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Th1/Th2バランスとは?Th17の発見による仮説の修正

Th1/Th2バランスとは

病態の説明などにおいてしばしばTh1/Th2バランスといった言葉が登場します。これはヘルパーT細胞の亜型であるTh1細胞とTh2細胞のそれぞれの働きの拮抗をあらわした概念です。Th1細胞が細胞性免疫を亢進させる働きを持つのに対して、Th2細胞は体液性免疫を亢進させる働きを持ちます。また、Th1細胞はインターフェロンγを分泌してTh2細胞に働きかけその活動を抑制します。逆に、Th2細胞はインターロイキン4やインターロイキン10、TGF-βなどを産生してTh1細胞を抑制するように働きかけます。

  1. リッピンコット免疫学172~173ページ Th1/Th2パラダイム、253ページ Th1/Th2バランス
  2. The Th1/Th2 paradigm: still important in pregnancy? 03 May 2007
  3. Revisiting the Th1/Th2 paradigm Muraille 1998 (PDF)
  4. The Th1/Th2 paradigm Sergio Romagnani June 1997 Immunology Today

Th1/Th2パラダイムは非常にわかりやすい仮説(パラダイム)なので魅力的ですが、必ずしもこのような単純な図式では説明がつかないこともあるため、免疫学の教科書を見た時に取り扱い方は様々です。リッピンコットの教科書では、「モデル」としてしっかりと紹介されていました。

最近の教科書を見ると、Th1/Th2パラダイムを紹介していないものも多いようです。自分は、科学は事実の羅列ではなく、どう理解するか、概念の確立だと思っているので、かりに訂正が必要であったとしてもこのような明確な概念、パラダイムが研究の進展において果たした役割は説明してほしいと思います。

 

Th1/Th2パラダイムの趨勢

Th1/Th2細胞のバランスが、生体の免疫応答の性質を決めるというこの仮説はその後数十年間、免疫学の世界を支配するパラダイムになりました。(私的免疫学ことはじめ (2) Th1/Th2パラダイム  2020年7月30日 医局ブログ)

