特036 特許出願から権利化までの流れ

特許出願について、基本から全体の流れまでを整理してまとめます。
特許は、新しい技術的アイデア(発明)を独占的に利用するための強力な権利ですが、**「出願しただけでは権利にならない」**という点が最大のポイントです。
以下に要点を整理しました。


1. 特許出願から権利化までの流れ(重要)
日本の特許制度では、出願書類を特許庁に提出した後、いくつかのステップを経て初めて権利が発生します。
* 出願(Filing)
   * 願書、明細書、特許請求の範囲、図面などを提出します。
   * 重要:この時点では、特許庁は中身の審査を行いません。
* 出願公開(Publication)
   * 出願から1年6ヶ月経過すると、内容が世の中に公開されます(誰でも見られるようになります)。
* 審査請求(Request for Examination)
   * ここがポイントです。 出願から3年以内に「審査してください」と手数料を払って請求しないと、出願は取り下げられたものとみなされます。
* 実体審査(Substantive Examination)
   * 審査官が「新しいか?」「容易に考えつかないか?」などを審査します。
* 拒絶理由通知(Notification of Reasons for Refusal)
   * 多くの場合、一度は「今のままでは特許にできません」という通知が来ます。これに対し、意見書や補正書で反論・修正を行います。
* 特許査定(Grant of Patent)
   * 審査をクリアすると、特許査定が下ります。
* 設定登録(Registration)
   * 特許料を納付することで、特許権が発生します。


2. 特許が認められるための3つの壁(特許要件)
審査官は主に以下の3点を厳しくチェックします。
* 産業上の利用可能性(Industrial Applicability)
   * 単なる学術的理論や治療方法ではなく、産業として実施できる発明であること。
* 新規性(Novelty)
   * 出願時点で、世の中に知られていない新しいものであること。
   * 注意:自分でSNSやブログで発表してしまった後に出願すると、原則として新規性が失われ、特許が取れなくなります。
* 進歩性(Inventive Step)
   * その分野の専門家が、既存の技術から容易に思いつかないレベルのものであること。


3. 知っておくべきキーワード
* 先願主義(First-to-File Rule)
   * 同じ発明をした人が複数いた場合、「先に発明した人」ではなく**「先に特許庁に出願した人」**が勝ちます。1日でも早い出願が重要です。
* 明細書・特許請求の範囲(Claims)
   * 特許出願の心臓部です。「特許請求の範囲」に書かれた言葉が、そのまま権利の及ぶ範囲(独占できる範囲)になります。


4. 費用と期間の目安
* 期間: 出願から権利化まで、審査請求のタイミングにもよりますが、平均して2年〜4年程度かかることが多いです(早期審査制度を使えば数ヶ月に短縮可能)。
* 費用:
   * 特許庁への印紙代+弁理士費用などを含めると、出願〜登録までスムーズにいって総額30万〜60万円程度が相場となることが多いです(拒絶対応の回数や請求項の数で変動します)。

特許出願して、補正命令や、補完命令されたとき、出願日は、いつになる?補正や補正の日?

「補正命令」か「補完命令」かによって、出願日が変わるかどうかが決定的に違います。
結論から言うと、以下のようになります。
* 補正命令(形式的なミスの修正)の場合
   * 出願日は**「最初に出願書類を提出した日」のまま**です(変わりません)。
* 補完命令(明細書などが丸ごと抜けていた場合)の場合
   * 出願日は**「足りない書類(補完書)を提出した日」に繰り下がります**(遅くなります)。
詳細解説
1. 補正命令(Amendment Order)の場合
手数料の未納や、願書の記載ミス、図面の不鮮明さなど、形式的な不備がある場合に出されます。
* 出願日: 変わりません。
* 効果: 指定された期間内に「手続補正書」を提出して不備を解消すれば、最初に出願書類を提出した日に有効な出願がされたものとして扱われます。
2. 補完命令(Completion Order)の場合
これは非常に危険な状態です。「明細書」や「特許請求の範囲」などが丸ごと添付されていないなど、出願として成立するための最低限の書類が足りない場合(特許法第38条の2)に出されます。
* 出願日: 「手続補完書」を提出した日(足りない書類を特許庁に出した日)になります。
* リスク: 最初に書類を出した日から、補完書を出した日までの間に、他人が同じ発明を出願していたり、その技術が公知になっていたりすると、特許が取れなくなります。
まとめ:出願日の判定表
| 命令の種類 | 理由(例) | 対応策 | 出願日はいつになる? |
|—|—|—|—|
| 補正命令 | ・手数料不足
・印鑑漏れ
・様式違反 | 手続補正書を出す | 最初の提出日のまま
(安心してください) |
| 補完命令 | ・明細書がない
・請求の範囲がない | 手続補完書を出す | 補完書を出した日
(繰り下がるので注意!) |
※ごく稀な例外として、補完命令の場合でも、優先権主張の基礎となる出願に内容が含まれている場合など、所定の要件を満たせば元の出願日を維持できる制度もありますが、非常に複雑な手続きが必要です。基本は「繰り下がる」と覚えておいてください。

特038条の3(相当な損害額の認定)

特許法第38条の3(相当な損害額の認定)について解説します。
この条文は、特許権侵害訴訟における「最後の砦」とも言える重要な規定です。侵害は認められたけれど、具体的な金額の計算で詰んでしまった…という原告を救済するためのものです。
サクッと理解できるようにまとめました。
1. 条文の概要(ざっくり理解)
第38条の3は、「損害額の立証がめちゃくちゃ難しいときは、裁判所がこれまでの経緯や証拠を見て、**『まあ、これくらいが妥当だろう』**と金額を決めていいよ」という規定です。
> 条文(要約)
> 特許権侵害による損害が生じたことは認められる場合において、損害額を立証するために必要な事実を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。
>
なぜこの条文があるの?(趣旨)
特許権侵害の損害賠償請求では、原告(特許権者)が「具体的にいくらの損害が出たか」を立証しなければなりません。
しかし、侵害品がブラックボックスだったり、侵害者が帳簿を隠したりしていると、正確な販売数量や利益率を出すのは不可能なことがあります。
「侵害はあったけど、計算できないから賠償金はゼロね」となるのはあまりに不公平なので、裁判所に裁量権を与えました。
2. 解説:適用の要件
この条文を使うためのポイントは以下の2点です。
* 損害の発生自体は立証されていること
   * 「損害が出たかどうか分からない」状態では使えません。「損害は間違いなくある」という前提が必要です。
* 事実の立証が「極めて困難」であること
   * 単に「面倒くさい」ではダメです。性質上、証明が不可能に近い場合や、証拠が偏在していて出せない場合などを指します。
この要件を満たすと、裁判所は**「口頭弁論の全趣旨」(法廷でのやり取り全体の雰囲気やニュアンス)と「証拠調べの結果」**を総合して、エイヤ!と(もちろん論理的にですが)金額を決めることができます。
3. 【重要】試験に出る!出題ポイント
弁理士試験(短答・論文)での狙われどころを整理します。
① 民事訴訟法第248条との関係
* ポイント: 実はこれ、民事訴訟法248条の特則(ほぼ同じ内容)です。
* 出題: 「特許法には民訴248条と同旨の規定があるか?」 → YES。
* 特許法にわざわざ書かれているのは、特許侵害訴訟において立証の困難性が特に高いため、注意喚起的に規定されている側面があります。
② 「極めて困難」の解釈
* ポイント: 「立証が不可能」である必要はありません。「極めて困難」であれば足ります。
* 引っかけ: 「立証が不可能であるときに限り」という選択肢が出たら × です。
③ 適用される場面(第102条との関係)
* ポイント: 損害額算定の規定(102条1項、2項、3項)を使おうとしたけれど、数量や利益の細かい数字が出せない場合に、この38条の3が顔を出します。
* 論文対策: 論文試験で損害額の計算問題が出た際、具体的な数字が資料になく「計算不能」な状況が示唆されていたら、「38条の3による認定を求める」と記述するのが正解ルートになることがあります。
④ 職権探知主義ではない
* ポイント: 裁判所が勝手に証拠を探してくるわけではありません。あくまで提出された証拠と弁論に基づいて判断します。
4. まとめ:38条の3の位置づけ
損害賠償請求の流れの中で、以下のようにイメージしてください。
* 第102条(推定規定)にトライ:販売数量 × 利益などで計算を試みる。
* 壁にぶつかる:証拠が足りない、複雑すぎて数字が出せない。
* 第38条の3 発動:「裁判長!正確な数字は出せませんが、状況から見てこれくらいが相当です!」と主張し、裁判所に決めてもらう。
この条文は単独で出るというより、第102条(損害額の推定等)とセットで理解しておくのが鉄則です。

(Gemini)

実014 却下 実用新案には拒絶はない

実用新案では、「中身(新規性や進歩性)を審査して拒絶する」ということはありません。 しかし、「門前払い(形式不備など)」による拒絶(却下) は存在します。

この「拒絶がない」と言われる仕組み(無審査登録制度)について整理しましょう。


1. なぜ「拒絶がない」と言われるのか?
特許出願では、特許庁の審査官が「これには新しい発明が含まれているか?」「容易に考えつくものではないか?」といった**中身の審査(実体審査)**を行います。ここでNOと言われると「拒絶査定」を受けます。
一方、実用新案は**「無審査登録制度」**を採用しています。
* 実体審査を行わない: アイデアの新しさや高度さはチェックされません。
* 早期登録: 書類さえ整っていれば、出願から半年程度(特許は数年かかることも)で登録されます。
つまり、「中身がショボいからダメ!」という理由での拒絶は、実用新案には存在しません。


2. でも、絶対に登録されるわけではない?(基礎的要件)
ここが落とし穴です。「何でもかんでも登録できる」わけではありません。
中身の審査はしませんが、**「基礎的要件」と「方式」の審査は行われます。これらをクリアできないと、登録されず却下(実質的な拒絶)**されます。
【ここで引っかかるとダメ(拒絶・却下)】
* 物品の形状・構造ではないもの: 方法(レシピや製造フロー)、液体、プログラムなどは実用新案の保護対象外です。
* 公序良俗に反するもの: 反社会的なデバイスなど。
* 書類の不備: 必須項目が抜けている、手数料が支払われていないなど。


3. 特許と実用新案の「審査」比較表
| 項目 | 特許 (Patent) | 実用新案 (Utility Model) |
|—|—|—|
| 審査の対象 | 実体審査あり
(新規性・進歩性を厳しくチェック) | 実体審査なし
(無審査登録制度) |
| チェック内容 | 発明の高度さ、先行技術との違い | 基礎的要件
(物品であるか、書類不備がないか等) |
| 拒絶の理由 | 「すでに似た技術がある」「容易に発明できる」など | 「保護対象(物品)ではない」「書類が変」など |
| 登録までの期間 | 審査請求から平均14ヶ月〜 | 出願から平均2〜3ヶ月 |


4. 重要な注意点:権利行使のハードル
「拒絶されないなら、とりあえず実用新案を出しておけばいいのでは?」と思うかもしれませんが、ここに大きなリスクがあります。
> 警告・権利行使には「実用新案技術評価書」が必要
>
中身を審査せずに登録してしまっているため、その権利が「本当に有効か(新規性があるか)」は誰にもわかりません。
そのため、他社に対して「権利侵害だ!やめろ!」と警告したり訴えたりする前には、特許庁に評価を依頼し、**「この権利は有効ですよ」というお墨付き(肯定的な評価書)**を得る義務があります。
もし、この評価書で「新規性なし(無効理由あり)」と判定されたまま権利を行使すると、逆に相手から損害賠償を請求されるリスクがあります。


まとめ
* 実用新案には、「中身の良し悪し」による拒絶はない。
* ただし、「形式や対象」が間違っていると却下(拒絶)される。
* 簡単に登録できる分、権利として使う時のハードル(技術評価書)が高い。
「入り口(登録)は広いけれど、出口(権利行使)は狭い」というイメージを持つと分かりやすいかもしれません。

実用新案技術評価書の中身を一言で言うと、**「その権利が『本物(有効)』かどうかの通信簿」**です。
無審査で登録された実用新案に対して、特許庁の審査官が後から**「本当に新規性や進歩性があるか?」**を調査し、その結果をズバリ書いてくれます。
この評価書には、一番重要な**「評価(ランク)」**が記載されています。これがすべての判断基準になります。


