科研費」カテゴリーアーカイブ

2024年度科研費 基盤研究(S)採択課題一覧(65課題)

    1. 海洋熱波に対する沖合生態系脆弱性の包括的評価
      高橋 一生 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (00301581)
    2. 気候不安定化とティッピング・カスケード:気候危機の真打を検証する
      関 宰 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (30374648)
    3. 宇宙線による誤動作の克服に向けた次世代集積システムの信頼性評価基盤技術の開発
      橋本 昌宜 京都大学, 情報学研究科, 教授 (80335207)
    4. 光演算回路に基づく広帯域かつ超省エネルギー情報処理基盤の創出
      石原 亨 名古屋大学, 情報学研究科, 教授 (30323471)
    5. 中規模量子コンピュータによるセキュアな分散型量子計算の基盤創出
      ルガル フランソワ 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 教授 (50584299)
    6. 分子-ディジタル融合によるArtificial Liquid Intelligenceの創製
      瀧ノ上 正浩 東京工業大学, 情報理工学院, 教授 (20511249)
    7. 拡張環世界との相互作用における霊長類セロトニン機能の理解
      南本 敬史 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子医科学研究所 脳機能イメージング研究部, 次長 (50506813)
    8. レヴイ小体構成蛋白α-シヌクレインの伝播・凝集機序解明と革新的進行阻止療法の開発
      服部 信孝 順天堂大学, 大学院医学研究科, 教授 (80218510)
    9. 神経障害性疼痛に対する生体レジリエンス機構の解明と診断・治療への応用
      津田 誠 九州大学, 薬学研究院, 教授 (40373394)
    10. 加齢造血幹細胞腫瘍における造血幹細胞エイジングの病因論的意義の解明
      岩間 厚志 東京大学, 医科学研究所, 教授 (70244126)
    11. エピゲノム-RNA修飾軸による肥満と生活習慣病の解明
      酒井 寿郎 東北大学, 医学系研究科, 教授 (80323020)
    12. 小脳を起点とした大脳機能連関による行動戦略のアップデート機構の解明
      田中 真樹 北海道大学, 医学研究院, 教授 (90301887)
    13. 超硫黄分子によるエネルギー代謝と酸化ストレスシグナル機能の解明
      赤池 孝章 東北大学, 医学系研究科, 教授 (20231798)
    14. クロマチンを背景とした転写の構造基盤
      関根 俊一 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (50321774)
    15. 超解像イメージングで明らかにするクロマチンドメインとその細胞機能制御
      前島 一博 国立遺伝学研究所, 遺伝メカニズム研究系, 教授 (00392118)
    16. 液―液相分離とオートファジーによる生体防御機構の解明
      小松 雅明 順天堂大学, 大学院医学研究科, 教授 (90356254)
    17. 異形配偶子の性差を規定するゲノムネットワークの解明
      林 克彦 大阪大学, 大学院医学系研究科, 教授 (20287486)
    18. インフラディアンリズムの設計原理の解明とその制御
      吉村 崇 名古屋大学, 生命農学研究科(WPI), 教授 (40291413)
    19. 地球陸域最大の炭素貯蔵庫「土壌」の構造進化に基づく最適土壌環境の解明
      森 也寸志 岡山大学, 環境生命自然科学学域, 教授 (80252899)
    20. インタクトメタボロームを可視化し、細胞機能・物性発現の分子機構に迫る
      福島 和彦 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (80222256)
    21. 日本列島の森林生態系の形成過程の解明
      津村 義彦 筑波大学, 生命環境系, 教授 (20353774)
    22. フェムトからピコグラム量の極微量代謝物構造解析法の開発
      藤田 誠 分子科学研究所, 特別研究部門, 卓越教授 (90209065)
    23. ナノ元素置換科学:メガライブラリ構築と先鋭機能創出
      寺西 利治 京都大学, 化学研究所, 教授 (50262598)
    24. 配列制御高分子:配列物性の学理構築と革新材料開発
      大内 誠 京都大学, 工学研究科, 教授 (90394874)
    25. 新概念による抗体の細胞内導入と細胞現象の制御・展開のための基盤構築
      二木 史朗 京都大学, 化学研究所, 教授 (50199402)
    26. 患者毎の疾患特徴の個別可視化に基づく、新たな低分子がんセラノスティクス医療の創製
      浦野 泰照 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (20292956)
    27. 高活性な窒素固定触媒に基づく窒素分子の自在変換法の開発
      西林 仁昭 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (40282579)
    28. サブバンド間遷移機構の革新による未踏周波数・室温動作THz-QCL実現に関する研究
      平山 秀樹 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (70270593)
    29. 半導体準粒子波動工学の開拓
      山本 倫久 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, チームリーダー (00376493)
    30. 炭化ケイ素半導体ヘテロ界面科学の再構築
      渡部 平司 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (90379115)
    31. 集束超音波による培養細胞の超解像化と局所力学刺激の付与およびその応答の系統的研究
      荻 博次 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (90252626)
    32. エネルギー科学展開に向けた量子熱光物性の基盤構築
      宮内 雄平 京都大学, エネルギー理工学研究所, 教授 (10451791)
    33. 気相微生物反応の学理とプロセス構築
      堀 克敏 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (50302956)
    34. 局所的イオンダイナミクスに基づく高イオン伝導体の創出
      平山 雅章 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (30531165)
    35. Norbyギャップ内の高イオン伝導体の創製
      八島 正知 東京工業大学, 理学院, 教授 (00239740)
    36. 固体表面におけるスピン・プロトン・電荷ダイナミクス
      福谷 克之 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (10228900)
    37. コヒーレントスピンダイナミクスを用いた省エネ・創エネデバイス
      深見 俊輔 東北大学, 電気通信研究所, 教授 (60704492)
    38. エンジニアード脂質粒子の創成とその応用
      渡慶次 学 北海道大学, 工学研究院, 教授 (60311437)
    39. 高機能ゲルによるゲノム制御:がん幹細胞リプログラミングの空間情報解析と治療薬開発
      田中 伸哉 北海道大学, 医学研究院, 教授 (70261287)
    40. プラズマプロセスの機能的出力をもたらす多様な多次元分布の統一的理解
      酒井 道 滋賀県立大学, 工学部, 教授 (30362445)
    41. 人類のフロンティア拡大を支えるSiC極限環境エレクトロニクスの確立
      黒木 伸一郎 広島大学, ナノデバイス研究所, 教授 (70400281)
    42. シリコンゲルマニウム光スピントロニクスの開拓
      浜屋 宏平 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 教授 (90401281)
    43. Seeder-Feeder豪雨機構の最先端フィールド観測と水災害軽減に向けた総合研究
      中北 英一 京都大学, 防災研究所, 教授 (70183506)
    44. 複雑破壊現象を支配する量子超越性の材料力学
      平方 寛之 京都大学, 工学研究科, 教授 (40362454)
    45. 波動性の顕在化による電子デバイスの超越動作
      鈴木 左文 東京工業大学, 工学院, 准教授 (40550471)
    46. スピン軌道トルクにおける軌道対称性効果の解明と高効率大容量スピンデバイスの創製
      斉藤 好昭 東北大学, 国際集積エレクトロニクス研究開発センター, 教授 (80393859)
    47. 反K中間子原子核の解明へ向けた新たな展開
      佐久間 史典 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (10455347)
    48. パワー素子と生体内部の電磁場を可視化する透過型ミュオン顕微鏡
      永谷 幸則 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特別准教授 (00393421)
    49. 次世代大規模探査を用いた突発天体観測で明らかにする宇宙の進化
      冨永 望 国立天文台, 科学研究部, 教授 (00550279)
    50. 海-陸シームレス地層掘削から探る南極氷床の大規模融解メカニズム
      菅沼 悠介 国立極地研究所, 先端研究推進系, 准教授 (70431898)
    51. CALET長期観測による地球・太陽圏から銀河系の宇宙線物理学の新概念構築
      鳥居 祥二 早稲田大学, 理工学術院, 名誉教授 (90167536)
    52. 波動場の臨界相互作用の解析
      小澤 徹 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70204196)
    53. 純レプトン原子の精密レーザー分光で拓く標準理論精密検証と新物理探索
      植竹 智 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 准教授 (80514778)
    54. 革新的電波観測による太陽嵐予測の実現
      岩井 一正 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 准教授 (00725848)
    55. 波と対流が形作る金星大気大循環:地表から超高層大気まで
      今村 剛 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (40311170)
    56. 海山の沈み込みは巨大地震域の固着を弱めるか:南海トラフの2海山での検証
      木下 正高 東京大学, 地震研究所, 教授 (50225009)
    57. 高分解能キセノン測定器と大強度パイ中間子ビームによるレプトン普遍性破れの精密検証
      森 俊則 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 教授 (90220011)
    58. All-in-One半導体プラットフォームによる新量子フロンティア
      Le DucAnh 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (50783594)
    59. 若いトランジット惑星で解き明かす原始惑星系円盤晴れ上がり後の惑星の進化
      成田 憲保 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (60610532)
    60. 地磁気逆転現象が気候・生態系に対して与えた影響の検証
      岡田 誠 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 教授 (00250978)
    61. p進的手法による数論幾何学の新展開
      都築 暢夫 東北大学, 理学研究科, 教授 (10253048)
    62. グローバル・バリュー・チェーンの変容と新国際経済秩序の構築
      石川 城太 学習院大学, 国際社会科学部, 教授 (80240761)
    63. 世界に開かれた日本独占禁止法データベースを基礎とするモデル競争法の創生
      和久井 理子 京都大学, 法学研究科, 教授 (50326245)
    64. 日本の物価・不動産価格の変動-大規模ミクロデータを用いた解明と統計の再構築-
      清水 千弘 一橋大学, 大学院ソーシャル・データサイエンス研究科, 教授 (50406667)
    65. 史料データセンシングに基づく日本列島記憶継承モデルの確立
      山田 太造 東京大学, 史料編纂所, 准教授 (70413937)

