食事、食間、絶食・飢餓状態、ダイエットにおける血糖値調節とエネルギー代謝(インスリン・グルカゴンの作用、糖、ケトン体、グリコーゲン、脂肪酸など)のまとめ

生化学の勉強で、解糖系、クエン酸回路、電子伝達系、糖新生、脂質代謝、脂肪酸の分解や合成、ケトン体産生、インスリンやグルカゴンの作用といったことを学ぶわけですが、実際の人間の生活に即して、食事、食間、飢餓といった状態でどうやってエネルギーが作られているのかを学ぶことが大事です。もちろん、それらの調節が上手くいかなかった場合に糖尿病などの病気になるわけですが、病態や治療戦略を理解するためにも生化学の確固たる知識が必要になります。、

生化学の勉強をするばするほど、頭がこんがらがるので一度整理が必要だと感じました。

基本的な考え方は、血糖値が上がれば下げようとするし、下がれば上げようとすることで、血糖値を一定の範囲内に保つ、すなわち恒常性を維持するということになります。またグルコースがいよいよ足りなくなれば、グルコースの代替としてケトン体が産生されて使われます。食事のあとなど、エネルギー源に余剰があれば、飢餓に備えてエネルギー貯蔵に努めます(グリコーゲン合成、中性脂肪合成)。どんなときに(食事、絶食、飢餓、運動、ダイエット)、どこで(肝臓、脂肪組織、筋肉、脳など)、どんなエネルギー源が産生され(糖、ケトン体、脂肪酸)、それがどこの臓器で使われるか(肝臓自身はケトン体を産生し分泌するが自分では利用しない、赤血球にはミトコンドリアがないので解糖系しかつかえない、筋肉はグリコーゲンからブドウ糖までは最終ステップの酵素がなくてつくれないのでエネルギーは地産地消など)という観点で整理するとスッキリします。食事由来の栄養素の代謝(糖質、脂質、タンパク質の消化、吸収、輸送)、貯蔵エネルギー由来のエネルギー源の代謝(脂肪組織由来の脂質、グリコーゲン、筋肉由来のタンパク質)およびそれら代謝産物(糖新生でつくられたグルコース、脂肪酸分解で得られたケトン体)の輸送(リポタンパク質(VLDL・IDL・LDLおよびHDL,カイロミクロン)、コリ回路、グルコースーアラニン回路)などという観点も重要です。

  1. リポタンパク質とは・・・ 看護roo! LDL:IDLからほぼすべてのトリグリセリドが除かれ、高濃度のコレステロールと中等量のリン脂質が含まれており、肝臓から他の臓器にコレステロールを運ぶ HDL肝臓や小腸で合成され、体内のコレステロールを肝臓に戻す役割を果たしている。

食事から摂取された脂質の行方

食事のときに十二指腸がコレシストキニンを分泌して胆嚢を収縮させ、胆汁を分泌させます。胆汁には胆汁酸が含まれておりこれが食物中の脂質を可溶化します。トリアシルグリセロール(長鎖脂肪酸の場合)は膵液リパーゼによって十二指腸で消化されて、モノアシルグリセロールと長鎖脂肪酸とに分解されます。可溶化された脂質は空腸で小腸上皮細胞に吸収されますが、小腸上皮細胞内で再びトリアシルグリセロールに再合成されて、キロミクロンに取り込まれてリンパ液中に放出されます。そして、リンパ管を経由して静脈に入ります。ただし、炭素の鎖が長くない中鎖脂肪酸と短鎖脂肪酸は可溶化の必要がないので小腸からそのまま門脈に運ばれます。