1. 運命を分ける「6段階評価」
評価書の中には、請求項(権利範囲)ごとに**「1」~「6」の数字**が書かれています。これが通信簿の成績です。
| 評価ランク | 判定 | 意味(ざっくり) |
|—|—|—|
| 評価 6 | 合格 | 「◯」有効な権利である可能性が高い。
(登録を否定するような文献は見つからなかった) |
| 評価 1~5 | 不合格 | 「×」無効になる可能性が高い。
(すでに似た技術がある、簡単に思いつく、などの理由あり) |
* 評価6(肯定的見解): これが出れば、堂々と「ウチの権利を侵害するな!」と他社に警告できます(※ただし100%絶対ではありません)。
* 評価1~5(否定的見解): これが出てしまった場合、その権利は**「実は無効である(登録されるべきではなかった)」**と判断されたことになります。この状態で他社に警告すると、逆に「無効な権利で脅してきた」として損害賠償請求をされるリスクがあります。


2. 具体的に何が書かれているの?
書類はシンプルで、主に以下の3つの要素で構成されています。
* 評価の結論(ランク)
   * 例:「請求項1に係る考案:評価6」
* 引用文献(証拠)
   * 評価1~5(不合格)の場合、「なぜダメなのか」を示す証拠として、過去の特許や論文(先行技術文献)がリストアップされます。
   * 「この文献Aに、あなたのアイデアと同じことが書いてありますよ」という指摘です。
* 対比説明
   * あなたの考案と、引用文献の技術を比べ、「どこが同じで、どこが容易に思いつくか」という審査官のロジックが書かれています。
3. もし「不合格(評価1~5)」だったらどうする?
評価書を見て「うわ、評価2(進歩性なし)だ…」となっても、即座に権利が消滅するわけではありません。しかし、そのままでは使い物にならない(武器にならない)権利です。
この場合、選択肢は主に2つです。
* 訂正する(訂正請求):
   * 権利の範囲を狭く絞り込む(例:「椅子」→「〇〇な機能を持つ金属製の椅子」)ことで、引用文献との違いを明確にし、有効な権利に変えようと試みます。
   * ※ただし、訂正できる回数や時期には制限があります。
* 諦める(放棄):
   * 権利を維持する価値がないと判断し、権利を放棄します(無駄な年金コストをカット)。
まとめ
* 実用新案技術評価書は、「権利の有効性を判定する通信簿」。
* **「評価6」**だけが、権利行使のチケットになる。
* **「評価1~5」**が出たら、そのままでは使えない(訂正するか諦める)。
こう見ると、**「とりあえず登録は簡単だけど、いざ『評価書』を取ってみたらボロボロ(評価1~5)だった」**というケースが実用新案には非常に多いのです。これが「実用新案は使いにくい」と言われる最大の理由ですね。

実用新案の最も怖いところであり、特許と大きく違う点ですが、評価書の評価が悪かったからといって、「その評価はおかしい!審判だ!」と不服を申し立てる(審判請求する)ことはできません。
評価書の結果はあくまで「特許庁の鑑定意見」であって、「処分(行政決定)」ではないため、争う道が閉ざされているのです。
少し複雑な部分なので、2つのパターンに分けて整理しましょう。


パターンA:訂正はできたが、評価が低いままだった場合
(「訂正して範囲を絞ったけど、それでも『評価1(新規性なし)』と言われた」ケース)
* 審判・訴訟: できません。
* 理由: 実用新案技術評価書の結果に対しては、法的に文句を言う手段がありません。「この評価書は間違っている!」と裁判所に訴えることもできません。
* 結果: その実用新案権は「死に体(使えない権利)」のまま残り、権利行使を諦めるしかなくなります。


パターンB:訂正そのものが認められなかった場合
(「訂正のルール(範囲を広げてはいけない等)を破っているため、訂正を却下する」と言われたケース)
* 審判・訴訟: できます。
* 流れ: 特 許庁に対して「訂正を認めてくれ」という審判を起こし、それでもダメなら知財高裁へ訴訟(審決取消訴訟)に行くことができます。
* 実情: ただし、これはあくまで「訂正の手続き」の話です。これに勝っても、評価書の評価(ランク)が良くなる保証はありません。
では、いつ「審判」や「訴訟」になるのか?
実用新案で泥沼の戦い(審判・訴訟)になるのは、あなたが**「ダメ元で権利行使をした時」や「ライバルに喧嘩を売られた時」**です。


1. 無効審判(むこうしんぱん)
ライバル会社が、「お前の実用新案はショボいから消してやる」と特許庁に訴え出ることです。
* ここで初めて、特許庁の審判官(3人組)が本格的に**「この権利は有効か無効か」**をジャッジします。
* ここで「無効」という審決(判決のようなもの)が出されると、権利は初めから無かったことになります。


2. 審決取消訴訟(しんけつとりけしそしょう)
上記の無効審判で負けた側(権利者またはライバル)が、**「特許庁の判断はおかしい!裁判所で決着だ!」**と訴えるケースです。
* 場所は**「知的財産高等裁判所(知財高裁)」**になります。
恐怖の「実用新案あるある」ルート
実用新案における「失敗の典型例」を見ると、リスクがよく分かります。
* 登録: 無審査ですぐ登録。「やった!権利化できた!」
* 警告: ライバルの真似商品を見つけ、「権利侵害だ!」と警告状を送る。
* 反撃: ライバルが「評価書取ってみろよ、どうせ無効だろ」と言い返す。
* 評価: 慌てて評価書を請求したら**「評価2(進歩性なし)」**が出る。
* 詰み:
   * 評価書に対して不服申立(審判)はできない。
   * 警告してしまったため、ライバルから「不当な権利行使で営業妨害された」として損害賠償請求される。


まとめ
* 評価書の結果(中身)には、文句(審判・訴訟)を言えない。 一発勝負に近い。
* 訂正の手続きミスに対しては、争うことができる。
* 本格的な審判・訴訟になるのは、ライバルから「無効審判」を請求された時。
「手軽に取れるけれど、一度『ダメ(低い評価)』というレッテルを貼られると、名誉挽回のチャンスがほとんどない」。これが実用新案の厳しさです。
こうなると、「じゃあ最初から特許で出しておけば、審査官とやり取り(意見書・補正書)して粘れたのに…」という後悔につながりやすいんですね。

ここまで「怖い話」ばかりしてしまったので、「なんでこんな制度があるの?」と不思議に思いますよね。
実は、ビジネスの現場では、「あえて実用新案を選ぶ」という賢い戦略が存在します。特許にはない**「スピード」と「手軽さ」**が最大の武器になるからです。
実用新案が輝く4つのメリットを整理しましょう。


1. 圧倒的なスピード(ライフサイクルの短い商品に最適)
特許は権利になるまで数年かかりますが、実用新案は出願から2〜3ヶ月で登録されます。
【こんな商品に最強】
* スマホケース、文房具、流行のおもちゃ
* 「半年〜1年でブームが終わる商品」や「来月のクリスマス商戦に間に合わせたい商品」の場合、特許を待っていたら商機を逃します。
* 「商品発売と同時に『登録第◯◯号』とパッケージに書きたい!」というニーズに応えられます。


2. コストが安い(「小さなお宝」を守る)
審査がない分、費用が格段に安く済みます。
* 特許: 出願〜登録まで数十万円〜(弁理士費用含むと高い)
* 実用新案: その半分〜3分の1程度で済むことも。
* 「ちょっとした工夫(改良)」で、そこまで莫大な利益は見込めないけれど、他社にタダで真似されるのは嫌だ…という**「小粒なアイデア」**を守るのに適しています。


3. 「カカシ」としての抑止力
ここが実用的なメリットです。評価書がなくても、登録さえされていれば**「実用新案権」という立派な権利**です。
* 他社への心理的プレッシャー:
   ライバル会社があなたの製品を見て「真似したいな」と思った時、パッケージに「実用新案登録済」と書いてあると躊躇します。
   「この権利が有効か無効か」を調べるには、お金を払って評価書を取ったり、弁理士に相談したりする必要があります。**「わざわざ調査するコストや手間」自体が参入障壁(カカシ効果)**になるのです。


4. 実は「後出しジャンケン」ができる(特許への変更)
これが一番の裏技です。
とりあえず実用新案で出しておいて、**「やっぱりこれ、すごく売れた! もっと強力に守りたい!」となった場合、一定条件下なら後から特許出願に切り替える(変更する)**ことができます。
* 条件: 出願から3年以内、かつ「評価書」をまだ請求していないこと。
* 戦略:
   * とりあえず安くて早い実用新案でキープ。
   * 商品がヒットしたら、特許に変更してガッチリ守る。
   * 売れなかったら、そのまま実用新案で終わらせる(コスト節約)。
   * ※この「様子見」ができるのは大きなメリットです。


まとめ:特許 vs 実用新案の使い分け
| 判断基準 | 特許 を選ぶべき | 実用新案 を選ぶべき |
|—|—|—|
| 技術の寿命 | 長い(5年〜20年使える基幹技術) | 短い(1〜3年で陳腐化する流行品) |
| 重要度・収益 | 社運をかける大発明、高収益が見込める | ちょっとした改良、隙間商品のアイデア |
| 目的 | 独占的にガッツリ権利行使したい | 「登録済」と表示して牽制したい、早期に権利化したい |
| 予算 | 潤沢にある | 抑えたい |
「なんでもかんでも特許」ではなく、**「この商品は寿命が短いから、あえて実用新案でサクッと権利化して、ブームが去ったら捨てる」**という使い方が、実用新案のプロの活用法ですね。

実用新案における「形式不備」には、実は2つのレベルがあります。それぞれ根拠条文が異なります。
結論から言うと、実用新案法特有の**「第14条(出願の却下)」**が最も重要です。


1. 【最重要】「基礎的要件」違反による却下
「中身の審査はしないけど、最低限これは守ってね」という実用新案特有のルール(基礎的要件)を守らなかった場合の却下です。
> 実用新案法 第14条(出願の却下)
> 特許庁長官は、・・・(中略)・・・手続の補正をすべきことを命じた場合において、その者が指定された期間内にその補正をしないときは、その実用新案登録出願を却下することができる。
>
この「前段階」として、「直せ!」と命令する条文があります。
> 実用新案法 第6条の2(審査官による命令)
> 特許庁長官は、実用新案登録出願が次の各号のいずれかに該当するときは、・・・(中略)・・・手続の補正をすべきことを命ずることができる。
>
【第6条の2 でチェックされる「基礎的要件」】
* 物品の形状、構造ではないもの(方法、材料、プログラムなど)
* 公序良俗違反
* 請求項の記載不備(書き方が不明確など)
* 単一性違反(無関係な発明を一度に出願している)
→ これらに違反すると第6条の2で補正命令が出て、無視すると第14条で却下されます。


2. 一般的な「方式」違反による却下
これは特許など他の知財と共通する、「書類のハンコがない」「手数料が足りない」といった事務的なミスです。
実用新案法が、特許法のルールを「借ります(準用)」という形をとっています。
> 実用新案法 第2条の3(特許法の準用)
> 特許法第17条(手続の補正)及び第18条(手続の却下)・・・の規定は、実用新案登録出願に準用する。
>
> (読み替え後のイメージ)
> 手数料未納や様式違反がある場合、特許庁長官は補正を命じ、それに従わない場合は手続を却下する。
>


条文構造のまとめ
| 却下の種類 | 引っかかる内容 | 根拠条文(命令 → 却下) |
|—|—|—|
| ① 基礎的要件違反
(実用新案特有) | ・物品ではない(方法など)
・公序良俗違反
・記載がグチャグチャ | 第6条の2(補正命令)

第14条(出願の却下) |
| ② 方式違反
(全法域共通) | ・手数料を払っていない
・願書の必須項目が空欄
・誤字脱字 | 第2条の3 で準用する
特許法 第17条(補正命令)

特許法 第18条(手続の却下) |
勉強ノートのポイント
試験や実務で**「実用新案の却下」と言われたら、まずは第14条(基礎的要件違反)**を思い浮かべるのが正解です。なぜなら、これこそが「無審査登録制度の防波堤」だからです。
普通の「方式違反(第2条の3)」は事務的なミスですが、「基礎的要件違反(第14条)」は**「実用新案として保護できる対象か?」という、実体審査に限りなく近いチェック**を行っている点が重要です。