科研費の採択課題をみてみると、Th1/Th2バランスを前面に推した計画は2002年ころがピークだったようです。

      1. Th1/Th2バランスをターゲットとしたPDE5阻害薬による流産改善効果の検証 2022-04-01 – 2025-03-31
      2. 舌下免疫療法におけるセマフォリン4Aを介した Th1/Th2制御の解明 2017-04-01 – 2020-03-31
      3. 被嚢性腹膜硬化症におけるTヘルパー細胞の役割の解明と新規治療法の開発 2013-04-01 – 2016-03-31
      4. Thバランスの制御による難治性喘息に対する新規治療法の探索 2011 – 2013
      5. Th17/Th1/Th2細胞優位発現マウスを用いた免疫複合体腎炎の病態解析 2010 – 2012
      6. メモリーTh1/Th2細胞の形成と機能維持のエビジェネティック制御に関する研究 2009 – 2011
      7. Th1 Th2 バランスの制御による魚類のウイルス病に対する細胞性免疫誘導 2009 – 2010
      8. Th1/Th2バランスの破綻として捉える薬剤性肝障害 2008 – 2010
      9. Th1/Th2細胞分化におけるケモカインCCL21、CCL19の役割の解析 2007 – 2008
      10. 乳幼児期の細菌刺激および化学物質曝露による成長後のTh1/Th2バランスへの影響 2007 – 2009
      11. 抗うつ薬応答性に及ぼすTh1/Th2サイトカイン遺伝子多型の影響 2006
      12. チロシンキナーゼTxkによるマスト細胞のTh1/Th2応答の制御機構 2006 – 2007
      13. Tim分子によるTh1/Th2反応制御機構の解明 2006 – 2007
      14. ナノ粒子(酸化チタンおよび酸化亜鉛)のTh1/Th2/Th3免疫応答に与える影響 2006 – 2007
      15. 魚類のTh1/Th2バランス制御機構の解明 2006 – 2008
      16. セマフォリン分子Sema4AのTh1/Th2反応制御機構の解明 2006 – 2007
      17. Th1/Th2バランス関連サイトカン遺伝子多型とうつ病発症・自殺企図との関連性 2005
      18. 樹状細胞とNKT細胞によるTh1/Th2サイトカインバランスの調節機構とその応用 2005 – 2006
      19. 新規ヒト腎炎モデルマウスの病態解析及びTh1/Th2転写制御による治療の試み 2005 – 2006
      20. Th1/Th2細胞分化・機能維持とクロマチンリモデリングに関する研究 2005 – 2007
      21. 好塩基球を介したTh1/Th2分化制御および感染に対する免疫監視機構の研究 2005 – 2006
      22. DNAM-1による樹状細胞の活性化とTh1/Th2バランスの制御機構 2005 – 2006
      23. Th1/Th2バランス制御を介した抗腫瘍免疫の誘導とそのメカニズムの解析 2005 – 2006
      24. Th1,Th2サイトカインの皮膚バリア機能に及ぼす影響 2004 – 2006
      25. 耳鼻咽喉科領域疾患におけるTh1,Th2,Tc1,Tc2細胞の検討 2004 – 2005
      26. 黄砂のTh1・Th2免疫系および経口免疫寛容に与える影響 2004 – 2006
      27. 抗原提示細胞を介したTh1/Th2細胞への分化・誘導制御機構と免疫細胞療法 2004 – 2007
      28. Th1/Th2分化におけるIL-12レセプターβ1遺伝子プロモーター機能の役割 2004 – 2005
      29. CD8α陽性樹状細胞の活性化とTh1/Th2バランスの制御機構 2004
      30. Th1/Th2細胞における皮膚ホーミングレセプター発現機序に関する研究 2003 – 2004
      31. クロマチンリモデリング選択的GATA-3変異体を用いたTh1/Th2バランス制御 2003
      32. 内分泌攪乱物質の免疫攪乱誘導による免疫毒性作用 2003 – 2004
      33. Th1/Th2病としての自己免疫疾患の病態解明と予防・治療 2003 – 2005
      34. サイトカイン抑制制御分子SOCSを利用したTh1・Th2バランスの改変 2003
      35. 転写因子AML1によるT細胞のTh1/Th2系列への振り分け制御機構の解明 2003
      36. 表皮におけるセラミド合成に対するTh1、Th2サイトカインの影響 2002 – 2003
      37. アトピー性皮膚炎の表皮細胞におけるTh1とTh2ケモカイン産生の制御について 2002 – 2003
      38. Decoy DNAによるTh1/Th2サイトカインの発現調節と免疫応答制御の検討 2002 – 2003
      39. Th1,Th2への分化に伴うE-セレクチン・リガンドと糖転移酵素の発現 2002 – 2003
      40. TH1・TH2バランスと自然免疫のクロストークにおける細胞内レドックスの役割 2002 – 2003
      41. 免疫学的生殖不全におけるNK・NKT細胞,Th1/Th2サイトカインの役割の解明 2002 – 2004
      42. Th1/Th2分化制御による慢性関節リウマチの分子標的療法開発への基礎的研究 2002 – 2003
      43. Th1/Th2細胞分化とクロマチンリモデリングに関する研究 2002 – 2004
      44. 内分泌攪乱物質のTh1/Th2免疫応答への影響と易感染性との関連 2002 – 2003
      45. サイトカインシグナル抑制分子SOCSを利用したTh1・Th2バランスの改変 2002 – 2003
      46. 樹状細胞によるTh1/Th2バランスの決定機構 2002
      47. 食餌制限によるTh1/Th2バランスの制御とその癌ワクチン療法への応用 2002 – 2004
      48. 炎症性骨吸収におけるヘルパーT細胞(Th1・Th2細胞)の役割 2002 – 2004
      49. 炎症性骨吸収におけるヘルパーT細胞(Th1・Th2細胞)の役割 2002 – 2004
      50. 妊娠時におけるTh1/Th2バランスに関する検討 2001
      51. バセドウ病モデルマウスの病態におけるTh1/Th2細胞・IL-5が果たす役割 2001
      52. 敗血症におけるTh1/Th2サイトカインの作用と調節機構の解明 2001 – 2002
      53. Th1/Th2細胞分化機構の制御によるがん免疫の賦活化 2001
      54. 口腔扁平上皮癌患者の放射線治療によるTh1/Th2バランスの変化について 2000 – 2001
      55. 侵襲時における末梢血Th1/Th2バランスの変動とサイトカイン動態に関する検討 2000 – 2001
      56. ヘルパーT細胞Th1/Th2バランスを制御する転写因子の検索 2000 – 2001
      57. マイクロアレイ法を用いたTh1,Th2型免疫応答の分類化と免疫疾患の病態解析 2000
      58. 卵巣癌患者末梢血幹細胞移植におけるTh1/Th2解析に関する研究 1999 – 2000
      59. 癌患者におけるHelper T CellのTh1/Th2バランスに関する研究 1999 – 2000
      60. 自己免疫疾患発症の分子機構の解明およびその制御:細胞表面分子群のTh1/Th2分化・誘導機構の解明とその制御 1999 – 2000
      61. 全身性エリテマトーデスにおけるTh1/Th2バランスの解析 1999 – 2002
      62. Th1/Th2細胞の活性化による微生物に対する感染防御能の増強効果 1999 – 2001
      63. Th1/Th2バランス制御法の癌免疫療法への応用 1999
      64. 間質性肺炎に於けるTh1/Th2細胞及びIL-2の役割の研究 1999 – 2000
      65. Th1/Th2バランス制御因子の遺伝子解析とその免疫疾患との関連性 1998 – 1999
      66. Th1/Th2細胞誘導を指標としたBRM感受性試験の開発と臨床応用 1998 – 2000
      67. Th1/Th2バランスからみたHAM発症分子機構の解明と治療法開発の基礎的検討 1998 – 1999
      68. シェーグレン症候群ににおけるTh1/Th2バランス異常の解析とその制御戦略 1998 – 1999
      69. 外科侵襲に対する免疫応答におけるTh1/Th2システムの証明 1997
      70. アトピー性皮膚炎患者のTh1-Th2バランス制御機構の解析 1997 – 1998
      71. 自己腫瘍特異的CTLのTCRVβレパトアとTh1/Th2サイトカイン産生能の解析 1997 – 2000
      72. IgA腎症病態発現へのTh1/Th2バランス制御の効果-若年好発症IgA腎症 (HIGA) マウスへのIL-12投与の検討- 1997 – 1998
      73. C型肝炎ウィルス特異的ヘルパーTクローン樹立と抗原依存性TH1・TH2分化の検討 1996 – 1997
      74. アトピー性皮膚炎患者におけるTh1-Th2バランス制御機構の解析 1996
      75. 遅延型過敏症を担うTh1,Th2細胞活性化における抗原提示細胞表面分子の役割 1996
      76. マウスでの抗原反復投与によるTH1/TH2不均衡の成立機序:マウスのアトピー性皮膚炎モデル作成とその検討 1996
      77. フローサイトメトリーによるTh1/Th2リンパ球の解析-猫条虫感染マウス系におけるエフェクター細胞の検討- 1996
      78. 炎症性皮膚疾患におけるTh1 Th2細胞へのdeviationを規定する因子の解析 1996
      79. AIDS粘膜ワクチン:Th1/Th2型細胞によるHIV特異的粘膜免疫の誘導 1996
      80. 自己免疫性心筋炎の発症における細胞間分子およびTh1/Th2サイトカンの役割の解明と抗接着分子療法による治療に関する臨床的・実験的検討 1995
      81. 寄生虫感染におけるTh1,Th2サブセット活性化機構の解明 1995 – 1996
      82. AIDS粘膜ワクチン:Th1/Th2型細胞によるHIV特異的粘膜免疫の誘導 1995
      83. 皮膚樹状細胞とアレルギー,Th_1/Th_2サイトカイン群と抗原提供能 1994
      84. 広東住血線虫感染マウスのTh1/Th2サイトカイン応答 1994 – 1995
      85. 腎細胞癌内TH1/TH2免疫調節機構、T細胞受容体解析および腎細胞癌免疫療法 1993 – 1994

