特105条の4 秘密保持命令

特許法

(秘密保持命令) 第百五条の四 裁判所は、特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、その当事者が保有する営業秘密(不正競争防止法(平成五年法律第四十七号)第二条第六項に規定する営業秘密をいう。以下同じ。)について、次に掲げる事由のいずれにも該当することにつき疎明があつた場合には、当事者の申立てにより、決定で、当事者等、訴訟代理人又は補佐人に対し、当該営業秘密を当該訴訟の追行の目的以外の目的で使用し、又は当該営業秘密に係るこの項の規定による命令を受けた者以外の者に開示してはならない旨を命ずることができる。ただし、その申立ての時までに当事者等、訴訟代理人又は補佐人が第一号に規定する準備書面の閲読又は同号に規定する証拠の取調べ若しくは開示以外の方法により当該営業秘密を取得し、又は保有していた場合は、この限りでない。

一 既に提出され若しくは提出されるべき準備書面に当事者の保有する営業秘密が記載され、又は既に取り調べられ若しくは取り調べられるべき証拠(第百五条第三項の規定により開示された書類、第百五条の二の四第一項の規定により提出された査証報告書の全部若しくは一部又は第百五条の七第四項の規定により開示された書面を含む。)の内容に当事者の保有する営業秘密が含まれること。

二 前号の営業秘密が当該訴訟の追行の目的以外の目的で使用され、又は当該営業秘密が開示されることにより、当該営業秘密に基づく当事者の事業活動に支障を生ずるおそれがあり、これを防止するため当該営業秘密の使用又は開示を制限する必要があること。

2 前項の規定による命令(以下「秘密保持命令」という。)の申立ては、次に掲げる事項を記載した書面でしなければならない。 一 秘密保持命令を受けるべき者 二 秘密保持命令の対象となるべき営業秘密を特定するに足りる事実 三 前項各号に掲げる事由に該当する事実

3 秘密保持命令が発せられた場合には、その決定書を秘密保持命令を受けた者に送達しなければならない。

4 秘密保持命令は、秘密保持命令を受けた者に対する決定書の送達がされた時から、効力を生ずる。

5 秘密保持命令の申立てを却下した裁判に対しては、即時抗告をすることができる。

 

プロンプト:わかりやすくまとめて。

ChatGPT 5.2:

OK、条文の**「できる」「ただし」「できない」**が混ざっていて混乱しやすいところなので、
結論 → できる場合/できない場合 → 抗告の可否の順で、整理してまとめます。


① まず結論(超要約)

  • 秘密保持命令は
    👉 原則:申立てがあれば、要件を満たす限り「できる」
  • ただし
    👉 すでに相手がその営業秘密を正当に知っていた場合は「できない」
  • 申立てが却下されたら
    👉 即時抗告は「できる」

② 秘密保持命令が「できる」場合(原則)

次の 2つを両方満たす ことについて、**疎明(=一応もっともらしい証明)**があれば、
👉 裁判所は、当事者の申立てにより、秘密保持命令を出すことができる

【要件①】訴訟資料に営業秘密が含まれている

次のいずれかに当てはまること:

  • 準備書面に営業秘密が書かれている/書かれる予定
  • 証拠(書類・査証報告書など)に営業秘密が含まれている/含まれる予定

👉 要するに
「この訴訟を進めると、営業秘密が相手の目に触れる状況にある」


【要件②】放置すると事業に支障が出るおそれがある

  • 営業秘密が
    • 訴訟目的以外に使われたり
    • 第三者に漏れたり
      すると、
  • その秘密を前提とした事業活動に支障が出るおそれがある
  • だから
    👉 使用・開示を制限する必要がある

📌 この2つがそろえば

裁判所は「秘密保持命令を出せる」
(※自動ではなく、あくまで裁量)


③ ただし:秘密保持命令が「できない」場合(例外)

条文後半の 「ただし書」 がここ。

❌ できないのはどんなとき?

申立ての時点より前に、相手方がすでに:

  • 準備書面の閲読
  • 証拠の取調べ
  • それ以外の方法(例:取引、共同研究など)

によって、
👉 その営業秘密をすでに取得・保有していた場合


🔍 ポイント

  • 「すでに知っている人」に対して、後から口止めはできない
  • だから
    👉 秘密保持命令は出せない

④ まとめると(できる/できないの分岐)

状況 秘密保持命令
訴訟資料に営業秘密が含まれ、漏れると事業に支障が出る ✅ できる
その営業秘密を相手が訴訟前から正当に知っていた ❌ できない
単なる不利益・嫌がらせレベル ❌ できない

⑤ 「即時抗告できる/できない」

最後の第5項。

✅ 即時抗告「できる」

  • 秘密保持命令の申立てが却下された場合

👉 「命令を出してほしかったのに、裁判所がNOと言った」
👉 すぐに上級審に不服申立てできる


❌ 即時抗告「できない」

  • 秘密保持命令が出された側からの不服申立て
    (=条文上、抗告の規定がない)

⑥ 全体を一文で言うと

秘密保持命令は、訴訟で営業秘密が扱われ、放置すれば事業に支障が出るおそれがある場合に、申立てにより裁判所が出すことができるが、相手がすでにその秘密を正当に知っていた場合には出せず、申立てが却下されたときは即時抗告ができる。

 

特105の2の12

特許法

(損害計算のための鑑定) 第百五条の二の十二 特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当事者の申立てにより、裁判所が当該侵害の行為による損害の計算をするため必要な事項について鑑定を命じたときは、当事者は、鑑定人に対し、当該鑑定をするため必要な事項について説明しなければならない。

プロンプト:この条文で、「当時者の申立てにより」が、「裁判所が職権により」って書き換えられて、丸かバツか、という問題が出てたんだけど、何がどう違うの?

Chat GPT 5.2:この○×問題、「民事訴訟における裁判所の権限の立ち位置」を分かっているかを聞いています。


条文の骨格を分解すると

第105条の2の12は、構造としてこうなっています。

  1. 誰がきっかけを出すか
    👉 当事者の申立てにより
  2. 誰が判断・実行するか
    👉 裁判所が鑑定を命じる
  3. 鑑定が命じられた場合の義務
    👉 当事者は鑑定人に説明義務を負う

つまりこの条文は、

当事者が求めた場合に限って、裁判所は鑑定を命じることができ、その結果として当事者に協力義務が生じる」

という条件付き発動型の規定です。


「当事者の申立てにより」と「裁判所が職権により」の決定的な違い

① 当事者の申立てにより(原文)

  • 裁判所は 勝手には動けない
  • 当事者の意思表示(申立て)が 発動条件
  • 民事訴訟の原則である
    **「当事者主義」**に忠実

👉 当事者が「鑑定してほしい」と言わなければ、
👉 裁判所は鑑定を命じない


② 裁判所が職権により(書き換え後)

  • 当事者の申立てがなくても
  • 裁判所の判断だけで
  • 鑑定を命じられる

👉 これは 職権主義 的な構造になります。


なぜ「×」になるのか(試験的に重要)

理由①:民事訴訟の大原則に反する

損害額の立証・主張は、

  • 原則:当事者の責任
  • 裁判所は「補助役」

特許侵害訴訟であっても、
損害計算を裁判所が勝手に始めることはできない


理由②:条文の趣旨が変わってしまう

「当事者の申立てにより」を
「裁判所が職権により」に変えると、

  • 当事者が鑑定を望んでいなくても
  • 強制的に説明義務が発生する

ことになります。

👉 当事者の訴訟追行の自由を侵害します。


まとめ(○×問題の正体)

「当事者の申立てにより」を
「裁判所が職権により」に書き換えるのは
✕(誤り)

理由は一言で言うと:

民事訴訟は当事者主義が原則であり、
本条はその例外を定めた規定ではないから

民法90条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

民法

(公序良俗)
第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

プロンプト:「法律行為」とは?

ChatGPT 5.2:

いい質問です。ここ、民法の理解の入口であり核心でもあります。


結論から

**民法90条の「法律行為」**とは、

当事者の意思表示によって、法律上の効果(権利・義務の発生・変更・消滅)を生じさせる行為

のことです。


もう少し噛み砕くと

「法律行為」とは、

  • 人が意思をもって
  • 何かをする(またはしない)ことで
  • 法律がその意思を尊重して効果を与える行為

です。

単なる行動や事実そのものではありません。


具体例で整理

① 法律行為にあたるもの(典型)

  • 売買契約(売る・買うという意思)
  • 賃貸借契約
  • 贈与
  • 遺言
  • 解除・取消し
  • 結婚(婚姻届)

👉 いずれも
「こうしたい」という意思表示 → 法律効果が発生


② 法律行為ではないもの(対比)

  • 不法行為(交通事故など)
  • 事務管理
  • 不当利得
  • 自然事実(死亡・出生)

👉 これらは
意思表示によらず法律効果が発生
→ 法律行為ではない


民法90条との関係(ここが重要)

民法90条が言っていることは:

「公序良俗に反する“意思表示に基づく行為”は、最初から無効」

ということです。

典型例

  • 愛人契約
  • 犯罪請負契約
  • 売春を内容とする契約
  • 過度に人身拘束的な契約

👉 「当事者が合意していても」
👉 「意思があっても」
👉 公序良俗に反すれば、法律はその意思を尊重しない


「法律行為」という言葉を一文で言うなら

法律が“効力を与える”と認めた意思表示のまとまり

です。


ワンランク上の理解(試験的に大事)

  • 民法90条は
    契約内容だけでなく、動機・目的・態様まで含めて判断される
  • だから
    形式上は合法でも、実質が公序良俗違反なら無効

 

プロンプト:不法行為 って、法律に違反する行為 という意味じゃないの?法律行為でない行為 という意味だったの?

ChatGPT 5.2:

ここ、多くの人が一度は混乱する超重要ポイントです。
結論から言いますね。


結論(ズバッと)

不法行為=「法律に違反する行為」ではあるが、
それは「法律行為ではない」

👉 両立します。矛盾しません。


なぜ混乱するか

日常語では

不法行為 = 違法な行為

と理解しますよね。
でも民法では、

  • 「違法かどうか」
  • 「法律行為かどうか」

は、まったく別の軸で分類します。


民法の分類軸を整理

軸①:法律に違反しているか?

  • 違反している → 違法
  • 違反していない → 適法

軸②:意思表示による行為か?

