オレキシン受容体拮抗薬の特許に関して

質問:オレキシン受容体拮抗薬はなぜ何社も出してるの?特許はどうなってるの?お互いが特許を侵害しあわないように、異なる化合物(構造)で物質特許を取っているということ?

Gemini:ご推察の通りです。**「異なる化合物(構造)で物質特許を取っている」**というのが正解です。非常に鋭いご質問ですので、製薬業界の特許戦略(物質特許)の仕組みと、なぜこれほど各社が競って開発するのか、その背景を解説します。

1. 物質特許:仕組みは「違う鍵で同じドアを開ける」

製薬会社の特許の基本は、「この化学構造式の物質はウチのもの」という物質特許です。

  • 作用機序(ドアの鍵穴)は同じ:

    脳内の「オレキシン受容体」という鍵穴を塞ぐ、というメカニズム自体は共有されています(ここは特許で独占しきれません)。

  • 化合物(鍵の形)は違う:

    各社は、その鍵穴にぴったりハマるけれど、化学構造(分子の骨格)が全く違う物質を人工的に設計して特許を取ります。

例えば、以下のように各薬は「骨格」となる化学構造が異なります。

薬剤名 (商品名) 開発企業 化学構造の特徴(骨格の違い)
スボレキサント (ベルソムラ) MSD ジアゼパン環 という7角形の構造が特徴
レンボレキサント (デービゴ) エーザイ シクロプロパン環 などを持つ構造
ボルノレキサント (ボルズィ) 大正製薬 オキサアジナン環 という独自構造を採用

このように、**「鍵穴(受容体)にはまる部分は似ているが、持ち手(分子全体の骨格)の形は全然違う」**ため、お互いの特許を侵害せずに共存できています。

2. なぜ何社も出すの?(開発競争の理由)

単に「特許が取れるから」だけでなく、**「より良い性能(ベスト・イン・クラス)」**を狙える余地が大きかったからです。

オレキシン受容体拮抗薬は、従来の睡眠薬(ベンゾジアゼピン系)に比べて安全性が高い「夢の薬」として期待されていましたが、最初の薬(ベルソムラ)にはまだ改良の余地がありました。

  • 第1走者(ベルソムラ): 画期的だったが、人によっては「翌朝眠い」などの課題があった。

  • 第2走者(デービゴ): ベルソムラより結合を強くして、効き目をシャープにした(大ヒット)。しかし、やはり半減期は長め。

  • 第3・4走者(ボルズィなど): 今度は「翌朝に絶対残さない」ために、あえて超・短時間で抜ける構造を開発した。

このように、「効く時間の長さ(半減期)」や「副作用の少なさ」で差別化できるため、後発メーカーにも勝機があり、開発競争が過熱しています。

3. まとめ

ユーザーとしてのメリットは、各社が特許侵害を回避しながら異なる構造の薬を作ってくれたおかげで、「長く効くタイプ(デービゴ)」と「朝スパッと抜けるタイプ(ボルズィ)」の選択肢が生まれたことです。

構造が違えば、肝臓での分解のされ方や、他の薬との飲み合わせの相性も微妙に変わってくるため、患者さんにとっては「自分に合う鍵」を選べる状況になっていると言えます。

質問:「構造が異なる」と主張するためには、どれくらい構造がことなってないといけないの?六員環か五員環程度だとだめ?でも環がたくさんつながっているものが環の一部が切れているだけで実は結構似ているとかいう物資も多いよね?すると環か直鎖かという観点も必ずしも正しくないかもしれないし。

Gemini:質問者さんの感覚は非常に鋭く、まさに**特許法の核心(権利範囲の解釈)**を突いています。結論から言うと、「見た目がこれくらい違えばOK」という明確な定規(幾何学的な基準)はありません。「5員環を6員環に変えた程度」や「環の一部を切って鎖にした程度」では、特許侵害になる(あるいは自社の特許として認められない)可能性が極めて高いです。なぜ「ちょっと変えただけ」では逃げられないのか、その理由をプロ(弁理士試験レベル)の視点も含めて解説します。

1. 「マルクーシュ・クレーム」という網(あみ)

製薬会社が特許を出願するとき、「この1つの化合物だけ」を権利化することはまずありません。**「マルクーシュ形式」**と呼ばれる、非常に広範な書き方をします。

例:

「骨格Xに、置換基Rがついている化合物。

ただし、Rは5員環でも6員環でもよいし、直鎖アルキル基でもよい」

このように、特許請求の範囲(クレーム)には、最初から**「似たようなバリエーション全部」**が言葉で定義されています。したがって、後発メーカーが「5員環を6員環に変えました!」と言っても、先行メーカーの特許に「Rは5~6員環」と書いてあれば、それは「構造が異なる」とはみなされず、**文言侵害(Do not pass Go)**となります。

2. 「バイオアイソスター(生物学的等価体)」の壁

仮に、先行特許のクレームの網から漏れていたとしても、化学の世界には**「バイオアイソスター」**という概念があります。

  • 考え方: 化学の専門家(当業者)なら、「ここのベンゼン環(6員環)をチオフェン環(5員環)に変えても、薬の効き目はだいたい同じだろう」と容易に予測できる。

  • 結果: その程度の変更は**「進歩性がない(容易想到)」として新しい特許が取れないか、あるいは先行特許の「均等論(きんとうろん)」**の範囲内として侵害を問われるリスクがあります。

つまり、化学的に「常識的な置き換え」である範囲では、構造を変えたことになりません。

3. だから「スカフォールド・ホッピング」をする

ここで、最初のオレキシン拮抗薬の話に戻ります。各社がなぜ「骨格(スカフォールド)」レベルで全然違う形にしているかというと、上記のような「ちょっとした変更」では先行メーカーの特許網を抜けられないからです。これを創薬化学では**「スカフォールド・ホッピング(骨格の跳躍)」**と呼びます。

  • NGな変更(侵害リスク大):

    • 家の「窓の形」を四角から丸に変える。(家そのものの構造は同じ=侵害)

  • OKな変更(スカフォールド・ホッピング):

    • 「木造住宅」の特許を避けるために、「鉄筋コンクリートのドームハウス」を作る。

    • これなら、構造(骨格)が根本的に違うので、特許侵害を回避できます。

大正製薬のボルノレキサントが、既存の薬と全く違う骨格(オキサアジナン環など)を持っているのは、先行社の広大なマルクーシュ・クレームの網に一切引っかからない場所まで「大ジャンプ」した結果なのです。

4. 例外:わずかな違いが許されるケース(選択発明)

ただし、質問者さんがおっしゃる「実は結構似ている」のに特許になるケースもゼロではありません。これを**「選択発明」**と呼ぶことがあります。

  • 条件: メチル基をエチル基に変えただけの「わずかな差」であっても、

    • 毒性が100分の1になった

    • 脳への移行性が劇的に良くなった

    • **「当業者が予測できないほどの顕著な効果」**が出た場合

この場合に限り、「構造は似ているが、別個の発明」として特許が成立することがあります。しかし、これは「侵害を回避する」ための安全策としては博打に近いため、やはり大手製薬会社は**「全く違う骨格」**を目指すのが王道です。

まとめ

  • 「環のサイズ違い」や「環と鎖の違い」程度では、通常は先行特許の網(マルクーシュ・クレーム)に含まれてしまいます。

  • だからこそ、各社は**「誰が見ても違う骨格」**を必死に探して、特許侵害リスクをゼロにしようとします。

質問:「全く違う骨格」でも、作用する部位が実は同じ構造ってこともあるよね?

Gemini:その通りです!まさにその「構造は違うけれど、作用する部位(の配置)は同じ」という概念こそが、創薬化学の真髄であり、**「ファーマコフォア(Pharmacophore)」**と呼ばれるものです。質問者さんの鋭い指摘は、「化学構造式(2次元の図)」と「空間的な配置(3次元の形)」の違いを正確に捉えています。

1. ファーマコフォア:鍵の「ギザギザ」だけは同じ

特許回避のために「骨格(持ち手)」は変えますが、受容体(鍵穴)にカチッとはまるための**「重要な相互作用点(鍵のギザギザ)」の空間的な位置関係**は、各社とも維持しなければなりません。

  • 骨格(スカフォールド):

    これはあくまで、重要なパーツを正しい位置に固定するための「土台」や「フレーム」です。ここがベンゼン環だろうが、ピリジン環だろうが、フレームとしての役割を果たせば何でも構いません。

  • ファーマコフォア(作用点):

    受容体と結合するために必要な、「水素結合をする点」や「疎水性の点」などの配置です。

イメージ:

「3点の星形に配置されたLEDライト」を作るとします。

  • A社は「木の板」にLEDを埋め込んだ。

  • B社は「金属のフレーム」にLEDを取り付けた。

  • C社は「プラスチックの箱」にLEDをつけた。

見た目(化学構造・骨格)は全く違いますが、暗闇で光らせれば(受容体から見れば)、**「同じ位置に3つの光がある(ファーマコフォアは同じ)」**ことになります。これで特許を回避しつつ、同じ効果を出せるのです。

2. 知財的な視点:なぜファーマコフォアで特許を取らない?