Th17の発見とTh1/Th2パラダイムの修正

The classical T helper (Th)1 and Th2 CD4+ T cell effector paradigm has recently been challenged. Studies from various laboratories have shown the existence of a T cell subpopulation, dubbed Th17, not only distinct from Th1 and Th2, but a different pro-inflammatory Th-cell lineage.( Autoimmunity Reviews Review Autoimmune inflammation from the Th17 perspective Autoimmunity Reviews Volume 6, Issue 3, January 2007, Pages 169-175 無料要旨)

Helper T cells are CD4+ T lymphocytes that have an important role in determining the nature of the adaptive immune response. Since the 1980s, helper T cells have been classified in two major types, namely the Th1 or Th2 phenotype. Th1 cells promote cellular immunity, which is associated with anti-viral responses and tumour surveillance, whereas Th2 cells promote humoral responses to extracellular parasites and are involved in allergies. ‥ The two-dimensional Th1/Th2 paradigm has been a very successful foundation of immunology for the past 20 years. However, the recent discovery of Th17 cells confirmed earlier evidence that helper T cells may adopt phenotypes other than Th1 and Th2. (From the two-dimensional Th1 and Th2 phenotypes to high-dimensional models for gene regulation International Immunology, Volume 20, Issue 10, October 2008).

For almost two decades, the Th1/Th2 paradigm has offered a productive conceptual framework for investigating the pathogenesis of periodontitis. However, as with many other inflammatory diseases, the observed role of T-cell-mediated immunity in periodontitis did not readily fit this model. A new subset of CD4+ T-cells was recently discovered that explains many of the discrepancies in the classic Th1/Th2 model, and has been termed “Th17” based on its secretion of the novel pro-inflammatory cytokine IL-17. (A New Inflammatory Cytokine on the Block: Re-thinking Periodontal Disease and the Th1/Th2 Paradigm in the Context of Th17 Cells and IL-17 September 1, 2008 )

Th17細胞は粘膜免疫の維持に不可欠である一方で、それらの調節障害は自己免疫性炎症の病理発生に関与しています。標準的なTh1/Th2モデルとは異なるCD4+ヘルパーT細胞の3番目のサブセットの存在が最初に示唆されたのは、この炎症を引き起こす際のそれらの役割でした。元のモデルでは、Th1細胞は自己免疫の主なメディエーターであると考えられていました。しかし、それらの主要なTh1エフェクターサイトカインであるIFNγまたはそれらの活性化サイトカインであるIL-12が欠如すると、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)などの自己免疫性炎症のモデルが悪化することが明らかにされました。IL-12/IFNγではなくIL-23/IL-17系が、この炎症を媒介する主な経路として特定され、その後の研究では、この系に関連する新規のCD4+ヘルパーTサブセットとしてTh17細胞の特徴が明らかにされました。それ以来、Th17細胞は、関節リウマチ、乾癬、多発性硬化症、および炎症性腸疾患などの他の自己免疫疾患の進行に役割を果たすことが明らかにされています(ヘルパーT17細胞(Th17細胞)とは? ThermoFisher Scientific)

今となってはシンプルにすらみえるTh1/Th2分化の概念図に、Th17細胞という新しいサブセットが登場し、Th17細胞分化が制御性T細胞分化と相互背反的に成立することが示されるに至って、今や各T細胞サブセットの関連を、はるかに複雑な構図のなかで据え直す必要に迫られている(サイトカインネットワークのパラダイムシフト

これまでぜんそくをはじめとした種々のアレルギー疾患は、Th1細胞とTh2細胞のバランスが崩れることが病態形成の引き金となる(Th1/Th2アンバランスモデル)と考えられてきましたが、本研究グループは、記憶Th細胞中の病原性を持った集団によりアレルギー疾患の病態が慢性化する(病原性記憶Th細胞亜集団疾患モデル)という新たなコンセプトを提唱しています(ぜんそくなどのアレルギー性気道炎症の慢性化機構を解明~難治性アレルギー疾患の新規治療薬開発に期待~ポイント 平成27年2月18日科学技術振興機構(JST)千葉大学)

  1. Th17 and Treg Cells Innovate the Th1/Th2 Concept and Allergy Research Blaser K (ed): T Cell Regulation in Allergy, Asthma and Atopic Skin Diseases. Chem Immunol Allergy. Basel, Karger, 2008, vol 94, pp 1-7(無料要旨)
  2. Kelso A, Troutt AB, Maraskovsky E, et al. Heterogeneity in lymphokine profiles of CD4+ and CD8+ T cells and clones activated in vivo and in vitro, Immunol. Rev., 1991, vol. 123 pg. 85

その他の参考

  1. Salivary gland tissue expression of interleukin-23 and interleukin-17 in Sjögren’s syndrome: Findings in humans and mice Cuong Q. Nguyen, Min H. Hu, Yi Li, Carol Stewart, Ammon B. Peck First published: 29 February 2008

γグロブリンとは?Ig Gとの違いは?

