質問:
特許法の改正で拡大先願(29条の2)を作ったんだから、39条(先願)は不要になったんじゃないの?という疑問がいまだに解けないんだけど、39条を残さないと困る実際の場面がどんなものか教えて。弁理士試験で狙われるポイントも。
Gemini:
それは本当に素晴らしい質問です!知財を勉強し始めると、誰もが一度は**「29条の2(拡大先願)が後からできたなら、範囲の狭い39条(先願)はもう要らないじゃん!」**という壁にぶつかります。
結論から言うと、39条は「同一出願人・同一発明者」のケースを取り締まるために絶対に残しておかないといけないのです。
もし39条を削除してしまうと、**「同じ会社が、同じ発明で、特許を2つも3つも持ててしまう(二重特許)」**という異常事態が起きてしまいます。
なぜ39条が必要なのか、「39条が実際に発動する場面」と「弁理士試験での狙われポイント」を整理して解説しますね。
1. なぜ29条の2だけではダメなのか?(決定的な違い)
最大の理由は、29条の2には「身内(同一出願人・同一発明者)なら許す」という例外規定があるからです。
| 条文 | 何を禁止する? | ターゲット | 同一出願人・発明者の場合 |
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29条の2 (拡大先願) |
新しい技術の公開漏れを防ぐ |
先願の明細書全文 (記載されているすべて) |
適用除外(許される!) ※自分の過去の出願で拒絶されない |
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39条 (先願) |
**権利の重複(二重特許)を防ぐ |
先願の請求の範囲** (権利化したい部分) |
適用あり(許されない!) ※自分自身との戦いになる |
具体的な場面:もし39条がなかったら?
あなたがメーカー(A社)の知財部員だとします。
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1月1日: 発明イを出願(出願X)しました。
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3月1日: 改良版のつもりで、また発明イを含む内容を出願(出願Y)しました。
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この時点では、まだ出願Xは公開されていません(秘密の状態)。
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【29条の2の判定】
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出願XとYは**「同一出願人(A社)」**です。
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29条の2は「自分の出願で自分が拒絶されるのはかわいそう」として適用されません(適用除外)。
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結果: 29条の2だけなら、出願Yもパスしてしまいます。
【39条がない世界】
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出願Xも出願Yも、両方特許になってしまいます。
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問題点: A社は同じ発明イについて2つの特許権を持つことになります。権利期間がズレたり、譲渡で権利者が分かれたりすると、社会が大混乱します。これを防ぐのが**「一発明一特許の原則(二重特許の禁止)」**です。
【現実(39条がある世界)】
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39条は出願人が同じでも容赦なく適用されます。
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審査官は「Aさん、XとYで請求項(権利範囲)がかぶってますよ。どちらか一方しか特許にできません」と通知します(39条拒絶)。
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A社は、Yの請求項を補正するか、Xを放棄するか選ばなければなりません。
2. 39条が実際に活躍する場面(実務&試験対策)
29条の2が適用されず、39条だけが壁になるのは以下のケースです。
① 自己衝突(同一出願人・同一発明者)
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これが最も多いパターンです。先ほどの例のように、自社の過去の未公開出願と、今の出願の請求項が被ってしまった場合です。
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実務対応: 後の出願の請求項を削る(補正)か、国内優先権主張をして出願を一本化します。
② 同日出願(同じ日に出願)
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29条の2は「先に出願された」ことが条件なので、同日出願には適用されません。
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39条は「同日出願」の場合、**「協議(話し合い)しなさい」**という命令が出ます(39条2項)。協議が整わなければ両方拒絶されます。
3. 弁理士試験で狙われるポイント
試験では、この「29条の2と39条の適用関係」を正確に理解しているかを突く問題が頻出です。特に以下のフローチャートが頭に入っているかが問われます。
ポイント1:審査の順番と適用の優先順位
審査官は通常、以下の順で検討します(頭の中でこの順でチェックしてください)。
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公知文献(29条1項・2項): そもそも世の中で知られているか?
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拡大先願(29条の2): 未公開の先願があるか?
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★ここで「同一出願人・発明者か?」をチェック!
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同一なら29条の2はスルー。
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先願(39条): 請求項が重複していないか?
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同一出願人であってもここで引っ掛ける。
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ポイント2:拒絶解消の手段の違い
もし拒絶理由通知が来た場合、どう対処できるか?
