大学発ベンチャー企業のビジネスモデル事例研究:東大発ベンチャーWASSHA

質問:?WASSHAという会社(https://wassha.com/)は、誰に何を売って、どうやって利益を上げているのでしょうか。

Gemini:株式会社WASSHA(ワッシャ)は、「アフリカの未電化地域(オフグリッド)」をターゲットにした、非常にユニークかつ合理的でしたたかなビジネスモデルを展開している日本のベンチャー企業です。彼らのビジネス、「誰に・何を・どうやって」売っているのかについて解説します。

1. 誰に、何を売っているのか?(ビジネスモデルの図解)

WASSHAは単に「ソーラーパネルを売る会社」ではありません。「電気(電力)というサービス」を小売する会社(EaaS: Energy as a Service)です。彼らの商流は 「B to B to C」 モデルです。

登場人物と役割

  1. WASSHA(本社):機材とシステムの提供者。

  2. キオスク(村の個人商店):WASSHAの「代理店」パートナー。

  3. エンドユーザー(村人):電気を使いたい未電化地域の住民。

お金の流れと商品の流れ

  • STEP 1(機材貸与): WASSHAは、提携するキオスクにソーラーパネル、バッテリー、LEDランタン等の機材を「無料(または非常に安価)」で貸し出します。
    • ポイント: キオスク側に高額な初期投資をさせないことで、爆発的に加盟店を増やしています。

  • STEP 2(仕入れ): キオスクのオーナーは、モバイルマネー(スマホ決済)を使って、WASSHAから「電力を使う権利」を購入(先払い)します。
    • ここが売上: これがWASSHAの直接的な収益源です。

  • STEP 3(小売): キオスクは、村人に対して以下のサービスを提供し、現金を受け取ります。
    • スマホの充電サービス

    • LEDランタンのレンタル

    • ラジオや家電への給電

    • キオスクの利益: WASSHAへの支払額と、村人からの受取額の「差額」がオーナーの利益になります。

2. どうやって利益を上げているのか?(儲けのカラクリ)

ただのレンタル事業に見えますが、利益を確保し、損失を防ぐための「テクノロジーによる遠隔制御」が肝です。

  • 「払わないと電気が止まる」仕組み(IoT制御)貸し出している機材には通信機能(IoT)が付いています。キオスクオーナーがモバイルマネーでWASSHAにお金を送金した分だけ、機材のロックが外れて電気が使える仕組みです。これにより、「集金コストゼロ」かつ「未回収リスクゼロ」を実現しています。
  • 継続課金(サブスクリプションに近い)村人は毎日スマホを充電したり、夜間の明かりを求めたりします。ソーラーパネル一度設置すれば、太陽がある限り電気を生み出し続けるため、WASSHAにとっては「限界費用ほぼゼロで、チャリンチャリンと収益が上がり続ける」モデルです。
  • 新たな収益源:データの活用とファイナンスこれが現在の最大の狙いです。「誰が、いつ、どれくらい電気にお金を払ったか」というデータが蓄積されます。これをもとに与信(クレジットスコア)を生成し、冷蔵庫やテレビなどの家電製品をローン(割賦販売)で提供したり、小口融資を行ったりする事業へ拡大しています。

3. いくら儲かっているのか?(収益規模)

WASSHAは未上場企業(プライベートカンパニー)であるため、決算書や正確な利益額は公開されていません。しかし、以下の指標から規模感を推測することは可能です。

  • 市場規模(ステークホルダー):

    • 展開国:タンザニア、ウガンダ、モザンビーク、DRコンゴなど。

    • 提携キオスク数:数千店舗〜1万店舗規模で拡大中。

    • 利用者数:数十万人〜百万人単位。

    • 推測: 1店舗あたりの売上は小さくても(数千円〜数万円/月)、店舗数が万単位になれば、年間売上は数十億円規模に達するポテンシャルがあります。

  • 資金調達(成長フェーズ):