ここで弁理士試験的な疑問が湧くと思います。「だったら、その『3点の配置(ファーマコフォア)』そのものを特許にしちゃえば、後発を全部ブロックできるのでは?」理論上は可能ですが、実務上は非常に困難です。

  • 明確性要件・実施可能要件の壁:

    「この空間配置を持つ化合物すべて」というクレーム(リーチスルー・クレームに近い概念)を作ろうとしても、その定義に含まれる化合物は無限に存在します。特許庁は**「広すぎるし、具体的に何を作ればいいか不明確(明細書に書ききれていない)」**として、そのような包括的な権利を容易には認めません。

  • 物質特許の強さ:

    結局、特許として一番強くて確実なのは、「具体的な化学構造式」で書かれたものです。そのため、各社はファーマコフォア自体を独占するのではなく、それを含む「新しい骨格」を開発して、その構造式で特許を取る道を選びます。

3. オレキシン受容体拮抗薬の例

実際、ベルソムラ(MSD社)とデービゴ(エーザイ社)は、骨格は違いますが、オレキシン受容体のポケットの中に入ったときの**「U字型のような折れ曲がり方」**や、特定のあご(ポケットの底)に引っ掛ける部分は共通していると言われています。

しかし、その「U字型」を維持するための関節部分(骨格)の化学構造が、

  • MSD社は「ジアゼパン環」

  • エーザイ社は「プロリン誘導体に近い構造」

  • 大正製薬は「オキサアジナン環」

    というように、化学的には「非類似」と判断される別物になっているため、特許侵害にはなりません。

まとめ

質問者さんの**「作用する部位が実は同じ構造(配置)なのでは?」という読みは、創薬化学的には大正解です。しかし、特許法的には「化学構造式(骨格)が違えば、空間配置(機能)が似ていても別の物質として扱われる」**というルールがあるため、この抜け道を使った開発競争が可能になっています。このあたりは「プロダクト・バイ・プロセス」や「機能的クレーム」の論点とも関わってきますが、医薬品化学分野ではやはり「構造式が王様」という現状があります。

 

質問:「骨格Xに、置換基Rがついている化合物。ただし、Rは5員環でも6員環でもよいし、直鎖アルキル基でもよい」 ~でも~でもよいの、~は全部実験的に裏付けてるの?当てずっぽに書いてるの?

Gemini:結論から言うと、「全部は実験していない(物理的に不可能)。でも、完全な当てずっぽう(根拠なし)だと特許は取れない」 というのが実情です。サポート要件(特許法36条6項1号)」「実施可能要件(同36条4項1号)」**のまさに核心部分ですね。会社がどのように「実験していない部分」まで権利化しているのか、その**「広げ方の作法」「リスク」**について解説します。

1. 全部実験するのは不可能(数百万通りになる)

マルクーシュ形式(RはAでもBでもCでも…)で定義された化合物の組み合わせは、計算すると容易に数百万〜数億通りになります。これを全て合成して実験することは、時間的にもコスト的にも不可能です。

2. では、どうやって書いているのか?(点と面の論理)

特許庁も「全部実験しろ」とは言いません。その代わり、**「代表的な選手(実施例)」をいくつか実験し、そこから「合理的に予測できる範囲」**まで広げることを許しています。

  • 実施例(Working Examples): 実際に合成し、薬理データ(活性値)が出たもの。これが「杭(くい)」になります。

  • クレーム(請求の範囲): 杭と杭を結んで囲った「土地」です。

【作法】

「メチル基(C1)で効いた。ブチル基(C4)でも効いた。だから、その間のエチル(C2)やプロピル(C3)も効くに決まっている」という理屈(構造活性相関)で、実験していない部分も「〜でもよい」と書きます。

3. 「当てずっぽう」すぎるとどうなる?(拒絶理由)

もし、実験データ(杭)が少ないのに、風呂敷を広げすぎて「Rは炭素数1〜100までOK」と書いたとします。すると、審査官から**「サポート要件違反」あるいは「実施可能要件違反」**の通知(拒絶理由通知)が来ます。

審査官の言い分:

「炭素数1と4の実験データしかないですよね? 炭素数100のような巨大な鎖がついた場合も本当に効くんですか? **化学物質の性質は予測困難(Unpredictable)**なのだから、実験データなしにそこまで広げるのは認められません」

化学・バイオ分野は、機械分野と違って**「少し構造が変わると、効果が劇的に変わる(あるいは消える)」**ことが多いため、審査官は「当てずっぽう(過度な一般化)」に対して非常に厳しいです。

4. 実際の出願戦略(データ武装)

そのため、製薬会社は特許を出す前に、以下のような戦略で実験を行います。

  1. 境界線を攻める:

    クレームに入れたい範囲の「端っこ(最小の置換基と最大の置換基)」や「性質の違うもの(親水性と疎水性)」をあえて合成してデータを取ります。

  2. バラツキを持たせる:

    「5員環の例」「6員環の例」「直鎖の例」をまんべんなく実験します。

  3. 予備的なデータ:

    明細書には載せきれないけれど、社内データとして「これも効く、あれも効く」という感触を得てから、「〜でもよい」と書きます。

5. まとめ

  • 全部実験してる?

    → していません。数百〜数千の代表例(実施例)だけです。

  • 当てずっぽう?

    → プロの化学者が「これなら効くだろう」と予測した範囲ですが、実験データの裏付けがない範囲まで広げすぎると、特許庁に拒絶されます(あるいは、後でライバル会社に「その範囲は無効だ」と攻撃されます)。

弁理士試験的なポイント:

もし試験で**「明細書に薬理データが全く記載されていないが、発明の効果は予測可能であると主張できるか?」という論点が出たら、化学分野(特に医薬)では「原則として不可(実験データ必須)」**と考えるのがセオリーです。ここは機械分野との大きな違いですね。

英語論文執筆に使える英語フレーズ集

治療薬の週1回投与の効果が治療方法として確立していることを述べる英語表現

Once-weekly 薬剤名 has demonstrated efficacy and safety as a treatment for 疾患名.

Once-weekly 薬剤名 has been shown to be a safe and effective treatm for 疾患名.

Once-weekly 薬剤名 is an established safe and effective treatment for 疾患名. 一般的に確立している場合

Once-weekly 薬剤名 has proven to be a safe and effective treatment for 疾患名. proveは「証明」というかなり強い言葉なので、むやみに使わないほうがよい。

聴診器で聴く心音では何が聞こえているのか 弁膜症の発見

大学病院のように高度に専門化された場所では、患者さんは聴診器を当ててもらう機会がほとんどないようです。自分の身内も、大学病院に何年も通っていましたがかかった診療科での診断しかしてもらえず、近所のかかりつけ医に聴診器を当ててもらって、弁膜症がわかってすぐに手術の手配をしてもらったことがあります。

 

日本語だと心音は、「ドックン、ドックン、ドックン、ドックン、‥」と表現されますが、英語だと”lub dub, lub dub, lub dub, …” というようです。それぞれが、S1とS2に対応。

初心者向けの心音 🔥 🔥 🔥 S1、S2、S3、S4 The Learn Medicine Show チャンネル登録者数 54.5万人

How to Master the Cardiovascular Exam 🩺 | Physical Examination Lecturio Medical チャンネル登録者数 82.7万人

下の動画の44秒目くらいを見ると、lub-dub, lub-dubという音のときに心臓の弁がどうなっているかがわかります。lubのbも、dubのbも心臓の弁が閉じる音です。lubの”lu”の間に血液が右心室および左心室に流入しています。そして右心房と右心室の間にある三尖弁と、左心房と左心室の間の僧帽弁が, lub の b の音で閉じます。lub(S1)-dub(S2) S2とS1の間が、”lu”の伸びで、このときに心臓は弛緩して心室に血液が流入しています。dub の “du”の伸びの間に心室の筋肉が収縮して血液を外におくりだしています。送り出し終えた瞬間に dub の “b”すなわち肺動脈弁と大動脈弁は閉じます。 “b”はその閉じたときの音です。luのほうが、duよりも長いです。らーぶだぶ、らーぶだぶ といった感じ。