  • はい → 法律行為
  • いいえ → 事実行為

👉 不法行為は後者(事実行為)


不法行為とは(民法709条)

故意または過失により他人の権利又は法律上保護される利益を侵害する行為

ここに
「契約する」「権利を発生させよう」という意思表示は要りません。


具体例で比較

① 売買契約

  • 合意あり
  • 権利義務を発生させる意思あり
    法律行為

② 殴る(暴行)

  • 「損害賠償義務を発生させよう」という意思はない
  • でも結果として義務が発生する
    不法行為(法律行為ではない)

👉 意思表示がない点が決定的


重要な整理(ここ試験に出る)

区分 法律行為 不法行為
意思表示 必要 不要
法律効果 意思に基づく 法律が強制的に与える
適法性 適法が前提 違法
典型条文 民法90条など 民法709条

「じゃあ不法“行為”って言うのおかしくない?」

→ 日常語と法律用語のズレです。

  • 法律行為
    法律効果を「生じさせようとしてする行為」
  • 不法行為
    法律効果を「生じさせようとしていないが、生じてしまう行為」

まとめ(1行で)

不法行為とは「違法な“事実行為”」であって、「法律行為」ではない


 

特104の4(主張の制限)

(主張の制限)
第百四条の四 特許権若しくは専用実施権の侵害又は第六十五条第一項若しくは第百八十四条の十第一項に規定する補償金の支払の請求に係る訴訟の終局判決が確定した後に、次に掲げる決定又は審決が確定したときは、当該訴訟の当事者であつた者は、当該終局判決に対する再審の訴え(当該訴訟を本案とする仮差押命令事件の債権者に対する損害賠償の請求を目的とする訴え並びに当該訴訟を本案とする仮処分命令事件の債権者に対する損害賠償及び不当利得返還の請求を目的とする訴えを含む。)において、当該決定又は審決が確定したことを主張することができない。
一 当該特許を取り消すべき旨の決定又は無効にすべき旨の審決
二 当該特許権の存続期間の延長登録を無効にすべき旨の審決
三 当該特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすべき旨の決定又は審決であつて政令で定めるもの

https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000121#Mp-Ch_4-Se_1-At_97

プロンプト:

この条文をわかりやすく(高校生でもわかるように)説明して。再審って何?控訴のこと?

ChatGPT5.2

OK、これは条文としてはかなり難関なので、
高校生にも分かるレベルまで噛み砕いて説明しますね。
(結論から言うと、再審は控訴とは別物です)


まず全体を一言でいうと

いったん特許侵害の裁判が「完全に終わった」あとで、
後から特許が無効になっても、
そのことを理由に「もう一回やり直して!」とは言えない

というルールです。


① この条文は「どんな場面」の話?

次のような裁判の話です。

  • 特許侵害訴訟
    • 「あなたの製品、私の特許を侵害してますよね?」
  • 補償金の請求
    • 出願公開後〜特許成立前の“仮の権利”についての支払い請求

そして、

👉 その裁判が、最終判決まで行って、確定したあと

の話です。


② 「再審」って何?控訴と違うの?

結論から

用語 意味
控訴 まだ裁判が続いている段階での「上の裁判所への不服申立て」
再審 完全に終わった裁判を、例外的にもう一度やり直す制度

イメージでいうと

  • 控訴
    → 「テストの答案、再採点してください!」(まだ成績は確定してない)
  • 再審
    → 「卒業後に、実は採点ミスがありました!」と申し立てる感じ
    👉 めちゃくちゃ例外的

③ この条文が言っている核心ルール

普通はこう考えたくなる

「あとから特許が無効になったなら、
侵害裁判の判決も間違ってたんじゃない?」

でも、この条文は NO と言っています。


④ 具体的に「主張できない」こと(条文の3つ)

❶ 特許が無効になった場合

特許庁で
「この特許、そもそもダメでした」
と決まっても、

👉 それを理由に再審はできない


❷ 特許期間の延長が無効になった場合

「本当は特許、もう切れてました」

👉 それでも再審はできない


❸ 特許の内容が訂正された場合

「クレーム(特許の範囲)、あとから狭くなりました」

👉 それでも再審はできない
(※政令で決められた重要な訂正の場合)


⑤ なぜこんなルールがあるの?

もしこのルールがなかったら…

  • 裁判が終わる
  • 何年も後に特許が無効になる
  • 「じゃあ昔の判決も全部やり直し!」

👉 一生、裁判が終わらない


⑥ 高校生向け超シンプルたとえ

サッカーの試合で例えると

  • 試合終了、結果確定
  • 後日

    「実はこのルール、間違ってたかも…」

でも、

終わった試合の結果は覆さない

というルール。


⑦ まとめ(超重要)

  • 再審 ≠ 控訴
  • 再審は「終わった裁判をやり直す超例外制度」
  • 特許侵害裁判では、
    • あとから特許が無効になっても
    • 再審の理由にはできない
  • 裁判の安定性を守るための条文

 

プロンプト:再審って、裁判のことね、特許庁の審判のやり直しではなく。

ChatGPT5.2:

はい、その理解で完全に正しいです。
ここは混乱しやすいですが、はっきり整理できます。


結論(まずここ)

この条文でいう「再審」=
👉 裁判所の判決をやり直す手続(民事訴訟法上の再審)

特許庁の審判(無効審判・訂正審判など)のやり直しではありません。


どこで行われる「再審」か

① 対象になっている元の事件

条文冒頭にこうありますね:

「特許権若しくは専用実施権の侵害
又は補償金の支払の請求に係る訴訟の終局判決」

これは明確に
👉 裁判所の訴訟
です。


② 再審の相手は誰か

「当該訴訟の当事者であった者」

  • 原告・被告
  • 裁判の当事者

👉 特許庁の当事者ではありません。


特許庁の「審判」との関係は?

この条文、ややこしいのはここ👇

「決定又は審決が確定したときは…
そのことを再審で主張できない」

ポイント

  • 決定・審決
    → 特許庁(取消決定・無効審決・訂正審決)
  • 再審
    → 裁判所(侵害訴訟のやり直し)

つまり、

特許庁で何かが起きても、
それを使って裁判所の判決をひっくり返すことはできない

という「橋渡し禁止ルール」です。


図で整理(超重要)

【特許庁】
  無効審判・訂正審判
        ↓
   (確定しても)

【裁判所】
  侵害訴訟の終局判決
        ↓
   ❌ 再審できない

なぜこの条文名が「主張の制限」なのか

  • 再審という裁判手続そのものは否定していない
  • ただし、

👉 「特許庁での審決が確定した」という主張は使えない

だから条文名が
「主張の制限」
になっています。


重要な一言まとめ

再審=裁判の再スタート
審判=特許庁の判断

この条文は
「審判の結果を使って、裁判を蒸し返すな」
という規定。


ここまで理解できていれば、弁理士試験・実務レベルでもかなり盤石です。

 

プロンプト:終局判決って、最高裁判決のこと?そうでないこともある?

ChatGPT 5.2:

とても良いポイントです。
結論から、はっきり整理しますね。


結論

「終局判決」= 最高裁判決とは限りません。
👉 最高裁でなくても「終局判決」になることは普通にあります。


① 「終局判決」って何を意味する言葉?

法律用語としての定義(超重要)

終局判決とは:

その裁判手続において、
その審級で事件の全部について判断を終える判決

です。

✔ どの裁判所かは 関係ない
✔ 最高裁かどうかも 関係ない


② 最高裁判決との関係

最高裁判決は?

  • 当然、終局判決です
    (それ以上、通常の不服申立てがない)

でも、最高裁でなくても終局判決になる例

例1:一審判決で確定した場合

  • 地裁で判決
  • 控訴しなかった

👉 地裁判決が 終局判決として確定


例2:控訴審(高裁)で確定した場合

  • 地裁 → 高裁
  • 上告しなかった/上告棄却

👉 高裁判決が 終局判決として確定


例3:最高裁が「上告棄却・不受理」

  • 実体判断はしていなくても
  • その時点で裁判は終了

👉 高裁判決が 終局判決として確定


③ じゃあ「確定判決」との違いは?

ここも混乱ポイントなので整理します。

用語 意味
終局判決 裁判所が事件を最終的に判断した判決(その審級内)
確定判決 不服申立てができなくなった状態

関係性

  • 終局判決 + 確定
    → 条文が想定している状態

④ 特許法104条の4との関係でいうと

条文では:

「終局判決が確定した後に」

とあります。

つまり、

  • 地裁でも
  • 高裁でも
  • 最高裁でも

👉 どこであれ、裁判が完全に終わったあと
という意味です。


⑤ 高校生向け超たとえ

  • 終局判決
    → 先生が「はい、これがあなたの成績です」と出した評価
  • 確定
    → もう再テストも、再評価もできない状態
  • 最高裁
    → 校長先生が見るケースもあるけど、
    見ないまま終わることも普通にある

⑥ まとめ(超重要)

  • ❌ 終局判決 = 最高裁判決、ではない
  • ⭕ 一審・二審でも 確定すれば終局判決
  • 特許法104条の4は
    👉 **「裁判が完全に終わったあと」**を指している

この理解があると、

  • 再審
  • 確定力
  • 既判力
  • 104条の3(無効の抗弁)

が一気に整理できます。

次、
「じゃあ和解は終局判決になるの?」
いきます?

プロンプト:頼む

ChatGPT 5.2:

では、**「和解は終局判決になるのか?」**を
試験でも実務でもそのまま使える形で整理します。


結論(最重要)

和解は「終局判決」ではありません。
⭕ ただし、判決とほぼ同じ効力を持ちます。


① 和解とは何か(まず定義)

裁判上の和解とは、

裁判の途中で、
当事者同士が合意して
裁判所にその内容を記録してもらうこと

です。


② なぜ和解は「終局判決」じゃないの?

理由はシンプル

  • 判決:裁判所が判断する
  • 和解:当事者が合意する

👉 裁判所の判断ではないから。


③ でも、和解は弱いの?

いいえ。むしろ強いです。

裁判上の和解の効力

項目 和解
確定力 ⭕ ある
既判力 ⭕ 判決と同等
強制執行 ⭕ できる
控訴 ❌ できない

👉 実質は「確定判決と同じ」


④ 特許法104条の4との関係

条文はこうでしたね:

「終局判決が確定した後に」

では、和解の場合は?