参考

  1. 令和6(2024)年度科学研究費助成事業(科学研究費補助金)(基盤研究(S))採択課題一覧 FY2024 Abstracts of the New Research Projects under Scientific Research (S) 日本学術振興会ウェブサイト 大区分別

当たり前すぎて誰も教えてくれない科研費申請書の書き方の作法、暗黙のルール

当たり前なので誰も言わないけれども、初心者にとっては当たり前でないことが、科研費研究計画調書(申請書)の執筆において重要になります。

申請書を書く際の態度について(*最重要)

研究計画だから、まだデータが出ていないことを書くべきだと誤解する初心者が多いですが、そうではありません。実験データが得られていても「論文化(受理;アクセプト)されていないものは、何も行われていないものと同じ」いうスタンスで書くのが、申請書を書く際の原則です。ですから、もう研究が一通り終わっていると思われると研究費がもらえないのではないか?という初心者にありがちな心配は無用です。

建前の本音が大きく矛盾しているのですが、だからこそ公で誰もはっきりとは言わないことなのですが、ほとんど研究が上手くいっているくらいの状態でデータをバンバン申請書に盛り込んでいるほうが採択されます。なぜなら、研究計画の実現可能性に疑問が挟まれないからです。実験なんてほとんどは思った通りの結果は出ないということは審査委員もみな知っていますので、机上の空論を書かれても真に受けるわけにはいかないのです。

事務が聞いたら怒りそうですが、研究費が得られたら本来の計画書に書いた実験ではなく、「次の」研究のアイデアを纏めるための新たな実験に使ったほうがいいのです。そうしないと、次の申請のときに採択可能性がさがります。「研究費をもらって、実験して論文化」というサイクルではなく、「研究費をもらって、さっさと論文化を済ませて、次に申請するための実験をして論文化の準備をする」というサイクルを回し続けることが、研究者として生き残るための条件なのです。

これは成功している研究者を見れば、皆があたりまえにやっていることです。悪い環境で研究を孤独にやっていると、こういう当たり前のことを教えてくれる人がいないという不幸なことになります。

