(手続の補正) 第十七条 の長ったらしい文をルールに従い読み解く

法律の勉強を始めて、いざ条文を読んでみたときに、そのあまりの読みにくさに、自分は心が折れました。心が折られた条文の一例はこんな感じ:

(手続の補正)
第十七条 手続をした者は、事件が特許庁に係属している場合に限り、その補正をすることができる。ただし、次条から第十七条の五までの規定により補正をすることができる場合を除き、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、図面若しくは要約書、第四十一条第四項若しくは第四十三条第一項(第四十三条の二第二項(第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)及び第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)に規定する書面又は第百二十条の五第二項若しくは第百三十四条の二第一項の訂正若しくは訂正審判の請求書に添付した訂正した明細書、特許請求の範囲若しくは図面について補正をすることができない。https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000121#Mp-Ch_1-At_17

特許法第17条第1項の文章です。2文しかありませんが、2文めが異様に長い!どの言葉がどの言葉につながるのか、どの言葉がどの言葉にかかるのか、一読しただけでは、いや、何回読んでもさっぱりわかりませんでした。

ただし、次条から第十七条の五までの規定により補正をすることができる場合を除き、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、図面若しくは要約書第四十一条第四項若しくは第四十三条第一項(第四十三条の二第二項(第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)及び第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)に規定する書面又は第百二十条の五第二項若しくは第百三十四条の二第一項の訂正若しくは訂正審判の請求書に添付した訂正した明細書、特許請求の範囲若しくは図面について補正をすることができない。

こういった条文が読めるようになるためには、ANDやORおよびその優先順位を知る必要があります。ANDを意味するのが「及び」です。ORを意味するのが「若しくは」。

自力で読解するために、主要な骨格以外をそぎ落としてみます。まず()は不要ですね。今の場合、なんと(())と二重になっています。()を取り除いてみます。

ただし、次条から第十七条の五までの規定により補正をすることができる場合を除き、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、図面若しくは要約書、第四十一条第四項若しくは第四十三条第一項に規定する書面又は第百二十条の五第二項若しくは第百三十四条の二第一項の訂正若しくは訂正審判の請求書に添付した訂正した明細書、特許請求の範囲若しくは図面について補正をすることができない。

まだまだ複雑です。ここで知っておくべきルールは、英語でいう「A, B, C or D」というやつです。AまたはBまたはCまたはDという意味になります。法律の条文だとこれが「A、B、C若しくはD」と書かれます。

もう一つ知って置くべきは、おなじORを意味する言葉として「又は」と「若しくは」の2つがあり、「若しくは」の方が結合が強い、つまり局所的なつながりを示すというルールです。「A若しくはB又はC若しくはD」という条文があれば、その意味の塊は、「(A若しくはB)又は(C若しくはD)」となります。AxB+CxDという算術記号の結合の強さのルールに似ています。

  1. 人事担当者のための法律読みこなし術 – 第19回 「又は・若しくは」「及び・並びに」 吉田利宏  よしだとしひろ 元衆議院法制局参事 2013年11月18日掲載  「エビ、イカ若しくはトロ又は玉子 何に致しやしょう!」

さらに知っておくべきことは、このような列挙において、列挙されるものは同じカテゴリーに属するものということです。今の場合カテゴリーとして、「文書」と「条文の条や号の番号」という2つの概念があり、これらの区別が、この長ったらしい分を読み解くカギになります。

もう一つ、重要な知識として、特許出願のための願書は、明細書、特許請求の範囲、図面、要約書という4つの書類から構成されているという内容です。この知識によりこれらはひとまとまりであることは、あたりまえのことになります。

ここまでの知識で意味のまとまりのある部分を下線部でマークしてみると以下のようになります。

ただし、次条から第十七条の五までの規定により補正をすることができる場合を除き、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、図面若しくは要約書第四十一条第四項若しくは第四十三条第一項に規定する書面又は第百二十条の五第二項若しくは第百三十四条の二第一項の訂正若しくは訂正審判の請求書に添付した訂正した明細書、特許請求の範囲若しくは図面について補正をすることができない。

