特074 特許権の移転請求

39条5項(出願中の泥棒退治)を理解した直後に、74条(登録後の泥棒退治)を学ぶと、特許法の「冒認対策」の全体像がカチッとハマります。74条は、平成23年改正で導入された比較的新しい制度ですが、実務でも試験でも「救世主」と呼ばれる超重要条文です。

(特許権の移転の特例)
第七十四条 特許が第百二十三条第一項第二号に規定する要件に該当するとき(その特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に規定する要件に該当するときは、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、経済産業省令で定めるところにより、その特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる。

2 前項の規定による請求に基づく特許権の移転の登録があつたときは、その特許権は、初めから当該登録を受けた者に帰属していたものとみなす。当該特許権に係る発明についての第六十五条第一項又は第百八十四条の十第一項の規定による請求権についても、同様とする。

3 共有に係る特許権について第一項の規定による請求に基づきその持分を移転する場合においては、前条第一項の規定は、適用しない。

https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000121#Mp-Ch_3_2

1. なぜ74条が必要だったのか?(悲劇の歴史)

この条文ができる前(平成23年以前)、泥棒(冒認者)に特許を取られてしまった真の権利者には、「地獄」しか待っていませんでした。

【昔の悲劇:焼け野原ルート】

  1. 泥棒Yが勝手に特許を取る。

  2. 真の権利者Xは怒る。「その特許は無効だ!」と無効審判(123条)を請求する。

  3. 特許庁:「確かに冒認ですね。無効にします。」→ 特許権消滅

  4. X:「よし、邪魔な特許は消えた。改めてわしが出願して特許を取るぞ!」

  5. 特許庁:「拒絶します。

    • X:「えっ?なんで?」

    • 特許庁:「泥棒Yの特許公報によって、あなたの発明はもう世の中に知れ渡っています(公知)。だから新規性(29条1項3号)がありません。」

  6. X:「……(泣)」

つまり、昔は「泥棒の権利を潰すことはできても、自分の権利を取り戻すことはできなかった(共倒れ)」のです。これを救済するために生まれたのが74条です。

2. 特許法74条(特許権の移転請求)の仕組み

74条は、一言で言うと「その特許、潰さずにそのまま俺によこせ!」と言える権利です。

要件(いつ使える?)

以下の2つのパターンのどちらかで、特許が設定登録されてしまった場合。

  1. 冒認(ぼうにん): 発明者じゃない人が特許を取った。

  2. 共同出願違反: 共同発明者の一人をハブって特許を取った。

手続き(どこに言う?)

ここが【超特大の試験ポイント】です。

  • × 特許庁(審判)ではありません。

  • 裁判所(民事訴訟)です。

「特許権の移転」は財産権の争いなので、司法(裁判所)の管轄になります。真の権利者は、泥棒を被告として「特許権移転登録手続請求訴訟」を提起します。

効果(どうなる?)

裁判で勝つと、特許権の名義が泥棒Yから真の権利者Xに書き換わります。

この時、「最初からXが特許権者であった」ものとみなされます(遡及効といいます)。

→ これにより、Xは自分の発明を守ることができ、かつ「新規性喪失」の罠にもハマりません。


3. 【短答・論文】74条の試験対策ポイント

試験では、以下の論点が頻出です。

ポイント①:無効審判との関係

真の権利者Xは、泥棒Yの特許に対して、以下の2つの選択肢を持っています。

  1. 74条で「よこせ」と言う(移転請求)

  2. 123条で「潰せ」と言う(無効審判)

どちらを選んでも自由です。

ただ、普通は「特許権が欲しい」ので74条を選びます。しかし、「権利維持費(年金)を払いたくないから、いっそ潰して誰のものでもなくしたい(パブリックドメインにしたい)」という場合は、あえて無効審判を選ぶ戦略もあり得ます。

ポイント②:付随するライセンスの問題(79条の2)

これが少しややこしいですが、重要です。

泥棒Yが特許を持っている間に、善意の第三者Zさんにライセンス(通常実施権)を与えていた場合、どうなるでしょうか?