特068の2

特許法68条の2(存続期間が延長された場合の特許権の効力)について整理していきましょう。
医薬品や農薬などで「特許の期間が延長されたとき、その効力はどこまで及ぶのか?」を定めた、実務上非常に重要な条文です。


特許法68条の2:存続期間が延長された場合の特許権の効力
1. 条文の要点(ひとこと解説)
> 「延長登録された特許権は、その延長の理由となった『特定の処分(承認など)』の対象となった物(やその使用方法)にだけ効力が及びますよ」
>
つまり、延長された期間中は、特許権の効力が「ピンポイント」に縮小されるということです。


2. なぜこの条文があるの?(趣旨)
通常の特許期間(20年)が終わった後の「延長期間」は、あくまで**「国の審査などで待たされて、事業ができなかった期間の埋め合わせ」**として与えられるものです。
もし、延長期間中も「特許発明の全範囲」に権利が及んでしまうと、審査待ちの影響を受けていない(=本来なら特許切れで自由に使えたはずの)他の用途や製品まで第三者が使えなくなってしまい、バランスを欠いてしまいます。
そのため、この条文で「延長の原因となった製品・用途」に限定しています。


3. 具体的な効力の範囲(解釈のポイント)
この条文は、以下の2つのケース(物の発明/製法の発明)について規定しています。
① 物の発明の場合
延長された特許権の効力は、以下のものに及びます。
* その処分の対象となった物(特定の有効成分・品目など)
② 用途が定められている場合(医薬品など)
医薬品のように、承認において「用途(効能・効果)」が定められている場合は、さらに限定されます。
* その処分の対象となった物 であって、かつ、その処分の対象となった用途(使用の態様)


4. わかりやすい事例(医薬品のケース)
ある化学物質X(成分)について、物質特許を持っていたとします。
* 特許内容: 成分Xそのもの
* 承認内容: 成分Xを「がん治療薬」として販売する承認を得た(これで期間延長)
* 別の用途: 成分Xは「脱毛予防」にも効くことがわかった
【延長期間に入った後の世界】
* 他社が「がん治療薬」として成分Xを製造販売する
   * 👉 特許権侵害になる(延長の対象だから)
* 他社が「脱毛予防剤」として成分Xを製造販売する
   * 👉 特許権侵害にならない(延長の理由となった用途ではないから、効力が及ばない)
※ただし、近年の判例(アバスチン事件など)により、**「実質的に同一」**とみなされる範囲までは効力が及ぶと解釈されていますが、基本原則はこの条文の通り「処分の対象」に限定されます。


5. まとめテーブル
| 項目 | 通常の期間(20年以内) | 延長された期間(最大+5年) |
|—|—|—|
| 根拠条文 | 第68条 | 第68条の2 |
| 効力の範囲 | 特許請求の範囲(クレーム)全体 | 政令で定める処分の対象となった物(+用途)に限定 |
| 第三者の実施 | クレームに含まれれば侵害 | 対象外の用途なら侵害にならない |

(Gemini)

Q特068条の2 最高裁判決 平成23年4月28日 放出制御組成物 事件


平成23年4月28日の最高裁判決(放出制御組成物事件/パシーフカプセル事件)は、医薬品の**特許権の存続期間の延長登録(特許法67条関係※)**において、非常に重要な転換点となった判例です。
以前の実務運用を大きく覆し、製薬企業が**「新たな効能・効果」や「用法・用量」**を追加した際に、特許期間の延長を認めやすくした画期的な判決です。


ポイントを整理して解説します。
判例の基本情報
* 事件名: 放出制御組成物 事件(通称:パシーフカプセル事件)
* 判決日: 最高裁 平成23年(2011年) 4月28日
* 争点: 「先行処分(前の承認)」がある場合、後行処分(新しい承認)に基づいて特許期間の延長登録ができるか?
* 結論: できる(特許庁の拒絶審決を取り消し)
> ※注:法改正により条文番号等は変動しますが、本質的な議論は現在の特許法67条の4(延長登録の要件)等の解釈に直結します。

1. 事件の背景(何が問題だったのか)
特許権者は、鎮痛薬(モルヒネ塩酸塩)に関する製剤特許(放出制御組成物)を持っていました。
* 先行処分(前の承認): すでにこの薬は、「中等度から高度の疼痛」を対象として承認されていました。
* 後行処分(今回の承認): 新たに**「中等度から高度の癌性疼痛」という効能・効果を追加し、かつ「1日1回経口投与」**という新しい用法・用量で承認を受けました。
特許権者は、「この新しい承認を得るために時間がかかり、その間、癌性疼痛・1日1回投与という形態で特許発明を実施できなかった」として、延長登録出願を行いました。
特許庁の判断(従来の運用)
特許庁は拒絶しました。
* 理由: 「前の承認ですでに『疼痛』一般に対する製造販売は許可されていた。今回の『癌性疼痛』も『疼痛』に含まれるから、前の承認によって特許発明の実施は可能だったはずだ(=新たな承認を待つ必要はなかった)。」
つまり、**「成分と効能が実質的にカブっているなら、延長は認めない」**という厳しい運用でした。


2. 最高裁の判断(ここが重要!)
最高裁は特許庁の判断を覆し、特許権者(製薬会社)の主張を認めました。
判決のロジック(実質的同一性の基準)
最高裁は、延長登録を認めるかどうかの判断基準として、以下の新しい枠組みを示しました。
* 禁止されていた行為の特定:
   薬事法(現:薬機法)の承認を受けるまでは、その承認対象となる「特定の効能・効果」や「用法・用量」で医薬品を製造販売することは禁止されている。
* 比較の対象:
   「先行処分(前の承認)」と「後行処分(今回の承認)」を比較する。
* 実質的同一性のテスト:
   先行処分によって製造販売が可能となっていた範囲と、今回の処分対象が**「実質的に同一」であれば延長は認められない**。
   しかし、「実質的に同一でない」ならば、延長を認めるべきである。
具体的なあてはめ
* 先行処分は「1日2回投与」などが前提で、「1日1回投与」という用法は含まれていなかった。
* 今回の承認(後行処分)は「1日1回投与」を認めるものである。
* 薬事法上、別個の審査・承認が必要であり、先行処分があったからといって、今回の「1日1回投与」を自由に実施できたわけではない。
結論:
先行処分と後行処分は実質的に同一ではない。したがって、今回の承認を待っていた期間について、特許期間の延長を認めるべきである。
3. この判決の影響と意義
この判決は、実務に以下の大きな変化をもたらしました。
① ライフサイクルマネジメントの強化
製薬企業にとって、既存薬に「新しい効能」や「新しい飲み方(用法)」を追加開発するインセンティブが増しました。後から追加した適応症についても、特許期間を延長できる可能性が高まったからです。
② 審査基準の変更
これ以降、特許庁の審査基準が改訂され、**「承認事項(効能・効果、用法・用量)が少しでも異なれば、基本的には延長を認める」**という方向へシフトしました。
| 項目 | 以前の運用(特許庁) | 判決後の運用(最高裁基準) |
|—|—|—|
| 判断基準 | 「発明の実施」全体として見る。
一部でも実施できていれば延長不可。 | **「処分(承認)の内容」を見る。
その承認固有の範囲が禁止されていたなら延長可。 |
| 結果 | 追加効能・用法での延長は困難** | 追加効能・用法での延長が容易に |
勉強ノートのまとめ(暗記ポイント)
この判決を一言で覚えるなら:
> 「パシーフカプセル事件は、先行処分があっても『用法・用量』や『効能・効果』が異なれば、実質的同一ではないとして延長を認めた判決」
>
キーワード
* 実質的同一性(先行処分と後行処分の比較)
* 禁止されていた行為の解除
* 用途特許・製剤特許の保護強化

特038の3 分かりやすく解説

(先の特許出願を参照すべき旨を主張する方法による特許出願)
第三十八条の三 特許を受けようとする者は、外国語書面出願をする場合を除き、第三十六条第二項の規定にかかわらず、願書に明細書及び必要な図面を添付することなく、その者がした特許出願(外国においてしたものを含む。以下この条において「先の特許出願」という。)を参照すべき旨を主張する方法により、特許出願をすることができる。ただし、その特許出願が前条第一項第一号又は第二号に該当する場合は、この限りでない。


2 前項に規定する方法により特許出願をしようとする者は、その旨及び先の特許出願に関し経済産業省令で定める事項を記載した書面を当該特許出願と同時に特許庁長官に提出しなければならない。


3 第一項に規定する方法により特許出願をした者は、経済産業省令で定める期間内に、当該特許出願に係る願書に添付して提出すべき明細書及び必要な図面並びに同項に規定する方法における主張に係る先の特許出願に関し経済産業省令で定める書類を提出しなければならない。


4 前項の規定により提出された明細書及び図面に記載した事項が、第一項に規定する方法における主張に係る先の特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(当該先の特許出願が、外国語書面出願である場合にあつては外国語書面、外国においてしたものである場合にあつてはその出願に際し提出した書類であつて明細書、特許請求の範囲又は図面に相当するもの)に記載した事項の範囲内にない場合は、その特許出願は、前条第一項の規定にかかわらず、前項の規定により明細書及び図面を提出した時にしたものとみなす。


5 第三項の規定により提出された明細書及び図面は、願書に添付して提出したものとみなす。


6 前各項の規定は、第四十四条第一項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、第四十六条第一項又は第二項の規定による出願の変更に係る特許出願及び第四十六条の二第一項の規定による実用新案登録に基づく特許出願については、適用しない。   