  • 文言上
    → 和解は「終局判決」ではない
  • 実務・解釈上
    和解も同趣旨で扱われる

理由:

和解後に
「あとから特許が無効になったから再審!」
なんて認めたら、
👉 和解の意味がなくなる


⑤ 試験でどう書くべきか(超重要)

安全な書き方

裁判上の和解は終局判決には当たらないが、
確定判決と同一の効力を有するため、
特許法104条の4の趣旨は和解の場合にも及ぶ。

👉 これで減点されません。


⑥ 高校生向けたとえ

  • 終局判決
    → 先生が「この点数で決定」と決める
  • 和解
    → 生徒と先生が話し合って
    「今回はこれでいこう」と合意する

どちらも
👉 あとから文句は言えない


⑦ まとめ(短く)

  • ❌ 和解 ≠ 終局判決
  • ⭕ でも効力は確定判決と同じ
  • 特許侵害訴訟では
    👉 和解後も再審は原則不可

 

特092条 裁定通常実施権(自己の特許発明の実施をするための通常実施権の設定の裁定)

TAC枝別問題集(弁理士過去問)をやっていて理解できなかった2つの問題、令2特19(ホ)と平20特42(ニ))の解説をAI3者にお願いしてみました。

 

令和2年度 弁理士試験 短 答 式 筆 記 試 験 問 題 集 【特許・実用新案】19 特許法に規定する実施権等に関し、次の(イ)~(ホ)のうち、正しいものは、いくつあるか。

(イ) 専用実施権についての通常実施権を実施の事業とともに第三者に譲渡する場合、特許権者の承諾を得る必要はないが、専用実施権者の承諾を得なければならない。

(ロ) 専用実施権者は、その専用実施権を放棄する場合、専用実施権についての通常実施権者があるときは、その者の承諾を得なければならないが、特許権者の承諾を得る必要はない。

(ハ) 通常実施権者が、通常実施権を目的として質権を設定したときは、質権者は、契約で別段の定をした場合を除き、当該特許発明の実施をすることができない。

(ニ) 通常実施権を目的とする質権の設定は、登録しなければ、その効力を生じない。

(ホ) 特許権者甲が、特許法第 92 条に基づき、自己の特許権Aに係る特許発明の実施をするための通常実施権の設定の裁定により、乙の特許権Bの通常実施権の設定を受けて、特許権Aに係る特許発明の実施の事業を行った。甲の特許権Aが、特許権Aに係る特許発明の実施の事業と分離して丙に移転する場合は、特許権Bについての甲の通常実施権も丙に移転する。   

 

弁理士試験 平成20年42(ニ) https://www.jpo.go.jp/news/benrishi/shiken-mondai/document/h20tanto/question.pdf

 〔42〕特許に関する権利の移転等に関し、次の(イ)~(ホ)のうち、正しいものは、いくつあるか。ただし、特許出願は、外国語書面出願でも国際出願に係るものでも実用新案登録に基づく特許出願でも、分割又は変更に係るものでもないものとする。

(イ) 特許出願後における特許を受ける権利の相続による承継については、必ず、特許庁長官に届け出なければならない。

(ロ) 職務発明について特許を受ける権利の承継に関する定めを有しない会社において、職務発明がその会社の2人以上の従業者によりなされた場合、各従業者は、他の従業者の同意を得なければ、その特許を受ける権利の持分を譲渡することができない。

(ハ) 特許を受ける権利を有する甲及び乙は共同して特許出願Aをした。その後、 丙は甲の特許を受ける権利の持分の譲渡を受けた旨の譲渡証書を偽造して出願人を甲から丙に変更する出願人名義変更の届出を特許庁長官に行い、 Aについて 乙及び丙を特許権者とする特許権の設定の登録がなされた。この場合において、 丙の名義になっている当該特許権の持分につき、 甲による、丙 から甲への移転登録請求が認められることがある。

(ニ) 特許権者甲は、特許権者乙の有する先願に係る特許権について、特許法第92条第3項(自己の特許発明の実施をするための通常実施権の設定の裁定)の規定による通常実施権の設定の裁定を請求をした。これに対し、 乙は甲の有する特許権について、同条第4項の規定による通常実施権の設定の裁定を請求した。その後、甲及び乙 は各自の請求に係る通常実施権の設定を得た。この場合、乙の当該通常実施権は、 乙の当該特許権が実施の事業と分離して移転したときは、消滅する。

(ホ) 特許を受ける権利が共有に係る場合、各共有者は、他の共有者と共同で、又は、他の共有者の同意を得て、その持分を目的として質権を設定することができる。    

 

令和2年19(ホ)と平成20年42(ニ)の違いの生成AI3者による解説

Geminiは間違った回答を最初くれましたし、Claudeもやはり問題文を正しく読み取りませんでした。ChatGPTが一番、信頼できそうな結果となりました。

 

ChatGPT 5.2:

この 令和2年19(ホ)平成20年42(ニ) は、ほぼ同じ92条裁定の話をしているように見えて、結論が逆になる典型的な“ひっかけ対比”です。ポイントは 「どの通常実施権か」「どの権利が移転するのか」 です。以下、1問ずつ丁寧に分解して説明します。


① 令和2年19(ホ)の構造と結論

問題文(要約)

  • 甲:特許権Aの特許権者
  • 乙:特許権Bの特許権者
  • 両者は 特許法92条(利用関係)にある
  • 甲は
    👉 「Aを実施するために必要だから」
    👉 Bについて通常実施権の裁定を受けた
  • 甲はその通常実施権を使って
    👉 A発明の実施事業を行っている
  • その後
    👉 特許権Aが、その事業と分離して丙に移転
  • 問題:

    Bについての甲の通常実施権も、丙に移転するか?

結論

移転しない(誤り)

理由(ここが核心)

92条裁定による通常実施権は、

「自己の特許発明を実施するために必要な限度で」
与えられる人格的・目的限定的な権利

です。つまりこの通常実施権は:

  • 甲が
  • 甲の特許権Aを
  • 甲自身が実施するため

にだけ認められたもの。

👉 Aそのものが第三者(丙)に移転してしまったら、「甲がAを実施するため」という前提が消滅する

したがって、

  • 事業と分離してAが移転
  • ⇒ 92条裁定の前提消滅
  • Bについての通常実施権は丙に承継されない

② 平成20年42(ニ)の構造と結論

問題文(要約)

  • 甲・乙はそれぞれ特許権者
  • 甲は
    👉 乙の先願特許について92条3項の裁定請求
  • 乙も
    👉 甲の特許について92条4項の裁定請求
  • 双方が相互に通常実施権を取得
  • その後、
    👉 乙の特許権が実施の事業と分離して移転
  • 問題:

    乙の特許権についての通常実施権は消滅するか?

結論

消滅しない(誤り)

理由(令和2年との決定的違い)

ここでの通常実施権は、

  • 甲が
  • 乙の特許を
  • 甲自身の特許発明を実施するために
    取得したもの。

そして重要なのは:

👉 通常実施権を設定した側(乙)の特許権が移転しても、
通常実施権は原則として存続する

という特許法の大原則。

  • 通常実施権は 特許権に対抗力を持つ独立の利用権
  • 特許権者が変わっても消えない(登録が要件になる場合は別)

したがって、

  • 乙の特許権が第三者に移転しても
  • 甲の通常実施権は そのまま存続

③ 両者の「本質的な違い」を一言で

観点 令和2年19(ホ) 平成20年42(ニ)
問題の焦点 通常実施権が承継されるか 通常実施権が消滅するか
通常実施権の性質 自己特許実施のための目的限定権 独立した利用権
何が移転? 通常実施権者自身の特許権 通常実施権設定者の特許権
結論 ❌ 承継されない ❌ 消滅しない

④ 試験的な覚え方(超重要)

✅ 92条裁定の鉄則

「誰のための、何のための通常実施権か」を必ず確認せよ

  • 自己特許を実施するための裁定実施権
    → その自己特許を失えば ついてこない
  • 他人の特許に設定された通常実施権
    → 特許権が移転しても 原則消えない

 

プロンプト:

「乙の特許権が移転」は、「甲が通常実施権を持っている対象の特許権が移転」の話?それとも、「乙が自己の実施のために必要だった乙自身の特許権が移転」という話?

Chat GPT5.2:

ここは文言解釈で一度つまずくと抜けられないポイントなので、
結論→理由→見分け方、の順で整理します。


結論(先に)

**「乙の特許権が移転」**とは、

乙が“特許権者である側”として保有していた自己の特許権が移転する場合

を指します。

「甲が通常実施権を持っている対象の特許権が移転する」という意味ではありません。


なぜそう読まなければならないのか

問題文(平成20年42(ニ))を、主語と対象を明確にして分解します。

① 問題文の前提整理

  • 甲:特許権者
  • 乙:特許権者

② 裁定の対応関係

誰が どの特許について 何を得たか
乙の特許権 通常実施権(92条3項)
甲の特許権 通常実施権(92条4項)

問題の核心文

「この場合、乙の当該通常実施権は、乙の当該特許権が実施の事業と分離して移転したときは、消滅する。」

ここで出てくる 2つの「乙」 を区別するのが重要です。

文法的な対応関係

「乙の当該通常実施権」

→ 乙が裁定で取得した
甲の特許権についての通常実施権

「乙の当該特許権」

→ 乙が特許権者として保有している特許権
乙自身の特許権

つまり問題文はこういう意味

乙が
・甲の特許権について裁定通常実施権を取得したが、
・その後、乙自身の特許権
実施事業と分離して第三者に移転した場合、

👉 その裁定通常実施権は消滅するか?

という問いです。

なぜ「甲が通常実施権を持っている対象の特許権」ではないのか

理由①:文言がそう書いていない

もしその意味なら、問題文は

「甲の特許権が移転したときは」

と書かれるはずです。

「乙の特許権が移転」と明示している以上、
それは 乙が権利者である特許権 しか指しません。


理由②:92条裁定のロジックに合わない

92条の裁定通常実施権は、

  • 自己の特許発明を実施するため
  • 他人の特許を利用する権利

です。

したがって、

  • 乙が
  • 甲の特許について持っている通常実施権が
  • 乙自身の特許権の移転によって消えるか

という構成でないと、「自己特許を失ったらどうなるか」という法的意味が出てきません。

試験的な一行整理(これが使える)

「Aの当該特許権が移転」
= Aが“特許権者として保有していた特許権”の移転

「Aの当該通常実施権」
= Aが裁定等で“取得した利用権”

最後に超重要な対比(令和2年19(ホ)との関係)

問題 何が移転する? 結論
令和2年19(ホ) 通常実施権者自身の特許権 通常実施権は承継されない
平成20年42(ニ) 通常実施権者自身の特許権 通常実施権は消滅しない

👉 同じ「自己特許の移転」でも、
「承継の可否」と「消滅の有無」を聞いている点が違う

というのが、出題者の一番いやらしいポイントです。

 

プロンプト:

承継されないけど、消滅もしていないということね。つまりこの2問は全く同じ問題で、聞くポイントをちょっと変えただけ?