自分はアメリカのRO-1(大型研究予算)の申請書や、日本の基盤研究(A)の申請書などを見たことがありますが、ぱっと見ほとんど「論文」でした。主要なデータがきちんと論文レベルのクオリティで図として埋め込まれているのです。金額が大きければおおきいほど「ほとんど論文」の傾向が強い(それが要求される)と思いますが、少額である基盤研究(C)や若手研究であっても、基本的な考え方は同じです。

申請書に書くべきこと

申請書には、やることを書きます。また、なぜやるのかという理由も書きます。なぜその研究が大事なのかという説明を書きます。科研費の申請書は、将来の希望を書くための書類ではありませんし、心情を吐露するためでもありません。主観を排して客観的に、すなわち、文献や予備実験データに基づいて、論理的に話を進める場所です。唯一主観を交えて書いても良い場所が、本研究の着想に至った経緯のセクションです。申請者が何を考えているのかを書くべきですが、それは根拠のない思い付きや心情を書くということではなく、どうロジカルに考えた結果そのような主張をしているのかがわかるように書くべきなのです。

3年なら3年という限られた年数の間に、何をやって何を明らかにするつもりなのかを書く代わりに、医療の発展に寄与したいとか、あやふやな願望ばかり書いていては、採択はおぼつきません。

申請書はいくつかのセクションに分かれていて、このセクションにはこれを書くというのがある程度決まっています。研究目的なら、研究目的のセクションに書くわけです。当たり前ですね?このあたりまえのことを守らない人も結構います。書くべきことを書いていなかったり、逆に、書く必要のないことを書いていたりします。そんな申請書は、もちろん採択されるわけがありません。

申請書作成にあたっての態度

なぜ申請書に書かれた指示を守らない書き方を平気でするのか?それは一言でいうと、独りよがりだからです。独りよがりは物事に対する態度なので、申請書のいたるところでその独りよがりぶりが見てとれます。例えば、論文の図などをコピペした際の英語のフォントが小さく読めないのに気にしないなど。独りよがりでない、すなわち、読み手を意識して読みやすい申請書を作成する心の態度ができている人は、ちゃんと読める大きさに図を作ったり、理解しやすいように英語の部分を全部日本語に直したりといった工夫をするわけです。「独りよがりな人=実験データを客観的に解釈できず、自説に引き寄せてしまう人」の恐れが大きいため、研究者としての評価が低くなり、審査委員にしてみれば研究費をあげたい人には入らないでしょう。

申請書の言葉遣いに関する掟

研究目的のセクションに、研究目的を書かずに、研究目的の意義を書く人もたくさんいます。「細菌叢を解析することにより、疾患Aとの関連性を明らかにする」というのが研究目的だったとしたら、研究目的のセクションに「細菌叢を解析することにより、疾患Aとの関連性を明らかにすることにより効果的な治療戦略の開発に貢献できる」などと書くのが典型的な失敗例です。研究目的の文と、その意義を述べる文は一続きの文にせず、2文に分けましょう。

プロポーズするときに、「あなたと結婚したらきっと幸せな家庭が築けると思うよ」と言っても、言われた相手はプロポーズされたとは思わないでしょう。「あなたと結婚したい」と言わなきゃだめです。科研費の研究目的の書き方も、それと同じです。

申請書は書き言葉で書きます。話し言葉やくだけた表現を用いてしまうのもよくある失敗例です。また、ラボで飛び交う日常語と正式な言葉とは使い分けましょう。ラボでは、「サザン」をするというかもしれませんが、書くとときは「サザンブロット法」です。「それで、」とは書かず、「そこで、」と書きます。「そして」も普通使いません。「また」あるいは「その後」といった言葉を使います。使う言葉で、その人がプロフェッショナルな研究者なのかそうでないのかは、一瞬でバレてしまいます。

概要で書くべきこと

概要は、指示にもある通り、本文の要約です。この指示を無視して、本文に書いていない情報を盛り込む人が多数います。これは申請書に整合性がないもの判断される材料になるでしょう。

概要で大動脈弁狭窄症(Aortic Stenosis; AS)と書いたからといって、本文でいきなりASと書くのは、「概要は本文の要約」という鉄則に反した行為です。本文でも繰り返しになって全然OKなので、初出時は大動脈弁狭窄症(Aortic Stenosis; AS)と書きましょう。そもそも本文のスペースが十分余裕があるのであれば、わざわざASなどど略さなくてもよいでしょう。

概要のところを10行分くらい空けておき、本文4ページ分を書きあげてから4ページ分の要約を概要に書けば、上のようなつまらないミスは起こしようがありません。様式をダウンロードしたあと、まず概要を書き、続けて本文を書き進むといった作成方法をしている人は要注意です。

背景に書くべきこと

その次に来る学術的な問いの妥当性を客観的に説明するために書きます。客観性を出すためには、文献を引用しながら書くのが鉄則です。自分の個人的な体験や考えをただ書いても説得力が出ません。

ただし2025年度科研費から、着想に至った経緯が(1)に入ってきたので、ある程度自由度があるかもしれません。

着想に至った経緯

業績がほぼない臨床医であれば、日常臨床でどのようなクリニカルクエスチョンを得てそれをリサーチクエスチョンとしたのかを書いてもいいでしょう。しかし、研究業績のある人で、テーマに関連する論文の積み上げがある人であれば、自分の論文業績に基づいて書くのが普通です。

2025年度科研費(2024年度応募)から様式に変更があり、着想に至った経緯は、(3)の中ではなく、(1)に書くことになりました。毎年、前年度の申請書のコピペで申請書を作っている人は要注意です。背景~着想~問い はひと続きに書いても、それぞれ分けて書いても、どちらでもいいと思います。ただし、背景を書く目的がそもそも問いを導くためなので、このセクションは一まとまりで書くほうが自然のような気がします。

学術的な問いに書くべきこと

あくまで明らかにしたい学術的な問いであって、「こんな研究は可能か?」という疑問を書くのではありません。日常語としての「問い」の意味に引きずられないようにしましょう。