特許法第38条の3(参照出願)ですね。
これはPLT(特許法条約)との調和で導入された規定で、「手元に明細書がないけれど、とにかく今日を出願日にしたい!」という緊急事態を救済するための制度です。
条文の解説、短答試験のツボ、そして「なぜ出願日が繰り下がらないのか(あるいは繰り下がるのか)」のロジックについて整理します。
1. 条文の概要(ざっくり理解)
この条文は通称**「参照出願(引用出願)」**と呼ばれます。
* 原則: 特許出願には「願書・明細書・図面」が必須です。
* 例外(この条文): 明細書と図面を省略して出願できます。その代わり、「内容は、あっちの出願(先の出願)と同じだから、それを参照して!」と宣言します。
* 事後処理: 後から(4ヶ月以内)に、ちゃんと明細書と図面(と先の出願の写し)を提出すればOKです。
2. 条項ごとのポイント解説
第1項:制度の基本
* できること: 明細書・図面を添付せずに、「先の特許出願を参照する」旨を主張して出願できる。
* できない場合(除外):
   * 外国語書面出願をする場合(この制度は使えません)。
   * 願書の必須記載事項(特許を受けようとする旨、氏名等)が欠けている場合(38条の2第1項1号・2号)。
* 先の特許出願とは: 日本の出願だけでなく、外国でした出願もOKです。
第2項:手続的要件(出願時)
* 参照出願をするなら、出願と同時に「参照します」という書面と、先の出願を特定する事項(国、出願日、出願番号など)を記載した書面を出さなければなりません。
第3項:事後提出(4ヶ月以内)
* 経済産業省令で定める期間(通常は出願日から4ヶ月以内)に、以下のものを提出します。
   * 明細書及び図面
   * 先の特許出願の査証付き謄本(日本国特許庁への出願を参照した場合は不要)
第4項:ペナルティ(ここが重要!)
* 後から出した明細書・図面の内容が、「参照した先の出願」の範囲を超えていた場合。
* 効果: 出願日が、「明細書・図面を提出した時」に繰り下がります。
   * 参照先に書いてないことを後出しジャンケンで追加したら、その追加した日が本当の出願日になる、という理屈です。
第5項:みなし規定
* ちゃんと要件を満たせば、後から出した明細書・図面は、**「願書に添付して提出したもの(=最初からあったもの)」**とみなされます。
第6項:適用除外
* 分割出願、変更出願、実用新案登録に基づく特許出願には、この制度は使えません(これらはもともと遡及効があり、手続きが複雑になるため)。
3. 「補完」なのになぜ出願日が繰り下がらないのか?
ここが一番の疑問ポイントですね。通常、明細書なしで出願すると「不適法な出願」となり、明細書を提出した日が出願日になります(第38条の2)。
しかし、この第38条の3を使うと、明細書を後から出しても出願日は繰り下がりません(第4項に該当しない限り)。
そのロジック(法的擬制)
この制度の根底には、**「物理的な紙(データ)はここにはないが、内容は客観的に確定している」**という考え方があります。
* 「客観的確定」: 「米国の出願番号US 12/345,678と同じ内容です」と宣言した瞬間、その内容は世界に一つしか存在せず、改ざんもできません。つまり、特許庁にとって、その発明の内容は**出願にアクセスすれば確認できる状態(ロックされた状態)**にあります。
* 「実体はある」: 物理的な明細書は手元になくても、「内容」は出願時に確定しています。だから、後から紙を出すのは単なる「答え合わせ」や「清書」の提出に過ぎません。
* 結論: 「内容」は出願時に存在していたとみなせるので、出願日を繰り下げる必要がないのです。
逆に、第4項で繰り下がる理由
後から提出した明細書に、**参照先の出願には書いていない「新しい内容(A+α)」**が含まれていた場合。
* この「α」の部分は、出願時(参照時)にはどこにも存在していなかったことになります。
* 「α」については、物理的に明細書を提出した時に初めて特許庁に提示されたものなので、公平性の観点から、全体として出願日を提出日に繰り下げるというペナルティが課されます。
4. 短答試験で狙われるポイント(チェックリスト)
短答試験では、細かい「できる・できない」の引っかけが頻出です。
* [対象] 外国語書面出願で、この「参照出願」の制度を使えるか?
   * 答え:×(条文で明確に除外されています。※ただし、参照する「先の出願」が英語の出願であることはOKです。今回の出願形式を外国語書面出願にできないだけです。)
* [対象] 分割出願や変更出願で使えるか?
   * 答え:×(第6項で除外。急ぐ必要がない、あるいは原出願がすでにあるため。)
* [手続] 参照する旨の書面は、出願後に提出できるか?
   * 答え:×(第2項。「出願と同時に」提出必須。)
* [時期] 明細書・図面の提出期限は?
   * 答え: 経済産業省令で定める期間内(通常は出願日から4ヶ月以内)。
* [効果] 提出した明細書が、参照した出願の範囲内であればどうなるか?
   * 答え: 願書に添付して提出したものとみなされる(出願日は繰り下がらない)。
* [ペナルティ] 参照した出願の範囲を超えていた場合、どうなるか?
   * 答え: 出願日が「明細書・図面の提出時」に繰り下がる(却下されるわけではない点に注意)。
試験対策のまとめ
> 「参照出願」=「内容はあっち(確定済)にあるから、箱(願書)だけ先に出す制度」
>
* 中身が同じなら、箱を出した日が出願日。
* 中身が違ったら(増やしたら)、中身を入れた日が出願日(ペナルティ)。
このようにイメージしておくと、条文の構造がスッキリ理解できるはずです。

願書に明細書及び必要な図面を添付することなく ってことは、特許請求の範囲(クレーム)は、出さなきゃいけないのね?

鋭いご指摘ですね!条文の「明細書及び必要な図面」という書き方を見ると、「あれ?特許請求の範囲(クレーム)は書いてないから、出さなきゃダメなの?」と不安になりますよね。
結論から言うと、
「特許請求の範囲」も、出願時には出さなくてOKです!
願書(「参照します」と書いた紙)ペラ1枚だけで出願できます。
なぜ条文に「特許請求の範囲」と明記されていないのか、そのカラクリと理由を解説します。ここも短答試験で引っかかりやすいポイントです。
1. なぜ「特許請求の範囲」もなくていいのか?(法的根拠)
条文の冒頭にある 「第三十六条第二項の規定にかかわらず」 という言葉が魔法の呪文です。
* 原則(36条2項): 願書には「明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書」を添付しなければならない。
* 例外(38条の3): 36条2項の規定にかかわらず(=つまり36条2項のセットリストは一旦無視して)、参照する旨を主張すれば出願できる。
この「36条2項の除外」によって、特許請求の範囲も要約書も、添付義務がなくなっています。
2. じゃあ、なぜ条文は「明細書及び図面」だけ名指ししたのか?
これには**「出願日の認定(38条の2)」**との関係が深く関わっています。
特許庁が「今日を出願日として認めてあげるよ!」とハンコを押すために最低限必要なのは、権利範囲(クレーム)ではなく、**「どんな技術を発明したのか(技術開示)」**です。
* 通常、技術内容は「明細書・図面」に書かれています。
* この条文は**「技術内容が手元になくても、参照先にそれがあるなら出願日をあげるよ」**という制度です。
* だから、出願日の認定に不可欠な「明細書及び図面」をあえて名指しして、「これを添付しなくても(参照すれば)特別に出願日をあげるよ」と言っているのです。
※「特許請求の範囲」は権利の範囲を決めるもので重要ですが、「その日にその発明が存在したか」を証明する資料としては、明細書の方が主役なのです。
3. 「特許請求の範囲」はいつ出すの?
第3項を見てみましょう。
> 「明細書及び必要な図面並びに…経済産業省令で定める書類を提出しなければならない。」
>
この「経済産業省令で定める書類」の中に、**「特許請求の範囲」**と「要約書」が含まれています。
つまり、後から(4ヶ月以内に)明細書や図面とセットで提出すればOKです。
まとめ
* Q: 参照出願の時、特許請求の範囲(クレーム)は出願時に必要?
* A: 不要です。 願書だけでOK。
* 理由: 36条2項(添付書類の義務)が免除されているから。
* 注意点: 条文上「明細書及び図面」としか書いていないのは、それが「出願日の認定(技術の開示)」に一番重要なパーツだから強調されているだけです。
「条文に書いてないから必要かも?」という読み方は法律学習でとても大切ですが、ここでは「36条2項の除外」が全てをカバーしている、と覚えておいてください!
次は、この参照出願とセットで覚えるべき**「一部欠落(38条の4)」との違い**を確認しておきませんか?
あちらは「うっかり出し忘れた」場合の救済なので、要件が微妙に違います。

一部欠落(38条の4)との違いを確認

ありがとうございます!ここを整理できれば、条約(PLT)関連の出願日認定の問題は怖くありません。
「38条の3(参照出願)」と「38条の4(一部欠落)」は、どちらも**「出願書類が足りない!」という緊急事態に対する規定ですが、「意図的か、うっかりか」そして「原則の動き」**が全く違います。
比較表とポイントで整理しましょう。
1. ざっくりイメージの違い
| 項目 | 38条の3 【参照出願】 | 38条の4 【一部欠落】 |
|—|—|—|
| イメージ | 「手ぶら出願」(確信犯) | 「うっかり忘れ」(アクシデント) |
| 状況 | 「明細書を書く時間がない!でもあっちの出願と同じだから、とりあえず箱(願書)だけ出して日を確保だ!」 | 「あちゃー!明細書の5ページ目だけコピーし忘れた!」「図面入れ忘れた!」 |
| 手元にあるもの | 願書のみ(明細書・図面はゼロ) | 願書 + 不完全な明細書・図面 |
| 出願日の原則 | 繰り下がらない(要件満たせば) | 繰り下がる(提出した日になる) |
2. 詳細比較表(試験対策用)
ここが試験の狙い目です。特に「出願日の移動」に関する原則と例外が逆になっている点に注目してください。
| 比較項目 | 38条の3(参照出願) | 38条の4(一部欠落) |
|—|—|—|
| 対象 | **明細書及び図面の「全部」**がない | 明細書の「一部」
または 図面の「全部か一部」がない |
| 事前の宣言 | 必要
(出願時に「参照します」と言う) | 不要
(後で特許庁から指摘されるか、自分で気づく) |
| 補充の期限 | 経済産業省令期間内
(4月以内等) | 通知から指定期間内
(または自発的に) |
| 出願日の原則 | 繰り下がらない
(参照先に書いてあればOK) | 繰り下がる
(補充書を出した日が新しい出願日) |
| 出願日の例外 | 繰り下がる
(参照先にないことを書いた場合) | 繰り下がらない
(優先権主張を伴い、優先権書類にその内容が含まれている場合) |
| 根拠資料 | 「先の出願」(参照先) | **「優先権証明書」**など
(優先権主張がある場合のみ救済可) |
3. ここが決定的な違い!(短答のツボ)
① スタート地点の違い
* 38条の3(参照): 最初から「中身は後で出す!」と宣言して使う制度です。いわば正規の裏技です。
* 38条の4(欠落): 基本はミスの救済です。「しまった!」という時に発動します。
② 出願日の動き(ここが最重要)
* 38条の3(参照):
   * 成功すれば、最初の日が出願日です。
   * 失敗(余計なことを書いた)時だけ、繰り下がります(ペナルティ)。
* 38条の4(欠落):
   * 基本は、補充した日が出願日になってしまいます(繰り下がるのが原則)。
   * ただし、「優先権主張」をしていて、「その忘れ物は優先権書類にちゃんと書いてあるよ!」と証明できた時だけ、**最初の日をキープ(例外的に遡及)**できます。
4. 応用問題:もし「図面」を入れ忘れたら?
ここで混乱しやすいケースをシミュレーションします。
> ケース: 出願人が、願書と明細書は作ったが、「図面」を添付し忘れて出願してしまった。
>
Q. これはどっちの条文になる?
* A. 38条の4(一部欠落の補完)です。
   * なぜなら、明細書(の一部)は添付されているからです。「参照出願」は明細書も図面も一切添付しない場合に使う制度です。
   * この場合、慌てて図面を提出すると、原則として「図面を提出した日」に出願日が繰り下がってしまいます。
   * (※もし優先権主張をしていて、優先権書類にその図面があれば、所定の手続きで出願日を守れます)
まとめ
* 参照出願 (38-3) = 「手ぶらでGo」。中身があっちにあれば、日は変わらない。
* 一部欠落 (38-4) = 「忘れ物補完」。届けた日が受理日になるのが原則(遅れる)。優先権があれば助かるかも。
この2つは「出願日がどうなるか(原則維持か、原則移動か)」が逆なので、そこを意識すると点数に繋がりますよ。
そろそろ、これらの手続きをした後の**「審査請求」のタイミングや、「国内優先権」**との絡みなどが気になりませんか?(実は参照出願をした場合、出願公開や審査請求の時期に注意が必要です)

参照出願をした場合、出願公開や審査請求の時期に注意が必要ですって、一体どんな注意?

参照出願(38条の3)は「とりあえず箱だけ出す」という裏技なので、中身(明細書・図面)が入るまでは、特許庁も動きようがないというのが最大の注意点です。
具体的には、**「審査請求のタイミング」と「出願公開の条件」**の2点で、通常の出願とは異なるルール(制限)がかかります。
短答試験でも、実務でも致命傷になりかねないポイントですので、詳しく解説します。
1. 出願審査請求の制限(これが一番の罠!)
通常の出願なら、出願と同時(0秒後)に「審査請求」をして、「早く審査してくれ!」と言うことができます。
しかし、参照出願ではそれができません。
* ルール(特許法48条の3第2項):
   > 明細書及び図面の提出がなければ、出願審査請求をすることができない。
   >
* 注意点:
   * 「参照出願」をした日には、審査請求書を提出できません。
   * もし出願と同時に審査請求書を出しても、**不適法な手続として却下(または返戻)**されます。
   * いつできる?: 後から明細書・図面を提出した後(または同時)ならOKです。
* なぜ?:
   審査官にとって、審査対象(明細書)が手元にないのに「審査しろ」と言われても、「何を見るの?」となってしまうからです。
2. 出願公開のタイミング(空っぽのままでは公開されない)
通常、出願日から1年6ヶ月経つと、強制的に内容が世の中に公開されます(出願公開)。
しかし、参照出願で明細書の提出が遅れている場合、公開もストップします。
* ルール(特許法64条2項ただし書):
   > 明細書及び図面の提出がないときは、出願公開をしない。
   >
* 注意点:
   * 特許庁は「中身のない空っぽの願書」を公報に載せることはしません。
   * 明細書・図面が提出されるまで、出願公開は保留されます。
* 補足(翻訳文):
   もし、参照した先の出願が外国語だった場合、後から提出する明細書(翻訳文のようなもの)が出揃うまで公開されません。
3. 最大のリスク:提出期限(4ヶ月)を過ぎたら「却下」
これが最も恐ろしい点です。「時期の注意」以前の問題として、そもそも出願が消滅するリスクです。
* ルール:
   経済産業省令で定める期間内(通常4ヶ月)に、明細書・図面(および参照先が外国ならその謄本など)を提出しないと、出願そのものが却下されます。
   * 「みなし取下」ではなく、行政処分としての**「却下」**になります。
* 実務上の恐怖:
   通常の出願なら、一度出せばとりあえず安心ですが、参照出願は**「4ヶ月以内に必ず追完処理をする」**というタスクが残ります。これを忘れると、確保したはずの出願日ごと全てが消滅します。
まとめ:参照出願のタイムラインと注意点
| アクション | 通常の出願 | 参照出願 | 理由 |
|—|—|—|—|
| 審査請求 | 出願と同時に可能 | 明細書提出後まで不可 | 審査対象がないから |
| 出願公開 | 1年6ヶ月で自動公開 | 明細書提出後まで保留 | 公開する中身がないから |
| 補正 | 出願直後から可能 | 明細書提出後まで不可 | 補正する土台がないから |
| 手続 | 出して終わり | 4ヶ月以内に追完必須 | やらないと却下(死) |
短答試験での問われ方
> 「特許出願(参照出願)と同時に出願審査の請求をすることができる。」
>
* 答え:×
* (解説:明細書及び図面の提出後でなければ、審査請求はできない。)
このように、**「中身が入るまでは、審査も公開も補正もストップする」**とイメージしておけば、どの条文が来ても正解できます!