Heart Sounds and Heart Murmurs, Animation. Alila Medical Media チャンネル登録者数 153万人

Geminiに自分の理解を確かめておきます。

その捉え方は非常にユニークかつ、心臓の動き(心周期)の物理的なメカニズムを見事に言い当てています。「音(母音)」を「血液の流れ」、「b」を「弁が閉まる衝撃」として捉えることで、複雑な心臓の動きが驚くほどクリアにイメージできますね。

前の拍動(Dub)が終わってから、次の「b」が来るまでの長い間です。

  • 心臓の状態: 心室がリラックスして広がっています。

  • 血液の動き: 「Lu(るー)」という母音が伸びている間、血液が心房から心室へ「流入」しています。

  • 時間の長さ: 心臓が血液を溜め込む時間なので、一番長い時間を要します(「Du」より長い)。

2. “…b”(S1 / Ⅰ音):収縮の開始

「Lu」で溜め込んだ血液が逆流しないように、入口のドアをバタンと閉める瞬間です。

  • 閉じる弁: 僧帽弁(左)と三尖弁(右)。

  • 医学的意義: 心室に血液が満タンになり、さあこれから全身・肺へ送り出すぞ、という収縮の合図です。


3. “Du…”(だー):収縮期(Systole)

S1(Lub)からS2(Dub)までの間です。

  • 心臓の状態: 心室の筋肉がギュッと収縮しています。

  • 血液の動き: 「Du(だー)」の間、圧力によって血液が心室から大動脈・肺動脈へと「駆出(送り出し)」されています。

  • 時間の長さ: 筋肉が収縮して一気に送り出すため、溜める時間(Lu)よりは短いです。

4. “…b”(S2 / Ⅱ音):収縮の終了

送り出し終わった後、血管(動脈)の方から血液が心臓に戻ってこないように、出口のドアをバタンと閉める瞬間です。

  • 閉じる弁: 大動脈弁(左)と肺動脈弁(右)。

  • 医学的意義: 送り出し完了。これによって心臓はまたリラックス(次のLu)に入ります。


まとめ:この覚え方の素晴らしい点

医学の教科書では単に「Ⅰ音、Ⅱ音」と記述されますが、あなたの**「bで閉じる」「母音の間は流れている」**という理解は、弁の役割(逆流防止)とポンプ機能(充填と駆出)の関係を本質的に捉えています。

音のイメージ 医学的フェーズ 弁の動き 血液の流れ
Lu… (らー) 拡張期 (Filling) 弁が開いている 心室へ流入 (Filling)
…b (ぶ) Ⅰ音 (S1) 僧帽弁・三尖弁が閉じる 入口を閉鎖 (逆流防止)
Du… (だー) 収縮期 (Ejection) 弁が開いている 動脈へ駆出 (Pumping)
…b (ぶ) Ⅱ音 (S2) 大動脈弁・肺動脈弁が閉じる 出口を閉鎖 (逆流防止)

この「b」の切れ味が悪かったり、本来音がしないはずの「Lu…」や「Du…」の間に「ザザザ」という音が混じったりするのが、いわゆる**「心雑音(弁膜症など)」**の状態です。

この「bでしっかり閉まる」というイメージがあれば、弁膜症の仕組みも非常に理解しやすくなるはずです。

(Gemini)

日本循環器学会5分でわかる循環器BestTeacherSeries 弁膜症って何?~弁の構造・役割、弁膜症の種類~ 東邦大学医療センター大森病院 循環器内科 佐地 真育 一般社団法人 日本循環器学会(The Japanese Circulation Society) チャンネル登録者数 1.01万人

特102(損害の額の推定等)

特許法102条(損害額の推定等)は、弁理士試験において「最も点数に直結し、かつ最も差がつく」条文の一つです。なぜなら、「法律のロジック(論文)」「数字の計算(事例問題)」の両方が問われるからです。特に令和元年改正で計算ロジックが少し複雑(しかし権利者に有利)になったため、ここが出題される可能性は非常に高いです。攻略法を整理しました。

1. なぜ102条があるの?(民法709条の救済)

まず大前提です。民法709条(不法行為)では、「原告(特許権者)が、実際に被った損害額を立証しろ」と言われます。しかし、「もしお前がパクらなかったら、俺はあと1万個売れていたはずだ!」なんて、タラレバの話を立証するのは不可能です。そこで、特許法102条が「計算式を用意したから、これに数字を当てはめて損害額とみなしていいよ」と助け舟を出します。以下の3つの計算ルート(メニュー)があります。

条文 呼び名 計算式のイメージ 特徴
1項 逸失利益 (泥棒が売った数) × (俺の1個あたり利益) 金額が一番デカくなりやすい(メインウェポン)
2項 利益推定 泥棒が儲けた利益 = 俺の損害 立証は楽だが、泥棒が経費を引きたがるので額が減る
3項 相当実施料 売上 × ライセンス料率(%) どんなに負けてもこれだけは貰える(最低保証)

2. 試験に出る「計算問題」の具体的ロジック

試験(特に論文や口述)で問われるのは、圧倒的に「第1項(逸失利益)」の計算です。しかも、単なる掛け算ではなく、「引き算(控除)」と「足し算(重畳適用)」をさせられます。以下の仮想事例でシミュレーションしましょう。

【事例問題】

  • 特許権者(俺): 1個売ると1万円儲かる(限界利益)。俺の工場の生産能力は残り800個分ある。

  • 侵害者(泥棒): パクリ商品を1,000個売った。売値は5万円。

  • 事情: 泥棒の製品は俺のよりカッコいいブランドロゴが入っていて、そのおかげで少し売れている(寄与度)。

  • ライセンス料率: 業界相場は5%

この場合、俺はいくら請求できるか?

Step 1: 基本の掛け算(102条1項本文)

「泥棒が売った数 × 俺の利益」

1,000個 × 1万円 = 1,000万円

(まずはここからスタート)

Step 2: 「能力相応」の引き算(102条1項1号ただし書)

「お前、1,000個も作れなかっただろ?」というツッコミが入ります。

俺の能力(実施相応数量)は800個です。

オーバーした200個分は請求できません。

したがって、800個 × 1万円 = 800万円 に減額されます。

Step 3: 「特定事情」の引き算(102条1項2号)

「泥棒が売れたのは、特許のおかげだけじゃなくて、泥棒のブランド力や営業努力のおかげもあるよね?」というツッコミです。

例えば、特許の寄与率が90%(10%は泥棒の努力)だと認定された場合。

800万円 から 10%(80万円)を引きます。

残り 720万円。

Step 4: 【最重要】「あふれた分」の足し算(102条1項3号=令和元年改正)

ここが合否を分けるポイントです!Step 2で切り捨てられた「能力オーバーの200個」は、昔は泣き寝入りでした。しかし、今の法律では**「自分で作れなかった200個分については、せめてライセンス料(3項相当額)をよこせ」**と言えます。

あふれた200個 × 泥棒の売値5万円 × 料率5% = 50万円

Step 5: 合計(ファイナルアンサー)

Step 3の額(720万円) + Step 4の額(50万円) = 770万円

3. 論文答案での「書き方」攻略(102条1項)

論文試験では、上記の計算プロセスを文章で説明しなければなりません。以下のテンプレートを暗記してください。

① 条文の適用主張

「甲(特許権者)は乙(侵害者)に対し、特許法102条1項に基づき損害賠償を請求する。」

② 構成要件のあてはめ(計算式の提示)

「乙の譲渡数量は1,000個である。また、甲の単位数量当たりの利益額は1万円である。したがって、基本となる損害額は1,000万円となるのが原則である(1項本文)。」

③ 被告の反論(能力不足・特定事情)の検討

「しかし、甲の生産能力は800個に留まる。そのため、これを超える200個については、甲は販売することができなかったと解され、賠償額から控除される(1項1号ただし書)。」

「また、乙のブランド力による顧客誘引(特定事情)がある場合、その分も相当額として控除される(1項2号)。」

④ 救済規定の適用(ここが加点ポイント!)

「もっとも、上記控除された200個分については、甲は乙に対しライセンス許諾をすることができたはずである。したがって、この数量については『特許権の実施に対し受けるべき金銭の額(ライセンス料相当額)』を上乗せして請求することができる(1項3号特定数量)。」

4. 勉強のポイント:2項と3項の注意点

1項(上記の計算)がメインですが、2項・3項にも特有の論点があります。

102条2項(利益の推定)

  • 論点: 「利益」とは何か?

