第99回 看護師国家試験 午前問題28 脂肪分解の過剰で血中に増加するのはどれか。
- 尿素窒素
- ケトン体
- アルブミン
- アンモニア
さてなぜ脂肪分解が過剰になるとケトン体が増えてしまうのでしょうか。
脂肪酸は、心筋や、骨格筋では、β-酸化によりアセチル-CoAに分解された後、さらに、TCA回路で代謝され、二酸化炭素と水にまで、分解されますが、肝臓では、β-酸化によりアセチル-CoAに分解された後、ケトン体に生成されます。(絶食時の代謝 http://hobab.fc2web.com/)
脂肪酸の酸化で作られるアセチルCoAの多くはTCA回路(クエン酸回路)に入りますが、絶食時などグルコースの供給が少ない状況ではアセチルCoAをTCA回路で処理する時に必要なオキサロ酢酸が不足するためTCA回路が十分に回りません。そのためTCA回路で処理できなかった過剰のアセチルCoAは肝臓でケトン体の合成に回されます。(385)ケトン体の健康作用と抗がん作用 「漢方がん治療」を考える )
β酸化でアセチルCoAとNADHが多量にできるとクエン酸回路が抑制される
絶食時には脂肪組織から脂肪酸が肝臓へと送られてきて、肝臓ではβ酸化により多量のアセチルCoAが産生されます。ここで解糖系を思い出すと、解糖系の最後、ピルビン酸がクエン酸回路に入るためには、ピルビン酸CH3-C(=O)-COO- はピルビン酸デヒドロゲナーゼ酵素複合体の働きで脱炭酸反応により、アセチルCoA 構造式 CH3-C(=O)-S-CoA に変換するのでした。しかしながら、今、β酸化によってアセチルCoAがたくさんありますので、多量のアセチルCoAの存在は、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ酵素複合体の働きを抑制し、かわりに、ピルビン酸カルボキシラーゼを活性化します。ピルビン酸カルボキシラーゼは、名前が示す通り、ピルビン酸にカルボキシル基をつけてオキサロ酢酸を産生します。
CH3-C(=O)-COO- → オキサロ酢酸 -OOC-CH2-C(=O)-COO-
さらに、クエン酸回路の最後のステップを思い出してください。クエン酸回路の最後の反応は、リンゴ酸(malate)とNAD+から、オキサロ酢酸とNADHができる反応でした。しかし今の場合は、オキサロ酢酸とNADHがたくさんある状態ですので、クエン酸回路は逆向きの反応がおきてリンゴ酸(malate)が産生されます。実はオキサロ酢酸はミトコンドリアの膜を通って細胞質にいけないため、一度リンゴ酸の形になって膜を通過するのです。細胞質に出たリンゴ酸は、再度オキサロ酢酸に変換され、さらに、ホスホエノルピルビン酸(PEP)になって解糖系を逆向きに進みます。
注) リンゴ酸(malate)を、似た名前のマレイン酸maleic acidと混同しないこと。マレイン酸は、フマル酸(トランス型)の異性体でシス型のもの。
さてこのようにオキサロ酢酸が少なくなった状態で何が起きるかというと、アセチルCoAがケトン体の産生に使われることになるのです。
- Lippincott Illustrated Reviews: Biochemistry 8th Edition 217ページ
オキサロ酢酸の合成経路
- オキサロ酢酸 hobab.fc2web.com オキサロ酢酸オキサロ酢酸(oxaloacetate)は、ピルビン酸(焦性ブドウ酸)を、ピルビン酸カルボキシラーゼによりカルボシキ化して、生成される。
ピルビン酸 CH3-C(=O)-COOH
オキサロ酢酸 HOOC-CH2-C(=O)-COOH
ピルビン酸の構造式の覚え方として、まずアセチルCoAの構造はCH3-C(=O)-S-CoAだと知っているものとして、ピルビン酸から二酸化炭素がはずれてアセチルCoAになると覚えておけば、
CH3-C(=O)-COOHという構造が出てきます。ピルビン酸にカルボキシル基を付加すると覚えておけば、オキサロ酢酸も構造式HOOC-CH2-C(=O)-COOHが浮かびます。
ケトンの産生
β酸化の最後のほうでアセトアセチルCoAができます。もしくは最後までいくとアセチルCoAになりますが、アセチルCoAが2分子できる逆反応でアセトアセチルCoAになります。
CH3-C(=O)-CH2-C(=O)-S-CoA
aceto- はアセチル基をもつという意味です。アセチル基ーアセチル基ーCoAといったネーミングです。これにHMG CoAシンターゼとアセチルCoAが作用して、HMG CoAができます。
3-hydroxy-3-methylglutaryl CoA の略です。これからアセチルCoAがとれてアセト酢酸(acetoacetate) CH3-C(=O)-CH2-COO- になります。これがケトン体。その誘導体、アセトンおよび3ヒドロキシブチル酸とあわせてこの3つの化合物をケトン体と呼びます