クラウディオス・プトレマイオスの『アルマゲスト』天体の運動を数学的に記述する理論を解説した本です。日本語に翻訳されたものとしては、
プトレマイオス (著), 薮内 清 (翻訳) アルマゲスト 1993/7/25 (初版 昭和33年5月25日)恒星社厚生閣
があります。市場での入手は困難で、図書館などで借りるのがいいでしょう。この日本語版の底本になったのは、フランス語版です。
Composition Mathematique de Claude Ptolemee, 2 vol. 1838-1816 by Nicolas Halma(1756-1830)
アルマゲストは第一巻から第十三巻までありますが、1~6巻、7~13巻をそれぞれ第1冊、第2冊と2冊の分冊として出版されています。日本語の本も同様に2分冊になっています。
さきにアルマゲストの上巻を刊行してから9年を経過した。いまさらのように過ぎ去った年を数えて驚いている。下巻の刊行がおくれたのは、訳者自信の怠慢にも1つの原因はあるが、売行きのおそい出版物でまた出版社に迷惑をかけたくない気持ちも手伝って、ついおくれてしまった。
1958年2月12日 薮内 清
アルマゲスト 下 訳者の序文
アルマゲストというのは、俗名で本来の署名は、マテマティケ・シンタキス というのだそうです。プトレマイオスの独自の説だけが掲載されているわけではなく、それにいたる過去の科学的な知見が集約されています。すなわち、バビロンの天文観測、ギリシアの天文学、紀元前2世紀の天文学者ヒッパルコスの業績などが書かれており、重要な書物となっています。7世紀ころにはこの書物はアラビア人の手にもわたり、9世紀ころのアッバース王朝のじきにギリシア語の原典からアラビア語への翻訳が行われました。アラビア語の書名としてつけられたのがアルマゲストというわけなのです。アルマゲストとは、アラビア語で「最大」と言う意味だそうです。アラビア人がいかにこの書物を重要視して敬意を払っていたかがわかります。
西洋科学は、近代科学に目覚めるまでの数百年間は停滞していましたが、ギリシャ時代の科学の蓄積はアラビアの科学によって受け継がれ、保持され、発展されました。アルマゲストはそうして、アラビアから西洋へと再輸入されます。12世紀になってGerard of Cremonaが1175年にアラビア語のアルマゲストをラテン語に翻訳しました。写本でなく活字としてアルマゲスト(ラテン語)が出版された最初は、1518年でVniceにおいてでした。現代語(フランス語)に初めて翻訳したのがHalmaだとされています。
アリストテレスもプトレマイオスも、科学者でありながら神の存在も科学の中に入れて考えていたようです。
実際アリストテレスが思索的な学問を大きく物理学、数学及び神聖なものの学との三部門に分けたのは至当である。‥ もし特に宇宙の本源的運動の第一原因を求めるならば、それは目に見えぬが恒久不変の神であることを発見するであろう。
まえがき 2~3ページ アルマゲスト
- アリストテレス メタフュジュカ 第6巻第1章
アルマゲストは、天動説に基づいて理論を組み立てています。天動説は大前提であって、天動説と地動説のどちらが妥当かといったことは、考察の対象になっていません。
何よりも先ず、天空が球形をなすこと、それが球として動くこと、地球はそれ自体の形によって全体として明らかに一個の球体をなすことを一般的に認めなければならない。そして又地球が天空全体の中心であり中央である所に位置し、それが恒星球に関する大きさと距離とに比較して、運動や移動をしない一点にすぎないことを認めねばならない。
アルマゲスト 第一章 定理の順序 5ページ
天空がまずは球であると仮定しており、その球である天空の中心に存在することを、そうでないと仮定した3つの場合にわけてそれぞれそれが妥当ではないということを考察しています。
第四章 地球は天空の中心にある
地球の形状からその位置の問題に移ると、地球のまわりに見える事柄は球の中心に於けるが如く地球を天空の中央に仮定することによってのみ起こりえる。実際にもしそうでなければ地球は各々の極から等距離ではあるが軸からはずれているか、或いは軸上にあっても何れかの極に一層近いか、或は軸上にもなく同時にまた両極から等距離にもないか、である。
先ず三者の中、第一の過程が正しくないことを証する事実は、~
10ページ
参考サイト
- A Modern Almagest: An updated version of Ptolemy’s Almagest https://farside.ph.utexas.edu/books/Syntaxis/Syntaxis.html
- https://en.wikipedia.org/wiki/Almagest
- 古典天文学(プトレマイオス、コペルニクス、ケプラー) http://fnorio.com/0015Classical_Astronomy1/Classical_Astronomy.htm