キロミクロンは小腸から血中に放出され、血管内でLPLによって分解されてできる脂肪酸が脂肪組織に取り込まれます。

  1. 生化学・基礎栄養学 第2版 池田彩子ほか 朝倉書店 栄養科学ファウンデーション シリーズ 4 62~63ページ、66ページ

食後のインスリンの働き

食事をとると血糖値が上がり食後1時間で血糖値はピークになります。なぜ血糖値はその後下がるのかといえば、血糖値を下げて正常範囲に保つ仕組みが存在するからです。血糖値が上昇すると、インスリンが分泌されて、インスリン依存性グルコース輸送体GLUT4を発現する筋肉と脂肪組織でのグルコースの取り込みを促進します。筋肉と脂肪は、人体の重量において大きな割合をしめる組織ですので、筋肉と脂肪に積極的にグルコースを取り込むことにより血糖値を下げて一定の範囲に収まるようにします。肝臓のグルコース輸送体GLUT2は、インスリン依存性はありません。ただし、グルコースを細胞内でグルコース6リン酸にする酵素グルコキナーゼの働きを亢進させるので、細胞内のグルコース濃度を下げることにより結果として細胞内へのグルコース取り込みを亢進させることになります。

  1. ブドウ糖の取り込みとインスリン分泌の関係 模式図 https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/03/dl/s0326-10f-003.pdf 分かりやすい!
  2. インスリン インスリンによる三大栄養素の代謝
  3. グルコキナーゼとは?肝臓におけるグルコキナーゼの役割とは?ヘキソキナーゼとの違い ikagaku.jp
  4. インスリンの作用、インスリン依存性および非依存性取り込み、GLUT ikagaku.jp
  5. 管理栄養士国家試験徹底解説 臨床栄養学 25(追加)-138 インスリンの作用である。正しいのはどれか。 (1)肝臓での糖新生促進 (2)脂肪組織での脂肪合成促進 (3)筋肉でのたんぱく質酸化促進 (4)肝臓でのケトン体生成促進 (5)筋肉でのグリコーゲン酸化促進
  6. マークス臨床生化学22ページ

余剰エネルギーの貯蔵

食事で炭水化物を多量に摂取すると、すぐには使い切れない量のグルコースが生じますので、余剰のグルコースはグリコーゲンになるか、糖代謝でアセチルCoAにまで分解したのち脂肪酸合成をへて中性脂肪になります。グリコーゲンは200~300gが上限ですが、脂質の貯蔵量は上限がありません。それは食べれば食べるほど、いくらでも肥満になっていくということから納得できます。

グルコースをグリコーゲンにするのか脂肪酸合成に回すのかはどうやって決まるのでしょうか。まずはグリコーゲン合成が置きますが、貯蔵可能な限界に近づくとグリコーゲン合成から脂肪酸合成へとグルコースの利用経路がシフトします。

  1. マークス臨床生化学21~22ページ

 

食間や睡眠中のグルコースの供給:肝臓でのグリコーゲン分解

食間や睡眠中にもグルコースが産生されて血中に放出されて、血糖値が保たれていないと、全身の組織でエネルギーが足りなくて困ってしまいます。そこで、肝臓のグリコーゲンが分解されてグルコースとして放出されます。グリコーゲンが分解されるとグルコース1リン酸がまずできますが、グルコース6リン酸に変えられ、最終ステップでグルコース6ホスファターゼの働きによりグルコースが産生され、血中に放出されます。

  1. キーワードでわかる臨床栄養 第2章栄養素とその代謝 2-2:グリコーゲンの代謝[glycogen metabolism] ニュートリー株式会社

運動中のグルコースの供給:筋肉でのグリコーゲン分解

グルコース6フォスファターゼは肝臓にありますが、筋肉にはグルコース6フォスファターゼが存在しない(肝臓と腎臓にしかない)ため、筋肉のグリコーゲンが分解されてもグルコース6リン酸にまでしかなりません。グルコース6リン酸は解糖系の最初のステップにおける中間代謝物であり、筋肉でグリコーゲンが分解された場合には自分自身の細胞内でのエネルギー産生に使われます。つまり、筋肉のグリコーゲン分解は血糖値の維持には使われないのです。

運動中の骨格筋はどんなエネルギー源を利用しているのでしょうか?まず血中のグルコースを取り込んで代謝しています。また、骨格筋は血中から取り込んだ脂肪酸を利用することもできます。勿論グリコーゲンを分解してグルコースを得ることもできまs。

