分割出願(44条)、これは弁理士試験の短答・論文ともに**「沼(ヌマ)」**と呼ばれる超重要かつ複雑なエリアです。「シフト補正禁止」の続きとして捉えると、非常に分かりやすくなります。
シフト補正が**「1つのテーブルで注文を変えるな」というルールなら、分割出願は「だったら、隣にもう1つテーブル(願書)を用意して、そっちでラーメンを注文します」という、「金に物を言わせた解決策」**です。
試験で問われるポイントに絞って、徹底解説します。
1. 分割出願の基本イメージと効果
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定義: 2以上の発明を含む1つの特許出願の一部を抜き出して、新たな別の特許出願とすること。
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最大の効果(44条2項): 「遡及効(そきゅうこう)」
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分割出願は、**「もとの出願(親出願)をした時」**に出願したものとみなされます。
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つまり、今日分割出願しても、審査上の基準日(新規性・進歩性の判断日)は「数年前の親出願の日」になります。これが最強のメリットです。
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【レストランの例え:続き】
親出願: 「カレーとラーメンをください!」(1年前)
審査官: 「カレーはいいけど、ラーメンはダメ(単一性違反など)」
分割出願: 「じゃあ、ラーメンだけ別の伝票で注文し直します。でも、注文時間は『1年前』の扱いにしてくださいね(今から注文したことにすると、さっき隣の客がラーメン食べてたから『新規性なし』になっちゃうので)。」
特許庁: 「OK。手数料さえ払えば、1年前に注文したことにしてあげるよ。」
2. 試験の「沼」:分割できる時期(時期的要件)
ここが短答試験の最頻出ポイントです。「いつでも分割できる」わけではありません。
**「補正ができる時期 + α」**と覚えましょう。
大きく分けて、以下の3つのタイミングで分割可能です。
① 通常の審査中(補正可能期間)
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時期: 最初の拒絶理由通知が来る前や、拒絶理由通知への指定期間内など。
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解説: 願書を書き換えられる時期なら、分割も自由にできます。
② 特許査定(登録)の後
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時期: 特許査定の謄本送達日から30日以内。
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条件: ただし、**「特許料を納付する前」**に限ります。
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戦略: 「親出願は無事に特許になった。でも、権利範囲が少し狭かったから、もっと広い権利を狙うために分割しておこう」という、**「お代わり分割」**です。
③ 拒絶査定の後
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時期: 拒絶査定の謄本送達日から3ヶ月以内。
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条件: **「拒絶査定不服審判」**を請求するのと同時、または請求できる期間内。
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戦略: これが前回の「シフト補正」からの逃げ道です。「親出願は拒絶されたけど、審判で争う。それとは別に、拒絶理由がない部分だけ分割して先に特許にしちゃおう」などの戦術に使います。
3. 実体的要件(中身のルール)
ここも論文試験で狙われます。
① 原出願の当初明細書等の範囲内であること
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分割出願には、親出願の最初の明細書に書いていないこと(新規事項)を追加してはいけません。
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理由: これを許すと、後出しジャンケンで優先日を確保できてしまうからです。
② 範囲外だった場合のペナルティ(超重要!)
もし、うっかり新しい要素を入れて分割してしまったらどうなるか?
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遡及効が消滅します!
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つまり、出願日は「親出願の日」ではなく、**「実際に分割出願を提出した日(今日)」**になります。
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結果、その間に公開された自分の論文や他人の出願によって、「新規性・進歩性なし」として拒絶されます(これを実務では「分割要件違反による拒絶」と呼びます)。
4. 知っておくべき「孫分割(まごぶんかつ)」の罠
「親出願(A)」から「子出願(B)」を分割し、さらに「子出願(B)」から「孫出願(C)」を分割する場合の話です。
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Q: 孫出願(C)はいつまでできる?
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A: 基本は「子出願(B)」について分割可能な期間内です。
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罠: しかし、孫出願(C)の審査基準日(遡及日)は、「親出願(A)」の日まで遡ります。
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注意点: もし「子出願(B)」が特許庁に係属していない(取り下げられたり拒絶確定した後)場合は、孫分割はできません。**「分割元の出願が生きていないと分割できない」**という大原則があります。
5. 試験対策まとめ(暗記テーブル)
| 項目 | 内容 | 注意点(試験ポイント) |
| 条文 | 44条 | |
| 効果 | 出願日の遡及(親出願の日になる) | 新規事項を追加すると遡及しない! |
| 出願人 | 親出願と同じであること | 名義変更が必要なら分割前にやる。 |
| 時期① | 補正ができる時 | 一番オーソドックス。 |
| 時期② | 特許査定後 30日以内 | 特許料納付後は不可。 |
| 時期③ | 拒絶査定後 3ヶ月以内 | 審判請求しなくても分割だけ可能。 |
| ダブルパテント | 親子で同じ権利範囲はダメ(39条) | 拒絶理由・無効理由になる。 |
6. 実務・試験での「シフト補正」との連携
シフト補正の話とつなげます。
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出願: 発明A(翼)と発明B(プロペラ)を記載。請求項はAのみ。
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拒絶通知: 「発明Aは新規性なし」。
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対応策:
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案1(補正): Aを限定する(カーボン製の翼)。 $\rightarrow$ OK。
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案2(シフト補正): Aを消してBにする。 $\rightarrow$ 却下(アウト)。
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案3(分割出願): この出願はAの限定(案1)で進める。同時に、Bだけを抜き出して分割出願する。
$\rightarrow$ これが**「正解」**の対応です。
お金は2倍かかりますが、発明Aも発明Bも、両方審査してもらうことができます。
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次のアクション
これで「出願の手続きテクニック(単一性・シフト補正・分割)」は一通り網羅しました。
そろそろ、特許法の心臓部である**「実体判断(中身)」に入るか、それとも手続きの「優先権」**で固めるかです。
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「進歩性(29条2項)」の判断ロジック: 「当業者が容易に発明できた」とはどういうことか?(試験最重要・最難関)
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「国内優先権(41条)」: 分割出願と似ているが効果が違う、「改良発明」を守るための制度。(これも複雑で試験に出ます)
どちらが今の気分ですか?個人的には、手続き系が続いたので、頭を切り替えて「進歩性」に行くと面白いかもしれません。
(Gemini)