γグロブリンととイムノグロブリンG(Ig G)とは名前が似ているため、違いは何だっけとたまに頭が混乱することがあります。血清蛋白質を電気泳動で分離したときに、

アルブミン、α1グロブリン、α2グロブリン、γグロブリン

の順序で分画が分かれます。このうち、γグロブリンの分画には、 IgA, IgM, IgD, IgE, and IgGが含まれています。つまり、γグロブリンの実体は、IgA, IgM, IgD, IgE, IgGの混合物ということになります。γグロブリンというのは特定のたんぱく質の名称ではなくて、タンパク質を分離したときの分画の名前だったというわけです。IgA, IgM, IgD, IgE, IgGは免疫グロブリンと総称されるので、γグロブリン=免疫グロブリンともいえます。

  1. 血清蛋白電気泳動法(shinshu-u.ac.jp)
  2. What is the Difference Between Gamma Globulin and Immunoglobulin
  3. βグロブリン (Beta globulin) (ウィキペディア):血漿中に存在する球状タンパク質のグループである。βグロブリンには、次のようなものが含まれる。β-2マイクログロブリン、プラスミノーゲン、アンギオスタチン、プロペルジン、性ホルモン結合グロブリン、トランスフェリン。

ガンマグロブリン療法

  1. ガンマグロブリン療法(tmd.ac.jp)十分な量の免疫グロブリンあるいは抗体を体内で作ることのできない患者には、ガンマグロブリンによる補充治療を行うことができます。‥ ガンマグロブリン製剤はほぼ純粋なIgGであり、基本的にIgAやIgMは含みません。

上司とのコミュニケーションを円滑にして自分の思い通りの結果を得る方法

組織内で仕事をする際に、上司の全面的な支援が必ずしも得られるとは限りません。その場合の対処法としては、上司になんとかして動いてもらうか、少なくとも了承してもらう必要があります。そのためにはどうすればよいのでしょうか。

その解決策を提示する本というものが結構な数出版されていました。

「困った人たち」とのつきあい方  1997/6/1 ロバート・M. ブラムソン Robert M. Bramson

究極の人間関係改善術 職場の「苦手な人」を最強の味方に変える方法 2019/5/17 片桐 あい

上司をマネジメント 2007/9/1 村山 昇

トップ3%の人は、「これ」を必ずやっている 上司と組織を動かす「フォロワーシップ」2020/2/28 伊庭 正康

その上司、大迷惑です。 困った上司とかしこく付き合う傾向と対策 2007/8/17 松井 健一

職場のクセモノと付き合う技術 2019/3/16 横山 信治

バカ上司の取扱説明書 (SB新書) 出版年: 2018/9/6 著者:古川 裕倫 出版社 ‏ : ‎ SBクリエイティブ

難しい性格の人との上手なつきあい方 2001/2/1 フランソワ ルロール, クリストフ アンドレ

あなたが上司から求められているシンプルな50のこと  2012/4/17 濱田 秀彦

ソーシャルスタイル理論でわかった! 10万人のデータから導き出した 上司へのすごい伝え方  2021/4/17 斉藤 由美子

職場の嫌いな人の取り扱い方法 2006/7/1 小林 惠智

できる人はやっている上司を使い倒す50の極意 田中和彦 祥伝社 出版年月:2014年06月

上司とうまくいかなくて会社を辞める前に試したい10のコミュニケーション術。 10分で読めるシリーズ  江戸しおり、 MBビジネス研究班 出版社:まんがびと

ある抗原を認識したB細胞の増殖を促すヘルパーT細胞はどうやってその同じ抗原を認識できるのか

抗原刺激を受けたBCRを持つB細胞の増殖をヘルパーT細胞が促すわけですが、このヘルパーT細胞はどうやって同一の抗原を認識するのでしょうか。免疫学の教科書を読んでいて、そこが良く理解できませんでした。

たいていの免疫学の入門用の本では、ヘルパーT細胞はサイトカインをだしてB細胞を元気づけるような図が書いてあります。しかし、それでは、どうしてはしか攻撃隊のT細胞がはしか攻撃隊のB細胞だけを選んで指令を伝えられるか、説明になっていません。免疫学を勉強したというひとでも、この原理を理解していないひとが多いように思います。(抗原の情報はどうやってT細胞からB細胞へ伝わるの? 河本宏研究室)

自分の疑問はどうやらもっともな疑問のようです。もう少し具体的にいうと、リッピンコットの教科書の145ページに、B細胞と抗原提示細胞の絵が描いてあったのですが、この抗原提示細胞はこのB細胞と同一ではないの?別の細胞なの?という疑問が湧いたわけです。B細胞が同時に抗原提示細胞にもなっているのであれば、おなじ抗原を認識するT細胞が、その抗原を認識する免疫グロブリンを産生するB細胞の増殖を促進させるということで説明ができるのにと思ったわけです。しかし、この図10.18だと細胞が別に描かれていました。

ただこの可能性に関していうと、かりにB細胞が抗原提示細胞をかねたとしても、MHCクラスII分子にのせて提示するペプチドの由来となる抗原タンパク質が、BCRが認識する抗原タンパク質と同一である保証はありません。細胞のまわりにある抗原はたくさんの種類があるでしょうから、同一になる保障は全くないはずです。

