メンデルの法則と7つの表現型(豆の色、形、鞘の色、形、花の色、花のつく位置、背丈)に対応する責任遺伝子の同定

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メンデルの法則

メンデルの法則は高校の生物で習いました。今では中学で学ぶようです。

1.優性の法則 2.独立の法則 3.分離の法則 の3つです。

優性の法則は、純系AAとaaを掛け合わせると、次の世代F1ではAaという遺伝型になるが、その際、Aが優性でaが劣性の場合は、雑種F1世代の表現型は全て優性Aになるというものです。

独立の法則は、純系AABB, aabbがあったときにこれらを掛け合わせてえられる雑種一代目F1では、AとBの表現型に関しては、独立して振る舞うというもの。ちなみに、メンデルが使った実験材料エンドウ豆の染色体数は2n=14です。彼は7つの表現型に着目しましたが、後世になってわかったことは、一つの表現型を除いて責任遺伝子が異なる染色体に乗っていたということです。「独立」の意味は、異なる染色体上にのっているということでした。2つの遺伝子が同じ染色体に乗っている場合でも、十分離れていれば、第一減数分裂の際に相同染色体が対合(たいごう)し、交叉がおきて、組み換えが生じますので、ほぼ独立して振る舞っているように見えたのでしょう。もし非常に物理的に近い距離に2つの遺伝子が存在していたら、つねに挙動をともにするので、独立の法則は成り立ちません。逆にlinkageがあるということになります。

  1. 遺伝の法則 tmd.ac.jp

分離の法則は、純系AAと純系aaを掛け合わせた場合、雑種第1世代F1では、遺伝型がAA, Aa, aA, aaになるので、表現型の比率が3:1に分離すること。

分離の法則は、同じことですが、メカニズムの方に注目して、相対立する表現型を担う遺伝型Aとaは、配偶子形成において、それぞれが別々の配偶子に入る(A、もしくはa)、つまり分離するというものです。これは、メンデルよりあとの時代になって減数分裂が発見され、配偶子形成において2つの相同染色体が、一つずつべつの配偶子になる(分離する)ということと同じです。

  1. メンデルの法則 遺伝学電子博物館
  2. メンデル 雑種植物の研究 岩波書店 1999/01/18 きわめて科学的に遂行された実験を厳密に検証したこの論文は,当時は価値を認められず,1900年になって再発見され,遺伝学の基礎を定める根本法則にメンデルの名が冠せられることとなった.

書評

実験結果を説明した行間から、科学者として生きるということはこういうことなのだ
、襟を正させられる思いがしました。メンデルは結局最後までacademic positionに
つけなかったわけですが、(メンデルの「雑種植物の研究」の新訳 Date: Tue, 9 Mar 1999 15:15:02 +0900 (JST) JFLY)

メンデルの法則の再発見

ユーゴー・ド・フリース、カール・コレンス、そしてエーリヒ・フォン・チェルマク-セイセニックは、1900年にメンデルの法則を再発見した3人の科学者でした。彼らは皆、異なる植物の雑種を使ってそれぞれ独立に研究し、遺伝についてメンデルと同じ結論に辿り着きました。(https://www.kazusa.or.jp/dnaftb/6/bio.html

  1. ド・フリースは、1890年代後半にメンデルの論文を読んでおり、その内容と価値を十分に理解していたにもかかわらず、論文中ではメンデルの発見をほぼ完全に無視した。
  2. コレンスは、エンドウやトウモロコシなどを実験材料に植物雑種の研究を行ったが、1899年に自ら得た結果をまとめて論文を書き始めるための文献検索中に、ネーゲリに聞いたメンデルの論文を読んだ。既に35年も前にメンデルが自分と同じ結果を公表していた事実を知ったコレンスは、眠れぬ夜を過ごした11月の明け方にメンデルの正しさを確認した。コレンスは、1900年の論文でダーウィンとメンデルに言及
  3. チェルマックはメンデルと同じ3:1および9:3:3:1のF2分離比を観察した。実験終了後にメンデルの論文の他、ド・フリースの論文とともにコレンスの論文「メンデルの法則」を読んだ
  4. スピルマンはパンコムギでメンデルの法則を独自に発見し、1901年に論文「雑種子孫への両親形質の伝達に関する量的研究」を発表し、アメリカにメンデル遺伝学を広めた

