp  の項がゼロで、結局、

ΔH=ΔQ

となります。高校の熱化学方程式に出てきた熱エネルギーは、定圧という条件が必ず付いていたことと思います。定圧という条件下で、熱化学方程式に出てきた反応熱とはエンタルピーそのものであることが自分でも確かめられました。

反応熱について

高校化学の熱化学方程式は大学ではお目にかからないものと思っていましたが、大学のウェブサイトにも、丁寧でわかりやすい説明がありました。

化学反応や状態変化に伴って出入りする熱エネルギーの量を熱量といい、単位ジュール(記号はJ)であらわす。化学反応に伴って放出または吸収される熱量を反応熱という。通常は、1 molの物質の反応熱を25℃,1気圧(1.013 X 105 Pa)に換算して示す。熱を放出する反応は発熱反応、吸収する反応は吸熱反応である。

たとえば、H2(気体)1モルがO2(気体)0.5モルと反応してH2O(液体)1モルが生じる反応は次のような式で表される発熱反応である。
H2(気)+ ½O2(気)=  H2O(液)+ 286 kJ

また、赤熱した黒鉛と水蒸気の反応は吸熱反応で、一酸化炭素と水素が発生するとともに、131 kJの熱が吸収される。
C(黒鉛)+ H2O(気)=  CO(気)+ H2(気)− 131 kJ

上の例のように、化学反応式の右辺に反応熱を書き加え、左辺と右辺を等号で結んだ式を熱化学方程式という。熱化学方程式では、反応熱の符号が (+) のものは発熱反応を,(-) は吸熱反応を表す。https://www.toho-u.ac.jp/sci/biomol/glossary/chem/heat_of_reaction.html

  1. http://fnorio.com/0088thermochemical_equation1/thermochemical_equttion1.html

新学習指導要領

2023(令和5)年度から高校では,新学習指導要領がスタートする。‥ これまで用いられてきた高校化学で,「熱化学方程式」という言葉が姿を消した。「 熱 化 学 方 程 式 」 は ,日本の高校化学だけの特殊ルールであり,高大接続の視点や社会に開かれた教育課程の視点,グローバルの視点から,これまでも改訂の度に,学問領域から強い批判を浴び続けられてきた。https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssep/45/0/45_225/_pdf

ギブスの自由エネルギー

発熱反応は、エネルギーが低い状態になるように反応し、余分なエネルギーが熱として放出されるというものです。エネルギーが低いほうにむかう発熱反応は、自然に起こると理解できそうですが、実際には、エネルギーが高いほうにむかう吸熱反応であるにも関わらず、自然に起こる例があります。つまり、エンタルピーは、反応式が右辺に向かうのか左辺に向かうのかを必ずしも教えてくれないのです。反応がどちらに進むかはエンタルピーだけでは決まらず、エントロピーとの差し引きできまります。ΔG=ΔH-TΔS <0 となる反応なら自発的に起こるというわけです。-TΔSは負の符号が頭についていますので、温度Tは必ず正であることを考えると、エントロピー変化ΔSがプラスであれば、この項はマイナスになります。ΔHがかりにプラス(つまり吸熱反応)であっても、項-TΔS と合わせたときに全体がマイナスであれば(すなわちギブスの自由エネルギー変化ΔGがマイナスとなれば)、反応は自発的に起きるというわけです。そんな例があるのかというと、例えば、エタンがエチレンと水素になる反応:

C2H6(気)→ C2H4(気)+ H2(気) ΔH=137 KJ/mol

この反応は吸熱であるにも関わらず、エントロピーが増大する結果ΔG=ΔH-TΔS <0 が成り立つため自発的に右方向に飯能が進みます。もっと良い例だと思うのが、氷が溶けて水になる反応です。

H2O(固)→ H2O (液) ΔH=6.0 KJ/mol

ΔG=ΔH-TΔS <0となる条件なら、氷は水になります。ΔHが正なので、反応が右向きに進むためには、-TΔS  がそれを打ち消すくらいに大きくマイナスに傾かないといけません。個体が液体になるので水分子の自由度が増しますからエントロピー変化は正です。この場合は、温度Tの寄与がわかりやすいと思います。常識的に温度が高いと氷は溶けて水になりますし、温度が0度以下だと氷は溶けません(1気圧で)。T次第で変化が起きるかどうかが、ギブスの自由エネルギーの式から読み取れるというわけです。

参考 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssep/45/0/45_225/_pdf

ヘスの法則

化学反応に伴い生成または吸収する熱すなわち反応熱は反応のはじめと終りの状態のみで決まり,途中の経路には関係 しない.この関係は1840年に多くの反応熱の測定によりHessがみい だした.このHessの法則を利用すると,既知の反応とその反応熱の組み合わせにより、未知の反応の反応熱が求められる.https://chemeng.web.fc2.com/bce/bce_bunb.html

雑感

高校化学での熱化学方程式におけるエネルギーの表記に対しては高大接続の観点から強い批判があったようです。個人的には、「高校化学で習った熱化学方程式に出てきたエネルギーは、大学でならったエンタルピー変化のこと」とさえ教えてもらえれば、それほど混乱させられることもないように思います。高校のときに、文字通り方程式のように扱って、未知の反応の発熱・吸熱エネルギーを計算できて面白いと思いましたし、便利だったと思います。

その他の参考記事

  1. https://note.com/ktom0525/n/n2429f3e7507f
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