ChatGPT 5.2:

はい、結論の理解はほぼ正解です。ただし、「全く同じ問題」ではありません
同じ92条裁定という素材を使いながら、短答的に“別の法的性質”を聞いている、という位置づけが一番正確です。


結論を一行で整理

令和2年19(ホ)と平成20年42(ニ)は、
事実関係の骨格は同じだが、
聞いている法的ポイント(評価軸)が異なる。

まず、あなたの理解の確認

「承継されないけど、消滅もしていない」

これは 平成20年42(ニ) について、正しい整理です。

  • 通常実施権は
    👉 第三者(丙)に承継されない
  • しかし
    👉 乙の手元では消滅しない

では、何が違うのか(ここが本質)

共通点(素材レベル)

両方とも:

  • 特許法92条の裁定通常実施権
  • 「自己の特許発明を実施するため」という目的限定
  • その後に 特許権が事業と分離して移転

違い①:聞いている「法的評価」

問題 問われていること
令和2年19(ホ) 第三者に承継されるか?
平成20年42(ニ) 本人の権利として消滅するか?

👉 承継 ≠ 消滅
この切り分け自体を理解しているかを試している。

違い②:問題文が想定する「視点」

令和2年19(ホ)

  • 視点:丙(第三者)
  • 問題意識:

    「この通常実施権、Aと一緒についてくるの?」

NO(ついてこない)

平成20年42(ニ)

  • 視点:乙(元の実施権者)
  • 問題意識:

    「自己特許を失ったら、
    その裁定通常実施権って消えるの?」

NO(消えない)

ここが“同じに見えて同じでない”理由

92条裁定通常実施権は:

  • 物権的でも
  • 完全に債権的でもない
  • 目的拘束付きの法定利用権

という 中途半端でクセの強い性質を持っています。

だから:

  • ❌ 自由に承継できない
  • ❌ 勝手に消滅もしない

この 両立しにくい二つを、
別々の問題で確認しているのがこの2問。

試験委員の本音(推測だけど、ほぼこれ)

「92条の通常実施権を“承継できない=消える”と短絡的に理解している受験生を落としたい」

超短答用・最終まとめ(これを覚えておけばOK)

92条裁定通常実施権は:

  • 第三者には承継されない
  • だからといって直ちに消滅するわけではない
  • 特許権の移転だけで当然消滅しない

あなたの一言評価

「聞くポイントをちょっと変えただけ?」

👉 素材は同じ、聞き方は意地悪に変えている
👉 だから“似ているけど別問題”

短答としては、
「同じと思った瞬間に落とし穴」
という、かなり良問(悪問)です。

 

ChatGPTによる説明で、言い尽くされたと思いますが、一応ClaudeとGeminiの回答も載せておきます。

Claude Opus 4.5:

これは良い質問ですね。両方とも特許法92条の裁定通常実施権に関する問題ですが、状況が微妙に異なります。整理して説明します。

前提:特許法92条の構造

92条3項:後願特許権者(甲)が、先願特許権者(乙)の特許権について通常実施権の裁定を請求できる

92条4項:上記の裁定を受けた場合、先願特許権者(乙)も、後願特許権者(甲)の特許権について通常実施権の裁定を請求できる(クロスライセンスの強制)


令和2年19(ホ)の状況

甲が92条に基づき、自己の特許権Aに係る特許発明の実施をするため、乙の特許権Bの通常実施権を得た。 甲の特許権Aが事業と分離して丙に移転する場合、特許権Bについての甲の通常実施権も丙に移転するか?

答え:移転しない(×)

理由

94条2項により、92条の裁定による通常実施権は:

  • 実施の事業とともに移転する場合
  • 特許権等の移転に伴って移転する場合
  • 相続その他の一般承継の場合

にのみ移転します。

この問題では「事業と分離して」特許権Aが移転するので、通常実施権は移転しません。甲の通常実施権は甲に残り(ただし実施の基礎を失うので実質的に意味がなくなる)、丙には移転しません。


平成20年42(ニ)の状況

甲(後願)が乙(先願)の特許権について92条3項の裁定で通常実施権を得た。 乙も甲の特許権について92条4項の裁定で通常実施権を得た。 乙の特許権が事業と分離して移転したとき、甲の通常実施権は消滅するか?

答え:消滅しない(×)

理由

ここで問われているのは「乙の特許権(=甲が通常実施権を持っている対象の特許権)が移転した場合」です。

通常実施権は当然対抗制度(99条)により、特許権が移転しても通常実施権者は新特許権者に対抗できます。つまり、乙の特許権が丙に移転しても、甲は引き続きその特許発明を実施できます。

甲の通常実施権が消滅するのは、甲自身の特許権が事業と分離して移転した場合です(94条2項の反対解釈)。


両者の違いのポイント

項目 令和2年19(ホ) 平成20年42(ニ)
移転するのは 甲の特許権A(通常実施権の基礎) 乙の特許権(通常実施権の対象)
問われている効果 甲の通常実施権が丙に移転するか 甲の通常実施権が消滅するか
答え 移転しない 消滅しない
根拠 94条2項(事業と分離なので移転不可) 99条(当然対抗制度により存続)

要するに:

  • 自分の特許権(裁定の基礎)が事業と分離して移転 → 通常実施権は移転しない(94条2項)
  • 相手の特許権(通常実施権の対象)が移転 → 通常実施権は消滅しない(99条で対抗)

この違いを問うているわけです。

プロンプト:乙の当該通常実施権 って、どっちのことを指すの?甲からもらった裁定通常実施権のこと?それとも、乙自身がもともと持っていた方?

Claude Opus 4.5

するどい質問ですね。問題文をもう一度読み直してみましょう。

(ニ) …この場合、の当該通常実施権は、の当該特許権が実施の事業と分離して移転したときは、消滅する。

「乙の当該通常実施権」は、乙が92条4項で甲の特許権について得た通常実施権のことです。


状況を整理すると

  • :後願特許権者 → 92条3項で乙の特許権について通常実施権を得た
  • :先願特許権者 → 92条4項で甲の特許権について通常実施権を得た

問題文は「乙の当該通常実施権は、乙の当該特許権が…移転したときは、消滅する」と言っています。


この問題の構造

乙が持っている通常実施権(甲の特許権に対するもの)は、乙自身の特許権の実施のために得たものです。

94条2項によれば、92条の裁定通常実施権は「特許権の移転に伴って移転する」場合に移転できます。

ここで乙の特許権が事業と分離して第三者に移転した場合:

  • 乙は自己の特許権を失う
  • しかし乙が甲の特許権について持っていた通常実施権は乙に残る(移転しない)
  • でも乙にとってはもはや意味がない(自己の特許発明を実施する基礎がないから)

しかし「消滅する」わけではありません。 移転しないだけで、形式的には乙に残ります。


答え

(ニ)は**誤り(×)**です。

乙の特許権が事業と分離して移転しても、乙の通常実施権は「消滅」はしません。移転しないだけで乙に残ります(実質的には無意味になりますが)。


私の前回の説明の訂正

前回、「乙の特許権が移転」を「甲が通常実施権を持っている対象の特許権が移転」と読んでしまいましたが、正確には上記のとおり「乙が自己の実施のために必要だった乙自身の特許権が移転」という話でした。結論(×)は同じですが、理由が違いますね。失礼しました。

:

 

Gemini 3

(Geminiだけ間違えた回答をしてきたので、答えを教えて解説をやり直してもらった)

大変失礼いたしました!ご指摘の通りです。「92条」という一括りで考えてしまいましたが、平成20年の問題は**「対抗裁定(92条4項)」の枝であり、適用される条文が特許法第94条第5項**になるため、結論が変わります。混乱させてしまい申し訳ありません。改めて、**「なぜ一方は消滅し、もう一方は消滅しないのか」**を整理して解説します。


1. 2つの通常実施権の「移転ルール」の違い

この問題の鍵は、**「92条3項(通常の裁定)」「92条4項(対抗裁定)」**で、移転・消滅のルールが別々に規定されている点にあります。

① 令和2年 19(ホ) : 92条3項(通常の裁定)

  • 根拠条文: 第94条2項

  • ルール: 「特許権」+「実施の事業」とセットでなければ移転できない。

  • 分離した場合: 事業と分離して特許権だけ移転すると、通常実施権は消滅する。

  • 問題の結論: 「丙に移転する」とあるので、誤り(×)

② 平成20年 42(ニ) : 92条4項(対抗裁定)

  • 根拠条文: 第94条5項

  • ルール: その通常実施権者の「特許権」とセットで移転する。

  • ポイント: 条文(94条5項)には、2項のような**「実施の事業とともにしなければならない」という要件も、「事業と分離したら消滅する」という規定もありません。**

  • 分離した場合: 事業と分離して特許権が移転しても、通常実施権は特許権にくっついて移転し、消滅しません。

  • 問題の結論: 「消滅する」とあるので、誤り(×)


2. なぜ「対抗裁定(92条4項)」は事業と分離しても消滅しないのか?

ここが一番の「なぜ?」ですよね。制度の趣旨から考えると納得しやすくなります。

  1. 通常の裁定(92条3項):「自分の特許(A)を実施したいから、邪魔な他人の特許(B)を使わせてくれ!」という「お願い」から始まる権利です。**「事業を救う」**ことが目的なので、事業と切り離されたら存在理由がなくなり、消滅します。
  2. 対抗裁定(92条4項):「特許Bを使わせろと言われたから、代わりにこっちもあんたの特許Aを使わせろ!」という、いわば**「お返し(クロスの関係)」で発生した権利です。この権利は、相手に自分の特許を使わせるという「負担」に対する「見返り」としての性格が強いため、事業との密接度よりも、「自分の特許権とセットであること」**が重視されます。そのため、事業と離れても特許権が移転する限り、消滅せずに守られるのです。

3. まとめ表

今回の2つの問題を比較すると、以下のようになります。

項目 令和2年 19(ホ) 平成20年 42(ニ)
裁定の種類 92条3項(自ら請求) 92条4項(対抗して請求)
適用条文 94条2項 94条5項
事業との分離 消滅する 消滅しない
問題文の記述 「移転する」 「消滅する」
解答(正誤) 誤り(×) 誤り(×)

[!IMPORTANT]

試験対策のポイント

「裁定通常実施権の移転」が出てきたら、まず**「92条4項(対抗裁定)かどうか」**をチェックしてください。

  • 4項なら: 94条5項適用。事業は関係なし(特許権とセットならOK)。

  • それ以外なら: 94条2項適用。事業と分離したら消滅。


私の確認不足で最初にお騒がせしてしまいましたが、この「94条2項 vs 5項」のひっかけは非常に受験生が間違いやすいポイントです。今のうちにこの違いをクリアにできたのは、大きなアドバンテージになるはずです!