ここで、英語の「A, B, C or D」は、「A、B、C若しくはD」あるいは「A、B、C又はD」と書かれることを思い出しましょう。「若しくは」よりも「又は」のほうが大きなまとまりを結び付けるのでした(言葉を変えると、「若しくは」のほうが局所的なつながりをつくるもの)。すると、上の文の中の「又は」がどのような使われ方をしているのかが見えてきます。つまり、「書類A、書類B又は書類C」と書かれていることが見て取れるでしょう。

書類A:願書に添付した明細書、特許請求の範囲、図面若しくは要約書

書類B:第四十一条第四項若しくは第四十三条第一項に規定する書面

書類C:第百二十条の五第二項若しくは第百三十四条の二第一項の訂正若しくは訂正審判の請求書に添付した訂正した明細書、特許請求の範囲若しくは図面

ということになります。書類Cの内容は、まだこれでもかなり複雑でさらに読み解く必要がありそうです。この部分を読み解くためには、第百二十条の五第二項や第百三十四条の二第一項の内容をしていたほうがよいでしょう。

(意見書の提出等)
第百二十条の五 審判長は、取消決定をしようとするときは、特許権者及び参加人に対し、特許の取消しの理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。
2 特許権者は、前項の規定により指定された期間内に限り、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正を請求することができる。ただし、その訂正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。
一 特許請求の範囲の減縮
二 誤記又は誤訳の訂正
三 明瞭でない記載の釈明
四 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。

(特許無効審判における訂正の請求)
第百三十四条の二 特許無効審判の被請求人は、前条第一項若しくは第二項、次条、第百五十三条第二項又は第百六十四条の二第二項の規定により指定された期間内に限り、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正を請求することができる。ただし、その訂正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。
一 特許請求の範囲の減縮
二 誤記又は誤訳の訂正
三 明瞭でない記載の釈明
四 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。

ひとつは「特許異議申し立て」における「訂正」、もう一つが、「無効審判」における「訂正」です。これらはどちらも「訂正」に関する内容で訂正のための請求書を提出できますので、その先の請求書という言葉に係ることがわかります。意味のまとまりとしては、[訂正もしくは訂正審判]の請求書 ということになります。訂正審判に関しては条文の番号は示されていませんが、(訂正審判)第百二十六条 は条文にハッキリと書かれた言葉ですので、条文が第何条かを示す必要性がないので示さなかったというわけです。

(訂正審判)
第百二十六条 特許権者は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすることについて訂正審判請求することができる。ただし、その訂正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。
一 特許請求の範囲の減縮
二 誤記又は誤訳の訂正
三 明瞭でない記載の釈明
四 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。

書類C:[[第百二十条の五第二項若しくは第百三十四条の二第一項の訂正]若しくは[訂正審判]]請求書に添付した[訂正した明細書、特許請求の範囲若しくは図面]

となっていることがわかります。以上を踏まえて、最初の文を、意味のまとまりを色分けして示すと

(手続の補正)
第十七条 手続をした者は、事件が特許庁に係属している場合に限り、その補正をすることができる。ただし、次条から第十七条の五までの規定により補正をすることができる場合を除き、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、図面若しくは要約書第四十一条第四項若しくは第四十三条第一項(第四十三条の二第二項(第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)及び第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)に規定する書面又は第百二十条の五第二項若しくは第百三十四条の二第一項の訂正若しくは訂正審判請求書に添付した訂正した明細書、特許請求の範囲若しくは図面について補正をすることができない。https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000121#Mp-Ch_1-At_17

以上をまとめると、

「A、B又はCについて補正をすることができない。」というのが文の基本構造でした。ただし、

A 願書に添付した明細書、特許請求の範囲、図面若しくは要約書

B 第四十一条第四項若しくは第四十三条第一項(第四十三条の二第二項(第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)及び第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)に規定する書面

C 第百二十条の五第二項若しくは第百三十四条の二第一項の訂正若しくは訂正審判請求書に添付した訂正した明細書、特許請求の範囲若しくは図面

このなかでCが少し複雑ですが、「若しくは」は局所的に強く結合する機能があるので、「A若しくはBのC」という条文は、「(AもしくはB)のC」と解されることに注意して読めば読めるでしょう。