学術的な問いは、文字通り「学術的な問い」です。ある実験系においてどういう結果が出るか?という具体的なものではなく(それは研究目的)、もっとその研究領域の他の研究者とも共有されるような大きなものであるべきです。「抽象度ー具体度」の軸で考えると、研究目的よりも学術的な問いのほうが抽象度が高くないとおかしいのです。思い付きで例を挙げると、以下の項目は上ほど抽象度が高く、下に行くほど具体性が増します。

  • がんの撲滅
  • 抗体医薬の開発
  • 免疫チェックポイント阻害抗体の効果の検証
  • ヒト大腸がんの細胞株を用いた免疫チェックポイント阻害抗体の効果の検証
  • ヒト大腸がんの細胞株の担癌マウスを用いた免疫チェックポイント阻害抗体の効果の検証

学術的問いと研究目的を設定する場合、どの「大きさ」で設定するかは本人次第ですが、どうであれ、問いは目的より抽象度を高くした記述になっているのが普通です。ただし、「同じ」というのもあり得ます(問いと研究目的が、言葉としては裏返しの関係)。

研究目的に書くべきこと

初心者でときどき勘違いしている人がいて、研究目的として、がんを撲滅して人類に貢献したいといった内容を書く人がいます。これは将来の願望や希望であって、このセクションに書くべきことではありません。通常の日本語でいう「目的」であれば、がんの撲滅は立派な目的ですが、申請書における研究目的とは、「何をどう研究して何を明らかにするのか」という意味です。研究期間内(3~4年)の間に何をやるかを書くのです。将来的な目標を書く場所ではありません。通常の日本語に惑わされないようにしましょう。これは、採択されている人間にとっては当たり前すぎることですが、初めて科研費に応募する人の中にはわかっていない場合があります。どうしても将来的な目標まで書きたければ、期間内の目標と将来のことをハッキリと書き分けましょう。

「研究目的は、~を目的として~を行うことである。」と書いてしまうと、前半部分だけが目的のようになって、分かりにくくなりますので、「研究目的は、~を明らかにするために~を行うことである。」と書いたほうがよいでしょう。

独自性に書くべきこと

「他に論文報告がない研究だから独自性がある」と書くのがダメです。重要な研究なのになぜ誰もやっていないのか、できなかったのか、なぜ自分ならできるのかを説明しましょう。誰もやっていないということは、誰も興味を持たないくらいに面白くない研究テーマであることが多いはずです。

「本研究は~を~して~を明らかにする点で独自性がある」と書く人も多数います。「本研究は~を~して~を明らかにする」の部分が、単に研究目的に書いたことそのままだとしたら、それは独自性を説明したことには全くなりません。AならばAである、とトートロジーを述べているようなものです。独自性=他者と比べて何がどうなのか という説明が必要です。

創造性に書くべきこと

創造性という言葉の意味が広すぎて、人によって書くべきことのイメージが大きく異なる可能性があります。アイデアの斬新さや、研究成果の波及効果(社会に対する貢献や、おなじ研究領域の他の研究者に対する貢献、ベネフィット)を書けば良いでしょう。ぶっちゃけ、審査委員(=同じ研究領域の研究者)が自分たちの役に立つと思ってくれればよいのです。

もう一つの考え方として、自分の研究に将来的な広がりがあるという観点で書くのもありでしょう。しかし、上で書いたことのほうが強力です。自己的な人より他己的な人のほうが評価されるのは当たり前。

創造性という言葉はかなりビッグワードなので、~という点で創造性があると書いても、日本語として不釣り合いなことが多いです。そういうときは、~という点に特色がある。程度で済ませましょう。いろいろな意味でバランスが悪い人は、研究能力も低いのではないかと疑われます。

 

研究動向と位置づけ

他人の研究と自分の研究を紹介すればそれが動向であり位置づけになりますので、動向と位置づけは表裏一体であって、分けて書かないほうがいいと思います。また研究動向はあくまでその申請書の研究テーマに関する研究動向(それくらい広く捉えるかはケースバイケースで正解はない)であって、あまり関係がない研究を紹介するのは意味不明です。

「着想に至った経緯や、研究動向と位置づけ」という指示があるせいか、着想を書いて、そのあと書くことがなくてなのかスペースがなんとなく埋まったせいなのか、動向・位置づけを何もかかずに済ませる人がいます。これは絶対にダメです。着想は主観を書く場所なので、評価のポイントになりえません。しかし動向と位置づけは、客観性をもってその研究の意義をアピールするために必須なので、それを書かなければ採択されるはずもありません。

本研究で何をどのように、どこまで明らかにするのか

このセクションはいわゆる研究計画欄であって、方法や計画、実験課題を具体的に書きます。具体的といっても何を何ml採取して何と混ぜてとか、何gで遠心してなどとプロトコールを書いてはいけません。実験をやり慣れている人が読んだときに何をするのかが分かる程度の詳しさで十分です。遺伝子発現を調べるのであれば、RNAseqなのかreal time PCRなのかウエスタンブロットなのか免疫組織なのかといったことを書く必要があります。関連する実験の論文を多数出している人は、細かいことを書かなくても信用してもらえますし、関連論文ゼロの人は自分がその実験をできるんだというアピールが必要です(予備データを見せるとか、publishableなデータでなくても少なくとも自分のいる研究で自分自身で実験をこなせることを示す写真を見せるとか)。

また、実験の作業工程をえんえんと書いてお仕舞いにしても、読んだほうにはちんぷんかんぷんですので、それぞれの実験を行う意図や目的を必ず書きます。このセクションの最初と最後には実験目的や得られる結果の予測と結論などを書きましょう。

準備状況

予備実験データなどがあればそれを書いてもいいでしょう。予備実験データは計画欄においてもいいですし、背景などもっと前のほうにおいてもいいと思います。ただ単に、準備は万端整っていて採択されれば確実に研究計画を実施可能である。と書いてもあまり説得力がありません。準備できているのなららその中身を書いて、判断は審査委員に委ねましょう。

研究者の遂行能力

ここはいわゆる業績欄で、昔は単に論文のリストを書く場所でした。科研費の様式も変遷を経ていて、今ではかなり自由に何を書いてもよいことになっています。そうは言っても、論文リスト+それらの論文の解説というパターンで書く人がほとんどでしょう。