  1. Xが74条で特許を奪い返す。

  2. X:「Zさん、あんたYと契約してたらしいけど、その権利は俺のものだ。使用をやめろ(差止請求)!」

  3. これだとZさんが可哀想です。

そこで、79条の2という救済規定があります。

  • 結論: Zさんが善意(泥棒だと知らなかった)なら、Xに奪い返された後も、対価を払う条件でライセンスを継続できます(通常実施権が許諾されたものとみなされる)。

ポイント③:時系列のひっかけ(論文)

論文試験では、「Yの特許が登録される前」か「登録された後」かを必ず確認してください。

  • 登録前(出願中):

    • 39条5項(先願の地位なし)を使って、自分の出願を通す。

    • または、特許を受ける権利の移転を求める(これはこれで別の論点ですが、一旦割愛)。

  • 登録後:

    • 74条(移転請求)を使って、特許権ごと奪う。

この使い分けが書けるかどうかが、合格答案の分水嶺です。

4. 体系図で整理(冒認対策の全体像)

泥棒Yのステータス 真の権利者Xが使う武器 根拠条文
出願中 (審査中)

情報提供(こいつ泥棒ですよ!)

 

自分の出願を進める(Yは39条5項で消える)

39条5項

 

施行規則13条の2

登録後 (特許権発生)

特許権の移転請求訴訟(権利よこせ)

 

※裁判所に訴える

74条
登録後 (特許権発生)

無効審判(権利潰せ)

 

※特許庁に請求する

123条

5. 論文での「書き方」テンプレート

74条を使う問題が出たら、このロジックで流します。

Step 1: 状況分析

「Yの特許権は設定登録されている。しかし、Yは発明者ではなく、Xから発明を盗用した者であるため、当該特許は冒認(123条1項6号)に該当する。」

Step 2: 74条の要件検討

「特許法74条1項は、特許が冒認によりされた場合、特許を受ける権利を有する者は、特許権者に対し特許権の移転を請求できる旨規定している。」

Step 3: あてはめ

「Xは真の発明者であり、特許を受ける権利を有する者である。したがって、XはYに対し、特許権の移転を請求することができる。」

Step 4: 効果の補足(加点ポイント)

「なお、移転登録がされた場合、Xは当初から特許権者であったものとみなされる(74条2項)。」


6. まとめ

  • 74条は「焼け野原」を防ぐための「権利奪還」システム。

  • 特許庁ではなく、裁判所(民事訴訟)で行う。

  • 移転すれば「初めから自分のものであった」ことになる(遡及効)。

  • 善意のライセンシー(Zさん)は守られる(79条の2)。

これで、「出願中の39条5項」と「登録後の74条」がつながりましたね。ここまでの理解があれば、冒認に関する問題は怖いものなしです。

次は、この流れで**「職務発明(35条)」あたりに行くと、権利の帰属(誰が特許を持つべきか?)というテーマがより深まりますが、いかがなさいますか?それとも、39条・74条の理解を試す「実践的な短答クイズ」**をやってみますか?

(Gemini)

 

質問:移転請求は裁判所にって、特許法には書いてる?

Gemini:特許法74条の条文の中に「裁判所」という言葉は書いてありません。ここが試験(特に短答)で狙われるポイントであり、かつ「法律の読み方」の核心部分です。

1. 条文には何と書いてあるか?

条文(74条1項)を見てみましょう。

特許法 第74条(特許権の移転の特例)

「……特許を受ける権利を有する者は、……特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる。」

これだけです。「裁判所に訴えろ」とは一言も書いていません。単に「(泥棒に対して)返せと言えるよ」という権利(請求権)が発生することを規定しているだけです。

2. なぜ「裁判所」に行くことになるのか?

では、なぜ解説書や私は「裁判所だ」と言ったのでしょうか?

それは、この権利が「私人同士の財産争い(民事紛争)」だからです。

  • 特許庁(審判)の役割:

    • 「この特許は有効か無効か?」という行政処分の是非を判断する場所です(無効審判など)。

    • しかし、「この権利はAさんのものか、Bさんのものか?」という所有権争いには介入しません。

  • 裁判所の役割:

    • 「返せと言ったのに返さない」という私人間のトラブルを解決する場所です。

    • 74条で「返せと言える権利(移転請求権)」が法律上認められたので、もし泥棒が素直に応じない場合、民事訴訟(特許権移転登録手続請求訴訟)を提起して、国の力(判決)で無理やり名義を変えさせることになります。


3. 【試験対策】ここが問われる!

