コレステロールは脂質二重膜の重要な構成要素

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コレステロールは日常的に名前を聞く馴染みの物質ですが、生体内のどこにあるのか?という質問にちゃんと答えられるわけではありませんでした。恥ずかしながら、コレステロールが脂質二重膜の重要な構成要素であることは最近知りました。

細胞膜の構成要素

細胞膜はリン脂質、コレステロール、タンパク質から成る。‥ リン脂質は脂肪酸とリン酸が結合したものであり、脂肪酸の炭素数が少ないほど、二重結合(不飽和度)が多いほど流動性が高くなる。‥ コレステロールは含有量が少なすぎても多すぎても膜の流動性は低下する。(細胞膜の構造 repix-lab.co.jp)

コレステロールは、タンパク質リン脂質とともにすべての細胞膜に含まれていて、膜の流動性を調節する働きをしているのです。コレステロールは脳と神経系に多く成人の体内コレステロール量100~150gのうち1/4が脳に集中、神経系全体では1/3強となります。(コレステロールの体内での働きは? 日本食肉消費総合センター)

  1. 生体膜の基本構造 膜に含まれる様々な種類の脂質分子は すべて両親媒性である

細胞膜におけるコレステロールの割合

Singerらの提唱しているモデルによると,脂質二重層膜の脂質配列について,極性脂質としてリン脂質は明記されているが,生体膜にリン脂質の1/2以上含まれているコレステロールについては明確に図示されていない.しかるに,実際の生体膜にはリン脂質の1/2量から等量のコレステロールが含有されており,しかもリン脂質一コレステロールの組成比によって,それぞれの生体膜の流動性が支配されている16).

16)Demel, R. A. and B. dcKruyff: Biochim. Biophys. Acta, 457, 109 (1976)

(脂質二重層膜表面のコレステロール配列1977 )

細胞膜におけるコレステロールの割合の制御

コレステロールは、私たちの⾝体のすべての細胞の細胞膜の主成分であり、細胞内コレステロールの60〜90%が細胞膜中に存在します。⼀⽅、細胞内のコレステロール量は、⼩胞体という細胞⼩器官に存在するセンサー(SCAP/SREBP)により維持されていると考えられています。しかし、⼩胞体上のSCAP/SREBPが、細胞膜のコレステロール濃度の変化をどのようにして感知しているのか不明でした。今回、研究グループは、細胞膜内層のコレステロールは、細胞膜に埋まっているABCA1タンパク質によって外層へ輸送されることによって低濃度に維持されており、細胞膜内層のコレステロールが過剰になった場合は⼩胞体膜上のAster-Aタンパク質によって⼩胞体に輸送されること、それによってSCAP/SREBPが細胞膜コレステロールの濃度変化を感知し、細胞のコレステロール恒常性が維持されていることを明らかにしました。本結果は、2022年12⽉9⽇に、Journal of Biological Chemistry 誌に発表されました。(過剰なコレステロールを感知し コレステロールの恒常性を維持するメカニズムの解明 iCeMS 京都大学)

細胞膜内でのコレステロールの配向性

コレステロール分子の大きさは,核部分が10.5Å,側鎖部分が6.5Åで,リン脂質の大きさは,極性部分が10Å,非極性部分が20Åで,コレステロールの大きさは,リン脂質の脂肪酸側鎖と同じくらいであるので,両者は膜でうまく混合するわけである.コレステロールの3位にはβ配位の水酸基があって,膜の極性側つまり水溶液側へ配向しており,その核と側鎖はリン脂質の非極性部分,すなわち膜の内部へ配向している.(コレステロールと生体膜―膜成分および基質としての役割 木村徳次 1981)

ラフトと信号伝達

今までは、細胞膜上に、直径100~数百nm程度の大きさの安定な構造を持つラフトと呼ばれる領域が常に多数存在していて、その構造にいろいろな分子が取り込まれてシグナル伝達が起こるという考えが大勢を占めていました。しかし、そのようなラフトの存在は、多くの研究者の努力にかかわらず実証できませんでした