  1. 査読付き原著英語論文(筆頭著者論文、責任著者論文、共著論文)
  2. 査読付き原著和文論文、英語論文(総説)、症例報告論文、和文商業誌の記事、論文
  3. 学会発表(筆頭演者)

人によって考え方が違うかもしれませんが、上のようなことを書くといいと思います。特に、研究計画に関連する論文はしっかりとアピールします。関連論文がないなら、関連性が薄い論文でもなんでもとにかく余白を作らないように書けるだけ書きます。

関連論文の内容を、場合によっては図なども提示しながら日本語の文章で解説するというのもありです。論文数が少ないほど、日本語の文章が増えることになります。

研究分担者の業績も書きますが、分担者の業績が大半を占めるのはNGです。代表者の業績が少なければ、より詳細に説明することにより、スペース的には代表者がメインになるように印象付けましょう。分担者が他大学の他の専門領域の人の場合で、相補的な関係がある場合は、分担者も代表者と同じ程度にしっかりかくというのは当然のことです。

研究環境

2ページのうち1ページを遂行能力、1ページを環境に当てる人もいますが、それはバランスが悪すぎます。環境は半ページ以下で十分。4~5行でも十分です。研究遂行能力に十分なスペースを割きましょう。

経費

経費を非常に細かく人がいますが、ある程度ざっくりでも大丈夫です。分子生物学用試薬10万円など。抗体は一つ5万円くらいしますので、経費の説明で何に対する抗体かも書いたりしたほうが良いと思います。経費は雑に書いても採択される人は採択されますが、ボーダーライン上のどんぐりの背比べの中に入っている人は、少しでも印象を良くするために、経費の理由をきちんと、研究計画と整合性があるように書きましょう。誰であれ、整合性がないことを書くと、印象が非常に悪くなります。

国内学会の出張費に10万円などと書かれていると、自分はちょっと高くない?と思ってしまいます。東京の研究者が横浜の学会に行くのか、沖縄や札幌の学会に行くのかで旅費は全然違ってくるでしょうから、第XXX回XXX学会(福岡市)などと具体的に書いて常識的な経費を申請したほうが印象が良くなります。逆に海外の学会でヨーロッパ15万円などと書いていると、それで行けるの?と思ってしまいます。エコノミーの座席で格安航空券を買うにしても、宿泊代と航空運賃合わせて30~40万円はかかるのではないでしょうか。

基盤研究(C)や若手研究の助成金額の上限は500万円ですが、それを458万円などとしている人もいます。まず、金額を低くすれば採択可能性が上がるかと言うと、そういうことは全くありません。希望金額と採否は無関係です。また、採択された場合の充足率(実際にもらえる金額)は70%くらいです(最近の挑戦的研究は、100%の充足率になって、話題を呼びましたが)。真面目に書いてしまうと30%削られた金額しかもらえないので、馬鹿正直に書くより少し多めに書いておいてちょうどよくなるということは知っておくべきでしょう。採択されても30%減ということは、それくらいが誤差と考えて金額を書いてもいいのだと自分は思っています。英文校正費用が5万円で済むところを6万円と書いてもなんの問題もないでしょう。

熱量

レベルの高い競争だと、熱意があるのが当たり前なのでそこで差がつくことはないですが、若手研究くらいだと、きちんと申請書を書いていて熱意が感じられるほうが印象が断然よいと思います。採否のボーダーラインにたくさん並んでしまった場合には、熱量があるものが拾われることもあるのではないでしょうか。誠心誠意頑張っているのが伝わる申請書を採択させるという審査委員の言葉を聞いたことがあります。もちろんボーダーライン上でどんぐり状態になった場合の話だとは思いますが。熱量というのは言葉であからさまに表現するものではなくて、申請書の隅々にまで神経がいきわたっていることも、熱量を感じさせる大きな要素になります。

科研費の教科書

いちばんわかりやすい科研費申請書の教科書」(amazon.co.jp)は発売日が2023年9月7日のため、まだ中身を読んでいませんが、科研費.comさんの著作ですので期待が持てます。アマゾンで予約購入すると発売日当日に到着するように発送してもらえるようです。 買って読みました。参考になること(他の類書に書いていないこと)がいくつもあって、自分には非常に参考になりました。

科研費 採択される申請書のまとめ方」(amazon.co.jp)は、近年のベストセラーだと思います。特に審査委員がどうやって審査しているのかという実際や審査委員がどう感じるのか、どう考えるのかといったことも細かく紹介されており、それを踏まえてどのように申請書を作成すればいいのかがわかるようになっています。繰り返し読んで血肉とすべき良書でしょう。

科研費獲得の方法とコツ」(amazon.co.jp)はベストセラーかつロングセラーで、系統だって書かれた正統派教科書の趣があります。初心者はまずこれを読んでから執筆にとりかかるのが良いでしょう。それに対して、「科研費 採択される申請書のまとめ方」は、何度も応募していて書きなれてはいるけれども採択されたことがない人に一番効果がありそうです。

科研費申請書の書き方

科研費研究計画調書(申請書)研究者の遂行能力(業績欄)の書き方

書く内容の配分

科研費研究計画調書(申請書)の様式の後半に、研究者の遂行能力(業績欄)を書く場所があります。遂行能力と研究環境を2ページで書けという指示がありますが、それぞれ1ページずつ書くわけではありません。配分は本人に任せられていますが、常識的に考えて、遂行能力のほうが圧倒的に重要なのでそっちで大部分を埋めましょう(少なくとも1ページ半)。研究環境は半ページ以下、5~6行でも十分です。

余白について

業績欄に余白があると、業績が足りない人という印象を与えてしまいますので、最後の1行まで使い切る必要があります。書くことがないので余白が2~3行できたけど諦めるという態度ではいけません。科研費は他人の申請書との比較で採否がきまるので、他のみんなが2ページを書き切っていたら自分の申請書は見劣りするという当たり前の事実を認識することが大事です。

論文業績が少ない場合の書き方

論文が少ないので書くことがありませんという人もいると思います。その場合は、その少ない論文の内容を紹介すればいいのです。ただ内容説明するのではなく、自分の研究能力をアピールするようにメリハリのある文章にしましょう。審査委員は研究内容そのものに興味があるのでなくそのような研究成果をあげたあなたの能力を測りたいだけですので。