上のウェブ記事を読むと、説明がありました。抗原提示細胞は樹状細胞などのようです。ある抗原が提示されてそれに反応するT細胞が「活性化」します。同じ抗原をB細胞もBCRで認識できたとすると、それを細胞内に取り込んで、B細胞も抗原提示を行います。すると樹状細胞による抗原提示で刺激を受けたT細胞がその細胞の抗原提示に対して反応することができますので、このヘルパーT細胞はそのB細胞の増殖を指令することができるということのようです。だとするとリッピンコットの教科書はそのあたりの詳細が省かれていたということのようですね。

Janeway’sの免疫学の教科書にはこのあたりの説明が非常に詳細に述べられていました。原書第9版の邦訳版ですが、第10章液性免疫応答で図10.2(400ぺージ)の左側の図や、図10.4(403ページ)などがわかりやすいです。上記の説明と同じことが図10.4に表現されていました。


(Janeway’s Immunobiology 9th edition Fig.10.4 / https://o.quizlet.com/wYER2UCvgzRKGNdj0tpH.g.png)

ウイルスを認識する例ですが、B細胞の細胞膜上のBCRはウイルスの表面のタンパク質を認識しています。そしてエンドソームとしてこのウイルスを取り込み、分解してウイルス内部のタンパク質の一部のペプチドをMHCクラスII分子との複合体として膜表面に提示します。すると、たまたま同じ抗原ペプチドを樹状細胞によって提示されていたものに反応したCD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞)が、このB細胞による抗原提示を認識することができます。面白いのは、B細胞のBCRが認識する部位と、B細胞が抗原提示する抗原(すなわちヘルパーT細胞が認識する抗原)とは、別々であっていいということです。免疫系ってうまくできているなあと感嘆してしまいました。また、さすが定評のある教科書だとJaneway’sにも関心してしまいました。案外とここまで明確に図と文で説明してくれている教科書は少ないです(もしくは、説明がどこかにあってもそれを見つけられない)。

抗原はB細胞により認識され、抗原提示細胞はCD+T細胞に対してペプチドを提示する。B細胞とT細胞は同一のエピトープを認識する必要はない。(リッピンコット免疫学145ページ図10.18 図中の説明)

リッピンコットの教科書にも、BCRが認識するエピトープとヘルパーT細胞が抗原提示細胞提示されて認識するエピトープとは異なる部位であってもよいという説明がありました。リッピンコットの教科書は、このようにメリハリの効いた言葉による説明があるので、自分は頭に入ってきやすいように思います。

 

 

 

クラススイッチ(アイソタイプスイッチ)とは

クラススイッチとは

クラススイッチ(Immunoglobulin class switching)とは、免疫グロブリンの定常領域(Fc領域)が変化することです。ナイーブB細胞(刺激を受ける前のB細胞)は、IgMやIgDの膜結合型の分子を細胞膜表面に発現しています。抗原による刺激を受けたナイーブB細胞は、形質細胞へと分化しますが、一部は記憶B細胞(memory B cell)となります。将来、同じ刺激を受けた記憶B細胞は、T細胞からのサイトカインに応じて、クラススイッチを起こします。クラススイッチは、アイソタイプスイッチとも呼ばれます。クラススイッチを起こすのはB細胞であって、T細胞ではこのようなことは起こりません。

クラススイッチという呼称をよく聞きますが、リッピンコットの免疫学の教科書ではアイソタイプスイッチという言葉を使っていました。

クラススイッチを生じる遺伝子再編成

クラススイッチは、遺伝子の再編成が起きることによります。第14染色体にはH鎖の遺伝子群がありますが、200個以上のL/V遺伝子、20個以上のD遺伝子、6個のJH遺伝子、9個のC遺伝子がこの順に並んでいます。クラススイッチを決める部分はC遺伝子で、細かくみるとCμ、Cδ、Cγ3,Cγ1、Cα1,Cγ2,Cγ4,Cε、Cα2の9個の領域がこの順に並んでいます(それぞれ、IgM, IgD, IgG3, IgG1, IgA1, IgG2, IgG4, IgE, IgA2に対応)。DHーJHの次に位置する領域が何かでクラスが決まります。遺伝子が再編成されていないときはC遺伝子の一番左端にあるのはCμなので、クラスはMです。クラスDをつくるためには、遺伝子再編によってCδが一番左にくるように、その間にあるDNAの領域が除去されます。他のクラスをつくるときも同様で、間のDNAが除去されます。例えば、IgA2のクラスをつくりたい場合には、遺伝子再編成によりゲノムはVDJのすぐ隣にCα2の領域が直結するように、間の部分のDNAが除去されます。

クラススイッチの方向性

、Cδ、Cγ3,Cγ1、Cα1,Cγ2,Cγ4,Cε、Cα2という順番からわかるように、最初IgMを産生するB細胞だったものが、遺伝子再編成を経てIgG3産生細胞になり、さらに遺伝子再編成を経てIgG2産生細胞になり、さらにIgA2産生細胞になるという経過をたどることが可能です。

参考

  1. リッピンコット 免疫学 原書2版 邦訳 110ページなど

ナチュラルキラー(NK)細胞(natural killer cells)とは

ナチュラルキラー(NK)細胞(natural killer cells)とは

自然免疫のシステムは、可溶性物質による防御機構と、細胞性の防御機構がある。細胞性の防御機構としては、貪食細胞による貪食や、NK細胞による攻撃がある。

末梢のリンパ球のうち、T細胞 (CD3をマーカーとして発現)でもB細胞(マーカーとして免疫グロブリンを発現)でもない集団があり、それがナチュラルキラー細胞(末梢のリンパ球の5~10%)。前感作なしである種の腫瘍細胞を殺すことができることから、この名前がついた。

