ギブスの自由エネルギーが何かを知るために熱力学の教科書を開いても、その定義式G=H-TSからわかるように、まずエンタルピーHが何か、そしてエントロピーSが何かを知っておく必要があり、教科書の章を遡って読み始めない限り、理解に達しません。数式を負いながらの理解はなかなか大変です。そこで、言葉による、最もわかりやすい説明がないかと調べてみました。
それが何か?なぜそれを考えたのか(定義したのか)?それで何ができるのか?それは何ではないか。といった視点での理解も大事かと思います。
Thermodynamics and Chemical Dynamics 131C. Lecture 14. The Gibbs Energy. UCI Open チャンネル登録者数 28.5万人
ギブスの自由エネルギーを考えるわけ
ある変化が自発的に生じるかどうかは、熱力学の第二法則「孤立系のエントロピーは増大する」というもので判断できます。「系」というのは、任意に決められるわけですが、系と系の外側に区別できるようなものです。例えば、お湯をわかすヤカンを系と考え、ヤカンの外側の部分と区別して考えることができます。ピストンがついたシリンダーであれば、そのシリンダーが系と考えられます。人間という個体を系と考えてもよいし、細胞一つを系と考えてもいいでしょう。ただし重要なことは、系と系と外側との間に、物質の移動やエネルギーの移動があるかどうか。エネルギーの移動も物質の移動もない系が、孤立系と呼ばれます。厳密にいうと、孤立系なんて存在しないんじゃないのということにもなります。すると宇宙全体が、唯一実在する孤立系なのかもしれません。そこで、通常は、自分の興味の対象としての「系」とそれを取り囲む周囲の「系」そしてこの周囲の系は、そのさらに外側とは物質もエネルギーも移動しないと考え、「系」+「その周囲」を合わせて孤立系と考えます。教科書によって使う言葉が多少違うけれども、指している内容は同じです。
熱力学第2法則によれば、全系のエントロピーは減少しない。
∆S全系 =∆S反応+∆S熱浴 ≥0 (1.2)
しかし、この式そのものはあまり便利ではない。これが述べているのは、全系のエントロピーが減少しないということだけであって、肝心の反応系における変化については何も分からない。‥ 我々にとっては、熱浴に関する詳細は興味がなく、反応系で何が起こるかが関心事である。そこで、上の式から反応系に関する情報だけを抽出することが望ましい。この目的のために、反応系の「ギブス自由エネルギー」という量を次のように定義する。
∆G反応 =∆H反応−T∆S反応 (1.3)
(京都大学OCW 安藤耕司 第1章 熱力学の復習 第4回 自発的過程と自由エネルギー 基礎物理化学B )
ギブスの自由エネルギーとは
ウェブ上に大部の大学化学の教科書が公開されていました。
自由エネルギー変化は、以前に特定された自発性の指標ΔS宇宙と直接関連しており、プロセスの自発性についての信頼できる指標です。‥ 自由エネルギーG=ΔH−TΔSは、プロセスによって生成されるエネルギーΔHと、周囲に失われるエネルギーTΔSの差を表しているものと解釈することができます。生成されたエネルギーと失われたエネルギーの差は、そのプロセスによって有用な仕事をするために利用可能な(すなわち「自由な」)エネルギーΔGです。(第16章 熱力学 Chemistry 2nd Edition)
生物版もありました。
熱力学の第二法則によれば、すべてのエネルギー伝達は熱のような使用不可能な形でエネルギーを失うことを含み、その結果エントロピーが生じることを思い出してください。ギブズの自由エネルギーは、私たちがエントロピーを考慮したうえで利用可能であるような、化学反応で起こるエネルギーのことを特に指しています。言い換えれば、ギブズの自由エネルギーは、使用可能なエネルギー、つまり仕事をするために利用可能なエネルギーのことです。 ‥ ΔGを計算するには、系の総エネルギー変化からエントロピーとして失われたエネルギー量(ΔSと表示)を引きます。科学者たちはこの系の総エネルギー変化のことをエンタルピーと呼び、私たちはそれをΔHと示します。ΔGの計算式は次のとおりです。ここで、記号Tはケルビン単位での絶対温度(摂氏温度 + 273)を表します: ΔG = ΔH — TΔS (第6章 代謝 生物学 第2版 Japanese translation of “Biology 2e”)
生化学の教科書によくある反応前後のエネルギーの模式図の縦軸は何エネルギーか
エネルギーにいろいろな種類(エンタルピー、ギブス自由エネルギーなど)があるのなら、反応前後でのエネルギー差を示した生化学の教科書によくある図の縦軸は何なのだろうと思いました。教科書によっては単に「エネルギー」と書いてあり、別の教科書には「自由エネルギー」と書いてあります。ΔG=ΔHーTΔSなので、A+B→C+Dの反応におけるエネルギーの差ΔGは、ΔHからTΔSを引いたものであり(つまりΔH=ΔG+TΔS)、そのように図示している教科書もありました(集中講義生化学 MEDICAL VIEW)。A+Bのところの線から活性化エネルギーを超えてC+Dの線まで降りる(ΔGが負の場合)わけですが、示されている値は「自由エネルギー」なので、縦軸は自由エネルギーということになろうかと思います。
参考となる教科書やウェブ記事
- 『集中講義 生化学』 MEDICAL VIEW社 8ページ 自由エネルギーとはなにか?
- 「エントロピーから読み解く生物学」を読み解く -.hiroshima-u.ac.jp
- https://icho.csj.jp/36/pre/P-5ans.pdf
- https://www.bio.phys.tohoku.ac.jp/~ohki/Physics_C/Aug11.pdf
- http://kek.soken.ac.jp/sokendai/wp-content/uploads/15phy_MSS.pdf
- 結合エネルギーとは 技術情報館 SEKIGIN 分子の持つ全結合を切断するためのエネルギーの総和である。
- 反応熱とは 技術情報館 SEKIGIN 最初の状態と最終状態の結合エネルギーの差に基づき,出入りする熱を反応熱という
- 結合エネルギーと反応熱 fromhimuka.com 結合エネルギーを通常は発熱、吸熱の場合を分けずに絶対値で表します。(反応熱)=(生成物の結合エネルギーの和)-(反応物の結合エネルギーの和)ただ、この関係が成り立つのは「反応物も生成物も気体」に限ります。