プロンプト:

「乙の特許権が移転」は、「甲が通常実施権を持っている対象の特許権が移転」の話?それとも、「乙が自己の実施のために必要だった乙自身の特許権が移転」という話?

Gemini 3:

非常に鋭い視点です!ここが特許法第94条の最もややこしい「主語」の問題ですね。結論から言うと、後者の「乙が自己の実施のために必要だった乙自身の特許権(特許権B)」が移転した話をしています。混乱を解くために、「誰の特許権」に「誰の実施権」がくっついているのか、整理して解説します。


1. 権利の「親子関係」で理解する

平成20年の問題(対抗裁定)のケースでは、乙は以下の状態にあります。

  • 親(本体): 乙自身の**「特許権B」**

  • 子(付属): 裁定でゲットした**「甲の特許権Aを使わせてもらう権利(通常実施権)」**

この通常実施権(子)は、単独で存在しているのではなく、乙の特許権B(親)に**「おまけ」**としてくっついているイメージです。

「乙の特許権が移転」とはどういう意味か?

問題文で「乙の当該特許権が……移転した」と言っているのは、**「親である特許権Bを、乙が誰か(第三者)に売った」**という状況を指しています。

このとき、おまけである「甲の特許権Aを使える権利(子)」がどうなるかというと……

  • 第94条第5項のルール: 親(特許権B)が移転するなら、子(実施権)も一緒についていく。「事業」と一緒かどうかは問わない(分離していても消滅しない)。


2. なぜ「甲の特許権」の移転ではないのか?

もし「甲の特許権A(使わせてもらう対象)」が移転した場合は、第99条(通常実施権の対抗力)の問題になります。

  • 甲が特許権Aを丙に売った場合: 乙は裁定による通常実施権を登録なしで丙に対抗できる(特許法第99条)。これは移転や消滅の話ではなく、「新しいオーナーにもそのまま使わせろと言えるか」という話になります。

今回の問題(94条)はあくまで、**「実施権を持っている人(乙)が、自分の持ち物(特許権B)を処分したときに、実施権も一緒に連れていけるか?」**を問うています。


3. 令和2年と平成20年の「主語」を並べて比較

混乱の正体は、この2問で「主語(実施権を持っている人)」の立ち位置が違うことです。

問題 実施権を持っている人 その人が元々持っている特許権(親) 移転した「当該特許権」とは
令2-19(ホ) (最初に裁定を請求した人) 特許権A 甲の特許権A
平20-42(ニ) (対抗して裁定を受けた人) 特許権B 乙の特許権B

どちらも「自分の特許権」を売った時の話

どちらの問題も、**「実施権をもらった側の人が、自分の特許権(事業のベースになる権利)を手放したときに、おまけの実施権はどうなるか?」**という同じ構図を、違う立場の人物(甲か乙か)で聞いているだけです。

  • 甲(通常裁定)の場合: 「自分の特許」と「事業」の両方をセットで渡さないと、おまけ(実施権)は消えちゃうよ。(94条2項)

  • 乙(対抗裁定)の場合: 「自分の特許」さえ渡せば、おまけ(実施権)は消えずに付いていくよ。事業はバラバラでも大丈夫!(94条5項)


まとめ

「乙の当該特許権」= **「乙がもともと持っていた、裁定のベースになった特許権B」**のことです。

対抗裁定でもらった権利は、自分の特許権との結びつきが非常に強いため、事業と切り離されても「特許権」さえ移転すれば生き残る(消滅しない)、という非常に珍しい特例ルール(94条5項)が適用されているわけです。

特100 差し止め請求権 「リガンド分子事件」

(差止請求権)
第百条 特許権者又は専用実施権者は、自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 特許権者又は専用実施権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(物を生産する方法の特許発明にあつては、侵害の行為により生じた物を含む。第百二条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。

Gemini:

「リガンド分子事件」は、日本の特許法において非常に重要な「差止請求権(特許法100条)」に関するリーディングケース(重要な判決)です。この事件は、特に「専用実施権を設定した後の特許権者に、差止請求権が残っているか?」という論点で知られています。


1. 事件の概要

  • 正式名称: 最高裁平成17年6月17日判決(平成16年(受)第997号)

  • 発明の内容: 「生体高分子・リガンド分子安定複合体構造の探索方法」という、コンピュータを用いた創薬支援プログラムに関する特許です。

  • 争点: 特許権者が、第三者に対して専用実施権(100%独占的なライセンス)を設定している場合、その特許権者自身はもう差止請求(100条1項)をすることができないのではないか?という点が争われました。

2. なぜこれが問題になったのか?

特許法には、以下の2つの条文の間に「矛盾」とも取れる関係がありました。

  • 特許法68条ただし書: 「専用実施権を設定したときは、特許権者はその範囲内で発明を実施することができない

    • → つまり、特許権者自身もその発明を使えない状態。

  • 特許法100条1項: 「特許権者は、自己の特許権を侵害する者に対し、侵害の停止又は予防を請求することができる

    • → 自分では実施できない(=損害が出にくい)はずの特許権者に、差し止める権利があるのか?

3. 最高裁の判断

最高裁は、「専用実施権を設定した特許権者であっても、差止請求権を行使できる」と明解に判断しました。

判断の主な理由

  1. 文言上の解釈: 100条1項には「特許権者は〜」と明記されており、専用実施権の設定によってその権利を失うという規定はない。

  2. 実質的な利益: 特許権者は、侵害者がいなくなれば、専用実施権者から入る実施料(ロイヤリティ)が増える可能性がある。また、将来的にライセンスが終わった際、市場が侵食されていると困るため、侵害を止める現実的な利益がある。


4. 100条2項(廃棄請求)との関連

質問された「100条に関連して」という点では、この事件は100条1項(差止)がメインですが、実務上は100条2項(侵害の予防に必要な行為=廃棄請求など)の解釈にも影響します。

特許法第100条2項

「特許権者は、前項の規定による請求(差止)をするに際し、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。」

このリガンド分子事件で差止請求が認められたことにより、特許権者は単に「やめろ」と言うだけでなく、侵害プログラムが保存されたメディアの廃棄なども(100条2項に基づいて)併せて請求できることが確定しました。


まとめ:ここを覚えよう!

知的財産管理技能検定や弁理士試験などの勉強において、「リガンド分子事件」と言われたら以下のセットで覚えておくと完璧です。

項目 内容
対象条文 特許法100条(差止請求権)
キーワード 専用実施権、特許権者の原告適格
結論 専用実施権を設定していても、特許権者は差し止めできる!

この判決があるおかげで、企業がライセンスビジネスを行っている最中でも、特許権者自らが侵害者を訴えてブランドや市場を守ることができるようになっています。

 

特094 通常実施権の移転 

(通常実施権の移転等)
第九十四条 通常実施権は、第八十三条第二項、第九十二条第三項若しくは第四項若しくは前条第二項、実用新案法第二十二条第三項又は意匠法第三十三条第三項の裁定による通常実施権を除き、実施の事業とともにする場合、特許権者(専用実施権についての通常実施権にあつては、特許権者及び専用実施権者)の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り、移転することができる。
2 通常実施権者は、第八十三条第二項、第九十二条第三項若しくは第四項若しくは前条第二項、実用新案法第二十二条第三項又は意匠法第三十三条第三項の裁定による通常実施権を除き、特許権者(専用実施権についての通常実施権にあつては、特許権者及び専用実施権者)の承諾を得た場合に限り、その通常実施権について質権を設定することができる。
3 第八十三条第二項又は前条第二項の裁定による通常実施権は、実施の事業とともにする場合に限り、移転することができる。
4 第九十二条第三項、実用新案法第二十二条第三項又は意匠法第三十三条第三項の裁定による通常実施権は、その通常実施権者の当該特許権、実用新案権又は意匠権が実施の事業とともに移転したときはこれらに従つて移転し、その特許権、実用新案権又は意匠権が実施の事業と分離して移転したとき、又は消滅したときは消滅する。
5 第九十二条第四項の裁定による通常実施権は、その通常実施権者の当該特許権、実用新案権又は意匠権に従つて移転し、その特許権、実用新案権又は意匠権が消滅したときは消滅する。
6 第七十三条第一項の規定は、通常実施権に準用する。

 

実施の事業とともにする場合 とは

Gemini:特許法第94条にある「実施の事業とともにする場合」という表現は、「その特許発明を使っているビジネス(工場、設備、スタッフ、ノウハウ、顧客リストなど)をセットで他人に譲り渡すこと」を指します。なぜこのような規定があるのか、具体例を交えてわかりやすく解説します。


1. 「実施の事業とともに」の意味

ここでいう「事業」とは、単なる「権利」ではなく、**「その発明を実際に形にするための具体的な組織や設備」**のことです。

  • 具体例:

    あなたがA社から「魔法の杖」を作るライセンス(通常実施権)を得て、専用の工場を建て、職人を雇って製造・販売していたとします。このとき、工場・機械・職人・販売網をひっくるめてB社に売却(事業譲渡)する場合が「実施の事業とともにする場合」に該当します。

なぜこれが認められているのか?

事業譲渡によって経営主体が変わっても、やっている中身(工場や設備)が同じであれば、特許権者にとって「誰が使っているか」というリスクに大きな変化がないと考えられています。また、事業を買った人がその特許を使えないと、せっかくの設備がムダになってしまい、社会的にも損失だからです。


2. 「事業とともにしない場合」とは?

これは、**「事業の実態(設備や組織)は手元に残したまま、ライセンスという『権利』だけを他人に売る(または貸す)」**というケースです。

  • 具体例:

    あなたは「魔法の杖」のライセンスを持っていますが、自分では作らず、あるいは作るのをやめて、その「ライセンスを使える権利」だけをC社に有償で譲ろうとする場合です。

なぜこれには「承諾」が必要なのか?