ウイルスに感染した細胞はストレス分子MICAやMICBを発現する。またMHCクラスI分子の発現量が減少する。NK細胞のキラー活性化レセプター(killer activation receptor)は、MICAやMICBと結合し、キラーシグナルを生み出す。また、NK細胞のキラー抑制性レセプター(killer inihibition receptor)は、MHCクラスI分子と結合することにより、MHCクラスI分子の発現量をモニターする。MHCクラスI分子が十分発現していれば、先のキラーシグナルを抑制する。不十分であればキラーシグナルが優勢となり、NK細胞が宿主細胞を死に至らしめる。

参考

  1. リッピンコットシリーズ イラストレイテッド免疫学 原書第2版

MHC restriction(MHC拘束性)とは?

MHC restriction(MHC拘束性)とは

MHC分子の溝の部分に、抗原となるペプチドが結合し、その両者をT細胞の抗原受容体が認識するのでした。このようなときに、もしMHC分子が他人のMHC分子だったとすると、もはやこのT細胞受容体は、この抗原ペプチドを認識しなくなります。あくまで同一個体内のそのMHC分子とその抗原ペプチドの組み合わせを、そのT細胞受容体が認識することができたのです。このように、他人のMHCだと認識しないということをMHC拘束性と呼んでいるそうです。そのようなことになる理由は、T細胞の発生・成熟過程にあります。

成熟したT細胞は「制の選択」を受けた際に使われたMHCと同じ表現型のMHCによって提示される抗原ペプチドしか認識することができなくなる。(免疫学コア講義)

  1. 矢田純一 医系 免疫学 改訂16版 中外医学社 第5章リンパ球の働き 3.T細胞の抗原認識 84ページ
  2. 免疫学コア講義 南山堂 改訂4版 第5章 主要組織適合遺伝子複合体 28ページ

MHC拘束性 というのは MHC restrictionの訳ですが、MHC restriction の意味を理解するにはrestrictという動詞の意味をわかればよいです。A is restricted to B.でAがBの範囲内に制限されているという意味です。Smoking is restricted to that room.(アルクの例文)という例文を考えるとわかりやすいでしょう。何が、何の範囲に制限されているのかというと、T細胞による抗原ペプチドの認識が、「自己のMHCに結合しているペプチド」の範囲に制限されているということです。つまり、他己のMHCに結合しているそのペプチドは認識できないのです。

Survival of naive T cells depends on the interaction of the TCR with MHC molecules of the same allele/isotype they were restricted to in the thymus.(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2585836/)

日本語訳の「拘束性」というのはちょっとわかりにくいです。「ある範囲に制限されている」と理解したほうが、自分はしっくりきます。

It is known that during the education of T lymphocytes in the thymus, T cells are MHC restricted i.e. they only recognize self MHC complexed with peptides. (https://www.riverpublishers.com/journal_read_html_article.php?j=IJTS/2016/1/003)

別の文例も見ておきます。

The fact to be explained is that the recognition of peptide (P) is a signal via the TCR only when it is coordinated with the recognition of a given allele of the MHC-encoded restricting element. (https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2464364/)

もう一つ別の表現。CD1a分子は非古典的MHCクラスI分子に分類されるものですが、CD1aが提示する抗原しか認識しないという制限がかかっている場合に、CD1a-restrictedという言い方をします。MHC restrictionやMHC-restrictedという言葉遣いと同じ考え方によるものです。

CD1a is expressed on Langerhans cells (LCs) and dendritic cells (DCs), where it mediates T cell recognition of glycolipid and lipopeptide antigens that contain either one or two alkyl chains. We demonstrate here that CD1a-restricted T cells can discriminate the peptide component of didehydroxymycobactin lipopeptides. (Molecular Mechanism of Lipopeptide Presentation by CD1a 2005年)

参考文献など

  1. A Disquisition on MHC Restriction and T Cell Recognition in Five Acts. Viral Immunol. April 2020; 33(3): 153–159. Published online 2020 Apr 15. doi: 10.1089/vim.2019.0182. The seminal discovery in the early 1970s, credited to Peter Doherty and Rolf Zinkernagel, of major histocompatibility complex (MHC) restriction exhibited by cytotoxic T cells represented a major conceptual advance in understanding antigen recognition by conventional T cells.
  2. Major histocompatibility complex class I-restricted alloreactive CD4+ T cells. Immunology. 2004 May; 112(1): 54–63. doi: 10.1111/j.1365-2567.2004.01857.x PMCID: PMC1782457 PMID: 15096184 Although it is well established that CD4+ T cells generally recognize major histocompatibility complex (MHC) class II molecules, MHC class I-reactive CD4+ T cells have occasionally been reported.