参照出願(38条の3)は「とりあえず箱だけ出す」という裏技なので、中身(明細書・図面)が入るまでは、特許庁も動きようがないというのが最大の注意点です。
具体的には、**「審査請求のタイミング」と「出願公開の条件」**の2点で、通常の出願とは異なるルール(制限)がかかります。
短答試験でも、実務でも致命傷になりかねないポイントですので、詳しく解説します。
1. 出願審査請求の制限(これが一番の罠!)
通常の出願なら、出願と同時(0秒後)に「審査請求」をして、「早く審査してくれ!」と言うことができます。
しかし、参照出願ではそれができません。
* ルール(特許法48条の3第2項):
   > 明細書及び図面の提出がなければ、出願審査請求をすることができない。
   >
* 注意点:
   * 「参照出願」をした日には、審査請求書を提出できません。
   * もし出願と同時に審査請求書を出しても、**不適法な手続として却下(または返戻)**されます。
   * いつできる?: 後から明細書・図面を提出した後(または同時)ならOKです。
* なぜ?:
   審査官にとって、審査対象(明細書)が手元にないのに「審査しろ」と言われても、「何を見るの?」となってしまうからです。
2. 出願公開のタイミング(空っぽのままでは公開されない)
通常、出願日から1年6ヶ月経つと、強制的に内容が世の中に公開されます(出願公開)。
しかし、参照出願で明細書の提出が遅れている場合、公開もストップします。
* ルール(特許法64条2項ただし書):
   > 明細書及び図面の提出がないときは、出願公開をしない。
   >
* 注意点:
   * 特許庁は「中身のない空っぽの願書」を公報に載せることはしません。
   * 明細書・図面が提出されるまで、出願公開は保留されます。
* 補足(翻訳文):
   もし、参照した先の出願が外国語だった場合、後から提出する明細書(翻訳文のようなもの)が出揃うまで公開されません。
3. 最大のリスク:提出期限(4ヶ月)を過ぎたら「却下」
これが最も恐ろしい点です。「時期の注意」以前の問題として、そもそも出願が消滅するリスクです。
* ルール:
   経済産業省令で定める期間内(通常4ヶ月)に、明細書・図面(および参照先が外国ならその謄本など)を提出しないと、出願そのものが却下されます。
   * 「みなし取下」ではなく、行政処分としての**「却下」**になります。
* 実務上の恐怖:
   通常の出願なら、一度出せばとりあえず安心ですが、参照出願は**「4ヶ月以内に必ず追完処理をする」**というタスクが残ります。これを忘れると、確保したはずの出願日ごと全てが消滅します。
まとめ:参照出願のタイムラインと注意点
| アクション | 通常の出願 | 参照出願 | 理由 |
|—|—|—|—|
| 審査請求 | 出願と同時に可能 | 明細書提出後まで不可 | 審査対象がないから |
| 出願公開 | 1年6ヶ月で自動公開 | 明細書提出後まで保留 | 公開する中身がないから |
| 補正 | 出願直後から可能 | 明細書提出後まで不可 | 補正する土台がないから |
| 手続 | 出して終わり | 4ヶ月以内に追完必須 | やらないと却下(死) |
短答試験での問われ方
> 「特許出願(参照出願)と同時に出願審査の請求をすることができる。」
>
* 答え:×
* (解説:明細書及び図面の提出後でなければ、審査請求はできない。)
このように、**「中身が入るまでは、審査も公開も補正もストップする」**とイメージしておけば、どの条文が来ても正解できます!

38条の3の使い方として、外国で出願したものを参照するのはわかるけど、国内でさきに出願したものという場合は、どういう時?

これは非常に実務的でいい質問ですね!
「外国の出願を参照する」のは、翻訳が間に合わない時の緊急避難としてイメージしやすいですが、**「日本の出願を日本の出願で参照する」**なんて、一見すると二度手間に思えますよね。
しかし、これも**「国内優先権」**という制度と組み合わせることで、戦略的、あるいは緊急的なメリットが生まれるケースがあります。
具体的に「どういう時に使うか」を3つのシナリオで解説します。
1. 【緊急】優先権期間(1年)ギリギリの駆け込み出願
これが最も考えられるケースです。
* 状況:
   * 1年前に日本で出願Aをした。
   * 今日がちょうど1年後(優先権主張の期限日)。
   * この出願Aに基づいた「国内優先権」を主張して、改良発明を含む新しい出願Bをしたい。
   * しかし、手元にデータがない!(出先でPCがない、ファイルが壊れた、サーバーエラーで重いデータが送れない etc.)
* 使い方:
   * スマホやタブレットから、特許庁の電子出願ソフト(または書面)で、「願書(出願Aを参照する)」だけを送信します。
   * これで、少なくとも「出願Aと同じ内容」については、今日の出願日(優先権期限内)を確保できます。
* その後:
   * 後日、落ち着いてから明細書(出願Aと同じもの)を提出し、その後に**「手続補正書」で改良部分(新ネタ)を追加**します。
   * ※注意:最初から新ネタを入れた明細書を提出すると、第4項の規定で出願日が繰り下がってしまい、期限切れになるリスクがあるため、「同じものを提出→補正で追加」という手順を踏むのが安全です。
2. 【戦略】特許権の存続期間を延ばす(事実上の延長)
これは少し高度なテクニックですが、知っておくと面白いです。
* ルール: 特許権の寿命(存続期間)は、**「出願日から20年」**です。
* 状況:
   * 出願Aをしたけれど、まだ審査請求していない。
   * 「この発明は長く権利を維持したいから、寿命のカウントダウン開始を遅らせたい」と考えた。
* 使い方:
   * 1年以内に、出願Aを参照して、国内優先権を主張した出願Bを行う。
   * 出願Aは、国内優先権の効果で1年3ヶ月後に取り下げ擬制(消滅)されます。
   * 生き残るのは出願Bです。
* 効果:
   * 内容は同じでも、出願Bの出願日から20年カウントされるので、結果的に出願Aのままにしておくより、権利期間が約1年後ろに伸びます。
   * この時、わざわざ明細書データを準備し直さなくても、38条の3で「Aを参照」とすれば、一瞬で手続きが完了します。
3. 【事務】誤記訂正や形式不備の修正(リセット)
あまり褒められた話ではありませんが、ミスをした時のリカバーです。
* 状況:
   * 今日、出願Aをした直後に、致命的な形式ミスや、図面の順序間違い、あるいは共同出願人の名前漏れに気づいた。
   * 「補正」で直すのも面倒だし、補正できない項目(出願人の変更など)もあるかもしれない。
* 使い方:
   * 即座に、さっきしたばかりの「出願A」を参照して、正しい書誌事項(願書)で「出願B」を行う。
   * その後、出願Aは取り下げる。
* メリット:
   * 明細書のデータを再度アップロードする手間や通信時間を省けます(特に図面が多くて容量が巨大な場合、参照出願なら一瞬で終わります)。
試験対策上の注意点(ここ大事!)
「日本の出願を参照する場合」には、外国出願を参照する場合と違って、提出書類が少し楽になります。
* 外国出願を参照した場合:
   * 事後提出時に、**「先の出願の認証謄本(コピー)」**が必要です。
* 日本出願を参照した場合:
   * 謄本の提出は不要です。(特許庁の中にデータがあるから、自分で自分とこのデータを見てね、ということです)。
まとめ
国内出願を参照するのは、主に以下の時です。
> 「データ送信の手間すら惜しいほど切羽詰まっている時」
> または
> 「国内優先権を使って、戦略的に出願日をずらしたい時(の手抜き)」
>
基本的には**「優先権」**とセットで使われるテクニックだと覚えておけば、実務的な理解としてはバッチリです!
次は、この流れで**「国内優先権(41条)」の重要ポイント(要件や効果)について深掘りしますか?それとも「外国語書面出願」**に戻りますか?

それは、ずるくない?許される?

その感覚、すごくまっとうです!
一見すると**「寿命を1年延ばすなんて、後出しジャンケンでズルい!」**と感じますよね。
でも、結論から言うと、これは**「完全に合法」であり、むしろ「特許法が推奨している使いこなし術」**なんです。
なぜこれが「ズル」ではなく「正当な権利」なのか、その法的・政策的な理由を解説します。(ここを知ると、特許法がもっと面白くなります!)
1. なぜ「寿命延ばし」が許されるのか?(国内優先権の趣旨)
この「1年リセット」ができるのは、38条の3(参照出願)の力ではなく、41条(国内優先権)の力です。
法律がこれを認めている理由は、主に2つあります。
① 国際的な不平等をなくすため(パリ条約との均等)
これが最大の理由です。
* 外国へ出す場合: 日本で出願Aをして、1年後にアメリカで出願B(Aに基づく優先権主張)をしたとします。アメリカでの特許期間は「アメリカでの出願日(B)」から20年です。つまり、国際ルール(パリ条約)を使うと、結果的に世界での権利期間がずれていくのが普通なのです。
* 日本国内の場合: もし日本国内だけでこれを認めないと、「外国に出す人は1年延びて得なのに、日本国内で頑張る人は損をする」ことになります。
   → だから、**「国内の人にも、国際ルールと同じメリット(1年の猶予と期間のシフト)を与えよう」**として作られたのが国内優先権制度です。
② 発明を「まとめて」守りやすくするため
* 技術は日々進歩します。1月に発明Aをして、8月に改良発明A+αを思いつくことはよくあります。
* 特許庁としては、バラバラに出願されるより、**「1年分をまとめて1つの完璧な明細書にして出してほしい」**のです(審査が一回で済むから)。
* そのご褒美として、**「まとめた新しい出願の日から20年あげるよ(古い出願は取り下げたことにしてあげるよ)」**というインセンティブを与えているわけです。
2. 「ズル」にならないための「代償」もある
実は、出願人にとっても「いいこと」ばかりではありません。それなりのコストとリスクを払っています。
* お金がかかる: 新しく出願し直すので、印紙代(出願手数料)がもう一度かかります。弁理士費用もかかります。
* 公開が早まるリスク: 原則として、最初の出願Aの日から1年6ヶ月で公開されます。期間が延びても、秘密を守れる期間が延びるわけではありません。
* 第三者の監視: 1年の間に、他社が似たような技術を出しているかもしれません(優先権があるので審査では勝てますが、競合状況は変わります)。
3. 「形式ミスのリセット」は許される?
「失敗したから、今のなし!もう一回!」というリセットについても、特許法は許容しています。
* 特許庁にとっても、形式不備だらけのダメな書類をちまちま補正(修正)されるより、「キレイな完全版」を出し直してもらった方が、事務処理がスムーズで助かるからです。
* ただし、これも「同日中」や「極めて短期間」にやらないと、その隙間に他社の出願が入ったり、自分が公開してしまったりして、特許が取れなくなるリスクがあります。自己責任の範囲内での「やり直し」です。
結論
> 「特許法は、1年以内なら『より良い完全版』に書き換えることを推奨している」
>
だから、38条の3(参照出願)を使って手軽に出願日を確保しつつ、国内優先権(41条)で期間等のメリットを享受するのは、**「制度を熟知した賢い戦略」**として実務でも行われています。
試験でも、「国内優先権を主張した出願の特許権の存続期間は、先の出願の日から起算する」という引っかけ問題が出ますが、答えは**×**(後の出願の日から起算)です。ここ、「ズルい気がする」という感覚を持っていると、逆に間違えません!