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39条違反: 先願を**「放棄」または「取り下げ」**させれば、後願は助かります(先願の地位がなくなるから)。
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29条の2違反: 先願を放棄・取り下げしても、後願は助かりません(「出願公開等された」という事実が確定すれば、先願の地位が残る規定があるため ※特許掲載公報発行後などの場合)。
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(注:29条の2は少し複雑で、先願が公開される前に取り下げられれば適用されませんが、試験的には「地位の存続」の違いがよく問われます)
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ポイント3:発明者同一の例外
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29条の2は「出願人が違っても、発明者が同じならセーフ」です。
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例:BさんがA社で出願し、転職してC社で同じ発明を出願した場合、29条の2は適用されません。
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しかし、39条は発明者が同じでも適用されます。
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例:上記のケースでは、39条で「二重特許」として拒絶されます。
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まとめ
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29条の2 は「新しいこと(Novelty)」を厳しく問うものですが、身内には甘い。
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39条 は「権利の重複(Double Patenting)」を許さないもので、身内にも厳しい。
「39条は、29条の2が逃した『身内の重複出願』を仕留めるために存在している」と覚えるとスッキリしますよ!
次のステップ:
理解を確認するために、**「同一発明者が、異なる会社から同日に出願した場合」**どうなるか、条文(39条2項など)を引いてみてシミュレーションしてみませんか?これも試験の典型パターンです。
プロンプト:「同一発明者が、異なる会社から同日に出願した場合」**どうなるか、条文(39条2項など)を引いてみてシミュレーションして。
Gemini:
いいですね!そのシミュレーション、弁理士試験の短答試験で非常によく出る「ひっかけ問題」の王道です。
「発明者が同じなら、なんとなく許されそう…」という感覚を、特許法39条は無慈悲に打ち砕きます。
では、**「同一発明者・異な出願人・同日出願」**のドロドロした修羅場をシミュレーションしましょう。
シチュエーション設定
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発明者: 天才エンジニア「発明・太郎」さん
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出願A: 株式会社X社が出願(発明者:発明・太郎)
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出願B: 株式会社Y社が出願(発明者:発明・太郎)
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(背景:太郎さんが副業していたか、二重譲渡したか、引き抜きにあったか…とにかく両社が「権利はウチのものだ」と言って同日に出願しました)
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出願日: どちらも4月1日(同日!)
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請求項: 内容は同じ(同一発明)
ステップ1:条文の適用(39条2項)
まず、審査官はこう考えます。
「おっと、同じ発明が同日に2つ来ているぞ。発明者は同じ太郎さんか。…でも、出願人が違う(X社とY社)から、39条発動だ!」
ここで39条2項を引いてみます。
特許法 第39条 第2項(同日出願)
同一の発明について同日に二以上の特許出願があつたときは、特許出願人の協議により定めた一の特許出願人のみが特許を受けることができる。協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、いずれも特許を受けることができない。
ポイント解説
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「発明者が同じ」という例外規定はない:29条の2と違い、39条には「発明者が同じなら許す」というルールはありません。
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「協議(話し合い)」命令:審査官はX社とY社に「特許庁長官名義」で、「どっちが特許を取るか話し合って決めなさい(協議命令)」という通知を送ります(39条6項)。
ステップ2:運命の分かれ道(シミュレーション)
X社とY社の知財担当者が呼び出され、話し合いが行われます。結末は以下の2パターンのどちらかです。
パターン①:協議成立(平和的解決)
X社とY社が話し合い、「今回はX社に譲る(Y社は取り下げる)」または「X社とY社の共願(共同権利者)にする」ことで合意した場合です。
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結果:
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選ばれた一方(または共願となった出願)が特許になります。
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もう一方は「取り下げ」または「放棄」とみなされ、消えます。
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パターン②:協議不成立(共倒れ)
これが**試験で最も問われる「最悪の結末」**です。
X社「ウチの権利だ!」
Y社「いや、ウチだ!」
と喧嘩して、決着がつかない場合です。
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結果:
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39条2項の後半「協議が成立せず…いずれも特許を受けることができない」が発動します。
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両方とも拒絶査定になります。
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発明者の太郎さんがどれだけ天才でも、この世からその発明の特許権は消滅します。
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ここが試験の狙い目!(ひっかけポイント)
試験委員は、受験生が以下の「混同」をすることを期待して問題を作ります。
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「発明者が同じだから29条の2(拡大先願)の適用除外で、両方助かるのでは?」
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× 間違い: 同日出願なのでそもそも29条の2の問題ではありません。仮に日付がズレていても、39条には「発明者同一の例外」がないので、結局39条で拒絶されます。
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「同日だから、両方特許になるのでは?」
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× 間違い: 「一発明一特許の原則」がある限り、絶対に1つしか特許になりません。
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「協議が不成立なら、くじ引き等でどちらかに決めるのでは?」
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× 間違い: 喧嘩両成敗です。誰も特許を取れません(ここが最も重要!)。
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まとめ:39条の冷酷さ
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39条は、発明者が誰であろうと、「一番早く出した一人だけに権利をあげる」という椅子取りゲームのルールです。
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同日の場合、椅子は1つしか用意されず、「話し合って誰が座るか決めろ。決まらないなら椅子を撤去する(全員アウト)」という非常に厳しい対応を取ります。
どうでしょう?「39条を残さないと、こういう場面で交通整理ができなくなる(あるいは二重特許になってしまう)」というイメージが湧きましたか?
