男性の性染色体はXYですが、女性の性染色体はXXです。すると女性の場合は、X染色体が2つあるから、それぞれから遺伝子発現が生じて、男性よりも女性のほうが各遺伝子の産物(タンパク質)の量は2倍になるのか?というと、そんなことにはなりません。タンパク質を本来の量よりも2倍も多く作ってしまうと、不都合が生じるでしょう。男性の場合と同様になるような仕組みが存在します。それがX染色体の不活化です。胚のときに、それぞれの細胞がどちらか一方のX染色体をオフにしてしまうのです。一度選ばれてオフになったX染色体は、そのあとその細胞が分裂してもオフの状態が引き継がれる巧妙な仕組みが存在します。その辺りの事情をAIに訊いて、説明してもらいましょう。
質問:X染色体のどちらか一方に乗っている全ての遺伝子をオフにするの?それとも、個々の遺伝子に関してどちらかのX染色体がオフになるの(ランダムに)?
Gemini:ご質問ありがとうございます。とても良い質問です。
結論から言うと、「どちらか一方のX染色体が選ばれ、その染色体に乗っている遺伝子の『ほぼ』全てがまとめてオフになる」が正解です。これはX染色体不活性化(X-chromosome inactivation: XCI)と呼ばれる仕組みです。
1. 遺伝子ごとではなく「染色体まるごと」オフになる
個々の遺伝子がランダムにオフになるのではなく、細胞はまず「母親由来のX染色体」か「父親由来のX染色体」のどちらか一方をランダムに選びます。
2.なぜそんなことをするのか?(遺伝子量補正)
- 男性(XY):X染色体は1本だけです。
- 女性(XX):X染色体は2本あります。
もし女性が2本のX染色体を両方とも使ってしまうと、X染色体上の遺伝子から作られるタンパク質の量が男性の2倍になってしまい、細胞にとって不都合が生じます。
3. 例外:オフにならない遺伝子(エスケープ)
ただし、厳密に言うと「全ての遺伝子」がオフになるわけではありません。不活性化されたX染色体(不活性X染色体と呼ばれます)上にあっても、一部の遺伝子はこのサイレンシングを「免れて(escapeして)」活動し続けます。
まとめ
- 基本: 2本のうち1本のX染色体がまるごと選ばれてオフになります。
- 例外: ただし、オフになった染色体上でも、一部の遺伝子(約15%)は活動を続けます。
質問:X染色体上にもし変異遺伝子があった場合、本来なら劣性遺伝子としてヘテロなら表現型が出ないはずなのに、一方が不活性化されるのだとしたら、せっかくヘテロ接合体の個人であっても、病気になってしまうということ?
Gemini:はい、その通りです。非常に鋭いご指摘です。
結論から言うと、ヘテロ接合体の女性(保因者)であっても、X連鎖劣性遺伝病の症状が(程度に差はあれ)出てしまうことはあります。
なぜ症状が出てしまうのか?
理由は、まさにお考えの通り「X染色体の不活性化」がランダムに起こるためです。
1. 女性の体は「モザイク」状態
X染色体の不活性化は、発生の初期段階で、個々の細胞がランダムに「母親由来のX」と「父親由来のX」のどちらかを不活性化します。そして、その細胞が分裂して増えるとき、その「不活性化したX」の情報は引き継がれます。
その結果、ヘテロ接合体(片方が正常遺伝子、片方が変異遺伝子)の女性の体は、
- 正常な遺伝子が働いている細胞
- 変異遺伝子が働いている細胞(正常なXが不活性化されたため)
この2種類の細胞が混じり合った「モザイク」と呼ばれる状態になっています。
2. 不活性化の「偏り」が運命を分ける
症状が出るかどうかは、このモザイクの「偏り(かたより)」、つまり運次第です。
- 幸運な場合(症状なし)
もし、体全体でうまい具合に50%ずつ不活性化が分かれれば、正常な細胞が半分あるため、必要なタンパク質は(ギリギリ)足ります。この場合、女性は「無症状の保因者」となります。
- 不運な場合(症状あり)
もし、偶然に、その病気にとって重要な臓器(例えば、血友病なら血液凝固因子を作る肝臓)の細胞の多くで、正常な遺伝子を持つX染色体ばかりが不活性化されてしまったとします。
その結果、その臓器では変異遺伝子しか働けず、必要なタンパク質が十分に作られません。
これが、ヘテロ接合体であるにもかかわらず、劣性遺伝病の症状が出てしまうメカニズムです。
補足
- 発症する保因者 (Manifesting Carrier)
このように、モザイクの偏りによって症状が出る保因者の女性のことを「発症する保因者(Manifesting Carrier)」と呼びます。
- 症状の程度
症状の程度は、変異遺伝子しか持たない男性(Xが1本しかないため)に比べると軽いことが多いですが、どれだけ偏りが生じたかによって個人差が非常に大きくなります。
- 常染色体の劣性遺伝との違い
常染色体(性染色体以外)の劣性遺伝病の場合、ヘテロ接合体であれば、両方の染色体が(不活性化されずに)働いています。そのため、正常な遺伝子1つで十分なタンパク質が作られ、症状が出ることはまずありません。
ご質問の通り、X染色体の不活性化という特殊な仕組みが、X連鎖遺伝病を非常に複雑にしているのです。
質問:個体で全ての細胞で一方のX染色体を選ぶわけじゃないんだね?個々の細胞が、選ぶのね?いつ選ぶの?最終分化したとき?分裂中は選べないよね?