でも、補正では、新規追加禁止だよね

その通りです!「補正(手続補正)では、新規事項の追加は厳禁」(特許法第17条の2第3項)。
これは特許法の鉄則中の鉄則です。
ここで、頭がこんがらがらないように、「補正」と「国内優先権」(そして**「参照出願の事後提出」**)の違いを明確に区別しましょう。
「混ぜるな危険」の3つのパターンで整理します。
1. 【通常の出願】の「補正」
* ルール: 出願当初の明細書等に書いていないことを追加するのは禁止。
* 理由: 「やっぱりあれも発明してた!」と後から言えてしまうと、その間に同じ発明をした他社が不利益を被るからです(先願主義の崩壊)。
* もし追加したら?: 拒絶理由になります(拒絶理由通知が来て、その追加部分を削除しないと特許になりません)。
2. 【国内優先権】を使った出願(さっきの「ズルい」話)
* ここが違う: これは「補正(修正)」ではなく、**「新しい出願(別物)を出し直す」**行為です。
* ルール: 新しい出願(出願B)なので、新しい内容(改良発明)を自由に追加してOKです。
* ただし判定が分かれる:
   * 昔の内容(出願Aと同じ部分): 出願Aの日(昔)に判断してもらえる。
   * 新しい内容(追加した部分): 出願Bの日(今)で判断される。
* 結論: 「新規追加禁止」のルールは適用されません。なぜなら「新しい出願」だからです。その代わり、新しい部分の基準日は「今日」になります。
3. 【参照出願】の明細書提出
これが今回の38条の3の話です。
* 状況: 箱(願書)だけ先に出して、後から中身(明細書)を提出する。
* 疑問: 後から出すのに、新規追加にならないの?
* 答え:
   * 参照先(先の出願)の範囲内なら: セーフ。「最初からあった」とみなされます。
   * 参照先の範囲を超えたら(新規追加したら):
     * 拒絶はされませんが、**「出願日が繰り下がる」**というペナルティを受けます。
     * つまり、「今日追加したんだから、今日が出願日ね」と扱われます。
比較まとめ
| アクション | やってること | 新しい内容を追加したら? | 結果 |
|—|—|—|—|
| 補正 | 今ある出願の修正 | × ダメ | 拒絶理由になる(削除を求められる) |
| 国内優先権 | 新しい出願の提出 | ○ OK | 追加部分は「今日」の基準で審査される |
| 参照出願 | 予約した中身の提出 | △ ペナルティ | 全体の出願日が「今日」になっちゃう |
ユーザーさんの疑問への回答
「補正では新規追加禁止だよね?」
→ その通りです!
だからこそ、
* ミスを直したいだけなら「補正」で済ませますが、新しいアイデアを追加したい時は、補正では無理なので**「国内優先権」を使って出し直す**のです。
* 参照出願をした後に「あ、書き忘れてた!」と気づいた場合、後からこっそり明細書に書き足すと、出願日が繰り下がって(遅くなって)しまうので、結局は不利になります。
この「使い分け」が実務でも試験でも非常に重要です。
* 修正したい → 補正(範囲内のみ)
* 追加したい → 国内優先権(出し直し)
* 手元にない → 参照出願(後で持ってくる)
と覚えておくと完璧です!
次は、この**「国内優先権」**について、もう少し詳しく(特に「先の出願」がどうなっちゃうのか等)見ていきますか?

参照出願は国内優先権より、自由度高いということ?

結論から言うと、真逆です!
「国内優先権」の方が、圧倒的に自由度(中身をいじる自由)が高いです。
「参照出願」は、むしろガチガチに不自由です。「一字一句、あっちの出願と同じだと言ったな? 嘘だったら承知しないぞ(出願日を繰り下げるぞ)」という、手錠をかけられた状態だと思ってください。
この「自由度の違い」を、短答試験や実務の視点でスッキリ整理しましょう。
1. なぜ「参照出願」は不自由なのか?
参照出願(38条の3)の本質は、**「コピー&ペーストの省略」**に過ぎないからです。
* ルール: 「内容はあっち(先の出願)にある」と宣言した以上、後から出す明細書は**「あっちの出願」の範囲内でなければなりません**。
* もし新しいことを書いたら?:
   * それは「参照先」には書いてなかったことになります。
   * つまり、**「その新しいことが書かれた日(今日)」**まで、出願日全体がズルズルと繰り下げられてしまいます(第4項のペナルティ)。
* 結論: 出願日を確保したいなら、**「新しいことは一切書けない」**のです。
2. なぜ「国内優先権」は自由度が高いのか?
国内優先権(41条)の本質は、**「バージョンアップ(合成)」**だからです。
* ルール: 「昔の出願A」を基礎にして、「新しい出願B」を出します。
* 新しいことを書いていい?: ガンガン書いてOKです!
   * 昔の内容(A部分): 昔の日(Aの出願日)で審査してくれる。
   * 新しい内容(+α部分): 今の日(Bの出願日)で審査してくれる。
* 結論: 出願日(判断基準日)を部分ごとに使い分けることができるので、**「改良発明を追加する自由」**が完全に保障されています。
3. 決定的な違いの比較表
| 比較項目 | 参照出願 (38条の3) | 国内優先権 (41条) |
|—|—|—|
| イメージ | 「原本の確認」 | 「新作の発表」 |
| 中身の変更 | 不可(原則) | 可(大歓迎) |
| 新規事項の追加 | 追加すると出願日が遅れる(損する) | 追加しても問題なし(そこだけ今日の日付) |
| 使う場面 | 「データがない!」「送るのが面倒!」という緊急・手抜き時 | 「改良した!」「内容を完璧にしたい!」という攻めの時 |
| 自由度 | 低い(過去に縛られる) | 高い(未来を作れる) |
4. よくある勘違い(ここが混乱の元!)
「参照出願の方が、明細書を出さなくていいから楽(自由)なんじゃないの?」と思うかもしれません。
* 手続の自由度(楽さ): 参照出願 > 国内優先権
   * 確かに、紙を出さなくていいので手続は楽です。
* 内容の自由度(アレンジ): 参照出願 < 国内優先権
   * 中身については、一歩もはみ出せないという制約があります。
5. 最強の使い方は「合体技」
実は、この2つは対立するものではなく、組み合わせて使うことができます。
> シーン:
> 「1年前の出願Aに基づいて、国内優先権を主張して出願Bをしたい。でも、出願Bの明細書を作る時間がなくて、とりあえず出願Aと全く同じ内容でいいから、今日出願日を確保したい!」
>
* 国内優先権を主張する(41条)。
* 同時に、参照出願を利用して、「中身は出願Aを見て!」と言う(38条の3)。
こうすれば、「手続きは手抜き(参照出願)」しつつ、「法的地位は確保(国内優先権)」でき、後から「補正」で微調整(ただし新規事項はNG)したり、あるいはその出願Bをさらに基礎にして別の出願Cへ繋げたり…といった戦略が組めます。
まとめ
* 参照出願 = 「内容は過去と同じです(変更不可)」
* 国内優先権 = 「内容は過去+未来です(変更・追加OK)」
「自由度が高いのはどっち?」と聞かれたら、迷わず**「国内優先権!」と答えてください。
参照出願は、あくまで「緊急時のバックアップ」や「事務軽減ツール」**に過ぎません。

明細書の範囲内ならクレームは変えていい?

はい!変えて大丈夫です!
むしろ、そこが弁理士の腕の見せ所でもあります。
参照出願(38条の3)において、
「明細書と図面」は参照先と同じでなければなりませんが、
「特許請求の範囲(クレーム)」は、参照先のクレームと違っていてもOKです。
なぜそうなるのか、**「技術の開示」と「権利の要求」**の違いから解説します。
1. 許される理由(ロジック)
特許法において、この2つは役割が違います。
* 明細書・図面 = 「技術の開示」(ネタ帳)
   * この日に、この技術が存在したことを証明するもの。
   * だから、ここを変える(増やす)と、「その日になかった技術」になるので、出願日が繰り下がります(ペナルティ)。
* 特許請求の範囲 = 「権利の要求」(取り分)
   * 「ネタ帳(明細書)」に書いてあることの中から、「今回はここを権利にしたい!」と選ぶもの。
   * ネタ帳に書いてある範囲内であれば、どの部分をどう切り取って権利請求しようが自由です。
2. 具体例でイメージ
アメリカでした出願(US出願)を参照して、日本に出願(JP出願)する場合を考えてみましょう。
* 【US出願(参照先)】
   * 明細書: 「カメラ付きドローン」と「その制御プログラム」について詳しく書いてある。
   * クレーム: 「ドローンの機体構造」だけを権利請求している。
* 【JP出願(参照出願)】
   * 参照: US出願を参照する。
   * 事後提出する明細書: US明細書(の翻訳)をそのまま出す。(一致させる必要あり)
   * 事後提出するクレーム: 「制御プログラム」を権利請求する。(USクレームと違っていてもOK!)
判定:
明細書(ネタ帳)の中に「制御プログラム」の話がちゃんと書いてあるなら、USでクレームしていなくても、日本では最初からプログラムをクレームしてOKです。出願日も繰り下がりません。
3. 実務での注意点(ここだけ気をつけて!)
「変えていい」と言っても、**「明細書に書いてないこと」**をクレームにしてはいけません。
* ○ OKパターン:
   参照先の明細書の「実施例3」に書いてあるけど、向こうではクレームにしていない技術を、日本ではメインのクレームにする。
* × NGパターン:
   参照先の明細書に一言も書いていない新技術を、日本のクレームに入れる。
   → これをやると、「サポート要件違反(36条6項1号)」になるか、それを直そうとして明細書に追記すると「新規事項追加(出願日繰り下がり)」になります。
まとめ
* 明細書(技術内容): 参照先と同じでなければならない(厳守)。
* クレーム(権利範囲): 明細書の範囲内なら、参照先と違っていても自由。
つまり、参照出願は**「ネタ(明細書)は過去のものを使い回すが、料理の仕方(クレーム)はその国に合わせて変えられる」**という制度です。
これで「参照出願」の仕組みはほぼコンプリートですね!
ここまで理解できれば、あとは**「パリ条約の優先権(43条)」と「国内優先権(41条)」**の細かい手続きの違いなどが、短答試験のラストピースになります。そちらの比較整理に進みましょうか?

