グルコキナーゼとは?肝臓におけるグルコキナーゼの役割とは?ヘキソキナーゼとの違い

グルコキナーゼとは

グルコキナーゼは、ATPのリン酸基をグルコースの6位の炭素に転移する酵素です。反応式は、

グルコース + ATP → グルコースー6-リン酸 + ADP

細胞に取り込まれたグルコースは、グルコキナーゼによってグルコースー6-リン酸に変えられますので、細胞質中ではグルコ―スの濃度は低く、グルコース-6-リン酸の濃度が高い状態です。この反応は、解糖系の最初のステップです。

  1. グルコース-6-リン酸(ウィキペディア)

解糖系の最初のステップではグルコ―スがグルコース-6-リン酸に変換されます。それを触媒する酵素はヘキソキナーゼと覚えていたので(グルコースは、ヘキソースの一種)、グルコキナーゼという名称には自分は馴染みがありませんでした。

実はヘキソキナーゼには種類があり、グルコキナーゼはヘキソキナーゼのアイソザイムの一つです。アイソザイムというのは同じ反応を触媒するが、タンパク質としては別のもの(アミノ酸配列が異なるもの)。全ての細胞には解糖系が備わっていますが、多くの細胞で働くのはグルコキナーゼではないヘキソースのアイソザイムで、グルコキナーゼは主として肝臓と膵臓に存在しているそうです。

  1. https://www.fujita-hu.ac.jp/~nharada/glyco3.html(生化学 医学部 藤田保健衛生大学)

グルコキナーゼは、hexokinase IV、hexokinase D、ATP:D-hexose 6-phosphotransferaseとも呼ばれます。

  1. グルコキナーゼ(ウィキペディア)
  2. グルコース-6-リン酸(ウィキペディア)

生化学に限りませんが、同じものに対して複数の異なる呼び名があることが多いのでややこしいですね。その一方で、似た名称だけれども全然違うものを指し示すということも頻繁にあります。物と名前を一致させるのは、勉強のイロハのイです。

赤血球ではたらくヘキソキナーゼのアイソザイム、ヘキソキナーゼIのグルコースに対する親和性は高くて、Km=0.05mMです。それに対して、グルコキナーゼKm=5mMと、100倍も親和性が低いという特徴があります。肝臓のヘキソキナーゼ(グルコキナーゼ)のグルコースに対する親和性が低いのは、合目的的であり、血中グルコース濃度が低いときにはあまり働かず、高いときに余剰のグルコースを貯蔵エネルギー(すなわち肝臓グリコーゲンや脂質)にするのに適しています。グルコースー6-リン酸は、解糖系、ペントースリン酸回路、グリコーゲン合成などの出発点(分岐点)として位置します。

  1. マークス臨床生化学 原書第5版 122ページ、278ページ、512ページ

人間の体ってうまく出来ているものなんですね。グルコキナーゼとは逆に、赤血球や神経細胞ではたらくヘキソキナーゼのKm値は低く(すなわち、グルコースへの親和性が高く)、低血糖でグルコースの濃度が低くても働くことができます。

グルコキナーゼのKmが大きい(すなわち親和性が低い)理由:肝臓での働き

一般の細胞内で解糖系が働く際には、ヘキソキナーゼが触媒する反応、グルコースのリン酸化によって生じる産生物グルコース-6ーリン酸は、ヘキソキナーゼを阻害する働きを持ちます。ネガティブフィードバックがかかるわけです。

ところが、肝臓で働くヘキソキナーゼのアイソザイムすなわちグルコキナーゼは、グルコースに対するKm値が大きい(すなわち親和性が低い)ため(?)、このネガティブフィードバック受けません。グルコース-6-リン酸が細胞内でたくさんあってももっとグルコース-6-リン酸を作れてしまうんですね。そうして解糖系を回し続けて、グリコーゲンやトリアシルグリセロールといった貯蔵エネルギーを作るのです。ちなみにグリコーゲンが肝臓に貯蔵されるのに対して、トリアシルグリセロールは超低比重リポタンパク質(VLDL)として肝臓から出て脂肪細胞に取り込まれます。

  1. 集中講義生化学改訂第2版 215ページ
  2. マークス臨床生化学 原書第5版 122ページ、287ページ
  3. 脂質を運ぶリポタンパク質の種類 MSDマニュアル家庭版

グルコキナーゼの核内・細胞質移行の制御

グルコースが不足気味のときは、肝臓でグリコーゲンを作っている場合ではありません。そんなときはグルコキナーゼが働いてもらってはこまるので、肝細胞内のグルコース濃度が低い時には、グルコキナーゼ制御タンパク質(glucokinase regulatory protein; GKRP)がグルコキナーゼに結合して、核へ移行します。つまり細胞質からグルコキナーゼ活性を除去するというわけです。肝細胞内のグルコース濃度が上昇すると、グルコキナーゼ・GKRP複合体は核内から細胞質内へ移行し、GKRPがグルコキナーゼから離れて、グルコキナーゼは活性を持つことができます。

  1. マークス臨床生化学 原書第5版 288ページ
  2. Glucokinase regulatory protein (Wikipedia) also known as glucokinase (hexokinase 4) regulator (GCKR)