T細胞の分化・成熟、正の選択、負の選択、T細胞受容体(TCR)の構造、TCRシグナリングの多様性

T細胞の分化・成熟

T細胞は胸腺で分化・成熟します。T前駆細胞(prothymocyte)は胸腺に移住して、胸腺細胞thymocyteとしてTCRを発現します。また全てのT細胞はCD3を発現します。つまりCD3はT細胞のマーカーになります。CD4・CD8ダブルネガティブな状態から、CD4・CD8ダブルポジティブな状態へと遷移したのち、T細胞受容体(TCR)を発現するようになります。その後CD4シングルポジティブ(ヘルパーT細胞)またはCD8シングルポジティブ(細胞傷害性T細胞)になります。

  1. 骨髄の造血幹細胞からT細胞の前駆細胞が分化
  2. T細胞の前駆細胞が血液に入り、胸腺に移住 前胸腺細胞prothymoctyeと呼ばれる。
  3. 前胸腺細胞prothymoctyeは、最初はまだCD4,CD8,CD3,TCRを発現していない。
  4. (CD4,CD8ダブルネガティブ)細胞。
  5. 前胸腺細胞prothymoctyeが増殖して、CD4,CD8,CD3,TCRを発現する。(CD4,CD8ダブルポジティブ)細胞。
  6. 胸腺の皮質の部分で皮質上皮細胞によって正の選択をうける。すなわち、MHCとペプチドの複合体(pMHC)と結合しないものは、3~4日で死ぬ。(TCRの可変領域が自己のMHCと結合できないT細胞は死ぬ。自己のMHCを認識できる細胞のみが生き残る。)
  7. pMHCクラスI分子と結合できた細胞はCD8細胞になる。pMHCクラスII分子と結合できた細胞はCD4細胞になる。(シングルポジティブ)
  8. 正の選択で生き残ったT細胞(胸腺細胞)は、皮質ー髄質の境界に移動し、負の選択を受ける。すなわち、自己抗原+MHCの複合体に強く結合する細胞はアポトーシスで死ぬ。自己抗原を認識するT細胞は死ぬということ。
  9. 成熟T細胞として胸腺から出て、循環血中に入る。

骨髄や胸腺は、「一次リンパ器官」と呼ばれます。骨髄は全てのリンパ球が生まれる場所であり、胸腺は一部のリンパ球が「訓練を受ける場所」、また、他のリンパ球は骨髄で「在宅訓練」を受けます。一次リンパ器官を卒業したリンパ球は、外で仕事をすることになります。

  1. リッピンコット イラストレイテッド免疫学 原書2版 丸善出版 (邦訳)90ページ、122ページなど

Differentiation of mature T cells from immature precursor cells in the thymus is dependent upon signals transduced by surface TCR components and is reflected in changing thymocyte expression patterns of CD4 and CD8 surface coreceptor molecules. The earliest precursor thymocytes are CD48 (double negative [DN]) and are signaled in the thymus to differentiate into double-positive (DP) thymocytes (Robey and Fowlkes 1994). Most thymocytes progress no further than the DP stage of development, as their differentiation into mature CD4+8 (CD4SP) or CD48+ (CD8SP) single-positive (SP) T cells requires engagement of surface αβTCR complexes by intrathymic MHC/peptide self-complexes (2728114). Differentiation of immature DP thymocytes into mature SP T cells is referred to as “positive selection” and requires termination of one or the other coreceptor molecule. The choice of which coreceptor molecule to extinguish is referred to as “lineage commitment” (Janeway 1988) and is a critical one for signaled DP thymocytes, as a functionally competent immune system requires each T cell to express TCR and coreceptor molecules with concordant MHC specificities (Ellmeier et al. 1999). That is, immunocompetence requires that TCR with specificity for MHC class II (MHC II) antigenic complexes be expressed on CD4 SP T cells, while TCR with specificity for MHC class I (MHC I) antigenic complexes be expressed on CD8 SP T cells. (Coreceptor Reversal in the Thymus: Signaled CD4+8+ Thymocytes Initially Terminate CD8 Transcription Even When Differentiating into CD8+ T Cells. Immunity Volume 13, Issue 1, 1 July 2000, Pages 59-71)

  1. T細胞はどこでどのようにつくられるの?(河本宏研究室)

正の選択

胸腺で、胸腺上皮細胞は「MHC分子+自己抗原」を細胞表面に呈示しており、T細胞がもしこれを「ゆるく」認識できれば、合格です。将来、なにかしら外来の抗原とこのMHCが結合していた場合には、強く結合できる可能性があるからです。これが正の選択。

  1. (4) どうやって役に立つ細胞を選んでいるのか 9.T細胞はどこでどのようにつくられるの? 一般の方向け記事:免疫のしくみを学ぼう! 河本宏研究室 京都大学

負の選択

胸腺上皮細胞が提示する「MHC分子+自己抗原」に、T細胞受容体が強く結合してしまうと、それは自己を攻撃してしまうことになって困るため、そんなT細胞は死んでもらうことになります。これが負の選択。

  1. (4) どうやって役に立つ細胞を選んでいるのか 9.T細胞はどこでどのようにつくられるの? 一般の方向け記事:免疫のしくみを学ぼう! 河本宏研究室 京都大学

T細胞受容体(TCR)の構造

T細胞受容体は、α鎖とβ鎖が合わさったヘテロ二量体です。遺伝子組み換えによって多様性が作り出されて、一つ一つのT細胞が異なる反応性をもったT細胞受容体をもっています。MHCが提示するペプチドを認識するのがこのT細胞受容体(TCR)の先端部分。

T細胞受容体はCD4陽性とCD8陽性の2種類あり、CD4やCD8はMHCと結合することができます。CD8はMHCクラスI分子を認識します。MHCクラスI分子は全ての有核細胞(つまり、核をもたない赤血球を別として、体の全ての細胞)で発現しているので、CD8陽性T細胞は全ての有核細胞を認識することができます。それに対して、CD4はMHCクラスII分子を認識することができますので、MHCクラスII分子を発現する特別な細胞すなわち、樹状細胞、マクロファージ、単球、B細胞をCD4陽性T細胞が認識することになります。

TCRは細胞膜に埋め込まれて細胞の外側に飛び出している構造をしており、細胞質の内部にシグナルを伝えることが単独ではできません。そこでTCRのシグナルを細胞内につたえる仕事をする分子が必要となりますが、その役割を担うのがCD3複合体です。CD3複合体は、ζ鎖のホモ二量体(別名CD247)、ε鎖γ鎖、ε鎖δ鎖からなります)。

