解糖系、TCA回路、電子伝達系で産生されるATPの総数は38分子?36?34?32?31?30?28?

生化学の教科書をあれこれ見ていると、解糖系、TCA回路、電子伝達系で産生されるATPの総数がまちまちです。最大38分子、36分子、34分子、32分子、31分子、30分子、28分子といった記述を見たことがあるような気がします。

  1. グルコース1モルから好気的解糖系・クエン酸回路で38モルのATPが産生。shinshu-u.ac.jp
  2. グルコース1モルから38モルのATPを生成する(実際には30モル程度になる)kyoto-u.ac.jp
  3. 好気呼吸でのATPの収支は、グルコース1分子あたり解糖系で2分子のATP、クエン酸回路で2分子ATP、電子伝達系で最大34分子ATPであり、合計で最大38分子のATPになる。wikibooks.org

 

レーヴン/ジョンソン『生物学』にわかりやすい説明がありました(176ページ)。

  1. グルコース1分子あたり、解糖系でまず正味2分子のATPが産生されます。
  2. また解糖系でNADHが2分子産生されます。NADH1分子あたり、ATP3分子が産生される換算だそうなので、ここでATP6分子になるはずのところですが、実際には、細胞質に存在するNADHをミトコンドリアの内部へ輸送する際に、NADH1分子あたりATP1分子を消費するため、このNADH2分子から産生される正味のATPは2x3-2=分子なります。
  3. ピルビン酸が脱炭酸反応で酸化されてアセチルCoAがつくられるときに2つのNADHが産生しますので、2x3=6 で、ATP6分子に相当します。
  4. TCA回路では(グルコース1分子あたり)GTPが2分子できてこれがATPに変わるので、ATP2分子が産生。
  5. TCA回路ではNADHは(グルコース1分子あたり)6分子産生するので、6x3=18で、ATP18産生。
  6. TCA回路ではFADH2が(グルコース1分子あたり)2分子でき、FADH2の1分子につきATPが2分子産生される換算なので、2x2=4で4分子のATPが産生されます。

これらを合計すると36分子ということになります。最大38と言う言い方がなされるのは、細胞質のNADHをミトコンドリアに輸送するときに消費されるNADHを勘定に入れていないということなのでしょうか。この教科書の説明によれば、実際にはプロトン勾配のプロトンが必ずATP産生に使われるとは限らず、一部は単純に漏れ出てしまって何にもつかわれなかったり、あるいは、他の仕事に使われることもあるため、換算式としては、NADH1分子からATP2.5個FADH21分子からATP1.5個で計算して、

  1. 解糖系ATP 2 ATP
  2. 解糖系NADH 2×2.5ATP – 2ATP(輸送料)=
  3. ピルビン酸の脱炭酸反応 NADH 2個x2.5 ATP =5
  4. TCA回路 GTP 2x1 ATP =2
  5. TCA回路 NADH 6個x2.5 ATP  = 15
  6. FADH2 2個x1.5 ATP =3

この計算だと、30個のATPができるということになります。

ATPの個数に関する参考資料

  1. 呼吸で生じるATPの数とエネルギー変換の効率 早稲田大学 園池弘毅

エネルギー変換効率

看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。 糖質や脂質がもつ結合エネルギーの約70%がATPに変換され、約30%が熱になる。ATP1モルの加水分解で得られるエネルギーを-7.3kcal/molとして計算している文献もあるが、その場合は、糖質および脂質がもつ結合エネルギーのATPの化学エネルギーへの変換効率(図1の70%)を低く見積もることになる。(熱産生|体温とその調節 看護roo!)

水1分子と反応して、図2の右上のようにADPとPi(無機リン酸)に分解(加水分解)するときにエネルギーを放出します。これが、ATPのエネルギーとよんでいるものの正体です。このエネルギーの値は、ATPやADPの濃度にもよりますが、-10 kcal/molぐらいです。‥ イオンの価数が-4のATPやピロリン酸を例にとって考えましょう。3つのリン酸基に-4の負電荷が存在する電子状態は電子間のクーロン反発により極めて不安定です。これが、-1価のPiと-3価のPPiに分解すると、この反発が軽減されて大きく安定化します。しかし、この安定化の自由エネルギー∆Geleは、-10 kcal/molどころではなく、ピロリン酸でおよそ -300 kcal/mol, ATPで -170 kcal/molほどもあります。-10 kcal/molという程良い大きさになる為には、加水分解に伴って不安定化する要因が他にある筈です。‥ 水和に起因する自由エネルギーの不安定化∆Gsolが先の∆Geleの寄与と絶妙に相殺することにより、加水分解自由エネルギー∆Gが -10 kcal/molとなります。しかも、非常に面白いことに、ATPやピロリン酸の総電荷を様々に変えても、放出される自由エネルギーは-10 kcal/molで一定に保たれることが明らかになりました。(生命エネルギーの通貨ATP 〜ATPのエネルギー放出の分子メカニズム〜 東北大学理学研究科)