Gemini:はい、その理解で完全に正しいです。非常に重要なポイントを突いています。
- 個体(Organism)ではなく、細胞(Cell)が選ぶ
受精卵の段階で「この個体は、父親由来のXをすべてオフにしよう」と決まるわけではありません。
発生初期のある時期に、胎児のもとになる細胞集団(内部細胞塊やエピブラスト)の中で、一つ一つの細胞が独立して、ランダムに「私は母親由来のXをオフにしよう」「僕は父親由来のXをオフにしよう」と選びます。
だからこそ、体は2種類の細胞(母方Xがオンの細胞と、父方Xがオンの細胞)のモザイク状態になります。
いつ選ぶのか? (最終分化したとき?)
いいえ、最終分化したときではありません。
選ぶタイミングは、それよりもずっと早い、発生のごく初期段階です。
マウスの例(論文の図1で示されている内容)が分かりやすいので、少し詳しく説明します。
- 一時的な不活性化(刷り込み): 受精後すぐ(2〜4細胞期)、まず「父親由来のX染色体」が一時的に不活性化されます。
- 一時的なリセット(再活性化): その後、胚盤胞(Blastocyst)になり、胎児になる細胞(内部細胞塊)では、この不活性化が**リセット(解除)**されます。この瞬間、X染色体は一時的に2本ともオンになります。
- ランダムな選択(本番): そして、受精後5.5日目ごろ、この細胞集団(エピブラスト)が「体の各パーツになろう」と分化を始めるタイミングで、個々の細胞がランダムにどちらか一方を選んで不活性化します。
ヒトの場合も、マウスと詳細は異なりますが、着床前後(受精後7日目前後)という非常に早い段階で、このランダムな選択と不活性化が始まると考えられています。
つまり、「最終分化したとき」ではなく、「これから分化しようとする幹細胞の段階」で選択が行われます。そして、一度選んだら、その細胞が分裂してもその選択は「記憶」され、引き継がれます(維持されます)。
分裂中は選べない?
はい、その通りです。
細胞の活動は、大きく「間期(かんき)」(細胞が活動・成長する時期)と「分裂期(ぶんれつき)」(細胞が2つに分かれる時期、M期)に分かれます。
- 「選ぶ」のは間期
Xist RNAが染色体をコーティング(塗装)して不活性化を「開始(initiation)」するプロセスは、細胞が通常の活動をしている間期に行われます。
- 「維持する」のが分裂期
細胞分裂の真っ最中は、染色体はギュッと凝縮しています。このとき、Xist RNAや一部のタンパク質は一時的に染色体から離れることが知られています(特にヒト)。
分裂期の課題は「新しく選ぶ」ことではなく、分裂が終わった後に、ちゃんと同じX染色体を再び不活性化できるように「記憶を維持(maintenance)」することです。
まとめ
- 誰が選ぶ?
個々の細胞が、それぞれ独立してランダムに選びます。
- いつ選ぶ?
発生のごく初期(分化が始まるとき)に選びます。最終分化したときではありません。
- 分裂中は?
選びません。選ぶのは間期です。分裂中は、その選択を忘れないように「維持」することに専念します。