書くことがないので、自分の履歴を書いたり(大学卒業年度、博士取得年度、働いた研究機関など)、学会発表のリストや症例報告のリストをつけたりする人もいるでしょう。それはそれで採択されている例も見たことがありますので、ダメということは全然ありません。しかし、評価対象としての重要度、優先度はパブリケーションです。

査読付き英語原著論文>症例報告論文>学会発表 の順だと思います。

査読付き英語原著論文が一報しかない業績であっても、審査種目(小区分)をうまく選び、研究紹介をうまく書けば採択される可能性はあり、実際にそういう例を見たことがありますので、希望を捨てずに頑張りましょう。

採択される科研費の書き方に関する教科書・日本語の文章力を身に付けるための本

科研費の書き方の教科書が何冊も出版されています。抜け目なくこういった書籍を読んで科研費を書いている人もいれば、これほど有名な本なのに知らずに一人で科研費の申請書を書いている人もいて、情報格差の大きさに驚かされます。

中嶋 亮太『狙って獲りにいく! 科研費 採択される申請書のまとめ方』 2022/8/20

これは名著だと思います。なにより、実践的。審査委員がどんな気持ちで、何を考えて審査しているのかが赤裸々に述べられていますので、それに対処する形で申請書を作ればよいのだということがよくわかりました。そこまでしゃべっていいのか?というくらいに審査委員の本音が炸裂しています。

狙って獲りにいく! 科研費 採択される申請書のまとめ方(アマゾン)

 

科研費に毎年応募して毎年不採択になっている人の中には、日本語で文章を書くのが苦手という人が結構な割合います。日本の学校教育では、日本語の文章を書く訓練はほとんどなされていないので、日本語が書けない研究者がいても何ら不思議ではありません。教育を受ける機会がなかった以上、自分で自学自習するしかないわけですが、今更日本語をどうやって学べばいいのかとっかかりがわからない人が多いと思います。

科研費の研究計画調書を書く上で、直接役立つ日本語の書き方の本を紹介しておきます。

酒井 聡樹『100ページの文章術 -わかりやすい文章の書き方のすべてがここに-

わかりにくい文章がなぜわかりにくいのかを分析して、その解決方法を示しています。きっちり100ページなので、簡単に読めて得るものが大きいです。文例は理系の学部学生さんが書いたようなものが多い印象。

『100ページの文章術 -わかりやすい文章の書き方のすべてがここに- 』(アマゾン)

 

林 健一『こうすれば医学情報が伝わる!! わかりやすい文章の書き方ガイド』 (ライフサイエンス選書) 2014/10/8(アマゾン

この本をしっかり読みこんで、自分なりに文を改訂したりといった練習をすれば、科研費の申請書を書くときに日本語で悩むことはなくなるでしょう。文の書き換えの練習などもきちんと実践しながら読み切るのは、それなりの労力が必要ですが、努力は報われます。

こうすれば医学情報が伝わる!! わかりやすい文章の書き方ガイド』(アマゾン)

 

古賀 史健『20歳の自分に受けさせたい文章講義』星海社新書 2012/1/26

この本はフリーランスのライターが書いたノウハウ本ですが、論理展開をしっかり書くことの大事さなどが強調されていて、まさに科研費の書き方にそのまま通じる内容。

20歳の自分に受けさせたい文章講義』(アマゾン)

 

木下 是雄『理科系の作文技術』 (中公新書 624)  1981/9/22

この本を知らない人は研究者の中にはいないだろうというくらいに有名なロングセラーです。研究者でこの本を持っていない人はいないかもというくらいによく読まれています。

理科系の作文技術』(アマゾン)

 

科研費申請書の書き方:業績欄をどう書くか

科研費の基盤Cや若手研究は、業績欄が2ページあります。研究者の遂行能力と研究環境を書きなさいというセクションです。2つ書くから1ページずつ、じゃあありません。遂行能力と研究環境のどっちが審査委員にとって重要かといえば、もちろん遂行能力(=過去の業績)なわけですから、分量としては、1.5ページ以上を業績の記述に割き、半ページ~4分の1ページ程度、環境について書くくらいが適当なバランスだと思います。

臨床系の人は、原著論文と、症例報告と、総説その他エディトリアルなどをごちゃまぜに書く人がいますが、それは全くお勧めしません。なぜなら、原著論文こそが最重要であって、それ以外は、さほど重みがないからです。審査委員がこのセクションで知りたいことは、ファーストオーサーの論文が何本あるのか、どのジャーナルに出しているのか(トップジャーナルに出しているか)、最近の仕事かどうかです。それが瞬時にわかるように書かないと、意味がないのです。古い先生は昔と同様に論文リストを書いてお終いにする人が多いのですが、それだけだとアピール不足。やはり、過去の論文のどれが、どんなふうに今回の研究計画に関連するのかをしっかり日本語の文章でも書いたほうが良いです。科研費の採択は、他人の書いた申請書と比べられて決まるわけですから、楽して書いたものと精魂込めて丁寧に書かれたものとが比べられたときに、どちらが好印象を残すかは明らかでしょう。

審査委員目線で自分が書いた申請書をチェックできる客観性を備えた人のほうが、採択される可能性は高いといえます。

論文業績が無い場合の書き方

博士号を持っていないため基盤研究(C)に出すのだが、英文の原著論文が筆頭では一方もないとか、若手研究に出すのだが博士論文の一報しか発表論文がないとか、業績が少なくて困っている人は、どう業績欄を埋めればいいのでしょうか。

まず大事なことは、業績がなくても業績欄の2ページは最後の行まで書ききることです。業績はなくても誠意、熱意があることを示しましょう。で、何を書くかですが、一報でも論文があるのなら、その論文の紹介を図なども交えてしましょう。研究計画と関連性が薄くても構いません。研究遂行能力、計画の実現可能性を示すことが、このセクションを書く目的だからです。論文がないなら学会発表の内容でもいいので、とにかく書きましょう。論文になっていないけれどもデータが何かあるのなら、その図を載せて解説しましょう。臨床経験しかないのなら、日常の臨床業務のことでも書いたほうが、余白を残すよりはましです。基盤研究(C)で研究分担者を置いている場合は、もちろん研究分担者の業績も書きます。ただし、研究代表者よりも多くのスペースを割くのはバランスが悪いので気を付けましょう。

