特許法102条(損害額の推定等)は、弁理士試験において「最も点数に直結し、かつ最も差がつく」条文の一つです。なぜなら、「法律のロジック(論文)」と「数字の計算(事例問題)」の両方が問われるからです。特に令和元年改正で計算ロジックが少し複雑(しかし権利者に有利)になったため、ここが出題される可能性は非常に高いです。攻略法を整理しました。
1. なぜ102条があるの?(民法709条の救済)
まず大前提です。民法709条(不法行為)では、「原告(特許権者)が、実際に被った損害額を立証しろ」と言われます。しかし、「もしお前がパクらなかったら、俺はあと1万個売れていたはずだ!」なんて、タラレバの話を立証するのは不可能です。そこで、特許法102条が「計算式を用意したから、これに数字を当てはめて損害額とみなしていいよ」と助け舟を出します。以下の3つの計算ルート(メニュー)があります。
| 条文 | 呼び名 | 計算式のイメージ | 特徴 |
| 1項 | 逸失利益 | (泥棒が売った数) × (俺の1個あたり利益) | 金額が一番デカくなりやすい(メインウェポン) |
| 2項 | 利益推定 | 泥棒が儲けた利益 = 俺の損害 | 立証は楽だが、泥棒が経費を引きたがるので額が減る |
| 3項 | 相当実施料 | 売上 × ライセンス料率(%) | どんなに負けてもこれだけは貰える(最低保証) |
2. 試験に出る「計算問題」の具体的ロジック
試験(特に論文や口述)で問われるのは、圧倒的に「第1項(逸失利益)」の計算です。しかも、単なる掛け算ではなく、「引き算(控除)」と「足し算(重畳適用)」をさせられます。以下の仮想事例でシミュレーションしましょう。
【事例問題】
特許権者(俺): 1個売ると1万円儲かる(限界利益)。俺の工場の生産能力は残り800個分ある。
侵害者(泥棒): パクリ商品を1,000個売った。売値は5万円。
事情: 泥棒の製品は俺のよりカッコいいブランドロゴが入っていて、そのおかげで少し売れている(寄与度)。
ライセンス料率: 業界相場は5%。
この場合、俺はいくら請求できるか?
Step 1: 基本の掛け算(102条1項本文)
「泥棒が売った数 × 俺の利益」
1,000個 × 1万円 = 1,000万円
(まずはここからスタート)
Step 2: 「能力相応」の引き算(102条1項1号ただし書)
「お前、1,000個も作れなかっただろ?」というツッコミが入ります。
俺の能力(実施相応数量)は800個です。
オーバーした200個分は請求できません。
したがって、800個 × 1万円 = 800万円 に減額されます。
Step 3: 「特定事情」の引き算(102条1項2号)
「泥棒が売れたのは、特許のおかげだけじゃなくて、泥棒のブランド力や営業努力のおかげもあるよね?」というツッコミです。
例えば、特許の寄与率が90%(10%は泥棒の努力)だと認定された場合。
800万円 から 10%(80万円)を引きます。
残り 720万円。
Step 4: 【最重要】「あふれた分」の足し算(102条1項3号=令和元年改正)
ここが合否を分けるポイントです!Step 2で切り捨てられた「能力オーバーの200個」は、昔は泣き寝入りでした。しかし、今の法律では**「自分で作れなかった200個分については、せめてライセンス料(3項相当額)をよこせ」**と言えます。
あふれた200個 × 泥棒の売値5万円 × 料率5% = 50万円
Step 5: 合計(ファイナルアンサー)
Step 3の額(720万円) + Step 4の額(50万円) = 770万円
3. 論文答案での「書き方」攻略(102条1項)
論文試験では、上記の計算プロセスを文章で説明しなければなりません。以下のテンプレートを暗記してください。
① 条文の適用主張
「甲(特許権者)は乙(侵害者)に対し、特許法102条1項に基づき損害賠償を請求する。」
② 構成要件のあてはめ(計算式の提示)
「乙の譲渡数量は1,000個である。また、甲の単位数量当たりの利益額は1万円である。したがって、基本となる損害額は1,000万円となるのが原則である(1項本文)。」
③ 被告の反論(能力不足・特定事情)の検討
「しかし、甲の生産能力は800個に留まる。そのため、これを超える200個については、甲は販売することができなかったと解され、賠償額から控除される(1項1号ただし書)。」
「また、乙のブランド力による顧客誘引(特定事情)がある場合、その分も相当額として控除される(1項2号)。」
④ 救済規定の適用(ここが加点ポイント!)
「もっとも、上記控除された200個分については、甲は乙に対しライセンス許諾をすることができたはずである。したがって、この数量については『特許権の実施に対し受けるべき金銭の額(ライセンス料相当額)』を上乗せして請求することができる(1項3号特定数量)。」
4. 勉強のポイント:2項と3項の注意点
1項(上記の計算)がメインですが、2項・3項にも特有の論点があります。
102条2項(利益の推定)
-
論点: 「利益」とは何か?
-
答え: 売上から経費を引いたものですが、**「限界利益(売上 – 変動費)」**まで含めて請求できるというのが判例の傾向です(固定費は引かせない)。
-
理由: 侵害者がいなくても家賃や人件費(固定費)はかかったはずだから、それを差し引くのはおかしい。
-
-
覆滅(ふくめつ): 侵害者側は「いや、俺の営業努力で売れたんだ(寄与率)」と主張して、推定を破ることができます(これを覆滅といいます)。
102条3項(相当実施料)
-
論点: 料率はどう決める?
-
昔: 業界団体の統計データの平均値(例: 3%)。
-
今(4項の新設): 「もし侵害が発覚して、裁判になる前に話し合っていたら決まったであろう金額」を考慮できる。つまり、通常より高い料率が認められやすくなっています(懲罰的要素の加味)。
-
まとめ:102条攻略ロードマップ
-
計算式を覚える: 1項の「(売上数 × 単位利益) – (能力オーバー・特定事情) + (オーバー分のライセンス料)」という**「全部盛りセット」**の式を暗記する。
-
言葉を覚える: 「単位数量当たりの利益額」「実施相応数量」「特定事情」という法律用語を正確に書けるようにする。
-
民法との関係: あくまで「民法709条の損害額」を立証しやすくするための規定だ、という位置づけを忘れない。
この「計算問題」は、一度理解してしまえばパズルのように解けるので、得点源になります。
「能力オーバー分もライセンス料として回収できる(令和元年改正)」という点だけは、絶対に忘れないでください。ここが一番ホットな出題ポイントです。
(Gemini)