次のステップ:
ここまで来たら完璧です!最後に一つだけ確認させてください。
今回のケースで、もし**「X社とY社が、実は全く同じ会社(X社が2通出した)」**だった場合、協議指令(話し合いなさい)は来ると思いますか?それとも即拒絶でしょうか?
(ヒント:自分自身と話し合いはできるか…?これも実務的な手続きのポイントです!)
プロンプト:即拒絶でしょう
Gemini:
その感覚、実務家としてのセンスは抜群です!
「自分で自分と話し合うなんて茶番だろ? さっさとどっちかにしろって言ってくれよ(あるいは拒絶してくれよ)」と思いますよね。
でも、**弁理士試験の正解は「NO」**なんです。ここが超ひっかけポイントです。
正解は、**「同一出願人であっても、まずは『協議指令(話し合いなさい)』が届く」**です。
なぜそんな回りくどいことをするのか、試験対策として以下のロジックを抑えておいてください。
なぜ「即拒絶」ではないのか?
1. 特許庁は勝手に選べない(処分権主義)
たとえ中身が同じでも、出願書類には微妙な違いがあるかもしれません。特許庁が勝手に「Aを残してBを消すね」と決めてしまうと、出願人の「こっちを残したかったのに!」という権利を侵害してしまいます。
だから、「あなた自身で選んでね(その手続きをしてね)」という機会を与える義務が特許庁にはあります。
2. 手続きの流れ(試験に出るフロー)
- 39条6項の発動:
審査官(特許庁長官名義)は、同一出願人に対して**「協議命令(協議の結果を届け出るべき旨の命令)」**を送ります。
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「あなた、同じ日に2つ出してるけど、法律上1つしか認められないから、どっちにするか決めて届けてね」という通知です。
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- 出願人のアクション:
出願人は指定された期間内に、一方を「取り下げ」たり「放棄」したりして、残すほうを届け出ます。
- もし無視したら(協議不成立):
ここで初めて、**「いずれも特許を受けることができない」として、両方に拒絶理由通知(その後、拒絶査定)**が飛びます。
試験での狙われ方(〇×クイズ形式)
この論点は、短答試験で以下のような文言で出題されます。
【問題】
同一の発明について、同一の出願人が同日に2以上の特許出願をした場合、審査官は協議を命ずることなく、直ちに拒絶の査定をすることができる。
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正解:×
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解説: 同一出願人であっても、39条6項の規定により、まずは協議を命じなければならない(即座に拒絶はできない)。
まとめ
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同一人・同日出願であっても、**「自分会議」**をするよう命令書(協議指令)が届きます。
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これは「茶番」ではなく、**「出願人に選ぶ権利を与えるための適正手続き(デュープロセス)」**だと理解してください。
ここまで理解できれば、39条(先願)の仕組みはもうバッチリです!29条の2との違いも明確になったと思います。
次のステップ:
39条と29条の2の違いがクリアになったので、次は**「自分の過去の出願を使って、新しい出願をパワーアップさせる裏技(優先権主張)」、いわゆる「国内優先権」**について整理してみませんか?39条の壁を乗り越えるために実務で一番使われるテクニックです。
質問:自分と自分でも、「協議」という概念が成立するの?