特許権者(発明の持ち主)からすると、「信頼しているあなただからライセンスを許したのに、全然知らない他人に勝手に権利を転売されるのは困る」からです。

「事業とともにしない」転売を自由に認めると、ライセンスが勝手に一人歩きしてしまい、特許権者のビジネスを脅かす可能性があるため、原則として特許権者の承諾を必須としています。


3. 移転パターンの整理

通常実施権の移転(譲渡)ができるケースを整理すると、以下のようになります。

移転のパターン 特許権者の承諾 備考
実施の事業とともに移転 不要(原則) 工場や部門ごとの譲渡(M&Aなど)
相続・合併(一般承継) 不要 会社が合併したり、個人が亡くなった場合
権利のみの移転 必要 「ライセンスだけ売ります」という場合

[!NOTE]

実務上は、ライセンス契約書の中で「事業譲渡であっても承諾を必要とする」といった特約を結ぶことが多いため、条文だけでなく契約内容もセットで確認するのが一般的です。


まとめ

  • 事業とともに: 「工場やスタッフごと、ビジネスを丸ごと譲る」こと。

  • 事業とともにしない: 「ビジネス実態は持ったまま、権利の枠だけを譲る(転売する)」こと。

「事業とともにする場合」は、実態がそのまま移動するだけなので特許権者に実害が少なく、逆に「権利のみ」の場合は特許権者のコントロールが効かなくなるため制限されている、と考えるとスッキリすると思います。

(Gemini)

プロンプト:特許権者から通常実施権をもらって事業を行っておきながら、特許権者に断りなく(承諾をえずに)、勝手に他人に事業まるごと通常実施権も含めてゆずっちゃっていいってこと?

Gemini: はい、驚かれるかもしれませんが、条文の字面通りに解釈すると、「実施の事業とともにする場合」は、特許権者の承諾(OK)をもらわなくても、勝手に他人に事業ごと譲り渡してよいということになります。

なぜ特許権者の承諾がいらないのか、その理由と「実務上の落とし穴」を整理しますね。


1. なぜ「承諾なし」で移転できるのか?(立法の理由)

特許法が「事業ごとならいいよ」と言っているのには、主に経済的な理由があります。

  • 設備のムダを防ぐ:

    ライセンスを受けて巨大な工場(事業)を作った後、その会社を誰かに売ろうとしたとします。もし特許権者が「移転はダメだ」と拒否したら、買った人はその工場を動かせなくなり、せっかくの設備がただの鉄くずになってしまいます。これは社会全体として大きな損失です。

  • 実態が変わらない:

    「事業ごと譲渡する」ということは、作っている場所や設備、働いているスタッフ、製造方法などはそのまま維持されるのが普通です。「誰がオーナーか」は変わりますが、特許権者から見て「ライセンスを与えたビジネスの中身」自体は大きく変わらないため、リスクが低いと判断されています。


2. 実務上の「超重要」な注意点(特約の存在)

ここが一番大事なポイントなのですが、法律(第94条1項)では「承諾不要」となっていても、実際のビジネスの現場では、勝手に移転できないことがほとんどです。

なぜなら、多くのライセンス契約(契約書)には、以下のような条項が入っているからです。

「本ライセンスは、事業の譲渡、合併、その他いかなる理由があっても、甲(特許権者)の事前の書面による承諾なしに第三者に譲渡することはできない

法律と契約の関係

  • 法律(特許法): 「原則として、事業ごとなら承諾なしで移転していいですよ」というデフォルト設定

  • 契約書: 「法律はそう言っているけど、私たちの間では『必ず承諾が必要』というルールにしましょう」という個別ルール

日本の法律では、この種のルールは契約(特約)で上書きできると考えられています。そのため、現実には「特許権者に黙って事業を売却し、ライセンスも一緒に引き継ぐ」ことは、契約違反になるリスクが非常に高いのです。


3. まとめ:承諾がいらないケースの整理

特許法第94条1項において、特許権者の承諾が「法律上」不要とされているのは、以下の2つのパターンです。

  1. 実施の事業とともにする場合(今回のケース:工場ごと売却など)

  2. 相続その他の一般承継の場合(会社の合併や、個人事業主の死亡による相続など)

これらは「権利だけが一人歩きして転売される」わけではなく、事業や会社としての同一性が保たれているため、特許権者の承諾を待たずとも移転が認められています。


知財の勉強を進める上で、「条文上の原則」と「契約での実務」のギャップを知っておくのはとても大切です!

(Gemini)

ある特定のケース(3項)では「承諾」や「相続」だけでの移転を認めず、「事業とともにする場合」のみに絞っているのか、その理由を整理するとスッキリします。


94条 1項 vs 3項 の比較表

まず、何が違うのかを整理しましょう。

項目 1項(通常のライセンスなど) 3項(不実施・公益の裁定)
対象 契約によるライセンス、先使用権など 不実施(83条2項)や公共の利益(93条2項)のために国から強制的に与えられたライセンス
移転条件 A:事業とともに OK OK
移転条件 B:権利者の承諾 OK NG(そもそも想定されない)
移転条件 C:相続・合併 OK NG

なぜ3項は「事業とともに」限定なのか?

3項で扱われるのは、特許権者が拒否しているのに、国が「特許を使わないのはもったいない(不実施)」や「社会のために必要だ(公益)」と判断して、強制的に誰かに与えたライセンス(裁定通常実施権)です。

1. 「権利の転売(ブローカー行為)」を防ぐため

もし、国から強制的に勝ち取ったライセンスを、「事業実態はないけれど、他人に売って儲ける(承諾移転)」ことができたらどうなるでしょうか?

それは本来の「発明を実施して社会を豊かにする」という目的から外れ、**「国から奪った権利を横流しする」**という不当なビジネスになってしまいます。

2. 特許権者を守るため

特許権者からすれば、ただでさえ「強制的に」使わされている相手です。「事業を引き継ぐなら仕方ないが、事業もしない他人に勝手に権利だけ渡されるのは、あまりにも負担が大きすぎる」と考えられています。

3. 「事業とともに」なら認める理由

逆に言えば、工場や設備(事業)をセットで譲り渡すのであれば、それは「その発明を世の中で活用し続ける」という裁定の目的に合致しています。だから、このケースだけは認めているのです。

第94条の4項と5項は、**「利用関係の裁定(第92条)」**という特殊な状況についてのルールです。1項や3項は「そのライセンスをどう動かすか」という話でしたが、4項・5項は**「自分の持っている特許(メインの権利)とセットでどう動くか」**という、さらに一歩踏み込んだ内容になっています。わかりやすく、登場人物を立てて解説します。


1. 前提:利用関係の裁定(第92条)とは?

  • Aさん: 「鉛筆」の特許を持っている。

  • Bさん: 「消しゴム付き鉛筆」の特許を持っている。

    • Bさんが「消しゴム付き鉛筆」を作ると、Aさんの「鉛筆」の特許を勝手に使ってしまうことになります(=利用関係)。

  • 裁定: Aさんが「使わせない!」と拒否しても、国がBさんに「Aさんの特許を使う権利(通常実施権)」を与えるのが92条3項の裁定です。


2. 第94条4項:利用する側(Bさん)のルール

Bさんが、国からもらった「Aさんの特許を使う権利」を誰かに譲りたい場合です。

ルール:

**「自分の特許(消しゴム付き鉛筆)」+「実施の事業」**の両方と一緒に移転しなければならない。

  • なぜか?:

    このライセンスは、Bさんが「自分の特許(消しゴム付き鉛筆)」を実施するために、特例でもらったものだからです。

    「消しゴム付き鉛筆の特許」は売るけど、「Aさんの鉛筆を使う権利」だけ手元に残す…といったバラ売りは絶対に認められません。また、3項と同様に「事業(工場など)」もセットである必要があります。

  • さらに厳しい罰則:

    もしBさんが「特許だけ」を他人に売って、事業を切り離したりすると、このライセンスは消滅してしまいます(=共倒れルール)。


3. 第94条5項:利用される側(Aさん)のルール

実は92条4項には、Aさんが「Bさんに使わせるなら、私にもBさんの消しゴム付き鉛筆を使わせなさいよ」と、逆ライセンス(クロスライセンス)を求める権利があります。これを受けたAさんのルールです。

ルール:

**「自分の特許(鉛筆)」**に従って移転する。

  • なぜか?:

    Aさんがもらった逆ライセンスは、Aさんの「鉛筆」の特許を守るための「おまけ」のようなものです。そのため、Aさんが「鉛筆」の特許を誰かに譲れば、この逆ライセンスも自動的に付いていきます。

  • 4項との違い:

    こちらは「事業とともに」という条件がありません。Aさんはもともと自分の特許を守る立場で受動的にライセンスを得た側なので、Bさん(4項)ほど厳しく縛られていないのです。


94条各項の「移転条件」まとめ

ここまでの内容をすべてまとめると、以下のようになります。

条項 ライセンスの種類 移転の条件(セットで譲るもの)
1項 通常の契約など 事業とともに / または承諾 / または相続
3項 不実施・公益の裁定 事業とともに のみ
4項 利用関係の裁定(受ける側) 自分の特許 + 事業とともに
5項 利用関係の裁定(逆側) 自分の特許 に従う

まとめ

  • 4項(Bさん): 「自分の特許」と「事業」の両方の道連れが必要。バラバラにすると権利が消えるほど厳しい。

  • 5項(Aさん): 「自分の特許」の移動に自動的にくっついていく。

「実施の事業とともに」という言葉に加えて、4項・5項では**「自分の特許権(親亀)が動くときは、ライセンス(子亀)も一緒に動く」**という親子関係のイメージを持つと理解しやすくなります。

(Gemini)

特072 利用関係

(他人の特許発明等との関係)
第七十二条 特許権者、専用実施権者又は通常実施権者は、その特許発明がその特許出願の日前の出願に係る他人の特許発明、登録実用新案若しくは登録意匠若しくはこれに類似する意匠を利用するものであるとき、又はその特許権がその特許出願の日前の出願に係る他人の意匠権若しくは商標権と抵触するときは、業としてその特許発明の実施をすることができない。https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000121#Mp-Ch_4-Se_1

特許法第72条は「自分の特許であっても、他人の先願(先に登録された権利)を利用していたり抵触していたりする場合は、勝手に実施しちゃダメですよ」という、後発の特許権者にとっては非常に厳しい条文です。

これを現実的にどうやって解決するのか、知財実務で取られる「6つの解決策」を優先度の高い順に解説します。


1. ライセンス交渉(実施許諾を得る)

最も一般的で穏便な解決策です。相手(先願の権利者)に「お金を払うので使わせてください」とお願いし、通常実施権を設定してもらいます。

  • メリット: 法的紛争を避けられ、すぐにビジネスを開始できる。

  • デメリット: 実施料(ロイヤリティ)を払い続ける必要がある。

2. クロスライセンス(物々交換)

前回の解説で少し触れた「お互いの特許を使い合う」契約です。もし、あなたが相手にとっても魅力的な特許を持っている場合、「私の特許を使わせる代わりに、あなたの特許も使わせて」と交渉します。

  • メリット: 実施料が無料(または格安)になることが多い。

  • デメリット: 相手が欲しがるような強力な特許を自分が持っている必要がある。

3. 設計変更(デザインアラウンド)