科研費申請書の書き方:勝てないケンカはしない

書き方というよりも、採択されるための戦略の話なのですが。どんなに頑張って科研費の申請書を書いても、しょせん科研費にはライバルが存在しており、相対的な評価で序列が付けられて採否が決まります。研究テーマや研究計画が十分練られた研究計画調書が集まってくると、最後は業績の良し悪しが効いてきます。つまり、どれほど申請書の完成度を上げたとしても、かなわないときにはかなわないのです。

自分は神経内科医だから神経内科学関連、自分は循環器医だから循環器内科学関連などと、科研費を応募する審査種目を決めつけてしまってはいませんか?自分の研究計画のキーワードを用いて、KAKENを検索してみてください。類似した研究テーマは実はいろいろな審査種目で採択されていることがあります。

そして採択課題、研究代表者、リサーチマップ(もしリンクがなければグーグル検索)、あるいはその研究者の所属する大学の教員データベースなどを調べて、どれくらい業績のある人がその審査種目で採択されているかを眺めてみましょう。もちろん、ここでのポイントは、どれくらい業績が無い人でも採択されているのか?です。

審査種目の競合の強さを調べて、ここなら自分の業績でも太刀打ちできると思えるような、勝てる土俵で勝負しましょう。科研費は参加することに意義があるオリンピックではないのです。応募して採択されてナンボです。

同じような申請書を、不採択になった翌年、審査種目を変えて出しただけで採択されたという例があることは、皆さんも聞いたことがあるはず。世の中は、不均一にできているのです。

科研費申請書の書き方

 

科研費の教科書

 

科研費申請書の書き方:業績をアピールせよ!

科研費が採択されるために必要な要素は、人によって考えかたがいろいろでしょうが、業績が大事だということに異論を唱える人はいません。じゃあ、業績があれば採択されるのかというと、そうでもないのです。業績があることが伝わって初めて採択に近づきます。業績欄のページに業績リストを載せて安心していませんか?

業績欄は、科研費の申請書の後ろのほうにあります。審査委員によっては業績を気にせずに最初のページから順番に読んでいく人も結構います。そして、途中まで読んで良い印象を持たなかった場合には、業績のページに到達する前に「不採択」の判断を下してしまっているかもしれません。ページをめくって業績が多少あることに気付いたとしても、一度決めた決定を覆すのは難しいでしょう。

今どきの科研費は業績だけ見せれば通るほど甘くはないのです。研究目的や研究計画がきちんと説明できていない研究者にたとえ業績が多少あったとしても、それは指導者が論文を書いてあげていただけなんじゃないの?と勘繰られます。論理的な文章を書けない人に論文業績だけあるのは不自然だからです。

そんなわけで、業績がありますアピールは、申請書の最初のほうからしておく必要があります。どのくらい最初かというと、概要でもいいです。市販されている科研費の教科書を読むと、概要では文献の引用はしないと教えているものもありますが、それは別に絶対的なルールではありません。絶対に見落とされたくない素晴らしい論文を最近出したのであれば、概要で(もちろん本文でも)示してあげて、業績アピールしても全然かまいません。あとは、背景、着想に至った経緯、独自・創造性、国内外の研究動向と本研究の位置づけ、研究計画、準備状況、どこでも構いません。自分の論文業績を引用できそうなところで、どんどん引用してアピールしましょう。

謙虚な性格な人は、そんなにアピールしたら審査委員が反感をもったり嫌悪感を持ったりするのではないかと心配してしまうかもしれません。まあ、日常生活や学会で会って話をしているときに、最近論文を出しましたアピールをすると、場合によっては嫌な感じと思われるかもです。しかし、科研費の申請書というのは特別な場所です。どれだけ自分の業績をアピールしても、それが嫌味になることはありません。審査委員が審査するのを楽にしてあげるだけのことです。

業績欄に、最近出した素晴らしい論文や、総説や、症例報告が入り混じった十数報のリストがあったとして、審査委員がその中からパッとトップジャーナルの論文を見つけ出してくれるでしょうか?審査委員は審査の作業でくたくたに疲れているので、おそらく、なんだ臨床報告のリストかと思って素通りするだけでしょう。審査委員の興味はファーストオーサーでトップジャーナルもしくはその研究領域で認められているジャーナルに最近論文がどのくらい出ているのかです。それが一瞬でわかるような業績リストでなければ、業績リストを載せた効果はあまりありません。査読付き原著論文と総説と症例報告は、分けて、別々のリストとして表示しましょう。

科研費の教科書

  

科研費申請書の書き方

科研費申請書(研究計画調書)の書き方セミナースライド集・ノウハウ記事

科研費申請書(研究計画調書)の書き方のセミナーを毎年開催する大学が多いですが、ネット上に公開されているセミナースライドをまとめておきます。

科研費セミナースライド

  1. 岡山大学 科学研究費獲得法2020 Essential版 科学研究費申請スキル強化書︓2021申請に向けて 科研費講演会2020年8月19日 研究協⼒部⻑⽇本危機管理⼠機構員危機管理⼠1級DRII認定ABCP(事業継続プロフェッショナル)⼭﨑淳⼀郎 (スライド80枚)
  2. 信州大学 K3茶論第15回 科研費申請書作成のポイント 加藤鉱三 信州大学高等教育システム開発部 審査員を知れ 450字の審査意見を書く 審査員は審査しなければならない⇒審査ポイントがどこに書いてあるのか一発で分かるように⇒審査意見は「写すだけ」にしてあげる

科研費の書き方・ノウハウ(ウェブ記事)