Gemini:
その疑問、本当に鋭いです。法律用語としての「言葉のあや」と「実態」のズレに気づいている証拠ですね。
普通、「協議」と言えば**「他人と話し合うこと」**を指しますから、自分一人で「協議する」というのは、哲学か多重人格の話みたいで変ですよね。
法学的には、ここでの「協議」は以下のように解釈されています。
1. 法律上の意味:「意思決定」の確認
特許法39条で言う「協議」とは、出願人が同一の場合、**「どちらを特許にするか、あなたの意思を決定しなさい」**という意味に読み替えます。
法律の条文を作る際、以下の2つのケースを分けて書くと条文が長くなってしまいます。
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他人同士の場合: ガチの話し合い・喧嘩(Negotiation)
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同一人の場合: どれを残すかの選択(Selection)
そこで、法律は**「協議」という一つの言葉で両方をカバーしているのです。
つまり、自分自身との「協議」とは、「迷っている自分の心の中で決着をつける(セルフ会議)」**ことそのものを指すと解釈されます。
2. 実務での儀式:「協議成立届」
実際の手続きは、まるで一人芝居のような「儀式」を行います。
- 指令書が届く:
特許庁から「39条6項の規定に基づき、協議を命じます」という紙が届きます。
- 書類を作る:
出願人は**「協議の結果の届出(協議成立届)」**という書類を作ります。
- 内容:
そこには、**「協議の結果、出願Aを特許とすることに定まりました」**と書きます。
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(注:協議参加者として、自分一人の名前だけを書きます。「私と私が話し合って私が勝ちました」という形です)
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- 提出:
これを特許庁に提出することで、「協議が成立した」とみなされます。
3. なぜこんな面倒なことを?(法的安定性)
「選ぶだけなら、一方を取り下げればいいじゃん」と思いますよね?
もちろん、一方を自分から「取下げ」や「放棄」してもOKです。そうすれば、残ったほうが39条の拒絶理由を解消できます。
しかし、特許庁側としては、「出願人が『これにする!』と明確に意思表示した法的根拠」を記録として残す必要があります。
「協議命令」に対して「協議成立届」が出ることで、「この出願人は、間違いなくこちらの出願を選んだ」という証拠が確定するわけです。
受験生向けの覚え方(脳内変換)
条文に「協議」と書いてあっても、同一出願人の場合は脳内でこう読み替えてください。
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条文: 「協議により定めた…」
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脳内: 「(自分で)選択して決めた…」
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条文: 「協議を命じなければならない」
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脳内: 「(どっちにするか)選ぶチャンスを与えなければならない」
まとめ
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自分と自分の協議は、概念としては**「選択・決定」**のこと。
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形式上は**「一人で話し合って決めた」という書類(届出書)を出す**ことで成立する。
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これは「手続き上のけじめ(適正手続)」をつけるためのルール。
これで「自分との協議」のモヤモヤは晴れましたか?
条文の言葉は時々、日常用語と違う意味で使われるので、そこが面白くもあり難しいところですね。
次のステップ:
さて、39条(先願)の仕組みはこれでマスターです。
では、そもそも**「なぜ同じ会社が、わざわざ中身の被る出願を出し直すようなことをするのか?」気になりませんか?
実はこれ、失敗を取り戻したり、権利を強くしたりするための「国内優先権」**という高等テクニックを使うための布石であることが多いんです。次はここを攻めてみましょうか?