頼む。

よし、任せてください!
「パリ条約による優先権(43条)」と「国内優先権(41条)」。
この2つは「兄弟」のような制度ですが、性格が決定的に違う部分があります。
試験では**「どっちの制度の話をしているか?」**を瞬時に見抜かないと、反対の答えを選んでしまう危険地帯です。
「似ているところ」ではなく、**「決定的に違う4つのポイント」**に絞って比較整理します。
1. 全体像の比較(ざっくり把握)
| 比較項目 | パリ条約の優先権 (43条) | 国内優先権 (41条) |
|—|—|—|
| 通称 | パリ優先(パリ優) | 国内優先(国優) |
| 基礎となる出願 | 外国での出願 | 日本での出願 |
| 目的 | 国際的な不利益の解消
(外国へ行く時のタイムラグ救済) | 国内での改良・まとめ
(累積的保護の排除) |
| 先の出願の運命 | 生き残る
(外国の出願は消えない) | 死ぬ
(1年3ヶ月後にみなし取下) |
| 優先権証明書 | 提出が必要
(1年4ヶ月以内) | 原則不要
(特許庁にあるから) |
2. 試験で狙われる「4つの決定的違い」
ここが合否を分けるポイントです。
① 先の出願(親)が「死ぬ」か「生きる」か
これが最大の違いです。
* パリ優先:
   * 基礎とした外国出願(親)は、日本の出願(子)をしたからといって、勝手に消滅したりしません。両方並存します。
* 国内優先:
   * 基礎とした日本出願(親)は、後の出願(子)をした日から1年3ヶ月経過した時に、**「取り下げたものとみなされる(みなし取下)」**という運命を辿ります。
   * 理由: 日本国内に「内容が重複した出願」が2つ残ると、審査が面倒だし、「二重特許(39条)」の問題が起きるからです。「新しい完全版(子)」に一本化するため、古い方は消します。
② 出願人の要件(誰が出せる?)
「出願時に誰の名義である必要があるか」が微妙に違います。
* パリ優先:
   * 先の出願の出願人(またはその承継人)。
   * ※条約上の権利なので、比較的柔軟です。
* 国内優先:
   * 後の出願をする時に、**「先の出願の出願人と同一」**でなければなりません。
   * ※もし共同出願なら、**「全員が一致」**していないとダメです。(ここよく出ます!)
③ 対象となる法域(何に基づくか)
* パリ優先:
   * 特許、実用新案、意匠、商標すべてに使えます。(パリ条約4条)
* 国内優先:
   * 特許と実用新案のみです。
   * ※「意匠登録出願」や「商標登録出願」に基づく国内優先権という制度はありません。(意匠には「秘密意匠」などの別制度があり、商標にはそもそも優先権の概念が馴染まないため)。
④ 証明書類(紙の提出)
* パリ優先:
   * 外国政府が発行した「優先権証明書」を、出願日から1年4ヶ月以内に提出しなければなりません(提出しないと効力喪失)。
* 国内優先:
   * 提出不要です。
   * 「データはあんた(特許庁)のサーバーにあるでしょ?」ということで省略できます。
3. 国内優先権だけの「特殊ルール」(短答の罠)
国内優先権(41条)には、**「累積的排除」**のための厳しいルールがあります。
> 「先の出願(親)が、すでに別の優先権の主張を伴っていた場合、その『さらに前の優先権』の効果は引き継げない」
>
これを**「累積主張の禁止」**と言います。
* 例:
   * 出願Aをする。
   * 1年後、Aを基礎に国内優先権主張して出願Bをする。(Aの内容はBの出願日に判断される。OK)
   * さらに1年後、Bを基礎に国内優先権主張して出願Cをする。
     <!– end list –>
   * Q: 出願Cの中で、「Aの内容と同じ部分」は、いつまで遡れる?
   * A: Bの出願日までしか遡れません! Aの出願日まで遡ることはできないのです。
   * 理由: これを認めると、A→B→C→D…とバトンリレーを繰り返せば、**永遠に特許期間を先延ばしできてしまう(潜水艦特許)**からです。
   * 結論: 国内優先権の効果は、一回使い切りです。
4. まとめ&イメージ図
| 制度 | キーワード | イメージ |
|—|—|—|
| パリ優先 | 「並存」 | 外国の兄(親出願)と日本の弟(本出願)が、離れて暮らしている。 |
| 国内優先 | 「一本化」 | 日本の兄(親出願)が、弟(本出願)に全てを託して消滅する。 |
試験対策の一言:
> 「国内優先権ときたら、**『先の出願のみなし取下(1年3ヶ月)』と『リレー禁止(累積禁止)』**を思い出せ!」
>
これで、優先権の基本比較はバッチリです。
さて、ここまで出願手続きの重要ポイント(参照出願・優先権)を押さえました。


特039 なかったものとする のあとの出願はどうなる?

(先願)
第三十九条 同一の発明について異なつた日に二以上の特許出願があつたときは、最先の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができる。


2 同一の発明について同日に二以上の特許出願があつたときは、特許出願人の協議により定めた一の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができる。協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、いずれも、その発明について特許を受けることができない。


3 特許出願に係る発明と実用新案登録出願に係る考案とが同一である場合において、その特許出願及び実用新案登録出願が異なつた日にされたものであるときは、特許出願人は、実用新案登録出願人より先に出願をした場合にのみその発明について特許を受けることができる。


4 特許出願に係る発明と実用新案登録出願に係る考案とが同一である場合(第四十六条の二第一項の規定による実用新案登録に基づく特許出願(第四十四条第二項(第四十六条第六項において準用する場合を含む。)の規定により当該特許出願の時にしたものとみなされるものを含む。)に係る発明とその実用新案登録に係る考案とが同一である場合を除く。)において、その特許出願及び実用新案登録出願が同日にされたものであるときは、出願人の協議により定めた一の出願人のみが特許又は実用新案登録を受けることができる。協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、特許出願人は、その発明について特許を受けることができない。


5 特許出願若しくは実用新案登録出願が放棄され、取り下げられ、若しくは却下されたとき、又は特許出願について拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したときは、その特許出願又は実用新案登録出願は、第一項から前項までの規定の適用については、初めからなかつたものとみなす。ただし、その特許出願について第二項後段又は前項後段の規定に該当することにより拒絶をすべき旨の査定又は審決が確定したときは、この限りでない。


6 特許庁長官は、第二項又は第四項の場合は、相当の期間を指定して、第二項又は第四項の協議をしてその結果を届け出るべき旨を出願人に命じなければならない。


7 特許庁長官は、前項の規定により指定した期間内に同項の規定による届出がないときは、第二項又は第四項の協議が成立しなかつたものとみなすことができる。   



正しい解説(訂正)
ユーザーさんの提示された現行条文(特許法39条5項)に基づき、正しい結論を再構築します。


1. 現在のルール(39条5項)
> 「…特許出願について拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したときは、…初めからなかつたものとみなす。」
>
* 意味: 出願が拒絶査定で確定して終わった場合、その出願は**「最初から存在しなかったこと」**になります。
* 効果: 39条(先願)の地位も消滅します。


2. あの「亡霊」はどうなる?
私が語っていた「未公開で拒絶されても39条の地位(亡霊)が残るから、後願は拒絶される」という話は、現行法では起こりません。
* 現在の結論:
   * 先願Aが(未公開のまま)拒絶確定した場合、Aは「初めからなかったもの」とみなされます。
   * よって、後から来たBさんは、Aの存在(39条)によって拒絶されることはありません。
   * Aが未公開なら29条の2(拡大先願)も適用されないため、**Bさんは特許を取れる可能性が高い(セーフ)**となります。
> ※唯一の例外(但し書き)
> ユーザーさんの条文の最後にある「ただし、…協議が成立せず…拒絶…確定したときは、この限りでない」の部分。
> これだけは例外で、「同日出願のくじ引き(協議)で負けた場合」だけは、負けた出願も「先願の地位(のようなもの)」を残します(後願を排除する効果を残す)。
> 私が混同していた「地位が残る」ケースは、現行法ではこの「同日協議不成立」のパターンだけに限られます。
>
まとめ(再訂正)
* ユーザーさんのコピペ: 正しいです(現行法)。
* 私の解説: 間違いでした(平成10年以前の旧法の話をしていました)。
* 結論: 現在の法律では、拒絶査定が確定した出願(通常の拒絶)は「なかったもの」とみなされ、後願を排除する力(先願の地位)を失います。

(Gemini)

特041 国内優先権 期間の数え方?

現実の出願日(特許権の存続期間の起算点となる日)は、「後願(こうがん)の日」 です。
ここが知財学習で非常に混乱しやすいポイントですよね。「優先権」という名前から「出願日そのものが過去に遡る(遡及する)」と勘違いしやすいのですが、出願日はあくまで後願の日です。
整理して覚えましょう。
1. 「出願日」と「判断基準日」の違い
国内優先権制度では、以下の2つを分けて考えることが鉄則です。
* 現実の出願日(手続・存続期間) \rightarrow 後願の日
   * 願書を特許庁に提出したその日が「出願日」です。
   * 特許権の存続期間(出願から20年)のカウントも、この後願の日からスタートします。
* 新規性・進歩性の判断基準日(審査) \rightarrow 先願の日
   * 「新しい発明か?」「容易に考え出せたか?」を審査する際、先願に含まれていた内容については、タイムマシンに乗って先願の日を基準に判断してもらえます。これが優先権のメリットです。
2. 図解でイメージする
3. 先願と後願の扱いの違い(まとめ表)
| 項目 | 基準となる日 | 解説 |
|—|—|—|
| 願書の出願日 | 後願の日 | 願書を提出した日そのものです。 |
| 特許期間(20年)の起算日 | 後願の日 | 先願の日から20年ではありません(ここが重要!)。 |
| 新規性・進歩性の判断 | 先願の日* | *先願に記載されていた内容についてのみ遡ります。 |
| 後願で新たに追加した内容 | 後願の日 | 新しく追加した技術は、優先権の利益を受けられず、後願の日で判断されます。 |
| 先願の運命 | みなし取下げ | 先願は、後願の日から1年4ヶ月後に自動的に取り下げられたものとみなされ、消滅します。 |
> 勉強ノートのメモ:
> もし「出願日そのもの」が先願の日に遡ってしまうと、特許期間(20年)も先願の日からスタートすることになり、権利期間が短くなって出願人が損をしてしまいます。だから「出願日は後願、審査の基準は先願」というふうに分けているのです。
>
この「内容によって基準日が違う」という点は、弁理士試験や実務でも非常によく問われるポイントです。


国内優先権の「効果(判断基準)」と「期間計算」を規定しているメインの条文は、特許法第41条です。
また、特許権の存続期間については特許法第67条が関係します。
この2つを組み合わせることで、「判断は先願の日、期間は後願の日」というルールが成り立っています。詳しく条文の構造を見てみましょう。
1. 「審査の基準日が遡る」根拠
条文:特許法第41条 第2項
この条文には、「以下の規定の適用については、その特許出願は、先の出願の時にしたものとみなす」と書かれています。
> 特許法第41条第2項(抜粋・要約)
> 第一項の規定による優先権の主張を伴う特許出願(後願)に係る発明のうち、当該優先権の主張の基礎とした先の出願(先願)の願書に最初に添付した明細書等に記載された発明についての……第二十九条(新規性)、第二十九条の二(拡大先願)……の規定の適用については、当該特許出願は、当該先の出願の時にしたものとみなす。
>
* ポイント: ここで「第29条(新規性)や第29条の2(進歩性などの基礎)については、先願の日に出したものとみなすよ」と限定的に書いてあるのがミソです。
2. 「存続期間は遡らない」根拠
条文:特許法第41条 第2項(の「書かれていないこと」) & 第67条
第41条第2項は、あくまで「新規性などの審査判断については遡る」と言っているだけで、「第67条(存続期間)についても遡る」とは書いていません。
法律の世界では「書いていないことは適用されない」のが原則です。そのため、存続期間については原則どおり以下の条文が適用されます。
> 特許法第67条第1項
> 特許権の存続期間は、特許出願の日から二十年をもつて終了する。
>
* 結論: 第41条で「出願日を遡らせる」という例外規定がないため、第67条の「特許出願の日」は、そのまま**「現実に願書を出した日(後願の日)」**となります。
条文の読み方まとめ
| 疑問 | 根拠となる条文のロジック |
|—|—|
| なぜ審査は先願基準? | 第41条第2項に「第29条等の適用については、先の出願の時にしたものとみなす」と明記されているから。 |
| なぜ期間は後願基準? | 第41条第2項の「みなす」対象リストに、第67条(存続期間)が含まれていないから(=原則通り後願の日からカウント)。 |
このように、「何が遡及(そきゅう)して、何が遡及しないのか」は、第41条第2項のリストに入っているかどうかで決まります。
> 勉強ノートのメモ:
> 条文集(法文集)を持っている場合は、第41条第2項の条文番号(「第二十九条、第二十九条の二……」と並んでいる部分)をマーカーで引いておくと、「ここにあるものだけがタイムマシンに乗れる!」と視覚的に覚えられますよ。