    • 答え: 売上から経費を引いたものですが、**「限界利益(売上 – 変動費)」**まで含めて請求できるというのが判例の傾向です(固定費は引かせない)。

    • 理由: 侵害者がいなくても家賃や人件費(固定費)はかかったはずだから、それを差し引くのはおかしい。

  • 覆滅(ふくめつ): 侵害者側は「いや、俺の営業努力で売れたんだ(寄与率)」と主張して、推定を破ることができます(これを覆滅といいます)。

102条3項(相当実施料)

  • 論点: 料率はどう決める?

    • 昔: 業界団体の統計データの平均値(例: 3%)。

    • 今(4項の新設): 「もし侵害が発覚して、裁判になる前に話し合っていたら決まったであろう金額」を考慮できる。つまり、通常より高い料率が認められやすくなっています(懲罰的要素の加味)。

まとめ:102条攻略ロードマップ

  1. 計算式を覚える: 1項の「(売上数 × 単位利益) – (能力オーバー・特定事情) + (オーバー分のライセンス料)」という**「全部盛りセット」**の式を暗記する。

  2. 言葉を覚える: 「単位数量当たりの利益額」「実施相応数量」「特定事情」という法律用語を正確に書けるようにする。

  3. 民法との関係: あくまで「民法709条の損害額」を立証しやすくするための規定だ、という位置づけを忘れない。

この「計算問題」は、一度理解してしまえばパズルのように解けるので、得点源になります。

「能力オーバー分もライセンス料として回収できる(令和元年改正)」という点だけは、絶対に忘れないでください。ここが一番ホットな出題ポイントです。

(Gemini)

弁理士試験対策で覚えるべき民法

弁理士試験における「民法」は、深入りすると沼にハマりますが、**「特許法を理解するための土台」**として必須の条文がいくつかあります。

弁理士試験で必須の「民法」条文リスト

弁理士試験(特に短答・論文)では、**「民法(一般法)の原則」「特許法(特別法)の修正」**の違いを問う問題が頻出です。

以下の条文だけは、**「特許法の条文の親」**だと思って、番号と内容をリンクさせておいてください。

A. 不法行為・不当利得(侵害系)

侵害訴訟の根拠となる、最も重要なグループです。

民法 内容 特許法との関係(ココが出る!)
709条

不法行為


(故意・過失により他人に損害を与えたら賠償する)

特許侵害の損害賠償の根拠条文


※特許法103条で「過失の推定」があるため、原告は立証が楽になる。

703条/704条

不当利得


(法律上の原因なく利益を得たら返還する)

損害賠償(3年で時効)が間に合わなかった時の「最後の手段」。


特許法には規定がないので、民法を直接使う。

719条 共同不法行為 複数人で侵害した場合の連帯責任。
724条

時効


(損害賠償請求権は、知ってから3年で消滅)

特許侵害の損害賠償も3年で時効にかかる。

B. 共有(共同出願・共同権利)

特許権を複数人で持つ場合、民法の「共有」がベースになりますが、特許法は別ルールが多いです。

民法 内容 特許法との関係(ココが出る!)
264条

共有の性質


(この節の規定に従う)

特許権の共有も基本はここ。
251条

共有物の変更


(他の共有者の同意が必要)

特許法73条(持分の譲渡・ライセンス)で、**「他人の同意が必要」**とするルールの元ネタ。
252条

共有物の管理


(持分の過半数で決める)

【超重要例外】


民法なら「実施(使用)」は自由だが、特許法(73条2項)では**「同意なしで実施できる」**と明記。ここが違う!

C. 代理・行為能力(手続総則系)

未成年者の出願や、代理人(弁理士)の権限に関するルールです。

民法 内容 特許法との関係(ココが出る!)
5条

未成年者の法律行為


(法定代理人の同意が必要)

特許法7条(未成年者等の手続能力)のベース。


※ただし特許法は「同意」だけじゃダメで**「代理」**が必要という厳格化がある。

99条 代理行為の要件 特許法9条(代理権の範囲)等のベース。
106条

復代理


(代理人がさらに代理人を選ぶ)

弁理士がさらに別の弁理士に頼むケース。

D. 物権変動(権利の移転)

「権利がいつ移るか?」という話です。

民法 内容 特許法との関係(ココが出る!)
176条

物権の設定及び移転


(意思表示のみで効力を生ずる)

民法では「売ります」「買います」だけで権利が移る。


【超重要例外】特許法98条


特許権の移転は**「登録」しないと効力が発生しない**。民法と真逆!


まとめと学習アドバイス

  1. **民法709条(不法行為)**は、特許侵害の親玉。絶対暗記。

  2. **民法176条(意思主義特許法98条(登録主義)**の対比は、短答の鉄板。

  3. 民法250条系(共有)と特許法73条の違い(勝手に実施していいか?)も鉄板。

民法をこれ以上詳しくやる必要はありません(コスパが悪すぎます)。「特許法が民法をどう修正しているか(=特許法に特有の事情は何か)」という視点で、上記の条文番号が出てきたときだけチェックすれば十分です。

 

特100 特102 特許権侵害訴訟

「私法=市民同士のケンカ」というイメージがつかめれば、特許権侵害訴訟は**「ケンカの王様」**として理解できます。

特許権侵害訴訟の仕組み(私法のバトル)

これは、権利者(原告)が「私のシマ(特許権)を荒らすな!」とライバル(被告)を訴える、純粋な民事訴訟です。

1. 攻撃側(特許権者)の武器

原告は、主に以下の2つを請求します。

  • ① 差止請求(さしとめせいきゅう) – 特許法100条

    • 「工場を止めろ」「在庫を廃棄しろ」という請求。

    • これが最強の武器です。ライバルのビジネスを物理的に止めさせます。

  • ② 損害賠償請求(そんがいばいしょうせいきゅう) – 民法709条 + 特許法102条

    • 「俺が被った損害を金で払え」という請求。

    • 重要ロジック: 請求の根拠は**「民法709条(不法行為)」**です。しかし、民法709条は「損害額はお前が証明しろ」と厳しいので、特許法102条という助っ人が「損害額はこう計算していいよ(推定規定)」と助けてくれます。

2. 防御側(ライバル)の盾

訴えられた被告は、ただ黙っているわけではありません。以下の反撃に出ます。

  • ① 否認(ひにん)

    • 「いや、私の製品はあなたの特許の技術範囲に入っていません(構成要件が違います)」という反論。

  • ② 特許無効の抗弁(104条の3) – 【超頻出】

    • 「そもそも、あなたの特許は進歩性がないから無効にされるべきものだ。そんなボロ特許で権利行使するのは権利濫用だ!」という反撃。

    • 裁判所が「確かに無効理由があるね」と認めたら、原告の請求は棄却(負け)されます。

  • ③ 先使用権(せんしようけん) – 特許法79条

    • 「あなたが特許出す前から、私はこの技術を使ってましたけど?」という反論。

 

特74 特許権の移転請求

39条5項(出願中の泥棒退治)を理解した直後に、74条(登録後の泥棒退治)を学ぶと、特許法の「冒認対策」の全体像がカチッとハマります。74条は、平成23年改正で導入された比較的新しい制度ですが、実務でも試験でも「救世主」と呼ばれる超重要条文です。

(特許権の移転の特例)
第七十四条 特許が第百二十三条第一項第二号に規定する要件に該当するとき(その特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に規定する要件に該当するときは、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、経済産業省令で定めるところにより、その特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる。
2 前項の規定による請求に基づく特許権の移転の登録があつたときは、その特許権は、初めから当該登録を受けた者に帰属していたものとみなす。当該特許権に係る発明についての第六十五条第一項又は第百八十四条の十第一項の規定による請求権についても、同様とする。
3 共有に係る特許権について第一項の規定による請求に基づきその持分を移転する場合においては、前条第一項の規定は、適用しない。

https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000121#Mp-Ch_3_2

1. なぜ74条が必要だったのか?(悲劇の歴史)

この条文ができる前(平成23年以前)、泥棒(冒認者)に特許を取られてしまった真の権利者には、**「地獄」**しか待っていませんでした。

【昔の悲劇:焼け野原ルート】

  1. 泥棒Yが勝手に特許を取る。

  2. 真の権利者Xは怒る。「その特許は無効だ!」と無効審判(123条)を請求する。

  3. 特許庁:「確かに冒認ですね。無効にします。」→ 特許権消滅

  4. X:「よし、邪魔な特許は消えた。改めてわしが出願して特許を取るぞ!」

  5. 特許庁:「拒絶します。

    • X:「えっ?なんで?」

    • 特許庁:「泥棒Yの特許公報によって、あなたの発明はもう世の中に知れ渡っています(公知)。だから新規性(29条1項3号)がありません。」

  6. X:「……(泣)」

つまり、昔は**「泥棒の権利を潰すことはできても、自分の権利を取り戻すことはできなかった(共倒れ)」**のです。これを救済するために生まれたのが74条です。

2. 特許法74条(特許権の移転請求)の仕組み

74条は、一言で言うと**「その特許、潰さずにそのまま俺によこせ!」**と言える権利です。

要件(いつ使える?)