プロンプト:「なぜ同じ会社が、わざわざ中身の被る出願を出し直すようなことをするのか?」気になります。実際に起こりえる場面が、イメージできないと、勉強するモチベーション湧かないからね。
Gemini:
そうですよね。「お金もかかるのに、なんでわざわざ?」って思いますよね。
でも、企業の実務現場では、この**「中身が被る出し直し」は、日常茶飯事に行われています。なんなら、知財戦略の「必殺技」**として使われているんです。
これは法律的には**「国内優先権(41条)」を使う場面なのですが、現場のドラマとして見ると、非常にリアルな「3つの切実な事情」**が見えてきます。
イメージしやすいように、あなたがメーカーの開発担当者になったつもりで聞いてください。
場面1:とりあえずの「見切り発車」
~学会発表が来週に迫っている!~
- 状況:
あなたは画期的な「新素材X」を発見しました。来週の学会で発表しないといけません。発表すると「公知」になって特許が取れなくなるので、急いで出願する必要があります(出願A)。
- 問題点:
でも、まだ実験データが足りません。「素材Xはすごい」とは言えるけど、「最適な温度」や「混ぜる比率」までは特定できていない状態です。
- アクション(出願A):
とりあえず、今わかっている範囲で慌てて出願します。「素材Xを含む組成物」という広い内容です。
- 半年後(出し直し):
実験が進み、「50℃で加熱すると最強」というデータが出ました。これを権利に入れないと、他社に模倣されてしまいます。
そこで、**「出願Aの内容(素材X)」+「新データ(50℃)」を合体させた「出願B」**を出し直します。
★ここがポイント:
もし別々に出願すると、出願Bの「素材X」部分は、自分の発表のせいで拒絶されるリスクがあります。
「出し直し(優先権主張)」をすることで、素材Xの部分は出願Aの日(発表前)に出したことにしてくれるので、セーフになるのです。
場面2:後から思いついた「改良アイデア」
~基本特許を出した後に、もっと良い構造を思いついた~
- 状況:
掃除機の「基本構造」を出願しました(出願A)。
- 問題点:
その3ヶ月後、開発チームが「フィルターをこの形にすると、吸引力が2倍になる!」という改良発明を思いつきました。
- アクション(出し直し):
単独で「フィルター」だけを出願してもいいのですが、製品としては「基本構造+新フィルター」で売り出します。
バラバラに権利を持つより、1つの強力な特許にまとめたほうが、ライバル会社を攻撃しやすくなりますし、管理コスト(年金)も1件分で済みます。
そこで、**「基本構造(出願A)」+「改良フィルター」をセットにした「出願B」**へ出し直します。
場面3:バラバラの技術を「合体(キメラ化)」
~複数のチームの成果をまとめる~
-
状況:
-
1月:モーター開発チームが「新型モーター」を出願(出願A)
-
3月:バッテリー開発チームが「長持ちバッテリー」を出願(出願B)
-
- 経営判断:
「これ、別々の部品として売るんじゃなくて、『新型EV車』としてパッケージで売り出すぞ!」
- アクション(出し直し):
1年以内に、**「出願Aの内容」+「出願Bの内容」+「それを組み合わせた車両制御技術」を全部盛り込んだ「出願C」**を出します。
これで、最強の「包括的特許」が完成します。
ここで「39条」の出番はどうなる?
ここで鋭いあなたなら気づくはずです。
「あれ? 出し直したら、前の出願(A)と後の出願(B)で中身が被るよね? 39条で『協議しなさい』って言われるんじゃ…?」
ここで使う魔法が**「国内優先権(41条)」**です。
この制度を使うと、法律上こう扱われます。
-
後の出願(B)が出されたら、前の出願(A)は、1年3ヶ月後または4ヶ月後に「自動的に取り下げた」とみなして消滅させる。
-
Aが消滅するので、39条(二重特許)の問題は起きない!
つまり、**「新しい完全版(B)を作るために、古い不完全版(A)を生贄(いけにえ)に捧げる」**というイメージです。
39条の「重複は許さない」というルールがあるからこそ、逆に「重複させるなら、古い方は消すシステム(国内優先権)」がセットで用意されているわけです。
まとめ
企業が「中身の被る出願」を出し直す理由は、**「開発は生き物だから」**です。
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最初は**「未完成」**でも出さなきゃいけない(早い者勝ちだから)。
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後から**「完成版」**ができる。
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この2つを繋げて、**「最初から完成版を出していたことにしてもらう(日付の利益を得る)」**ために、あえて被せて出し直すのです。
どうでしょう?
「39条があるから被っちゃダメ」という原則と、「実務上は被せてパワーアップさせたい(そのために41条がある)」という現場のニーズ。この矛盾とその解決策が見えると、特許法はめちゃくちゃ面白くなりますよ!
次のステップ:
この「出し直し(国内優先権)」は、弁理士試験の最重要・最難関ポイントの一つです。
特に**「出し直した時、発明者はいつの時点で判断されるか?」などの細かい要件が狙われます。
次は、この「国内優先権を使うための3つの条件」**をサクッと確認してみませんか?