相手の特許の「請求の範囲(クレーム)」を精査し、その権利範囲から外れるように製品の仕様を変える方法です。

  • メリット: 相手にお金を払う必要がなく、完全に自立できる。

  • デメリット: 開発コストや時間がかかる。また、変更によって製品の性能が落ちるリスクがある。

4. 相手の特許を無効にする(無効審判・情報提供)

「そもそも、この相手の特許は登録されるべきではなかった(過去に似た技術があるなど)」という証拠を見つけ出し、特許庁に訴えて権利を消滅させる攻撃的な手法です。

  • メリット: 成功すれば、誰に気兼ねすることもなく自由に実施できる。

  • デメリット: 非常に高い専門性と費用、時間がかかる。失敗すると相手との関係が最悪になる。

5. 特許権そのものを買い取る(譲受)

ライセンスではなく、相手の特許権ごと買ってしまう方法です。相手がその事業から撤退しようとしている場合などに有効です。

  • メリット: その技術を独占できる。

  • デメリット: まとまった買収資金が必要。

6. 裁定(特許法第92条)― 最後の手段

これが前回の議論に出てきた「利用関係の裁定」です。

交渉を尽くしたけれど相手がどうしても首を縦に振らない場合、特許庁長官(または経済産業大臣)に対して、「公共の利益のため、あるいは不当な拒絶であるため、使わせるように命令してくれ」と申し立てる制度です。

  • メリット: 相手が拒否しても強制的にライセンスを得られる可能性がある。

  • デメリット: 認められるハードルが非常に高く、実務上は滅多に使われません(伝家の宝刀のような存在です)。


実務の流れイメージ

  1. まず相手の権利を徹底的に分析し、**「本当に抵触しているか?」**を確認する。

  2. 抵触しているなら、**「設計変更で逃げられないか?」**を検討する。

  3. 逃げられないなら、**「相手の特許を潰す弱点はないか?」を探しつつ、「ライセンス交渉」**を申し込む。

  4. 交渉が難航し、かつ社会的にどうしてもその製品が必要な場合に初めて**「裁定(92条)」**が視野に入る。


まとめ

第72条にぶつかった時は、**「お金で解決(ライセンス)」「知恵で解決(設計変更)」「力で解決(無効審判)」**のどれかを選ぶことになります。

この中で第94条4項・5項の話とつながるのは、「6. 裁定」によって得たライセンスの取り扱いだった場合ということですね。

特043 パリ優先権

パリ 同盟国における出願に関してもこれをこの洗顔のことを拡大された先願と呼びますか

結論から申し上げますと、パリ条約による優先権を主張していたとしても、その「優先日(外国での出願日)」は「拡大された先願(29条の2)」の判断基準日にはなりません。非常に重要な(そして実務家でも混同しやすい)ポイントですので、整理して解説します。


1. 結論:拡大された先願(29条の2)の基準日はいつか?
結論は**「日本への実際の出願日(日本出願日)」**です。
パリ条約上の優先権を主張していても、第29条の2(拡大された先願)の地位については、優先日(外国出願日)には遡及しません(さかのぼりません)。
* 外国での出願日: 新規性(29条1項)・進歩性(29条2項)の判断基準日にはなる。
* 日本での実際の出願日: 拡大された先願(29条の2)の地位が発生する日。
つまり、パリ条約の同盟国での出願そのものが日本における「拡大された先願」になるわけではなく、その後日本に出願された時点で初めてその地位を得ます。


2. なぜ優先日は適用されないのか?
この区別は、**「その発明がいつ日本国内で利用可能(あるいは公知)になったか」**という考え方の違いに基づきます。
| 項目 | 適用される条文 | 優先権主張の効果 | 理由 |
|—|—|—|—|
| 新規性・進歩性 | 第29条 | ある(遡及する) | あなたの発明を守るための権利(出願人の利益)なので、最初の外国出願日を基準にする。 |
| 拡大された先願 | 第29条の2 | ない(日本出願日が基準) | 他人の出願を排除するための「準公知」の効果(第三者の不利益)なので、実際に日本の特許庁に明細書が提出された日(=日本出願日)を基準にする必要がある。 |
イメージ解説:
「拡大された先願」とは、「出願されたけどまだ公開されていない、秘密の状態の発明(Secret Prior Art)」のことです。
外国に出願しただけでは、日本の特許庁にはその発明の内容(秘密)は存在していません。日本に出願書類が届いて初めて「日本国内にある秘密の先願」として扱われるため、優先権の効果は及ばないのです。


3. 具体的なタイムラインの例
以下のケースで、他人の出願(第三者出願)を排除できるかを見てみましょう。
* 2023年 1月 1日: Aさんがアメリカで出願(発明イ)
* 2023年 6月 1日: Bさんが日本で出願(発明イ)
* 2023年 12月 1日: Aさんが上記アメリカ出願に基づき優先権を主張して日本に出願
【判定】
Aさんの日本出願(12/1)は、Bさんの日本出願(6/1)にとって「拡大された先願」になるか?
* 答え:なりません。
* 理由: Aさんの「拡大された先願」としての地位は、実際の日本出願日である2023年12月1日から発生するからです。Bさんの出願(6/1)の方が早いため、Aさんの出願によってBさんの出願が29条の2で拒絶されることはありません。
   * (注:もしBさんの出願が12月2日だった場合は、Aさんの出願によって拒絶されます。)
4. 注意点:PCT出願の場合
これが少しややこしいのですが、**PCT出願(国際出願)**の場合は扱いが異なります。
* PCT出願の場合: 「国際出願日」が「日本出願日」とみなされます。
もしAさんがパリルート(直接日本に出願)ではなく、PCTルートで出願していた場合、その「国際出願日」が基準となります。ただし、それでも「優先日(基礎となる外国出願日)」までは遡りません。


まとめ
* パリ同盟国での出願そのものは、「拡大された先願」にはなりません。
* 優先権を主張して日本に出願しても、29条の2の効果は「実際の日本出願日」からスタートします(優先日には遡りません)。
* 「新規性・進歩性の判断(優先日基準)」と「拡大先願の判断(日本出願日基準)」は分けて覚える必要があります。
知財の勉強において、ここは非常によく出る「ひっかけポイント」ですので、しっかり区別しておくと得点源になります!

質権

特許を受ける権利は、質権の目的にできる?特許権は、質権の目的にできる?抵当権の目的には、どう?

このあたりは、短答試験で非常に引っかかりやすい「担保権」の論点ですね!
結論から言うと、**「何がOKで、何がダメか」**が法律(特許法)ではっきりと分かれています。
まずはパッと見てわかる比較表を作成しました。
質権・抵当権の目的になれるか?まとめ
| 対象 | 質権(しつけん) | 抵当権(ていとうけん) | 根拠条文 |
|—|—|—|—|
| 特許を受ける権利 | × できない | × できない | 第33条第2項 |
| 特許権 | ○ できる | × できない | 第95条 |
なぜ「特許を受ける権利」は質権にできないのか?
「特許を受ける権利」は、まだ審査を通るかどうかもわからない不安定な状態の権利です。
* 理由: もし質権を設定して、その後に拒絶査定が確定して権利が消滅してしまったら、質権者は担保を失ってしまいます。このような不安定なものを質権の対象にするのは、取引の安全上好ましくないため、第33条第2項で一律に禁止されています。
* 実務上の裏技: ただし、どうしても担保にしたい場合は、**「譲渡担保(じょうとたんぽ)」**という形式であれば、判例上認められています。
なぜ「特許権」は抵当権にできないのか?
これは特許法というよりは、民法のルールが関係しています。
* 抵当権のルール: 抵当権を設定できるのは、原則として**不動産(土地・建物)**や、特別の法律(船舶法や自動車抵当法など)で認められたものに限られます。
* 特許権の扱い: 特許権は「無体財産権(目に見えない権利)」であり、民法上の抵当権の対象には含まれていません。また、特許法の中にも「抵当権を設定できる」という規定はありません。
【補足】特許権の「質権」は抵当権に近い?
面白いのが、特許権に設定する**「質権」の性質です。
通常、質権(例えば質屋)は「物を預ける」必要がありますが、特許権の質権は「登録」**によって発生し、特許権者はそのままその技術を使い続けることができます(特許法95条)。
これは性質上、不動産の抵当権に非常に近い運用になっています。
知財勉強ノートからのアドバイス
短答試験では、以下のようなひっかけ問題がよく出ます。
> × 誤答例:
> 「特許を受ける権利は、移転することができるため、質権の目的とすることができる。」
>
→ 移転はできますが、質権はダメ!という**「移転はOK、質権はNG」**のコンビネーションが重要です。

質権とは? 読み方も

読み方は「しちけん」と読みます。
一言で言うと、**「借金のカタに物を預ける(または権利を確保する)仕組み」のことです。
一番身近でわかりやすい例は、「質屋さん」**です。
1. 質権(しちけん)の基本イメージ
質屋さんに時計を持っていってお金を借りる場面を想像してください。
* 質権設定者(あなた): 時計を預けてお金を借りる人。
* 質権者(質屋さん): お金を貸して、担保として時計を預かる人。
* もし返せなかったら: 質屋さんはその時計を売って、貸したお金を回収します(これを優先弁済といいます)。
このように、**「物を相手に渡して(占有を移して)担保にする」**のが質権の本来のルールです。
2. 質権と抵当権の違い
前回の回答で「抵当権(ていとうけん)」についても触れましたが、この2つの最大の違いは**「その物を手元に置いておけるかどうか」**です。
| 項目 | 質権(しちけん) | 抵当権(ていとうけん) |
|—|—|—|
| イメージ | 質屋さん | 住宅ローン |
| 物を誰が持つか | 債権者(お金を貸した人)に預ける | 債務者(借りた人)が持ち続ける |
| 対象物 | 時計、宝石、不動産、特許権など | 主に不動産(土地・建物) |
3. 特許法における「質権」の特殊ルール(重要!)
特許権を質権の目的にする場合、普通の質権とは違う**「特許法ならではのルール」**があります。ここが短答試験によく出ます。
① 「登録」が効力の発生条件
特許権は目に見えないので、質屋さんのように「はい、特許を預かります」と物理的に渡せません。そのため、特許庁の**「特許原簿」に登録**することで、初めて質権としての効力が発生します。
② 質権を設定しても、特許を使える(第95条)
民法のルール(質屋さん)では、預けた時計を自分で使うことはできません。
しかし、特許法では**「契約で別段の定めをしない限り、特許権者はその発明を自分で実施(使用)してもいいですよ」**というルールになっています。
> ポイント:
> 特許法上の質権は、名前は「質権」ですが、実態は**「手元に置いて使い続けられる」という抵当権に近い性質**を持たせているのです。
>
4. なぜ「特許を受ける権利」はダメだったのか?
前回の復習になりますが、なぜ「特許を受ける権利」は質権にできなかったか、もう一度整理しましょう。
* 理由: 質権の最終目的は「もしもの時に売って(競売して)お金に換えること」です。
* リスク: 「特許を受ける権利」は、審査で拒絶された瞬間に価値がゼロになります。そんな不安定なものを担保にしてお金を貸すと、貸した側(質権者)が大きな損をする可能性があるため、法律で禁止されています。
知財勉強ノートからのアドバイス
質権の問題が出たら、**「物理的に相手に渡すのが原則(民法)」だけど、「特許権の場合は登録が必要で、例外的に自分で使い続けられる(特許法)」**とセットで覚えておきましょう。

質権と抵当権の違いは?

