係蹄(けいてい)とは?腎臓の微細構造における役割
腎臓における「係蹄(けいてい)」とは、尿を作る基本単位であるネフロンの一部で、U字型またはヘアピン状に大きく曲がった尿細管の部分を指します。一般的には、発見者の名前にちなんで「ヘンレの係蹄」または「ヘンレループ」と呼ばれます。
この係蹄は、腎臓の微細構造の中で、尿を濃縮するという非常に重要な役割を担っています。
腎臓の微細構造と係蹄の位置
腎臓の内部は、皮質(外側)と髄質(内側)に分かれています。1つの腎臓には約100万個のネフロンがあり、このネフロンが血液をろ過して尿を作ります。
ネフロンの構造と尿の流れは以下の通りです。
- 腎小体(糸球体 + ボウマン嚢):
- 血液がろ過され、尿の元となる「原尿」が作られます。(皮質に存在)
- 近位尿細管:
- 原尿の中から、ブドウ糖やアミノ酸、水分など、体に必要な物質の大部分が再吸収されます。(皮質に存在)
- ヘンレの係蹄(係蹄):
- 近位尿細管から伸び、髄質へ深く下りてから再び皮質へ上るU字型の管。ここで尿の濃縮が行われます。
- 遠位尿細管・集合管:
- ホルモンの働きで水分や塩分(ナトリウムなど)の最終調整が行われ、尿が完成します。
このように、係蹄は近位尿細管と遠位尿細管をつなぎ、皮質から髄質へ深く入り込む構造をしています。
<p style=”text-align: center; font-size: 0.8em;”>図:ネフロンの構造。U字型に伸びた部分がヘンレの係蹄。</p>
係蹄の働き:尿を濃縮する「対向流増幅系」
係蹄の主な働きは、尿を濃縮するための浸透圧勾配(塩分濃度の差)を腎髄質に作り出すことです。これは「対向流増幅系(たいこうりゅうぞうふくけい)」という巧みな仕組みによって実現されています。
係蹄は「下行脚(下り)」と「上行脚(上り)」に分かれており、それぞれ性質が異なります。
部分 | 主な性質 | 働き |
下行脚 | 水の透過性が高い<br>塩分の透過性は低い | 周囲の髄質は塩分濃度が高いため、浸透圧によって原尿から水分が抜け、尿が濃くなる。 |
上行脚 | 水の透過性はない<br>塩分を能動的に汲み出す | 塩分(ナトリウムなど)をポンプのようにして管の外(髄質)へ汲み出す。 |
この2つの働きが連動することで、以下のサイクルが生まれます。
- 上行脚が髄質へ塩分を汲み出し、髄質を高濃度(しょっぱく)にする。
- 髄質がしょっぱくなることで、下行脚から水分が引き抜かれ、下行脚内の尿が濃くなる。
- 濃くなった尿がUターンして上行脚に流れ込むため、さらに効率よく塩分を汲み出せる。
この繰り返しにより、係蹄は腎髄質に強い浸透圧勾配を作り出します。そして、ネフロンの最終段階である集合管がこの高濃度の髄質を通過する際に、必要に応じて水分を再吸収することで、最終的に濃縮された尿が作られるのです。
もし係蹄がなければ、人間は薄い尿しか作ることができず、体内の水分を保つために大量の水を飲み続けなければならなくなります。この係蹄の構造と機能は、陸上で生活する哺乳類が体内の水分を効率的に維持するための、非常に精巧なシステムと言えます。
(Gemini 2.5 Pro)