    • 2019年に丸紅から10億円規模の出資。

    • 2020年以降も、東京電力PG、ダイキン工業、JICAなどから大型の資金調達や業務提携を行っています。

    • 見解: 巨額の資金調達をしているということは、現在は「利益を溜め込む」フェーズではなく、調達した資金を使って「エリア拡大・設備投資(先行投資)」を行い、赤字を掘ってでもシェアを取りに行っているフェーズである可能性が高いです。

まとめ

WASSHAの凄さは、「BOPビジネス(貧困層向けビジネス)は儲からない」という常識を、「デジタル技術(IoT×モバイルマネー)」で覆した点にあります。

  1. 誰に売る?: 支払い能力はあるがインフラがない「オフグリッド地域の住民」。

  2. 何を売る?: 初期投資不要の「電気の量り売り」。

  3. 利益の源泉: IoTによる遠隔管理で「取りっぱぐれ」を防ぎつつ、蓄積したデータで「金融業」へ展開する拡張性。

単なる慈善事業ではなく、J-Startup(経産省支援)にも選ばれるなど、日本発の「SDGsと経済合理性を両立させたモデルケース」として非常に注目されています。

質問:電気を売るっていっても、家で電気を使うためには、電線、電線の家への引き込み、家でのコンセントなどが必要にならない?それらの工事も請け負っているの?

Gemini:WASSHAの主力ビジネスモデルにおいては、各家庭への電線工事やコンセントの設置工事は「一切行っていません」日本の電力会社(東京電力や関西電力など)のイメージとは全く異なる、「電気のテイクアウト(持ち運び)」という方式をとっているからです。どういうことか、具体的に解説します。

1. 「電気を配る」のではなく「電気を詰めて渡す」

日本の家には電線がつながっていますが、WASSHAが展開するアフリカの未電化地域では、家々が点在しており、それぞれの家に電線を引くのはコストがかかりすぎて不可能です。

そこでWASSHAは、「電気そのもの」ではなく、「電気が詰まった容器(バッテリー)」を貸し出すという方法をとっています。

  • 日本モデル(グリッド): 水道管が家に引かれていて、蛇口をひねれば水が出る。

  • WASSHAモデル(オフグリッド): 井戸までバケツを持って水を汲みに行き、家に持って帰って使う。

この「バケツ」にあたるのが、WASSHAが開発した「LEDランタン(兼バッテリー)」です。

2. ユーザーの使い方は「灯油」を買うのと同じ

現地の村人がどのように電気を使っているかを見ると、工事が不要な理由がわかります。

  1. 店に行く: 村人は、WASSHAの提携キオスク(村のよろず屋)に行きます。ここには屋根にソーラーパネルがあり、大量のランタンが充電されています。
  2. 借りる(テイクアウト): お金を払い、充電済みの「LEDランタン」を借ります。
  3. 家で使う: 家にランタンを持ち帰ります。
    • 照明として: 夜、天井から吊るしたり机に置いて明かりにします(電球の代わり)。

    • コンセントとして: ランタンにはUSBポートがついています。ここにスマホのケーブルを挿せば、充電ができます(モバイルバッテリーの代わり)。

  4. 返す: 電気がなくなったら、店に返しに行き、また新しい充電済みのものと交換します。

つまり、「家自体を電化する」のではなく、「電気の入った道具を家の中に置く」だけなので、壁に穴を開けたり配線工事をしたりする必要が全くないのです。

3. 家に設置するタイプはないの?(SHS)

ただし、最近ではWASSHAも事業を拡大しており、「SHS(ソーラー・ホーム・システム)」という、家の屋根に小さなパネルを置くタイプも扱っています。「じゃあ工事が必要では?」と思われるかもしれませんが、これも日本の電気工事とはレベルが違います。

  • DIYレベルの簡易キット: パネルと、バッテリーと、いくつかの電球がセットになったキットです。
  • プラグ&プレイ: ケーブルを特定の穴に差し込むだけで使える設計になっており、専門の電気工事士(Electrician)がいなくても、村人が自分で設置したり、キオスクのオーナーが手伝うだけで設置できるレベルのものです。

結論:なぜ利益が出るか

質問者様が懸念された「電線や工事のコスト」が一切かからない(あるいは極小である)ことこそが、このビジネスが低価格で利益を出せる最大の理由です。

  • インフラ投資不要: 大規模な発電所も送電線もいらない。

  • メンテナンス不要: 壊れたら店に持ってきてもらえばいい(巡回スタッフが交換する)。

「電気=インフラ設備」ではなく、「電気=お弁当や灯油のような消費財」として扱っている点が、このビジネスの発明と言えます。

質問:このビジネスは、ビジネスモデルで特許を取ってる?