この「書いてないけど裁判所」という知識は、以下のようなひっかけ問題で問われます。

❌ 間違いのパターン(短答)

「特許が冒認によりされた場合、特許を受ける権利を有する者は、特許庁長官に対し、特許権の移転を請求することができる。」

→ ×(バツ)

解説: 特許庁長官や審判官に請求する手続き(行政手続き)ではありません。

⭕️ 正解のロジック(論文)

論文では、以下のように書くのが正確です。

「特許法74条1項は、特許権者に対し移転を請求できる旨を規定している。これは私法上の請求権を定めたものであり、その手続きは民事訴訟によって行われる。」

まとめ

  • 条文の記載: 「移転を請求することができる」としか書いていない。

  • 実態: 相手が応じなければ**「裁判所(民事訴訟)」**へ行く。特許庁(審判)ではない。

「条文に書いてあること」と「実務上の手続き」を区別できると、理解度が一段階深まりますね。この調子でいきましょう。

次は、この「私人間の争い」に関連して、**「職務発明(35条)」**における「相当の利益(金銭)」の争いも裁判所マターになるのですが、そちらに興味はありますか? それとも別の条文に行きますか?

質問:私法って何?

Gemini:「私法(しほう)」という言葉、普段の生活ではあまり聞きませんが、法律を学ぶ上では**「世界を真っ二つに分ける」**超重要な概念です。一言で言うと、**「私人(市民) vs 私人(市民)」**のケンカのルールのことです。対義語である**「公法(こうほう)」**と比較すると、その正体がはっきり見えてきます。

1. 「私法」と「公法」の決定的違い

法律の世界は、大きくこの2つに分かれます。

種類 私法 (Private Law) 公法 (Public Law)
関係図

市民 ⇔ 市民

 

(横の関係)

国(役所) ⇔ 市民

 

(縦の関係)

ルールの性質

自由・平等

 

「対等な個人同士の約束」

権力・規制

 

「お上が許認可を与える・取り締まる」

代表的な法律

民法、商法

 

(特許法の74条や侵害訴訟もここ)

憲法、刑法、行政法

 

(特許法の審査や審判はここ)

トラブル解決 民事訴訟 (裁判所) 行政不服審査・行政訴訟

2. 特許法は「ハイブリッド」な法律

ここが弁理士試験の面白いところ(かつ難しいところ)です。特許法は、「公法」と「私法」が入り混じっています。

① 公法の側面(お上との関係)

あなたが特許庁に「特許をください」と出願して、審査官が審査する場面。これは**「国(特許庁) vs あなた」**の関係です。

  • 「拒絶査定」などの処分は、国が権力を持って行う行政処分です。

  • これに文句があるときは、行政のルールで戦います。

② 私法の側面(市民同士の関係)

一度特許権が設定登録されると、それは「あなたの財産(土地や建物と同じ)」になります。

  • 侵害訴訟: 「ライバル会社(市民)が、私の特許(財産)を勝手に使った! 金払え!」

  • 74条の移転請求: 「泥棒(市民)が、私の権利(財産)を勝手に名義変更した! 返せ!」

これらは、国は関係なく、「AさんとBさん、どっちが正しいの?」という私人間の争いです。だから「私法上の請求権」であり、解決するのは「民事裁判所」なのです。

3. なぜ74条で「私法」という言葉が出たのか?

先ほどの74条の話に戻りましょう。

  • 昔の考え方(公法重視):「特許権は国が与えたものだ。だから、間違い(冒認)があったら、国(特許庁)が無効にして消すべきだ。」

    → これだと、被害者が救われない。

  • 今の考え方(私法重視=74条):「いやいや、特許権は財産でしょ。泥棒が他人の財布を盗んだのと同じ。国が財布を焼却処分(無効)にする必要はない。**『その財布、持ち主(真の権利者)に返しなさい』**って、当事者同士で解決させればいいじゃん。」

この**「国がいちいち介入して消すのではなく、当事者同士の所有権争い(私法)として処理しよう」**という発想の転換が、74条(移転請求)の本質なのです。

4. まとめ:試験での見分け方

問題文を読んで、「誰と誰がケンカしているか?」を見てください。

  1. 出願人 vs 特許庁長官→ **「公法」**の世界。審判や行政訴訟。
  2. 権利者X vs 泥棒Y(または侵害者Z)→ **「私法」**の世界。74条移転請求や、侵害訴訟(民事訴訟)。

「条文に裁判所とは書いてないけど、これはXとYのケンカ(私法)だから、当然裁判所だよね」と判断できるのが、法律家の思考回路です。この区別がつくと、「侵害訴訟(私法)」と「無効審判(公法的な手続き)」の違いなども、驚くほどスッキリ理解できるようになりますよ。

プロンプト:上のブログ記事おかしくない?間違ってるよね?裁判所に行けって部分。

Claude Opus 4.5:

はい、この説明には問題があります。

74条の「移転請求」について

条文を見ると:

特許を受ける権利を有する者は、特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる。

これは形成権(一方的な意思表示で法律効果を生じさせる権利)として規定されています。

Geminiの説明の問題点

Geminiは「私法上の請求権だから裁判所」と説明していますが、これは不正確です。

実際の手続きの流れ:

  1. 真の権利者Xが冒認者Yに対して移転請求の意思表示をする
  2. Yが任意に応じれば、共同で移転登録手続きをする
  3. Yが応じない場合に初めて登録手続きを求める訴訟を提起する

つまり、74条の「移転請求」自体は相手方への意思表示であって、「裁判所に移転請求する」わけではありません。裁判所に行くのは、相手が応じないときの強制手段です。

より正確な説明

  • 74条は移転請求権(形成権的な権利)を定めている
  • 相手が任意に応じれば裁判不要
  • 応じなければ「特許権移転登録手続請求訴訟」で判決を得て、単独で登録できる

「74条=裁判所」という単純化は、試験対策としては覚えやすいかもしれませんが、法的には雑な説明ですね。

ChatGPT 5.2:

結論から言います。そのブログ記事は「大筋では正しい」けれど、
👉 「裁判所に行く」と断定的に書いている部分は、法的にみるとやや雑(=誤解を招く)
です。以下、どこが正しくて/どこがアウトかを、条文ベースで整理します。


結論の整理(先に要点)

  • 「74条=必ず裁判所に行く」
    これは誤り(言い過ぎ)
  • 「特許庁の審判ではない」「私法上の請求権」
    これは正しい
  • 相手が応じなければ民事訴訟になる
    これは正しい

つまり、

裁判所に行く“可能性が高い”が、条文上「裁判所に行け」とは書いていない

これが正確な理解です。


① まず条文を正確に読む(ここが一番重要)

特許法74条1項

特許を受ける権利を有する者は、
特許権者に対し
当該特許権の移転を請求することができる。

👉 請求の相手は「特許権者」
👉 どこに請求するか(裁判所/特許庁)は一切書いていない

ここは、あなたの指摘どおり 「裁判所とは書いてない」 が正解です。


② では「裁判所」はどこから出てくるのか?

これは条文ではなく、法体系からの帰結です。

重要な論理構造

  • 74条は
    行政処分を求める規定ではない
  • 特許庁に
    • 審査させる
    • 審判を請求する
      という文言が 一切ない
  • あるのは
    「AがBに対して請求できる」 という
    👉 典型的な私法上の請求権

したがって、

  • 相手が任意に応じる
    訴訟不要
  • 相手が拒否する
    民事訴訟で実現するしかない

という構造になります。


③ 実は「裁判所に行かない74条」も存在する

ここが、ブログ記事で一番抜けている点です。

実務上あり得るルート

  1. 真の権利者 X が
    「74条に基づいて移転請求します」
  2. 冒認者 Y が
    「確かに自分が悪かった」と認める
  3. 当事者間の合意により
    • 移転契約
    • 移転登録申請
  4. 訴訟ゼロで終了

👉 裁判所は一切関与しません

それでも、
**74条の効果(74条2項の遡及効)**は発生します。


④ では、ブログのどこが「間違い」なのか?

問題の表現

※裁判所に訴える

評価

  • 「常にそうなる」と読める書き方
  • ❌ 条文構造を知らない人には誤解を与える
  • ⭕ 実務・試験でよくあるケースとしては理解できる

正確な書き方に直すなら

※相手が任意に応じない場合は、
民事訴訟(特許権移転登録手続請求訴訟)により実現する

これなら 100点 です。


⑤ 試験的に一番安全な表現(超重要)

弁理士試験・論文で絶対に落とされない書き方はこれです👇

特許法74条は、特許権者に対する私法上の移転請求権を定めたものであり、
相手方が応じない場合には、
民事訴訟によりその実現を図ることになる。

  • ❌「裁判所に請求する」とは書かない
  • ⭕「民事訴訟により実現」と書く

⑥ あなたの違和感は100%正しい


最終まとめ(短く)

  • ✅ 74条は 私法上の請求権
  • ❌ 条文に「裁判所」は書いていない
  • ⭕ 応じなければ 結果として民事訴訟
  • ❌ 「74条=裁判所」と断定する説明は不正確
  • ✅ あなたの指摘は完全に正しい