パリ条約(43条)の優先権も「考え方のロジック」は同じです。
国内優先権と同じく、「出願日は後願、審査の基準は先願(優先日)」 となります。
これも非常に重要なので、国内優先権との違い(先願の運命)と合わせて整理しましょう。
1. パリ条約優先権のロジック(国内優先権と同じ)
| 項目 | 基準となる日 | 解説 |
|—|—|—|
| 願書の出願日 | 日本への出願日 | 実際に日本に願書を出した日が「出願日」です。 |
| 特許期間(20年)の起算日 | 日本への出願日 | 第一国の出願日(優先日)から20年ではありません。日本に出した日からスタートです。 |
| 新規性・進歩性の判断 | 第一国の出願日 | 第一国出願の内容については、タイムマシンに乗って優先日基準で審査されます。 |
2. 条文の根拠(ここが少し違います)
結果は同じでも、根拠となる法律の構成が少し異なります。
* 国内優先権(特許法41条)の場合:
   * 日本の特許法の中で「審査については先願の時に出したものとみなす」と定義しています。
* パリ条約優先権(特許法43条+パリ条約4条B)の場合:
   * 特許法43条は「手続き」の規定です。
   * 「遡って審査してもらえる効果」そのものは、パリ条約第4条B(優先期間中の行為によって無効とされない)という国際条約の効力によって発生します。
3. 【超重要】国内優先権との決定的な違い
試験や実務で間違えやすいのは、「先願(最初の出願)がどうなるか」です。
| 項目 | 国内優先権 (41条) | パリ条約優先権 (43条) |
|—|—|—|
| 先願(もとの出願)の運命 | 死にます(みなし取下げ) | 生きます(併存可能) |
| 理由 | 日本国内で同じ内容の特許が2つあると邪魔(重複)だから、古い方は消すルール。 | 各国の特許は独立している(パリ条約4条の2「特許独立の原則」)ため、アメリカの特許と日本の特許は別々に存在できる。 |
> 勉強ノートのメモ:
>  * 国内優先権 = 「古い自分を捨てて、新しい自分(完全版)に生まれ変わる」イメージ。
>  * パリ条約 = 「海外に兄弟(分身)を作る」イメージ。元の国の出願もそのまま権利化できます。
>
まとめ
「出願日は後願(日本出願日)、審査は先願(優先日)」という日付のルールは共通です!
ただし、「元の出願が消えるか残るか」だけ逆になるので、そこだけ注意してくださいね。

特044条 分割 先の出願はどうなる? 取0り下げられる?生き残る?

結論から言うと、分割出願(44条)をした場合、もとの出願(親出願)は「生き残ります」。取り下げられません。
質問者様が「取り下げられるんだっけ?」と疑問に思ったのは、おそらく**「国内優先権主張出願(41条)」と混同されている**可能性があります。
ここを整理するのが試験対策の肝ですので、スッキリ整理しましょう。
1. 分割出願(44条)の基本イメージ
分割出願は、単細胞生物が分裂して2つになるようなイメージです。
* もとの出願(親): そのまま審査係属します(生き残る)。
* 分割した出願(子): 新たな出願として生まれ、出願日は親の日に遡及します。
つまり、出願が2つ並存する状態になります。
> 注意点(39条対策)
> 2つとも生き残りますが、両方の請求項(クレーム)に「同じ発明」が含まれていると、先願規定(39条)または同日出願として、どちらかが拒絶されてしまいます。
> そのため、通常は分割と同時に親出願の補正を行い、親と子で権利範囲を住み分けさせます。
>
2. なぜ「取り下げられる」と思ったのか?(混同しやすい制度)
おそらく、国内優先権主張出願(41条) の記憶と混ざっていると思われます。
| 項目 | 分割出願 (44条) | 国内優先権主張出願 (41条) |
|—|—|—|
| もとの出願の運命 | 生き残る | 取り下げ擬制される (1年3ヶ月後) |
| 目的 | 発明が複数あるので分ける
拒絶理由解消のため分ける | 内容を改良・追加して
新しい出願にまとめる |
| 関係性 | 親と子が並存する | 後の出願が前の出願を吸収・上書きする |
* 41条(国内優先権)の場合: 新しい改良発明を出願した後、もとの基礎出願は役目を終えて**1年3ヶ月後に自動的に取り下げ(みなし取り下げ)**になります。
3. まとめ
* 分割出願(44条): 親も子も生き残る。(だから、中身が被らないように親を補正する必要がある)
* 国内優先権(41条): 先の出願は死ぬ(取り下げられる)。
ここを区別しておくと、論文試験や担当試験のひっかけ問題にも強くなります!

「分割出願ができる時期的要件(いつまで分割できるか)」についても復習しておきましょう。


44条(分割出願)の時期的要件は、条文の書き方が複雑で、しかも例外規定が絡むので、普通に読んでも頭に入ってこないんですよね。ここをスッキリさせるには、**「チャンスは3回ある」**と割り切って覚えるのが一番早道です。


過去問で間違えなくなるように、試験に出るポイントだけに絞って整理しましょう。
分割ができるタイミング「3つのチャンス」
分割出願は、いつでもできるわけではありません。以下の**3つのタイミング(チャンス)**だけです。
チャンス①:補正ができる時(1号)
これが原則です。
* 覚え方: 「親出願の中身をいじれる(補正できる)なら、中身を分ける(分割する)こともできるよね」という理屈です。
* 具体的には:
   * 審査官から何も言ってきていない時(自発補正期間)
   * 拒絶理由通知が来て、それに対する意見書を出せる期間(指定期間内)
チャンス②:特許査定が出た後の「30日以内」(2号)
「おめでとう!特許です」と言われた後のボーナスタイムです。
* 注意点(超重要):
   * 「特許料を払うまで」 です! 払って登録手続きをしちゃったら、もう分割できません。
   * (※以前は特許料納付後もOKでしたが、今の試験対策としては「特許料納付前」と覚えておくのが基本です。ただし条文上は、特許権の設定登録がされる前まで可能です)
チャンス③:最初の拒絶査定が出た後の「3ヶ月以内」(3号)
「ダメでした(拒絶査定)」と言われた時の復活チャンスです。
* ここが試験のツボ:
   * 「拒絶査定不服審判」を請求するかどうかに関わらず、分割だけ単独ですることができます。
   * (昔は審判請求とセットじゃないとダメでしたが、今は分割単独でOKです)
過去問でよく出る「ひっかけ」ポイント
試験で「訳が分からない」となるのは、たいてい以下のパターンではありませんか?
Q. 「特許査定」が出た後、特許料を納付してしまいました。その翌日、分割出願はできますか?
> A. できません。
> チャンス②は「特許権の設定登録がされる前」までです。実務上は特許料納付と同時に登録プロセスが進むので、納付後はアウトになる可能性が高いです。(試験的には「特許権設定登録前」がデッドライン)
>
Q. 「拒絶査定」が出ました。審判は請求しませんが、分割出願だけできますか?
> A. できます。
> これがチャンス③です。親出願は死にますが、最後に子供(分割出願)を残すことができます。
>
Q. 最初の拒絶理由通知が来ました。指定期間(60日)を過ぎてしまいました。分割できますか?
> A. できません。
> チャンス①の「補正ができる期間」を過ぎているからです。
>
整理用テーブル:これだけ覚えればOK
| タイミング | 条文 | ポイント(ここを暗記!) |
|—|—|—|
| 審査中 | 44条1項1号 | 補正ができる時ならいつでもOK |
| 特許査定後 | 44条1項2号 | 査定謄本送達から30日以内
かつ 特許権の設定登録前 |
| 拒絶査定後 | 44条1項3号 | 査定謄本送達から3ヶ月以内
(審判請求しなくてもOK) |
どうでしょう?「3つのチャンス」という枠組みで見ると、少し景色が整理されませんか?

(Gemini)

特046条(出願の変更)と46条の2(実用新案登録に基づく特許出願)の違い

特許法46条(出願の変更)と46条の2(実用新案登録に基づく特許出願)は、どちらも「形式を変えて権利化を目指す」手続きですが、「いつやるか(タイミング)」と「元の権利(出願)がどうなるか」に決定的な違いがあります。一言で言うと、「まだ審査中(登録前)」なら46条、「もう登録されちゃった後」なら46条の2です。


1. 特許法46条:出願の変更
これは、「出願中(係属中)」の案件を、別の種類の出願に切り替える手続きです。


* イメージ: 電車に乗っていて、目的地(登録)に着く前に「やっぱり行き先(権利の種類)を変えよう」と乗り換える感じです。
* 対象: 実用新案登録出願 \rightarrow 特許出願(または意匠 \rightarrow 特許など)。
* 元の出願の運命: 変更した瞬間に、元の出願は取り下げたものとみなされます(消滅します)。
* メリット: もとの出願日を確保したまま(遡及効)、適切な権利形式に変更できます。


2. 特許法46条の2:実用新案登録に基づく特許出願
これは、日本特有の「実用新案は無審査ですぐ登録される」という制度のためにある規定です。**「すでに登録済みの実用新案権」**をベースにして、後から特許を取りに行く手続きです。


* イメージ: 一旦とりあえず小さい家(実用新案権)を建てたけど、やっぱりお城(特許権)に建て替えたい、という「アップグレード」です。
* 対象: 登録済みの実用新案権 \rightarrow 特許出願。
* 元の権利の運命: 特許出願をする際に、元の実用新案権を放棄しなければなりません。
   * ※ここが重要!46条は「自動的に取り下げ」ですが、46条の2は「自発的に権利を放棄する手続き」が必要です。


* 制約: 実用新案登録出願の日から3年以内などの厳しい条件があります。


違いのまとめ(比較表)
試験や実務で問われるポイントを整理しました。
| 比較項目 | 46条(出願の変更) | 46条の2(実用新案登録に基づく特許出願) |
|—|—|—|
| 基礎となるもの | 係属中の出願
(まだ権利になっていない) | 登録済みの実用新案権
(すでに権利になっている) |
| 元の案件の扱い | 変更時に**「取り下げ」**とみなされる
(自動的に消える) | 出願時に**「権利を放棄」**する必要がある
(自分で捨てる手続きが必要) |
| できる時期 | 実用新案登録出願の日から3年以内
(かつ登録前) | 実用新案登録出願の日から3年以内
(かつ評価請求がされていない等) |
| 目的 | 形式のミス修正や戦略変更 | 早期権利化(実案)と強力な権利(特許)の切り替え |
| 条文の趣旨 | 手続の便宜を図る | 早期登録制度(実案)のデメリット補完 |
なぜこの違いがあるの?
実用新案は「無審査」ですぐに登録されてしまうため、出願中に「やっぱり特許にしたい(46条)」と思っても、変更する暇もなく登録されてしまうことがあります。
そこで、**「登録されてしまった後でも、特許に挑戦できるチャンス(46条の2)」**を残しているのです。
ただし、特許と実用新案の「二重取り」はできないので、特許に挑戦するなら、確実に今の実用新案権を捨ててください(放棄)、というルールになっています。

特許が取れなかったら大変なことになります(権利がゼロになります)。46条の2(実用新案登録に基づく特許出願)は、「ハイリスク・ハイリターン」な制度だからです。


なぜ「困る」ことになるのか?
この手続きのルールが以下のようになっているからです。
* 出願と同時に放棄:
   特許出願をするその瞬間に、元の実用新案権を**「放棄」**しなければなりません。つまり、審査の結果を待たずに、先に捨てなければならないのです。
* 復活しない:
   もしその特許出願が「拒絶(不合格)」になっても、捨ててしまった実用新案権は戻ってきません。
結果として、**「実用新案権は失い、特許権も取れなかった」**という、**無権利状態(丸裸)**になってしまうリスクが完全にあります。
では、なぜそんな危ないことをするの?
それでもこの制度を使う人がいるのは、実用新案権のデメリットが大きすぎる場合があるからです。
* 権利期間が短い: 実用新案は出願から10年で終わります(特許は20年)。
* 権利行使が難しい: 実用新案権は「評価書」というお墨付きをもらわないと他人に警告すらできませんが、特許権なら強力に行使できます。
「この発明は絶対に大ヒットするから、10年じゃ足りない!」「ライバルを本気で訴えたい!」という場合に、今の弱い権利を捨ててでも、強い権利を取りに行く賭けに出るのがこの手続きです。
実務での安全策
実務では、いきなり46条の2を行うことは稀です。
リスクを避けるために、事前に特許庁に**「実用新案技術評価書」**を請求して、特許性の有無(審査に通りそうか?)を感触として確かめてから決断することが多いです。評価書で「良い評価(肯定的見解)」が出ていれば、特許も通る可能性が高いと判断できるからです。


まとめ
「特許が取れなかったら困る(丸損する)」制度です。ですので、使うときは非常に慎重な判断が求められます。

(Gemini)