以下の2つのパターンのどちらかで、特許が設定登録されてしまった場合。

  1. 冒認(ぼうにん): 発明者じゃない人が特許を取った。

  2. 共同出願違反: 共同発明者の一人をハブって特許を取った。

手続き(どこに言う?)

ここが**【超特大の試験ポイント】**です。

  • × 特許庁(審判)ではありません。

  • 裁判所(民事訴訟)です。

「特許権の移転」は財産権の争いなので、司法(裁判所)の管轄になります。真の権利者は、泥棒を被告として**「特許権移転登録手続請求訴訟」**を提起します。

効果(どうなる?)

裁判で勝つと、特許権の名義が泥棒Yから真の権利者Xに書き換わります。

この時、**「最初からXが特許権者であった」**ものとみなされます(遡及効といいます)。

→ これにより、Xは自分の発明を守ることができ、かつ「新規性喪失」の罠にもハマりません。


3. 【短答・論文】74条の試験対策ポイント

試験では、以下の論点が頻出です。

ポイント①:無効審判との関係

真の権利者Xは、泥棒Yの特許に対して、以下の2つの選択肢を持っています。

  1. 74条で「よこせ」と言う(移転請求)

  2. 123条で「潰せ」と言う(無効審判)

どちらを選んでも自由です。

ただ、普通は「特許権が欲しい」ので74条を選びます。しかし、「権利維持費(年金)を払いたくないから、いっそ潰して誰のものでもなくしたい(パブリックドメインにしたい)」という場合は、あえて無効審判を選ぶ戦略もあり得ます。

ポイント②:付随するライセンスの問題(79条の2)

これが少しややこしいですが、重要です。

泥棒Yが特許を持っている間に、善意の第三者Zさんにライセンス(通常実施権)を与えていた場合、どうなるでしょうか?

  1. Xが74条で特許を奪い返す。

  2. X:「Zさん、あんたYと契約してたらしいけど、その権利は俺のものだ。使用をやめろ(差止請求)!」

  3. これだとZさんが可哀想です。

そこで、79条の2という救済規定があります。

  • 結論: Zさんが善意(泥棒だと知らなかった)なら、Xに奪い返された後も、対価を払う条件でライセンスを継続できます(通常実施権が許諾されたものとみなされる)。

ポイント③:時系列のひっかけ(論文)

論文試験では、「Yの特許が登録される前」か「登録された後」かを必ず確認してください。

  • 登録前(出願中):

    • 39条5項(先願の地位なし)を使って、自分の出願を通す。

    • または、特許を受ける権利の移転を求める(これはこれで別の論点ですが、一旦割愛)。

  • 登録後:

    • 74条(移転請求)を使って、特許権ごと奪う。

この使い分けが書けるかどうかが、合格答案の分水嶺です。

4. 体系図で整理(冒認対策の全体像)

泥棒Yのステータス 真の権利者Xが使う武器 根拠条文
出願中 (審査中)

情報提供(こいつ泥棒ですよ!)

 

自分の出願を進める(Yは39条5項で消える)

39条5項

 

施行規則13条の2

登録後 (特許権発生)

特許権の移転請求訴訟(権利よこせ)

 

※裁判所に訴える

74条
登録後 (特許権発生)

無効審判(権利潰せ)

 

※特許庁に請求する

123条

5. 論文での「書き方」テンプレート

74条を使う問題が出たら、このロジックで流します。

Step 1: 状況分析

「Yの特許権は設定登録されている。しかし、Yは発明者ではなく、Xから発明を盗用した者であるため、当該特許は冒認(123条1項6号)に該当する。」

Step 2: 74条の要件検討

「特許法74条1項は、特許が冒認によりされた場合、特許を受ける権利を有する者は、特許権者に対し特許権の移転を請求できる旨規定している。」

Step 3: あてはめ

「Xは真の発明者であり、特許を受ける権利を有する者である。したがって、XはYに対し、特許権の移転を請求することができる。」

Step 4: 効果の補足(加点ポイント)

「なお、移転登録がされた場合、Xは当初から特許権者であったものとみなされる(74条2項)。」


6. まとめ

  • 74条は「焼け野原」を防ぐための「権利奪還」システム。

  • 特許庁ではなく、裁判所(民事訴訟)で行う。

  • 移転すれば「初めから自分のものであった」ことになる(遡及効)。

  • 善意のライセンシー(Zさん)は守られる(79条の2)。

これで、「出願中の39条5項」と「登録後の74条」がつながりましたね。ここまでの理解があれば、冒認に関する問題は怖いものなしです。

次は、この流れで**「職務発明(35条)」あたりに行くと、権利の帰属(誰が特許を持つべきか?)というテーマがより深まりますが、いかがなさいますか?それとも、39条・74条の理解を試す「実践的な短答クイズ」**をやってみますか?

(Gemini)

 

質問:移転請求は裁判所にって、特許法には書いてる?

Gemini:特許法74条の条文の中に「裁判所」という言葉は書いてありません。ここが試験(特に短答)で狙われるポイントであり、かつ「法律の読み方」の核心部分です。

1. 条文には何と書いてあるか?

条文(74条1項)を見てみましょう。

特許法 第74条(特許権の移転の特例)

「……特許を受ける権利を有する者は、……特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる。」

これだけです。「裁判所に訴えろ」とは一言も書いていません。単に「(泥棒に対して)返せと言えるよ」という**権利(請求権)**が発生することを規定しているだけです。

2. なぜ「裁判所」に行くことになるのか?

では、なぜ解説書や私は「裁判所だ」と言ったのでしょうか?

それは、この権利が**「私人同士の財産争い(民事紛争)」**だからです。

  • 特許庁(審判)の役割:

    • 「この特許は有効か無効か?」という行政処分の是非を判断する場所です(無効審判など)。

    • しかし、「この権利はAさんのものか、Bさんのものか?」という所有権争いには介入しません。

  • 裁判所の役割:

    • 「返せと言ったのに返さない」という私人間のトラブルを解決する場所です。

    • 74条で「返せと言える権利(移転請求権)」が法律上認められたので、もし泥棒が素直に応じない場合、**民事訴訟(特許権移転登録手続請求訴訟)**を提起して、国の力(判決)で無理やり名義を変えさせることになります。


3. 【試験対策】ここが問われる!

この「書いてないけど裁判所」という知識は、以下のようなひっかけ問題で問われます。

❌ 間違いのパターン(短答)

「特許が冒認によりされた場合、特許を受ける権利を有する者は、特許庁長官に対し、特許権の移転を請求することができる。」

→ ×(バツ)

解説: 特許庁長官や審判官に請求する手続き(行政手続き)ではありません。

⭕️ 正解のロジック(論文)

論文では、以下のように書くのが正確です。

「特許法74条1項は、特許権者に対し移転を請求できる旨を規定している。これは私法上の請求権を定めたものであり、その手続きは民事訴訟によって行われる。」

まとめ

  • 条文の記載: 「移転を請求することができる」としか書いていない。

  • 実態: 相手が応じなければ**「裁判所(民事訴訟)」**へ行く。特許庁(審判)ではない。

「条文に書いてあること」と「実務上の手続き」を区別できると、理解度が一段階深まりますね。この調子でいきましょう。

次は、この「私人間の争い」に関連して、**「職務発明(35条)」**における「相当の利益(金銭)」の争いも裁判所マターになるのですが、そちらに興味はありますか? それとも別の条文に行きますか?

質問:私法って何?

