「選択発明」は、化学・医薬・材料分野の実務や試験で頻出の重要概念です。しかし、条文を探しても見つからないはずです。なぜなら……「選択発明」という言葉は、特許法の条文には書かれていません!あくまで「審査基準(特許庁の運用ルール)」や「裁判例」の中で定義されている概念です。法的には、前回勉強した「29条2項(進歩性)」(および29条1項の新規性)の枠組みの中で判断されます。定義と要件をきっちり整理しましょう。
1. 選択発明とは?(イメージ:森と木)
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選択発明の定義: 先行技術文献に、上位概念(大きな枠組み)で記載されている発明の中から、下位概念(具体的な要素)を選び出して構成した発明のこと。
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前提: その具体的な下位概念は、先行文献には具体的に開示されていないこと。
【分かりやすい例:殺虫剤】
先行文献(A): 「塩素系の化合物には殺虫効果がある」と書いてある(上位概念=森)。
本願発明: 「塩素系化合物の中でも、特に**『化合物X』**は、人間に無害で虫だけ殺す」ことを発見した(下位概念の選択=特定の木)。
読者は文献Aを読んで「塩素系なら何でもいいのか」と思いますが、その中から「化合物X」という特定のダイヤの原石を見つけ出した場合、それが「選択発明」です。
2. 登録されるための「3つの壁」
試験では、選択発明が認められる(進歩性ありとされる)ための条件が問われます。審査基準に基づく、以下のロジックを暗記してください。
① 新規性の壁(29条1項)
まず、選び出したものが、先行文献に**「ズバリそのもの」として載っていないこと**が大前提です。
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もし文献Aに「化合物Xも使えるよ」と例示されていたら、その時点で**新規性なし(拒絶)**です。選択発明の土俵にすら上がれません。
② 効果の壁(29条2項・進歩性)
ここが核心です。単に選んだだけでは「誰でも選べるでしょ(容易)」と言われて終わりです。
進歩性が認められるには、以下のどちらかの効果を主張・証明する必要があります。
| 効果の種類 | 内容 | 例 |
| A. 質的に異なる効果 | 先行技術からは予測できない、全く別の性質の効果がある。 | 殺虫剤として開発されたが、特定の化合物だけ「育毛効果」もあった。 |
| B. 量的に顕著な効果 | 性質は同じだが、数値(性能)が桁違いに優れている。 | 殺虫効果が、他の化合物に比べて100倍強力である。 |
③ 疑義の壁(試験対策)
もし、先行文献に「化合物X」そのものは書いていないけれど、「このあたりのグループが良いよ」とヒントがあった場合、進歩性は否定されやすくなります(動機づけがあるため)。
「あえてそこを選んだ理由」と「効果のすごさ」で突破しなければなりません。
3. なぜ条文にないのに認められるの?
「後出しジャンケン」のようにも見えますが、趣旨はこうです。
- 技術の発展への貢献:大雑把なアイデア(上位概念)が出た後、具体的にどの素材(下位概念)がベストなのかを実験して見つけ出すには、膨大なコストと労力がかかります。その努力によって「埋もれていた優れた技術」が見つかったなら、それも保護すべきだ、という考え方です。
4. まとめ(試験用論証パターン)
論文試験で「選択発明」が出たら、以下のフレーズを使います。
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認定: 本願発明は、引用発明の上位概念に含まれる下位概念を選択した「選択発明」である。
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要件1(新規性): 引用発明には、本願発明の具体的構成が開示されていないため、新規性を有する。
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要件2(進歩性): 引用発明と比較して、質的に異なる効果、または量的に顕著な効果を奏する場合、進歩性が肯定される。
5. 似ているけど違う「数値限定発明」
選択発明の兄弟分に**「数値限定発明」**があります。
(例:温度を「100℃〜200℃」に限定した発明)
考え方はほぼ同じですが、試験では「臨界的意義(りんかいてきいぎ)」という特別なワードが登場します。
選択発明のロジックはつかめましたか?次は、この流れでセットで覚えるべき以下のどちらに進みますか?
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「数値限定発明」と「臨界的意義」: グラフのカーブが急変するポイントが合否を分ける? 化学系の天王山。
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「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(PBP)」: 「物の発明」なのに「製法」で書くしかない場合の特殊ルール。(最高裁判決がある超重要論点)
どちらも試験(特に論文)で頻出です!
(Gemini)