  1. カラーイラストで学ぶ集中講義 生化学 改訂2版 MEDICAL VIEW 362ページ 代謝の統合
  2. マークス臨床生化学23ページ

24時間食事をとらないときに起こること:糖新生

食間のグルコース供給は肝臓のグリコーゲン分解により賄われるのでした。しかし、24時間も食事をとらないでいると、肝臓のグリコーゲンはほとんど分解されてしまい枯渇します。体の組織はグルコースをエネルギー源として利用しているので、なんとしてでもグルコースを供給する必要があります。とくに、ミトコンドリアを持たない赤血球は解糖系が唯一のエネルギー産生方法ですので、グルコース以外をエネルギー源にできません。脳も、脂肪酸が脳血液関門を通らないため、脂肪酸を代謝してアセチルCoAを産生してTCA回路を回すということができません(グルコースの代替としてケトン体を利用することはできます)。

そこで、血糖値が下がると正常な範囲に血糖値を保つために、肝臓で糖新生が起きて、グルコース(ブドウ糖)を血中に放出してバランスをとります。糖新生に必要な出発材料は、主なものとして、乳酸、グリセロール、アミノ酸です。これらの糖新生の材料はどうやって肝臓に供給されるのかと言えば、乳酸は赤血球や筋肉から。グリセロールは脂肪組織が中性脂肪を分解してできたもの。アミノ酸は、筋肉でタンパ質を分解して産生されたものです。しばらく食べ物がなくて外から栄養素が十分供給できない状態であっても、脂肪や筋肉が十分にあれば、血糖値が保たれるというわけです。

  1. カラーイラストで学ぶ集中講義 生化学 改訂2版 MEDICAL VIEW 362ページ 代謝の統合 空腹時における代謝とは?

グルカゴンの働き

インスリンとグルカゴンは拮抗して働いています。血糖値が上昇するとインスリンが放出されるのに対して、グルカゴンは血糖値が下降すると分泌されて、血糖値を上げる方向に作用します。また、グルカゴンは脂肪細胞に働きかけて、脂肪酸を血中に放出させ、肝臓や筋肉で利用できるようにします。

  1. 糖尿病治療におけるグルカゴン分泌制御の重要性 日本大学医学部
  2. グルカゴン研究における最近の進歩(PDF) 北村 忠弘 日内会誌 108:2177~2185,2019

絶食時のグルコースの代替:肝臓におけるケトン体の産生

炭水化物を摂らずに4〜5日間、飢餓のどん底状態になるとケトン体を優先的に使うシステムに切り替わります。https://tarzanweb.jp/post-188214

絶食時などに糖の供給が需要に追い付かない場合、グルコースの代替としてケトン体(β-ヒドロキシ酪酸・アセト酢酸)が産生されます。絶食状態ではグルカゴンの働きにより、脂肪細胞から脂肪酸が放出されて、血中の脂肪酸濃度が上昇すると、肝臓は脂肪酸を分解してケトン体を産生します。肝臓自身はケトン体をエネルギー源として利用するための酵素を持っていないので、肝臓内で産生されたケトン体は血中に放出されて、他の組織で利用されます。特に脳は脂肪酸が利用できないので、グルコースが不足した状態になるとケトン体が唯一のエネルギー源となります。

  1. 睡眠調節と脳内ケトン体代謝の関連性について 近久 幸子 徳島大学大学院医歯薬学研究部統合生理学分野 日本生化学学会 Journal of Japanese Biochemical Society 93(2): 243-247 (2021) doi:10.14952/SEIKAGAKU.2021.930243
  2. 管理栄養士国家試験 https://www.kagakudojin.co.jp/special/kokushitaisaku/1_05-01.html 脂質の栄養に関する記述である.正しいのはどれか. 第27 回(2013 年),83  ①食後には,貯蔵脂肪の分解が促進される. ②食後には,血液中のVLDL が減少する. ③絶食によって,血液中のキロミクロンは増加する. ④絶食によって,血液中の遊離脂肪酸は増加する.⑤ 絶食によって,ケトン体の合成は減少する.
  3. 飢餓時に脂肪酸のβ酸化が活発になりケトン体が増える理由 (別記事にまとめました)

 