Gemini:「私法(しほう)」という言葉、普段の生活ではあまり聞きませんが、法律を学ぶ上では**「世界を真っ二つに分ける」**超重要な概念です。一言で言うと、**「私人(市民) vs 私人(市民)」**のケンカのルールのことです。対義語である**「公法(こうほう)」**と比較すると、その正体がはっきり見えてきます。

1. 「私法」と「公法」の決定的違い

法律の世界は、大きくこの2つに分かれます。

種類 私法 (Private Law) 公法 (Public Law)
関係図

市民 ⇔ 市民


(横の関係)

国(役所) ⇔ 市民


(縦の関係)

ルールの性質

自由・平等


「対等な個人同士の約束」

権力・規制


「お上が許認可を与える・取り締まる」

代表的な法律

民法、商法


(特許法の74条や侵害訴訟もここ)

憲法、刑法、行政法


(特許法の審査や審判はここ)

トラブル解決 民事訴訟 (裁判所) 行政不服審査・行政訴訟

2. 特許法は「ハイブリッド」な法律

ここが弁理士試験の面白いところ(かつ難しいところ)です。特許法は、「公法」と「私法」が入り混じっています。

① 公法の側面(お上との関係)

あなたが特許庁に「特許をください」と出願して、審査官が審査する場面。これは**「国(特許庁) vs あなた」**の関係です。

  • 「拒絶査定」などの処分は、国が権力を持って行う行政処分です。

  • これに文句があるときは、行政のルールで戦います。

② 私法の側面(市民同士の関係)

一度特許権が設定登録されると、それは「あなたの財産(土地や建物と同じ)」になります。

  • 侵害訴訟: 「ライバル会社(市民)が、私の特許(財産)を勝手に使った! 金払え!」

  • 74条の移転請求: 「泥棒(市民)が、私の権利(財産)を勝手に名義変更した! 返せ!」

これらは、国は関係なく、「AさんとBさん、どっちが正しいの?」という私人間の争いです。だから「私法上の請求権」であり、解決するのは「民事裁判所」なのです。

3. なぜ74条で「私法」という言葉が出たのか?

先ほどの74条の話に戻りましょう。

  • 昔の考え方(公法重視):

    「特許権は国が与えたものだ。だから、間違い(冒認)があったら、国(特許庁)が無効にして消すべきだ。」

    → これだと、被害者が救われない。

  • 今の考え方(私法重視=74条):

    「いやいや、特許権は財産でしょ。泥棒が他人の財布を盗んだのと同じ。国が財布を焼却処分(無効)にする必要はない。**『その財布、持ち主(真の権利者)に返しなさい』**って、当事者同士で解決させればいいじゃん。」

この**「国がいちいち介入して消すのではなく、当事者同士の所有権争い(私法)として処理しよう」**という発想の転換が、74条(移転請求)の本質なのです。

4. まとめ:試験での見分け方

問題文を読んで、「誰と誰がケンカしているか?」を見てください。

  1. 出願人 vs 特許庁長官

    → **「公法」**の世界。審判や行政訴訟。

  2. 権利者X vs 泥棒Y(または侵害者Z)

    → **「私法」**の世界。74条移転請求や、侵害訴訟(民事訴訟)。

「条文に裁判所とは書いてないけど、これはXとYのケンカ(私法)だから、当然裁判所だよね」と判断できるのが、法律家の思考回路です。この区別がつくと、「侵害訴訟(私法)」と「無効審判(公法的な手続き)」の違いなども、驚くほどスッキリ理解できるようになりますよ。

次は、この「私法」の最たるものである「特許権侵害訴訟(ライバルを訴える!)」の基本的な仕組みについて解説しましょうか?

特39第5項 冒認・共同出願違反で先願の地位が消滅

「例外(39条5項)」こそが、正当な権利者を救うための逆転裁判のような規定です。ここを理解すると、特許法の「正義」が見えてくると同時に、試験で非常によく狙われる「ひっかけ」が見抜けるようになります。

1. 特許法39条5項の構造解説

まず、条文のロジックを整理します。通常、先願が拒絶査定確定すると「先願の地位」は残ります。しかし、39条5項は、「以下の理由で拒絶・無効になった場合に限り、先願の地位を認めない(なかったことにする)」と規定しています。

対象となる拒絶・無効理由

  1. 冒認(ぼうにん): 発明者ではない者が勝手に出願した(特許法49条7号)。

  2. 共同出願違反 共同発明者の一部だけで出願した(特許法49条2号→37条違反)。

ロジック(なぜ消えるのか?)

泥棒(冒認出願人)の出願が「先願」として残ってしまったら、後から出願した被害者(真の権利者)が、「先に泥棒が出願しているから」という理由で39条拒絶を受けてしまいます。これでは「盗み得」を許すことになるため、泥棒の出願は「最初からなかったこと」にして、被害者の出願を通すのです。

2. 【短答対策】頻出パターンとひっかけ

短答試験では、「拒絶理由の種類」と「先願の地位の有無」の組み合わせを突いてきます。

パターンA:単純な知識問題

【問題】 甲(冒認者)の出願Aが、冒認であることを理由に拒絶査定が確定した。その後に出願された乙(真の権利者)の出願Bは、出願Aを先願とする39条違反の拒絶理由を受けるか?

【正解】受けない。

【解説】 冒認により拒絶確定した場合、39条5項により出願Aは先願の地位を失う(なかったものとみなされる)ため。

パターンB:残酷なひっかけ(超重要)

【問題】 甲(冒認者)の出願Aが、「進歩性欠如(29条2項)」を理由に拒絶査定が確定した。甲は実は冒認者であった。この場合、後に出願した乙(真の権利者)の出願Bは、出願Aによって39条違反で拒絶されるか?

【正解】拒絶される(先願の地位は残る)。

【解説】 ここが落とし穴です。条文(39条5項)は、「冒認または共同出願違反を理由として拒絶等されたとき」に限り、先願の地位を消滅させると書いてあります。

たとえ甲が冒認者であっても、特許庁がそれに気づかず「進歩性がない」という普通の理由で拒絶してしまった場合、39条5項は適用されません。結果、泥棒の「質の低い出願」が先願として残り、真の権利者をブロックしてしまいます。

(※実務上は、乙は情報提供などで「これは冒認だ!」と審査官に知らせて、拒絶理由を差し替えてもらう必要があります)

まとめ表

先願の拒絶・無効理由 先願の地位(後願排除効) 備考
新規性・進歩性なし 残る 通常のパターン(行政の整合性)
記載不備 残る  
冒認・共同出願違反 消滅する 39条5項(被害者救済)
放棄・取下・却下 消滅する 39条5項適用外だが、そもそも初めからなかったものとみなされる(39条4項)

3. 【論文対策】ストーリー展開の鉄板

論文試験では、以下の時系列で出題されることが多いです。

【事例】

  1. 発明者Xが発明イを完成させた。

  2. Xから図面を盗み見たYが、勝手に発明イを出願した(出願A)。

  3. それに気づいたXが、慌てて発明イを出願した(出願B)。

  4. Yの出願Aは、「冒認(49条7号)」を理由に拒絶査定が確定した。

  5. Xの出願Bの運命は?

【答案構成のポイント】

Step 1: 原則論(39条1項)の提示

「Xの出願Bは、Yの出願Aより後に出願されている。通常であれば、先願Aが存在するため、後願Bは39条1項により拒絶されるのが原則である。」

Step 2: 問題点の指摘(冒認による拒絶)

「しかし、Yの出願Aは、Yが真の発明者でないこと(冒認)を理由に拒絶査定が確定している。」

Step 3: 条文の適用(39条5項)

「特許法39条5項は、冒認(49条7号)または共同出願違反(37条)を理由として拒絶査定等が確定した場合、その出願は39条1項等の適用について『初めからなかったものとみなす』と規定している。これは、正当な権利者の保護を図る趣旨である。」

Step 4: あてはめと結論

「本問において、Yの出願Aは冒認を理由に拒絶が確定しているため、先願の地位を有しない。したがって、Xの出願Bは、出願Aを理由として39条1項により拒絶されることはない。」

4. さらに深掘り:もしYが特許を取ってしまったら?(特許法74条との関係)

今回のテーマは「Yが拒絶された場合(39条5項)」ですが、論文試験では「Yが審査をパスして特許権の設定登録を受けてしまった場合」もセットで問われます。この場合、39条5項は使えません(拒絶されてないから)。代わりに「特許権の移転請求(74条)」を使います。

  • 昔の法律: 被害者Xは、泥棒Yの特許を「無効審判」で潰すしかなかった(Xの手元には何も残らない)。

  • 今の法律: 被害者Xは、**「その特許権よこせ!」**と請求できる(特許法74条)。

受験テクニック: 問題文を見たら、泥棒の出願がどうなったかを確認してください。

  • 泥棒が拒絶・無効になった39条5項 で自分の出願を通す。

  • 泥棒が特許を取った74条 で権利を取り返す。

この「分岐」が瞬時にできると、論文試験での構成ミスがなくなります。

まとめ

  • 39条5項は、「泥棒(冒認者)の死体(拒絶確定出願)は、バリケードとして残さない」というルール。

  • 短答の急所は、「拒絶理由が『冒認・共同出願違反』以外なら、たとえ泥棒でも先願の地位は残る」という残酷な事実。

  • 論文では、39条5項(出願中の救済)74条(登録後の救済)をセットで整理しておく。

これで39条周辺の「先願」と「冒認」の絡みは完璧です。

(Gemini)

