生化学の教科書を読んでいると酸化還元反応のステップにおいて、NAD+が還元されたときにNADHの隣にいるH+が添えられていることがあります。そうでない教科書もあるように思います。
還元物質 酸化物質
上図では、水素原子が1つだけ付加されたように見えるが、ニコチンアミドのN+が電子によって還元されるために、結果として2つの水素原子を運搬しているのと同じ状態となる。
引用元:https://ja.wikipedia.org/wiki/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド
上のウィキペディアの”2つの水素原子を運搬している”という意味が自分には非常に分かりにくく感じました。おそらく、その原因は何かというと、「酸化還元反応は、電子の移動(=水素の移動)」なので、「電子が2つ移動したということ=水素が2つ移動したということ」という考えに基づく説明の文言なのだと思います。
なぜ右辺にH+ が存在するのか?に対する答えを先に書いてしまうと、自分の理解ですが、還元物質が酸化されるときには多くの場合2H(すなわち2e- + 2H+)と2つセットで抜けることが多いからだと思います。電子が2つ抜けると、不対電子が2つできるので、隣り合う原子で生じているのであればそれらが共有電子対として結合をつくれます。なので生成物に二重結合が導入されたりします。
この右辺で、NADHの隣のH+は一体何者なのでしょうか?
NAD+が電子を受け取る式は、
NAD+ + 2e- + H+ →NADH
でいいのではないでしょうか?
ときどきみかける右辺のNADH+H+とは何なのか不思議に思いました。
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q13267772093 にわかりやすい解説がありました。結論からいうとどっちでもいいようです。というより、反応式の左と右で原子と電荷の数があっている必要があります。あっていれば、よいという意味です。
電子を取られる側と電子を受け取る側の両方に関して「半反応式」を書くと、
2H → 2H⁺ + 2e⁻
NAD⁺ + H⁺ + 2e⁻ → NADH
となります。
2つの式を合わせると、反応式は
NAD⁺ +2H → NADH + H⁺
となります。つまり右側にH+があるということは、当たり前ですが、左側にもH+があるわけです。原子の数や電荷は左と右で一致している必要がありますので、左に何を書いたかで、それに合わせて右側にもH+が出てくるかどうかが決まるだけのようですね。
グリセルアルデヒド3リン酸が酸化されて1,3,ビスホスホグリセリン酸になるときにNAD+が還元されてNADH+H+が生じます。教科書によってはNADH/H+ とかいたり、NADH2+ と書いたりもするようです。
CH2(-OH)-CH(-OH)-CH2(-OH)はグリセロール
CH(=O)-CH(-OH)-CH2(-OH)はグリセルアルデヒド
CH(=O)-CH(-OH)-CH2(-O-PO4 2-)がグリセルアルデヒド3リン酸
グリセリン酸は
C(=O)(-OH)-CH(-OH)-CH2(-OH)
1,3,ビスホスホグリセリン酸は
C(=O)(-O-PO4 2-)-CH(-OH)-CH2(-O-PO4 2-)
反応式は
CH(=O)-CH(-OH)-CH2(-O-PO4 2-) + NAD+ + HPO4 2-
→ C(=O)(-PO4 2-)-CH(-OH)-CH2(-O-PO4 2-) + NADH + H+
となりますでしょうか。これでHの数が合うはず。
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Reaction 6: G3P ↔1,3 BPG. libretexts. Fundamentals_of_Biochemistry (Jakubowski_and_Flatt)/II_Bioenergetics_and_Metabolism Glycolysis この教科書の図にもNAD + H+と書かれています。
- リン酸 H3PO4
- リン酸イオン PO4 3-
- リン酸水素イオン HPO4 2-
- リン酸二水素イオンH2PO4 –
- http://www.sc.fukuoka-u.ac.jp/~bc1/Biochem/glyclysis.htm
エタノールの酸化反応
例で考えたほうがわかりやすいです。エタノールCH3CH2OHが酸化されてアセトアルデヒドCH3CHOになる反応は、半反応式を書くと
CH3CH2OH → CH3CHO + 2H+ + 2e-
NAD+ + H+ + e- → NADH
両者を合わせると
NAD+ + CH3CH2OH →NADH + H+ + CH3CHO
で右に水素イオンがあります。
なぜこのようなことになるのかというと、酸化反応では水素原子が一つだけ引き抜かれることはあまりなく(その場合は、ラジカルが発生する)、2つ引き抜かれるのが普通だからのようです。だからもうひとつの電子供与体FADH2に関しても
FAD⇔FADH2 と水素原子2つの変化なんでしょうね。
- ChatGPT 4o