ダイエットとエネルギー代謝

ダイエットの効果を考えるときには、炭水化物(糖質)、脂肪、タンパク質と重量とそれらが代謝されたときに得られるエネルギーとの関係をまず抑えておくと理解しやすくなります。「乾燥」重量当たりの数字をいうと、

  • 糖質から得られるエネルギーは4kcal/g、
  • 脂質から得られるエネルギーは9kcal/g、
  • タンパク質から得られるエネルギーは4kcal/g

です。ここで大事なのは、脂質は水となじまない物質ですが、糖質やタンパク質は水分子が水素結合でたくさんくっつくことができるという事実です。糖質やタンパク質には、自分の重量の2倍の重さの水が結合しています。ということは「湿重量」あたりにえられるエネルギーがどうなるかというと、

  • 水を含む糖質から得られるエネルギーは4kcal/3g = 1.33kcal/g
  • 脂質から得られるエネルギーは9kcal/g、
  • 水を含むタンパク質から得られるエネルギーは4kcal/3g = 1.33kcal/g

となります。逆にカロリーあたりの重さに直してみると、

  • 1kcalあたりのエネルギーに相当する「水を含む糖質」は0.75g/kcal
  • 1kcalあたりのエネルギーに相当する脂質は0.11g/kcal
  • 1kcalあたりのエネルギーに相当する「水を含むタンパク質」は0.75g/kcal

となります。つまり、糖質やタンパク質は、「重い」燃料であり、脂質は「軽い燃料」と言えます。人間が運動をしたりしてエネルギーを使うときの順番は、グルコース、グリコーゲン、中性脂肪の順です。つまりダイエットのためにエクササイズをすると最初に使われるのは「重い燃料」であるグルコースやグリコーゲンなわけです。なのでダイエット初日の効果は絶大で、重い燃料が消費されるので大きな体重減がおきます。そのあと食事をすると、同じ順すなわちグルコース、グリコーゲン、中性脂肪の順で作られていきます。言い換えると「重い燃料」の順に作られていくので人間の体は重くなります。

  1. カラーイラストで学ぶ集中講義 生化学 改訂2版 MEDICAL VIEW 脂質 どうして円るぎー燃料として脂肪を貯めるか?(トリアシルグリセロールの機能) ダイエットで1日に何g痩せられるか?(280ページ~281ページ)

Tarzan編集部 落ちた体重の正体は…。

森谷先生 それは炭水化物にくっついている水分です。体重が落ちると脂肪が落ちた!とみなさん勘違いしがち。体内に蓄積されている糖質、グリコーゲンには1個の分子に水が3〜4倍結合しています。だから筋肉や肝臓は水分をたっぷり含んで重い炭水化物を抜くとグリコーゲンが枯渇するので逆の現象が起きる。体内の水分がなくなって肌もカサカサ、それで「痩せた」と言っている。

https://tarzanweb.jp/post-188214

グリコーゲンはエネルギー源であると同時に水分を貯める機能もあり、1g当たり約3.5gの水分を貯めこみます。つまり、デトックスやジュースクレンズによって毒素が排出されるのではなく、グリコーゲンが枯渇して、グリコーゲンが貯めていた水分が減少しているに過ぎません。更に、体はエネルギー源があまりにも足りない状態(飢餓状態)になると、すぐに活用できるタンパク質(筋肉)を分解し、エネルギー源として使います。そのため、筋肉量も減少することになります。つまり、体重の減少は体脂肪によるものではなく、グリコーゲンが貯めていた水分が抜けていることに過ぎず、グリコーゲンが入るとまた元に戻ってしまいます。更に、筋肉量が減少してしまうので、基礎代謝量が減少することで消費エネルギー量も減少し、逆に今までより体脂肪量が増えやすくなってしまいます。https://www.inbody.co.jp/5myth/

参考書

  1. マークス臨床生化学 第1章~第3章 マークスの教科書は、摂食、食間、絶食、飢餓、運動など状態において、エネルギー代謝がどうなるかを分かりやすいく整理して説明してくれています。
  2. カラーイラストで学ぶ集中講義 生化学 改訂2版 MEDICAL VIEW 代謝の統合(358ページ~381ページ)