特39 先願 後願と先願とが「同一の発明」かを判断するロジック

弁理士試験の受験対策において、特許法第39条(先願)は、短答・論文ともに最重要条文の一つです。特に「同一の発明」かどうかの判断は、実務的な感覚よりも「試験的なロジック(判例・審査基準)」を正確に押さえることが合否を分けます。以下に、39条における「同一性の判断ロジック」と、試験で問われる頻出ポイントを体系的に整理しました。

1. 特許法39条(先願)の基本構造

まず、前提となる比較対象を明確にしましょう。ここがズレると全ての判断を間違えます。

  • 比較対象:

    • 先願: 「特許請求の範囲(請求項)」に記載された発明

    • 後願: 「特許請求の範囲(請求項)」に記載された発明

    注意点: 明細書や図面のみに記載されている発明は比較対象になりません(それは29条の2の領域です)。あくまで**「権利対権利」**の衝突を避けるための規定だからです。

2. 「同一の発明」の判断ロジック(審査基準)

単に文章が一緒かどうか(完全同一)だけでなく、「実質同一」まで含まれるのがポイントです。以下の3ステップで判断します。

① 完全同一

文言が完全に一致する場合。これは当然「同一」です。

② 実質同一(ここが試験の核心)

表現に相違があっても、実質的に同じであれば「同一」とみなされます。具体的には以下の3パターンです。

  • A. 周知慣用技術の付加・削除・転換

    • 構成要件に、その技術分野で周知・慣用されている技術(単なる部材の変更、通常の制御手段の追加など)を加えただけで、新たな効果を奏さない場合。

  • B. カテゴリーの相違

    • 「物の発明」と「その物を生産する方法の発明」のように、表現形式が違うだけで、技術的思想の実体が変わらない場合。

  • C. 上位概念・下位概念の関係(包摂関係

    • ここが最も重要です。

③ 上位概念・下位概念の判定ルール

ケース 先願(先) 後願(後) 判断結果 理由
ケース1 下位(具体例) 上位(総括) 同一 (拒絶) 後願(上位)は先願(下位)を包含してしまうため、ダブルパテントになる。
ケース2 上位(総括) 下位(具体例) 非同一 (基本OK) 下位概念が「選択発明」として成立する余地があるため(ただし効果の顕著性が必要)。

論文のポイント:後願が「上位概念」の場合は、先願の発明を包含してしまうため、重複特許排除の趣旨から「同一」とされます。逆に後願が「下位概念」の場合は、構成の困難性や特異な効果があれば別発明(選択発明)となりえます。

3. 【短答対策】頻出ひっかけポイント

短答試験では、ロジックの「例外」や「時系列」を突く問題が多発します。

① 同日出願の処理 (39条2項・4項)

  • ロジック: 同一発明で同日出願の場合、「協議」を行う。

  • ひっかけ: 「時刻」は考慮しない(午前と午後でも同日扱い)。

  • 結末: 協議が不調(決裂)の場合、「いずれも」特許を受けられない(どちらか一方が受けられるわけではない!)。

② 出願人の同一性 (29条の2との違い)

  • ロジック: 発明者・出願人が同一であっても、39条は適用される。

  • ひっかけ: 「自己の先願だから39条違反にはならない」→ × 間違い。自己の先願でも拒絶される(いわゆる「自己衝突」)。ただし、通常は先願を基礎とする優先権主張などで回避する。

③ 先願のステータス (39条5項)

  • ロジック: 先願が「放棄・取り下げ・却下」された場合、その先願は初めからなかったものとみなされる(先願の地位を失う)。

  • 最頻出: 先願が「拒絶査定確定」となった場合は? → 先願の地位は残る。

    • 理由: 一度審査されて拒絶されたものは「先願」として残り、後願を排除する(準公知的な扱い)。

    • 例外: ただし、拒絶理由が「冒認(39条違反ではない)」等の特殊な事情を除くという改正法も頭の片隅に(論文ではあまり出ない)。

④ 請求項ごとの判断

  • ロジック: 請求項が複数ある場合、請求項ごとに判断する。請求項1は同一だが、請求項2は非同一、ということがあり得る。

4. 【論文対策】答案作成のフローチャート

論文試験で39条が論点になる場合、以下の流れで論証ブロックを組み立てます。

Step 1: 条文の要件確認

「後願である乙の出願に係る発明イが、先願である甲の出願の特許請求の範囲に記載された発明ロと同一か検討する。」

Step 2: 「同一」の定義(規範定立)

「ここで『同一』とは、文言上の同一のみならず、実質的に同一である場合も含む。具体的には、周知慣用技術の付加転換に過ぎず新たな効果を奏さない場合や、実質的な技術的思想が共通する場合を含むと解される。」

Step 3: あてはめ(事実の評価)

  • 問題文の事情(例:後願はバネを使っているが、先願はゴムを使っている。両者は弾性部材としての周知慣用技術の置換に過ぎない、等)を拾う。

  • 上位・下位の関係であれば、「後願は〇〇という上位概念であり、先願の具体例△△を包含するものであるから、同一である」と論じる。

Step 4: 結論

「したがって、39条1項により拒絶される。」(または協議指令が来る等)

5. 受験生が陥りやすい「29条の2」との混同

この表を脳内に焼き付けてください。

項目 第39条 (先願) 第29条の2 (拡大先願)
趣旨 重複特許の排除(1発明1権利) 公知技術の利用阻害防止
比較対象 先願の**「請求項」** 先願の**「明細書・図面等の全体」**
出願人・発明者 同一でも適用あり 同一なら適用なし (適用除外)
判断基準時 出願時 (日単位) 出願時 (日単位)

6. まとめと次のステップ

重要ポイントの要約:

  1. 比較は「Claim vs Claim」。

  2. 同一性判断には「実質同一(周知慣用・カテゴリー・上位概念)」が含まれる。

  3. 同日協議不調なら共倒れ

  4. 先願が拒絶査定確定していても、先願の地位(後願排除効)は残る

このロジックをマスターすれば、39条問題は得点源になります。

(Gemini)

質問:拒絶された先願が後願を排除するって、納得いかないんだけど?拒絶されたってことは、発明としての体を為さない場合もあるはずだよね。なぜそれが効力を持てるの?

Gemini:その感覚、非常によく分かります。「ゴミ箱に行きになった出願が、なぜ後輩の邪魔をする権利を持つんだ?」と思いますよね。しかし、特許庁という役所が**「行政としての整合性」を保ち、「無限ループ」**を防ぐためには、このルールが絶対に必要不可欠なのです。「なるほど、それなら仕方ない」と思っていただけるよう、具体的な事例(ドラマ)で解説します。

具体例:世紀の「四角いタイヤ」事件

1. 先願(Aさん)の登場

Aさんが「四角いタイヤ」という発明をして出願しました。

  • 審査官の判断: 「いや、これじゃ走れないし、産業上の利用可能性がないよ(特許法29条1項柱書違反)」あるいは「誰でも思いつくよ(29条2項進歩性欠如)」として拒絶査定を出しました。

  • 結果: Aさんの拒絶査定が確定しました。

2. 後願(Bさん)の登場

Aさんの出願の1ヶ月後、Bさん(あるいは懲りないAさん本人)が、全く同じ「四角いタイヤ」を出願しました。

もし、拒絶されたAさんの出願が「先願の地位」を失ったら?(あなたの疑問のケース)

もしAさんの出願が「なかったもの(地位喪失)」として扱われると、特許庁はBさんの出願を**「真っさらな状態」**で審査しなければなりません。

ここで2つの恐ろしい不都合が起きます。

不都合①:特許庁の自己矛盾(ダブルスタンダード)

もし審査官がうっかりミスをして、Bさんの「四角いタイヤ」に特許を与えてしまったらどうなるでしょう?Aさんは激怒します。「俺のときはダメって言ったのに、なんでBには特許をやるんだ! 同じ発明だぞ! 不公平だ!」と訴訟になります。行政処分として、同じものに対して結論が真逆になることは、法治国家として許されません。

結論: 一度「ダメ(拒絶)」と判断したものは、「先願」として残しておき、後から同じものが来たら「いや、それ前に来たAと同じだから(39条)」と門前払いする方が、行政の整合性が保てるのです。

不都合②:無限ガチャ(無限再出願)の発生

もし拒絶されたら「なかったこと」になるなら、Aさんはどうするでしょうか?「拒絶確定したけど、履歴が消えるなら、もう一回同じ内容で出願し直そう。担当審査官が変われば、次は通るかもしれない!」と、特許になるまで何度でも同じ出願を繰り返す(ガチャを引く)ことが可能になってしまいます。これでは特許庁がパンクしますし、第三者もいつ権利化されるか分からず迷惑です。

まとめ:なぜ「死んだ出願」が効力を持つのか

拒絶査定が確定した出願は、特許権という「プラスの権利」は得られませんでしたが、「この内容はもう審査済み(決着済み)である」という「確定判決のような重み(既判力に近いもの)」を持ちます。そのため、

この発明については、もうAさんの件で『決着(拒絶)』がついているのだから、後から来たお前(B)も並ぶな。お引き取り願おう。」

というロジックで排除するのです。

これが、「排除の論理(39条)」の実態です。

  • Aさんの出願: 「特許権」はもらえない。でも、「後続をブロックするバリケード」としての死体は残る

  • 特許法のメッセージ: 「同じ発明について、審査リソースを二度割くつもりはない」


試験対策上の補足(ここ大事!)