  1. 羊土社 科研費獲得の方法とコツ 科研費申請応援サイト
  2. 科研費.COM
  3. 「科研費が採択されない人」が陥りがちなNG思考 2022.02.02 (Wed) 分析計測ジャーナル 専門用語ばかりで論理的でない文章、写真や図の挿入もなし、あってもわかりにくい 同じ専門分野同士でもわかってもらえていないことのほうが圧倒的に多い 読み手のことを想像しながら、わかりやすく理屈をたてて順番に書いていく 内容がすばらしいかどうかの前に、読んでわかるかどうか 自分がわかりにくい文章を書いていることに気づかずに「これでいい」と思っている 必要に応じて言葉を変える

科研費応募書類の書き方(書籍)

(アマゾンへのリンク)

  1. 狙って獲りにいく! 科研費 採択される申請書のまとめ方 2022/8/20 すばる舎
  2. 科研費獲得の方法とコツ 改訂第8版〜実例とポイントでわかる申請書の書き方と応募戦略 2022/7/14 児島将康 羊土社
  3. 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第2版  2019/7/28 児島将康 羊土社
  4. 科研費 採択される3要素: アイデア・業績・見栄え 第2版2017/7/3 郡 健二郎 医学書院
  5. 科研費改革と研究計画書の深化―新審査の要点と留意点/研究PDCA/新調書のチェックと進化策 (高等教育ハンドブック)  2018/10/15 牛尾 則文, 長澤 公洋, 大澤 清二, 岡野 恵子 地域科学研究会

科研費申請書の書き方

 

科研費の教科書

 

科研費の応募で研究分担者を置くべきかどうか、採否への影響は?

科研費を応募する際、申請書を作成していて頭を悩ませることの一つが、「研究分担者」を置くべきかどうかです。分担者がいたほうが採択される可能性が上がるのか?あるいは下がるのか?などと考える人がいることと思います。答えは、「単純に採択されやすくくなるということはない」です。それよりも大事なのは、なぜ分担者を置く必要があるのかです。分担者を置く必然性があればOK,なければNGなのです。

 

分担者を置くことで、採択可能性が下がる例

助教や講師、准教授が研究代表者で、教授を研究分担者とし、教授に対する役割として「ご指導を仰ぐ」ためと書く。こう書けば、申請書の他の部分がどれほどよくても、一発で落ちることでしょう。

研究分担者を置いているのに、計画欄のところで分担者の役割を全く書いていない計画調書もありますが、これもなぜ分担者が必要なのかが不明瞭なので、かなり印象が悪くなります。

 

分担者を置かないほうが不自然な例

例えば臨床医とAIの専門家がそれぞれ専門知識を生かして研究プロジェクトを計画したとします。臨床医が研究代表者になるのなら、AIの専門家が研究分担者として参加していないと、実験計画の実現可能性は低く感じられることでしょう。

 

研究分担者を置くほどのこともない例

「研究分担者」は、科研費に採択されたときに研究費を分けあうわけですから、お金が対してかからないような役割しか担っていないのであれば、わざわざ研究分担者にするのは不自然でしょう。その場合、「研究協力者」として、本文中に役割を記載するにとどめれば十分です。完全に一人でできる研究などそうそうなく、たいてい、複数の人達の協力によって研究がなりたっています。ですから、論文を書くときには単著ということはあまりなくて、たいてい共著論文になります。共著者たちがかならず研究分担者になっていないとおかしいということはありません。

 

結論

研究分担者をおくべきかどうかの判断は、実験計画との整合性で決めるのが良いでしょう。分担者を置く理由が言えないのなら、置くべきではない。分担者がいないと研究計画が実行できないのなら、共著者になるのか、お金が必要かなども含めて考えたうえで、分担者を置くかどうかを考えればよいのです。

 

科研費申請書作成の疑問:「着想に至った経緯」や「国内外の研究動向と本研究の位置づけ」は、「本研究の学術的背景」とどう書き分ければよいのか?

科研費の申請書を書いている研究者の方々の多くが悩んでいることの一つが、「着想に至った経緯」や「国内外の研究動向と本研究の位置づけ」は、「本研究の学術的背景」とどう書き分ければよいのか?という点です。背景も経緯も似たようなものですし、背景と動向も似たようなものです。内容がそもそも被っているからといって同じことを繰り返し書いてもいいのでしょうか。全く同じことを書くのは、芸が無さすぎです。審査委員だって、同じような記述が2回も3回も繰り返されていたら、面白くないでしょう。

さて、経緯や動向と背景とをどう書き分ければいいのかという疑問を抱くのは当然のことです。というのもこの悩みは2018年度科研費の様式の変更に伴って必然的に発生したものだからです。変更前の2017年度の科研費の申請書を見てみると、セクションの割り振りが今とは大きく違っていて、最初の2ページは「研究目的」を書くページです。指示としては3つのことを書くようになっていて、①研究の学術的背景(本研究に関連する国内・国外の研究動向及び位置づけ、応募者のこれまでの研究成果を踏まえ着想に至った経緯、これまでの研究を発展させる場合にはその内容等) と明確な指示がありました。つまり、様式を作った側も、動向や位置づけ、着想を学術的な背景の中身として考えていたのです。もともと同じ場所に書く内容だったのですから、同じに感じるのは当たり前。

このような科研費申請書の様式の変遷を考えれば、多少の内容のオーバーラップは当然だと思います。しかし、同じことを3回繰り返し記述するのはばかげていますので、やはり書き分けたいところです。書き分けるヒントですが、同じことでも違う角度で見れば、違うものように見えます。同じこと内容を書くにしても、書く目的が異なればおのずと力点を置く場所が変わってきます。

書き分けるべきは、「内容」ではないのです。内容は同じでいい、いやむしろ同じでないとおかしいのです。変えるべきは、何をそこでアピールしたいのかということです。

「背景」でアピールしたいことは、自分が立てた「学術的問い」の妥当性です。

「動向」でアピールしたいことは、自分がその問い答えるべきベストの人間だということです。

「着想」は動向・位置づけの中に混ぜ込んで書いてもいいし、分けて書いてもいいと思います。ただし、着想というくらいですので主観的な書き方が許されますし、主観的に書かれていることゆえ客観的な評価の対象とはなりにくいのではないかと思います。なんでこんな面白いこと考え着いたんだろう?という読み手の疑問に答えてあげる程度でいいんじゃないでしょうか。