TCRシグナリングの多様性

T細胞は複数の細胞内情報伝達系を備えており、刺激に応じて異なる情報伝達経路が作動して、異なる細胞応答を示します。

多数の役者が登場するので、頭の中でしっかり整理しておかないと、わけがわからなくなります。

CD4陽性T細胞の場合ですが、

  1. まずT細胞受容体(TCR)が、ペプチドを提示しているMHCクラスII分子と結合する
  2. CD4がMHCクラスII分子と結合して、T細胞と相手の細胞との間の結合を安定化する
  3. CD4ともともと結合していたチロシンキナーゼLckがCD3複合体のITAMモチーフをリン酸化する
  4. リン酸化されたITAMモチーフに、ZAP-70チロシンキナーゼが結合し、CD3ζ鎖2量体のITAMモチーフをリン酸化する。また、ホスホリパーゼCγ(PLCγ)をリン酸化する。
  5. PLCγは、細胞膜に存在するPIP2DAGIP3とに分解する。
  6. IP3は細胞内のカルシウムストア上にあるIP3受容体Caチャンネルに結合して開口させ、カルシウムイオンを細胞質内へ放出させる。
  7. DAGはプロテインキナーゼC(PKC)を活性化する。
  8. PKCはIκB(inhibitor of NFκB)をリン酸化し、IkBから転写因子NFkBを引き離す。
  9. DAGとカルシウムイオンはプロテインフォスファターゼであるカルシニューリンを活性化する。
  10. カルシニューリンは転写因子NFATを活性化する。
  11. NfKBおよびNFATは核へ移行し、種々の遺伝子の転写を誘導する。
  12. ZAP-70チロシンキナーゼは、LAT(Linker of activation for T cell)をリン酸化し、リン酸化されたLATはグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)のであるrasracを活性化する。
  13. rasやracは、Ras-MAPKカスケードを活性化するなどしてAP-1転写因子ファミリーを活性化する。
  14. AP-1は核に移行し遺伝子発現を制御する。

信号情報伝達系はZAP-70の2つの働き(PLCγのリン酸化と、LATのリン酸化)により、2つの情報伝達経路に分岐します。

参考

  1. リッピンコット イラストレイテッド免疫学 原書2版 丸善出版 平成25年 139ページなど
  2. 自己免疫疾患における翻訳後修飾によるT細胞シグナル伝達の調節  松井 幸英  桑原 卓  近藤 元就 抗原を認識したTCRの細胞質領域で最初に生じる反応はSrcファミリータンパク質チロシンキナーゼであるLckの活性化である.
  3. ヒト制御性T細胞は通常型T細胞におけるT細胞受容体誘導性Ca2+、NF-κBおよびNFATシグナル伝達を速やかに抑制する Sci. Signal., 20 December 2011 Vol. 4, Issue 204, p. ra90 [DOI: 10.1126/scisignal.2002179]
  4. T Cell Activation Annu Rev Immunol. 2009 ; 27: 591–619. This year marks the 25th anniversary of the first Annual Review of Immunology article to describe features of the T cell antigen receptor (TCR). doi:10.1146/annurev.immunol.021908.132706.
  5. T細胞活性化の時空間的制御機構 生物物理58(1), 005-011(2018) T細胞は抗原認識受容体=T細胞受容体(TCR)を介して,さまざまな応答を起こす.たった1種類の受容体からなぜこのような多様性が生まれるのか.この理由として,TCR 下流のシグナルが,Ras–MAPK経路,カルシウム―カルモジュリン―カルシニューリン―NFAT経路,NF-κB 経路,アクチン重合,フォスファチジルイノシトール3リン酸―Akt–mTOR経路などの複数のシグナル伝達経路へと分岐し,さらに補助刺激受容体やサイトカイン受容体からのシグナルが修飾することがあげられる1).
  6. T-Cell Receptor (TCR) の概要 ThermoFisher Scientific
  7. T細胞受容体シグナル伝達
  8. 免疫・アレルギーの理解のためのT細胞学 日耳鼻 114: 539―546,2011 「他領域からのトピックス」
  9. T Cells and MHC Proteins Molecular Biology of the Cell. 4th edition.
  10. Major Histocompatibility Complex Restriction (ScienceDirect)

 

胸腺(きょうせん)とは?T細胞の分化成熟の場所

胸腺とは

胸腺は胸骨の裏にある組織で、骨髄で作られた未熟なリンパ球(Tリンパ球*)が正常に働くようにする役割を担っています。胸腺の機能は幼児期まで活発に働き、思春期で最も大きくなり、その後は年齢とともに萎縮していき、脂肪組織と置き換わることで周囲の脂肪組織と見分けがつきにくくなります。(胸腺腫と胸腺がん 国立がん研究センター 東病院)

胸腺におけるT細胞の分化成熟

胸腺内におけるT細胞分化の過程で生じる重要な現象は、1)T細胞受容体遺伝子の再編成、2)自己MHCを認識するTCRを発現するT細胞の選択(正の選択)、3)自己抗原を認識するTCRを発現するT細胞の除去(負の選択)、4)CD4およびCD8の発現である。(自己免疫疾患をより良く理解するための免疫学 JBスクエア)

Tリンパ球はおおまかにはウイルスやがん細胞を攻撃する細胞障害性T細胞CD8T細胞)と、他のリンパ球の働きを手助け・調節するヘルパー-T細胞CD4T細胞)に分けられます。(胸腺腫と胸腺がん 国立がん研究センター 東病院)