「明確性」「サポート要件」「実施可能要件」の3つは「記載不備の魔のトライアングル」と呼ばれ、実務家でも一瞬「どっちだっけ?」と迷うことがあるくらいです。しかし、**「誰が、何を、どう見るか」**という視点を持てば、一発で区別できます。
料理のレシピ(発明の明細書)と、注文メニュー(特許請求の範囲)に例えて、脳に焼き付けましょう。
1. 三者の「視点」の違い(ここだけ覚えればOK)
まずは、この図式を頭に入れてください。
| 要件 | 条文 | ターゲット | 一言でいうと? | イメージ |
| 実施可能要件 | 36条4項1号 | 明細書(本文) | 「作り方が雑すぎる!」 | レシピ通りに作っても料理が完成しない。 |
| サポート要件 | 36条6項1号 | 請求項 vs 明細書 | 「風呂敷を広げすぎ!」 | リンゴジュースしか作ってないのに、「全フルーツジュース」を注文メニューに載せている。 |
| 明確性要件 | 36条6項2号 | 請求項(日本語) | 「言葉が曖昧すぎる!」 | 注文メニューに「美味しいジュース」と書いてある(何が出てくるか不明)。 |
(特許出願)
第三十六条 特許を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならない。
一 特許出願人の氏名又は名称及び住所又は居所
二 発明者の氏名及び住所又は居所
2 願書には、明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書を添付しなければならない。
3 前項の明細書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 発明の名称
二 図面の簡単な説明
三 発明の詳細な説明
4 前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。
二 その発明に関連する文献公知発明(第二十九条第一項第三号に掲げる発明をいう。以下この号において同じ。)のうち、特許を受けようとする者が特許出願の時に知つているものがあるときは、その文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在を記載したものであること。
5 第二項の特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。この場合において、一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。
6 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
二 特許を受けようとする発明が明確であること。
三 請求項ごとの記載が簡潔であること。
四 その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること。
7 第二項の要約書には、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した発明の概要その他経済産業省令で定める事項を記載しなければならない。
2. 具体例で完全攻略:「最強の回復薬」の発明
あなたは「薬草Xをすり潰して煮込むと、風邪が治る薬になる」ことを発見しました。この発明で特許を出願したとき、どんな不備で怒られるか見てみましょう。
① 実施可能要件(36条4項1号)違反
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あなたの明細書(本文): 「薬草Xを使えば薬ができます。」(終わり)
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審査官(当業者)のツッコミ:
「えっ? 具体的に何分煮込むの? 温度は? すり潰す大きさは?これじゃあ、この説明書を読んでも誰も薬を作れない(実施できない)じゃないか!」
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結論: 教科書(明細書)としての機能不全。技術情報の開示不足です。
② サポート要件(36条6項1号)違反
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あなたの明細書(本文): 「薬草Xを煮込んだら薬ができた。」(実験データあり)
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あなたの請求項(クレーム): 「植物を煮込んで得られる風邪薬」
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審査官のツッコミ:
「ちょっと待て。君が実験で成功したのは『薬草X』だけだよね?なのに、なんで『植物(アサガオでもヒマワリでもOK)』なんて広大な範囲を独占しようとしてるの?発明の詳細な説明に書いてある範囲を超えて(サポートされずに)、権利を欲張るな!」
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結論: 権利の範囲と、発明の開示内容のバランス不良。欲張りすぎです。
③ 明確性要件(36条6項2号)違反
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あなたの請求項(クレーム): 「薬草Xを含み、ほどよい苦味のある風邪薬」
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審査官のツッコミ:
「『ほどよい』って何? 基準は? 人によって違うでしょ?第三者が『これなら特許侵害にならないな』って判断できないから、境界線をハッキリさせなさい!」
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結論: 日本語としての曖昧さ。権利範囲の境界不明瞭です。
3. 試験対策:特に「サポート」と「実施可能」の区別
試験で一番迷うのがここです。両方とも「明細書が不十分」に見えるからです。見分け方はこれです。
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実施可能要件:
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ターゲットは「発明そのもの」。
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「1つでも作れるか?」を見る。
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明細書に書いてあるベストな例ですら、再現できないならこれ。
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サポート要件:
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ターゲットは「請求項の広さ」。
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「広げた範囲まで作れるか?」を見る。
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1つ(薬草X)は作れるとしても、広げた先(他の植物)まで作れると言える根拠がないならこれ。
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【覚え方】
作れないなら → 実施不可(技術の問題)
欲張りなら → サポート違反(公平性の問題)
4. 論文で使える「決まり文句(フレーズ)」
これを書けば点がもらえます。
- 実施可能要件:「発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」
- サポート要件:「特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えており、実質的に開示されていない発明まで権利範囲を拡張するものである。」
- 明確性要件:「特許請求の範囲の記載は、その外延(境界)が不明確であり、第三者に不測の不利益を与えるおそれがある。」
5. まとめテーブル
| 項目 | 実施可能要件 | サポート要件 | 明確性要件 |
| 条文 | 36条4項1号 | 36条6項1号 | 36条6項2号 |
| 主語 | 明細書の記載 | 請求項の記載 | 請求項の記載 |
| 比較対象 | 当業者の技術常識 | 明細書の記載内容 | 日本語の論理・定義 |
| キーワード | 「再現性」「過度の試行錯誤」 | 「開示の代償」「拡張・一般化」 | 「外延」「不測の不利益」 |
| 一言 | 教科書として失格 | 欲張りすぎ | 意味不明 |
次のアクション
これで36条の区別はつきましたか?記載不備が見つかったら、出願人は**「補正(書き直し)」**をして直さなければなりません。しかし、直すときにも厳格なルールがあります。
次は、この流れで一番怖い失敗である、以下のどちらに進みますか?
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「新規事項の追加(17条の2第3項)」: 不備を直そうとして説明を足したら、「それは後出しジャンケンだ!」と拒絶される悲劇。補正の限界ライン。
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「国内優先権(41条)」: 補正で直すのではなく、「改良版」を新しく出し直して、古い出願と合体させる必殺技。
実務的には、36条違反への対応策として「1」のルールを知らないと即死します!
(Gemini)