大きな発見 すなわち、受容体にシグナル分子が結合すると、数個の受容体分子が会合する。そこにコレステロールや糖脂質などの特定の脂質が濃縮されて、直径数nm-数十nmのイカダ(ラフト)構造体を作る。さらにこのラフトに、細胞内のシグナル伝達に関連するタンパク質分子が集まってきて、それらの結合と活性化によって、細胞内のシグナルが誘起される、

  1. GPIアンカー型受容体 CD59 平均6個のCD59が集まってできる会合体(CD59クラスター)
  2. CD59クラスターはコレステロールと糖脂質の集積を誘導 CD59クラスターは拡散運動と「STALL」と呼ばれる1回あたり0.5秒程度の一時停止を繰り返し
  3. STALL中のCD59クラスターPLCγが短時間(0.25秒)やってきて、PIP2を加水分解して、IP3とカルシウムのシグナルが引き起こされ
  4. モデル計算によれば、その間に約30個程度のIP3が生成され、細胞内のカルシウムシグナルが発生
  5. IP3シグナルは、細胞内全体で見ると10分程度は継続します。
  6. パルス状の短いシグナルをたくさん発症することで、細胞全体のシグナルを組み立てている 

(シグナル伝達をする瞬間の細胞膜ラフトが見えた! 平成19年5月21日 JST)

コレステロールとラフト

1972年に提案されたSinger-Nicholsonの流動モザイクモデルでは、細胞膜は一様な構造と想定されていました。‥ 20世紀後半に提唱されたラフトモデルは、とりわけ多くの研究者の注目を集めています。ラフトとは筏のことです。このモデルでは、液体の細胞膜中に特定の脂質(スフィンゴミエリンやコレステロールなど)とタンパク質(GPIアンカー型受容体など)が集合した領域(ラフト)が浮かんでいることが提唱されています。‥ 今回の実験で、ラフトを作ると思われていた分子同士(スフィンゴミエリンとCD59)が結合すること、それにはコレステロールが必要であることがわかりました。(細胞膜内に存在する機能領域「ラフト」の正体に迫る 木下祥尚 2017年4月25日 アカデミストジャーナル

脂質ラフトと呼ばれる微小領域は、スフィンゴミエリンとコレステロールを主成分としており、周囲の生体膜とは異なる性質を持っています。この脂質ラフトは、シグナル伝達や病原菌の感染など生理的に重要な働きをしていますが、分子間の相互作用についてはほとんどわかっていません。(Osaka University Murata Group

 

その他の参考

  1. コレステロールと生体膜―膜成分および基質としての役割 木村徳次 1981
  2. 膜脂質の流動性と膜タンパク質の動態 荒磯恒久 1994
  3. コレステロールはいかに細胞膜を破れにくくするか 2019
  4. 分子シミュレーション研究会会誌“アンサンブル”Vol. 15, No. 2, April 2013 (通巻62号) https://www.jstage.jst.go.jp/article/mssj/15/2/15_111/_pdf/-char/ja
  5. 脂質膜低分子相互作用 コレステロールを含む二成分リン脂質二分子膜に対して正確な相図(物質の状態変化を示した地図のようなもの)を作成することは、二分子膜構造におよぼすコレステロールの影響を調べる有効な方法の一つです。
  6. 脂質二重層の頭部と尾部ドラッグデリバリー technochemical.com
  7. 体内のコレステロールの循環 「善玉コレステロール(HDL)」は、実はコレステロールだけから成っているのではなく、コレステロールやリン脂質などの脂質を2分子のアポリポタンパク質と呼ばれるタンパク質が束ねた、脂質とタンパク質の複合体です。全身の細胞でコレステロールが過剰になると、コレステロールは細胞膜上で働くABCA1という膜タンパク質の働きによって細胞外へと運び出され、血中を流れているアポリポタンパク質へと受け渡されます。
  8. 胆汁酸(約80%はコール酸デオキシコール酸(15%),ケノデオキシコール酸(2%))
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