GLP準拠とは?どれくらい大変なの?

GLP(Good Laboratory Practice)準拠が「大変」「高い」と言われる理由は、一言で言えば「科学的な正しさ」だけでなく、「誰がいつ見ても捏造やミスがないと言い切れる証拠」を残す作業が異常に膨大だからです。研究者としての感覚だと「え、そこまでやるの?」と驚くような厳格さが求められます。なぜそこまで大変なのか、「実際的な現場の苦労」に焦点を当てて解説します。


1. そもそもGLPとは?

薬や医療機器の「安全性」を確かめる試験(動物実験や細胞毒性試験など)のデータの信頼性を保証するための基準です。「素晴らしい発見をするためのルール」ではなく、「後から国や第三者が査察に来たときに、データが改ざんされていないことを100%証明するためのルール」と言えます。


2. なぜ「めちゃくちゃ大変」なのか?(実務の負担)

研究者の自由度がなくなり、すべてが「管理」されます。最大のキーワードは「書いてないことは、やってないのと同じ」です。

① マニュアル(SOP)地獄

  • すべてに手順書が必要: 実験操作だけでなく、「天秤の使い方」「ピペットの洗い方」「掃除の仕方」「試薬のラベルの貼り方」まで、すべてSOP(標準作業手順書)に従わなければなりません。

  • 逸脱は許されない: 「今日はちょっと急いでるから手順を変えよう」は絶対NG。もし変えるなら、事前に「計画変更届」を出して承認を得るか、突発的なら「逸脱記録」を書いて影響評価をしなければなりません。

② 記録(生データ)の厳格さ

  • 書き損じの修正: 鉛筆や修正液は禁止です。ボールペンで書き、間違えたら二重線を引き、訂正印を押し、訂正日と理由を書きます。「誰がいつ修正したか」を追えるようにするためです。

  • リアルタイム記録: 「あとでまとめてノートに書こう」は禁止。その場ですぐに書かないといけません。

③ 試薬・サンプルの管理

  • 「隣の研究室からちょっと借りた試薬」は使えません。

  • その試薬はいつ納品され、誰が開封し、有効期限はいつで、どの冷蔵庫(温度記録付き)に入っていたか、全ての履歴(トレーサビリティ)が必要です。


3. なぜ「費用がかさむ」のか?(コストの正体)

「実験そのものの費用」に加え、「GLP体制を維持するための費用」が乗っかるため、通常の実験の数倍~10倍以上のコストがかかります。

① 「警察役」の人件費(QAU)

  • 実験する人とは別に、QAU(信頼性保証部門)という「実験が手順通り行われているか監視・チェックする人」を雇わなければなりません。

  • 彼らは実験中も巡回しますし、出された膨大なデータと報告書を1文字ずつチェックします。この人件費が重いです。

② 機器のバリデーション(点検・保証)費

  • 使う全ての機械(ピペット、天秤、冷蔵庫、空調など)が、「正しく動いている」ことを定期的に業者に点検してもらい、証明書を出してもらう必要があります。これだけで年間数百万円〜数千万円かかります。

③ 施設の維持費

  • 資料保存室(鍵付き、耐火、入退室記録あり)の設置や、24時間の温湿度監視システムなど、普通の実験室よりハイスペックな環境が必要です。


わかりやすいイメージ比較

普通の料理(非GLP)と、GLP準拠の料理の違いです。

  • 普通の料理(研究室レベル):

    • 「塩を少々入れて、美味しくなったからOK!」

    • (結果が良ければ、プロセスは多少適当でも許される)

  • GLP準拠の料理:

    • 「事前に『塩を5.0g入れる』という計画書を作り、承認印をもらう」

    • 「校正済みの天秤を使い、5.00gと表示された写真を撮る」

    • 「入れた時刻を記録し、入れた空き袋も証拠として保存する」

    • 「監視役が横で見ていて『確かに塩を入れました』とハンコを押す」

    • 「味(結果)はどうでもいい。手順通り作ったという証拠が全て」


まとめ

GLP準拠が大変なのは、実験そのものの難しさではなく、「性悪説に基づいた、膨大な証明作業」があるからです。もし申請業務などで「GLPデータが必要」となった場合、自前の施設でやるのはコストと手間が合わないため、専門の受託機関(CRO)にお金を払って依頼するのが一般的です。「この試験はGLP必須ですか?」という文脈で使われることが多いです。

(Gemini)