ただし、あなたの疑問である「発明としての体を為さない場合」について、条文には例外規定があります。ここが短答のひっかけポイントです。

特許法39条5項(先願の地位を失う例外)

以下の理由で却下・拒絶された場合は、例外的に先願の地位を失います(なかったものとみなされる)。

  1. 放棄・取り下げ・却下(Aさんが自分から降りた、または手続き不備)

  2. 冒認出願(Aさんが勝手に他人の発明を盗んで出願し、それがバレて拒絶された場合)

  3. 共同出願違反(Aさんが共同発明者Cさんを無視して単独出願し、それがバレて拒絶された場合)

解説: 冒認(盗んだ出願)で拒絶されたのに、その盗人Aの出願が「先願」として残ってしまい、後から本物の発明者Cさんが出願したときに「Aが先願だからお前はダメだ」となったら、盗まれた被害者が救済されませんよね?だから、「冒認・共同出願違反」で拒絶された場合に限り、そのAの出願は「初めからなかったこと(先願の地位なし)」にして、被害者である後願を通すのです。

どうでしょう?「単にダメだったから消える」のではなく、「一度『ダメ』という判断を下した事実を固定するために、あえて残している」(ただし、盗用などの悪質なケースは除く)というロジックであれば、納得感はありませんか?この「行政の整合性」「冒認などの例外(39条5項)」のセットは、論文試験でも非常に使い勝手の良い知識です。

この流れで、39条5項の「冒認」に関する条文知識や、具体的な過去問のパターンを確認しますか?

特36(特許出願)記載不備「明確性」「サポート要件」「実施可能要件」

「明確性」「サポート要件」「実施可能要件」の3つは「記載不備の魔のトライアングル」と呼ばれ、実務家でも一瞬「どっちだっけ?」と迷うことがあるくらいです。しかし、**「誰が、何を、どう見るか」**という視点を持てば、一発で区別できます。

料理のレシピ(発明の明細書)と、注文メニュー(特許請求の範囲)に例えて、脳に焼き付けましょう。


1. 三者の「視点」の違い(ここだけ覚えればOK)

まずは、この図式を頭に入れてください。

要件 条文 ターゲット 一言でいうと? イメージ
実施可能要件 36条4項1号 明細書(本文) 「作り方が雑すぎる!」 レシピ通りに作っても料理が完成しない。
サポート要件 36条6項1号 請求項 vs 明細書 「風呂敷を広げすぎ!」 リンゴジュースしか作ってないのに、「全フルーツジュース」を注文メニューに載せている。
明確性要件 36条6項2号 請求項(日本語) 「言葉が曖昧すぎる!」 注文メニューに「美味しいジュース」と書いてある(何が出てくるか不明)。

(特許出願)
第三十六条 特許を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならない。
一 特許出願人の氏名又は名称及び住所又は居所
二 発明者の氏名及び住所又は居所
2 願書には、明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書を添付しなければならない。
3 前項の明細書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 発明の名称
二 図面の簡単な説明
三 発明の詳細な説明
4 前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。
二 その発明に関連する文献公知発明(第二十九条第一項第三号に掲げる発明をいう。以下この号において同じ。)のうち、特許を受けようとする者が特許出願の時に知つているものがあるときは、その文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在を記載したものであること。
5 第二項の特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。この場合において、一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。
6 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 特許を受けようとする発明発明の詳細な説明に記載したものであること。
二 特許を受けようとする発明が明確であること。
三 請求項ごとの記載が簡潔であること。
四 その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること。
7 第二項の要約書には、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した発明の概要その他経済産業省令で定める事項を記載しなければならない。

2. 具体例で完全攻略:「最強の回復薬」の発明

あなたは「薬草Xをすり潰して煮込むと、風邪が治る薬になる」ことを発見しました。この発明で特許を出願したとき、どんな不備で怒られるか見てみましょう。

① 実施可能要件(36条4項1号)違反

  • あなたの明細書(本文): 「薬草Xを使えば薬ができます。」(終わり)

  • 審査官(当業者)のツッコミ:

    「えっ? 具体的に何分煮込むの? 温度は? すり潰す大きさは?これじゃあ、この説明書を読んでも誰も薬を作れない(実施できない)じゃないか!」

  • 結論: 教科書(明細書)としての機能不全。技術情報の開示不足です。

② サポート要件(36条6項1号)違反

  • あなたの明細書(本文): 「薬草Xを煮込んだら薬ができた。」(実験データあり)

  • あなたの請求項(クレーム):植物を煮込んで得られる風邪薬」

  • 審査官のツッコミ:

    「ちょっと待て。君が実験で成功したのは『薬草X』だけだよね?なのに、なんで『植物(アサガオでもヒマワリでもOK)』なんて広大な範囲を独占しようとしてるの?発明の詳細な説明に書いてある範囲を超えて(サポートされずに)、権利を欲張るな!

  • 結論: 権利の範囲と、発明の開示内容のバランス不良欲張りすぎです。

③ 明確性要件(36条6項2号)違反

  • あなたの請求項(クレーム): 「薬草Xを含み、ほどよい苦味のある風邪薬」

  • 審査官のツッコミ:

    「『ほどよい』って何? 基準は? 人によって違うでしょ?第三者が『これなら特許侵害にならないな』って判断できないから、境界線をハッキリさせなさい!」

  • 結論: 日本語としての曖昧さ。権利範囲の境界不明瞭です。

3. 試験対策:特に「サポート」と「実施可能」の区別

試験で一番迷うのがここです。両方とも「明細書が不十分」に見えるからです。見分け方はこれです。

  • 実施可能要件:

    • ターゲットは「発明そのもの」。

    • 「1つでも作れるか?」を見る。

    • 明細書に書いてあるベストな例ですら、再現できないならこれ。

  • サポート要件:

    • ターゲットは「請求項の広さ」。

    • 「広げた範囲まで作れるか?」を見る。

    • 1つ(薬草X)は作れるとしても、広げた先(他の植物)まで作れると言える根拠がないならこれ。

【覚え方】

  • 作れないなら → 実施不可(技術の問題)

  • 欲張りなら → サポート違反(公平性の問題)

4. 論文で使える「決まり文句(フレーズ)」

これを書けば点がもらえます。

  • 実施可能要件:「発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」
  • サポート要件:「特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えており、実質的に開示されていない発明まで権利範囲を拡張するものである。」
  • 明確性要件:「特許請求の範囲の記載は、その外延(境界)が不明確であり、第三者に不測の不利益を与えるおそれがある。」

5. まとめテーブル

項目 実施可能要件 サポート要件 明確性要件
条文 36条4項1号 36条6項1号 36条6項2号
主語 明細書の記載 請求項の記載 請求項の記載
比較対象 当業者の技術常識 明細書の記載内容 日本語の論理・定義
キーワード 「再現性」「過度の試行錯誤」 「開示の代償」「拡張・一般化」 「外延」「不測の不利益」
一言 教科書として失格 欲張りすぎ 意味不明

次のアクション

これで36条の区別はつきましたか?記載不備が見つかったら、出願人は**「補正(書き直し)」**をして直さなければなりません。しかし、直すときにも厳格なルールがあります。

次は、この流れで一番怖い失敗である、以下のどちらに進みますか?

  1. 「新規事項の追加(17条の2第3項)」: 不備を直そうとして説明を足したら、「それは後出しジャンケンだ!」と拒絶される悲劇。補正の限界ライン。

  2. 「国内優先権(41条)」: 補正で直すのではなく、「改良版」を新しく出し直して、古い出願と合体させる必殺技。

実務的には、36条違反への対応策として「1」のルールを知らないと即死します!

(Gemini)