国立大学法人等に対する運営費交付金は、2004年の国立大学の法人化に伴って導入された制度で、導入後から年1%の割合で削減されて、大学の研究者の研究環境を大きく悪化させた元凶とされています。そもそも法人化と同時に始まった制度なのだとしたら、それ以前はどのような制度があったのでしょうか。
Gemini:「運営費交付金」という名称・制度そのものが始まったのは、2004年(平成16年)4月の国立大学法人化と同時です。ですから、「(以前からあった)運営費交付金という制度が、法人化を機に減らされた」という表現だと、論理的に矛盾して聞こえます。では、なぜ現場の研究者は「法人化で(運営費交付金が)減らされた」と嘆くのでしょうか。そのカラクリは、制度の「切り替わり方」と、法人化後に組み込まれた「自動削減ルール」にあります。
1. 2004年以前はどうだったのか?
法人化前(国の内部組織だった時代)は、「運営費交付金」ではなく、「国立学校特別会計」という枠組みの予算でした。
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以前(~2003年度):
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「電気代」「旅費」「人件費」など、細かく費目が決まった予算が国から配分されていました(紐付き予算)。
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「足りない分は国が補填する」という性格が強く、経営努力は求められない代わりに、安定していました。
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2. 法人化で何が変わったのか?
2004年の法人化で、これらが「運営費交付金」という一本化されたお金(使途自由なブロック・グラント)に変わりました。
- 建前(メリット):「使い道を大学の裁量で自由に決めていいですよ(経営の自由化)」
- 本音(デメリット・削減の正体):「その代わり、毎年1%ずつ自動的に交付金を減らしますね(効率化係数)」
つまり、研究者が怒っている「削減」の正体は、「法人化と同時に導入された『効率化係数』というルールによって、前年比マイナスが10年以上続き、結果としてベースの予算が激減したこと」を指しています。
3. なぜ「話が合わない」と感じるほどの激痛なのか?
「毎年1%減」と聞くと大したことないように聞こえますが、これがボディブローのように効いています。
- 「人件費」は削れない 大学の予算の大部分(7~8割)は教職員の人件費です。教員は簡単に解雇できないため、人件費はほぼ固定です。
- しわ寄せは「研究費」へ 全体の予算が1%減ると、固定費(人件費・光熱費)は削れないため、残りの「自由に使える研究費(校費)」が真っ先に削られます。結果として、全体額の減少幅以上に、現場の研究費は「半分以下になった」「ゼロになった」という感覚に陥ります。
結論
運営費交付金の制度開始時期は、2004年(法人化と同時)。法人化以前の『国立学校特別会計』の予算規模と比較して、法人化後の『運営費交付金』は、効率化係数というルールにより年々減らされ続けてきた。グラフで見ると一目瞭然ですが、2004年のスタート時をピークに、階段を転がり落ちるように減額されている(近年は横ばい・微増ですが、物価高などで実質価値は低下)のがわかります。これが「法人化で減らされた」という言葉の正体です。
質問:国立学校特別会計と、運営費交付金は、同じものと考えていいの?
Gemini:国立学校特別会計(以下、特会)と運営費交付金(以下、交付金)を「全く同じもの」として単純に一本の線でつなぐと、数字の解釈を大きく間違える(あるいは実態が見えなくなる)という罠があります。結論から言うと、「趣旨(何のための金か)」は同じですが、「金額の計算式(中身の構成)」が全く異なります。ここを混同すると「法人化で予算が半分になった!」といった誤解や、逆に「いやいや、国は十分出している」という強弁を生んでしまいます。知っておくべき「接続」の真実を解説します。
1. そもそも「同じもの」と考えていいの?
趣旨は同じですが、お金の「計算ルール」が逆転しました。
ここが最大のポイントです。
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法人化前(~2003年):【総額予算主義】
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大学が稼いだお金(授業料や病院収入)は、一度すべて国庫(国)に入れます。
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その上で、国が「必要な経費全額」を予算として配分します。
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数式:
国の税金+授業料・病院収入= 国立学校特別会計予算
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法人化後(2004年~):【純額予算主義】
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大学が稼いだお金(授業料や病院収入)は、大学の懐に入ります(自己収入)。
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国は、「必要な総額」から「大学が自分で稼げる額」を差し引いた差額(赤字分)のみを渡します。
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数式:
必要な総額-授業料・病院収入= 運営費交付金
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結論:
したがって、金額ベースで単純比較すると、法人化前の方が「授業料や病院収入が含まれている分、見た目の金額は圧倒的に巨額」に見えます。
これらを連続的に見るためには、特別会計時代の予算の中から「国からの繰入金(=税金の投入額)」だけを抜き出して比較する必要があります。
2. 「税金投入額」で見る連続的な推移
では、条件を揃えて「国が大学の基盤経費として出した税金(一般会計からの投入額)」で推移をつなぐとどうなるでしょうか。
① 法人化前夜(~2003年)
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実は、法人化の直前まで、国からの投入額(一般会計繰入金)は微増傾向にありました。
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ピーク時(2000年代初頭)で、およそ1兆5,000億円規模(※恩給費等を含むベース)でした。
② 法人化の瞬間(2004年)
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ここで制度が切り替わり、約1兆2,400億円(運営費交付金スタート時の額)となりました。
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※ここには特殊な会計操作(付属学校や研究所の再編など)があるため単純な減額とは言えませんが、制度変更の「継ぎ目」です。
③ 法人化以降(2004年~現在)
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ここからが研究者の嘆きの根源です。
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「効率化係数(毎年-1%)」のルールが適用され、2004年の1兆2,415億円から、2015年頃まで見事な右肩下がりを描きます。
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2010年代半ば以降: 1兆1,000億円を切る水準(約1兆700億円前後)で「横ばい・底這い」状態が続いています。
3. この推移が意味すること(現場の実感)
「1兆2400億が1兆1000億になった程度(約10%減)なら、そこまで大騒ぎすることか?」と思われるかもしれません。しかし、現場の「体感温度」は違います。
- 固定費は減らない: 人件費や光熱費は削れません。削減された1,000億円以上の分は、すべて「教育研究経費(実際に研究に使うお金)」から削られました。これにより、多くの講座で配分される校費が半分以下やゼロになりました。
- 物価上昇と消費税: この20年間で消費税は5%→10%に上がり、光熱費も高騰しましたが、交付金は増えていません。実質的な購買力は額面以上に低下しています。
- 競争的資金へのシフト: 減らされた分の一部は「競争的資金(科研費やJSTなど)」や「機能強化分(競争に勝った大学へのボーナス)」に振り替えられました。つまり、「黙ってても貰える金」が減り、「書類を書いて勝ち取らないと貰えない金」に変わったのです。
まとめ
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金額比較の注意点: 法人化前の「特別会計総額」と今の「交付金」を比べると、前者が巨額すぎて話が合いません。「国からの繰入金(税金分)」で比べる必要があります。
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推移の実態: 税金投入分で見ても、法人化(2004年)を境に「微増」から「確実な減少・停滞」へとトレンドが完全に変わりました。
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同じものか?: 「国の大学への基礎的支援」という意味では同じですが、国にとっては「出すだけでよかった金」から「効率化(削減)を迫れる金」へと、運用の性質が変わったと言えます。
(Gemini)