質権(しちけん)と抵当権(ていとうけん)は、どちらも「借金の担保」という点では同じですが、**「その物を誰が持っておくか」**という点が決定的に違います。
一言で言うと、「預けるのが質権」、**「預けないのが抵当権」**です。
1. 質権と抵当権の比較表
まずはこの表で全体像をつかんでください。
| 項目 | 質権(しちけん) | 抵当権(ていとうけん) |
|—|—|—|
| 占有(誰が持つか) | 債権者(お金を貸した人) | 債務者(お金を借りた人) |
| 使用(誰が使うか) | 原則として誰も使えない | 債務者が使い続けられる |
| 対象となるもの | 動産(時計等)、不動産、権利(特許権等) | 不動産、特定の動産(自動車等) |
| 身近な例 | 質屋さん | 住宅ローン |
[Image showing the difference between pledge and mortgage regarding possession and usage]
2. 決定的な3つの違い
① 占有(せんゆう)の移転
* 質権: お金を借りる際、担保となる物を相手に渡さなければなりません。これを「占有の移転」といいます。
* 抵当権: 家や土地を担保にしても、そのまま住み続けることができますよね。相手に物を渡す必要がなく、手元に置いたままにできます。
② 使用・収益
* 質権: 原則として、預かっている側(質屋など)はその物を使ってはいけません。
* 抵当権: 借りた人がそのまま使い続け、そこから利益(アパート経営など)を得ることも自由です。
③ 対象物(ここが弁理士試験のキモ!)
* 質権: 動産、不動産、権利(特許権など)が対象になります。
* 抵当権: 原則として不動産のみです。特許権や特許を受ける権利には、抵当権を設定することはできません。
3. なぜ特許法には「質権」しかないのか?
ここで疑問が湧くはずです。「特許権は手元に置いて使い続けたいんだから、抵当権の方が便利じゃないの?」と。
実は、特許法第95条がその不便さを解消しています。
> 特許法第95条(抄):
> 質権が設定された場合でも、契約で別段の定めをしない限り、特許権者はその発明を実施することができる。
>
本来、質権は「預けるもの」なので自分では使えないはずですが、特許法では**「質権という名前だけど、抵当権みたいに手元で使い続けていいよ」**という特別なルールを作ったのです。
これにより、実質的に「特許権の抵当権」のような運用が可能になっています。
まとめ:短答試験対策のポイント
* 特許権:質権○、抵当権×
* 特許を受ける権利:質権×、抵当権×(不安定だから)
* 質権の特徴:本来は「預ける」ものだが、特許法では「設定しても自分で実施できる(95条)」
「質権」と「抵当権」のイメージは沸きましたか?

ついでに、譲渡担保とは?

「譲渡担保」の読み方は、**「じょうとたんぽ」**です。
これは一言で言うと、**「お金を返すまでの間、物の所有権(名義)をごっそり相手に渡してしまう担保の形」**のことです。
「質権」や「抵当権」は民法に書き込まれたルールですが、譲渡担保は慣習として認められてきた、少し特殊な担保です。特許の世界では非常に重要な役割を持っています。
1. 譲渡担保の仕組み
例えば、あなたが自分の「特許権」を担保にお金を借りる場合を考えます。
* 契約: あなた(債務者)は、お金を貸してくれる人(債権者)に特許権の名義を移転します。
* 状態: 形式的には「相手のもの」になりますが、あなたはそのままその特許を使い続けることができます。
* 返済: お金をすべて返せば、名義をあなたに戻してもらえます。
* 不履行: もしお金が返せなかったら、相手はそのままその特許を自分のものにするか、売却して借金をチャラにします。
[Image concept: Diagram showing ownership moving from A to B during the loan, and returning after repayment]
2. なぜ「質権」があるのに「譲渡担保」を使うの?
ここが試験に出るポイントです。
実は、前々回の回答で出てきた**「特許を受ける権利(出願中の状態)」は、法律(特許法33条2項)で質権の目的にすることが禁止**されていましたよね。
しかし、実務上は「出願中のアイデアを担保にお金を借りたい!」というニーズがあります。
* 質権: 法律で禁止されているのでダメ。
* 譲渡担保: 法律で禁止されていないのでOK!
つまり、「特許を受ける権利」を担保にしたいときの唯一(に近い)の手段が、この譲渡担保なのです。
3. 「質権」と「譲渡担保」の比較
短答試験の知識を整理しましょう。
| 項目 | 質権(しちけん) | 譲渡担保(じょうとたんぽ) |
|—|—|—|
| 名義(所有権) | あなたのまま(制限がつく) | 相手に移る |
| 特許を受ける権利 | × できない(33条2項) | ○ できる(判例・実務) |
| 特許権 | ○ できる(95条) | ○ できる |
| 登録の必要性 | 必要 | 必要(移転登録として行う) |
4. 知財勉強ノート流・覚え方のコツ
* 質権: 「私のものだけど、借金のカタにロックをかける」イメージ。
* 譲渡担保: 「いったん相手のものにするけど、返したら返してねという約束」イメージ。
試験対策としては、**「特許を受ける権利 = 質権はダメ、譲渡担保はイケる」**という組み合わせが、短答試験の「正しいものはどれか」系の問題で非常によく出ます。
今回のまとめ
ここまでで「担保」三兄弟が出揃いました。
* 質権: 権利にロックをかける。特許権は○、受ける権利は×。
* 抵当権: 不動産用。特許の世界では×。
* 譲渡担保: 名義ごと渡す。受ける権利も○。
この違い、整理できましたか?
短答試験(枝別過去問)では、ここまでの知識を組み合わせて「AはBに対して特許を受ける権利に質権を設定した。これは適切か?」といった形で攻めてきます。
次は、これらの権利を「誰かと共有している場合」に、一人で勝手に担保に入れられるかどうか、確認してみますか?(これも超頻出です!)

承継って何?特許法第34条第4項を説明して。承継って、かならず特許庁長官に届け出が必要?届けずに特許出願しても、拒絶されるだけ?

「承継(しょうけい)」という言葉は、日常ではあまり使いませんが、知財の世界では**「バトンタッチ」**だと考えると分かりやすくなります。
特に特許法34条は、短答試験で「出願前」と「出願後」の違いを入れ替えて受験生を翻弄してくる要注意ポイントです。
1. 承継(しょうけい)とは?
「承継」とは、特定の権利や義務を、前の人から引き継ぐことを指します。
* 一般承継(いっぱんしょうけい): 相続や会社の合併など、まとめて全部引き継ぐこと。
* 特定承継(とくていしょうけい): 売買や譲渡など、特定の権利だけをピンポイントで引き継ぐこと。
2. 特許法第34条第4項を噛み砕いて説明
この条文は、**「出願した『後』に、特許を受ける権利を誰かに譲った(特定承継した)場合」**のルールです。
> 特許法第34条第4項(超訳):
> 特許を出願した後に、その権利を誰かに譲っても、特許庁長官に「届け出」をしない限り、その譲渡はなかったものとみなすよ。(=効力が発生しない)
>
なぜこのルールがあるのか?
特許庁側からすると、「今、誰がこの出願の本当の持ち主なのか」がハッキリしていないと、審査の結果を誰に送ればいいか分からなくなって困るからです。だから、**「届け出を出すまでは、新しい持ち主とは認めない!」**という強いルールにしています。
3. 承継のタイミングと「届け出」の必要性
ご質問の「必ず届け出が必要?」という点については、タイミングによって答えが変わります。ここが試験で一番狙われるところです。
| タイミング | 承継の種類 | 届け出(特許庁への手続)の扱い |
|—|—|—|
| 出願前 | すべて | 届け出という概念はありません。「正しい承継人」の名前で出願すればOKです。 |
| 出願後 | 特定承継(売買など) | 届け出をしないと、名義変更の効力が出ません(34条4項)。 |
| 出願後 | 一般承継(相続など) | 効力はすぐに発生しますが、遅滞なく届け出をする必要があります(34条5項)。 |
4. 届け出ずに特許出願しても「拒絶」されるだけ?
ここが少し複雑ですが、非常に鋭い質問です。2つのパターンに分けて解説します。
パターンA:出願「前」に承継したのに、間違った人が出願した場合
例えば、会社が発明者(社員)から権利を譲り受けたのに、社員の名前で出願してしまった場合などです。
* 結果: これは**「冒認出願(ぼうにんしゅつがん)」**と呼ばれ、**拒絶理由(49条7号)**になります。
* 理由: 「特許を受ける権利を持っていない人」が出願してしまったからです。
パターンB:出願「後」に譲ったのに、名義変更(届け出)を忘れた場合
* 結果: 拒絶されるのではなく、**「特許庁からは、元の持ち主のまま扱われる」**ことになります。
* リスク:
   * 審査の通知(拒絶理由通知など)が、新しい持ち主ではなく**「元の持ち主」に届いてしまう**。
   * そのまま特許になった場合、「元の持ち主」の名前で登録されてしまう。
   * 後から慌てて直そうとしても、手続きが非常に煩雑になります。
5. まとめ:知財勉強ノートのチェックポイント
短答試験でこの問題が出たら、以下のステップで考えてください。
* それは**出願「前」の話か、「後」**の話か?
* 「後」の話なら、**売買(特定承継)**か、**相続(一般承継)**か?
* 売買なら**「届け出が効力発生の条件(34条4項)」**。届け出なきゃゼロと同じ!
知財勉強ノートからのアドバイス
「承継」の論点は、今回の**34条(受ける権利)と、後の章で出てくる98条(特許権)**のルールを混ぜて出題されるのが定番です。
* 受ける権利:届け出をしないと効力が発生しない(34条4項)
* 特許権:登録をしないと効力が発生しない(98条1項1号)

(Gemini)