レンサ球菌とは?連鎖球菌、球状の菌が鎖のように連なっている形態から命名された細菌の種類(「属名」)

レンサ球菌とは

レンサ球菌(連鎖球菌)は、Streptococcus 属に分類されるグラム陽性の球菌です。

名前の由来についてですが、これは菌の形態的特徴に由来しています。レンサ球菌は増殖する際、一方向に連なるように分裂するため、顕微鏡で観察すると球状の菌体が数珠つなぎ(鎖状)に並んで見えます。この「連鎖」した「球菌」という形態から「連鎖球菌」と呼ばれています。学名の Streptococcus も同じ発想で、ギリシャ語の streptos(ねじれた鎖・よじれた)と kokkos(粒・果実)を組み合わせたものです。

主な特徴と分類としては、溶血性の違いによる分類がよく使われます。α溶血(不完全溶血)、β溶血(完全溶血)、γ溶血(非溶血)の3タイプがあり、β溶血性のものはさらにLancefield分類(細胞壁の多糖体抗原に基づくA群〜V群)で細分されます。

臨床的に重要なものをいくつか挙げると、A群レンサ球菌(S. pyogenes)は咽頭炎、猩紅熱、壊死性筋膜炎などの原因となり、感染後の合併症としてリウマチ熱や急性糸球体腎炎を引き起こすことがあります。B群レンサ球菌(S. agalactiae)は新生児髄膜炎・敗血症の主要な原因菌です。また、α溶血性の肺炎球菌(S. pneumoniae)は肺炎・髄膜炎・中耳炎の代表的起因菌ですし、S. mutans はう蝕(虫歯)との関連で知られています。

ちなみに、対比されるのがブドウ球菌(Staphylococcus)で、こちらはブドウの房状に不規則な塊を作るのが特徴です。staphyle(ブドウの房)+ kokkos という命名で、形態の違いがそのまま名前の違いに反映されています。

名称に関して

かつては「連鎖球菌」と漢字表記が普通でした。これは日本の微生物学・医学用語における表記統一の流れの中で起きた変更です。

経緯としては、日本細菌学会が細菌名の和名表記を整理・統一する過程で、「レンサ球菌」というカタカナ混じりの表記を正式な標準和名として採用しました。この方針が反映されているのが、同学会監修の『微生物学用語集』などの公式用語集です。

なぜカタカナにしたのかという点については、学会側の明確な公式声明として「この理由でこう変えた」という詳細な説明文書が広く公開されているわけではないのですが、一般に指摘されている背景としては次のようなものがあります。

まず、細菌の和名表記全体を統一的なルールで整理しようとしたとき、属名部分をカタカナ書きにするという方針が採られました。ブドウ球菌も正式には「ブドウ球菌」(葡萄球菌ではなく)ですし、同様に「レンサ球菌」となったわけです。つまり「連鎖」だけを狙い撃ちにしたというより、和名表記ルール全体の統一の結果です。

「ブドウ」はカタカナでも日常語として意味が通じますが、「レンサ」とだけ書かれると、漢字の「連鎖」を知らない人には語源が見えなくなってしまいます。「連鎖」という漢字があってこそ「鎖のように連なる」という形態的特徴が一目で伝わるのに、カタカナにした瞬間にその情報が失われるという批判は、微生物学の教育現場などでも聞かれます。

結局のところ、用語集としての表記統一・標準化という実務的要請と、漢字が持つ意味の透明性との間のトレードオフで、前者が優先された結果と言えます。教科書や論文では学会の標準表記に従う慣行があるため、現在は「レンサ球菌」が主流になっていますが、語源の明瞭さという点では漢字表記の方が優れていると思います。

(執筆:Claude Opus 4.6)

 

参考

  1. とろろ先生の微生物・感染症のおはなし 第7回:意外とおもしろい⁉ 細菌の学名あれこれ 2023.09.07  中野 隆史(大阪医科薬科大学医学部 教授)
  2. 細菌(群)の日本語名称に関する考察と提案 日本食品微生物学会雑誌 Jpn. J. Food Microbiol., 33(1), 1‒11, 2016 ,細菌の種名(種の学名)は,属名(generic name)と種形容語(specific epithet)の2語組み合わせで表記すると決められている.サルモネラのように亜種がある細菌では,種形容語の後に亜種形容語(subspecific epithet)を加えた3語組み合わせ法になる. ‥ 大腸菌の種名であるEscherichia coliの場合,「Escherichia」は属名で,「coli」は種形容語である. ‥ 属名に「菌」を付してサルモネラ菌やリステリア菌とした用語が,新聞やインターネット上の文書のみならず,学術誌などでも散見される.サルモネラやリステリアなどの属名は,「菌」を表す固有名詞扱いなので,さらに「菌」を付ける必要はない18).‥ 連鎖球菌や腸球菌も単一の菌種に与えられた和名のようにも見えるが,いずれも複数の菌種を総称した属名である.曖昧さがある「○○球菌」の名称を,「○○コッカス」へと変更した属名は,種名と間違われる恐れはなくなる.この名称案に従うと,ブドウ球菌(Staphylococcus)はスタフィロコッカスに,連鎖球菌(Streptococccus)はストレプトコッカスに,腸球菌(Enterococcus)はエンテロコッカスになる
  3. 化膿レンサ球菌(ストレプトコッカス・ピオゲネス Streptococcus pyogenes) 化膿レンサ球菌は、その名前の通り球菌が連鎖した形態で観察されます。
  4. レンサ球菌の分類,過去・現在,そして今後 河村好章愛知学院大学薬学部微生物学講座(令和6年8月30日受付) 日本臨床微生物学会2025[総 説]
  5. レンサ球菌(レンサきゅうきん、連鎖球菌)(ウィキペディア)ラクトバシラス目Lactobacillales レンサ球菌属(Streptococcus 属)に属するグラム陽性球菌である細菌の総称。乳酸菌に分類される菌属でもある。 一つ一つの球菌が規則的に、直鎖状に配列して増殖し、光学顕微鏡下で観察すると「連なった鎖」のように見えるため、もう一つのグラム陽性球菌のグループであるブドウ球菌(ブドウの房状に配列する)との対比から「レンサ(連鎖)球菌」と名付けられた。属名の Streptococcus は、ギリシャ語で「よじる」を意味する στρέφω から派生した στρεπτός (streptos: 曲げやすい、柔軟な)と、球菌を意味する coccus (元はラテン語で「(穀物の)粒」や「木の実」の意)に由来し、曲がりやすい紐のような配列をする球菌を意味する。従来は漢字表記の「連鎖球菌」が用いられていたが、2005年以降は仮名交じりの「レンサ球菌」の表記が、微生物学や医学の分野では優勢である。 元来の「レンサ球菌」(streptococcus) とは、細菌が発見されて間もない、分類法が整理されていない頃に細菌の形態および配列から名付けられた名称である。その後の分類によって、当初レンサ球菌属として分類されていたグループから腸球菌 (Enterococcus) が独立した科 (Enterococcaceae) として分類された。またレンサ球菌属として分類されてきた中にも、肺炎球菌 (S. pneumoniae) のように連鎖状を示さない双球菌も含まれている。