(メンデルの遺伝法則再発見までの35年間 第6章 メンデルの遺伝学とダーウィンの進化論 メンデル解題:遺伝学の扉を拓いた司祭の物語)

メンデルのエンドウ豆の表現型7つ

メンデルが着目した形質(trait)は、1)種子の形が、丸いかシワシワか、2)種子の色(子葉cotyledonの色)が、黄色か緑か、3)花の色が白か紫か、4)鞘の形が張っているか絞られているか、5)鞘の形が黄色いか緑色か、6)花のつく位置が軸に沿っているか、頂に固まっているか、7)植物丈が長いか短いか、の合計7つです。


(https://en.m.wikipedia.org/wiki/File:Gregor_Mendel_-_characteristics_of_pea_plants_-_english.png)

  1. 花序(かじょ)(ウィキペディア)
  2. 頂性花序
  3. 帯化(たいか)Fasciation(ウィキペディア)
  4. 腋生(えきせい)

メンデルのエンドウ豆の7つの表現型の責任遺伝子の同定

メンデルの遺伝子(広島大学大学院理学研究科附属植物遺伝子保管実験施設)のウェブサイトに、表現型の写真および責任遺伝子の候補がまとめられています。同じ表現型を生みだす複数の遺伝子がある場合もあり、どの遺伝子がメンデルのエンドウ豆の系統に対応したのかが確定できないようです。

  • 染色体1番:種子(子葉)の色
  • 染色体2番:花弁の色
  • 染色体3番:背丈の高低(花のつく位置、鞘の形)
  • 染色体4番:花のつく位置
  • 染色体5番:種子の形鞘の色
  • 染色体6番:鞘の形
  • 染色体7番:該当する表現型なし

独立の法則がなりたつことを考えれば、染色体3番は、背丈の表現型のみが対応するのではないでしょうか。種子の形、鞘の色の責任遺伝子は第5染色体にのっているため、独立の法則が成り立つような実験結果が本当に得られていたのかが気になります。

結果として7つの表現型に対する責任遺伝子のほとんどが異なる染色体上に存在したということは、独立の法則がなりたつという仮説に合うような表現型をメンデルが注意深く選んで実験したということなのではないでしょうか。

種子(子葉)の色(緑か黄色か)を決める遺伝子

  1. Cross-species identification of Mendel’s I locus Armstead et al., Science . 2007 Jan 5;315(5808):73. doi: 10.1126/science.1132912. A key gene involved in plant senescence, mutations of which partially disable chlorophyll catabolism and confer stay-green leaf and cotyledon phenotypes, has been identified in Pisum sativumArabidopsis thaliana, and Festuca pratensis by using classical and molecular genetics and comparative genomics. ‥ Genetic mapping in pea demonstrated cosegregation with the yellow/green cotyledon polymorphism (I/i) first reported by Gregor Mendel in 1866.
  2. Mendel’s green cotyledon gene encodes a positive regulator of the chlorophyll-degrading pathway Yutaka Sato, Ryouhei Morita, Minoru Nishimura, and Makoto Kusaba August 28, 2007 104 (35) 14169-14174
  3. メンデルの緑色の豆の原因を解明 ~クロロフィルを分解する酵素の発見~  2016.9.14 北海道大学 植物は光を吸収するクロロフィルを持つため,葉が緑色をしています。秋の紅葉は,クロロフィルが分解されるために起こる現象です。クロロフィルはマグネシウム(Mg)と結合していますが,クロロフィルの分解はこのマグネシウムが外れることにより始まります。今までマグネシウムを外す酵素(Mg脱離酵素)はわかっていませんでしたが,今回,Mg脱離酵素を決定することに成功しました。興味深いことに,これは植物が緑色を長く保持する(Stay-Green)突然変異体の原因遺伝子として知られていたSGRでした。

鞘の色を決める遺伝子

  1. Genomic region associated with pod color variation in pea (Pisum sativum) Shirasawa et al., G3 Genes|Genomes|Genetics, Volume 11, Issue 5, May 2021. DNA sequences at this genomic location and transcriptome profiles of green and yellow pod lines were analyzed, and genes encoding 3′ exoribonucleases were selected as potential candidates controlling pod color.

参考

  1. メンデル 1866 植物雑種の実験
  2. Johann Gregor Mendel: the victory of statistics over human imagination Martina Raudenska, Tomas Vicar, Jaromir Gumulec & Michal Masarik European Journal of Human Genetics volume 31, pages744–748 (2023)Published: 09 February 2023

 

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