Gemini:WASSHAは特許を取得しています。

いわゆる「ビジネスモデル特許(ビジネスに関連する発明)」の範疇に入る、ITとハードウェアを組み合わせた仕組み部分で権利化を行っています。単に「電気を売るアイデア」は特許になりませんが、彼らはそれを実現する「技術的な仕組み(システム)」を特許として押さえています。彼らが「どこを」特許で守っているのか、その戦略を解説します。

1. 何を特許にしているのか?(権利の核心)

彼らが特許化しているのは、主に「支払いと機器制御の連動システム」です。J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)などで確認できる彼らの特許(または出願内容)の傾向を見ると、以下のような技術的ポイントを押さえています。

  • 決済連動型の給電制御」 ユーザーがモバイルマネーでお金を払った情報を受信し、「払った分だけ自動的に電気が流れるようにスイッチをONにする(またはトークンを発行してロックを解除する)」という、サーバーとデバイスの一連の動きです。
  • フライン認証技術」 アフリカの未電化地域は通信環境が悪いです。そのため、常にネットに繋がっていなくても、スマホアプリとデバイスがBluetooth等でやり取りをして、正しく決済情報を認証し、電気を使えるようにする仕組みなども重要な技術要素です。

要するに:誰かが「アフリカで電気を売ろう」と真似することは自由ですが、「モバイルマネーで払ったら、自動でカギが開いて電気が使えるようになる、効率的なシステム」を作ろうとすると、WASSHAの特許に引っかかるような網を張っているわけです。

2. なぜ特許を取るのか?(ベンチャーの知財戦略)

WASSHAのようなスタートアップにとって、ビジネスモデル特許は「攻め」と「守り」の両面で生命線になります。

① 大手企業や模倣犯への「防波堤」(守り)

電気ビジネスは、資金力のある大手商社や現地の通信会社が「うちもやろう」と思えば参入できてしまいます。しかし、特許があれば、大手が全く同じ効率的なシステム(自動化システム)を使うことを阻止できます。「手動でやるならどうぞ(でもコスト合わないですよね?)」と言える状態を作ることで、参入障壁を築いています。

② 企業の「値打ち」を上げる(攻め)

前述のように、WASSHAは丸紅や東大系VCなどから巨額の出資を受けています。投資家は、「この会社にお金を出す価値があるか?」を見るとき、「このビジネスモデルは他社にすぐ真似されないか(独占できるか)?」を厳しくチェックします。「特許でガチガチに守られているので、他社は簡単には真似できません」という事実は、企業価値(バリュエーション)を吊り上げるための最強のカードになります。

3. 大学発ベンチャーとしての強み

WASSHAは、もともと東京大学の研究室(阿部力也先生のデジタルグリッド構想など)周辺から生まれてきたバックグラウンドを持っています。大学発ベンチャーは、「技術を権利化(知財化)する」という意識が非常に高い傾向にあります。単なる「人助けのアイデア」で終わらせず、それを「再現性のある技術(アルゴリズムや装置)」に落とし込み、しっかりと「特許庁に登録する」。この「アカデミア仕込みの知財戦略泥臭い現地のオペレーション」の両輪が回っていることが、WASSHAが単なるNPOやボランティア団体と一線を画し、利益を上げる株式会社として成立している大きな理由です。

質問:WASSHAの鍵となるテクノロジーは何?要するに「充電池」?何が従来のものと違うの?

Gemini: WASSHAの鍵となるテクノロジーは「充電池(バッテリー)」そのものではありません。中身の電池は、極端に言えばどこにでもある普通のものです。彼らのコア技術(競争力の源泉)は、そのバッテリーに取り付けられた「IoTコントローラー(電子基板)」と、それを運用する「ソフトウェア(アプリ)」にあります。要するに、ただの「電池」を、お金を払わないと電気が流れない自動販売機」に変える装置が、彼らの発明であり、従来のものとの決定的な違いです。具体的に何が違うのか、3つのポイントで解説します。

1. 「遠隔ロック機能」がついてる(PAYG技術)

従来の充電池やソーラーシステムは「売り切り」です。一度渡してしまえば、相手がお金を払わなくても電気は使い放題ですし、回収するには現地まで取り立てに行く必要がありました。

  • 従来の電池: ただの「電気の箱」。渡したら最後、制御不能。

  • WASSHAの電池: 「デジタルの鍵」がかかった箱。

WASSHAの機材には、特殊なチップ(IoTコントローラー)が埋め込まれています。キオスクのオーナーがモバイルマネーで送金すると、その金額分だけ「カギが開く(通電する)」仕組みになっています。期間が過ぎたり、支払いが滞ると、機材は手元にあってもただの箱(鉄屑)になり、電気が一切出なくなります。これにより、泥臭い集金業務をゼロにし、未回収リスクをなくしています。

2. 「ネットがなくても動く」通信技術(オフライン認証)

ここがWASSHAの技術的に最も渋い(すごい)ところです。「IoT(モノのインターネット)」と言うと、通常は常にインターネットに繋がっている必要があります。しかし、アフリカの奥地では電波が不安定で、常時接続など不可能です。

  • 従来のIoT: ネットが切れると制御不能になる。

  • WASSHAの技術: Bluetooth等を活用し、オフラインでも鍵が開く。

  1. キオスクオーナーのスマホ(ここだけ一瞬電波が入ればOK)に、解除コード(トークン)が届く。

  2. スマホとWASSHAの機材をBluetoothなどで近づける。

  3. 機材自体はネットに繋がっていなくても、「正しいコードだ」と認識してロックが解除される。

この「劣悪な通信環境でも確実に動作するプロトコル(手順)」こそが、大手電機メーカーが簡単に参入できない技術的な参入障壁になっています。

3. 「信用」をデータ化する機能(ログ収集)

従来の電池は、誰がいつ使ったか分かりません。WASSHAのコントローラーは、「稼働データ(いつ、いくら分発電し、消費されたか)」を記録し、通信できるタイミングでサーバーに送ります。

  • 従来の電池: 壊れるまで黙って働く。

  • WASSHAの電池: 「この店のオーナーは、毎月ちゃんと稼いで、遅れずに払っています」と喋る。

このデータが蓄積されることで、「この人は信用できるから、次は冷蔵庫をローンで貸してあげよう」という金融ビジネスが可能になります。ただの電池が、「動く信用調査書」になっている点が革新的です。

まとめ:何が違うのか?

分かりやすく例えるなら、以下のようになります。

  • 従来のもの:「水筒」を売っている。(水筒を渡したら、相手が水をどう飲もうが関知できない)
  • WASSHAの技術:「コイン投入口がついた、絶対に壊れないハイテク水筒」を貸している。(お金を入れないと蓋が開かないし、誰がいつ飲んだか全部記録されている)

電池の性能(容量や寿命)で勝負しているのではなく、「電気を確実に換金する仕組み(コントローラー)」で勝負している点が、彼らの強みです。

(Gemini)

参考

  1. 産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン【追補版】産学官連携を通じた価値創造に向けて 令和2年6月30日文部科学省経済産業省 https://www.mext.go.jp/content/20230329-mxt_sanchi02-000020147_01-2.pdf
  2. 【東京大学×ダイキン工業株式会社】東京大学のみならず、東大発ベン ーを含むエコシステムとダイキンが大規模な連携体制を構築するこ とで、多様なフェーズのプロジェクトを創出。これらの 組みを通じて、ダイキン工業が直接ベンチャーにコンタクトし、東京大学発ベンチャーであるWASSHA 株式会社とのアフリカでの空調サブスクリプションビジネス等、多様なフェーズの連携プロジェクトが開始している。